2024年05月30日
あんのこと
監督・脚本:入江悠
撮影:浦田秀穂
音楽:安川午朗
出演:河合優実(香川杏)、佐藤二朗(多々羅保)、稲垣吾郎(桐野達樹)、河井青葉(香川春海)、広岡由里子(香川恵美子)、早見あかり(三隅紗良)
21歳の杏(あん)は、幼い頃から母親に暴力を振るわれてきた。十代から売春を強いられて過酷な人生を送ってきた。覚醒剤使用容疑で取り調べを受けた彼女は、多々羅という変わった刑事と出会う。組織からははみ出している多々羅は、「薬物更生者の自助グループ」に杏を誘い、何くれとなく面倒をみてくれる。大人を信用したことのない杏は、初めて自分を受け入れてくれた多々羅に心を開いていく。
多々羅の知り合いの週刊誌記者・桐野も杏を知って気にかけていた。桐野は「多々羅が自助グループ参加者の女性に関係を強いている」というリークを得て、まさかと思いながら、慎重に取材を進めていた。
杏は母親から離れ、シェルターに移る。初めて安心できる居場所や人とのつながりを手にして、生きることに前向きになっていた。しかし新型コロナウイルスのために、それらはあっという間に失われてしまう。
これは入江監督の目に留まった新聞記事から生まれた作品。実話を元にした脚本を読んだ河合優美さんは「彼女の人生を生き切る」と心を決めたそうです。宮藤官九郎ドラマ「不適切にもほどがある!」で、阿部サダヲさんの娘役を演じたのも記憶に新しいです。全く違う世界の話でも現実の生活とどこかつながっていると気づく、想像できるきっかけになってくれればと言う気持ちで演じたのだとか。18歳でデビューして5年。しっかりした女優さんになりましたね。杏は観た人の中にいつまでも残るはずです。
ネグレクトから売春の強要までする毒親を演じるのは河井青葉さん(清楚な印象が強かったのですが、女優さんって何でもできるんですね)。父親の姿はなく、足の不自由なお祖母ちゃんだけが杏を気遣います。母親がなぜそこまで荒れてしまったのかは不明。酒浸りで杏を「ママ」と呼んで甘え、頼りにするのをみると、彼女もまた暗い道を歩いてきたのかと想像してしまいます。
佐藤二朗さんはいつも作品の中で強烈な印象を残しますが、今回はいきなりのヨガ。変な刑事のまま、杏の支えでいてほしかったと観終わって悶々としました。稲垣さん演じる桐野記者は、そんな多々羅刑事を調査しながら、杏の手助けもします。役の上でも力んだのを見たことがない稲垣さん、いつかすっごく熱い人をやってほしいものです。
もともとは家庭の問題ではありますが、コロナ禍はたくさんの人の行く道を塞ぎ、迷わせ、希望までも潰したんだといまさらながら思いました。(白)
2024年/日本/カラー/シネスコ/113分
配給:キノフィルムズ
© 2023『あんのこと』製作委員会
https://annokoto.jp/
★2024年6月7日(金)新宿武蔵野館、丸の内TOEI、池袋シネマ・ロサほか全国公開
トノバン 音楽家 加藤和彦とその時代
企画・構成・監督:相原裕美
出演:きたやまおさむ、松山猛、朝妻一路五、新田和長、つのだ☆ひろ、小原礼、今井裕、高中正義、クリス・トーマス、泉谷しげる。坂崎幸之助、重実博、コシノジュンコ、三國清三、門上武司、高野寛、高田連、坂本美羽、石川紅奈(soraya)他
そろそろ、加藤和彦のことを語ろうか―—
高橋幸宏が加藤和彦に寄せた想いから映画化の企画が立ち上がった。日本初のミリオンヒットを生んだザ・フォーク・クルセダーズの結成秘話、サディスティック・ミカ・バンドの海外公演やレコーディング風景などを交えた映像、さらに日本のポップスの金字塔とも言える“ヨーロッパ三部作”に隠された逸話などを、関係者インタビューと貴重なアーカイブ映像で綴り、彼の功績を紐解いていく。また同時に、彼の音楽に影響を受けた新たな世代のアーティストらによるトリビュート版「あの素晴しい愛をもう一度」を新たにレコーディングしていく様子も捉え、彼が残した名曲が歌い継がれ、進化し続けていく音楽の素晴らしさをスクリーンに焼き付けている。
ほぼリアルタイムで加藤和彦さんの曲を聞いていました。「帰ってきたヨッパライ」は衝撃でした。「何これ!?」と何度も聴き直したものです。普通は一度ヒットすると2匹目に似たようなドジョウを狙いがちですが、ビートルズのように同じ曲は出さない。全部変えるというポリシーがあったそうです。当時音楽雑誌など買わず、深夜ラジオくらいしか情報はありません。そんなこととは知らずにいたので出す曲みな違っていたのにびっくりしました。
ミカさんと離婚後、安井かずみさんと再婚した加藤さん、お洒落なご夫婦だなと思ったものです。かずみさん、加藤さんが亡くなられ、周囲の方々の何人かも彼岸へと旅立たれました。音楽業界をけん引してきた人たちが、もう一度加藤和彦さんを懐かしく振り返るこのドキュメンタリーで、一緒にあのころを思い出しました。加藤さんを知らない若い人たちも、耳に残っている歌があるはずです。あの曲もこの曲も加藤和彦さんのだった、と確かめてみてください。(白)
2024年/日本/カラー/ビスタ/118分
配給:NAKACHIKA PICTURES
(C)2024「トノバン」製作委員会
https://tonoban-movie.jp/
★2024年5月31日(金)ロードショー
ユニコーン・ウォーズ(原題:Unicorn Wars)
監督・脚本:アルベルト・バスケス
とあるディストピア。熊とユニコーンがそれぞれのテリトリーに住んでいた。この両者は先祖代々闘いが続いている。テディベアの双子の兄弟、ゴルディとアスリンは軍の新兵訓練所で厳しい特訓を受けていた。
先発の部隊が魔法の森へ行ったまま戻らず、捜索部隊が出動することになった。ほどなくアスリンたちが目にしたのは無残な姿の隊員たちだった。聖書には「最後のユニコーンの血を飲む者は、美しく永遠の存在になる」という言葉がある。部隊はユニコーンを追って深い森へと進軍していくが、その地で巻き起こる悲惨で残酷な出来事の先には、とんでもない結末が待ち受けていた…。
こちらは昨年開催された第一回新潟国際アニメーション映画祭のコンペティション部門で拝見。テディベアを始めとして可愛いキャラたちが勢ぞろいで、お子様向けかと思いきや・・・そのキャラの姿で血みどろの闘い、幻覚からの殺戮、飢餓に襲われと驚愕のシーンが繰り広げられます。
ことに双子で生まれたゴルディとアスリンの兄弟。気弱な兄のゴルディに母の愛情をとられたと思っている節があるアスリンは、何かにつけ意地悪をします。闘いの合間に過去の思い出が挿入され、なぜこうなってしまったかが明らかになります。
ユニコーンと熊の長い闘いを、同道する神父は聖書をもとに此方が正義と意味を説きます。寄せ集めの最弱部隊を死んでも惜しくないと言い放つ上官たち。テディベアの姿だから観続けられましたが、今の人間世界と変わらないではありませんか。戦争の醜悪さ残酷さが詰め込まれています。ラストまで心して観よ。(白)
☆監督フィルモグラフィ
<長編アニメーション>
『ユニコーン・ウォーズ』(2022)※ゴヤ賞 最優秀長編アニメーション映画賞
『サイコノータス
忘れられたこどもたち』(2015) ※ゴヤ賞 最優秀長編アニメーション映画賞
<短編アニメーション>
『Homeless Home』 (2020)※アヌシー国際アニメーション映画祭 審査員賞
『Decorado』 (2016) ※ゴヤ賞 最優秀短編アニメーション賞
『Unicorn Blood』 (2013)
『Birdboy』 (2011) ※ゴヤ賞 最優秀短編アニメーション賞
2022年/スペイン、フランス/カラー/ビスタ/92分
配給:リスキット
©︎2022 Unicorn Wars
公式HP: unicornwars.jp
★2024年5月25日(土)よりシアター・イメージフォーラムにて先行公開中
5月31日(金)よりTジョイPRINCE品川ほか全国順次公開
2024年05月29日
お終活 再春!人生ラプソディ
監督・脚本:香月秀之
出演:高畑淳子、剛力彩芽、松下由樹、水野勝、西村まさ彦、石橋蓮司、藤原紀香、大村崑、凰稀かなめ、長塚京三、橋爪功
「シャンソン歌手として舞台に立つ!」
人生百年時代を楽しむコツは、“再春”。
青春時代の夢に挑戦する終活世代の物語
大原千賀子(高畑淳子)の一人娘・亜矢(剛力彩芽)と葬儀会社で働く菅野涼太(水野勝)の結納の日。夫の真一(橋爪功)は、手土産を買うと先に家を出るが、なかなか現れない。肝心の手土産までタクシーに置き忘れる始末。この頃物忘れもひどく、千賀子は真一の認知症を疑う。一方、千賀子は終活セミナーで、青春時代の夢に、もう一度挑戦する【再春】という言葉を知る。結婚前の夢は、シャンソン歌手として舞台に立つことだった。当時習っていたシャンソンの恩師の家を訪ね、恩師の娘・丸山英恵(凰稀かなめ)から、恩師が2年前に亡くなったことを聞かされる。英恵を師に歌の練習を再開する。音楽ライブプロデューサーでもある英恵からステージでシャンソンを歌うことを勧められ、「愛の賛歌」の歌詞を自分で付けて大張り切りの千賀子。だが、コンサート目前にスポンサーが降りてしまう・・・。
千賀子が参加する終活セミナー、涼太の勤める葬儀会社、涼太の父が施設長の介護施設、亜矢が勤めるシニア向け高級マンションなどを舞台に、“笑って、泣けて、役に立つ”というキャッチフレーズ通り、芸達者な俳優陣が笑わせながら学ばせてくれます。
何かというと文句をつける昭和なおやじをごく自然に演じた橋爪功さん、すっかり白髪になっても、若々しくてどこか可笑しい西村まさ彦さん、スナックに通い詰めては下心丸出しの冗談をいう石橋蓮司さん、介護施設で楽しく運動して周りを和ませる大村崑さん、何より素敵だったのはフランス帰りの画家を演じた長塚京三さん。そして、主演を務めた高畑淳子さん。シニア世代の俳優さんたちが、ほんとに光ってます。
「洋服の青山」が、この映画のスポンサーの一つなのですが、37年イメージキャラクターを務めている三浦友和さんが、まさにそのまんまのキャラで出てきて、おぉ~っと! こちらもお楽しみに。
高畑淳子さん演じる千賀子のシャンソンはとてもお上手で素敵です。思えば、私の母も70歳を過ぎてシャンソンに挑戦していました。一度だけ発表会に行きましたが、お世辞にも上手とはいえませんでしたが、人前で歌う勇気に拍手でした。さて、私は何に挑戦しようかな・・・(咲)
2024年/日本/118分/G
配給:イオンエンターテイメント
公式サイト:https://oshu-katsu.com/2/
★2024年5月31日(金)より全国公開
2024年05月27日
キッチンから花束を
5月31日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町他全国順次公開
劇場情報
ⒸEight Pictures
さいふうみ 中華風家庭料理
斉風瑞 と南青山「ふーみん」の物語
監督:菊池久志
プロデューサー:菊池久志 岩本桃子
音楽:高木正勝
メインビジュアル撮影:若木信吾
語り:井川遥
台湾コーディネーター:青木由香
出演:斉風瑞(さいふうみ)
東京・南青山の小原流会館の地下に連日長い行列が出来る超人気店「ふーみん」。看板メニュー 「納豆チャーハン」を始め、「豚肉の梅干煮」や、イラストレーターの 故・和田誠さんが生み出した「ねぎワンタン」など数々の名物料理を創出してきた。また、本編に出演している料理研究家の平野レミさんや絵本作家の五味太郎さんなど、時代を彩るクリエイターたちにも長年に渡って愛され続けてきた。
台湾人の両親のもと、日本で生まれ育った斉風瑞(さいふうみさんことふーみんママ)は、1971年、友人の一言から神宮前に小さな中華風家庭料理の店「ふーみん」をオープン。父母から受け継いだ確かな味覚と愛情で「ふーみん」は、その料理とふーみんママ目当てに行列ができる店に。それから50年。70歳をきっかけに勇退。
だれもが引退したと思ったがふーみんママの「探求心」は変わらず、2024年現在、溝の口の自宅兼ダイニングで1日1組だけのお客様を迎える「斉」を営んでいる。
なぜ、「ふーみん」は50年に渡って愛され続けていたのか。様々なメニューが生まれたストーリー、ふーみんママと料理の原点。店に通う様々な人たちの証言、日本と台湾、そして斉風瑞の家族を3年半にわたり追い続けた長編ドキュメンタリー。
ネットで「ふーみん」の位置を調べてみたら、南青山の骨董通りのそばだった。30年くらい前に西麻布にある現像所に勤めていたので、このへんには何回も行ったことがあったのに、全然知らなかったのが残念。おいしそうな料理がいっぱいでてきたので、ぜひ行ってみたいけど、これまでも行列ができる店だったとのことだけど、この映画が公開されたら、もっと行列が多くなりそう。しばらくは行けそうもないかな。ふーみんさんの暖かそうな笑顔を見て、お店にいた時に行ってみたかったなと思った(暁)。
ふーみんママが「自分の好きなものを出す」というコンセプトで1971年に最初に開いたお店は、お寿司屋さんを居抜きした7.95㎡の狭いところ。お客様との距離も近くて、食べ物談義する中から、ふーみんならではのメニューが生まれました。お店が広くなっても、その精神は変わらず、お客様とのコラボレーションで出来るメニュー。ほんとに美味しそうです。引退して、時間もできて台湾を訪れ、市場を歩き、家庭料理を探求するふーみんママの姿も映し出されます。今は一日一組限定の自宅でのお店で腕を振るっていらっしゃいます。こんなものが食べたいとリクエストして作ってもらえるのでしょうか・・・ 贅沢なひと時を味わってみたいものです。(咲)
公式HP キッチンから花束を https://negiwantan.com/
2024年製作/89分/G/日本
配給:ギグリーボックス
予告編: https://youtu.be/4R58nPbK2OY?feature=shared
劇場情報
ⒸEight Pictures
さいふうみ 中華風家庭料理
斉風瑞 と南青山「ふーみん」の物語
監督:菊池久志
プロデューサー:菊池久志 岩本桃子
音楽:高木正勝
メインビジュアル撮影:若木信吾
語り:井川遥
台湾コーディネーター:青木由香
出演:斉風瑞(さいふうみ)
東京・南青山の小原流会館の地下に連日長い行列が出来る超人気店「ふーみん」。看板メニュー 「納豆チャーハン」を始め、「豚肉の梅干煮」や、イラストレーターの 故・和田誠さんが生み出した「ねぎワンタン」など数々の名物料理を創出してきた。また、本編に出演している料理研究家の平野レミさんや絵本作家の五味太郎さんなど、時代を彩るクリエイターたちにも長年に渡って愛され続けてきた。
台湾人の両親のもと、日本で生まれ育った斉風瑞(さいふうみさんことふーみんママ)は、1971年、友人の一言から神宮前に小さな中華風家庭料理の店「ふーみん」をオープン。父母から受け継いだ確かな味覚と愛情で「ふーみん」は、その料理とふーみんママ目当てに行列ができる店に。それから50年。70歳をきっかけに勇退。
だれもが引退したと思ったがふーみんママの「探求心」は変わらず、2024年現在、溝の口の自宅兼ダイニングで1日1組だけのお客様を迎える「斉」を営んでいる。
なぜ、「ふーみん」は50年に渡って愛され続けていたのか。様々なメニューが生まれたストーリー、ふーみんママと料理の原点。店に通う様々な人たちの証言、日本と台湾、そして斉風瑞の家族を3年半にわたり追い続けた長編ドキュメンタリー。
ネットで「ふーみん」の位置を調べてみたら、南青山の骨董通りのそばだった。30年くらい前に西麻布にある現像所に勤めていたので、このへんには何回も行ったことがあったのに、全然知らなかったのが残念。おいしそうな料理がいっぱいでてきたので、ぜひ行ってみたいけど、これまでも行列ができる店だったとのことだけど、この映画が公開されたら、もっと行列が多くなりそう。しばらくは行けそうもないかな。ふーみんさんの暖かそうな笑顔を見て、お店にいた時に行ってみたかったなと思った(暁)。
ふーみんママが「自分の好きなものを出す」というコンセプトで1971年に最初に開いたお店は、お寿司屋さんを居抜きした7.95㎡の狭いところ。お客様との距離も近くて、食べ物談義する中から、ふーみんならではのメニューが生まれました。お店が広くなっても、その精神は変わらず、お客様とのコラボレーションで出来るメニュー。ほんとに美味しそうです。引退して、時間もできて台湾を訪れ、市場を歩き、家庭料理を探求するふーみんママの姿も映し出されます。今は一日一組限定の自宅でのお店で腕を振るっていらっしゃいます。こんなものが食べたいとリクエストして作ってもらえるのでしょうか・・・ 贅沢なひと時を味わってみたいものです。(咲)
公式HP キッチンから花束を https://negiwantan.com/
2024年製作/89分/G/日本
配給:ギグリーボックス
予告編: https://youtu.be/4R58nPbK2OY?feature=shared
2024年05月26日
アニマル ぼくたちと動物のこと 原題:ANIMAL
2024年6月1日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー
劇場情報
僕たちは絶滅するの?
地球上の生命の「6度目の大量絶滅」が迫っているらしい。
監督:シリル・ディオン
出演:ベラ・ラック、ヴィプラン・プハネスワラン、ジェーン・グドール 他
撮影:アレクサンドル・レグリーズ 編集:サンディ・ボンパー
プロデューサー:ギヨーム・トゥーレ、セリーヌ・ルー他
過去40年で野生動物の6割以上が絶滅?
どうすれば絶滅を回避できる?2人は解決策を探りに世界各地へ
ベラとヴィプランは、動物保護と気候変動問題に取り組む16歳。自分たちの未来が危機にさらされていると強く感じ、何年もデモ、ストライキなどの抗議行動に参加し、環境保護団体等と関わってきた。しかし、行動の時は盛り上がるが、そのあとは何も変化がなく、どれもうまくいかないと行き詰まり感を持っていた。
過去40年間に絶滅した脊椎動物の個体数はすでに60%以上と言われ、ヨーロッパでは飛翔昆虫の80%も姿を消しているという。このことを科学者たちは「6度目の大量絶滅」と呼んでいるらしい。50年後、人類は生存していないかもしれない。野生動物はなぜ姿を消しつつあるのだろうか? そして何よりもどうすれば絶滅を食い止めることができるのだろうか。ふたりは映画監督で活動家のシリル・ディオンに後押しされて、気候変動と種の絶滅という2つの大きな危機の核心に迫ろうと決意し、絶滅を食い止めるための答えを探りたいと世界を巡る旅に出た。
まず、古生物学者アンソニー・バルノスキーから種の絶滅の5つの原因を教わる。教授は、絶滅の原因として「地球環境の破壊」「乱獲」「気候変動」「環境汚染」「侵略的外来種」と、ふたりに伝えた。インドでは海岸と海の中のプラスチック汚染について、ベルギーでは魚の乱獲問題、フランスでは温室効果ガス排出量の約15%を占める畜産業の実態を、パリでは動物行動学者のジェーン・グドールから動物と人間の関係について学ぶ。また、ケニアの大草原を訪れ野生生物を訪ねる。環境大国コスタリカでは現職大統領から自然再生のノウハウを学ぶ。ふたりは果たしてより良い未来のための解決策を見出せるのだろうか?
この映画を観て、人間の果たすべき役割とはということを考えさせられた。それにしても海のプラスチック汚染はすさまじいことになっている。こんなにも海の生物たちに大きな影響を与えていたとはびっくりした。文明の発達というけど、人間は快適な生活と引き換えに地球環境を汚染してきてしまっている。一人一人がプラスチックの使用量を減らしていかないと、そのうちほんとに破滅が訪れるかもしれないと思わせる映像だった(暁)。
公式HP
原語:英語、フランス語
配給:ユナイテッドピープル
105分/フランス/2021年/ドキュメンタリー
・予告編
https://www.youtube.com/watch?v=JJHp7nX1rzw
劇場情報
僕たちは絶滅するの?
地球上の生命の「6度目の大量絶滅」が迫っているらしい。
監督:シリル・ディオン
出演:ベラ・ラック、ヴィプラン・プハネスワラン、ジェーン・グドール 他
撮影:アレクサンドル・レグリーズ 編集:サンディ・ボンパー
プロデューサー:ギヨーム・トゥーレ、セリーヌ・ルー他
過去40年で野生動物の6割以上が絶滅?
どうすれば絶滅を回避できる?2人は解決策を探りに世界各地へ
ベラとヴィプランは、動物保護と気候変動問題に取り組む16歳。自分たちの未来が危機にさらされていると強く感じ、何年もデモ、ストライキなどの抗議行動に参加し、環境保護団体等と関わってきた。しかし、行動の時は盛り上がるが、そのあとは何も変化がなく、どれもうまくいかないと行き詰まり感を持っていた。
過去40年間に絶滅した脊椎動物の個体数はすでに60%以上と言われ、ヨーロッパでは飛翔昆虫の80%も姿を消しているという。このことを科学者たちは「6度目の大量絶滅」と呼んでいるらしい。50年後、人類は生存していないかもしれない。野生動物はなぜ姿を消しつつあるのだろうか? そして何よりもどうすれば絶滅を食い止めることができるのだろうか。ふたりは映画監督で活動家のシリル・ディオンに後押しされて、気候変動と種の絶滅という2つの大きな危機の核心に迫ろうと決意し、絶滅を食い止めるための答えを探りたいと世界を巡る旅に出た。
まず、古生物学者アンソニー・バルノスキーから種の絶滅の5つの原因を教わる。教授は、絶滅の原因として「地球環境の破壊」「乱獲」「気候変動」「環境汚染」「侵略的外来種」と、ふたりに伝えた。インドでは海岸と海の中のプラスチック汚染について、ベルギーでは魚の乱獲問題、フランスでは温室効果ガス排出量の約15%を占める畜産業の実態を、パリでは動物行動学者のジェーン・グドールから動物と人間の関係について学ぶ。また、ケニアの大草原を訪れ野生生物を訪ねる。環境大国コスタリカでは現職大統領から自然再生のノウハウを学ぶ。ふたりは果たしてより良い未来のための解決策を見出せるのだろうか?
この映画を観て、人間の果たすべき役割とはということを考えさせられた。それにしても海のプラスチック汚染はすさまじいことになっている。こんなにも海の生物たちに大きな影響を与えていたとはびっくりした。文明の発達というけど、人間は快適な生活と引き換えに地球環境を汚染してきてしまっている。一人一人がプラスチックの使用量を減らしていかないと、そのうちほんとに破滅が訪れるかもしれないと思わせる映像だった(暁)。
公式HP
原語:英語、フランス語
配給:ユナイテッドピープル
105分/フランス/2021年/ドキュメンタリー
・予告編
https://www.youtube.com/watch?v=JJHp7nX1rzw
天安門、恋人たち 原題:頤和園 英題:Summer Palace
監督:ロウ・イエ(婁燁)
脚本:ロウ・イエ、メイ・フェン(梅峰)、マー・インリー(馬英力)
音楽:ペイマン・ヤズダニアン
出演:ハオ・レイ(郝蕾)、グオ・シャオドン(郭暁冬)、フー・リン(胡伶)、チャン・シャンミン(張献民)、ツイ・リン(崔林)、ツアン・メイホイツ(曾美慧孜)、パイ・シューヨン(白雪雲)
1987年、中国。北朝鮮との国境近くの図們(ともん)で暮らす少女ユー・ホン(余紅)のもとに北京の北清大学から合格通知が届く。届けた郵便配達のシャオ・ジュン(暁軍)は彼女の恋人だ。ユー・ホンは恋人や父親に別れを告げ、大学生活を始める。女子寮で親しくなったリー・ティ(李緹)の恋人ロー・グー(若古)が留学中のベルリンから一時帰国して、ロー・グーの友人チョウ・ウェイ(周偉)を紹介される。瞬く間に恋に落ちる二人。狂おしく求めあいながらも、激しくぶつかり合う日々。大学では、自由と民主化を求める声が高まっていたが、ついに1989年6月4日、天安門広場で学生たちが軍に弾圧される。世にいう天安門事件。故郷からシャオ・ジュンが迎えに来て、ユー・ホンは大学を中退して一旦は図們に帰るが、その後、深圳(しんせん)、武漢(ぶかん)といくつもの街を漂流する。チョウ・ウェイへの思いを抱えながら、出会う男たちと関係を持つ。
一方、チョウ・ウェイは、ロー・グーの助けを得て、リー・ティと共にベルリンに赴く。数年後、チョウ・ウェイは中国に帰り、人づてにユー・ホンが結婚したことを知る。連絡を取り、ついに再会を果たすが・・・
公開当時に観ているのですが、覚えていたのは天安門事件の日、逃げ惑う若者たちの姿だけでした。『天安門、恋人たち』という邦題と共に記憶に残ったのが、天安門事件の夜だったのだと思います。実は、本作の原題は、『頤和園』。学生たちのデートの場としての格好の場所。憂いある美女ユー・ホンも、美男子のチョウ・ウェイも、それぞれに誘惑が多そう。「天安門」から受ける政治的なものよりも、青春時代のほろ苦く切ない思い出を描いた映画と感じました。確かに、二人は天安門事件を機に離れ離れになるのですが、本作には、その後の1989年11月ベルリンの壁崩壊、1991年ソ連崩壊も、重要な時代背景として出てきます。
当時、中国で流行った曲が散りばめられているのですが、それについては詳しい(暁)さんにお任せするとして、私が気になったのは、全編を通して、感情の動きに呼応するように流れた音楽でした。観終わって、イランのペイマン・ヤズダニアンが音楽を担当したことを知り、やっぱりそうだったのか・・・と。
ロウ・イエ監督は、『スプリング・フィーバー』『二重生活』『パリ、ただよう花』でも、ペイマン・ヤズダニアンに音楽を依頼しています。『スプリング・フィーバー』公開時にロウ・イエ監督にインタビューした折に伺ったところ、映像を送ってそれに音楽を付けてもらうのではなく、あらすじを送って、そのイメージで作ってもらったものを映像に合わせるとのことでした。音楽で感情を揺さぶる手法は、ほんとは好きではないのですが、ペイマン・ヤズダニアンは、やっぱり上手いなぁ~と惚れ惚れ。
それにしても切ない物語でした。(咲)
★ぜひお読みください。
『天安門、恋人たち』「フィルムに込めた思いを未来に残すため」芦澤明子(日本映画撮影監督協会副理事長/撮影監督)
https://note.com/uplink_senden/n/n333b729907dd
2006年/中国・フランス/中国語/140分/35mm/カラー/5.1/1:1.85
日本語字幕:遠藤壽美子
配給・宣伝:アップリンク
公式サイト: https://www.uplink.co.jp/summerpalace/
★2024年5月31日(金)全国順次公開
VIVA! SAURAカルロス・サウラ監督追悼『情熱の王国』『壁は語る』
撮った、愛した、生きた!
VIVA! SAURA 未来を生きるシネアスタ
2023年2月10日、スペインの名匠カルロス・サウラ監督が91歳で亡くなられました。
50を超える作品を撮り続け、ゴヤ賞栄誉賞を受賞する前日のことでした。
この度、カルロス・サウラ監督を追悼し、最後の劇映画であるメキシコで撮影された『情熱の王国』(2021)と、遺作となった監督自らが出演するドキュメンタリー『壁は語る』(2022)の2本が同時公開されます。
公式サイトhttp://www.action-inc.co.jp/saura/
配給:Action Inc. 配給協力:インターフィルム
★2024年6月1日(土)より、ユーロスペースほかにて追悼ロードショー
カルロス・サウラ
本名:カルロス・サウラ・アタレス
生年月日:1932年1月4日 ウエスカ生まれ
没:2023年2月10日 マドリード
4歳の時にスペイン内戦(1936-39)がはじまり、共和国派地域のマドリード、バルセロナ、バレンシアを転々とする。ピアニストの母と画家の兄の影響で芸術に興味を示し、高校の頃から写真、1950年から16mmで映像を撮り始める。1952年、IIEC(現在の国立映画学校)に入学。1958年からIIECで映画美術の教鞭に立つがフランコ政権の検閲に反対して1963年に解任。1958年に短編ドキュメンタリー「Cuenca」(クエンカ)でサンセバスチャン映画祭、短編部門特別賞を受賞。長編デビュー作「Los Golfos」(ならず者たち)は1960年のカンヌ映画祭に正式出品され、1965年、「La Caza」(狩り)でベルリン国際映画祭金熊賞を受賞。その後、ほぼ年に1本のペースで作品を発表し、フランコ政権が終わりを迎えた翌年、ビクトル・エリセの『ミツバチのささやき』から2年後のアナ・トレントが主演した『カラスの飼育』(1976)が、カンヌ映画祭審査員グランプリ、ゴールデン・グローブ賞にもノミネート。「Mamá cumple cien años」(ママは百歳|1979)で米国アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたことで、世界に名が知られた。作品は物語から音楽映画まで多岐に渡るが、日本で初めて劇場公開されたのは1983年、フラメンコのアントニオ・ガデスとタッグを組み、米アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた『カルメン』。1991年からオペラや舞台の演出も手がけ、2023年「サウラによるロルカ」舞台稽古中に体調を崩し2月10日、呼吸不全で家族に見守られながら息を引き取った。最後に「充実したいい人生だった」とつぶやいたという。 2023年2月11日のゴヤ賞で栄誉賞を受賞。
(公式サイトより)
カルロス・サウラ監督のお名前を、恥ずかしながら『サウラ家の人々』(2017年、監督:フェリックス・ビスカレット)を観るまで、認識していませんでした。
監督の作品『血の婚礼』(日本公開:1985年1月22日)は観ているのですが、フランコ独裁の時代に犠牲になった詩人ロルカに興味を持っていたから観に行ったものでした。
オペラ「サウラによるロルカ」舞台稽古中に体調を崩して亡くなられたとのこと。この舞台にも興味津々です。
Action Inc.比嘉世津子様のご尽力で、この度、公開されることになったカルロス・サウラ監督の最後の2作品。「過去より未来」(過去を反芻するより、次のことを考えることに時間を使いたい)と言い続けてきたカルロス・サウラ監督に思いを馳せながらご覧いただければと思います。(咲)
情熱の王国 原題:El REY DE TODO EL MUNDO
(C)PIPA FILMS&PACHA INVERSIONES Y PRODUCCIONES AUDIOVISUALES
監督・脚本:カルロス・サウラ
出演:アナ・デ・ラ・レゲラ、マヌエル・ガルシア=ルルフォ、グレタ・エリソンド、イサーク・アラトーレ、イサーク・エルナンデス、マノロ・カルドナ、ダミアン・アルカサル
メキシコ第二の都市、グアダラハラ。
演出家のマヌエルが次に考えている舞台は、ミュージカルを作るためのミュージカル。構想からキャスティング、完成までを描くには、振付師が不可欠だった。彼は元妻であり女優で著名な振付師のサラに助けを求める。ただ、マヌエルが書く脚本の中で、サラは交通事故にあい車椅子になった振付師だ。引き受けたサラが主導するキャスティングでは、何とかオーディションに受かろうとする若者たちの緊張感と競争心、そこから頭角を表す男女3人が生き生きと描かれる。その中の一人、イネスは父親と地元ギャングとの対立を心配しながら稽古に励む。メキシコの過去と現在を繋ぐために、独自の舞台を作ろうとする演出陣。数々の力強い伝統音楽がダンスとコラボレーションする中で、悲劇と虚構と現実が交錯する物語が生まれる。
2021年/ スペイン=メキシコ/DCP/99分/カラー
配給:Action Inc. 配給協力:インターフィルム
http://www.action-inc.co.jp/saura/jounetsunookoku.php#j_story_wrapper
壁は語る 英題:Walls Can Talk
(C)MALVALANDA
監督・出演:カルロス・サウラ
出演:ミケル・バルセロ、ペドロ・サウラ、ホセ・ルイス・アルスアガ、ロベルト・オンタニョン、Suso33、Zeta、Musa71、Cuco、アンナ・ディミトロヴァ
洞窟の壁画からグラフィティをたどる、映画監督カルロス・サウラ最後の旅。
芸術の起源についてカルロス・サウラが、監督と主演を務めながら探求するドキュメンタリー映画。先史時代の洞窟における最初のグラフィック革命から、最も前衛的な都市表現まで、創造的なキャンバスとしての「壁」と芸術との関係を描く。
人類進化の偉大な思想家フアン・ルイス・アルスアガや、現代アートを代表するアーティスト、ミケル・バルセロなど、個性的な人々が同行するパーソナルな旅。自らのことは多く語らないが、芸術に関しては饒舌で、まるで子供のようになるサウラ。アルタミラ洞窟の専門家と共にスペインの遺跡や洞窟をめぐり、人類の進化と共に、人はなぜ壁に描いたのか、を探っていく。そして、その視点は現代の若い世代、グラフィティ・アーティストのZeta、グラフィティ・ライターのMusa71、アーバン・クリエイターのSuso33、アーティストのCucoにも注がれる。サウラ監督自身が彼らに迫り、壁に描くようになった経緯を問いながら、現代と太古の壁画アーティストたちが時空を超えて、繋がっていく。カルロス・サウラ監督、生涯最後の作品。
2022年/スペイン/DCP/75 分/カラー
配給:Action Inc. 配給協力:インターフィルム
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VIVA! SAURA 未来を生きるシネアスタ
2023年2月10日、スペインの名匠カルロス・サウラ監督が91歳で亡くなられました。
50を超える作品を撮り続け、ゴヤ賞栄誉賞を受賞する前日のことでした。
この度、カルロス・サウラ監督を追悼し、最後の劇映画であるメキシコで撮影された『情熱の王国』(2021)と、遺作となった監督自らが出演するドキュメンタリー『壁は語る』(2022)の2本が同時公開されます。
公式サイトhttp://www.action-inc.co.jp/saura/
配給:Action Inc. 配給協力:インターフィルム
★2024年6月1日(土)より、ユーロスペースほかにて追悼ロードショー
カルロス・サウラ
本名:カルロス・サウラ・アタレス
生年月日:1932年1月4日 ウエスカ生まれ
没:2023年2月10日 マドリード
4歳の時にスペイン内戦(1936-39)がはじまり、共和国派地域のマドリード、バルセロナ、バレンシアを転々とする。ピアニストの母と画家の兄の影響で芸術に興味を示し、高校の頃から写真、1950年から16mmで映像を撮り始める。1952年、IIEC(現在の国立映画学校)に入学。1958年からIIECで映画美術の教鞭に立つがフランコ政権の検閲に反対して1963年に解任。1958年に短編ドキュメンタリー「Cuenca」(クエンカ)でサンセバスチャン映画祭、短編部門特別賞を受賞。長編デビュー作「Los Golfos」(ならず者たち)は1960年のカンヌ映画祭に正式出品され、1965年、「La Caza」(狩り)でベルリン国際映画祭金熊賞を受賞。その後、ほぼ年に1本のペースで作品を発表し、フランコ政権が終わりを迎えた翌年、ビクトル・エリセの『ミツバチのささやき』から2年後のアナ・トレントが主演した『カラスの飼育』(1976)が、カンヌ映画祭審査員グランプリ、ゴールデン・グローブ賞にもノミネート。「Mamá cumple cien años」(ママは百歳|1979)で米国アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたことで、世界に名が知られた。作品は物語から音楽映画まで多岐に渡るが、日本で初めて劇場公開されたのは1983年、フラメンコのアントニオ・ガデスとタッグを組み、米アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた『カルメン』。1991年からオペラや舞台の演出も手がけ、2023年「サウラによるロルカ」舞台稽古中に体調を崩し2月10日、呼吸不全で家族に見守られながら息を引き取った。最後に「充実したいい人生だった」とつぶやいたという。 2023年2月11日のゴヤ賞で栄誉賞を受賞。
(公式サイトより)
カルロス・サウラ監督のお名前を、恥ずかしながら『サウラ家の人々』(2017年、監督:フェリックス・ビスカレット)を観るまで、認識していませんでした。
監督の作品『血の婚礼』(日本公開:1985年1月22日)は観ているのですが、フランコ独裁の時代に犠牲になった詩人ロルカに興味を持っていたから観に行ったものでした。
オペラ「サウラによるロルカ」舞台稽古中に体調を崩して亡くなられたとのこと。この舞台にも興味津々です。
Action Inc.比嘉世津子様のご尽力で、この度、公開されることになったカルロス・サウラ監督の最後の2作品。「過去より未来」(過去を反芻するより、次のことを考えることに時間を使いたい)と言い続けてきたカルロス・サウラ監督に思いを馳せながらご覧いただければと思います。(咲)
情熱の王国 原題:El REY DE TODO EL MUNDO
(C)PIPA FILMS&PACHA INVERSIONES Y PRODUCCIONES AUDIOVISUALES
監督・脚本:カルロス・サウラ
出演:アナ・デ・ラ・レゲラ、マヌエル・ガルシア=ルルフォ、グレタ・エリソンド、イサーク・アラトーレ、イサーク・エルナンデス、マノロ・カルドナ、ダミアン・アルカサル
メキシコ第二の都市、グアダラハラ。
演出家のマヌエルが次に考えている舞台は、ミュージカルを作るためのミュージカル。構想からキャスティング、完成までを描くには、振付師が不可欠だった。彼は元妻であり女優で著名な振付師のサラに助けを求める。ただ、マヌエルが書く脚本の中で、サラは交通事故にあい車椅子になった振付師だ。引き受けたサラが主導するキャスティングでは、何とかオーディションに受かろうとする若者たちの緊張感と競争心、そこから頭角を表す男女3人が生き生きと描かれる。その中の一人、イネスは父親と地元ギャングとの対立を心配しながら稽古に励む。メキシコの過去と現在を繋ぐために、独自の舞台を作ろうとする演出陣。数々の力強い伝統音楽がダンスとコラボレーションする中で、悲劇と虚構と現実が交錯する物語が生まれる。
2021年/ スペイン=メキシコ/DCP/99分/カラー
配給:Action Inc. 配給協力:インターフィルム
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壁は語る 英題:Walls Can Talk
(C)MALVALANDA
監督・出演:カルロス・サウラ
出演:ミケル・バルセロ、ペドロ・サウラ、ホセ・ルイス・アルスアガ、ロベルト・オンタニョン、Suso33、Zeta、Musa71、Cuco、アンナ・ディミトロヴァ
洞窟の壁画からグラフィティをたどる、映画監督カルロス・サウラ最後の旅。
芸術の起源についてカルロス・サウラが、監督と主演を務めながら探求するドキュメンタリー映画。先史時代の洞窟における最初のグラフィック革命から、最も前衛的な都市表現まで、創造的なキャンバスとしての「壁」と芸術との関係を描く。
人類進化の偉大な思想家フアン・ルイス・アルスアガや、現代アートを代表するアーティスト、ミケル・バルセロなど、個性的な人々が同行するパーソナルな旅。自らのことは多く語らないが、芸術に関しては饒舌で、まるで子供のようになるサウラ。アルタミラ洞窟の専門家と共にスペインの遺跡や洞窟をめぐり、人類の進化と共に、人はなぜ壁に描いたのか、を探っていく。そして、その視点は現代の若い世代、グラフィティ・アーティストのZeta、グラフィティ・ライターのMusa71、アーバン・クリエイターのSuso33、アーティストのCucoにも注がれる。サウラ監督自身が彼らに迫り、壁に描くようになった経緯を問いながら、現代と太古の壁画アーティストたちが時空を超えて、繋がっていく。カルロス・サウラ監督、生涯最後の作品。
2022年/スペイン/DCP/75 分/カラー
配給:Action Inc. 配給協力:インターフィルム
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2024年05月20日
#つぶやき市長と議会のオキテ 劇場版
監督:岡森吉宏
プロデューサー:立川直樹
編集:田中実生
音楽:前田陽一
出演:安芸高田市石丸伸二市長・議会・市民
安芸高田(あきたかた)市は広島県北部に位置する人口26,000人余りの地方都市。ほかの地方都市と同じく、過疎・高齢化が進んでいる。ここが全国ニュースに取り上げられたのは、2019年。7月の参議院議員選挙の際に、自由民主党の候補、河井克行・案里夫妻は揃って当選を果たし、河井克行は法務大臣に就任した。しかし、10月に大規模買収事件が発覚し、現金を受け取った当時の安芸高田市長と市議3人が辞職した。
2020年8月に急きょ実施された市長選で、市民が選んだのは、政治経験ゼロ、元銀行員の37歳・石丸伸二だった。石丸市長は、「政治の見える化」を掲げ、ツイッター(現X)での情報発信を積極的に行い、市民からの期待も高まるが、最初の議会から紛糾する。効率的で持続可能な市政を目指し、非合理的と判断した事業の中止や新しい政策を次々と打ち出す新市長と、従来の手順を重んじる議員たちとの溝が深まるなか、石丸市長のある投稿をきっかけに、議会は思わぬ方向へ展開していく――。
地元ローカル局・広島ホームテレビが石丸市長当選から数百時間にわたって安芸高田市政に密着取材を行い、2021年11月にテレビ朝日系列の「テレメンタリー」で30分番組を放送。番組は好評を博し、翌年の春に50分版を放送すると、その後アーカイブ配信が900万回以上の再生回数を記録した。その満を持しての映画版が本作。TV放送では入らなかった市民の動きや、その後の取材を大幅に加え再構成した。いち地方議会の問題から見えてくる、この国のいたるところにはびこる”オキテ”とは?
地方の市議会の騒動がこんなに全国的に注目されたのは、石丸伸二市長がツイッター(現X)での情報発信を実にマメに続けたからというのが一番でしょう。次々とリツィートされて、普段見ることのない市議会の内情が知れ渡りました。SNSの威力はすごい。こういうことに慣れていないベテラン市議たちの不興を買ったのは想像通り。
これはきっと全国どこでも小さくても組織ならば共通するのでしょう。従来通りに、大過なくやりすごすのが一番安心安全(自分だけが責めを負うことがない)だから、ですよね。「是々非々で」といいながら、なぜ市長と議会に軋轢が生まれてしまったのかカメラは追っていきます。
市議会では多数が有利。民主主義とは多数決のことではなく、少数意見にも耳を傾け、生かすことだと考えていました。が、違うようです。ここでも効率優先か? オキテに縛られる古株の議員たちを味方にすることは難しく、後から加わった若手議員たちと奮闘を続けます。
2019年市長就任時に開設した石丸伸二(安芸高田市長)のXには39,5万人のフォロワーがいます。最新のコメントは5月17日「本日、正式に #東京都知事選 への出馬を表明しました」。youtubeのライブ配信もたびたび更新されています。このパワーで東京からも発信していくのでしょう。都議会には市議会よりもっと強力なナニかが棲んでいそうですが。(白)
*是々非々:「良いことは良い」「悪いことは悪い」と公平な立場で物事を判断すること
2024年/日本/カラー/106分/ドキュメンタリー
配給:きろくびと
(C)広島ホームテレビ
https://tsubuyaki-mayor.com/
★2024年5月25日(土) ポレポレ東中野、角川シネマ有楽町ほか全国公開
バティモン5 望まれざる者(原題:BÂTIMENT 5)
監督・脚本:ラジ・リ
出演:アンタ・ディアウ(アビー)、アレクシス・マネンティ(ピエール・フォルジュ)、アリストート・ルインドゥラ (ブラズ)、スティーヴ・ティアンチュー(ロジェ・ロシュ)、オレリア・プティ(ナタリー・フォルジュ)、ジャンヌ・バリバール(アニエス・ミアス)
パリの郊外に連なる団地群、そこへ向かってカメラが降りていく。移民が多く住む10階建ての古びたアパートは、エレベーターが故障中、電気もときどき消えてしまう。高層階の一室では葬儀の真っ最中、遺体の入った棺を屈強な男たちが担いで、障害物をよけながら階段を下る。葬送の列では「こんなことろ人間が住むところじゃない」という嘆きの声。
再開発が進むこの地域でアパートを爆破するイベントに市長が出席した。住民たちが見守る中、アパートが崩れ落ちるのと同時に市長も倒れ急逝する。臨時の市長に市議会のトップの打診により、ピエール医師が選ばれた。地域の発展と住民のために働くと明言したピエールだったが。
導入部だけで移民の困難な暮らしが垣間見られますが、理想に燃えていたはずのピエールが市長となって、権力を持ったときから徐々に変わっていくのをうすら寒い思いで見つめました。副市長のロジェは移民の出であるだけ、住民との付き合い方を熟知しています。中古住宅を一軒ずつ買い上げるといいながら、取り壊しの理由が見つかると飛びつき、手っ取り早く追い出しにかかる行政。それがなだれをうって襲い掛かってくるので、住民はなすすべもありません。理不尽このうえなく、上の命令に背けない警察の一部や廃棄物収集の業者も逡巡する様子を見せています。スピーディなドキュメンタリーのようにいくつものドラマが、この映画の最初から最後まで展開していきます。
この迫力に圧倒され続けました。実際にこのバティモン5で育ったラジ・リ監督が、その地区の人々の出演協力を得て完成した作品だからこそです。国や事情は違いますが、警察に排除されるシーンに沖縄の人々を、住み慣れた家を大急ぎで出なければいけないシーンに福島の人々が思い出されました。
印象に残ったシーンがほかにもあります。市議会で臨時市長の認定を受け、フランス国旗と同じ三色のたすき(?)をかける市長。市議会のトップに「代議士は赤が上、市長は青を上にする理由は、代議士が国王ルイ16世の斬首を決めたから、首の近くに赤を持ってくる」と説明を受けました。ベテランの副市長が「市議会には気をつけろってこと」とピエールに助言します。市議を選ぶのは市民です。今回は臨時ですが、本来は市長も市民に選ばれます。選挙のときだけ住民側でも、当選後は権力者になってしまう人ばかりでは、住民は希望が持てません。
怒りをためていくブラズに「怒るだけでなく、声をあげなきゃ」と繰り返し訴え、暴力によらず街を変えようとするアビーの意思に期待します。(白)
2023年/フランス、ベルギー合作/カラー/105分
配給:STAR CHANNEL MOVIES
(C)SRAB FILMS - LYLY FILMS - FRANCE 2 CINEMA - PANACHE PRODUCTIONS - LA COMPAGNIE CINEMATOGRAPHIQUE – 2023
https://block5-movie.com/
★2024年5月24日(金)ロードショー
母とわたしの3日間 ( 原題:3일의 휴가 3日の休暇、英語題:Our Season)
監督:ユク・サンヒョ
脚本:ユ・ヨンア
撮影:キム・ジヒョン
音楽:ク・ジャワン
出演:キム・ヘスク(ポンチャ)、シン・ミナ(チンジュ)、カン・ギヨン(ガイド)、ファン・ボラ(ミジン)
ポクチャが天国に来て、3年目となった日、特別に3日間の休暇をもらって地上に帰ることになった。もちろん自分の姿は人間には見えず、できるのは、ただそばで見守っることだけ。案内役の新人ガイドと一緒に元いた家に行ってみると、ニューヨークで大学教授をしているはずの自慢の一人娘チンジュが、定食屋を営んでいた。なんで?!と不満いっぱいのポンチャ。チンジュはそんなポンチャに気づくこともなく、ソウルから訪ねてきた親友のミジンと母親のレシピを再現していく。
キム・ヘスクは「国民の母」と呼ばれる女優、娘役のシン・ミナは「国民の癒し」だそうで母娘ゴールデンコンビです。脚本がこれまた人気・実力とも最強のユ・ヨンア。
3年天国にいる間に地上の情報は手に入らないの?ときどきは様子を見られないの?と疑問はいろいろ湧きますが、そういう設定なのでご了承のほど。まだ新人のちょっと頼りないガイドとポンチャのやりとりに笑い、料理に見とれ、娘とのすれ違いの切なさに涙し、といろいろ詰まった映画です。母の立場、娘の立場から見て自分の家族をふりかえることができます。
なんだか聞いたことのあるタイトル・・・まず思い出したのが浅田次郎氏の『椿山課長の七日間』(2006年西田敏行主演で映画化)でした。そちらは初七日の間だけ、別の姿で地上に降りて心残りだったことに対処できるというもの。原作と映画は結末が違いました。
これも似たタイトル『パパとムスメの7日間』は身体が入れ替わってしまい、”お互いの身になって”初めて理解し、心が通じたドラマ。こちらはその後の生活でやり直すことができますが、死んでしまえばもう戻ることはかないません。
どの作品にも共通しているのが「家族」。分かっているようでわからないのがいちばん身近な家族です。生きているうちに想像力を働かせ、相手を思いやること。かといって察してと思わず、対話することが大事と当たり前のことに気づきます。(白)
母の営んでいた食堂で、母の作ってくれた大根入り餃子を再現しようと試行錯誤するチンジュ。キムチが辛くて食べられないチンジュのために、母が考案した優しい味の餃子でしたが、レシピを教えてもらってなかったのです。チンジュには、心残りがいっぱい。母につれなく当たり、一緒に撮った写真も1枚しかない・・・ 悔いる娘の姿に、天国からやってきた母もほろり。観ている私も、亡くなった両親にしてあげられなかったことをたくさん思い出してほろり。
天国からの案内人を演じた青年役のカン・ギヨン、『極限境界線 -救出までの18日間-』でパシュトー語の現地通訳を演じた方。
また、チンジュの高校生時代の少女は、どこかで観たことがあると思ったら、ドラマ「ペントハウス」シリーズのペ・ロナ役で強烈な印象を残したキム・ヒョンスでした。目元がシン・ミナと似てるかな・・・(咲)
2023年/韓国/カラー/105分
配給:クロックワークス
(C)2023 SHOWBOX AND STORY FOREST ALL RIGHTS RESERVED.
https://klockworx-asia.com/season/
★2024年5月24日(金)ロードショー
劇場版 おいしい給食 Road to イカメシ
監督:綾部真弥
脚本:永森裕二
撮影:小島悠介
音楽:沢田ヒロユキ、ペイズリィ8
出演:市原隼人(甘利田幸男)、大原優乃(比留川愛)、田澤泰粋(粒來ケン)、栄信(木戸四郎)、いとうまい子(牧野文枝)、六平直政(白根)、高畑淳子(サキ)、小堺一機(坂爪校長)、石黒賢(等々力町長)。藤戸野絵(丸本米子)
1989年冬。中学教師の甘利田幸男は北国の忍川中学校に赴任した。相変わらずひそかな楽しみは給食。甘利田に負けず劣らず給食にこだわる生徒はここにもいた。一年一組の粒来ケンを心の中でライバルと見なし、日々一喜一憂している。ある日忍川中学が給食を完食するモデル校となった。食べ物を大切にし、かつ好き嫌いもなくそうというのは表向き、実は迫ってきた町長選挙で有位になるべく画策していることがわかった。ただただ給食をおいしく食べたい甘利田は、おいしい給食を守るためにたちあがる。
「おいしい給食」劇場用映画第3弾(第2弾はこちら)。ときどき「おとなげない」と言いたくなるほどの甘利田先生テンションMAXの給食愛は今回もさく裂!そのエネルギーは全て給食に向けられると言っても過言ではありません。新しき給食のライバル生徒・ケンとの攻防に笑っているうちに、政治利用という大人の世界の暗雲がたちこめてきます。
一方、教育係として新米教師の比留川愛先生の担当となった甘利田先生、比留川先生のあこがれのまなざしが注がれます。これは何かに発展するのか??
転勤したはずなのに、脇のメンバーが同じ顔触れなのはご愛敬。給食に感謝して、おいしく食べるという姿勢はいつもすがすがしいです。(白)
2023年/日本/カラー/シネスコ/111分
配給:AMGエンタテインメント
(C)2024「おいしい給食」製作委員会
https://oishi-kyushoku3-movie.com/
★2024年5月24日(金)ロードショー
ミッシング
監督・脚本:吉田恵輔(『ヒメアノ~ル』『空白』)
音楽:世竹裕子
出演:石原さとみ(森下沙織里)、青木崇高(森下豊)、森優作(土居圭吾)、有田麗未(美羽)、小野花梨(三谷杏)、小松和重、 細川岳(不破)、カトウシンスケ、 山本直寛、柳憂怜 美保純 / 中村倫也(砂田)
森下豊・沙織里夫婦の一人娘の美羽がいなくなって3ヶ月が過ぎた。あらゆる手をつくしてもようとして行方がわからない。世間の関心が薄れて行く中、沙織里は夫との温度差を感じ喧嘩が絶えない。唯一取材を続けている地元テレビ局の砂田記者だけが頼りだ。失踪当日沙織里が美羽をあずけてアイドルのライブに出かけていたことが知られ、ネットでは育児放棄の母親だと誹謗中傷の書き込みで溢れかえった。夫に見るなと言われても、傷つくのがわかっていても沙織里はネットを見るのをやめられない。手がかりがあるかもしれないのだから。
一方、砂田は局の上層部から、視聴率のためもっとセンセーショナルな話題を集めることを命じられる。
2022年に出産後、1年9ヶ月ぶりに映画に復帰した石原さとみ主演です。娘に会いたい一心で、何もかもなげうって探し続け、心まで失くしかけている沙織里を演じています。何年も前に吉田監督の映画に出たいと直談判したことがあったという石原さん、そのときはメジャーすぎてと断られたそうです。あらま。それが今回の沙織里役、ドキュメンタリーのように撮りたいという監督の要求に迷いながら必死についていかれたとか。これまで見たこともない石原さんがいるのは、そういう経緯があったからこそなんですね。
森優作さんの演じる弟・圭吾は、人付き合いが苦手で黙々と仕事をするタイプです。沙織里に責められても人一倍責任も感じている彼は、返す言葉を持ちません。
森さんをスクリーンで認識したのは『佐々木、イン、マイマイン』と『ゾッキ』。子犬みたいな感じでしたが、今回の役で観客をぎゅっと捕まえたんじゃないでしょうか。
沙織里と関わる人たちのそれぞれの立場にも視線を向けながら、これまでの吉田監督作と同様、世の理不尽さ、人が生きて行くことの困難を描きます。重くて辛いことばかりに見えますが、闇に差す光もまた見つけることができます。(白)
2024年/日本/カラー/119分
配給:ワーナー・ブラザース
(C)︎2024「missing」Film Partners
公式HP:https://wwws.warnerbros.co.jp/missing/
公式X:@kokoromissing
公式Instagram:@kokoromissing #ミッシング
★2024年5月17日(金)ロードショー
2024年05月19日
エドワード・サイード OUT OF PLACE
監督:佐藤真
撮影:大津幸四郎、栗原朗、佐藤真
企画・製作:山上徹二郎
協力プロデューサー:ジャン・ユンカーマン
『阿賀に生きる』の佐藤真監督が、パレスチナの窮状の真実を探った旅。
パレスチナ出身の世界的知識人、故エドワード・サイードが永遠に失われたパレスチナでのサイード家の痕跡を描いた自伝「OUT OF PLACE」を指針に、イスラエル・アラブ双⽅の知識⼈たちの証⾔を道標にサイードが求め続けた和解と共⽣の地平を探る・・・
エドワード・サイード。1935年、キリスト教徒のパレスチナ人としてイギリス委任統治下のエルサレムで生まれた。父親がカイロでビジネス機器の会社を運営しており、カイロで育つ。15歳の時に、ナセルの国有化政策で、父親は会社を手放さなければならず、一家で渡米。プリンストン大学を経て、修士号と博士号をハーバード大学で取得。コロンビア大学で英文学と比較文学教授として40年勤める。
パレスチナ問題の代表的な論客として注目を集め、77年からパレスチナ民族評議会議員。93年のオスロ合意を前にアラファトと決裂。右傾化するアメリカ言論界において妨害・迫害にもかかわらず勇気ある発言を続ける。2003年9月25日、白血病に倒れる。享年67.遺骨は妻マリヤムの故郷レバノンのプルンマーナに葬られた。
映画は、レバノンのお墓を訪ねるところから始まりました。なぜかクエーカー教徒の墓地に、ひっそりと眠るエドワード・サイード。ニューヨークの家では、奥様が中東料理を作っていて、アメリカ生まれの娘マリアさんも「米国人だけど、ここに属していない感じ」と語ります。
1948年以降、帰ることのできなかった生家を佐藤真監督は訪ね当てます。確かに、父親の撮った8mmに映っている家。一方で、分離壁を作るために、ブルドーザーでさら地にされた住宅地も映し出します。
シリアのアレッポ出身のユダヤ女性からは、イスラエル建国の折、アレッポのユダヤ人街が焼き討ちにあった話が語られます。それまで、アラブもユダヤもアルメニア人も共存していたのにと。イスラエル建国で一変した中東の地。
アラブ人とユダヤ人が等しい権利を持つ新たな国を作るべきとの「一国家解決」論を主張していたエドワード・サイードが、さらに惨状を極める今の状態を知ったら、どれほど嘆くことでしょう・・・
本作を制作中の佐藤真監督のお話を聴いたことがありました。2005年4月に開催された「アラブ映画祭2005」でのことでした。(会場:赤坂・国際交流基金フォーラム) "完成間近”と題して、映画の前半部分の上映も行われました。
その後、2006年10月21日に上智大学で行われた上映会で完成作品も観ているのですが、その時には、「エドワード・サイードが裕福なパレスチナ人だったということはわかったのですが、実のところ、彼の思想について、あまり理解できませんでした」と、2006年10月第3週のスタッフ日記に書いていました。岡真理さんの解説で、多少理解できたとも。
今回、18年の時を経て、再度観て、さすがにこの間、イスラエルとパレスチナのことを散々学んできたので、よく理解することができました。
イスラエルがガザ侵攻を強行している今こそ観るべき映画だと感じます。(咲)
2005年/137分/カラー/DCP(4Kレストア)/スタンダード
配給:ALFAZBET、パラブラ
公式サイト:https://alfazbetmovie.com/satomakoto/
★2024年5月24日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国順次開催
◆『エドワード・サイード OUT OF PLACE』は、下記の特集上映の一環で上映されます。
17年前、49歳で突然この世を去った稀代のドキュメンタリー作家 佐藤真
アート、パレスチナ、記憶、様々なテーマを通じて佐藤が見つめた彼方とは――
映画史に燦然と輝く傑作の数々がレストアでいま蘇る
【上映作品】
<4K RESTORED>
・『まひるのほし 4K』
・『花子 4K』
・『エドワード・サイード OUT OF PLACE 4K』
<特別上映作品>
・『阿賀に生きる』
・『阿賀の記憶 2K』
・『SELF AND OTHERS 2K』
配給:ALFAZBET、パラブラ
公式サイト:https://alfazbetmovie.com/satomakoto
★2024年5月24日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国順次開催
ゲバルトの杜 ~彼は早稲田で死んだ~
監督・企画・編集:代島治彦
原案:樋田 毅「彼は早稲田で死んだ」文藝春秋刊
企画協力文藝春秋
出演:池上彰、佐藤優、内田樹、樋田毅 ほか
劇パート 脚本・演出:鴻上尚史
劇パート出演:望月歩(川口大三郎 役)、遠藤琴和(女闘士 役)ほか
学生運動終焉期に吹き荒れた“内ゲバ”の嵐。
革命を志した若者たちは、なぜ殺しあわなければならなかったのか?
1972年11月8日、早稲田大学文学部キャンパスでひとりの若者が殺された。第一文学部2年生の川口大三郎君。文学部自治会を牛耳り、早大支配を狙う新左翼党派・革マル派(日本革命的共産主義者同盟革命的マルクス主義派)による凄惨なリンチが死因だった。
川口君リンチ殺人事件に怒った早大全学の一般学生はすぐに立ちあがった。革マル派を追放し民主的な自治会を作り、自由なキャンパスを取り戻すべく「早大解放闘争」が始まった。しかし革マル派の「革命的暴力」の前に一般学生は敗れ去り、わずか一年でその闘争は収束する。皮肉にも川口君リンチ殺人事件を機に革マル派と中核派の「内ゲバ」は、社青同解放派(日本社会主義青年同盟解放派)をも巻き込みエスカレート。内ゲバの犠牲者は100人を超える。彼らは、なぜ死ななければならなかったのか・・・
私が大学に入学したのが、1971年4月。まさに川口大三郎さんと同世代です。1969年1月の東大安田講堂事件を経て、ようやく大学の授業が正常化。でも、入学式もまだ出来ない状況で、キャンパスには激しいスローガンを掲げた各党派の立て看板が林立。電車に乗り込む角棒を抱えたヘルメット姿の学生集団を見かけたこともありました。内ゲバで学生が亡くなったことが新聞の一面に大きく載ったのも覚えています。早稲田大学には、高校時代の憧れの君が通っていて、私の通う東京外国語大学からは都電1本で行けたので、時折、当てもなく早大のキャンパスに佇んだこともありました。外語大と同様、立て看の目立つ早稲田でしたが、「早大解放闘争」が行われていた気配を感じたことはありませんでした。
私が高校生の時には、学生運動が高校にも飛び火。3か月程、授業を拒否して、毎日討論の日々でした。私はまったくのノンポリで、後ろで読書していましたが、ベトナム戦争に反対してべ兵連にのめり込んだ同級生もいました。当時の学生の多くが、戦争反対、安保反対、そして授業料値上げ反対、学校の民主化などを求めて、闘争に身をやつしたものでした。今、パレスチナの人々のことを思って反戦デモやスタンディングする人たちの中には、50年前を経験した高齢の人たちも多いようです。 増税に次ぐ増税、そして戦争に加担しかねない今の政府に対して、闘争が起こってもいい状態なのに、物申そうという覇気のある人(特に若者)が少ないように思います。(私も傍観者ですが)
ちょっとした考えの違いで、内ゲバで殺しあうという残念な状況を起こした当時の学生たちですが、社会を変革したいという熱い思いは本物だったと思います。
この映画に登場する証言者の方たち(私と同年代の方たち!)の言葉から、内ゲバで亡くなられた川口大三郎さんが、過激な思想を持つ活動家ではなく、ごく普通に社会に意見する学生だったことを感じました。
映画の中のドラマ部分からは、集団心理が引き起こす悲劇を思いました。個々人の意見を尊重することの大切さを、この映画から学んでほしいと思います。(咲)
2024/日本/134分/日本語/カラー/DCP
配給:ノンデライコ
公式サイト:http://gewalt-no-mori.com/
★2024年5月25日(土). より ユーロスペースほか全国順次公開
関心領域 原題:The Zone of Interest
(C)Two Wolves Films Limited, Extreme Emotions BIS Limited, Soft Money LLC and Channel Four Television Corporation 2023. All Rights Reserved.
監督・脚本:ジョナサン・グレイザー
原作:マーティン・エイミス
撮影監督:ウカシュ・ジャル 音楽:ミカ・レヴィ
出演:クリスティアン・フリーデル、ザンドラ・ヒュラー
アウシュビッツ強制収容所の隣で繰り広げられる所長宅の穏やかな日常
「The Zone of Interest(関心領域)」とは、第二次世界大戦中、ナチス親衛隊がポーランド・オシフィエンチム郊外にあるアウシュビッツ強制収容所群を取り囲む40平方キロメートルの地域を指した言葉。
(C)Two Wolves Films Limited, Extreme Emotions BIS Limited, Soft Money LLC and Channel Four Television Corporation 2023. All Rights Reserved.
1945年、アウシュビッツ収容所の所長ルドルフ・ヘスの広い邸宅。芝生の庭にはプールがあって、5人の子供たちがはしゃいでいる。妻のヘートヴィヒは、訪ねてきた年老いた母親に丹念に手入れした庭を案内している。裏庭のレンガ壁は、いずれツタで覆われて境界線は見えなくなるわという・・・
映画を観ている私たちは、アウシュビッツ収容所で何が行われていたかを知っていますが、自慢の庭を案内する所長夫人ヘートヴィヒも、夫が電話で話している言葉などから、時折聞こえてくる音や、煙突の煙が何かもちゃんと周知しているのです。
ヘートヴィヒが「かつて掃除をしていたユダヤ人宅の家財道具が競売された時、狙っていたレースのカーテンをほかの人に取られて悔しかった」と母に話す場面がありました。今は使用人もいる夢のような暮らし。夫からベルリン近郊への異動を伝えられた時、それは夫にとっては栄転なのに、自分はここに住み続けたいから単身赴任してちょうだいといいます。
ロシアのウクライナ侵攻、イスラエルのガザ侵攻、世界を見渡せば各地で戦争が止まないことに心を痛めながら、好きなことをして日々暮らしている私も、思えば、この所長夫人と何も変わらない・・・と思い知りました。人間って、自分本位な生き物なのだと。
強制収容所で繰り広げられている惨い場面は映し出されないのですが、不穏な音で居心地の悪さを感じるのは、その身勝手さを突き付けられるからでしょうか・・・ (咲)
第76回カンヌ国際映画祭 グランプリ受賞
アカデミー賞 国際長編映画賞、音響賞の2部門受賞
2023年/アメリカ・イギリス・ポーランド/105分
字幕翻訳:松浦美奈
配給:ハピネットファントム・スタジオ
公式サイト:https://happinet-phantom.com/thezoneofinterest/
★2024年5月24日(金)より新宿ピカデリー、TOHOシネマズ シャンテ他にて全国公開
倭文(しづり) 旅するカジの木
監督:北村皆雄
語り:冨永愛
神話出演:麿赤兒+大駱駝艦、コムアイ
倭文制作:山口源兵衛、石川文江、西川はるえ、妹尾直子
デザイン:杉浦康平、新保韻香
北村皆雄監督が〈衣服〉の始源を求めて遥か海上の道を遡り
台湾・インドネシア・パプアニューギニアへ
日本神話に現れる幻の織物〈倭文(しづり)〉。その白さは光の象徴とされ、邪悪なものを祓い、身体を護る神聖な力を持っていた。
〈倭文〉の力の源はどこにあったのか。
謎を解く鍵は、衣服の始源を担った「カジの木」が握る。中国南部を原産とするその木のルーツを遡り、台湾、インドネシアのスラウェシ島、南太平洋パプアニューギニアへ。さらに日本各地に倭文の痕跡を求めると、古代国家の重要な謎が明らかになっていく。
人が生きていく上で必要な《衣・食・住》。そのうちの《衣》は、木綿(コットン)が普及するまで、衣服は繊維植物から作られていました。今では忘れられてしまった「カジの木」が最良の衣料でした。11cm巾くらいの樹皮を叩いて、50cm巾くらいに伸ばして「布」にするのです。古代の人たちの知恵。
倭文(しづり)は、『日本書紀』や『万葉集』に登場するカジの木の樹皮を糸にして織られた織物。その幻の織物を、現代の織りを担う方たち、山口源兵衛(帯匠)、石川文江(楮布織)、西川はるえ(染織家)、妹尾直子(紙布・樹皮布)が、3年がかりでカジの木の樹皮を使って再現する様を北村皆雄監督が追っています。
本作で何より興味深かったのは、天上界から遣わされた二柱の武神が、地上の邪悪な神、草木、石の類のものをみな平定したのに、星の神だけ征伐できず、その星の神を制圧したのは織物の神〈倭文〉だったという神話。茨木県、栃木県には、星を祭る神社が何百とあるとのこと。織物の神との関係は?と、そそられました。(咲)
冒頭は麿赤兒ひきいる大駱駝艦の幻想的な舞踊劇。星の神よりも織物の神が強いのはなぜ?そんな力を宿すカジの木を探して、身の回りから海を渡りはるか遠くまで辿っていく過程が面白くすっかり見入っていました。技法の差はあれど、手間暇かけてできあがる素朴な織物は本当に神に力を与えそう。
日本の専門職の人たちが精魂こめて作り上げたそれぞれの〈倭文(しづり)〉は今どこに保管されているのでしょう?見てみたいものです。
葉の形がいろいろな「カジの木」、我が家にも生えていました。何という植物か名前も不明でしたが、スペードをつなげたような形の葉(若木の特徴だそうです)をよく覚えています。ガスメーターを隠して邪魔なので、切ってしまいました。糸が作れたとはやってみたかった…いや、手間が掛かりすぎて音を上げるのが落ちです。
帯匠の山口源兵衛さん、お仕事柄かどんなお着物も似合います。独特な押し出しや存在感には圧倒されました。(白)
2024年/119分/日本/カラー/16:9/ステレオ/DCP
制作:三浦庸子/製作・配給:ヴィジュアルフォークロア
公式サイト:http://shizuri-movie.com/
★2024年5⽉25⽇(⼟)より 渋⾕シアター・イメージフォーラムにてロードショー︕ 全国順次公開
映画制作開始60周年 最新作『倭文(しづり) 旅するカジの木』公開記念
北村皆雄監督◉傑作選「聖なる俗 俗なる聖」
1964年の処⼥作から最近作まで6プログラム8作品を特選上映 5月11日(土)よりシアター・イメージフォーラムにて開催中!
https://shizuri-movie.com/selection/
☆『チロンヌㇷ゚カムイ イオマンテ』(2021年/1986年撮影/105分)
シネジャの作品紹介はこちら
☆『ほかいびと 伊那の井月』(2011年/119分)
シネジャの作品紹介はこちら
☆『津軽じょんがら女考―青森―』(1976年/21分)
北村の企画立案によるテレビシリーズ「日本のおんなたち」の一編。津軽三味線奏者・西川洋子が2体1対の家の守り神「オシラ様」信仰の場所を訪ねる。年に一度、女たちが寺に集まり、携えてきた「オシラ様を遊ばせる」。過酷な労働の続く農家の女性たちが誰はばかることなく休めるひとときであったのだろう。西川洋子の三味線で歌う女性たちが晴れやかだ(白)。
☆『アカマタの歌海南小記序説/西表島・古見』(1973年/1972年撮影/84分)
八重山諸島の西表島・古見の祭に「アカマタ」という仮面仮装の来訪神が登場する。秘儀のため撮影を拒まれ、アカマタの登場しない映画を撮ることになった。撮影した1972年は日本復帰の年。17軒の家を一軒ずつ訪ね、記念写真を撮り、その家族の歴史を聞き取った。はからずも土着の人と外から入って来た人との距離があぶりだされ、赤裸々な内容を含むため長く上映されなかった作品。
語りの鈴木瑞穂さんは、長く名脇役、声優として活動し昨年96歳で逝去。土地の言い回しをちょっと足した50年前の若いお声が残っている(白)。
2024年05月18日
おらが村のツチノコ騒動記
監督・編集・ナレーション:今井友樹
撮影:伊東尚輝、小原信之、澤幡正範
音楽:関根真理、辰巳光英
出演:岐阜県東白川村のみなさま
1988年(昭和63年)今井友樹監督のふるさと、岐阜県東白川村の広報誌に「ツチノコ目撃談」が掲載された。それをきっかけに、ツチノコ情報がとびかい、村をあげての捜索が行われるようになった。毎年5月3日にはツチノコ探しのイベントが恒例になっている。今井監督は日本各地に残るツチノコ伝承や目撃談を取材し、検証を続けてきた。まだはっきりした映像も写真もないのに、なぜこんなにも長い間人々に愛され、いつまでも興味をひくのだろう?
ツチノコがブームだったのはそんなに前のことだったんですね。
人間はあちこちに道路や町を作り、近代化に励んだ結果、暮らしは便利になりました。その代わりに、海や空や土を汚し、たくさんの生きものが絶滅の危機にひんしています。とてもまじめに作られたこの作品に出逢って、何もかも解明しなくても、不思議なもの、見つけられないものがあってもいいんじゃない?と思いました。
ポスターにひかえめに書いてある言葉に思わずうなずいてしまいました。「探さないでください。私はどこかにいますから・・・・」(白)
2024年/日本/カラー/71分/ドキュメンタリー
配給:工房ギャレット
(C)工房ギャレット
公式HP https://studio-garret.com/tsuchinoko/
予告編 https://youtu.be/0HlLugvW9Wo?si=Djxmu97g_OAiPpsf
★2024年5月18日(金)ロードショー
ちゃわんやのはなし―四百年の旅人―
監督:松倉大夏
企画・プロデュース:李鳳宇
出演:十五代 沈壽官、十五代 坂倉新兵衛、十二代 渡仁、ほか
語り:小林薫
企画・製作・提供:スモモ
領土拡大を目論んだ豊臣秀吉は朝鮮出兵を二度にわたって行った。文禄の役(1592〜1593年)、慶長の役(1597〜1598年)である。明を制圧するのが最終目標だったが果たせず、帰国の際に朝鮮から多くの人間を連れ帰った。ことに西日本の大名たちは朝鮮人陶工を日本に連れ帰り、焼き物の基礎はこの陶工たちにより作られた。薩摩焼、萩焼、上野焼などは朝鮮をルーツに持ち、今もなお伝統を受け継いでいる。
薩摩の地では、藩主の島津家が彼らを厚く庇護をして苗代川という地に住まわせた。その中に沈壽官(ちんじゅかん)家の初代となる沈当吉がいた。以来、沈壽官家は研磨を重ね多彩な陶技を尽くした名品の数々を世に送り出し、世界中に “SATSUMA”の名が広がった。
日本に連れてこられた人々の多くは農民だったようですが、中には日本で役立てたい技術を持ったものは手厚く保護されたのだとか。島津家は沈壽官家に士分を与え、改名せず言葉や風習などを維持するように命じました。沈家は代々薩摩藩の焼き物を作り藩の財政に大いに貢献しました。あたたかみのある色の地に、友禅の着物のようなあでやかな草花や樹木が描かれています。貴重な白土が使われたこれは白薩摩。庶民が普段使いするのは豊富にある黒土を使った黒薩摩です。
このドキュメンタリーは、400年の長きにわたり伝統を守るだけでなく、研鑽をかさねてきた沈家の歴史をたどります。周囲の人々のエピソードを盛り込みながら、現在の十五代沈壽官にフォーカスします。名家に生まれ、自らのアイデンティティに悩んだ彼を救ったものは何か。父から受け継いだもの、次へ伝えるものへの想いが語られます。
(白)
配給:マンシーズエンターテインメント
(C)2023 sumomo inc. All Rights Reserved.
https://www.sumomo-inc.com/chawanya
★2024年5月18日(土)ポレポレ東中野
5月25日(土)東京都写真美術館ホール
ほか全国順次公開ロードショー
2024年05月17日
ソイレント・グリーン(原題:Soylent Green)
監督:リチャード・フライシャー
原作:ハリー・ハリソン『人間がいっぱい』Make Room! Make Room! (1966)
脚本:スタンリー・R・グリーンバーグ
出演:チャールトン・ヘストン、リー・テイラー・ヤング、エドワード・G・ロビンソン、ジョセフ・コットン、チャック・コナーズ
2022年のニューヨーク。人口超過密のため人々は仕事も家も失い、雨露をしのげればとビルの階段に寝泊りしている。食料は希少で、新鮮な食べ物など望むべくもない。政府は新しく究極の栄養食という「ソイレント・グリーン」を配給し始めた。それもたっぷりではなく奪い合う有様だ。そのソイレント社の幹部の遺体が自宅で見つかった。捜査にあたった殺人課の刑事ソーンは、市民とかけ離れた豪華な暮らしぶりに驚く。
「人間ブック」こと豊富な知識を持つソル老人の協力を得て、捜査を続けるがその先はおぞましい闇に覆われていた。
チャールトン・ヘストン(1923年~2008年)が主演のこの映画は日本公開が1973年6月。半世紀も前に書かれたSF小説が原作で、技術の進歩の予想は難しかったのでしょう。電話は古いですし、パソコンこそ出てきませんが、食糧危機や電力不足、格差社会など現在を予見したような内容です。
上級国民の住む豪華なマンションには「家具」として、住人の希むサービスを提供する女性がいます。男性が未来にほしいインテリアなんでしょうか。今なら噴飯ものです。
自分の死に時を選ぶ自由だけは、階級に関わらずあるようで臨終のときは、もうなくなってしまったかつての美しい自然の映像と音楽(ベートーヴェンの田園)に包まれるというのが強烈な皮肉です。当時見てこんな未来はあってほしくないと思いましたが、さて?(白)
1973年/アメリカ/カラー/97分
配給:コピアポア・フィルム
(C)2024 WBEI.
https://soylent-green2024.com/
★2024年5月17日(金)シネマート新宿ほか全国順次公開
2024年05月16日
PS1 黄金の河 原題:Ponniyin Selvan: Part One
監督:マニラトナム(『ボンベイ』)
音楽:A.R.ラフマーン
出演:ヴィクラム、アイシュワリヤー・ラーイ、ジェヤム・ラヴィ、カールティ、トリシャー・クリシュナン
★2022年のタミル語映画トップヒット作
★インディアンムービーウィーク2023パート2上映作品
★1992年のボンベイ大暴動を題材とした『ボンベイ』(95)は日本でも劇場公開され、その後『アンジャリ』(90)『ディル・セ 心から』(98)などが日本で公開されたマニラトナム監督が長年温めてきた、ベストセラー歴史小説『Ponniyin Selvan(ポンニ河の息子)』の映像化作品
10世紀末のタミル地方中部、チョーラ朝は最盛期を目前にしていたが、宮廷では王位簒奪の陰謀が進行していた。マルチスターの歴史絵巻。
10世紀末の南インド・タミル地方中部、最盛期を目前にしたチョーラ朝。スンドラ王には、二人の息子と一人の娘がいた。長男アーディタは北のラーシュトラクータ朝と戦い、次男アルンモリは南に向かいランカ島に上陸する。
王位継承者であるアーディタは、財務大臣パルヴェータが他の重鎮たちと共謀して、本来の王位継承者であるマドゥラーンタカンを担ぎ上げようとしていることに気づく。実は、24年前、前王が急死した時、王子であるマドゥラーンタカンが幼かった為、前王の甥であるスンドラが王位についたのだ。スンドラ王は、王子が成人しても王位を譲らず、自分の長男に王位を譲る気でいる。
謀反の動きを知ったスンドラ王の娘クンダヴァイ姫は、アルンモリを呼び戻そうと、ランカ島に伝令を送る。
謀反の中心人物パルヴェータの若い妻ナンディニーは、実は、かつてアーディタと恋仲だった。ナンディニーが孤児であることから、結婚を許されず、彼女は復讐しようと目論んでいた・・・
登場人物が多くて、しかも名前が長くて、なかなか覚えられません。
人間関係も複雑なのですが、上記のあらすじを頭に入れて観れば、なんとかわかるのではないかと思います。
よくわからないながらも、女性たちは綺麗だし、謀反を中心にした物語なので、いったい誰が次の王位につくのか、わくわくします。
本作は、Part1なので、まだまだ先が見えません。
原題のPonniyin Selvanとは、「カーヴェーリー河の息子」という意味。ラージャラージャ1世が子供の頃にカーヴェーリー河に落ちたところを、河の女神の助けによって助かったことから付けられた名前。後のラージャラージャ1世になるのは、さて誰なのでしょう。原作があるので、答えはすぐにわかりますが、ここでは伏せておきます。
マニラトナム監督の映画でお馴染みのAR・ラフマーンが音楽を担当していて、安定感があります。 Part2が早く観たくなる歴史絵巻です。(咲)
◆後編『PS2 大いなる船出』(原題:Ponniyin Selvan Part Two)は6月14日(金)から公開されます。
2022年/インド/タミル語/167分/G
字幕:大西美保 監修:小尾淳 協力:安宅直子
配給:SPACE BOX 宣伝:シネブリッジ
公式サイト:https://spaceboxjapan.jp/ps-movie/
★2024年5月17日(金)より新宿ピカデリーほかにて全国順次公開
2024年05月12日
ボブ・マーリー:ONE LOVE 原題:Bob Marley: One Love
監督:レイナルド・マーカス・グリーン(『ドリームプラン』)
脚本:テレンス・ウィンター(『ウルフ・オブ・ウォール・ストリート』)、フランク・E・フラワーズ、ザック・ベイリン(『グランツーリスモ』)、レイナルド・マーカス・グリーン
出演:キングズリー・ベン=アディル(『あの夜、マイアミで』)、ラシャーナ・リンチ(『キャプテン・マーベル』『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』)
1976年12月3日、ジャマイカ。2日後に開催する無料コンサート「スマイル・ジャマイカ・コンサート」のリハーサル中、ボブ・マーリーは銃撃された。当時、ジャマイカでは二つの政党が対立し、内戦一歩手前の状況で、コンサートは平和を呼びかける目的でボブが企画したものだった。ところが、ボブの人気を政治利用しようと、政党PNPがコンサートの2週間後に総選挙をすることを発表。そんな状況下で、対立政党JLPによるものと思われる銃撃だった。2日後、怪我をおしてステージに立ったボブは、「コンサートを決めた時、政治なんてなかった。人々の愛のためだけに演奏したかったんだ!」と8万人の観衆に向けて叫んだ。身の危険を感じたボブは、翌日、ロンドンへと脱出した。
ボブは、アルバム『エクソダス』の制作に勤しむ。その後、20世紀最高のアルバム(タイム誌)と呼ばれる名盤だ。ヨーロッパ主要都市を周るライブツアーを敢行し、アメリカツアーの準備中、癌が見つかる。体に刃物を当ててはいけないという敬虔なラスタファリアンだったボブは切除を拒否。放射線治療や化学療法を行うが、1981年5月11日、36歳の若さで亡くなった。5月21日、祖国ジャマイカで国葬が執り行われた・・・
世界に名を轟かせた「レゲエの神様」であり、ジャマイカの国民的英雄ボブ・マーリーの知られざる激動の生涯を描いた映画。
妻リタ・マーリー、娘のセデラ・マーリー、息子のジギー・マーリーなど、ボブ本人を誰よりも近くで見守ってきた家族たちがプロデューサーに名を連ねた<正真正銘のボブ・マーリー映画>
ボブの信じたラスタファリズムとは、旧約聖書に出てくる古代イスラエル人(ユダヤ人)とは自分たち黒人の祖先であり、奴隷として世界中に売られた黒人を救世主(ヤハウェー=ジャー)が救済し、約束の地アフリカに導いてくれるという宗教的思想運動。
ボブが生きていた時代、エチオピアの皇帝ハイレ・セラシエ1世が、ラスタにとって神ヤハウェ(=ジャー)の化身である生き神と信じられていました。ハイレ・セラシエ1世の即位前の名が「ラス・タファリ・マッコウネン」であることから、崇拝者のことをラスタファリアン(ラスタ)と呼ぶとのこと。
ボブの特徴的な髪形である「ドレッドロックス」は、聖書の記述に則り、体に刃物を当ててはならないことから生まれたラスタ特有のもの。
ボブの妻リタが、大きなダビデの星のペンダントをしていて、なるほど、ユダヤなのだと。
ボブの生涯、ラスタのこと、そしてジャマイカの政治状況のことなど、いろいろと学ぶことのできる1作です。(咲)
2024年/アメリカ/108分
字幕監修:池城美菜子
配給:東和ピクチャーズ
公式サイト:https://bobmarley-onelove.jp/
★2024年5月17日(金)ロードショー
ありふれた教室 原題:Das Lehrerzimmer 英題:The Teachers’Lounge
監督・脚本:イルケル・チャタク
出演:レオニー・ベネシュ(『白いリボン』)、レオナード・ステットニッシュ、エヴァ・ロバウ、マイケル・クラマー、ラファエル・シュタホヴィアク
若き女性教師カーラ・ノヴァク。新たに赴任した中学で1年生を受け持ち、張り切る日々。学校では盗難事件が頻発していて、ある日、授業中に校長たちが抜き打ち検査を行う。大金を持っていたアリが疑われ、両親が学校に呼ばれるが、母親がいとこへのプレゼントを買う為に渡したものだと判明する。正義感溢れるカーラは、独自に犯人を捜そうと、職員休憩室でパソコンのカメラをオンにしておく。すると、特徴ある柄のブラウスから、ベテラン事務職員クーンがカーラのお金を盗んだらしいことが判明する。クーンは犯行を否定するが、休職させられる。成績優秀な息子のオスカーはカーラのクラスで、母は犯人じゃないと言い張る・・・
カーラは職員休憩室で、ある人物がコーヒー代を入れる箱から小銭を持ち去る姿を見て、カメラを仕掛けるのですが、その行為が人権侵害だと指摘されて、クーンを疑いながらも、画像を公開しません。教師の中には、「今の清掃会社になって盗みが増えた」という者もいます。盗難犯は、おそらく一人ではないはず。オスカーが母親の潔白を信じる姿が、あっぱれです。
移民の多いドイツを反映して、カーラのクラスにはスカーフをした女子生徒やトルコ系や色の黒い男の子もいます。カーラ自身、ドイツ生まれですが、両親はポーランドからの移民という設定。ポーランド系の同僚からポーランド語で話しかけられ、「ここではほかの人もいるからドイツ語で」と言っています。盗難を疑われたアリの両親が、トルコ語で会話した時には、「ここではドイツ語で」と促されます。
イルケル・チャタク監督は、トルコ移民の両親のもとドイツ・ベルリンで生まれ、12歳の時にイスタンブールへ。現地のドイツ系高校での同級生ヨハネス・ドゥンカーと共同で脚本を書いています。二人の学校時代、体育の時間に休んだ者が盗みを働いていたという思い出などが本作のきっかけ。
どこの国でもあり得る物語。ただ、ドイツでは、日本のような職員専用の机のある職員室はなくて、授業の合間の休憩時間に職員が過ごす場所があるとのこと。英語のタイトル『The Teachers’Lounge』が、そのイメージ。ところ変わればですね。
生徒たちが作る学校新聞には、「移民の背景を持つ生徒を証拠もなく疑った」と大きく掲載されます。移民排斥や人種差別があることも、映画の背景になっているようです。(咲)
*本年度アカデミー賞®国際長編映画賞ノミネート
*第73回ベルリン国際映画祭 W 受賞(C.I.C.A.E Award、Label Europa Cinemas)
2022年/ドイツ/ドイツ語、トルコ語、ポーランド語/99分/スタンダード/5.1ch
配給:アルバトロス・フィルム
公式サイト:https://arifureta-kyositsu.com/
★2024年5月17日(金)、新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、シネ・リーブル池袋他全国公開
2024年05月05日
またヴィンセントは襲われる(原題:VINCENT DOIT MOURIR 英題:VINCENT MUST DIE)
監督:ステファン・カスタン
原作:マチュー・ナールト
脚本:マチュー・ナールト、ドミニク・ボーマール、ステファン・カスタン
出演:カリム・ルクルー(ヴィンセント)、ビマーラ・ボンス(マルゴー)
建築デザイナーのヴィンセントは、職場のインターン生から突然殴られる。同僚からも襲われるが、加害者たちはその記憶がないという。非があるのはヴィンセントのほうでは?と疑われ、自宅ワークを進められる。しかし、知らない老若男女たちからも突然攻撃され命を狙われるようになった。なんの心当たりもなかったが「自分と目線が合ったとたんに、相手が襲いかかってくる」のに気がついた。この理不尽な暴力の日々に放り込まれたヴィンセントは、自衛の方法を考える。
「ただ目が合っただけ」で周囲の人々に襲われるようになったとは!猿山に出かけたとき、猿と目を合わせないように、と注意を受けたことがあります。でもこれは人間世界の話。自分がそんな目にあったら、と思うとぞっとします。視線を合わせないために「サングラスをかけたら」とすぐ思いつきますが、映画では一度も使われません。SNS情報もあまり駆使されず、話はわりあいシンプルです。この災厄のおかげで出会うマルゴーや、目の見えない人に活躍してほしかったし、続編はないのでしょうか。
主人公ヴィンセントを演じたのは『バック・ノール』のカリム・ルクルー。目力が強いので、そのせいではと最初に考えてしまいましたが、そうではありませんでした。はて?
本作は、第76回カンヌ国際映画祭の批評家週間に選出されゴールデンカメラ賞にノミネート。シッチェス・カタロニア国際映画祭では最優秀主演俳優賞を獲得。(白)
2023年/フランス/カラー/シネスコ/115分
配給:NAKACHIKA PICTURES
(C)2023 - Capricci Production - Bobi Lux - GapBusters - ARTE France Cinema - Auvergne-Rhone-Alpes Cinema – RTBF
https://vincent-movie.jp/#
★2024年5月10日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国公開
ジョン・レノン 失われた週末(原題:he Lost Weekend:A Love Story)
監督:イヴ・ブランドスタイン、リチャード・カウフマン、スチュアート・サミュエルズ
音楽監督:ハワード・パール
出演:メ イ・パ ン、ジュリアン・レノン
「 あの時期のことは誰も何も知らない。だから真実を伝え、誤解を正したいと思う。今まで書かれたことは不正確だから。私の物語は私が書く」
「私」とは、メイ・パン。若き日にジョン・レノンとオノ・ヨーコの個人秘書を務めていた女性だ。ジョンとヨーコは1969年に結婚。以降、ジョンが1980年12月8日に40歳の若さで凶弾に倒れるまで共に過ごしたが、一時期だけ例外があった。1973年後半にジョンは家を出て、メイと暮らした。これは「失われた週末」と呼ばれる、ジョンとメイが一緒に過ごした時期をめぐる物語である。
ジョン・レノンを取り上げた映画はこれまでもいくつも発表されてきました。この映画は雇い主だったオノ・ヨーコの公認(ほぼ命令?)で、一時期愛人だったメイ・パンが語ったストーリーからできています。
仕事や家庭から離れて、リラックスしたジョンがいます。まだ若かったメイが、最初は戸惑いながらもジョンにすっかり夢中になるようすが見て取れます。ロック少女だったメイはジョンと話が合い、とてもよく気働きのできる人で、それまで疎遠だった人とジョンとの橋渡し役もつとめます。二人は短い間ですが相思相愛で暮らしたのでしょう。詳しい方なら、その間にジョンが発表した名曲の数々も浮かぶはず。貴重な映像や懐かしい歌を見聞きしながら、ジョンを偲んでください。(白)
リアルタイムでビートルズの曲が好きでしたが、まだ10代だったこともあって、彼らの生き様にまでは興味はなくて、オノ・ヨーコのことはさすがに知っているものの、メイ・パンという女性のことは全く知りませんでした。コアなファンなら周知のことらしいですが、それでもこの映画では、知らないエピソードも多々あるらしいです。当時の映像がたくさん残っていることにも驚かされます。そこには、メイ・パンのはつらつとした姿が映っていて、若いのに、いかにもやり手という感じ。 ジョン・レノンがヨーコのもとを離れていた18か月は、私との蜜月時間だったのよと、堂々と明かしていて、私はちょっと引いてしまいました。ジョンからの最後の電話になってしまったという会話の中では、「君と暮らす方法を考えている」という話も出たとのこと。これがほんとかどうかは、天国にいるジョンのみが知ること。 ジョンが存命ならば作れなかった映画だと感じてしまいます。何より、オノ・ヨーコがいかにも女帝のように描かれていて、彼女にとっては心地よい映画であるはずがありません。
ジョン・レノンが、何かあると周りの人に暴力をふるったという話は、ちょっとショックでした。平和を願い、反戦運動に身をやつしたジョンが・・・と。
ニクソン大統領は、反戦運動を理由にジョンを国外追放しようとしていて、ウォーターゲート事件でニクソンが大統領を辞任し、やっと心穏やかに暮らせることになったというエピソードも、今さらながら、そんなこともあったと思い出しました。
エンドロールで、メイ・パンが、Special Thanksとして、名前だけでなく、それぞれに宛ててメッセージを書いているのも興味深いです。
お父さんには、「あなたが男の子を欲しかったと知ってる。でも、女の子だって、強くなれることを見せたと思うわ」と書いています。映画の冒頭で、父親は、娘が生まれたので、男の子を養子に迎えたことから、自分は「望まれない子」だと感じたと語っています。それがメイ・パンの原動力だったのかもしれませんね。(咲)
2022年/アメリカ/カラー/94分/1.85:1/5.1ch
字幕:松浦美奈 字幕監修:藤本国彦
配 給:ミモ ザ フィルム ズ
© 2021 Lost Weekend, LLC All Rights Reserved
https://mimosafilms.com/lostweekend/
★2024年5月10日(金)より角川シネマ有楽町、シネクイント、新宿シネマカリテ、池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次ロードショー
2024年05月02日
無名 原題:無名 英題: Hidden Blade
5月3日(金・祝)よりヒューマントラストシネマ有楽町、シネマート新宿ほか全国順次公開
劇場情報
トニー・レオン VS ワン・イーボー 2大スター競演! スパイ・ノワール
監督・脚本・編集:程耳(チェン・アル)
撮影:ツァイ・タオ
出演
フー:梁朝偉(トニー・レオン)
イエ:王一博(ワン・イーボー)
チェン:周迅(ジョウ・シュン)
ジャン:黃磊(ホアン・レイ)
渡部:森 博之
タン:大鹏(ダー・ポン)
ワン:王伝君(エリック・ワン)
ジャン:江疏影(ジャン・シューイン)
1940年代。太平洋戦争下の上海を舞台に暗躍した名もなきスパイたち
中国共産党、国民党、そして日本軍。お互いの素性が分からない中でスパイたちがしのぎを削る心理戦。激動の時代を背景に描く一進一退の攻防劇。
中華民国、汪兆銘政権政治保衛部主任のフー(梁朝偉)は、汪兆銘に感銘を受け、中国国民党に転向するという中国共産党の工作員をしていたジャン(黃磊)の身辺調査を行う。1941年、上海駐在の日本軍スパイのトップである渡部(森博之)は、フーやフーの上司タン(大鹏)と戦局について話し合っている。イエ(王一博)はフーの部下で、ワン(王伝君)と諜報活動をしている。
主演は、ウォン・カーウァイ監督『花様年華』(00)や、アンドリュー・ラウとアラン・マック監督の『インファナル・アフェア』(02)のトニー・レオン。そして、本作で映画初主演の座を掴んだワン・イーボーは、俳優・シンガー・ダンサーとして大ブレイクし、いま中国でもっとも注目を集める若手俳優の1人になり、主演作が次々と公開されている。
本国で興行収入181億円を上回るヒットを記録し、第36回中国映画金鶏賞において最多の8部門にノミネートされ、トニー・レオンが最優秀主演男優賞に、チェン・アル監督が最優秀監督賞・編集賞に輝いた。
日本軍、重慶の国民党と南京の国民党、共産党の関係の中での多重スパイもので、さらに行ったり来たりの時系列。彼らの関係や繋がりが分からないと、裏切りが何に対する裏切りなのか、最初混乱したが、後半、パズル合わせのようにはめ込まれ、「そうだったのか」と、繋がりが収束されていく。そうは言っても、当時のことをもう少し勉強しないと、わけわからなくなる。
それでも、1940年代の上海を再現した街並みの美さや、スタント無しのアクションシーンを演じたトニー・レオンとワン・イーボーの対決シーンは、手に汗握るものだった。
でも、このところ、上海や中国の1930,40年代を舞台にしたスパイ映画が続き(ロウ・イエ監督『サタデー・フィクション』2019年製作、2023年日本公)、チャン・イーモウ監督『崖上のスパイ』2021製作、2023日本公開)、スパイ映画はしばらくいいかな(暁)。
公式HP https://unpfilm.com/mumei/
2023年/中国/131分/1.85:1/中国語・広東語・上海語・日本語/
カラー/5.1ch 字幕:渡邉一治
製作:博納影業集団
配給:アンプラグド
劇場情報
トニー・レオン VS ワン・イーボー 2大スター競演! スパイ・ノワール
監督・脚本・編集:程耳(チェン・アル)
撮影:ツァイ・タオ
出演
フー:梁朝偉(トニー・レオン)
イエ:王一博(ワン・イーボー)
チェン:周迅(ジョウ・シュン)
ジャン:黃磊(ホアン・レイ)
渡部:森 博之
タン:大鹏(ダー・ポン)
ワン:王伝君(エリック・ワン)
ジャン:江疏影(ジャン・シューイン)
1940年代。太平洋戦争下の上海を舞台に暗躍した名もなきスパイたち
中国共産党、国民党、そして日本軍。お互いの素性が分からない中でスパイたちがしのぎを削る心理戦。激動の時代を背景に描く一進一退の攻防劇。
中華民国、汪兆銘政権政治保衛部主任のフー(梁朝偉)は、汪兆銘に感銘を受け、中国国民党に転向するという中国共産党の工作員をしていたジャン(黃磊)の身辺調査を行う。1941年、上海駐在の日本軍スパイのトップである渡部(森博之)は、フーやフーの上司タン(大鹏)と戦局について話し合っている。イエ(王一博)はフーの部下で、ワン(王伝君)と諜報活動をしている。
主演は、ウォン・カーウァイ監督『花様年華』(00)や、アンドリュー・ラウとアラン・マック監督の『インファナル・アフェア』(02)のトニー・レオン。そして、本作で映画初主演の座を掴んだワン・イーボーは、俳優・シンガー・ダンサーとして大ブレイクし、いま中国でもっとも注目を集める若手俳優の1人になり、主演作が次々と公開されている。
本国で興行収入181億円を上回るヒットを記録し、第36回中国映画金鶏賞において最多の8部門にノミネートされ、トニー・レオンが最優秀主演男優賞に、チェン・アル監督が最優秀監督賞・編集賞に輝いた。
日本軍、重慶の国民党と南京の国民党、共産党の関係の中での多重スパイもので、さらに行ったり来たりの時系列。彼らの関係や繋がりが分からないと、裏切りが何に対する裏切りなのか、最初混乱したが、後半、パズル合わせのようにはめ込まれ、「そうだったのか」と、繋がりが収束されていく。そうは言っても、当時のことをもう少し勉強しないと、わけわからなくなる。
それでも、1940年代の上海を再現した街並みの美さや、スタント無しのアクションシーンを演じたトニー・レオンとワン・イーボーの対決シーンは、手に汗握るものだった。
でも、このところ、上海や中国の1930,40年代を舞台にしたスパイ映画が続き(ロウ・イエ監督『サタデー・フィクション』2019年製作、2023年日本公)、チャン・イーモウ監督『崖上のスパイ』2021製作、2023日本公開)、スパイ映画はしばらくいいかな(暁)。
公式HP https://unpfilm.com/mumei/
2023年/中国/131分/1.85:1/中国語・広東語・上海語・日本語/
カラー/5.1ch 字幕:渡邉一治
製作:博納影業集団
配給:アンプラグド