2025年03月15日
湖の見知らぬ男 原題:L'inconnu du lac
監督・脚本:アラン・ギロディ
出演:ピエール・ドゥラドンシャン、クリストフ・パウ、パトリック・ダスマサオ、ジェローム・シャパット、マチュー・ヴェルヴィッシュ 他
青年フランクは車を降りて森を抜け、その先に広がる美しい湖の畔にいく。
そこには裸で寝そべる男たち。顔見知りの男に声をかけ、服を脱いで湖で泳いでいると、離れたところに服を着た男が座っているのが目のとまり、話しかける。アンリと名乗る男は木こりで、かつては対岸に家族と来ていたが、離婚したという。フランクはといえば、市場で野菜売りをしていたが、今は次の仕事を模索中。
湖から小麦色に焼けた、鍛え上げられた体の男があがってきて、フランクは彼を追って森の茂みに入っていく。その男ミシェルとフランクは恋に落ちる。
ある夕方、フランクは湖で喧嘩する2人を目撃する。その数日後、ミシェルの恋人だった男性が溺死体で発見される・・・
解説を何も読まずに映画を観たのですが、まず、湖畔に男が点々と一人で過ごしていて、あ~ そういう場所なのだと! それにしても、ほとんどの男が裸なのに、あまりにあっけんからんとして卑猥な感じはしません。そんな彼らも事件が起きて、刑事がやってくると、さすがに下を隠します。
フランクもミシェルも、そして、ここに来る男たちは皆、自分と相性のいい男を探し求めて、彷徨います。離婚したアンリもまた、心地よく会話できる相手を求めて、湖畔に通っているらしいと感じます。そんな中で、ひたすら自分の仕事を全うしようとする刑事・・・
フランクがアンリに声をかけた時に話題にした、「湖に10メートルのナマズがいる」「いや、5メートル」「4メートルはある」という会話が可笑しかったです。初対面の人と何を話すのか・・・ 天気の話や、どこから来た?というのは、ありきたり。巨大ナマズか・・・!
これもまたアラン・ギロディ監督の独特の世界でした。(咲)
2013年カンヌ国際映画祭「ある視点」部門 監督賞&クィア・パルム賞受賞
2013年/フランス/97分/カラー/スコープ/ドルビーSRD
日本語字幕:今井祥子
配給 サニーフィルム
公式サイト:https://www.sunny-film.com/alain-guiraudie
★2025年3月22日(土) シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
ノーバディーズ・ヒーロー 原題:Viens je t'emmene
監督・脚本:アラン・ギロディ
出演:ジャン=シャルル・クリシェ、ノエミ・ルヴォウスキー、イリエス・カドリ、ミシェル・マジエロ、ドリア・ティリエ 他
フランスの中央にある街クレルモン=フェラン。季節はクリスマス。
ランニング中の独身中年男メデリックは、路上の娼婦に目を奪われ、声をかける。
「君と寝たい。タダでね」と誘う彼。
「なぜタダなの?」と呆れる彼女。
「売春には反対だから」
「約束があるの。夫もいるし」。
彼女の夫が車で迎えに来る。「電話して」とメモを渡すメデリック。
娼婦のイザドラからすぐに電話がかかってくる。
「8時15分に、フランスホテルのフロントで“イザドラを”と」。
夜、ホテルのフロントには老人のルナールと、どう見ても未成年に見える若い黒人女性のシャルレーヌ。
205号室と言われ、部屋にいく。
服を脱ぎ、事を始めるが、テレビから街でテロが起きたとのニュース。
「帰らなきゃ」と言うイザドラ。
「大変だぞ!」といきなり彼女の夫ジェラールが部屋に入ってくる。
メデリックが帰宅すると、アラブ系の青年にお金を無心される。2ユーロを渡すと、「これじゃケバブも買えない」と言われる。
翌日、テロ現場に行ってみるメデリック。犯人の一人は20歳のモロッコ系だという。
帰宅すると、昨日のアラブ系の青年セリムがまたいて、家に入れてほしいという。テロ犯のように思えて、警察に通報し、彼は連行される。
翌日、セリムが釈放されたけれど行き場がないというので、家に入れる・・・
2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ以降、イスラーム=テロという図式が出来上がってしまいましたが、さらに、2015年のパリ同時多発テロで、フランスでもテロが身近になり、アラブ系の人たちがテロ犯という疑いの目で見られたり、そうでなくても怖れられ、排除される傾向があることを本作は見せてくれました。
メデリックは、セリムがテロ犯ではないかと疑いつつも、家に入れてあげるという寛容な気持ちを持っていて救われます。売春反対だから、娼婦にお金を払えないという論理には笑ってしまいますが・・・
それにしても、50代半ばの娼婦イザドラが、夫公認で、しかも郊外のなかなか瀟洒な家に住んでいることに驚きます。なぜイザドラは娼婦を続けるのか・・・
童貞のアラブ系青年を、自爆テロの前に天国に行けるようにと手ほどきしようとするのも、思えば健気です。
アラブ系青年セリムをメデリックが家に入れたことについて、アパートの住人たちが語る言葉からは、フランスらしさも教えられました。「何もしない」「様子をみる」がフランス的だそうです。
ブラックユーモアも交えながら、今の世相を語った物語。これもアラン・ギロディ風? (咲)
2022年ベルリン国際映画祭パノラマ部門 オープニング作品
2022年/フランス/100分/カラー/1.85/5.1
日本語字幕:本多茜
配給 サニーフィルム
公式サイト:https://www.sunny-film.com/alain-guiraudie
★2025年3月22日(土) シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
ミゼリコルディア 原題:Misericordia
監督・脚本:アラン・ギロディ
出演:フェリックス・キシル、カトリーヌ・フロ、デュラ、ジャック・ドゥヴレ、ジャン=バティスト・デュラ、デヴィッド・アヤラ 他
セザール賞8部門にノミネート。
フランスでスマッシュヒットの最新作
秋、紅葉が美しく、石造りの家が建ち並ぶ南西フランスの村。ジェレミーは車を走らせ、かつて働いていたパン屋の店主の葬儀に参列するため帰郷する。店主のエレガントな未亡人マルティーヌの勧めで家に泊まることになる。息子のヴァンサンは、かつての親友だ。
ジェレミーは旧友のワルターを訪ね、ゆっくり飲もうと約束する。
一泊だけのつもりが、思いのほか長引く滞在。なかなか帰らないジェレミーに、ヴァンサンは「おふくろと寝る気か?」と嫌な顔をする。
そんな中、ヴァンサンが行方不明になる・・・
ジェレミーが久しぶりに帰郷した村。
かつて勤めていたパン屋の店主の未亡人マルティーヌと親しげですが、その息子ヴァンサンや、旧友ワルターがジェレミーと同年代で、マルティーヌは年上。
ジェレミーが村を出た理由がちょっと気になります。
ヴァンサンの失踪事件で、警察が動きます。女性警官の存在感がなかなか。髭面の警官も可笑しい。
ジェレミーが教会を訪れると、「告解したい」という神父。神父が告解? 逆じゃないのか?
それぞれの人物との会話で進む物語。
なんとも不思議な独特な世界。
ミゼリコルディアとは「慈悲」という意味。その意図することが、わかったような、わからないような・・・ 観終わって、なんだか狐につままれたよう!(咲)
2024年カンヌ国際映画祭プレミア部門 正式出品
2024年ルイ・デリュック賞 / 2025年セザール賞8部門ノミネート
2024年/フランス/103分/カラー/2.35/5.1
日本語字幕:手束紀子
配給 サニーフィルム
公式サイト:https://www.sunny-film.com/alain-guiraudie
★2025年3月22日(土) シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
アラン・ギロディ監督3作品一挙公開 『ミゼリコルディア』『ノーバディーズ・ヒーロー』『湖の見知らぬ男』
現代フランスを代表する映画作家にして、日本劇場未公開の異才
アラン・ギロディ監督一挙3作品公開!!
『ミゼリコルディア』(2024年)
『ノーバディーズ・ヒーロー』(2022年)
『湖の見知らぬ男』(2013年)
配給 サニーフィルム
公式サイト:https://www.sunny-film.com/alain-guiraudie
★2025年3月22日(土) シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
アラン・ギロディ(Alain Guiraudie)
1964年、フランスのアヴェロン県ヴィルフランシュ=ド=ルエルグ生まれ。サスペンスにユーモアを織り交ぜた官能的で独創的な映画が特徴的。これまで、短編3作品、中編2作品、長編7作品を監督している。これまでの主な受賞は、2001年ジャン・ヴィゴ賞、2013年カンヌ国際映画祭「ある視点」部門・監督賞とクィア・パルム賞、2024年ジャン・デリュック賞など。フランスで最も権威のあるカイエ・デュ・シネマ誌の年間ベストテン第1位に2013年と2024年に選出されている。最新作『ミゼリコルディア』は、フランスの劇場公開で、動員23万人を突破し、世界21カ国での公開が決まった、インディペンデント映画としては異例の大ヒットを記録している。
『ミゼリコルディア』 原題:Misericordia

© 2024 CG Cinéma / Scala Films / Arte France Cinéma / Andergraun Films / Rosa Filmes
監督・脚本:アラン・ギロディ
出演:フェリックス・キシル、カトリーヌ・フロ、デュラ、ジャック・ドゥヴレ、ジャン=バティスト・デュラ、デヴィッド・アヤラ 他
2024年カンヌ国際映画祭プレミア部門 正式出品
2024年ルイ・デリュック賞 / 2025年セザール賞8部門ノミネート
2024年/フランス/103分/カラー/2.35/5.1
日本語字幕:手束紀子
セザール賞8部門にノミネート。フランスでスマッシュヒットの最新作
秋、紅葉が美しく、石造りの家が建ち並ぶ村。ジェレミーは、かつて働いていたパン屋の店主の葬儀に参列するため帰郷する。男の未亡人マルティーヌの勧めで家に一泊だけすることになるが、思いのほか長引く滞在。そんな中、起きた謎の失踪事件—— 未亡人の息子ヴァンサン、音信不通となっていたかつての親友ワルター、奇妙な神父フィリップ、そして、村の秘密を知っている警官。村に立ち込めるそれぞれの思惑と欲望。
シネジャ作品紹介
『ノーバディーズ・ヒーロー』 原題:Viens je t'emmene

© 2021 CG CINÉMA / ARTE FRANCE CINÉMA / AUVERGNE-RHÔNE-ALPES CINÉMA / UMÉDIA
監督・脚本:アラン・ギロディ
出演:ジャン=シャルル・クリシェ、ノエミ・ルヴォウスキー、イリエス・カドリ、ミシェル・マジエロ、ドリア・ティリエ 他
2022年ベルリン国際映画祭パノラマ部門 オープニング作品
2022年/フランス/100分/カラー/1.85/5.1
日本語字幕:本多茜
娼婦への愛に悶絶する男と地元で起きた自爆テロ——
賛否沸騰のギロディ流社会派コメディー
冬、クリスマス前、師走の街。独身男性のメデリックは、ランニング中に見ず知らずの売春婦イザドラに一目惚れし口説くが、嫉妬深い夫の乱入で邪魔をされる。同時に市街では大規模なテロが発生—— 突然メデリックのアパートに現れたアラブ系の青年セリム、仕事とプライベートの区別がないフロランス、混乱する近隣住人たちとホテルフロントの老人と少女。愛に突き進むメデリックの周りで発生する予期せぬトラブルが周辺を巻き込んでゆく。
シネジャ作品紹介
『湖の見知らぬ男』 原題:L'inconnu du lac

©️ 2013 Les Films du WorsoArte / France Cinéma / M141 Productions / Films de Force Majeure
監督・脚本:アラン・ギロディ
出演:ピエール・ドゥラドンシャン、クリストフ・パウ、パトリック・ダスマサオ、ジェローム・シャパット、マチュー・ヴェルヴィッシュ 他
2013年カンヌ国際映画祭「ある視点」部門 監督賞&クィア・パルム賞受賞
2013年/フランス/97分/カラー/スコープ/ドルビーSRD
日本語字幕:今井祥子
男性同士が出会う湖で、死体が発見される——
ギロディの名を知らしめた伝説の傑作スリラー
夏、美しくブルーに輝く湖。ここは男性同士が出会うためのクルージングスポットになっている。ヴァカンス中に訪れた若い青年フランクは魅力的なミシェルと出会い恋に落ちる。ある夕方、フランクは湖で喧嘩する2人を目撃する。その数日後、ミシェルの恋人だった男性が溺死体で発見された。捜査の手が入った男たちの楽園は一転して不穏な空気が立ち込める。情熱が恐怖を上回る瞬間、自らの欲望に身を任せてゆく——
シネジャ作品紹介
アラン・ギロディ監督一挙3作品公開!!
『ミゼリコルディア』(2024年)
『ノーバディーズ・ヒーロー』(2022年)
『湖の見知らぬ男』(2013年)
配給 サニーフィルム
公式サイト:https://www.sunny-film.com/alain-guiraudie
★2025年3月22日(土) シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
アラン・ギロディ(Alain Guiraudie)
1964年、フランスのアヴェロン県ヴィルフランシュ=ド=ルエルグ生まれ。サスペンスにユーモアを織り交ぜた官能的で独創的な映画が特徴的。これまで、短編3作品、中編2作品、長編7作品を監督している。これまでの主な受賞は、2001年ジャン・ヴィゴ賞、2013年カンヌ国際映画祭「ある視点」部門・監督賞とクィア・パルム賞、2024年ジャン・デリュック賞など。フランスで最も権威のあるカイエ・デュ・シネマ誌の年間ベストテン第1位に2013年と2024年に選出されている。最新作『ミゼリコルディア』は、フランスの劇場公開で、動員23万人を突破し、世界21カ国での公開が決まった、インディペンデント映画としては異例の大ヒットを記録している。
『ミゼリコルディア』 原題:Misericordia

© 2024 CG Cinéma / Scala Films / Arte France Cinéma / Andergraun Films / Rosa Filmes
監督・脚本:アラン・ギロディ
出演:フェリックス・キシル、カトリーヌ・フロ、デュラ、ジャック・ドゥヴレ、ジャン=バティスト・デュラ、デヴィッド・アヤラ 他
2024年カンヌ国際映画祭プレミア部門 正式出品
2024年ルイ・デリュック賞 / 2025年セザール賞8部門ノミネート
2024年/フランス/103分/カラー/2.35/5.1
日本語字幕:手束紀子
セザール賞8部門にノミネート。フランスでスマッシュヒットの最新作
秋、紅葉が美しく、石造りの家が建ち並ぶ村。ジェレミーは、かつて働いていたパン屋の店主の葬儀に参列するため帰郷する。男の未亡人マルティーヌの勧めで家に一泊だけすることになるが、思いのほか長引く滞在。そんな中、起きた謎の失踪事件—— 未亡人の息子ヴァンサン、音信不通となっていたかつての親友ワルター、奇妙な神父フィリップ、そして、村の秘密を知っている警官。村に立ち込めるそれぞれの思惑と欲望。
シネジャ作品紹介
『ノーバディーズ・ヒーロー』 原題:Viens je t'emmene

© 2021 CG CINÉMA / ARTE FRANCE CINÉMA / AUVERGNE-RHÔNE-ALPES CINÉMA / UMÉDIA
監督・脚本:アラン・ギロディ
出演:ジャン=シャルル・クリシェ、ノエミ・ルヴォウスキー、イリエス・カドリ、ミシェル・マジエロ、ドリア・ティリエ 他
2022年ベルリン国際映画祭パノラマ部門 オープニング作品
2022年/フランス/100分/カラー/1.85/5.1
日本語字幕:本多茜
娼婦への愛に悶絶する男と地元で起きた自爆テロ——
賛否沸騰のギロディ流社会派コメディー
冬、クリスマス前、師走の街。独身男性のメデリックは、ランニング中に見ず知らずの売春婦イザドラに一目惚れし口説くが、嫉妬深い夫の乱入で邪魔をされる。同時に市街では大規模なテロが発生—— 突然メデリックのアパートに現れたアラブ系の青年セリム、仕事とプライベートの区別がないフロランス、混乱する近隣住人たちとホテルフロントの老人と少女。愛に突き進むメデリックの周りで発生する予期せぬトラブルが周辺を巻き込んでゆく。
シネジャ作品紹介
『湖の見知らぬ男』 原題:L'inconnu du lac

©️ 2013 Les Films du WorsoArte / France Cinéma / M141 Productions / Films de Force Majeure
監督・脚本:アラン・ギロディ
出演:ピエール・ドゥラドンシャン、クリストフ・パウ、パトリック・ダスマサオ、ジェローム・シャパット、マチュー・ヴェルヴィッシュ 他
2013年カンヌ国際映画祭「ある視点」部門 監督賞&クィア・パルム賞受賞
2013年/フランス/97分/カラー/スコープ/ドルビーSRD
日本語字幕:今井祥子
男性同士が出会う湖で、死体が発見される——
ギロディの名を知らしめた伝説の傑作スリラー
夏、美しくブルーに輝く湖。ここは男性同士が出会うためのクルージングスポットになっている。ヴァカンス中に訪れた若い青年フランクは魅力的なミシェルと出会い恋に落ちる。ある夕方、フランクは湖で喧嘩する2人を目撃する。その数日後、ミシェルの恋人だった男性が溺死体で発見された。捜査の手が入った男たちの楽園は一転して不穏な空気が立ち込める。情熱が恐怖を上回る瞬間、自らの欲望に身を任せてゆく——
シネジャ作品紹介
その花は夜に咲く 原題:Skin of Youth
監督・脚本:アッシュ・メイフェア(『第三夫人と髪飾り』)
出演:チャン・クアン、ヴォー・ディエン・ザー・フイ、ファン・ティ・キム・ガン(『第三夫人と髪飾り』)、井上肇(『侍タイムスリッパー』)
1998年、サイゴン。
古びた部屋で下着姿で口紅を手に戯れる二人。望まぬ性に生まれたサンはナイトクラブで歌い、ナムはボクサーとして懸命に暮らしていた。サンは性適合手術をしたいと下調べに余念がない。ある日、クラブのVIP席にいた街のフィクサー、ミスター・ヴーンが、妖しく歌うサンに目をとめ、声をかけてくる。手術費用を出してくれそうだとナムに報告するサン。お金のため、ヴーンと逢瀬を重ねるサン。
ナムが激闘の末、ボクシングのチャンピオンになった日、ナムはサンにプロぽーすする。市場で働くナムの祖母や友達が立ち会い、サンとナムはつつましい結婚式を挙げる。
それでも手術代を稼ぐため、夜の街に働きにいこうとするサン。次第に二人の気持ちがすれ違い始める。サンをナイトクラブに送り届けたあと、ナムは船の中で体を売る若い女性ミミのもとに通うようになっていた。
やがて、ナムもお金を稼ごうと闇の地下格闘技に手を染めてゆく。
そんな折、ミミがナムの子を身籠ったと訪ねてくる。ひ孫の顔が見れると喜ぶ祖母。
一方、ミミの暮らす船を訪ねたサンは、環境の悪さに驚き、家に連れ帰る。ミミを交えた3人の不思議な生活が始まる。食事を作り、ミミの世話をし、生まれてくるこの名前まで考えるサン・・
なんとも切ない物語。サンは自分が子を産めないからとはいえ、ナムが浮気して出来た子のために甲斐甲斐しくミミの世話をする姿に涙が出ます。
サンを演じたのは、自身もトランスジェンダーであるチャン・クアン。映画初出演とは思えない自然な演技。まさにサンそのものです。ナム役は、数々の映画やドラマに出演し、ベトナム映画界で今最も期待される俳優の一人であるヴォー・ディエン・ザー・フイ。
そして、ミスター・ヴーンを演じたのは、『侍タイムスリッパー』に出演している名バイプレイヤー井上肇。全編ベトナム語で凄みのあるフィクサーを体現しています。
本作は、アッシュ・メイフェア監督自身の中学時代の経験や記憶、トランスジェンダーの友人をモデルに作り上げた鮮烈なラブストーリー。
「ベトナムでは今もなお、トランスジェンダーコミュニティは政府や社会から厳しい批判を受けています」と監督。タブーに挑んだ物語、心に沁みました。(咲)
2025年/ベトナム・シンガポール・日本/ベトナム語/121分/シネスコ/カラー/5.1ch
配給:ビターズ・エンド
公式サイト:https://www.bitters.co.jp/yorunisaku/
★2025年3月21日(金)シネマート新宿ほか全国順次公開
BAUS 映画から脱出した映画館
監督:甫木元空
脚本:青山真治 甫木元空
原作:「吉祥寺に育てられた映画館 イノカン・MEG・バウス 吉祥寺っ子映画館三代記」(本田拓夫著/文藝春秋企画出版部発行・文藝春秋発売)
音楽:大友良英
出演:染谷将太 峯田和伸 夏帆
渋谷そらじ 伊藤かれん 斉藤陽一郎 川瀬陽太 井手健介 吉岡睦雄
奥野瑛太 黒田大輔 テイ龍進 新井美羽 金田静奈 松田弘子
とよた真帆 光石研 橋本愛 鈴木慶一
1927年。活動写真に魅了され、「あした」を夢見て青森から上京したサネオとハジメは、ひょんなことから吉祥寺初の映画館"井の頭会館"で働き始める。兄・ハジメは活弁士、弟・サネオは社長として奮闘。劇場のさらなる発展を目指す二人だったが、戦争の足音がすぐそこまで迫っていた・・・
映画上映だけに留まらず、演劇、音楽、落語……「おもしろいことはなんでもやる」という無謀なコンセプトを掲げ、多くの観客と作り手に愛されながら30年の歴史を築いた吉祥寺バウスシアター。2014年の閉館から遡ること約90年、1925年に吉祥寺に初めての映画館“井の頭会館”がつくられ、1951年にはバウスシアターの前身となる“ムサシノ映画劇場”が誕生していた。 「映画館」という、ささやかでいてあらゆる人々に開かれた空間。本作ではそんな唯一無二の場所を舞台に、時流に翻弄されながらも娯楽を届け続けた家族の長い道のりを辿り、現在、そしてその先へと続く希望に満ちた「あした」を描き出す。
バウスシアターというと、大インド映画祭、アフリカ映画祭、爆音映画祭などが思い浮かぶのですが、私が何度か行って、50人定員の小さいほうの劇場で観た映画は、おそらく香港映画などアジア映画だったと思います。恐らく、ここでしか観られなかった映画のはず。
吉祥寺駅からサンロードを真っすぐ行った左側にあって、サンロードのお店を覗くのも楽しみでした。
今回、この映画を観て、バウスシアターに至る歴史を知ることができました。
「映画館」という場所が、今よりも、もっと町の人たちに近かった時代を感じました。
ひょんなことから映画館に勤めることになった兄弟が、その後、戦争を経て、映画館を復活させていく物語に、胸が熱くなりました。(咲)
2024年/日本/ヨーロピアンビスタ/116分
配給:boid、コピアポア・フィルム
公式サイト:https://bausmovie.com/
★2025年3月21日(金)より、テアトル新宿ほか全国ロードショー