2024年03月17日

ナチ刑法175条  原題:Paragraph 175

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監督:ロブ・エプスタイン(『ハーヴェイ・ミルク』)+ジェフリー・フリードマン 
ナレーター:ルパート・エヴェレット

ドイツでかつて施行されていた同性愛者を差別する<刑法175条>により、特にナチ支配下で男性同性愛者が弾圧されていた事実を、6人のゲイとひとりのレズビアンによる証言を通して描いたドキュメンタリー


<刑法175条>条文抜粋
制定:1871年5月15日 施行:1872年1月1日
男性と男性の間で、あるいは人間と動物の間で行われる不自然な性行為は、禁固刑に処される。公民権が剥奪される場合もある。

An unnatural sex act committed between persons of the male sex or by humans with animals is punishable by imprisonment; the loss of civil rights may also be imposed.
(PARAGRAPH 175 German Penal Code, 1871)


刑法175条は1872年に施行されたが、“黄金の20年代“と、性に寛容で同性愛者の集うクラブもあった1920年頃のベルリン。ナチスが台頭し、ナチスは同性愛の男性を、“ドイツ国民を堕落させ、弱体化させる危険な病”とみなし、<再教育>のために強制収容所に入れる。ユダヤ人でない者の多くがガス室を免れたが、その 3 分の 2 は死亡。
刑法 175 条は、東ドイツ版が 1968 年まで有効、西ドイツは 1969 年まで維持した。終戦後も、175 条で迫害された人々は犯罪者とみなされ、ナチスの犠牲者として法的な承認を受けた者は長らくいなかった・・・

刑法175条により約 10 万人が捕まり、1 万から 1.5 万人が強制収容所に送られ、強制労働や医学実験に使われた結果、生存者は約 4000 人。本作製作時に生存が確認出来たのは僅か 10 名に満たなかったそうです。
当時を生き延びた同性愛者の方たちも、その多くが体験を語らなかった中、本作は貴重な記録。

証言者の一人カール・ゴラート氏は、囚人病院で働かされていた時に、同性愛者を示すピンクのワッペンを、秘密裏に、政治犯がつける赤いワッペンに交換し、最底辺に位置づけられた同性愛者の境遇から脱することができたと語っています。
ワッペンは、逆三角形。ユダヤ人は、黄色い三角形を二つ組み合わせダビデの星の形。
ユダヤ人の同性愛者は、黄色とピンクの三角形を組み合わせた形でした。
一目でわかる形で、人を識別し、差別していたナチスは敗北しましたが、世界には、今も人種や性の志向で差別し虐待していることが多々あります。多様性を尊重する社会の大切さを、差別する人にこそ本作を見て学んでほしいものです。(咲)



1999年/米国/英語・ドイツ語・フランス語/カラー/81分
日本版字幕:川口隆夫 
宣伝デザイン:潟見陽 
パブリシティ:スリーピン
配給:パンドラ
公式サイト:http://www.pan-dora.co.jp/paragraph175/
★2024年3月23日(土)から新宿K;s cinemaほか全国順次公開

posted by sakiko at 15:14| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ボンゴマン ジミー・クリフ デジタル・リマスター   原題:Bongo Man

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(C)2022 Stefan Paul All Rights Reserved


監督:ステファン・ポール
編集:ヒルデガルト・シュレーダー
撮影監督 マイク・コンデ、ウド・ヒッツラー、ハインツ・レクサー、ヘリベルト・シュースター
出演:ジミー・クリフ、ナディーン・サザーランド、ムタバルーカ、バーバラ・ジョーンズ、ミリアム・マケバ、ボブ・マーリー

【2010年ロックの殿堂入り】
【1985年「Cliff Hanger 」グラミー賞受賞】
【2013年「Rebirth」グラミー賞受賞】

レゲエ界の生ける伝説ジミー・クリフの全盛期を納めたミュージック・ドキュメンタリー

総選挙が近い1980年秋のジャマイカ。
パトカーのサイレンが鳴り響き、燃えさかる街並み。二大政党JLPとPNPの激しい抗争で一触即発のトレンチタウン。
「欲をかくものは、全てを失う」と高らかとアジテートするジミー・クリフ。
故郷サマートンで、2万人を見込むフリーコンサート「アフリカ国民の日」を企画する。小さいときから、ここで開きたいと思っていた空地。地元の人たちがボランティアで手伝ってくれて、重機でならし、ステージを作る。当日、雨が降る。それも神の意思だ。
さらにカメラは、南アフリカのソウェト、ドイツのハンブルグのツアーを追う・・・

「ジャマイカに来たら、人々の心をみてほしい」
♪ボンゴマンが来た、太陽の島に♪ 
冒頭、のどかな風景が一転し、選挙を巡り抗争中の町。
映画は、ジミー・クリフの楽曲と共に、ジャマイカの歴史を辿る興味深いものでした。
JAMAICA という国の名前
J ユダヤ人
A アフリカ人
M マルーン(逃亡奴隷)
A アメリカ人
I インド人
C 中国人
A アラワク・インディアン(先住民)
と、ジャマイカの人種構成によるものとの説明がありました。
コロンブスがやってきた時に、闘った先住民であるアラワク、その後、17世紀にイギリスが来てスペインからジャマイカを奪ったとき、山に逃げた奴隷たち(マルーン)がイギリスと闘い、自治権を持ったことなど、この映画を通じて学びました。
ちなみに、ユダヤ人は、15世紀、レコンキスタでスペインやポルトガルから追放されて、ジャマイカにも来ていたことを知りました。人数は少ないようですが。

ジミー・クリフが、1980年7月のハンブルグのコンサートで「ベトナム戦争を誰か止めてくれ」と歌う中で、アフガニスタン、イラン、南アフリカでの戦争も止めてくれという言葉がありました。どこも、当時、戦争に見舞われていたのを思い出します。
また、女性解放についても歌う場面があって、「アフリカの女性は元々解放されていた。ヨーロッパの文化に触れて、女性解放の戦いを知った」という言葉が気になりました。

ジャマイカで生まれたレゲエについては、2024年2月9日に公開された『ボブ・マーリー ラスト・ライブ・イン・ジャマイカ レゲエ・サンスプラッシュ デジタルリマスター』でも学ぶことができました。1992年12月19日に日本初公開された『ボンゴマン ジミー・クリフ』も、今のこの時期にデジタル・リマスター版が公開されることの意義を噛みしめたいと思います。(咲)


1981年/ジャマイカ・ドイツ合作/英語/93分
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム
公式サイト:https://jimmy-cliff-movie.com/
★2024年3月22日(金)より新宿シネマカリテほか全国ロードショー
posted by sakiko at 12:02| Comment(0) | ジャマイカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする