2024年05月30日
あんのこと
監督・脚本:入江悠
撮影:浦田秀穂
音楽:安川午朗
出演:河合優実(香川杏)、佐藤二朗(多々羅保)、稲垣吾郎(桐野達樹)、河井青葉(香川春海)、広岡由里子(香川恵美子)、早見あかり(三隅紗良)
21歳の杏(あん)は、幼い頃から母親に暴力を振るわれてきた。十代から売春を強いられて過酷な人生を送ってきた。覚醒剤使用容疑で取り調べを受けた彼女は、多々羅という変わった刑事と出会う。組織からははみ出している多々羅は、「薬物更生者の自助グループ」に杏を誘い、何くれとなく面倒をみてくれる。大人を信用したことのない杏は、初めて自分を受け入れてくれた多々羅に心を開いていく。
多々羅の知り合いの週刊誌記者・桐野も杏を知って気にかけていた。桐野は「多々羅が自助グループ参加者の女性に関係を強いている」というリークを得て、まさかと思いながら、慎重に取材を進めていた。
杏は母親から離れ、シェルターに移る。初めて安心できる居場所や人とのつながりを手にして、生きることに前向きになっていた。しかし新型コロナウイルスのために、それらはあっという間に失われてしまう。
これは入江監督の目に留まった新聞記事から生まれた作品。実話を元にした脚本を読んだ河合優美さんは「彼女の人生を生き切る」と心を決めたそうです。宮藤官九郎ドラマ「不適切にもほどがある!」で、阿部サダヲさんの娘役を演じたのも記憶に新しいです。全く違う世界の話でも現実の生活とどこかつながっていると気づく、想像できるきっかけになってくれればと言う気持ちで演じたのだとか。18歳でデビューして5年。しっかりした女優さんになりましたね。杏は観た人の中にいつまでも残るはずです。
ネグレクトから売春の強要までする毒親を演じるのは河井青葉さん(清楚な印象が強かったのですが、女優さんって何でもできるんですね)。父親の姿はなく、足の不自由なお祖母ちゃんだけが杏を気遣います。母親がなぜそこまで荒れてしまったのかは不明。酒浸りで杏を「ママ」と呼んで甘え、頼りにするのをみると、彼女もまた暗い道を歩いてきたのかと想像してしまいます。
佐藤二朗さんはいつも作品の中で強烈な印象を残しますが、今回はいきなりのヨガ。変な刑事のまま、杏の支えでいてほしかったと観終わって悶々としました。稲垣さん演じる桐野記者は、そんな多々羅刑事を調査しながら、杏の手助けもします。役の上でも力んだのを見たことがない稲垣さん、いつかすっごく熱い人をやってほしいものです。
もともとは家庭の問題ではありますが、コロナ禍はたくさんの人の行く道を塞ぎ、迷わせ、希望までも潰したんだといまさらながら思いました。(白)
2024年/日本/カラー/シネスコ/113分
配給:キノフィルムズ
© 2023『あんのこと』製作委員会
https://annokoto.jp/
★2024年6月7日(金)新宿武蔵野館、丸の内TOEI、池袋シネマ・ロサほか全国公開
トノバン 音楽家 加藤和彦とその時代
企画・構成・監督:相原裕美
出演:きたやまおさむ、松山猛、朝妻一路五、新田和長、つのだ☆ひろ、小原礼、今井裕、高中正義、クリス・トーマス、泉谷しげる。坂崎幸之助、重実博、コシノジュンコ、三國清三、門上武司、高野寛、高田連、坂本美羽、石川紅奈(soraya)他
そろそろ、加藤和彦のことを語ろうか―—
高橋幸宏が加藤和彦に寄せた想いから映画化の企画が立ち上がった。日本初のミリオンヒットを生んだザ・フォーク・クルセダーズの結成秘話、サディスティック・ミカ・バンドの海外公演やレコーディング風景などを交えた映像、さらに日本のポップスの金字塔とも言える“ヨーロッパ三部作”に隠された逸話などを、関係者インタビューと貴重なアーカイブ映像で綴り、彼の功績を紐解いていく。また同時に、彼の音楽に影響を受けた新たな世代のアーティストらによるトリビュート版「あの素晴しい愛をもう一度」を新たにレコーディングしていく様子も捉え、彼が残した名曲が歌い継がれ、進化し続けていく音楽の素晴らしさをスクリーンに焼き付けている。
ほぼリアルタイムで加藤和彦さんの曲を聞いていました。「帰ってきたヨッパライ」は衝撃でした。「何これ!?」と何度も聴き直したものです。普通は一度ヒットすると2匹目に似たようなドジョウを狙いがちですが、ビートルズのように同じ曲は出さない。全部変えるというポリシーがあったそうです。当時音楽雑誌など買わず、深夜ラジオくらいしか情報はありません。そんなこととは知らずにいたので出す曲みな違っていたのにびっくりしました。
ミカさんと離婚後、安井かずみさんと再婚した加藤さん、お洒落なご夫婦だなと思ったものです。かずみさん、加藤さんが亡くなられ、周囲の方々の何人かも彼岸へと旅立たれました。音楽業界をけん引してきた人たちが、もう一度加藤和彦さんを懐かしく振り返るこのドキュメンタリーで、一緒にあのころを思い出しました。加藤さんを知らない若い人たちも、耳に残っている歌があるはずです。あの曲もこの曲も加藤和彦さんのだった、と確かめてみてください。(白)
2024年/日本/カラー/ビスタ/118分
配給:NAKACHIKA PICTURES
(C)2024「トノバン」製作委員会
https://tonoban-movie.jp/
★2024年5月31日(金)ロードショー
ユニコーン・ウォーズ(原題:Unicorn Wars)
監督・脚本:アルベルト・バスケス
とあるディストピア。熊とユニコーンがそれぞれのテリトリーに住んでいた。この両者は先祖代々闘いが続いている。テディベアの双子の兄弟、ゴルディとアスリンは軍の新兵訓練所で厳しい特訓を受けていた。
先発の部隊が魔法の森へ行ったまま戻らず、捜索部隊が出動することになった。ほどなくアスリンたちが目にしたのは無残な姿の隊員たちだった。聖書には「最後のユニコーンの血を飲む者は、美しく永遠の存在になる」という言葉がある。部隊はユニコーンを追って深い森へと進軍していくが、その地で巻き起こる悲惨で残酷な出来事の先には、とんでもない結末が待ち受けていた…。
こちらは昨年開催された第一回新潟国際アニメーション映画祭のコンペティション部門で拝見。テディベアを始めとして可愛いキャラたちが勢ぞろいで、お子様向けかと思いきや・・・そのキャラの姿で血みどろの闘い、幻覚からの殺戮、飢餓に襲われと驚愕のシーンが繰り広げられます。
ことに双子で生まれたゴルディとアスリンの兄弟。気弱な兄のゴルディに母の愛情をとられたと思っている節があるアスリンは、何かにつけ意地悪をします。闘いの合間に過去の思い出が挿入され、なぜこうなってしまったかが明らかになります。
ユニコーンと熊の長い闘いを、同道する神父は聖書をもとに此方が正義と意味を説きます。寄せ集めの最弱部隊を死んでも惜しくないと言い放つ上官たち。テディベアの姿だから観続けられましたが、今の人間世界と変わらないではありませんか。戦争の醜悪さ残酷さが詰め込まれています。ラストまで心して観よ。(白)
☆監督フィルモグラフィ
<長編アニメーション>
『ユニコーン・ウォーズ』(2022)※ゴヤ賞 最優秀長編アニメーション映画賞
『サイコノータス
忘れられたこどもたち』(2015) ※ゴヤ賞 最優秀長編アニメーション映画賞
<短編アニメーション>
『Homeless Home』 (2020)※アヌシー国際アニメーション映画祭 審査員賞
『Decorado』 (2016) ※ゴヤ賞 最優秀短編アニメーション賞
『Unicorn Blood』 (2013)
『Birdboy』 (2011) ※ゴヤ賞 最優秀短編アニメーション賞
2022年/スペイン、フランス/カラー/ビスタ/92分
配給:リスキット
©︎2022 Unicorn Wars
公式HP: unicornwars.jp
★2024年5月25日(土)よりシアター・イメージフォーラムにて先行公開中
5月31日(金)よりTジョイPRINCE品川ほか全国順次公開