監督・脚本:安達もじり
脚本:川島天見
音楽:世武裕子
出演:富田望生、伊藤万理華、青木柚、山之内すず、中川わさ美、MC NAM、田村健太郎、土村芳、渡辺真起子、山中崇、麻生祐未、甲本雅裕
1995年の震災で多くの家屋が焼失し、一面焼け野原となった神戸・長田。かつてそこに暮らしていた在日コリアン家族の下に生まれた金子灯(富田望生)。在日の自覚は薄く、被災の記憶もない灯は、父(甲本雅裕)や母(麻生祐未)からこぼれる家族の歴史や震災当時の話が遠いものに感じられ、どこか孤独と苛立ちを募らせている。一方、父は家族との衝突が絶えず、家にはいつも冷たい空気が流れていた。ある日、親戚の集まりで起きた口論によって、気持ちが昂り「全部しんどい」と吐き出す灯。そして、姉・美悠(伊藤万理華)が持ち出した日本への帰化をめぐり、家族はさらに傾いていく──。なぜこの家族のもとに生まれてきたのか。家族とわたし、国籍とわたし。わたしはいったいどうしたいのだろう──。
始まりは、2015年1月。震災の年に生まれた人たちの成人式。灯(あかり)は、震災から20年といわれても実感がありません。お母さんからは、震災で家がなくなり避難生活の中で大変な思いをして育てたと聞かされてはいるのですが・・・。
姉が結婚するのに、帰化手続きをしたいといいます。今のままでは国際結婚になるので、手続きが大変だという次第。日本で生まれた灯には、在日コリアンという意識もないのですが、父からは「お祖父さんがどうやって日本に来たか知ってるのか? お祖母さんがなんで字が書けへんのか知ってるのか?」と、帰化することに反対されます。
造船所で男性たちの中で働く灯ですが、いろいろなことがあって死にたいと思うほど落ち込みます。診療所に通い、心に傷を抱えた人たちと話す日々。その中には在日の男性もいて、「ずっと嘘ついて暮らしてる感じ」と言います。
私が「在日」の人たちの存在を知ったのは、たぶん10歳頃のことでした。神戸で生まれ15歳まで育ったのですが、「にあんちゃん 十歳の少女の日記」を書いた在日である安本末子さん(1943年生まれ)が、父が教鞭をとっていた県立兵庫高校の卒業生だったのです。 兵庫高校は、長田区にあって、まわりには在日の人が多く暮らしていて、生徒には在日の方も結構いたようです。優秀な在日の教え子に、将来、差別されない医師を目指せと進路指導したこともあると父が話していたのを思い出します。
1995年1月17日の阪神淡路大震災では、断層の走っているところが大きな被害を受けましたが、この映画の金子家がゴム工場を営んでいた長田区界隈は、広い範囲で火災が起こったところでした。

©Minato Studio 2025
チマチョゴリ姿のお祖母さんが赤ちゃん(灯のお姉さんでしょうか)を抱いた姿の映った写真1枚だけを、お母さんが見つけたと語っています。
灯は、やっと前向きに生きる元気を取り戻し、設計事務所に就職します。「それぞれの暮らしに寄り添う」というコンセプトに共感したのが志望動機でした。空襲も震災も乗り越えた丸五市場再建の話に取り組むのですが、コロナ禍で挫折。そんな中で開く「丸五写真展」。 震災前のにぎやかだったころの写真もたくさん。紙焼きの写真って、やっぱりいいなぁ~と。
灯の20歳から9年間の成長を追った本作。震災から30年となる2025年1月17日に公開が始まりました。 今や震災を経験していない人が、人口の3割ほどになったと聞きます。 私も東京にいて、実際には経験していないのですが、あの日の朝、テレビをつけた時に生田神社がつぶれている姿が目に飛び込んできて、びっくりしたのを思い出します。同級生の中には、両親や兄弟、お子さんを亡くした人も多くて、10年目の時に、「10年の節目と言われてもなぁ」とつぶやいていた同級生の言葉に、肉親を亡くした人にとっては、いつも心に思いを抱えていて、何周年などということは関係ないと思ったのでした。
灯を演じた富田望生さんは、福島県いわき市出身。東日本大震災の経験者です。灯の抱える思いを細やかに演じています。 生き辛さを感じている方たちにも、ぜひご覧いただきたい1作です。(咲)
2025年/119分/DCP/日本
製作:ミナトスタジオ
配給:太秦
公式サイト:https://minatomo117.jp/
★2025年1月17日(金)より新宿ピカデリー、ユーロスペース他全国順次公開