2024年06月07日
ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ(原題:The Holdovers)
監督:アレクサンダー・ペイン
脚本:デヴィッド・ヘミングソン
出演:ポール・ジアマッティ(ポール・ハナム)、ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ(メアリー・ラム)、ドミニク・セッサ(アンガス・タリー)
1970年代、アメリカのマサチューセッツ州。全寮制のバートン校で教師を務めるポール・ハナムは皮肉屋で頭が固く、生徒ばかりか同僚たちにも嫌われている。クリスマス休暇が近づき、自宅に戻る生徒たちは浮かれ気味。中には都合で帰れず、学校に残る生徒もいる。ポールはそんな置いてけぼりの生徒たちの子守+監督をすることになってしまった。初めは数人いた生徒たちが、迎えに来た親とスキーに行き、残るは母親が再婚して帰れないアンガスだけ。傷心のアンガスと、ポール先生と料理長のメアリー、独りぼっちの3人のクリスマス休暇が始まった。
最初の生徒たちの描写で、アンガスの性格や家庭環境がわかります。メアリーは一人息子をベトナム戦争で失なったばかり、最後にいっしょに過ごしたこの学校で息子をしのびながら年を越したいのです。ポール先生が嫌われる理由は、いろいろ。アンガスのストレートな質問に躊躇なく答える先生ですが、まだ何かありそうです。
なかなか距離が縮まらないアンガスとポール先生の間で、メアリがちょっとした、でも大事なことを気づかせてくれます。彼女がそばにいるとなんだか安心します。おかげで、ポール先生が「社会見学」と称してアンガスをボストンに連れて行ってくれることになりました。そこで、誰にも話さなかった2人の秘密が明かされていきます。さてさて。
とっても寒そうなクリスマス休暇のあったかいストーリーでした。二人のベテラン俳優が上手いのはもちろんですが、これが初めての演技というドミニク・セッサが、不安や寂しさを抱えたアンガスそのものでした。次はどんな役で出会えるのか楽しみです。(白)
冬のボストンの町をたっぷり味わえる、心温まる映画でした。
古代史を教えているポール・ハナム先生が、真っ先にアンガスを連れていったのは、考古博物館。「今の時代を理解するには、過去から学ぶべき」というハナム先生。彼の愛読書「自省録」は、約2千年前、第16代ローマ皇帝マルクス・アウレリウスが日記のように書き留めたもの。「聖書、クルアーン、ギーター(ヒンドゥーの聖典のひとつ)を合わせたようなものだけど、神について書いてないのがいい」とアンガスに薦めます。頑固者で、授業では怒鳴ってばかりのハナム先生の印象がぐっと変わります。
アンガスは、「スケートしたり、本物のツリーが観たい」とボストン行きをハナム先生にお願いしたのですが、本当の目的は別にありました。それはどうぞ劇場で! (咲)
2023年/アメリカ/カラー/1.66:1/133分
配給:ビターズ・エンド ユニバーサル映画
Seacia Pavao/(C)2024 FOCUS FEATURES LLC.
公式HP:https://www.holdovers.jp/
公式 X:@TheHoldoversjp
★2024年6月21日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
九十歳。何がめでたい
監督:前田哲
原作:佐藤愛子「九十歳。何がめでたい」「九十八歳。戦いやまず日は暮れず」(小学館刊)
脚本:大島里美
撮影:山本英夫
出演:草笛光子(佐藤愛子)、唐沢寿明(吉川真也)、藤間爽子(杉山桃子)、木村多江(吉川麻里子)、真矢ミキ(杉山響子)
90歳になった佐藤愛子は断筆宣言をして作家生活を引退。締め切りに追われず、悠々自適に過ごす予定だったのに、あまりにも何もない日々に飽き飽きしていた。そこへ「ぜひエッセイ連載を!」とベテラン編集者・吉川が手土産持参で乗り込んでくる。手土産はもらうけれど「書けない、書かない、書きたくない!」と断固拒絶する愛子と吉川、頑固者同士の攻防が始まった。2階で同居している愛子の娘・響子と孫の桃子は、吉川とのやりとりで愛子が日々元気になっていくのを見守り、連載が決まったのに安堵する。愛子の痛快エッセイは好評でベストセラーとなった。
昨年11月、100歳を迎えた作家・佐藤愛子さんの同名エッセイ集の実写映画化。主演の草笛光子さんは『老後の資金がありません!』に続いての前田哲監督とタッグ。タイトルと同じ90歳になられましたが、今もお綺麗な現役の俳優、シニアの希望の星!よっ、光子さんカッコいい!
愛子先生の好敵手、いや良き相棒となる吉川は典型的な昭和男。会社では後輩に追い越され、同僚にはパワハラ男と避けられているのが実情です。若手に対抗して企画を通したい一心でもありました。家庭を顧みず仕事人間でやってきた結果、妻を泣かせていたのを娘の美優に言われてやっと気づく体たらくです。愛子先生と過ごすうちに少し変わる吉川でした。あの人この人がいろいろな役で登場しているのでお楽しみに。
怒るのには格別パワーが要ります、見ないふりをする方が楽ですが「正しく怒る」愛子先生に共感します。老化といつしか時代に取り残される不安は誰にも共通。愛子先生を見習い、元気で生き抜きましょう。(白)
完成披露試写舞台挨拶
作家を書く気にさせるには? を楽しく見せてくれました。
昭和な男が持ってくるありきたりのお菓子よりも、若い編集者が持ってくる珍しくてお洒落なスイーツに、つい書く気になる愛子さん!
引退して何もしないことが、いかに退屈かも見せてくれました。寝込まない限り、人生現役でいたいと、今一度、思った次第です。
それにしても、いかにもの昭和男を演じた唐沢寿明さん、モデルになった編集者の方に風貌を似せたのかもしれませんが、キャストを知らなければ、この人、誰?という位、ダサダサです。
あの人この人がいろんな役で出てくる中でも、オダギリジョーさんには大笑い。前田哲監督の手腕に脱帽です。(咲)
2024年/日本/カラー/ビスタ/99分
配給:松竹
(C)2024「九十歳。何がめでたい」製作委員会 (C)佐藤愛子/小学館
https://movies.shochiku.co.jp/90-medetai/
★★2024年6月21日(金)より全国順次公開“あなたの悩みも一笑両断”
骨を掘る男
監監督・撮影・編集:奥間勝也
出演:具志堅隆松
具志堅隆松さん70歳。「ガマフヤー(ガマを掘る人)」と自称し、同じ名前の収集ボランティアの会の代表を務めている。沖縄が戦地となったとき住民たちが避難したガマ(洞窟)で遺骨収集を続けて40年になった。薄暗い中、小さな破片も見逃さない。「あと10センチで出逢えるかもしれない」と堀り続けてきた。沖縄には、まだまだ見つからない遺骨がたくさん(3000柱)眠っている。そんな土を辺野古の埋め立てに使わないで、と抗議する。
激戦地だった南部では追い詰められた住民や、武器や装備の少ない兵隊の遺骨が多いそうです。具志堅さんはガマに残された遺骨や遺品から、その時の状況を推し量ります。小銃と砕けた頭蓋骨に出逢うと、「足で引き金を押して自決したのだろう」と推測。子どもの乳歯が見つかると、「お母さんも一緒だろう」と、さらに探します。
今は親族からサンプルを集めて、遺骨とのDNA鑑定ができます。遺骨の劣化が激しいと鑑定が難しく、また遺族も高齢となり、年々少なくなっていきます。奥間監督も大叔母(祖母の妹・当時20歳)の正子さんが亡くなっています。具志堅さんと共にガマに入りながら戦後生まれの監督は出逢ったことのない人の追悼を自問しています。戦争の記憶と記録を次世代にどうつなげるかということも。
摩文仁の丘には戦没者の名前が刻まれた石碑が寄せてはかえす波頭のように並んでいます。この40年「観念的な慰霊でなく、行動的な慰霊としてやっている」という具志堅隆松さんの言葉が胸に残りました。(白)
2024年/日本・フランス/カラー/DCP115分
配給:東風
(C)Okuma Katsuya, Moolin Production, Dynamo Production (C)Thaw Win Kyar Phyu Production
https://closetothebone.jp/
★2024年6月15日(土)東京 ポレポレ東中野、大阪 第七藝術劇場ほか全国順次公開
出演:具志堅隆松
具志堅隆松さん70歳。「ガマフヤー(ガマを掘る人)」と自称し、同じ名前の収集ボランティアの会の代表を務めている。沖縄が戦地となったとき住民たちが避難したガマ(洞窟)で遺骨収集を続けて40年になった。薄暗い中、小さな破片も見逃さない。「あと10センチで出逢えるかもしれない」と堀り続けてきた。沖縄には、まだまだ見つからない遺骨がたくさん(3000柱)眠っている。そんな土を辺野古の埋め立てに使わないで、と抗議する。
激戦地だった南部では追い詰められた住民や、武器や装備の少ない兵隊の遺骨が多いそうです。具志堅さんはガマに残された遺骨や遺品から、その時の状況を推し量ります。小銃と砕けた頭蓋骨に出逢うと、「足で引き金を押して自決したのだろう」と推測。子どもの乳歯が見つかると、「お母さんも一緒だろう」と、さらに探します。
今は親族からサンプルを集めて、遺骨とのDNA鑑定ができます。遺骨の劣化が激しいと鑑定が難しく、また遺族も高齢となり、年々少なくなっていきます。奥間監督も大叔母(祖母の妹・当時20歳)の正子さんが亡くなっています。具志堅さんと共にガマに入りながら戦後生まれの監督は出逢ったことのない人の追悼を自問しています。戦争の記憶と記録を次世代にどうつなげるかということも。
摩文仁の丘には戦没者の名前が刻まれた石碑が寄せてはかえす波頭のように並んでいます。この40年「観念的な慰霊でなく、行動的な慰霊としてやっている」という具志堅隆松さんの言葉が胸に残りました。(白)
2024年/日本・フランス/カラー/DCP115分
配給:東風
(C)Okuma Katsuya, Moolin Production, Dynamo Production (C)Thaw Win Kyar Phyu Production
https://closetothebone.jp/
★2024年6月15日(土)東京 ポレポレ東中野、大阪 第七藝術劇場ほか全国順次公開
オペラ座の怪人4Kリマスター版(原題:The Phantom of the Opera)
監督:ジョエル・シュマッカー
原作:ガストン・ルルー
脚本:アンドリュー・ロイド=ウェバー、ジョエル・シュマッカー
音楽:アンドリュー・ロイド=ウェバー
出演:ジェラルド・バトラー(ファントム)、エミー・ロッサム(クリスティーヌ)、パトリック・ウィルソン(ラウル)
19世紀のパリ。オペラ座では奇怪な事件が続いていた。仮面をつけた謎の怪人ファントムの仕業とされているが、いまだ捉えられていない。主役が事故のため降板し、若いクリスティーヌが代役をつとめることになった。初舞台で大成功をおさめ、幼馴染の貴族の青年ラウルとも再会した。
早くに両親に死なれ、寮生活を送ってきたクリスティーヌは、自分がプリマドンナとして成長できたのは、亡き父が差し向けてくれた「音楽の天使」のおかげと信じている。その正体が実はファントムと明らかになり、クリスティーヌは愛するラウルと心酔してきた天使=ファントムへの間で苦悩する。
ミュージカル「オペラ座の怪人」は、ガストン・ルルーの小説を元に、アンドリュー・ロイド=ウェバーが1986年に作曲し、初演はロンドン・ウエストエンドにあるハー・マジェスティーズ劇場。以来、世界中で1億6000万人が観劇、日本では劇団四季によって1988年から各地でロングラン公演を果たしています。
本作は2004年、アンドリュー・ロイド=ウェバー自身が製作・作曲・脚本を務め、『バットマン・フォーエバー』などのジョエル・シュマッカー監督とともにこだわりぬいて映画化。2005年1月29日に日本で公開されるとリピーターが続出したそうです。全世界の興収の4割を日本が占めたとか。
詳細は知らなくともビジュアルと音楽だけは記憶に残っている方も多いのではないでしょうか。
映画版が公開されて20年になったのを記念して、このほど4Kデジタルリマスター版でよみがえりました。豪華賢覧なオペラ座の舞台や衣装に目を見張ります。そして当時30代半ばのジェラルド・バトラーのファントムがそれはそれはセクシーです。ぜひ大きな画面+音響の良い劇場で堪能されることをおすすめします。(白)
2004年/アメリカ/カラー/シネスコ/141分/字幕翻訳:戸田奈津子
配給:ギャガ
(C)2004 The Scion Films Phantom Production Partnership
公式HP:gaga.ne.jp/operaza4K
公式X:@operaza4K
★2024年6月14日(金)TOHOシネマズ 日比谷 他ロードショー