2024年10月29日
オン・ザ・ロード~不屈の男 金大中~ 英題:Kim Dae Jung on the road 原題:길위에 김대중
監督:ミン・ファンギ
【日本編集版】
ナレーション:ソウジ・アライ
編集:平野一樹 制作:スモモ
製作:ミョンフィルム、シネマ6411
民主主義と平和の実現にすべてを懸けた政治家・金大中
拉致、軟禁、投獄、死刑判決、幾多の困難にその道を阻まれても
決してあきらめなかった金大中を突き動かしたものとは-
生誕100周年を迎えた、元韓国大統領・金大中(キム・デジュン)の生涯と政治家人生を本人の肉声や関係者のインタビュー、そして本邦初公開の映像を含む6,000時間に及ぶ膨大な映像資料を基に制作されたドキュメンタリー映画。
日本の植民地時代に全羅南道に生まれ、海運会社を経営する青年実業家となるも、朝鮮戦争を経て、政治家を志す。「落選専門家」と言われるほど選挙では負け続け、軍事政権下で何度も死の危険にさらされながらも信念を貫いた金大中。
個人の勇気と信念が、いかに国家の未来を変えうるのか・・・
本作は、元韓国大統領 金大中が駆け抜けた1924年から1987年までの激動の記録。
1973年8月に、九段下のグランドパレスホテルで白昼堂々、拉致するという「金大中事件」で、一躍、日本でも名を知られることになった金大中氏。 あの頃は、私もまだ若くて、拉致事件の背景を考えることもなかったのですが、今となれば、そこまでして政敵を消したかったのは、いかに軍事政権が、彼の民衆に与える力を知っていたからだと思い至ります。
拉致、監禁、軟禁、死刑判決・・・と、散々な目にあっても、真の民主主義を追い求めた金大中氏。光州の人たちが熱狂的に彼を迎えた場面には、胸が熱くなりました。もちろん、その後に起こった光州事件を知っているからこそ。
「恨(ハン)を手放しましょう」と民衆に語る金大中氏。折しも、先日公開された『私は憎まない』でも、イスラエルから散々な目にあわされたガザのパレスチナ人の医師アブラエーシュ博士も、憎むことを忘れましょうと語っていて、偉人とは、そういう胸中になれる人なのだとつくづく思います。
本作では、獄中の金大中氏に毎日のように手紙を送り続けた奥様である李姫鎬(イ・ヒホ)さんのことも印象に残りました。金大中氏の最初の奥様は二人の息子を遺して先立たれ、李姫鎬さんは女性の権利向上などの社会運動をする中で金大中氏と知り合い結婚。献身的に金大中氏を支える姿が素晴らしいです。
本作が描くのは、1987年までですが、その後、1998年に第15代韓国大統領になられた金大中氏を知っているからこそ、長く辛い苦難の時代を映画で振り返る意味は大きいと思います。(咲)
2024年/韓国/129分/カラー・B&W/DCP
配給:スモモ
公式サイト:https://www.sumomo-inc.com/ontheroad
★2024年11月1日(金)より ポレポレ東中野ほか全国順次公開
2024年10月27日
ノーヴィス(原題:The Novice)
監督・脚本・編集:ローレン・ハダウェイ
撮影:トッド・マーティン
音楽:アレックス・ウェストン
出演:イザベル・ファーマン(アレックス・ダル)、ディロン(ダニ)、エイミー・フォーサイス(ジェイミー・ブリル)
大学の女子ボート部に入部したアレックスは、J.F.ケネディの「困難だからこそ挑戦するのだ」が座右の銘。誰よりも自分に厳しく猛烈な練習をいとわない。同期のジェイミーはスポーツ万能で身近なライバル、彼女より優れていなければならない。ジェイミーを素質があると褒めるコーチが、アレックスの名前さえ憶えていなくても。
怪我のため、レギュラーの座がひとつ空いた。奨学金が必要なジェイミーは策を弄してアレックスを出し抜き、雪辱を果たそうとするアレックスだったが。
ノーヴィス( novice)とは新入り、初心者のことだそうです。この映画は、ローレン・ハダウェイ監督が大学生のとき、なんとなく知っていただけのボート部に入り、4年間熱狂的にハマってやり続けた体験から生まれました。コーチは能力を褒めはしなかったけれど、闘志だけは褒めてくれたとか。ありあまる闘志ゆえ狂気のスパイラルに落ちてしまった、とは! 限りなく闘志ゼロに近い私は感嘆するばかり。
イザベル・ファーマンは『エスター』(2009)の12歳の少女役でブレイク。その前日譚『エスター ファースト・キル』(2023)を25歳になってから演じていたのには驚きました。
アレックス役が決まって、撮影前の6週間、毎朝4時半起きで1日6時間の水上トレーニングを続けたそうです。アレックス役にふさわしいですね。(白)
2021年/アメリカ/カラー/97分
配給:AMGエンタテインメント
(C)The Novice, LLC 2021
https://www.novice-movie.com/
★2024年11月1日(金)ほか全国ロードショー
DOG DAYS 君といつまでも 原題:ドッグデイズ 도그데이즈
監督:キム・ドクミン
出演:ユン・ヨジョン、ユ・ヘジン、キム・ユンジン、チョン・ソンファ、キム・ソヒョン、ダニエル・ヘニー、イ・ヒョヌ、タン・ジュンサン、ユン・チェナ ほか
建設会社でリゾート開発を手掛けるミンサンは、独身。奮発して持ちビルを手に入れたが、1階に動物病院「DOG DAYS」がテナントとして入っていて、今朝も犬の糞を踏んでしまい、清潔好きのミンサンは不愉快極まりない。院長ジニョンと顔を合わせれば喧嘩ばかり。ある日、世界的建築家ミンソがフレンチブルドッグを飼っていて、「DOG DAYS」の顧客だと知り、ミンサンは自身のプロジェクトに参加してもらうべく、ジニョンに助けを求める。
ミンソは、夫とは死別し、息子は海外在住。豪邸で暮らしているが、毎日の食事はデリバリーで済ませ、フレンチブルドッグのワンダは唯一の心のよりどころ。そんなある日、ミンソは散歩中に倒れてしまう。通りがかったデリバリーのライダー、ジヌが救急車を呼んで助けるが、ワンダは置き去りにされ、行方不明になってしまう。意識が戻り、ワンダを探し求めるミンソ。
ワンダは、町内に住んでいるK-POP作曲家のソニョンとチョンアの夫婦が施設から引き取った少女ジユに保護されていた・・・
ミンサンは自分の設計なのに、上司から顔が悪いからとプレゼンを顔のいい部下に任せろと言われてしまいます。ユ・ヘジンさん、確かにまずい顔なのに(失礼!)、このところ恋バナにも縁があって、本作でも犬猿の仲だったジニョンとの関係の行方が気になります。
世界的建築家を演じるユン・ヨジョンさんも、貫禄たっぷり。
ダニエル・ヘニーさんは、愛犬を残してアフリカに行ったスジョンの元彼氏という役どころ。別れた彼女よりも、もしかしてワンちゃんの方をまだ愛してる?
動物病院には、いろんな人が集って、今の韓国での愛犬ブームを感じさせてくれます。
その一方で捨てられる犬もいて、「犬は買わないで引き取りましょう」という運動が映画の中で展開されて、捨て犬問題の一助ともなっています。
思えば、去年1月に公開されたチャ・テヒョン主演の『マイ・ハート・パピー』も、捨て犬を巡る心温まる映画でした。
ワンちゃんたちの名演技も可愛くて、癒されます。(咲)
ミンサンが犬に冷たい態度をとるにはわけがありました。その想像はつきましたが、「もしも犬の言葉がわかったら、飼い主はどんな言葉を聞きたいと思う?」という会話がありました。「大好き」かなと想像しましたが、一番多いのはそうじゃありませんでした。さて、なんでしょう?映画を観てくださいね~。
犬派と猫派どっちが多い?と検索してみましたら、調査によって違いが出るものの、犬派が少々多いとか。十代だと猫派が多くなるそうです。キャラクターグッズは猫が多い感じがしますね。犬も猫も、ついでに動物全般好きですが、保護犬、猫を引き取るには年齢が高いと難しいんです。飼える人はラッキーですよ。大事にしてあげてね。(白)
2024年/韓国/カラー/シネマスコープ/5.1chデジタル/120分
字幕翻訳:小西朋子
配給:ギャガ
公式サイト:https://www.rakuten-ipcontent.com/dogdays/
★2024年11月1日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開
カッティ 刃物と水道管 原題:Kaththi
監督・脚本:A・R・ムルガダース(『サルカール 1票の革命』『ダルバール 復讐人』)
撮影:ジョージ・C・ウィリアムズ
音楽:アニルド(『マスター 先生が来る!』『ダルバール 復讐人』)
編集:A・シュリーカル・プラサード(『PS1黄金の河』『PS2大いなる船出』)
製作会社:ライカ・プロダクションズ
出演:ヴィジャイ(『マスター 先生が来る!』)、サマンタ(『ランガスタラム』)、ニール・ニティン・ムケーシュ(『プレーム兄貴、王になる』)
コルカタの刑務所に収監されているタミル人の“カッティ(刃物)”ことカディル。彼には、建物や都市の平面図(劇中でブループリントと称される)から、その立体的な構造を透視できる特殊能力がある。ある夜、脱獄囚を捕まえるため、警察からその能力を見込まれ、協力要請を受ける。刑務所の外に出られたのを機に、ちゃっかり自分も脱獄。ひとまずチェンナイに逃げて、そこからバンコクへ高跳びしようとしたところで、空港で出会った美女アンキタに一目惚れ。出国を止め、街路を歩いていた時、突然銃撃事件が起きる。カディルが撃たれた男のもとに駆け寄ると、その男は自分と瓜二つ! 救急車で運ばれる彼の所持品を咄嗟に自分のものと入れ替える。身代わりになったのはジーヴァという男。カディルをジーヴァと思い込んだ役人が、表彰セレモニーの会場に連れていく。そこでカディルは、ジーヴァが老人ホームを運営していることを知る。アンキタの祖父もここの入所者だった。そんな時、カディルをジーヴァと思い込んだ刺客に命を狙われる。その刺客を送り込んだのは、世界的に有名な清涼飲料会社の社長シラーグだった。カディルはジーヴァが地方の農民たちの問題解決に奔走していることを知り、ジーヴァに成り代わって、農民たちの先頭に立って多国籍企業のトップと対決する・・・
“大将”の愛称で親しまれる、インド・タミル語映画界の寵児ヴィジャイが、詐欺師で泥棒のカディルと、農民たちの為に闘う正義派ジーヴァの二役を務めた2014年の作品。
『マスター 先生が来る!』公開後、日本でもファンが増え、日本公開が待望されていた映画が、ようやく公開となりました。
大規模な清涼飲料会社が、農民たちが必要とする水を独占しようとしていて、ジーヴァがそのために闘っていること知って、成り代わったカディルは、老人たちを率いて、水道パイプラインの中に居座るという作戦にでます。常に水が流れているわけでないインドだからこそ、できる座り込み。老人たちが命がけでパイプラインの中に入っていく姿は涙を誘います。
アクション娯楽大作の中に、しっかり社会的メッセージも込めた作品。詐欺師カディルが、社会活動家ジーヴァのことを知って、改心していくさまを、ヴィジャイが見事に演じきっています。さて、美女アンキタへの一目惚れの行方は? ぜひ劇場で! (咲)
2014年/インド/タミル語/163分
配給:SPACEBOX 宣伝:フルモテルモ
公式サイト:https://spaceboxjapan.jp/kaththi/
★2024年11月1日(金)より新宿ピカデリー他全国順次公開
2024年10月26日
息子と呼ぶ日まで
監督・脚本:黒川鮎美
撮影:鈴木佑介
出演:合田貴将(林翔太)、升毅(林亮)、正木佐和(林美代子)、鮎川桃果(佐々木絵美)、秋吉織栄(林岬)、黒川鮎美(佃京子)
不動産屋で働くトランスジェンダー男性の翔太は、カミングアウトをきっかけに田舎に住む父親と疎遠になっていた。
社会で生きていく中で感じる偏見と違和感に悩み、家族との関係の中で葛藤を抱えながらも、パートナーの絵美とともに自分らしい生き方を見つけていく。
入れ物と中身が違うというのは、想像するだけでもいごこちが悪そうです。自分らしくあることで誰が迷惑するというんでしょう。本当に少しずつですが社会が変わってきています。認知度があがれば、理解する人が増えてくるはず。どの時代にも明らかにできなかっただけで、自分の性別に違和感のある人はいたでしょう。親にしてみれば青天の霹靂かもしれませんが、最初の味方になれたら子どもがどんなに心強いことか。
林翔太役の合田貴将さんはトランスジェンダー当事者。演技未経験での抜擢ですが、きりりとして清潔感のある美青年です(これってセクハラじゃないですよね)。子ども時代を演じるのは夢香さん、似た感じの子がよく見つかりましたね。こんなに小さい時からたいへんでしたね。「大変」とは大きく変わるってこと、誰が言ってたかな。そのチャンスがきたってことなんだって。大変だ、と思ったときは「チャンスだ」と考えればいいみたいですよ。(白)
2024年/日本/カラー/25分
配給:BAMIRI、STELLA WORKS
(C)息子と呼ぶ日まで製作実行委員会
https://musukotoyobuhimade.studio.site/
★2024年11月1日(金)池袋シネマ・ロサほか全国ロードショー
☆『息子と呼ぶ日まで』完成記念として11月1日〜14日「Diversity CINEMA WEEK」を開催。
短編映画を集めた上映とトークショーをお楽しみください。
池袋シネマ・ロサ https://www.cinemarosa.net/
十一人の賊軍
監督:白石和彌
原案:笠原和夫
脚本:池上純哉
撮影:池田直矢
音楽:松隈ケンタ
出演:山田孝之(政)、仲野太賀(鷲尾兵士郎)、尾上右近(赤丹)、鞘師里保(なつ)、佐久本宝(ノロ)、千原せいじ(引導)、岡山天音(おろしや)、松浦祐也(三途)、一ノ瀬颯(二枚目)、小柳亮太(辻斬)、本山力(爺っつぁん)、野村周平(入江数馬)、音尾琢真(仙石善右エ門)、玉木宏(山縣狂介)、阿部サダヲ(溝口内匠)
戊辰戦争の最中、新発田藩(現:新潟県新発田市)では奥羽越列藩同盟か、旧幕府軍に与するかで揺れていた。新発田藩を守るため命を惜しまない若き剣客たちに、捉えられていた罪人らに砦を守らせ、成功した暁には無罪放免とすると命が下る。罪人を連れ、戦場へ赴いた鷲尾兵士郎はにわか仕立ての戦力に不安を覚えるが、逆らうことはできない。駕籠かきの政(まさ)は、なんとしても生き残って女房の元に帰り、まっとうに生き直したいと腹をくくる。くせ者ぞろいの罪人たちは、不利な状況の中、自分なりの方法で戦おうとするが。
『日本侠客伝』(1964)『仁義なき戦い』(1973)シリーズの脚本家 笠原和夫さんの幻のプロットが映画化。白石和彌監督『碁盤斬り』に続いての時代劇です。映画が2,3本できそうなほどたくさんの俳優さんが勢ぞろい。ただし、罪人たちは牢から出たまま、戦闘場面は土と泥と血にまみれて、2枚目も何もありません。農民に雇われて野武士と戦った『七人の侍』(1954/黒澤明監督)を思い出します。
古今東西、お上・権力者の思惑は常に自分が得すること。下々との約束などあってなきがごとしです。間で苦悩する優三さんじゃなくて、兵士郎が気の毒でなりません。賊軍11人の力いっぱいのあばれっぷりをとくとご覧ください。
東京国際映画祭オープニング作品。10月28日、舞台挨拶つきでいちはやく観られる人はラッキー(チケットは完売)。挨拶のようすはニュースで。(白)
2024年/日本/カラー/155分
配給:東映
(C)2024「十一人の賊軍」製作委員会
https://11zokugun.com/
★2024年11月1日(金)ほか全国ロードショー
アイミタガイ
監督:草野翔吾
脚本:市井昌秀 佐々部清 草野翔吾
原作:中條てい
撮影:小松高志
音楽:齋藤泰陽
出演:黒木華(秋村梓)、中村蒼(小山澄人)、藤間爽(郷田叶海)、安藤玉恵(稲垣範子)、近藤華(中学生の梓)、白鳥玉季(中学生の叶海)、吉岡睦夫(車屋典明)、松本利夫[EXILE](羽星勝)、升毅(福永)、西田尚美(郷田朋子)、田口トモロヲ(郷田優作)、風吹ジュン(綾子)、草笛光子(小倉こみち)
ウェディングプランナーの梓(あずさ)とカメラマンの叶海(かなみ)は中学生のときからの親友。二人はいつものようにカフェでおしゃべりをし、梓は東南アジアへ出張する叶海を送り出した。その後、叶海が事故で亡くなったとの知らせが届き、梓は大きなショックを受ける。受け止めきれない梓は、今も二人で交わしていたスマホのトークにメッセージを送り続けている。交際相手の澄人との結婚にも踏み切れない。
叶海の母の朋子は、遺品のスマホに毎日のようにメッセージが届けられているのを知る。
叶海は行動的で、いつも梓より先を歩いているように見えます。とても頼りになって、なんでも打ち明けていた彼女が本当に先にいってしまい、梓の気持ちは宙ぶらりんのまま。異国での事故死で、ありがとうどころかさよならも言えませんでした。娘が突然いなくなってしまった叶海の両親も同じです。後から娘とほかの人とのつながりが現れて、自分たちが知らなかった娘に出逢うことになります。ちょっとだけひっかかったのがひとつ。中学生なら家も近いし、お互いによく行き来します。お母さんと娘なら友達の話はよくするので、親友を知らないことはないんじゃないかな。私の時代とは違うんでしょうか?
黒木華さんが繊細に演じる梓、彼女を気遣う澄人を演じる中村蒼さん、周りでゆるやかにつながる人々(できすぎと言わないで)、みな良い配役でした。友人を亡くした経験のある人は涙×涙でしょう。ハンカチ、ティッシュをお手元に。(白)
2024年/日本/カラー/105分
配給:ショウゲート
(C)2024「アイミタガイ」製作委員会
https://aimitagai.jp/
★2024年11月1日(金)ほか全国ロードショー
ゴンドラ 原題:GONDOLA
監督&脚本:ファイト・ヘルマー(『ブラ!ブラ!ブラ! 胸いっぱいの愛を』)
撮影:ゴガ・デヴダリアニ(『⾦の⽷』)
美術:バチョ・マハラゼ(『ブラ!ブラ!ブラ! 胸いっぱいの愛を』)
出演:
ニノ:ニニ・ソセリア
イヴァ:マチルド・イルマン
駅⻑:ズカ・パプアシヴィリ
未亡⼈:ニアラ・チチナゼ
⾞椅⼦の男:ヴァチャガン・パポヴィアン
少年:ルカ・ツェツクラゼ
少⼥:エレネ・シャヴァゼ
山間をすれ違う赤い2台のゴンドラ
二人の女性の車掌が心を通わす
黒いリボンが巻かれた赤いゴンドラに棺が乗せられ、山の下に運ばれる。黒い喪服の女性が見送る。ゴンドラの車掌の男性が亡くなったのだ。村の人たちが皆、棺を見守る。
亡くなった男性の娘イヴァが村に帰ってくる。ゴンドラの車掌になる。ゴンドラは2台あって、先輩の女性の車掌ニノが運転を教えてくれる。駅⻑は威張り屋のおじさんで、どうやらニノに気があるらしいが、ニノは駅⻑が好きじゃない。⾞椅⼦の⽼⼈を追い払ったりして、意地悪だからだ。ニノは航空会社のCAになる夢を叶えようと、履歴書をジョージア航空に送る。
イヴァとニノは、すれ違うゴンドラの中からいろいろな形で挨拶を交わしたり、駅に着くたびチェスの一手をさしたり、心を交わしていく。ニノに振られた駅長が、腹いせでチェス盤をめちゃめちゃにしてしまったとき、イヴァはニノを慰めるように素敵で美味しいオープンサンドを作ってプレゼントする。
2⼈の距離がどんどんと近づいていく。ニノの家に急ぐイヴァ。抱き合う2⼈。が、航空会社からの⼿紙を⾒つけたイヴァは、ニノがゴンドラの乗務員をやめるつもりでいることに怒って帰ってしまう。 しかし、翌朝。⽔鉄砲をニノにプレゼントするイヴァ。2⼈は仲直りして、ゴンドラでの⽔鉄砲合戦を⼦供のように楽しむ・・・
ジョージアの山あいを走るゴンドラを舞台に、若い女性の車掌どうしの淡い恋や、人々の日々の営みを、いっさいセリフなしで描いた映画。
2023年の東京国際映画祭のコンペティション部門で上映された折、セリフがないことに、途中からちょっと居心地の悪い思い。上映後のQ&Aで、ファイト・ヘルマー監督が、「セリフのない映画を気に入ってくれた観客とは友達」と開口一番。私、友達になれないかもと、その時には思ったのでした。
実は、ファイト・ヘルマー監督には、『世界でいちばんのイチゴミルクのつくり⽅』が公開された折にインタビューして、映画で使ったイチゴをいただいたりして、お友達になっていたのでした。
公開を前に、もう一度、拝見。女性車掌二人の淡い恋物語と共に、可愛い少年少女の初恋らしきものも語られていて、こんなにいろんなことが散りばめられた物語だったのかと!映像がとにかく素晴らしいです。ジョージアのメインの撮影地のゴンドラは、実は1台だけ。行き交う2台のゴンドラは別の場所で撮影したそうです。詳細は下記の記事をご覧ください。(咲)

東京国際映画祭コンペティション部門『ゴンドラ』Q&A報告 (咲)
山やスキーが好きなので、ゴンドラやロープウエイにはよく乗ります。若いころは山登りやスキーをするために、今は景色を見るために。上に上っていく時の周りの景色や、下に広がる様々な景色、遠くに見える山や湖の姿が移動と共に移り変わっていく様子、雪景色も新緑も好きですが、特に紅葉の時期の景色が大好きです。日本では主に観光や娯楽用としてゴンドラはありますが、この映画に出てくるゴンドラは、人の行き来、荷物を運んだり、学校に通ったりと山の上の村と下の村?を結ぶ、生活の必需品として出てきます。そして冒頭では、このゴンドラの車掌だった人の棺が出てきて、びっくりしました。人々の生活の営みとしてのゴンドラを舞台に、二人の女性の交流が描かれ、村人たちの生活も上から見えます。こんなに生活に密着したゴンドラがあることを知りました。それにしても生活に密接にかかわる交通機関としてのゴンドラなのに、スチュワーデスみたいな制服で乗っているんだと思いました。可愛かったけど(笑)。
と、「旅サラダ」という番組を見ながらこの文章を書いていたら、中国湖南省張家界という街から世界遺産武陵源を結ぶゴンドラが出てきました。『AVATAR(アバター)』で描かれたところです。このゴンドラも家々が広がる街中から山へと向かっていました。山水画のような景色、絶景でした。街中から山へ向かうゴンドラって、海外ではけっこうあるのかな(暁)。
2023年/ドイツ、ジョージア/85分/1 : 1.85/5.1ch
配給:ムヴィオラ
公式サイト:https://moviola.jp/gondola/
★2024 年 11 月 1 日(金)より新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
2024年10月25日
江里はみんなと生きていく
監督:寺田靖範(『妻はフィリピーナ』『もっこす元気な愛』)
撮影:水戸孝造
語り:西田良枝
音楽:飯田俊明
出演:西田江里、西田良枝、岡村あかね、花田恵ほか
制作:パーソナル・アシスタンス とも/おもしろ制作
千葉県浦安。1989年この町で生まれた西田江里さんは、生後7か月で重い障害のあることがわかった。中学までは普通学級で学び、養護学校高等部に入学後、訪問学級に転籍。フリースクールを併用して過ごした。2008 年、母の良枝さんがたちあげた”パーソナル・アシスタンス とも”に入社。2016 年からヘルパーをはじめとする支援者たちに支えられながら自宅でひとり暮らしをしている。
良枝さんが30年前から撮り始めたホームビデオの映像・写真に加え、寺田監督が12年間密着して回し続けたカメラは江里さんの日々と周りの人々との関わりを映し出す。
江里さんは年を経ると共に、できないことが増えていきました。現在は息をすること、食べることから生活の全てに人の助けが必要です。大きな綺麗な目の江里さんは、お洒落と絵を描くのが好きな明るい女性です。「この映画で重い障害があっても地域で一人暮らしができることを知ってもらいたい」と言います。
母の良枝さんは、はじめは江里さんのために、障害者の福祉と教育の改善を浦安市に働きかけ活動してきました。そのうち障害者のニーズをよく知る自分たちがサービスの担い手になろうと、変わっていきます。”パーソナル・アシスタンス とも”は今支援が必要な人々を支える役割を担っています。江里さんは自分がケアを受けるだけでなく、知らず知らず若いスタッフが経験を積み、成長するのを手伝ってもいます。スタッフは結婚し、出産し、子育てをしながら働き続けています。せっかくのスキルを途中で手放すことなく、相互に役立たせることができるのも素敵なことと思いました。(白)
2024年/日本/カラー/91分/DCP/UDCast対応作品
配給・宣伝:おもしろ制作
配給・宣伝協力:JyaJya Films
(c)おもしろ制作
https://eri-movie.com/
パーソナル・アシスタンス とも
https://www.patomo.jp/recruit/profile.html
★2024年10月26日(土)ポレポレ東中野ほか全国順次公開
拳と祈り 袴田巌の生涯
監督・撮影・編集:笠井千晶
出演:袴田巖、袴田秀子
30歳で放火・強盗殺人の容疑で逮捕され、裁判で死刑が確定し、獄中で47年7か月をおくった袴田巌さん。姉の秀子さんはこの間ずっと弟の無実を信じ、差し入れを持って面会に行き、手紙を書き、支え続けてきた。再審請求後、釈放された巌さんと秀子さんとの二人の暮らしをカメラは静かに映し出す。長い拘禁の後遺症で、記憶と妄想が混在している巌さん。日課にしている散歩で、かつて通ったボクシングジムのビルに一礼して手を合わせる。元プロボクサーは88歳になっていた。
=袴田事件=
1966年6月、静岡県清水市(現:静岡市清水区)の味噌製造会社会社役員の家が全焼し、一家4人が焼死体で発見された。4人はいずれも刃物で刺されており、容疑者として住み込み従業員の袴田巌さんが逮捕された。否定し続けたものの、長期間にわたって精神的・肉体的に過酷な取り調べを受け、拘留期日が迫ってきたころ「自白」する。裁判では一貫して無実を訴えたが、1968年静岡地裁で死刑判決、1980年最高裁で死刑判決が確定した。再審請求を続け、2014年に請求が認められて釈放。検察庁との長い攻防の末、2023年再審公判開始、2024年9月26日無罪判決が出された。
この10月8日検察が控訴を断念、無罪判決が確定しました。会見に登場した秀子さんは満面の笑顔、巌さんが「真の自由」を得たと喜びでいっぱいでした。明るい若草色の上着をこのときとばかり選んでこられたようです。この秀子さんのおおらかさ、強さに感嘆します。共に戦ってきた弁護団は検事総長の「談話」に苦言を呈しました。21日には静岡県警察本部長が袴田家を訪ね、巌さん秀子さんに「申し訳ありませんでした」と謝罪しています。事件の詳しい経緯や一連の動画は、袴田事件弁護団のHPで動画が観られます。
それにしても長い、長すぎる約58年。どう償われても時間は戻りません。1980年代には免田事件、財田川事件、松山事件、島田事件という4件の死刑判決確定事件が、再審によって無罪となりました。冤罪から生還しましたが、再審を果たせず、失意のうちに亡くなった方もいます。いつも思うのですが、冤罪の陰にいるはずの真犯人はいったい?(白)
=関連作品=
●『ふたりの死刑囚』(2016年)監督:鎌田麗香
●『獄友』(2018年)監督:金聖雄(キム・ソンウン)
2024年/日本/カラー/159分
配給:太秦
(C)Rain field Production
https://hakamada-film.com/
★2024年10月18日(金)ほか全国ロードショー
2024年10月22日
ガザからの報告
監督・撮影・編集・政策:土井敏邦(『沈黙を破る』『愛国の告白』)
整音:川久保直貴 デザイン:野田雅也・尾尻弘一 ウェブ広報:ハディ・ハーニ
第一部「ある家族の25年」(120分)
. 故郷を追われ、ガザ最大の難民キャンプ「ジャバリア」で暮らすエルアクラ家。土井敏邦は1993年9月の「オスロ合意」直後から住み込みで取材を開始した。職につけず、結婚もままならない息子たち。家族と共に故郷へ戻れる日を待ち続けている父。イスラエル軍の撤退、解放、パレスチナ自治政府の誕生――。「和平」ムードに人々が歓喜する一方で、父は「これは本当の和平ではない」と怒り、故郷への帰還を諦めて家の増築を始める。パレスチナ初の選挙が行われ、インフラが整備されたガザで、エルアクラ家の息子たちは仕事と家庭を持ち、新たな生活を送っていた。しかし自治政府の独裁・強権政治と腐敗が深刻化し…。25年の歳月をかけエクアクラ家の人々の人生をみつめた本作はガザ住民にとって「オスロ合意」とは何だったのかを問い、「ガザのパレスチナ人」と一括りにされる彼らが私たちと“同じ人間”であることを伝える。なお、エルアクラ家の人々は今回のイスラエルの軍事作戦により、消息が途絶え安否不明となっている。
第二部「民衆とハマス」(85分)
. イスラエル国家を認めず、全パレスチナの解放、難民の帰還を掲げるハマス。彼らは貧困に苦しむ家庭への食料配布や孤児の救済、女性の職業訓練、医療支援といった慈善事業と、 パレスチナ解放をめざす武装闘争の両面で民衆の支持を拡げてきた。2006年の選挙と、翌年の内戦の勝利によってハマスがガザ地区を実効支配するようになると、イスラエルは封鎖政策を強化。さらにはハマスの悪政も重なり、人びとはかつてない貧困に喘ぐことになる。絶望した住民たちの中にはイスラム教で禁止されている自殺に走る者、ガザ脱出を図る者まで続出していた。本作は後にイスラエルに暗殺されたハマスの指導者やスタッフ、戦闘員、そしてガザ住民へのインタビューを重ね、ハマスが民衆から乖離していったプロセスを追い、今のガザの惨状の根源を浮かび上がらせる。そして今回のガザ攻撃を受けた現地からの報告を元に、インフラも人間も、すべてが破壊されてしまった現在のガザの厳しい現状を伝える
2023年10月7日、ハマスによる越境攻撃をきっかけに始まったイスラエルによるガザ攻撃は、これまでにない激しさで1年を経過しました。
本作は、パレスチナ・ガザ取材歴30年の土井敏邦監督が、時系列でこれまでの経緯を追ったドキュメンタリー。これを見れば、イスラエルのガザ攻撃が昨年10月7日を機に始まったものでないこと、人気を誇ったアラファト議長と彼が率いるファタハも、政権を取る前には庶民に寄り添っていたハマスも、権力と金を手にすると、庶民をないがしろにしたことがよくわかります。
希望の灯りがまったく見えないガザの人たちのことを思うと、ほんとに胸が痛みます。すべては1948年のイスラエル建国に端を発しているけれど、パレスチナ自治政府がさらに庶民を苦しめたことを思うと、もう言葉もありません。
どんな結末を迎えるのか想像してみても、絶望的な事態しか思い浮かびません。悲しい・・・(咲)
2024年/日本/205分/ドキュメンタリー/Blu-ray
配給協力・宣伝:リガード
公式サイト:http://doi-toshikuni.net/j/gaza/#top
★2024年10月26日(土)よりK's Cinemaほか全国順次公開
2024年10月21日
まる
監督・脚本:荻上直子(『かもめ食堂』)
出演:堂本剛、綾野剛、吉岡里帆、森崎ウィン、戸塚純貴、おいでやす小田、濱田マリ、柄本明、早乙女太一、片桐はいり、吉田鋼太郎、小林聡美.
沢田は、美大を出たもののアートで身を立てられず、人気現代美術家のアシスタントをしている。ある日、自転車で通勤途中、鳥を眺めていた時にぶつかって転倒し、右腕の骨を折ってしまう。利き手が使えず失業した沢田は、近所のコンビニで働き始める。
ある日、部屋で寝転がっていた時、蟻が円を描くのをみて、左手で〇を描く。近所の古道具屋に蒐集品と共に売った〇の絵が、後日、画廊の表に飾られていて驚く。正体不明のアーティスト「さわだ」が描いた〇の絵は、SNSで拡散され、瞬く間に有名になっていた・・・
2024年にデビュー27周年を迎えたKinKi Kidsの堂本剛さんが、荻上直子監督と企画プロデューサーから、2年にわたる熱烈オファーを受けて、映画単独主演を果たしました。
人気現代美術家の下請けで甘んじていた沢田が、怪我をして失業。何気なく描いた絵が、SNSで有名になるという、いかにも今どきの展開。
〇は、ほんとに堂本剛さんが左手で描いていて、なかなかの芸術的作品。
『かもめ食堂』以来、荻上直子監督作品で存在感をみせてくれる片桐はいりさんが、不愛想な古道具屋さん、小林聡美さんが、明るく元気なギャラリーオーナーと、しっかり映画を支えています。
沢田の隣の部屋に住む売れない漫画家役の綾野剛さんも、切れっぷりが半端ないです。
唐突に表れる「先生」役の柄本明さんの正体不明ぶりにも笑わせられます。
ミャンマー人のコンビニ店員役の森崎ウィンさんは、客に話し方をからかわれても、笑顔を絶やしません。怪訝な顔をする沢田に、「福徳円満」と仏教の教えを説くという、本作の中で、なんだか一番いい人でした。(咲)
2024年/日本/117分
製作・配給:アスミック・エース
公式サイト:https://maru.asmik-ace.co.jp/
★2024年10月18日(金)全国公開
破墓/パミョ 原題:破墓 파묘
監督・脚本: チャン・ジェヒョン ;
出演, チェ・ミンシク、キム・ゴウン、ユ・ヘジン、イ・ドヒョン
アメリカ、ロサンゼルス。巫堂(ムーダン)のファリム(キム・ゴウン)と弟子のボンギル(イ・ドヒョン)は、裕福な韓国人一家から、代々跡継ぎが謎の病に苦しめられているという相談を受ける。先祖の墓に原因があると推測したファリムたちは韓国に帰国し、墓を良い場所に移し変える「改葬」のためにベテラン風水師サンドク(チェ・ミンシク)と葬儀師ヨングン(ユ・ヘジン)に協力を求める。田舎の山の上にある墓に嫌な気配を感じたサンドクは一度は依頼を断るが、跡継ぎの子の命がかかっているといわれ、多額の謝礼にも惹かれ引き受ける。お祓いをし、改葬に取りかかるが、掘り返した墓には恐ろしい秘密が隠されていた・・・
富豪一族のご先祖には、日本が深く関わっていたらしく、日本人としては、どうにも居心地悪くなってしまいます。日本の将軍らしきオバケが出てくるのですが、それが キム・ミンジュンが演じていたと後から知りました。もう一度観ても、もしかしたらわからないかも。
ユ・ヘジンが葬儀師役で、絶対面白いはず・・・と思っていたのですが、それほど弾けず、神妙な面持ちでした。おまじないに、4人とも顔一面に文字を書いていて、まるで耳なし芳一のよう! なんともおどろおどろしい物語でした。(咲)
第74回ベルリン国際映画祭正式出品
第60回百想芸術大賞 監督賞・主演女優賞・新人男優賞・芸術賞4冠受賞
2024年/韓国/134分
字幕翻訳:根本理恵
配給:KADOKAWA、KADOKAWA Kプラス
公式サイト:https://pamyo-movie.jp/
★2024年10月18日(金)より新宿ピカデリー他にて全国ロードショー
2024年10月20日
まつりのあとのあとのまつり まぜこぜ一座殺人事件
監督:齊藤雄基
脚本:エスムラルダ
企画・プロデューサー・キャスティング:東ちづる
撮影:砂原洋一/やまだこうた/新島克則
エンディングテーマ曲:「Get in touch!」
出演:東ちづる、大橋弘恵、ダンプ松本、ドリアン・ロロブリジーダ、桂福点、野澤健、マメ山田、三ツ矢雄二、峰尾紗季、森田かずよ、矢野デイビット、悠以、石井正則、芋洗坂係長、山野海
打ち上げ中、座長の東ちづるの楽屋から悲鳴が響く。座員たちが駆けつけると、そこには首を絞められて息絶えた東の姿。 驚愕する座員と関係者。だが楽屋のフロアのエレベーターは使えず、携帯の電波も遮断されていた。「犯人はこの中にいる」と確信するドラァグクイーンのドリアン・ロロブリジーダが、義足のダンサー森田かずよを助手に犯人探しを始める。なぜ?誰が?座長 東に憎しみを抱く者なのか?ドリアンが探る中で、座員、それぞれが抱えていた不満が露わになり、事件は思いがけない展開に!
殺人事件をきっかけに、車椅子ユーザー、発達障害、全盲、ダウン症、聾、こびとなど、特性を活かして活躍するマイノリティパフォーマーたちの本音と疑問、怒りと笑いが爆発する。
映画の冒頭に主演の東ちづるさんが登場して、自身のこれまでの経歴とこの映画について語ります。いろんな活動をしておられるのを知りました。誰も排除しない「まぜこぜ一座」を作ったけれど、夢は「解散」。?と思ったら、まぜこぜが世の中で当たり前になったら、必要なくなるから、と。舞台のダイジェストで、個性的な出演者たちの紹介がひととおり済みました。
ちづる座長の事件で、座員それぞれが自分の想いを口にします。マイノリティ側ではない、プロデューサー、タレント事務所社長、代理店の3人の本音もぽろぽろと吐かれます。表向き、愛想はいいけれど「いつか」とか「でも」ばかり。責任転嫁も上手です。
私や観客の多くもマイノリティ側でなくそちらです。たまたまそちら側になっただけで、歳をとれば誰もがこの先マイノリティに変わっていくはず。けれども当事者にならないとわからないんですよね。両者の境目はあいまいなのに、距離は果てしない気さえします。この乖離がとても痛い。ラストのセリフがグサグサと刺さりました。
マメ山田さんがお元気で、『エゴイスト』挨拶以来のドリアンさんの迫力あるクイーンっぷりが嬉しかったです。(白)
2024年/日本/カラー/92分/バリアフリー日本語字幕・音声ガイド
配給:一般社団法人Get in touch
配給協力:ポニーキャニオン
(C)2024一般社団法人Get in touch
★2024年10月18日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷/キネカ大森ほか全国順次公開
The Break 世界一、負けず嫌いのテニスプレイヤー、上地結衣。
監督:新山正彰
ナレーター:花江夏樹
出演:上地結衣
2022年、空港から欧州遠征に向かう上地結衣の姿からドキュメンタリーが始まる。彼女は先天性の病気のため成長と共に歩行が難しくなり、11歳で車いすテニスを始めた。高校3年生でパラリンピックに出場し、卒業後プロの世界に転向。20歳で世界ランキング1位を獲得。2017年、各地のオープンで優勝して年間王者となった。しかし上地にはどうしても勝てないライバルが現れる。オランダのディーデ・デフロート選手、上地は最後まで戦って最後に敗れる。金メダルにあと一歩で届かない。いつも2位だ。
上地は負けず嫌いだ。どうして勝てないのか? 練習方法を変え、ついに車椅子の改造を始めた。
2024年8~9月に開催されたパリ2024パラリンピック競技大会、あのメダルラッシュはまだ記憶に新しいですよね。どの選手も目標を掲げ、努力し続けてそこまでやってきています。きっと共通しているのは、「負けず嫌い」なことなのではないでしょうか。
なかでも「世界一、負けず嫌い」と自認する車いすテニスプレイヤー上地結衣さん、その筋金入りの雄姿をご覧ください。女子シングルス・ダブルスで金メダルを獲得するまでの、コツコツと積み上げてきた日々に密着したドキュメンタリーです。コーチや車椅子のエンジニア、さらに引退を発表した大先輩 国枝慎吾さんも彼女の力になります。連敗にめげず立ちはだかる壁を越えていく姿は、どんなスポーツ、職種を問わず憧れのまととなるでしょう。車椅子を自在に操り、笑顔で挑戦し続ける上地さんに、たくさんパワーをいただきました。(白)
2024年/日本/カラー/74分
配給:日活
(C)2024「The Break 世界一、負けず嫌いのテニスプレイヤー、上地結衣。」製作委員会
https://yuikamiji-movie.com/
★2024年10月18日(金)ほか全国ロードショー
恋するピアニスト フジコ・ヘミング
監督・構成・編集:小松莊一良
撮影監督:藤本誠司
録音・整音:井筒康仁
出演・音楽:フジコ・ヘミング
スウェーデン人の画家で建築家の父のジョスタ・ゲオルギー・ヘミングと、ピアニスト・大月投網子の間に生まれる。5歳からピアノを始め、東京藝大を卒業後、28歳でドイツ留学、ヨーロッパでキャリアを積む。リサイタル直前に風邪をこじらせて聴力を失い、治療しながらピアノを弾き続けた。
1999年にNHKで放映されたドキュメンタリー「フジコ~あるピアニストの軌跡~」が大きな反響を呼ぶ。同年発売のファーストアルバム「奇跡のカンパネラ」が200万枚以上の売上げを記録、クラシック界では異例のことで注目を集めた。
2018年、小松莊一良監督のドキュメンタリー映画『フジコ・ヘミングの時間』が公開。ロングランヒットとなる。その後、90代に入っても精力的に演奏するフジコさんの飾らない姿を撮り続けた第2弾がこの作品。
2024年4月21日、フジコ・ヘミングさんが亡くなられました。享年92歳。私もフジコブームが起こったころ、初めて知りました。60代を過ぎて花開いた遅咲きのピアニストは、志半ばであきらめずに挑戦する人をどんなにか力づけたことでしょうか。
音楽には詳しくない私でも聞き覚えのある曲を楽しそうに弾く様子や、一風変わった衣裳に目がひきつけられました。着物をアレンジしたもので、スカーフは帯揚げ、髪飾りなどアクセサリーもフジコ流です。大好きなものを身にまとって、軽々と名曲の数々を披露するフジコさんはとても輝いています。
いくつになっても純粋な少女のような心を持っていたフジコさんが、大好きなパリで好きなものに囲まれて暮らした日々が残されています。たくさん描かれた絵も愛らしいです。あのお部屋がどこかに再現されていたら、ぜひお邪魔して一つ一つをゆっくり見せていただきたい…(白)
『フジコ・ヘミングの時間』を観て、フジコ・ヘミングさんが家にこだわりをお持ちであることを知りました。本作でも、そのことが大いに語られています。1889年に建てられたパリ・マレ地区のアパルトマン、アメリカ西海岸サンタモニカの風情のある家、壊されそうになった京都の町家も購入して救っています。どれも自分の死後も残してほしいという思いをお持ちでした。どのように今後保存されていくのでしょう。フジコ・ヘミングさんの愛した家具や蒐集品とともに、公開されれば嬉しいです。
戦争中、フジコ・ヘミングさんが疎開した岡山県総社市美袋(みなぎ)で弾いたピアノは、保管されていた小学校が廃校になって、捨てられそうになったところ、フジコ・ヘミングさんが有名になったお陰で命拾い。2022年5月の総社の小学生たちとの演奏会には、ほろっとさせられました。
10年以上前に、国際交流基金の授賞式のレセプションだったと思うのですが、一度だけフジコ・ヘミングさんの生演奏を聴いたことがあります。情感たっぷりで迫力もあって聴き惚れました。私も小学生の頃からピアノを習って、中高校生の頃には、今回の映画の中に出てきた曲のいくつかを弾いたことがあります。こんな風に弾くものだったのだと、楽譜だけを追っていた私は恥じ入るばかりです。
今は先に旅立たれたご両親や愛猫や愛犬に迎えられて、幸せな時を過ごされていることと思います。ご冥福をお祈りいたします。(咲)
2024年/日本/カラー/119分
配給:東映ビデオ
©2024「恋するピアニスト フジコ・ヘミング」フィルムパートナーズ
公式サイト https://fuzjko-film.com/
公式X(旧Twitter) @Fuzjko_film
★2024年10月18日(金)新宿ピカデリーほか全国公開中
2024年10月18日
国境ナイトクルージング 原題:燃冬 英題:The Breaking Ice
10月18日(金)新宿ピカデリーほか全国公開
Ⓒ 2023 CANOPY PICTURES & HUACE PICTURES
『イロイロ ぬくもりの記憶』(爸媽不在家2013)、シンガポールの陳哲藝(アンソニー・チェン)監督最新作
監督・脚本:陳哲藝(アンソニー・チェン)
出演:
ナナ 周冬雨(チョウ・ドンユイ)『少年の君』
ハオフォン 劉昊然(リウ・ハオラン)
シャオ 屈楚蕭(チュー・チューシアオ)
日本語字幕:本多由枝
やり場のない寂しさに閉じこめられた若者たち
偶然の出会いが孤独な魂をリスタートさせる
母のプレッシャーに心を壊したエリート社員。オリンピック出場を断念した元フィギュアスケーター。勉強が苦手で故郷を飛び出した料理人。挫折感を抱え、閉塞感の中で生きる3人が、中国と北朝鮮の国境の街、延吉で出会った。磁石のように引き寄せられ、数日間を過ごす。極寒の延吉をクルーズするうちに孤独がほどけていった。国境沿いの凍てついた街で偶然出会った3人の男女の5日間を描いた。
選ばれた地は中国東北部、吉林省延辺朝鮮族自治州の延吉。北朝鮮と国境を接していて、中国と朝鮮の文化が混ざり合う都市。漢字とハングルが混じり合う異国情緒豊かなネオンサインは夜の延吉名物で、本編にも収められている。中国と北朝鮮との国境を流れる豆満江(とまんこう)を渡り、北朝鮮から密入国する人も多く、脱北者が身を潜めて暮らす都市でもある。
ストーリー
友人の結婚式に出席するため、冬の延吉を訪れたハオフォン(リウ・ハオラン)。披露宴が終われば、翌朝のフライトまで予定はない。観光ツアーに参加したら、スマートフォンを紛失。観光ガイドのナナ(チョウ・ドンユイ)がお詫びにハオフォンを夜の延吉に連れ出した。男友達のシャオ(チュー・チューシアオ)も合流し、飲み会は盛り上がり、ナナの部屋にまでなだれ込んで朝方まで飲み明かした。
翌朝、ハオフォンは寝過ごし、上海に戻るフライトを逃し途方に暮れる。運に見放されたハオフォンだが、逆に心は開放された気分になり、シャオの提案で3人はバイクに乗り、国境クルージングに出掛ける。雪山と冷たく澄み切った空の中、凍った川の向こうに広がる隣国を眺めながらクルージングは続く。極寒の延吉をクルーズするうちに3人は少しづつ絆を深めてゆく。
アンソニー・チェン監督
1984年生まれ。シンガポール出身の脚本家、監督、プロデューサー。2007年に短編映画『AH MA(原題)』でシンガポール人として初めてカンヌ国際映画祭で特別賞を受賞。長編デビュー作『イロイロ ぬくもりの記憶』(2013年)はカンヌ国際映画祭カメラドールを受賞したのを皮切りに、第14回東京フィルメックスで観客賞を受賞、台湾金馬奨では、作品賞・新人監督賞・助演女優賞・脚本賞の4冠に輝き、世界の映画祭を席巻した。 2作目の『熱帯雨』(2019年)はトロント国際映画祭でプラットフォーム賞にノミネートされ、東京フィルメックのコンペ部門に出品。続く、長編3作目『DRIFT(原題)』は、初の英語作品であり、2023年のサンダンス映画祭でプレミア上映された。『国境ナイトクルージング』は初の中国語作品である。
公式HP https://kokkyou-night.com/
2023年/中国・シンガポール/中国語・一部韓国語/100分/1:2.00/5.1ch/
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム
Ⓒ 2023 CANOPY PICTURES & HUACE PICTURES
『イロイロ ぬくもりの記憶』(爸媽不在家2013)、シンガポールの陳哲藝(アンソニー・チェン)監督最新作
監督・脚本:陳哲藝(アンソニー・チェン)
出演:
ナナ 周冬雨(チョウ・ドンユイ)『少年の君』
ハオフォン 劉昊然(リウ・ハオラン)
シャオ 屈楚蕭(チュー・チューシアオ)
日本語字幕:本多由枝
やり場のない寂しさに閉じこめられた若者たち
偶然の出会いが孤独な魂をリスタートさせる
母のプレッシャーに心を壊したエリート社員。オリンピック出場を断念した元フィギュアスケーター。勉強が苦手で故郷を飛び出した料理人。挫折感を抱え、閉塞感の中で生きる3人が、中国と北朝鮮の国境の街、延吉で出会った。磁石のように引き寄せられ、数日間を過ごす。極寒の延吉をクルーズするうちに孤独がほどけていった。国境沿いの凍てついた街で偶然出会った3人の男女の5日間を描いた。
選ばれた地は中国東北部、吉林省延辺朝鮮族自治州の延吉。北朝鮮と国境を接していて、中国と朝鮮の文化が混ざり合う都市。漢字とハングルが混じり合う異国情緒豊かなネオンサインは夜の延吉名物で、本編にも収められている。中国と北朝鮮との国境を流れる豆満江(とまんこう)を渡り、北朝鮮から密入国する人も多く、脱北者が身を潜めて暮らす都市でもある。
ストーリー
友人の結婚式に出席するため、冬の延吉を訪れたハオフォン(リウ・ハオラン)。披露宴が終われば、翌朝のフライトまで予定はない。観光ツアーに参加したら、スマートフォンを紛失。観光ガイドのナナ(チョウ・ドンユイ)がお詫びにハオフォンを夜の延吉に連れ出した。男友達のシャオ(チュー・チューシアオ)も合流し、飲み会は盛り上がり、ナナの部屋にまでなだれ込んで朝方まで飲み明かした。
翌朝、ハオフォンは寝過ごし、上海に戻るフライトを逃し途方に暮れる。運に見放されたハオフォンだが、逆に心は開放された気分になり、シャオの提案で3人はバイクに乗り、国境クルージングに出掛ける。雪山と冷たく澄み切った空の中、凍った川の向こうに広がる隣国を眺めながらクルージングは続く。極寒の延吉をクルーズするうちに3人は少しづつ絆を深めてゆく。
アンソニー・チェン監督
1984年生まれ。シンガポール出身の脚本家、監督、プロデューサー。2007年に短編映画『AH MA(原題)』でシンガポール人として初めてカンヌ国際映画祭で特別賞を受賞。長編デビュー作『イロイロ ぬくもりの記憶』(2013年)はカンヌ国際映画祭カメラドールを受賞したのを皮切りに、第14回東京フィルメックスで観客賞を受賞、台湾金馬奨では、作品賞・新人監督賞・助演女優賞・脚本賞の4冠に輝き、世界の映画祭を席巻した。 2作目の『熱帯雨』(2019年)はトロント国際映画祭でプラットフォーム賞にノミネートされ、東京フィルメックのコンペ部門に出品。続く、長編3作目『DRIFT(原題)』は、初の英語作品であり、2023年のサンダンス映画祭でプレミア上映された。『国境ナイトクルージング』は初の中国語作品である。
公式HP https://kokkyou-night.com/
2023年/中国・シンガポール/中国語・一部韓国語/100分/1:2.00/5.1ch/
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム
太陽の少年 4Kレストア完全版 原題:『阳光灿烂的日子』
10月18日(金)より新宿シネマカリテにて公開!シネマスコーレ、第七藝術劇場ほか全国順次公開 劇場情報
文化革命時代の青年の青春ストーリーが蘇る
監督・脚本:姜文(チアン・ウェン)
出演作『芙蓉鎮』『紅いコーリャン』、監督作『鬼が来た!』
原作:王朔(ワン・シュオ)「動物凶猛」
撮影:顧長衛(クー・チャンウェイ)『紅いコーリャン』『さらばわが愛/覇王別姫』
製作総指揮 文雋(マンフレッド・ウォン)劉暁慶(リウ・シャオチン)
出演:
馬小軍(マー・シャオチュン)役 夏雨(シア・ユイ)
米蘭(ミーラン)役 寧静(ニン・チン)
劉憶苦(イクー)役 耿楽(コン・ラー)
小軍の父:王学圻(ワン・シュエチー)
小軍の母:斯琴高娃(スーチン・カオワー)
ペイペイ役 陶虹(タオ・ホン)
小軍成人役 姜文(チアン・ウェン)
カンフー先生 馮小剛(ファン・シャオカン)
『鬼が来た!』(00/カンヌ国際映画祭審査員特別グランプリ)の姜文監督×『紅いコーリャン』『さらばわが愛/覇王別姫』の撮影監督顧長衛×ヴェネチア国際映画祭・主演男優賞の夏雨で贈る、中国発・青春映画の傑作『太陽の少年』が<4Kレストア完全版>として上映される。失われた約10分のシーンも復活。キーワードは「初恋」と「記憶」と「夏」。
1970年代、文化大革命下の北京。馬家の父親は軍の仕事で遠方に行っていて不在。息子で中学生の小軍(シャオチュン)は幼馴染の悪友たちと町を闊歩し、労働や下放で不在の家に合鍵を作って忍び込むことを繰り返していた。
ある日、シャオチュンは忍び込んだ家で赤い水着でほほ笑む少女米蘭(ミーラン)の写真を発見。彼女に憧れる。やがて彼女が家に戻った時に会うようになった。そして、彼女が仲間内で話題になっているミーランであることを知ると、仲間たちに紹介するが。シャオチュンの兄貴分の劉憶苦(イクー)がミーランと親しくなり、シャオチュンの心は騒ぐ。
物語は、シャオチュンが約20年前の1970年代の少年時代に想いを馳せる回想形式で語られる。激動の文化大革命の時代。大人の姿がまばらな北京の街を舞台に、シャオチュンたち悪ガキ仲間は自転車で走り回る。文化大革命下、こんな青春もあったと描かれ、淡い恋をノスタルジックに描きつつ、少年の凶暴なまでのエネルギーを、ユーモアを交えて描きだす。中国で公開された1996年、大ヒット。日本では1997年に公開され話題になった。
1988年秋、日本公開された『芙蓉鎮』(謝晋監督)を観て、主人公役の姜文(チアン・ウェンの演技に魅せられた私は、それ以来中国映画を観始め、2年の間に約200本の中国映画を観た。そして、『芙蓉鎮』はいろいろな上映会に通い、結局27回観た。1989年には『紅いコーリャン』(張芸謀初監督作品)が日本公開され、姜文は押しも押されぬスターになっていた。
『芙蓉鎮』を観て2週間後にはラジオで中国語講座まで始め、そして、1996年には北京語言学院に6週間の語学留学をした。その時に、運良く姜文に取材することができた。この映画の主人公を演じた夏雨君が北京の中央戯劇学院で勉強をしていて、北京電影学院に留学していた日本人の友人が知り合いだったので、彼にインタビューし、夏雨君が姜文につなげてくれて姜文にもインタビューすることができた。もちろん、この『太陽の少年』についての取材だった。インタビューの後、夏雨君はミーランが住んでいるという設定の建物まで案内してくれた。この4Kレストア完全版を観ながら、その時のことを思いだした。そして姜文インタビューの時の撮影地での右往左往も思い出した。今、思えば大胆な行動だったなあと思う。
当時は日本公開が決まっていなかったし、私はまだ観ていなかったので、この映画に対する思いを聞いた。その時の記事はシネマジャーナル本誌38号(1996年発行)に掲載されているが、現在38号の在庫はなく、この4Kレストア完全版公開に合わせて、ネットでも見ることができるようにアップしました。下記アドレスからアクセスください。
この時、姜文に次回作の構想について聞いたら、通訳の人が追い付かないくらい熱心に語っていたけど、それが『鬼が来た!』(00/カンヌ国際映画祭審査員特別グランプリ)のことだった。突然やってきた、見ず知らずの日本のミニコミ誌の取材によく答えてくれたと思う。当時、北京に留学していた何人もの日本人の方たちにお世話になった。
この『太陽の少年』は姜文の監督デビュー作。原作者の王朔も町の実力者役でカメオ出演しているし、馮小剛監督も学校の先生役で出演している。寧静(ニン・チン)はその後の活躍が著しかったし、そのほかにも実力派の俳優たちが出演し、夏雨や少年たちを支え、この映画を重厚なものにしてくれている。約10分の未公開シーンを加えた完全版とのことだけど、どの部分がその部分なのかは、ちょっとわからなかった。観たことないシーンかなというのがいくつかあったので、そこが足された部分なのかなと思って観た(暁)。
<第51回ヴェネチア国際映画祭・主演男優賞(シア・ユイ)>
<1997年度・キネマ旬報外国映画ベストテン第2位>
■予告編
https://youtu.be/MYoxeBaDVtQ
1994/中国・香港合作/140min/カラー/ドルビーステレオ
提供:JAIHO 配給:Diggin’
公式サイト:https://heatofthesun-movie.com
*参考資料 1996年北京公開時のレポートと姜文監督、主演の夏雨君へのインタビュー記事が掲載されたシネマジャーナル本誌から、記事をアップしています。
●シネマジャーナル38号(1996) 目次
38号内記事
・北京特集
北京電影学院大学院/監督科での一年間とは&姜文インタビュー印象記
http://www.cinemajournal.net/bn/38/beijing01.html
・姜文インタビュー!
八一映画製作所にて/初監督作品『陽光燦爛的日子(太陽の少年)』について聞く
http://www.cinemajournal.net/bn/38/beijing02.html
・夏雨インタビュー 北京市内にて
『阳光灿烂的日子』(『太陽の少年』)でベネチア映画祭主演男優賞を最年少で受賞
http://www.cinemajournal.net/bn/38/beijing03.html
・北京滞在記+劉徳華のコンサートを見に香港へも行ってきましたの記
http://www.cinemajournal.net/bn/38/beijing04.html
●シネマジャーナル34号(1995) 目次
34号記事
・北京便り 『阳光灿烂的日子』北京で公開!
(1997年日本公開時のタイトルは『太陽の少年』)
http://www.cinemajournal.net/bn/34/fujioka.html
*参照記事2 『太陽の少年』ロケ地探訪
●シネマジャーナルHP製作者Yさんの北京旅日記(2002年)
https://surgery.matrix.jp/pics/beijing2002a/index.html
●こんな記事もみつけました!
亞細亞と キネマと 旅鴉 『太陽の少年』ロケ地案内
http://www.gangm.net/china/inTheHeatOfTheSun/index.html
文化革命時代の青年の青春ストーリーが蘇る
監督・脚本:姜文(チアン・ウェン)
出演作『芙蓉鎮』『紅いコーリャン』、監督作『鬼が来た!』
原作:王朔(ワン・シュオ)「動物凶猛」
撮影:顧長衛(クー・チャンウェイ)『紅いコーリャン』『さらばわが愛/覇王別姫』
製作総指揮 文雋(マンフレッド・ウォン)劉暁慶(リウ・シャオチン)
出演:
馬小軍(マー・シャオチュン)役 夏雨(シア・ユイ)
米蘭(ミーラン)役 寧静(ニン・チン)
劉憶苦(イクー)役 耿楽(コン・ラー)
小軍の父:王学圻(ワン・シュエチー)
小軍の母:斯琴高娃(スーチン・カオワー)
ペイペイ役 陶虹(タオ・ホン)
小軍成人役 姜文(チアン・ウェン)
カンフー先生 馮小剛(ファン・シャオカン)
『鬼が来た!』(00/カンヌ国際映画祭審査員特別グランプリ)の姜文監督×『紅いコーリャン』『さらばわが愛/覇王別姫』の撮影監督顧長衛×ヴェネチア国際映画祭・主演男優賞の夏雨で贈る、中国発・青春映画の傑作『太陽の少年』が<4Kレストア完全版>として上映される。失われた約10分のシーンも復活。キーワードは「初恋」と「記憶」と「夏」。
1970年代、文化大革命下の北京。馬家の父親は軍の仕事で遠方に行っていて不在。息子で中学生の小軍(シャオチュン)は幼馴染の悪友たちと町を闊歩し、労働や下放で不在の家に合鍵を作って忍び込むことを繰り返していた。
ある日、シャオチュンは忍び込んだ家で赤い水着でほほ笑む少女米蘭(ミーラン)の写真を発見。彼女に憧れる。やがて彼女が家に戻った時に会うようになった。そして、彼女が仲間内で話題になっているミーランであることを知ると、仲間たちに紹介するが。シャオチュンの兄貴分の劉憶苦(イクー)がミーランと親しくなり、シャオチュンの心は騒ぐ。
物語は、シャオチュンが約20年前の1970年代の少年時代に想いを馳せる回想形式で語られる。激動の文化大革命の時代。大人の姿がまばらな北京の街を舞台に、シャオチュンたち悪ガキ仲間は自転車で走り回る。文化大革命下、こんな青春もあったと描かれ、淡い恋をノスタルジックに描きつつ、少年の凶暴なまでのエネルギーを、ユーモアを交えて描きだす。中国で公開された1996年、大ヒット。日本では1997年に公開され話題になった。
1988年秋、日本公開された『芙蓉鎮』(謝晋監督)を観て、主人公役の姜文(チアン・ウェンの演技に魅せられた私は、それ以来中国映画を観始め、2年の間に約200本の中国映画を観た。そして、『芙蓉鎮』はいろいろな上映会に通い、結局27回観た。1989年には『紅いコーリャン』(張芸謀初監督作品)が日本公開され、姜文は押しも押されぬスターになっていた。
『芙蓉鎮』を観て2週間後にはラジオで中国語講座まで始め、そして、1996年には北京語言学院に6週間の語学留学をした。その時に、運良く姜文に取材することができた。この映画の主人公を演じた夏雨君が北京の中央戯劇学院で勉強をしていて、北京電影学院に留学していた日本人の友人が知り合いだったので、彼にインタビューし、夏雨君が姜文につなげてくれて姜文にもインタビューすることができた。もちろん、この『太陽の少年』についての取材だった。インタビューの後、夏雨君はミーランが住んでいるという設定の建物まで案内してくれた。この4Kレストア完全版を観ながら、その時のことを思いだした。そして姜文インタビューの時の撮影地での右往左往も思い出した。今、思えば大胆な行動だったなあと思う。
当時は日本公開が決まっていなかったし、私はまだ観ていなかったので、この映画に対する思いを聞いた。その時の記事はシネマジャーナル本誌38号(1996年発行)に掲載されているが、現在38号の在庫はなく、この4Kレストア完全版公開に合わせて、ネットでも見ることができるようにアップしました。下記アドレスからアクセスください。
この時、姜文に次回作の構想について聞いたら、通訳の人が追い付かないくらい熱心に語っていたけど、それが『鬼が来た!』(00/カンヌ国際映画祭審査員特別グランプリ)のことだった。突然やってきた、見ず知らずの日本のミニコミ誌の取材によく答えてくれたと思う。当時、北京に留学していた何人もの日本人の方たちにお世話になった。
この『太陽の少年』は姜文の監督デビュー作。原作者の王朔も町の実力者役でカメオ出演しているし、馮小剛監督も学校の先生役で出演している。寧静(ニン・チン)はその後の活躍が著しかったし、そのほかにも実力派の俳優たちが出演し、夏雨や少年たちを支え、この映画を重厚なものにしてくれている。約10分の未公開シーンを加えた完全版とのことだけど、どの部分がその部分なのかは、ちょっとわからなかった。観たことないシーンかなというのがいくつかあったので、そこが足された部分なのかなと思って観た(暁)。
<第51回ヴェネチア国際映画祭・主演男優賞(シア・ユイ)>
<1997年度・キネマ旬報外国映画ベストテン第2位>
■予告編
https://youtu.be/MYoxeBaDVtQ
1994/中国・香港合作/140min/カラー/ドルビーステレオ
提供:JAIHO 配給:Diggin’
公式サイト:https://heatofthesun-movie.com
*参考資料 1996年北京公開時のレポートと姜文監督、主演の夏雨君へのインタビュー記事が掲載されたシネマジャーナル本誌から、記事をアップしています。
●シネマジャーナル38号(1996) 目次
38号内記事
・北京特集
北京電影学院大学院/監督科での一年間とは&姜文インタビュー印象記
http://www.cinemajournal.net/bn/38/beijing01.html
・姜文インタビュー!
八一映画製作所にて/初監督作品『陽光燦爛的日子(太陽の少年)』について聞く
http://www.cinemajournal.net/bn/38/beijing02.html
・夏雨インタビュー 北京市内にて
『阳光灿烂的日子』(『太陽の少年』)でベネチア映画祭主演男優賞を最年少で受賞
http://www.cinemajournal.net/bn/38/beijing03.html
・北京滞在記+劉徳華のコンサートを見に香港へも行ってきましたの記
http://www.cinemajournal.net/bn/38/beijing04.html
●シネマジャーナル34号(1995) 目次
34号記事
・北京便り 『阳光灿烂的日子』北京で公開!
(1997年日本公開時のタイトルは『太陽の少年』)
http://www.cinemajournal.net/bn/34/fujioka.html
*参照記事2 『太陽の少年』ロケ地探訪
●シネマジャーナルHP製作者Yさんの北京旅日記(2002年)
https://surgery.matrix.jp/pics/beijing2002a/index.html
●こんな記事もみつけました!
亞細亞と キネマと 旅鴉 『太陽の少年』ロケ地案内
http://www.gangm.net/china/inTheHeatOfTheSun/index.html
2024年10月13日
ジョイランド わたしの願い 原題:Joyland
監督・脚本:サーイム・サーディク
製作総指揮:マララ・ユスフザイ、リズ・アーメッド(『サウンド・オブ・メタル 〜聞こえるということ〜』) ほか
出演:アリ・ジュネージョー、ラスティ・ファルーク、アリーナ・ハーン
伝統的な家父長制社会で、トランスジェンダーのダンサーとの出会いが、若い夫婦の人生を大きく変える
パキスタンで2番目の大都市、古都ラホール。
保守的な中流家庭ラナ家は3世代で暮らす9人家族。 家長のアマン、長男サリームと妻ヌナ。その3人の娘たち。次男ハイダルと妻ムムターズ。ハイダルは失業中だが、ムムターズはメイクアップアーティストの仕事にやりがいを感じ、家計を支えていた。ハイダルは姪っ子たちの遊び相手や妻のお弁当作りをそれなりに楽しんでいるが、家父長制の伝統を重んじる厳格な父からは「早く仕事を見つけて男児をもうけなさい」とプレッシャーをかけられている。
ある日、臨月を迎えた義姉ヌナが破水し、家にいたハイダルが病院に連れていく。男児と診断されていた新生児は女児で、父も兄も落胆する。ハイダルは病院で血まみれの服を着た美しい女性に目を奪われる。
その後、ハイダルは劇場で働く友人からバックダンサーの仕事を紹介される。メインダンサーのビバは、病院で見かけた女性で、トランスジェンダーだった。男が人前で踊ることはもとより、劇場で働くことすら恥と考える保守的な父に、ハイダルは咄嗟に「支配人として雇われた」と嘘をつく。
2週間後の本番に向けて猛特訓が始まる。ハイダルは、ビバが世間の偏見にさらされながらも、ありのままの自分を貫く姿に魅了されていく。その恋心が、やがて、夫婦とラナ家の穏やかに見えた日常に波紋を広げていく・・・
男児を産むことが義務でもあるかのような社会で、また女児を産んでしまったヌナ。 ハイダルが就職したことで、義父から仕事を辞めるよう言い渡されたムムターズ。好きな仕事を辞めた上に、彼女にも男児を産めというプレッシャーがかかります。 ハイダルもまた、男としてすべきことを父から期待され、自分の思いとの違いに葛藤します。
本作を観て、同じパキスタンのラホールを舞台に、伝統的な価値観に縛られる中で、自由に生きることに挑む人たちを描いたパキスタン映画『BOL ~声をあげる~』を思い出しました。
本作の背景を知る一助に、監督インタビューをぜひお読みください。
2012年福岡でのショエーブ・マンスール監督インタビュー
ビバを演じたアリーナ・ハーンは、実際にトランスジェンダーで、トランスジェンダーの権利擁護者。
インド文化圏(インド・パキスタン・バングラデシュ)には、「ヒジュラ」と呼ばれる第三の性の人たちが存在します。トランスジェンダーや半陰陽者など男性でも女性でもない人たち。パキスタン社会では、結婚式や子供の誕生祝いなどで歌い踊る役目を担っています。それでも長い間差別されてきた人たち。2009年、パキスタン最高裁はヒジュラを第三の性として認める初めての判決をくだしています。
パキスタン映画として初出品となったカンヌ国際映画祭で「ある視点」審査員賞とクィア・パルム賞を受賞するなど、世界の映画祭で高く評価されましたが、パキスタン本国では少数の保守系団体から反発を受け、上映禁止となる事態に。しかしノーベル平和賞受賞者マララ・ユスフザイや俳優リズ・アーメッドらからの支援もあり、上映が実現しています。残念ながら、監督の地元であり本作の舞台である、ラホールの属するパンジャーブ州においてのみ、いまだに上映が禁止されています。 美しい古都ラホールの情緒も存分に味わえる本作を、いつかラホールの人たちにも大きなスクリーンで観ていただける日が来ることを願うばかりです。(咲)
監督の言葉より
本作は、家父長制の犠牲の上に生きるすべての女性、男性、トランスジェンダーへオマージュを捧げたものです。それはまた絆を生み出す欲望と、それを不滅にする愛を称えるものでもあります。私の祖国への悲痛なラブレターなのです。
第95回 米アカデミー賞国際長編映画賞 パキスタン代表 ショートリスト選出作品
第75回 カンヌ国際映画祭 「ある視点」部門審査員賞受賞 & クィア・パルム賞受賞
2023年 インディペンデント・スピリット賞 外国映画賞受賞
2022年/パキスタン/パンジャーブ語、ウルドゥー語/127分/1.33:1/5.1ch
日本語字幕::藤井美佳
配給:セテラ・インターナショナル
公式サイト:https://www.joyland-jp.com/
★2024年10月18日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開.
五香宮の猫
監督・製作・撮影・編集:想田和弘
製作:柏木規与子
想田和弘監督 観察映画第10弾
ある港町のお宮にたくさんの猫が住み着いたそうな
めでたし、めでたし――なんてそう簡単にはいかんなあ
瀬戸内の風光明媚な港町・牛窓。古くから親しまれてきた鎮守の社・五香宮(ごこうぐう)には参拝者だけでなく、さまざまな人々が訪れる。近年は多くの野良猫たちが住み着いたことから“猫神社”とも呼ばれている。
2021年、映画作家の想田和弘とプロデューサーの柏木規与子は、コロナ禍を機に、27年間暮らしたニューヨークを離れ、『牡蠣工場』(15)や『港町』(18)を撮ったこの牛窓に移住した。新参者の二人は、ほどなく、路頭に迷っていた野良猫の兄弟を保護することになり、地元の猫の保護活動に携わる方たちにお世話になる。その成り行きで、規与子は五香宮の猫たちを一斉に捕獲し、避妊去勢手術する活動に参加することになる。そうして、想田和弘はカメラを回し始めた・・・
2007年の『選挙』以来、「観察映画の十戒」(公式サイトをご覧ください)を貫いて、撮り続けてきた想田和弘監督の観察映画10本目。
五香宮に集う猫たちは、カメラを向けられていることなど気にもせず、のらりくらりと日々を過ごしているよう。それでも、避妊去勢手術のための一斉捕獲の時には、さすがに逃げ惑います。手術を施されて、また五香宮に放たれたのを見て、ほっとさせられます。一方、「猫神社」と知って、生まれた子猫たちを捨てにくる人たちも。糞尿の処理に地域住人たちは悩まされます。この映画で五香宮が有名になって、さらに捨て猫が増えそうで心配してしまいます。そんなことになりませんように!
牛窓といえば、日本のエーゲ海といわれる風光明媚なところ。プロデューサーの柏木規与子さんのお母様の故郷だそうです。五香宮という神社の名前にも惹かれます。猫ちゃんたちに会いに行ってみたくなりました。ちなみに私は特に猫好きではないですが。(咲)
2024年/119分/日本/16:9/カラー/ドキュメンタリー
配給:東風
公式サイト:https://gokogu-cats.jp/
★2024年10月19日(土)より、東京 シアター・イメージフォーラム、大阪 第七藝術劇場、10月25日(金)より、岡山 シネマ・クレール、ほか全国順次公開
シアター・イメージフォーラム
★10月19日(土) 10:50の回、13:30の回 各回上映後、想田和弘監督・柏木規与子プロデューサーによる舞台挨拶
●10/19(土)〜11/1(金)まで10:50/13:30/16:00/18:30 (11/2(土)以降未定)
◆バリアフリー日本語字幕版上映 10/19(土)〜11/1(金) 10:50の回
◆英語字幕版上映(with English subtitles)10/19(土)〜11/1(金) 18:30の回
横浜シネマ・ジャック&ベティ
★10月19日(土) 16:10の回上映後、想田和弘監督・柏木規与子プロデューサーによる舞台挨拶
グレース 原題:Блажь Blazh
監督・脚本:イリヤ・ポヴォロツキー
撮影:ニコライ・ゼルドビッチ
音楽:ザーカス・テプラ
出演:マリア・ルキャノヴァ、ゲラ・チタヴァ、エルダル・サフィカノフ、クセニャ・クテポワ
ロシアの西端コーカサスから白海へ
思春期の少女と父の移動映画館の赤いバンの旅路
岩山に流れる小川のほとり。10代半ばの少女が下着の汚れを落としている。彼女が戻った先には古びた赤いキャンピングカー。中から出てきた見知らぬ女に「血が出たの」というと、女は少女に生理用品を渡して去っていく。続いて出てきた父親に、少女は嫌悪の一瞥をくれながら、「海に行きたい」と呟く。
荒涼とした大地を赤いバンを走らせ、道中の村で野外上映をしたり、トラック運転手に海賊版DVDを売ったりして、寡黙な父と娘の旅は続く。緑豊かな山間の道から、乾いた土漠、
大きなモールのある街。海賊版用にDVD300枚を仕入れ、ようやく人の集まりそうな村で野外上映会。大勢がスクリーンを見つめる中、ビールを買いに来た青年は映画には目もくれない。乗っている立派なバイクは父親が日本から盗んできたという。
さらに赤いバンはツンドラ地帯を走り、ついに海沿いのさびれた町に着く。壊れそうな大邸宅に泊めてもらう。ここの主である気象観測所で働く女性は暖かいスープでもてなしてくれるが、少女は父親がまた女性と関係を結ぶのではと落ち着かない。そこへ、野外上映会で出会ったバイクの青年が現れる・・・
父親も少女も多くを語らなくて、時折発する言葉から、どこを走っているのかや、母親が不在の理由を知ることになります。二人の名前すらわからないのですが、荒涼としたロシアの辺境の地を行く物語は、不思議な余韻を残してくれました。
冒頭の緑豊かな山間の地は、「バルカル語」を話していることから、ジョージアに隣接するカバルダ・バルカル共和国と推察。
カラチャイ・バルカル語はチュルク諸語のうち北西語群に属し、主にコーカサス地方で話されるほか、トルコ共和国の一部地域でも話されている言語。話者の大部分がイスラム教徒とありました。
アディゲ語という言葉も出てきて、北コーカサスで話されている言語。
エリスタという大きな町が出てきて、カスピ海の北西にあるカルムイク共和国の首都だと知りました。
ロシアの西南端のコーカサスの山間の村から、北極圏の白海沿岸部にある廃れた港町まで、二ヶ月間にわたる順撮りとのこと。ロシアの辺境の地に、様々な言語や文化を持つ人々が暮らしていることを垣間見ることができました。なにより、娘を演じたマリア・ルキャノヴァの少女から女へと成長していく様は、演技とは思えないものでした。(咲)
2023年・第76回カンヌ国際映画祭の監督週間に選出され、同年のカンヌ国際映画祭で上映された唯一のロシア映画
ストックホルム国際映画祭 2023 最優秀撮影賞
Auteur Film Festival 2023 最優秀監督賞
2023年 ⁄ ロシア ⁄ ロシア語、ジョージア語、バルカル語 ⁄ 119分 ⁄ カラー ⁄ ヨーロピアンビスタ
日本語字幕:後藤美奈
配給:TWENTY FIRST CITY 配給協力:クレプスキュール フィルム
公式サイト:https://grace.twentyfirstcity.com/
★2024年10月19日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
ソウX(原題:Saw X)
監督:ケヴィン・グルタート『ソウ 6』『ソウ ザ・ファイナル 3D』
脚本:ジョシュ・ストールバーグ『ジグソウ ソウ・レガシー』、ピーター・ゴールドフィンガー『ジグソウ ソウ・レガシー』
撮影:ニック・マシューズ
出演:トビン・ベル(ジョン・クレイマー)、ショウニー・スミス(アマンダ)、スティーヴン・ブランド(パーカー)、シヌーヴ・マコディ・ルンド(セシリア)、マイケル・ビーチ(ヘンリー)、レナータ・ヴァカ(ガブリエラ)、オクタビオ・イノホサ(マテオ)
末期がんで余命宣告を受けたジョン・クレイマーは、危険な実験的治療を試すためにメキシコへと向かう。現地で手術を受け、高額な治療費を振り込んだ。隠されていた治療場所を突き止め、お礼に行ってみるとそこはもぬけのから。しかも、残っていた品々から自分が大がかりな詐欺にひっかかったのがわかった。ジョンは、アマンダの助けを借り、詐欺師や不正な治療に加担する医師たちに死のゲームを仕掛ける。
2004年『ソウ』の第1作、それまでに見たこともなかった設定と展開、ラストに驚愕しました。以来、ホラーやスリラーが苦手だったのに次が気になって、ずっと観続けてしまったシリーズです。公開されるたびに残酷度が増して、この先観続けられるか心配でした。今回は1と2の間のストーリーという設定で、とてもシンプルな設定だった1に比べて、装置も手が込んでいます。1.5ではなく、やはり最新作だけあります。
なんと詐欺集団の被害者になってしまったジョンが、壮絶な倍返しをします。倍どころではありません。とんでもない人をターゲットにしてしまった連中には「お気の毒に」と思うばかり。手間暇かけてセッティングしたのに、まさか追跡されるとも思わなかったのか、現場には多くの証拠品が残されたまま。プロなのに詰めが甘いです。ジョンはまんまと詐欺集団の全員を探し出し、死のゲームを始めてしまいます。ゲームと銘打つからには、命だけは助かる道があるのですが死んだほうがまし!と叫びたくなる方法です。毎回手を変え品を変え、よくもこういろんなことを思いつきますよね。ジョンと対峙しても一歩も引かない才色兼備のセシリアとの攻防が見ものです。
感情など顔に出さないジョンですが、助手のアマンダや知り合った少年マテオには優し気な視線を向けているシーンもあります。(白)
2023年/アメリカ/カラー/118分
配給:リージェンツ
©2024 Lions Gate Ent. Inc. All Rights Reserved.
公式サイト:https://Saw-X.jp/
★2024年10月18日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
2024年10月10日
BISHU ~世界でいちばん優しい服
監督:西川達郎
脚本:鈴木史子、西川達郎、義井優
音楽:小山絵里奈
製作総指揮:神谷哲治
プロデューサー:森谷雄 竹田太郎
出演:服部樹咲、岡崎紗絵、長澤樹、黒川想矢
知花くらら 田中俊介 山口智充(友情出演)
近藤芳正 吉澤健 清水美砂/吉田栄作
毛織物(ウール)の産地「尾州」を舞台にした親子の物語
高校3年生の史織(しおり)は、毎朝 7 時、目覚まし時計代わりの軽快な機織りの音で起きる。明るく誰に対しても優しい性格だが、配膳や歩き出しの足など生活習慣へのこだわりが強く苦手なことも多い。夢は、父の営む機織工場を継いで、自分のこだわる布地で理想の服を作ることだ。
ある日、史織が描いた服のデザインを、親友の真理子が校内のファッションコンクールにエントリーする。さらに、真理子の提案で一宮市のファッションショーにも出品することになる。グランプリは、賞金300万! デザインの商品化! 2週間のパリ研修!
<参加条件>は、デザインは自分たちで描くこと、服のイメージに合ったモデルを自分たちで用意すること。
真理子の協力のもと史織の服作りが始まった。それを知った姉の布美は、挫折した経験を史織に重ね、応援したい気持ちと背中を押せない気持ちの板挟みになり、父の康孝は史織が傷つくことを恐れ猛反対する・・・
『ミッドナイトスワン』(20年)で演技未経験ながら日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した服部樹咲(みさき)が、発達障害で生活習慣にこだわりが強いけれど、しっかりとした夢を持つ高校生を瑞々しく演じています。熱血漢のイメージが強い吉田栄作が、妻を亡くし、母親代わりの姉(清水美砂)と共に娘を見守る父親役。何かあってはいけないと、機械で布を作ることも、ファッションショーでモデルを務めることも、やらせたくない親心がにじみ出る熱演。
本作を観て、尾州(愛知県一宮市を中心に、津島市、稲沢市、江南市、岐阜県羽島市など、愛知県尾張西部エリアから岐阜県西濃エリア)が、世界三大毛織物(ウール)の産地の一つだと知りました。

史織が通学途中でお参りする真清田神社には、織物の神様が祭られています。実は、去年の3月末、名古屋に行った時、名古屋市内のホテルが高くて、尾張一宮駅そばのホテルに泊まって、朝早く1時間ほど散歩したことがあります。その時に立ち寄ったのが真清田神社でした。境内は桜が満開でした。
真清田神社は、太古から織物の神様として知られ、そのご加護によって、この地方の織物業が発達したといわれているのだとか。織物と縁の深い牽牛・織女にちなんだ、「おりもの感謝祭一宮七夕まつり」は、7月の最終日曜日をフィナーレとする木曜日からの4日間に盛大に開催されるとのこと。来年7月、ぜひ行ってみたいです。(咲)
2024年/日本/125分
製作:「BISHU 世界でいちばん優しい服」製作委員会(神谷商会、フォワード、ケイ・クリエイト、イオンエンターテイメント、TK 事業開発研究所)
製作幹事:フォワード
制作プロダクション:アットムービー
配給:イオンエンターテイメント
公式サイト:https://bishu-movie.com/
★2024年10月11日(金)先行公開/10月18日(金)拡大公開
「映画作家 ジャンヌ・モロー」『リュミエール』『思春期』『リリアン・ギッシュの肖像』
女が女の映画をつくるということ
映画作家 ジャンヌ・モロー
名優ジャンヌ・モローが監督した知られざる3作品一挙公開!
『リュミエール』1976年 ★国内劇場初公開
『思春期』1979年
『リリアン・ギッシュの肖像』1983年 ★国内劇場初公開
映画史にその名を刻む、フランスを代表する「女優」ジャンヌ・モロー(1928-2017)。
オーソン・ウェルズ、フランソワ・トリュフォー、ルイ・マル、ルイス・ブニュエルら「巨匠」「名匠」たちと共に数々の名作に携わった彼女の映画への情熱と好奇心に満ちた創造力は、「映画監督」としても発揮された。
40歳代で初めて監督を務めたモローは「私は女たちを称賛している。ありのままの姿を彼女たちに示そうと思った。男たちが示す形ではなく」と語った。その言葉通り、彼女の映画には様々な年代の女性たちの率直な言葉や飾り気のない姿が映し出されている。
70年代から80年代にかけて作られた、女性(たち)をめぐる3つの監督作品が一挙公開されます。映画史の影に隠れていたモロー監督作は、女性たちのありままの姿がいきいきと映し出され、今こそ現代的な視点で見返すべき傑作です。
提供:キングレコード/配給:エスパース・サロウ/宣伝:プンクテ
公式サイト: jeannemoreau.espace-sarou.com
公式X:https://x.com/jeannemoreaujp
★2024年10月11日(金)より、新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
『リュミエール』 原題:LUMIÈRE ★国内劇場初公開

LUMIÈRE © 1976 FONDS JEANNE MOREAU POUR LE THÉÂTRE, LE CINÉMA ET L’ENFANCE. TOUS DROITS RÉSERVÉS
1976年/フランス/102分
監督・脚本:ジャンヌ・モロー
撮影:リカルド・アロノヴィチ
音楽:アストル・ピアソラ
出演:ジャンヌ・モロー、ルチア・ボゼー、フランシーヌ・ラセット、キャロリーヌ・カルティエ、ブルーノ・ガンツ
監督デビュー作。サラ、ラウラ、ジュリエンヌ、キャロリーヌ。4人の女優たちの欲望、葛藤、そして連帯が鮮やかに描かれる。映画業界を内部から描く作品で、モロー自身の半生を彷彿とさせる。女優の一人サラ役をモローが演じている。ドイツの名優ブルーノ・ガンツが出演し、タンゴを革新した作曲家アストル・ピアソラが音楽を担当。
あ、ピアソラ!という出だし。ですが、途中の物語ではピアソラの音楽は邪魔しません。最後にまたピアソラで終わります。
4人の女優たちの赤裸々な姿が描かれていて、フランス人って、やっぱり愛に生きる人たちなのねと感じさせてくれました。
「フィレンツェに行ったら、日本人だらけ。4000人もいたわ」「パリもよ」という会話があって、1976年といえば、団体で日本人が大挙してヨーロッパに行った時代ですね。
女優たちの会話がとにかく面白かったです。(咲)
『思春期』(旧邦題:ジャンヌ・モローの思春期) 原題:L'ADOLESCENTE
L’ADOLESCENTE © 1979 FONDS JEANNE MOREAU POUR LE THÉÂTRE, LE CINÉMA ET L’ENFANCE. TOUS DROITS RÉSERVÉS
1979年/フランス/94分
監督・脚本:ジャンヌ・モロー
共同脚本:アンリエット・ジェリネク
撮影:ピエール・ゴタール
音楽:フィリップ・サルド
出演:レティシア・ショヴォー、シモーヌ・シニョレ、フランシス・ユステール、ジャック・ヴェベール、エディット・クレヴェール
戦争の影が迫る1939年。12歳のマリーが父の故郷のフランス中部の村で母、祖母と共に過ごした特別な夏休み。マリーは村にやってきた若きユダヤ人の医師に恋をするが・・・
伝説的な女優シモーヌ・シニョレが孫を優しく見守る祖母役で出演。日本では1985年に『ジャンヌ・モローの思春期』のタイトルで劇場公開された。
マリーが自転車に乗ってテレーズの私生児を見に行った帰り、ユダヤ人の医師アレクサンドルの運転する車とぶつかり、家に送ってもらいます。生理が始まったマリーは、すっかり大人になった気分で、アレクサンドルに「愛してる」と打ち明けにいくのですが、30歳の彼にとって「君はまだ子供」。彼はどうやらマリーの母親に惚れているよう。
村人の会話の中に、ヒトラーがオーストリアを併合した話なども出てきて、ユダヤ人のアレクサンドルの行く末はいかに・・・と案じてしまいました。ヴァカンスの終わる頃、村祭りに集う人々。ですが、とうとう戦争が始まり、穏やかな日々には二度と戻れない時代に突入するのです。私生児や、大人の男に興味を持つ思春期の少女を瑞々しく描いた作品。(咲)
『リリアン・ギッシュの肖像』原題:LILLIAN GISH ★国内劇場初公開
LILLIAN GISH © 1983 FONDS JEANNE MOREAU POUR LE THÉÂTRE, LE CINÉMA ET L’ENFANCE. TOUS DROITS RÉSERVÉS
1983年/フランス/59分
監督・脚本:ジャンヌ・モロー
撮影:トーマス・ハーウィッツ、ピエール・ゴタール
出演:リリアン・ギッシュ、ジャンヌ・モロー
1983年の夏、ニューヨーク。サイレント映画期から活躍し、ハリウッドの頂点を極めたリリアン・ギッシュとの邂逅。「歴史的女優」との対話から、その生涯と映画への情熱に迫る至高のドキュメンタリー。
ジャンヌ・モローが、無声映画時代から活躍したリリアン・ギッシュを前に興奮して話しているのが素敵です。
リリアン・ギッシュが、D・W・グリフィス監督から言われたという
「スターになりたいなら、少なくとも10年映画に出て映画に責任を持て」
「一番にスタジオに入って、最後まで残れ」
などの言葉は、私たちの普通の生活にも通じること。
女優として成功したリリアン・ギッシュですが、「幸せな人生とは? 何を手にしたかじゃない。何を与えたか。必ず返ってくる」という言葉が心に響きました。(咲)
ジャンヌ・モロー Jeanne Moreau
1928年1月23日、フランス・パリ生まれ。フランス国立高等演劇学校(コンセルヴァトワール)で学び、演劇活動を開始。劇団「コメディ・フランセーズ」の舞台などの経験を経て、数多くの映画に出演。フランスを代表する俳優として活躍した。その活動は国内外から高く評価され、1995年と2008年に名誉セザール賞、2003年にカンヌ国際映画祭パルム・ドール名誉賞、1992年にヴェネツィア国際映画祭栄誉金獅子賞、1997年にヨーロッパ映画賞生涯貢献賞、2000年にベルリン国際映画祭金熊名誉賞、そして、2007年には芸術文化勲章のコマンドゥールを受勲している。1971年にはシモーヌ・ド・ボーヴォワールやカトリーヌ・ドヌーヴらと共に、中絶の合法化を求める嘆願書「343人のマニフェスト」に署名。その行動は、法律(通称「ヴェイユ法」)成立へと導いた。2017年7月31日、死去。
2 度目のはなればなれ 原題:The Great Escaper
監督:オリバー・パーカー
脚本:ウィリアム・アイヴォリー
出演:マイケル・ケイン、グレンダ・ジャクソン、ダニエル・ヴィタリス、ローラ・マーカス、ウィル・フレッチャー
2014年6月。イギリス、ブライトンの老人ホームで寄り添いながら人生最期の日々を過ごす老夫婦バーナードとレネ。退役軍人であるバーナードは、もうすぐ開かれるノルマンディ上陸作戦70年記念式典が気になるが、もう参加申込の締切は過ぎていた。どうしても参加したいと、バーナードは老人ホームを抜け出し、ドーバー海峡を越え、フランスのノルマンディへと向かう。彼が行方不明になったという警察のツイート(#The Great Escaper)をきっかけに、世界中で話題になる。
バーナードとレネのふたりが離れ離れになるのは、人生で2度目。 戦争から復員して、決して離れないと誓った男が、妻のもとを離れなければならなかった理由とは・・・
本作は89歳の退役軍人が6月ノルマンディ上陸作戦70年記念式典に参加するため、老人ホームを抜け出した実話を基にした作品。『ハンナとその姉妹』(87)『サイダーハウス・ルール』(00)で2度のオスカー受賞したマイケル・ケインが主演を務め、本作で引退することを表明しました。約70年にわたり180本以上の映画に出演してきた彼の、華麗なる俳優人生に幕を下ろす“引退作”となります。そして共演には、『恋する女たち』(69)『ウィークエンド・ラブ』(74)で2度のオスカー受賞したグレンダ・ジャクソン。全英公開を控えた2023年6月15日、87歳でこの世を去り、輝かしい女優人生に幕を閉じました。
ドーバー海峡を渡る船を降りると、アフガニスタンで地雷を踏んで片足になった若い黒人男性がボランティアで車椅子を押してくれます。その彼が戦場で受けた経験が今もトラウマとなっていると語ります。
バーナードは、式典の会場近くで70年前に同じビーチにいたというドイツ人と出会います。お互い複雑な思いがよぎったことでしょう。バーナードも友人も、胸に勲章をいくつもぶらさげていますが、心中、誇らしいものでもないような気がします。バーナードはせっかく手に入れた式典への参加券をドイツ人に譲ります。そして向かった先は・・・
無事、戻ったバーナードに、レネは「あなたは生き抜いて、私と結婚して、1秒も無駄にしていないわ」と声をかけます。
戦場でつらい思いをして帰還した人ほど、戦地でのことを語らず、ずっと胸に秘めているように思います。つらい気持ちを抱えたまま旅立った人がどれほど多くいることでしょう。戦争に喜び勇んで行った人などいないはず。世の中から戦争がなくなることを切に祈ります。(咲)
2023年/イギリス/英語/97分
字幕翻訳:戸田奈津子
配給:東和ピクチャーズ
公式サイト: https://hanarebanare.com/
★2024年10月11日(金) 全国ロードショー
2024年10月06日
勝ちゃん ―沖縄の戦後
2024/10/12〜10月下旬 ポレポレ東中野にて上映
10/12(土)〜18(金) 11:50 10/19(土)〜25(金) 9:50
※10/26以降上映未定
新・しんとく空想の森映画祭にて上映10月12日(土)~14日(月・祝) 映画祭情報
一人追込み漁でグルクンを捕る
製作:森の映画社
プロデューサー:藤本幸久
共同監督:藤本幸久・影山あさ子
撮影:藤本幸久 栗原良介 中井信介 大島和典 酒村多緒
水中撮影:新田勝也 栗原良介
録音:藤本幸久
グレーディング:村石誠
編集:藤本幸久 影山あさ子
音楽・ナレーター:川本真理
ゼロ歳で沖縄戦を生き延びた本島北部国頭村(くにがみそん)の漁師、勝ちゃん(山城善勝さん)。「一人追込み漁」を編み出し、数百キロのグルクン(タカサゴ)の群れをたった一人で捕る、世界でただ一人の人。米軍占領下で始まった沖縄の戦後。6歳の少女が米兵に殺された由美子ちゃん事件(1955年)、宮森小学校米軍機墜落事故(1959年)、コザ暴動(1970年)など、沖縄の戦後史と勝ちゃんの半生を重ね合わせて描く。まさに勝ちゃんの半生は、沖縄の庶民の戦後そのもの。
1944年10月4日生まれの勝ちゃん、生まれて6日後に沖縄戦の最初の大規模空襲「10・10空襲」がありました。 逃げ込んだガマで日本兵に「子供を黙らせろ(殺せ)」と言われた勝ちゃんの両親は、勝ちゃんを抱いてガマを出て米軍の捕虜となり生き延びた。
沖縄戦を生き延びた人たちのことを沖縄では「艦砲ぬ喰ぇー残さー(かんぽうぬくぇーぬくさー) 」と言うそうです。「艦砲射撃の喰い残し」と言う意味。勝ちゃんもその一人です。戦後、焼け野原となった沖縄で、陸のものは全て焼かれ、土地も畑も米軍基地にとられ、食べるものは海の物しかありませんでした。生き延びため漁師になった。勝ちゃんの原点です。
日本/2024年/98分
文化庁文化芸術振興費補助金(日本映画製作支援事業)
独立行政法人日本芸術文化振興会助成作品
<イベント情報> ポレポレ東中野にて
藤本幸久監督+スペシャルゲストによるトーク開催!監督のみの来場日もあり!
10/12(土)11:50の回上映後 トークイベント<登壇>
原一男(映画監督) × 藤本幸久、影山あさ子(監督)
10/13(日)11:50の回上映後 トークイベント<登壇>
金平茂紀(ジャーナリスト) × 藤本幸久(監督)
10/14(月祝)11:50の回上映後 トークイベント<登壇>
土井敏邦(ジャーナリスト/ドキュメンタリー映画監督)×藤本幸久(監督)
10/15(火)〜18(金)各日11:50の回上映後
10/19(土)&20(日)各日9:50の回上映後
舞台挨拶<登壇>藤本幸久(監督)
詳細はこちら
10/12(土)〜18(金) 11:50 10/19(土)〜25(金) 9:50
※10/26以降上映未定
新・しんとく空想の森映画祭にて上映10月12日(土)~14日(月・祝) 映画祭情報
一人追込み漁でグルクンを捕る
製作:森の映画社
プロデューサー:藤本幸久
共同監督:藤本幸久・影山あさ子
撮影:藤本幸久 栗原良介 中井信介 大島和典 酒村多緒
水中撮影:新田勝也 栗原良介
録音:藤本幸久
グレーディング:村石誠
編集:藤本幸久 影山あさ子
音楽・ナレーター:川本真理
ゼロ歳で沖縄戦を生き延びた本島北部国頭村(くにがみそん)の漁師、勝ちゃん(山城善勝さん)。「一人追込み漁」を編み出し、数百キロのグルクン(タカサゴ)の群れをたった一人で捕る、世界でただ一人の人。米軍占領下で始まった沖縄の戦後。6歳の少女が米兵に殺された由美子ちゃん事件(1955年)、宮森小学校米軍機墜落事故(1959年)、コザ暴動(1970年)など、沖縄の戦後史と勝ちゃんの半生を重ね合わせて描く。まさに勝ちゃんの半生は、沖縄の庶民の戦後そのもの。
1944年10月4日生まれの勝ちゃん、生まれて6日後に沖縄戦の最初の大規模空襲「10・10空襲」がありました。 逃げ込んだガマで日本兵に「子供を黙らせろ(殺せ)」と言われた勝ちゃんの両親は、勝ちゃんを抱いてガマを出て米軍の捕虜となり生き延びた。
沖縄戦を生き延びた人たちのことを沖縄では「艦砲ぬ喰ぇー残さー(かんぽうぬくぇーぬくさー) 」と言うそうです。「艦砲射撃の喰い残し」と言う意味。勝ちゃんもその一人です。戦後、焼け野原となった沖縄で、陸のものは全て焼かれ、土地も畑も米軍基地にとられ、食べるものは海の物しかありませんでした。生き延びため漁師になった。勝ちゃんの原点です。
日本/2024年/98分
文化庁文化芸術振興費補助金(日本映画製作支援事業)
独立行政法人日本芸術文化振興会助成作品
<イベント情報> ポレポレ東中野にて
藤本幸久監督+スペシャルゲストによるトーク開催!監督のみの来場日もあり!
10/12(土)11:50の回上映後 トークイベント<登壇>
原一男(映画監督) × 藤本幸久、影山あさ子(監督)
10/13(日)11:50の回上映後 トークイベント<登壇>
金平茂紀(ジャーナリスト) × 藤本幸久(監督)
10/14(月祝)11:50の回上映後 トークイベント<登壇>
土井敏邦(ジャーナリスト/ドキュメンタリー映画監督)×藤本幸久(監督)
10/15(火)〜18(金)各日11:50の回上映後
10/19(土)&20(日)各日9:50の回上映後
舞台挨拶<登壇>藤本幸久(監督)
詳細はこちら
最後の乗客
監督・脚本・編集:堀江貴
撮影:佐々木靖之
音楽:徳家“Toya”敦
出演:岩田華怜(遠藤みずき)、冨家ノリマサ(遠藤)、長尾純子(こころの母)、谷田真吾(竹ちゃん)、畠山心(こころ)、大日琳太郎(じいじ)
東北の、小さな街の駅のロータリー。タクシーが数台、客待ちで駐車している。
タクシードライバーの遠藤と竹ちゃんは、最近タクシードライバーの間で噂になっている話をしていた。「夜遅く浜街道流してっと、若い大学生くらいの子がポツンと立ってるんだって‥‥‥」。竹ちゃんの話を一笑に付す遠藤。 竹ちゃんと別れて、閑散とした夜の住宅街を流していると、ライトに浮かび上がったのは一人ポツンと立っている若い女性。行先を告げられて、怪訝に思いながら走っていると今度は何もない路上に、小さな女の子と母親の二人連れが突然現れてぶつかりそうになる。ほかに車も見つからないからと同乗させることになってしまった。
深夜のタクシーが乗せたのは、いわくありげな若い女性と、親子連れ。同じ場所に向かう2組にはどんな秘密があるのか?遠藤の車に乗ったのは偶然なのか?いろいろ想像をたくましく働かせているうちに、少しずつ秘密が明らかになっていきます。55分と短い作品ですが、それでも十分監督の想いが伝わります。最後は驚いて、ああそうなのかと納得しました。
ドライバーの遠藤さんを演じていた冨家ノリマサさん最近観ました、という方いますよね?8月に都内の1館で上映され、口コミで面白さが伝わって拡大公開になった『侍タイムスリッパ―』ご覧になりましたか?冨家ノリマサさんが映画スター風見恭一郎でした。こちらではタクシードライバー。どちらの作品も自主映画です。
この『最後の乗客』は各地の映画祭で高評価を受け、こうして凱旋上映となりました。SNSが活況を呈している今、いい作品が埋もれずに多くの人に届くのは嬉しいことです。みんな宣伝マンになれますよ。
作品中に登場する美味しそうな「卵のおにぎり」は、堀江監督のお母さんがよく作ってくれた”おふくろの味”だそうです。「おにぎらず」にしてもよさそうですね。(白)
2023年/日本/カラー/55分
配給:ギャガ
(C)Marmalade Pictures, Inc.
https://gaga.ne.jp/lastpassenger/
★2024年10月11日(金)全国ロードショー
若き見知らぬ者たち
原案・脚本・監督:内山拓也
撮影:光岡兵庫
出演:磯村勇斗(風間彩人)、 岸井ゆきの(日向)、 福山翔大(風間壮平)、 染谷将太(大和)、滝藤賢一(松浦)、豊原功補(風間亮介 )、霧島れいか(風間麻美)
風間彩人(あやと)は、 難病を患う母、麻美の介護をしながら、亡くなった父の借金を返済し、 昼は工事現場、夜は両親が開いたカラオケバーで働いている。彩人の弟・壮平も一緒に借金返済と母の介護を担いながら、 父の背を追って始めた総合格闘技の選手として日々練習に明け暮れている。いっぱいいっぱいの日々でも、 彩人は恋人の日向(ひなた)との小さな幸せを掴みたいと考えている。 彩人の親友の大和の結婚を祝う宴会の夜、 彼らのささやかな日常は思いがけない暴力によって砕け散ってしまう。
真面目に働いて、病気の親の介護をしている兄弟。貧しい暮らしの中で精いっぱい生きているのに、どうしてこんなに理不尽な目に遭うのだろうと、胸が冷たいものでいっぱいになりました。「ヤングケアラー」という言葉が知られてきました。同じように、頼る人もすべもなく、ご苦労している人たちがいるんですね。そして外からは見えません。
辛い状況の中でやっと息がつけるのは、日向の出演シーンです。名前の通り、あたたかなお日様のように風間家を照らしていました。彩人が一番ひどい目に遭いますが、その後も一家を支え続ける大変な役を演じた岸井ゆきのさん拍手。格闘技に打ち込む弟・壮平役の福山翔大さんは早くからトレーニングしたようです。試合シーンは長まわし撮影です。母役の霧島れいかさん、警官役の滝藤賢一さんにも驚いてください。
2020年に発表した内山拓也監督の前作『佐々木、イン、マイマイン』では亡くなった佐々木が常に登場して、残った同級生をつなげていました。喪失と閉塞、その中でもがくまだ何者でもない若い人たち、という共通点があります。世の中の片隅へも光が届くように、そこにいる人や思いに気づく人が少しでも増えたら、変わっていくんじゃないでしょうか。この映画はそんな気づきをくれました。
地域には民生委員がいて、住人の実態、福祉ニーズを把握して行政につなげていく役割を果たします。この風間家も行政とつながっていたら、何かができたのではと思えてなりません。(白)
2024年/日本、フランス、韓国、香港/カラー/119分
配給:クロックワークス
(C)2024 The Young Strangers Film Partners
https://youngstrangers.jp/
★2024年10月11日(金)ほか全国ロードショー
二つの季節しかない村 原題:Kuru Otlar Ustune

(C)2023 NBC FILM/ MEMENTO PRODUCTION/ KOMPLIZEN FILM/ SECOND LAND / FILM I VAST / ARTE FRANCE CINEMA/ BAYERISCHER RUNDFUNK / TRT SİNEMA / PLAYTIME
監督:ヌリ・ビルゲ・ジェイラン(『雪の轍』)
脚本:アキン・アクシュ、エブル・ジェイラン、ヌリ・ビルゲ・ジェイラン
出演:デニズ・ジェリオウル、メルヴェ・ディズダル、ムサブ・エキチ、エジェ・バージ
トルコ東部、雪深いインジェス村の公立学校で美術を教えるサメット。教師というだけで村人から尊敬され、お気に入りの生徒セヴィムにも慕われているが、赴任して4年経ち、早くこの僻地から抜け出しイスタンブルに転任したいと画策している。
しかし、ある日、同居している同僚のケナンと共に、セヴィムから虚偽に“不適切な接触”を告発されてしまう。同じ頃、違う学校の美しい英語教師ヌライと知り合う。ヌライは理想を持って社会と戦う中で、テロに巻き込まれ片足を失い義足だ。同僚のケナンをヌライに引き合わせると、二人は意気投合していく。ある日、町でヌライに出会い、ケナンと二人で休日に家に来てと誘われるが、サメットは一人でヌライの家を訪ねる・・・
セヴィムから告発されたサメットはどうなるのか、ケナンを裏切りヌライに会いにいった顛末は? そして、サメットは希望通りこの僻地を抜け出せるのか・・・
これまでのジェイラン監督の作品同様、登場人物たちの会話で綴られる198分。早口の会話に息もつけず、見入りました。サメットが、実に自己中の嫌な男なのですが、語る言葉の中には、人間らしい本音も感じてしまいます。
最後の方で、サメットたちが山を上って遺跡に行く場面があって、そこは地震で石造の頭が地面に落ちて並んでいるネムルートダー(ダー:山)。雄大な世界遺産。コンマゲネ王国の王アンティオコス1世が紀元前62年に建てた、王自身の座像を含む8 - 9 m の巨大像が並びます。ギリシャ神話やペルシャ神話の神々の像があって、様々な文明が交差した地であることを物語っています。
東トルコでは、一年の半分は雪に埋もれ、旅に不向き。4月末~10月中旬が旅行シーズン。十数年前にやっと旅することができました。現代社会では僻地とされる東トルコですが、様々な文明の遺跡の宝庫。
さて、二つしか季節のない地で暮らす人たち。歴史が根差した地は、彼らにどんな思いを至らしているのでしょうか・・・ (咲)

サメット役のデニズ・ジェリオウルさんは、2018年の東京国際映画祭で上映された『シレンズ・コール』で主演を務めておられ、来日されました。『シレンズ・コール』記者会見 Q&A
ヌライ役 メルヴェ・ディズダル カンヌ国際映画祭最優秀女優賞受賞(トルコ人初)
2023/トルコ・フランス・ドイツ/198分
配給:ビターズ・エンド
公式サイト:https://www.bitters.co.jp/2kisetsu/
★2024年10月11日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー!
2024年10月03日
花嫁はどこへ? 原題:Laapataa Ladies
監督・プロデューサー:キラン・ラオ
プロデューサー:アーミル・カーン、ジョーティー・デーシュパーンデー
音楽:ラーム・サンパト
出演:ニターンシー・ゴーエル、プラディバー・ランター、スパルシュ・シュリーワースタウ、ラヴィ・キシャン、チャヤ・カダム
赤いベールを被った2人の花嫁。
花婿の家へ向かう満員列車の中で取り違えられた!?
勘違いが紡ぐ、インドの女性たちの自立を描いた物語
2001年、とあるインドの村。プールとジャヤ、結婚式を終えた2人の花嫁は同じ満員列車に乗って花婿の家に向かっていた。だが、たまたま同じ赤いベールで顔が隠れていたことから、プールの夫のディーパクがかん違いしてジャヤを連れ帰ってしまう。置き去りにされたプールは内気で従順、何事もディーパクに頼りきりで彼の家の住所も電話番号もわからない。そんな彼女をみて、屋台の女主人が手を差し伸べる。一方、聡明で強情なジャヤはディーパクの家族に、なぜか夫と自分の名前を偽って告げる。果たして、2人の予想外の人生のゆくえは──?
満員列車には、プールとジャヤのほかにも、赤いベールを被った花嫁が数人。結婚式シーズンなのですね。同じような赤いベールだから間違えてしまうのもさもありなん。
ディーパクが、僕の可愛い花嫁はどこへ?とうろたえるそばで、間違えて連れて来られたジャヤは、これ幸いと自分の夫を探そうともしません。家族に仕組まれた結婚式に臨んだものの、ジャヤには大学に行きたいという夢があったのです。一方、まだ少女のようなプールは、夫の連絡先もわからなくて途方にくれてしまいます。そんな彼女の夫をなんとか探してあげようという人たちが温かく見守ります。何かしなければとプールは、屋台のマンジュおばさんのもとでお菓子作り。これが美味しくて評判に。自分にもできることがあると自信を持つのも素敵です。
インドでは、カーストなどを配慮して結婚相手を親が決めることがまだまだ主流。それを背景に、社会の抱える問題や、女性の自立を描いた物語。
インドの国民的大スター、アーミル・カーン プロデュース!と大きく掲げられていますが、実は監督・プロデューサーを務めたキラン・ラオは、アーミル・カーンの元奥さま!
別れても関係は良好のようです。
公式サイトによれば、「『ラガーン』の撮影現場で出会ったアーミル・カーンと2005年に結婚。2021年に夫婦関係を解消したが、アーミルは本作の製作を務める他、共同設立した水の安全と持続可能で採算性のある農業を目指すNGO「パーニー(水)・ファウンデーション」でも共に活動を続けている」とのこと。
キラン・ラオは、1973年ハイデラバード生まれ、コルカタ育ち。監督の父方の祖父は王族出身で、外交官を経て出版社を経営されていました。伝統あるカソリック系の女子校ロレート・ハウスで学び、19歳のときに家族でムンバイに移住。同地のソフィア女子大学を卒業。その後デリーのジャミア・ミリア・イスラミア大学で修士号を取得した才女です。
数々の映画の製作現場の経験を経て、2010年『ムンバイ・ダイアリーズ』で監督デビュー。アーミル・カーンが主演です。
『花嫁はどこへ?』には、アーミル・カーンは出ていないし、目立ったスターは出ていないのに、心にぐっと響く物語♪ こんなインド映画を待ってました! (咲)
観た後幸せな気持ちで帰宅できます。世の中の不条理や無力感を宿題のように受け取る映画もあります。それも必要だけれど、自分の調子次第で辛いときもあります。そんなときにはぜひこの映画を。とても愛らしいプールを演じたニターンシー・ゴーエルは2007年生まれ。実際に若い17歳。裏がありそうなジャヤを演じたプラディバー・ランターは2000年生まれ。ミス・ムンバイに選出されたこともある美女です。二人ともこれが映画デビューですが、しっかりと役になじんでいてぴったりの配役でした。
新婚さんと家族が乗りあった電車の中で、結婚祝いや結納品をあけすけに言い合っているのに「へええ~」。多い人は鼻高々です。日本はずいぶん変わったと思いますが、親はそれなりに大変です。
「人は見た目が9割」とかいう本がありましたが、残りの1割は想像もつかないもの。この映画に出てくる人たちも、状況が変わるにつれ隠された部分が出てきます。特に一人迷子になってしまったプールが出会う人たちはみな見た目と違って、力になってくれる人ばかりでした。応援を受けて変わっていく彼女に、あのままお嫁入りするよりずっと良かったねと言ってやりたくなります。ジャヤももちろん抱えているものがあり、取り違えられたことで新しい道が開けます。ネタバレじゃなくて、これくらいわかったところで面白さが減ったりしません。安心して映画館へお出かけてください。(白)
2024年/インド/ヒンディー語/124分
字幕:福永詩乃
配給:松竹
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/lostladies/
★2024年10月4日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネリーブル池袋ほか全国公開
本を綴る
監督・総合プロデュース:篠原哲雄
脚本:千勝一凛
撮影:上野彰吾、尾道幸治
音楽:GEN
主題歌:ASKA 「I feel so good」
出演:矢柴俊博(一ノ関哲弘)、宮本真希(石野沙夜)、長谷川朝晴(小笠原功ニ)、加藤久雄(平野源次)、 遠藤久美子(朝比奈花)、川岡大次郎(北野豊人)、石川恋(伊達夕夏)、丈(結城文博)、米野真織(岩佐美玖)
一ノ関哲弘はベストセラーもある小説家だが、あることがきっかけで小説が書けなくなった。今は全国の書店を巡りながら、書評やコラムを書くのが本業となった。旅先で出会う人や本はまさに一期一会、刺激を受け暖かいもので胸を満たしながら、書けなくなった自分と向き合っている。那須の図書館司書の石野沙夜と出会い、森の中の書店で一冊の古書を手にとった。中には宛名を書いた恋文が挟まれていて、一ノ関は京都にいるらしいその宛名の人へ届けようと思い立つ。ちょうど京都には学生時代からの友人がいた。
書けなくなった作家一ノ関哲弘を矢柴俊博さん。帽子も書店で本の相談にのる姿もよくお似合いでした。書けなくなった原因は少し後で明かされますが、悩んだり苦しんだりしたことで、思いが深く広くなったんじゃないでしょうか。作家さんはどんなことも栄養にして、作品に生かすことができますよね。映画にもほかの仕事にも通じるかもしれません。よく言われますが、人生無駄なことなんてない。
東京都の書店は8割も閉店してしまったそうです。なんだかあちこち消えてしまった感がありましたが、そんなに!と驚きました。2021年、東京都書店商業組合が「一人でも多くのお客様に足を運んで貰えるように」と、YouTubeチャンネルを開設しました。取材を続けるうちに書店にまつわるドラマを制作することになりました。2022年『本を贈る』という短編のドラマ9話が完成し、2022年2月25日より配信中です。そちらを元に映画版もできて、このたび劇場公開となりました。全国にある本屋さん、図書館、本を好きな方々に観ていただきたいロードムービーです。本は書棚であなたが来てくれるのを待っています。(白)
初日舞台挨拶@K’sシネマ
左より千勝一凛(脚本)、長谷川朝晴、矢柴俊博、宮本真希、篠原哲雄監督
左より千勝一凛(脚本)、長谷川朝晴、矢柴俊博、宮本真希、篠原哲雄監督
2023年/日本/カラー/ビスタ/107分
配給:アークエンタテインメント
(c)ストラーユ
http://honwotsuzuru.com
★2024年10月5日(金)新宿K's cinemaほか全国ロードショー
●YouTubeドラマ『本を贈る』はこちら。(約10分~15分×9話、『本を贈る』)
●YouTubeチャンネル「東京の本屋さん ~街に本屋があるということ~」はこちら。中でも松岡茉優さんの「推し本のプレゼン」が熱いです。思わず、本屋さんへ走ってしまいそう。
◆クラウドファンディング実施中!(2024年10月31日 23:59まで)
https://motion-gallery.net/projects/honwotsuzuru
HAPPYEND
監督・脚本:空音央(そら ねお)
撮影:ビル・キルスタイン
音楽:リア・オユヤン・ルスリ
出演:栗原颯人(ユウタ)、日高由起刀(コウ)、林裕太(アタちゃん)、シナ・ペン(ミン)、ARAZI(トム)、祷キララ(フミ)、中島歩(岡田先生)、矢作マサル(校長秘書)、PUSHIM(コウの母・福子)、渡辺真紀子(ユウタの母・陽子)、佐野史郎(長井校長)
XX年後の日本。高3のユウタとコウは幼馴染で大親友。アタちゃんやミンやトム、いつもの仲間とふざけあって楽しい毎日を送っている。ある晩こっそり学校に忍び込んだユウタとコウは、とんでもないいたずらをした。翌朝、長井校長は怒り心頭。誰も名乗り出ないので学校中に監視カメラがしかけられた。生徒たちは反発し大騒動になる。
この事件をきっかけに、コウは自分の将来や社会について深く考えるようになった。早くから学校外で活動しているフミともよく話す分、これまで通りでいたいユウタと距離ができてしまう。
自由で物事に頓着しないユウタ。コウはもっとまじめ。高3にしてはのんびりした高校生活のシーンが続きます。「こら!」ではすまないいたずらにはびっくり。どうやったの?
AIを使った監視カメラの映像が登場して、ああ先の設定なんだなとわかります。今でも公開されていないだけで、監視カメラはどこにでも設置されているのでしょう。それが学校内のすみずみまで映し出し、成績にまで関わってきたら?それは御免こうむりたいです。力で抑え込もうとするやり方は何かに、校長は誰かに似ていませんか?
そんな設定の中で揺らいでいく仲間たちとの関わりや友情が描かれています。生徒役のほとんどが映画初出演、初長編の空監督はアメリカ育ちで、映像にとどまらず多方面で活躍、スタッフやキャストも国際色豊かです。風通しの良い感じがするのはそのせいでしょうか?
人は変わっていくし、友情もなくなるかもしれない。でもなかったことにしなければ、思い出の場所はちゃんとあるはず。
ほとんど一目ぼれでキャスティングしたというフレッシュな俳優たち、主演の栗原颯人(ユウタ)、日高由起刀(コウ)も映画初出演です。撮影が進むにつれて5人はすっかり仲良くなり、監督はとても嬉しかったとか。
10/20、21は全国のいくつかの劇場で空音央監督自ら監修した音声ガイド、日本語字幕付きで上映。詳細はこちらで。(白)
仲良し5人組と空音央監督(オフィシャル画像)
2024年/日本、アメリカ/カラー/113分
配給:ビターズ・エンド
(C)Music Research Club LLC
https://www.bitters.co.jp/HAPPYEND/
https://x.com/HAPPYEND_mv
https://www.instagram.com/happyend.movie
★2024年10月4日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
ロール・ザ・ドラム!(原題:Tambour battant)
監督・脚本:フランソワ=クリストフ・マルザール
音楽:ニコラ・ラベウス
出演:ピエール・ミフスッド(アロイス)、パスカル・ドゥモロン(ピエール)、ザビーネ・ティモテオ(マリー=テレーズ)
1970年、スイス・ヴァレー州の小さな村、モンシュ。ワイン醸造家のアロイスは地元のブラスバンドの指揮者で、村で開かれる音楽祭のオーディション通過を目指して日々練習に励んでいる。しかし、アロイスの指導力を疑問視する楽団のメンバーが、村出身でプロの音楽家として活躍するピエールをこっそりパリから呼び寄せてしまう!伝統を重んじるアロイスと違い、才能ある女性や移民を次々と楽団のメンバーに加えるピエール。それぞれを指揮者に立てた2つの楽団が出来上がり、楽団の対立は村全体を巻き込んだ大騒動へと発展していく…。
みんなが知り合いの小さな村で、古くからの楽団が分裂し、二つのバンドができてしまいます。実際に起きたできごとを元にしているそうです。村を二分して暮らしに影響があったのでは、と心配になります。
映画では面白おかしく脚色されているのでしょう。指揮者の二人には青春時代からの因縁があって、何十年もたっているのに意地のはりあい。アロイスは頑固で保守的、伝統にこだわります。妻が外で活動したり、娘がワイン醸造に興味を持つのに苦い顔。ピエールはパリに出て音楽家として活躍していたところを、請われてUターン。才能ある女性や移民も楽団に加える新しいセンスの持ち主です。
ちょうど女性の参政権が問題になっている時期で、その活動も盛り込まれていました。中年夫婦の一波乱もあれば、娘と移民の青年との恋模様もあります。いろいろてんこ盛りですが、うまく90分にまとめられたコメディです。ところ変わっても人情は変わらず、美しい風景で目の保養もぜひどうぞ。(白)
2019年/スイス/カラー/90分
配給:カルチュアルライフ
(C) 2018 POINT PROD / RTS / TELECLUB
https://culturallife.co.jp/roll-the-drum/
★2024年10月4日(金)新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺、ストレンジャー、シネマート新宿ほか全国順次ロードショー!
エストニアの聖なるカンフーマスター(原題:NAHTAMATU VOITLUS/英題:THE INVISIBLE FIGHT)
監督・脚本:ライナル・サルネット『ノベンバー』
製作:キッサ・カトリン『ノベンバー』
撮影:マート・タニエル『ノベンバー』
振付:サーシャ・ペペリャノフ
音楽:日野浩志郎
出演:ウルセル・ティルク、エステル・クントゥ、カレル・ポガ、インドレク・サムル
ラジカセでメタルを鳴らしながら宙を舞う、革ジャン姿の男たちが国境を襲撃。警備隊は壊滅状態に陥ったが、青年ラファエルは奇跡的に生還を果たす。男たちはカンフーの達人で、身をもって体験したラファエルはすっかり魅了される。天啓と信じ、禁じられたカルチャーであるブラック・サバスの音楽やカンフーに熱狂。しかし、見様見真似だけでは、彼らのようにはなれない。悶々としているとき、たまたま通りかかった修道院で、カンフー技を繰り出す僧侶たちに出逢った。喜んだラファエルはすぐに弟子入りを志願する。
エストニアってどこ?と調べたらバルト三国の一国(ほかにラトビア、リトアニア)でバルト海の東岸、フィンランド湾の南にありました。エストニアは1991年ソビエトからの独立を回復。この映画の舞台は70年代なのでソ連占領下にあります。
国境警備兵だったラファエルの前に現れた3人の達人がいったいどういう人で、どこから現れたのか説明はなかったと思います。歴史をよく知るエストニアの人には自明の理なんでしょうか。エストニアの映画賞を席巻したヒット作品です。
ともかくも禁じられているメタルとカンフーに魅入られたラファエルは、師を求めて僧院へ。この後の修行シーン「監督、香港映画お好きでしょ」と言いたくなるもの。ラファエルは才能を開花させ兄弟子を越えていきます。コメディ仕立ての青年の自分探しの旅、と言ってしまうとつまらないですね。楽しく笑ってください。
エストニアは1500もの島々からなり面積は日本の約8分の1、人口は134万ほど。スカイプはエストニア発祥で、ユーロ圏の中でも屈指のIT大国だそうです。過疎地に住む人にも同じ行政サービスをと開発した結果、今オンラインでできないのは結婚と離婚だけとか。日本も見習ってほしいですね。知るほどに興味が増していく国です。監督の前作は人気作家の原作を映画化したダークファンタジーだったそうで、観てみたいです。(白)
1970年代のソ連占領下のエストニアが舞台。宗教を禁じていた時代なのに、正教会の修道士たちがカンフー!? ぶっ飛んだ映画に驚かされました。
ソ連時代がどんなだったか、「ソ連じゃ、イケてるものは禁止」「十字架をはずせ。ここはソ連」「政治のため、修道士の半分は投獄経験」といった、ちょっとした言葉から知ることができます。それでも、「神はいない」のポスターのそばで十字を切る老婦人や、地下でバンドにあわせ踊る人たち、そしてカンフーで鍛える修道士!
ところで、ラファエルが最初に登場したときにぶら下げていたのは、正教会の十字架ではありませんでした。さて、エストニアの人たちの宗教はどうなっているのだろうと、検索したら無宗教の人が5割とありました。続いて正教会25%、ルーテル教会20%。
ライナル・サルネット監督の前作『ノベンバー』で、キリスト教化されたのは、13世紀初頭のことで、それ以前はアニミズム的世界だったと知りました。(って、すっかり忘れていて、今一度『ノベンバー』の自分で書いた作品紹介を見て、思い出したのですが)ソ連からの独立後も無宗教の人が多いというのも、ソ連時代に宗教が禁じられていたからというより、そういう歴史的背景があるからのようです。
ラファエルには、実在のモデルがいるとのことで、弾圧されれば、人は逆に弾けるのだと! いや~面白かった!(咲)
2023年/エストニア・フィンランド・ラトビア・ギリシャ・日本ほか/エストニア語/115分/カラー/シネマスコープ/5.1ch
日本語字幕:横井和子/字幕監修:小森宏美
配給:フラッグ・鈴正/宣伝:ポニーキャニオン
(C) Homeless Bob Production / White Picture / Neda Film / Helsinki Filmi
公式サイト:https://www.flag-pictures.co.jp/estonia-kungfumaster/
公式X:https://x.com/estoniakungfu #エストニアのカンフーのやつ
★2024年10月4日(金)新宿武蔵野館 他全国公開