2023年12月20日
PERFECT DAYS
監督:ヴィム・ヴェンダース
脚本:ヴィム・ベンダース、高崎卓馬
出演:役所広司(平山)、柄本時生(タカシ)、中野有紗(ニコ)、アオイヤマダ(アヤ)、麻生祐未(ケイコ)、石川さゆり(ママ)、田中泯(ホームレス)、三浦友和(友山)
東京・渋谷でトイレの清掃員として働く平山。スカイツリーの見える下町で一人暮らしている。早朝、目覚めて毎日同じルーティンを繰り返している。しかし、平山にとって同じ日々はなく、常に新鮮だ。カセットテープをかけ、休み時間はフィルムカメラで木々の写真を撮る。芽吹いた木の苗を大切に持ち帰る。家には小さな植木鉢が並んでいる。
公園で会うホームレスの男、一人で弁当を食べるOL,、言葉は交わさないが、平山の毎日の登場人物。地下街のなじみの店はいつもの夕食を出してくれる。休みには古本の文庫を買い、読みながら眠りに落ちる。そんなある日、思いがけない再会を果たした。
簡素な部屋に一人暮らしの男、で思い出したのが役所さん主演の『すばらしき世界』(21)です。極道の世界で生きてきた男・三上が長い刑務所暮らしを経て、すっかり変わってしまった世の中でもがく話でした。今作の平山の過去が明かされず、別の人物の言葉から推測するだけです。全く違うのは表情でした。険しい表情の三上と違って、平山は自分の生き方に迷いがなく、あるがまま享受して過ごしています。「知足」とはこういうことなのでしょう。勝手な同僚のタカシを突き放したりもしません。役所さんは制作にも名を連ね、まるでご本人そのままなのかと思うほど、平山として映画の中にいました。
斬新な渋谷のトイレは[THE TOKYO TOILET]というプロジェクトで作られたもの。全部回ってみたくなります。平山の読む古本、車の中で聞く音楽は公式サイトに紹介されています。少し前に読んだり聞いたりしたことのあるものでした。
ポスターの真ん中に「こんな風に生きていけたなら」と文字が並んでいます。観終わったとき、同じことばが浮かびそうです。(白)
「THE TOKYO TOILET」のことは知らなかったけど、世界で活躍するアーティストたちが関わったアーティスティックなトイレが渋谷にあるというのは知っていました。今回、この映画を観て、調べてみたら17か所もあるということを知りました。
これらのトイレを舞台に、トイレ掃除人が主人公の映画ができ、役所広司さんが演じると知り期待していました。毎日、朝早く、暗いうちからトイレ掃除の仕事に出かけていく様子が繰り返し描かれます。でも同じ毎日はないのです。毎日、仕事場と家での生活が繰り返し描かれる中で、主人公の好みや趣味など好きなことが伝わってきます。好きな音楽、寝る間際の読書などが描かれます。それにしても、今どき、カセットテープがまだある!と嬉しくなりました。私もカセットテープが捨てられず500本以上残っているのですが、これ活用できないかなと思ってしまいました。カセットレコーダーが壊れて以来、聴けていないのです。もう、今時カセットの時代じゃないかなと、カセットレコーダーを買うのはあきらめようと思ったけど、これを観たら、やっぱり買おうと思いました。映画の中で流れた「朝日のあたる家」や「ドッグ・オブ・ザ・ベイ」が懐かしかったです。そして、木漏れ日がすてきでした(暁)。
役所広司さんにトイレの清掃方法を指導した方が、翌日からほんとに働いていただけるほど完璧にマスターしたと絶賛されたそうです。まさにパーフェクトな役所さん。
昨年、松濤界隈を散歩していて、偶然、公園に綺麗で風変わりなおトイレがあるのに出会いました。それが、このTHE TOKYO TOILETのプロジェクトだったと知りました。
かつては、公園のトイレというとよほどの緊急事態でなければ使いたくないという代物でした。今は、駅や公園のトイレもどんどん綺麗になっています。快適なトイレなら、汚さずに使いたくなるのが日本人だと思います。(悲しいかな、綺麗なおトイレを作っても、綺麗に使えない国民性の国を旅したことがあります・・・)
あらためて、常にトイレを綺麗に清掃してくださっている方たちに感謝です。(咲)
●第76回カンヌ国際映画祭 最優秀男優賞ほか各地の映画祭で好評を博し、第96回アカデミー国際長編映画賞のショートリストに日本代表のヴィム・ヴェンダース監督作『PERFECT DAYS』が選出されました。
2022年/日本/カラー/シネスコ/110分
配給:ビターズ・エンド
(C)2023 MASTER MIND Ltd.
https://www.perfectdays-movie.jp/
★2023年12月22日(金)ロードショー
ちっちゃいサムライ 三浦正雄の子供時代
監督・脚本・製作総指揮:佐野 伸寿
カザフスタン側監督:エルラン・ヌルムハムベトフ
撮影監督:ムラト・ヌグマノフ
音声監督:アンドレイ・ウラズネフ
写真:松元隼人
出演: アクタン・アリム・クバト サマル・イスリャモヴァ ダレジャン・ウミルバエフ 佐野史将 小笠原瑛作 三浦ニーナ
14歳でたったひとりカザフスタンに送られ、バルハシ湖・イリ河流域で生き抜いた三浦正雄の子供時代
三浦正雄さん、1932年樺太生まれ。1945年、ソ連軍侵攻。父たちと別れ北海道に避難したが、家族を探しに小型船で樺太に向かう。国境侵犯容疑でソ連軍に逮捕され、1年6ヶ月、刑務所で服役。その後、3年の強制労働を命じられ、カザフスタンのコルホーズに送られる。漁師の助手としての仕事を与えられ、努力家だった三浦さんは漁業だけでなく狩猟の技術も習得。最終的には最良の猟師が任命されるイリ・バルハシ地区の自然監督官を務めた。ソ連崩壊後、1995年一時帰国を果たす。2002年、心臓を患っていた妻ニーナさんの治療を日本で行いたいと永住帰国。
モノクロで描かれる三浦さんの少年時代。コルホーズの所長夫妻は、三浦少年を学校に通わせたいと思うのですが、当局に知られると罰せられることから、出来るだけきびしくない仕事をと、キルギス人の漁師ウビライに三浦少年を託します。
©Studio-D
このウビライを演じているのが、『父は憶えている』が公開中のアクタン・アリム・クバト監督。何気ないながら、圧倒的な存在感です。三浦少年が「スパシーバ」とロシア語でありがとうと言うと、「ラフマットと言いなさい」と、カザフ語・キルギス語など中央アジアの言葉でのありがとうを教えます。三浦少年が熱を出した時には、草に火をつけて煙を頭上で回します。
©Studio-D
コルホーズの所長夫人マリヤムを演じたサマル・イスリャモヴァは、カザフスタンの国民女優。東京国際映画祭グランプリ作品『トルパン』で映画デビュー。2018年、主演作品『アイカ』でカンヌ国際映画祭主演女優賞受賞。モデルとなった実在の方は、映画のように急な転勤を命じられ、そこで夫婦ともに逮捕され、二人とも強制収容所で亡くなっているとのこと。
映画は、危険を感じた所長夫妻が、ウビライに三浦少年を連れて出来るだけ遠くに逃げてほしいと頼み、船を漕ぎだしたところで終わるのですが、この後、第二部がカラーで始まります。
2022年1月19日家族に看取られ、札幌で亡くなられた三浦さんを偲んで、奥様の三浦ニーナさんが語る姿が映し出されます。17歳で三浦さんと結婚したニーナさん。三浦さんと過ごした52年はとても幸せだったと語ります。いい伴侶に恵まれたことを知り、救われる思いでしたが、14歳の少年を逮捕し強制労働させたソ連の無慈悲さに涙が出ます。
イスラエルは、少年たちをも投石したことでテロリストとして逮捕し続けています。なぜ投石するに至ったかに思いも寄せず! 子どもまでをも容疑者にする政府は、いつの時代も戦争をやめない悪だと思います。(咲)
2023年/カザフスタン・日本・キルギス/110分/1.85:1/白黒・カラー/DCP/G
製作総指揮:Studio-D
日本側製作:蒼龍舎
カザフスタン側製作:Film Film Film
支援:AFF2 文化庁
配給:Studio-D JAPAN 配給協力:UPLINK
公式サイト:https://ahiko-samurai.com/
★2023年12月22日(金)よりUPLINK吉祥寺ほか全国順次ロードショー
◆同時公開:『阿彦哲郎物語 戦争の囚われ人』
阿彦哲郎物語 戦争の囚われ人
監督:佐野伸寿 エルダル・カバーロフ アリヤ・ウバリジャノバ
脚本:佐野伸寿 撮影:サマト・シャリポフ
美術:ヌルブラト・ジャバコフ
写真:松元隼人
出演:小笠原瑛作<KNOCKOUT―REDフェザー級王者(クロスポイント吉祥寺)> スルム・カシュカバエフ アサナリ・アシモフ 佐野史将 かざり
カザフスタンのソ連政治犯強制収容所に、たった一人送り込まれながらも生還した阿彦哲郎の物語
1930年、樺太で生まれた阿彦哲郎さん。ソ連侵攻で、幼い弟に母を託して北海道に引揚げさせ、阿彦さんは命ぜられるまま樺太の鉄工所で働く。1948年、ソ連にスパイ容疑で逮捕され10年の刑となる。カザフスタンの強制収容所に送られ、銅鉱山で働かされる。衰弱し、スパスクの療養収容所に移され、そこで出会った医師のお蔭で奇跡的に回復する。スターリンが死んだ翌年の1954年に釈放されるが、そのまま永久流刑となり、KGBの監視下での生活が続く。その後、ドイツ系女性と結婚、1男1女を授かる。ソ連崩壊後の1994年、ようやく日本への一時帰国を果たす・・・
©︎МИНИСТЕРСТВО КУЛЬТУРЫ И СПОРТА РЕСПУБЛИКИ КАЗАХСТАН
阿彦哲郎さんが逮捕され、カザフスタンの強制収容所に送られた時は、まだ未成年。言葉も通じないところに放り込まれ、どれほど不安で、つらかったことかと胸が痛みます。
さらに、10年の刑期を終えれば日本に帰れるという一縷の望みも、永久流刑という形で絶たれてしまうという理不尽。
©︎МИНИСТЕРСТВО КУЛЬТУРЫ И СПОРТА РЕСПУБЛИКИ КАЗАХСТАН
阿彦さんが収監された先で知り合うカザフ人将校アカジャンもまた、ある村の襲撃を命ぜられ、「そこには武装ゲリラはいない」と言ったところ、スパイ容疑で逮捕されたと語っています。
阿彦さんが収容所を出るとき、敬虔なムスリムのカザフ人の年配の男性から、「カザフ人は客人を大事する。ここを出たらカザフ人を訪ねなさい」と言われます。 そんな心優しいカザフの人々をないがしろにしてきたのがソ連。スターリン生誕70周年記念にカザフスタンで核実験を行ったことにも映画で触れています。どれだけ蹂躙すれば気が済むのでしょう・・・
映画の冒頭、ソ連が樺太に侵攻してきた場面の中で、電信局の交換手をしている阿彦家の隣人の女性かざりが、集団自決した場面が出てきました。 1974年に完成しながら、36年の時を経て2020年7月に公開された映画『樺太1945年夏 氷雪の門』で、その時のことが詳しく描かれていました。
『樺太1945年夏 氷雪の門』主演二木てるみさんインタビュー
http://www.cinemajournal.net/special/2010/karahuto/index.html
不可侵条約を破って侵攻してきたソ連。ロシアとなった今も、本質は変わらないと悲しくなります。(咲)
2022年/カザフスタン・日本/112分/1.85:1/カラー/DCP/G
製作企画:カザフスタン共和国文化省 日本カザフスタン国交樹立30周年記念作品 製作:ボリス・チェルダバエフ アリヤ・ウバリジャノバ 吉村秀一 佐野伸寿 支援:文化庁文化芸術振興補助金(国際共同制作映画)
配給:Studio-D JAPAN 配給協力:UPLINK
公式サイト:https://ahiko-samurai.com/
★2023年12月22日(金)よりUPLINK吉祥寺ほか全国順次ロードショー
◆同時公開:『ちっちゃいサムライ 三浦正雄の子供時代』
カザフスタンへ民間人抑留者を描く・2作品『阿彦哲郎物語 戦争の囚われ人』『ちっちゃいサムライ 三浦正雄の子供時代』
シベリアからカザフスタンへの民間人抑留者を描く2作品が同時公開されます。
『阿彦哲郎物語 戦争の囚われ人』
『ちっちゃいサムライ 三浦正雄の子供時代』
1945年8月15日の終戦後、満州にいた旧日本軍の関東軍を中心にソ連により捕虜として57万5千人の将兵軍属等が抑留されたシベリアモンゴル抑留者については一般的に知られていますが、そう言った抑留者とは全く違った形でソ連に取り残された人々がいました。多くは旧日本領の南樺太や千島列島に戦後取り残され、占領後自国領としたソ連治安機関により、スパイ罪や反ソ連活動罪といった政治犯として逮捕され、一般的な戦争捕虜となった抑留者とは全く違った運命をたどりました。その数は、三千人から四千人といわれていますが、現在に至るまで実態は把握されていません。日本国政府も正確に把握できなかったため、何の手立てもなく、かなりの人は、忘れ去られたまま、帰国することなく亡くなってしまいました。
ちなみにカザフスタン共和国内には、引揚者からの聞き取り等で日本政府が把握できたのは、僅かに18名。しかも、その中で、ソ連崩壊後まで生き抜き、消息が確認されたのはたったの4人でした。
映画はその4人の中の阿彦哲郎さんと三浦正雄さんを主人公とした歴史作品。
民間人抑留者はそれぞれが違う理由で逮捕され、それぞれが違う状況の中生き抜いた人たちで、彼らを一つの枠で説明することは困難。全く違う運命を生き抜いた2人の人物のそれぞれの作品を同時公開することにより、民間人抑留者である彼らへの理解がより容易になるというのが製作者たちの思いです。
2作品共通公式サイト:https://ahiko-samurai.com/
★2023年12月22日(金)よりUPLINK吉祥寺ほか全国順次ロードショー
『阿彦哲郎物語 戦争の囚われ人』
監督:佐野伸寿 エルダル・カバーロフ アリヤ・ウバリジャノバ
出演:小笠原瑛作<KNOCKOUT―REDフェザー級王者(クロスポイント吉祥寺)> スルム・カシュカバエフ アサナリ・アシモフ 佐野史将 かざり
カザフスタンのソ連政治犯強制収容所に、たった一人送り込まれながらも生還した阿彦哲郎の物語
戦後、樺太に取り残され、謂れのない罪によって逮捕され、“史上最悪”と悪名高いスターリンの政治犯強制収容所にたった1人の日本人として放り込まれた阿彦哲郎。「日本に帰って家族に会いたい」という思いだけを胸に、生き抜いて収容所から釈放されるまでを描く。
さらに詳細は、こちらで!
http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/501814675.html
2022年/カザフスタン・日本/112分/1.85:1/カラー/DCP/G
製作企画:カザフスタン共和国文化省 日本カザフスタン国交樹立30周年記念作品
製作:ボリス・チェルダバエフ アリヤ・ウバリジャノバ 吉村秀一 佐野伸寿
支援:文化庁文化芸術振興補助金(国際共同制作映画)
配給:Studio-D JAPAN 配給協力:UPLINK
『ちっちゃいサムライ 三浦正雄の子供時代』
監督・脚本・製作総指揮:佐野 伸寿
カザフスタン側監督:エルラン・ヌルムハムベトフ
出演: アクタン・アリム・クバト サマル・イスリャモヴァ ダレジャン・ウミルバエフ 佐野史将 小笠原瑛作 三浦ニーナ
14歳でたったひとりカザフスタンに送られ、バルハシ湖・イリ河流域で生き抜いた三浦正雄の子供時代
終戦直後、疎開していた北海道から家族を探しに行った先の樺太で逮捕され、わずか14歳で日本から8,000kmも離れたカザフスタンに流刑となり、53年もの間をカザフで過ごした三浦正雄。世界でも珍しい淡水と塩水の性質を持つバルハシ湖及びイリ河を舞台に、後年、現地の自然保護官としても活躍した三浦の子供時代を描く。
さらに詳細は、こちらで!
http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/501814684.html
2023年/カザフスタン・日本・キルギス/110分/1.85:1/白黒・カラー/DCP/G
製作総指揮:Studio-D
日本側製作:蒼龍舎
カザフスタン側製作:Film Film Film
支援:AFF2 文化庁
配給:Studio-D JAPAN 配給協力:UPLINK