2023年11月04日
火の鳥 エデンの花
監督:西見祥示郎
原作:手塚治虫
脚本:真野勝成 木ノ花咲
演出:斉藤亜規子
キャラクターデザイン:西田達三
音楽:村松崇継
音響監督:笠松広司
声の出演:宮沢りえ(ロミ)、窪塚洋介(ジョージ)、吉田帆乃華(コム)、イッセー尾形(ズダーバン)
地球からのロケットが辺境の惑星エデンに到着した。降り立ったのは地球人のロミとジョージ、恋人同士の二人は何もないここで新生活を始めるつもりだ。ジョージはさっそく周辺の探索に出かけるが、聞いていた情報とは大違い、エデンは厳しい環境の惑星だった。すぐに水脈を見つけなければこの先生きていけない。井戸掘りを始めたジョージは、水を探し当てるが事故で命を落としてしまう。
AIロボットと残されたロミは悲嘆にくれるが、ジョージの忘れ形見のカインを育てこの星を守ろうと決意する。
自分が死ぬとカイン一人になってしまうため、ロミは少しでも寿命を延ばそうと後をAIに託し、コールドスリープに入った。機械の故障でロミは1300年間も眠り続け、目覚めると全く知らない世界が拡がっていた。新人類が発展させた”エデン17”でロミは待ち望まれた女王となる。
手塚治虫の傑作漫画「火の鳥」の中の「望郷編」がアニメ化されました。子どものころからの手塚治虫ファンで、漫画で文字を覚えた私、全て読んでいたはずですが、最近は観続ける映画に上書きされてか、歳のせいか記憶がほとんど残っていません。この試写を拝見して、人類の先を見越したこんなに壮大な物語だったか!とあらためて驚いています。
新人類たちは目や耳がなく、額にある触覚(アゲハの幼虫の触覚そっくり)が鋭敏です。争いもなく平和な土地なのですが、ロミは時を経るにつれ、自ら捨てて来た地球への望郷の念が強くなっていきます。後半で出会う地球人の牧村にいくら説得されても、思いは募るばかりです。自分が持っている望郷の念、そもそも帰りたい故郷とは何?そんなにも恋しいのは、ここにはない何かがあるから?
火の鳥は、鳥の形をしてはいますが、宇宙のエネルギーの塊のようなもの。宇宙のはしからはしまで満ちているエネルギーの中で、生まれたり消えたりしていく命を全て知っている、のだそうです。
1928年11月3日に生まれ、1989年に60歳で亡くなられた手塚治虫さんなら、現在の日本や混沌の世界を見てなんといわれるのか、考えてしまいました。(白)
2023年/日本/カラー/シネスコ/95分
配給:ハピネットファントム・スタジオ
(C)Beyond C.
https://happinet-phantom.com/hinotori-eden/
★2023年11月3日(金)ロードショー
さよなら ほやマン
監督・脚本:庄司輝秋
撮影:辻智彦
音楽:大友良英
出演:アフロ(阿部アキラ)、呉城久美(高橋美晴)、黒崎煌代(阿部シゲル)松金よね子(春子)、津田寛治(タツオ)
アキラとシゲルは島でほぞぼそとほや漁をしながら兄弟二人で暮らしている。両親は大震災の津波にさらわれて帰ってこなかった。叔父や近所に住む人たちのおかげでなんとか暮らしているが、借金も膨らみ、いまや大ピンチだ。行方不明のままの人たちを思うと、アキラは海から獲ったものを今も食べることができない。
島へ見も知らない訳アリ女性がやってきた。兄弟も読んでいる漫画家の高橋美晴だった。「この家売って」と現金を見せて兄弟にもちかける。両親の家を売ることはできないとアキラはつっぱねるが、なんだかんだと理由をつけて美晴は二人の家に住むことになった。
庄司輝秋監督の前作『んで、全部、海さ流した。』(2013)は、韓英恵さんを主演に震災後の石巻を描いた作品で、拝見していました。残された元ヤン少女と小学生の男の子のちょっと切ない交流を描いた短編です。今度の作品は長編で、同じく監督のふるさと石巻で全編撮影、3週間の合宿生活で作り上げました。
主演のアフロさんは人気バンドのボーカルとか、映画初出演ですが監督に「歌と同じに自分をぶつけて」と言われたそうです。バンドやインタビュー動画をいくつか見ましたが、アキラにもアフロさんの人柄そのままが出ているような感じでした。
黒崎煌代(こうだい)さんは昨年芸能事務所のオーディションに合格、これが映画初出演、さらにこの秋からのNHKの朝ドラ「ブギウギ」でヒロイン鈴子の弟六郎役を射止め、毎朝日本中で観られています。どちらもマイペースで気のいい弟役です。
この二人の暮らしに乱入してくる青い髪の漫画家を、呉城久美さん。京大法学部卒なのに法曹界には進まず、劇団に入って親を泣かせたという方。どこまでも強気な美晴は兄弟の後押し役、二人の再生に大きな力を与えます。さらにベテランの松金よね子さん津田寛治さんが、このあったかい物語を支えました。
石巻の人はあんな風にほやを食べるんでしょうか?私はもっと北の島で育ったけれど、薄切りにしていました。(白)
石巻の海と養殖場。ほやという海産物を伏線に、二人の兄弟の進む道と、後押しする形になった漫画家美晴、そして二人を見守る叔父や近所のおばちゃんなどを通して、東日本大地震からの復興の形を描いた。ほやを養殖するアキラと海に行けない弟のシゲル。東日本大震災の時、海に出たまま行方不明の両親のことを思って海産物を食べることができない二人の家はカップラーメンでいっぱい。でも美晴がほやを食べるのを見て、兄弟もほやを食べ始める。そして、借金まみれの生活から脱するべく奮闘するアキラ。あるきかっけで、少しは解決に近づいたと思ったが、一難去ってまた一難。なかなかスムーズにはいかない。
実は「ほや」というタイトルに惹かれてこの作品を観た。「ほや」は突起のある風船のような変な形をした海産物だけど、魚屋でみかけてもずっと食べる気はしなかった。でも7,8年前に初めて食べ、あの癖のある独特な味にひかれハマってしまい、以後、スーパーの魚売り場に行くといつも探している。そしてみつけると、可能な限りゲットしている。
この作品でほやという生き物のことを知るることができた。ほやって貝ではなく軟体動物とは思っていたけど、どんな生態なのかは知らなかった。卵で生まれ、ちいさい頃は魚のような恰好で海の中を泳ぎまわっていると知った時にはびっくり。そして住処をみつけると落ち着き、背骨と脳みそがなくなって、突起のある不思議な形になっていくのだという。それにしても脳みそがなくなるってどういうことなんだろうとは思う。でも監督はその生態を知った時、“俺はいま、ほやになりかけているのかもしれない”と思ったのだそう。「『んで、全部、海さ流した。』(13)を撮った後、なかなか次の脚本が書けず、パッとしない自分に諦めを感じていたんですね。ほやの生態と諦めた人間の生き方がギュッと結びついたとき、これなら書けるかもしれない」と思い、この作品になったという。
本作が長編デビューの庄司輝秋監督。「ふるさとを育み、そして奪った美しい宮城の海に、この映画を思いっきりぶつけたい」と故郷・石巻への熱い想いで宮城県石巻市網地島オールロケ撮影。
ほやが牡蠣のように需要が増えると、復興にも勢いがつくのだろうけど、厳しいかな。以前に比べて、東京のスーパーなどでも見かけるようになったけど、牡蠣のような普及は難しそう。やはり味に癖があって、好き嫌いが分かれるかも(暁)。
2023年/日本/カラー/シネスコ/106分
配給:ロングライド、シグロ
(C)2023 SIGLO/OFFICE SHIROUS/Rooftop/LONGRIDE
https://longride.jp/sayonarahoyaman/index.html
★2023年11月3日(金)ロードショー
人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした
監督:穐山茉由
原作:大木亜希子
脚本:坪田文
撮影:猪本雅三
出演:深川麻衣(安希子)、井浦新(ササポン)、松浦りょう、柳ゆり菜、猪塚健太、三宅亮輔、森高愛、河井青葉、柳憂怜
安希子は元アイドル、センターにこそなれなかったがグループで紅白歌合戦にも出ることができた。引退してからはOLになり、ウェブニュースのライターとして頑張っていた。しかし、現実は風呂なし月5万円のアパート暮らし。自撮りもまさかその自宅前では撮れない。背景にも気を遣うのだ。20代は刻々と過ぎて行き、同年代は次々と結婚・出産。私はわたしと思ってきたが、通帳残高はあと10万円。将来どうしたらいいのか?出勤途中で足が前に進まなくなった。大丈夫と言い聞かせてきたけれど、安希子のメンタルは相当に傷つき病んでいた。
見かねた友人が「一人暮らしはやめなさい」と56歳のサラリーマンと同居することを勧められる。中年のおじさんと?と半信半疑だったが、”ササポン”と呼ばれるおじさんは、人畜無害そうな人だった。おまけに風呂付格安の同居家賃に惹かれて、引っ越すことにした。
まるで小説のようなお話ですが、原作は小説。著者は元「SDN48」のメンバーで映画のとおりの元アイドル大木亜希子さん、ほとんど自分の体験から書き上げた事実なのでした。安希子を演じた深川麻衣さんは「乃木坂46」1期生。卒業して女優になりました。『パンとバスと二度目のハツコイ』(17)が最初の映画主演作です。グループの一員でなくなってからの自身と重なることも多かったようです。
井浦新さんの”ササポン”は穏やかなたたずまいで、人に気を使わせません。口数は少ないけれどぼそっと零れる一言が味わい深く、こんな人なら一緒に住みたい!と思うはず。お一人様とお一人様が、こんな風にゆるやかに暮らしていけたら何よりです。(白)
2023年/日本/カラー/114分
配給:日活、KDDI
https://tsundoru-movie.jp/
(C)2023映画「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした」製作委員会
★2023年11月3日(金)ロードショー
原作:大木亜希子
脚本:坪田文
撮影:猪本雅三
出演:深川麻衣(安希子)、井浦新(ササポン)、松浦りょう、柳ゆり菜、猪塚健太、三宅亮輔、森高愛、河井青葉、柳憂怜
安希子は元アイドル、センターにこそなれなかったがグループで紅白歌合戦にも出ることができた。引退してからはOLになり、ウェブニュースのライターとして頑張っていた。しかし、現実は風呂なし月5万円のアパート暮らし。自撮りもまさかその自宅前では撮れない。背景にも気を遣うのだ。20代は刻々と過ぎて行き、同年代は次々と結婚・出産。私はわたしと思ってきたが、通帳残高はあと10万円。将来どうしたらいいのか?出勤途中で足が前に進まなくなった。大丈夫と言い聞かせてきたけれど、安希子のメンタルは相当に傷つき病んでいた。
見かねた友人が「一人暮らしはやめなさい」と56歳のサラリーマンと同居することを勧められる。中年のおじさんと?と半信半疑だったが、”ササポン”と呼ばれるおじさんは、人畜無害そうな人だった。おまけに風呂付格安の同居家賃に惹かれて、引っ越すことにした。
まるで小説のようなお話ですが、原作は小説。著者は元「SDN48」のメンバーで映画のとおりの元アイドル大木亜希子さん、ほとんど自分の体験から書き上げた事実なのでした。安希子を演じた深川麻衣さんは「乃木坂46」1期生。卒業して女優になりました。『パンとバスと二度目のハツコイ』(17)が最初の映画主演作です。グループの一員でなくなってからの自身と重なることも多かったようです。
井浦新さんの”ササポン”は穏やかなたたずまいで、人に気を使わせません。口数は少ないけれどぼそっと零れる一言が味わい深く、こんな人なら一緒に住みたい!と思うはず。お一人様とお一人様が、こんな風にゆるやかに暮らしていけたら何よりです。(白)
2023年/日本/カラー/114分
配給:日活、KDDI
https://tsundoru-movie.jp/
(C)2023映画「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした」製作委員会
★2023年11月3日(金)ロードショー