2024年10月13日

ジョイランド わたしの願い  原題:Joyland

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(C)2022 Joyland LLC

監督・脚本:サーイム・サーディク
製作総指揮:マララ・ユスフザイ、リズ・アーメッド(『サウンド・オブ・メタル 〜聞こえるということ〜』) ほか
出演:アリ・ジュネージョー、ラスティ・ファルーク、アリーナ・ハーン

伝統的な家父長制社会で、トランスジェンダーのダンサーとの出会いが、若い夫婦の人生を大きく変える

パキスタンで2番目の大都市、古都ラホール。
保守的な中流家庭ラナ家は3世代で暮らす9人家族。 家長のアマン、長男サリームと妻ヌナ。その3人の娘たち。次男ハイダルと妻ムムターズ。ハイダルは失業中だが、ムムターズはメイクアップアーティストの仕事にやりがいを感じ、家計を支えていた。ハイダルは姪っ子たちの遊び相手や妻のお弁当作りをそれなりに楽しんでいるが、家父長制の伝統を重んじる厳格な父からは「早く仕事を見つけて男児をもうけなさい」とプレッシャーをかけられている。
ある日、臨月を迎えた義姉ヌナが破水し、家にいたハイダルが病院に連れていく。男児と診断されていた新生児は女児で、父も兄も落胆する。ハイダルは病院で血まみれの服を着た美しい女性に目を奪われる。
その後、ハイダルは劇場で働く友人からバックダンサーの仕事を紹介される。メインダンサーのビバは、病院で見かけた女性で、トランスジェンダーだった。男が人前で踊ることはもとより、劇場で働くことすら恥と考える保守的な父に、ハイダルは咄嗟に「支配人として雇われた」と嘘をつく。
2週間後の本番に向けて猛特訓が始まる。ハイダルは、ビバが世間の偏見にさらされながらも、ありのままの自分を貫く姿に魅了されていく。その恋心が、やがて、夫婦とラナ家の穏やかに見えた日常に波紋を広げていく・・・

男児を産むことが義務でもあるかのような社会で、また女児を産んでしまったヌナ。 ハイダルが就職したことで、義父から仕事を辞めるよう言い渡されたムムターズ。好きな仕事を辞めた上に、彼女にも男児を産めというプレッシャーがかかります。 ハイダルもまた、男としてすべきことを父から期待され、自分の思いとの違いに葛藤します。

本作を観て、同じパキスタンのラホールを舞台に、伝統的な価値観に縛られる中で、自由に生きることに挑む人たちを描いたパキスタン映画『BOL ~声をあげる~』を思い出しました。 
本作の背景を知る一助に、監督インタビューをぜひお読みください。
2012年福岡でのショエーブ・マンスール監督インタビュー
ビバを演じたアリーナ・ハーンは、実際にトランスジェンダーで、トランスジェンダーの権利擁護者。
インド文化圏(インド・パキスタン・バングラデシュ)には、「ヒジュラ」と呼ばれる第三の性の人たちが存在します。トランスジェンダーや半陰陽者など男性でも女性でもない人たち。パキスタン社会では、結婚式や子供の誕生祝いなどで歌い踊る役目を担っています。それでも長い間差別されてきた人たち。2009年、パキスタン最高裁はヒジュラを第三の性として認める初めての判決をくだしています。

パキスタン映画として初出品となったカンヌ国際映画祭で「ある視点」審査員賞とクィア・パルム賞を受賞するなど、世界の映画祭で高く評価されましたが、パキスタン本国では少数の保守系団体から反発を受け、上映禁止となる事態に。しかしノーベル平和賞受賞者マララ・ユスフザイや俳優リズ・アーメッドらからの支援もあり、上映が実現しています。残念ながら、監督の地元であり本作の舞台である、ラホールの属するパンジャーブ州においてのみ、いまだに上映が禁止されています。 美しい古都ラホールの情緒も存分に味わえる本作を、いつかラホールの人たちにも大きなスクリーンで観ていただける日が来ることを願うばかりです。(咲)


監督の言葉より
本作は、家父長制の犠牲の上に生きるすべての女性、男性、トランスジェンダーへオマージュを捧げたものです。それはまた絆を生み出す欲望と、それを不滅にする愛を称えるものでもあります。私の祖国への悲痛なラブレターなのです。

第95回 米アカデミー賞国際長編映画賞 パキスタン代表 ショートリスト選出作品
第75回 カンヌ国際映画祭 「ある視点」部門審査員賞受賞 & クィア・パルム賞受賞
2023年 インディペンデント・スピリット賞 外国映画賞受賞

2022年/パキスタン/パンジャーブ語、ウルドゥー語/127分/1.33:1/5.1ch
日本語字幕::藤井美佳
配給:セテラ・インターナショナル
公式サイト:https://www.joyland-jp.com/
★2024年10月18日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開.



posted by sakiko at 18:43| Comment(0) | パキスタン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

五香宮の猫

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(C)2024 Laboratory X, Inc

監督・製作・撮影・編集:想田和弘
製作:柏木規与子

想田和弘監督 観察映画第10弾

ある港町のお宮にたくさんの猫が住み着いたそうな
めでたし、めでたし――なんてそう簡単にはいかんなあ

瀬戸内の風光明媚な港町・牛窓。古くから親しまれてきた鎮守の社・五香宮(ごこうぐう)には参拝者だけでなく、さまざまな人々が訪れる。近年は多くの野良猫たちが住み着いたことから“猫神社”とも呼ばれている。
2021年、映画作家の想田和弘とプロデューサーの柏木規与子は、コロナ禍を機に、27年間暮らしたニューヨークを離れ、『牡蠣工場』(15)や『港町』(18)を撮ったこの牛窓に移住した。新参者の二人は、ほどなく、路頭に迷っていた野良猫の兄弟を保護することになり、地元の猫の保護活動に携わる方たちにお世話になる。その成り行きで、規与子は五香宮の猫たちを一斉に捕獲し、避妊去勢手術する活動に参加することになる。そうして、想田和弘はカメラを回し始めた・・・

2007年の『選挙』以来、「観察映画の十戒」(公式サイトをご覧ください)を貫いて、撮り続けてきた想田和弘監督の観察映画10本目。
五香宮に集う猫たちは、カメラを向けられていることなど気にもせず、のらりくらりと日々を過ごしているよう。それでも、避妊去勢手術のための一斉捕獲の時には、さすがに逃げ惑います。手術を施されて、また五香宮に放たれたのを見て、ほっとさせられます。一方、「猫神社」と知って、生まれた子猫たちを捨てにくる人たちも。糞尿の処理に地域住人たちは悩まされます。この映画で五香宮が有名になって、さらに捨て猫が増えそうで心配してしまいます。そんなことになりませんように!
牛窓といえば、日本のエーゲ海といわれる風光明媚なところ。プロデューサーの柏木規与子さんのお母様の故郷だそうです。五香宮という神社の名前にも惹かれます。猫ちゃんたちに会いに行ってみたくなりました。ちなみに私は特に猫好きではないですが。(咲)


2024年/119分/日本/16:9/カラー/ドキュメンタリー
配給:東風
公式サイト:https://gokogu-cats.jp/
★2024年10月19日(土)より、東京 シアター・イメージフォーラム、大阪 第七藝術劇場、10月25日(金)より、岡山 シネマ・クレール、ほか全国順次公開

シアター・イメージフォーラム
★10月19日(土) 10:50の回、13:30の回 各回上映後、想田和弘監督・柏木規与子プロデューサーによる舞台挨拶
●10/19(土)〜11/1(金)まで10:50/13:30/16:00/18:30 (11/2(土)以降未定)
◆バリアフリー日本語字幕版上映 10/19(土)〜11/1(金) 10:50の回
◆英語字幕版上映(with English subtitles)10/19(土)〜11/1(金) 18:30の回

横浜シネマ・ジャック&ベティ
★10月19日(土) 16:10の回上映後、想田和弘監督・柏木規与子プロデューサーによる舞台挨拶
posted by sakiko at 14:45| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

グレース   原題:Блажь Blazh

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監督・脚本:イリヤ・ポヴォロツキー 
撮影:ニコライ・ゼルドビッチ 
音楽:ザーカス・テプラ 
出演:マリア・ルキャノヴァ、ゲラ・チタヴァ、エルダル・サフィカノフ、クセニャ・クテポワ

ロシアの西端コーカサスから白海へ 
思春期の少女と父の移動映画館の赤いバンの旅路


岩山に流れる小川のほとり。10代半ばの少女が下着の汚れを落としている。彼女が戻った先には古びた赤いキャンピングカー。中から出てきた見知らぬ女に「血が出たの」というと、女は少女に生理用品を渡して去っていく。続いて出てきた父親に、少女は嫌悪の一瞥をくれながら、「海に行きたい」と呟く。
荒涼とした大地を赤いバンを走らせ、道中の村で野外上映をしたり、トラック運転手に海賊版DVDを売ったりして、寡黙な父と娘の旅は続く。緑豊かな山間の道から、乾いた土漠、
大きなモールのある街。海賊版用にDVD300枚を仕入れ、ようやく人の集まりそうな村で野外上映会。大勢がスクリーンを見つめる中、ビールを買いに来た青年は映画には目もくれない。乗っている立派なバイクは父親が日本から盗んできたという。
さらに赤いバンはツンドラ地帯を走り、ついに海沿いのさびれた町に着く。壊れそうな大邸宅に泊めてもらう。ここの主である気象観測所で働く女性は暖かいスープでもてなしてくれるが、少女は父親がまた女性と関係を結ぶのではと落ち着かない。そこへ、野外上映会で出会ったバイクの青年が現れる・・・

父親も少女も多くを語らなくて、時折発する言葉から、どこを走っているのかや、母親が不在の理由を知ることになります。二人の名前すらわからないのですが、荒涼としたロシアの辺境の地を行く物語は、不思議な余韻を残してくれました。
冒頭の緑豊かな山間の地は、「バルカル語」を話していることから、ジョージアに隣接するカバルダ・バルカル共和国と推察。
カラチャイ・バルカル語はチュルク諸語のうち北西語群に属し、主にコーカサス地方で話されるほか、トルコ共和国の一部地域でも話されている言語。話者の大部分がイスラム教徒とありました。
アディゲ語という言葉も出てきて、北コーカサスで話されている言語。
エリスタという大きな町が出てきて、カスピ海の北西にあるカルムイク共和国の首都だと知りました。
ロシアの西南端のコーカサスの山間の村から、北極圏の白海沿岸部にある廃れた港町まで、二ヶ月間にわたる順撮りとのこと。ロシアの辺境の地に、様々な言語や文化を持つ人々が暮らしていることを垣間見ることができました。なにより、娘を演じたマリア・ルキャノヴァの少女から女へと成長していく様は、演技とは思えないものでした。(咲)


2023年・第76回カンヌ国際映画祭の監督週間に選出され、同年のカンヌ国際映画祭で上映された唯一のロシア映画
ストックホルム国際映画祭 2023 最優秀撮影賞
Auteur Film Festival 2023 最優秀監督賞

2023年 ⁄ ロシア ⁄ ロシア語、ジョージア語、バルカル語 ⁄ 119分 ⁄ カラー ⁄ ヨーロピアンビスタ
日本語字幕:後藤美奈  
配給:TWENTY FIRST CITY 配給協力:クレプスキュール フィルム
公式サイト:https://grace.twentyfirstcity.com/
★2024年10月19日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開




posted by sakiko at 12:42| Comment(0) | ロシア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ソウX(原題:Saw X)

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監督:ケヴィン・グルタート『ソウ 6』『ソウ ザ・ファイナル 3D』
脚本:ジョシュ・ストールバーグ『ジグソウ ソウ・レガシー』、ピーター・ゴールドフィンガー『ジグソウ ソウ・レガシー』
撮影:ニック・マシューズ
出演:トビン・ベル(ジョン・クレイマー)、ショウニー・スミス(アマンダ)、スティーヴン・ブランド(パーカー)、シヌーヴ・マコディ・ルンド(セシリア)、マイケル・ビーチ(ヘンリー)、レナータ・ヴァカ(ガブリエラ)、オクタビオ・イノホサ(マテオ)

末期がんで余命宣告を受けたジョン・クレイマーは、危険な実験的治療を試すためにメキシコへと向かう。現地で手術を受け、高額な治療費を振り込んだ。隠されていた治療場所を突き止め、お礼に行ってみるとそこはもぬけのから。しかも、残っていた品々から自分が大がかりな詐欺にひっかかったのがわかった。ジョンは、アマンダの助けを借り、詐欺師や不正な治療に加担する医師たちに死のゲームを仕掛ける。

2004年『ソウ』の第1作、それまでに見たこともなかった設定と展開、ラストに驚愕しました。以来、ホラーやスリラーが苦手だったのに次が気になって、ずっと観続けてしまったシリーズです。公開されるたびに残酷度が増して、この先観続けられるか心配でした。今回は1と2の間のストーリーという設定で、とてもシンプルな設定だった1に比べて、装置も手が込んでいます。1.5ではなく、やはり最新作だけあります。
なんと詐欺集団の被害者になってしまったジョンが、壮絶な倍返しをします。倍どころではありません。とんでもない人をターゲットにしてしまった連中には「お気の毒に」と思うばかり。手間暇かけてセッティングしたのに、まさか追跡されるとも思わなかったのか、現場には多くの証拠品が残されたまま。プロなのに詰めが甘いです。ジョンはまんまと詐欺集団の全員を探し出し、死のゲームを始めてしまいます。ゲームと銘打つからには、命だけは助かる道があるのですが死んだほうがまし!と叫びたくなる方法です。毎回手を変え品を変え、よくもこういろんなことを思いつきますよね。ジョンと対峙しても一歩も引かない才色兼備のセシリアとの攻防が見ものです。
感情など顔に出さないジョンですが、助手のアマンダや知り合った少年マテオには優し気な視線を向けているシーンもあります。(白)


2023年/アメリカ/カラー/118分
配給:リージェンツ
©2024 Lions Gate Ent. Inc. All Rights Reserved.
公式サイト:https://Saw-X.jp/
★2024年10月18日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開

posted by shiraishi at 00:09| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする