2024年10月03日

花嫁はどこへ?  原題:Laapataa Ladies

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(C)Aamir Khan Films LLP 2024

監督・プロデューサー:キラン・ラオ
プロデューサー:アーミル・カーン、ジョーティー・デーシュパーンデー
音楽:ラーム・サンパト
出演:ニターンシー・ゴーエル、プラディバー・ランター、スパルシュ・シュリーワースタウ、ラヴィ・キシャン、チャヤ・カダム 

赤いベールを被った2人の花嫁。
花婿の家へ向かう満員列車の中で取り違えられた!?
勘違いが紡ぐ、インドの女性たちの自立を描いた物語


2001年、とあるインドの村。プールとジャヤ、結婚式を終えた2人の花嫁は同じ満員列車に乗って花婿の家に向かっていた。だが、たまたま同じ赤いベールで顔が隠れていたことから、プールの夫のディーパクがかん違いしてジャヤを連れ帰ってしまう。置き去りにされたプールは内気で従順、何事もディーパクに頼りきりで彼の家の住所も電話番号もわからない。そんな彼女をみて、屋台の女主人が手を差し伸べる。一方、聡明で強情なジャヤはディーパクの家族に、なぜか夫と自分の名前を偽って告げる。果たして、2人の予想外の人生のゆくえは──?

満員列車には、プールとジャヤのほかにも、赤いベールを被った花嫁が数人。結婚式シーズンなのですね。同じような赤いベールだから間違えてしまうのもさもありなん。
ディーパクが、僕の可愛い花嫁はどこへ?とうろたえるそばで、間違えて連れて来られたジャヤは、これ幸いと自分の夫を探そうともしません。家族に仕組まれた結婚式に臨んだものの、ジャヤには大学に行きたいという夢があったのです。一方、まだ少女のようなプールは、夫の連絡先もわからなくて途方にくれてしまいます。そんな彼女の夫をなんとか探してあげようという人たちが温かく見守ります。何かしなければとプールは、屋台のマンジュおばさんのもとでお菓子作り。これが美味しくて評判に。自分にもできることがあると自信を持つのも素敵です。
インドでは、カーストなどを配慮して結婚相手を親が決めることがまだまだ主流。それを背景に、社会の抱える問題や、女性の自立を描いた物語。

インドの国民的大スター、アーミル・カーン プロデュース!と大きく掲げられていますが、実は監督・プロデューサーを務めたキラン・ラオは、アーミル・カーンの元奥さま!
別れても関係は良好のようです。
公式サイトによれば、「『ラガーン』の撮影現場で出会ったアーミル・カーンと2005年に結婚。2021年に夫婦関係を解消したが、アーミルは本作の製作を務める他、共同設立した水の安全と持続可能で採算性のある農業を目指すNGO「パーニー(水)・ファウンデーション」でも共に活動を続けている」とのこと。
キラン・ラオは、1973年ハイデラバード生まれ、コルカタ育ち。監督の父方の祖父は王族出身で、外交官を経て出版社を経営されていました。伝統あるカソリック系の女子校ロレート・ハウスで学び、19歳のときに家族でムンバイに移住。同地のソフィア女子大学を卒業。その後デリーのジャミア・ミリア・イスラミア大学で修士号を取得した才女です。
数々の映画の製作現場の経験を経て、2010年『ムンバイ・ダイアリーズ』で監督デビュー。アーミル・カーンが主演です。
『花嫁はどこへ?』には、アーミル・カーンは出ていないし、目立ったスターは出ていないのに、心にぐっと響く物語♪ こんなインド映画を待ってました! (咲)


観た後幸せな気持ちで帰宅できます。世の中の不条理や無力感を宿題のように受け取る映画もあります。それも必要だけれど、自分の調子次第で辛いときもあります。そんなときにはぜひこの映画を。とても愛らしいプールを演じたニターンシー・ゴーエルは2007年生まれ。実際に若い17歳。裏がありそうなジャヤを演じたプラディバー・ランターは2000年生まれ。ミス・ムンバイに選出されたこともある美女です。二人ともこれが映画デビューですが、しっかりと役になじんでいてぴったりの配役でした。
新婚さんと家族が乗りあった電車の中で、結婚祝いや結納品をあけすけに言い合っているのに「へええ~」。多い人は鼻高々です。日本はずいぶん変わったと思いますが、親はそれなりに大変です。
「人は見た目が9割」とかいう本がありましたが、残りの1割は想像もつかないもの。この映画に出てくる人たちも、状況が変わるにつれ隠された部分が出てきます。特に一人迷子になってしまったプールが出会う人たちはみな見た目と違って、力になってくれる人ばかりでした。応援を受けて変わっていく彼女に、あのままお嫁入りするよりずっと良かったねと言ってやりたくなります。ジャヤももちろん抱えているものがあり、取り違えられたことで新しい道が開けます。ネタバレじゃなくて、これくらいわかったところで面白さが減ったりしません。安心して映画館へお出かけてください。(白)


2024年/インド/ヒンディー語/124分
字幕:福永詩乃
配給:松竹
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/lostladies/
★2024年10月4日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネリーブル池袋ほか全国公開

posted by sakiko at 21:50| Comment(0) | インド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

本を綴る

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監督・総合プロデュース:篠原哲雄
脚本:千勝一凛
撮影:上野彰吾、尾道幸治
音楽:GEN
主題歌:ASKA 「I feel so good」
出演:矢柴俊博(一ノ関哲弘)、宮本真希(石野沙夜)、長谷川朝晴(小笠原功ニ)、加藤久雄(平野源次)、 遠藤久美子(朝比奈花)、川岡大次郎(北野豊人)、石川恋(伊達夕夏)、丈(結城文博)、米野真織(岩佐美玖)

一ノ関哲弘はベストセラーもある小説家だが、あることがきっかけで小説が書けなくなった。今は全国の書店を巡りながら、書評やコラムを書くのが本業となった。旅先で出会う人や本はまさに一期一会、刺激を受け暖かいもので胸を満たしながら、書けなくなった自分と向き合っている。那須の図書館司書の石野沙夜と出会い、森の中の書店で一冊の古書を手にとった。中には宛名を書いた恋文が挟まれていて、一ノ関は京都にいるらしいその宛名の人へ届けようと思い立つ。ちょうど京都には学生時代からの友人がいた。

書けなくなった作家一ノ関哲弘を矢柴俊博さん。帽子も書店で本の相談にのる姿もよくお似合いでした。書けなくなった原因は少し後で明かされますが、悩んだり苦しんだりしたことで、思いが深く広くなったんじゃないでしょうか。作家さんはどんなことも栄養にして、作品に生かすことができますよね。映画にもほかの仕事にも通じるかもしれません。よく言われますが、人生無駄なことなんてない。
東京都の書店は8割も閉店してしまったそうです。なんだかあちこち消えてしまった感がありましたが、そんなに!と驚きました。2021年、東京都書店商業組合が「一人でも多くのお客様に足を運んで貰えるように」と、YouTubeチャンネルを開設しました。取材を続けるうちに書店にまつわるドラマを制作することになりました。2022年『本を贈る』という短編のドラマ9話が完成し、2022年2月25日より配信中です。そちらを元に映画版もできて、このたび劇場公開となりました。全国にある本屋さん、図書館、本を好きな方々に観ていただきたいロードムービーです。本は書棚であなたが来てくれるのを待っています。(白)

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初日舞台挨拶@K’sシネマ
左より千勝一凛(脚本)、長谷川朝晴、矢柴俊博、宮本真希、篠原哲雄監督


2023年/日本/カラー/ビスタ/107分
配給:アークエンタテインメント
(c)ストラーユ
http://honwotsuzuru.com
★2024年10月5日(金)新宿K's cinemaほか全国ロードショー

●YouTubeドラマ『本を贈る』はこちら。(約10分~15分×9話、『本を贈る』)
●YouTubeチャンネル「東京の本屋さん ~街に本屋があるということ~」はこちら。中でも松岡茉優さんの「推し本のプレゼン」が熱いです。思わず、本屋さんへ走ってしまいそう。
クラウドファンディング実施中!(2024年10月31日 23:59まで)
https://motion-gallery.net/projects/honwotsuzuru


posted by shiraishi at 21:18| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

HAPPYEND

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監督・脚本:空音央(そら ねお)
撮影:ビル・キルスタイン
音楽:リア・オユヤン・ルスリ
出演:栗原颯人(ユウタ)、日高由起刀(コウ)、林裕太(アタちゃん)、シナ・ペン(ミン)、ARAZI(トム)、祷キララ(フミ)、中島歩(岡田先生)、矢作マサル(校長秘書)、PUSHIM(コウの母・福子)、渡辺真紀子(ユウタの母・陽子)、佐野史郎(長井校長)

XX年後の日本。高3のユウタとコウは幼馴染で大親友。アタちゃんやミンやトム、いつもの仲間とふざけあって楽しい毎日を送っている。ある晩こっそり学校に忍び込んだユウタとコウは、とんでもないいたずらをした。翌朝、長井校長は怒り心頭。誰も名乗り出ないので学校中に監視カメラがしかけられた。生徒たちは反発し大騒動になる。
この事件をきっかけに、コウは自分の将来や社会について深く考えるようになった。早くから学校外で活動しているフミともよく話す分、これまで通りでいたいユウタと距離ができてしまう。

自由で物事に頓着しないユウタ。コウはもっとまじめ。高3にしてはのんびりした高校生活のシーンが続きます。「こら!」ではすまないいたずらにはびっくり。どうやったの?
AIを使った監視カメラの映像が登場して、ああ先の設定なんだなとわかります。今でも公開されていないだけで、監視カメラはどこにでも設置されているのでしょう。それが学校内のすみずみまで映し出し、成績にまで関わってきたら?それは御免こうむりたいです。力で抑え込もうとするやり方は何かに、校長は誰かに似ていませんか?
そんな設定の中で揺らいでいく仲間たちとの関わりや友情が描かれています。生徒役のほとんどが映画初出演、初長編の空監督はアメリカ育ちで、映像にとどまらず多方面で活躍、スタッフやキャストも国際色豊かです。風通しの良い感じがするのはそのせいでしょうか?
人は変わっていくし、友情もなくなるかもしれない。でもなかったことにしなければ、思い出の場所はちゃんとあるはず。
ほとんど一目ぼれでキャスティングしたというフレッシュな俳優たち、主演の栗原颯人(ユウタ)、日高由起刀(コウ)も映画初出演です。撮影が進むにつれて5人はすっかり仲良くなり、監督はとても嬉しかったとか。
10/20、21は全国のいくつかの劇場で空音央監督自ら監修した音声ガイド、日本語字幕付きで上映。詳細はこちらで。(白)


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仲良し5人組と空音央監督(オフィシャル画像)


2024年/日本、アメリカ/カラー/113分
配給:ビターズ・エンド
(C)Music Research Club LLC
https://www.bitters.co.jp/HAPPYEND/
https://x.com/HAPPYEND_mv
https://www.instagram.com/happyend.movie
★2024年10月4日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開

posted by shiraishi at 21:14| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ロール・ザ・ドラム!(原題:Tambour battant)

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監督・脚本:フランソワ=クリストフ・マルザール
音楽:ニコラ・ラベウス
出演:ピエール・ミフスッド(アロイス)、パスカル・ドゥモロン(ピエール)、ザビーネ・ティモテオ(マリー=テレーズ)

1970年、スイス・ヴァレー州の小さな村、モンシュ。ワイン醸造家のアロイスは地元のブラスバンドの指揮者で、村で開かれる音楽祭のオーディション通過を目指して日々練習に励んでいる。しかし、アロイスの指導力を疑問視する楽団のメンバーが、村出身でプロの音楽家として活躍するピエールをこっそりパリから呼び寄せてしまう!伝統を重んじるアロイスと違い、才能ある女性や移民を次々と楽団のメンバーに加えるピエール。それぞれを指揮者に立てた2つの楽団が出来上がり、楽団の対立は村全体を巻き込んだ大騒動へと発展していく…。

みんなが知り合いの小さな村で、古くからの楽団が分裂し、二つのバンドができてしまいます。実際に起きたできごとを元にしているそうです。村を二分して暮らしに影響があったのでは、と心配になります。
映画では面白おかしく脚色されているのでしょう。指揮者の二人には青春時代からの因縁があって、何十年もたっているのに意地のはりあい。アロイスは頑固で保守的、伝統にこだわります。妻が外で活動したり、娘がワイン醸造に興味を持つのに苦い顔。ピエールはパリに出て音楽家として活躍していたところを、請われてUターン。才能ある女性や移民も楽団に加える新しいセンスの持ち主です。
ちょうど女性の参政権が問題になっている時期で、その活動も盛り込まれていました。中年夫婦の一波乱もあれば、娘と移民の青年との恋模様もあります。いろいろてんこ盛りですが、うまく90分にまとめられたコメディです。ところ変わっても人情は変わらず、美しい風景で目の保養もぜひどうぞ。(白)


2019年/スイス/カラー/90分
配給:カルチュアルライフ
(C) 2018 POINT PROD / RTS / TELECLUB
https://culturallife.co.jp/roll-the-drum/
★2024年10月4日(金)新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺、ストレンジャー、シネマート新宿ほか全国順次ロードショー!


posted by shiraishi at 21:13| Comment(0) | スイス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

エストニアの聖なるカンフーマスター(原題:NAHTAMATU VOITLUS/英題:THE INVISIBLE FIGHT)

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監督・脚本:ライナル・サルネット『ノベンバー』
製作:キッサ・カトリン『ノベンバー』
撮影:マート・タニエル『ノベンバー』
振付:サーシャ・ペペリャノフ
音楽:日野浩志郎
出演:ウルセル・ティルク、エステル・クントゥ、カレル・ポガ、インドレク・サムル

ラジカセでメタルを鳴らしながら宙を舞う、革ジャン姿の男たちが国境を襲撃。警備隊は壊滅状態に陥ったが、青年ラファエルは奇跡的に生還を果たす。男たちはカンフーの達人で、身をもって体験したラファエルはすっかり魅了される。天啓と信じ、禁じられたカルチャーであるブラック・サバスの音楽やカンフーに熱狂。しかし、見様見真似だけでは、彼らのようにはなれない。悶々としているとき、たまたま通りかかった修道院で、カンフー技を繰り出す僧侶たちに出逢った。喜んだラファエルはすぐに弟子入りを志願する。

エストニアってどこ?と調べたらバルト三国の一国(ほかにラトビア、リトアニア)でバルト海の東岸、フィンランド湾の南にありました。エストニアは1991年ソビエトからの独立を回復。この映画の舞台は70年代なのでソ連占領下にあります。
国境警備兵だったラファエルの前に現れた3人の達人がいったいどういう人で、どこから現れたのか説明はなかったと思います。歴史をよく知るエストニアの人には自明の理なんでしょうか。エストニアの映画賞を席巻したヒット作品です。
ともかくも禁じられているメタルとカンフーに魅入られたラファエルは、師を求めて僧院へ。この後の修行シーン「監督、香港映画お好きでしょ」と言いたくなるもの。ラファエルは才能を開花させ兄弟子を越えていきます。コメディ仕立ての青年の自分探しの旅、と言ってしまうとつまらないですね。楽しく笑ってください。
エストニアは1500もの島々からなり面積は日本の約8分の1、人口は134万ほど。スカイプはエストニア発祥で、ユーロ圏の中でも屈指のIT大国だそうです。過疎地に住む人にも同じ行政サービスをと開発した結果、今オンラインでできないのは結婚と離婚だけとか。日本も見習ってほしいですね。知るほどに興味が増していく国です。監督の前作は人気作家の原作を映画化したダークファンタジーだったそうで、観てみたいです。(白)


1970年代のソ連占領下のエストニアが舞台。宗教を禁じていた時代なのに、正教会の修道士たちがカンフー!? ぶっ飛んだ映画に驚かされました。
ソ連時代がどんなだったか、「ソ連じゃ、イケてるものは禁止」「十字架をはずせ。ここはソ連」「政治のため、修道士の半分は投獄経験」といった、ちょっとした言葉から知ることができます。それでも、「神はいない」のポスターのそばで十字を切る老婦人や、地下でバンドにあわせ踊る人たち、そしてカンフーで鍛える修道士!
ところで、ラファエルが最初に登場したときにぶら下げていたのは、正教会の十字架ではありませんでした。さて、エストニアの人たちの宗教はどうなっているのだろうと、検索したら無宗教の人が5割とありました。続いて正教会25%、ルーテル教会20%。
ライナル・サルネット監督の前作『ノベンバー』で、キリスト教化されたのは、13世紀初頭のことで、それ以前はアニミズム的世界だったと知りました。(って、すっかり忘れていて、今一度『ノベンバー』の自分で書いた作品紹介を見て、思い出したのですが)ソ連からの独立後も無宗教の人が多いというのも、ソ連時代に宗教が禁じられていたからというより、そういう歴史的背景があるからのようです。
ラファエルには、実在のモデルがいるとのことで、弾圧されれば、人は逆に弾けるのだと! いや~面白かった!(咲)



2023年/エストニア・フィンランド・ラトビア・ギリシャ・日本ほか/エストニア語/115分/カラー/シネマスコープ/5.1ch
日本語字幕:横井和子/字幕監修:小森宏美 
配給:フラッグ・鈴正/宣伝:ポニーキャニオン
(C) Homeless Bob Production / White Picture / Neda Film / Helsinki Filmi
公式サイト:https://www.flag-pictures.co.jp/estonia-kungfumaster/
公式X:https://x.com/estoniakungfu #エストニアのカンフーのやつ
★2024年10月4日(金)新宿武蔵野館 他全国公開

posted by shiraishi at 21:10| Comment(0) | エストニア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする