2025年02月16日
ノー・アザー・ランド 故郷は他にない 英題:No Other Land
監督:バゼル・エイドラ、ユーバール・アブラハム、ハムダーン・バラール、ラケル・ゾール
ヨルダン川西岸地区のマサーフェル・ヤッタで生まれ育ったパレスチナ人の青年バーセルは、イスラエル軍の占領が進み、村人たちの家々が壊されていく故郷の様子を幼い頃からカメラに記録し、世界に発信していた。そんな彼のもとにイスラエル人ジャーナリスト、ユヴァルが訪れる。非人道的で暴力的な自国政府の行いに心を痛めていた彼は、バーセルの活動に協力しようと、危険を冒してこの村にやってきたのだった。
同じ想いで行動を共にし、少しずつ互いの境遇や気持ちを語り合ううちに、同じ年齢である2人の間には思いがけず友情が芽生えていく。しかしその間にも、軍の破壊行為は過激さを増し、彼らがカメラに収める映像にも、徐々に痛ましい犠牲者の姿が増えていく・・・
容赦なくイスラエル軍に取り壊されるパレスチナ人の家や学校・・・ 先祖代々、農作業しながら暮らしてきた「故郷」が、奪われていくのをただただ見ているしかない虚しさが、ずっしりと伝わってきます。
ヨルダン川西岸地区で、パレスチナ人の土地を軍事的に占領するための手段として、約2割の土地を、イスラエルは「軍事射撃区域」として指定したとのこと。それは、イスラエル人入植者のために確保された土地でもあるという国家機密文書が暴露されているそうです。入植者によるパレスチナ人への暴力も後を絶ちません。パレスチナ人が告訴しても、大半が不起訴で処理される理不尽。
本作は、マサーフェル・ヤッタでの出来事を2023年10月までの4年間に渡り記録したドキュメンタリー。つまり、2023年10月7日に始まったガザでの大規模の武力衝突の前の出来事。あれ以降、ガザのことばかりが大きく報道されていますが、ヨルダン川西岸でも、ずっとイスラエルによるパレスチナ人の人権蹂躙が続いていることを忘れてはならないことを突き付けられます。
監督は、パレスチナ人二人(バゼルとハムダーン)と、ユダヤ人二人(ユーバールとラケル)。
私から見て、誰がパレスチナ人かユダヤ人か区別はつきません。
これまでにも、『プロミス』(2002年)、『壊された5つのカメラ-パレスチナ・ビリンの叫び』(2012年)で、パレスチナ人とユダヤ人が共同監督を務めた映画の監督を取材したことがあります。
国家が対立していても、民族や宗教の違いを越えて歩み寄ろうとする人たちがわずかでもいる限り、いつか分かち合える日が来ると信じたいです。(咲)
ベルリン映画祭最優秀ドキュメンタリー賞&観客賞W受賞
2024年/ノルウェー・パレスチナ/95分
配給:トランスフォーマー
公式サイト:https://transformer.co.jp/m/nootherland/
★2025年2月21日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、シネ・リーブル池袋ほか全国公開
2025年02月15日
ジェイラー 原題:Jailer
監督・脚本:ネルソン・ディリープクマール
音楽:アニルド
出演:ラジニカーント、シヴァラージクマール、モーハンラール、ジャッキー・シュロフ
タマンナー、ラムヤ・クリシュナ、ヴィナーヤガン、スニール、ヨーギ・バーブほか
“スーパースター”ラジニカーントのデビュー以来の第 169 作目!
日本での3年ぶりの劇場公開!
元警察官のムトゥ・パンディヤンは、70歳を過ぎ、妻、息子、その妻、6歳になる孫息子とともに、チェンナイで静かな日々をおくっている。一人息子のアルジュンは、ムトゥに影響されて警察官となり、正義感の強さは人一倍。アルジュンをムトゥは誇りにしていた。そんなある日、骨董品密売事件を追っていたアルジュンが行方不明になり、組織に消されたのではないかと告げられる。妻からは、「あなたが警官にしたから」と責められる。「息子を殺した者を殺しにいく!」といきり立つムトゥ。ヴァルマという男が牛耳る美術品マフィアに戦いを挑む。今は一民間人だが、かつて北インドの巨大監獄の看守(ジェイラー)として、荒くれたちを腕力と知力でコントロールしていた時代に培った人脈が、彼を助ける・・・。

(C)SUN Pictures
冒頭、すっきりスマートな好々爺が、6歳の孫息子に動画作りを手伝わされたり、買い物を頼まれたりと振り回されていて、え? これがあの『ムトゥ 踊るマハラジャ』(1995年)のラジニカーント? と驚かされました。
息子が殺されたと知り、復讐心に燃えるムトゥ。看守時代に“タイガー”の名で囚人たちに怖れられたムトゥが蘇ります。「tiger ka hukum(タイガーの命令!)」と、ヒンディー語で叫ぶと、かつての盟友たちが駆け付けて助けます。(ヒンディー語なのは、北インドの刑務所だったからですね・・・)
やがて、殺されたと思っていた息子アルジュンが、組織の人質になっていることが判明。アーンドラの有名な寺院にある、16世紀に神に献上された王冠を手に入れてくれたら解放するといわれます。王冠は国宝として警備されていて大統領と首相をのぞけば、王冠を直接見られる者は5人の名誉管財人だとわかります。
アミターブ・バッチャン(お馴染みの名優)、ラタン・タタ(2024年10月に亡くなられた実業家)、S.テンドルカール(クリケット選手)と、3人までは実在の人物。4人目は、サラスヴァティー(水と豊穣の女神?!)、そして5人目はブラスト・モーハンという俳優。モーハン一族が寺院の土地を所有していて、管財人を出す決まりになっているという設定。由緒ある一族なのにダメ俳優で、扱いが難しいという次第。この男に取り入って、なんとか王冠に近づこうと企んで、映画の撮影現場に行くのですが、これが、なんとも可笑しくて笑えます。さて、ムトゥは王冠を手に入れて、無事息子を救いだせるのでしょうか? 思いがけない展開は、ぜひ劇場で! (咲)
2023 年/インド/タミル語/ 168 分
©SUN Pictures
配給:SPACEBOX 宣伝:フルモテルモ
★2025 年 2 月 21 日(金) 新宿ピカデリーほか 全国公開
2025年02月14日
ドライブ・イン・マンハッタン(原題:Daddio)
監督・脚本:クリスティ・ホール
撮影:フェドン・パパマイケル
音楽:リサ・ゼノ・チャージン
出演:ダコタ・ジョンソン(乗客)、ショーン・ペン(タクシー運転手)
夜のジョン・F・ケネディ空港に降り立った女性が、タクシーに乗り込む。配車係から渡された行き先のメモ「マンハッタン、44丁目、9番街と10番街の間」を見て、運転手は発車させた。運転手は今日はお客さんで最後と声をかけ、バックミラーごしに2人は会話のキャッチボールを始める。スマホ支払いでチップが減った、という運転手の愚痴も笑顔で聞いてジョークでかえす女性。話すことが楽しくなる2人。
交通渋滞につかまって運転手がトイレを我慢できずに降りたり、女性がスマホの相手の要求に顔を曇らせるのに気づいたりするうち、狭い空間での会話は少しずつプライベートな話題に移っていく。
冒頭の配車係のほかはずっと車内の2人の会話劇です。もともとはクリスティ・ホール監督が舞台劇のために書かれた脚本だったそうですが、ダコタ・ジョンソンが自分で演じたいと惚れ込んだのだとか。ジョンソンに誘われたショーン・ペンも大いに気にいって主演2人が揃いました。初監督作品ですがこの脚本、この2人、フェドン・パパマイケルの撮影だからこそ、100分間観客をくぎづけにする作品になったのでしょう。少ない予算で2週間で撮り切ったそうです。車窓に流れる夜景はどうやって撮られたのか、その工夫を聞いてさらに驚きましたが、まずは2人のやりとりを堪能してください。
長く仕事を続けている間に離婚と浮気を繰り返した運転手は、たくさんの人を見て来た経験があります。お客の人生が想像できてしまうのですが、率直なことばが美しい乗客の琴線に触れ、傷ついた心を温かく包みます。彼にとっても古傷を癒す一夜になったはずです。(白)
2023年/アメリカ/カラー/シネスコ/100分
配給:東京テアトル
(C)2023 BEVERLY CREST PRODUCTIONS LLC. All rights reserved.
https://dim-movie.com/
★2025年2月14日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
僕らは人生で一回だけ魔法が使える
監督:木村真人
脚本:鈴木おさむ
出演:八木勇征、井上祐貴、櫻井海音、椿泰我(IMP.)、カンニング竹山、阿部亮平、髙橋洋、馬渕英里何、平野宏周、工藤美桜、笹野高史、田辺誠一
緑豊かな自然に囲まれた、のどかな小さな村。この村には、ある秘密があった。
高校3年生になったばかりのアキト(八木勇征)、ハルヒ(井上祐貴)、ナツキ(櫻井海音)、ユキオ(椿泰我)の仲の良い4人は、ある日、村の重鎮であるテツ爺(笹野高史)に呼び出される。そこで告げられたのは、「この村の少年たちは18歳になると、人生で一度だけ魔法を使える」ということだった。魔法を使えるのは20歳になるまでの2年間。命に関わることが禁じられている以外は何に使ってもいいという。最初は信じられない思いで笑い飛ばす4人だったが、父親たちもかつて魔法を使ったことを知り、真剣に何に魔法を使うか考え始める。
一方で、高校卒業を控え、これからの人生、どう進むかの岐路に立つ4人。
アキトはピアノを弾くのが大好きで、音大に進学したいと思っている。
ハルヒは幼い頃から心臓が弱く、全力で走れない。
ナツキは、プロサッカー選手を夢見ていたが、父が病に襲われ、父の造園業を手伝うことになる。
ユキオは、同じ工作部のミズホに恋するがあえなく失恋。さらにミズホから、ユキオの父が村のダム工事に金欲しさに参加したのではないかと聞かされ、ショックを受ける。
そして、2年が経ち、それぞれの道に進んでいる4人に、魔法を使う期限が迫ってくる・・・
先祖代々、何に魔法を使ったかを記録した文書が、大事に箱に収められているのですが、魔法を使うまでは、それを見ることはできません。さて、何に魔法を使う?
男子だけに魔法を使う権利があるというのは、今時、ちょっとどうかと思いましたが、まぁファンタジー。ほんとに魔法が使えるなら、何に使いたいでしょう・・・
都会からさほど遠くないけれど、山間のこの村には、のどかな空気が漂っています。それも魔法が使えることと関係がある?
摩訶不思議な物語を、若い4人の男の子たちが、いかにもあり得る話として、生き生きと見せてくれて、ほんわかとした気持ちになりました。(咲)
2025年/日本/110分
配給:ポニーキャニオン
公式サイト:https://bokumaho-movie.com/
★2025年2月21日(金) TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
2025年02月09日
聖なるイチジクの種 英題:The Seed of the Sacred Fig
監督・脚本:モハマド・ラスロフ(『ぶれない男』『悪は存在せず』)
出演:ミシャク・ザラ、ソヘイラ・ゴレスターニ、マフサ・ロスタミ、セターレ・マレキ
市民による政府への反抗議デモで揺れるイラン。
国家公務に従事する一家の主・イマンは、テヘランで妻と娘二人と暮らしている。
イマンは20年間にわたる勤勉さと愛国心を買われ、夢にまで見た予審判事に昇進する。しかし、革命裁判所での仕事は、反政府デモ逮捕者の起訴状を国の指示通りに捏造することだった。市民の反感感情が募っていることから、護身用の銃を支給される。それから程なくして、家に置いていた銃が消える。いったいどこに? 最初イマンは自分の不始末と思うが、次第に疑いの目を妻・ナジメ、長女レズワン、次女サナに向ける。互いの疑心暗鬼が家庭を支配し、家族さえ知らないそれぞれの疑惑が交錯するとき、物語は予想不能に壮絶に狂いだす・・・
時は、2022年。イマンの昇進を機に、妻ナジメは「娘たちに革命裁判所で仕事をしていることを伝えましょう。誇れる仕事よ」と進言。そして、娘たちに父親の仕事を打ち明け、「パパのためにヘジャーブ(髪の毛や身体の線を隠すこと)は守ってね。付き合う相手にも気をつけて」と伝えます。
そんな折、9月16日、22歳のクルド人の女性ジーナ・マフサ・アミニさんが、スカーフの着用状態が不充分だと注意されたことを機に亡くなり、イラン全土に「女性、人生、自由」のスローガンを掲げた抗議運動が広まりました。抗議運動に参加した人たちが次々と逮捕され、その数、老若男女、一日200人から300人におよび、イマンはちゃんとした調査書も見せられないまま起訴状に次々サインすることを余儀なくされることになるのです。精神的にまいっているところに、長女がデモに巻き込まれ怪我をした友人を連れてきた上に、銃が見当たらなくなるという事態に。銃が見つからなければ、昇進できないどころか、懲役になる可能性もあって、疑心暗鬼はピークに達します。郊外の廃虚(遺跡?)を舞台に繰り広げられる家族に対する行いに、目が点になりました。
前作『悪は存在せず』で、死刑執行に携わった4人の男たちの苦悩を描いたラスロフ監督。本作も、ラスロフ監督が、2022年夏にエヴィーン刑務所に収監されていた時に耳にした刑務所の幹部職員の思い惑う言葉がきっかけになっているとのこと。人の生死や人生に関わる仕事に就く者の抱えるジレンマが、人を狂わせることを感じさせてくれる1作です。
冒頭、刑務所での勤務を終えたイマンが、狭く長い通路を通って外に出て、古い石橋を渡って郊外の土漠にあるエマームザーデ(聖者廟)に行き、祈りを捧げる場面が印象的でした。心の平穏を求めるイマンのつらい思いがずっしりと伝わってきました。
娘たちが古い家で、アーシューラー(シーア派3代目イマーム・ホサインの殉教日を追悼する儀式)で使われる道具や、コタツ(日本と同じ!)を見つける場面などに、イランの文化を感じました。そんな場面にもぜひ注目していただければと思います。
『聖なるイチジクの種』というタイトルは、ラスロフ監督が長年暮らしてきた南の島にある聖なるイチジクの古木に由来しています。種が島に運ばれ、ほかの木の枝に落ち、芽を出し、大地に向かって根を伸ばします。根が地面に届くと、聖なるイチジクの木は自身の足で立ち、育ててもらった木を絞め殺すのだそうです。このことをどう解釈すればいいのでしょう・・・ 頭の中で、様々な思いがぐるぐる回っています。(咲)
第77回カンヌ国際映画祭<審査員特別賞>受賞
2024年/フランス・ドイツ・イラン/ペルシャ語/カラー/シネスコ/51.ch/167分
字幕翻訳:佐藤恵子
配給:ギャガ
公式サイト:https://gaga.ne.jp/sacredfig/
★2025年2月14日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開
愛を耕すひと 原題:Bastarden
監督:ニコライ・アーセル
脚本:アナス・トマス・イェンセン、ニコライ・アーセル
原作:イダ・ジェッセン「The Captain and Ann Barbara(英題)」
出演:マッツ・ミケルセン、アマンダ・コリン、シモン・ベンネビヤーグ
1755年、デンマーク。退役軍人のルドヴィ・ケーレン大尉は、長年不可能とされた荒野の開拓に、ひとり名乗りを上げる。国王に敬意を表し、貴族の称号を得たいという思いからだった。しかし、それを知った有力者フレデリック・デ・シンケルは、自らの勢力が衰退することを怖れ、ありとあらゆる手段でケーレンを阻止しようと立ちはだかる。フレデリックのもとから逃げ出した使用人の女性アン・バーバラが、ケーレンのもとにいることを知ると、さらに逆上して、迫害は残虐なものとなる。
ある日、両親に捨てられたタタール人の少女アンマイ・ムスがケーレンの家に泥棒に入る。ケーレンは彼女を保護し、ともに暮らすようになる。アン・バーバラやアンマイ・ムスと共に土地を耕していくうちに、頑なに心を閉ざしていたケーレンに変化が芽生えてゆく・・・
ユトランド半島が、開拓不可能なほど不毛な地だったとは知りませんでした。マッツ・ミケルセン演じるケーレンは、貧しい出で、ドイツで30年近く従軍して、努力して大尉になった人物。ドイツからじゃがいもを取り寄せ、植え付けようとするのですが、有力者からの横やりが半端じゃなく、大変な苦労をします。
そんな中でのタタールの少女アンマイ・ムスとの出会い。彼女は肌の色が黒いことから“不吉な子”と虐げられているのですが、タタール人は私のイメージでは肌の色は黒くないので、白人から見た偏見かなぁ~と。
それはともかく、アンマイ・ムスの存在はケーレン大尉にだけでなく、私にとっても清涼剤のようでした。(咲)
★“北欧の至宝”マッツ・ミケルセンからのメッセージ★
日本のみなさん、こんにちは。マッツ・ミケルセンです。
『愛を耕すひと』がいよいよ日本でバレンタインデーの2月14日から公開されます。
私が演じたケーレン大尉が、様々な苦難を乗り越え変化していく姿にぜひご注目ください。
これは〈愛についての物語〉です。観てね!
2023年/デンマーク・スウェーデン・ドイツ/127分/G
字幕翻訳:吉川美奈子
配給:スターキャット、ハピネットファントム・スタジオ
後援:デンマーク王国大使館
公式サイト:https://happinet-phantom.com/ai-tagayasu
★2025年2月14日(金)新宿ピカデリーほか全国公開
セプテンバー5 原題:SEPTEMBER 5
監督・脚本:ティム・フェールバウム(『HELL』、『プロジェクト:ユリシーズ』)
出演:ジョン・マガロ(『パスト ライブス/再会』)、ピーター・サースガード(『ニュースの天才』)、ベン・チャップリン、レオニー・ベネシュ(『ありふれた教室』)、ほか
全世界が初めて目にしたテロ事件生中継
報道のあり方を、今だからこそ考えてみたい
1972年のミュンヘン夏季オリンピック。会期半ばの9月5日、パレスチナ武装組織「黒い九月」が、イスラエル選手団宿舎を襲撃し二人を殺害したあと、9名を人質に立てこもる。アメリカのABCスポーツ番組チー ムは、突如人質事件を中継することになる・・・
ほぼ、放送室内が舞台の本作。司会者ジム・マッケイが語る当時のオリジナル映像と、今回撮影したシーンを融合させた映像は、1972年の雰囲気そのもの。当時使われていたものにこだわって、様々なものを集めた製作チームの努力の賜物です。
ミュンヘンオリンピック開催中に起きたテロ事件については、当時、テレビで知って、大きなショックを受けたものです。それでも、その時には、私はまだイスラエルとパレスチナの関係を深く考えていなかったように思います。50年以上の時を経て、本作が出来たと知って、イスラエルとパレスチナの関係が、さらに混迷を深めている中で、どんな立ち位置で描いたのかが、まず気になりました。映画を拝見して、時系列で事件を追い、両国の関係についての政治的なメッセージは込めず、報道はどうあるべきかを描いたものだと感じました。
テロ犯が立てこもった部屋には、テレビがあり、彼らが見ることへの配慮をする取材班。
人質が解放されたらしいとの報が入ったときに、他社に先駆けて報道することよりも、確実な情報であるかに重きを置くべきとの場面がありました。今や報道機関だけでなく、個人が自由に情報を発信できる時代。フェイクニュースに惑わされる人たちも多々いる今だからこそ、本作が作られた意義は大きいと思いました。男性ばかりの報道チームの中で、ドイツ語の通訳だけが女性。人質事件が起きて、彼女の役割はさらに増します。冷静沈着に、ドイツ語の情報を的確に通訳して伝える姿を体現したドイツの女優レオニー・ベネシュ、とても素敵です。(咲)
2024年/ドイツ・アメリカ合作/英語・ドイツ語/95分/G
配給:東和ピクチャーズ
公式サイト:https://september5movie.jp/
★2025年2月14日(金)公開
2025年02月07日
みんな笑え
監督・脚本:鈴木太一
撮影:福田陽平
出演:野辺富三(斎藤太紋)、辻凪子(濱本希子)、渡辺哲(斎藤勘造)、片岡礼子(濱本陽子)、今野浩喜(萬大亭勘之助)、今川宇宙(米田千恵)、杉本凌士(西条宗男)、和田光沙(芳野麻未)
落語家の太紋(たもん)は、うだつが上がらないまま50歳になった。師匠である父 勘造は認知症を患って引退し、父の高座名を継いで二代目勘太を襲名した。しかし人気も野心もない彼が高座に上がると、お客は舌打ちをしていなくなる。家に帰れば、息子のこともわからなくなった父の罵詈雑言を聞きながらの介護、それも辛い。
漫才師の希子はこれまでろくにネタも練らないまま、アドリブ漫才を続けていたのを反省してネタ作りに苦戦していた。たまたま聞いた太紋の噺に、昔母がよく聞いていたのを思い出す。ネタの使用許可を得るために希子は太紋に会いに行き、師匠と呼んでついて歩く。不器用な2人は自分の芸を見つめ直すようになる。
太紋役の野辺富三さんは蜷川幸雄さんの舞台に出演していたそうで、映画初主演。これまでの出演作を観ていませんが、風貌といい、醸し出す雰囲気といい、一度で記憶に刻まれます。渡辺哲さんとの親子役もしっくりきます。
落語や漫才を生業とする方々の裏の苦労が垣間見られるのと同時に、どこにも誰にでもある親子の葛藤や人と人との繋がりが描かれていました。光の当たらないところでくすぶっている人が「これじゃいけない」と前を向くきっかけは様々ですが、同じような思いの人がたくさんいるはず。鈴木監督のコメント「映画ファン、演芸ファンのみなさん、そして日本中の「しょうもない俺」のみなさんが、 映画館のスクリーンでこの作品と共に野辺富三と出会ってくれたら嬉しいです」に共感したので、そのまま贈ります。(白)
2025年/日本/カラー/105分
配給:ナミキリズム
(C)2024 映画「みんな笑え」製作委員会
https://minnawarae.com/
★2025年2月8日(土)より新宿ケイズシネマほか全国ロードショー
2025年02月02日
ステラ ヒトラーにユダヤ人同胞を売った女 原題:Stella. Ein Leben 英題:Stella. A Life.

(C)2023 LETTERBOX FILMPRODUKTION / SevenPictures Film / Real Film Berlin / Amalia Film / DOR FILM / Lago Film / Gretchenfilm / DCM / Contrast Film / blue Entertainment
監督:キリアン・リートホーフ(『ぼくは君たちを憎まないことにした』)
脚本:キリアン・リートホーフ、 マルク・ブルーバウム、ヤン・ブラーレン
出演:パウラ・ベーア(『水を抱く女』)、 ヤニス・ニーヴーナー(『コリーニ事件』)
1940年8月、ベルリン。18歳のステラ・ゴルトシュラーク(パウラ・ベーア)は、アメリカに渡りジャズシンガーになることを夢見ていた。ユダヤ人の両親が、つてを頼って、なんとかアメリカのビザを手に入れようとしていたが、ドイツでは多くのユダヤ人がビザを待っていて、叶わぬ夢だった・・・。
ナチスはパリも陥落させた。
3年後、工場で強制労働を強いられているステラ。ユダヤ人に偽造パスポートを販売するロルフと出会い、恋に落ちると、同胞や家族が隠れて生活する中、ロルフの手伝いをしながら街中を歩き、自由を謳歌するステラ。
ある日、ついにゲシュタポに逮捕される。拷問を受けたステラは、アウシュヴィッツへの移送を免れるため、ベルリンに隠れているユダヤ人逮捕に協力することを余儀なくされる。
生き残るために同胞を裏切ったステラは、終戦後、裏切ったユダヤ人仲間から裁判をかけられる・・・。
ステラは、金髪で青い目というアーリア人にも見える風貌のユダヤ女性。黄色い星をはずして、夜の町に遊びにいっても、ユダヤ人だとは見破られません。 勝気で、ともすれば嫌な女性にみえる描かれ方ですが、アウシュヴィッツ行きを逃れるための自己防衛として、密告者という選択ができるなら、誰しもその誘惑にかられるのではないでしょうか。 ステラはアウシュヴィッツ行きこそ逃れましたが、戦後、同胞を裏切ったことへの思いは彼女を苦しめ、幸せな人生を送っていないようです。
2025年1月27日、アウシュヴィッツ強制収容所解放から、80年を迎えました。 記念式典で、生き延びた方たちが、憎しみを持たないことが平和につながることを強調されていました。 あれほどまでに過酷な思いをされた方たちの言葉は貴重です。人種や宗教の違いなどで、差別し、それが戦争にも至ることが、今も世界からなくならないのが悲しいです。(咲)
2023年/121分/ドイツ・オーストリア・スイス・イギリス/ドイツ語・英語/PG12
日本語字幕:吉川美奈子
配給:クロックワークス
公式サイト:https://klockworx.com/movies/stella/
★, 2025年2月7日. (金)より 新宿武蔵野館ほか全国公開
サラリーマン金太郎【魁】編
監督:下山 天
脚本:田中眞一
原作:「サラリーマン金太郎」/本宮ひろ志(集英社刊)
出演:鈴木伸之、城⽥優、石田ニコル、文音、影山優佳、竹島由夏、⽶倉れいあ、山口⼤地、斎藤さらら、前田瑞貴、川合智己、佳久創、草川拓弥、水谷果穂、勝矢、⻫藤陽⼀郎、⼋⽊将康、市川知宏、中⽥喜⼦、本田博太郎、尾美としのり、浅野温子、榎⽊孝明
マグロ漁船の漁師からヤマト建設に入社した矢島金太郎(鈴木伸之)。サラリーマン最初の大仕事に地熱発電所建設のプロジェクトを任される。九州の小さな温泉町に赴任すると、工期が3か月遅れていることを知る。工事現場を取り仕切る土木会社の一ツ橋社長(勝矢)が、下請け料とは別に2億円をよこせという。支払われるまで工事はボイコットすると宣言。怒り心頭の金太郎は一ツ橋社長にケンカを挑むが、返り討ちにあって大怪我をしてしまう。怪我の療養中に温泉旅館を手伝うようになった金太郎は、これまで見えてなかったさまざまな事情や、発電所建設を反対する町の人の思いに気づいていく。しかし裏で全てを操る強大な黒幕の存在が浮かび上がり……。
隣接の温泉場では、地熱発電所が町おこしになると最初は賛成していたのに、地熱発電所ができると温泉が出なくなると、誰かから吹き込まれ、温泉組合が工事を阻止しようと座り込みをしています。金太郎があれこれ探ってみると、「石油と原発があるから地熱は阻止!」という、日本の政治を陰であやつる人物が浮かび上がってきます。既得権益を守るため、開発が遅れるということが多々あることに思いが至ります。(それどころか、すでに進んだものが開発されているのに、実用に移すのに順番待ちということも多々)
漁師からサラリーマンになった金太郎。前編【暁】編では、建築会社の業務にも、会社という組織にも疎かった金太郎が、周りの人たちに育てられていく姿が描かれていました。J後編でも、熱血漢を見守る人たちが周りにいて、金太郎が企業の一員、そして人間として成長していく姿を楽しませていただきました。(咲)
前編 サラリーマン金太郎【暁】編
http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/508249532.html
2025年/日本/95分/G
企画・製作:TIME 制作:楽映舎
配給:ライツキューブ 配給協力:ティ・ジョイ
公式サイト:https://salaryman-kintaro.com/
★2025年2月7日(金)より新宿バルト9他にて全国公開
ハイパーボリア人 原題:Los Hiperbóreos
監督:クリストバル・レオン、ホアキン・コシーニャ
脚本:クリストバル・レオン、ホアキン・コシーニャ、アレハンドラ・モファット
出演:アントーニア・ギーセン
女優で臨床心理学者でもあるアントーニア(アント)・ギーセンは、謎の幻聴に悩まされるゲーム好きの患者の訪問を受ける。彼の話を 友人の映画監督レオン&コシーニャにすると、2人はその幻聴は実在したチリの外交官にして詩人、そしてヒトラーの信奉者でもあったミ ゲル・セラーノの言葉であることに気づき、これを元にアントの主演映画を撮ろうと提案する。2人に言われるがまま、セラーノの人生を振り 返る映画の撮影を始めるアントだったが、いつしか謎の階層に迷い込み、チリの政治家ハイメ・グスマンから、国を揺るがすほどの脅威が記録された映画フィルムを探す指令を受ける。カギとなる名前は”メタルヘッド”。探索を始めるアントだったが、やがて絶対の危機が彼女を 待ち受ける……!
制作に5年を費やした『オオカミの家』の反動で、突如、実写映画に挑んだチリのアーティスト・デュオ、レオン&コシーニャの長編第2作。第77回カンヌ国際映画祭監督週間でお披露目されました。
タイトルの「ハイパーボリア人」とはギリシア神話や H.P.ラヴクラフトらの創作による「クトゥルフ神話」に登場する架空の民族。この映画では、太古の昔に宇宙からやってきて地球を支配していた半神の巨人たちと説明され、チリという国との驚くべき関係も明らかにされる。
実写、影絵、アニメ、人形、ゲーム、16mmフィルム…… 美術館で人々に制作プロセスを見せながら撮影するスタイルで、摩訶不思議な映像が次々に出てきて、くらくら。
アーリア人の神話では、太古の昔、氷河期が来る前の南極に楽園があって、ハイパーボリア人という薔薇色の白人がいたのだそう。ファンタジーのような話が出てくる前には、ヒトラーを信奉していた伯父の話が出てきて、さらにそれがチリの現代史にまでおよびます。つらい時代だったことを、声高に語るわけではないのですが、つい先日も『私の想う国』を観て、チリの軍事政権時代が人々に暗い影を落としたことを思い起こさせてくれたばかりで、本作にもチリの人たちの思いを感じてしまいました。
それにていも、不思議な映像世界! (咲)
世界4大アニメーションフェスティバルである第48回オタワ国際アニメーション映画祭に出品された短編『名前のノート』も同時上映されます。
◆短編『名前のノート』
ピノチェト軍事政権下で行方不明になった未成年者たちを追悼する重厚な「描き」アニメーション。映像、音響(合唱)ともに、こちらも若者たちとのワークショップによって生み出された。
2024 年 / チリ / スペイン語・ドイツ語 / 71 分 / カラー / 1.85:1 / 5.1ch
字幕翻訳:草刈かおり
公式サイト:https://www.zaziefilms.com/loshiperboreos/
★2025年2月8日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー
ヒプノシス レコードジャケットの美学(原題:Squaring the Circle: The Story of Hipgnosis)
監督:アントン・コービン
出演:オーブリー・パウエル、ストーム・トーガソン(ヒプノシス)、ロジャー・ウォーターズ、デヴィッド・ギルモア、ニック・メイスン(ピンク・フロイド)、ジミー・ペイジ、ロバート・プラント(レッド・ツェッペリン)、ポール・マッカートニー、ピーター・ガブリエル、グレアム・グールドマン(10cc)、ノエル・ギャラガー(oasis)
1968年、イギリス。ストーム・トーガソンとオーブリー・“ポー”・パウエルが共同でデザイン・アート集団「ヒプノシス」を創立した。ケンブリッジでピンク・フロイドのメンバーと出会い、ジャケットやツアーポスターの制作を開始。後にピーター・クリストファーソンが加わり、1970年代を中心に、ピンク・フロイド、ジェネシス、レッド・ツェッペリン、ポール・マッカートニーら数々のアーティストのカバーアートを創作した。斬新・奇抜・洗練…あらゆる言葉が相応しいその独創的なデザインは、それまで宣伝用パッケージにすぎなかったアルバム・ジャケットを芸術の域に高めた。
そうそうたるアーティストのカバーアートを製作した2人。現在のようにパソコンを駆使したり、簡単に写真を合成したりはできず、写真撮影は現地で。予算を湯水のように使い、とてつもなく高くついても、出来が良くてアルバムが売れれば問題なし。ヒプノシスは業界の旗手となり、トップにのぼりつめ長く君臨しました。しかし、後にやってきた映像化の潮流に乗り遅れてしまい、倒産の憂き目も見ます。
プロのデザイナーの仕事の様子を見るのはとても面白く、次々とあふれ出すアイディアを形にしていくのに感心しきり。何もないところからモノが生まれていくのは、音楽も美術も同じ。歌った本人たちも自分たちのアルバムが、目に見えるアートとなって力強く発信されていくのは嬉しかったでしょう。
現在のように視聴させてもらえる設備もないころ、レコードジャケットを見て一目ぼれ、「ジャケ買い」をしたファンも多かったはず。音楽を聴くだけでなく、部屋の棚や壁に大切に飾っていたに違いない!かく言う私もそうやっておりました。高校の美術の時間にレコードジャケットをデザインする課題が出たこともありました。写真は使わず、ネイビーブルーの紙にポスターカラーで、曲名を大小様々な字体を使って書いたのを思い出しました。今は昔…。
このドキュメンタリーでは、2人の偉業についての賛美が寄せられています。ただ、この上ない良き相棒だった2人がある時点からかみ合わなくなり、たもとを分かつことになりました。先に逝ったストーム・トーガソンについて語るオーブリー・パウエルの表情が胸に残りました。(白)
1960年代から70年代にかけて、ラジオでよく洋楽を聴いていましたが、ピンク・フロイドやレッド・ツェッペリンの音楽は、なんとなくサイケデリックなイメージで、私の好みでないと思っていました。妹がレコードをよく買っていて、おそらく、ジャケットをみて、そう思ったはずなので、知らないうちに「ヒプノシスの作品」を目にしていたのかもしれません。でも、今回、本作に出てきた彼らの曲は、それほどとんがってなくて、意外と私好みの曲でした。
こだわって作ったジャケットには、肝心のミュージシャンの名前が、すごく小さいものもあって、逆にそれで興味を惹くという効果もあったのかも。それこそ、ジャケットそのものがアート! 「ヒプノシス」の二人の物語に、わくわくしました。
ネットもなくて、ミュージシャンの顔を知る機会も少なかった時代です。
1980年代に、香港のアラン・タムの歌に惹かれ、香港旅行に行く先輩に、「カセットでなく、レコードを買ってきて」とお願いしたのを思い出します。レコードの方が、写真が大きいからという理由でしたが、探すのも大変、持って帰るのも大変だと後から悟って、申し訳ないことをしたと思ったものです。(咲)
2022年/イギリス/カラー/101分
配給:ディスクユニオン
(C) BMG Rights Management (UK) Ltd and Hipgnosis Songs Fund Ltd 2022. All rights reserved.
https://www.hipgnosismovie.com/
★2025年2月7日(金)YEBISU GARDEN CINEMAほか全国ロードショー
大きな玉ねぎの下で
監督:草野翔吾
脚本:高橋泉
ストーリー原案:中村航
撮影:小松高志
音楽:大友良英
主題歌:asmi
出演:神尾楓珠(堤丈流)、桜田ひより(村越美優)、山本美月(篠田沙希)、中川大輔(喜一)、江口洋介(ラジオナビゲーター)、飯島直子(救急救命士)、西田尚美(丈流の母)、原田泰造(丈流の父)/伊藤蒼(今日子)、藤原大祐(虎太郎)、窪塚愛流(大樹)、瀧七海(明日香)
丈流(たける)と美優(みゆう)は、同じ店「Double」で働いているのに、一度もあったことがない。昼はカフェ、夜はバーとして営業していて2人のシフトが違うためだ。連絡用の”バイトノート”が昼と夜に働くバイトをつないでいる。ノートの書き込みの数を重ねるごとに、互いの趣味や悩みも吐露するようになった。そして、「大きな玉ねぎの下(武道館)」で会う約束をした。
そしてもうひとつのドラマがラジオ番組で語られる。30年前、ペンフレンドとやはり「大きな玉ねぎの下」で会う約束をした2人がいた。
アナログな手書きのノートがつなぐ2人。実は互いに顔見知りだったのですが、誤解もあってなかなか気づきません。そして「文通」が育む恋模様。スマホで何でも事足りる今から見れば、時間も手間暇もかかってまだるっこしいやらじれったいやら、でしょうね。仕事の進捗にはあまり役立たなくとも、人と人には待っている時間も必要で、その間さえ楽しいものです。待ち合わせのすれ違いは携帯電話普及のおかげで減りました。急な変更には大助かりですが、その分雑になったり、創造力や想像力を減らしてしまったのではと気になります。武道館の屋根のてっぺんには金色の擬宝珠(ぎぼし)があります。遠目に「大きな玉ねぎ」に見えます。五重塔や橋の欄干にもありますね。二組のカップルはちちゃんと出会えたでしょうか?
☆爆風スランプが1985年にリリースした「大きな玉ねぎの下で」が、のちに「大きな玉ねぎの下で〜はるかなる想い」とリメイク。15枚目のシングルとしてリリースされた。この曲は今もカバーされ、歌い継がれ、2019年ボーカルのサンプラザ中野くんが「令和元年Ver.」を発表しました。(白)
2025年/日本/カラー/115分
配給:東映
(C)2024映画「大きな玉ねぎの下で」製作委員会
https://tamanegi-movie.jp/
★2025年2月7日(金)丸の内TOEIほか全国ロードショー
世界征服やめた
企画・脚本・監督:北村匠海
原案・主題歌:不可思議/wonderboy
出演:萩原利久(彼方)、藤堂日向(星野)、井浦新(友情出演)
サラリーマンの彼方(かなた)は、繰り返される単調な日々に倦み疲れ、自分が誰にも必要とされていないのでは、という無力感に苛まれていた。そんな彼方に話しかけてくれる数少ない同僚が星野だった。明るくて飄々と仕事をこなし、悩みなどないように見えたのはうわべだけだった。
小学生のころにスカウトされて芸能界入りした北村匠海さんは、これまでモデル、俳優、歌手などマルチに活動してきましたが、今作は自ら企画し、脚本、監督を担った作品。”不可思議/wonderboy”さんの楽曲に出逢ったことで「人生が変わった」と、いつかぜひ映画化したいと願い続け、実現したものです。
ポエトリーリーディングのことばが映像となって、揺れ動く彼方と星野の心情をつきつけます。こんなにも生きていくのはしんどいし、辛い。過ぎてしまえばとても短い間なのですが、その渦中にいる若い人にはさぞ響くことでしょう。何度も止まってしまう脚本だったのに、ついてきてくれたという俳優と監督のコラボレーションを見届けてください。
”不可思議/wonderboy”さんは知る人ぞ知る存在から、大きく羽ばたく寸前(2011年6月)に交通事故で亡くなられてしまいました。享年23歳。遺された映像は今も再生され続けています。早口のラップでもよく通る声と、明瞭な発音で聞き取りやすくメッセージがまっすぐに届きます。(白)
2024年/日本/カラー/51分
配給:SPOTTED PRODUCTIONS
(C)「世界征服やめた」製作委員会
https://sekaiseifuku-movie.com/
★2025年2月7日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー