2024年05月19日

エドワード・サイード OUT OF PLACE

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(C)2005 シグロ

監督:佐藤真
撮影:大津幸四郎、栗原朗、佐藤真
企画・製作:山上徹二郎
協力プロデューサー:ジャン・ユンカーマン

『阿賀に生きる』の佐藤真監督が、パレスチナの窮状の真実を探った旅。
パレスチナ出身の世界的知識人、故エドワード・サイードが永遠に失われたパレスチナでのサイード家の痕跡を描いた自伝「OUT OF PLACE」を指針に、イスラエル・アラブ双⽅の知識⼈たちの証⾔を道標にサイードが求め続けた和解と共⽣の地平を探る・・・

エドワード・サイード。1935年、キリスト教徒のパレスチナ人としてイギリス委任統治下のエルサレムで生まれた。父親がカイロでビジネス機器の会社を運営しており、カイロで育つ。15歳の時に、ナセルの国有化政策で、父親は会社を手放さなければならず、一家で渡米。プリンストン大学を経て、修士号と博士号をハーバード大学で取得。コロンビア大学で英文学と比較文学教授として40年勤める。
パレスチナ問題の代表的な論客として注目を集め、77年からパレスチナ民族評議会議員。93年のオスロ合意を前にアラファトと決裂。右傾化するアメリカ言論界において妨害・迫害にもかかわらず勇気ある発言を続ける。2003年9月25日、白血病に倒れる。享年67.遺骨は妻マリヤムの故郷レバノンのプルンマーナに葬られた。

映画は、レバノンのお墓を訪ねるところから始まりました。なぜかクエーカー教徒の墓地に、ひっそりと眠るエドワード・サイード。ニューヨークの家では、奥様が中東料理を作っていて、アメリカ生まれの娘マリアさんも「米国人だけど、ここに属していない感じ」と語ります。
1948年以降、帰ることのできなかった生家を佐藤真監督は訪ね当てます。確かに、父親の撮った8mmに映っている家。一方で、分離壁を作るために、ブルドーザーでさら地にされた住宅地も映し出します。
シリアのアレッポ出身のユダヤ女性からは、イスラエル建国の折、アレッポのユダヤ人街が焼き討ちにあった話が語られます。それまで、アラブもユダヤもアルメニア人も共存していたのにと。イスラエル建国で一変した中東の地。
アラブ人とユダヤ人が等しい権利を持つ新たな国を作るべきとの「一国家解決」論を主張していたエドワード・サイードが、さらに惨状を極める今の状態を知ったら、どれほど嘆くことでしょう・・・ 

本作を制作中の佐藤真監督のお話を聴いたことがありました。2005年4月に開催された「アラブ映画祭2005」でのことでした。(会場:赤坂・国際交流基金フォーラム) "完成間近”と題して、映画の前半部分の上映も行われました。
その後、2006年10月21日に上智大学で行われた上映会で完成作品も観ているのですが、その時には、「エドワード・サイードが裕福なパレスチナ人だったということはわかったのですが、実のところ、彼の思想について、あまり理解できませんでした」と、2006年10月第3週のスタッフ日記に書いていました。岡真理さんの解説で、多少理解できたとも。  
今回、18年の時を経て、再度観て、さすがにこの間、イスラエルとパレスチナのことを散々学んできたので、よく理解することができました。
イスラエルがガザ侵攻を強行している今こそ観るべき映画だと感じます。(咲)



2005年/137分/カラー/DCP(4Kレストア)/スタンダード
配給:ALFAZBET、パラブラ
公式サイト:https://alfazbetmovie.com/satomakoto/
★2024年5月24日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国順次開催



◆『エドワード・サイード OUT OF PLACE』は、下記の特集上映の一環で上映されます。

暮らしの思想 佐藤真 RETROSPECTIVE

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(C)2005 シグロ

17年前、49歳で突然この世を去った稀代のドキュメンタリー作家 佐藤真
アート、パレスチナ、記憶、様々なテーマを通じて佐藤が見つめた彼方とは――
映画史に燦然と輝く傑作の数々がレストアでいま蘇る

【上映作品】
<4K RESTORED>
・『まひるのほし 4K』
・『花子 4K』
・『エドワード・サイード OUT OF PLACE 4K』
<特別上映作品>
・『阿賀に生きる』
・『阿賀の記憶 2K』
・『SELF AND OTHERS 2K』

配給:ALFAZBET、パラブラ
公式サイト:https://alfazbetmovie.com/satomakoto
★2024年5月24日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国順次開催



posted by sakiko at 20:25| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ゲバルトの杜 ~彼は早稲田で死んだ~

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監督・企画・編集:代島治彦
原案:樋田 毅「彼は早稲田で死んだ」文藝春秋刊
企画協力文藝春秋
出演:池上彰、佐藤優、内田樹、樋田毅 ほか
劇パート 脚本・演出:鴻上尚史
劇パート出演:望月歩(川口大三郎 役)、遠藤琴和(女闘士 役)ほか

学生運動終焉期に吹き荒れた“内ゲバ”の嵐。
革命を志した若者たちは、なぜ殺しあわなければならなかったのか?


1972年11月8日、早稲田大学文学部キャンパスでひとりの若者が殺された。第一文学部2年生の川口大三郎君。文学部自治会を牛耳り、早大支配を狙う新左翼党派・革マル派(日本革命的共産主義者同盟革命的マルクス主義派)による凄惨なリンチが死因だった。
川口君リンチ殺人事件に怒った早大全学の一般学生はすぐに立ちあがった。革マル派を追放し民主的な自治会を作り、自由なキャンパスを取り戻すべく「早大解放闘争」が始まった。しかし革マル派の「革命的暴力」の前に一般学生は敗れ去り、わずか一年でその闘争は収束する。皮肉にも川口君リンチ殺人事件を機に革マル派と中核派の「内ゲバ」は、社青同解放派(日本社会主義青年同盟解放派)をも巻き込みエスカレート。内ゲバの犠牲者は100人を超える。彼らは、なぜ死ななければならなかったのか・・・

私が大学に入学したのが、1971年4月。まさに川口大三郎さんと同世代です。1969年1月の東大安田講堂事件を経て、ようやく大学の授業が正常化。でも、入学式もまだ出来ない状況で、キャンパスには激しいスローガンを掲げた各党派の立て看板が林立。電車に乗り込む角棒を抱えたヘルメット姿の学生集団を見かけたこともありました。内ゲバで学生が亡くなったことが新聞の一面に大きく載ったのも覚えています。早稲田大学には、高校時代の憧れの君が通っていて、私の通う東京外国語大学からは都電1本で行けたので、時折、当てもなく早大のキャンパスに佇んだこともありました。外語大と同様、立て看の目立つ早稲田でしたが、「早大解放闘争」が行われていた気配を感じたことはありませんでした。 
私が高校生の時には、学生運動が高校にも飛び火。3か月程、授業を拒否して、毎日討論の日々でした。私はまったくのノンポリで、後ろで読書していましたが、ベトナム戦争に反対してべ兵連にのめり込んだ同級生もいました。当時の学生の多くが、戦争反対、安保反対、そして授業料値上げ反対、学校の民主化などを求めて、闘争に身をやつしたものでした。今、パレスチナの人々のことを思って反戦デモやスタンディングする人たちの中には、50年前を経験した高齢の人たちも多いようです。 増税に次ぐ増税、そして戦争に加担しかねない今の政府に対して、闘争が起こってもいい状態なのに、物申そうという覇気のある人(特に若者)が少ないように思います。(私も傍観者ですが)
ちょっとした考えの違いで、内ゲバで殺しあうという残念な状況を起こした当時の学生たちですが、社会を変革したいという熱い思いは本物だったと思います。
この映画に登場する証言者の方たち(私と同年代の方たち!)の言葉から、内ゲバで亡くなられた川口大三郎さんが、過激な思想を持つ活動家ではなく、ごく普通に社会に意見する学生だったことを感じました。
映画の中のドラマ部分からは、集団心理が引き起こす悲劇を思いました。個々人の意見を尊重することの大切さを、この映画から学んでほしいと思います。(咲)


2024/日本/134分/日本語/カラー/DCP 
配給:ノンデライコ
公式サイト:http://gewalt-no-mori.com/
★2024年5月25日(土). より ユーロスペースほか全国順次公開



posted by sakiko at 18:21| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

関心領域  原題:The Zone of Interest

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(C)Two Wolves Films Limited, Extreme Emotions BIS Limited, Soft Money LLC and Channel Four Television Corporation 2023. All Rights Reserved.

監督・脚本:ジョナサン・グレイザー
原作:マーティン・エイミス
撮影監督:ウカシュ・ジャル 音楽:ミカ・レヴィ
出演:クリスティアン・フリーデル、ザンドラ・ヒュラー

アウシュビッツ強制収容所の隣で繰り広げられる所長宅の穏やかな日常

「The Zone of Interest(関心領域)」とは、第二次世界大戦中、ナチス親衛隊がポーランド・オシフィエンチム郊外にあるアウシュビッツ強制収容所群を取り囲む40平方キロメートルの地域を指した言葉。

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(C)Two Wolves Films Limited, Extreme Emotions BIS Limited, Soft Money LLC and Channel Four Television Corporation 2023. All Rights Reserved.

1945年、アウシュビッツ収容所の所長ルドルフ・ヘスの広い邸宅。芝生の庭にはプールがあって、5人の子供たちがはしゃいでいる。妻のヘートヴィヒは、訪ねてきた年老いた母親に丹念に手入れした庭を案内している。裏庭のレンガ壁は、いずれツタで覆われて境界線は見えなくなるわという・・・

映画を観ている私たちは、アウシュビッツ収容所で何が行われていたかを知っていますが、自慢の庭を案内する所長夫人ヘートヴィヒも、夫が電話で話している言葉などから、時折聞こえてくる音や、煙突の煙が何かもちゃんと周知しているのです。
ヘートヴィヒが「かつて掃除をしていたユダヤ人宅の家財道具が競売された時、狙っていたレースのカーテンをほかの人に取られて悔しかった」と母に話す場面がありました。今は使用人もいる夢のような暮らし。夫からベルリン近郊への異動を伝えられた時、それは夫にとっては栄転なのに、自分はここに住み続けたいから単身赴任してちょうだいといいます。
ロシアのウクライナ侵攻、イスラエルのガザ侵攻、世界を見渡せば各地で戦争が止まないことに心を痛めながら、好きなことをして日々暮らしている私も、思えば、この所長夫人と何も変わらない・・・と思い知りました。人間って、自分本位な生き物なのだと。
強制収容所で繰り広げられている惨い場面は映し出されないのですが、不穏な音で居心地の悪さを感じるのは、その身勝手さを突き付けられるからでしょうか・・・ (咲)


第76回カンヌ国際映画祭 グランプリ受賞
アカデミー賞 国際長編映画賞、音響賞の2部門受賞


2023年/アメリカ・イギリス・ポーランド/105分
字幕翻訳:松浦美奈
配給:ハピネットファントム・スタジオ
公式サイト:https://happinet-phantom.com/thezoneofinterest/
★2024年5月24日(金)より新宿ピカデリー、TOHOシネマズ シャンテ他にて全国公開



posted by sakiko at 16:02| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

倭文(しづり) 旅するカジの木

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©Visual Folklore Inc

監督:北村皆雄
語り:冨永愛
神話出演:麿赤兒+大駱駝艦、コムアイ
倭文制作:山口源兵衛、石川文江、西川はるえ、妹尾直子
デザイン:杉浦康平、新保韻香

北村皆雄監督が〈衣服〉の始源を求めて遥か海上の道を遡り
台湾・インドネシア・パプアニューギニアへ


日本神話に現れる幻の織物〈倭文(しづり)〉。その白さは光の象徴とされ、邪悪なものを祓い、身体を護る神聖な力を持っていた。
〈倭文〉の力の源はどこにあったのか。
謎を解く鍵は、衣服の始源を担った「カジの木」が握る。中国南部を原産とするその木のルーツを遡り、台湾、インドネシアのスラウェシ島、南太平洋パプアニューギニアへ。さらに日本各地に倭文の痕跡を求めると、古代国家の重要な謎が明らかになっていく。

人が生きていく上で必要な《衣・食・住》。そのうちの《衣》は、木綿(コットン)が普及するまで、衣服は繊維植物から作られていました。今では忘れられてしまった「カジの木」が最良の衣料でした。11cm巾くらいの樹皮を叩いて、50cm巾くらいに伸ばして「布」にするのです。古代の人たちの知恵。
倭文(しづり)は、『日本書紀』や『万葉集』に登場するカジの木の樹皮を糸にして織られた織物。その幻の織物を、現代の織りを担う方たち、山口源兵衛(帯匠)、石川文江(楮布織)、西川はるえ(染織家)、妹尾直子(紙布・樹皮布)が、3年がかりでカジの木の樹皮を使って再現する様を北村皆雄監督が追っています。
本作で何より興味深かったのは、天上界から遣わされた二柱の武神が、地上の邪悪な神、草木、石の類のものをみな平定したのに、星の神だけ征伐できず、その星の神を制圧したのは織物の神〈倭文〉だったという神話。茨木県、栃木県には、星を祭る神社が何百とあるとのこと。織物の神との関係は?と、そそられました。(咲)


冒頭は麿赤兒ひきいる大駱駝艦の幻想的な舞踊劇。星の神よりも織物の神が強いのはなぜ?そんな力を宿すカジの木を探して、身の回りから海を渡りはるか遠くまで辿っていく過程が面白くすっかり見入っていました。技法の差はあれど、手間暇かけてできあがる素朴な織物は本当に神に力を与えそう。
日本の専門職の人たちが精魂こめて作り上げたそれぞれの〈倭文(しづり)〉は今どこに保管されているのでしょう?見てみたいものです。
葉の形がいろいろな「カジの木」、我が家にも生えていました。何という植物か名前も不明でしたが、スペードをつなげたような形の葉(若木の特徴だそうです)をよく覚えています。ガスメーターを隠して邪魔なので、切ってしまいました。糸が作れたとはやってみたかった…いや、手間が掛かりすぎて音を上げるのが落ちです。
帯匠の山口源兵衛さん、お仕事柄かどんなお着物も似合います。独特な押し出しや存在感には圧倒されました。(白) 


2024年/119分/日本/カラー/16:9/ステレオ/DCP
制作:三浦庸子/製作・配給:ヴィジュアルフォークロア
公式サイト:http://shizuri-movie.com/
★2024年5⽉25⽇(⼟)より 渋⾕シアター・イメージフォーラムにてロードショー︕ 全国順次公開

映画制作開始60周年 最新作『倭文(しづり) 旅するカジの木』公開記念
北村皆雄監督◉傑作選「聖なる俗 俗なる聖」
1964年の処⼥作から最近作まで6プログラム8作品を特選上映 5月11日(土)よりシアター・イメージフォーラムにて開催中!
https://shizuri-movie.com/selection/

『チロンヌㇷ゚カムイ イオマンテ』(2021年/1986年撮影/105分)
シネジャの作品紹介はこちら

『ほかいびと 伊那の井月』(2011年/119分)
シネジャの作品紹介はこちら

『津軽じょんがら女考―青森―』(1976年/21分)
 北村の企画立案によるテレビシリーズ「日本のおんなたち」の一編。津軽三味線奏者・西川洋子が2体1対の家の守り神「オシラ様」信仰の場所を訪ねる。年に一度、女たちが寺に集まり、携えてきた「オシラ様を遊ばせる」。過酷な労働の続く農家の女性たちが誰はばかることなく休めるひとときであったのだろう。西川洋子の三味線で歌う女性たちが晴れやかだ(白)。

☆『アカマタの歌海南小記序説/西表島・古見』(1973年/1972年撮影/84分)
 八重山諸島の西表島・古見の祭に「アカマタ」という仮面仮装の来訪神が登場する。秘儀のため撮影を拒まれ、アカマタの登場しない映画を撮ることになった。撮影した1972年は日本復帰の年。17軒の家を一軒ずつ訪ね、記念写真を撮り、その家族の歴史を聞き取った。はからずも土着の人と外から入って来た人との距離があぶりだされ、赤裸々な内容を含むため長く上映されなかった作品。
語りの鈴木瑞穂さんは、長く名脇役、声優として活動し昨年96歳で逝去。土地の言い回しをちょっと足した50年前の若いお声が残っている(白)。

posted by sakiko at 14:45| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする