2024年07月08日

ある一生(原題:Ein ganzes Leben)

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監督:ハンス・シュタインビッヒラー
脚本:ウルリッヒ・リマー
原作:ローベルト・ゼーターラー「ある一生」(新潮クレスト・ブックス)
撮影:アルミン・フランゼン
出演:シュテファン・ゴルスキー(青年期)/アウグスト・ツィルナー(老年期)/イヴァン・グスタフィク(少年期)(アンドレアス・エッガー)、アンドレアス・ルスト(クランツシュトッカー)、マリアンヌ・ゼーゲブレヒト(アーンル)、ユリア・フランツ・リヒター(マリー)

1900年頃のオーストリア・アルプス。孤児の少年アンドレアス・エッガーは、渓谷で農場を営む遠い親戚クランツシュトッカーに引き取られた。酷薄な農場主にとっては、アンドレアスはこき使える働き手に過ぎず、ほかの子供たちと一緒に食卓につくことも許さなかった。少しのミスで、アンドレアスは厳しい折檻を受けるのが常。声を上げず泣きもしないのが、ますますクランツシュトッカーを怒らせた。アンドレアスを支えたのは、老婆のアーンルの存在だった。
青年となったアンドレアスは、アーンルが亡くなるとすぐに農場を出て日雇い労働者として働いた。渓谷には観光客を運び、電気をもたらすロープウェイが建設されることになった。作業員となったアンドレアスはマリーと出会い、ぎこちない付き合いの末結婚する。渓谷を見渡せる山小屋で始まった結婚生活は、幸せに満ちていたが途中で断ち切られてしまう。

苦労の絶えなかったアンドレアス・エッガーを3人の俳優が演じ、それぞれに印象的です。子どものころに木の枝で折檻されて、足の骨が折れる場面がありました。子どもを骨折するほど叩くって、同じ目に遭わせたくなります(こらこら)。そのため骨が変形してアンドレアスは足を引きずるようになりました。それでも力仕事のできる逞しい青年に成長し、一人で暮らしていけるようになります。
子どものころの暮らしのせいか、口数が少なく朴訥なアンドレアスの人生に光がさしたのはマリーと出会ってから。短い間でも良かったねぇ、と言いたくなります。兵隊に志願しても足が悪いからと却下されたのに、戦争も後半になると兵隊が足りなくなり召集令状がきます。冬山でロシア兵の捕虜となってしまい、シベリアの収容所に送られ、終戦後何年もたってから解放されます。アルプスに戻って山々を見渡したアンドレアスの脳裏を懐かしい日々がよぎって行きます。美辞麗句を排した原作と同じく、無口なアンドレアスの心情の説明はなくとも彼の眼に映る風景が雄弁です。
子どものころの彼を庇ってくれたアーンリお婆さんを演じたのは、『バクダッド・カフェ』(1989年日本公開)のころはふくよかだったマリアンヌ・ゼーゲブレヒト(1945年生)でした。
ローベルト・ゼーターラーのこの小説は、貧しく、困難な日々であっても生きることをあきらめなかった無名な男の一生を淡々と描いて、多くの人々の共感を呼びました。世界40カ国以上で翻訳され160万部以上発行、ブッカー賞最終候補にもなりました。
同じ著者の映画化作品に2020年に公開された『17歳のウィーン フロイト教授人生レッスン』。こちらの原作は「キオスク」(東宣出版/酒寄進一 訳)。「ある一生」と一緒に図書館から借りて、読み始めてすぐ映画を思い出しました。(白)


2023年/ドイツ=オーストリア映画/カラー/ドイツ語/115分/シネスコサイズ
https://www.awholelife-movie.com/
配給:アットエンタテインメント
(C)2023 EPO Film Wien/ TOBIS Filmproduktion Munchen
https://awholelife-movie.com/
後援:ゲーテ・インスティトゥート東京
★2024年7月12日(金)新宿武蔵野館ほか全国順次公開

posted by shiraishi at 09:16| Comment(0) | ドイツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする