2023年11月24日
マイ・ファミリー 自閉症の僕のひとり立ち(原題:Kees vliegt uit)
監督・脚本:モニーク・ノルテ
出演:ケース・モンマ、ヘンリエッテ・モンマ、ヴィレム・モンマ、ヤスパー・モンマ
42歳のケース・モンマは自閉症。これまで実家の庭に建てた離れに住み、両親のサポートの元で暮らしてきました。”半分自立”している彼ですが、高齢になった両親はいつかは先に逝ってしまう。ケースは”本当に自立”するために、一人暮らしをすることにしました。ケースは緻密な絵を描いたり、模型を作ったりするのが得意で、生業としています。
ケースがいやなことをあげている場面があります。音に敏感なこと、コントロールできない天候にいらだつこと、イエスかノーかをはっきりしてほしいこと。「フムフム」というあいまいな相槌に困ること。とても繊細なので常に不安の種があります。
母がいることでなりたってきたケースの暮らし、ケースを最優先に生きてきた母、この二人が分かれて暮らすことはできるのでしょうか。
8年間の日々を切り取ったドキュメンタリーです。モニーク・ノルテ監督は1997年にケースに出会って以来、26年間にわたって交友関係を続け、ケースと両親を撮影してきました。前作『ケースのためにできること』(2014)は、本国オランダではのべ450万人が見て、自閉症を知ることに貢献しています。日本では”EUフィルムデーズ2020”で上映されました。今年の”EUフィルムデーズ2023”では本作が『ケースのはばたく日』というタイトルで上映されています。
50代の子どもが80代の親を看るのでなく、モンマ家では逆です。経済的に余裕のあるお宅なのが何よりですが、両親の老いは進んでいきますし先に何があるかは予想もつきません。子どもを残していく親の気持ちになってしまいました。(白)
2022年/オランダ/カラー/83分/ドキュメンタリー
配給:パンドラ
(C)Doclines
http://www.pan-dora.co.jp/myfamily/
★2023年11月25日(土)~12月8日(金)新宿 K’s cinemaにて公開
ディス・マジック・モーメント
監督・脚本・プロデューサー:リム・カーワイ
撮影:大窪竜司
音楽:石川潤
~旅する映画監督リム・カーワイと巡るミニシアターの旅~
リム・カーワイは、大阪を拠点に香港、中国、バルカン半島などを舞台に映画を作り、どこにも属さず彷徨う「シネマドリフター(映画流れ者)」を自称するマレーシア出身の映画監督。
2022年に公開されたリム監督の『あなたの微笑み』では、第32回東京国際映画祭(2019)で受賞歴(『叫び声』で日本映画スプラッシュ部門監督賞)を持つ自主映画監督の渡辺紘文こと、「世界の渡辺」が自作を上映してくれる映画館を探して全国のミニシアターを訪ね歩く。公開を前に映画の舞台となったミニシアターに次々と困難が降りかかる。火事で映画館が全焼したり、館主の死亡で閉館や営業停止など。ついにはリム監督の本拠地大阪のテアトル梅田の閉館が決まり、いても立ってもいられなくなった監督は、自らナビゲーターとなってミニシアターを駆け巡ることに。日本は世界でも有数の「独立系ミニシアター大国」。しかし、ミニシアターと言っても、その成り立ちや経営は多種多様。家族経営、クリーニング店兼映画館、市民がつくる映画館、文化財として観光名所になった映画館等々。
日本全国のミニシアターを訪ね、劇場を支える人たちの思いに耳を傾け、見えてきたものとは…。全国22館のミニシアターを巡るリム・カーワイ監督のインタビュー映像と共に、取り壊しされた首里劇場や、全焼し再建中の小倉昭和館の跡地など、貴重な映像が盛りだくさん。
訪ねた映画館:
大黒座(北海道)、シネマディクト(青森)、御成座(秋田)、高田世界館(新潟)、シネ・ウィンド(新潟)、ほとり座(富山)、シネモンド(石川)、福井メトロ劇場(福井)、上田映劇(長野)、シネマテークたかさき(群馬)、シネマスコーレ(愛知)、豊岡劇場(兵庫)、テアトル梅田(大阪)、シネ・ヌーヴォ(大阪)、別府ブルーバード劇場(大分)、小倉昭和館(福岡)、THEATER ENYA(佐賀)、宮﨑キネマ館(宮﨑)、ガーデンズシネマ(鹿児島)、よしもと南の島パニパニシネマ(沖縄)、シアタードーナツ・オキナワ(沖縄)、首里劇場(沖縄)
マレーシア人のリム・カーワイ監督が大阪大学に留学して、初めて訪れた映画館はテアトル梅田。ミニシアターでよりすぐりの映画をあびるように観たことは、一青年に映画監督への道を歩ませる後押しになりました。
前作『あなたの微笑み』(22)は、自主映画監督 渡辺紘文を主演に、全国各地の映画館を訪ねて自作を売り込むという、ドキュメンタリーに見えるフィクションでした。その後、テアトル梅田の閉館が決まり、リム監督は全国のミニシアター22館をめぐります。自らインタビュアーとなって、個性的な館主さんたちの越し方、行く末を尋ね、館主さんと自分の映画愛を初のドキュメンタリー作品に焼き付けました。(白)
「館長も映画館も個性派揃い。いますぐ行きたくなる、リム・カーワイ presents ミニシアターの世界」とHPにありましたが、ほんとに、ここに出てくる映画館巡りをしてみたくなりました。ここに出てくる映画館で、私が行ったことことがある映画館はシネマスコーレとシネ・ヌーヴォくらい。シネマスコーレの木全元支配人が出ていましたが、木全さん、去年から今年、2本目の出演映画です。
コロナ禍で経営危機に陥ったところもあり、2022年には岩波ホールやテアトル梅田が閉館しています。他のところも自転車操業だと思います。ミニシアターをやっている人たちは、元々、儲けのためにはやっていないと思うけど、いずれの出演者も、映画の面白さ、魅力を伝えようと頑張っている人たちばかり。こんな人たちに支えられて日本のミニシアター文化はあります。
リム・カーワイ監督は、今年(2023)の山形国際ドキュメンタリー映画祭、アジア千波万波部門の審査員を務めましたし、『どこでもない、ここしかない』『いつか、どこかで』に続いて製作したバルカン半島3部作の完結編『すべて、至るところにある』も2024年1月27日に公開されるので大忙しですね。(暁)
訪ね歩いたミニシアターそれぞれに物語があって、愛おしくなりました。存続が難しい中、いつまでも、その町で愛される映画館であってほしいと願ってやみません。
『あなたの微笑み』に登場し、印象深かった首里劇場の金城政則館長は急逝され、閉館が決まったことを知りました。戦後5年後に出来た建物。沖縄芝居の劇場としても使われてきた首里劇場の歩みを報告書にまとめる作業が進行中とのこと。同じく『あなたの微笑み』に出てきた小倉昭和館は大火事で焼失してしまい、跡形もなくなってしまったことに言葉を失います。
登場したミニシアターを訪ねて地方行脚したくなること請け合います。一番行ってみたいなと思ったのは、高田世界観。風情ある城下町にある洋風建築の映画館。ここでぜひ映画を観てみたいと思いました。(咲)
2023年/日本/カラー/90分
配給:Cinema Drifters
(C)cinemadrifters
https://magicmoment2023.wixsite.com/official
★2023年11月25日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
〈下記の日程で上映後にトークショーがあります〉
11月25日(土)11:00回 リム・カーワイ監督
11月26日(日)11:00回 リム・カーワイ監督×岩井圭也さん(作家・一般社団法人ホンミライ理事)
11月27日(月)11:00回 リム・カーワイ監督
11月28日(火)11:00回 リム・カーワイ監督×由井緑郎さん(PASSAGE by ALL REVIEWS 代表)
11月29日(水)11:00回 リム・カーワイ監督×伊藤智恵さん(喫茶店さぼうる)
11月30日(木)11:00回 リム・カーワイ監督×山下宏洋(シアター・イメージフォーラム支配人)
12月01日(金)11:00回 リム・カーワイ監督
12月02日(土)予定リム・カーワイ監督×松永大司さん(映画監督)
12月03日(日)11:00回 リム・カーワイ監督×田中泰延さん(ひろのぶと株式会社 代表)
先月、新潟上越柿崎に住み映画の自主上映活動をしていた友人小出優子さんが東京に来た時にこの『ディス・マジック・モーメント』のことを話したら、「新潟ではいつ上映される?」と言われ、宣伝さんに問い合わせたら来年1月以降と言われ、彼女に伝えたのですが、それでは待ちきれなかったのか、12月3日に新潟から新幹線でこの作品を観に東京まで来てくれました。彼女はこの作品に出てくるシネ・ウインドや高田世界館に映画を観に行っています。その日、渋谷のシアター・イメージフォーラムでは、舞台挨拶&トークショーがあり、リム・カーワイ監督と田中泰延さんの掛け合いのようなトークがあったそうです。小出さんがその時、撮った写真を送ってくれたのでアップします。
『ディス・マジック・モーメント』は、イメージフォーラムでは12月22日まで上映されているようです。みなさんもぜひ観に行ってみてください。
*シネマジャーナルHP 関連記事
・第32回東京国際映画祭 クロージングセレモニー
・『あなたの微笑み』
・『シネマスコーレを解剖する。』公開決起集会 LOFT9 Shibuyaにて
・山形国際ドキュメンタリー映画祭2023 表彰式
ゴーストワールド(原題:Ghost World)
監督・脚本:テリー・ツワイゴフ
原作・共同脚本:ダニエル・スロウズ
出演:ソーラ・バーチ(イーニド)、スカーレット・ヨハンソン(レベッカ)、スティーヴ・ブシェミ(シーモア)、ブラッド・レンフロ(ジョシュ)
1990年代のアメリカ。郊外の小さな町の女子高生イーニドとレベッカは子どもの頃からの親友。卒業式も済んで、もう退屈な授業を我慢したり、バカな同級生たちと会わなくていい。進路は決まってないけれど、二人で部屋を借りて住むことだけは決めている。
ダイナーで新聞の出会い系広告を見つけた二人は、いたずら心を起こして広告主の男性シーモアに連絡してみた。やってきたのは、ダサイ中年男、待ちぼうけを食わした二人は、尾行して自宅を突き止めた。シーモアに興味がわいたイーニドは、彼に接近していく。レベッカは仕事を見つけて自立する準備を進めるが、シーモアと親しくなったイーニドとは距離ができつつあった。
22年前の作品がリバイバル上映となりました。10代のソーラ・バーチとスカーレット・ヨハンソンが可愛いです。
思春期に大人も同級生もバカに見えたり、逆に自分だけが取り残されているように感じたり、どちらも誰にもありますよね。イーニドはクールで、どこか達観したところがあります。レベッカも他の人とは違う意識はあるものの、イーニドより現実的。親近感のわく二人です。なんだか自分のことみたい、と思ってしまった人多いでしょうね。私はバス停でいつも一人ベンチにいたお爺さんの行先が気になります。
幼馴染の二人が離れていくきっかけになる独身中年を、スティーヴ・ブシェミ。10代の二人と違って40代なので、今もあんまり変わらない印象です。のちにオーバードースで亡くなるブラッド・レンフロが出演していました。当時の若手3人は将来の夢をどんなふうに描いていたのでしょう。(白)
2001年/アメリカ/カラー/111分
配給:サンリスフィルム
(C)2001 Orion Pictures Distribution Corporation. All Rights Reserved.
https://senlisfilms.jp/ghostworld/
★2023年11月23日(祝・木)Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国で順次公開
翔んで埼玉 琵琶湖より愛をこめて
監督:武内英樹
原作:魔夜峰央
脚本:徳永友一
撮影:谷川創平
音楽:Face to FAKE
主題歌:はなわ「ニュー咲きこぼれ埼玉」
出演:GACKT 二階堂ふみ 杏 片岡愛之助 加藤諒 益若つばさ 堀田真由 くっきー! 高橋メアリージュン 和久井映見 アキラ100% 朝日奈央 天童よしみ 山村紅葉 モモコ(ハイヒール) 川﨑麻世 藤原紀香 矢柴俊博・・・・
麻実麗率いる埼玉解放戦線の活躍で、埼玉県人たちは通行手形の撤廃に成功した。自由と平和を手に入れた麗はさらなる日本埼玉化計画を推しすすめていく。埼玉にないものは「海」!!埼玉県人の心を一つにするため、越谷に「海を作る」という奇想天外な計画を発表する。麗を愛する壇ノ浦百美さえのけぞった無謀な計画を実行すべく、一団は船をしたてて和歌山へと向かう。海には浜辺、それも白い砂が必要じゃ。いざ白浜へ!しかし、嵐のため船は難破、麗は漂着した海岸で、滋賀解放戦線の桔梗魁と出逢う。なんと関西にも、よりえげつない地域格差と通行手形制度が存在していた。
2019年公開の『跳んで埼玉』第2弾。二階堂ふみさん、GACKTさんを筆頭に俳優陣の振り切った演技と、ディスり合戦はこれまで観たことのない展開でした。まさかの”続編”は期待のハードルも高く、「今度は何を見せてくれるの?ワクワク♪」とお待ちの方々も多かったことでしょう。
東西対決となった今回は、なんだか現実を想起させるような人物やエピソードがてんこ盛り。長身のGACKTさん杏さんのツーショットは宝塚の舞台のワンシーンのようでした。関西出身だったりそうでなかったり、書ききれないほどの俳優さんがとっかえひっかえ登場します。大阪、兵庫、京都勢が、前作に負けじと滋賀、和歌山、奈良をディスりまくるので、目を▲にぜず、笑ってお楽しみください。自分も郷土愛に目覚めること必至、たぶん。(白)
2022年/日本/カラー/シネスコ/110分
配給:東映
(C)2023 映画「翔んで埼玉」製作委員会
https://www.tondesaitama.com/
★2023年11月23日(祝・木)ロードショー