2025年01月17日
室町無頼
監督・脚本:入江 悠
原作:垣根涼介「室町無頼」(新潮文庫刊)
撮影:大塚亮
音楽:池頼広
アクション監督:川澄朋章
出演:大泉洋(蓮田兵衛)、長尾謙杜(才蔵)、松本若菜(芳王子)、遠藤雄弥(赤間誠四郎)、前野朋哉(七尾ノ源三)、阿見201(馬切衛門太郎)、般若(小吉)、武田梨奈(超煕)、水澤紳吾(伝助)、岩永丞威(斬ノ助)、吉本実憂(お千)、ドンペイ(孫八)、川床明日香(小萩)、稲荷卓央(彦次郎)、芹澤興人(蔵人)、中村 蒼(足利義政)、矢島健一(伊勢貞親)、三宅弘城(法妙坊暁信)、柄本明(唐崎の老人)、北村一輝(名和好臣)、堤真一(骨皮道賢)
1461年、応仁の乱前夜の京。大飢饉と疫病に襲われ、賀茂川ベリには8万を超える死体が積まれた。荒れにあれた世の中、権力者は無能でなすすべもない。自由人の蓮田兵衛は、各地を放浪しながらこの暗黒の時代の立て直しを画策していた。天涯孤独で絶望の淵にあった才蔵は骨皮道賢に拾われ、兵衛に引き取られた。厳しく鍛えられ、眠っていた武術の才能が花開く。才蔵は六尺棒を手にし、兵衛のもとで兵法者としての道を歩み始める。
兵衛は様々な能力に秀でた無頼たちを束ね、世直しのための一揆を企てる。無謀ともいえる彼らの前に洛中の警備にあたる骨皮道賢が“髑髏の刀”を手に立ちはだかった。
書ききれないほどの出演者です。兵衛は才蔵を筆頭に、抜刀術の達人、槍使い、金棒の怪力男、洋弓の朝鮮娘らを集めました。飄々と世の中を渡り歩く自由人の兵衛と、はみ出し者たちアウトローの軍団に失うものはありません。
企画から8年たって公開となったこのアクション大作、室町時代の最大のできごとであった「応仁の乱」が勃発する前夜を描いています。足利将軍家のお世継ぎ問題と幕府官僚の家督相続に端を発した戦乱は、民衆の苦境などほったらかしで11年も続きました。それが諸国の戦乱へと伝播し、戦国時代へと繋がっていきます。
本格的な殺陣を特訓した出演陣、棒術の達人となる長尾謙杜さんの成長ぶり、大泉洋さんと堤真一さんの一騎打ちを刮目して観よ!
東京・有楽町の丸の内TOEIは7月27日に閉館予定です。65年の歴史のある劇場で封切られる最後の時代劇となりました。試写もぜひこのスクリーンで観ていただきたいということで、大きな画面での戦国アクションを堪能してきました。
子どものころから時代劇といえば東映、特にオールスターで繰り広げられる華やかなお正月映画が大好きでした。波が岩にあたって砕け散るオープニングを幾度観たことでしょう。閉館に向け、これまでの東映の名作が次々と上映される予定です。『室町無頼』とともにお楽しみください。(白)
2024年/日本/カラー/135分
配給:東映
(C)2025「室町無頼」製作委員会
https://muromachi-outsiders.jp/
★2025年1月17日(金)丸の内東映ほか全国ロードショー中
サンセット・サンライズ
監督:岸善幸
脚本:宮藤官九郎
原作:楡周平「サンセット・サンライズ」(講談社文庫)
撮影:今村圭佑
音楽:網守将平
インスパイアソング:GRe4N BOYZ「シオン」
出演:菅田将暉(西尾晋作)、井上真央(関野百香)、中村雅俊(関野章男)、三宅健(高森武)、池脇千鶴(町田仁美)、竹原ピストル(倉部健介)、山本浩司(山城進一郎)、好井まさお(平畑耕作)、小日向文世(大津誠一郎)
2020年。新型コロナウイルスのパンデミックで世界中がロックダウンに追い込まれた。東京の大企業に勤める釣り好きの晋作は、リモートワークを機に地方への移住を画策する。釣り好きの晋作の条件は海が近いこと。
ちょうど三陸の町で空き家対策に頭を悩ませていた関野百花が、4LDKを家賃6万円でネットにアップした。まさかの神物件に一目惚れした晋作はアポも取らずに現地へ飛んでいく。契約が成立し、晋作は希望通りの海沿いの町で気楽な“お試し移住”、仕事の合間には釣り三昧の日々を過ごし始めた。
『あゝ、荒野』(17)の岸監督、7年ぶりのタッグとなった菅田将暉さんが主演。脚本はクドカンこと宮藤官九郎さん。コロナや東日本大震災のエピソードもそっと盛り込みながら、東京から来た〈よそ者〉の晋作と、町の人たちのドラマができました。面白くないわけがない!井上真央さん演じる百香をマドンナとあおぎ、見まもる会を結成したフラれ組の4人。〈よそ者〉の晋作に警戒感まる出し。このぎこちなくも濃密なやりとりに笑います。
百香の事情がわかるにつれ、しんみりしますが「それもあり、これもあり」とばかりに百香が食卓に並べる三陸の海の幸山の幸。美味しそうー。じゃんじゃんかかる魚に晋作の「半端ね~!」の歓喜の声が響きます。漁師姿が板についている中村雅俊さん、目つきの悪さに誰かわからなかった三宅健さん、キャスト・スタッフの誰もがこの東北の町での撮影を存分に存分に楽しんだらしい空気感も「半端ね~!」(白)
2024年/日本/カラー/139分
配給:ワーナー・ブラザース
(C)楡周平/講談社 (C)2024「サンセット・サンライズ」製作委員会
https://wwws.warnerbros.co.jp/sunsetsunrise/
★2025年1月17日(金)より絶賛上映中
敵
監督・脚本:吉田大八
原作:筒井康隆
撮影:四宮秀俊
出演:長塚京三(渡辺儀助)、瀧内公美(鷹司靖子)、河井優美(菅井歩美)、黒沢あすか(渡辺信子)、中島歩、カトウシンスケ、高畑遊
渡辺儀助77歳。フランス近代演劇史を専門とする元大学教授。大学を辞したのは10年前。20年前に妻・信子に先立たれてからは一人暮らしを続けている。講演や執筆で僅かな収入を得ているが、預貯金が後何年持つか、自身が後何年生きられるかを計算しながらの慎ましい生活である。子どもはいないが、教え子がときおり訪ねてくれ、とりとめない会話をして食事をするのを楽しみにしている。
モノクロの画面に昭和の映画のようなたたずまいの家での一人の清貧な生活。儀助を演じる長塚京三さんの雰囲気が、時折湧いてくる煩悩や妄想も下品に陥らずに見せています。現実世界と妄想世界のシーンがかわるがわる出てくるので、これはどっち?と疑問に思います。亡くなった奥さんが登場するシーンは思い出の中の一コマなのでしょう。
教え子の靖子は大胆なシーンも辞さない瀧内公美さん、バーで出逢う歩美は出演作が目白押しの河井優美さん。お二人とも男性を惑わせる色香がこぼれていて、元教授だろうが煩悩にまみれるよねと、儀助に同情するものです。
そういえばヴィム・ヴェンダース監督の『PERFECT DAYS』(23)には男性の欲望など登場しませんでした。監督が理想とした暮らしだったのかも。儀助のようにどんなに細かく計算して予定を立てようが、病気や老いはさけられず忍び寄ってきます。それこそが「敵」?(白)
東京国際映画祭で、東京グランプリ/東京都知事賞、最優秀監督賞、最優秀男優賞の3冠。受賞者記者会見で吉田大八監督は、「映画は俳優を観にいくもの。だから僕の映画も俳優を観に来てほしい。ですので、男優賞が取れたのは嬉しい。監督賞は自信がない。作品賞は関わった皆のもの」と謙虚でした。
パリ、ソルボンヌ大学在学中に、フランス映画『パリの中国人』(74)で俳優デビューした長塚京三さん。『敵』では、かつて大学でフランス文学を教えていた元教授という役どころ。吉田監督は、長塚さんのキャリアからキャスティングしたわけではなく、偶然と語りました。
長塚京三さんは、ほぼ出ずっぱり。「ロケ現場の家が自宅からすごく遠くて、朝早くに出て、帰り着くのが夜遅く。妻のサポートがあって、食べるものを食べて、寝る時間を確保してもらいました。肉体労働を終えて、華やかな映画祭で賞までいただくとは思いませんでした」と感慨深く語りました。
モノクロで撮ったことについて、吉田監督は、これまで古い家が舞台の映画を観ていたら、モノクロが多くて、自分の映画もモノクロがふさわしいと思ったとのこと。あとから観て、観た方がより強く想像力を働かせてくれると感じたそうです。
舞台になった趣のある家は、縁側があって、庭に降りるところには大きな踏み石がありました。祖父が昭和の初めに神戸に建てた私の生まれた家を思い出しました。風情ある日本家屋が今は少なくなったと感じます。(咲)
2023年/日本/カラー/108分
配給:ハピネットファントム・スタジオ、ギークピクチュアズ
(C)1998 筒井康隆/新潮社 (C)2023 TEKINOMIKATA
https://happinet-phantom.com/teki/
★2025年1月17日(金)テアトル新宿ほか全国ロードショー
君の忘れ方
監督・脚本:作道雄
共同脚本:伊藤基晴
撮影:橋ヶ谷典生
音楽:平井真美子
出演:坂東龍汰(森下昴)、西野七瀬(柏原美紀)、円井わん(吉田翠)、小久保寿人(牧田兼)、津田寛治(牛丸清太郎)、岡田義徳(池内武彦)、風間杜夫(澤田義男)、南果歩(森下洋子)
ラジオ構成作家の森下昴とフードコーディネイターの恋人・美紀とは付き合って3年になる。結婚を間近に控えていたある日、美紀は交通事故で亡くなってしまう 。突然の美紀の死を受け入れられず、呆然自失の日々を過ごす昴に、故郷の岐阜で一人暮らす母・洋子は帰っておいでと声をかける。洋子も20年前突然夫を亡くし、その傷は今も癒えていない。
昴は母の元に帰り、親しい人を亡くした人々が胸のうちを語り合う「グリーフケア」の会に参加してみた。そこにはあらゆる事情で最愛の人を亡くした老若男女がいた。中でも妻を亡くしたという池内の話に心惹かれる。
昴と美紀はすでに一緒に暮らし、結婚式の準備に余念のない日々を過ごしていました。冒頭の演出に美紀がいなくなったことを強く感じました。昴が泣くシーンもありません。これからも二人の日々が続くはずだったのに、いきなり身体の半分を失ったような感覚なんでしょうか。仕事で会ったカウンセラーの言葉も納得できません。
昴は美紀の姿をそこここに見ます。変人と思われている池内には、彼にしか見えない亡き妻がそばにいます。それはそれで幸せではないかと思ってしまいました。母の洋子は夫を死なせた男をずっと探し続けています。理不尽この上なく、洋子が痛ましいです。
病気で夫を送った何人かの友人が、少しずつ日常を取り戻してくるのを見てきました。残った者は、折にふれ不在を感じる寂しさとこれから先もずっと付き合っていきます。生まれてきたなら年をとるのも病も死ぬまでついてまわります。それでも生まれてきて良かった、会えて良かったと思える人生でありますように。(白)
長年一緒に暮らしてきた人に先立たれるのも寂しいけれど、これから人生を共に歩むはずだったパートナーが突然この世からいなくなるというのは、あまりに悲しすぎます。忘れようにも忘れられない・・・、いえ、忘れなくてもいいのだと教えてくれたような気がします。
主人公の昴の故郷は、飛騨古川。高山の隣町で、やはり古い町並みの風情ある素敵な街です。本作のプロデューサーの一人、益田 祐美子さん(平成プロジェクト代表)は、飛騨高山の出身。映画の中に、一瞬ですが写真で登場! 笑顔が素敵です。2年前から岐阜県人会副会長を務めているとのことで、この映画もしっかり岐阜県のPRになっています。(咲)
2024年/日本/カラー/107分
配給:ラビットハウス
(C)「君の忘れ方」製作委員会 2024
https://kiminowasurekata.com/
★2025年1月17日(金)新宿ピカデリーほか全国公開中
アーサーズ・ウィスキー(原題:Arthur's Whisky)
監督:スティーブン・クックソン
脚本:アレクシス・ゼガーマン、
撮影:デビッド・マッキースティーブン・クックソン
音楽:デビッド・ニューマン
出演:ダイアン・キートン(リンダ)、パトリシア・ホッジ(ジョーン)、ルル(スーザン)、デヴィッド・ヘアウッド(ハル)、アディル・レイ(ジェームズ)、ローレンス・チェイニー、ボーイ・ジョージ
イギリス郊外、嵐の夜。アマチュア発明家アーサーは画期的な発明を完成させた途端、落雷で亡くなってしまう。彼の葬儀後、妻のジョーンは友人リンダとスーザンの手を借りて、アーサーの小屋の大掃除を始めた。ウイスキーのボトルを発見した3人は、リビングで老いた体を嘆きながらアーサーに向けて献杯しそのまま寝入ってしまう。翌朝目覚めてお互いを見て絶叫!!なんと若返っていた!アーサーが発明したのは、若返りのウイスキーだったのだ。
20代に戻った3人は、若くなった体でやりたいことリスト(バケットリスト)を作成する。しかし、効果には時間のリミットがあるのに気づいた。次はメイクやファッションも今風にきめて、クラブへ乗り込んだ。3人の“ガール”たちは久しぶりにダンスやお酒を楽しんだものの、飲み過ぎて大失敗。DJと強いお酒を飲み重ねたスーザンはソファで寝てしまい、翌朝元に戻ったスーザンの姿を見たDJは仰天。そそくさと逃げ出すスーザンだった。残り少なくなるウイスキーに3人はもっと有意義に使わなくてはと思う。
古今東西、長寿や若返りを望む人は多いもの。この映画では、70代の女性3人が棚ボタのように若返りウイスキーを手に入れてしまいました。初めのうち3人は大はしゃぎで、かつてやりたかったことを次々と試してみます。効き目の続く時間が限られていることに気づいてからは、使い方に慎重になります。この一連の3人の様子がとても面白いです。
自分だったら何をしよう?老体をだましだまし日々暮らしていると3人のセリフにいたく共感します。実際にはありえないでしょうが、楽しい妄想が拡がります。世の中なかなか落ち着かず、値上げラッシュでやりくりも厳しいこのごろですが、心をときほぐしてくれるこんな映画に出逢うとホッとします。(白)
2024年/イギリス/カラー/分
配給:AMGエンタテインメント
(C)AW Movie Production Ltd 2024
https://arthurswhisky.jp/
★2025年1月17日(金)新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開中