2024年09月15日

本日公休 原題:本日公休 英題:Day Off

9/20(金)より新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開 劇場情報 

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(C)2023 Bole Film Co., Ltd. ASOBI Production Co., Ltd. All Rights Reserved

変わらないハサミの音、シャボンの香り、
ここは、アールイさんのちいさな理髪店。


監督・脚本:傅天余(フー・ティエンユー)
製作:呉念真(ウー・ニェンチェン)、呉明憲(ウー・ミンシェン)
撮影:チャン・シータン
音楽:ジョン・シンミン
主題歌:洪佩瑜(ホン・ペイユー)
アールイ:陸小芬(ルー・シャオフェン)
チュアン:傅孟柏(フー・モンボー)
シン:陳庭妮(アニー・チェン)
リン:方志友(ファン・ジーヨウ)
ナン:施名帥(シー・ミンシュアイ)
農家の若者:陳柏霖(チェン・ボーリン)
アンディ:林柏宏(リン・ボーホン)

フー・ティエンユー監督が、自分の母親をモデルに書き上げた脚本を元に、台中にある実家の理髪店で撮影、3年の月日をかけて完成させた作品。ノスタルジックだけど、理髪店を利用する常連客とのやりとり、家族間の微妙な関係、時の流れとともに「老い」の訪れがあり、それでも理髪店を続ける母を暖かい目で見つめます。

台中の町はずれで40年にわたり理髪店を営む店主のアールイ(ルー・シャオフェン)。今日も、いつものように店に立ち、常連客相手にハサミの音を響かせている。息子の卒業式に出席するために整髪にやって来た紳士、夢枕に立った亡き妻に「髪は黒いほうが良い」と言われ、初めて白髪染めにやって来る老人、親に内緒で流行りのヘアスタイルにして欲しいとやってきた中学生など、けっこう忙しい。時が止まったように見える店も、少しづつ季節は巡る。
3人の子どもたちはすでに家を出て、それぞれの道を歩んでいるがアールイの心配は尽きない。台北でスタイリストをしている長女シン(アニー・チェン)、次女リン(ファン・ジーヨウ)は街のヘアサロンで美容師、長男ナン(シー・ミンシュアイ)は定職に就かぬまま一攫千金を夢見ている。子供たちは実家の店にはなかなか顔を見せず、頼りになるのは近くで自動車修理店を営む次女の元夫チュアン(フー・モンボー)だけ。
娘や息子に「理髪店は時代遅れ」と言われても、40年続けた店と常連客を大切にし、アールイは充実した日々を送っている。そんなある日、離れた町から通ってくれていた常連客の「先生」が病の床に伏し、理髪店に通えなくなったことを知り、アールイは、店に「本日公休」の札を掲げ、愛用の理髪道具を持ち、古びた愛車で「先生」の住む町へ向かう。
その日実家を訪れた長女のシンは、母が店を休んでいることを知り、ナンやリンに理由を聞くが誰も知らない。スマホは食卓に置きっぱなしで連絡も取れず、車もなく、3人は母を案じていた。
アールイは車で出かけたものの、久しぶりの運転で慣れず、アクシデントに見舞われ、それでもいろいろな人に助けられ、「先生」の家にたどり着き、散髪をすることができた。

主演は、本作で24年ぶりに銀幕復帰を果たした『客途秋恨』(アン・ホイ監督/90)で母親役を演じたルー・シャオフェン。「こんな脚本をずっと待っていた」と出演を即決し、約4か月間ヘアカットの猛特訓を積んで撮影に臨んだ。本物の理髪師さながらのハサミ捌きと、ブランクを感じさせない演技で、台北電影奨主演女優賞、大阪アジアン映画祭 薬師真珠賞(俳優賞)を受賞。作品は観客賞も受賞。アールイに反発的な次女リンを演じたファン・ジーヨウが台湾金馬奨 助演女優賞、次女の元夫で心優しいチュアンを演じたフー・モンボー(『返校 言葉が消えた日』19)が台北電影奨 助演男優賞を受賞した。『藍色夏恋』(02)のチェン・ボーリン、『僕と幽霊が家族になった件』(22)のリン・ボーホンが、特別出演しています。
プロデュースは、ホウ・シャオシェン監督『悲情城市』(89)、『恋恋風塵』(87)の共同脚本で知られ、エドワード・ヤン監督『ヤンヤン 夏の想い出』(00)の主演で知られる台湾ニューシネマの重鎮ウー・ニェンチェンが担当。

遠方に住む顧客の1人が病気になり理髪店に通えなくなったことを知り、店に「本日公休」の札を下げ、道具を持って車で自らそこまで出向こうとする主人公。途中でいろいろなことがあり、出会いもあり、人の助けも借りて顧客の家にたどりつき、病床の常連客の髪を切る。そして家に戻る。そんな一日を描いていたが、なんとも心にしみる作品だった。病床で髪を切るシーンでは、思わず涙が出た。子供たちとの関係、常連客との関係、助けてくれる次女の元夫。途中で出会った農民役?のチェン・ボーリンとの話も面白い。畑のど真ん中で、散髪する光景は圧巻だった。そして、仕事が終わり、理髪店に戻って、日常がまた始まる。でも、それまでとちょっと違うような日常のような気がした(暁)。

公式HPはこちら 
2023年製作/106分/G/台湾
配給:ザジフィルムズ、オリオフィルムズ
協力:大阪アジアン映画祭
後援:台北駐日経済文化代表処 台湾文化センター
posted by akemi at 20:34| Comment(0) | 台湾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ぼくが生きてる、ふたつの世界

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監督:呉美保
原作:五十嵐大「ろうの両親から生まれたぼくが聴こえる世界と聴こえない世界を行き来して考えた30のこと」
「ぼくが生きてる、ふたつの世界」と改題して7月に再販 (幻冬舎文庫 い 74-1)
脚本:港岳彦
撮影:田中創
出演:吉沢亮(五十嵐大)、忍足亜希子(五十嵐明子)、今井彰人(五十嵐陽介)、ユースケ・サンタマリア(河合幸彦)、烏丸せつこ(鈴木広子)、でんでん(鈴木康雄)

宮城県の小さな港町で暮らす、五十嵐家に男の子が誕生した。大と名付けられて優しい両親や祖父母に愛情いっぱいに育てられる。祖父母はきこえるが、両親は二人とも耳がきこえない。きこえる大は大好きな母の通訳をすることが喜びで「普通」のことだった。しかし、小学生になるとほかの子の母親と違うことがわかり、参観日のお知らせも見せないまま捨ててしまう。中学生から母と距離をとるようになり、高校進学のときに母に不満や怒りをぶつけてしまう。
無為な日々を過ごしながら20歳になり、父の後押しもあって上京する。バイト先のパチンコ屋でめっぽう明るいろう者のおばさん智子に出逢った。誘われた手話のサークルで「きこえない親の子どもをコーダ(*)と呼び、日本に2万数千人もいること」を知る。
*コーダ(CODA, Children of Deaf Adults)とは、きこえない・きこえにくい親をもつきこえる子どものことを指す

そこのみにて光輝く』(2014)『きみはいい子』(2015)呉美保(お みぽ)監督9年ぶり長編監督作。出産と子育てのため、長編映画の制作から遠ざかっていましたが、プロデューサーからの声かけで復帰。呉監督が一貫して撮り続けている家族がテーマです。今回はろう者の両親とコーダの一人息子の28年間の物語。
きこえない人は外から見てわかりません。後ろから来た車がクラクションを鳴らしても気づきません。幼い大が車道側を歩く母をひっぱるシーンがあります。母親は息子を守って車道側にいるわけで、この守り守られが映画の進行と一緒に変化していきます。
両親はじめ、ろう者役はすべてろう者の俳優をキャスティング。これからも出番が増えるといいですね。主演の吉沢亮さんは手話を一から学びましたが、表現を抑えめにしてきたこれまでの演技と違い、伝わること第一の手話は身振りや表情を大きく動かします。一つひとつに意味があって戸惑ったそうです。住んでいる地域、家庭など立場によっても微妙に異なる手話を、演技と共にとてもナチュラルに表現していたと指導された方も絶賛。中学生から大人になるまでの成長ぶりにもどうぞご注目ください。
手話が登場するドラマや映画がヒットすると、しばらくの間関心が高まり学ぶ人が増えるようです。もう一つの日本語として「手話と点字」を学校や公共の施設などで学べたならもっと広まるのになぁ。(白)


2024年/日本/カラー/105分
配給:ギャガ
(C)五十嵐大/幻冬舎 (C)2024「ぼくが生きてる、ふたつの世界」製作委員会
https://gaga.ne.jp/FutatsunoSekai/
★2024年9月20日(金)新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国順次ードショー
posted by shiraishi at 11:48| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

SONG OF EARTH/ソング・オブ・アース(英題:Fedrelandet)

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監督:マルグレート・オリン
出演:ヨルゲン・ミクローエン、マグンヒルド・ミクローエン

ノルウェーの渓谷「オルデダーレン」にヨルゲン・ミクローエン、マグンヒルド・ミクローエンという老夫婦が静かに暮らしている。娘であるマルグレート・オリン監督は、どこへでもいく84歳の父の姿と言葉をカメラに留めていく。父は美しい渓谷を案内しながら、これまでの人生、最愛の妻、ここで生きて来た何世代もの人々について語る。

壮大なオルデダーレン渓谷の景観は一度実際に見てみたいと思わせます。迫力がありながら何もかも包み込むような懐の深さと優しさも感じます。こういうところで暮らすとこんなに穏やかな老夫婦になれるのかもしれない、とうらやましくなるようなお二人です。
監督は両親の越し方を聞きながら、行く末にも思いを馳せます。
太古からの氷河が近年急速に変化していることを様々な現象が知らせています。昆虫や鳥が減少し、森林火災・洪水が増えていること、気候変動はノルウェーに限らず世界中で起こっているのはご存じのとおり。日本も例外ではありません。「SONG OF EARTH/ソング・オブ・アース」=地球の歌(声)に耳を澄ませて、地球の自然=私たちの家を大切にしましょうーと、老夫婦の生き方を通して監督が語りかけます。
この素晴らしい景観をぜひぜひ大きなスクリーンでごらんください。
ヴィム・ヴェンダース 監督と女優、監督でもあるリヴ・ウルマンが制作総指揮にあたっています。(白)


2023年/ノルウェー/カラー/分
配給:トランスフォーマー
(C)Speranza Film AS 2023
https://www.transformer.co.jp/m/songofearth/
★2024年9月20日(金)TOHOシネマズシャンテ、シネマート新宿ほか全国ロードショー
posted by shiraishi at 11:39| Comment(0) | ノルウェー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー(原題:High & Low -John Galliano)

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監督・プロデューサー:ケヴィン・マクドナルド
出演:ジョン・ガリアーノ、ケイト・モス、シドニー・トレダノ、ナオミ・キャンベル、ペネロペ・クルス、シャーリーズ・セロン、アナ・ウィンター、エドワード・エニンフル、ベルナール・アルノー

2011年2月、ジョン・ガリアーノが反ユダヤ主義的暴言を吐く動画が拡散された。ヨッパライの世迷言では片づけられない、ひどい内容だった。クリスチャン・ディオールのデザイナーとしてファッション界で天才ともてはやされていた彼は逮捕、ディオール、自らの名を冠したブランドから解雇され、全てを失ってしまった。
『ブラック・セプテンバー/五輪テロの真実』(1999)『モーリタニアン 黒塗りの記録』(2021)のケヴィン・マクドナルド監督は、ジョン・ガリアーノに何があったのか、彼の内面へとせまっていく。13年たって本人の口から語られるのは??

ブランド音痴の筆者でも知っているジバンシー、ディオールなどのハイ・ブランドで次々とショーを成功させ、トップに君臨していた人がなぜ?と誰しも思います。トップに上り詰めれば、維持しなければなりません。その重圧に加え、年に32回ものショーという超人的な仕事量。疲労は積み重なっていったでしょう。ジョン・ガリアーノの栄光の軌跡を示す貴重なアーカイブ映像、モデルや評論家など業界の人々のコメントも紹介されます。魅力的な人の波乱万丈の人生にはいくつものドラマがありました。
カメラの前のジョン・ガリアーノは絶頂期のギラギラとしたパワーは消え、長い旅路を歩いてきた穏やかな表情をうかべています。一人の人間の光と影、歓喜と苦悩、美しさと醜さ、聡明なのに愚かでもある…ケヴィン・マクドナルド監督は相反するものをとらえて提示し、観客にひとつの種を蒔きました。天才の栄枯盛衰を凡人の幸せを思いつつ、拝見。(白)


2023年/イギリス/カラー/116分
配給:キノフィルムズ
c 2023 KGB Films JG Ltd
https://jg-movie.com/
★2024年9月20日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラスト有楽町ほか全国ロードショー
posted by shiraishi at 10:52| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

パリの小さなオーケストラ  原題:Divertimento

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(C) Easy Tiger / Estello Films / France 2 Cinema


監督・脚本:マリー=カスティーユ・マンシヨン=シャール(『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』)
出演:ウーヤラ・アマムラ、リナ・エル・アラビ、ニエル・アレストリュプ

<ディヴェルティメント・オーケストラ>を立ち上げたアルジェリア系の少女と仲間たちの物語

パリ近郊の音楽院でヴィオラを学んできたアルジェリア系の少女ザイア・ジウアニ。パリ市内の名門音楽院に最終学年で編入が認められ、指揮者になりたいという夢を持つ。だが、女性で指揮者を目指すのはとても困難な上、クラスには指揮者を目指すエリートのランベールがいる。超高級楽器を持つ名家の生徒たちに囲まれアウェーの中、ランベールの仲間たちには田舎者とやじられ、指揮の練習の授業では指揮台に立っても、真面目に演奏してもらえず、練習にならない。しかし、特別授業に来た世界的指揮者に気に入られ、指導を受けることができるようになり、道がわずかに拓き始める・・・

女性で、アルジェリア系という立場ながら、指揮者になるという夢を叶え、貧富の格差なく誰もが楽しめるよう、パリ市内の上流家庭出身の生徒たちと移民の多いパリ近郊の地元の友人たちによるオーケストラを結成したザイアの物語に勇気づけられました。
本作の2023年フランス公開によって存在が注目され、ザイア・ジウアニは2024年パリ・オリンピックの聖火ランナーを務め、さらに閉会式では大会初の女性指揮者として、ディヴェルティメント・オーケストラによるフランス国歌“ラ・マルセイエーズ”演奏の指揮を務めています。
ジェンダー、人種差別、階級の不平等に立ち向かい夢を叶えたザイアが素敵です。(咲)


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『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』
マリー=カスティーユ・マンシオン=シャール監督インタビュー
http://www.cinemajournal.net/special/2016/kiseki/index.html

2022年/フランス/フランス語/114分/PG12/カラー/ビスタサイズ
配給:アットエンタテインメント
公式サイト:https://parisorchemovie.com/
★2024年9月20日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほかにて全国公開
posted by sakiko at 03:14| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

画家ボナール ピエールとマルト   原題:BONNARD, Pierre et Marthe

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(C)2023-Les Films du Kiosque-France 3 Cinema-Umedia-Volapuk

監督:マルタン・プロヴォ(『セラフィーヌの庭』)
出演:セシル・ドゥ・フランス、ヴァンサン・マケーニュ、ステイシー・マーティン、アヌーク・グランベール、アンドレ・マルコン

1893年、ピエールとマルトは画家とモデルとしてパリで出会う。ブルジョア出身のピエールは謎めいて型破りなマルトに強く惹かれ、二人はともに暮らし始める。田舎に家を見つけ社交的な世界から遠ざかり、クロード・モネなど限られた友人との交流を除いては半ば隠遁生活の中で絵画制作に励むピエール。マルトをモデルにした赤裸々な絵画は評判となりピエールは展覧会で大成功をおさめる。1914年第一次世界大戦が始まった夏、仕事で毎週パリに赴くピエールに不安がつのるマルト、終戦間近にはパリのアトリエでピエールのモデルになっている美術学校生ルネと出くわす。なぜかマルトはルネを気に入り3人の関係は複雑なものに…。

ピエールが生涯で描いた2000点もの作品の3分の1は、マルトを描いたもの。それほどまでに愛していたはずなのに、若いルネに惹かれ、マルトを裏切ったピエール。まったく~と唸りますが、マルトは思いもかけない3人の関係の構築します。あっぱれです。苦悩を抱えながら、堂々と振る舞うマルトをセシル・ドゥ・フランスが体現しています。
セシルとお会いしたのは、『モンテーニュ通りのカフェ』(06)が横浜フランス映画祭で上映された時のことでした。若くてはつらつとしたセシルでした。本作では、20代から70代までのマルトを演じ切り、円熟した姿を見せてくれました。絵のモデルになるだけでなく、自らも筆をとったマルトを生き生きと演じています。
今後、ピエール・ボナールが描いたマルトを観るときには、セシルの姿が思い浮かびそうです。(咲)


*横浜フランス映画祭2024 観客賞受賞
*第76回カンヌ国際映画祭 カンヌ・プルミエール正式出品

2023 年/123 分/フランス/配給:オンリー・ハーツ
⽇本語字幕:松岡葉⼦
配給:オンリー・ハーツ
後援:在⽇フランス⼤使館、アンスティチュ・フランセ
公式サイト:https://bpm.onlyhearts.co.jp/
★2024年09月20日(金)よりシネスイッチ銀座他にて全国順次公開



posted by sakiko at 01:08| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする