2024年12月06日

ペパーミントソーダ(原題:Diabolo menthe)

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監督・脚本:ディアーヌ・キュリス
撮影:フィリップ・ルースロ
音楽:イヴ・シモン
出演:エレオノール・クラーワイン(アンヌ)、オディール・ミシェル(フレデリック)、アヌーク・フェルジャック(母親)

1963年、アンヌと姉のフレデリックは海辺の父親の家で夏休みを過ごしていた。夏休みの最終日、2人は父に見送られてパリの母親のもとに戻る。
二人の通うリセ・セジュール・フェリー校の新学期が始まったが、アンヌは勉強に身が入らない。姉とボーイフレンドのマルクが交わした手紙をこっそり見て、クラスメートにはマルクが自分のボーイフレンドだと嘘をつく。テストでカンニングをしたり、気弱な教師にいやがらせをしたり、問題ばかり起こしている。こんなことでは、寄宿学校へ送るしかないと母親に叱られる始末。

両親が離婚して、双方を行き来する姉妹の一年間を描いています。早く大人になりたいアンヌは初潮を待ちわび、姉のフレデリックは、ボーイフレンドと遊ぶことより政治や社会に興味を惹かれていきます。心も身体も日々成長する年頃、姉妹のクラスメートや友人たちもそれぞれ変化していくのでした。
ディアーヌ・キュリス監督1977年のデビュー作。監督自身の少女時代をところどころに投影しているそうです。背伸びしたい少女たちのおませな会話や、60年代の音楽やァッションなど懐かしく観ましたが、少女たちの心は今とそう変わらないのではないでしょうか。
フランソワ・トリュフォー監督の『大人は判ってくれない』の少女版と評されたみずみずしい作品。俳優出身の監督は、この後、『女ともだち』(1983)『セ・ラ・ヴィ』(1990)『年下のひと』(1999)『サガン-悲しみよ こんにちは-』(2008)などの作品を送り出していきます。(白)


フランス映画界における女性監督の先駆者と言われるディアーヌ・キュリス。彼女が少女時代の体験を基に脚本を書き上げ監督したデビュー作『ペパーミントソーダ』が、47年の時を経て日本初公開されます。
公開当時フランスでは300万人を動員の大ヒット。ルイ・デリュック賞、全米ナショナル・ボード・オブ・レビューでは外国語映画賞に輝いています。

映画の中で、「ケネディが暗殺された!」という言葉が出てきて、1963年という時代を思い出します。そして、最初の方の学校の新学期が始まった場面で、自分のクラスがわからない少女が「オランから来た」と言うのを聞いて、先生が「まぁ大変! アルジェリアから!」という言葉を発していて、アルジェリア独立戦争直後の時代であることも感じます。
公民の授業で、歴史と政治は不可分なものと教師が言います。1962年2月8日に何が起きたかの先生の問いに、パスカルという少女が、「シャロンヌ駅の悲劇」を語ります。左派が呼び掛けた極右過激派のテロやアルジェリア戦争に対して抗議する平和的デモが、警察によって強制的に解散させられ 死者がでた事件。姉フレデリックは、この話を聴いて以来、パスカルと親しくなります。さらに、校⾨の前に反共産主義、反ユダヤ主義者が押しかける騒ぎを⽬撃して、ユダヤの⾎が流れているフレデリックは衝撃を受けます。校内で政治的活動を始めたのが見つかり、母親が教頭に呼び出されます。成績優秀だからと3日間の謹慎で済むのですが、母親からは政治に関わるなと釘をさされます。
ペパーミントソーダ(フランス語でDiabolo Menthe)は、⼤⼈向けの炭酸飲料。まだ初潮が来なくて、うずうずしている妹が背伸びして大人の仲間入りをしたいとカフェで頼む場面が出てきます。
映画の冒頭には、 "まだオレンジ⾊のセーターを返してくれない姉へ”とあって、お姉さんは監督にまだセーターを返してなかったのでしょうか・・・
下記の監督のプロフィールをみると、初監督作品に彼女の生い立ちが反映されていることがよくわかります。(咲)


ディアーヌ・キュリス:監督・脚本
ディアーヌ・キュリスは、1948年12⽉3⽇にフランスのリヨンで⽣まれた。 ロシアとポーランドのユダヤ⼈移⺠の両親は 1942 年にフランスの強制収容所 で出会い結婚。1954年に両親が離婚した後、若きディアーヌは⺟親と姉とともにパリに移り住む。キュリスの⽗親はリヨンに残って紳⼠服店を経営し、⺟親は パリでブティックを経営した。
ディアーヌは別居を恨み、16歳 の時に⽗親のもとへ家出することもあった。リセ・ジュール・フェリー校でしばらく学んだ後、彼⼥と⽣涯の伴侶であるアレクサンドル・アルカディと出会いイスラエルのキブツ(集団農業共同体)で暮らす。彼らは1967年の六⽇戦争の 間もそこに留まり、フランスに帰国後ソルボンヌ⼤学に⼊学した。しかし1968 年5 ⽉の学⽣運動に巻き込まれ⼤学を中退し、ディアーヌは俳優として、アレクサンドルは俳優兼監督として、⼆⼈とも演劇の道へと進む。(プレス資料より抜粋)


1977年/フランス/カラー/101分
字幕翻訳:西田杏祐子
配給:RIPPLE V
(C)1977 - TF1 DROITS AUDIOVISUELS - ALEXANDRE FILMS-TF1 STUDIO
https://www.ripplev.jp/peppermintsoda/
★2024年12月13日(金)渋谷 ホワイト シネクイント ほか全国ロードショー
posted by shiraishi at 01:34| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

狂熱のふたり 豪華本「マルメロ草紙」はこうして生まれた

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監督・撮影・編集:浦谷年良
企画:刈部謙一
製作:杉田浩光
ナレーション:木村匡也
出演:橋本治、岡田嘉夫、中島かほる他

ふたりの奇才の妥協なき8年間の戦い !
エッセイ、文芸評論、小説、戯曲、古典の現代語訳、日本美術論など、膨大な作品を遺した作家 橋本治。その橋本がデビュー当時から共創を切望し、ダイナミックな構図と煌びやかな色彩表現で“現代の浮世絵師”とも称される異能の画家 岡田嘉夫。ふたりのクリエーターが既成概念を打ち壊して挑んだ前代未聞の豪華本「マルメロ草紙」、その制作過程をつぶさに記録した秘蔵映像がついに公開される。

お名前だけは知っているのに、著書を読まずに今まできてしまった橋本治氏の素のお顔を観た気がしたドキュメンタリー。好きなものを好きな仲間と作るのは、こんなにも楽しい!の見本のようです。作ったものは今の出版界が出したくても出せない超ぜいたくな豪華本。シネジャが色校もできずに一発で印刷しているというのに、なんなんですかこの手のかけようは!!予算だって聞いたなら、口があけっぱなしになりそうな金額でしょう。ああ、一生に一度くらいこんな潤沢な予算で好きなだけ手をかけて作れたら・・・とよだれが出そうになったものです。「いやいや中身がともなわないじゃん!」とはっと我に返り、ただただ羨ましく、1ページずつ美しくできあがっていく過程をながめました。
8年間かけているうちに紆余曲折もあったことでしょうが、みなさん実に楽しそうです。仕事と損得なしの趣味が合致しているんでしょうね。(白)


2024年/日本/カラー/84分
配給・宣伝:NAKACHIKA PICTURES
協力:集英社、TOPPAN、ハースト婦人画報社
(C)テレビマンユニオン
https://kyounetsu-movie.jp/
★2024年12月7日(金)ポレポレ東中野ほか全国順次ロードショー

posted by shiraishi at 01:01| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

大きな家

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監督:竹林亮
企画・プロデュース:齊藤工
撮影:幸前達之
音楽:大木嵩雄
主題歌:「トンネル」ハンバート ハンバート

東京の とある児童養護施設。
ここでは、死別・病気・虐待・経済的問題など、さまざまな事情で親と離れて暮らす子どもたちと職員が日々を過ごしています。
家族とも他人とも言い切れない、そんなつながりの中で育つ子どもたちの本音と、彼らを支える眼差しに密着しました。
生きることへの不安。うまく築けない人間関係。変えられないものと、ともに生きていくということ。ここに映っているのは、特別なものではなく、葛藤しながらもたしかに大人になっていく姿と、それを包んでいる、いつか忘れてしまうような日常の景色です。
この映画を観終わったあとは、彼らだけでなく自分が歩んできた道のりをきっと肯定したくなる。
そして、あなたの"ふつう"が少しだけ広がるかもしれません。(公式サイトより)

カメラがそばにいるのが普通になるまで、子どもたちに向き合うのに時間をかけたのがわかる映像です。子どもだってカメラに撮られていると思えば、どこかよそいきの顔になってしまうでしょう。竹林監督は『14歳の栞』(2021)で35人の14歳の子どもたちが登場したドキュメンタリーを制作していますが、その中学生たちから飾らない言葉を引き出しています。そんな経験が生きているんですね。10人の子どもたちが、自分の言葉で想いを伝えてくれていました。
一方、竹林監督は『MONDYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』(2022)も作った方なんですよ。大いに笑って二度見してしまいました。
企画・プロデュースを担った 齊藤工さんは、自分が監督するのでなく、その『14歳の栞』の竹林亮監督に任せたいと思ったそうです。「私は、この作品を作るためにずっと映画に関わってきたのかもしれない。そんな、自分の理由になるくらいの作品ができました」という言葉が全てを語っています。子どもたちの将来にも配慮し、以後も配信やパッケージ化の予定はありませんので、ぜひ劇場でご覧ください。(白)


2024年/日本/カラー/123分
配給:パルコ
(C)CHOCOLATE
https://bighome-cinema.com/
★2024年12月6日(金)渋谷パルコ8F ホワイト シネクイントほか全国順次ロードショー


posted by shiraishi at 00:25| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする