2025年03月15日
湖の見知らぬ男 原題:L'inconnu du lac
監督・脚本:アラン・ギロディ
出演:ピエール・ドゥラドンシャン、クリストフ・パウ、パトリック・ダスマサオ、ジェローム・シャパット、マチュー・ヴェルヴィッシュ 他
青年フランクは車を降りて森を抜け、その先に広がる美しい湖の畔にいく。
そこには裸で寝そべる男たち。顔見知りの男に声をかけ、服を脱いで湖で泳いでいると、離れたところに服を着た男が座っているのが目のとまり、話しかける。アンリと名乗る男は木こりで、かつては対岸に家族と来ていたが、離婚したという。フランクはといえば、市場で野菜売りをしていたが、今は次の仕事を模索中。
湖から小麦色に焼けた、鍛え上げられた体の男があがってきて、フランクは彼を追って森の茂みに入っていく。その男ミシェルとフランクは恋に落ちる。
ある夕方、フランクは湖で喧嘩する2人を目撃する。その数日後、ミシェルの恋人だった男性が溺死体で発見される・・・
解説を何も読まずに映画を観たのですが、まず、湖畔に男が点々と一人で過ごしていて、あ~ そういう場所なのだと! それにしても、ほとんどの男が裸なのに、あまりにあっけんからんとして卑猥な感じはしません。そんな彼らも事件が起きて、刑事がやってくると、さすがに下を隠します。
フランクもミシェルも、そして、ここに来る男たちは皆、自分と相性のいい男を探し求めて、彷徨います。離婚したアンリもまた、心地よく会話できる相手を求めて、湖畔に通っているらしいと感じます。そんな中で、ひたすら自分の仕事を全うしようとする刑事・・・
フランクがアンリに声をかけた時に話題にした、「湖に10メートルのナマズがいる」「いや、5メートル」「4メートルはある」という会話が可笑しかったです。初対面の人と何を話すのか・・・ 天気の話や、どこから来た?というのは、ありきたり。巨大ナマズか・・・!
これもまたアラン・ギロディ監督の独特の世界でした。(咲)
2013年カンヌ国際映画祭「ある視点」部門 監督賞&クィア・パルム賞受賞
2013年/フランス/97分/カラー/スコープ/ドルビーSRD
日本語字幕:今井祥子
配給 サニーフィルム
公式サイト:https://www.sunny-film.com/alain-guiraudie
★2025年3月22日(土) シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
ノーバディーズ・ヒーロー 原題:Viens je t'emmene
監督・脚本:アラン・ギロディ
出演:ジャン=シャルル・クリシェ、ノエミ・ルヴォウスキー、イリエス・カドリ、ミシェル・マジエロ、ドリア・ティリエ 他
フランスの中央にある街クレルモン=フェラン。季節はクリスマス。
ランニング中の独身中年男メデリックは、路上の娼婦に目を奪われ、声をかける。
「君と寝たい。タダでね」と誘う彼。
「なぜタダなの?」と呆れる彼女。
「売春には反対だから」
「約束があるの。夫もいるし」。
彼女の夫が車で迎えに来る。「電話して」とメモを渡すメデリック。
娼婦のイザドラからすぐに電話がかかってくる。
「8時15分に、フランスホテルのフロントで“イザドラを”と」。
夜、ホテルのフロントには老人のルナールと、どう見ても未成年に見える若い黒人女性のシャルレーヌ。
205号室と言われ、部屋にいく。
服を脱ぎ、事を始めるが、テレビから街でテロが起きたとのニュース。
「帰らなきゃ」と言うイザドラ。
「大変だぞ!」といきなり彼女の夫ジェラールが部屋に入ってくる。
メデリックが帰宅すると、アラブ系の青年にお金を無心される。2ユーロを渡すと、「これじゃケバブも買えない」と言われる。
翌日、テロ現場に行ってみるメデリック。犯人の一人は20歳のモロッコ系だという。
帰宅すると、昨日のアラブ系の青年セリムがまたいて、家に入れてほしいという。テロ犯のように思えて、警察に通報し、彼は連行される。
翌日、セリムが釈放されたけれど行き場がないというので、家に入れる・・・
2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ以降、イスラーム=テロという図式が出来上がってしまいましたが、さらに、2015年のパリ同時多発テロで、フランスでもテロが身近になり、アラブ系の人たちがテロ犯という疑いの目で見られたり、そうでなくても怖れられ、排除される傾向があることを本作は見せてくれました。
メデリックは、セリムがテロ犯ではないかと疑いつつも、家に入れてあげるという寛容な気持ちを持っていて救われます。売春反対だから、娼婦にお金を払えないという論理には笑ってしまいますが・・・
それにしても、50代半ばの娼婦イザドラが、夫公認で、しかも郊外のなかなか瀟洒な家に住んでいることに驚きます。なぜイザドラは娼婦を続けるのか・・・
童貞のアラブ系青年を、自爆テロの前に天国に行けるようにと手ほどきしようとするのも、思えば健気です。
アラブ系青年セリムをメデリックが家に入れたことについて、アパートの住人たちが語る言葉からは、フランスらしさも教えられました。「何もしない」「様子をみる」がフランス的だそうです。
ブラックユーモアも交えながら、今の世相を語った物語。これもアラン・ギロディ風? (咲)
2022年ベルリン国際映画祭パノラマ部門 オープニング作品
2022年/フランス/100分/カラー/1.85/5.1
日本語字幕:本多茜
配給 サニーフィルム
公式サイト:https://www.sunny-film.com/alain-guiraudie
★2025年3月22日(土) シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
ミゼリコルディア 原題:Misericordia
監督・脚本:アラン・ギロディ
出演:フェリックス・キシル、カトリーヌ・フロ、デュラ、ジャック・ドゥヴレ、ジャン=バティスト・デュラ、デヴィッド・アヤラ 他
セザール賞8部門にノミネート。
フランスでスマッシュヒットの最新作
秋、紅葉が美しく、石造りの家が建ち並ぶ南西フランスの村。ジェレミーは車を走らせ、かつて働いていたパン屋の店主の葬儀に参列するため帰郷する。店主のエレガントな未亡人マルティーヌの勧めで家に泊まることになる。息子のヴァンサンは、かつての親友だ。
ジェレミーは旧友のワルターを訪ね、ゆっくり飲もうと約束する。
一泊だけのつもりが、思いのほか長引く滞在。なかなか帰らないジェレミーに、ヴァンサンは「おふくろと寝る気か?」と嫌な顔をする。
そんな中、ヴァンサンが行方不明になる・・・
ジェレミーが久しぶりに帰郷した村。
かつて勤めていたパン屋の店主の未亡人マルティーヌと親しげですが、その息子ヴァンサンや、旧友ワルターがジェレミーと同年代で、マルティーヌは年上。
ジェレミーが村を出た理由がちょっと気になります。
ヴァンサンの失踪事件で、警察が動きます。女性警官の存在感がなかなか。髭面の警官も可笑しい。
ジェレミーが教会を訪れると、「告解したい」という神父。神父が告解? 逆じゃないのか?
それぞれの人物との会話で進む物語。
なんとも不思議な独特な世界。
ミゼリコルディアとは「慈悲」という意味。その意図することが、わかったような、わからないような・・・ 観終わって、なんだか狐につままれたよう!(咲)
2024年カンヌ国際映画祭プレミア部門 正式出品
2024年ルイ・デリュック賞 / 2025年セザール賞8部門ノミネート
2024年/フランス/103分/カラー/2.35/5.1
日本語字幕:手束紀子
配給 サニーフィルム
公式サイト:https://www.sunny-film.com/alain-guiraudie
★2025年3月22日(土) シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
アラン・ギロディ監督3作品一挙公開 『ミゼリコルディア』『ノーバディーズ・ヒーロー』『湖の見知らぬ男』
現代フランスを代表する映画作家にして、日本劇場未公開の異才
アラン・ギロディ監督一挙3作品公開!!
『ミゼリコルディア』(2024年)
『ノーバディーズ・ヒーロー』(2022年)
『湖の見知らぬ男』(2013年)
配給 サニーフィルム
公式サイト:https://www.sunny-film.com/alain-guiraudie
★2025年3月22日(土) シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
アラン・ギロディ(Alain Guiraudie)
1964年、フランスのアヴェロン県ヴィルフランシュ=ド=ルエルグ生まれ。サスペンスにユーモアを織り交ぜた官能的で独創的な映画が特徴的。これまで、短編3作品、中編2作品、長編7作品を監督している。これまでの主な受賞は、2001年ジャン・ヴィゴ賞、2013年カンヌ国際映画祭「ある視点」部門・監督賞とクィア・パルム賞、2024年ジャン・デリュック賞など。フランスで最も権威のあるカイエ・デュ・シネマ誌の年間ベストテン第1位に2013年と2024年に選出されている。最新作『ミゼリコルディア』は、フランスの劇場公開で、動員23万人を突破し、世界21カ国での公開が決まった、インディペンデント映画としては異例の大ヒットを記録している。
『ミゼリコルディア』 原題:Misericordia

© 2024 CG Cinéma / Scala Films / Arte France Cinéma / Andergraun Films / Rosa Filmes
監督・脚本:アラン・ギロディ
出演:フェリックス・キシル、カトリーヌ・フロ、デュラ、ジャック・ドゥヴレ、ジャン=バティスト・デュラ、デヴィッド・アヤラ 他
2024年カンヌ国際映画祭プレミア部門 正式出品
2024年ルイ・デリュック賞 / 2025年セザール賞8部門ノミネート
2024年/フランス/103分/カラー/2.35/5.1
日本語字幕:手束紀子
セザール賞8部門にノミネート。フランスでスマッシュヒットの最新作
秋、紅葉が美しく、石造りの家が建ち並ぶ村。ジェレミーは、かつて働いていたパン屋の店主の葬儀に参列するため帰郷する。男の未亡人マルティーヌの勧めで家に一泊だけすることになるが、思いのほか長引く滞在。そんな中、起きた謎の失踪事件—— 未亡人の息子ヴァンサン、音信不通となっていたかつての親友ワルター、奇妙な神父フィリップ、そして、村の秘密を知っている警官。村に立ち込めるそれぞれの思惑と欲望。
シネジャ作品紹介
『ノーバディーズ・ヒーロー』 原題:Viens je t'emmene

© 2021 CG CINÉMA / ARTE FRANCE CINÉMA / AUVERGNE-RHÔNE-ALPES CINÉMA / UMÉDIA
監督・脚本:アラン・ギロディ
出演:ジャン=シャルル・クリシェ、ノエミ・ルヴォウスキー、イリエス・カドリ、ミシェル・マジエロ、ドリア・ティリエ 他
2022年ベルリン国際映画祭パノラマ部門 オープニング作品
2022年/フランス/100分/カラー/1.85/5.1
日本語字幕:本多茜
娼婦への愛に悶絶する男と地元で起きた自爆テロ——
賛否沸騰のギロディ流社会派コメディー
冬、クリスマス前、師走の街。独身男性のメデリックは、ランニング中に見ず知らずの売春婦イザドラに一目惚れし口説くが、嫉妬深い夫の乱入で邪魔をされる。同時に市街では大規模なテロが発生—— 突然メデリックのアパートに現れたアラブ系の青年セリム、仕事とプライベートの区別がないフロランス、混乱する近隣住人たちとホテルフロントの老人と少女。愛に突き進むメデリックの周りで発生する予期せぬトラブルが周辺を巻き込んでゆく。
シネジャ作品紹介
『湖の見知らぬ男』 原題:L'inconnu du lac

©️ 2013 Les Films du WorsoArte / France Cinéma / M141 Productions / Films de Force Majeure
監督・脚本:アラン・ギロディ
出演:ピエール・ドゥラドンシャン、クリストフ・パウ、パトリック・ダスマサオ、ジェローム・シャパット、マチュー・ヴェルヴィッシュ 他
2013年カンヌ国際映画祭「ある視点」部門 監督賞&クィア・パルム賞受賞
2013年/フランス/97分/カラー/スコープ/ドルビーSRD
日本語字幕:今井祥子
男性同士が出会う湖で、死体が発見される——
ギロディの名を知らしめた伝説の傑作スリラー
夏、美しくブルーに輝く湖。ここは男性同士が出会うためのクルージングスポットになっている。ヴァカンス中に訪れた若い青年フランクは魅力的なミシェルと出会い恋に落ちる。ある夕方、フランクは湖で喧嘩する2人を目撃する。その数日後、ミシェルの恋人だった男性が溺死体で発見された。捜査の手が入った男たちの楽園は一転して不穏な空気が立ち込める。情熱が恐怖を上回る瞬間、自らの欲望に身を任せてゆく——
シネジャ作品紹介
アラン・ギロディ監督一挙3作品公開!!
『ミゼリコルディア』(2024年)
『ノーバディーズ・ヒーロー』(2022年)
『湖の見知らぬ男』(2013年)
配給 サニーフィルム
公式サイト:https://www.sunny-film.com/alain-guiraudie
★2025年3月22日(土) シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
アラン・ギロディ(Alain Guiraudie)
1964年、フランスのアヴェロン県ヴィルフランシュ=ド=ルエルグ生まれ。サスペンスにユーモアを織り交ぜた官能的で独創的な映画が特徴的。これまで、短編3作品、中編2作品、長編7作品を監督している。これまでの主な受賞は、2001年ジャン・ヴィゴ賞、2013年カンヌ国際映画祭「ある視点」部門・監督賞とクィア・パルム賞、2024年ジャン・デリュック賞など。フランスで最も権威のあるカイエ・デュ・シネマ誌の年間ベストテン第1位に2013年と2024年に選出されている。最新作『ミゼリコルディア』は、フランスの劇場公開で、動員23万人を突破し、世界21カ国での公開が決まった、インディペンデント映画としては異例の大ヒットを記録している。
『ミゼリコルディア』 原題:Misericordia

© 2024 CG Cinéma / Scala Films / Arte France Cinéma / Andergraun Films / Rosa Filmes
監督・脚本:アラン・ギロディ
出演:フェリックス・キシル、カトリーヌ・フロ、デュラ、ジャック・ドゥヴレ、ジャン=バティスト・デュラ、デヴィッド・アヤラ 他
2024年カンヌ国際映画祭プレミア部門 正式出品
2024年ルイ・デリュック賞 / 2025年セザール賞8部門ノミネート
2024年/フランス/103分/カラー/2.35/5.1
日本語字幕:手束紀子
セザール賞8部門にノミネート。フランスでスマッシュヒットの最新作
秋、紅葉が美しく、石造りの家が建ち並ぶ村。ジェレミーは、かつて働いていたパン屋の店主の葬儀に参列するため帰郷する。男の未亡人マルティーヌの勧めで家に一泊だけすることになるが、思いのほか長引く滞在。そんな中、起きた謎の失踪事件—— 未亡人の息子ヴァンサン、音信不通となっていたかつての親友ワルター、奇妙な神父フィリップ、そして、村の秘密を知っている警官。村に立ち込めるそれぞれの思惑と欲望。
シネジャ作品紹介
『ノーバディーズ・ヒーロー』 原題:Viens je t'emmene

© 2021 CG CINÉMA / ARTE FRANCE CINÉMA / AUVERGNE-RHÔNE-ALPES CINÉMA / UMÉDIA
監督・脚本:アラン・ギロディ
出演:ジャン=シャルル・クリシェ、ノエミ・ルヴォウスキー、イリエス・カドリ、ミシェル・マジエロ、ドリア・ティリエ 他
2022年ベルリン国際映画祭パノラマ部門 オープニング作品
2022年/フランス/100分/カラー/1.85/5.1
日本語字幕:本多茜
娼婦への愛に悶絶する男と地元で起きた自爆テロ——
賛否沸騰のギロディ流社会派コメディー
冬、クリスマス前、師走の街。独身男性のメデリックは、ランニング中に見ず知らずの売春婦イザドラに一目惚れし口説くが、嫉妬深い夫の乱入で邪魔をされる。同時に市街では大規模なテロが発生—— 突然メデリックのアパートに現れたアラブ系の青年セリム、仕事とプライベートの区別がないフロランス、混乱する近隣住人たちとホテルフロントの老人と少女。愛に突き進むメデリックの周りで発生する予期せぬトラブルが周辺を巻き込んでゆく。
シネジャ作品紹介
『湖の見知らぬ男』 原題:L'inconnu du lac

©️ 2013 Les Films du WorsoArte / France Cinéma / M141 Productions / Films de Force Majeure
監督・脚本:アラン・ギロディ
出演:ピエール・ドゥラドンシャン、クリストフ・パウ、パトリック・ダスマサオ、ジェローム・シャパット、マチュー・ヴェルヴィッシュ 他
2013年カンヌ国際映画祭「ある視点」部門 監督賞&クィア・パルム賞受賞
2013年/フランス/97分/カラー/スコープ/ドルビーSRD
日本語字幕:今井祥子
男性同士が出会う湖で、死体が発見される——
ギロディの名を知らしめた伝説の傑作スリラー
夏、美しくブルーに輝く湖。ここは男性同士が出会うためのクルージングスポットになっている。ヴァカンス中に訪れた若い青年フランクは魅力的なミシェルと出会い恋に落ちる。ある夕方、フランクは湖で喧嘩する2人を目撃する。その数日後、ミシェルの恋人だった男性が溺死体で発見された。捜査の手が入った男たちの楽園は一転して不穏な空気が立ち込める。情熱が恐怖を上回る瞬間、自らの欲望に身を任せてゆく——
シネジャ作品紹介
その花は夜に咲く 原題:Skin of Youth
監督・脚本:アッシュ・メイフェア(『第三夫人と髪飾り』)
出演:チャン・クアン、ヴォー・ディエン・ザー・フイ、ファン・ティ・キム・ガン(『第三夫人と髪飾り』)、井上肇(『侍タイムスリッパー』)
1998年、サイゴン。
古びた部屋で下着姿で口紅を手に戯れる二人。望まぬ性に生まれたサンはナイトクラブで歌い、ナムはボクサーとして懸命に暮らしていた。サンは性適合手術をしたいと下調べに余念がない。ある日、クラブのVIP席にいた街のフィクサー、ミスター・ヴーンが、妖しく歌うサンに目をとめ、声をかけてくる。手術費用を出してくれそうだとナムに報告するサン。お金のため、ヴーンと逢瀬を重ねるサン。
ナムが激闘の末、ボクシングのチャンピオンになった日、ナムはサンにプロぽーすする。市場で働くナムの祖母や友達が立ち会い、サンとナムはつつましい結婚式を挙げる。
それでも手術代を稼ぐため、夜の街に働きにいこうとするサン。次第に二人の気持ちがすれ違い始める。サンをナイトクラブに送り届けたあと、ナムは船の中で体を売る若い女性ミミのもとに通うようになっていた。
やがて、ナムもお金を稼ごうと闇の地下格闘技に手を染めてゆく。
そんな折、ミミがナムの子を身籠ったと訪ねてくる。ひ孫の顔が見れると喜ぶ祖母。
一方、ミミの暮らす船を訪ねたサンは、環境の悪さに驚き、家に連れ帰る。ミミを交えた3人の不思議な生活が始まる。食事を作り、ミミの世話をし、生まれてくるこの名前まで考えるサン・・
なんとも切ない物語。サンは自分が子を産めないからとはいえ、ナムが浮気して出来た子のために甲斐甲斐しくミミの世話をする姿に涙が出ます。
サンを演じたのは、自身もトランスジェンダーであるチャン・クアン。映画初出演とは思えない自然な演技。まさにサンそのものです。ナム役は、数々の映画やドラマに出演し、ベトナム映画界で今最も期待される俳優の一人であるヴォー・ディエン・ザー・フイ。
そして、ミスター・ヴーンを演じたのは、『侍タイムスリッパー』に出演している名バイプレイヤー井上肇。全編ベトナム語で凄みのあるフィクサーを体現しています。
本作は、アッシュ・メイフェア監督自身の中学時代の経験や記憶、トランスジェンダーの友人をモデルに作り上げた鮮烈なラブストーリー。
「ベトナムでは今もなお、トランスジェンダーコミュニティは政府や社会から厳しい批判を受けています」と監督。タブーに挑んだ物語、心に沁みました。(咲)
2025年/ベトナム・シンガポール・日本/ベトナム語/121分/シネスコ/カラー/5.1ch
配給:ビターズ・エンド
公式サイト:https://www.bitters.co.jp/yorunisaku/
★2025年3月21日(金)シネマート新宿ほか全国順次公開
BAUS 映画から脱出した映画館
監督:甫木元空
脚本:青山真治 甫木元空
原作:「吉祥寺に育てられた映画館 イノカン・MEG・バウス 吉祥寺っ子映画館三代記」(本田拓夫著/文藝春秋企画出版部発行・文藝春秋発売)
音楽:大友良英
出演:染谷将太 峯田和伸 夏帆
渋谷そらじ 伊藤かれん 斉藤陽一郎 川瀬陽太 井手健介 吉岡睦雄
奥野瑛太 黒田大輔 テイ龍進 新井美羽 金田静奈 松田弘子
とよた真帆 光石研 橋本愛 鈴木慶一
1927年。活動写真に魅了され、「あした」を夢見て青森から上京したサネオとハジメは、ひょんなことから吉祥寺初の映画館"井の頭会館"で働き始める。兄・ハジメは活弁士、弟・サネオは社長として奮闘。劇場のさらなる発展を目指す二人だったが、戦争の足音がすぐそこまで迫っていた・・・
映画上映だけに留まらず、演劇、音楽、落語……「おもしろいことはなんでもやる」という無謀なコンセプトを掲げ、多くの観客と作り手に愛されながら30年の歴史を築いた吉祥寺バウスシアター。2014年の閉館から遡ること約90年、1925年に吉祥寺に初めての映画館“井の頭会館”がつくられ、1951年にはバウスシアターの前身となる“ムサシノ映画劇場”が誕生していた。 「映画館」という、ささやかでいてあらゆる人々に開かれた空間。本作ではそんな唯一無二の場所を舞台に、時流に翻弄されながらも娯楽を届け続けた家族の長い道のりを辿り、現在、そしてその先へと続く希望に満ちた「あした」を描き出す。
バウスシアターというと、大インド映画祭、アフリカ映画祭、爆音映画祭などが思い浮かぶのですが、私が何度か行って、50人定員の小さいほうの劇場で観た映画は、おそらく香港映画などアジア映画だったと思います。恐らく、ここでしか観られなかった映画のはず。
吉祥寺駅からサンロードを真っすぐ行った左側にあって、サンロードのお店を覗くのも楽しみでした。
今回、この映画を観て、バウスシアターに至る歴史を知ることができました。
「映画館」という場所が、今よりも、もっと町の人たちに近かった時代を感じました。
ひょんなことから映画館に勤めることになった兄弟が、その後、戦争を経て、映画館を復活させていく物語に、胸が熱くなりました。(咲)
2024年/日本/ヨーロピアンビスタ/116分
配給:boid、コピアポア・フィルム
公式サイト:https://bausmovie.com/
★2025年3月21日(金)より、テアトル新宿ほか全国ロードショー
2025年03月13日
映画おしりたんてい スター・アンド・ムーン
監督:芝田浩樹
脚本:米村正二
原作:トロル
撮影:千葉秀樹
音楽:高木洋
主題歌:FRUITS ZIPPER
出演:三瓶由布子(おしりたんてい)、齋藤彩夏(ブラウン)、櫻井孝宏(かいとうU)、志村知幸(かいとうK)、大久保瑠美(かいとうB)、吉田有里(かいとうI)、渡辺久美子(かいとうQ)、高橋伸也(かいとうT)、間宮康弘(かいとうH)、柿原徹也(かいとうZ)、小林大紀(かいとうN)、子安武人
IQ1104の頭脳で数々の難事件を解決してきたおしりたんてい。コアラちゃんから「親戚がアイドルコンテストに行ったまま戻ってこない。探してほしい」と頼まれた。コンテスト会場のスターダスト島には、国際的犯罪組織のかいとうアカデミーの本部がある。そこでは「ダークエイジ計画」が進められているワンコロけいさつのマルチーズしょちょうからも捜査協力の依頼がきた。
一方かいとうUは、ボスのかいとうGにとられた月光石を取り戻すために、本部に近づいていた。おしりたんていと、かいとうUはかいとうアカデミーを倒すために協力することにした。
初めて拝見しました。大ヒットの児童書&アニメだったんですね。劇場版は3作目です。お顔はおしりに似ていますが、おしりじゃありません。色つやよくすべすべです。たたずまいも言葉遣いも上品で紳士なたんてい。おまけに頭も腕も良い。
今回は潜入捜査のために、仲間とアイドルグループを作り、歌って踊ります。小さなファンたちがふり真似しそうです。かいとうUは凄腕の泥棒ですが、キザなほどカッコつけの怪盗。悪だくみをするボスをやっつけるために、手を組みます。おしりたんていの必殺技は、想像力豊かな人は見当がつくでしょう。
子どもたちは下ネタ好きですが、大人たちがダメというと余計面白がりますよね。いつまでも続くわけではないので、ママたちも安心して一緒にご覧ください。(白)
2025年/日本/カラー/77分
配給:東映
(C)トロル・ポプラ社/2025「映画おしりたんてい」製作委員会
https://oshiri-movie.com/
★2025年3月20日(木)全国ロードショー
悪い夏
監督:城定秀夫
脚本:向井康介
原作:染井為人
撮影:渡邊雅紀
音楽:遠藤浩二
出演:北村匠海(佐々木守)、河合優実(林野愛美)、伊藤万理華(宮田有子)、毎熊克哉(高野洋司)、箭内夢菜(莉華)、竹原ピストル(山田吉男)、木南晴夏(古田佳澄)、窪田正孝(金本龍也)
佐々木守は市役所の生活福祉課に勤めている。生活保護の受給を決定し、その後自立できるように見守るのも仕事だ。ことに暑い夏の日、汗だくで受給者を訪問して、のらりくらりとかわされることもある。ある日「同僚が受給者のシングルマザーに肉体関係を迫っているらしい」と相談を受けた。真相を確かめるために、くだんの林野の家を訪ねる佐々木だったが。
「ワルとクズばかり」という惹句にえ~?? 佐々木役の北村匠海さんの何も見ていないうつろな目のポスターに、「どうした!何があった?」と驚く人は多いはず。初めはごく真面目で、熱心に仕事に取り組む公務員でした。ストレスが貯まったうえに暑さが加わり・・・。異常な暑さは人も異常にしてしまうのか??
窪田正孝さん演じる金本龍也はプロのワル。ニコニコしながら、自分の理屈を並べたて、従わない者に制裁をします。ネグレクト寸前のシングルマザーの愛美は、佐々木を陥れるために金本に利用されます。佐々木の闇落ちのとばっちりをくう生活保護の申請にきた母子。お金に困った母の行く末は? 妻子ありながらゲスな先輩、熱心すぎる同期の宮田はどうなる?
出てくる人みなうまくて、説得力も存在感もあり、混沌のラストまで目が離せません。闇に引き込まれないようご用心。(白)
2025年/日本/カラー/114分
配給:クロックワークス
(C)2025映画「悪い夏」製作委員会
https://waruinatsumovie.com/
★2025年3月20日(木)全国ロードショー
ネムルバカ
監督:阪元裕吾
脚本:皐月彩、阪元裕吾
原作:石黒正数
撮影:渡邊雅紀
音楽:立山秋航
主題歌:平祐奈 as 鯨井ルカ
出演:久保史緒里(入巣柚実)、平祐奈(鯨井ルカ)、綱啓永(田口)、樋口幸平(伊藤)、兎(仲崎)
入巣柚実は大学の女子寮で、先輩の鯨井ルカと同室。インディーズバンド”ピートモス”のギター&ヴォーカルとしてバンド活動にうちこむルカと違って、柚実にはこれというものがない。古本屋でのアルバイトもなんとなく続けている。気楽につるんでいた同級生の田口がルカに惹かれていて、自分はただのつなぎ役だったのに傷つく。けれどもいつか羽ばたく日を夢見るルカはやっぱりまぶしい。そんな日々の中、大手のレコード会社からルカに連絡が入る。期待いっぱいで楽器を持って出かけたメンバーだったが、必要とされていたのはルカ一人だった。
青春コミックの原作を『ベイビーわるきゅーれ』シリーズの阪元裕吾監督で映画化。柚実とルカの2人は「わるきゅーれのちさととまひろ」にどこか似ていました。原作の石黒正数さんが『ベイビーわるきゅーれ』を観て「ネムルバカをこういう風にしたかったんだよ」と思ったそうです。実写版が完成して、どんなに喜ばれたでしょう。ルカの歌う「ネムルバカ」の作詞は石黒正数さん。
平祐奈さんは歌とギターに挑戦、特訓の成果は十分です。
モラトリアムから踏み出せそうな柚実役の久保史緒里さんと、田口役の綱啓永さんは、昨年10月の夜ドラ「未来の私にブッかまされる」では恋人同士。今回はブッとばされています。(白)
2025年/日本/カラー/105分
配給:ポニーキャニオン
https://nemurubaka-movie.com/
★2025年3月20日(木)全国ロードショー
ジェリーの災難(原題:Starring Jerry as Himself)
監督:ロー・チェン
脚本:ジェリー・シュー ロー・チェン
撮影:ロー・チェン、ティンクス・チャン
出演:ジェリー・シュー、キャシー・シュー、ジョシュア・シュー、ジェシー・シュー
台湾からアメリカに渡り、長く生活してきたジェリー・シューは定年を迎えた。妻とは離婚したが、息子たちとは行き来している。真面目に働いて貯めたお金もある。老後はのんびり過ごすつもりだった。ところが一本の電話で、そんな未来が崩れてしまう。
中国警察と名乗る男は、ジェシーの銀行口座がマネーロンダリングのために使われ、資金洗浄と詐欺の疑いで逮捕状が出ていると告げた。身に覚えのないことと必死に説明するが、このままでは強制送還しなければならないと言う。慌てるジェリーに相手は、警察の捜査を手伝うことを提案する。ジェシーは言われるままに”おとり”となって銀行の窓口に行ったり、あやしい男の動向を監視したりする。
これは実話です。驚くのは、ジェリー・シュー本人が脚本&主演で、自分に起こった詐欺事件を映画化したということ。出てくる家族もご本人たちです。「災難」としか言いようのないできごとで、思わず「それは違う、やめとけ、うわあぁ!」とか言いたくなってきます。
世間で詐欺被害が頻発しようとも、自分は大丈夫と思うものです。しかしながらこの顛末を見ていると敵は百戦錬磨の騙しのプロ、こちらの弱みを握り、脅したりなだめたりして操ってきます。いかに簡単に人は騙されるのか、よくわかります。翻弄されて痛い目に遭ったジェシーは家族にうちあけ、この映画が作られることになりました。(白)
2023年/アメリカ/カラー/75分
配給:ナカチカピクチャーズ
(C)2023 Forces Unseen, LLC.
https://jerry-movie.com/
★2025年3月20日(木)全国ロードショー
教皇選挙(原題:Conclave)
監督:エドワード・ベルガー
脚本:ピーター・ストローハン
原作:ロバート・ハリス
撮影:ステファーヌ・フォンテーヌ
音楽:フォルカー・バーテルマン
出演:レイフ・ファインズ(ローレンス枢機卿)、スタンリー・トゥッチ(ベリーニ枢機卿)、ジョン・リスゴー(トランブレ枢機卿)、カルロク・ディエス(ベニデス枢機卿)、イザベラ・ロッセリーニ(シスター・アグネス)
キリスト教最大の教派、カトリック教会の最高指導者であり、バチカン市国の元首であるローマ教皇が、死去した。すぐに世界中に知らされ、残された枢機卿たちは、新教皇を決める教皇選挙”コンクラーベ’を行わなければならない。ローレンス枢機卿が任に当たることになった。世界各国から100人を超える強力な候補者たちが集まり、外部と遮断された。投票はシスティーナ礼拝堂で教皇が決定するまで極秘で繰り返される。
聖書のお話は子どものころから読んでいました。クリスマスや讃美歌、観光地の教会は好きでも、中身のことはよく知りません。カトリック教会の世界中の信者は13億人もいるというカトリック。日本では43万人余りだそうです。大きな大きな組織で、そのトップがローマ教皇、その空席を埋める選挙がこういうものだったとは初めて知りました。
なりたい人があまたいる中で、ローレンスは身を引いて静かに暮らしたいと思っていました。が、対抗者を減らそうと陰で暗躍する人、ゴシップを流す人、浮動票を集めようとする人などが出て来て、静観しているわけにいきません。二転三転する選挙結果に観客もどんな結果が出るのか、目が離せなくなります。高位の聖職者の集まりなのに、このどろどろ加減は何??
ベテラン俳優が演じるお爺ちゃんばかりの枢機卿の中に、紛争地帯からやってきたやや若手の枢機卿と、「いないものと思われている」と蜂の針のような一言を放ったシスターの存在が光りました。俯瞰で撮影した黒い傘、赤い衣装、ラスト近くの白い傘、わずかに登場する青い空、色彩も目に残ります。(白)
教皇選挙(コンクラーベ)というタイトルから、まず思い出したのが、ナンニ・モレッティ監督の『ローマ法王の休日』(2011年)でした。法王(教皇)が亡くなり、バチカンに集まった各国の枢機卿が密室の中で選挙を行い、はからずも新法王に選ばれてしまったダークホースのメルヴィルが、緊張のあまりローマの街に逃げ出してしまうというお話。その映画でも、選挙に使用した紙を燃やして白い煙を出し、新しい教皇が決まったことを知らせる様子が描かれていました。
世界各地から集まった100人余りの枢機卿の投票で、72票を得る者が出るまで繰り返される選挙。その枢機卿の中で異彩を放ったのが、アフガニスタンのカーブル教区の枢機卿でメキシコ人のベニテスでした。「アフガニスタンにカトリック教徒がいるのか?」との声も飛ぶのですが、亡くなった教皇が秘密裏に赴任させたという経緯もありました。
折しも、ローマで自爆テロが頻発し、「宗教戦争だ!」と声を荒げる枢機卿たちがいる中、ベニテスが「戦争とは何かをご存じでしょうか? 私は戦争で多くの死を見てきました」と静かに語ります。コンゴやアフガニスタンなど紛争地域を歴任してきたのです。
ローマ教皇の影響力は、キリスト教世界だけでなく、全世界におよぶ大きなものです。
ジャンフランコ・ロージ監督の『旅するローマ教皇』(2022年)では、第266代ローマ教皇フランシスコが世界各地を旅して、他宗教との対話を積極的にはかる姿が描かれていました。
重要な役目を果たすローマ教皇を、100人余りの投票で決めるのですから、各国の枢機卿の人格が問われることにもなるでしょう。本作では、内輪もめも見せながら、ローマ教皇のあるべき姿も見せてくれました。(咲)
2025年/アメリカ、イギリス/カラー/120分
配給:キノフィルムズ
(C)2024 Conclave Distribution, LLC.
https://cclv-movie.jp/
https://x.com/CCLV_movie
★2025年3月20日(木)全国ロードショー
Flow(原題:Straume)
監督・脚本・音楽:ギンツ・ジルバロディス
世界が大洪水に見舞われ、人間の住んだ街が沈みつつあった。一匹の黒猫が水を避けながら逃げ、流れてきた船に飛び乗った。先客の動物たち、後から仲間に入る動物たちと、さまざまな目に遭いながら漂っていく。
昨年のTIFF(東京国際映画祭)でひとあし早く上映されました。
魔女の宅急便に登場するジジのような黒猫が、人間のいなくなった世界で生き残った動物たちと、どこへたどり着くのかわからない船で流されていきます。動物たちのセリフはなく、私たちに身近な猫や犬の動きはとてもリアル。どれだけ観察したのかと感心してしまいます。カピバラやワオキツネザルのシーンでは、笑い声があがっていました。
これまでいくつもの短編を一人で作ってきた監督は、今回は小さなチーム(なんと50人!)で長編を作り、変更、追加などが意思の疎通がスムーズだったそうです。監督担当のカメラは実写版のカメラのように、主人公の猫の目線になって動きます。よく描きこまれた背景や。様々な表情を見せる水も美しく、何度見ても楽しめる作品です。(白)
2024年アヌシー国際アニメーション映画祭はじめ、各映画祭において受賞多数。
つい先日アカデミー賞において長編アニメーション賞を受賞。
『Flow』本編には、水が押し寄せるシーンや濁流、波や水中での揺れ等の描写が含まれております。
お客様によっては、体調などに影響を及ぼす可能性がございます。ご注意ください。ご鑑賞の皆様におかれましては、予めご了承いただけますようお願い申し上げます。
2023年/ラトビア・フランス・ベルギー合作/カラー/85分
配給:ファインフィルムズ
(C)Dream Well Studio, Sacrebleu Productions & Take Five.
https://flow-movie.com/
★2025年3月14日(金)大ヒット上映中
風たちの学校
監督・撮影:田中健太
編集:田中健太、秦岳志
愛知県奥三河の黄柳野(つげの)高校 —
豊かな自然に囲まれ、四季の移り変わりを感じながら生徒たちは全寮制のこの学校で学ぶ。ここでは、不登校などいろいろなバックグラウンドの子どもたちも受け入れてくれる。様々な葛藤を抱えながらも精一杯、生きる生徒たちの姿。
最後の学園祭をクラスみんなで成功させたいと願うみのきくんは、血の繋がらない父の家業を継ぐか世界を旅する夢を追うかで悩み、音楽が大好きなことみさんは、ときどき落ち込むけど、ちょっとずつ自分の思いを歌にしていく。そして3年間の学校生活の終わりは、近づいてくるのだった—。
学校やそこでの生活をとらえた映画は多いです。成長期にある生徒たちと先生、家族たちの悲喜こもごものドラマが潜んでいるところが、作り手の意欲を掻き立てるからでしょうか。この作品は高校を舞台に、男女2人の生徒にフォーカスしたドキュメンタリーです。毎日のように心も身体も成長していく年頃は、脱皮中の虫たちのように柔らかく無防備です。自分とほかの子を比べて自信喪失しがちでもあります。
田中健太監督は自らも不登校を経験し、この黄柳野(つげの)高校で学びました。大阪芸術大学映像学科に進み、原一男監督の制作指導を受けて監督した卒業制作『ぼくと駄菓子のいえ』は映画祭で好評を得た後公開されています。母校とその生徒たちにカメラを向けた本作は、監督のまなざしと対象の彼らからの親しみも感じられる暖かい作品となりました。大人になって忘れてしまったり、記憶の奥にしまい込んだりしたあの頃を思い出す映画です。(白)
黄柳野(つげの)高校HP https://tsugeno.ac.jp/
2023年/日本/カラー/77分
配給:合同会社ななし
(C)合同会社ななし
https://kazetachi-gakko.com/
★2025年3月15日(土)新宿K’sシネマほか全国順次公開
2025年03月09日
そして、アイヌ
2025年3月15日(土)ポレポレ東中野ほか全国順次公開
劇場情報
東京・大久保にあるアイヌ料理店「ハルコㇿ」。
ともに紡ぐ未来の手がかりが照らし出されていく
監督・企画・撮影:大宮浩一
撮影:常田高志 辻井潔 遠山慎二 田中圭 伊藤寛 伊東尚輝 北川帯寛 岩爪勝
編集:田中圭
編集協力:遠山慎二
整音:石垣哲
カラーコレクション:福井崇志
出演:宇佐照代、宇井眞紀子、黄秀彦、太田昌国、平田篤史、奈良美智
想いを引き継ぎ、人びとが繋がる—この場所で見つけた、これからの私たち
大久保に「ハルコㇿ(HaruKor)」というアイヌ料理店があります。アイヌのことばで「食べ物(穀物)・持つ」を指し、「食べ物に困らないように」という願いがこめられています。店主はアイヌ文化アドバイザーとして若い世代へ舞踊や楽器演奏などの伝承活動も行う宇佐照代さん。生まれ育った釧路を小学生のころに離れ、母と5人兄弟で東京にやってきました。2011年にオープンしたお店には多様なルーツをもつ人びとが国内外から訪れ、味わい、繋がる場となっています。
「ハルコㇿ」の成り立ちには、長いあいだ関東在住アイヌの居場所づくりに奔走していた照代さんの祖母や母の想いがあります。2019年にようやく先住民族としてアイヌが法律に明記されたものの、取りまく偏見や差別がなくなったとは言い難い現実があります。映画は、照代さんの曾祖母から子に至るまでの家族のライフヒストリーを紐解きながら、アイヌと出会った人びと――美術作家・奈良美智さん、評論家・太田昌国さん、写真家・宇井眞紀子さん、朝鮮/韓国民謡奏者・黄秀彦さん、カムイノミ祭司/縄文造形作家・平田篤史さんたちの活動を道しるべに、文化の継承とアイデンティティ、開発と多様性、植民地主義と人権といった問いに向き合っていきます。
監督は日本社会の多様なコミュニティのあり方に眼差しを向け続ける大宮浩一。「出会い、知り、気づき、伝えること」を実践している人びとの姿。照代さんの奏でるムックリ〈口琴〉の音色に導かれるように、互いをいがみ合うことに慣れてしまった現代の先を照らす旅がはじまります。
公式HPはこちら
2024年製作/96分/G/日本
配給:東風
特報 予告編
本予告編
*公開 ゲスト情報
東京都中野区|ポレポレ東中野
3月15日(土) 12:00の回上映後、宇佐照代さん、大宮浩一監督による舞台挨拶&宇佐照代さんによるミニライブ
3月15日(土) 18:10の回上映前、大宮浩一監督による舞台挨拶
京都府京都市|京都シネマ
3月16日(日) 10:00の回上映後、宇佐照代さん、大宮浩一監督による舞台挨拶
大阪府大阪市|第七藝術劇場
3月16日(日) 14:40の回上映後、宇佐照代さん、大宮浩一監督による舞台挨拶&宇佐照代さんによるミニライブ
北海道札幌市|シアターキノ
3月29日(土) 時間調整中、宇佐照代さん、大宮浩一監督による舞台挨拶
北海道釧路町|イオンシネマ釧路
3月30日(日) 時間調整中、宇佐照代さん、大宮浩一監督による舞台挨拶
北海道函館市|シネマアイリス
4月12日(土) 時間調整中、宇佐照代さんによる舞台挨拶
劇場情報
東京・大久保にあるアイヌ料理店「ハルコㇿ」。
ともに紡ぐ未来の手がかりが照らし出されていく
監督・企画・撮影:大宮浩一
撮影:常田高志 辻井潔 遠山慎二 田中圭 伊藤寛 伊東尚輝 北川帯寛 岩爪勝
編集:田中圭
編集協力:遠山慎二
整音:石垣哲
カラーコレクション:福井崇志
出演:宇佐照代、宇井眞紀子、黄秀彦、太田昌国、平田篤史、奈良美智
想いを引き継ぎ、人びとが繋がる—この場所で見つけた、これからの私たち
大久保に「ハルコㇿ(HaruKor)」というアイヌ料理店があります。アイヌのことばで「食べ物(穀物)・持つ」を指し、「食べ物に困らないように」という願いがこめられています。店主はアイヌ文化アドバイザーとして若い世代へ舞踊や楽器演奏などの伝承活動も行う宇佐照代さん。生まれ育った釧路を小学生のころに離れ、母と5人兄弟で東京にやってきました。2011年にオープンしたお店には多様なルーツをもつ人びとが国内外から訪れ、味わい、繋がる場となっています。
「ハルコㇿ」の成り立ちには、長いあいだ関東在住アイヌの居場所づくりに奔走していた照代さんの祖母や母の想いがあります。2019年にようやく先住民族としてアイヌが法律に明記されたものの、取りまく偏見や差別がなくなったとは言い難い現実があります。映画は、照代さんの曾祖母から子に至るまでの家族のライフヒストリーを紐解きながら、アイヌと出会った人びと――美術作家・奈良美智さん、評論家・太田昌国さん、写真家・宇井眞紀子さん、朝鮮/韓国民謡奏者・黄秀彦さん、カムイノミ祭司/縄文造形作家・平田篤史さんたちの活動を道しるべに、文化の継承とアイデンティティ、開発と多様性、植民地主義と人権といった問いに向き合っていきます。
監督は日本社会の多様なコミュニティのあり方に眼差しを向け続ける大宮浩一。「出会い、知り、気づき、伝えること」を実践している人びとの姿。照代さんの奏でるムックリ〈口琴〉の音色に導かれるように、互いをいがみ合うことに慣れてしまった現代の先を照らす旅がはじまります。
公式HPはこちら
2024年製作/96分/G/日本
配給:東風
特報 予告編
本予告編
*公開 ゲスト情報
東京都中野区|ポレポレ東中野
3月15日(土) 12:00の回上映後、宇佐照代さん、大宮浩一監督による舞台挨拶&宇佐照代さんによるミニライブ
3月15日(土) 18:10の回上映前、大宮浩一監督による舞台挨拶
京都府京都市|京都シネマ
3月16日(日) 10:00の回上映後、宇佐照代さん、大宮浩一監督による舞台挨拶
大阪府大阪市|第七藝術劇場
3月16日(日) 14:40の回上映後、宇佐照代さん、大宮浩一監督による舞台挨拶&宇佐照代さんによるミニライブ
北海道札幌市|シアターキノ
3月29日(土) 時間調整中、宇佐照代さん、大宮浩一監督による舞台挨拶
北海道釧路町|イオンシネマ釧路
3月30日(日) 時間調整中、宇佐照代さん、大宮浩一監督による舞台挨拶
北海道函館市|シネマアイリス
4月12日(土) 時間調整中、宇佐照代さんによる舞台挨拶
逃走 英題:ESCAPE
2025年3月15日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開
劇場情報
わたしが桐島聡です— 偽名で生きた49年間
監督・脚本:足立正生
エグゼクティブプロデューサー:平野悠 統括プロデュ―サー:小林三四郎
アソシエイトプロデュ―サー:加藤梅造 ラインプロデューサー:藤原恵美子
音楽:大友良英
挿入曲:「DANCING古事記」(山下洋輔トリオ)
撮影監督:山崎裕 録音:大竹修二 美術:黒川通利
制作:渡辺美穂 編集:蛭田智子
助監督:鎌田義孝 山嵜晋平 スチール:西垣内牧子
題字:赤松陽構造 キャスティング:新井康太
企画協力:寺脇研
出演:古舘寛治
杉田雷麟 タモト清嵐 吉岡睦雄 松浦祐也 川瀬陽太 足立智充 中村映里子
半世紀に及ぶ逃亡の末に、末期がんで亡くなった、東アジア反日武装戦線「さそり」の元メンバー・桐島聡
1970年代の日本、社会運動が高揚していた。新左翼過激派集団「東アジア反日武装戦線“さそり”」のメンバーだった桐島聡。1974年、東京・丸の内で死者8人、負傷者約380人を出した三菱重工ビル爆破事件を口火に、社会を震撼させた連続企業爆破事件で重要指名手配された。事件に関わったのは東アジア反日武装戦線の「狼」「大地の牙」「さそり」の3グループとされ、その後リーダーなどメンバーが逮捕された中、桐島聡はいつ逮捕されるかわからない緊張感の中、名前をかえ、別人として逃げ続けた。数十年前から“内田洋”という偽名を使い、神奈川県藤沢市の土木工事会社に住み込みで働いていた。日雇い仕事を転々としながらも、1960〜1970年代のブルースやロックを好み、音楽好きが集まる藤沢市内のライブバーにも足を運んでいた。
しかし、かつての仲間たちの存在が常に脳裏にあった。メンバーの獄中闘争、超法規措置により国外に出る仲間たち、自ら命を絶った者。桐島はそうした仲間たちを思いながら、日本社会の欺瞞や凋落を孤独に見つめ続けていた。
そして、逃亡から約49年後の2024年1月25日、病院に担ぎ込まれ末期がんと診断され4日後に死亡。死の間際、担当医師に本名「桐島聡」として死にたいと語った。
病院のベッドで生死の狭間を彷徨い、薄れる意識の中、浮かんでくるのは、東アジア反日武装戦線としての活動、仲間と逃亡を続けていた記憶。彼が生涯を賭けて追い求めたものは何だったのか。半世紀にわたる逃亡生活の果てに、彼は何を得ようとしたのか。足立正生監督が自らの半生と重ね合わせながら、桐島の苦悩と決意を描き出す。
監督の足立は若松孝二監督作品の脚本を量産、大島渚作品にも参加。異色の世界観を多数書き上げてきた。1966年に『堕胎』で監督デビュー。
1974年、パレスチナの前線へ。パレスチナ解放人民戦線のゲリラ隊に加わり、重信房子とともに日本赤軍を創設。27年間、日本を離れ。帰国後、2007年、35年ぶりにメガホンを取り、再び映画監督として活動を再開した。「偽名で生きた内田洋から桐島聡への回帰、そこには多くの謎があり、逃亡生活の終焉と自らの死を予感した“革命への確信”その証は、映画でしか描けない」と始まった本作のプロジェクトは、足立監督が自ら脚本も担当し、すぐにクランクイン、そして超スピードで劇場公開。
主演の桐島聡役には、足立監督が出演を熱望した古舘寛治。名バイプレイヤーとして数々の映画・ドラマに出演し、国内外の監督からの信頼も厚い。本作品では謎の多い桐島を、さまざまな感情を想起させるような奥行きのある演技で魅せる。そして、『半世界』(2019)など話題作への出演が続く杉田雷麟が若い頃の桐島を演じた。また、桐島と恋仲になる女性に中村映里子、桐島と共に逃走する宇賀神寿一にはタモト清嵐、そのほか吉岡睦雄、松浦祐也、川瀬陽太、足立智充など個性的な面々が脇を固める。撮影監督を務めたのは、足立監督と日本大学芸術学部映画学科からの学友であり、是枝裕和監督、五十嵐久美子監督作品や多くのテレビドキュメンタリー、記録映画などのカメラマンとして知られる山崎裕。足立監督とは『断食芸人』以来9年ぶり。
エグゼクティブプロデューサーには、「ライブハウスを創った男」といわれ、1970年代以降の日本ロック史を語るうえで忘れてはならない、ロフトグループの創業者・平野悠。音楽はノイズ的な作品からポップスに至るまで数々の映画・ドラマ音楽を手掛け、海外の映画音楽も手掛ける大友良英。挿入曲には、1969年にバリケード封鎖された早稲田大学構内で行なわれた山下洋輔トリオによる壮絶なフリージャズライブ音源「DANCING古事記」が使われている。
足立正生85歳。時代と向き合い、映画を通して発せられるメッセージ。集まったキャスト・スタッフともに、超・硬派な面々が、一人の男が迎えた最期に対峙する。
企画:足立組
宣伝デザイン:100KG 字幕制作:スタンスカンパニー 英語字幕:桜本有三
【2025年|日本|DCP|5.1ch|114分】 ©「逃走」制作プロジェクト2025
配給・制作:太秦 製作:LOFT CINEMA 太秦 足立組
公式:kirishima-tousou.com
https://kirishima-tousou.com/
★3月15日(土)
池袋シネマ・ロサ
10:15回上映終了後
登壇者:古舘寛治、杉田雷麟、足立正生監督
ユーロスペース
①12:15回上映終了後 ②14:50回上映前
登壇者:古舘寛治、杉田雷麟、足立正生監督
★3月16日(日)
ユーロスペース
10:00回上映終了後
登壇者:タモト清嵐、足立正生監督
横浜シネマリン
14:30回上映終了後
登壇者:タモト清嵐、足立正生監督
劇場情報
わたしが桐島聡です— 偽名で生きた49年間
監督・脚本:足立正生
エグゼクティブプロデューサー:平野悠 統括プロデュ―サー:小林三四郎
アソシエイトプロデュ―サー:加藤梅造 ラインプロデューサー:藤原恵美子
音楽:大友良英
挿入曲:「DANCING古事記」(山下洋輔トリオ)
撮影監督:山崎裕 録音:大竹修二 美術:黒川通利
制作:渡辺美穂 編集:蛭田智子
助監督:鎌田義孝 山嵜晋平 スチール:西垣内牧子
題字:赤松陽構造 キャスティング:新井康太
企画協力:寺脇研
出演:古舘寛治
杉田雷麟 タモト清嵐 吉岡睦雄 松浦祐也 川瀬陽太 足立智充 中村映里子
半世紀に及ぶ逃亡の末に、末期がんで亡くなった、東アジア反日武装戦線「さそり」の元メンバー・桐島聡
1970年代の日本、社会運動が高揚していた。新左翼過激派集団「東アジア反日武装戦線“さそり”」のメンバーだった桐島聡。1974年、東京・丸の内で死者8人、負傷者約380人を出した三菱重工ビル爆破事件を口火に、社会を震撼させた連続企業爆破事件で重要指名手配された。事件に関わったのは東アジア反日武装戦線の「狼」「大地の牙」「さそり」の3グループとされ、その後リーダーなどメンバーが逮捕された中、桐島聡はいつ逮捕されるかわからない緊張感の中、名前をかえ、別人として逃げ続けた。数十年前から“内田洋”という偽名を使い、神奈川県藤沢市の土木工事会社に住み込みで働いていた。日雇い仕事を転々としながらも、1960〜1970年代のブルースやロックを好み、音楽好きが集まる藤沢市内のライブバーにも足を運んでいた。
しかし、かつての仲間たちの存在が常に脳裏にあった。メンバーの獄中闘争、超法規措置により国外に出る仲間たち、自ら命を絶った者。桐島はそうした仲間たちを思いながら、日本社会の欺瞞や凋落を孤独に見つめ続けていた。
そして、逃亡から約49年後の2024年1月25日、病院に担ぎ込まれ末期がんと診断され4日後に死亡。死の間際、担当医師に本名「桐島聡」として死にたいと語った。
病院のベッドで生死の狭間を彷徨い、薄れる意識の中、浮かんでくるのは、東アジア反日武装戦線としての活動、仲間と逃亡を続けていた記憶。彼が生涯を賭けて追い求めたものは何だったのか。半世紀にわたる逃亡生活の果てに、彼は何を得ようとしたのか。足立正生監督が自らの半生と重ね合わせながら、桐島の苦悩と決意を描き出す。
監督の足立は若松孝二監督作品の脚本を量産、大島渚作品にも参加。異色の世界観を多数書き上げてきた。1966年に『堕胎』で監督デビュー。
1974年、パレスチナの前線へ。パレスチナ解放人民戦線のゲリラ隊に加わり、重信房子とともに日本赤軍を創設。27年間、日本を離れ。帰国後、2007年、35年ぶりにメガホンを取り、再び映画監督として活動を再開した。「偽名で生きた内田洋から桐島聡への回帰、そこには多くの謎があり、逃亡生活の終焉と自らの死を予感した“革命への確信”その証は、映画でしか描けない」と始まった本作のプロジェクトは、足立監督が自ら脚本も担当し、すぐにクランクイン、そして超スピードで劇場公開。
主演の桐島聡役には、足立監督が出演を熱望した古舘寛治。名バイプレイヤーとして数々の映画・ドラマに出演し、国内外の監督からの信頼も厚い。本作品では謎の多い桐島を、さまざまな感情を想起させるような奥行きのある演技で魅せる。そして、『半世界』(2019)など話題作への出演が続く杉田雷麟が若い頃の桐島を演じた。また、桐島と恋仲になる女性に中村映里子、桐島と共に逃走する宇賀神寿一にはタモト清嵐、そのほか吉岡睦雄、松浦祐也、川瀬陽太、足立智充など個性的な面々が脇を固める。撮影監督を務めたのは、足立監督と日本大学芸術学部映画学科からの学友であり、是枝裕和監督、五十嵐久美子監督作品や多くのテレビドキュメンタリー、記録映画などのカメラマンとして知られる山崎裕。足立監督とは『断食芸人』以来9年ぶり。
エグゼクティブプロデューサーには、「ライブハウスを創った男」といわれ、1970年代以降の日本ロック史を語るうえで忘れてはならない、ロフトグループの創業者・平野悠。音楽はノイズ的な作品からポップスに至るまで数々の映画・ドラマ音楽を手掛け、海外の映画音楽も手掛ける大友良英。挿入曲には、1969年にバリケード封鎖された早稲田大学構内で行なわれた山下洋輔トリオによる壮絶なフリージャズライブ音源「DANCING古事記」が使われている。
足立正生85歳。時代と向き合い、映画を通して発せられるメッセージ。集まったキャスト・スタッフともに、超・硬派な面々が、一人の男が迎えた最期に対峙する。
企画:足立組
宣伝デザイン:100KG 字幕制作:スタンスカンパニー 英語字幕:桜本有三
【2025年|日本|DCP|5.1ch|114分】 ©「逃走」制作プロジェクト2025
配給・制作:太秦 製作:LOFT CINEMA 太秦 足立組
公式:kirishima-tousou.com
https://kirishima-tousou.com/
★3月15日(土)
池袋シネマ・ロサ
10:15回上映終了後
登壇者:古舘寛治、杉田雷麟、足立正生監督
ユーロスペース
①12:15回上映終了後 ②14:50回上映前
登壇者:古舘寛治、杉田雷麟、足立正生監督
★3月16日(日)
ユーロスペース
10:00回上映終了後
登壇者:タモト清嵐、足立正生監督
横浜シネマリン
14:30回上映終了後
登壇者:タモト清嵐、足立正生監督
Four Daughtersフォー・ドーターズ 原題:Les Filles d'Olfa

(C)2023, TANIT FILMS, CINETELEFILMS, TWENTY TWENTY VISION, RED SEA FILM FESTIVAL FOUNDATION, ZDF, JOUR2FETE
監督・脚本:カウテール・ベン・ハニア (『皮膚を売った男』)
撮影:ファルーク・ラリード
美術:ベッサム・マルズーク
編集:ジャン=クリストフ・ハイム、クタイバ・バルハムジ、カウテール・ベン・ハニア
音楽:アミン・ブハファ
出演:ヘンド・サブリ(『ヤコビアン・ビルディング』『ある歌い女(うたいめ)の思い出』『ヌーラの夢』)、オルファ・ハムルーニ、エヤ・シカウイ、テイシール・シカウ
イ、ヌール・カルイ、イシュラク・マタル、マージ・マストゥーラ
4姉妹の長女と次女は、なぜ15歳と16歳という若さで過激派組織IS(イスラム国)に参加する決断をしたのか?
チュニジアに住む母オルファと4人の娘たちの衝撃的な実話。
かつて仲の良かった家族は、長女ゴフランと次女ラフマがリビアでイスラム過激派組織に加わり、突如として引き裂かれてしまう。
監督のカウテール・ベン・ハニアは、行方知れずとなった2人の娘たちの姿を、プロの女優たちを起用して再現。彼女たちが過激思想に傾倒していった経緯を、丁寧に掘り下げていく。母オルファも撮影に参加するが、あまりにも辛い場面では、代わりにベテラン女優のヘンド・サブリが演じている。現在も母と暮らす3女エヤと4女テイシールは、自ら撮影に参加。カメラの前で家族の重要な出来事を再現することで、自分たちの物語を自分たちの言葉で語り直していく・・・。
いなくなった娘二人を演じる女優たちを前に涙するオルファ。そのオルファの初夜が再現されるのですが、夫を寄せつけず、夫を殴って出した血をシーツにつけて、それを処女の印としてオルファの姉が皆に見せたというのです。その後も夫と寝たのはお金が欲しい時と、子を授かりたい時だけ。そうして4人の娘を産み、さらにベン・アリ大統領が去って、自分も革命を起こし夫に別れを告げたというのですから、実にあっぱれ。そんな豪傑なオルファも、やはり母親。娘たちがイスラム過激派組織の男と結婚し、一緒にテロを起こしたことで、リビアで禁固16年の刑を受けていることに対し、チュニジアへの送還を求め続けています。
それにしても、ラフマとゴフランは、なぜイスラム過激派組織に惹かれたのでしょう?
ラフマは高校生の時、悪魔崇拝をしていて、日記には男子とキスしたことも書かれていました。ゴフランは男の子のバイクに乗る為に髪の毛を短くしていたのです。オルファがリビアに出稼ぎに行って留守の時のことでした。
そして、2013年、説教師たちが女性にヒジャーブを薦めるのを聞いて、二人はヒジャーブを気に入って、顔も隠すようになりました。
実は、ベン・アリ大統領の時代は、顔を隠すニカブどころか、スカーフも禁じられていて、スカーフを被ることが反体制の印だったと、本作を見て知りました。イラン・イスラム共和国政府が、ヘジャーブ(ペルシア語発音)を強制しているのと逆。何事も強制するのでなく、スカーフを被るのも被らないのも、個人の自由意志に任せてほしいというのが、皆の思いでしょう。
と言ってしまえば、自らヒジャーブ姿になり、イスラム過激派組織に参加した女性のことをとやかく言うことはできませんが、ヨーロッパ各国にもイスラム過激派組織の妻となった女性は多くいて、帰国したくても帰れない状況もあると思うと複雑です。親の気持ちを考えると悲しくもなります。
カウテール・ベン・ハニア監督が、再現も交えて作り上げたドキュメンタリーから、思春期の繊細な感情を持つ娘たちが、親からの軋轢や、社会の影響を受けながら、自分なりに大人になっていく姿を感じました。それが残念な結果を招いているとしても。
2023年のイスラーム映画祭8で上映されたハニア監督の『マリアムと犬ども』は、“アラブの春”と呼ばれたチュニジア革命後の2012年に実際に起きた警察官による性暴行事件をモチーフにした作品でした。イスラム主義政党はじめ様々な政治勢力が乱立する民衆革命後の混乱期に起きた事件ですが、監督は日本を含む世界に共通の問題として描いたとのこと。それは、『Four Daughtersフォー・ドーターズ』も同様だと感じます。(咲)

東京国際映画祭『皮膚を売った男』TIFFトークサロン カウテール・ベン・ハニア監督Q&A
第76回カンヌ国際映画祭 最優秀ドキュメンタリー賞 受賞
第96回アカデミー賞 最優秀ドキュメンタリー賞 ノミネート
第39回インディペンデント・スピリット賞 最優秀ドキュメンタリー賞 受賞
第49回 セザール賞 最優秀ドキュメンタリー賞 受賞
2023年/フランス、チュニジア、ドイツ、サウジアラビア /アラビア語/ 107分/1.85 : 1 /カラー
日本語字幕:橋本裕充 字幕監修:鷹木恵子
配給:イーニッド・フィルム
公式サイト:https://enidfilms.jp/fourdaughters
★2025年3月14日(金) 新宿シネマカリテ 他 全国順次公開
ドマーニ! 愛のことづて 原題:C'è ancora domani
監督:パオラ・コルテッレージ
出演:パオラ・コルテッレージ、ヴァレリオ・マスタンドレア、ジョルジョ・コランジェリ、ヴィニーチオ・マルキオーニ
戦後で荒廃したローマで逞しく生きる市民たちと権利を渇望する女性たち
1946年5月、戦後まもないローマ。デリア(パオラ・コルテッレージ)は家族と一緒に半地下の家で暮らしている。夫イヴァーノはことあるごとにデリアに手を上げ、意地悪な義父オットリーノは寝たきりで介護しなければならない。夫の暴力に悩みながらも家事をこなし、いくつもの仕事を掛け持ちして家計を助けている。多忙で過酷な生活ではあるが、市場で青果店を営む友人のマリーザや、デリアに好意を寄せる自動車工のニーノと過ごす時間が唯一の心休まるとき。母の生き方に不満を感じている長女マルチェッラは裕福な家の息子ジュリオからプロポーズされ、彼の家族を貧しい我が家に招いて昼食会を開くことになる。そんなデリアのもとに1通の謎めいた手紙が届き、彼女は「まだ明日がある」と新たな旅立ちを決意する・・・
『ジョルダーニ家の人々』 (10)や『これが私の人生設計』 (14)などシリアスドラマから大衆的なコメディまで幅広いジャンルの映画に出演し、イタリアの国民的コメディエンヌ兼女優として活躍するパオラ・コルテッレージが、本作でついに映画監督デビュー。 愛する娘の将来と夫の暴力に悩む主婦・デリアをパオラ・コルテッレージ自身が演じています。
夫イヴァーノが朝起きるなり妻デリアを殴る姿に、まずびっくり。美しい長女のマルチェッラは、中学に行きたかったのに、「専門学校で手に職つけさせた」と父親。裕福な家の息子ジュリオからプロポーズされ、幸せいっぱいだったのですが、結婚したら働くのを許さないという本音を聞いて、ちょっとがっかりします。戦後間もない1946年といえば、日本も同じような家父長的な社会でしたね。
そして、敗戦したイタリアには、米軍が進駐しているのも日本と同じ。黒人兵の家族の写真をデリアが拾ってあげたお礼にチョコレートを2枚貰います。(私の母も、戦後、神戸の居留地近くで働いていて、お使いに行った先のアメリカ人からチョコレートを2枚貰ったと言っていたのを思い出しました)
デリアは、帰り道に自動車工のニーノのところに寄って、二人でチョコレートを食べます。「一瞬の隙にヤツに君を奪われた」とニノは語っていて、今もデリアに気がありそう。そんなニノも、もうすぐ町を離れると言います。そんな時に届いた1通の手紙・・・ いつもツギハギのブラウスを着ているデリアが、新しいブラウスを縫って、手紙と一緒にバッグにしまいます。そして、日曜日・・・
このあと、驚きのラスト!
もう、ほんとに驚きました。 ぜひ劇場で確かめてください。
男性優位の社会の中で、女性たちが自分の権利を求めようとする姿をユーモアも交えて見事に描いた1作です。(咲)
2023年/イタリア/118分
日本語字幕:岡本太郎
特別協力:イタリア文化会館
配給:スモモ
公式サイト:https://www.sumomo-inc.com/domani/
★2025年3月14日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国順次公開
2025年03月08日
私たちは天国には行けないけど、愛することはできる 原題:우리는 천국에 갈 순 없지만 사랑은 할 수 있겠지 英題:NO HEAVEN, BUT LOVE
監督:ハン・ジェイ
出演:パク・スヨン(『はちどり』)、イ・ユミ(「イカゲーム」)、シン・ギファン、キム・ヒョンモク
1999年、世紀末の初恋。
何もかもが容易ではなかったあの時代、どんな夏より熱い少女たちの愛と友情の物語
高校のテコンドー部に所属する少女ジュヨンは、国家代表を目指して練習に励む日々。終わるのを待ち構えていた男友だちのミヌとハンバーガー屋へ。バイトの女の子イェジに告白のメモを渡してほしいと頼まれ、そっとメモを渡すジュヨン。ある日、家へ帰る途中、ジェヨンはテコンドー部の先輩たちから暴行を受ける。 そこへイェジが、店の景品のおもちゃのパトカーのサイレンを鳴らしながらやってきて助けてくれる。偶然か必然か、ジュヨンとイェジは、 ジュヨンの母親が担当する少年院の家庭体験プロジェクトで一緒に暮らすことになる。
国家代表をかけての試合で、コーチから負けろと言われ、ジェヨンはテコンドーをやめる。
母親の提案で、ジュヨンとイェジは、ミヌや友達のソンヒも交えて益山(イクサン)に遊びに行く。「あなたが好きみたい」と告白するジュヨンに、イェジはそっとキスをする。夢のような時間。しかし、ある夜、二人が抱き合って寝ているのを見たジェヨンの母は、体験プログラムから降り、二人を引き離そうとする。お互い好きだという気持ちを大事にしたいだけなのに・・・。一方、国家代表を目指して頑張っていたソンヒがコーチにいたずらされているのを目撃したジェヨンは、警察に通報する・・・
1999年は、ノストラダムスの予言した地球終末論があちこちで聞かれた不安の時代。
階級差別や性差別がまだまだ色濃く残り、男のコーチにもなかなか逆らえない時代でした。理不尽な思いを封印せずに、果敢に闘うジェヨンの姿が眩しいです。
イェジがなぜ少年院に入ることになったのか・・・ 旅に出た益山で、その秘密が少し明かされます。イェジの母親のことも。
ジェヨンは、いつも一緒にいる男友達のミヌには、全然ときめかないのに、ちょっとミステリアスなイェジに恋してしまいます。淡い初恋。紫雨林(ジャウリム)の「恋人発見!!!」、神話(SHINHWA)の「ウッシャ・ウッシャ」、コ・ホギョンの「初めてだったの」など、 映画に出てくる曲の歌詞が、ジェヨンとイェジの気持ちにぴったり。
監督は、1999年の雰囲気を出すのに、ジュヨンの家とソンヒの家の室内の木の装飾を赤茶色に塗り直したとのこと。入手するのに一番苦労した小道具は、テコンドー大会のシーンで使用したヘッドギア。競技用のマットも当時の物を探してきたそうです。こだわりをぜひご覧ください。(咲)
2024年/韓国/112分/ビスタ/DCP5.1ch
字幕翻訳:石井絹香
配給:クロックワークス
公式サイト https://klockworx.com/movies/heaven/
★2025年3月14日 (金.) シネマート新宿ほか全国ロードショー
スイート・イースト 不思議の国のリリアン 原題: Sweet East
監督・撮影:ショーン・プライス・ウィリアムズ
脚本:ニック・ピンカートン
製作:クレイグ・ブッタ、アレックス・ココ、アレックス・ロス・ペリー
編集:ステファン・グレヴィッツ
プロダクション・デザイン:マデリン・サドウスキー
オリジナル音楽:ポール・グリムスタッド
サウンドデザイン:ディーン・ハーリー
出演:タリア・ライダー、サイモン・レックス、ジェイコブ・エロルディ、アール・ケイヴ
サウスカロライナ州の高校3年生リリアンは、彼氏のトロイ、親友のテッサ、何かとトロイにちょっかいを出してくるアナベルたち同級生と、修学旅行でワシントンD.C.を訪れている。夜、皆で抜け出して行ったカラオケバーで、はしゃぐクラスメイトたち。リリアンは乗り切れず、トイレの鏡の前で、ひとり物憂げに歌う。そんな折、陰謀論に憑りつかれた若い男が銃を乱射。リリアンは、ド派手なパンク・ファッションのケイレブに導かれ、トイレの大きな鏡の裏にある“秘密の扉”から地下通路へ・・・。
ここから始まるリリアンのあてどもない危うい旅。
チャームシティ(ボルティモア)で出会った大学教授ローレンスに、アナベルと名乗るリリアン。ローレンスと出かけたニューヨークのホテルから抜け出したリリアンは、映画と作っているという黒人のマシューとモリーに主演に抜擢される。撮影現場に現れたローレンスの仲間。映画の衣装のまま抜け出したリリアンは、車で拾われてバーモント州へ。人里離れたところで聞こえてくるアザーン。イスラーム教徒の男たちだった。そこからも抜け出し、気がつくと、ベツレヘムのミルク・グロット教会に何年もいたという男に助けられていた・・・
リリアンが出会う不思議世界にくらくら。
数多くの作品の撮影監督を務めてきたショーン・プライス・ウィリアムズの長編監督デビュー作。経歴の中に、かつてニューヨークにあった韓国移民のキム・ヨンマンが経営するビデオ・レンタル店Kim’s Video の店員だったとあり、興味津々。
2023年の山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映された『キムズ・ビデオ』(監督:デイヴィッド・レッドモン、アシュレイ・セイビン、アメリカ/2022年)で、貴重な映画のビデオが揃っていたことが語られていて、そこで店員をしていたとなれば、かなりレアな作品にも接していたはず。「クビになっても出勤し続け、働くことをやめず、最終的には強制的につまみ出された」そうで、ウィリアムズ監督が、いかに変わった人物であるか想像してしまいます。
「不思議の国のリリアン」と邦題に付されている通り、まさに予測不能なワンダーランド。アメリカ人、もしくはアメリカに詳しい人であれば、映画に出てくる様々なアイテムの意味がわかるのではないでしょうか。映画鑑賞後に、ぜひ公式サイトの「ひみつのとびら」を開けてみてください。(咲)
2023年/アメリカ/英語/104分/16:9/ビスタ/5.1ch/R15+
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム
公式サイト:https://sweet-east.jp/
★2025年3月14日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国公開
2025年03月06日
35年目のラブレター
監督・脚本:塚本連平
撮影:清久素延
音楽:岩代太郎
出演:笑福亭鶴瓶(西畑保)、原田知世(西畑皎子)、重岡大毅(若き日の保)、上白石萌音(若き日の皎子)、安田剣顕(谷山学)、笹野高史(逸美)、徳永えり(浩美)、ぎぃ子(美紀)、辻本祐樹(信介)、本多力(一秀)、江口のりこ(佐和子)、くわばたりえ(光江)
西畑保は貧しい家に生まれて子供の頃から労働力を期待され、学校へ通えずに大人になった。辛い思いもしたが、皎子(きょうこ)と出会い、幸せな結婚生活を続けてきた。読み書きができないことを愛妻にはどうしても打ち明けられない。ついにばれてしまい身の縮む思いの保に、皎子は「私があなたの手になる」と言う。定年退職を機に保は夜間中学に通い始めた。一字ずつ文字を覚え、いつか必ず妻へラブレターを渡したい。その一心で通学して5年。手紙はあともうすこしというときに、皎子は病気になってしまった。
若き日、熟年、二組の夫婦のキャスティングがよくて、仲の良さ、どんなときも支えあう睦まじさに胸がじーんとしました。もっと早く打ち明ければいいのに、とか、勉強するならもっと早くに、とか思ってしまいますが、思い通りにならないのが人生。あれこれあったこその「今」なのです。熱心な先生たち、いろいろ事情をかかえた同級生に囲まれて、保は一歩一歩進むことができました。いくつになっても、学ぶことができる、新しいことに挑戦できる、となんだか元気になります。実話なので、本当にこういうご夫婦がいらしたんです。笑福亭鶴瓶さん、役柄にぴったりですが『あまろっく』では中条あやみさん、今作では原田知世さんが奥様役とは!
☆夜間中学には義務教育を終了できなかった方ーー戦後の混乱期に育った方、不登校や病気などで通学できなかった方、外国籍の方ーーなど年齢も理由も様々な方々が入学し、学んでいます(政府広報はこちら)。つい最近の夜ドラマ『宙わたる教室』もヒットでしたね。山田洋次監督『学校』も夜間中学が舞台で、西田敏行さんが教師役でした。1993年~2000年に4作作られています。(白)
2025年/日本/カラー/120分
配給:東映
(C)2025「35年目のラブレター」製作委員会
https://35th-loveletter.com/
★2025年3月7日(金)ほか全国ロードショー
いきもののきろく
監督・脚本:井上淳一
原案:永瀬正敏
撮影:鍋島淳裕
美術:永澤こうじ
主題歌:PANTA「時代はサーカスの象にのって」
出演:永瀬正敏、ミズモトカナコ
人の気配のない工場の並ぶ運河。男がよどんだ水に浮かぶゴミを拾っている。いくらかたまると廃工場にひきずっていく。うずたかく積まれたがらくたで男は筏を作る。女が男の様子を見ていて寄ってくる。「あたしのも作って」男は取り合わない。隅っこにあるねぐらにもやってくる女を邪険に追い払うが、寄る辺ない女は少し離れたところに居ついてしまった。
日本中が一変してしまった東日本大震災。その影響がまだ色濃く残っていたころ、人の当たり前の暮らしがなくなってしまった街に男と女が一人。男は家族をなくし、看護士だった女は患者をなくしました。あったはずの欠片を探して男は筏を作り、女はすがるようについて行きます。これは創世記か、アダムとイブなのか?
水面を進む筏を、運河の堤から人々がじっと見つめています。いろいろな生活の道具といっしょに流されてしまった人たちかもしれません。理不尽にも彼岸へ送られる人が絶えない今、いつでも、どこに住む人が観ても無関係だとは思えないでしょう。
シネマスコーレ支配人の木全純治さんが名古屋の中川運河を舞台に企画、プロデュース。ちょうど井上監督とシネマスコーレを訪れていた永瀬正敏さんに監督を、と打診があったそうです。それはできないが出演はします、井上監督でとの回答。被災地を訪ねたことが深く刻まれていた永瀬さんが一気に書き上げたプロットからこの作品が生まれました。(白)
2014年/日本/カラー/47分
配給:ドッグシュガー
http://www.dogsugar.co.jp/ikimononokiroku/
★2025年3月7日(金)テアトル新宿ほか全国順次ロードショー
2025年03月02日
ケナは韓国が嫌いで 原題:한국이 싫어서 英題:Because I Hate Korea
監督・脚本:チャン・ゴンジェ(『ひと夏のファンタジア』)
原作:「韓国が嫌いで」(チャン・ガンミョン著)
出演:コ・アソン(『グエムル-漢江の怪物-』)、チュ・ジョンヒョク(「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」)、キム・ウギョム、イ・サンヒ、オ・ミンエ、パク・スンヒョン
ソウル郊外の小さな団地で両親と妹と共に暮らす28歳のケナ。大学を卒業後、金融会社に就職したが、仕事には興味が持てず、毎日片道2時間かけての通勤にうんざりしている。大学時代から長く付き合っている恋人のジミョンは、外国に行きたいと口にするケナに「自分が就職したら支える」と言うが、ピントのずれた話をしがちなジミョンにケナは苛立つ。ケナの母は裕福な家庭で育ったジミョンとの結婚を待ち望み、さらに老朽化が進み再発が決まっている団地から引っ越すための部屋の購入費用もケナに出してほしいと迫る。
「自分には落ち度がないはずなのに、ここでは幸せになれない!」と、ケナは、韓国を抜け出しニュージーランドに移り住む決意をする・・・
今の暮らしにうんざりと思っても、会社を辞めて、外国に移住するという決意をするのは容易なことではありません。なおかつ、ケナには、一緒にいたい、支えてあげるというけなげな彼までいるのに・・・です。 それを振り切って、自分の夢を叶えようとするケナ。素敵です。 ニュージーランドで大学院に通い、会計士の資格を取得します。韓国に帰ると、恋人ジミョンは無事大学を卒業し、記者になる夢を叶えていました。さて、ケナはその後、どうする? ジミョンと結婚する選択肢もありますが、ニュージーランドの永住権を取得したいという夢もあるようです。
自分で未来を切り開いていくケナがとても素敵でしたが、本作には、韓国の男性たちの苦労するリアルな姿も描かれています。
ケナと同い年の男子で、公務員になるべく何年も勉強を続けてキョンユン。
ニュージーランドの大学院で出会った韓国から来ている男子ジェインは、一見、いい加減な雰囲気ですが、会計士には向かないと見切りをつけて料理人として自立を目指します。
自分の将来をどうすればいいのか迷っている若い人たちに、ぜひご覧いただきたい一作。(咲)
★原作「韓国が嫌いで」の著者チャン・ガンミョンは、元新聞記者で、社会批評からSFまで幅広い作品で知られています。国家情報院の世論操作事件を題材にした小説「コメント部隊」も映画化され、この2月14日より公開されています。映画『コメント部隊』。
2024年/韓国/韓国語・英語/107分/カラー
日本語字幕:本田恵子
配給:アニモプロデュース
公式サイト:https://animoproduce.co.jp/bihk/
★2025年3月7日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、シネ・リーブル池袋ほか全国公開
Playground/校庭 原題: Un Monde 英題:Playground
監督・脚本:ローラ・ワンデル(長編デビュー)
出演:マヤ・ヴァンダービーク、ガンター・デュレ、カリム・ルクルー(『またヴィンセントは襲われる』(24))、 ローラ・ファーリンデン(『ハッピーエンド』(18))
7歳の少女ノラ。小学校に入学する日、友だちがひとりもいないノラにとって、3つ年上の兄アベルが頼りだ。兄に抱きついて泣きじゃくるノラは、父にうながされてようやく学校に入る。昼休み、兄のもとに行くが、邪険にされる。ようやく同じクラスの女の子たちと仲良くなるが、ある日、兄が大柄なガキ大将にいじめられているのを見てショックを受ける。大好きな兄を助けたいと思うが、アベルは「誰にも言うな」「関わるな」という。それでも兄が心配なノラは父に告げる・・・。
校庭でくったくなく遊んでいる子どもたち・・・と思いきや、裏では陰湿ないじめが起こっているのは、どこの国でもあることなのでしょう。
お誕生日会に、全員を呼ぶといいながら、仲間外れにするということもありがち。
さらに、ノラの場合は、父親が学校に送り迎えしていることを、同級生たちに、「お父さんは失業者。働かないで家でお金を待ってる人」とまで言われてしまいます。
「サッカーをやる人は差別主義。自分のことしか考えない」とか、子どもたちは、大人たちが話している言葉から自然に偏見を身に着けてしまうものなのか・・・と、ちょっと悲しくなりました。
学校には、アイシャやスレイマンなどイスラーム系の名前の子どももいて、ベルギーにも移民が多いことを感じさせてくれました。学校は、どんな民族や宗教の子どもたちとも共生することを学ぶ場であってほしいと願います。(咲)
ローラ・ワンデル(監督・脚本)
1984 年ベルギー生まれ。ベルギーの視聴覚芸術院(IAD)で映画製作を学ぶ。在学中に短編映像『Murs (原題)』 (07) を制作。その後、初の短編映画 『O négati (原題)』(10)を製作した後、2014年に監督した短編映画『Les corps étrangers (原題)』ではカンヌ国際映画祭の短編コンペティション部門に選出された。本作で初の長編映画デビューを飾り、第74回 カンヌ国際映画祭ある視点部門に出品され、国際批評家連盟賞受賞。また、第94回アカデミー賞国際長編映画賞ショートリストにまで選出され、世界中の映画祭を席巻しセンセーショナルなデビューを飾った。最新作である『In Adam‘s Interest』(25年撮影開始予定)では、ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ製作のもと、レア・ドリュッケール(『CLOSE クロース』(23))、アナマリア・ヴァルトロメイ(『あのこと』(22))をキャストに迎え、小児科病棟で働く看護師と、ある母子が直面する困難を描くドラマ作品を手がける。(公式サイトより)
2021年/ベルギー/フランス語/72分/ビスタ/5.1ch
日本語字幕:岩辺いずみ
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム
後援:駐日ベルギー大使館
公式サイト:https://playground-movie.com/
★2025年3月7日(金) 新宿シネマカリテ、シネスイッチ銀座ほか全国公開.
白夜 4Kレストア版 原題:Quatre Nuits d'un rêveur
監督・脚本:ロベール・ブレッソン
原作:ドストエフスキー
撮影:ピエール・ロム
録音:ロジェ・ルテリエ
美術:ピエール・シャルボニエ
編集:レイモン・ラミ
出演:ギヨーム・デ・フォレ、イザベル・ヴェンガルテン、ジャン=モーリス・モノワイエ
ポンヌフの宵闇に心を通わせるジャックとマルト。恋と愛にうつろう四夜の物語。
画家のジャックは、ある夜、ポンヌフで思い詰めた表情をしている美しい女性マルトに出会う。翌晩、お互いの素性を語り合うジャックとマルト。ジャックは孤独な青年で、理想の女性との出会いを夢見ていた。一方のマルトは恋した相手に「結婚できる身分になったら一年後に会おう」と去られていた。そして今日がちょうどその一年後。マルトに熱い気持ちを抱きながらも、彼と出会えるよう献身するジャック。だが三夜目になっても男は現れず、マルトの心もジャックに惹かれ始めていた。そして運命の第四夜……。
★近年ではフランスでさえ上映不可能だった幻の逸品の4Kレストア版
原作はドストエフスキーの短篇。舞台をパリにして描いた恋の物語。
パリのセーヌ川に架かる橋、ポンヌフ(新しい橋)で飛び降り自殺しそうな女性マルトを引き留めたジャック。 思いつめて泣いていたのは、1年後にポンヌフで会おうと約束していた男性が現れないから。
母と二人暮らしのマルトは、厳しい母から逃げたくて、下宿人の男性に恋をしたのですが、彼は奨学金をもらって遠くの地の大学へ。(恋した理由が安易だ!)
出会ったジャックに、「下宿人になって」とまで言って、惚れた模様。
一方のジャックも女性に惚れやすくて、マルトに恋に落ちます。
恋は、タイミングだなぁ~とつくづく。 そして、まさかの第4夜・・・
あ~切ない。(咲)
1971年/フランス・イタリア合作/フランス語/カラー/83分/1.66:1 /モノラル/DCP
日本語字幕:寺尾次郎
配給:エタンチェ、ユーロスペース
公式サイト:https://www.motoei.com/post_future/
★2025年3月7日(金)ユーロスペース、角川シネマ有楽町ほか全国公開
Underground アンダーグラウンド
監督:小田香(『鉱 ARAGANE』『セノーテ』)
出演:吉開菜央、松永光雄、松尾英雅
鬼才タル・ベーラの愛弟子、小田香が描き出す、
ドキュメンタリーを遥かに超えた異形の空間
地下の暗闇から、蠢く怪物のように「シャドウ(影)」が姿を現す。シャドウ(影)はある女の姿を借りて、時代も場所も超えて旅を始める。地下鉄が走る音を聞き、戦争で多くの人々が命を失ったほら穴の中で死者達の声に耳を澄ませる。そんな道行きの中、シャドウ(影)は、かつてそこで起きたことをトレースしていくようになり、湖の底に沈んだ街に向かう・・・
『鉱 ARAGANE』では、ボスニア・ヘルツェゴビナの炭鉱を、『セノーテ』では、メキシコ、ユカタン半島北部の洞窟内の泉と、異形の地下世界をとぎすまされたような映像で静かに映し出した小田香監督。
本作、『Underground アンダーグラウンド』では、日本の地下世界を題材にしているのですが、これまでと違って、地上世界にもカメラを向け、雄弁に語る人物も登場させています。それは、土地に宿る歴史と記憶を辿る試み。
中でも、沖縄の語り部、松永光雄さんの語る言葉が胸に迫ります。沖縄戦で亡くなられた方たちの遺骨収集もされている松永さん。二つのガマに潜んでいた人たちの運命が大きく違ったこと。集団自決で多くの人が亡くなったガマでは、泣く子を黙らせろと日本兵が銃を向けました。一方、ハワイ移民から帰り英語ができた人がいたガマでは、米軍と話すことができたお陰で全員が助かりました。これは、これまでにも聞いたことのある話ですが、あらためて記憶に留めておきたいことだと思いました。(咲)
2024年/日本/83分/カラー/5.1ch
製作:トリクスタ
共同製作:シネ・ヌーヴォ、ユーロスペース、ナゴヤキネマ・ノイ、札幌文化芸術交流センターSCARTS、豊中市立文化芸術センター
配給:ユーロスペース+スリーピン
公式サイト:https://underground-film.com/
★2025年3月1日(土)ユーロスペースほか全国順次公開
名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN
監督:ジェームズ・マンゴールド
(『ウォーク・ザ・ライン 君につづく道』『フォードvsフェラーリ』)
脚本:ジェームズ・マンゴールド、ジェイ・コックス
撮影:フェドン・パパマイケル
出演:ティモシー・シャラメ(ボブ・ディラン)、 エドワード・ノートン(ピート・シーガ―)、エル・ファニング(シルヴィ・ロッソ)、モニカ・バルバロ(ジョーン・バエズ)
1961年、ミネソタから19歳の若者がギターを携えてニューヨークにやってくる。まだ無名だったボブ・ディランは、音楽界のアイコンと関係を築きながら、彼の急成長は世界中に反響を呼んだ。フォーク・シンガーとしてコンサートホールやチャートの寵児となり、彼の歌と神秘性が世界的なセンセーションを巻き起こした。1965年のニューポート・フォーク・フェスティバルでは、画期的なエレクトリック・ロックンロール・パフォーマンスを見せ、人気実力ともに頂点を極める。
2016年にノーベル文学賞を受賞したボブ・ディラン。
唯一無二の才能でオリジナルの楽曲を次々と製作、世界中のファンを魅了し続けて、今にいたっています。映画では駆け出しの初々しい姿から、トップに上りつめる半生を『君の名前で僕を呼んで』のティモシー・シャラメが歌の吹き替えなし、えっ!!と驚くような歌唱力を発揮して演じました。これはピート・シーガ―役エドワード・ノートンやジョーン・バエズ役モニカ・バルバロら他のシンガー役の俳優たちも同様で、天は二物を与えたようです。映画製作がスタートしてからコロナ禍に見舞われましたが、その間に歌や楽器の特訓ができて良い方に作用しました。音響の良い劇場で、彼らの唄声やより臨場感あるライブシーンを楽しむのをおすすめします。
公開にさきがけて来日したティモシー・シャラメの映像が公式サイトで観られます。髭はないほうがいいんだけど。容姿に恵まれたうえに努力を重ねて、20代でアカデミー賞主演男優賞に2度のノミネートを果たしています。結果が楽しみですね。(白)
2024年/アメリカ/カラー/140分
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(C)2024 Searchlight Pictures.
https://www.searchlightpictures.jp/movies/acompleteunknown
★2025年2月28日(金)より大ヒット上映中