2025年01月25日

リアル・ペイン 心の旅(原題:A Real Pain)

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監督・脚本:ジェシー・アイゼンバーグ
撮影:ミハウ・ディメク
出演:ジェシー・アイゼンバーグ(デヴィッド)、キーラン・カルキン(ベンジー)、ウィル・シャープ(ジェームズ)、ジェニファー・グレイ(マーシャ)

ニューヨークに住むユダヤ人のデヴィッドとベンジー。兄弟同然に育った従兄弟同士だったが、最近は疎遠になっていた。最愛の祖母が亡くなり、彼女の遺言で2人はポーランド行きのツアーに参加する。結婚して妻子がいるデヴィッドはまじめで几帳面、ベンジーは独身で自由奔放、正反対な性格の2人。無事ツアーのグループに合流した。それぞれの理由で集まった参加者たちとベンジーはすぐに打ち解ける。子どものような無邪気さで失礼な物言いをするベンジーに、みんな初めは反発するがいつのまに彼に魅了されてしまう。ベンジーに振り回されて辟易するデヴィッドだがこの従兄弟が大好きなのも確か。ポーランドの地を巡りながら、デヴィッドとベンジーはかつてここで生きた祖母と戦争に想いを馳せる。

ジェシー・アイゼンバーグの監督2作目。NYで生まれ育っていますが、ルーツはポーランド系ユダヤ人。ポーランドの村にはホロコーストで迫害を受けた叔母の家が現存。この映画では祖母が住んだ家として登場しています。自分自身のルーツも織り込みながら、人と人が違いを越えて理解しようとする姿を描いています。初監督作の『僕らの世界が交わるまで』(2022)はすれ違う母と息子のストーリーでした。今回は凸凹コンビのユーモラスなシーン(ほとんどベンジーが火種)に笑い、デヴィッドに同情し、ベンジーの率直さに泣けました。
この純粋で繊細で厄介なベンジーがキーラン・カルキンの好演で血の通った人物となり、物語をけん引していました。カルキンの姓で気づかれたように、カルキン兄弟の一人。『ホーム・アローン』(1990)で一躍有名子役となったマコーレー・カルキンの2歳違いの弟です(キーランも弟役でちゃんと出ていました。毎年クリスマスの時期になると観なおしたくなります)。
ポーランドに史跡として残るマイダネク収容所で胸痛む見学をし祖母が育った家を訪ね、ツアーの人々と別れますが、デヴィッドとベンジーの旅はまだ残っています。(白)


2024年/アメリカ/カラー/ヴィスタサイズ/90分
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(C)2024 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.
https://www.searchlightpictures.jp/movies/realpain
★2025年1月31日(金)より全国ロードショー

posted by shiraishi at 12:31| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

嗤う蟲

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監督:城定秀夫
脚本:内藤瑛亮、城定秀夫
撮影:渡邊雅紀
音楽:ゲイリー芦尾
出演:深川麻衣(長浜杏奈)、若葉竜也(上杉輝道)、田口トモロヲ(田久保)、松浦祐也(三橋剛)、片岡礼子(三橋椿)、杉田かおる(田久保よしこ)、中山功太(古谷巡査)

イラストレーターの杏奈は夫の輝道が脱サラしたのを機に、憧れのスローライフを実現するべく、麻宮村に移住した。近隣への挨拶回りで自治会賞の田久保家を訪れ、過剰なまでの歓待をうける。初めての村社会の距離感に戸惑う夫婦だったが良い方に解釈して、小さな自給自足も始めてみた。杏奈の妊娠を親のように喜び、身体をいたわる自治会長たちに感謝しつつも違和感を覚える二人。田久保夫婦は夫婦別姓の杏奈と輝道にもなにかと干渉してくる。ふたりは村の中で、自治会長の田久保が大きな権力を握っているのに気づく。

村に生まれ、そこに住んでいる方々には申し訳ないような暗部の羅列。これはフィクションですからね。
ただし、これまで日本各地で起こった村八分事件から材をとったともあります。古い話ではなく、21世紀の今でも大小の村八分は存在し、事件は起きていました。それは村社会に限らず都会の暮らしでも、子どもの社会でも同じような問題が火種となって燻っています。人を差別化し、同じ行動をとることをよしとすれば、管理するほうは便利でしょう。敵を作っておけば人心は掌握しやすいのです。自由と民主主義など蹴り飛ばされたようなものです。
杏奈は自分なりに闘い、輝道は家族のためにと取り込まれてしまいましたが、必至で妻と子を守ろうとします。小さな世界は大きな世界の縮図でした。城定秀夫監督が『ミスミソウ』の内藤瑛亮監督と仕掛けたこわーい狂宴から、あなたなら抜け出すことができるでしょうか?(白)


2024年/日本/カラー/99分
配給:ショウゲート
(C)2024映画「嗤う蟲」製作委員会
https://waraumushi.jp/
★2025年1月24日(金)より全国ロードショー

posted by shiraishi at 10:37| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ミッシング・チャイルド・ビデオテープ

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監督・原案・編集:近藤亮太
脚本:金子鈴幸
撮影:松田恒太
出演:杉田雷麟(兒玉敬太)、平井亜門(天野司)、森田想(久住美琴)、藤井隆(塚本哲也)

兒玉敬太は失踪した人間を探すボランティアに参加している。子どもは無事保護されて安堵したが、敬太の弟・日向(ひなた)は見つからないままだ。幼いころ一緒に山で遊んでいて、日向の行方がわからなくなった。以来いつも日向のことを思い出している。
ある日、突然母親から古いビデオテープが送られてきた。再生してみると日向がいなくなる瞬間が映っていた。敬太の友人の司は強い霊感を持ちそこからまがまがしいものを感じ取る。深入りするなと忠告するが、敬太は過去を清算する気持ちが募り、あの山へ出かける。

近藤亮太監督が、第2回日本ホラー大賞を受賞した短編を自ら長編とした作品です。『リング』をはじめとしたジャパニーズホラーの特徴の、じわじわと怖くなるタイプの作りです。いかにもな劇伴も、いきなりの大音響もありません。
何か怖いかつきつめて、ほんとうに怖いものを作ろうと思った、という近藤監督は映画美学校で高橋洋監督に師事したそうです。そこかしこに、怖い種が仕込んであるのはそういうことでしたか。
コロンボばりのコート姿で見えないものを見る司役の平井亜門さん、物おじせず取材に突き進む久住記者の森田想さん、笑顔を封印した上司の藤井隆さん。定番でない顔を見せてもらいました。ずっと子役の杉田雷麟くんのイメージでしたが、すっかり大人の俳優さんになりました。その止まらない時間の流れが、私には一番恐怖かも。(白)


2025年/日本/カラー/104分
配給:KADOKAWA
(C)2025 「ミッシング・チャイルド・ビデオテープ」製作委員会
https://mcv-movie.jp/
★2025年1月24日(金)より全国公開中

posted by shiraishi at 10:22| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

おんどりの鳴く前に(原題:Oameni de treaba)

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監督:パウル・ネゴエスク
出演:ユリアン・ポステルニク(イリエ)、ヴァシレ・ムラル(村長)、アンゲル・ダミアン(ヴァリ)、ダニエル・ブスイオク(司祭)

ルーマニア・モルドヴァ地方。静かな村の中年警察官イリエは、かつての野心も失い日々の仕事をこなしている。退職後は、小さな果樹園を営んでひっそりと暮らしたい。田舎ゆえのしがらみは多いけれど、さしたる事件も起きないこの村では、一番の実力者は村長だ。
何も起きないはずだったこの村で、村の男のむごたらしい死体が見つかった。イリエは捜査を始めなければならない。

村民はみな顔見知りの狭い村で、犯人はすぐ判明しそうなものです。着任したばかりの若くて正義感あふれる部下はやる気満々。イリエはちょっと苦々しく思ったりしています。外から捜査の手が入るのも面倒です。そう簡単に解決とはいきません。平和そうな村の内側では、あれやこれやと入り組んだ人間関係や利害関係があり、ふだんは蓋をしていたことがあかるみに出てきます。
人が集まれば、その集まりの大きさに関わらずもめごとが起きるのが常。ほんとにまあ、自分も含め人間って醜悪、けれどもそれもまた真実なのでした。(白)

ルーマニア・アカデミー賞(GOPO賞)6冠

2024年/ルーマニア、ブルガリア/カラー/106分
配給:カルチュアルライフ
(C)2022 Papillon Film / Tangaj Production / Screening Emotions / Avanpost Production
https://culturallife.co.jp/ondori-movie
★2025年1月24日(金)新宿シネマカリテほか全国順次公開中
posted by shiraishi at 10:01| Comment(0) | ルーマニア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

TOUCH/タッチ(英題:Touch)

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監督:バルタザール・コルマウクル
原作:オラフ・オラフソン「Snerting(※原題)」
脚本:オラフ・オラフソン、バルタザール・コルマウクル
撮影:ベルグステイン・ビョルゴルフソン
出演:エギル・オラフソン(2020年 クリストファー)、Kōki,(1969年 ミコ)、パルミ・コルマウクル(1969年 クリストファー)、本木雅弘(1969年 高橋)、中村雅俊(2020年 久多良木)、メグ・クボ(1969年 ヒトミ)

2020年 アイスランド。クリストファーは認知症の診断を受けた。まだ初期段階だが、医師から「やり残したことはないか」と尋ねられる。脳裏に浮かんだのは、50年前に出逢って愛した女性の面影だった。
ロンドンで学生だったとき、食事に入った日本料理店の娘ミコがその人だ。高橋店長に見込まれて、料理を覚えた。ミコと恋に落ち、楽しく充実した日々を送っていた。しかし、突然店はたたまれ呆然とする。ミコや父親の行き先はようとして知れなかった。
クリストファーは、今出かけなければ記憶がなくなってしまうと恐れ、レストランを閉めてロンドンへ旅立つ。かつて一緒に高橋の店で働いていたヒトミから、日本の住所を手に入れることができた。

2020年はコロナが世界中に蔓延し始めた年。人々は家にこもり、出入国も制限されました。クリストファーは認知症とコロナに追われるように、急いで旅立ちます。50年前、青年だったクリストファーとミコの出逢いや恋の進展が、この旅の中にフラッシュバックします。
日本料理店の娘・ミコ役のKōki,さんは、木村拓哉さんの次女で、10代からモデル、ハイブランドのアンバサダーとして活躍してきた方です。長編映画出演は『牛首村』についで2作目。ホラーから一転ラブロマンスです。彼女が着こなす50年前のファッションも見どころ。若きクリストファーは監督と同姓?実の息子さんでした!二人を見守る父親役は、Kōki,さんが子供の頃からずっと知っています、という本木雅弘さん。笑顔と包容力で場を和ませます。
二人が突然姿を消してしまった背景がわかるにつれ、戦争の落とした影があきらかになります。原作は未見ですが、アイスランドの作家の方がこの小説を書き、日本人俳優を起用して映画化もされたというのが感慨深いです。(白)


2024年/アイスランド、イギリス合作/カラー/122分
配給:パルコ
(C)2024 RVK Studios
https://touch-movie.com/
★2025年1月24日(金)よりTOHO シネマズ シャンテほかにて公開中

posted by shiraishi at 09:43| Comment(0) | アイスランド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする