2023年12月31日
ただ空高く舞え 原題:Soorarai Pottru(勇者に敬礼)
監督:スダー・コーングラー(『最終ラウンド』)
脚本:スダー・コーングラー他
翻案:G.R.ゴーピナート著「Simply Fly: A Deccan Odyssey」
制作:スーリヤ(『24』『Mr.ハンサム-Perazhagan』『NGK』『ジャイ・ビーム-万歳ビームラーオ -Jai Bhim』、ジョーティカー(『チャンドラムキ-Chandramukhi』)
撮影:N・ボンミレッディ
音楽:G・V・プラカーシュ・クマール
編集:サテーシュ・S
出演:スーリヤ、アパルナー・バーラムラリ(『響け!情熱のムリガンダム-Sarvam Thaala Mayam』)
庶民を1ルピーで空を飛ばせてみせる!
インド初の格安航空会社「エア・デカン」の創設者G・R・ゴーピナート大尉著「Simply Fly: A Deccan Odyssey」に基づく物語。
教師の父に逆らい防衛学校に入り空軍士官となったネドゥマーラン。父危篤の知らせを受け、空港に行くがファーストクラスしか席がなく、お金が足りず、仕方なく陸路で故郷に向かうが、死に目どころか葬儀にさえ間に合わなかった。これを機に、ネドゥマーランは空軍の同期生セビーとチェの3人で、庶民でも乗れる格安航空会社「デカン航空」を創る決意をする。計画が軌道に乗り始め、ネドゥマーランはパン屋を営むボンミと結婚する。ネドゥマーランが“ヒーロー”と仰ぐジャズ航空の創設者パレーシュに共同経営を持ちかけるが、飛行機は富裕層のものと断られ、さらにあの手この手で邪魔をされる・・・
金策に行き詰った時、遠慮がちに妻にお金を貸してくれと頼むのですが、妻のボンミは頼まれた以上のお金を出してくれます。村の人たちもこぞってお金を提供すると申し出てくれて、なんとか開業にこぎつけます。初フライトには、母と妻と娘も乗せて安全を保障。母の手には父の写真・・・ 起業家の話ですが、家族の物語にもなっていて、ほろりとさせられます。女性監督らしい細やかな演出を感じます。妻のボンミが自立している女性なのも素敵です。機内食も、妻の経営するパン屋から調達!
掃除婦さんやオートリキシャ運転手さんのような人達でも乗れるようにと、ほんとに1ルピーの席も用意したそうです。その仕組みは、どうぞ映画をご覧ください。(咲)
2020年/インド/タミル語/150分/シネスコ/5.1ch
配給:インド映画同好会
公式サイト:http://idemovie.org X:@indoeigadokokai
★2024年1月6日(土)より新宿K’s cinema他全国順次公開
☆『ヴィクラムとヴェーダ ヒンディ語版』同時期公開
ヴィクラムとヴェーダ 原題:Vikram Vedha
監督/脚本:ブシュカル&ガーヤトリ(『ヴィクラムとヴェーダー』タミル語版)
制作:S・シャシカーント他
撮影:P・S・ヴィノード
音楽:サム・C・S
編集:リチャード・ケヴィン・A
出演:リティク・ローシャン(『WARウォー!!』『バンバン!』)、サイフ・アリー・カーン(『エージェント・ヴィノッド最強のスパイ』)
2017年に大ヒットしたタミル語映画『ヴィクラムとヴェーダー』の監督自身によるヒンディー語リメイク (タミル語版はヴェーダー、ヒンディー語版はヴェーダ)
古都ラクナウ。優秀な警視ヴィクラムは、同僚の警視アッバースと共に、悪党ヴェーダを標的にして、偽装襲撃(エンカウンター・キリング。司法に因らず、警察が容疑者を殺害する行為)に血道を上げている。ところが、ヴェーダが自首してきて、ヴィクラムに13年前のことを話し出す。当時カーンプルを支配するギャングの親玉の新米部下だったヴィクラム。溺愛する弟シャタクが、因縁をつけられ手に鉄串を刺され、ヴェーダは復讐に乗り出した。ここでヴェーダはヴィクラムに問う。シャタクに鉄串を刺した実行犯を罰するべきか、指令を出したボスを罰するべきかと。
ヴェーダは古くから伝承されたインドの説話集「屍鬼二十五話」を基にしながら「善と悪」「善と悪の境界線」を語り続け、最後にヴィクラムは我を忘れるほど驚愕する・・・
ヴィクラム警視の妻プリヤーはよりによってヴェーダの担当弁護士で、ヴェーダを保釈します。ヴェーダの行方を知りたいヴィクラムは妻の通話を盗聴。仕事を家庭に持ち込まないでと、家の外で仕事の話をする二人。プリヤーは、ヴェーダを探すならと、「ニハーリーとクルチャー」を出す料理屋をヒントに出します。ニハーリーは北インドからパキスタンにかけて作られるお肉のシチュー。クルチャーはパンの一種。クルチャーを3回ニハーリーにつけて食べるのが流儀と映画の中で食しています。
プリヤーはなかなかのやり手弁護士ですが、ゥ゙ェーダの弟シャタクの恋人チャンダーもまた利発な女性。事件に絡んできます。
いったい誰が悪人なのか・・・ よ~く注意して観ていないと、話がこんがらがりますが、あまり細かいことは気にせず、リティク・ローシャン演じるヴィクラム警視とサイフ・アリー・カーン演じるヴェーダの会話、そして、魅力的な女性たちに注目して楽しんでください。 ラクナウの町の風情も味わえます。(咲)
2022年/インド/ヒンディー語/157分/シネスコ/5.1ch
配給:インド映画同好会
公式サイト:http://idemovie.org X:@indoeigadokokai
★2024年1月6日(土)より新宿K’s cinema他全国順次公開
☆『ただ空高く舞え』同時期公開
2023年12月29日
彼方のうた
監督・脚本:杉田協士
撮影:飯岡幸子
音楽:スカンク/SKANK
出演:小川あん(春)、中村優子(雪子)、眞島秀和(剛)、
書店員の春は駅前のベンチに座っていた雪子に道を尋ねるふりをして声をかける。春は雪子の顔に見える悲しみを見過ごせずにいた。一方で春は剛の後をつけながら、その様子を確かめる日々を過ごしていた。春にはかつてこどもだった頃、街中で見かけた雪子や剛に声をかけた過去があった。春の行動に気づいていた剛が春の職場に現れることで、また、春自身がふたたび雪子に声をかけたことで、それぞれの関係が動き出す。春は二人と過ごす日々の中で、自分自身が抱えている母親への思い、悲しみの気持ちと向き合っていく。
『ひとつの歌』『ひかりのうた』『春原さんのうた』につづく杉田協士監督の新作。これまでの作品同様、3人の登場人物は多くを語りません。最少の言葉で、伝えあいます。時間がゆったり流れていて、小さな感情のゆらぎにさえ反応できる静けさがありました。思いやりがひたひたとしみてきます。語彙力が足りない・・・
過剰な情報にさらされている今日この頃、ほったらかしだった想像力と創造力を使います。考えるな、感じろ!とリー様に言われそうな。(白)
2023年/日本/カラー/スタンダード/84分
配給:イハフィルムズ
(C)2023 Nekojarashi Inc.
https://kanatanouta.com/
★2023年1月5日(金)よりポレポレ東中野、渋谷シネクイント、池袋シネマ・ロサほか全国順次公開
Web3時代のメディア配信プラットフォームRoadsteadにて、独占配信予定!
マイ・ハート・パピー 原題:멍뭉이(モンムンイ) 英題:My♡Puppy
監督:キム・ジュファン『ミッドナイト・ランナー』)
出演:ユ・ヨンソク(『ニューイヤー・ブルース』)、チャ・テヒョン(『猟奇的な彼女』『神と共に 第一章 罪と罰』)、チョン・インソン(「ウラチャチャ My Love」)、パク・ジンジュ『サニー 永遠の仲間たち』)、キム・ユジョン(「雲が描いた月明かり」)、イ・ホジョン(『ミッドナイト・ランナー』)、ウ・ドファン(『ディヴァイン・フューリー/使者』)
出版社に勤めるミンスは、退社時間になると飛び出し、愛犬ルーニーの待つ家に帰る毎日だ。ある日、ルーニーとの散歩はお預けにして、身なりを整えて出かける。台湾旅行で知り合って1000日目のソンギョンにプロポーズ。無事OKを貰えるが、実は彼女が犬アレルギーだと知る。ルーニーを信頼できる人に預けるしかないと、従兄のジングクに相談する。ジングクは夢だったカフェを借金してオープンしたもののつぶれてしまい、時間はあるからと一緒にルーニーの里親を探す旅に出る・・・
里親探しの旅で出会う人たちを演じているのが、韓国映画やドラマでお馴染みの人たち。ネットでルーニーそっくりの犬を飼っている少女を見つけて訪ねるのですが、少女のパパ役はリュ・スヨン! 坡州に住む叔父は、カン・シニル。叔父はボストンに住む娘のところに行かなければならなくなったと、飼っている犬のレイを逆に預かってほしいと頼まれてしまいます。さらに二人は道中で生まれたばかりの5匹の捨て犬を見捨てられず、道連れに。済州島で保護犬をたくさん引き取っているお嬢様がいると知って、木浦港からフェリーで済州へ・・・
ルーニーの里親を見つけるどころか、どんどん増えてしまうワンちゃんたち。従兄ジングクを演じているのが、チャ・テヒョンなので、笑える映画なのは予想していましたが、ありえない展開! 原題「멍뭉이(モンムンイ)」は、ワンちゃんという意味だそうです。犬好きにはたまらない映画でしょう。
ミンスの彼女ソンギョンは、犬が嫌いなわけじゃなくて、親ゆずりの犬アレルギー。最後は、ハッピーな解決策で終わります。な~んだ、それなら里親を探す必要はなかったじゃないかと言ってしまっては元も子もありません。思わぬ出演者と共に韓国各地の景色もどうぞ楽しんでください。(咲)
2023年/韓国/韓国語/5.1ch/113分
字幕翻訳:蔡七美
配給:AMGエンタテインメント
公式サイト:https://myheartpuppy.jp/
★2024年1月2日(火)シネマート新宿ほか全国順次公開
2023年12月26日
無理しない ケガしない 明日も仕事!新根室プロレス物語
監督:湊寛
取材・編集:堀威
撮影:芦崎秀樹・目黒悦男
音楽:阿南亮子
ナレーション:柴田平美(北海道文化放送アナウンサー)
語り:安田顕
出演:サムソン宮本、オッサンタイガー、TOMOYA、MCマーシー、ねね様、アンドレザ・ジャイアントパンダ 他
”新根室プロレス”は、市内でおもちゃ屋を営むサムソン宮本が2006年に立ち上げた。宮本のプロレス愛と地元愛がさく裂して、100万円のリングも購入。メンバーを集めて神社のお祭りなどで興行をうち、地元の人々を楽しませてきた。集まったメンバーも宮本と同じプロレス好き、本業のかたわらトレーニングに励んだ。サムソンは一人人地にリングネームをつけ、覆面や衣装を考案「無理しない ケガしない 明日も仕事!」をモットーに、個性的なメンバーはイケてなかった過去など蹴り飛ばし、光り輝いていった。
しかし、地元に愛され人気者になっていった2019年9月、宮本は治療不可能な難病に侵されたことを発表、涙の解散宣言をした。
世のプロレス好きのお父さん、お兄さん、いや私のおばあちゃんも好きだったなと思い出しました。エンターテイメントと知りつつ、テレビの前で熱く応援していた人は多いですよね。そんなプロレス愛の塊のようなサムソン宮本さんと仲間たちを映像に残したのは、北海道文化放送(uhb)です。初めはニュース映像として取材したのが、テレビ版ドキュメンタリーとなり、数々の賞を受賞。このたびそれをもとに映画化されました。
宮本さんの娘さんがなんとも恥ずかし気でしたが、まさに命がけの引退試合に臨んだお父さんには力いっぱいの声援を送ります。リング上ではコミカルなパフォーマンスが続いているのですが、私も涙と鼻水をふきふき見守りました。こんな風に映像に残ってよかったですね、サムソン宮本さん、新根室プロレスの皆様。(白)
プロレスやボクシングなどの格闘技自体は好きじゃないのに、格闘技を描いた映画には、結構惹かれます。筆頭は、『反則王』(2000年)。ソン・ガンホ演じる銀行員が、なんでもありの覆面プロレスラーとして活躍する物語。ほんと、笑いました。『あゝ、荒野』では、ボクシングに挑む菅田将暉とヤン・イクチュンを息を殺して見守りました。劇映画より、さらに心に沁みるのが格闘技に挑む人を描いたドキュメンタリー。『ジョーのあした 辰吉丈一郎との20年』や『オリ・マキの人生で最も幸せな日』などを思い出します。一つのことに打ち込む姿に胸を打たれます。
本作も、大好きなプロレスで、皆を楽しませたいという宮本さんはじめ根室の皆さんの姿が素敵でした。残念ながら宮本さんはこの世を去ってしまいましたが、プロレスの楽しさが忘れられない人たちのこと、若いメガネのプリンスTOMOYAさんを中心に、きっとこれからも新根室プロレス、いえ、真根室プロレスとして皆を楽しませてくれるでしょう!(咲)
2024年/日本/カラー/DCP/79分
配給:太秦
(C)北海道文化放送
http://new-nemuro-pro-wrestling-movie.com/
★2024年1月2日(火)ポレポレ東中野
★2024年1月6日(土)シアターキノほか全国順次公開
ブルーバック あの海を見ていた(原題:Blueback)
監督・脚本:ロバート・コノリー(『渇きと偽り』)
原作・脚本協力:ティム・ウィントン「ブルーバック」(さ・え・ら書房刊)
出演:ミア・ワシコウスカ(アビー)、アリエル・ドノヒュー(アビー/幼少期)、イルサ・フォグ(アビー役/青年期)、ラダ・ミッチェル(ドラ)、リズ・アレクサンダー(ドラ役/晩年期)、ペドレア・ジャクソン(ブリッグス役/青年期)、クラレンス・ライアン(ブリッグス)、エリック・トムソン(コステロ)、エリック・バナ(マッカ)
海洋生物学者のアビーは、母のドラが脳卒中で倒れたと知らせを受け、急遽故郷のオーストラリアに戻った。美しいターコイズブルーの海は昔のままだが、開発の波が少しずつ押し寄せていた。アビーは口がきけなくなった母の世話をしながら、少女時代を思い起こす。
ドラは若いころから熱心な環境活動家で、アビーは母から海のすばらしさを学び、今の道を選んだのだった。8歳の誕生日に初めて潜った入江で、大きな青い魚に出会い、”ブルーバック”と名前をつけた。。
ロケ地は西オーストラリア州のブレマー・ベイ(Bremer Bay)。ブレマー川の河口にあり、州都のパースから車で5時間半。オルカ(シャチ)、シードラゴン(タツノオトシゴ)の観察ツアーで有名なのだとか。この映画にもザトウクジラの群れが出てきました。
あの人懐こい青い魚はベラ科の「ウエスタン・ブルーグローバー」。長命な個体は70年も生きるそうです。雌雄同体が一般的で、オス1匹、メス1,2匹と幼魚たちが暮らし、オスが群れからいなくなると、メスの1匹がオスに変化するとか。なんと面白い生態なんでしょう。
美しい海を観ていて、基地のために埋め立てられる沖縄の海が浮かびました。戦争で痛めつけられた後、土地を米軍に明け渡さなければならなかった沖縄の人たちを思いました。(白)
耳石とよばれる魚の耳の骨は平衡感覚をつかさどる組織で、樹木の年輪のように1年に1本の輪紋が刻まれるそうです。巨大な青い魚の“ブルーバック”は、耳石の輪紋から約70年生きられることがわかっているとのこと。乱獲してしまっては、長生きの魚も絶えてしまいます。
本作は、美しい海と生態系を守ろうと日々活動する母親を見て育った少女が海洋生物学者となり、母と故郷を思う物語。海洋保護区となった故郷の美しい湾は、母の努力がなければとっくに開発が進んでいたかもしれません。
97年に出版されたティム・ウィントンの原作小説に魅了されたロバート・コノリー監督が、映画化の夢を叶えて作り上げました。コノリー監督が2020年に製作し、オーストラリア映画史上、大ヒットを記録した『渇きと偽り』は、干ばつの続くオーストラリアの大地を舞台にしたサスペンスフルな一作でした。本作は母と娘の情も描いた環境保護を考えさせられる心温まる物語です。(咲)
2022年/オーストラリア/カラー/スコープ/102分
配給:エスパース・サロウ
(C)2022 ARENAMEDIA PTY LTD, SCREENWEST (AUSTRALIA) LTD AND SCREEN AUSTRALIA
https://blueback.espace-sarou.com/
★2023年12月29日(金)シネスイッチ銀座ロードショー
僕が宇宙に行った理由
監督・撮影:平野陽三
出演:前澤友作、アレクサンダー・ミシュルキン、平野陽三、小木曽詢、山崎直子
少年時代にハレー彗星を見て以来の夢「宇宙旅行」を実現させた前澤友作氏。ネット通販の2015年にプロジェクトが始動、カメラは前澤氏に密着して撮影開始。実に7年をかけて2021年12月にソユーズに乗船。一人の民間人が過酷な訓練を経て、宇宙へ飛び立ち国際宇宙ステーション(ISS)に12日間滞在、無事に帰還するまでを記録した貴重なドキュメンタリー。大人になっても夢を見続け、挑戦を恐れない前澤さん、彼を支える友人や家族たち。国が主導した宇宙への旅とは、一味も二味もちがう感動がここにある。
宇宙へ向かうドキュメンタリー映画やドラマはいくつも観てきましたが、民間人が実際に行けるんだ!とまず驚きました。お金を出して豪華客船にただ座って楽しめばいい、というものではありません。宇宙飛行士は同乗するけれども、乗客の前澤さんも平野カメラマンも宇宙旅行に耐えられるかどうかのテストに始まり、NASAやカザフスタンで厳しい訓練を受けます。高速回転したり、大きな圧力を受けたり、様々な機器の扱いなどのプロの宇宙飛行士と同じスキルを身につけます。心身ともに健康でなければ宇宙へは行けません。それをクリアして初めて観られる景色を、劇場で一緒に観ることができます。
圧倒的な映像に、今地球で頻発している戦争や、国や地域や家庭、自分自身の中での様々な問題が雲散霧消していきます。残ったのが本当に大切なこと。世の為政者をみな宇宙に送り出せたなら、もっと広い視野を持てて争いが減るのではと夢見てしまいます。その前にトレーニング段階で失格か。
ZOZOを創業した前澤氏は長者番付に載る資産家です。自分で稼いだお金を宇宙旅行に使い、次は12人で月旅行を計画しているそうです。それも実現させるんでしょうね。
夢を見ること、それを実現するために何ができるか、しなければならないことに挑戦しよう、と前澤さん。実際に体験した人のことばと映像に勝るものはありません。高校生以下の鑑賞料金は500円!!(白)
夢を持てば叶うというけれど、宇宙に行きたいという夢は、並大抵の努力で叶うものではありません。でも、叶えてしまったのですから、すごい! 宇宙に飛び立つ前に、通常なら6か月は必要な訓練も、3か月でこなしました。前澤さんの精神力に感服です。それにちゃんとついていった平野監督や、控えの方もすごいです。前澤さんのご両親は、息子がこんなことを成し遂げるとはと驚きながらも、静かに見守っていらして、とても素敵でした。
前澤さんたちが行った先は、世界各地の人たちが集う国際宇宙ステーション(ISS)。宇宙から見える地球は青くて、国境もありません。かつて前澤さんが立ち上げた会社が株式上場した時に、仲間5人でNO WARになる衣装で鐘を鳴らしました。その時の写真をパズルにして、無重力の宇宙で組み立てました。国際宇宙ステーションで働く人たちは、ぞれぞれの国の税金で来ているから、「NO WAR」という言葉を発するのも実は簡単ではないことを知りました。自分のお金で行った前澤さんだからこそ出来たこと。それなのに、宇宙から帰って2か月後、ロシアがウクライナに侵攻。ロシアには宇宙飛行でお世話になっただけに複雑な思いなのではないでしょうか・・・ いつか「NO WAR」の思いが叶うことを、私も願うばかりです。(咲)
2023年/日本/カラー/DCP/89分
配給:ナカチカピクチャーズ
(c)2023「僕が宇宙に行った理由」製作委員会
https://whyspace-movie.jp/#modal
https://twitter.com/whyspace_movie
★2023年12月29日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
2023年12月24日
アンブッシュ 原題:Al Kameen 英題:The Ambush
監督:ピエール・モレル(『96時間』)
出演:マルワーン・アブドゥッラ・サーリフ、 ハリーファ・アル・ジャースィム、 ムハンマド・アフマド、 アブドゥッラ・サイード・ビン・ハイダル ほか
2018年、イエメン南部に駐在しているUAE軍のアリ、ビラル、ヒンダシの3人。最新兵器で武装した装甲車で戦闘地帯の住民へ支援物資を運びながら、渓谷部をパトロールしていた時、敵に待ち伏せされ、突然襲われる。ゲリラ戦になり、アリたちは渓谷に隠れながらRPG(ロケット弾)や離れた場所からの狙撃を受け、次第に孤立し追いつめられていく。UAE軍は通信機器も使えない仲間を救うため、装甲車、ドローン、ヘリコプター、戦闘機、と総力を挙げて戦地に向かう・・・
2015年から今も続くイエメン内戦の中で起こったUAE軍の軍人が亡くなった実話をもとに描いた戦争アクション映画。
なぜイエメンで内戦が続いているのかについての言及がないので、奇襲(アンブッシュ)に対して果敢に戦った兵士を描いたUAEのプロパガンダ映画という様相は否めません。
1996年の年末にイエメンを訪れ、ほんの6日間ですが南北各地を回りました。1990年に南北イエメンが統一し、1994年に内戦が起こったものの落ち着いた時期でした。
北イエメンの山岳地帯では山の上に城壁のように4~5階建ての石造りの家が並んでいました。首都サナアなど平地にある家も同じく高層の石造りで1階には窓がなく、敵から攻められない造り。
山岳地帯では、谷の下に商店などがあり、谷底では戦わないという暗黙の了解。争いごとが起こった時には、谷底でお互いの長がまず話し合うと聞いたことがあります。かつて「幸福のアラビア」と呼ばれ交易で繁栄したイエメンですが、もともと部族間や宗派間の対立が多かった地。彼らなりの秩序を保つ方法が長年あったはず。
2015年、北イエメンの北部を拠点としたシーア派武装組織フーシ派がイエメンからの分離独立を主張して武装蜂起。イランが支援していると言われ、サウディアラビアを始めとするスンニ派アラブ諸国がハーディー政権を後押し。いまだ内戦状態が続いています。
ロシアのウクライナ侵攻、そしてイスラエルのパレスチナ・ガザ地区侵攻で、すっかり忘れ去られているイエメン内戦のことを、この映画を機に思い起こしていただければと思います。周辺国が関わることで、内戦が決して終わらないことも!(咲)
2021年/アラブ首長国連邦・フランス/アラビア語/111分/カラー/シネマスコープ/5.1ch
字幕翻訳:髙橋彩、字幕監修:大久保義信
配給:クロックワークス
公式サイト https://klockworx-v.com/ambush/
★2023年12月29日(金)より新宿バルト9ほか全国公開
2023年12月21日
赤い糸 輪廻のひみつ(原題:月老 Till We Meet Again)
監督・原作・脚本:ギデンズ・コー
出演:クー・チェンドン(シャオルン)、ビビアン・ソン(シャオミー)、ワン・ジン(ピンキー)、マー・ジーシアン(鬼頭成グイトウチェン)
シャオルンは雷に打たれて若死にしてしまい、冥界にやってきた。生前の記憶が抜け落ちて、何も思い出せない。人間に生まれ変わるには、徳を積まねばならない。やはり不慮の死をとげたピンキーとペアになり「月老(ユエラオ)」として、現世の恋人たちの縁結びをすることになった。赤い糸を二人の指に結ぶと、運命の恋に落ちる。腕輪の玉が全部白に変わるように、シャオルンとピンキーは頑張っていた。
ある日、シャオルンのもとに駆けてきた一匹の犬を見て、小学生のころから飼っていたアルーだとわかった。そして幼馴染みのシャオミンとの約束を思い出す。
『あの頃、君を追いかけた』(2011)で日本でもファンを増やしたギデンズ・コー監督作品。当時高校生のコートンを演じて最優秀新人俳優賞を受賞したクー・チェンドン(柯震東)と再びのタッグです。
冥界の受付は旧式のパソコンを使っていて、魂が転生を繰り返すたびに記録が残り、古い記録は木や竹に書かれて山積みになって膨大です。効率が悪そう。ちょっと覗きたくなる舞台美術でした。「月老(ユエラオ)」は高校の制服のようなスタイルなので、みんな若く見えて青春映画の様相となっています。日本のホラー映画を思い出すキャラも登場します。迫力ある鬼頭成(グイトウチェン)のバトルがちょっと怖い。喜怒哀楽全部入りで賑やかな作品です。
TIFFで上映された『ミス・シャンプー』(2023)もギデンズ・コー&クー・チェンドンの新作ですが、ダニエル・ホンとビビアン・ソンが主演。そちらはNetflix配信になりました。(白)
「純愛冥界ファンタジー」と名打っているけど、「冥界もの」は台湾では今ブームなのかな? 台湾でヒットして、この夏(2023)日本でも公開された『僕と幽霊が家族になった件』も亡くなった人との結婚(冥婚)を描いた作品だった。こちらは爆笑コメディだけど、最後はホロリという内容だった。
そして『赤い糸 輪廻のひみつ』は、亡くなった人が徳を積むことで再び人間に生まれ変わることもできるという話の元、縁結びの神職として、仲間とともに現世で人の縁を繋ぐ役目を果たすためバトル(笑)が展開される。それにしてもギデンズ・コーの作品は奇天烈な発想が多い。手首の数珠に白珠と黒珠がミックスであって、白珠の数が多いのは生前の善行が多く、その数により何に転生するかが決められるという。そういう発想ほか、人と人との縁をつなぐのに「赤い糸」が使われ、人と人を赤い糸で結んで白珠を増やすと、徳を積むということらしい。そしていろいろなことが、走馬灯のように目まぐるしく物事が進みすぎ、私にはちょっとついていけない部分もあった(笑)。輪廻転生をモチーフにした摩訶不思議なストーリーは、中華圏お得意の冥界ファンタジー!!(暁)
2021年/台湾/カラー/シネスコ/128分
配給:台湾映画社、台湾映画同好会
(C)2023 MACHI XCELSIOR STUDIOS ALL RIGHTS RESERVED.
https://taiwanfilm.net/yuelao/
★2023年12月22日(金)シネマート新宿・シネマート心斎橋 他にて公開
2023年12月20日
PERFECT DAYS
監督:ヴィム・ヴェンダース
脚本:ヴィム・ベンダース、高崎卓馬
出演:役所広司(平山)、柄本時生(タカシ)、中野有紗(ニコ)、アオイヤマダ(アヤ)、麻生祐未(ケイコ)、石川さゆり(ママ)、田中泯(ホームレス)、三浦友和(友山)
東京・渋谷でトイレの清掃員として働く平山。スカイツリーの見える下町で一人暮らしている。早朝、目覚めて毎日同じルーティンを繰り返している。しかし、平山にとって同じ日々はなく、常に新鮮だ。カセットテープをかけ、休み時間はフィルムカメラで木々の写真を撮る。芽吹いた木の苗を大切に持ち帰る。家には小さな植木鉢が並んでいる。
公園で会うホームレスの男、一人で弁当を食べるOL,、言葉は交わさないが、平山の毎日の登場人物。地下街のなじみの店はいつもの夕食を出してくれる。休みには古本の文庫を買い、読みながら眠りに落ちる。そんなある日、思いがけない再会を果たした。
簡素な部屋に一人暮らしの男、で思い出したのが役所さん主演の『すばらしき世界』(21)です。極道の世界で生きてきた男・三上が長い刑務所暮らしを経て、すっかり変わってしまった世の中でもがく話でした。今作の平山の過去が明かされず、別の人物の言葉から推測するだけです。全く違うのは表情でした。険しい表情の三上と違って、平山は自分の生き方に迷いがなく、あるがまま享受して過ごしています。「知足」とはこういうことなのでしょう。勝手な同僚のタカシを突き放したりもしません。役所さんは制作にも名を連ね、まるでご本人そのままなのかと思うほど、平山として映画の中にいました。
斬新な渋谷のトイレは[THE TOKYO TOILET]というプロジェクトで作られたもの。全部回ってみたくなります。平山の読む古本、車の中で聞く音楽は公式サイトに紹介されています。少し前に読んだり聞いたりしたことのあるものでした。
ポスターの真ん中に「こんな風に生きていけたなら」と文字が並んでいます。観終わったとき、同じことばが浮かびそうです。(白)
「THE TOKYO TOILET」のことは知らなかったけど、世界で活躍するアーティストたちが関わったアーティスティックなトイレが渋谷にあるというのは知っていました。今回、この映画を観て、調べてみたら17か所もあるということを知りました。
これらのトイレを舞台に、トイレ掃除人が主人公の映画ができ、役所広司さんが演じると知り期待していました。毎日、朝早く、暗いうちからトイレ掃除の仕事に出かけていく様子が繰り返し描かれます。でも同じ毎日はないのです。毎日、仕事場と家での生活が繰り返し描かれる中で、主人公の好みや趣味など好きなことが伝わってきます。好きな音楽、寝る間際の読書などが描かれます。それにしても、今どき、カセットテープがまだある!と嬉しくなりました。私もカセットテープが捨てられず500本以上残っているのですが、これ活用できないかなと思ってしまいました。カセットレコーダーが壊れて以来、聴けていないのです。もう、今時カセットの時代じゃないかなと、カセットレコーダーを買うのはあきらめようと思ったけど、これを観たら、やっぱり買おうと思いました。映画の中で流れた「朝日のあたる家」や「ドッグ・オブ・ザ・ベイ」が懐かしかったです。そして、木漏れ日がすてきでした(暁)。
役所広司さんにトイレの清掃方法を指導した方が、翌日からほんとに働いていただけるほど完璧にマスターしたと絶賛されたそうです。まさにパーフェクトな役所さん。
昨年、松濤界隈を散歩していて、偶然、公園に綺麗で風変わりなおトイレがあるのに出会いました。それが、このTHE TOKYO TOILETのプロジェクトだったと知りました。
かつては、公園のトイレというとよほどの緊急事態でなければ使いたくないという代物でした。今は、駅や公園のトイレもどんどん綺麗になっています。快適なトイレなら、汚さずに使いたくなるのが日本人だと思います。(悲しいかな、綺麗なおトイレを作っても、綺麗に使えない国民性の国を旅したことがあります・・・)
あらためて、常にトイレを綺麗に清掃してくださっている方たちに感謝です。(咲)
●第76回カンヌ国際映画祭 最優秀男優賞ほか各地の映画祭で好評を博し、第96回アカデミー国際長編映画賞のショートリストに日本代表のヴィム・ヴェンダース監督作『PERFECT DAYS』が選出されました。
2022年/日本/カラー/シネスコ/110分
配給:ビターズ・エンド
(C)2023 MASTER MIND Ltd.
https://www.perfectdays-movie.jp/
★2023年12月22日(金)ロードショー
ちっちゃいサムライ 三浦正雄の子供時代
監督・脚本・製作総指揮:佐野 伸寿
カザフスタン側監督:エルラン・ヌルムハムベトフ
撮影監督:ムラト・ヌグマノフ
音声監督:アンドレイ・ウラズネフ
写真:松元隼人
出演: アクタン・アリム・クバト サマル・イスリャモヴァ ダレジャン・ウミルバエフ 佐野史将 小笠原瑛作 三浦ニーナ
14歳でたったひとりカザフスタンに送られ、バルハシ湖・イリ河流域で生き抜いた三浦正雄の子供時代
三浦正雄さん、1932年樺太生まれ。1945年、ソ連軍侵攻。父たちと別れ北海道に避難したが、家族を探しに小型船で樺太に向かう。国境侵犯容疑でソ連軍に逮捕され、1年6ヶ月、刑務所で服役。その後、3年の強制労働を命じられ、カザフスタンのコルホーズに送られる。漁師の助手としての仕事を与えられ、努力家だった三浦さんは漁業だけでなく狩猟の技術も習得。最終的には最良の猟師が任命されるイリ・バルハシ地区の自然監督官を務めた。ソ連崩壊後、1995年一時帰国を果たす。2002年、心臓を患っていた妻ニーナさんの治療を日本で行いたいと永住帰国。
モノクロで描かれる三浦さんの少年時代。コルホーズの所長夫妻は、三浦少年を学校に通わせたいと思うのですが、当局に知られると罰せられることから、出来るだけきびしくない仕事をと、キルギス人の漁師ウビライに三浦少年を託します。
©Studio-D
このウビライを演じているのが、『父は憶えている』が公開中のアクタン・アリム・クバト監督。何気ないながら、圧倒的な存在感です。三浦少年が「スパシーバ」とロシア語でありがとうと言うと、「ラフマットと言いなさい」と、カザフ語・キルギス語など中央アジアの言葉でのありがとうを教えます。三浦少年が熱を出した時には、草に火をつけて煙を頭上で回します。
©Studio-D
コルホーズの所長夫人マリヤムを演じたサマル・イスリャモヴァは、カザフスタンの国民女優。東京国際映画祭グランプリ作品『トルパン』で映画デビュー。2018年、主演作品『アイカ』でカンヌ国際映画祭主演女優賞受賞。モデルとなった実在の方は、映画のように急な転勤を命じられ、そこで夫婦ともに逮捕され、二人とも強制収容所で亡くなっているとのこと。
映画は、危険を感じた所長夫妻が、ウビライに三浦少年を連れて出来るだけ遠くに逃げてほしいと頼み、船を漕ぎだしたところで終わるのですが、この後、第二部がカラーで始まります。
2022年1月19日家族に看取られ、札幌で亡くなられた三浦さんを偲んで、奥様の三浦ニーナさんが語る姿が映し出されます。17歳で三浦さんと結婚したニーナさん。三浦さんと過ごした52年はとても幸せだったと語ります。いい伴侶に恵まれたことを知り、救われる思いでしたが、14歳の少年を逮捕し強制労働させたソ連の無慈悲さに涙が出ます。
イスラエルは、少年たちをも投石したことでテロリストとして逮捕し続けています。なぜ投石するに至ったかに思いも寄せず! 子どもまでをも容疑者にする政府は、いつの時代も戦争をやめない悪だと思います。(咲)
2023年/カザフスタン・日本・キルギス/110分/1.85:1/白黒・カラー/DCP/G
製作総指揮:Studio-D
日本側製作:蒼龍舎
カザフスタン側製作:Film Film Film
支援:AFF2 文化庁
配給:Studio-D JAPAN 配給協力:UPLINK
公式サイト:https://ahiko-samurai.com/
★2023年12月22日(金)よりUPLINK吉祥寺ほか全国順次ロードショー
◆同時公開:『阿彦哲郎物語 戦争の囚われ人』
阿彦哲郎物語 戦争の囚われ人
監督:佐野伸寿 エルダル・カバーロフ アリヤ・ウバリジャノバ
脚本:佐野伸寿 撮影:サマト・シャリポフ
美術:ヌルブラト・ジャバコフ
写真:松元隼人
出演:小笠原瑛作<KNOCKOUT―REDフェザー級王者(クロスポイント吉祥寺)> スルム・カシュカバエフ アサナリ・アシモフ 佐野史将 かざり
カザフスタンのソ連政治犯強制収容所に、たった一人送り込まれながらも生還した阿彦哲郎の物語
1930年、樺太で生まれた阿彦哲郎さん。ソ連侵攻で、幼い弟に母を託して北海道に引揚げさせ、阿彦さんは命ぜられるまま樺太の鉄工所で働く。1948年、ソ連にスパイ容疑で逮捕され10年の刑となる。カザフスタンの強制収容所に送られ、銅鉱山で働かされる。衰弱し、スパスクの療養収容所に移され、そこで出会った医師のお蔭で奇跡的に回復する。スターリンが死んだ翌年の1954年に釈放されるが、そのまま永久流刑となり、KGBの監視下での生活が続く。その後、ドイツ系女性と結婚、1男1女を授かる。ソ連崩壊後の1994年、ようやく日本への一時帰国を果たす・・・
©︎МИНИСТЕРСТВО КУЛЬТУРЫ И СПОРТА РЕСПУБЛИКИ КАЗАХСТАН
阿彦哲郎さんが逮捕され、カザフスタンの強制収容所に送られた時は、まだ未成年。言葉も通じないところに放り込まれ、どれほど不安で、つらかったことかと胸が痛みます。
さらに、10年の刑期を終えれば日本に帰れるという一縷の望みも、永久流刑という形で絶たれてしまうという理不尽。
©︎МИНИСТЕРСТВО КУЛЬТУРЫ И СПОРТА РЕСПУБЛИКИ КАЗАХСТАН
阿彦さんが収監された先で知り合うカザフ人将校アカジャンもまた、ある村の襲撃を命ぜられ、「そこには武装ゲリラはいない」と言ったところ、スパイ容疑で逮捕されたと語っています。
阿彦さんが収容所を出るとき、敬虔なムスリムのカザフ人の年配の男性から、「カザフ人は客人を大事する。ここを出たらカザフ人を訪ねなさい」と言われます。 そんな心優しいカザフの人々をないがしろにしてきたのがソ連。スターリン生誕70周年記念にカザフスタンで核実験を行ったことにも映画で触れています。どれだけ蹂躙すれば気が済むのでしょう・・・
映画の冒頭、ソ連が樺太に侵攻してきた場面の中で、電信局の交換手をしている阿彦家の隣人の女性かざりが、集団自決した場面が出てきました。 1974年に完成しながら、36年の時を経て2020年7月に公開された映画『樺太1945年夏 氷雪の門』で、その時のことが詳しく描かれていました。
『樺太1945年夏 氷雪の門』主演二木てるみさんインタビュー
http://www.cinemajournal.net/special/2010/karahuto/index.html
不可侵条約を破って侵攻してきたソ連。ロシアとなった今も、本質は変わらないと悲しくなります。(咲)
2022年/カザフスタン・日本/112分/1.85:1/カラー/DCP/G
製作企画:カザフスタン共和国文化省 日本カザフスタン国交樹立30周年記念作品 製作:ボリス・チェルダバエフ アリヤ・ウバリジャノバ 吉村秀一 佐野伸寿 支援:文化庁文化芸術振興補助金(国際共同制作映画)
配給:Studio-D JAPAN 配給協力:UPLINK
公式サイト:https://ahiko-samurai.com/
★2023年12月22日(金)よりUPLINK吉祥寺ほか全国順次ロードショー
◆同時公開:『ちっちゃいサムライ 三浦正雄の子供時代』
カザフスタンへ民間人抑留者を描く・2作品『阿彦哲郎物語 戦争の囚われ人』『ちっちゃいサムライ 三浦正雄の子供時代』
シベリアからカザフスタンへの民間人抑留者を描く2作品が同時公開されます。
『阿彦哲郎物語 戦争の囚われ人』
『ちっちゃいサムライ 三浦正雄の子供時代』
1945年8月15日の終戦後、満州にいた旧日本軍の関東軍を中心にソ連により捕虜として57万5千人の将兵軍属等が抑留されたシベリアモンゴル抑留者については一般的に知られていますが、そう言った抑留者とは全く違った形でソ連に取り残された人々がいました。多くは旧日本領の南樺太や千島列島に戦後取り残され、占領後自国領としたソ連治安機関により、スパイ罪や反ソ連活動罪といった政治犯として逮捕され、一般的な戦争捕虜となった抑留者とは全く違った運命をたどりました。その数は、三千人から四千人といわれていますが、現在に至るまで実態は把握されていません。日本国政府も正確に把握できなかったため、何の手立てもなく、かなりの人は、忘れ去られたまま、帰国することなく亡くなってしまいました。
ちなみにカザフスタン共和国内には、引揚者からの聞き取り等で日本政府が把握できたのは、僅かに18名。しかも、その中で、ソ連崩壊後まで生き抜き、消息が確認されたのはたったの4人でした。
映画はその4人の中の阿彦哲郎さんと三浦正雄さんを主人公とした歴史作品。
民間人抑留者はそれぞれが違う理由で逮捕され、それぞれが違う状況の中生き抜いた人たちで、彼らを一つの枠で説明することは困難。全く違う運命を生き抜いた2人の人物のそれぞれの作品を同時公開することにより、民間人抑留者である彼らへの理解がより容易になるというのが製作者たちの思いです。
2作品共通公式サイト:https://ahiko-samurai.com/
★2023年12月22日(金)よりUPLINK吉祥寺ほか全国順次ロードショー
『阿彦哲郎物語 戦争の囚われ人』
監督:佐野伸寿 エルダル・カバーロフ アリヤ・ウバリジャノバ
出演:小笠原瑛作<KNOCKOUT―REDフェザー級王者(クロスポイント吉祥寺)> スルム・カシュカバエフ アサナリ・アシモフ 佐野史将 かざり
カザフスタンのソ連政治犯強制収容所に、たった一人送り込まれながらも生還した阿彦哲郎の物語
戦後、樺太に取り残され、謂れのない罪によって逮捕され、“史上最悪”と悪名高いスターリンの政治犯強制収容所にたった1人の日本人として放り込まれた阿彦哲郎。「日本に帰って家族に会いたい」という思いだけを胸に、生き抜いて収容所から釈放されるまでを描く。
さらに詳細は、こちらで!
http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/501814675.html
2022年/カザフスタン・日本/112分/1.85:1/カラー/DCP/G
製作企画:カザフスタン共和国文化省 日本カザフスタン国交樹立30周年記念作品
製作:ボリス・チェルダバエフ アリヤ・ウバリジャノバ 吉村秀一 佐野伸寿
支援:文化庁文化芸術振興補助金(国際共同制作映画)
配給:Studio-D JAPAN 配給協力:UPLINK
『ちっちゃいサムライ 三浦正雄の子供時代』
監督・脚本・製作総指揮:佐野 伸寿
カザフスタン側監督:エルラン・ヌルムハムベトフ
出演: アクタン・アリム・クバト サマル・イスリャモヴァ ダレジャン・ウミルバエフ 佐野史将 小笠原瑛作 三浦ニーナ
14歳でたったひとりカザフスタンに送られ、バルハシ湖・イリ河流域で生き抜いた三浦正雄の子供時代
終戦直後、疎開していた北海道から家族を探しに行った先の樺太で逮捕され、わずか14歳で日本から8,000kmも離れたカザフスタンに流刑となり、53年もの間をカザフで過ごした三浦正雄。世界でも珍しい淡水と塩水の性質を持つバルハシ湖及びイリ河を舞台に、後年、現地の自然保護官としても活躍した三浦の子供時代を描く。
さらに詳細は、こちらで!
http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/501814684.html
2023年/カザフスタン・日本・キルギス/110分/1.85:1/白黒・カラー/DCP/G
製作総指揮:Studio-D
日本側製作:蒼龍舎
カザフスタン側製作:Film Film Film
支援:AFF2 文化庁
配給:Studio-D JAPAN 配給協力:UPLINK
2023年12月16日
香港の流れ者たち(原題:濁水漂流 英題:Drifting)
監督・脚本:ジュン・リー(李駿碩)
プロデューサー:マニー・マン
撮影:レオン・ミンカイ
音楽:ウォン・ヒンヤン
出演:フランシス・ン(呉鎮宇)、ツェー・クワンホウ(謝君豪) ロレッタ・リー(李麗珍)
セシリア・チョイ(蔡思韵) 、チュー・パクホン(朱栢康)、 ベイビー・ボウ(寶珮如) 、ウィル・オー
刑務所を出たファイは、もといた街・深水埗(シャムスイポー)へ戻った。ラムじいが出所祝いにくれたクスリでシャバに戻ったのを実感する。ホームレス仲間たちの居場所は高架下。たびたびやってきていた食物環境衛生署が、ある日事前通告なしにファイたちの家財を全てゴミとして処分してしまう。彼らがゴミとみなしたものの中には、身分証明書や家族の思い出の品もあった。
ソーシャルワーカーの若い女性、ホーは新人だからか、熱心にホームレスのサポートをしてくれる。なくなったものは取り戻せないが、賠償と謝罪を求めて裁判をすることになった。ファイに病院に行くよう勧め、ラムじいの家族を探す。
ファイはハーモニカを吹く青年と仲良くなるが、彼は記憶も言葉も忘れていた。名前も思い出せない彼を「モク」と呼ぶことにした。二人は夜中に無人の建築中のビルに上って深水埗の街を見下ろす。ファイはモクに語りかける。
「深水埗は貧乏人が住む町だ。高級マンションを建てて、貧乏人はどこへ行く? 」
久々のフランシス・ン(香港映画ファンはジャンユーと広東語読み)の主演作が公開されます。2016年の東京国際映画祭で『シェッド・スキン・パパ』が上映され、渋谷の会場にW主演のルイス・クー(息子役)と舞台挨拶&トークをしたのを思い出します。フリルのついたシャツでお洒落でした。
この作品で演じるのは、うらぶれたホームレスのファイ、過酷な暮らしからか薬物中毒にもなっています。これまで見たことのないジャンユーにこういう役にもなりきれるんだと、ファンたちは驚くと同時に嬉しいのではないでしょうか。役の幅が拡がれば長く活躍できますから。
香港ノワールと呼ばれた犯罪もの、アクションものが人気だった香港映画界ですが、最近は市井の人々の暮らしを丁寧に描いた作品が目につきます。香港の薬師丸ひろ子と言われていたロレッタ・リーも出演。年齢を重ねても可愛らしいです。(白)
(白)さんが紹介している『シェッド・スキン・パパ』舞台挨拶でのフリルのついたシャツのフラさま。(ジャンユーを私は「さま」を付けてお呼びしています。)
東京国際映画祭 香港の名優フランシス・ンが脱皮して7変化!? 『シェッド・スキン・パパ』にほろり(咲)
深水埗といえば、電気街があって香港の秋葉原ともいわれ、安い洋服屋さんも並ぶいかにもの下町。啓徳空港があった頃は、深水埗の町の上を舐めるようにして飛行機が降りてくるので、よく飛行機のお腹を眺めにいったものです。1990年代、目立つ建物といえば、最上階に屋内ジェットコースター(今は休止)のある西九龍中心(ドラゴン・センター)位だったでしょうか。 フラさま演じるファイの「高級マンションを建てて、貧乏人はどこへ行く? 」の言葉に、変わりゆく深水埗を思いました。
フラさまはじめ、香港のスターたちがホームレスに徹するあまり、「街中の撮影でも彼らに気付く人はほぼいませんでした。そのおかげで撮影はやりやすかったです(笑)。おかげで撮影はトータル22日間で終わりました!彼らの熱演には感謝しかありません。」と、ジュン・リー監督が初日12月16日のオンライントークイベントで語ったそうです。私もその場に出くわしても、きっと気がつかなったと思うほど、皆なりきってました。(咲)
この映画は、実際の事件を元に作られたという。「和解金か?謝罪/尊厳か─!?」という選択をせまられたホームレスの人々。それぞれの思い、こだわり、人間としての尊厳を描いていた。
日本でも香港でも、ホームレス排除が進んでいる。開発という名の貧乏人排除。「貧乏人はどこへ行かされる?」である。深水埗には行ったことがないけど、香港の繁華街、尖沙咀(チムサッチョイ)でも新宿でも、以前に比べたらホームレスの姿を見なくなった。私の印象では1994年に初めて香港に行った時には、尖沙咀の裏街でも空き缶を積んだ大八車のような台車を押している人を見たが、数年後には見かけなくなった。それらの人たちが住むところを得たのならよかったと言えるけど、単に外国人が来るような街から排除されてしまったのか。この映画を観たら、実際のホームレスたちは減ったのではなく、やはり追い出されて「流れ者」として、あちこち散らばっただけなのかもしれないと思った。そして九龍城に住んでいたたくさんの人たちは、どこへ散らばって行ったんだろうと思いを馳せた。
それにしても呉鎮宇(ン・ジャンユー)のいっちゃっている演技すごい! 謝君豪(ツェー・クワンホウ)も、「どこ?」状態だった(笑)。(暁)
2021年/香港/カラー/DCP/112分/日本語字幕:小木曽三希子
配給:cinema drifters
(C)mm2 Studios Hong Kong
https://hknagaremono.wixsite.com/official
★2023年12月16日(土)よりユーロスペースほか全国ロードショー
未帰還の友に
監督:福間雄三
原作:太宰治「未帰還の友に」
脚本:大隅充 福間雄三
撮影:根岸憲一
出演:窪塚俊介(先生)、土師野隆之介(鶴田康平)、清水萌茄(マサ子)、萩原朔美(井伏鱒二)、矢島諒、君澤透
小説家の「先生」のところには学生たちがやってくる。酒を酌み交わしては、文学や国家の話に花咲かせる。学生の中でもよく気が合ったのは仙台出身の鶴田だった。次第に手に入りにくくなった酒をなんとか飲みたいと、先生はおでん屋のおやじに娘のマサ子の縁談を持ち掛ける。帝大の学生だぞと鶴田を人身御供に、酒にありつくのだった。マサ子と鶴田は思いのほか仲良くなるが、戦況はますます厳しく、学生にも召集令状が届くようになった。学生たちは恋の経験もないままに次々と戦地へ送られていく。
原作は太宰治「未帰還の友に」。小説家の「先生」は太宰治本人のことと思われます。先生を慕って集まってくる酒を飲みたいばかりにあれこれ算段する先生と学生たち。学生たちと鮭を酌み交わし、声高ではなく反戦を繰り返し唱えている作品。
窪塚さん演じる先生は、写真で知る太宰と雰囲気が似て、親しい学生たちが兵隊にとられて帰ってこない悲哀をにじませています。戦後の日本を背負う若者を国のためと死なせてしまう国家と、無為に過ごしている自分への怨嗟もみてとれます。自分の家族や恋仲の女性の話でなく、年代を越えて結ぶ友情を描いたこういう作品のほうがいいなぁ。
鶴田を演じた土師野隆之介さんは『ロボット修理人のAi(愛)』(2020/田中じゅうこう監督)で、インタビューさせていただきました。当時高校3年で学校からそのまま取材場所に来てくれました。素直で明るい男の子で、また映画で会えて嬉しいです。無事に進学した後、ただ今ノルウェーに留学中。instaに写真がたくさんありました。(白)
2023年/日本/カラー/DCP/75分
配給:トラヴィス
https://mikikan.com/
★2023年12月15日(金)アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
ティル(原題:TILL)
監督:シノニエ・チュクウ
脚本:マイケル・レイリー、キース・ボーチャンプ、シノニエ・チュクウ
撮影:ボビー・ブコウスキー
出演:ダニエル・デッドワイラー(メイミー・ティル)、ジェイリン・ホール(エメット・ティル)
フランキー・フェイソン、ヘイリー・ベネット(キャロリン)、ウーピー・ゴールドバーグ(アルマ)
1955 年、イリノイ州シカゴ。メイミー・ティルは、夫が戦死して以来唯一の黒人女性として空軍で働いている。夫の忘れ形見の一人息子・ボボことエメットは明るく元気な少年に育った。14歳のボボはもう大きくなったから、とミシシッピ州の親類の家を一人で訪ねると主張する。祖母のアルマも大人になるいい機会だからと、ボボを後押しし、メイミーは南部の黒人差別をよく説明して送り出した。
しかし、ボボはマネーの雑貨店で、店番の白人の女の子キャロリンに話しかけたことで、怒りをかってしまう。白人の男たちに寝ているところを襲われ、連れ去られてしまう。リンチを受けた後遺体は川に投げ捨てられた。我が子と対面したメイミーは、変わり果てた愛息子の姿に、悲しみと怒りで打ちのめされる。メイミーは、思いがけない行動に出て、大きな感動と社会を動かすエネルギーを呼び起こしていく。
1955 年 8 ⽉ 28 ⽇にアメリカ合衆国ミシシッピ州マネーで実際に起きた「エメット・ティル殺害事件」を元に映画化しました。映画の冒頭では、陽気で屈託のない一人息子と母との生活が紹介され、亡き夫の分までもメイミーが息子を愛情いっぱいに育てたことがわかります。南部へ出かけることの懸念は当たってしまい、惨殺された息子に会ったメイミーの悲しみは想像すらできません。
事件に関わった男二人は逮捕され、裁判はあったものの陪審員は全て白人。すぐに無罪になってしまいます。のちにジャーナリストに殺したことを認めますが、その間罪の意識に苛まれることはなかったのでしょうか。口笛を吹かれたと怒ったキャロリンは、事実を隠して嘘の証言をしましたが、罪に問われることもなく今年亡くなったそうです。映画は母親メイミーの勇気ある行動と、その後を描いています。
観ているだけで胸が苦しくなるような内容ですが、観て少しでも知らなければ申し訳ない気がしました。エメット・ティルの事件は、黒人の公民権運動に大きな影響を与えました。80年近く経ってどれほ変わったでしょう?いまだ差別の感情が残っていることは、その後の事件を見ても明らかです。なんと根深いのだろうと溜息が出るばかり。
祖母のアルマを演じるウーピー・ゴールドバーグが制作にもあたっています。(白)
2022年/アメリカ/カラー/シネスコ/130分
配給:パルコ
(C)2022 Orion Releasing LLC. All rights reserved.
https://www.universalpictures.jp/micro/till
★2023年12月15日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国公開中
2023年12月15日
99%、いつも曇り
監督・脚本・編集:瑚海(さんごうみ)みどり
撮影:須藤しぐま
音楽:34423
出演:瑚海みどり(楠木一葉)、二階堂智(楠木大地)、曾我部洋士(大河原誠)、亀田祥子(大河原夏美)、月田啓太(大河原啓太)、
永楠あゆ美(佐々木樹里)、Ami Ide(司)、KOTA(あずみ)、吉岡礼恩(悦生)、根口昌明(マサアキ)、野井一十(おっちゃん)浅地直樹(児玉)、井上薫(古瀬)、露木心菜(ここな)、露木容子(ここなのお母さん)
一葉はアスペルガー傾向(発達障害グレーゾーン)にある女性。おしゃべりでパワフル、正義感が強い。思ったことがすぐ口から出てしまうので、人との摩擦も多い。母親の一周忌の日、叔父に「子どもはもう作らないのか」と言われて心が騒ぐ。一葉は年齢のせいでもう産めないと返事をするが、気持ちが収まらない。15年前に流産したことでわだかまりがあった。夫の大地は、一葉の性格やアスペルガー傾向のことを理解しているが、それでもすれ違いや衝突は起きてしまう。
アスペルガー症候群は、現在は自閉症、広汎性発達障害など軽度から重度までも含めて「自閉症スペクトラム症=ASD(autism spectrum disorder)」と総称されるようになりました。近年多くなっている印象がありますが、急速に社会に認知されるようになってきたせいかもしれません。発達障害という言葉でひとくくりにできないほど、その現れ方も千差万別です。
この映画では、そのグレーゾーンにある一葉のこだわりや悩みを描いています。誰にもわけへだてなく、人に関わりすぎる一葉は、正直な子どもの心を持っている人。夫はまるで一葉の保護者のように寛大な大人で、いい人に巡り合いました。でも会社でストレスが溜まっても妻に愚痴をこぼすことはできません。きっと一葉は過剰に反応してしまうでしょうから。
我が家にもASDと診断された子が一人います。振り返ると私も子どものころから、ひどくそそっかしくて注意力散漫、科目によって成績の差が激しく、一人も平気でわが道を歩いて来たような気がします。こだわりも特化すれば才能になる・・・はずです。
「妊娠・出産の自由」を阻む社会については、(暁)さんに語ってもらいますね。(白)
これはアスペルガー症候群の女性を描いた作品だけど、もうひとつの側面は、「子供をもつ・もたない」について考える映画でもあります。
かつて流産をしたことで、子供を作らないつもりだった一葉と夫の大地。叔父に「子どもはもう作らないのか」と言われて心が騒いでしまった一葉は、夫もほんとは子供が欲しいのではないかと考えてしまい、夫に確認すればいいのにそれもせず、すでに子供を産める年ではないので、一人で養子縁組のことを調べて、養子縁組をしている法人を訪ねたりと先走ります。でも夫はそうは思っていなかった。
「結婚したら子供をつくる」という考え方が世間一般の常識のようになっていて、叔父のように、悪気なく「子どもは作らないの?」と、世間の人は言います。ここ数年、出生率の低下が話題になっているけれど、おかげで、産めない人、子供はほしくないと考える人に対する圧力は大きく、一葉も「やっぱり子供は必要なのかな」と悩むのです。社会のニーズや圧力によって、子供を産まなくてはと思わず、人の意見に左右されない社会が理想だと思うので、最後にはそのようにたどり着いてほっとしました。
この作品のタイトルは『99%、いつも曇り』ですが、吉田夕日監督の『1%の選択』という作品も11月11日から公開されています。こちらは出産に際して助産婦さんに依頼するのは1%未満とのことでつけられたタイトルですが、助産婦さんの仕事を紹介した作品です。偶然とはいえ、同じ時期に「子供をもつということ&親になること」に関する映画が公開されているので、こちらも観て、日本における「出産の自由」について考えてみませんか(暁)。
(撮影:宮崎暁美)
★瑚海みどり監督インタビュー記事はこちらです。
2023年/日本/カラー/110分
配給:35 Films Parks
(C)35 Films Parks
https://35filmsparks.com/
★2023年12月15日(金)よりアップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
2023年12月10日
駒田蒸留所へようこそ
2023年11月10日(金)全国ロードショー
上映情報
P.A. WORKS「お仕事シリーズ」オリジナル長編アニメーション最新作
原作:KOMA復活を願う会
監督:吉原正行
脚本:木澤行人、中本宗応
キャラクター原案:高田友美
キャラクターデザイン・総作画監督:川面恒介
音楽:加藤達也
出演
駒田琉生:早見沙織
高橋光太郎:小野賢章
河端朋子:内田真礼
安元広志:細谷佳正
東海林努:辻親八
斉藤裕介:鈴村健一
駒田滉:堀内賢雄
駒田澪緒:井上喜久子
駒田圭:中村悠一
蒸留所の再起に奮闘する若き女社長が家族の絆をつなぐ“幻のウイスキー”復活を目指す!
『花咲くいろは』『SHIROBAKO』『サクラクエスト』『白い砂のアクアトープ』。「働くこと」をテーマに日々奮闘するキャラクターを描いてきたP.A.WORKSによる”お仕事シリーズ”のオリジナル長編アニメーション最新作は、世界でも注目されるようになった日本ウイスキーの蒸留所が舞台。
先代社長の父が亡くなり、実家の「駒田蒸留所」を継いだ若き女性社長駒田琉生(こまだるい)が、経営難の蒸留所の立て直しを社員とともに行う姿、父と決別し出て行ってしまった兄との関係修復、災害の影響で製造できなくなった「家族の絆」とも呼べる幻のウイスキー「独楽」の復活を目指す。蒸留所の再起に奮闘する駒田琉生と、夢もやる気もなかった新米編集者高橋光太郎の奮闘物語。
アニメはほとんど観ない私だけど、2週間くらい前、六本木で試写を観たあと、タイトルに惹かれ、TOHOシネマズ六本木で偶然観たのがこの作品。NHKの朝ドラ「マッサン」を見た後、北海道余市にあるニッカウイスキーの蒸留所を訪ねたことがあり、ウイスキーがどのような工程を経てできてくるのかということに興味があった。この映画では、かつて父が社長だった時代にあった幻のウイスキー「KOMA(コマ)」(独楽)を復活させることに関連して、いろいろ物語が進むのだけど、父と兄との決別からの離散や家族の復活、お酒を飲めない母だけど、その母の思いが「独楽」の復活に大きな力になっていったりと、とてもすてきな物語になっていた。もうひとりの主人公光太郎の、最初頼りない姿から、ウイスキーのことを知っていくにつれ、人生の進む方向をみつける姿に力強さを感じた。
光太郎が取材に通うようになった駒田蒸留所だけど、描かれた景色や道路標識から、舞台は信州の御代田町なのかと思い、信州が第二の故郷である私はそれにも興味を持った。そんなところに蒸留所があるのなら行ってみたいと思い、どこなんだろうと調べてみた。
信州でウイスキーと言えば「マルス信州蒸溜所」というのがあり、マルスウイスキーは何度か買ったこともある。ここがモデルなのかなと思ったけど、駒(こま)は駒でも、マルス信州蒸溜所は、長野県の中央アルプス「木曽駒ヶ岳」の麓だった。そして調べていたら、ここ数年で野沢温泉蒸留所や、小諸蒸留所というのができていた。それを知って、このところワイナリーめぐりが続いていたけど、ウイスキーの蒸留所にも行ってみたいと思った。
この映画の駒田蒸留所は架空の設定だったけど、モデルになったのは富山県砺波市にある若鶴酒造の三郎丸蒸留所とのこと。「三郎丸蒸留所」代表兼マスターブレンダー、ジャパニーズウイスキーボトラーズ「T&T TOYAMA」創業者の稲垣貴彦さんがウイスキーの設定監修を務めているのだそう。また、この映画の中に出てくる幻のウイスキーとして登場する「KOMA(コマ)」の再現に挑戦しているようです。
まだ映画公開は続いているので、興味を持った方はぜひ観に行ってみてください(暁)。
*劇場アニメ「駒田蒸留所へようこそ」 幻のウイスキー「KOMA」復活プロジェクト
https://camp-fire.jp/projects/view/651044
公式サイト https://gaga.ne.jp/welcome-komada/
2023年製作/91分/G/日本
アニメーション制作:P.A.WORKS
製作:DMM.com
配給:ギャガ
上映情報
P.A. WORKS「お仕事シリーズ」オリジナル長編アニメーション最新作
原作:KOMA復活を願う会
監督:吉原正行
脚本:木澤行人、中本宗応
キャラクター原案:高田友美
キャラクターデザイン・総作画監督:川面恒介
音楽:加藤達也
出演
駒田琉生:早見沙織
高橋光太郎:小野賢章
河端朋子:内田真礼
安元広志:細谷佳正
東海林努:辻親八
斉藤裕介:鈴村健一
駒田滉:堀内賢雄
駒田澪緒:井上喜久子
駒田圭:中村悠一
蒸留所の再起に奮闘する若き女社長が家族の絆をつなぐ“幻のウイスキー”復活を目指す!
『花咲くいろは』『SHIROBAKO』『サクラクエスト』『白い砂のアクアトープ』。「働くこと」をテーマに日々奮闘するキャラクターを描いてきたP.A.WORKSによる”お仕事シリーズ”のオリジナル長編アニメーション最新作は、世界でも注目されるようになった日本ウイスキーの蒸留所が舞台。
先代社長の父が亡くなり、実家の「駒田蒸留所」を継いだ若き女性社長駒田琉生(こまだるい)が、経営難の蒸留所の立て直しを社員とともに行う姿、父と決別し出て行ってしまった兄との関係修復、災害の影響で製造できなくなった「家族の絆」とも呼べる幻のウイスキー「独楽」の復活を目指す。蒸留所の再起に奮闘する駒田琉生と、夢もやる気もなかった新米編集者高橋光太郎の奮闘物語。
アニメはほとんど観ない私だけど、2週間くらい前、六本木で試写を観たあと、タイトルに惹かれ、TOHOシネマズ六本木で偶然観たのがこの作品。NHKの朝ドラ「マッサン」を見た後、北海道余市にあるニッカウイスキーの蒸留所を訪ねたことがあり、ウイスキーがどのような工程を経てできてくるのかということに興味があった。この映画では、かつて父が社長だった時代にあった幻のウイスキー「KOMA(コマ)」(独楽)を復活させることに関連して、いろいろ物語が進むのだけど、父と兄との決別からの離散や家族の復活、お酒を飲めない母だけど、その母の思いが「独楽」の復活に大きな力になっていったりと、とてもすてきな物語になっていた。もうひとりの主人公光太郎の、最初頼りない姿から、ウイスキーのことを知っていくにつれ、人生の進む方向をみつける姿に力強さを感じた。
光太郎が取材に通うようになった駒田蒸留所だけど、描かれた景色や道路標識から、舞台は信州の御代田町なのかと思い、信州が第二の故郷である私はそれにも興味を持った。そんなところに蒸留所があるのなら行ってみたいと思い、どこなんだろうと調べてみた。
信州でウイスキーと言えば「マルス信州蒸溜所」というのがあり、マルスウイスキーは何度か買ったこともある。ここがモデルなのかなと思ったけど、駒(こま)は駒でも、マルス信州蒸溜所は、長野県の中央アルプス「木曽駒ヶ岳」の麓だった。そして調べていたら、ここ数年で野沢温泉蒸留所や、小諸蒸留所というのができていた。それを知って、このところワイナリーめぐりが続いていたけど、ウイスキーの蒸留所にも行ってみたいと思った。
この映画の駒田蒸留所は架空の設定だったけど、モデルになったのは富山県砺波市にある若鶴酒造の三郎丸蒸留所とのこと。「三郎丸蒸留所」代表兼マスターブレンダー、ジャパニーズウイスキーボトラーズ「T&T TOYAMA」創業者の稲垣貴彦さんがウイスキーの設定監修を務めているのだそう。また、この映画の中に出てくる幻のウイスキーとして登場する「KOMA(コマ)」の再現に挑戦しているようです。
まだ映画公開は続いているので、興味を持った方はぜひ観に行ってみてください(暁)。
*劇場アニメ「駒田蒸留所へようこそ」 幻のウイスキー「KOMA」復活プロジェクト
https://camp-fire.jp/projects/view/651044
公式サイト https://gaga.ne.jp/welcome-komada/
2023年製作/91分/G/日本
アニメーション制作:P.A.WORKS
製作:DMM.com
配給:ギャガ
きっと、それは愛じゃない 原題:What's Love Got to Do with It?
監督: シェカール・カプール
脚本:ジェミマ・カーン
出演: リリー・ジェームズ、シャザド・ラティフ、シャバナ・アズミ、エマ・トンプソン、サジャル・アリー
ロンドンでドキュメンタリー監督として活躍するゾーイ。実家の隣のパキスタン人の一家の次男の結婚パーティに招かれる。長男で医師のカズとは幼馴染。久しぶりに会ったカズから、「僕も結婚する」と明かされる。それも親が選ぶ相手と見合いすると聞かされ驚く。
翌日、プロデューサーから新作の企画が暗すぎると却下されたゾーイは、咄嗟に「見合い結婚するパキスタン男性を追う」と提案。ゴーサインが出る。
親の知り合いの紹介で、パキスタンのラホールに住む22歳のマイムーナとオンライン見合し婚約。ゾーイはラホールでの結婚式を撮影する為、カズについていく。
ラホールで初めて実際に会ったカズとマイムーナに、「愛は生まれると思う?」とインタビューするゾーイ。実は、カズはゾーイの初恋の人。ダメ男ばかりに出会っては別れを繰り返してきたゾーイは、複雑な思い。いよいよ3日間にわたる結婚式が始まる・・・
日本でも、かつてはお見合い結婚が一般的な時代がありましたが、私の知人のパキスタンの方も、この映画のように親の決めた相手と顔も知らないまま結婚式に臨み、5人の子に恵まれ、とても幸せと言ってます。
一方で、この映画の冒頭、臨家の次男の結婚式で、肌を出した服装で踊る女性たちに、お祖母さんが「恥を知れ」と顔をしかめる場面があります。カズの結婚相手マイムーナも、独身最後のパーティでお酒を飲んで踊るという、はじけぶり。パキスタンの女の子たちも、決しておとなしくしていないことを描いていて痛快。 脚本を書いたジェミマ・カーンはイギリス出身ですが、20歳の時にパキスタン人(前首相のイムラン・カーン氏)と結婚し、ラホールとイスラマバードで10年間過ごした経験があって、パキスタン女性への応援歌のようにも思えました。しっとりとしたラホールの町の風情も味わえて、ラホール出身のシェカール・カプールや、ジェミマ・カーンのパキスタン愛もたっぷり感じました。なにより、ヌスラット・ファテ・アリー・ハーンと、ラハット・ファテ・アリー・ハーンの演奏によるカウワーリー(イスラーム神秘主義音楽)が聴けたのは、私にとってサプライズでした。
さて、ゾーイの初恋の行方は? どうぞ映画をご覧ください。(咲)
2022年/イギリス/英語・ウルドゥー語/109分/カラー/スコープ/5.1ch
字幕翻訳:チオキ真理
提供: 木下グループ 配給: キノフィルムズ
公式サイト:https://wl-movie.jp/
★2023年12月15日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、恵比寿ガーデンシネマほか全国公開
枯れ葉 原題:KUOLLEET LEHDET 英語題:FALLEN LEAVES
監督・脚本:アキ・カウリスマキ
撮影:ティモ・サルミネン
出演:アルマ・ポウスティ(『TOVE/トーベ』)、ユッシ・ヴァタネン(『アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場』)、ヤンネ・フーティアイネン、ヌップ・コイヴ
ヘルシンキの街の片隅で孤独を抱えながら生きる女と男。
アンサは理不尽な理由で仕事を失い、ホラッパは酒に溺れながらもどうにか工事現場で働いている。ある夜、二人はカラオケバーで出会い、惹かれ合う。男から、電話したいと言われ、紙に電話番号を書いて渡すも、お互いの名前は名乗らないまま。ホラッパは電話番号を書いた紙をなくしてしまう。そんなこととは知らず、電話を待つアンサ・・・
アキ・カウリスマキ監督自ら、労働者3部作(『パラダイスの夕暮れ』『真夜中の虹』『マッチ工場の少女』)に連なる“第4作目”と位置付ける作品。
仕事にも愛にも恵まれない中年の二人が、寄り添って生きたいと願う気持ちが切ないです。そんな二人が一緒に観に行く映画が、ジム・ジャームッシュ監督の『デッド・ドント・ダイ』。デートにふさわしいかどうか別にして、アキ・カウリスマキ監督のジム・ジャームッシュへの思いを感じます。
映画の中で、ロシアによるウクライナ侵攻のニュースがしばしば流れ、ロシアと国境を接しているフィンランドにとって、決して他人事ではないこととして人々は受け止めているのではと思います。
公式サイトに掲載されている監督メッセージが、いかにもアキ・カウリスマキらしいです。
「取るに足らないバイオレンス映画を作っては自分の評価を怪しくしてきた私ですが、無意味でバカげた犯罪である戦争の全てに嫌気がさして、ついに人類に未来をもたらすかもしれないテーマ、すなわち愛を求める心、連帯、希望、そして他人や自然といった全ての生きるものと死んだものへの敬意、そんなことを物語として描くことにしました。それこそが語るに足るものだという前提で」(一部引用)
これまでのアキ・カウリスマキ監督作品同様、ちょっとした仕草や、会話の間の取り方にも、そこはかとない可笑しみを感じます。
2017年、『希望のかなた』のプロモーション中に監督引退宣言をされたアキ・カウリスマキですが、そんな宣言は忘れたかのように復帰したのも彼らしくて嬉しいです。 最後に流れる「枯れ葉」の懐かしいメロディーにグッときました。(咲)
◎受賞歴
第76回カンヌ国際映画祭審査員賞
2023年国際批評家連盟賞年間グランプリ
第59回シカゴ国際映画祭最優秀監督賞
第40回ミュンヘン映画祭バイエルン2&SZ観客賞
第20回シネフェスト・ミシュコルツ国際映画祭Zukor Adolf賞(グランプリ)
2023年/フィンランド・ドイツ/81分/1.85:1/ドルビー・デジタル5.1ch/DCP/フィンランド語
配給:ユーロスペース 提供:ユーロスペース、キングレコード
公式サイト:https://kareha-movie.com/
★2023年12月15日(金)よりユーロスペースほか全国ロードショー
2023年12月09日
ポトフ 美食家と料理人 原題:La Passion de Dodin Bouffant
監督:トラン・アン・ユン
脚本・脚色:トラン・アン・ユン
出演:ジュリエット・ビノシュ、ブノワ・マジメル
料理監修:ピエール・ガニェール
19世紀末、フランスの片田舎。〈食〉を追求し芸術にまで高め、料理界のナポレオンと呼ばれる美食家ドダンと、彼が閃いたメニューを完璧に再現する料理人ウージェニー。二人は20年にわたって絆を育んできたが、ドダンの求婚にウージェニーはなかなか応えない。
ある日、ユーラシア皇太子から晩餐会に招待されたドダンは、豪華なだけで論理もテーマもない大量の料理にうんざりする。皇太子から料理人に指名されたドダンは、フランスの家庭で何世紀にもわたって作られてきたシンプルな料理〈ポトフ〉をメニューに決めたとウージェニーに打ち明ける。「リスキーで大胆ね」とウージェニー。準備に勤しんでいる中、ウージェニーが倒れてしまう。ドダンは人生で初めて、すべて自分の手で作る渾身の料理で、愛するウージェニーを元気づけようと決意する・・・
デビュー作『青いパパイヤの香り』のまったりとした情感が忘れられないベトナム出身のトラン・アン・ユン監督。本作は、フランス料理の真髄を描く一方で、長年、料理を共に追及しながら、心を通い合わせてきた二人の思いに迫った味わい深い物語。
様々な食材を混ぜ合わせて作る贅沢なソース。混ぜないで、それ一つだけで味わいたいと思う食材もあるけれど、それがフランス流なのですね。素材がわからなくなるソースと違って、ポトフは大きく切った素材がそのまま楽しめる煮込み。観ているだけで、ほっこりします。
劇中に登場する数々の料理を監修したのは、前衛的で独創性と芸術性に満ちた料理から、「厨房のピカソ」 と讃えられる三つ星シェフのピエール・ガニェール。劇中では、美食家・ドダンを招待するユーラシア皇太子のお抱えシェフとして登場し、豪華絢爛な晩餐会のメニューを読み上げています。 聞いているだけで胸がつまりそうなお料理のオンパレードに、観ている私も一緒に苦笑してしまいました。(咲)
2023年/136分/フランス/ビスタ/5.1chデジタル
字幕翻訳:古田由紀子
配給:ギャガ
公式サイト: https://gaga.ne.jp/pot-au-feu/
★2023年12月15日(金) Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、シネスイッチ銀座、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
2023年12月08日
市子
監督:戸田彬弘
原作:戸田彬弘
脚本:上村奈帆 戸田彬弘
撮影:春木康輔
出演:杉咲花(川辺市子)、若葉竜也(長谷川義則)、森永悠希(北秀和)、渡辺大知(小泉雅雄)、宇野祥平(後藤修治)、中村ゆり(川辺なつみ)、中田青渚(吉田キキ)、石川瑠華(北見冬子)、倉悠貴(田中宗介)、大浦千佳(山本さつき)
川辺市子は恋人の長谷川義則と3年間暮らしている。つましくも幸せな日々が続いていたある日、義則のプロポーズに市子は「嬉しい」と涙する。しかし翌日大急ぎで荷造りする市子は、義則の足音が聞こえたとたんベランダから逃げ出してしまう。義則はたった今までそこにいたはずの市子がなぜ消えたのか、見当もつかない。後藤という刑事は義則に市子の写真を差し出し「この女性は誰なのでしょうか」と尋ねる。義則はわずか残されたつてをたどって、市子の行方を探し続ける。
戸田彬弘監督が主催する”劇団チーズtheater”旗揚げ公演作品「川辺市子のために」が原作。市子の失踪に観客も義則と同じく、疑問に包まれます。市子が過去に関わった人の口から少しずつ明らかになり、かつては違う名前であったことがわかります。こういう人生を送る人がいるのか、と痛ましい気持ちがわいてきました。舞台版では市子を探す人、市子を語る人が登場して市子は姿を見せないのだそうです。そこにいなかった人が映画では輪郭や感情を持って登場して、消えてしまいます。さまざまな事情で隠れざるを得ない人、本当の姿で暮らせない人、いるのでしょうね。そんな中で生きていくことは、辛いですよね。生きるよすがとなる何かがありますように。
杉咲花さんの強い意志のある視線に、あるよねとホッとします。(白)
2022年/日本/カラー/シネスコ/126分
配給:ハピネットファントム・スタジオ
(C)2023 映画「市子」製作委員会
https://happinet-phantom.com/ichiko-movie/
★2023年12月8日(金)テアトル新宿、TOHOシネマズシャンテほか全国公開
Winter boy(原題:Le lyceen)
監督・脚本:クリストフ・オノレ
製作:フィリップ・マルタン ダビド・ティオン
出演:ポール・キルシェ(リュカ)、ヴァンサン・ラコスト(カンタン)、ジュリエット・ビノシュ(イザベル)、エルヴァン・ケポア・ファレ(リリオ)
リュカ17歳。大好きな父親が事故で亡くなり、高校の寄宿舎からアルプス山麓の実家に戻った。あまりに突然のことで、悲しいという感覚がマヒしてしまったようだ。葬儀の後、兄のカンタンは沈んでいる弟を自分の住むパリに連れていき、好きなように過ごさせる。リュカは初めてのパリで、カンタンの親友の青年リリオに強く惹かれていく。リリオには知られたくない秘密があった。
クリストフ・オノレ監督の十代の自分のセクシャリティや喪失感を描いた自伝的ストーリー。新星のポール・キルシェは『トリコロール/青の愛』(93)『トリコロール/赤の愛』(94)などの女優イレーヌ・ジャコブの実の息子。端正な容姿と繊細な演技で、衆目をひきつけます。傷つきやすい心を抱えて、パリをさまようリュカが光を見出せますようにと、つい見守ってしまいます。恵まれた環境に甘えることなく、探求心や努力を怠らない、先が楽しみな若手スターです。
母役にイレーヌ・ジャコブと共演していたジュリエット・ビノシュ。兄のカンタン役のヴァンサン・ラコストは口元が可愛いですよね。春に公開された『幻滅』で主人公の先輩編集者役を演じていました。リリオ役のエルヴァン・ケポア・ファレはまだ俳優歴は浅いようですが、リュカが目を止めるだけの存在感あり。
中身は全く違うけど、青春って痛かったと思い出しました。(白)
2022年/フランス/カラー/シネスコ/122分/R15+
配給:セテラ・インターナショナル
(C)2022 L.F.P・Les Films Pelleas・France 2 Cinema・Auvergne-Rhone-Alpes Cinema
https://www.winterboy-jp.com/
★2023年12月8日(金)よりシネスイッチ銀座、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
2023年12月07日
彼方の閃光
12月8日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国順次公開
監督・原案・音楽:半野 喜弘
脚本:半野 喜弘/島尾 ナツヲ/岡田 亨
プロデューサー:木城 愼也/半野 喜弘/坂本 有紀/中村 悟/藤井 拓郎
アソシエイトプロデューサー:名取 哲/滝田 和人
ラインプロデューサー:田中 深雪
撮影監督:池田 直矢
編集:横山 昌吾(J.S.E)
美術:山内 麻央/木下 沙和美
スクリプター:奥井 富美子
出演
光役:眞栄田 郷敦
友部役:池内 博之
詠美役:Awich
糸洲役:尚玄
伊藤 正之
71歳の光役:加藤 雅也
音だけの世界から「光」と「色彩」を取り戻していく青年のまなざしが捉える戦争の記憶
幼い頃に視力を失った少年光(ヒカリ)。光にとっての世界は「音」。彼はカセットテープにまわりの音を録音している。母の説得によって10歳で手術を行い、目は見えるようになったものの色彩を感じられなかった。
20歳になった光(眞栄田郷敦)は、戦後日本を撮ってきた写真家・東松照明の写真に導かれるように長崎へ。そこで出会った自称革命家の友部(池内博之)にドキュメンタリー映画製作に誘われ、長崎・沖縄の戦争の痕跡を辿ることになる。
道中、祖母から戦争体験を聞いて育った詠美(Awich)や、沖縄と家族を愛する糸洲(尚玄)など、心に傷を抱えながらたくましく生きる人々と出会う。戦争の痛ましい記憶と彼ら3人の生き様は、光の人生を大きく揺さぶり、光の人生は大きく動き出す。
第35回東京国際映画祭(2022)Nippon Cinema Now部門に正式出品され、劇場公開が待たれていた。監督は半野喜弘。たくさんの映画音楽を作り、その後監督にも進出。『雨にゆれる女』『パラダイス・ネクスト』に続き、この作品は長編映画3作目になる。主演は眞栄田郷敦さん。21歳の時の初主演作である。
色彩、戦争、沖縄、原爆、環境破壊など多彩なテーマを描いている。東松照明の写真を切り口に、若者が戦争の跡を訪ね、長崎や沖縄の人たちの思いを知る。また、丸木位里・俊夫妻の「沖縄戦の図」や、それを展示している佐喜眞美術館にも足を運ぶ。
*東松照明は、戦後の日本、米軍基地、長崎、沖縄などのテーマに取り組み、時代と向き合い、人物や風景を捉えた写真家。さまざまな分野に挑戦し続けた東松の作品群は日本の社会、そして戦後の日本人が歩んできた姿そのものを描き出した。
*「沖縄戦の図」は、丸木位里・俊夫妻が沖縄戦を体験した人たちの証言に基づき、その人たちがモデルになって描かれた。全14図を6年がかりで完成させ、佐喜眞美術館に収納され、順次展示している。普段は全図がいっぺんに展示されていないが、現在、全14図が展示されている(2024年3月3日まで)。今年(2023)、夏から秋にかけ、河邑厚徳監督の『丸木位里 丸木俊 沖縄戦の図 全14部』というドキュメンタリーが公開され、それを記念した展示。
丸木位里・丸木俊《沖縄戦の図》全14部 展
https://sakima.jp/exhibition/e2384744.html
東松照明の写真展に、過去何回か行ったことがある。そして中でも長崎で被爆した女性の横顔のアップの写真は強烈で忘れられない。この映画の主人公も、この写真に出合い、長崎にまで行ってしまった。その写真には、それだけの力がありということなのでしょう。
そして、丸木位里・俊夫妻の「沖縄戦の図」全14部は、もっかのところ、私の中でどうしても見に行きたいと思っている絵です。それは、河邑厚徳監督の『丸木位里 丸木俊 沖縄戦の図 全14部』というドキュメンタリーを見たからです。
それを展示している佐喜眞美術館には、もう10年も前から行きたいと思っていました。ここの屋上からは普天間基地が見渡せるそうですが、それをぜひ見に行きたいと思っているのです。そのことを知ったのはリンダ・ホーグランド監督の『ANPO』安保をアートで語るというドキュメンタリーでした。この映画の中で、屋上から普天間基地が映し出されるのですが、リンダ監督にインタビューした時、その撮影時のエピソードを聞いてから、ぜひ行ってみたいと思っていました。全図が展示している間に行けたらと思います。
この映画は、そのように思っていた私にタイムリーな映画でした。
この作品の中では、光と友部、糸州の3人が白い壁の建物の階段のところで語るシーンがありましたが、そこが佐喜眞美術館です。あの階段を上っていった屋上から普天間基地が見渡せるので、この映画でも観渡したシーンがじっくりあるといいなあと思ったのですが、それはなくて残念。今、普天間基地はどうなっているのでしょう。眞栄田郷敦さんが、日本の戦争や戦後を語る場所を訪れるということで、若い人にもそのことを知ってほしい(暁)。
公式HP https://kanatanosenko.com/
配給:ギグリーボックス
宣伝:平井 万里子/山口 慎平 フィクサー:長野 隆明
制作プロダクション:GunsRock
シネマジャーナル参照記事
*『丸木位里 丸木俊 沖縄戦の図 全14部』
河邑厚徳監督インタビュー 2023年07月12日
http://cineja-film-report.seesaa.net/article/500009283.html
*『ANPO』安保をアートで語る 2010年8月20日
リンダ・ホーグランド監督 インタビュー
http://www.cinemajournal.net/special/2010/anpo/index.html
監督・原案・音楽:半野 喜弘
脚本:半野 喜弘/島尾 ナツヲ/岡田 亨
プロデューサー:木城 愼也/半野 喜弘/坂本 有紀/中村 悟/藤井 拓郎
アソシエイトプロデューサー:名取 哲/滝田 和人
ラインプロデューサー:田中 深雪
撮影監督:池田 直矢
編集:横山 昌吾(J.S.E)
美術:山内 麻央/木下 沙和美
スクリプター:奥井 富美子
出演
光役:眞栄田 郷敦
友部役:池内 博之
詠美役:Awich
糸洲役:尚玄
伊藤 正之
71歳の光役:加藤 雅也
音だけの世界から「光」と「色彩」を取り戻していく青年のまなざしが捉える戦争の記憶
幼い頃に視力を失った少年光(ヒカリ)。光にとっての世界は「音」。彼はカセットテープにまわりの音を録音している。母の説得によって10歳で手術を行い、目は見えるようになったものの色彩を感じられなかった。
20歳になった光(眞栄田郷敦)は、戦後日本を撮ってきた写真家・東松照明の写真に導かれるように長崎へ。そこで出会った自称革命家の友部(池内博之)にドキュメンタリー映画製作に誘われ、長崎・沖縄の戦争の痕跡を辿ることになる。
道中、祖母から戦争体験を聞いて育った詠美(Awich)や、沖縄と家族を愛する糸洲(尚玄)など、心に傷を抱えながらたくましく生きる人々と出会う。戦争の痛ましい記憶と彼ら3人の生き様は、光の人生を大きく揺さぶり、光の人生は大きく動き出す。
第35回東京国際映画祭(2022)Nippon Cinema Now部門に正式出品され、劇場公開が待たれていた。監督は半野喜弘。たくさんの映画音楽を作り、その後監督にも進出。『雨にゆれる女』『パラダイス・ネクスト』に続き、この作品は長編映画3作目になる。主演は眞栄田郷敦さん。21歳の時の初主演作である。
色彩、戦争、沖縄、原爆、環境破壊など多彩なテーマを描いている。東松照明の写真を切り口に、若者が戦争の跡を訪ね、長崎や沖縄の人たちの思いを知る。また、丸木位里・俊夫妻の「沖縄戦の図」や、それを展示している佐喜眞美術館にも足を運ぶ。
*東松照明は、戦後の日本、米軍基地、長崎、沖縄などのテーマに取り組み、時代と向き合い、人物や風景を捉えた写真家。さまざまな分野に挑戦し続けた東松の作品群は日本の社会、そして戦後の日本人が歩んできた姿そのものを描き出した。
*「沖縄戦の図」は、丸木位里・俊夫妻が沖縄戦を体験した人たちの証言に基づき、その人たちがモデルになって描かれた。全14図を6年がかりで完成させ、佐喜眞美術館に収納され、順次展示している。普段は全図がいっぺんに展示されていないが、現在、全14図が展示されている(2024年3月3日まで)。今年(2023)、夏から秋にかけ、河邑厚徳監督の『丸木位里 丸木俊 沖縄戦の図 全14部』というドキュメンタリーが公開され、それを記念した展示。
丸木位里・丸木俊《沖縄戦の図》全14部 展
https://sakima.jp/exhibition/e2384744.html
東松照明の写真展に、過去何回か行ったことがある。そして中でも長崎で被爆した女性の横顔のアップの写真は強烈で忘れられない。この映画の主人公も、この写真に出合い、長崎にまで行ってしまった。その写真には、それだけの力がありということなのでしょう。
そして、丸木位里・俊夫妻の「沖縄戦の図」全14部は、もっかのところ、私の中でどうしても見に行きたいと思っている絵です。それは、河邑厚徳監督の『丸木位里 丸木俊 沖縄戦の図 全14部』というドキュメンタリーを見たからです。
それを展示している佐喜眞美術館には、もう10年も前から行きたいと思っていました。ここの屋上からは普天間基地が見渡せるそうですが、それをぜひ見に行きたいと思っているのです。そのことを知ったのはリンダ・ホーグランド監督の『ANPO』安保をアートで語るというドキュメンタリーでした。この映画の中で、屋上から普天間基地が映し出されるのですが、リンダ監督にインタビューした時、その撮影時のエピソードを聞いてから、ぜひ行ってみたいと思っていました。全図が展示している間に行けたらと思います。
この映画は、そのように思っていた私にタイムリーな映画でした。
この作品の中では、光と友部、糸州の3人が白い壁の建物の階段のところで語るシーンがありましたが、そこが佐喜眞美術館です。あの階段を上っていった屋上から普天間基地が見渡せるので、この映画でも観渡したシーンがじっくりあるといいなあと思ったのですが、それはなくて残念。今、普天間基地はどうなっているのでしょう。眞栄田郷敦さんが、日本の戦争や戦後を語る場所を訪れるということで、若い人にもそのことを知ってほしい(暁)。
公式HP https://kanatanosenko.com/
配給:ギグリーボックス
宣伝:平井 万里子/山口 慎平 フィクサー:長野 隆明
制作プロダクション:GunsRock
シネマジャーナル参照記事
*『丸木位里 丸木俊 沖縄戦の図 全14部』
河邑厚徳監督インタビュー 2023年07月12日
http://cineja-film-report.seesaa.net/article/500009283.html
*『ANPO』安保をアートで語る 2010年8月20日
リンダ・ホーグランド監督 インタビュー
http://www.cinemajournal.net/special/2010/anpo/index.html
2023年12月03日
他人と一緒に住むという事
監督・脚本・編集:八木橋努
撮影:石井康幸
出演:森田コウ(大槻)、芦那すみれ(リコ)、山下剛史(剛)、若松朋茂(信治)、裕紀yuki(舞子)、橋本利明(岩淵)
剛はいまだ目の出ない売れない役者。それでも妥協したくないという矜持は髪の長さに現れている。恋人のコウは美容師で、幼馴染の信治と同居しているのが、剛には面白くない。かくいう剛も中年の先輩の岩淵を断り切れず、居候させている。剛は意を決して二人を追い出し、コウと同棲しようとする。
大槻はソーラーパネルの事業であてて、裕福になった。26歳も年下の若い女性と再婚したが、仕事を理由に引っ越してこない。別荘を買って気を引いてみるが、帰宅時間は遅いわ、外泊をするわと大槻が夢見た生活とは程遠い。
「他人と一緒に住むこと」であぶり出されてくるのはお互いの欲望と本心。登場人物がまあ、一緒に住みたくない人ばかりで、中でも厚かましい先輩の岩淵が一番。人を頼って転々と住処を変えても、全く悪びれる様子がありません。舞子も同じくらい不思議な人なので、この二人の絡みには笑ってしまいました。住むところをめぐって何人もの人が、一緒になったり離れたりします。
人物やセリフが面白く最後までひきつけられました。観終わってあの人たちは今どうしているのだろう、とつい思ってしまいました。劇中の人たちなのに。
八木橋努監督が2015年に脚本を書き、演出した舞台劇を映画化したものと知って納得。(白)
2021年/日本/カラー/ビスタ/106分
配給:群像
https://livingwithothers.com/
★2023年12月2日(土)よりシアター・イメージフォーラムにてロードショー中
2023年12月02日
香港怪奇物語 歪んだ三つの空間(原題:失衡凶間 Tales from the Occult)
「暗い隙間」
監督:ホイ・イップサン
出演:チェリー・ガン(ヤウガー)、ン・ウィンシー(アリス)
女子中学生のヤウガーは、親友のアリスと別れて帰る道で猫に出会う。後を追っていくと暗い隙間に入ってしまった。のぞき込んでぞっとする。人間の形のものが倒れていて、ヤウガーは見開かれた”眼”を見てしまう。男性の遺体だった。
数年後、シンガーになったヤウガーは、不倫相手の音楽プロデューサーと過ごすために新居に引っ越した。直後からあの”眼”が自分を見ている気がしてならない。
「デッドモール」
監督:フルーツ・チャン
出演:ジェリー・ラム(ヨン・ワイ)、シシリア・ソー(ガルーダ)
ヨン・ワイはライブで投資情報を配信している人気ライバー。新装オープンした「リードモール」で、配信中にガスマスクをつけている女性を目にした。このモールは、14年前大火災で、多くの死傷者を出した「ラッキーモール」の跡地に建設されたため、幽霊が出るという噂がある。巷の噂の真相を暴く女性ライバーのガルーダは、その怪奇現象の調査にやって来た。
「アパート」
監督:フォン・チーチャン
出演:リッチー・レン(ホー)、ソフィー・ン(アチー)
ネット小説家のアチーは、アパートの1階で幽霊に遭遇する。全身ずぶ濡れで顔面蒼白、溺死した人間に違いない。ほかの階に住む住人たちも目撃していた。住人と交わろうとしない謎の男、ホーが怪しいと意見が一致する。伝説のヤクザで何人も殺していると専らの噂なのだ。思い切って訪ねていくと、ホーも幽霊退治の仲間に入るという。しかし、一人、二人と命を落としていく。
香港の気鋭の監督3人が競作したオムニバスホラー。ホイ・イップサン監督が書いていた脚本から生まれた短編3本です。映像業界で長く活躍してきたホイ監督ですが、劇場公開作品の監督はこれが初だそうです。
「暗い隙間」でヤウガーが頼りにしていた叔父さんは、ローレンス・チェン。長くテレビ番組の司会をしていたので「香港の久米宏」と勝手に呼んでいたのを思い出します。
「デッドモール」のフルーツ・チャン監督は”香港返還三部作『メイド・イン・ホンコン』(1997)『花火降る夏』(1998)『リトル・チュン』(1999)で知られています。近年はプロデューサー業でも活躍。本作主演のジェリー・ラムが2002年11月イベントで来日したときの記事がシネジャのウェブにあります。みんな若々しいです。
「アパート」で住人ホー役のリッチー・レンは台湾の歌手・俳優。『星願 あなたにもういちど』(1999)では、想いを伝えるために現生に蘇ったオニオン役の好演で泣かせました。その後ジョニー・トー監督映画の常連になってからは強面な役も多くなり、すっかりベテランの風格です。こちらに日中カラオケ大会のゲストで来日したときの記事あり。2006年には単独でコンサートも開いています。とってもフレンドリーでチャーミングな人でした。
冬にホラーなのはちょっと残念ですが、香港ホラーも健在ですという3本。(白)
2021年/香港/カラー/シネスコ/112分
配給:武蔵野エンタテイメント株式会社
(C)2021 Media Asia Film Production Limited, Movie Addict Productions Limited All Rights Reserved
https://hk-kaiki-movie.musashino-k.jp/
X:@hk_kaiki_movie
メイキング映像はこちら
★2023年12月1日(金)よりシネマカリテにて公開中。他全国順次ロードショー
ヤジと民主主義 劇場拡大版
制作・編集・監督 山崎裕侍
語り:落合恵子
取材:長沢祐
プロデューサー:山岡英二 磯田雄大 鈴木和彦
撮影:大内孝哉 谷内翔哉 村田峰史
編集:四倉悠策
MA:西岡俊明
音楽:織田龍光
2019年7月15日、札幌駅前。安倍首相(当時)の演説中に、「安倍やめろ!」のヤジが飛んだ。声をあげた男性を、すぐさま数名の警察官が取り囲んだ。その場から連れ去られる男性。その様子を遠くから見ていた若い女性も、「増税反対」の声をあげた。彼女も、すぐに警察官に囲まれ引きずられるように移動させられた。女性が現場を離れた後も、女性警官二人がしつこくつきまとった。
街宣の場所から排除された2人は、原告として警察側を訴える。1審は勝訴したが高裁では判断が分かれ、双方が上告し裁判は続いている。
本作は、北海道放送報道部道警ヤジ排除問題取材班が追求し続ける4年間に渡る記録。そして、彼らはこの問題を追い続けている。
声をあげたとたん、数名の警察官に取り囲まれる様子に、街宣を聴く民衆の中に、どれだけの制服・私服の警察官がいるのかと怖くなりました。それでいて、奈良での安倍首相襲撃は防げなかった警察。
高齢の女性3人が、「老後の生活費 2000万円 貯金できません」のプラカードを胸元に掲げるのですが、すぐに注意されてしまいます。一方、自民党支持のプラカードが配られ、最前線にいる人たちが掲げているというダブルスタンダード。
政権に声をあげた人に対して、どういう法的根拠があって警察が排除しようとするのかを考えさせてくれるドキュメンタリー。何かしらの行動を起こさないと、政治が変わらないことも教えてくれます。(咲)
2023年/日本/100分/ステレオ/16:9
製作:HBC北海道放送
配給:KADOKAWA
宣伝:KICCORIT
公式サイト:https://yajimin.jp/
★2023年12月9日(土)より、ポレポレ東中野、シアターキノほか全国公開