2024年05月20日
#つぶやき市長と議会のオキテ 劇場版
監督:岡森吉宏
プロデューサー:立川直樹
編集:田中実生
音楽:前田陽一
出演:安芸高田市石丸伸二市長・議会・市民
安芸高田(あきたかた)市は広島県北部に位置する人口26,000人余りの地方都市。ほかの地方都市と同じく、過疎・高齢化が進んでいる。ここが全国ニュースに取り上げられたのは、2019年。7月の参議院議員選挙の際に、自由民主党の候補、河井克行・案里夫妻は揃って当選を果たし、河井克行は法務大臣に就任した。しかし、10月に大規模買収事件が発覚し、現金を受け取った当時の安芸高田市長と市議3人が辞職した。
2020年8月に急きょ実施された市長選で、市民が選んだのは、政治経験ゼロ、元銀行員の37歳・石丸伸二だった。石丸市長は、「政治の見える化」を掲げ、ツイッター(現X)での情報発信を積極的に行い、市民からの期待も高まるが、最初の議会から紛糾する。効率的で持続可能な市政を目指し、非合理的と判断した事業の中止や新しい政策を次々と打ち出す新市長と、従来の手順を重んじる議員たちとの溝が深まるなか、石丸市長のある投稿をきっかけに、議会は思わぬ方向へ展開していく――。
地元ローカル局・広島ホームテレビが石丸市長当選から数百時間にわたって安芸高田市政に密着取材を行い、2021年11月にテレビ朝日系列の「テレメンタリー」で30分番組を放送。番組は好評を博し、翌年の春に50分版を放送すると、その後アーカイブ配信が900万回以上の再生回数を記録した。その満を持しての映画版が本作。TV放送では入らなかった市民の動きや、その後の取材を大幅に加え再構成した。いち地方議会の問題から見えてくる、この国のいたるところにはびこる”オキテ”とは?
地方の市議会の騒動がこんなに全国的に注目されたのは、石丸伸二市長がツイッター(現X)での情報発信を実にマメに続けたからというのが一番でしょう。次々とリツィートされて、普段見ることのない市議会の内情が知れ渡りました。SNSの威力はすごい。こういうことに慣れていないベテラン市議たちの不興を買ったのは想像通り。
これはきっと全国どこでも小さくても組織ならば共通するのでしょう。従来通りに、大過なくやりすごすのが一番安心安全(自分だけが責めを負うことがない)だから、ですよね。「是々非々で」といいながら、なぜ市長と議会に軋轢が生まれてしまったのかカメラは追っていきます。
市議会では多数が有利。民主主義とは多数決のことではなく、少数意見にも耳を傾け、生かすことだと考えていました。が、違うようです。ここでも効率優先か? オキテに縛られる古株の議員たちを味方にすることは難しく、後から加わった若手議員たちと奮闘を続けます。
2019年市長就任時に開設した石丸伸二(安芸高田市長)のXには39,5万人のフォロワーがいます。最新のコメントは5月17日「本日、正式に #東京都知事選 への出馬を表明しました」。youtubeのライブ配信もたびたび更新されています。このパワーで東京からも発信していくのでしょう。都議会には市議会よりもっと強力なナニかが棲んでいそうですが。(白)
*是々非々:「良いことは良い」「悪いことは悪い」と公平な立場で物事を判断すること
2024年/日本/カラー/106分/ドキュメンタリー
配給:きろくびと
(C)広島ホームテレビ
https://tsubuyaki-mayor.com/
★2024年5月25日(土) ポレポレ東中野、角川シネマ有楽町ほか全国公開
バティモン5 望まれざる者(原題:BÂTIMENT 5)
監督・脚本:ラジ・リ
出演:アンタ・ディアウ(アビー)、アレクシス・マネンティ(ピエール・フォルジュ)、アリストート・ルインドゥラ (ブラズ)、スティーヴ・ティアンチュー(ロジェ・ロシュ)、オレリア・プティ(ナタリー・フォルジュ)、ジャンヌ・バリバール(アニエス・ミアス)
パリの郊外に連なる団地群、そこへ向かってカメラが降りていく。移民が多く住む10階建ての古びたアパートは、エレベーターが故障中、電気もときどき消えてしまう。高層階の一室では葬儀の真っ最中、遺体の入った棺を屈強な男たちが担いで、障害物をよけながら階段を下る。葬送の列では「こんなことろ人間が住むところじゃない」という嘆きの声。
再開発が進むこの地域でアパートを爆破するイベントに市長が出席した。住民たちが見守る中、アパートが崩れ落ちるのと同時に市長も倒れ急逝する。臨時の市長に市議会のトップの打診により、ピエール医師が選ばれた。地域の発展と住民のために働くと明言したピエールだったが。
導入部だけで移民の困難な暮らしが垣間見られますが、理想に燃えていたはずのピエールが市長となって、権力を持ったときから徐々に変わっていくのをうすら寒い思いで見つめました。副市長のロジェは移民の出であるだけ、住民との付き合い方を熟知しています。中古住宅を一軒ずつ買い上げるといいながら、取り壊しの理由が見つかると飛びつき、手っ取り早く追い出しにかかる行政。それがなだれをうって襲い掛かってくるので、住民はなすすべもありません。理不尽このうえなく、上の命令に背けない警察の一部や廃棄物収集の業者も逡巡する様子を見せています。スピーディなドキュメンタリーのようにいくつものドラマが、この映画の最初から最後まで展開していきます。
この迫力に圧倒され続けました。実際にこのバティモン5で育ったラジ・リ監督が、その地区の人々の出演協力を得て完成した作品だからこそです。国や事情は違いますが、警察に排除されるシーンに沖縄の人々を、住み慣れた家を大急ぎで出なければいけないシーンに福島の人々が思い出されました。
印象に残ったシーンがほかにもあります。市議会で臨時市長の認定を受け、フランス国旗と同じ三色のたすき(?)をかける市長。市議会のトップに「代議士は赤が上、市長は青を上にする理由は、代議士が国王ルイ16世の斬首を決めたから、首の近くに赤を持ってくる」と説明を受けました。ベテランの副市長が「市議会には気をつけろってこと」とピエールに助言します。市議を選ぶのは市民です。今回は臨時ですが、本来は市長も市民に選ばれます。選挙のときだけ住民側でも、当選後は権力者になってしまう人ばかりでは、住民は希望が持てません。
怒りをためていくブラズに「怒るだけでなく、声をあげなきゃ」と繰り返し訴え、暴力によらず街を変えようとするアビーの意思に期待します。(白)
2023年/フランス、ベルギー合作/カラー/105分
配給:STAR CHANNEL MOVIES
(C)SRAB FILMS - LYLY FILMS - FRANCE 2 CINEMA - PANACHE PRODUCTIONS - LA COMPAGNIE CINEMATOGRAPHIQUE – 2023
https://block5-movie.com/
★2024年5月24日(金)ロードショー
母とわたしの3日間 ( 原題:3일의 휴가 3日の休暇、英語題:Our Season)
監督:ユク・サンヒョ
脚本:ユ・ヨンア
撮影:キム・ジヒョン
音楽:ク・ジャワン
出演:キム・ヘスク(ポンチャ)、シン・ミナ(チンジュ)、カン・ギヨン(ガイド)、ファン・ボラ(ミジン)
ポクチャが天国に来て、3年目となった日、特別に3日間の休暇をもらって地上に帰ることになった。もちろん自分の姿は人間には見えず、できるのは、ただそばで見守っることだけ。案内役の新人ガイドと一緒に元いた家に行ってみると、ニューヨークで大学教授をしているはずの自慢の一人娘チンジュが、定食屋を営んでいた。なんで?!と不満いっぱいのポンチャ。チンジュはそんなポンチャに気づくこともなく、ソウルから訪ねてきた親友のミジンと母親のレシピを再現していく。
キム・ヘスクは「国民の母」と呼ばれる女優、娘役のシン・ミナは「国民の癒し」だそうで母娘ゴールデンコンビです。脚本がこれまた人気・実力とも最強のユ・ヨンア。
3年天国にいる間に地上の情報は手に入らないの?ときどきは様子を見られないの?と疑問はいろいろ湧きますが、そういう設定なのでご了承のほど。まだ新人のちょっと頼りないガイドとポンチャのやりとりに笑い、料理に見とれ、娘とのすれ違いの切なさに涙し、といろいろ詰まった映画です。母の立場、娘の立場から見て自分の家族をふりかえることができます。
なんだか聞いたことのあるタイトル・・・まず思い出したのが浅田次郎氏の『椿山課長の七日間』(2006年西田敏行主演で映画化)でした。そちらは初七日の間だけ、別の姿で地上に降りて心残りだったことに対処できるというもの。原作と映画は結末が違いました。
これも似たタイトル『パパとムスメの7日間』は身体が入れ替わってしまい、”お互いの身になって”初めて理解し、心が通じたドラマ。こちらはその後の生活でやり直すことができますが、死んでしまえばもう戻ることはかないません。
どの作品にも共通しているのが「家族」。分かっているようでわからないのがいちばん身近な家族です。生きているうちに想像力を働かせ、相手を思いやること。かといって察してと思わず、対話することが大事と当たり前のことに気づきます。(白)
母の営んでいた食堂で、母の作ってくれた大根入り餃子を再現しようと試行錯誤するチンジュ。キムチが辛くて食べられないチンジュのために、母が考案した優しい味の餃子でしたが、レシピを教えてもらってなかったのです。チンジュには、心残りがいっぱい。母につれなく当たり、一緒に撮った写真も1枚しかない・・・ 悔いる娘の姿に、天国からやってきた母もほろり。観ている私も、亡くなった両親にしてあげられなかったことをたくさん思い出してほろり。
天国からの案内人を演じた青年役のカン・ギヨン、『極限境界線 -救出までの18日間-』でパシュトー語の現地通訳を演じた方。
また、チンジュの高校生時代の少女は、どこかで観たことがあると思ったら、ドラマ「ペントハウス」シリーズのペ・ロナ役で強烈な印象を残したキム・ヒョンスでした。目元がシン・ミナと似てるかな・・・(咲)
2023年/韓国/カラー/105分
配給:クロックワークス
(C)2023 SHOWBOX AND STORY FOREST ALL RIGHTS RESERVED.
https://klockworx-asia.com/season/
★2024年5月24日(金)ロードショー
劇場版 おいしい給食 Road to イカメシ
監督:綾部真弥
脚本:永森裕二
撮影:小島悠介
音楽:沢田ヒロユキ、ペイズリィ8
出演:市原隼人(甘利田幸男)、大原優乃(比留川愛)、田澤泰粋(粒來ケン)、栄信(木戸四郎)、いとうまい子(牧野文枝)、六平直政(白根)、高畑淳子(サキ)、小堺一機(坂爪校長)、石黒賢(等々力町長)。藤戸野絵(丸本米子)
1989年冬。中学教師の甘利田幸男は北国の忍川中学校に赴任した。相変わらずひそかな楽しみは給食。甘利田に負けず劣らず給食にこだわる生徒はここにもいた。一年一組の粒来ケンを心の中でライバルと見なし、日々一喜一憂している。ある日忍川中学が給食を完食するモデル校となった。食べ物を大切にし、かつ好き嫌いもなくそうというのは表向き、実は迫ってきた町長選挙で有位になるべく画策していることがわかった。ただただ給食をおいしく食べたい甘利田は、おいしい給食を守るためにたちあがる。
「おいしい給食」劇場用映画第3弾(第2弾はこちら)。ときどき「おとなげない」と言いたくなるほどの甘利田先生テンションMAXの給食愛は今回もさく裂!そのエネルギーは全て給食に向けられると言っても過言ではありません。新しき給食のライバル生徒・ケンとの攻防に笑っているうちに、政治利用という大人の世界の暗雲がたちこめてきます。
一方、教育係として新米教師の比留川愛先生の担当となった甘利田先生、比留川先生のあこがれのまなざしが注がれます。これは何かに発展するのか??
転勤したはずなのに、脇のメンバーが同じ顔触れなのはご愛敬。給食に感謝して、おいしく食べるという姿勢はいつもすがすがしいです。(白)
2023年/日本/カラー/シネスコ/111分
配給:AMGエンタテインメント
(C)2024「おいしい給食」製作委員会
https://oishi-kyushoku3-movie.com/
★2024年5月24日(金)ロードショー
ミッシング
監督・脚本:吉田恵輔(『ヒメアノ~ル』『空白』)
音楽:世竹裕子
出演:石原さとみ(森下沙織里)、青木崇高(森下豊)、森優作(土居圭吾)、有田麗未(美羽)、小野花梨(三谷杏)、小松和重、 細川岳(不破)、カトウシンスケ、 山本直寛、柳憂怜 美保純 / 中村倫也(砂田)
森下豊・沙織里夫婦の一人娘の美羽がいなくなって3ヶ月が過ぎた。あらゆる手をつくしてもようとして行方がわからない。世間の関心が薄れて行く中、沙織里は夫との温度差を感じ喧嘩が絶えない。唯一取材を続けている地元テレビ局の砂田記者だけが頼りだ。失踪当日沙織里が美羽をあずけてアイドルのライブに出かけていたことが知られ、ネットでは育児放棄の母親だと誹謗中傷の書き込みで溢れかえった。夫に見るなと言われても、傷つくのがわかっていても沙織里はネットを見るのをやめられない。手がかりがあるかもしれないのだから。
一方、砂田は局の上層部から、視聴率のためもっとセンセーショナルな話題を集めることを命じられる。
2022年に出産後、1年9ヶ月ぶりに映画に復帰した石原さとみ主演です。娘に会いたい一心で、何もかもなげうって探し続け、心まで失くしかけている沙織里を演じています。何年も前に吉田監督の映画に出たいと直談判したことがあったという石原さん、そのときはメジャーすぎてと断られたそうです。あらま。それが今回の沙織里役、ドキュメンタリーのように撮りたいという監督の要求に迷いながら必死についていかれたとか。これまで見たこともない石原さんがいるのは、そういう経緯があったからこそなんですね。
森優作さんの演じる弟・圭吾は、人付き合いが苦手で黙々と仕事をするタイプです。沙織里に責められても人一倍責任も感じている彼は、返す言葉を持ちません。
森さんをスクリーンで認識したのは『佐々木、イン、マイマイン』と『ゾッキ』。子犬みたいな感じでしたが、今回の役で観客をぎゅっと捕まえたんじゃないでしょうか。
沙織里と関わる人たちのそれぞれの立場にも視線を向けながら、これまでの吉田監督作と同様、世の理不尽さ、人が生きて行くことの困難を描きます。重くて辛いことばかりに見えますが、闇に差す光もまた見つけることができます。(白)
2024年/日本/カラー/119分
配給:ワーナー・ブラザース
(C)︎2024「missing」Film Partners
公式HP:https://wwws.warnerbros.co.jp/missing/
公式X:@kokoromissing
公式Instagram:@kokoromissing #ミッシング
★2024年5月17日(金)ロードショー