2024年3月2日(土)よりポレポレ東中野、ヒューマントラストシネマ有楽町にてロードショー 他全国順次公開
劇場情報
監督 熊谷博子
ナレーション・朗読:斉藤 とも子
撮影:中島広城
録音:奥井義哉
助監督:土井かやの
編集:大橋富代
映像技術:柳生俊一
整音:小長谷啓太
音楽:黒田京子
宣伝美術:安倍大智
出演:宮﨑かづゑ、宮﨑孝行ほか
私、みんな受けとめて、逃げなかった
『三池~終わらない炭鉱(やま)の物語』、『作兵衛さんと日本を掘る』など炭鉱に関わる人々を追い続けてきた熊谷博子監督。最新作は、岡山県瀬戸内市にある国立ハンセン病療養所・長島愛生園に暮らすハンセン病回復者の宮﨑かづゑさんを8年間に渡り撮影したドキュメンタリー。
かづゑさんの人生に伴走し、厳しくも充実した人生を生き抜いてきた彼女に寄り添って見えてきたものは、力強く誇り高くもチャーミングな生き方。
かづゑさんは10歳で入所して以来約80年、生まれ故郷の家に帰れずこの島で生きてきた。病気の影響で手の指全部と片足を切断、視力も落ちている。それでも電動カートに乗って施設内の商店に買い物に行ったり、料理など周囲の手を借りながら自分で行っている。
らい患者の日常を知ってもらいたい、本当のらい患者の感情、飾っていない患者生活を残したい。らいに負けてなんかいませんよと力強く語る。患者同士のいじめに遭いつらかった子ども時代や、より重病者を下に見て、差別されているものが差別をする実態も語られる。
しかし、家族の愛情と、たくさんの愛読書が絶望の淵から引き上げてくれたという。そして夫の孝行さんと出会い、海沿いにあった夫婦寮で自然とともに暮らしてきたことを懐かしむ。
かづゑさんはいつも新しいことに挑戦し、78歳のときにパソコンを覚え、84歳になって初の著作「長い道」(みすず書房)を出版。類まれな表現力で日常を瑞々しく綴り、版を重ねている。
そして、90歳半ばになったかづゑさんは「できるんよ、やろうと思えば。」と語る。
熊谷博子監督メッセージ HPより
宮﨑かづゑさんは、私が初めて会ったハンセン病の元患者さん(回復者)でした。信頼する知人に、会わせたい人がいるからと、半ば強引に長島愛生園に連れていかれました。10歳からハンセン病療養所で生活している、という人に。その日々の暮らしを描いた著書「長い道」を会う前に読み、大変心をうたれました。かづゑさんの部屋で話しながら、この人生を撮って残しておかねばと心に決め、2016年から愛生園に通い始めました。それから8年間、私たちはカメラとマイクを携えて、かづゑさんの人生に伴走することになりました。この映画はハンセン病を背景にしていますが、決してハンセン病だけの映画ではありません。人間にとって普遍的なことを描いたつもりです。
公式HP https://www.beingkazue.com/
2023年製作/119分/DCP/日本
協力:国立療養所 長島愛生園
配給協力:ポレポレ東中野 宣伝:きろくびと
製作・配給:オフィス熊谷
2024年02月25日
瞼の転校生
監督:藤田直哉
脚本:金子鈴幸
撮影:古屋幸一
音楽:額田大志
舞台演出:松川小祐司
タイトルデザイン:赤松陽構造
出演:松藤史恩(裕貴)、齋藤潤(建)、葉山さら(茉耶)、佐伯日菜子、村田寛奈、高島礼子
旅回りの大衆演劇一座に所属する中学生の裕貴は、公演に合わせて1ヶ月ごとに転校を繰り返している。「すぐに別れるから」と友達を作ろうともせず、誰とも話さずに公演時間に間に合うよう早退していた。ある日、担任から頼まれて会ったことのないクラスメイトの家に立ち寄ることになった。建は不登校なのに成績優秀で、ちょっと他の同級生とは違っていた。
後日、地下アイドル「パティファイブ」ライブに行った裕貴は、偶然に建と再会する。建は「パティファイブ」の浅香ファンだった。2人は一気に仲良くなり、建の元カノの茉耶も加わって、3人で過ごすことが多くなった。裕貴は2人に舞台に立つ自分を観てほしいと思い始めるが、残りの時間は少ない・・・。
大衆演劇になじみのない方が多いかと思いますが、こちらはその一座の中学生のお話です。毎日違う演目での昼夜公演。舞踊ショーとお芝居で3時間ほどの生の舞台が2000円~3000円。映画の舞台になったのは、北区十条の篠原演芸場でした。私は20年ほど前に浅草で観て以来、いろいろな劇団の公演に通ってきましたが、普段は見られない楽屋や稽古のようすも観られて嬉しかったです。
可愛い女形を披露する松藤史恩くんは昨年公開の『雑魚どもよ、大志を抱け!』ではメガネっ子の正太郎くん役。齋藤潤くんは『正欲』『カラオケ行こ!』に出演。これからが楽しみです。
藤田直哉監督にお話をうかがいました。こちらです。(白)
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭の記念すべき20周年のオープニング作品として上映された折に拝見。
映画祭20周年と川口市制施行90周年を記念して製作された作品。藤田直哉監督は、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020の短編部門で『stay』が優秀作品賞を受賞。本作で長編デビュー。
1か月ごとに学校を変わらなくてはいけない、大衆演劇の親を持った男の子と、優秀なのに不登校の男の子の物語。
松藤史恩さんの美しい女形の姿に、うっとり。本作を観たら、本物の大衆演劇を観てみたくなることと思います。(咲)
映画祭の折の舞台挨拶の模様は、こちらで!
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2023 オーニング作品 『瞼の転校生』 (咲)
2023年/日本/カラー/ビスタ/80分
配給:インターフィルム
(C)2023埼玉県/SKIPシティ彩の国ビジュアルプラザ 川口市
https://mabuta-no-tenkousei.com/
★2024年3月2日(土)ロードショー
水平線
監督:小林且弥
脚本:齋藤孝
撮影:渡邉寿岳
出演:ピエール瀧(井口真吾)、栗林藍希(奈生)、足立智充(江田)、内田慈(河手)、押田岳(渡部)、円井わん(沙帆)、高橋良輔(城島)、清水優(隼人)、遊屋慎太郎(松山)、大方斐紗子(平島)、大堀こういち(箕輪)、渡辺哲(清一)
井口真吾は福島の港町で娘の奈生と二人暮らし。妻は震災で行方不明になり、遺骨も見つかっていない。井口は一人で散骨業を営み、高齢者や生活困窮者の依頼を格安で受けている。母亡きあと家事を引き受け、水産加工場で働く奈生は母の死をいまだ受け入れられずにいた。
ある日若い男が兄の遺骨を託して帰ったが、まもなくジャーナリストだという江田が訪ねてきた。江田はその遺骨が世間を震撼させた殺人犯のものだと告げ、多くの遺骨が眠る福島の海を汚すつもりかと迫る。井口は「無関係な人間が口を出すな」とあしらうが、執拗な取材は続きその動画がSNSで拡散される。
映画『凶悪』(2013年/白石和彌監督)で、ヤクザの兄貴役と舎弟役で共演した二人が ふたたびタッグを組みました。小林且弥監督のデビュー作の主演にとピエール瀧さんに切望して実現した作品です。いつも強面の役柄が多いピエール瀧さんが、寄る辺ないような寂しげな男を演じていて、うわ~、同じ人?と思いました。江田が井口を責めるのはおかしいだろうと思いながら、自分が問われたらと考えるとすぐに答えは出ません。海はいろいろなものを飲み込んでくれていますが、それは山でも人でも同じに思えます。
罪なき人は前へ出よ、と言われて胸を張って出られる人はいるのでしょうか?過去を持たない子どもたちだけじゃないでしょうか?辿り辿れば、いろいろな人が自分の系譜の中にいただろうし、と観た後いろいろ考えたのでした。
小林監督、瀧さんを主演にこんなデビュー作を送りだしてくれてありがとうございます。(白)
2023年/日本/カラー/119分
配給:マジックアワー
(C)2023 STUDIO NAYURA
https://studio-nayura.com/suiheisen/
★2024年3月1日(金)ロードショー
リトル・リチャード:アイ・アム・エヴリシング 原題:Little Richard: I Am Everything
監督:リサ・コルテス
出演:リトル・リチャード、ミック・ジャガー、トム・ジョーンズ、ナイル・ロジャーズ、ノーナ・ヘンドリックス、ビリー・ポーター、ジョン・ウォーターズほか
リトル・リチャード。1950年代半ばに彗星のように音楽シーンに現れ、後進のロック・ミュージシャンに多大な影響を与えた革新的黒人アーティスト。
ミック・ジャガーは「ロックンロールはリトル・リチャードが始めた」と語り、エルヴィス・プレスリーは「彼こそロックンロールの真のキングだ」と称賛。ビートルズのデビュー前から親交があったジョン・レノンは「初めて会ったとき、畏敬のあまり、硬直してしまった」と言い、ポール・マッカートニーは「歌で叫ぶのはリチャードの影響さ」と語る。はたして彼はいったいどのような生い立ちを経て、その名を世界に刻んでいったのか。
本作は、ピアノを叩くように弾いたり、ピアノの上で衣服を脱ぎ捨てる姿などのアーカイヴ映像や、彼を崇拝する多くのミュージシャンの言葉を綴って、リトル・リチャードがロックンロールの祖であることを示したドキュメンタリー。
リトル・リチャード。1932年12月、教会の多い保守的な町ジョージア州メイコンでアフリカ系黒人の両親のもとに生まれる。母とは静かに祈るバプテスト教会、父とはメソジスト教会に通い、踊りながらゴスペルを歌っていたそうです。ゲイを公言した為、父からは破門され、白人向けのゲイクラブの2階に住まわせてもらい、ブルースやゴスペルを歌う暮らし。
1955 年のデビュー・シングル「トゥッティ・フルッティ」は、最初、黒人専用ラジオチャンネルで流されるも、カーラジオなどで白人も聴いて知るところに。その後、「のっぽのサリー」の大ヒット。白人と黒人が同じ場所に居られなかった時代。白人がリトル・リチャードのコンサートに押しかけ、黒人音楽を白人に聴かせた罪で捕まったことも。
人気の絶頂期、1957年、アラバマ州のオークウッド大学に入学して神学を修め牧師に。ゴスペルを歌い、ゴスペルのキングと名乗ります。結婚もしますが、1962年、突如ロック歌手として復帰。ロンドンでのツアーは暴動と化すほど過激でした。その後、リバプールでまだ駆け出しのビートルズに会うのですが、ビートルズにとって有名人に会う初めての機会だったとか。若い4人の姿が初々しいです。ローリング・ストーンズも、リトル・リチャードのイギリスツアーの前座だったのです。多くの名だたるミュージシャンに影響を与えたのに、ロックンロールのルーツが黒人だったことを抹殺していると嘆きます。ようやく日の目をみたのが、1997年。アメリカン・ミュージック・アワード功労賞に輝きます。「生きている間に貰えて嬉しい」と語るリトル・リチャード。64歳になっていました。
私にとっては、まったく知らない人だったのですが、黒人音楽が好きな妹に『リトル・リチャード:アイ・アム・エヴリシング』という映画が、3/1から公開されるとLINEを送ったら、すぐに「へー観たい。全ては彼から始まったんです」と返事。「ポールやジョンが彼の音楽スタイル真似して大きくなった」と、まるで公式サイトを見たかのような返事が来ました。(寸時に返事が来たので、見てないはず) そうっか、知る人ぞ知るだったのだと。
この映画を機会に、彼を知らなかった人に、黒人やゲイが激しく差別されていた時代に、自分らしく表現した人がいたことを知ってほしいと思いました。(咲)
2023年/アメリカ/101分/カラー/ビスタ/5.1ch/DCP
字幕:堀上香
字幕監修:ピーター・バラカン
提供・配給:キングレコード
公式サイト:https://little-richard.com/
★2024年3月1日(金)より、シネマート新宿ほか全国公開
ロッタちゃん はじめてのおつかい(原題:Lotta 2 - Lotta flyttar hemifran)
監督・脚本:ヨハンナ・ハルド
原作:アストリッド・リンドグレーン
撮影:オーロフ・ヨンソン
音楽:ステファン・ニルソン
出演:グレテ・ハヴネショルド(ロッタ)、ベアトリス・イェールオース(ママ)、リン・グロッペスタード(ミア)、マルティン・アンデション(ヨナス)、クラース・マルムベリー(パパ)、マルグレット・ヴェイヴェルス(ベルイさん)
ニイマン家のロッタちゃんは5歳。チクチクするのでキライなセーターをロッタちゃんはハサミで切り刻んでしまう。ママが帰る前に、お隣のベルイさんちに家出をした。ベルイさんは、物置の2階にロッタちゃんの部屋を作ってくれた。お兄ちゃんのヨナスとお姉ちゃんのミア、パパとママまで訪ねてくるけれど帰ってなんかやらない。
雪が積もった日、ロッタちゃんはママのお使いでベルイさんにお見舞いのパンを届けに行く。ゴミ袋も引き受けたら、パンとバムセ(豚のぬいぐるみ/ロッタちゃんの親友)の入った袋のほうを間違ってゴミ箱に入れてしまった!収集車に持って行かれたバムセは見つかるのか?
クリスマスにツリーが手に入らなくて困っているパパとママ、ヨナスとミアはがっかりして泣いている。ロッタちゃんが起こした奇跡とは?
もう一つ、復活祭の日にまたまたロッタちゃんが大活躍。3つのエピソードを上映。
2000年に日本で公開され、大ヒットしたロッタちゃんが戻ってきました。当時私も観て、自分や子どもたちの小さかったころを思い出したものです。このたび2Kリマスター版でリバイバル上映されます。撮影当時ロッタちゃんと同じ5歳だったグレテ・ハヴネショルドは今どんな女性に成長しているのでしょう。撮影は原作者アストリッド・リンドグレーン(1907~2002)の故郷ヴィンメルビー(Vimmerby)にある”アストリッド・リンドグレーン・ワールド(Astrid Lindgren Värld)とヴィンメルビーのあちこちで撮影されたもの。
5歳の女の子の頑固さや独立心、「あたしってなんでもできる」という自己肯定を生意気と思うか、すごいと思うか。あなたはどちらでしょう。
この映画の大人たちはロッタちゃんを頭ごなしに叱ったり、大人のルールで縛ったりしません。子育てのヒントになります。兄や姉も「そうかい」「そうなの」と受け入れてくれます。今やそっちの方がファンタジーに思えるかも。
インテリアや小物が素敵、ロッタちゃんファッションも可愛いです。もしも機会がもてたならこのテーマパークに行って、リンドグレーンの著書の主人公たちピッピやカツレくんやロッタちゃんの遊んだ街を楽しみたいものです。長旅に耐えられるうちに。(白)
ロッタちゃんは、5歳なのに自立心が強くて、ちょっと意地悪にも見えて、なんて子だ!と最初は思ってしまいます。でも、お隣の一人暮らしのベルイおばさんにも気遣いのできる子。具合の悪いベルイおばさんに頼まれて雑誌を買いにいくと、お店の人はちゃんとベルイさんの読んでいる雑誌を知っています。
お菓子屋を営むギリシャ人のバシリスさんは、「スウェーデンの人たちは、土曜日に少しお菓子を買うだけなので商売にならない」と嘆いて、国に帰ってしまいます。もしかしたら、子どもたちに、お菓子は土日やお祝い事の日だけと躾けているのかなと思いました。
クリスマスや復活祭を大事にするスウェーデンの小さな町の人たちの暮らしが垣間見れました。(咲)
1993年/スウェーデン/カラー/ビスタ/85分
配給:エデン
(C)1993 AB SVENSK FILMINDUSTRI ALL RIGHTS RESERVED
https://lotta-eden.jp/
★2024年3月1日(金)ロードショー
3月22日(金)から『ロッタちゃんと赤い自転車』公開予定です。
津島ー福島は語る・第二章ー
監督・撮影・編集・製作:⼟井敏邦
整⾳:藤⼝諒太
⾳楽:李政美(歌・作曲)、武藤類⼦(作詞)
浪江町津島は福島県の東部、阿武隈⼭系の⼭々に囲まれた⼈⼝約1400⼈の平穏な⼭村でした。福島第⼀原発から北⻄に30キロ離れているにもかかわらず、2011年3⽉ 11⽇の事故直後に⼤量の放射性物質が降り注ぎ、「帰還困難区域」に指定されたまま、現在も多くの住⺠が帰れずにいます。故郷を離れ10年以上を経た今も、⼈々の⼼の中には津島での⽇々があります。貧しかった開拓時代の記憶、地域コミュニティと共にあった暮らし、綿々と受け継がれてきた伝統⽂化、今は亡き家族との思い出…。 津島の歴史と、そこで⽣きてきた⼈々の記憶と感情を映像化したのは、『福島は語る』(2018 年)の⼟井敏邦監督。裁判記録「ふるさとを返せ!津島原発訴訟 原告意⾒陳述集」に記された住⺠たちの⾔葉に衝撃を受けた⼟井監督は、「この声を映像で記録したい」と原告32名の元を訪ね歩き、10ヶ⽉にわたるインタビューを敢⾏。その中には、避難先で起こった⼦どもたちへの差別といじめについての証⾔もありました。総勢18名による、全9章、3時間を超える圧巻の語りの数々。
第一章“記録”今野義人
第二章“開拓”関場健治/三瓶宝次/志田昭治/馬場績
第三章“共同体” 石井ひろみ/今野千代/須藤カノ
第四章“伝統文化”今野秀則
第五章“家族喪失”三瓶春江/武藤晴男/佐々木やす子
第六章“子どもの傷”柴田明美・明範/須藤カノ・隼人・玲
第七章“棄民”今野秀則/末永一郎
第八章“故郷”馬場績
最終章“帰郷”紺野宏
■⼟井監督のコメント 「津島の記録映画を作りたい」と私を駆り⽴てたのは、⼀冊の裁判記録だった。そこには、32⼈の原告たちが裁 判所で陳述した、家族の歴史、原発事故による家族と⼈の⼼の破壊、失った故郷への深い想いが切々と綴られていた。「あの原発事故は住⺠の⼈⽣をこれほどまでに破壊していたのか」と、私は強い衝撃を受けた。「この陳述集の声を映像で記録したい」 それが映画「津島」制作の原点である。 2021年春から、私は陳述集に登場する原告たちを訪ね歩き始めた。横浜から福島まで⾞で往復し⾞中泊を繰り 返す、ほぼ10カ⽉がかりのインタビューの旅だった。 “津島”は、⼈⼝約 1400 ⼈の問題に終わらない。「多数派の幸福、安全、快適さのために少数派を犠牲にする」在り⽅への、津島住⺠の“異議申し⽴て”であり“抵抗”だともいえる。そういう意味で、“津島の存在と闘い”は⼩さな⼀地域の問題ではなく、⽇本と世界に通底する“普遍的なテーマ”を私たちに問いかけていると私は思う。 「『フクシマは終わったこと、なかったこと』にされてたまるか!」。 映画の中で涙ながらに語る証⾔者たちの声の後ろに、そんな悲痛な叫び声を私は聞いてしまうのである。
⼟井監督は、1985年よりパレスチナ・イスラエルの現地取材を重ね、1993年からは映像取材も開始し、NHKや民放で多くのドキュメンタリー番組を発表しています。2009年4月に、ドキュメンタリー映像シリーズ『届かぬ声―パレスチナ・占領と生きる人びと』全4部作を完成させています。理不尽に故郷を追われたパレスチナの人たちの姿に、放射能という見えないものの為に故郷を追われた福島の人たちの姿が重なったのは、長年、パレスチナの人々を追ってきた古居みずえ監督が飯舘村の母ちゃんたちに思いを寄せるのと同様の気持ちでしょう。
本作の最後に資金協力した個人の方たちのお名前が掲載されていますが、その中には、アラブやイランなど中東研究者のお名前もありました。
地震や津波で家が壊れたわけでなく、見た目は平穏な津島の風景。それなのに、帰宅できないのは納得がいきません。やっと帰宅許可の出た地区も、10年以上、家を空けていたので、すぐに住める状態ではありません。地震は天災だけど、原発事故を想定外と片づけられるのは納得がいきません。
「離婚して子育ては大変だったけど、ここで生きている!という楽しさがあった」
「避難先では誰にも悩みを打ち明けられない」
「農業が好きだった母が、避難先で何もすることがなくなり半年後には認知症になった」
「学校で放射能が移ると、教師にもいじめられた」
「故郷は生きる根源。人生を奪われた」
避難命令が出た時には、よもや故郷・津島に帰れなくなるとは思ってなかった人たちの、無念な思いがずっしり伝わってくる189分。他人事と思わず、いつ自分にも降りかかるかもしれないことと、しっかりと津島の人たちの言葉を噛みしめたいと思いました。(咲)
◆上映日程とトーク予定◆
【東京 K’s cinema】
3/2(土)~ 予定:初日+αで監督トーク
【京都 京都シネマ】
3/8(金)~ 予定:3月10日監督トーク
【大阪 第七藝術劇場】
3/9(土)~ 予定:3月10日監督トーク
【兵庫 元町映画館】
3/9(土)〜 予定:3月11日監督トーク
【愛知 シネマスコーレ】
3/11(月) 予定:3月11日監督トーク
【神奈川 シネマ・ジャック&ベティ】
3/16(土)~ 予定:3月16日+αで監督トーク
【福島 フォーラム福島】
3/22(土)~初日 予定:3月22日監督トーク
【長野 松本CINEMAセレクト】
4/7(日) 予定:監督トーク
山形国際ドキュメンタリー映画祭2023(ともにある Cinema with Us)上映作品
2023年/⽇本/ドキュメンタリー/189分/DCP
配給協⼒・宣伝:リガード
公式サイト:http://doi-toshikuni.net/j/tsushima/
★2024年3⽉2⽇(⼟)よりKʼs cinemaほか全国順次公開
すべての夜を思いだす
脚本・監督:清原 惟
音楽:ジョンのサン&ASUNA
ダンス音楽:mado&supertotes,ESV
出演:兵藤公美、大場みなみ、見上 愛、内田紅甘、遊屋慎太郎、奥野 匡
東京郊外、多摩ニュータウン。
大きな樹の下で、それぞれの楽器を奏でる人たち。
大型団地の朝が始まる。
その日、誕生日を迎えた知珠(兵藤公美)。
友人からの転居通知の葉書を手に出かける。まず寄ったのは、ハローワーク。経験を活かして着物の着付の仕事を希望しているが無いと言われる。友人の転居先である聖ヶ丘を目指して歩いていく途中、覗いた和菓子屋で、元の同僚に声をかけられる。知珠が人減らしで辞めさせられて、人手が足りなくて大変なこともあると言われる。なんとも恨めしい。友人の家を探す途中で、若い女性がダンスするのを真似てみる・・・
ガス検針員の早苗(大場みなみ)。
いつも回る諏訪団地で、ベランダからお婆さんが声をかけてきて蜜柑をくれる。同じ棟に暮らす老人が、早朝から行方がわからないので見かけたら家族のもとに届けてほしいと頼まれる。見つけた老人を送り届けようとするが、家は反対方向の永山だという。昔、住んでいたらしい家に連れていかれる・・・
大学生の夏(見上愛)。
生まれ育ったこの街で今日もダンスをし、友人に会い、カフェでお茶をする。
違うのは、いつも近くに居た友人の彼がもういないこと。一回忌の今日、亡き彼の実家に、写真の現像引き換え券を届けにいくが、彼の母親から「あなたが引き換えて」と言われる。引き取った写真に映っていたものを見て、夏は彼と過ごした花火をした冬の夜を思い出す・・・
夕方、多摩市役所の「男性は無事発見されました」というアナウンスが流れる・・・
冒頭、赤いツツジが脇に咲く広い坂道が映り、続いて、京王線と小田急線が並行して走る姿。多摩ニュータウンに程近い、高幡不動に住んでいる私には馴染み深い風景。55年前、百草団地に引っ越してきた時には、多摩ニュータウンに団地が立ち始めているのがすぐ眼下に見えましたが、当時は、バスの便も悪く、車なら10数分で行ける多摩センターも遠い場所でした。妹が車を運転するようになってからは、よく家族で四季折々の自然を楽しみに行ったものです。それが、25年前に多摩モノレールが出来て、高幡不動から14分で行けるようになって、ぐっと近い場所になりました。
本作は、清原惟監督が幼稚園の頃に住んでいた多摩ニュータウンの中でも初期に造成されたエリアで撮影されています。木も生い茂り、すっかり落ち着いた団地。
主演の3人の女性は、直接、言葉を交わすことはないけれど、知珠が迷いながら歩いている姿を早苗が見かけたり、夏が踊るのを遠くで真似て知珠が踊っているのに夏が気付く・・・など、さりげない形で触れ合うことが描かれています。私たちも、気が付かないうちに経験している日常。
認知症で徘徊しているおじいさんを演じたのは、アッバス・キアロスタミ監督の遺作『ライク・サムワン・イン・ラブ』の主演を務めた奥野匡さん。すっかりおじいさんになりました。(成りきっているのかもですが)多摩市役所のアナウンスも、ほんとうにあるそうです。
初長編の前作『わたしたちの家』から2作品連続ベルリン国際映画祭に出品。最新作『すべての夜を思いだす』は、2023年/第73回ベルリン国際映画祭フォーラム部門出品の後、日本に先駆け北米公開を果たしています。何気ない日常が、静かに心に響きます。(咲)
◆初日舞台挨拶
3月2日(土) 18:25の回終了後
会場:ユーロスペース(東京都渋谷区円山町1-5 KINOHAUS 3F)
登壇者(予定):清原惟監督、兵藤公美、大場みなみ、内田紅甘、遊屋慎太郎
第26回PFFスカラシップ作品
2022年/日本/116分
配給:一般社団法人PFF
公式サイト:https://subete-no-yoru.com/
★2024年3月2日(土)より渋谷ユーロスペースにて公開ほか全国順次公開
ストリートダンサー 原題:Street Dancer 3D
監督:レモ・デソウザ(『フライング・ジャット』)
出演:ヴァルン・ダワン(『スチューデント・オブ・ザ・イヤー 狙え! No.1!!』)、シュラッダー・カプール(『サーホー』)、プラブデーヴァー(『Rラージクマール』)、ノーラー・ファテーヒー(『バーフバリ伝説誕生 完全版』)
ロンドンを舞台に、インド系移民とパキスタン系移民の2つのダンスグループが、世界一のダンサーを決めるダンス大会「グラウンド・ゼロ」で、優勝を競う物語。
ロンドンで生まれ育ったインド人のサヘージ(ヴァルン・ダワン)は、インド系の仲間たちと「ストリート・ダンサー」というチームでダンスを踊っている。ダンスで膝を痛めた兄のインデル(プニト・パタク)が子どもたちにダンス指導ができるようにとダンススタジオを用意する。自分で踊れなくなったインデルにとって、弟サヘージがダンス大会「グラウンド・ゼロ」で優勝することが夢だ。
一方、パキスタン系移民の娘イナーヤト(シュラッダー・カプール)は、「ルール・ブレイカーズ」というグループを率いて踊っている。
超絶ダンサーのアンナー(プラブ・デーヴァー)がオーナーを務めるレストランで、二つのダンスグループは、インドとパキスタンのクリケットの試合を観戦しながら、喧嘩になる。「ここで喧嘩しないで、ダンス大会で競ってくれ」と仲介に入るアンナー。
ある日、イナーヤトは、アンナーがレストランの残り物を違法滞在している移民たちに配っていることを知る。違法移民の中には、国に帰りたくても帰れない人たちもいることを知ったイナーヤトは、ダンス大会の賞金10万ドルを彼らのために使いたいと、優勝を勝ち取ることを決意する・・・
イナーヤトは、ダンスをしている時には、はじけていて、服装もお腹が見えたりしているのですが、家に入る前には、そっとスカーフを被ります。パキスタン移民の家族が、ムスリムらしく暮らしている様子が垣間見れます。イナーヤトがダンスをしていることは、もちろん家族には秘密です。
サヘージは、両親の故郷であるインドのパンジャーブに行った時に、近所のシク教徒の青年4人からイギリスに行きたいとせがまれ、仲介業者からお金を貰って、自分のダンスの音楽隊だと偽って、イギリスに入国させます。けれども入国後は彼らと決別してしまいます。
その後、サヘージはライバルチームのイナーヤトが、アンナーを手伝って違法移民の人たちに食事を配っていることを知るのですが、その中に、自分が見捨てたシク教徒の4人がいて驚きます。彼らは仲介業者に言われた場所に行ったものの、仕事は得られず、パスポートも燃やし、髪の毛も切られていました。シク教徒にとって髪の毛を切ることはご法度。涙が出ます。
現在のイギリス首相リシ・スナク氏は、イギリスで初めてのアジア系首相。
父方の祖父母は英領インド帝国パンジャーブ地方のグジュラーンワーラー出身のヒンズー教徒で、印パ分離独立後にはパキスタン領となっています。
二つのダンスチームが、クリケットの観戦をしている時、応援しているのがインドなのかパキスタンなのかで、それぞれのルーツがわかりますが、見た目ではほとんどどっちがどっちかわかりません。 パンジャーブ地方が、印パ分離独立でインド側とパキスタン側に二つに分かれたごとく、広いインド亜大陸。多様な人たちがどっちに属しているかは、歴史的背景があってのことだと感じます。
本作では、イギリスで恵まれない人たちに炊き出しを行っているシク教徒系の団体Nishkam SWAT(Sikh Welfare and Awareness Team)の活動がベースになっていて、最後に実際の彼らの活動が映し出されています。
シク教といえば、お寺でのランガル(パンジャーブ語で無料で食事を提供するという意味)が有名。『聖者たちの食卓』(フィリップ・ウィチュス監督、2011年)を思い出しました。
さて、二つのチームは準決勝まで勝ち進み、いよいよ優勝を競うことになります。
結果は、映画をどうぞご覧ください。(咲)
インディアンムービーウィーク2023パート2 で上映されたものが、一般公開されることになりました。
2020年/インド/ヒンディー語/142分 (*ウルドゥー語も)
日本字幕翻訳:佐藤裕之
配給:SPACEBOX
公式サイト:https://spaceboxjapan.jp/streetdancer/
★2024年3月1日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開