2023年11月02日
サタデー・フィクション 原題:蘭心大劇院 英題:Saturday Fiction
監督:ロウ・イエ(婁燁)
出演:コン・リー(鞏俐)、マーク・チャオ(趙又廷)、パスカル・グレゴリー、トム・ヴラシア、ホァン・シャンリー(黄湘麗)、中島歩、ワン・チュアンジュン(王傳君)、チャン・ソンウェン(張頌文)/オダギリジョー
1941年、日本軍の占領を免れた上海の英仏租界は、当時「孤島」と称されていた。魔都と呼ばれるこの上海では、日中欧の諜報部員が暗躍し、機密情報の行き交う緊迫したスパイ合戦が繰り広げられていた。
日本が真珠湾攻撃をする7日前の12月1日、魔都上海に、人気女優のユー・ジン(コン・リー)が現れる。新作の舞台「サタデー・フィクション」で主役を演じるためだ。一方、この大女優ユー・ジンには、幼い頃、フランスの諜報部員ヒューバート(パスカル・グレゴリー)に孤児院から救われ、諜報部員として訓練を受けた過去があり、銃器の扱いに長けた「女スパイ」という裏の顔があった。
そして2日後の12月3日、日本から海軍少佐の古谷三郎(オダギリジョー)が海軍特務機関に属する梶原(中島歩)と共に、暗号更新のため上海にやってくる。ヒューバートはユー・ジンに告げる。「古谷の日本で亡くなった妻は君にそっくりだ」と。それは、古谷から太平洋戦争開戦の奇襲情報を得るためにフランス諜報部員が仕掛けた“マジックミラー計画”の始まりだった……。
ロウ・イエ監督の第11作目。
モノクロ映像に、漢字縦書きで時代背景が語られ、ぐっと太平洋戦争開戦前の緊張した1週間にひき込まれます。とはいえ、それは真珠湾攻撃があのような形で行われたという歴史を知っているからこそで、当時の人たちは緊張感の溢れる時代にいながらも、何が起こるかはわからない中で暮らしていたことに思いが至ります。
今も上海に残る当時の建物を使っての撮影は、モノクロ映像であることもあいまって、時代を感じさせてくれます。
字幕を担当された樋口裕子さんによる「映画『サタデー・フィクション』プロダクションノート」に、撮影場所についても詳しく書かれていますので、ぜひお読みください。
https://note.com/uplink_senden/n/ncb7639771bf6
魔都と呼ばれ、欧米中日各国の諜報部員が暗躍していた上海。愛する人さえ、諜報部員かもしれないという疑心暗鬼。コン・リーが、強い女でなく、愛する人を想うはかなさも感じさせてくれました。登場人物それぞれがたどってきた人生も、時代に翻弄されたもので、なんとも切ない物語です。(咲)
実はスパイ物を扱った映画は好きではなくあまり観たことがない。でも、この作品は婁燁監督の作品なので観てみた。スタイリッシュな作りで、テンポよく物語が進む。しかし物語は複雑。劇内劇という感じで、ユー・ジンは国民的スターという設定。演劇の進行と、暗躍するスパイたちと、戦争が始まる前の緊張感あふれる時代を描き、単なるスパイものではない側面を見せている。
ユー・ジンはヒューバートの養女になり、スパイとなったようだけど、フランスのスパイなのか、あるいは実際は中国側のスパイだったのか疑問が残った。それにしても、あの時代の上海は魔都と呼ばれ、スパイが暗躍したところだったのだろう。ここを舞台にたくさんのスパイ映画が作られている。この映画は真珠湾攻撃前の数日間を描き、戦争が始まる前の緊張感に溢れた作品になっている。しかし、日本軍の真珠湾攻撃の情報が上海にまで伝わっていたとは考えられないけど、映画だからこその大胆な発想と思った(暁)。
☆ロウ・イエ監督 来日記念舞台挨拶
ゲスト(予定):ロウ・イエ監督、マー・インリー(プロデューサー)、オダギリジョー、中島歩
*シネ・リーブル池袋
日時:11月3日(金・祝)9:30の回(上映後)
アップリンク吉祥寺
日時:11月3日(金・祝)13:35の回(上映後)、16:25の回(上映前)
新宿武蔵野館
日時:11月3日(金・祝)19:25の回(上映前)
2019年/中国/中国語・英語・フランス語・日本語/127分/モノクロ/5.1ch/1:1.85
字幕:樋口裕子
配給・宣伝:アップリンク
公式サイト:https://www.uplink.co.jp/saturdayfiction/
★2023年11月3日(金・祝)よりよりヒーマントラスト有楽町、新宿武蔵野館、シネリーブル・池袋、アップリンク吉祥寺にて全国ロードショー
人生は、美しい 原題:인생은 아름다워(人生は美しい) 英題:Life is Beautiful
監督:チェ・グッキ(『国家が破産する日』)
出演:リュ・スンリョン(『エクストリーム・ジョブ』)、ヨム・ジョンア(『完璧な他人』「SKYキャッスル~上流階級の妻たち~」)、パク・セワン、オン・ソンウ
亭主関白な夫・ジンボンと、思春期真っただ中の息子と娘。そんな家族に時にうんざりしながらも、健気に尽くしてきた平凡な専業主婦のセヨン。ある日、思いもかけず余命2か月の宣告を受ける。激しく動揺しながらも、自分の最後の誕生日のプレゼントとして、夫に「初恋の人ジョンウを一緒に探してほしい」と頼む。子供たちには余命のことは隠し、夫と車で旅に出る。まず向かったのは、ジョンウと出会った木浦の高校。就職先が釜山だったと聞き、釜山へ。さらに、清州から甫吉島へ・・・ 夫と時に喧嘩しながらも、大恋愛を経て結婚した時のことも思い出す、奇妙な旅。さて、セヨンは初恋の人に会えるのか・・・
二人の旅を彩るのは、韓国で愛される1970年から2010年代の楽曲の数々。国民的歌手イ・ムンセの「早期割引」「ソロ愛讃」「未知の人生」、イ・スンチョルの「眠れない夜に」、チェ・ボクホの「釜山に行けば」、ユ・ヨルの「わかれて以来」、Toyの「熱いさよなら(アンニョン)」等々・・・ 今のK-POPと一味違うバラードや歌謡曲は、その曲を知らない日本人にも懐かしく感じるものばかり。
木浦、釜山、甫吉島の風情ある景色も楽しめました。
余命宣告を受けて、最後に初恋の人に会いたいという妻の思いを果たしてあげたいと奔走する夫も素敵です。いやはや、心中は?ですが。 さて、私が余命宣告受けたら、何がしたいかなぁ~ (咲)
2022年/韓国/韓国語/123分/5.1ch/シネスコ
字幕翻訳:本田恵子
提供:ツイン、Hulu/配給:ツイン
公式サイト:https://lifeisbeautiful-movie.com/
★2023年11月3日(金)シネマート新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー
パトリシア・ハイスミスに恋して 原題:Loving Highsmith
監督・脚本:エヴァ・ヴィティヤ
ナレーション:グウェンドリン・クリスティー
出演:マリジェーン・ミーカー、モニーク・ビュフェ、タベア・ブルーメンシャイン、ジュディ・コーツ、コートニー・コーツ、ダン・コーツ
音楽:ノエル・アクショテ
演奏:ビル・フリゼール、メアリー・ハルヴォーソン
パトリシア・ハイスミス Patricia Highsmith
1921年1月19日、アメリカ、テキサス州フォートワース生まれ、ニューヨーク育ち。バーナード・カレッジ在学中より短編小説の執筆を始める。1950年に発表した長編デビュー作『見知らぬ乗客』でエドガー賞処女長編賞を受賞。 同作は翌年にアルフレッド・ヒッチコックにより映画化される。1952年、クレア・モーガン名義で自らの体験を基にしたロマンス小説『The Price of Salt』(後に『キャロル』と改題)を刊行。その他の主な著書に『太陽がいっぱい』をはじめとする「トム・リプリー」シリーズ、『水の墓碑銘』、『殺意の迷宮』など。1962年よりヨーロッパに移住。 1995年、スイスのロカルノで再生不良性貧血と肺がんの併発により逝去。74歳没。
本作は、ハイスミスの生涯を、生誕100周年を経て発表された秘密の日記やノート、貴重な本人映像やインタビュー音声、タベア・ブルーメンシャインをはじめとする元恋人達や家族によるインタビュー、そしてヒッチコックやトッド・ヘインズ、ヴィム・ヴェンダースらによる映画化作品の抜粋映像を織り交ぜな、彼女の謎に包まれた人生と著作に新たな光を当てるドキュメンタリー。
パトリシア・ハイスミスの名前を、恥ずかしながら全く知らなかったのですが、欧米ではアガサ・クリスティーと並ぶ人気を誇る、サスペンス、ミステリー作家。 しかも、『見知らぬ乗客』『太陽がいっぱい』を始め、著作のほとんどが映画化されているのです。 それほどの功績を誇りながら、レズビアンであることから、家族や世間の目を気にしなければならなかった時代。実名でなく、クレア・モーガンという別名で、自身の体験を基にしたロマンス小説『The Price of Salt』(後に『キャロル』と改題)。 エヴァ・ヴィティヤ監督は、映画化されていない彼女の日記に恋して本作を紡ぎました。
母親が妊娠中に流産を望んで策を講じたことを聞かされていたパトリシアの、母親との確執。恋人と過ごすために、ロンドンやパリに家を建てたこと。女性限定の秘密のクラブで、人々を楽しませて人気だったこと・・・ 「私の人生は過ちの歴史」と日記に書き残しているパトリシア・ハイスミスの、自由奔放とも思える人生の軌跡と苦悩を本作で知ることができました。(咲)
パトリシア・ハイスミス(1921-1995)は、アガサ・クリスティーと並ぶ人気を誇るサスペンス・ミステリー作家だそう。彼女の原作から『見知らぬ乗客』(1951年)や『太陽がいっぱい』(60年)、『アメリカの友人』(77年)、『キャロル』(2015年)など、映画史に残る名作の数々が生まれたというのに彼女の名前を知らなかった。子供の頃、推理小説が好きでたくさんの推理小説を読んでいたはずなのに。
このドキュメンタリーは、彼女の生誕100周年を経て発表された日記やノート、本人映像、インタビュー音声や、家族などの証言、そしてアルフレッド・ヒッチコックやトッド・ヘインズ、ヴィム・ベンダースらが映画化した作品の映像を織り交ぜながら、ハイスミスの謎に包まれた人生に新たな光を当てている。あの時代にレズビアンとして生き、自伝的小説『キャロル』の原作も生みだした。しかし、名の知れた彼女でも当時はカミングアウトは難しく、最初は別名で出したそう。この作品を観て1950,60年代にはすでに同性愛者のコミュニティ的なもの、女性たちが集まる店もあったんだと知った(暁)。
2022年/スイス、ドイツ/英語、ドイツ語、フランス語/88分/カラー・モノクロ/1.78:1/5.1ch
字幕:大西公子
後援:在日スイス大使館、ドイツ連邦共和国大使館
配給:ミモザフィルムズ
公式サイト:https://mimosafilms.com/highsmith/
★2023年11月3日(金・祝)より新宿シネマカリテ、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開/strong>