2025年04月27日
わたのまち、応答セヨ
監督・撮影・編集:岩間玄
企画・プロデュース:土屋敏男
語り:岸井ゆきの
トンネルを抜けるとそこには「わたのまち」がある…
そう思い込んでいた。
「街の繊維産業に光を当てる映画を作ってほしい」と市の依頼を受け、三河・蒲郡市を訪れた監督は途方に暮れた。1200年前、日本に初めて綿花がもたらされた街。戦後、衣類が不足する中、織れば飛ぶように売れた空前の好景気で朝から晩まで街のあちこちで「ガチャン、ガチャン」と音が鳴り響いていた。しかし、かつての活気は失われ、織機の音も聞こえてこない。そこにあるのは、街の構造的な問題と人々の諦めムードだった。ここに描くべき希望があるのか?映画制作は難航を極める。そんな中、わたを種から育て紡ぐ80歳の職人と出会い、映画作りがその職人の背中を押し、街を揺さぶり、人々の眠っていた情熱が燃え上がっていく。そして、舞台は蒲郡からロンドンへ怒涛の如く展開し、日本のモノ作りの本気が、海を越えて人々の心を掴み、「繊維の街」に奇跡をもたらす。
歴史ある繊維産業がすっかり廃れてしまった蒲郡の町で、日本で初めて綿花がもたらされた地として、伝統を再興しようとする人たちの思いが、ほっこりと伝わってくる素敵なドキュメンタリー。ふんわりと青空に綿のように広がる雲のもと、わたを種から育てる方、かつての柄を再現しようとする職人さん、ふわふわとした衣装でロンドンの町を再現した織物を披露しながら舞う若い女性たち・・・ 岸井ゆきのさんのナレーションが、とても雰囲気があって、とても不思議なドキュメンタリーでした。
昨年10月に公開された『BISHU ~世界でいちばん優しい服』は、毛織物(ウール)の産地「尾州」を舞台にした親子の物語でした。
尾州(愛知県一宮市を中心に、津島市、稲沢市、江南市、岐阜県羽島市など、愛知県尾張西部エリアから岐阜県西濃エリア)が、世界三大毛織物(ウール)の産地だと知ったのですが、三河は、綿織物の伝統ある産地だったと知りました。
本作の中で、かつての綿織物の見本帳が、大事に保管されていて、それが外国の方の手にも渡っていて、伝統の素晴らしさが今に伝わっていることも知りました。(咲)
2024/日本映画/99分/ビスタ/DCP/5.1ch
Sponsored by 映画『わたのまち、応答セヨ』プロジェクト委員会
配給・宣伝:鈴正 JAYMEN TOKYO ©ゴンテンツ
公式サイト:https://watanomachi.com
公式X(旧Twitter):@watanomachi
★2025年5月2日(金)新宿シネマカリテ ほか全国ロードショー
政党大会 陰謀のタイムループ 原題:Maanaadu
監督:ヴェンカト・プラブ
脚本:ヴェンカト・プラブほか 製作:スレーシュ・カーマーッチ
撮影:リチャード・M・ナーダン 音楽:ユヴァン・シャンカル・ラージャー
出演:シランバラサン、S・J・スーリヤー、カリヤーニ・プリヤダルシャン
S・A・チャンドラシェ―カル、Y・G・マヘーンドラン、アラヴィンド・アーカーシュ、カルナーカラン、プレームジ・アマラン
ドバイから友人の結婚式に参列するためにインドに帰ってきた青年・カーリク。飛行機で隣り合わせた女性シータも、同じウーティ(南インド・タミル・ナードゥ州の避暑地)での結婚式に参列するという。カーリクは花嫁ザリーナ側の招待客だが、シータは花婿イルファンの同僚だという。女性たち数人にブルカを被らせて、花婿に花嫁を当てさせるゲームをする為、シータは花嫁にブルカを渡すよう頼まれる。シータは目印にブルカに黄色い粉をつけて渡す。ところが、このブルカを被った花嫁ザリーナをカーリクたちが連れ去る場面を見てしまう。実は、ザリーナをほかの男性と駆け落ちさせる作戦だった。車で逃走中に、カーリクの車がラフィークという男性を轢いてしまう。警察官・ダヌシュコディに拘束されたカーリクはラフィークの身代わりにプレスのIDカードを持たされ、政党大会の会場に連れていかれる。演説中の首相を撃てと命じられ、テロリスト犯に仕立てられたカーリクはその場で射殺される。が、気がつくと、朝のフライトの中だった・・・
死ぬたびにタイムループすることを悟ったカーリクは、暗殺テロをなんとかふせごうと、我が身を危険に投じて奔走します。警察官・ダヌシュコディは、州首相の座を狙っている政治家とグルになって、州首相を政党大会の場で暗殺し、宗教的対立から暴動を起こそうと企んでいたのです。
冒頭の飛行機の中の場面で、カーリクとシータの会話から、カーリクはイスラーム教徒で、シータはヒンドゥー教徒とわかります。シータはムスリムの友人も多いと、好意的です。
カーリクは、インド中央部のヒンドゥーの聖地ウッジャイン生まれ。母親が産気づいた時、モスクが破壊され暴動が起こり、ヒンドゥー教徒に助けられ、ヒンドゥー寺院で生まれたとシータに語ります。何度もタイムループするカーリクの話を聞いて、シータは、「アッラーとシヴァ神が組んで、あなたを通じてなんとかしようとしている。タイムループには目的があるはず」と語ります。無実のムスリムに罪をきせようとしているとも。
「アメリカで100人殺せばサイコ、イスラーム教徒が殺せばテロ」という言葉も出てきました。
山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映されたインドの『わが理想の国』は、2019年に可決されたインド市民権改正法に基づく国民登録簿からイスラーム教徒が外されたことに抗議する女性たちを描いた映画でした。ノウシーン・ハーン監督、「今、インドではほんとにイスラーム教徒が虐げられているの」と語っていました。
去年2月からムンバイで仕事している私の友人も、パキスタンにも知り合いがいるしイスラームに関心があるのですが、とてもそのことを同僚に話せない雰囲気だと言っています。宗教に基づく印パ分離独立が、ヒンドゥー至上主義のモディ首相のもと、さらに対立を深めている様相で、平和共存できないものかと憂います。
この映画、インドのヒンドゥー教徒の観客にどのように受け止められたのかが気になります。(咲)
2021年/インド/タミル語/147分/R15+
配給:SPACEBOX
公式サイト:https://spaceboxjapan.jp/seitotaikai/
★2025年5月2日(金)より新宿ピカデリーほか全国順次公開
ミステリアス・スキン(原題:Mysterious Skin)
監督・脚本:グレッグ・アラキ
原作:スコット・ハイム「謎めいた肌」 (ハーパーBOOKS)
出演:ジョセフ・ゴードン=レヴィット(ニール・マコーミック)、ブラディ・コーベット(ブライアン・ラッキー)、ミシェル・トラクテンバーグ(ウェンディ)、ジェフリー・リコン(エリック)、ビル・セイジ(コーチ)、メアリー・リン・ライスカブ’(アヴァリン・フリーセン)、エリザベス・シュー(エレン・マコーミック)
カンザスの田舎町、1981年の夏。少年野球チームのブライアンとニールは、8歳のときコーチによって性加害を受けた。ブライアンはショックから、宇宙人にさらわれたので記憶をなくしたと思いこんでいた。一方、ニールはコーチに愛されていたと信じ、彼を追うように年上の男を相手に身体を売るようになっていた。
10年経ってブライアンは失われた記憶を取り戻そうとする。記憶のかけらを探すうち、知らず知らずニールに近づいていく。
原作はスコット・ハイムが自らの体験を元に書いた小説(95/邦訳は2016年発行)。日本では映画祭の上映だけで、一般公開されたのは初。子供のころの体験が人生に影を落とした2人の少年の痛ましいストーリーです。
子役からデビューしてまだブレイク前のジョセフ・ゴードン=レヴィットの初主演作。ブライアンを演じているのが、やはり子役からデビューしていたブラディ・コーベット。のちに監督となって、長編第3作目の『ブルータリスト』(24)はベネチア国際映画祭銀獅子賞(最優秀監督賞)、アカデミー賞にも多数ノミネート、エイドリアン・ブロディに2度目の主演男優賞をもたらしました。ほかに撮影賞、作曲賞を受賞しています。20年を経ての日本公開となったのは、このおかげもあるのでしょうか。
ニールの親友ウェンディ役のミシェル・トラクテンバーグが今年2月に亡くなっています。合掌(白)
2004年/アメリカ/カラー/105分/R15+
配給:SUNDAE
(C)MMIV Mysterious Films, LLC
https://sundae-films.com/mysterious-skin/
★2025年4月25日(金)より全国ロードショー
JOIKA 美と狂気のバレリーナ(原題:Joika)
監督・脚本:ジェームズ・ネイピア・ロバートソン
撮影:トマシュ・ナウミュク
振付:ジョイ・ウーマック
出演:タリア・ライダー(ジョイ・ウーマック)、ダイアン・クルーガー(ヴォルコワ)、オレグ・イヴェンコ(ニコライ)、ナタリア・オシポワ(本人)
15歳のジョイの夢は、ボリショイ・バレエ段のプリマ・バレリーナになること。一人ロシアに渡り、アカデミーの練習生になった。教師のヴォルコワのレッスンは厳しく、取り残されないように必死で頑張るジョイへの風当たりは強い。全員がライバルの研修生同士の足の引っ張り合いも激しい。もっと上達しなければ、とジョイ本人の要求も増すばかりだ。
2012年にアメリカ人女性で初めて「ボリショイ・バレエ団」とソリスト契約を結んだジョイ・ウーマックの実話を元にしたストーリー。『不思議の国のリリアン』で女子高生リリアンを演じたタリア・ライダーが、ジョイ役。夢を抱いて単身ロシアに学びに来た少女がアメリカ人であるという理由で、ほかの研修生の何倍もの苦労を味わいます。小さなときから一心に打ち込んできたジョイのこだわりは、はたからは狂気じみて見えますがどうしても諦めることはできません。どん底のジョイに手を差し伸べたのは厳しかったヴォルコワでした。
演じるダイアン・クルーガーはドイツ人。やはりプリマを志してイギリスのロイヤルバレエスクールに進みましたが、こちらは怪我で断念しました。ドイツに戻ってモデルに、パリで演技を学んで女優になって今に至っていますから、彼女の道は一つではなかったですね。ジョイのパートナー、ニコライ役のオレグ・イヴェンコはウクライナ出身。現役ダンサーのときに『ホワイト・クロウ』(2018/レイフ・ファインズ監督)ではルドルフ・ヌレエフ役に抜擢されています。久しぶりの映画出演。バレエファンはぜひ。(白)
2023年/イギリス 、ニュージーランド/カラー/111分
配給:ショウゲート
(C)Joika NZ Limited / Madants Sp. z o.o. 2023 ALL RIGHTS RESERVED.
https://joika-movie.jp/
★2025年4月25日(金)より絶賛公開中