2023年10月15日
シェアの法則
監督:久万真路
脚本:岩瀬顕子
撮影:大塚亮
出演:小野武彦(春山秀夫)、宮崎美子(春山喜代子)、貫地谷しほり(高柳美穂)、浅香航大(春山隆志)、鷲尾真知子(岩井富子)、岩瀬顕子(松岡加奈子)、大塚ヒロタ(小池一男)、小山萌子(ワン・チン)、岩本晟夢(玉田幸平)、山口森広、上原奈美、内浦純一、久保耐吉
春山秀夫と喜代子夫妻は自宅を改装してシェアハウスを始めた。妻の喜代子は世話好きで、個性的な住人たちに母親のように慕われている。事故をきっかけに入院することになり、管理人の全ての仕事が秀夫の肩にかかってきた。いきなり家賃の値上げを言い出して、住民のひんしゅくをかってしまう。気難しい秀夫は息子・隆志の生き方を認めることもできずにいるが、キャバクラ勤めの美穂のトラブルや、中国の家族のために働くワンの事情を知っていくうちに、少しずつ変わっていく。
ほとんどのストーリーがシェアハウスの中で進む群像劇です。演劇みたいと思っていたら、もとは劇団青年座で上演した同名の舞台劇でした。岩瀬顕子さんが映画版でも脚本を担当し、率直なもの言いのキャリアウーマン松岡加奈子を演じています。
小野武彦さんは多くのテレビ、映画でお顔を拝見しますが、これが俳優人生初の主役だそうです。ザ・昭和の男の妻役はデビュー作で共演したという宮﨑美子さん、頑固な夫を立てつつ、自分のしたいことはちゃんとやっている賢い妻です。住人ひとりひとりが何らかの問題を抱えていますが、それとなく支え、応援しています。
シェアハウスは、それぞれが独立した部屋のアパートよりもゆるやかな形の住まいです。個室、トイレ・風呂・リビング共同、食事は各自だったりそうでなかったり。一人で住むより経費も抑えられます。孤立せず関わりすぎず、これからこういう形が増えていくのかもしれません。(白)
2023年/日本/カラー/シネスコ/107分
配給:GACHINKO Film(ガチンコ・フィルム)
宣伝協力:マジックアワー
(C)2022 ジャパンコンシェルジュ
http://www.share-hosoku.com/
★2023年10月14日(土)新宿K’s cinema ほか全国順次ロードショー
※劇団青年座『シェアの法則』第244回公演2023年3/6~12/23全国巡演中.第255回公演2024年3/29~31公演予定
うかうかと終焉
監督・脚本:大田雄史
原作:「うかうかと終焉」第23回日本劇作家協会新人戯曲賞受賞
撮影:春木康輔
音楽:上田壮一
出演:西岡星汰(西島伸太郎)、渡辺佑太朗(美濃部軍平)、松本妃代(児玉香奈枝)、三浦獠太(前野中吉)、乃中瑞生(渡辺美月)、中山翔貴(村井均)、中村無何有(引越屋スタッフ)、中川可菜(スミ子)、大休寺一磨(坂田 )、コウメ太夫(酒屋店主)、後藤剛範(魚屋店員)、森下能幸(解体業者B)、池谷のぶえ(解体業者A)、前野朋哉(清水ショウタ)、草村礼子(清水テイ)、平泉成(鈴木)
西島伸太郎は空き地マニアで、見つけると写真を撮りたくなる。スマホの画像を確認してある空き地に目が留まった。
5年前、学生だった自分を思い出す。古い学生寮は5日後に取り壊しが決まって、残っていた者たちが毎日退寮していく。今日は美月のお別れ麻雀大会だった。一番年上の10回生美濃部を中心に、仲が良い5人。伸太郎、児玉香奈枝、前野中吉、渡辺美月たちは、これまでの学生生活、寮でのできごとを思い出しては話し、卒業後のことなどを考えながら残り少ない寮生活を送っていた。
大田雄史監督と出口明氏が共同執筆した戯曲が原作。舞台を京大白川寮に変えて書き直し、取り壊しが決まった寮での最後の5日間を描いています(白川寮は映画と違って今も存在)。短い中でよくまとまっていて、寮生でなくとも自分の学生生活を思い出してちょっと甘酸っぱいような感覚になります。最後だからと言って、特に劇的な展開はなく、解体業者が下見がてら退寮を促しにくるくらいなもの。『鴨川ホルモー』みたいなことは起きません。
もう取り壊しなのに電球がつかなくて、ほかの部屋から、こっそり失敬してくる場面があります。そうと知らないちょっと天然な寮生の村井均くんが電気屋さんに買いに行って、「今の電球って高いんですね!」というセリフがありました。
白熱電球じゃないんです。さて、いくらでしょう。私も知らなかったので笑ってしまいました。(白)
2022年/日本/カラー/87分
(C)「うかうかと終焉」製作委員会
https://ukauka-movie.com/
★2023年10月13日(金)テアトル新宿ほか全国順次公開
鯨の骨
監督:大江崇允
脚本:大江崇允、菊池開人
撮影:米倉伸
音楽:渡邊琢磨
出演:落合モトキ(間宮)、あの(明日香)、横田真悠(凛)、大西礼芳(由香里)、宇野祥平(しんさん)
結婚間近だった恋人に去られてしまった間宮は、不眠症で仕事にも身が入らない。そんな姿を見かねた同僚からマッチングアプリを勧められた。唯一返信をくれた女性と喫茶店で待ち合わせをする。「なんで返信してくれたの?」と尋ねると「初めての人に似ていたから」と言われた。コートを脱ぐと女子高の制服を着ていて一瞬うろたえる間宮。何気ない風でシャワーをあびて戻ると、彼女は大量に薬を飲んで間宮のベッドで倒れていた。慌てた間宮は死体を車に押し込み、山中に埋めようとする。穴を掘って気が付けば死体は消えていた。
「行方不明の女子高生」ニュースを探すが、何もヒットしない。そのうちARアプリの中で、死んだ女子高生と瓜二つの少女”明日香”を発見する。彼女は何者なのか?本当に存在するのか?
現実とバーチャルの隙間に落ち込んでしまったサラリーマン、実体のないものに群がる人々。間宮が明日香を探してはまり込むアプリ”ミミ”とは、ARが進化して自分がいた痕跡をあちこちに残せる、という設定です。明日香ファンたちが、痕跡探しを楽しんでいる場面が出てきます。熱狂的な明日香ファンに宇野祥平さん。しょっちゅう宇野さんの出演作を観ている気がするんですが、公務員も教祖様もあぶないオジサンも、記憶喪失の釜炊きさんも自然に存在しています。
『スター・ウォーズ』(1977/日本公開は翌年)でホログラムの映像のレイア姫を観たときは、そう遠くない未来にこうなるのかなと思いましたが、本当に実現するかもしれません。スマホのゲームにもAR入っていますしね。
落合モトキさんは1990年生まれで、テレビ番組の子役からのベテラン、この作品ではほぼ出ずっぱりで、現実とバーチャルの明日香に翻弄される間宮を演じています。あのさんはこの作品で初めて観ましたが、舞台挨拶などではあのちゃん節全開な感じです。主題歌はあのさん作詞作曲・歌唱。(白)
2023年/日本/カラー/88分
配給:カルチュア・パブリッシャーズ
(C)2023 Kyrie Film Band
https://www.culture-pub.jp/kujiranohone/
★2023年10月13日(金)ロードショー
キリエのうた
監督・原作・脚本:岩井俊二
音楽:小林武史
主題歌:Kyrie「キリエ・憐れみの讃歌」
出演:アイナ・ジ・エンド(キリエ)、松村北斗(塩見夏彦)、黒木華(寺石風美)、広瀬すず(一条逸子/真緒里)、村上虹郎(風琴)、松浦祐也(新平)
路上ミュージシャンのキリエは、歌うことでしか声が出せない。文字を書いてコミュニケーションをはかっている。
学生のころからの知り合い、真緒里はすっかり変わってキリエの前に現れ、「イッコって呼んで」という。今何をしているのか、自分のことは話さずキリエのマネージャーをかって出た。夏彦は突然消えてしまった婚約者を今も探し続けている。教師の風美(フミ)は傷ついた人に寄り添いたいと思う。
舞台は石巻、大阪、帯広、東京と、仙台出身の岩井監督とゆかりのある土地が選ばれています。13年間というスパンの中でのキリエの物語。演じたアイナ・ジ・エンドさんは6月に解散した人気グループ”Bish”のボーカル。歌声に魅了された監督に望まれてこれが映画初出演&主役。映画の中でもたくさんの歌を聞かせてくれています。ちょっとかすれ気味の独特の声で、耳に残ります。
原作は文春文庫より発刊。表紙は映画のポスターと同じです。キリエの周りに登場する人々のドラマも少しずつ語られます。そのときどきをつなぐのは「キリエのうた」。
地震と津波の描写も入っていますので、ご注意ください。(白)
2023年/日本/カラー/シネスコ/178分
配給:東映
(C)2023 Kyrie Film Band
https://kyrie-movie.com/
★2023年10月13日(金)ロードショー
シック・オブ・マイセルフ(原題:Sick of Myself)
監督・脚本・編集:クリストファー・ボルグリ
撮影:ベンジャミン・ローブ
出演:クリスティン・クヤトゥ・ソープ(シグネ)、アイリク・サーテル(トーマス)
シグネとトーマスはオスロで同棲中。長年の恋人同士でライバルでもあった。トーマスはよくシグネに手伝わせて、これと思ったものを盗み出す。高価なワインをまんまとせしめて友人たちに自慢しているのを、シグネは冷ややかに見ていた。そうやって手に入れた家具を組み合わせたものが、現代アートとして注目され、家に取材陣がやってくる。雑誌に載ったトーマスの写真にシグネは強烈に焦りと嫉妬を感じていた。世間の注目をあびるために、シグネは違法と知ってある薬物を人づてに注文する。
「最凶の承認欲求モンスター誕生」「暴走する自己愛に嫌悪と共鳴が止まない”セルフラブ”メディケーション・ホラー」がポスターの惹句です。これでもう全部言っちゃってます。
きっかけが彼氏のトーマスが自分より注目されたから、というのですから始まりがもう。トーマスも変。自由だけど、知らんけど。
なんでそうなるの?まさかそこまで!と私など思ってしまうのですが、それは人生も黄昏時のおばちゃんだからで、今人生の真ん中をすごしている人には、程度の差こそあれ”共感”できるのかもしれません。綺麗になりたくて整形するのとは違って、ただただ人の目を引き、同情されたいがために、変わっていくシグネを警鐘としてくださいね。そっちへいかないこと。
新鋭クリストファー・ボルグリ監督はこれが2本目の長編。1作目は日本公開されていません。ほとんどホラーと言ってよさそうな作品ですが、画面が美しいのでベンジャミン・ローブ(撮影)の他の作品は?とググったら『アフター・ヤン』(2021)のカメラマンさんでした。(白)
2022年/ノルウェー・スウェーデン・デンマーク・フランス/カラー/シネスコ/97分
配給:クロックワークス
(C) Oslo Pictures / Garagefilm / Film I Vast 2022
https://klockworx-v.com/sickofmyself/
★2023年10月13日(金)ロードショー
オペレーション・フォーチュン(原題:Operation Fortune: Ruse de guerre)
監督・脚本・制作:ガイ・リッチー
出演:ジェイソン・ステイサム(オーソン・フォーチュン)、オーブリー・プラザ(サラ)、ジョシュ・ハートネット(フランチェスコ)、ケイリー・エルウィズ(ネイサン)、バグジー・マローン(JJ)、エディ・マーサン(ナイトン)、ヒュー・グラント(グレッグ)
英国諜報局M16から敏腕エージェントのオーソン・フォーチュンに新たなミッションが下された。それは100億ドルで闇取引されるという危険なブツ”ハンドル”を追跡のうえ回収すること。いつものようにその詳細は明らかではない。フォーチュンが即席チームに招いたのは、M16のコーディネイターのネイサン、毒舌だが天才ハッカーのサラ、新米スナイパーのJJ。ターゲットの武器商人に近づくために、ハリウッドスターのフランチェスコも無理やりに巻き込んだ。世界中をまたにかけての”ハンドル”捜索が始まった。
舞台はロンドン、モロッコ、マドリード、ロサンゼルス、カンヌ…。観光旅行をしているヒマはありませんが、ロケ地をうまく使って一瞬たりとも飽きさせません。さすがガイ・リッチー監督、タッグ5作目のジェイソン・ステイサムの見せどころ、生かしどころをよく熟知しています。歴代の英国諜報員と並べて、ジェイソン・ステイサムはちょっと違う感じがしていたのですが、だんだん敏腕スパイのフォーチュンに見えてきました。
彼にこき使われる仲間も一癖も二癖もあって、いろいろな見せ場も用意されています。若き貴公子のようだったヒュー・グラントがまたもや「怪演」。しかも似合っています。こうやってどんな役もできるからこそ俳優なんですね。
予算も膨大でしょうに、ちゃんと製作費が集まるのがすごい。今回プレセントキャンペーンや、旧作のリバイバル上映企画もあります。(白)
2023年/イギリス、アメリカ合作/カラー/スコープサイズ/114分
配給:キノフィルムズ
MOTION PICTURE ARTWORK (C)2021 EROS STX GLOBAL CORPORATION.ALL RIGHTS RESERVED.
https://operation-fortune.jp/
https://twitter.com/opf_jp
★2023年10月13日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
【X(旧Twitter)プレゼントキャンペーン概要】
■応募期間:9月27日(水)正午〜10月18日(水)23:59 ■場所:プレチケTwitter(@Filmarks_ticket)https://twitter.com/Filmarks_ticket
■応募条件:プレチケ(@Filmarks_ticket)アカウントをフォロー、キャンペーン投稿をリポスト(RT)
※当選者の方にはプレチケ公式アカウントよりDMにてご連絡いたします。
■プレゼント内容:『オペレーション・フォーチュン』ジェイソン・ステイサム等身大スタンディ 1名様
■『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』リバイバル上映
詳細についてはこちら
・https://filmaga.filmarks.com/articles/266226/
・Filmarks作品情報URL:https://filmarks.com/movies/10004
・作品予告編:https://youtu.be/e9WrfqXVUtM
<作品情報>
『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』
監督・脚本:ガイ・リッチー
出演:ニック・モラン、ジェイソン・フレミング、デクスター・フレッチャー、ジェイソン・ステイサム
1998年/イギリス/108分
ガイ・リッチーの名を世界に広めたクライム・アクション。
アアルト(原題:AALTO)
監督:ヴィルピ・スータリ(Virpi Suutari)
制作:2020年 配給:ドマ 宣伝:VALERIA
後援:フィンランド大使館、フィンランドセンター、公益社団法人日本建築家協会 協力:アルテック、イッタラ
アルヴァ・アアルト(1898-1976年)はフィンランドを代表する建築家・デザイナー。今年は生誕125周年にあたる。今も残る優れたデザインの家具や名建築の数々を送り出した。
ヴィルピ・スータリ監督は子どものころアアルトが設計した図書館で過ごし、彼の建築やデザインの虜になったという。監督は、仕事のパートナーであり、最初の妻であったアイノに注目する。アイノがアアルトとやりとりした手紙から見えてくる二人の歴史、友人や関係者たちのコメントを集めてドキュメンタリーを制作した。
アアルトの名前は、この作品で初めて知りました。出回っている安価な商品ももとのデザインはこの方のものだったか~!
そして妻のアイノも優れたデザイナーであったと知りました。妻と母の役割とデザイナーの仕事とさぞ忙しかったはずなのに、有能な方だったんですね。最も有名なのが水の波紋からインスパイアされたという”ボルゲブリック・グラス”シリーズ。これは見たことがありました!正しい名前や製作者を知らない、特別に凝ったものでなくシンプルで使い勝手のよさそうな家具や日用品。目に留まったデザインの多くがフィンランドで生まれたものでした。
フィンランドのイッタラという小さな村のガラス工場から、機能的で美しく、誰もが入手して生活の中で使える製品が次々と送り出されました。アアルト夫妻、カイ・フランクのデザインによるものです。映画の中には仕事場だけでなく、アアルトがデザインした住宅も紹介されています。居心地の良さそうな明るい空間です。
惜しくもアイノは病を得て50代半ばで亡くなってしまいます。アアルトは入社してきたエリッサと再婚し、エリッサもアイノと同じようにアアルトを支え続けました。素晴らしい業績の陰には聡明な伴侶がいたわけです。こちらももっと注目して。(白)
2020年/フィンランド/カラー/103分
配給:ドマ
宣伝:VALERIAC
(C)Aalto Family (C)FI 2020-Euphoria Film
https://aaltofilm.com/
★2023年10月13日(金)より全国ロードショー