2023年11月27日

アダミアニ 祈りの谷

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(C)2021 ADAMIANI Film Partners

監督・撮影:竹岡寬俊
撮影:山内秦
編集:Herbert Hunger
音楽:Julien Marchal
出演:レイラ・アチシビリ、マリアム・ケバゼ、アボ・アチシビリ、バルバラ・コンコレフスカ

ジョージアの東、パンキシ渓谷。
ここは、チェチェン紛争で「テロリストの巣窟」と汚名を着せられるも、美しい山岳地帯。
本作は、パンキシ渓谷で暮らす、キスト(チェチェン系ジョージア人)と呼ばれるイスラーム教徒の人々を3 年間に渡り記録したドキュメンタリー。

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(C)2021 ADAMIANI Film Partners

レイラは、二人の息子をシリアでの戦いで失った悲しみを抱えながら、娘のマリアムと美しい庭が自慢のゲストハウスを営んでいる。レイラのいとこのアボは、旅行者をコーカサスの山々へ案内するガイド。戦士の一族に生まれたアボもまた、ロシアとの戦争で見たことが忘れられないでいる。レイラもアボも、つらい過去を封印し、異教徒の人たちとも融和をはかり、世界の人たちにパンキシ渓谷の美しさを知ってほしいと夢見ている。

“アダミアニ”とは、神が最初に創造したアダムを語源とするジョージア語で“人間”を意味する言葉。

ジョージア東部に位置するパンキシ渓谷には、19 世紀に現在のチェチェン、イングーシ地域から移住した「キスト」の末裔が暮らしています。国民の大多数が正教徒のジョージアで、キストは伝統的なイスラームの信仰を守り、牧畜や農業を営みながら、ジョージア人と共存してきました。
1994 年、ロシアからの独立を求めて始まった第二次チェチェン紛争で追い詰められたチェチェン難民や独立派ゲリラが、国境を越えパンキシ渓谷に押し寄せ、さらに、独立派勢力を支援するアラブからのムジャヒディンや、麻薬や武器密売を請け負うマフィアまでが潜伏。パンキシ渓谷には「テロリストの巣窟」というイメージが定着してしまいました。

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(C)2021 ADAMIANI Film Partners

パンキシ渓谷には、11軒のゲストハウスがあって、レイラをはじめオーナーはすべて女性。
ポーランドの女性バルバラがここを気に入って、女性たちを率いて訪ねてきます。アボは、バルバラの招きで、ポーランドにパンキシ渓谷のPRに行くのですが、なんとも前途多難。それでも、アボとバルバラは、2017年にツアー会社Caucasus X-Trek Pankisiを設立します。
(★その後、アボさんとバルバラさんは、ご結婚♪ レイラさんの娘のマリアムさんは、大学に進学。)

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(C)2021 ADAMIANI Film Partners

レイラたちは観光協会を設立し、バンキシ祭で、イメージ一新のための企画を立てます。そんな折、パンキシで強制捜査を行ったジョージアの特殊部隊が、テロリスト幇助の疑いでキストの19歳の青年を銃撃し、亡くなってしまいます。 青年のお墓は祭の開催場所のすぐ隣りにあり、父親は、証言の機会も与えられず、テロリストと汚名を着せられ殺された息子の墓のそばでの祭りに反対します。
美しい景色を見ながら、この地にいつ平和は訪れのだろう・・・と、暗澹たる思いにかられました。異教徒が共存できる日が早く来ることを願うばかりです。(咲)


パンキシ渓谷、素晴らしい景色が広がっている。そこに住むイスラム教徒のキスト人たち。国民の大多数がキリスト教徒であるジョージア人と共存してきましたが、チェチェン紛争、シリアでの戦いなどの混乱のなか、レイラさんは二人も息子を亡くしました。そんな悲しみを抱えながら、パンキシ渓谷の美しさを知ってほしいとゲストハウスを営む。同じようにゲストハウスを営む女性たちと、ここをもりたてようと活動をしています。
この女性たちの活動、行動は素晴らしい。そんな彼女たちの活動に、日本での地域おこし協力隊などの活動を思い起こしました。そして、私が5年間暮した長野県の白馬村でのことも思いだしました。ここも素晴らしい景観を元に観光地化され、日本でも有数の観光地になり、オリンピック開催地にまでになりました。私が50年くらい前に行った時はまだ素朴な山村の村だった白馬村をはじめとする長野の観光地は、スキーブームや観光地化によっておしゃれな場所に生まれ変わっていったけど、そのブームが去って、ペンション村などは少し寂しくなっています。このパンキシ渓谷の人たちが、同じ轍を踏まないでほしいと思う。それにしても素晴らしいところですね(暁)。



『アダミアニ 祈りの谷』劇場公開記念 舞台挨拶
2023年12⽉3⽇(日) 11:50の回上映後
<登壇予定> 加藤登紀子さん/竹岡寛俊監督

2023年12月10日(日) 15:20~の回上映後
はらだたけひでさん(絵本作家・ジョージア映画祭主宰)、竹岡寛俊監督による舞台挨拶



【映画祭記録】
ジョージア映画祭 2022 特別上映
第 62 回クラクフ映画祭正式出品 国際映画批評家連盟賞受賞
Kathmandu International Mountain Film Festival 2022 正式出品
東京ドキュメンタリー映画祭 2022 長編部門グランプリ
South East European Film Festival ドキュメンタリー部門最優秀撮影賞


2021年/日本・オランダ/カラー/120分/ビスタ/5.1ch/G
共同製作:MUYI FILM
配給:アークエンタテインメント
公式サイト:http://inorinotani.com/
★2023年12月1日(金)より YEBISU GARDEN CINEMA ほか全国ロードショー
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2023年11月26日

Maelstrom マエルストロム

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監督・撮影・編集・ナレーション:山岡瑞子
撮影:本田 広大 平野 浩一 高橋 朋
音楽:オシダアヤ

2002年6月のはじめ、NYにある美術大学を卒業し、あと一年間プラクティカル・トレーニングビザで滞在予定だった留学生が、アパートの契約金を下ろしに銀行に向かう途中、事故が起きた。こんな事故は日常に見聞きする、よくあること。殺人事件に巻き込まれなくて良かった。でも、その留学生は、その家族は帰国後、どうなったのだろうか。突然、それまでの日常を失い、それまでの時間が存在しない場に戻った時、何がその人らしさを繋ぎ止めるのか−−−。事故の当事者になった“私”は、大混乱の中、変わってしまった日常の記録を始めた。事故前の自分と繋がり直し、探している場所に辿り着けることを祈りながら−−−。

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山岡瑞子監督(オフィシャル画像)


留学した美大を卒業し、洋々と広がる前途に夢や不安を抱いていた時に遭遇してしまった交通事故。目が覚めたときの混乱はいかほどだったでしょう。淡々としたナレーションを耳にしながら映像を観続け、そのショックや現状を受け入れ、進むまでの毎日を思いました。
会見で山岡監督がおっしゃったように、事故は本当に身近にあります。それが一瞬にして人生を変えてしまうことも。大きな転換を体験した山岡監督のこれまでの日々が、編集するたびに蘇ったはず。5年かかったというのも無理のないことです。
事故に遭った方や家族がその後どんな風に暮らしていったのか、つぶさに見せていただきました。山岡監督はアートや家族の支えをよりどころにして、現在に至ります。

自分でも、大きなトラックとぶつかりそうになって、ひやりとしたことがあります。大きな事故にはならないで済んだものの、ほんの数秒違っていたら、今はありません。数年後自宅前で後ろから来た車のサイドミラーが接触して前に飛んだこともあります。立ち上がれずにいたら、接触した車から運転していた人が降りて来て、近所の人も近づいて声をかけてくれました。念のため外科に行きましたが打撲だけで済みました。しばらくの間、車が接近してくると身体が固まりました。自転車に乗っていて、人とぶつかったことも。自分が加害者になることだってあります。以来、自転車はやめて歩いています。(白)


私は定年退職するまでの約15年、障害者の人たちが作った、障害者、高齢者のためのリハビリ機器を販売する会社で働いていた。カタログの制作部門で働いていたが、そのカタログは商品の紹介だけではなく、この会社を立ち上げた社長の思いから、障害者福祉や介護保険制度などにも言及し、障害者の権利や利用の仕方なども紹介していた。
「障害者差別解消法」が平成25年(2013)6月に制定されたが、この法律の実現には「障害者差別禁止法を実現する全国ネットワーク」の働きかけがあった。社長はこのJDA(Japanese with Disabilities Act、「障害のある日本人のための法律」の略)を実現するための全国ネットワークを立ち上げ、介護保険の問題にとどまらず、障害者が一人の国民として当たり前の人生、生活を確保できる社会をつくることを目標に運動していた。
そんなこともあり、この会社では障害者も多数働いていた。障害があるからといって何もできないということはないと、自分に残された能力を使って働いていた。そのような会社だったので、障害者であろうと介護が必要な人であろうと「なんでもやってあげるのではなく、残っている能力をできるだけ生かし、できないことを援助する」という考え方が基本だった。
そして、私は現在障害者1級である。10年前、心臓弁膜症の手術をしたことで障害者になった。それ以来、私も「やれることは自分でやる」を忘れずに行動している。自分が障害者になるなんて考えてもいなかったけど、それはある日突然に降りかかった。

そして、山岡瑞子監督の作品。山岡監督は交通事故で大きな障害を負い下半身不随になった。突然、変わってしまった生活、ぞして人生。自身が巻き込まれ体験したmaelstrom(大渦巻き)、その日常生活を記録し、それを自身の作品としてまとめた。
車いすで行動しながら、その車いすの高さの視点で回りの景色を映し出していたのが新鮮だった。膝の上にカメラを載せて、その高さから見える世界は、これまで見たことのない、アングルからの映像である。
そして、交通事故の前に目指していたアートの世界にも挑戦していこうという思いを語る。この作品をきっかけに、新たな出会いもあるでしょう。それが新たな作品を作ることにつながるかもしれません。とにかく新たな一歩を踏み出しました。自信をもってください(暁)。

☆記者会見オフィシャルレポートはこちらです。

2022年/日本/カラー/HD/79分
配給・宣伝協力:ムービー・アクト・プロジェクト
公式Twitter @MizzyFilms
公式Facebook https://www.facebook.com/maelstormfilm
山岡瑞子HP https://mizuko-yamaoka.amebaownd.com
★2023年12月2日(土)~8日(金)横浜シネマリンにてロードショー

【トークイベント】13:50回上映後
★12/2(土) 矢田部吉彦さん(前東京国際映画祭ディレクター)
★12/3(日) 早川千絵さん(映画監督)
★12/4(月) 深田晃司さん(映画監督)
★12/5(火) 高橋慎一さん(映画監督)
★12/6(水)伊勢真一さん(映画監督)
★12/7(木) 諏訪敦彦さん(映画監督)
★12/8(金) 倉石信乃さん(明治大学教授・写真史)

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隣人X -疑惑の彼女-

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監督・脚本・編集:熊澤尚人
原作:パリュスあや子「隣人X」(講談社文庫)
音楽:成田 旬
主題歌:chilldspot「キラーワード」
出演:上野樹里(柏木良子)、林遣都(笹憲太郎)、ファン・ペイチャ(リン・イレン)、野村周平(仁村拓真)、川瀬陽太(内田瑛太)、嶋田久作(小池編集長)、原日出子(柏木麻美)、バカリズム(月村祐一 )、酒向芳(柏木紀彦)

ある日、日本政府は故郷の惑星から追われた難民Xの受け入れを発表した。人間の姿で日常に紛れ込んだXがどこで暮らしているのか、誰も知らない。彼らの目的は何なのか?何の情報もないため、疑心暗鬼にかられた人々は誰がXなのか、つきとめようとする。
週刊東部の編集部では調査会社にX疑惑のある人間を探させ、記者たちに二人ずつ割り振って証拠を見つけろとハッパをかける。契約社員の笹は台湾からの留学生リンと、コンビニと宝くじ売り場のWワークをしている柏木良子を監視することになった。この記事をものにしないと契約を切られてしまう笹は、スクープのため良子へ近づいていく。二人は少しずつ距離を縮め、やがて笹は良子に好意を持つが、Xかもしれないという疑惑をぬぐい切れない。

とっても久しぶりの上野樹里さん、7年ぶりの映画主演だそうです(いつのまにか結婚されていました)。10代から見ているのに、林遣都さんも家族を背負い無精ひげも似合う年代になりました。そのお二人が初共演、熊澤監督と上野さんとは『虹の女神 Rainbow Song』以来17年ぶり、林さんとは『ダイブ!!』以来15年ぶりのタッグです。
この作品では、Xは誰なのか、未知のものにどう対処していくのか、二転三転するストーリーを追いかけるうちに明らかになります。初めてのもの、わからないものに出会ったらどうしますか?興味を持って知ろうとするでしょうか?恐怖心が勝って逃げ出したり、ないものとしたりするかもしれません。恐怖が蔓延すると、往々にして対象の排除に向かいがち、前例がいっぱいありそうです。この3年ほど、世界中が新型ウイルスのコロナに翻弄されました。この物語での混乱ぶりもそれによく似ています。
(白)


2023年/日本/カラー/シネスコ/120分
配給:ハピネットファントム・スタジオ
(C)2023 映画「隣人X 疑惑の彼女」製作委員会 (C)パリュスあや子/講談社
公式サイト:https://happinet-phantom.com/rinjinX/
公式X:@rinjin_x
★2023年12月1日(金)新宿ピカデリー 他全国ロードショー

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ショータイム!(原題:Les Folies fermieres)

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監督・脚本:ジャン=ピエール・アメリス
撮影:ヴィルジニー・サン=マルタン
音楽:カンタン・サージャック
出演:アルバン・イワノフ(ダヴィッド)、サブリナ・ウアザニ(ボニー)、ベランジェール・クリエフ(レティシア)、ギイ・マルシャン(レオ)、ミシェル・ベルニエ(ミレーユ)

フランスの中南部、カンタル地方。経営危機に陥っている農場主のダヴィッドは地方裁判所の判事の元へ“出頭”する。祖父の代から続いた農場を差し押さえられないよう猶予をもらうつもりだ。なんとかあと2か月の猶予をもらえたが、何の打開策も浮かばない。傷心のまま歩くダヴィッドの目にキャバレーのネオンサインが飛び込んでくる。
初めて観るダンサーのパフォーマンスにくぎ付けになったダヴィッドは、自分の農場でこれと同じことができないかとひらめく。恐る恐るキャバレーに出向いてみると、ボニーがボスと喧嘩して出てくるところだった。この僥倖に遭遇して、普段は口下手なダビッドは勇気を振り絞って声をかける。思いがけないスカウトにボニーは警戒するが、誘いに乗ってみる。何しろクビになったばかりでほかに行く当てがなかった。

あれあれというようなストーリーですが、実際にあったことです。アメリス監督は2018年1月に主人公のモデルとなったダヴィッド・コーメット氏の記事を見つけ、その奇抜なアイディアに興味をひかれ、映画を作ろうと思ったそうです。酪農家や農場主の苦難は実際多く、自殺に追い込まれる人も出ていました。起死回生の勝負に出たダヴィッドは、ショウを盛り上げるパフォーマーを捜し歩きます。ボニーはコーチで演出家となり、寄せ集めのスタッフを特訓します。劇中でボニーが空中での布を使ったダンスを披露していて、これが目玉ですが、ほかの出し物も楽しいです。ここでのキャストたちの獅子奮迅ぶりが見ものです。
本当にショウは出来上がるのか?納屋のキャバレーにお客が来るのか?疑問や心配で頭がぐるぐるするダヴィッドの母と同じ心持ちで見守ってしまいました。二転三転する状況にちりばめられた笑いと人情をお楽しみください。(白)


2022年/フランス/カラー/シネスコ/109分
配給:彩プロ
(C)2021 - ESCAZAL FILMS - TF1 STUDIO - APOLLO FILMS DISTRIBUTION - FRANCE 3 CINEMA - AUVERGNE-RHONE-ALPES CINEMA
https://countrycabaret.ayapro.ne.jp/
★2023年12月1日(金)ロードショー

posted by shiraishi at 14:20| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

メンゲレと私   原題:A Boy's Life

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(C)2023 BLACKBOX FILM & MEDIENPRODUKTION GMBH

監督:クリスティアン・クレーネス、フロリアン・ヴァイゲンザマー

『ゲッベルスと私』 (2018年公開)、『ユダヤ人の私』 (2021年公開)に続く「ホロコースト証言シリーズ」3部作の最終作。

リトアニア出身のユダヤ人、ダニエル・ハノッホ(1932年生まれ)。9歳の時、カウナス郊外のゲットーに送られ、その後、12歳でアウシュヴィッツ強制収容所に連行された。多くの子供が到着後にガス室で殺されたが、金髪の美少年だったダニエルは、ヨーゼフ・メンゲレ医師の「選別」により奇跡的に生き延びた。非人道的な人体実験を繰り返したメンゲルは、神のように崇められ、すべての者の生存権は彼の手にあり、“死の天使”の異名を持っていた。だた、ダニエルが見た真の地獄は終戦末期に連合軍の攻勢から逃れるため強制的に連れていかれた「死の行進」であった。暴力、伝染病、カニバリズム・・・少年は人類史の最暗部を目撃する。

取材当時91歳のダニエルが、子供時代に味わった地獄を語る合間に、様々なアーカイブ映像が流れます。ロシアの風刺アニメーション『シネマ・サーカス』、ソ連のプロパガンダ映画『モスクワ攻防戦』、1961年にアイヒマンに見せたアウシュヴィッツ強制収容所でカートので死体やガス室に送られた人々の所持品を運ぶ姿、米兵を洗脳し国民を団結させるための映像等々・・・ 人はいかに映像で騙されてしまうのかを教えられます。起こった事実が後世の人の目に触れるという利点もありますが。
ホロコーストで犠牲となったユダヤ人の子供たちは約150万人。そのうち、アウシュヴィッツ強制収容所に連行されたユダヤ人の子供は推定21万6千人で、45年1月にソ連軍が収容所を解放した際、生存していた子供たちは、わずか451人。
奇跡的に生き延びたダニエルは、1945年5月にアメリカ軍によって解放され、兄のウリとイタリアで再会し、兄弟はその後パレスチナに入国しています。
映画の最後に、ダニエルは、「イスラエルでラヘルと出会い、幸せな家庭を築いた。“素晴らしき甘い人生”だ」と語ります。皮肉にも聞こえますが、生き抜いたお蔭で手に入れた人生には違いありません。
ダニエルの発言の中で気になったことがありました。
リトアニアがソ連に占領されたとき、ソ連の人たちも軍人も優しかったけれど、その後、ドイツに占領された時、町にドイツ人が来る前にリトアニア人がユダヤ人を殺したのだそうです。また、ホロコーストから解放された後に行ったオーストリアでも、オーストリア人はユダヤ人に冷たかったけれど、イタリアでは優しく迎えてくれたという発言がありました。
前作『ユダヤ人の私』の折に、「オーストリアの反ユダヤ主義はドイツ人が持ち込んだものではなく、オーストリアで何世紀にもわたって培われ、カトリック教会がそれを後押しした」と知りました。リトアニアの反ユダヤ主義はどこから生まれたものなのでしょう・・・

ヨーロッパ各地で嫌われ、ホロコーストを生き抜いた人たちが戦後作った国イスラエル。
暮らしていたパレスチナ人を追い出す形で国を作り、さらにまた、ガザ地区に閉じ込めたパレスチナ人を、ハマスがテロリストだからという理由をつけて攻撃する暴挙。
ホロコーストの加害者は別にいるのに、これでは弱い者いじめ。
お互いを認め合って共存できる世界は、どうして実現しないのでしょう・・・(咲)


ユダヤ人の大虐殺を描いた映画はこれまでも数多くあった。それでも、この大虐殺を生き抜いた人たちが生きている間にいろいろな証言を記録しておいてほしい。そして、その体験したことが二度とおこらないように公開していってほしい。ま、過去の過ちを繰り返さないということを学ばない人が多いから、今も戦争が続いているのだろうから、効果のほどはなんともいえないが…。
非人道的な人体実験を繰り返したメンゲレは死の決定権をもっていた。そんな中、ダニエル・ハノッホさんはメンゲレに気にいられ奇跡的に生き延びた。ダニエルさんが語ったリトアニアでの当時の話は貴重である。
彼が語ったことで印象に残っているのは下記の証言。
・「リトアニア人がユダヤ人を殺し、ドイツ人は見ていた」
ナチスがユダヤ人の大虐殺を行ったと言われているが、各国で、その国の人たちがユダヤ人に対しておこなってきたことはあまり問われていない。
・「人間を死に追いやるラインを見ていた」
生き延びた人たちは、こういう立場だった人が多いので、負い目をもっていることが多いのでしょう。
・「番号が私の名前。アイデンティティを無くした」
「番号が私の名前」というのはこれまでも何人もの証言者たちから出ているが、この言葉を聞いていたから、今、日本で進んでいるマイナンバー制度に対して番号で管理される社会への疑問がある。だからマイナンバーカードは作っていない。
・「解放されて食料も探したが、文房具(鉛筆と紙)を探した。」
鉛筆と紙を求めたのは、自分の体験を忘れないうちに記録するためだったのでしょう。ダニエルさん、あちこち連れまわされたのに、その地名などをちゃんと覚えていて証言していたのは、記憶が確かなうちに記録しておいたからかもしれないと思いました(暁)。


2021年/オーストリア/96分/モノクロ
日本語字幕:吉川美奈子
配給:サニーフィルム
後援:オーストリア大使館、オーストリア文化フォーラム東京、イスラエル大使館
公式サイト:https://www.sunny-film.com/shogen-series
★2023年12月3日(日)東京都写真美術館ホール
12月6日(水)大阪・第七芸術劇場、12月9日(土)沖縄・桜坂劇場にて公開



東京都写真美術館ホール
『メンゲレと私』
上映期間:2023年12月3日(日)~12月15日(金)
休映日:2023年12月4日(月)、11日(月)、13日(水)

『ゲッベルスと私』 ※12月9日(土)、10(日)のみ上映 12;30~

『ユダヤ人の私』 ※12月9日(土)、10(日)のみ上映 14:50

・参考資料 シネマジャーナルHP 特別記事
『北のともしび ノイエンガンメ強制収容所とブレンフーザー・ダムの子どもたち』
東志津監督インタビュー
posted by sakiko at 14:19| Comment(0) | オーストリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ポッド・ジェネレーション(原題:The Pod Generation)

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監督・脚本:ソフィー・バーセス
撮影:アンドリー・パレーク
編集:ロン・パテイン
音楽:エフゲニー・ガルペリン&サーシャ・ガルペリン
出演:エミリア・クラーク(レイチェル)、キウェテル・イジョフォー(アルヴィー)、ロザリー・クレイグ(リンダ)

近未来のニューヨーク。AI(人口知能)が発達し、日常生活が劇的に変わっている時代。レイチェルはハイテク企業に勤務、有能な彼女は出産のために最新テクノロジーを使うことを考える。希望者が多いために早めに《ポッド妊娠》を予約した。受精卵を卵型のポッドで育て、女性に妊娠出産の負担がないようにできる装置だ。植物学者で何事も自然のままを好む夫アルヴィーには言えないままだったが。
そしてある日「空き」ができたと連絡が入る。レイチェルはアルヴィーにやっと打ち明けるが、案の定大反対される。しかしセラピーを一緒に受けたり、ポッドの大企業ペガサス社に出かけたりするうち、折れてくれた。受精の瞬間をスクリーンで観た二人は、ポッドで育つわが子に心奪われていく。

主演のエミリア・クラークが制作にもあたっています。女性が担ってきた妊娠・出産を身体から離して実行できる世界、そう遠くないのかもしれません。人間とAI、自然と人工、生命が生まれることなど、いろいろ考える種の多い作品でした、
レイチェルが働く会社では、個人個人がデスクに向かい、足元は動くベルト(お散歩マシーン)です。デスクには目玉型のアシスタントとコンピュータ、レイチェルは画面を見つめてキーボードを操作しています。帰りには自然を満喫できるスペース(なぜか螺旋階段を上る)に立ち寄って人工の自然の中でリラックスします。ほんとの自然は限られた場所に残されているだけのようです。
効率を重んじる世界で、夫アルヴィーは非効率でも本物の自然を体感することを、学生に伝えようと心を砕きます。ポッド妊娠に反対していた彼が、胎児のシルエットを見てから俄然育児に熱心になるのが、ほほえましいです。二人がポッドで育成中にあちこち持って歩くので、「落としたら大変、もっと安全におけるところはないの」とまさに老婆心を起こしました。
*AIのカウンセラーが大きな目玉なので、いくら周りが花々で飾られていようが、向き合うのは遠慮したいです。信頼できそうな風貌の人間型がいいのに、なぜAIが目玉型なのか監督に聞いてみたいものです。アシスタントの形で「ゲゲゲの鬼太郎」ファン?と思っちゃいました。(白)


2022年/ルギー・フランス・イギリス合作/カラー/シネスコ/110分
配給:パルコ
(C)2023 YZE – SCOPE PICTURES – POD GENERATION
https://pod-generation.jp/
★2023年12月1日(金)ロードショー

posted by shiraishi at 13:50| Comment(0) | ベルギー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

スイッチ 人生最高の贈り物(原題:Switch 스위치)

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監督:マ・デユン
出演:クォン・サンウ(パク・ガン)、オ・ジョンセ(チョ・ユン)、イ・ミンジョン(スヒョン)、パク・ソイ(ロヒ)、キム・ジュン(ロハ)

トップスター俳優のパク・ガンは出演オファーが絶えず、主演映画も大ヒット。若手女優と一夜限りの情事を楽しみスキャンダルにも物おじしない、セレブなシングルライフを満喫する彼だが、実はクリスマスイブの予定は年末の授賞式だけ。イブの夜、唯一の友でマネージャーのチョ・ユンと飲んでタクシーに乗り込んだ。運転手に「もし人生を選び直せるならどうするか?」と奇妙な事を尋ねられた。
翌朝、見慣れぬ家で目が覚めた。ここはどこ?パパ~とやってきた子どもたちに驚くと、ママは元恋人だったスヒョン!ガンが成功するために彼女とは別れたはず。なぜ?があふれ出してくるが二日酔いの頭が回らない。自分は落ち目の劇団俳優で、スヒョンと結婚しこの双子の父らしい。そしてマネージャーだったチョ・ユンが実力派俳優になっていた!入れ替わってしまったのか!?

タイムスリップものと同じくらい入れ替わりものも面白いですよね。こちらご期待を。すっかりベテラン俳優になった元祖モムチャン(肉体美)のクォン・サンウ。若いころに多かったアクション映画ばかりでなく、ロマンス、ファミリー、バディものとなんでもできるスターになりました。この作品では、成功して何もかも手にしたトップスターの前半と、思いがけずスイッチ(入れ替わり)して裏方のマネージャーになった後半、二つの役をオ・ジョンセと共に演じています。
お互いに知っているようでよく知らなかった相手を、入れ替わったことでよ~く知ることになります。そして自分が何かを得たかわりに失ったもの、上を目指しているうちに捨ててきたものに気づいていきます。その微妙な変化にご注目を。奥さんのスヒョンと可愛い子どもたちとの家庭はいったいどうなるの~?!(白)


誰しも、人生を振り返って、あの時、別の選択をしていたら、今どんな暮らしをしているのだろう・・・と思うことがあると思います。この映画のように、別の人生を覗いてみることが出来たなら? 人生、やり直しがきかないのが残念です。タクシー運転手が、寂しいクリスマスイブを過ごしているパク・ガンにくれた人生を考え直しさせてくれる素敵なプレゼント。 タクシー運転手を演じているユ・ジェミョン、よくお顔をみるベテラン俳優。憂いを感じさせてくれる運転手自身の人生も気になります。 
パク・ガンと入れ替わり、トップスターになっているチョ・ユンを演じたオ・ジョンセは、現在アジアドラマティックチャンネルで放映中のドラマ「アンクル ~僕の最高のおじさん~」で主役を務めていて、どこかで見た顔と思っていたのですが、今回調べてみたらずいぶん前から脇役で活躍していた芸達者な方でした。 
パク・ガンとチョ・ユンの会話の中で、「いい作品があるが、イ・ビョンホンが狙ってる」とありました。パク・ガンの初恋の人スヒョンを演じたイ・ミンジョンがイ・ビョンホンの奥様なのを意識した台詞?と思わず笑ってしまいました。
クリスマスに大事な人と一緒に観るのにお薦めの映画です。(咲)



2023年/韓国/カラー/ビスタ/112分
配給:ツイン
© 2023 LOTTE ENTERTAINMENT & HIVE MEDIA CORP. All Rights Reserved.
Twitter: @movietwin2
公式サイト:sangwoo-movie.com
★2023年12月1日(金)シネマート新宿、心斎橋ほか全国順次ロードショー
posted by shiraishi at 13:45| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

バッド・デイ・ドライブ(原題:Retribution)

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監督:ニムロッド・アーントル
脚本:クリストファー・サルマンプール
出演:リーアム・ニーソン(マット・ターナー)、ノーマ・ドゥメズウェニ、リリー・アスペル、ジャック・チャンピオン、エンベス・デイヴィッツ、マシュー・モディーン

ベルリンのある朝。金融関係のビジネスマンのマットは仕事人間。それでも子どもたちを学校に送り届けるために車のドアを開けた。子どもたちと乗り込んで走り始めたとたん、携帯に着信がある。知らない男の声で「車に爆弾をしかけた。降りると作動する。これから指示に従わないと爆破する」と告げられる。驚いて座席の下を確認すると爆破装置のようなものが見えた。犯人は何者で、何が狙いなのかわからないままマットは車を止めることなく走り続ける。マットの様子に子どもたちもおびえ、犯人はマットに確認させるかのように、すぐ近くにいた同僚の乗った車を予告のうえ、爆破した。

子ども2人と爆弾をのせたまま、ベルリンの街を走り続けるマット。映画は事件とリアルタイムで進行します。リーアム・ニーソンは子どもを守って戦う父親役が多かった気がしますが、今回は車から降りられずなかなかアクションを起こせません。
その上、妻が離婚の相談に出かけていることを知らされます。
オリジナル脚本はアルベルト・マリーニ。2015年のスペイン映画『暴走車 ランナウェイ・カー』をリメイクしています。ほかにドイツ版『タイムリミット 見知らぬ影』、韓国版『ハード・ヒット 発信制限』がありますが、特にサスペンスものはストーリーがわかると面白さが減ってしまうので、極力情報を入れずに観るのをおすすめします。私は韓国版を観ていましたので、ドキドキするより同じところや違うところを探したり比べたりをしていました。それもまた一つの楽しみ方ではあります。(白)


2023年/イギリス・アメリカ・フランス合作/カラー/91分G
配給:キノフィルムズ
(C)2022 STUDIOCANAL SAS - TF1 FILMS PRODUCTION SAS, ALL RIGHTS RESERVED.
https://bdd-movie.jp/
★2023年12月1日(金)絶・対・着席
posted by shiraishi at 13:27| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

父は憶えている   原題:Esimde  英題:This is What I Remember

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(C)Kyrgyzfilm, Oy Art, Bitters End, Volya Films, Mandra Films

監督・脚本:アクタン・アリム・クバト
出演:アクタン・アリム・クバト、ミルラン・アブディカリコフ、タアライカン・アバゾヴァ

キルギスの村。クバトは、ロシアに出稼ぎに行き20年間行方不明になっていた父ザールクを見つけて連れ帰る。父はロシアにいる間に記憶を失っていた。母ウムスナイは夫が亡くなったと思って、村の有力者の男と再婚している。同級生たちが歓迎の宴を開くが、クバトはその座につかず掃除ばかりしている。クバトは父を村のあちこちに連れていくが、記憶は戻らない・・・

同級生たちは、自分たちのことを忘れてるのを寂しく思いながらも、クバトのお蔭で村が綺麗になっていいな等と話していて、思わず笑ってしまいます。それでも皆、妻が再婚していることを心配しています。
ウムスナイの再婚相手ジャイチは離婚に応じる気は全くありません。モスクの導師に相談にいくと、夫が「タラーク(離婚)」を3回言わないと離婚は成立しないと言われます。悩むウムスナイに、モスクの管理人のナジムバイは、「自分の心のままにした方がいい」と優しく声をかけます。
アクタン・アリム・クバト監督は、以前の作品でも、イスラームの教義を厳しく守る人たちを登場させていて、地域の伝統を守りながら信仰心を持つ人との対比を描いています。

2022年の東京国際映画祭で『This Is What I Remember(英題)』のタイトルで上映された折のQ&Aで、クバト監督は、「私の経験したイスラームは、地元の伝統に結び付いていました。現代のイスラームは暴力的になって、伝統と食い違うことが多いように感じます。伝統を大事にしたい人たちは、イスラームを信じているのですが、心の一部には、伝統的なテングクの気持ちが残っています。私自身、信仰に反対ではなくて、アラビア風のイスラームには抵抗を感じています。その考えを主人公の一人である女性を通じて表そうと思いました」と語っています。
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東京国際映画祭 キルギス『This Is What I Remember(英題)』アクタン・アリム・クバト監督Q&A報告 (咲)

イスラームでは、女性からも離婚するkhulu'(フルウ、本作の字幕ではクル)という方法がありますが、妻側が夫から貰っている婚資相当額を返還する必要があるとのこと。ウムスナイが何度か「私からクルするしかない」と口にしています。
ザールクが、林の木の幹に一生懸命白いペンキを塗っているのですが、この林はウムスナイと若い頃によく一緒に歩いていたところ。二人はまた仲良くこの林を歩くことができるのでしょうか・・・ (咲)


クバトはロシアに出稼ぎに行ったまま23年も行方不明になっていた父ザールクをみつけて連れ帰たものの、父はロシアにいる間に記憶を失ない自分のこともわからない。ザールクの妻ウムスナイは夫が亡くなったと思って村の有力者と再婚してしまっている。クバトは父を村のあちこちに連れていくが記憶は戻らない。どこの国でも起こりうる事を描いているが、妻の混乱と迷い、決断が一番印象に思った。イスラム圏では妻からの離婚申し出が認められないのかと思っていたけど、この映画では妻からも可能ということも描かれていた。それはやはりキルギスだから?
でも、道師はウムスナイが相談に行った時、彼女に対して、女性からも離婚を言い出せるとは言っていない。門番?の方がそれを伝える。
最後、ザールクとウムスナイがよく歩いていたというところに、ウムスナイの歌が流れ、一瞬、顔を向けるザールク。
監督自身がザールクを演じ、息子役は監督の実の息子だという。クバト監督は一言も言葉を発しないけど、ゴミをひろい歩いたりして、とぼけた演技が見もの(暁)。


2022年/キルギス・日本・オランダ・フランス/カラー/1:1.85/105分/キルギス語・アラビア語・英語
配給:ビターズ・エンド
公式サイト:https://www.bitters.co.jp/oboeteiru/
★2023年12月1日(金)より、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
posted by sakiko at 13:02| Comment(0) | キルギス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年11月24日

マイ・ファミリー 自閉症の僕のひとり立ち(原題:Kees vliegt uit)

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監督・脚本:モニーク・ノルテ
出演:ケース・モンマ、ヘンリエッテ・モンマ、ヴィレム・モンマ、ヤスパー・モンマ

42歳のケース・モンマは自閉症。これまで実家の庭に建てた離れに住み、両親のサポートの元で暮らしてきました。”半分自立”している彼ですが、高齢になった両親はいつかは先に逝ってしまう。ケースは”本当に自立”するために、一人暮らしをすることにしました。ケースは緻密な絵を描いたり、模型を作ったりするのが得意で、生業としています。
ケースがいやなことをあげている場面があります。音に敏感なこと、コントロールできない天候にいらだつこと、イエスかノーかをはっきりしてほしいこと。「フムフム」というあいまいな相槌に困ること。とても繊細なので常に不安の種があります。
母がいることでなりたってきたケースの暮らし、ケースを最優先に生きてきた母、この二人が分かれて暮らすことはできるのでしょうか。

8年間の日々を切り取ったドキュメンタリーです。モニーク・ノルテ監督は1997年にケースに出会って以来、26年間にわたって交友関係を続け、ケースと両親を撮影してきました。前作『ケースのためにできること』(2014)は、本国オランダではのべ450万人が見て、自閉症を知ることに貢献しています。日本では”EUフィルムデーズ2020”で上映されました。今年の”EUフィルムデーズ2023”では本作が『ケースのはばたく日』というタイトルで上映されています。
50代の子どもが80代の親を看るのでなく、モンマ家では逆です。経済的に余裕のあるお宅なのが何よりですが、両親の老いは進んでいきますし先に何があるかは予想もつきません。子どもを残していく親の気持ちになってしまいました。(白)


2022年/オランダ/カラー/83分/ドキュメンタリー
配給:パンドラ
(C)Doclines
http://www.pan-dora.co.jp/myfamily/
★2023年11月25日(土)~12月8日(金)新宿 K’s cinemaにて公開
posted by shiraishi at 17:05| Comment(0) | オランダ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ディス・マジック・モーメント

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監督・脚本・プロデューサー:リム・カーワイ
撮影:大窪竜司
音楽:石川潤

~旅する映画監督リム・カーワイと巡るミニシアターの旅~

リム・カーワイは、大阪を拠点に香港、中国、バルカン半島などを舞台に映画を作り、どこにも属さず彷徨う「シネマドリフター(映画流れ者)」を自称するマレーシア出身の映画監督。
2022年に公開されたリム監督の『あなたの微笑み』では、第32回東京国際映画祭(2019)で受賞歴(『叫び声』で日本映画スプラッシュ部門監督賞)を持つ自主映画監督の渡辺紘文こと、「世界の渡辺」が自作を上映してくれる映画館を探して全国のミニシアターを訪ね歩く。公開を前に映画の舞台となったミニシアターに次々と困難が降りかかる。火事で映画館が全焼したり、館主の死亡で閉館や営業停止など。ついにはリム監督の本拠地大阪のテアトル梅田の閉館が決まり、いても立ってもいられなくなった監督は、自らナビゲーターとなってミニシアターを駆け巡ることに。日本は世界でも有数の「独立系ミニシアター大国」。しかし、ミニシアターと言っても、その成り立ちや経営は多種多様。家族経営、クリーニング店兼映画館、市民がつくる映画館、文化財として観光名所になった映画館等々。
日本全国のミニシアターを訪ね、劇場を支える人たちの思いに耳を傾け、見えてきたものとは…。全国22館のミニシアターを巡るリム・カーワイ監督のインタビュー映像と共に、取り壊しされた首里劇場や、全焼し再建中の小倉昭和館の跡地など、貴重な映像が盛りだくさん。

訪ねた映画館:
大黒座(北海道)、シネマディクト(青森)、御成座(秋田)、高田世界館(新潟)、シネ・ウィンド(新潟)、ほとり座(富山)、シネモンド(石川)、福井メトロ劇場(福井)、上田映劇(長野)、シネマテークたかさき(群馬)、シネマスコーレ(愛知)、豊岡劇場(兵庫)、テアトル梅田(大阪)、シネ・ヌーヴォ(大阪)、別府ブルーバード劇場(大分)、小倉昭和館(福岡)、THEATER ENYA(佐賀)、宮﨑キネマ館(宮﨑)、ガーデンズシネマ(鹿児島)、よしもと南の島パニパニシネマ(沖縄)、シアタードーナツ・オキナワ(沖縄)、首里劇場(沖縄)

マレーシア人のリム・カーワイ監督が大阪大学に留学して、初めて訪れた映画館はテアトル梅田。ミニシアターでよりすぐりの映画をあびるように観たことは、一青年に映画監督への道を歩ませる後押しになりました。
前作『あなたの微笑み』(22)は、自主映画監督 渡辺紘文を主演に、全国各地の映画館を訪ねて自作を売り込むという、ドキュメンタリーに見えるフィクションでした。その後、テアトル梅田の閉館が決まり、リム監督は全国のミニシアター22館をめぐります。自らインタビュアーとなって、個性的な館主さんたちの越し方、行く末を尋ね、館主さんと自分の映画愛を初のドキュメンタリー作品に焼き付けました。(白)


「館長も映画館も個性派揃い。いますぐ行きたくなる、リム・カーワイ presents ミニシアターの世界」とHPにありましたが、ほんとに、ここに出てくる映画館巡りをしてみたくなりました。ここに出てくる映画館で、私が行ったことことがある映画館はシネマスコーレとシネ・ヌーヴォくらい。シネマスコーレの木全元支配人が出ていましたが、木全さん、去年から今年、2本目の出演映画です。
コロナ禍で経営危機に陥ったところもあり、2022年には岩波ホールやテアトル梅田が閉館しています。他のところも自転車操業だと思います。ミニシアターをやっている人たちは、元々、儲けのためにはやっていないと思うけど、いずれの出演者も、映画の面白さ、魅力を伝えようと頑張っている人たちばかり。こんな人たちに支えられて日本のミニシアター文化はあります。
リム・カーワイ監督は、今年(2023)の山形国際ドキュメンタリー映画祭、アジア千波万波部門の審査員を務めましたし、『どこでもない、ここしかない』『いつか、どこかで』に続いて製作したバルカン半島3部作の完結編『すべて、至るところにある』も2024年1月27日に公開されるので大忙しですね。(暁)


訪ね歩いたミニシアターそれぞれに物語があって、愛おしくなりました。存続が難しい中、いつまでも、その町で愛される映画館であってほしいと願ってやみません。
『あなたの微笑み』に登場し、印象深かった首里劇場の金城政則館長は急逝され、閉館が決まったことを知りました。戦後5年後に出来た建物。沖縄芝居の劇場としても使われてきた首里劇場の歩みを報告書にまとめる作業が進行中とのこと。同じく『あなたの微笑み』に出てきた小倉昭和館は大火事で焼失してしまい、跡形もなくなってしまったことに言葉を失います。
登場したミニシアターを訪ねて地方行脚したくなること請け合います。一番行ってみたいなと思ったのは、高田世界観。風情ある城下町にある洋風建築の映画館。ここでぜひ映画を観てみたいと思いました。(咲)


2023年/日本/カラー/90分
配給:Cinema Drifters
(C)cinemadrifters
https://magicmoment2023.wixsite.com/official
★2023年11月25日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

〈下記の日程で上映後にトークショーがあります〉
11月25日(土)11:00回 リム・カーワイ監督
11月26日(日)11:00回 リム・カーワイ監督×岩井圭也さん(作家・一般社団法人ホンミライ理事)
11月27日(月)11:00回 リム・カーワイ監督
11月28日(火)11:00回 リム・カーワイ監督×由井緑郎さん(PASSAGE by ALL REVIEWS 代表)
11月29日(水)11:00回 リム・カーワイ監督×伊藤智恵さん(喫茶店さぼうる)
11月30日(木)11:00回 リム・カーワイ監督×山下宏洋(シアター・イメージフォーラム支配人)
12月01日(金)11:00回 リム・カーワイ監督
12月02日(土)予定リム・カーワイ監督×松永大司さん(映画監督)
12月03日(日)11:00回 リム・カーワイ監督×田中泰延さん(ひろのぶと株式会社 代表)

先月、新潟上越柿崎に住み映画の自主上映活動をしていた友人小出優子さんが東京に来た時にこの『ディス・マジック・モーメント』のことを話したら、「新潟ではいつ上映される?」と言われ、宣伝さんに問い合わせたら来年1月以降と言われ、彼女に伝えたのですが、それでは待ちきれなかったのか、12月3日に新潟から新幹線でこの作品を観に東京まで来てくれました。彼女はこの作品に出てくるシネ・ウインドや高田世界館に映画を観に行っています。その日、渋谷のシアター・イメージフォーラムでは、舞台挨拶&トークショーがあり、リム・カーワイ監督と田中泰延さんの掛け合いのようなトークがあったそうです。小出さんがその時、撮った写真を送ってくれたのでアップします。
『ディス・マジック・モーメント』は、イメージフォーラムでは12月22日まで上映されているようです。みなさんもぜひ観に行ってみてください。

リム・カーワイ監督と田中泰延さん.jpg

トーク4補正_R.jpg

*シネマジャーナルHP 関連記事
・第32回東京国際映画祭 クロージングセレモニー
『あなたの微笑み』
・『シネマスコーレを解剖する。』公開決起集会 LOFT9 Shibuyaにて 
・山形国際ドキュメンタリー映画祭2023 表彰式
posted by shiraishi at 16:55| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ゴーストワールド(原題:Ghost World)

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監督・脚本:テリー・ツワイゴフ
原作・共同脚本:ダニエル・スロウズ
出演:ソーラ・バーチ(イーニド)、スカーレット・ヨハンソン(レベッカ)、スティーヴ・ブシェミ(シーモア)、ブラッド・レンフロ(ジョシュ)

1990年代のアメリカ。郊外の小さな町の女子高生イーニドとレベッカは子どもの頃からの親友。卒業式も済んで、もう退屈な授業を我慢したり、バカな同級生たちと会わなくていい。進路は決まってないけれど、二人で部屋を借りて住むことだけは決めている。
ダイナーで新聞の出会い系広告を見つけた二人は、いたずら心を起こして広告主の男性シーモアに連絡してみた。やってきたのは、ダサイ中年男、待ちぼうけを食わした二人は、尾行して自宅を突き止めた。シーモアに興味がわいたイーニドは、彼に接近していく。レベッカは仕事を見つけて自立する準備を進めるが、シーモアと親しくなったイーニドとは距離ができつつあった。

22年前の作品がリバイバル上映となりました。10代のソーラ・バーチとスカーレット・ヨハンソンが可愛いです。
思春期に大人も同級生もバカに見えたり、逆に自分だけが取り残されているように感じたり、どちらも誰にもありますよね。イーニドはクールで、どこか達観したところがあります。レベッカも他の人とは違う意識はあるものの、イーニドより現実的。親近感のわく二人です。なんだか自分のことみたい、と思ってしまった人多いでしょうね。私はバス停でいつも一人ベンチにいたお爺さんの行先が気になります。
幼馴染の二人が離れていくきっかけになる独身中年を、スティーヴ・ブシェミ。10代の二人と違って40代なので、今もあんまり変わらない印象です。のちにオーバードースで亡くなるブラッド・レンフロが出演していました。当時の若手3人は将来の夢をどんなふうに描いていたのでしょう。(白)


2001年/アメリカ/カラー/111分
配給:サンリスフィルム
(C)2001 Orion Pictures Distribution Corporation. All Rights Reserved.
https://senlisfilms.jp/ghostworld/
★2023年11月23日(祝・木)Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国で順次公開

posted by shiraishi at 16:10| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

翔んで埼玉 琵琶湖より愛をこめて

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監督:武内英樹
原作:魔夜峰央
脚本:徳永友一
撮影:谷川創平
音楽:Face to FAKE
主題歌:はなわ「ニュー咲きこぼれ埼玉」
出演:GACKT 二階堂ふみ 杏 片岡愛之助 加藤諒 益若つばさ 堀田真由 くっきー! 高橋メアリージュン 和久井映見 アキラ100% 朝日奈央 天童よしみ 山村紅葉 モモコ(ハイヒール) 川﨑麻世 藤原紀香 矢柴俊博・・・・

麻実麗率いる埼玉解放戦線の活躍で、埼玉県人たちは通行手形の撤廃に成功した。自由と平和を手に入れた麗はさらなる日本埼玉化計画を推しすすめていく。埼玉にないものは「海」!!埼玉県人の心を一つにするため、越谷に「海を作る」という奇想天外な計画を発表する。麗を愛する壇ノ浦百美さえのけぞった無謀な計画を実行すべく、一団は船をしたてて和歌山へと向かう。海には浜辺、それも白い砂が必要じゃ。いざ白浜へ!しかし、嵐のため船は難破、麗は漂着した海岸で、滋賀解放戦線の桔梗魁と出逢う。なんと関西にも、よりえげつない地域格差と通行手形制度が存在していた。

2019年公開の『跳んで埼玉』第2弾。二階堂ふみさん、GACKTさんを筆頭に俳優陣の振り切った演技と、ディスり合戦はこれまで観たことのない展開でした。まさかの”続編”は期待のハードルも高く、「今度は何を見せてくれるの?ワクワク♪」とお待ちの方々も多かったことでしょう。
東西対決となった今回は、なんだか現実を想起させるような人物やエピソードがてんこ盛り。長身のGACKTさん杏さんのツーショットは宝塚の舞台のワンシーンのようでした。関西出身だったりそうでなかったり、書ききれないほどの俳優さんがとっかえひっかえ登場します。大阪、兵庫、京都勢が、前作に負けじと滋賀、和歌山、奈良をディスりまくるので、目を▲にぜず、笑ってお楽しみください。自分も郷土愛に目覚めること必至、たぶん。(白)


2022年/日本/カラー/シネスコ/110分
配給:東映
(C)2023 映画「翔んで埼玉」製作委員会
https://www.tondesaitama.com/
★2023年11月23日(祝・木)ロードショー

posted by shiraishi at 16:07| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年11月18日

コーポ・ア・コーポ

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監督:仁同正明
原作:岩浪れんじ「コーポ・ア・コーポ」
脚本:近藤一彦
撮影:山本英夫
主題歌:T字路s
出演:馬場ふみか(辰巳ユリ)、東出昌大(中条紘)、倉悠貴(石田鉄平)、笹野高史(宮地友三)、前田旺志郎(ユリの弟カズオ)、北村優衣(高橋)、片岡礼子(ユリの母)

大阪のとある安アパート。「コーポ」と名前はついているもののお湯も出ないし、風呂もない。住人は居酒屋で働くユリ、日雇いの鉄平、甘いルックスと口のうまさを武器に女に貢がせて暮らしている中条、コーポの2階でこっそりストリップショーをしている宮地。いつもタバコを交換したがるおばちゃんもいる。そんな個性的な住人たちがゆる~くつながりながら毎日を暮らしている。
ある日住人の山口が首つり自殺を図って死んでいるのが見つかった。警察に届け、山口が集めて残した大量の家電品から各自が欲しいものをもらっていく。金に困っていたらしいが、誰一人貸せる余裕もなかった。

お一人様たちが暮らしている「コーポ」。住人の一人が自殺したのが、最大の事件です。一人一人の背後には何等かの事情があるようですが、詳しくは説明されず。それぞれ自分の人生をあんまり頑張らずに生きているようです。主人公のユリだけ家族が登場します。周囲はそれとなく気にしていますが、あまり深入りしません。
キレやすい石田がなぜか女子大生と知り合って、訪ねてくる彼女をギャラリーも心待ちにしていたり、ストリップの踊り子さんがお礼にマッチ1本くれたり、小さな幸せがポチポチと現れます。「タバコ…」のおばちゃん、どこかで見たようなと思ったらあの「ブルゾンちえみ」さんでした。お名前変わったんですね。あのギャグ好きだったなぁと思い出しました。このところ他人同士が集まって暮らしていく作品を続けて観ていますが、ゆる~いつながりが心地よく長続きしやすいようです。華々しくなくとも、人生には楽しみも喜びも見つかると思えるこのごろ。(白)


2022年/日本/カラー/シネスコ/97分
配給:ギグリーボックス
(C)ジーオーティー/岩浪れんじ
https://copo-movie.jp/
★2023年11月17日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
posted by shiraishi at 19:58| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年11月16日

モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン  原題:Mona Lisa and the Blood Moon

monarisa.jpg
© Institution of Production, LLC

監督・脚本:アナ・リリ・アミリプール
出演:ケイト・ハドソン、チョン・ジョンソ、クレイグ・ロビンソン、エド・スクライン、エヴァン・ウィッテン

少女の名前は、モナ・リザ。だけど、決して微笑まない。12年もの間、精神病院に隔離されていたが、赤い満月の夜、突如“他人を操る”特殊能力に目覚める。自由と冒険を求めて施設から逃げ出したモナ・リザが辿り着いたのは、サイケデリックな音楽が鳴り響く、刺激と快楽の街ニューオーリンズ。そこでモナ・リザは、ワケありすぎる人生を送ってきた様々な人々と出会い、その特殊なパワーを発揮し始める。果たして、彼女はいったい何者なのか。まるで月に導かれるように、モナ・リザが切り開く新たな世界とは?

アナ・リリ・アミリプール監督は、イラン人の両親のもとイギリスで生まれ、8歳の時、アメリカに移住。前作『ザ・ヴァンパイア ~残酷な牙を持つ少女~』は、カリフォルニア州の誰もいなくなった石油の町をイランの「shahare badi(Bad City)」という町に仕立てて撮影。セリフも全編ペルシャ語でした。
『モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン』は、イランの要素はないものの、アメリカで育った監督が、子供時代に感じた「よそ者」であることが、大きく影響した物語。
モナ・リザを演じるのは、韓国人俳優のチョン・ジョンソ。エキセントリックでミステリアス。監督の思い描いていたモナ・リザを体現してくれたそう。
ケイト・ハドソン演じるモナ・リザをある計画に引き込むシングルマザーの職業はポールダンサー。監督は映画の資金稼ぎのためにポールダンサーをしていた経験があって、よく知った世界。
スタイリッシュで、どこに飛んでいくのかわからない摩訶不思議な雰囲気が漂う映画。(咲)


2022年/アメリカ/英語/106分/カラー/ビスタ/5.1ch
字幕翻訳:高山舞子 
提供:木下グループ  配給:キノフィルムズ 
公式サイト:https://www.monalisa-movie.jp/
★2023年11月17日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほかにて全国公開



posted by sakiko at 03:13| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年11月15日

PHANTOM/ユリョンと呼ばれたスパイ   原題:幽霊 유령  英題:PHANTOM

yuryon.jpg
(C)2023 CJ ENM Co., Ltd., THE LAMP.ltd ALL RIGHTS RESERVED

監督・脚本:イ・ヘヨン(『毒戦 BELIEVER』)
製作:パク・ウンギョン(『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』)、チョン・チャンフン
撮影:チュ·ソンリム(『犯罪都市 THE ROUNDUP』)
編集:ヤン・ジンモ(『パラサイト 半地下の家族』『新感染 ファイナル・エクスプレス』)
音楽:タルパラン(『哭声/コクソン』)
武術指導:ホ·ミョンヘン(『ハント』『犯罪都市』シリーズ)、ユ・ミジン(『新感染半島 ファイナル・ステージ』)
出演:ソル・ギョング(『ペパーミント・キャンディー』)、イ・ハニ(『エクストリーム・ジョブ』)、パク・ソダム(『パラサイト 半地下の家族』)、パク・ヘス(「イカゲーム」)、ソ・ヒョヌ(『KCIA 南山の部長たち』)、キム・ドンヒ(「梨泰院クラス」)、キム・ジュンヒ(『コンフィデンシャル:国際共助捜査』)、コ・インボム(『シークレット・ミッション

1933 年、日本統治下の京城。抗日組織「黒色団」のスパイ“ユリョン(幽霊)”が暗躍していた。新たに赴任した警護隊長の高原(パク・ヘス)は、総督暗殺を阻止するため、朝鮮総督府内に潜む“ユリョン”を捕まえようと罠を仕掛け、ある人里離れた崖の上のホテルに容疑者たちを集める。疑いをかけられたのは保安情報受信係 監督官の村山(ソル・ギョング)、暗号記録係のパク・チャギョン(イ・ハニ)、政務総監秘書の佑璃子(ゆりこ)(パク・ソダム)、暗号解読係長チョン・ウノ(ソ・ヒョヌ)、通信課職員のイ・ベッコ(キム・ドンヒ)。彼らに与えられた時間はたった1 日。仲間たちのために暗殺作戦を必ず成功させなければならない“ユリョン”と、疑いを晴らして生き残らなくてはならない者たちの緊張感あふれる駆け引きと死闘が始まる・・・

スパイの疑いをかけられて集められた者たちは、誰が仲間なのかと疑心暗鬼。観ている私も、皆がユリョンに見えてきたのですが、何より日本統治時代に抗日運動をした人たちの思いを考えさせられました。「独立したら煙草はやめるわ」と言うチャギョンに、「独立して吸う煙草はもっと美味しい」という佑璃子。
時代を感じさせる趣のある建物の中で繰り広げられる物語、そして、最後のクレジットの背景は万華鏡のような華麗さ。ソル・ギョングは、いつもながら安定感のある演技でしたが、なんといってもイ・ハニがスタイリッシュなアクションで魅了してくれました。(咲)


2023年/韓国/133分/5.1ch/シネマスコープ
日本語字幕:福留友子
配給:クロックワークス
公式サイト:https://klockworx-asia.com/phantom/
★2023年11月17日(金)よりシネマート新宿ほか全国順次公開



posted by sakiko at 22:22| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年11月12日

1%の風景

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監督・撮影・編集:吉田夕日
撮影:伊藤加菜子
音楽:高田明枝
出演:渡辺愛(つむぎ助産所)、神谷整子(みづき助産院)

母でもある吉田夕日監督が、助産師の渡辺愛さん、神谷整子さんと出産した4人の妊婦さんの日々を撮影。今ほぼ99%が病院を選び、助産師さんさんの助けを借りて、助産所や自宅で出産する人は1%。あまり知られていない助産所はどういうところなのか、助産師さんはどんな指導をしているのか、カメラは細かに映し出す。

少子化の日本で、子どもの数は一家に一人を切ってしまいました。兄弟姉妹のいない一人っ子が増えています。赤ちゃんは病院からくるもの、と思う子どもたちもいます。親元で産んで産前産後実家で過ごす人もいますが、そうでないときに頼りになるのは、産科の医師や助産師さんです。映画ではベテラン助産師の渡辺さん、神谷さんのきめ細やかなケアやアドバイスにホッとする妊婦さんの気持ちがわかります。「待つのが好き」という助産師さんのことばが嬉しいです。
私の母の時代は助産師さんの介添えで自宅出産。20数年後、私は病院の産科での出産でした。孫たちも病院の産科で生まれましたが、違うのは父親の立ち合いができたことです。どんなに時代が進んでも、命をつないでいくことの不思議と重みは変わりません。産声を上げた小さな赤ちゃんを抱くお母さんは、それまでの苦痛が消えて晴れやかな笑顔です。出産とそれに続く子育てに、手厚い支援をと願わずにいられません。(白)


今や、出産に際して助産婦さんに依頼するのは1%未満とのことで、助産院も少なくなりました。そんな助産婦さんの仕事を紹介したのがこの作品。妊婦さんに対してきめ細かに対処していたのが印象的でした。なによりも、出産に対して不安がある妊婦さんを安心させるというのは助産婦さんならではと思いました(暁)。

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吉田夕日監督(2023あいち国際女性映画祭にて)撮影:宮崎暁美

2022年/日本/カラー/シネスコ/106分
配給:リガード
(C)2023 SUNSET FILMS
https://josan-movie.com/#modal
★2023年11月11日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 19:20| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

花腐し

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監督:荒井晴彦
原作:松浦寿輝「花腐し」講談社文庫
脚本:荒井晴彦、中野太
撮影:川上皓市、新家子美穂
出演:綾野剛(栩谷修一)、柄本佑(伊関貴久)、さとうほなみ(桐岡祥子)、吉岡睦雄(桑山篤)、川瀬陽太(寺本龍彦)、MINAMO(リンリン)、Nia(ハン・ユジョン)、マキタスポーツ(金昌勇)、山崎ハコ(韓国スナックのママ)、赤座美代子(小倉多喜子)、奥田瑛二(沢井誠二)

ピンク映画の監督、栩谷修一(くたに)。業界は斜陽の一途をたどりもう5年も映画を撮れていない。梅雨のある日、アパートの立ち退き交渉を頼まれた。たった一人居座っていたのは井関という男。人懐こい伊関と何度か会ううち昔つきあった女性の話になる。
井関は20代のころシナリオを書いていて、女性は女優志望。映画への夢を持っていた二人はしばらく一緒に暮らしたが、夢を実現できないまま別れてしまった。栩谷も30代のころ愛した女性を思い出す。

原作は松浦寿輝氏。2000年に発表された同名の芥川賞受賞作です。タイトルは「はなくたし」と読みます。万葉集の相聞歌「春されば 卯の花腐(くた)し 我が越えし 妹(いも)が垣間は 荒れにけるかも(詠み人知らず)」からとられています。
三人の過去と現在が交互に映し出されます。美しいモノクロ映像だったり、カラーだったりしますが、どちらでも雨がよく降ります。水もしたたるいい男が二人、女が一人。
さとうほなみさんは「ゲスの極み乙女」というバンドのドラマー。女優さんとしてしか知りませんでした。テレビ朝日のドラマ「六本木クラス」での印象が強く、映画でもきっぱりと男前な役が似合う気がしました。映画に舞台にと活躍中でこれからも注目していきます。(白)


2023年/日本/カラー/シネスコ/137分
配給:東映ビデオ
(C)2023「花腐し」製作委員会
https://hanakutashi.com/
★2023年11月10日(金)ロードショー

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2023年11月11日

正欲

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監督:岸善幸
原作:朝井リョウ「正欲」新潮文庫刊
脚本:港岳彦
撮影:夏海光造
音楽:岩代太郎
主題歌:Vaundy「呼吸のように」(C)SDR
出演:稲垣吾郎(寺井啓喜)、新垣結衣(桐生夏月)、磯村勇斗(佐々木佳道)、佐藤寛太(諸橋大也)、東野絢香(神戸八重子)、山田真歩(寺井由美)、宇野祥平(細川秀己)、渡辺大知(西山修)、徳永えり(那須沙保里)、岩瀬亮(矢田部洋平)

検事の寺井啓喜(てらい・ひろき)は、一人息子の不登校で妻の由美とたびたび衝突している。
ショッピングモールで働く桐生夏月(きりゅう・なつき)は、結婚していく友人を横目に実家暮らしを続けている。中学で転校していったのに、強い印象の残っていた佐々木佳道(ささき・よしみち)が地元に戻っていることを耳にする。ダンスサークルの諸橋大也(もろはし・だいや)は学園祭のイベントに出演を打診される。計画したのは諸橋が気になってしかたのない神戸八重子(かんべ・やえこ)。
別々の場所、環境で暮らしていた5人は少しずつ交差し、思わぬ関わりができていく。

新垣結衣さんは「逃げ恥」こと「逃げるは恥だが役に立つ」(2021年TBSドラマ)で大ブレイク、あのダンスと明るい笑顔が印象的でした。ところがこの作品では笑顔を封印、誰?と見違えてしまいました。「多様性」がさまざまな作品で取り上げられますが、この作品では一番語りにくいだろう「性的指向」について描かれています。稲垣吾郎さん演じる寺井検事は法にのっとり、罪を糾弾する仕事です。感覚はごく一般的な男性で、息子にも男の子らしさを求めています。
佐々木佳道と仕事で関わることになりますが、彼らの欲望はまったく理解できません。それまでに宇野祥平さん演じる部下が、たびたびとても大事なことを言うのに、それも聞き流してしまいます。観客を代弁するような人物がところどころに配されて、他人の目と無理解、溝があらわになっていきます。「普通」とよく口に出しますが、人によってモノサシが違うように「普通」も違うはず。
誰もが自分を、自分の生き方を尊重してもらいたいと思うでしょう。誰かを傷つけたり、悲しませたりしないことを前提に、他の人の生き方も尊重したいと思いました。寺井と夏月とがたまたま出会う1シーンがありました。それが小さな灯りになった気がします。(白)

第36回東京国際映画祭 監督賞,観客賞をW受賞

2023年/日本/カラー/ヴィスタ/134分
配給:ビターズエンド
(C)2021 朝井リョウ/新潮社 (C)2023「正欲」製作委員会
https://bitters.co.jp/seiyoku/#modal
★2023年11月10日(金)ロードショー
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デシベル(原題:데시벨/英題:DECIBEL)

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監督:ファン・イノ
脚本:ファン・イノ、イ・ジヌン
出演:キム・レウォン(カン・ドヨン)、イ・ジョンソク(テロリスト)、チョン・サンフン(オ・デオ)、パク・ビョンウン(チャ・ヨンハン)、チャウヌ(ASTRO)(チョン・テリョン)、イ・サンヒ(チャン・ユジョン)、チョ・ダルファン(ノ曹長)

プサンで家が爆破されたニュースが流れた。それを見た元海軍復調のカン・ドヨンに電話がかかってくる。当のテロリストから次のターゲットを知らせるものだった。なぜ自分に?と不審に思うまもなく、カンは標的のサッカースタジアムに向かう。脅迫は「通報したり観客を非難させたら爆発する」というもの。騒音が一定のデシベルを越えると爆発までの時間が半減する特殊な爆弾だというのも信じざるを得ない。スタジアムは5万人の観客で埋め尽くされている。犯人は何者でその意図はなんなのか?

韓国のトップスター、キム・レウォンに若手実力派俳優イ・ジョンソクが決死の攻防を繰り広げます。人気K-POPボーイズグループ・ASTROのチャウヌも印象的な役柄で出演。音の大きさ、デシベルが爆発に関連付けられているというのは初めて聞く設定です。本当にあるもの? 熱気が充満するサッカーの試合で、歓声を抑えることなどできるのでしょうか? 孤立無援で走るカン・ドヨンに支援の手は? 緊迫する状況と背後の人間関係が徐々に、紐解かれていくのを緊張しながら見守りました。
キム・レウォンはカーチェイスからワイヤーアクション、水中撮影までつるべ打ちのように続くアクションに挑んでいます。悲しみをたたえたイ・ジョンソクの表情に早く本当のところが知りたくなりました。軍隊は好きではありませんが、制服は好き(そのように作られている)、そんな方にも嬉しい1本。(白)


2022年/韓国/カラー/シネスコ/110分
配給:クロックワークス
ⓒ 2022 BY4M STUDIO, EASTDREAM SYNOPEX CO., LTD, MINDMARK Inc. ALL RIGHTS RESERVED.
https://klockworx-asia.com/decibel
映画公式 X:@decibelmovie「#デシベル」
★2023年11月10日(金)新宿バルト 9 ほか全国公開!
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2023年11月09日

ぼくは君たちを憎まないことにした   原題:Vous n‘aurez pas ma haine 英題:YOU WILL NOT HAVE MY HATE

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(C)2022 Komplizen Film Haut et Court Frakas Productions TOBIS / Erfttal Film und Fernsehproduktion

監督・脚本:キリアン・リートホーフ
原作:「ぼくは君たちを憎まないことにした」
出演:ピエール・ドゥラドンチャンプ、カメリア・ジョルダナ、アン・アゾレイ

2015年11月13日金曜日の朝。ジャーナリストのアントワーヌ・レリスは息子のメルヴィルと一緒に、メイクの仕事に急ぐ妻のエレーヌを送り出した。前から予約して楽しみにしていた12月のコルシカ島への旅行も、メイクの仕事が入っていけないという仕事熱心な妻。
夜、サッカー場のほか数か所でテロとのニュース。妻の実家から「エレーヌは家にいる?」と電話が入る。エレーヌは、パリ中心部にあるコンサートホール、バタクランでのライブに行くと言っていた。ライブ中に3人の男たちが1,500人の観客に銃を乱射したと知る。エレーヌの遺体と対面し茫然とするアントワーヌ。ママの姿を探す幼い息子。妻に代わって食事の用意をし、絵本を読み聞かせる。誰とも共有できない悲しみ。アントワーヌは、妻の命を奪ったテロリストに宛てて手紙を書く。「君たちに憎しみは送らない。憎しみに怒りでこたえたら屈することになる・・・」 投稿したメッセージは、一晩で20万人以上がシェアし、新聞の一面を飾った・・・

メトロの中で中東系の青年たちを見かけると心穏やかでないアントワーヌ。妻が突然いなくなったことを受け入れられないでいる彼に、墓地はどこにする? 棺はどれに?と、現実が襲ってきます。妻に着せる服を選び、埋葬を終え、家に帰ると、息子はまだママを探している・・・ 3本の歯ブラシさえ空しく感じてしまいます。妻の命を奪ったテロ犯への憎しみを封印することは容易なことではないはずですが、皆に向けて宣言することで乗り越えようとするアントワーヌの気持ちがひしひしと伝わってきます。
テロや戦争で肉親を亡くした人たちの、どこに怒りをぶつけていいかわからない思い。けれども怒りを憎しみに変えたら、さらなる戦争を産むことを肝に銘じないといけないですね。
例えば、今のイスラエルとハマスとの戦争。イスラエルの人たちは、ハマスがテロリストだから攻撃していいと思い込まされているという話を聞きました。そも、なぜハマスが過激な行動に走るのかに思いを馳せてほしいと思います。ホロコーストで生き延びたユダヤ人たちが、パレスチナの人たちを追い出して住みついたことを思い出してほしいです。しかも、ホロコーストの加害者はパレスチナ人ではありません。
本作のパリの同時多発テロもしかり。過激な行動に出た背景があるはずです。お互い、恨みを持つに至った歴史は過去のものとして赦さないと、いつまでも戦いは終わりません。アントワーヌの言葉は、そのことを教えてくれます。皆が同じ気持ちになれば戦争は終わるはず。ほんとに悲しい。(咲)


パパと小さな息子が残されたら、日本ならすぐ祖父母が手伝いに飛んできそう。よくパパ一人で、とまず思いました。このメルヴィル役の子役さんが自然で、パパ、ママどちらかの実子では?と思ったほどです。彼にはきちんと演出家がついていて演技を引き出したのだそうで、ほんとに驚きました。
憎んだり怒りをぶつけたりすると、感情を吐き出せて楽です。それをしなかったから苦しむのですが、赦しはそれからのアントワーヌの心身の支えとなったはずです。同じ思いの方々が世界中にたくさんいることでしょう。のんきに暮らしていてわかった風な口をきくな、と言われそうですが。(白)


2022年/ドイツ・フランス・ベルギー/フランス語/102分/シネスコ/5.1ch
日本語字幕:横井和子
提供:ニューセレクト  配給:アルバトロス・フィルム
後援:在日フランス大使館、アンスティチュ・フランセ
公式サイト:https://nikumanai.com/
★2023年11月10日(金)TOHOシネマズシャンテほか全国公開

posted by sakiko at 03:10| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年11月08日

映画の朝ごはん

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監督・企画・撮影・編集:志子田勇
製作:由里敬三
プロデューサー:飯塚信弘
録音:百々保之
整音:松本理沙
撮影協力:芦澤明子(J.S.C)
音楽:yojikとwanda
ナレーション:小泉今日子
出演:竹山俊太朗、守田健二、福田智穂、鈴木直樹、磯見俊裕、大山晃一郎、沖田修一、黒沢 清、下田淳行、瀬々敬久、内藤剛志、野呂慎治、樋口真嗣、藤井 勇、山下敦弘

映画を作るスタッフ、キャストのほかに必要不可欠なものは?
食事だ!
映画界で知らない者はいないお弁当屋さん「ポパイ」は40年近くみんなに愛され続けている。おにぎり2個、おかず1品にたくあんのシンプルなお弁当はロケ撮影の朝ごはんの定番。早朝5時には新宿に集まるロケバスに、それぞれの注文の品を遅れず間違えずに届けなければいけない。
注文を受けて前日に仕込み、深夜のうちにごはんを焚き上げ、おにぎりと唐揚げを作り、パックに詰める。熱い缶茶と一緒に車に積み込むまで関わる人も紹介する。注文するのは制作部のスタッフ、昼、夜の分も手配することもある。采配する新旧スタッフも登場、お弁当から人間模様も、映画の裏も見えてくる。

映画は監督をはじめとしたスタッフ、俳優さんのお弁当愛あふれるお話も紹介していきます。みなさんよだれをたらさんばかりに嬉しそう、お弁当の力は大きい!コロナ禍での映画製作は長く停止となり、あおりを受けたポパイも苦境に陥りました。とつとつと語る社長さんの手はいつも働いていて、止まることはありません。
おにぎりが嫌い!という人はいるでしょうか?お米はそれだけでも美味しいし、片手で食べられて、すぐエネルギーになります。
ポパイのおにぎりは熱々のごはんをおにぎりの木枠にきゅきゅっと詰めて、具を入れて、ごはんをのせて手で押さえ、ポンっと出してきゅっとにぎって海苔を巻きます。人の手がかかっているので美味しいのでしょう。あ~食べたい。できればまだほんのりと暖かいのがいいです。伝説の弁当屋さんポパイは店頭販売もあるそうなので、今度予約してロケ弁食べてみたいです。(白)


ポパイのおにぎり弁当のドキュメンタリー映画ですが、映画の制作現場も映し出されます。そこでの主人公は竹山俊太朗さん。脚本家志望で、3年ほど演出部で助監督をしていたようですが、『サバカン SABAKAN』(2022)、『いつくしみふかき』(2020)でラインプロデューサーをされていた福田智穂さんから勧められて、制作部へ。キャストやスタッフの食事や飲み物などが用意してあるお茶場の準備は竹山さんの仕事。ずっとずっと先輩の守田健二さんにサポートされながら、慣れない仕事に勤しみます。ポパイのおにぎりの受け取りもしていました。制作の仕事をしながら監督の演出を学ぶはずが、様々な仕事が舞い込み、それどころではありません。あまり器用なタイプではなさそうですが、映画に対する愛情の大きさだけは負けないといった感じ。『いつくしみふかき』の大山晃一郎監督は「竹谷くんは自分の若い頃に似ている気がする」といい、「将来、竹山くんが作った映画が見たい」とも。私もぜひ見てみたい。そして監督インタビューをしたいので、竹山さん、頑張ってください。(堀)

2022年/日本/カラー/DCP/131分
(c)ジャンゴフィルム
https://eiganoasagohan.com/
公式 X(Twitter) @eiganoasagohan
★2023年11月10日(金)キネカ大森、シネスイッチ銀座にて上映中
posted by shiraishi at 22:50| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

蟻の王(原題:Il signore delle formiche)

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監督・脚本:ジャンニ・アメリオ
脚本:エドアルド・ペティ、フェデリコ・ファバ 
撮影:ルアン・アメリオ・ウイカイ 
美術:マルタ・マッフッチ
編集:シモーナ・パッジ
出演:ルイジ・ロ・カーショ(アルド・フライバンティ)、エリオ・ジェルマーノ(エンニオ)、レオナルド・マルテーゼ(エットレ)、サラ・セラヨッコ(グラツィエラ)

1960年代のイタリア。劇作家で詩人、蟻の研究者のアルド・フライバンティは芸術サークルを主宰している。若いエットレは博識のアルドを尊敬し、足しげく通ってきた。恋に落ちた二人はローマで同棲生活を送るが、当時同性愛は許されなかった。エットレの母親は息子をアルドから引き離し、矯正施設へ入れる。若者相手の警察に通報されたアルドは「教唆罪」で逮捕、罪を問われることになった。イタリア共産党機関紙「ウニタ」の記者エンニオは疑問を感じ、法廷を取材のため傍聴する。

「同性愛はない、したがって法律もない」とされていたムッソリーニの独裁政権時代。「教唆罪」は文字通り「そそのかして」罪を犯させるということ。
根強い偏見・差別はいとも簡単に暴力に変わります。幸せに暮らしていたエットレは、ベッドに縛り付けられ、電気ショックの「治療」を施されます。キラキラした青年だったエットレが、見る影もなく衰えた姿で証言台に立つシーンに胸打たれます。レオナルド・マルテーゼが鮮烈。『輝ける青春』(2003)を始め、名作に出演してきたルイジ・ロ・カーショがアルド。
なぜ『蟻の王』なのか、予告編にもチラッとヒントがありました。(白)


2022年/イタリア/カラー/ビスタ/140分
配給:ザジフィルムズ
© Kavac Srl / Ibc Movie/ Tender Stories/ (2022)
HP:http://www.zaziefilms.com/arinoo/
★2023年11月10日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMA、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開!
posted by shiraishi at 21:11| Comment(0) | イタリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

理想郷(原題:As bestas)

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監督:ロドリゴ・ソロゴイェン
脚本:ロドリゴ・ソロゴイェン、イサベル・ペーニャ
撮影:アレハンドロ・デ・パブロ
出演:ドゥニ・メノーシェ(アントワーヌ)、マリナ・フォイス(オルガ)、ルイス・サエラ(シャン)、ディエゴ・アニード(ロレンソ)、マリー・コロン(マリー)

フランス人のアントワーヌとオルガ夫婦はスローライフの夢を抱いて、パリからスペイン ガルシア地方の山村に移住してきた。豊かな自然に包まれた村で羊を飼い、野菜を作りと夢は広がる。しかし住んでみると、近隣の住民たちに溶け込むのは容易ではなかった。村は貧しく、風力発電装置の設置に一縷の望みを持っている。隣家の兄弟は自分たちと違う裕福なアントワーヌたちを嫌う。仲良くなるどころか、兄弟のいやがらせは、次第にエスカレートしていく。

本当にあった事件を元にした作品。社会にある分断の見本のように、あらゆるものが揃っています。まだ来たばかりのころ、隣家の兄が歩いているアントワーヌに「車に乗れ」と声をかけます。ドアに手をかけようとすると前進し、とからかいます。ムッとするアントワーヌに「冗談だ」と笑いますが、悪意に満ちていて不穏な進路が見えるようでした。
あちら側とこちら側に分かれてしまうと互いに知りあい、理解するのが難しくなります。前半は男たちの闘い、後半は女性の闘いです。
夫役ドゥニ・メノーシェは、『ジュリアン』での怖い父親が今も目に浮かびます。妻役のマリナ・フォイスは『シャーク・ド・フランス』の警官、つい先日公開の『私はモーリン・カーニー 正義を殺すのは誰』のCEOとジャンル問わず活躍。(白)


●第35回東京国際映画祭でのタイトルは『ザ・ビースト』。
東京グランプリ、最優秀監督賞、最優秀主演男優賞の主要3部門受賞

・シネマジャーナルHP 特別記事
第35回東京国際映画祭(2022) クロージングセレモニー写真集
『ザ・ビースト』が東京グランプリ・最優秀監督賞・主演男優賞の3冠
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/494956621.html

ドゥニ・メノーシェ2019東京国際_R.jpg
ドゥニ・メノーシェさん 撮影:宮崎 暁美
第32回東京国際映画祭映画祭(2019)授賞式にて


2022年/スペイン、フランス/カラー/シネスコ/138分
配給:アンプラグド
(C)Arcadia Motion Pictures, S.L., Caballo Films, S.L., Cronos Entertainment, A.I.E,Le pacte S.A.S.
https://unpfilm.com/risokyo/
★2023年11月3日(金)ロードショー

posted by shiraishi at 21:10| Comment(0) | スペイン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年11月04日

火の鳥 エデンの花

hinotori.jpg

監督:西見祥示郎
原作:手塚治虫
脚本:真野勝成 木ノ花咲
演出:斉藤亜規子
キャラクターデザイン:西田達三
音楽:村松崇継
音響監督:笠松広司
声の出演:宮沢りえ(ロミ)、窪塚洋介(ジョージ)、吉田帆乃華(コム)、イッセー尾形(ズダーバン)

地球からのロケットが辺境の惑星エデンに到着した。降り立ったのは地球人のロミとジョージ、恋人同士の二人は何もないここで新生活を始めるつもりだ。ジョージはさっそく周辺の探索に出かけるが、聞いていた情報とは大違い、エデンは厳しい環境の惑星だった。すぐに水脈を見つけなければこの先生きていけない。井戸掘りを始めたジョージは、水を探し当てるが事故で命を落としてしまう。
AIロボットと残されたロミは悲嘆にくれるが、ジョージの忘れ形見のカインを育てこの星を守ろうと決意する。
自分が死ぬとカイン一人になってしまうため、ロミは少しでも寿命を延ばそうと後をAIに託し、コールドスリープに入った。機械の故障でロミは1300年間も眠り続け、目覚めると全く知らない世界が拡がっていた。新人類が発展させた”エデン17”でロミは待ち望まれた女王となる。

手塚治虫の傑作漫画「火の鳥」の中の「望郷編」がアニメ化されました。子どものころからの手塚治虫ファンで、漫画で文字を覚えた私、全て読んでいたはずですが、最近は観続ける映画に上書きされてか、歳のせいか記憶がほとんど残っていません。この試写を拝見して、人類の先を見越したこんなに壮大な物語だったか!とあらためて驚いています。
新人類たちは目や耳がなく、額にある触覚(アゲハの幼虫の触覚そっくり)が鋭敏です。争いもなく平和な土地なのですが、ロミは時を経るにつれ、自ら捨てて来た地球への望郷の念が強くなっていきます。後半で出会う地球人の牧村にいくら説得されても、思いは募るばかりです。自分が持っている望郷の念、そもそも帰りたい故郷とは何?そんなにも恋しいのは、ここにはない何かがあるから?
火の鳥は、鳥の形をしてはいますが、宇宙のエネルギーの塊のようなもの。宇宙のはしからはしまで満ちているエネルギーの中で、生まれたり消えたりしていく命を全て知っている、のだそうです。
1928年11月3日に生まれ、1989年に60歳で亡くなられた手塚治虫さんなら、現在の日本や混沌の世界を見てなんといわれるのか、考えてしまいました。(白)


2023年/日本/カラー/シネスコ/95分
配給:ハピネットファントム・スタジオ
(C)Beyond C.
https://happinet-phantom.com/hinotori-eden/
★2023年11月3日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 13:29| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

さよなら ほやマン

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監督・脚本:庄司輝秋
撮影:辻智彦
音楽:大友良英
出演:アフロ(阿部アキラ)、呉城久美(高橋美晴)、黒崎煌代(阿部シゲル)松金よね子(春子)、津田寛治(タツオ)

アキラとシゲルは島でほぞぼそとほや漁をしながら兄弟二人で暮らしている。両親は大震災の津波にさらわれて帰ってこなかった。叔父や近所に住む人たちのおかげでなんとか暮らしているが、借金も膨らみ、いまや大ピンチだ。行方不明のままの人たちを思うと、アキラは海から獲ったものを今も食べることができない。
島へ見も知らない訳アリ女性がやってきた。兄弟も読んでいる漫画家の高橋美晴だった。「この家売って」と現金を見せて兄弟にもちかける。両親の家を売ることはできないとアキラはつっぱねるが、なんだかんだと理由をつけて美晴は二人の家に住むことになった。

庄司輝秋監督の前作『んで、全部、海さ流した。』(2013)は、韓英恵さんを主演に震災後の石巻を描いた作品で、拝見していました。残された元ヤン少女と小学生の男の子のちょっと切ない交流を描いた短編です。今度の作品は長編で、同じく監督のふるさと石巻で全編撮影、3週間の合宿生活で作り上げました。
主演のアフロさんは人気バンドのボーカルとか、映画初出演ですが監督に「歌と同じに自分をぶつけて」と言われたそうです。バンドやインタビュー動画をいくつか見ましたが、アキラにもアフロさんの人柄そのままが出ているような感じでした。
黒崎煌代(こうだい)さんは昨年芸能事務所のオーディションに合格、これが映画初出演、さらにこの秋からのNHKの朝ドラ「ブギウギ」でヒロイン鈴子の弟六郎役を射止め、毎朝日本中で観られています。どちらもマイペースで気のいい弟役です。
この二人の暮らしに乱入してくる青い髪の漫画家を、呉城久美さん。京大法学部卒なのに法曹界には進まず、劇団に入って親を泣かせたという方。どこまでも強気な美晴は兄弟の後押し役、二人の再生に大きな力を与えます。さらにベテランの松金よね子さん津田寛治さんが、このあったかい物語を支えました。
石巻の人はあんな風にほやを食べるんでしょうか?私はもっと北の島で育ったけれど、薄切りにしていました。(白)


石巻の海と養殖場。ほやという海産物を伏線に、二人の兄弟の進む道と、後押しする形になった漫画家美晴、そして二人を見守る叔父や近所のおばちゃんなどを通して、東日本大地震からの復興の形を描いた。ほやを養殖するアキラと海に行けない弟のシゲル。東日本大震災の時、海に出たまま行方不明の両親のことを思って海産物を食べることができない二人の家はカップラーメンでいっぱい。でも美晴がほやを食べるのを見て、兄弟もほやを食べ始める。そして、借金まみれの生活から脱するべく奮闘するアキラ。あるきかっけで、少しは解決に近づいたと思ったが、一難去ってまた一難。なかなかスムーズにはいかない。

実は「ほや」というタイトルに惹かれてこの作品を観た。「ほや」は突起のある風船のような変な形をした海産物だけど、魚屋でみかけてもずっと食べる気はしなかった。でも7,8年前に初めて食べ、あの癖のある独特な味にひかれハマってしまい、以後、スーパーの魚売り場に行くといつも探している。そしてみつけると、可能な限りゲットしている。
この作品でほやという生き物のことを知るることができた。ほやって貝ではなく軟体動物とは思っていたけど、どんな生態なのかは知らなかった。卵で生まれ、ちいさい頃は魚のような恰好で海の中を泳ぎまわっていると知った時にはびっくり。そして住処をみつけると落ち着き、背骨と脳みそがなくなって、突起のある不思議な形になっていくのだという。それにしても脳みそがなくなるってどういうことなんだろうとは思う。でも監督はその生態を知った時、“俺はいま、ほやになりかけているのかもしれない”と思ったのだそう。「『んで、全部、海さ流した。』(13)を撮った後、なかなか次の脚本が書けず、パッとしない自分に諦めを感じていたんですね。ほやの生態と諦めた人間の生き方がギュッと結びついたとき、これなら書けるかもしれない」と思い、この作品になったという。
本作が長編デビューの庄司輝秋監督。「ふるさとを育み、そして奪った美しい宮城の海に、この映画を思いっきりぶつけたい」と故郷・石巻への熱い想いで宮城県石巻市網地島オールロケ撮影。
ほやが牡蠣のように需要が増えると、復興にも勢いがつくのだろうけど、厳しいかな。以前に比べて、東京のスーパーなどでも見かけるようになったけど、牡蠣のような普及は難しそう。やはり味に癖があって、好き嫌いが分かれるかも(暁)。


2023年/日本/カラー/シネスコ/106分
配給:ロングライド、シグロ
(C)2023 SIGLO/OFFICE SHIROUS/Rooftop/LONGRIDE
https://longride.jp/sayonarahoyaman/index.html
★2023年11月3日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 00:42| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした

jinseinitunda.jpg
監督:穐山茉由
原作:大木亜希子
脚本:坪田文
撮影:猪本雅三
出演:深川麻衣(安希子)、井浦新(ササポン)、松浦りょう、柳ゆり菜、猪塚健太、三宅亮輔、森高愛、河井青葉、柳憂怜

安希子は元アイドル、センターにこそなれなかったがグループで紅白歌合戦にも出ることができた。引退してからはOLになり、ウェブニュースのライターとして頑張っていた。しかし、現実は風呂なし月5万円のアパート暮らし。自撮りもまさかその自宅前では撮れない。背景にも気を遣うのだ。20代は刻々と過ぎて行き、同年代は次々と結婚・出産。私はわたしと思ってきたが、通帳残高はあと10万円。将来どうしたらいいのか?出勤途中で足が前に進まなくなった。大丈夫と言い聞かせてきたけれど、安希子のメンタルは相当に傷つき病んでいた。
見かねた友人が「一人暮らしはやめなさい」と56歳のサラリーマンと同居することを勧められる。中年のおじさんと?と半信半疑だったが、”ササポン”と呼ばれるおじさんは、人畜無害そうな人だった。おまけに風呂付格安の同居家賃に惹かれて、引っ越すことにした。

まるで小説のようなお話ですが、原作は小説。著者は元「SDN48」のメンバーで映画のとおりの元アイドル大木亜希子さん、ほとんど自分の体験から書き上げた事実なのでした。安希子を演じた深川麻衣さんは「乃木坂46」1期生。卒業して女優になりました。『パンとバスと二度目のハツコイ』(17)が最初の映画主演作です。グループの一員でなくなってからの自身と重なることも多かったようです。
井浦新さんの”ササポン”は穏やかなたたずまいで、人に気を使わせません。口数は少ないけれどぼそっと零れる一言が味わい深く、こんな人なら一緒に住みたい!と思うはず。お一人様とお一人様が、こんな風にゆるやかに暮らしていけたら何よりです。(白)


2023年/日本/カラー/114分
配給:日活、KDDI
https://tsundoru-movie.jp/
(C)2023映画「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした」製作委員会
★2023年11月3日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 00:35| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年11月03日

おしょりん

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監督:児玉宜久
原作:藤岡陽子
脚本:関えり香 児玉宜久
撮影:岸本正人
エンディング曲:MORISAKI WIN
出演:北乃きい(増永むめ)、森崎ウィン(増永幸八)、駿河太郎(増永末吉)、高橋愛(増永小春)、秋田汐梨(橋本千代)、磯野貴理子(米田タツ)、津田寛治(豊島松太郎)、榎孝明(久々津五郎右衛門)、東てる美(久々津きり)、佐野史郎(橋本清三郎)、かたせ梨乃(増永せの)、小泉孝太郎(増永五左衛門)

明治37(1903)年。福井県麻生津村の庄屋の長男・増永五左衛門に嫁いだむめは、夫を支えて家事と育児に励んでいる。大阪で働いている増永家の次男の幸八が帰ってきた。
村の将来に心を砕く兄に、「メガネはこれから必需品になる、この村で作ろう!」と熱をこめて語る。大阪ではすでに売れ筋だが、この村ではまだ誰も実物を見たこともなかった。
何もないところからもの作りを始めるには、指導者と作り手と場所が必要。莫大な金もかかる。新しい事業に躊躇する五左衛門や職人候補の末吉は、末吉の娘がメガネをかけて「よう見える~」と喜ぶ姿を見て心を決める。

メガネ作りの始まりから地場産業になるまでのドラマが、夫婦・家族愛とともに描かれています。そして秘められた初恋も。結婚相手は親同士が決めて、祝言の席で初めて顔を見るのも普通でした。昔の人は控えめです。
メガネができるまでの過程や、失敗や工夫などもこまやかに撮影されています。職人たちのモチベーションを高め、品質の向上をはかるために取り入れた「帳場制」というのも、面白いです。むめをはじめ、嫁いできた女性たちが縁の下の力持ちに徹しながら、働き、夫と家を支え続けてきたことに光が当たって良かった。出演の俳優さんはそれぞれの地ですか?と思われるようなハマり具合です。
タイトルの「おしょりん」とは田畑に積もった雪が夜に冷えて固まった状態をいう福井のことばです。早起きすると、固まった雪の上をどこまでも走っていけます(転んだら痛い)。(白)


2023年/日本/カラー/120分
配給:KADOKAWA
(C)「おしょりん」制作委員会
https://movies.kadokawa.co.jp/oshorin/
★2023年11月3日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 22:33| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年11月02日

サタデー・フィクション    原題:蘭心大劇院  英題:Saturday Fiction

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(C)YINGFILMS 2019

監督:ロウ・イエ(婁燁)
出演:コン・リー(鞏俐)、マーク・チャオ(趙又廷)、パスカル・グレゴリー、トム・ヴラシア、ホァン・シャンリー(黄湘麗)、中島歩、ワン・チュアンジュン(王傳君)、チャン・ソンウェン(張頌文)/オダギリジョー

1941年、日本軍の占領を免れた上海の英仏租界は、当時「孤島」と称されていた。魔都と呼ばれるこの上海では、日中欧の諜報部員が暗躍し、機密情報の行き交う緊迫したスパイ合戦が繰り広げられていた。
日本が真珠湾攻撃をする7日前の12月1日、魔都上海に、人気女優のユー・ジン(コン・リー)が現れる。新作の舞台「サタデー・フィクション」で主役を演じるためだ。一方、この大女優ユー・ジンには、幼い頃、フランスの諜報部員ヒューバート(パスカル・グレゴリー)に孤児院から救われ、諜報部員として訓練を受けた過去があり、銃器の扱いに長けた「女スパイ」という裏の顔があった。
そして2日後の12月3日、日本から海軍少佐の古谷三郎(オダギリジョー)が海軍特務機関に属する梶原(中島歩)と共に、暗号更新のため上海にやってくる。ヒューバートはユー・ジンに告げる。「古谷の日本で亡くなった妻は君にそっくりだ」と。それは、古谷から太平洋戦争開戦の奇襲情報を得るためにフランス諜報部員が仕掛けた“マジックミラー計画”の始まりだった……。

ロウ・イエ監督の第11作目。
モノクロ映像に、漢字縦書きで時代背景が語られ、ぐっと太平洋戦争開戦前の緊張した1週間にひき込まれます。とはいえ、それは真珠湾攻撃があのような形で行われたという歴史を知っているからこそで、当時の人たちは緊張感の溢れる時代にいながらも、何が起こるかはわからない中で暮らしていたことに思いが至ります。
今も上海に残る当時の建物を使っての撮影は、モノクロ映像であることもあいまって、時代を感じさせてくれます。
字幕を担当された樋口裕子さんによる「映画『サタデー・フィクション』プロダクションノート」に、撮影場所についても詳しく書かれていますので、ぜひお読みください。 
https://note.com/uplink_senden/n/ncb7639771bf6
魔都と呼ばれ、欧米中日各国の諜報部員が暗躍していた上海。愛する人さえ、諜報部員かもしれないという疑心暗鬼。コン・リーが、強い女でなく、愛する人を想うはかなさも感じさせてくれました。登場人物それぞれがたどってきた人生も、時代に翻弄されたもので、なんとも切ない物語です。(咲)


実はスパイ物を扱った映画は好きではなくあまり観たことがない。でも、この作品は婁燁監督の作品なので観てみた。スタイリッシュな作りで、テンポよく物語が進む。しかし物語は複雑。劇内劇という感じで、ユー・ジンは国民的スターという設定。演劇の進行と、暗躍するスパイたちと、戦争が始まる前の緊張感あふれる時代を描き、単なるスパイものではない側面を見せている。
ユー・ジンはヒューバートの養女になり、スパイとなったようだけど、フランスのスパイなのか、あるいは実際は中国側のスパイだったのか疑問が残った。それにしても、あの時代の上海は魔都と呼ばれ、スパイが暗躍したところだったのだろう。ここを舞台にたくさんのスパイ映画が作られている。この映画は真珠湾攻撃前の数日間を描き、戦争が始まる前の緊張感に溢れた作品になっている。しかし、日本軍の真珠湾攻撃の情報が上海にまで伝わっていたとは考えられないけど、映画だからこその大胆な発想と思った(暁)。


☆ロウ・イエ監督 来日記念舞台挨拶
ゲスト(予定):ロウ・イエ監督、マー・インリー(プロデューサー)、オダギリジョー、中島歩

*シネ・リーブル池袋
日時:11月3日(金・祝)9:30の回(上映後)

アップリンク吉祥寺
日時:11月3日(金・祝)13:35の回(上映後)、16:25の回(上映前)

新宿武蔵野館
日時:11月3日(金・祝)19:25の回(上映前)

2019年/中国/中国語・英語・フランス語・日本語/127分/モノクロ/5.1ch/1:1.85
字幕:樋口裕子
配給・宣伝:アップリンク
公式サイト:https://www.uplink.co.jp/saturdayfiction/
★2023年11月3日(金・祝)よりよりヒーマントラスト有楽町、新宿武蔵野館、シネリーブル・池袋、アップリンク吉祥寺にて全国ロードショー

posted by sakiko at 22:22| Comment(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

人生は、美しい  原題:인생은 아름다워(人生は美しい) 英題:Life is Beautiful

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(C)2022 LOTTE ENTERTAINMENT & THE LAMP All Rights Reserved.

監督:チェ・グッキ(『国家が破産する日』)
出演:リュ・スンリョン(『エクストリーム・ジョブ』)、ヨム・ジョンア(『完璧な他人』「SKYキャッスル~上流階級の妻たち~」)、パク・セワン、オン・ソンウ

亭主関白な夫・ジンボンと、思春期真っただ中の息子と娘。そんな家族に時にうんざりしながらも、健気に尽くしてきた平凡な専業主婦のセヨン。ある日、思いもかけず余命2か月の宣告を受ける。激しく動揺しながらも、自分の最後の誕生日のプレゼントとして、夫に「初恋の人ジョンウを一緒に探してほしい」と頼む。子供たちには余命のことは隠し、夫と車で旅に出る。まず向かったのは、ジョンウと出会った木浦の高校。就職先が釜山だったと聞き、釜山へ。さらに、清州から甫吉島へ・・・ 夫と時に喧嘩しながらも、大恋愛を経て結婚した時のことも思い出す、奇妙な旅。さて、セヨンは初恋の人に会えるのか・・・

二人の旅を彩るのは、韓国で愛される1970年から2010年代の楽曲の数々。国民的歌手イ・ムンセの「早期割引」「ソロ愛讃」「未知の人生」、イ・スンチョルの「眠れない夜に」、チェ・ボクホの「釜山に行けば」、ユ・ヨルの「わかれて以来」、Toyの「熱いさよなら(アンニョン)」等々・・・ 今のK-POPと一味違うバラードや歌謡曲は、その曲を知らない日本人にも懐かしく感じるものばかり。
木浦、釜山、甫吉島の風情ある景色も楽しめました。 
余命宣告を受けて、最後に初恋の人に会いたいという妻の思いを果たしてあげたいと奔走する夫も素敵です。いやはや、心中は?ですが。  さて、私が余命宣告受けたら、何がしたいかなぁ~ (咲)


2022年/韓国/韓国語/123分/5.1ch/シネスコ
字幕翻訳:本田恵子
提供:ツイン、Hulu/配給:ツイン
公式サイト:https://lifeisbeautiful-movie.com/
★2023年11月3日(金)シネマート新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー



posted by sakiko at 11:05| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

パトリシア・ハイスミスに恋して  原題:Loving Highsmith

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(c)2022 Ensemble Film / Lichtblick Film

監督・脚本:エヴァ・ヴィティヤ 
ナレーション:グウェンドリン・クリスティー
出演:マリジェーン・ミーカー、モニーク・ビュフェ、タベア・ブルーメンシャイン、ジュディ・コーツ、コートニー・コーツ、ダン・コーツ
音楽:ノエル・アクショテ 
演奏:ビル・フリゼール、メアリー・ハルヴォーソン

パトリシア・ハイスミス Patricia Highsmith
1921年1月19日、アメリカ、テキサス州フォートワース生まれ、ニューヨーク育ち。バーナード・カレッジ在学中より短編小説の執筆を始める。1950年に発表した長編デビュー作『見知らぬ乗客』でエドガー賞処女長編賞を受賞。 同作は翌年にアルフレッド・ヒッチコックにより映画化される。1952年、クレア・モーガン名義で自らの体験を基にしたロマンス小説『The Price of Salt』(後に『キャロル』と改題)を刊行。その他の主な著書に『太陽がいっぱい』をはじめとする「トム・リプリー」シリーズ、『水の墓碑銘』、『殺意の迷宮』など。1962年よりヨーロッパに移住。 1995年、スイスのロカルノで再生不良性貧血と肺がんの併発により逝去。74歳没。

本作は、ハイスミスの生涯を、生誕100周年を経て発表された秘密の日記やノート、貴重な本人映像やインタビュー音声、タベア・ブルーメンシャインをはじめとする元恋人達や家族によるインタビュー、そしてヒッチコックやトッド・ヘインズ、ヴィム・ヴェンダースらによる映画化作品の抜粋映像を織り交ぜな、彼女の謎に包まれた人生と著作に新たな光を当てるドキュメンタリー。

パトリシア・ハイスミスの名前を、恥ずかしながら全く知らなかったのですが、欧米ではアガサ・クリスティーと並ぶ人気を誇る、サスペンス、ミステリー作家。 しかも、『見知らぬ乗客』『太陽がいっぱい』を始め、著作のほとんどが映画化されているのです。 それほどの功績を誇りながら、レズビアンであることから、家族や世間の目を気にしなければならなかった時代。実名でなく、クレア・モーガンという別名で、自身の体験を基にしたロマンス小説『The Price of Salt』(後に『キャロル』と改題)。 エヴァ・ヴィティヤ監督は、映画化されていない彼女の日記に恋して本作を紡ぎました。
母親が妊娠中に流産を望んで策を講じたことを聞かされていたパトリシアの、母親との確執。恋人と過ごすために、ロンドンやパリに家を建てたこと。女性限定の秘密のクラブで、人々を楽しませて人気だったこと・・・  「私の人生は過ちの歴史」と日記に書き残しているパトリシア・ハイスミスの、自由奔放とも思える人生の軌跡と苦悩を本作で知ることができました。(咲)


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(c)CourtesySwissLiteraryArchives

パトリシア・ハイスミス(1921-1995)は、アガサ・クリスティーと並ぶ人気を誇るサスペンス・ミステリー作家だそう。彼女の原作から『見知らぬ乗客』(1951年)や『太陽がいっぱい』(60年)、『アメリカの友人』(77年)、『キャロル』(2015年)など、映画史に残る名作の数々が生まれたというのに彼女の名前を知らなかった。子供の頃、推理小説が好きでたくさんの推理小説を読んでいたはずなのに。
このドキュメンタリーは、彼女の生誕100周年を経て発表された日記やノート、本人映像、インタビュー音声や、家族などの証言、そしてアルフレッド・ヒッチコックやトッド・ヘインズ、ヴィム・ベンダースらが映画化した作品の映像を織り交ぜながら、ハイスミスの謎に包まれた人生に新たな光を当てている。あの時代にレズビアンとして生き、自伝的小説『キャロル』の原作も生みだした。しかし、名の知れた彼女でも当時はカミングアウトは難しく、最初は別名で出したそう。この作品を観て1950,60年代にはすでに同性愛者のコミュニティ的なもの、女性たちが集まる店もあったんだと知った(暁)。


2022年/スイス、ドイツ/英語、ドイツ語、フランス語/88分/カラー・モノクロ/1.78:1/5.1ch  
字幕:大西公子 
後援:在日スイス大使館、ドイツ連邦共和国大使館
配給:ミモザフィルムズ
公式サイト:https://mimosafilms.com/highsmith/
★2023年11月3日(金・祝)より新宿シネマカリテ、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開/strong>
posted by sakiko at 10:05| Comment(0) | スイス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする