2024年10月26日
息子と呼ぶ日まで
監督・脚本:黒川鮎美
撮影:鈴木佑介
出演:合田貴将(林翔太)、升毅(林亮)、正木佐和(林美代子)、鮎川桃果(佐々木絵美)、秋吉織栄(林岬)、黒川鮎美(佃京子)
不動産屋で働くトランスジェンダー男性の翔太は、カミングアウトをきっかけに田舎に住む父親と疎遠になっていた。
社会で生きていく中で感じる偏見と違和感に悩み、家族との関係の中で葛藤を抱えながらも、パートナーの絵美とともに自分らしい生き方を見つけていく。
入れ物と中身が違うというのは、想像するだけでもいごこちが悪そうです。自分らしくあることで誰が迷惑するというんでしょう。本当に少しずつですが社会が変わってきています。認知度があがれば、理解する人が増えてくるはず。どの時代にも明らかにできなかっただけで、自分の性別に違和感のある人はいたでしょう。親にしてみれば青天の霹靂かもしれませんが、最初の味方になれたら子どもがどんなに心強いことか。
林翔太役の合田貴将さんはトランスジェンダー当事者。演技未経験での抜擢ですが、きりりとして清潔感のある美青年です(これってセクハラじゃないですよね)。子ども時代を演じるのは夢香さん、似た感じの子がよく見つかりましたね。こんなに小さい時からたいへんでしたね。「大変」とは大きく変わるってこと、誰が言ってたかな。そのチャンスがきたってことなんだって。大変だ、と思ったときは「チャンスだ」と考えればいいみたいですよ。(白)
2024年/日本/カラー/25分
配給:BAMIRI、STELLA WORKS
(C)息子と呼ぶ日まで製作実行委員会
https://musukotoyobuhimade.studio.site/
★2024年11月1日(金)池袋シネマ・ロサほか全国ロードショー
☆『息子と呼ぶ日まで』完成記念として11月1日〜14日「Diversity CINEMA WEEK」を開催。
短編映画を集めた上映とトークショーをお楽しみください。
池袋シネマ・ロサ https://www.cinemarosa.net/
十一人の賊軍
監督:白石和彌
原案:笠原和夫
脚本:池上純哉
撮影:池田直矢
音楽:松隈ケンタ
出演:山田孝之(政)、仲野太賀(鷲尾兵士郎)、尾上右近(赤丹)、鞘師里保(なつ)、佐久本宝(ノロ)、千原せいじ(引導)、岡山天音(おろしや)、松浦祐也(三途)、一ノ瀬颯(二枚目)、小柳亮太(辻斬)、本山力(爺っつぁん)、野村周平(入江数馬)、音尾琢真(仙石善右エ門)、玉木宏(山縣狂介)、阿部サダヲ(溝口内匠)
戊辰戦争の最中、新発田藩(現:新潟県新発田市)では奥羽越列藩同盟か、旧幕府軍に与するかで揺れていた。新発田藩を守るため命を惜しまない若き剣客たちに、捉えられていた罪人らに砦を守らせ、成功した暁には無罪放免とすると命が下る。罪人を連れ、戦場へ赴いた鷲尾兵士郎はにわか仕立ての戦力に不安を覚えるが、逆らうことはできない。駕籠かきの政(まさ)は、なんとしても生き残って女房の元に帰り、まっとうに生き直したいと腹をくくる。くせ者ぞろいの罪人たちは、不利な状況の中、自分なりの方法で戦おうとするが。
『日本侠客伝』(1964)『仁義なき戦い』(1973)シリーズの脚本家 笠原和夫さんの幻のプロットが映画化。白石和彌監督『碁盤斬り』に続いての時代劇です。映画が2,3本できそうなほどたくさんの俳優さんが勢ぞろい。ただし、罪人たちは牢から出たまま、戦闘場面は土と泥と血にまみれて、2枚目も何もありません。農民に雇われて野武士と戦った『七人の侍』(1954/黒澤明監督)を思い出します。
古今東西、お上・権力者の思惑は常に自分が得すること。下々との約束などあってなきがごとしです。間で苦悩する優三さんじゃなくて、兵士郎が気の毒でなりません。賊軍11人の力いっぱいのあばれっぷりをとくとご覧ください。
東京国際映画祭オープニング作品。10月28日、舞台挨拶つきでいちはやく観られる人はラッキー(チケットは完売)。挨拶のようすはニュースで。(白)
2024年/日本/カラー/155分
配給:東映
(C)2024「十一人の賊軍」製作委員会
https://11zokugun.com/
★2024年11月1日(金)ほか全国ロードショー
アイミタガイ
監督:草野翔吾
脚本:市井昌秀 佐々部清 草野翔吾
原作:中條てい
撮影:小松高志
音楽:齋藤泰陽
出演:黒木華(秋村梓)、中村蒼(小山澄人)、藤間爽(郷田叶海)、安藤玉恵(稲垣範子)、近藤華(中学生の梓)、白鳥玉季(中学生の叶海)、吉岡睦夫(車屋典明)、松本利夫[EXILE](羽星勝)、升毅(福永)、西田尚美(郷田朋子)、田口トモロヲ(郷田優作)、風吹ジュン(綾子)、草笛光子(小倉こみち)
ウェディングプランナーの梓(あずさ)とカメラマンの叶海(かなみ)は中学生のときからの親友。二人はいつものようにカフェでおしゃべりをし、梓は東南アジアへ出張する叶海を送り出した。その後、叶海が事故で亡くなったとの知らせが届き、梓は大きなショックを受ける。受け止めきれない梓は、今も二人で交わしていたスマホのトークにメッセージを送り続けている。交際相手の澄人との結婚にも踏み切れない。
叶海の母の朋子は、遺品のスマホに毎日のようにメッセージが届けられているのを知る。
叶海は行動的で、いつも梓より先を歩いているように見えます。とても頼りになって、なんでも打ち明けていた彼女が本当に先にいってしまい、梓の気持ちは宙ぶらりんのまま。異国での事故死で、ありがとうどころかさよならも言えませんでした。娘が突然いなくなってしまった叶海の両親も同じです。後から娘とほかの人とのつながりが現れて、自分たちが知らなかった娘に出逢うことになります。ちょっとだけひっかかったのがひとつ。中学生なら家も近いし、お互いによく行き来します。お母さんと娘なら友達の話はよくするので、親友を知らないことはないんじゃないかな。私の時代とは違うんでしょうか?
黒木華さんが繊細に演じる梓、彼女を気遣う澄人を演じる中村蒼さん、周りでゆるやかにつながる人々(できすぎと言わないで)、みな良い配役でした。友人を亡くした経験のある人は涙×涙でしょう。ハンカチ、ティッシュをお手元に。(白)
2024年/日本/カラー/105分
配給:ショウゲート
(C)2024「アイミタガイ」製作委員会
https://aimitagai.jp/
★2024年11月1日(金)ほか全国ロードショー
ゴンドラ 原題:GONDOLA
監督&脚本:ファイト・ヘルマー(『ブラ!ブラ!ブラ! 胸いっぱいの愛を』)
撮影:ゴガ・デヴダリアニ(『⾦の⽷』)
美術:バチョ・マハラゼ(『ブラ!ブラ!ブラ! 胸いっぱいの愛を』)
出演:
ニノ:ニニ・ソセリア
イヴァ:マチルド・イルマン
駅⻑:ズカ・パプアシヴィリ
未亡⼈:ニアラ・チチナゼ
⾞椅⼦の男:ヴァチャガン・パポヴィアン
少年:ルカ・ツェツクラゼ
少⼥:エレネ・シャヴァゼ
山間をすれ違う赤い2台のゴンドラ
二人の女性の車掌が心を通わす
黒いリボンが巻かれた赤いゴンドラに棺が乗せられ、山の下に運ばれる。黒い喪服の女性が見送る。ゴンドラの車掌の男性が亡くなったのだ。村の人たちが皆、棺を見守る。
亡くなった男性の娘イヴァが村に帰ってくる。ゴンドラの車掌になる。ゴンドラは2台あって、先輩の女性の車掌ニノが運転を教えてくれる。駅⻑は威張り屋のおじさんで、どうやらニノに気があるらしいが、ニノは駅⻑が好きじゃない。⾞椅⼦の⽼⼈を追い払ったりして、意地悪だからだ。ニノは航空会社のCAになる夢を叶えようと、履歴書をジョージア航空に送る。
イヴァとニノは、すれ違うゴンドラの中からいろいろな形で挨拶を交わしたり、駅に着くたびチェスの一手をさしたり、心を交わしていく。ニノに振られた駅長が、腹いせでチェス盤をめちゃめちゃにしてしまったとき、イヴァはニノを慰めるように素敵で美味しいオープンサンドを作ってプレゼントする。
2⼈の距離がどんどんと近づいていく。ニノの家に急ぐイヴァ。抱き合う2⼈。が、航空会社からの⼿紙を⾒つけたイヴァは、ニノがゴンドラの乗務員をやめるつもりでいることに怒って帰ってしまう。 しかし、翌朝。⽔鉄砲をニノにプレゼントするイヴァ。2⼈は仲直りして、ゴンドラでの⽔鉄砲合戦を⼦供のように楽しむ・・・
ジョージアの山あいを走るゴンドラを舞台に、若い女性の車掌どうしの淡い恋や、人々の日々の営みを、いっさいセリフなしで描いた映画。
2023年の東京国際映画祭のコンペティション部門で上映された折、セリフがないことに、途中からちょっと居心地の悪い思い。上映後のQ&Aで、ファイト・ヘルマー監督が、「セリフのない映画を気に入ってくれた観客とは友達」と開口一番。私、友達になれないかもと、その時には思ったのでした。
実は、ファイト・ヘルマー監督には、『世界でいちばんのイチゴミルクのつくり⽅』が公開された折にインタビューして、映画で使ったイチゴをいただいたりして、お友達になっていたのでした。
公開を前に、もう一度、拝見。女性車掌二人の淡い恋物語と共に、可愛い少年少女の初恋らしきものも語られていて、こんなにいろんなことが散りばめられた物語だったのかと!映像がとにかく素晴らしいです。ジョージアのメインの撮影地のゴンドラは、実は1台だけ。行き交う2台のゴンドラは別の場所で撮影したそうです。詳細は下記の記事をご覧ください。(咲)

東京国際映画祭コンペティション部門『ゴンドラ』Q&A報告 (咲)
山やスキーが好きなので、ゴンドラやロープウエイにはよく乗ります。若いころは山登りやスキーをするために、今は景色を見るために。上に上っていく時の周りの景色や、下に広がる様々な景色、遠くに見える山や湖の姿が移動と共に移り変わっていく様子、雪景色も新緑も好きですが、特に紅葉の時期の景色が大好きです。日本では主に観光や娯楽用としてゴンドラはありますが、この映画に出てくるゴンドラは、人の行き来、荷物を運んだり、学校に通ったりと山の上の村と下の村?を結ぶ、生活の必需品として出てきます。そして冒頭では、このゴンドラの車掌だった人の棺が出てきて、びっくりしました。人々の生活の営みとしてのゴンドラを舞台に、二人の女性の交流が描かれ、村人たちの生活も上から見えます。こんなに生活に密着したゴンドラがあることを知りました。それにしても生活に密接にかかわる交通機関としてのゴンドラなのに、スチュワーデスみたいな制服で乗っているんだと思いました。可愛かったけど(笑)。
と、「旅サラダ」という番組を見ながらこの文章を書いていたら、中国湖南省張家界という街から世界遺産武陵源を結ぶゴンドラが出てきました。『AVATAR(アバター)』で描かれたところです。このゴンドラも家々が広がる街中から山へと向かっていました。山水画のような景色、絶景でした。街中から山へ向かうゴンドラって、海外ではけっこうあるのかな(暁)。
2023年/ドイツ、ジョージア/85分/1 : 1.85/5.1ch
配給:ムヴィオラ
公式サイト:https://moviola.jp/gondola/
★2024 年 11 月 1 日(金)より新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開