2024年11月24日
カオルの葬式
監督:湯浅典子
脚本:西貴人、湯浅典子
撮影:ビクター・カタラ
音楽:ジョアン・ピラ
出演:関幸治(横谷)、一木香乃(鷲津カオル)、新津ちせ(鷲津薫)、黒沢あすか(向島貴子)、原田大二郎(住職)
カオルという名の脚本家が死んだ。
彼女が残した遺言には、10年前に離婚した元夫・横谷がカオルの葬式の喪主になるようにと、記されていた。
横谷が東京からカオルの故郷・岡山に到着すると、そこに居たのはカオルが遺した9才の一人娘・薫。カオルの通夜、葬儀に集まる様々な人々。脚本家であった彼女のマネージャー、ドラマプロデューサーや先輩や親友や、葬儀を取り仕切る婦人会、地主一家など腹にイチモツありそうな故郷の人々――
一人の女性の葬儀に集まった人々の姿を通して「死ぬことは、生きること」を問うています。岡山県北・苫田郡鏡野町にある宝樹寺を葬儀のメイン舞台に、ほかの撮影地は、蒜山高原(真庭市)、美作河井駅(津山市)、笠岡諸島・瀬戸内海(笠岡市)、岡山市、茨城県水戸市、笠間市、そして東京。
この作品では、離婚した夫が喪主になります。これまで行き来がなかったのに疑問に思いながら、元妻の故郷へ向かいます。監督の知人のエピソードを元にしたそうですが、そういうとき断わらずに引き受けるものなんでしょうか。その地方によって葬儀のやり方が少しずつ違うのも興味深いです。
カオルと様々な形で関わった人たちは、もう答えのもらえない問いをしてみたり、胸の中にあった想いがこぼれて出たりします。葬儀にありがちなちょっとした騒動もはさみ、弔問客はまた日常に戻って、自分たちも終わりが来るまで生き続けます。
葬儀は人生最後の一大イベント、もう不在の主役について生前より活発に語られます。「生前葬」を行う方がいるのは、その顛末を見てみたいのと、きちんと別れを言いたいからでしょうか。ちょっとわかる気がします。後に残る人に任せるしかありませんが、自分事として葬儀を考えてしまいました。(白)
☆第19回大阪アジアン映画祭にてJAPAN CUTS Awardを受賞
2023年/日本・スペイン・シンガポール共同制作/カラー/100分
配給・宣伝:ムービー・アクト・プロジェクト
(C)PKFP PARTNERS
https://yuasan1203.wixsite.com/pkfppartners
★2024年11月29日(金)ほか全国ロードショー中
Back to Black エイミーのすべて(原題:Back to Black)
監督:サム・テイラー=ジョンソン
脚本:マット・グリーンハルシュ
製作:アリソン・オーウェン、デブラ・ヘイワード、ニッキー・ケンティッシュ・バーンズ
出演:マリサ・アベラ、ジャック・オコンネル(ブレイク)、エディ・マーサン(父ミッチ)、ジュリエット・コーワン(母ジャニス)、サム・ブキャナン、レスリー・マンヴィル(祖母シンシア)
10代のエイミーは、元ジャズ歌手だった祖母シンシアの血をひいたのか、幼いころから歌の才能を発揮していた。両親は別居中だったが、エイミーへの愛情は変わらず、歌手になりたいエイミーを応援している。
念願のデビューアルバム「フランク」は好評を得たものの、全米進出はまだ遠かった。パブで出会ったブレイクと恋に落ちるが、彼にはすでに恋人がいた。甘い日々は続かず、ブレイクは元カノのところへ戻ってしまう。エイミーは別れの辛さから薬物と飲酒を繰り返し、自分の失恋をアルバム「バック・トゥ・ブラック」で歌い上げ、世界的な大ヒットとなった。これを機にブレイクとよりを戻しひそかに結婚するが、スーパースターとなったエイミーは朝から晩までパパラッチにつきまとわれる。ブレイクとの関係も悪化し、摂食障害や依存症のためにリハビリ施設に入所する。その体験を歌ったアルバムもヒット、グラミー賞主要4部門を含む6部門にノミネートされるが・・・。
自分の喜びや悲しみを歌にして独特のハスキーな歌声で多くの人の心に届けたエイミー。名声を得ても、恋人を失ったエイミーは、薬物やアルコールに依存していきます。一途なために傷は深く、周囲の心配も助言も受け付けられません。
本作は俳優が演じていますが、過酷な日々を送ったエイミーの半生はドキュメンタリー『AMY エイミー』(2015)の映像にも残されています。才能がありながら若くして亡くなったミュージシャンはほかに何人もいます。エイミーは何年も前から「自分も彼らと同じ27歳で死ぬのではないか」と恐れていたそうです。有名人で、自分と同じシンガーだから余計記憶に刻まれたのでしょうが何の根拠もないようです。エイミーが常に抱いている不安がそう思わせたのでしょう。
私生活まで追い回すパパラッチの仕業もひどいですが、知りたがるほうもひどい。もう少しリハビリを続けていれば、酒におぼれなければと他人が思ってもせんないことです。ただただ、もったいない痛ましいとしか言いようがありません。(白)
2024 年/イギリス・フランス・アメリカ/英語/123 分/ビスタサイズ//PG12
配給:パルコ ユニバーサル映画/ 宣伝:若壮房
Ⓒ2024 Focus Features, LLC. All Rights Reserved.
https://btb-movie.com/
★2024年11月22日(金)より、TOHO シネマズ シャンテ、渋谷シネクイントほか全国ロードショー中
JAWAN ジャワーン 原題: JAWAN.
監督:アトリー
出演:シャー・ルク・カーン(『PATHAAN/パターン』)、ナヤンターラ(『ダルバール 復讐人』)、ディーピカー・パードゥコーン(『PATHAAN/パターン』)、ヴィジャイ・セードゥパティ(『マスター 先生が来る!』)
国境のチベット系の人たちが暮らす村。川に流れてきた瀕死の男(シャー・ルク・カーン)を助けた母と少年。手厚く介護し、数か月後、目覚めるが男は記憶を失っていた。「あなたが誰か、僕が大人になったら必ず調べる」と約束する少年。そんな折、村を隣国の兵士が襲う。
30年後。ムンバイ。朝6時半。メトロに次々に乗り込む人たち。お腹の大きな女性もいる。
突然、顔を包帯でぐるぐる巻きにした謎の男(シャー・ルク・カーン)と、6人の女性たちが乗客を人質に取り、ハイジャックする。メトロに乗っていた武器商人カリの娘に、父親に4千憶ルピーの身代金を出すようにと迫る。入金したその金は、すぐに全国の借金を抱えた農民たち70万人に送金された。
ナルマダ隊長が率いるテロ対策部隊が駅で犯人逮捕をしようと待ち構えるが、謎の男と6人の女性たちは混乱に乗じて逃げてしまう。彼らが向かったのは、女子刑務所だった。
包帯だらけの男は実はこの刑務所の所長アーザード。そして、6人の女性たちは受刑者。
農民を救った彼らは悪なのか正義なのか? そして、真の目的は?
しばらく作品に恵まれなかったシャー・ルク・カーンですが、『PATHAAN パターン』で久しぶりにカッコいい姿を見せてくれました。本作は、さらにパワーアップ! しかも、二役です。シャールクファンには、もう、たまりません。
冒頭に出てくる記憶を失った男は、実は、メトロジャックした包帯だらけの男の父親でした。父親は息子が生まれたことも知らず、息子もまた、父親のことを知りませんでした。その出生の謎が次第に明かされていく面白さ。
一緒にメトロジャックした6人の女性受刑者たちにも、それぞれの物語があって、もう、詰込み過ぎ!
アーザードは養母から、さかんにお見合いを勧められるのですが、ある時、見合いの場にやってきたのは、本人ではなく、その娘。「父親がほしくて見定めにきたの」と言う可愛い少女に、アーザードも結婚を決めます。なんと、母親は、テロ対策部隊のナルマダ隊長!
え? それって、どうなるの? と、わくわくさせられます。
物語には、借金苦で自殺する農民が多いというインドの実態や、1984年のボーパール化学工場事故の悲劇の二の舞にしないようにと、化学工場の弊害に立ち向かう姿も盛り込んでいます。
とにもかくにも、シャー・ルク・カーンの魅力をたっぷり味わえます。女性たちも、それぞれが素敵です。
なお、タイトルの「JAWAN」は、「若い」という意味かなと思っていたら、ここでは「兵士」の意味のようです。(咲)
2023年/インド/ヒンディー語/171分/シネスコ/5.1ch
字幕翻訳:藤井美佳
配給:ツイン
公式サイト:https://jawan-movie.com/
★2024年11月29日(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー
2024年11月23日
海の沈黙
原作・脚本:倉本聰
監督:若松節朗
製作:曵地克之
プロデューサー:佐藤龍春
製作会社:インナップ
出演:本木雅弘(津山竜次)、小泉今日子(田村安奈)、清水美砂(牡丹)、仲村トオル(清家)、菅野恵(あざみ)、石坂浩二(田村修三)、萩原聖人(村岡)、村田雄浩(半沢院長)、佐野史郎(桐谷大臣)、田中健、三船美佳、津嘉山正種、中井貴一(スイケン)
世界的な画家田村修三の展覧会で贋作が発見された。主催者は隠蔽しようとするが、田村本人がその絵を観たとたん、自分の絵ではないと気づき、会見を開いて報道は加熱する。贋作を保有していた美術館の村岡館長は「この絵に心底ほれ込んでいた」と遺書を残して自殺した。田村の妻の安奈は命を絶つ前の村岡に会っており、衝撃は大きい。出向いた葬儀で、知人の中央美術館の清家館長に再会する。
清家は田村の要請で贋作を調べていた。海外で発見された完成度の高い贋作と、今回の贋作は同じ者の筆によるらしい。安奈は清家からかつての恋人だった画家・津山竜次の消息を知る。新進気鋭の天才画家と呼ばれていた竜次は、あることで画壇から姿を消していた。もう会うことはないと思っていた彼を訪ねて小樽に向かう。数十年ぶりに再会した津山は重い病に蝕まれていた。
脚本家・倉本聰氏、構想 60 年の映画作品です。テレビ、映画、舞台、書籍と多岐にわたる分野で名を成してきた倉本氏が、「どうしても書いておきたかった」と『海へ 〜See you〜』以来、36年ぶりに書き上げた映画脚本が本作。
「60 年前から抱えこんできた僕にとっての大きなテーマが、美術品の贋作」。かつて重要文化財とされていた陶芸作品が、贋作と判明して認定を取り消された事件があり、1960年「永仁の壺 異聞」というラジオドラマを執筆しています。もう一件、洋画家中川一政が師の岡本一平の絵を塗りつぶして自作を描いた事件もあったそうです。
絵画の価値や画家の創作意欲について倉本氏がずっと考えてきたことを、本木雅弘さん演じる津山竜次が渾身で体現しています。ほとばしるような勢いの絵と向き合う竜次の姿は、このために命が削られてきたのではと思うほど気迫に満ちています。激しい生き様の中で、ずっと抱いてきた安奈への想いは少しも減ずることはありませんでした。消えて行く間際に再会できてよかった!とこちらも安堵してしまいます。小泉今日子さんのまなざしに、大人の「恋」とは違う「情」が見えるようでした。飄々とした謎の人物「スイケン」役の中井貴一さんがまた良いです。
北海道・小樽の街並みや海の風景もお楽しみください。(白)
2024年/日本/カラー/112分
配給・宣伝:ハピネットファントム・スタジオ
©2024 映画『海の沈黙』INUP CO.,LTD
公式 HP https://happinet-phantom.com/uminochinmoku/
公式 X @uminochinmoku #海の沈黙
★2024年11月22日(金)より全国公開中
2024年11月22日
盗月者 トウゲツシャ(原題:盜月者 The Moon Thieves)
監督:ユエン・キムワイ
脚本:ロナルド・チャン、ライアイン・リン
音楽:波多野裕介
出演:アンソン・ロー(ヤウ)、イーダン・ルイ(マー)、ルイス・チョン(タイツァー)、マイケル・ニン(マリオ)、ギョン・トゥ(ロイ)、田邊和也(加藤)
時計修理工のマーは、アンティーク時計の修理の能力を生かして密かにレプリカを作って流している。老舗時計店の二代目ロイに偽造販売がばれてしまった。ロイは裏では盗難時計の売買をしており、マーに画家ピカソが遺した3つの時計を手に入れろと脅す。銀座の高級時計店に保管されている本物をレプリカと入れ替えるため、チームが作られた。リーダーのタイツァー、爆薬の専門家マリオ、鍵師のヤウ、そしてマー。4人はオークションが開催される東京へと飛び下調べをする。マーとヤウは銀座の時計店に顧客として入り込むことに成功した。
マーはピカソの時計が保管された金庫の中に、最初に月に到達した時計・ムーンウォッチを発見して息を飲む。値段のつけられない、アメリカの国宝とも言える時計がここにあった!やくざと繋がる日本の大富豪・加藤も乗り出しムーンウォッチを追う。
ボーイズグループMIRRORの3人アンソン・ロー、イーダン・ルイ、ギョン・トゥが中心メンバーです。アンティークの時計に魅せられているマー、母親の手術費用がほしいヤウ、裏社会で生き延びるため、躊躇なく古い手下を始末するロイ。いつのまにこんなに若手が育っていたの? 香港の芸能界の事情にすっかり疎くなっていました。
フレッシュな3人のほかに『星くずの片隅で』のヒロインを気遣う清掃業者役だったルイス・チョン、林雪を思い出すマイケル・ニンが、裏社会に関わることになってしまったマーとヤウを支えます。母親思いのヤウがたくましくなり、メガネ男子のマーは腕っぷしはさっぱりですが、ラストで見せるちゃっかり加減で笑わせます。タイトルにある「月」はマーと加藤が執心する「ムーンウォッチ」のこと。
銀座でも撮影が行われ、日本の俳優も多数出演しています。ロケに遭遇したかったなぁ。
エンドロールに流れる羅文の「心裡有個謎 」が懐かしいです。音楽を担った波多野裕介氏のアレンジで作中のシーンでも流れます。元歌は日本の歌手ザ・ピーナッツの「情熱の花」(1959)で、さらにこの原曲が「エリーゼのために」(1810/ベートーベン)なので、懐かしいのも道理。(白)
東京国際映画祭の合間の11月3日に恵比寿ガーデンシネマでやっている香港映画祭『バイタル・サイン』を観に行った時、チケットを取ってくれたKさんが、この『盗月者トウゲツシャ』の配給をしているサロンジャパンのMさんを紹介してくれて、「この映画の舞台挨拶が11月23日にあるので来ませんか?」と誘われたのですが、あいにく東京フィルメックスと重なっていて行けないので、白さんにお願いしました。映画だけ観させていただいたのですが、観てびっくり。今年の大阪アジアン映画祭で観ていました。タイトルも内容もすっかり忘れていたのです。なんてこったです。忘れっぽくなりました。
そして『盗月者トウゲツシャ』ですが、観ているうちに内容を思い出しました。「ボーイズグループMIRROR」のメンバーのうち3人が出ているとのことですが、大阪ではそのことは全然知りませんでした。今回、そのように書いてあったので、大阪アジアンのカタログを見たけど、こちらには「ボーイズグループMIRROR」のことは一言も触れていませんでした。今回、最近の香港の音楽シーンのことを、少し知りました。香港四天王が活躍した1990年代後半~2010年くらいまでは香港の音楽シーンについてもけっこう詳しかったのですが、最近はCDも買わなくなりました。このところ香港映画がけっこう日本で公開されていますが、映画界の新しい流れの中で出てきた新人たちの名前が覚えられません。
ちなみにこの映画、大阪で観て覚えていたのは、爆薬の専門家マリオ役の白只(マイケル・ニン)。顔が印象的でした。最後のどんでん返しが、いかにも香港の映画という感じ。騙し、騙されの構図は、ジョニー・トー作品を彷彿とさせます。大阪アジアン映画祭では、袁劍偉(ユエン・キムワイ)監督と日本の富豪役の田邊和也さんがQ&Aに登場。詳細は下記をごらんください(暁)。
大阪アジアン映画祭での『盗月者』トーク
☆MIRRORが大人気と本作をきっかけに知りました。MVがたくさんありました。
公式youtubeチャンネルはこちら。
2024年/香港/カラー/107分
配給:サロンジャパン、ポレポレ東中野
(C)Emperor Film Production Company Limited MakerVille Company Limited All Rights Reserved
https://pole2.work/tougetsusha/
★2024年11月22日(金)より池袋HUMAXシネマズほか全国ロードショー
こちらに23日の舞台挨拶記事がちょっとだけ
☆舞台挨拶ほぼ書き起こしはこちら
アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師
監督:上田慎一郎
原作:ハン・ジョンフン「Squad38 (38 사기동대)」
(邦題「元カレは天才詐欺師 〜38 師機動隊〜」)
脚本:上田慎一郎、岩下悠子
出演:内野聖陽(熊沢二郎)、岡田将生(氷室マコト)、川栄李奈(望月さくら)、森川葵(白石美来)、後藤剛範(村井竜也)、上川周作(丸健太郎)、鈴木聖奈(五十嵐薫)、真矢ミキ(五十嵐ルリ子)、皆川猿時(八木晋平)、神野三鈴(酒井恵美子)、吹越満(安西元義)、小澤征悦(橘大和)
熊沢二郎は生真面目で小心者、おまけに恐妻家である。税務署では波風立てないように穏便に勤めて来た。部下の望月さくらは、大きな脱税を暴こうとやる気満々で突進していく。そんなときに刑務所を出たばかりの天才詐欺師、氷室にまんまと大金をだまし取られてしまう。家族にも打ち明けられず、親友の警察官・八木の協力を得て氷室をつきとめると「脱税しているヤツから徴収してやるから許して」と持ち掛けられる。
犯罪に与することはできないと断りかける熊沢だったが、脱税王の橘には個人的な遺恨があった。
氷室が集めたくせ者ぞろいの詐欺チーム「アングリースクワッド」は熊沢を一員に加え、あの手この手でしかけていく。橘との騙しあいはどちらに軍配があがるのか?
韓国で大ヒットしたテレビドラマのリメイク。『カメラを止めるな!』の上田監督が直後から映画化のオファーを受けて取り組んでいた企画。『相棒』や『科捜研の女』などの脚本家・岩下悠子さんと練りに練った脚本は原作を短~くして2時間におさめ、無駄なく面白さ減らさず加えています。
内野さんは「家族思いの優しい税務署員」が勇気を振り絞って巨悪に向かう覚悟をして変わっていく様を、岡田さんは笑顔を絶やさず頭をフル回転させる「ワケあり詐欺師」を演じてさわやかです。あっさり氷室の詐欺にひっかかってしまう人の良い熊沢ですが、これは誰しも騙されそう。しかも人を傷つけません。脱税王相手の丁々発止はスリル満点で、手品のタネをあかすように見せてくれるラストは笑いながらも感心してしまいます。韓国ドラマでは税務署員はマ・ドンソク、天才詐欺師ソ・イングク、これも見たいですね。(白)
2024年/日本/カラー/120分
配給:NAKACHIKA PICTURES、JR西日本コミュニケーションズ
(C)2024アングリースクワッド製作委員会
https://angrysquad.jp/
★2024年11月22日(金)ほか全国ロードショー
雨の中の慾情
監督・脚本:片山慎三(『さがす』)
原作:つげ義春「雨の中の慾情」
出演:成田凌
中村映里子 森田剛
足立智充 中西柚貴 松浦祐也 梁秩誠 李沐薰 伊島空
李杏 / 竹中直人
土砂降りのバス停。雨宿りする女に、「金物をつけていると雷に打たれる」と注意して、一枚、また一枚と服を脱ぎ、下着姿で泥まみれになって絡み合う・・・
奇妙な夢から覚めた売れない漫画家の義男は、夢を漫画に起こそうと机に向かう。そこへ大家の尾弥次から、引っ越しの手伝いに駆り出される。小説家志望の伊守と3人で向かうと、その家の寝室には、一糸まとわぬ姿で寝ている美しい未亡人の福子がいた。思わず見とれてスケッチを始める義男。目覚めた福子は、「触るんじゃなく描くのですね」と声をかける。
町の喫茶ランボウで働き始めた福子のもとには、老いも若きも男たちが通い詰める。義男もべた惚れ状態で、伊守にからかわれるが、ある日、伊守から「福子と付き合っている」と打ち明けられる。やがて伊守と福子が義男の家に転がり込んできて、3人の奇妙な共同生活が始まる・・・
漫画家・つげ義春の短編「雨の中の慾情」をもとに、片山慎三監督が作り上げた独創性あふれる数奇なラブストーリー。
義男の住む貧しい北町から、南北検閲所を抜けて豊かな南町に行くという場面があって、いつの時代の、どこの国なのかも明かされないのですが、とても不思議なシチュエーションでした。ほぼ全編を台湾で撮影していて、南町にある白亜の豪邸は、実際にある建物なのだそうです。
戦時中の野戦病院のような場面もあって、どこまでが現実なのか、夢なのか、くらくら。
竹中直人さんの、怪しげな大家ぶりが可笑しかったです。
東京国際映画祭のコンペティション部門に選ばれ、2024年10月30日10時からのジャパンプレミアの上映後、舞台挨拶とQ&Aが行われました。
成田凌さんび「朝早くから観る映画じゃないですね」「台湾での撮影が大変というより、片山監督の現場だから大変。でも楽しんだから大丈夫」という言葉が印象に残りました。(咲)
2024年製作/132分/R15+/日本・台湾合作
製作:映画『雨の中の慾情』製作委員会
配給:カルチュア・パブリッシャーズ
公式サイト:https://www.culture-pub.jp/amenonakanoyokujo/
★2024年11月29日(金) TOHOシネマズ日比谷ほかにて公開
2024年11月17日
リュミエール!リュミエール! 英題:LUMIERE! THE ADVENTURE CONTINUES
監督・脚本・編集・プロデューサー・ナレーション:ティエリー・フレモー
(リュミエール研究所所長、カンヌ国際映画祭総代表) 『リュミエール!』(17)
音楽:ガブリエル・フォーレ
エグゼクティブ・プロデューサー:マエル・アルノー、
アソシエイト・プロデューサー:ナタナエル・カルミッツ(MK2)、
プロダクション・マネージャー:マーゴット・ロッシ、
編集:ジョナサン・カヴシアル、シモン・ジェメリ、
映画史アドバイザー:ファブリス・カルゼトーニ、ジャン・マルク・ラモット、
プロダクション:ソルティ―・ユージーヌ・プロダクション、リュミエール研究所
1895年12月28日パリ、ルイ&オーギュスト・リュミエール兄弟が発明した“シネマトグラフ”で撮影された映画が世界で初めて有料上映された。それから130年後の今、‟映画の父”リュミエール兄弟の作品が、より深く、より美しく、完璧に蘇る。前作『リュミエール!』(17)に続き、リュミエール研究所所長・カンヌ国際映画祭総代表のティエリー・フレモー氏による後世に残すべき歴史的映像の集大成。そこに映し出されるのは、130年前に息づく人々、当時の世界の町並み、パリ、ニューヨーク、東京、京都・・・。それは、悠久の時を感じることのできる貴重な映像体験。
歴史的映像を彩るのは、リュミエール兄弟と同時代に生きたガブリエル・フォーレによる楽曲の数々。未来に想いを馳せる奇跡の映像の数々が、130年前の世界へ誘うーーそれは、映像の楽しさ、驚き、興奮のはじまり。
誰も観たことのない50秒、そして感動は永遠となった。
<章題>
「1894年 映像に命を吹き込む」 1894, ANIMER LES IMAGES
「1895年 映像を投影する」 1895, PROJETER LES IMAGES
「1896年 観客を作り出す」 1896, INVENTER LE PUBLIC
「軍隊の時代」 LES TEMPS MILITAIRES…
「街角で 田舎で 群衆の中で」DANS LES RUES, DANS LES CAMPAGNES, PARMI LES FOULES
「はるか彼方の土地」 TERRES LOINTAINES
「世界の希望」 PROMESSE DU MONDE
「列車と旅 船と浜辺」 TRAINS ET VOYAGES BATEAUX ET RIVAGES
「コメディアン!」 COMEDIENS !
「映画が発明するもの (シネマトグラフの美)」 CE QUE LE CINEMA INVENTE
「死は絶対的なものでなくなるだろう」 LA MORT CESSERA D’ETRE ABSOLUE
「リュミエール冒険は続く」 LUMIERE L'AVENTURE CONTINUE
一つの作品が50秒程度という短いものなのに、日常生活を捉えた一つ一つの映像から、120~130年前に生きていた人たちの息遣いが伝わってきて、不思議な感動を覚えました。映像は一瞬を捉えただけなのに、そこに映っている一人一人に、違う人生があることを思いました。
交通手段は、まだ馬車や馬の曳く鉄道が中心だった130年前から、自転車や汽車が出てきて、時代の移ろいも見せてくれます。
映像は、時代を映し出す鏡。130年前にシネマトグラフを作り出してくれたリュミエール兄弟に感謝です。(咲)
2024年/フランス/フランス語/105分/ビスタ/5.1chデジタル/モノクロ
字幕翻訳:高部義之、字幕監修:古賀太
後援:在日フランス大使館、アンスティチュ・フランセ日本
提供:ギャガ、ティー ワイ リミテッド
配給:ギャガ
公式サイト: https://gaga.ne.jp/lumiere2/
★2024年11月22日(金)シネスイッチ銀座他全国順次公開
地獄でも大丈夫 原題:지옥만세 英題:Hail to Hell
監督・脚本:イム・オジョン
出演:オ・ウリ、パン・ヒョリン、チョン・イジュ、パク・ソンフン
このままじゃ死ねない。死ぬ前にチェリンに復讐するのはどう?
二人だけの決死の修学旅行がはじまる・・・
いじめに悩まされてきた女子高生ナミとソヌ。クラスメイトとの修学旅行に行かずに自殺を図ろうとするも断念。2人は死ぬ前に、自分たちをいじめたリーダーで、今はソウルで幸せに暮らしているらしいチェリンに復讐しようと、2人だけの修学旅行に出かける。見つけ出した最悪のいじめっこチェリンは、新興宗教に出会って、女神のような善人に変わっていた。ナミとソヌは彼女が改心するきっかけとなったインチキくさい宗教団体の施設で過ごすことになる。
しかし、 ここにもいじめられっ子はいて・・・。
二人の決死の復讐計画は果たして実行されるのか?!
イム・オジョン監督
1982年生まれ。中央大学校で写真を専攻した後、韓国芸術総合学校映像院映画科に入 学。在学中に作った短編「嘘」はミジャンセン短編映画祭“愛に関する短いフィルム”最優 秀作品賞を受賞。その後「それ以上でもなく、それ以下でもなく」が全州国際映画祭に招 待され、監督としての頭角を表す。オムニバス「真昼のピクニック」の3番目のエピソード 「私が必要なら電話して」が評論家と観客の目に留まり、いよいよ初の長編デビュー作 「Hail to Hell」を完成させた。
30代女性の話(「私が必要なら電話して」)から10代の少女たちの話(『地獄万歳』)まで 幅広い女性キャラクターを扱う彼女は、明るく走り回る少女たちの躍動感を今回の映画 に盛り込みたかったと話す。
冒頭、チェリン率いる一団に、バースデーケーキを顔に押し付けられるソヌ。新しい携帯も奪い取られます。ナミもまたいじめられていて、食堂を営む母親に修学旅行に行きたくないと訴えます。楽しいはずの修学旅行に行きたくないなんて・・・
水が抜かれた大きな湯舟で、自殺しようと話すナミとソヌ。窓の外では温泉祭の花火があがっていますが、いじめのリーダーだったチェリンが遊園地の倒産で逃げたと思ったらソウルで幸せにしているらしいという話が出てきて、どうやらこの温泉町は斜陽のよう。
ソウルで見つけたチェリンは、新興宗教の集団生活の場にいて、いつも笑顔の若い男ミョンホが皆を取りまとめています。チェリンはボランティアに励めば楽園に行けると信じて、ミョンホを慕っている様子。ナミとソヌは、穏やかな面持ちで暮らすチェリンを前に、どうしたものかと戸惑うのですが、そうするうちにこの集団の正体が見えてきます。
いじめていたチェリンにも心に傷があるよう。いじめるのは、逆に自分に自信がないから?
いじめられる者だけでなく、いじめた者にも傷を残します。一生の中で、学校で暮らす十代の短い期間は、楽しい思い出に満ちたものであってほしいと願います。(咲)
2022年/韓国/韓国語/109分/カラー/5.1ch/DCP
製作:韓国映画アカデミー(KAFA)
配給:スモモ
公式サイト:https://www.sumomo-inc.com/okiokioki
★2024年11月23日(金・祝)より渋谷・ユーロスペースほか全国順次公開
2024年11月14日
対外秘 原題:대외비(対外秘) 英題:THE DEVIL'S DEAL
監督:イ・ウォンテ(『悪人伝』)
出演:チョ・ジヌン、イ・ソンミン、キム・ムヨル
国家を転覆させる極秘文書を奪え!
権力闘争の表と裏を描き切る絶対予測不能サスペンス
1992年、釜山。党の公認候補を約束されたヘウンは、国会議員選挙への出馬を決意する。ところが、陰で国をも動かす黒幕のスンテが、選挙直前になって、公認候補を自分の言いなりになる男に変える。激怒したヘウンは、釜山地域再開発計画に関する〈対外秘文書〉を手に入れ、チームを組んだギャングのピルドから選挙資金を得て無所属で出馬する。地元・海雲台の人々からの絶大な人気を誇るヘウンは圧倒的有利に見えたが、対外秘文書をヘウンが入手したことを知ったスンテが戦慄の逆襲を仕掛ける。だが、この選挙は、国を揺るがす壮絶な権力闘争の始まりに過ぎなかった・・・
日本では衆議院議員総選挙、アメリカでは大統領選挙が行われたばかりですが、選挙の当落は、裏で何がうごめいているのか、開けてみるまでわからないのが常。立候補した人は、投票日前の最後の最後まで「お願い」の声をあげますが、それほどまでして政治家になりたいのは、庶民の為というより、富と権力の為と思わせられることが多いような気がしてしまいます。
チョ・ジヌンさん演じるヘウンは、地元の海雲台の為に国会議員になりたいという熱血漢だったはずなのに、だんだん黒幕スンテの思惑にはまっていきます。スンテを演じたイ・ソンミンさん、温和な人柄の役が多いのに、本作では凄みを見せていて、さすが役者です。
キム・ムヨルさん演じるピルドは、暴力団なのに、どこか庶民派的なものを感じて、憎めません。
タイトルになっている<対外秘> は、釜山地域再開発計画の地図。再開発予定地を前もって知って、その土地を買い占めるということは、あちこちで行われて、甘い蜜を吸っている人たちがいそうです。(咲)
『対外秘』は、第37回 東京国際映画祭で特別上映され、舞台挨拶にイ・ウォンテ監督、チョ・ジヌン、キム・ムヨルの3人が登壇しました。
一緒に登壇できなかったイ・ソンミンさんについて、「最高です! 何度も共演してお兄さんのよう。後輩にも優しいです」とチョ・ジヌンさん。上映前でしたので、映画で凄みのあるイ・ソンミンさんを見た観客はびっくりだったでしょう。やっぱり役者ですねぇ!
2023年/韓国/韓国語/116分/カラー/スコープ/5.1ch
字幕翻訳:鷹野文子
配給:キノフィルムズ
公式サイト:https://www.taigaihi.jp/
★2024年11月15日(金)シネマート新宿、ヒューマントラストシネマ渋谷 他全国公開
特集企画「ベット・ゴードン エンプティ ニューヨーク」『ヴァラエティ』『エンプティ・スーツケース』『エニバディズ・ウーマン』
米国インディペンデント映画の先駆者の一人、ベット・ゴードン。1970年代末から80年代にニューヨークのアンダーグラウンドで起こった音楽やアートのムーブメント「ノー・ウェイヴ」周辺で活動した映画作家であり、「セクシュアリティ」「欲望」「権力」をテーマにした大胆な探求と創作を行っている。
この度、長編第一作『ヴァラエティ』に併せて、中編『エンプティ・スーツケース』と短編『エニバディズ・ウーマン』が一挙劇場公開されます。
公式サイト:https://punkte00.com/gordon-newyork/
★2024年11月16日(土)、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
ベット・ゴードン
BETTE GORDON
1950年6月22日生まれ。ウィスコンシン大学マディソン校にて学士号、修士号、芸術修士号を取得。1970年代に実験映画の制作を開始。初期の作品はマイケル・スノウなどの映画作家による「構造映画」に触発されたもので、ジェームズ・ベニングと共同制作がなされた。1970年代末からニューヨークで活動。前衛映画の拠点であった「Collective for Living Cinema」で働きつつ、アンダーグラウンドで起こった音楽やアートのムーブメント「ノー・ウェイヴ」周辺で活動。セクシュアリティ、欲望、権力をテーマに大胆な探求と創作を行う。長編第一作『ヴァラエティ』(1983) は、カンヌ国際映画祭「監督週間」で上映された。いくつかの監督作品は、ホイットニー美術館、ポンピドゥー・センター、ベルギー王立映画アーカイブ、英国映画協会、MoMA、アンソロジー・フィルム・アーカイブスの常設コレクションに収蔵されており、米国のインディペンデント映画の先駆者として再評価が進んでいる。現在、コロンビア大学芸術学部映画学科で教鞭を取っている。
『ヴァラエティ』 原題:Variety ★国内劇場初公開
監督・原案:ベット・ゴードン
脚本:キャシー・アッカー(『血みどろ贓物ハイスクール』)
製作:ルネ・シャフランスキー
撮影:トム・ディチロ、ジョン・フォスター
編集:イラ・フォン・ハスペルク
音楽:ジョン・ルーリー
出演:サンディ・マクロード、ウィル・パットン、リチャード・デヴィッドソン、ルイス・ガスマン、ナン・ゴールディン、クッキー・ミューラー
なかなか思うような仕事につけないクリスティーン(サンディ・マクロード)。タイムズ・スクエア近くのポルノ映画館「Variety」のチケット売りの仕事につく。2ドルの入場料を払って中に入っていく男たち。ある日の休憩時間、自動販売機で購入したコーラをこぼしてしまう。身なりのいい紳士ルイがコーラを差し出してくれる。食事に誘われ、次には野球観戦に誘われる。ヤンキースタジアムで観戦している途中で、ルイは「急用が出来た、先に帰るが迎えの車を回す」と言って出ていく。クリスティーンはルイの後をつけていく。
魚市場やゲームコーナー・・・ 何やら取引しているらしいルイ。モーテルの隣の部屋に泊まり、不在中に鞄の中を探る・・・
クリスティーンは地方からNYに出てきた若い女性。女友達との会話で、写真家になりたいこと、教職の資格を持っていてもNYでは無効、思うような仕事につけないことが語られます。そんな中で得たのが、ポルノ映画館の窓口。時々垣間見るポルノ映画や、映画を観る男たちの生態・・・
やがて親しくなった紳士ルイの行動を追うクリスティーン。怖いもの知らずで追うクリスティーンに、ドキドキさせられました。さて、ルイの正体は? (咲)
1983年/米国/100分/2K修復
ベット・ゴードン監修によるオリジナルネガをもとにした2K修復版
日本語字幕:西山敦子
『エンプティ・スーツケース』 原題:Empty Suitcases ★国内劇場初公開
監督:ベット・ゴードン
撮影補:デヴィッド・ワーナー/録音補:ヘレン・カプラン/脚本補:カリン・ケイ
出演:ローズマリー・ホックシールド、ロン・ヴォーター、ヴィヴィアン・ディック、ナン・ゴールディン、ヤニカ・ヨーダー、ジェイミー・マクブレイディ、ベット・ゴードン/声:リン・ティルマン、カリン・ケイ、アネット・ブレインデル、ドロシー・ザイドマン、マーク・ブーン・ジュニア
職場のあるシカゴと恋人がいるニューヨーク。2つの都市を行き来する女性が抱える疎外感と孤立感が考察される実験的で闘争的な作品。国際映画祭などで上映され高い評価を得た。
スーツケースに衣類などを詰める女性。もう一つのスーツケースは空のまま。遠距離恋愛で、ニューヨークとシカゴを行き来している。一方で、時限爆弾を作ることが並行して語られ、え? この映画はどこへ? (咲)
1980/米国/52分
日本語字幕:西山敦子
『エニバディズ・ウーマン』原題:Anybody's Woman ★国内劇場初公開
監督:ベット・ゴードン
出演:ナンシー・レイリー、スポルディング・グレイ、マーク・ブーン・ジュニア、トム・ライト/ナレーション:カリン・ケイ
長編『ヴァラエティ』に先駆けて、ニューヨークのポルノ映画館「Variety」を舞台に作られた短編作品。タイトルは、サイレント期から活躍した女性映画監督ドロシー・アーズナーによる1930年製作の同名のハリウッド映画作品に由来する。
長編『ヴァラエティ』に出てきたポルノ映画館「Variety」の前に止まった車から降りていた男性が女性にキスして、すぐまた車に戻って立ち去ります。印象的な始まり。
女性が家に帰り、電話が鳴り、受話器を取るといきなり卑猥な話をする男。また電話が鳴り、またかと思うと、今度は明日10時に劇場でとお誘い。
百万長者の男と億万長者の男。億万長者の男は、妻がさらに金持ちの男のもとへ行ってしまい、泥酔している。百万長者の男が換気しようと窓を開けると、窓際にスリップ姿で座る二人の女の会話が聞こえてくる・・・
翌日10時。劇場のカフェで、女が一方的に語るエロい話を黙ってきく男・・・
なんとも大胆な24分! (咲)
1981年/米国/24分
日本語字幕:西山敦子
2024年11月10日
パルバティ・バウル~黄金の河を渡って 英題:Parvathy Baul〜Cross the Golden River
アップリンク吉祥寺 2024年11/15(金)~上映
今後の上映予定12月7日(土)〜@大阪・セブンシアター
12月14日(土)〜名古屋・シネマスコーレ
インドの吟遊行者~パルバティ・バウルが日印に共通する“修行”の世界を歌舞で表現するドキュメンタリー
古来 人間には二種類あるという。“修行者”と“それ以外”
両者の間に流れるといわれる黄金の河。
バウルは8世紀からインド・ベンガルに受け継がれる“修行”の伝統をもつ吟遊行者。
彼女が発する“歌ごえ”は、修行に裏打ちされた“いのちの顕れ”。
渡河した者だけが知る豊穣な世界の在り処を、彼女はその“歌舞”から示してくれる。
圧倒的な存在感と響く歌ごえ、それはひと筋の光となって私たちの心を照らし出す。
監督・制作:阿部櫻子
出演:Parvathy Baul Kanai Das Baul 藤田一照 梶原徹也 阿部一成
音楽: Parvathy Baul 梶原徹也 阿部一成
音楽:Parvathy Baul 梶原徹也 阿部一成
撮影:大谷耕太朗 阿部櫻子 村松辰哉
ナレーション:阿部櫻子
編集:阿部櫻子 田中藍子
歌詞翻訳:Parvathy Baul Tomomi Paromita Erick Gibson Sakurako Abe Saraswati Yogini
べンガル語&ヒンディー語翻訳:Tomomi Paromita Sakurako Abe Sudip Singha
英語翻訳:Tomomi Paromita Erick Gibson Sakurako Abe
Woodcuts & Paintings:Parvathy Baul (Sanatan Siddhashram) Ravi Gopalan Nair (Ekathara Kalari)
イラスト:伊藤武
録音:甲斐隆幸 大谷耕太朗
サウンドデザイン&ミックス:吉田茂一
カラーグレーディング:織山臨太郎
字幕デザイン:藤井遼介
Sanatan Das Footage Courtesy:Charles Steiner/Vagabond Video
Provide Materials:CACTUS Co.,Ltd Pixta Co.,Ltd 1/3 さいたま市教育委員会
宣伝美術:島田薫
インドで30 年近く、歌う修行の道を歩んできたパルバティ・バウル。バラモン階級(カースト制度、頂点の階級)に生まれたパルバティだが、16歳の時にあるきっかけからバウル(宗教にもカースト制にもしばられない人々)の吟遊行者となり、30年近くにわたって歌う修行の道を歩んできた。バラモン階級に生まれたパルバティはインドでもなかなか理解されず、困難な道を歩んだ末、グル(師)になった。
彼女は、日印に共通する「修行」という文化に出会うため、2023 年11 月に来日、3週間に渡って「岩手・一遍上人の光林寺」「花巻の大償神楽」「那智大社・飛瀧神社」「大阪・岸和田の杉江能楽堂」など、日本の修行文化の息づく地で奉納演奏を行った。
彼女が発する歌ごえは修行に裏打ちされた「いのちの顕れ」、渡河した者だけが知る豊穣な世界の在り処を、パルバティはその歌舞で表現する。彼女は歌をうたうことや舞うことについて、「芸能者」ではなく「修行者」として表現する。
プレス資料より
【阿部櫻子監督コメント】
パルバティ・バウルは“黄金の河を渡った人”だ。“河”とは“修行者”と“修行者でない者”を隔てる黄金の河のこと。この映画はその河の両岸を結ぶために、製作が始められた。しかし“修行”という世界は、“解説”や“説明”とは本質的に異なる世界。橋を掛けようにも、共通の言葉があるようでなく、ないようでもあり・・・到底、簡単には理解できない。二つの岸辺に住む人々は、そもそも目指しているものがまるで違うのだ…。とはいえ、バウルの世界は意味がないものではなく、むしろその理解できない豊かな世界が、今もなお現代にあることが救いに思える。パルバティの生き方、そして言葉には、私たちの考え方を根底から見直す力を秘めている。
【バウルとは?】
バウルとは、インドの西ベンガル州とはバングラデシュにいる吟遊行者のこと。2008 年、UNESCO の世界無形文化遺産に登録された。托鉢をしながら、独特の哲学を反映した歌をうたい、舞い踊る。仏教やイスラーム神秘主義、ヒンドゥーなど、様々な伝統の影響を受けながらも、どの宗教宗派にも属さず、師弟相伝で受け継がれてきた。バウルは歌う行者であり人前で歌いながらも、芸能者ではなく、あくまでも歌や舞を術とした「修行者」である。
阿部櫻子監督がインドに留学(本人は遊学と言っていたが)していた30年以上前、大学受験に失敗した15歳のパルバティが、彼女の住んでいたところに、一緒に住まわせてほしいとやって来て、友人になったという。30年後彼女はパルバティ・バウルとなっていたことを知ったと語っていた。パルバティの友人でもある阿部櫻子監督が、2019年製作のドキュメンタリー『The Path パルバティ・バウル 風狂の歌ごえ』に続いて手がけた。こういう世界があるというのを全然知らなかった。目からウロコだった。“黄金の河を渡った人”とは「悟りを開いた」ということなのだろう(暁)。
公式HP:https://www.sakhipro.com/
制作協力:美竹遊民舎 渡辺美智子
制作著作:サキプロ 2024
日本 DCP 109分
アップリンク吉祥寺 ゲスト情報
11 ⽉15 ⽇(⾦):監督・阿部櫻⼦
11 ⽉16 ⽇(⼟):中納良恵(EGO-WRAPPIN'ヴォーカリスト)×監督・阿部櫻⼦
11 ⽉17 ⽇(⽇):外川昌彦(⽂化⼈類学者 東京外国語⼤学教授)×監督・阿部櫻⼦
11 ⽉18 ⽇(⽉):SUGAR(占星術師)×監督・阿部櫻⼦
11 ⽉19 ⽇(⽕):寺原太郎(北インド古典⾳楽奏者)×パロミタ友美(パルバティ・バウル弟⼦)×監督・阿部櫻⼦
11 ⽉20 ⽇(⽔):梶原徹也(元THE BLUE HEARTS ドラマー)×監督・阿部櫻⼦
11 ⽉21 ⽇(⽊):藤⽥⼀照(曹洞宗 僧侶)×監督・阿部櫻⼦
11 ⽉24 ⽇(⽇):⽥中真知(作家 あひる商会CEO)×監督・阿部櫻⼦
11 ⽉26 ⽇(⽕):監督・阿部櫻⼦
11 ⽉28 ⽇(⽊):⼭⼝智⼦(俳優)×井⽣明(フォトグラファー まちかど倶楽部)×監督・阿部櫻⼦
今後の上映予定12月7日(土)〜@大阪・セブンシアター
12月14日(土)〜名古屋・シネマスコーレ
インドの吟遊行者~パルバティ・バウルが日印に共通する“修行”の世界を歌舞で表現するドキュメンタリー
古来 人間には二種類あるという。“修行者”と“それ以外”
両者の間に流れるといわれる黄金の河。
バウルは8世紀からインド・ベンガルに受け継がれる“修行”の伝統をもつ吟遊行者。
彼女が発する“歌ごえ”は、修行に裏打ちされた“いのちの顕れ”。
渡河した者だけが知る豊穣な世界の在り処を、彼女はその“歌舞”から示してくれる。
圧倒的な存在感と響く歌ごえ、それはひと筋の光となって私たちの心を照らし出す。
監督・制作:阿部櫻子
出演:Parvathy Baul Kanai Das Baul 藤田一照 梶原徹也 阿部一成
音楽: Parvathy Baul 梶原徹也 阿部一成
音楽:Parvathy Baul 梶原徹也 阿部一成
撮影:大谷耕太朗 阿部櫻子 村松辰哉
ナレーション:阿部櫻子
編集:阿部櫻子 田中藍子
歌詞翻訳:Parvathy Baul Tomomi Paromita Erick Gibson Sakurako Abe Saraswati Yogini
べンガル語&ヒンディー語翻訳:Tomomi Paromita Sakurako Abe Sudip Singha
英語翻訳:Tomomi Paromita Erick Gibson Sakurako Abe
Woodcuts & Paintings:Parvathy Baul (Sanatan Siddhashram) Ravi Gopalan Nair (Ekathara Kalari)
イラスト:伊藤武
録音:甲斐隆幸 大谷耕太朗
サウンドデザイン&ミックス:吉田茂一
カラーグレーディング:織山臨太郎
字幕デザイン:藤井遼介
Sanatan Das Footage Courtesy:Charles Steiner/Vagabond Video
Provide Materials:CACTUS Co.,Ltd Pixta Co.,Ltd 1/3 さいたま市教育委員会
宣伝美術:島田薫
インドで30 年近く、歌う修行の道を歩んできたパルバティ・バウル。バラモン階級(カースト制度、頂点の階級)に生まれたパルバティだが、16歳の時にあるきっかけからバウル(宗教にもカースト制にもしばられない人々)の吟遊行者となり、30年近くにわたって歌う修行の道を歩んできた。バラモン階級に生まれたパルバティはインドでもなかなか理解されず、困難な道を歩んだ末、グル(師)になった。
彼女は、日印に共通する「修行」という文化に出会うため、2023 年11 月に来日、3週間に渡って「岩手・一遍上人の光林寺」「花巻の大償神楽」「那智大社・飛瀧神社」「大阪・岸和田の杉江能楽堂」など、日本の修行文化の息づく地で奉納演奏を行った。
彼女が発する歌ごえは修行に裏打ちされた「いのちの顕れ」、渡河した者だけが知る豊穣な世界の在り処を、パルバティはその歌舞で表現する。彼女は歌をうたうことや舞うことについて、「芸能者」ではなく「修行者」として表現する。
プレス資料より
【阿部櫻子監督コメント】
パルバティ・バウルは“黄金の河を渡った人”だ。“河”とは“修行者”と“修行者でない者”を隔てる黄金の河のこと。この映画はその河の両岸を結ぶために、製作が始められた。しかし“修行”という世界は、“解説”や“説明”とは本質的に異なる世界。橋を掛けようにも、共通の言葉があるようでなく、ないようでもあり・・・到底、簡単には理解できない。二つの岸辺に住む人々は、そもそも目指しているものがまるで違うのだ…。とはいえ、バウルの世界は意味がないものではなく、むしろその理解できない豊かな世界が、今もなお現代にあることが救いに思える。パルバティの生き方、そして言葉には、私たちの考え方を根底から見直す力を秘めている。
【バウルとは?】
バウルとは、インドの西ベンガル州とはバングラデシュにいる吟遊行者のこと。2008 年、UNESCO の世界無形文化遺産に登録された。托鉢をしながら、独特の哲学を反映した歌をうたい、舞い踊る。仏教やイスラーム神秘主義、ヒンドゥーなど、様々な伝統の影響を受けながらも、どの宗教宗派にも属さず、師弟相伝で受け継がれてきた。バウルは歌う行者であり人前で歌いながらも、芸能者ではなく、あくまでも歌や舞を術とした「修行者」である。
阿部櫻子監督がインドに留学(本人は遊学と言っていたが)していた30年以上前、大学受験に失敗した15歳のパルバティが、彼女の住んでいたところに、一緒に住まわせてほしいとやって来て、友人になったという。30年後彼女はパルバティ・バウルとなっていたことを知ったと語っていた。パルバティの友人でもある阿部櫻子監督が、2019年製作のドキュメンタリー『The Path パルバティ・バウル 風狂の歌ごえ』に続いて手がけた。こういう世界があるというのを全然知らなかった。目からウロコだった。“黄金の河を渡った人”とは「悟りを開いた」ということなのだろう(暁)。
公式HP:https://www.sakhipro.com/
制作協力:美竹遊民舎 渡辺美智子
制作著作:サキプロ 2024
日本 DCP 109分
アップリンク吉祥寺 ゲスト情報
11 ⽉15 ⽇(⾦):監督・阿部櫻⼦
11 ⽉16 ⽇(⼟):中納良恵(EGO-WRAPPIN'ヴォーカリスト)×監督・阿部櫻⼦
11 ⽉17 ⽇(⽇):外川昌彦(⽂化⼈類学者 東京外国語⼤学教授)×監督・阿部櫻⼦
11 ⽉18 ⽇(⽉):SUGAR(占星術師)×監督・阿部櫻⼦
11 ⽉19 ⽇(⽕):寺原太郎(北インド古典⾳楽奏者)×パロミタ友美(パルバティ・バウル弟⼦)×監督・阿部櫻⼦
11 ⽉20 ⽇(⽔):梶原徹也(元THE BLUE HEARTS ドラマー)×監督・阿部櫻⼦
11 ⽉21 ⽇(⽊):藤⽥⼀照(曹洞宗 僧侶)×監督・阿部櫻⼦
11 ⽉24 ⽇(⽇):⽥中真知(作家 あひる商会CEO)×監督・阿部櫻⼦
11 ⽉26 ⽇(⽕):監督・阿部櫻⼦
11 ⽉28 ⽇(⽊):⼭⼝智⼦(俳優)×井⽣明(フォトグラファー まちかど倶楽部)×監督・阿部櫻⼦
2024年11月07日
ネネ -エトワールに憧れて- 原題:Neneh Superstar
監督・脚本:ラムジ・ベン・スリマン
出演:オウミ・ブルーニ・ギャレル、マイウェン、アイサ・マイガ、スティーヴ・ティアンチュー、セドリック・カーン、レオノール・ポラック
パリ郊外の団地で暮らす12歳の黒人の女の子ネネ。
ラップにあわせて踊りながら駅に向かったと思ったら、ホームでは片足をすっとあげてバレエのポーズ。父に付き添ってもらってパリ・オペラ座バレエ学校の入学試験に向かう。白人ばかりの受験生の中で、最終試験に残り、憧れのパリ・オペラ座の最高位“エトワール”だった校長マリアンヌの前で見事な踊りをみせる。バレエ団の総監督が最高点合格と言う中、マリアンヌは「バレエは白人のもの」と懸念を示す。それでもネネは入学を許され、厳しい練習の日々が始まる。公開授業で白雪姫を上演することになるが、「上手いけど白雪姫は黒人じゃない」とネネは同級生たちからいじめられる。そんなある日、ネネは憧れのマリアンヌの隠された出自を知る・・・
2024年3月 横浜・フランス映画祭に正式出品され、その折に、ラムジ・ベン・スリマンという監督のお名前と、黒人の少女がパリオペラ座のバレエ学校に挑戦するという話に興味を持ち、監督にインタビューのお時間もいただいていたのですが、体調を崩され来日できず、取材は叶いませんでした。監督はフランス生まれですが、お名前からして、ルーツは北アフリカとお見受けし、そのことがこの映画にも反映されていると思った次第です。
黒人の少女が、白人世界と思われていたバレエに挑戦する物語がメインと思っていたら、かつてエトワールに上り詰め、校長をしているマリアンヌにも誰にも言えない秘密があって、この映画の核になる話でした。
ネネが通う郊外の学校で、同級生たちに「団地を出れば、黒人やアラブ系が、どれほどひどい扱いをされるかわかる」という場面がありました。 世界は、多様な人たちが共存するどころか、人種や宗教、貧富の差などによって、ますます分断しているのを感じます。
この映画が多様な人たちの共存に繋がるヒントになってほしいと願います。(咲)
2024年3月 横浜・フランス映画祭正式出品
2022年/フランス/97分
字幕翻訳:星加久実
配給:イオンエンターテイメント
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ/ユニフランス
公式サイト:https://neneh-cinema.com/
★2024年11月8日(金)より全国公開
動物界 原題:LE RÈGNE ANIMAL 英題:THE ANIMAL KINGDOM
監督・脚本:トマ・カイエ
出演:ロマン・デュリス、ポール・キルシェ、アデル・エグザルコプロス
人間が様々な動物に変異する奇病が蔓延している近未来。“新生物”となった者たちは、凶暴性ゆえに施設で隔離されている。フランソワの妻ラナもその一人だ。ある日、移送中に事故が起こり、輸送車から新生物たちが野に放たれたことを知る。フランソワは16歳の息子エミールとともにラナの行方を必死に探す。やがて、エミールの身体に変化が出始める…。人間と新生物の分断が激化するなかで、親子が下した最後の決断とは——?
奇病に侵され何に変異するかは人さまざま。徐々に変異するので、まだ人の心を忘れてない場合もあるのです。なんとも不思議な世界。何に変異するのか自分で選べればいいけれど、そういうわけでもないのがつらいところ。ロマン・デュリス演じるフランソワが家族を思う気持ちがとても優しくて、おぞましい世界を描いた映画なのに、少しほっとさせられました。さて、フランソワたちが、どんな姿のラナと出会えたのかは、ぜひ劇場で!(咲)
2023年/フランス・ベルギー/フランス語/128分/カラー/スコープサイズ/DCP
字幕翻訳:東郷佑衣
配給:キノフィルムズ 提供:木下グループ
公式サイト:https://animal-kingdom.jp
★2024年11月8日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷他にて公開
イル・ポスティーノ 4Kデジタル・リマスター版 原題:Il postino
(C)R.T.I. S.p.A.–Rome, Italy, Licensed by Variety Distribution S.r.l–Rome, Italy, All Rights reserved.
監督:マイケル・ラドフォード
音楽:ルイス・エンリケス・バカロフ
原作:アントニオ・スカルメタ
出演:マッシモ・トロイージ、フィリップ・ノワレ、マリア・グラツィア・クチノッタ
イタリア、ナポリの沖合いに浮かぶ小さな緑溢れる島。貧しい漁師の父親と二人暮らしのマリオ(マッシモ・トロイージ)。漁師が好きじゃないマリオに、父は何か仕事を見つけろという。そんなある日、「郵便配達人募集。要自転車」の貼紙を見つけて応募し採用される。チリから亡命してきて島のはずれに滞在することになった高名な詩人パブロ・ネルーダ(フィリップ・ノワレ)に手紙を届ける専任の配達人の仕事だ。サインが欲しくて、彼の詩集を購入し、読んでみる。毎日、郵便物を届けて話すうちに、次第に詩人と心を通わせるようになる。自分も詩人になれたらと話すと、海に向かって歩いていくといいといわれる。そんなある日、マリオは港のバーで働くベアトリーチェ(マリア・グラツィア・クチノッタ)に一目惚れする。恋をしたと話すと、詩人は「ベアトリーチェに会いに行こう!」と、彼の恋を応援してくれる。パブロを立会人に二人の結婚式が行われている最中、チリ当局の逮捕命令が取り消されたとの手紙が届き、パブロは国に帰ることになる・・・
パブロ・ネルーダ
チリを代表する国民的な詩人であり、外交官、政治家。2024年はネルーダ生誕120周年にあたる。
ネルーダは、16歳でパブロ・ネルーダというペンネームで詩を書き始め、24年官能的な愛の詩集「二十の愛の詩とひとつの絶望の歌」を出版。
20代から外交官としてアジア各地を遍歴し、34年スペインに赴任、スペイン内戦を目の当たりにし共産主義に接近。45年にチリ共産党に入党するが、48年に議員資格をはく奪され、国外逃亡を余儀なくされる。このころのイタリア亡命時代を題材に『イル・ポスティーノ』が作られている。50年には詩集「大いなる歌」を刊行。
52年、逮捕令が解けてチリに帰国。70年には共産党から大統領候補に推されるが辞退し、チリは世界で初めて民主的な選挙によって社会主義政権が誕生。駐仏大使中の71年にノーベル文学賞を受賞するが、病気のため大使を辞任し72年にチリに帰国。
しかし翌73年9月11日、ピノチェト将軍率いる国軍クーデターが起こり、兵士らに家を破壊される。その12日後、危篤状態に陥り死亡。
死因は長い間病死とされてきたが、軍部による毒殺だったという疑惑があり、2013 年チリ司法当局は死因確認のため、遺体を掘り起こし調査したが、遺体から毒物は検出されなかったと発表した。(公式サイトより抜粋)
製作から30年、ロングラン大ヒットした名作が、ネルーダ生誕120周年記念で、4Kデジタル・リマスター版が公開されることになりました。
日本初公開は、1996年5月18日。当時観て、味わい深い作品に感動したものですが、その時には、詩人の故国チリの政情については疎くて、詩人が遠く離れたイタリアの島で暮らさなければならなかった事情のことなど何も考えなかったような気がします。
『チリの闘い』『光のノスタルジア』『真珠のボタン』などで、チリの辿った悲しい歴史を知った今、『イル・ポスティーノ』は違った意味で胸に迫りました。詩人の影響を受けたマリオは、イタリア共産党の集会に赴きます。それがまた「運命」を生むのです。
マリオを演じたマッシモ・トロイージが心臓病のためクランクアップ12時間後に41歳という若さでこの世を去ったことも、この度の公開を機に知りました。映画の余韻がいつまでも心に沁みます。(咲)
第68回アカデミー賞® 作曲賞(ドラマ)受賞!
1994年/イタリア・フランス/109分
配給:セテラ・インターナショナル
公式サイト:https://www.ilpostino4k.jp/
★2024年11月8日(金)より角川シネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMA3週間限定公開
ベルナデット 最強のファーストレディ(原題:Bernadette)
監督:レア・ドムナック
脚本:レア・ドムナック、クレマンス・ダルジャン
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ(ベルナデット・シラク)、ドゥニ・ポダリデス(ベルナール・ニケ)、ミシェル・ヴュイエルモーズ(ジャック・シラク)、サラ・ジロドー (クロード・シラク)
ベルナデット・シラクは、夫ジャック・シラクを大統領にするため、常に影で働いてきた。ようやく大統領府であるエリゼ宮に到着し、自分の働きに見合う場所を得られると思っていたが、夫やその側近、そして夫の広報アシスタントを務める娘からも「時代遅れ」「メディアに向いていない」と突き放されてしまう。だが、このままでは終われない。参謀の”ミッケー”ことベルナール・ニケと共に、「メディアの最重要人物になる」という、華麗にして唯一無二の”復讐計画”をスタートさせる!
政界の内側をとくと観られる作品です。ジャック・シラク氏は1977年から1995年までパリ市長、1995年から2007年まで第22代フランス大統領。ミッテラン大統領に次いで長い在任期間です。大統領になる前には首相や重要ポストの大臣もつとめているので、妻としての苦労や気遣いも並大抵ではなかったでしょう。自分も県会議員ですし。
実在の政治家たちのエピソードのどこまでが真実か不明ですが、コメディ仕立てになっていることでとても入り込みやすく楽しめます。
若いとき細身で可憐だったカトリーヌ・ドヌーヴは二回りほど大きくなって、政界トップの夫人だけに収まらない、パワフルな女性にふさわしい貫禄がありました。娘や側近に仲間外れにされても腐らず、良き相棒を得て自分の道を切り開いてゆきます。頑張れ~!と応援したくなりました。ベルナデッドが着こなす衣装も見どころです。
フィガロ誌の記者のロングインタビューを元にした「私はただあるがままに」(1995年)がシラク夫妻の2005年の来日記念に翻訳出版されました。ご本人の生い立ちから詳しく書かれていますので、映画鑑賞後にどうぞ。(白)
実在の人物をもとに描いた映画では、映画の最後に本物の姿が紹介されることが多いのですが、本作では、冒頭で本物のベルナデットの写真や動画が映し出されます。
1933年生まれ。ベルナデットとジャック・シラクのパリ政治学院学生証が続けて出てきて、同級生だったことがわかります。そして、「貴族令嬢と教師の孫息子結婚」の大きな写真入り新聞記事。女性初のコレーズ県議となったことも紹介され、女性が夫の添え物のように扱われた時代に、単にパリ市長夫人、大統領夫人に収まらなかったことも冒頭の数分でわかります。
それでも本作は「あくまでフィクション」の断り書き。
そうして始まるカトリーヌ・ドヌーヴ演じるベルナデットの物語。
本作が初長編監督デビューとなるレア・ドムナックが、女性らしい細やかな目線で、ベルナデットを公私の両面から捉えています。ユーモアのセンスも抜群。なんとか選挙で勝ちたい政治家たちが水面下で繰り広げる丁丁発止も見事に描いています。(咲)
2023年/フランス/カラー/93分
字幕:横井和子
配給:ファインフィルムズ
公式サイト:https://bernadette-movie.com/
© 2023 Karé Productions - France 3 Cinéma - Marvelous Productions - Umedia
★2024年11月8日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー
2024 年 セザール賞 新人作品賞ノミネート
2024 年 リュミエール賞 新人作品賞・主演女優賞ノミネート
2023 年 シネマニア・フィルム・フェスティバル出品
2023 年 紅海国際映画祭(RSFF) INTERNATIONAL SPECTACULAR 部門出品
ロボット・ドリームズ(原題:Robot Dreams)
監督・脚本:パブロ・ベルヘル
原作:サラ・バロン
1980年代のニューヨーク。大都会のアパートで一人暮らしのドックは、食事も一人、テレビを見るのも一人の孤独な毎日。窓の向こうも、終える家族だんらんがちょっとうらやましい。テレビで友達ロボットのコマーシャルを見つけてさっそく申し込んでみた。後日、大きな箱が届いてドックはワクワク。説明書にしたがって部品を組み立てると、パチリと目が開き、ロボットが誕生した。その日から二人暮らし、なんでも一緒に楽しめる!
ある日ビーチに出かけて遊んでいるうちに、ロボットが海水のためにさびて動けなくなった。ドックは修理しようと奔走するが、シーズンオフに入ったビーチは閉鎖されてしまった。
パブロ・ベルヘル監督(代表作『ブランカニエベズ』)の初のアニメーション。昨年の第36回東京国際映画祭で上映されています。セリフはなくどこの国でも楽しめる作品です。アメリカのグラフィックノベルが原作で、擬人化された動物たちの暮らしを描いています。友達ロボットはプラモデルのように簡単に作れて高性能。もしも将来実現できたなら爆売れでしょう。
ロボットがビーチで砂に埋もれてしまうので心配になりますが、自分で起き上がれないだけで生きて(?)います。子どもと一緒に観ても大丈夫。離れている間にもいろいろありますが、信頼しあう二人の友情は変わりません。観終わって胸がほっこりします。
ドックになんだか懐かしさを感じましたが、大人向けの漫画やテレビ番組「お笑い漫画道場」で人気を博した富永一朗さんのキャラと体型が似ているんです。親近感があるのはそのせいでした。60年~90年代に活躍した人なので若い方にはなじみがないですね。昭和は遠くなりにけり。(白)
2023年/スペイン・フランス/カラー/102分
配給:クロックワークス
(C)2023 Arcadia Motion Pictures S.L., Lokiz Films A.I.E., Noodles Production SARL, Les Films du Worso SARL
https://klockworx-v.com/robotdreams/
★2024年11月8日(金)より全国ロードショー
本心
監督・脚本:石井裕也
原作:平野啓一郎
出演:池松壮亮(石川朔也)、三吉彩花(三好彩花)、水上恒司(岸谷)、仲野太賀(イフィー)、田中泯(若松)、綾野剛(中尾)、妻夫木聡(野崎)、田中裕子(石川秋子)
朔也の母 秋子が「大事な話があるの」と言ったまま、その話を聞かないうちに急逝してしまった。「自由死」を選んでいた、と知った朔也は母の本心が知りたいと、VF(ヴァーチャル・フィギュア)を開発している野崎を訪ねる。「母」を作るにはデータが多ければ多いほど、本物に近づくという。母の親友だった三好彩花を訪ねて話を聞くと、朔也の知らない母がいるようだった。完成したあかつきには、VFゴーグルを装着するだけで「母」に会うことができる。
現代よりさらにAIが発達し、現実との境目があいまいになっている近未来の話。
母役の田中裕子さんは、生きている自分と「AIで生成された自分」の不思議な二役を演じたことになります。どんな感覚だったのか、伺ってみたいですね。池松壮亮さんはボロボロとよく泣く朔也役ですが、泣かずにいられない設定です。母を救いたかったのに、意識不明になり気がついたときには母は亡くなったあと。AIだろうが母を再生してもう一度話したい。逡巡したはずですが、母の死を受け入れられないところから抜け出して進みたかったのでしょう。後から登場する三好彩花が、救いになるのか混迷を増してしまうのか?
リアルとヴァーチャルの間をさまよう朔也は、ごく近い未来の私たちかもしれません。(白)
2024年/日本/カラー/122分
配給:ハピネットファントム・スタジオ
(C)2024 映画「本心」製作委員会
https://happinet-phantom.com/honshin/
★2024年11月8日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
2024年11月01日
ココでのはなし
監督:こさきりょうま
脚本:敦賀 零
撮影:岩渕隆斗
主題歌:「36.5」kobore
出演:山本奈衣瑠(戸塚詩子)、吉行和子(三園泉)、結城貴史(飯友博文)、三河悠冴(湯島存)、生越千晴(ワン・シャオルー)、()、
ゲストハウス「ココ」は築100年の古民家を改造したゲストハウス。オーナーは元旅人の博文、家主の泉さんはSNSにはまっている。詩子はココで住み込みで働き、慎ましくも満ち足りた日々を送っている。ココにやってくるのは、バイト先がつぶれてしまった存(たもつ)、声優を夢見て来日した中国人のシャオルーなど、悩みを抱えている若者たちだ。詩子もわけあって故郷を飛び出してきてココに落ち着いたクチだ。泉さんは「みんな焦ってない?」「休んでいいのよ」と言う。
こさきりょうま監督の長編第1作です。東京・下谷にある[ゲストハウスtoco,]で撮影されました。そのたたずまいは古き良き日本の家そのまま。もう一人の登場人物のような役割を果たしています。
名物はできたてのおむすび。みんなで泉さんご自慢の果実酒を味見したり、ぽろりと本音をこぼしたりできるもこの空間があるから。おばあちゃんちを訪ねたようにホッとします。たまたま隣り合わせ、ならぬ泊まり合わせた人たちはこの「一期一会」のひとときが、心の小さなつっかい棒になりそうです。私もこんなところにお泊りしたい。(白)
2023年/日本/カラー/86分
配給:イーチタイム
(C)2023 BPPS Inc.
https://www.cocohana-film.com/
★2024年11月8日(金)シネスイッチ銀座、新宿シネマカリテほか全国順次公開
カーリングの神様
監督:元木克英
脚本:谷本佳織
撮影:石黒康一
音楽:Akiyoshi Yasuda
主題歌:「Sweaty Smell」STU48 キングレコード
出演:本田望結(清水香澄)、泉智奈津(中澤優芽)、白倉碧空(牛山沙帆)、長澤樹(工藤実乃梨)、川口ゆりな(曽根原舞)、()、
高島礼子、柄本明、田中麗奈、六角精児
軽井沢にほど近い御代田町(みよたまち)には本州最古のカーリング場がある。高校生の香澄(かすみ)は、小学生時代からカーリングにうちこんできた。チーム「みよステラ」で優勝したこともあるが、チームは解散してしまった。くすぶっていたところ、地元でカーリングの国際大会が開かれることになった。香純は強豪チームとのエキシビションマッチに出たいと、かつてのチームメイト優芽(ゆめ)と沙帆(さほ)に声をかける。もう一人のチームメイトだった舞は、すでに強豪チームに所属していた。東京から転校してきた実乃梨(みのり)が加わるが、全くの初心者で戦力となるには時間がかかる。
カーリングは500年以上も前から世界で楽しまれていたそうです。御代田町の”カーリングホールみよた”は1995年に設立されました。この映画は御代田町の女子高校生たちがカーリングを通じて、成長していくさまを描いています。「カーリングの神様」とは? フレッシュな面々をベテラン勢がしっかりと支え、氷上のチェスともいわれるカーリングの駆け引きの面白さも堪能できます。
1998年の長野冬季オリンピックで、カーリングが初めて正式種目になりました。その後、2006年のトリノオリンピックでは日本代表の女子チームが健闘し、一気に認知度が上がりました。2018年平昌(ピョンチョン)オリンピックでは初の銅メダルを獲得。今や誰もが知っている人気のスポーツです。最近の活躍のようすは日本カーリング協会HPで。こちらです。(白)
2024年/日本/カラー/99分
配給:ラビットハウス
(C)2024「カーリングの神様」製作委員会
https://curlingnokamisama.com/
★2024年11月7日(金)新宿ピカデリーほか全国順次公開
お祭りの日
監督・脚本:堀内友貴
撮影:中村元彦
出演:米良まさひろ()、斎藤友香莉()、五十嵐諒()、花純あやの()、須藤叶希、塚田愛実
夏祭りの日に、お祭りに行かない人たちの5つの物語。
自主映画のヒロインをやってもらうために、喫茶店で学校のマドンナを説得している男。夏祭りに行くためにバス停にてバスを待っているが、一向にバスが来ない人たち。勝手に打ち上げ花火を盗んであげようとする人。二日酔いで目が覚めると部屋のエアコンのリモコンがなく、昨日の記憶を思い出しながらリモコン探しの旅に出る女子二人。夏祭りなのに喫茶店でバイトしている女子。何気ない夏の1日が繋がっていく。
5つの物語をつなぐのは、お祭りと花火。
冒頭では力いっぱい下ネタワードを連発する男。それじゃ女の子ひきます。
バス停で来ないバスを待っている男。初対面なのにやたら察しのいい男は何者?
二日酔いの女子二人はリモコンを見つけ出せるのか?
花火大会用の花火を上げて、行き詰った自分を変えたい彼氏、花火の上げ方を調べてやめさせたい彼女。
喫茶店でバイトしている女子と、失恋を引きずる男子。
それぞれの会話がずっと続いて、一周まわって結びつきます。
みんな真面目にやればやるほどおかしい(笑)。
(白)
第24回TAMA NEW WAVE 審査員特別賞受賞
2024年/日本/カラー/89分
配給:KUDO COMPANY
https://www.festival-day.com/
★2024年11月2日(土)ほか全国ロードショー