2023年05月28日

海を待ちながら  原題:V ozhidanii morya  英題:Waiting for the Sea

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監督:バフティヤル・フドイナザーロフ
脚本:セルゲイ・アシケナージ
出演:エゴール・ベロエフ、アナスタシア・ミクリチナ、デトレフ・ブック

アラル海の畔。
魚が獲れますように!と、願掛けしながら踊る人々。
今日は獲れないという船長マラット。妻のダリが一緒に行くと乗り込む。妹のタマラも乗りたいというのを言い聞かせて、港を後にする。船は大嵐に襲われ、マラットは助かるが、妻や仲間を失ってしまう。
数年後、列車に乗っているマラット。食堂車で働いていた妻の妹タマラがマラットに気がつき、思わぬ形で再会を果たす。
マラットは、久しぶりにアラル海のアバスタ港を訪れるが、アラル海は5年前にほとんど干上がってしまい、錆びた船がいくつも放置されている。マラットは自分の船を見つけ、なんとか水のあるところまで引っ張っていこうとする・・・

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カザフスタンとウズベキスタンにまたがって広がるアラル海。今や、干上がって、かつての10分の1になってしまったと聞きます。マラットは、ラクダを何頭か連ねて、船を引っ張るのですが、もちろん無理。
本作に出てきたラクダは、ひとコブでした。もう少し東で撮影した『ルナ・パパ』では、ふたコブや、ひとコブ半のラクダでした。中央アジアが、ひとコブとふたコブの境目なのだと実感させられました。
音楽を担当したのは、日本人のかみむら周平さん。
本作がフドイナザーロフ監督最後の作品になってしまいました。変わりゆく中央アジアに、どんな思いを抱えながら、本作を撮ったのでしょう・・・ (咲)


2012年/ロシア、ベルギー、フランス、カザフスタン、ドイツ、タジキスタン/110分/カラー/1:1.85/ドルビー5.1

再発見!フドイナザーロフ ゆかいで切ない夢の旅
公式サイト https://khudojnazarov.com/
主催・配給:ユーロスペース、トレノバ
★2023年6月3日(土)よりユーロスペースほか全国順次開催




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ルナ・パパ 4Kレストア版  原題:Luna Papa

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監督:バフティヤル・フドイナザーロフ
出演:チュルパン・ハマートヴァ、モーリッツ・ブライプトロイ、アト・ムハメドシャノフ

湖の畔にあるファル・ホール。
母のお墓に祈る女優志望の17歳の娘マムラカット。
ある月夜、暗闇の草むらで、27歳の役者と名乗る男と坂を転げ落ち、はずみで犯され、子を宿してしまう。
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2ヵ月後、中絶しようと町の病院に行くが、手術直前に医師が流れ弾に当たって死んでしまう。父に妊娠したことを打ち明け、兄ナスレディンと3人で相手の男を探す旅に出る。わかっているのは役者ということと声だけ、各地の劇場を回るが見つからない。兄と父が、有名な歌手を相手の男だと捕まえてくる始末。やがて、アリクというブハラ出身の医師と恋に落ち、パパになってくれるという。マムラカットとアリクは、湖に浮かんだ船の上で結婚式を挙げる・・・

「声」だけを頼りに、お腹の子の父親を捜す旅。思いもかけない結末に、あんぐり~  物語は、お腹の中の子が語る形で進みます。 冒頭に掲げられた「母たちに捧ぐ」の言葉がずっしり響きます。
兄ナスレディンは、飛行機や車の真似をして、少し頭がおかしいのですが、アフガニスタンでの戦争に行った後遺症。 アリクがプロポーズのために薔薇の花を取ろうとして感電する場面や、空から牛が落ちてくるなど、笑うに笑えない事故もあるのですが、それもファンタジーになっています。
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ファル・ホールを地図で調べてみました。首都ドゥシャンベの南東、アフガニスタンの国境になっている湖の畔にある町。 映画の最後に撮影地として出てきた地名は、kairakum。 ドゥシャンベの北東にある湖の畔の町。ファル・ホールと湖の畔という点で同じです。
マムラカットたちは、相手の男を探して、サマルカンド、ブハラ、タシケントなどを回ったとありました。いずれもタジキスタンのお隣り、ウズベキスタンの町です。まだソ連だった時に、サマルカンドから、タジキスタンのペンジケントに行ったことがあります。ソ連崩壊後、中央アジア5か国は、それぞれ独立。タジキスタンの内戦時代(1992年~1997年)には、国境が閉鎖されたこともあると聞きます。本作が作られたのは内戦終了後。自由に行き来できるようになったのがわかります。
本作の中で、マムラカットがスイカの格好で踊る場面がキュートでした。タジキスタンもウズベキスタンも、スイカやメロンが美味しいところ。冒頭、空から映した山、川、町に旅心もそそられました。
本作も、ほかの3作品と同様、日本初公開時に観ているのですが、なんだか不思議な映画だったという印象しか残っていませんでした。こんな話だったのか・・・!!! (咲)



◆バフティヤル・フドイナザーロフ監督インタビューが、こちらで読めます。
https://crisscross.jp/html/a20hu005.htm#a
2000年5月 渋谷 (劇場初公開時のもの)
主人公の名前を「国家」「大地」を意味するマムラカットとした理由も、こちらでわかります。


1999年/ドイツ・オーストリア・日本合作/110分/カラー/1:1.66/ドルビーSRD

再発見!フドイナザーロフ ゆかいで切ない夢の旅
公式サイト https://khudojnazarov.com/
主催・配給:ユーロスペース、トレノバ
★2023年6月3日(土)よりユーロスペースほか全国順次開催

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コシュ・バ・コシュ 恋はロープウェイに乗って  4Kレストア版  原題:Kosh ba kosh

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監督:バフティヤル・フドイナザーロフ
出演:パウリ―ナ・ガルヴェス、ダレル・マジダフ

銃撃音のする中で賭け事をする男たち。
負けが続くドナイは、最後に借金までして、全財産を賭けてもう一勝負するが、イブラヒムに負けてしまう。
ドナイが家に帰ると、モスクワから娘のミラが帰ってきていた。「休暇?」と聞くと、「パパと暮らしてもいい」という。
イブラヒムがドナイの家にやってくる。全財産を取ろうとやってきたのだが、大したものがないと娘のミナを人質に取って帰る。
イブラヒムの息子ダレルが一緒に逃げようとミラを丘の上に連れていく。
ダレルはロープウェイ(ゴンドラ)の操縦士。
難民になって3か月という女性とゴンドラに乗る。
話しかけてくるが答えられない。「タジク語がわからないの?」と女性。

ゴンドラにザクロやお肉にチャイを持ち込み食事するダレルとミラ。
「君が僕に従うなら賭博はやめてもいい」というダレル。少し年上のミナにダレルはすっかり夢中だ。
ミラはダレルを振って家に帰るが、父から出て行ってくれと言われる。
ダレルの家を訪ねあてると、ダレルの母から、「あの子は父親と一緒で、ふらふらしてる」と言われる。

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ゴンドラの操縦室で、ダレルとザクロの実をむいているところに、ミラの父がやってくる。
金をダレルに渡して、「ここには何もない。二人で町を出ろ」という。
その後、ゴンドラの中で倒れるミナの父。
「私は父を看取るために、この街に来た」というミラに、「ある男に出会うために来たんだ」とダレルの父。
車で去るミラを、自転車で追うダレル・・・

「ドウシャンベ。気温14~18度。この日、戦闘なし」


「ミラは俺のもの。東洋では、女は男に従うもの」と、ダレルはいうのですが、どうみても、モスクワで教育を受けたらしいミラのほうが格が上。そんなことはお構いなしに、ミラに惚れ込むダレルの姿が純情で可笑しくも思えました。
撮影中に勃発した内戦も、しっかり背景に入れ込んだ作品。
1994年8月に日本で初公開された折に観ているのですが、覚えていたのは、ゴンドラが動く背景で流れた曲の歌詞が、タジク語の数字(ペルシア語とほぼ同じ)をずっと言っていたこと位でした。
冒頭に「愛する女性たちに捧ぐ」とあり、賭け事に明け暮れる男たちと違って、しっかりと生きる女性たちの姿が眩しいです。
なお、タイトルの「コシュ・バ・コシュ」は、タジク語の俗語で、ゲームをしたときの勝ち負けなしという意味とのことです。(咲)


1993年/タジキスタン/96分/カラー/1:1.66/モノラル

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少年、機関車に乗る 2K レストア版 原題:Bratan

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監督:バフティヤル・フドイナザーロフ
出演:チムール・トゥルスーノフ、フィルズ・サブザリエフ

フドイナザーロフ監督 26 歳のデビュー作。
セピア色で描かれた、歳の離れた兄弟のロードムービー。

祖母と暮らす17 歳 のファルーと 7 歳のアザマット兄弟。 ファルーは弟を連れて機関車の運転席に乗せてもらって、遠い街で暮らす父に会いにいく。途中、運転士ナビの家で止まって着替えや食べ物を受け取ったり、トラックと競争したりしながら、大平原をひたすら走って父のいる街に着く。父は医師だという女性と暮らしていた。二日後、弟を父たちに託し、ファルーは戻ってきた機関車に乗って、祖母のもとに帰る・・・

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(もう少し詳しく!)
17歳のファルーは、刑務所に酒やヤクを投げ込んで日銭を稼いでいるが、この仕事はもう無理だと感じている。
お祖母ちゃんに、7歳の弟アザマットを連れて父に会いに行くというと、「弟を預ける気ね」と見透かされる。
亡き母のイヤリングをシャツのポケットにつけるファルー。
植木鉢の土を食べる弟に、「土を食べるなとあれほど言ったのに」と呆れる。
いよいよ出発。
機関車の運転台に乗せてもらう。
大平原を行く機関車。
途中、線路の上に細い橋が渡された住宅のところで止まる。
運転士ナビの家。 我が子に声をかけ、着替えや食べ物を受け取る。
平行して走るトラックと速さを競う。
アラル駅。民族衣装の女性たちが糸を紡いでいる。
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ポットをたくさん持った男性が乗ってくる。
途中で絨毯とポットを交換する。
列車に石を投げてくる少年たち。
町の端っこの駅に着く。
綺麗な若い女性が二人乗ってくる。
次の駅で、ナンと葡萄を食べる運転士。
連結の具合を直すのに1時間かかると、休憩。
アザマットは、女性が貨車の中で服を脱いでいるのを覗き見てしまう。
運転士が戻らないのに、機関車を動かすアザマット。
運転士があわてて追いかけてくる。
父の住む街に着く、
二日後に戻ってくる機関車に乗せてもらう約束をする。

街では、外で映画を観ている人たちや、通りで絨毯を洗う人たちを見かける。
父と会う。
一緒に暮らしている女性は医師だという。

父が聖者の墓に連れていってくれる。
石を山のように積んだ墓の周囲をぐるぐる回りながら石にキスする人たち。

父に弟の面倒を見てほしいと頼むが、うんと言わない。
ボート遊びする弟とネリー(父の彼女)に近づこうとした父が湖に落ちるが、ファルーは助けない。
ここは嫌だという弟。

馬や自転車に乗って、競技する青年たち。
歌う青年がいたり、映画の真似をして演技したりする青年。

友達と殴り合いになって、母のイヤリングが付いたポケットがちぎれて落ちてしまう。
拾って、綺麗にして、一つを弟に渡し別れを告げる。
戻ってきた機関車に乗せてもらい、祖母のいる町に帰る・・・・


映画が作られたのは、ソ連が崩壊して、タジキスタンとして独立したばかりのころ。
公開当時に観て、わくわくしたことだけは覚えているのですが、物語はすっかり忘れていました。
ほとんどの場面がロシア語ですが、聖者の墓を守る導師に父が話しかけた時はタジク語でした。
ラストの場面に、ほっこりさせられました。
30年の時を経て、また観ることのできた幸せ♪ (咲)



1991 年マンハイム国際映画祭グランプリ、カトリック批評家賞、FIPRESCI賞
1992 年トリノ国際映画祭グランプリ
2022 年ヴェネツィア国際映画祭ヴェネツィア・クラシックス正式出品 他


1991 年/タジキスタン・旧ソ連合作/98 分/モノクロ/ 1:1.33/モノラル

再発見!フドイナザーロフ ゆかいで切ない夢の旅
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再発見!フドイナザーロフ ゆかいで切ない夢の旅 『少年、機関車に乗る』『コシュ・バ・コシュ 恋はロープウェイに乗って』『ルナ・パパ』『海を待ちながら』

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中央アジアが生んだ早世の天才バフティヤル・フドイナザーロフ。
今世界が再注目する、やさしさとユーモアにあふれたファンタジックな作品群を一挙公開!
2015年の急逝以来、久しくその名を聞く機会がなかった、中央アジア・タジキスタンが生んだ早世の天才バフティヤル・フドイナザーロフ。
日常の小さな冒険やちょっとした驚きをユーモアですくいとり、中央アジアのおおらかな大地にファンタジックな世界を生みだしたバフティヤル・フドイナザーロフ監督。
1991年、ソビエト連邦の解体により母国タジキスタンが独立したその年に、弱冠26歳で軽やかにデビュー。
のちに勃発した内戦中も映画を撮り続け、6本の長編映画を遺し49歳の若さで急逝した。フドイナザーロフ作品の人々は、たとえ内戦下にあっても笑い、怒り、恋をし、そして旅に出る。
ひたむきで逞しい彼らがおりなす、ゆかいで切ない夢のような物語は、普遍的なきらめきを放ち世界中のファンに愛された。
2022年ヴェネチア国際映画祭で“機関車映画の金字塔”と言われる『少年、機関車に乗る』レストア版がプレミア上映されたのを機に、欧州有数の映画会社が世界配給権を獲得。世界的にフドイナザーロフの再評価が始まっている。

この度、珠玉の4作品が一挙公開されます。

『少年、機関車に乗る』(1991)2Kレストア版 98分
『コシュ・バ・コシュ 恋はロープウェイに乗って』(1993)4Kレストア版 96分
『ルナ・パパ』(1999)4Kレストア版 110分
『海を待ちながら』(2012) 110分
※『コシュ・バ・コシュ』『ルナ・パパ』は4Kレストアの2K上映です。

主催・配給:ユーロスペース、トレノバ
公式サイト https://khudojnazarov.com/
★2023年6月3日(土)よりユーロスペースほか全国順次開催


バフティヤル・フドイナザーロフ Bakhtiyar Khudoinazarov
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1965 年 6 月 29 日タジキスタン共和国ドゥシャンベ生まれ。
ドゥシャンベの国立ラジオ・テレビ委員会でのジャーナリストや、子供向けテレビ番組の脚本や助監督を務めた後、20 歳でモスクワの全ロシア国立映画学校(VGIK)の監督科に入学。在学中にいくつかの短編を制作する。卒業後ドゥシャンベに戻り 26 歳の時に撮った初長編作品『少年、機関車に乗る』がトリノ国際映画祭、マンハイム国際映画祭、ナント国際映画祭でグランプリを受賞、 またベルリン国際映画祭や香港国際映画祭へも出品され世界の映画シーンに軽やかにデビューした。
1993 年、長編2作目の『コシュ・バ・コシュ 恋はロープウェイに乗って』で見事ヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞を受賞。同年にドイツのベルリンに移住するがその後も中央アジアでの映画制作を続ける。
1999 年の『ルナ・パパ』もヴェネツィア国際映画祭に出品されたほか、東京国際映画祭優秀芸術貢献賞など数々の映画祭で受賞し、世界的にヒットを記録した。
2002 年の『スーツ』(劇場未公開)では東京国際映画祭審査員特別賞、優秀芸術貢献賞をダブル受賞。
2015 年 4 月 21 日にベルリンで死去。享年 49 歳。


■公開記念トークショー
6月3日(土) 14:00『少年、機関車に乗る』上映後
ゲスト:篠崎誠さん(映画監督・立教大学新理学部映像身体学科教授)

6月4日(日) 14:00『ルナ・パパ』上映後
ゲスト:奈倉有里さん(ロシア文学翻訳者)

6月10日(土) 14:00『海を待ちながら』上映後
ゲスト:坂井弘紀さん(和光大学教授 中央ユーラシア文化史・テュルク叙事詩研究)

6月11日(日) 14:00『コシュ・バ・コシュ』上映後
ゲスト:沼田元氣さん(写真家詩人)


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渇水

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(C)「渇水」製作委員会

監督:髙橋正弥
企画プロデュース:白石和彌
脚本:及川章太郎 
音楽:向井秀徳
原作:河林満「渇水」(角川文庫刊)
主題歌:向井秀徳「渇水」
出演:生田斗真、門脇麦、磯村勇斗、山崎七海、柚穂、宮藤官九郎、宮世琉弥、吉澤健、池田成志、篠原篤、柴田理恵、森下能幸、田中要次、大鶴義丹、尾野真千子

日照りの続く暑い夏。市の水道局に勤める岩切俊作(生田斗真)は、同僚の木田拓次(磯村勇斗)と共に、水道料金を長期滞納している家庭や店舗を訪ね歩き、支払いに応じてくれない場合、「停水執行」を行う日々を送っている。この日も、戸を開けた部屋でスマホをいじっていた小出有希(門脇麦)に督促するが応じてもらえず、停水しようとしたところ、幼い娘たちが帰宅し、停水せずに立ち去る。1週間後、再び訪ねると、幼い姉妹だけがいて、母親はいなくなったという。家中のありったけの入れ物に水を入れ、停水執行する。電気とガスはすでに停止されていた。岩切は親との関係に悩んだ子供時代や、妻・和美(尾野真千子)と共に実家に帰ったまま戻ってこない幼い息子を、幼い姉妹に重ねて葛藤する・・・

長期滞納者の水道を止めるという無情な仕事に就いている岩切は、妻も実家に帰ったままで、心も渇き切った思いで過ごす日々。 様々な家庭の事情を知り、さらに滞納者から、「水なんか、本来タダでいいのでは?」と言われ、あれこれ思いを馳せた岩切はある日、思い切った行動にでます。こんな思いになるのもわかるような気がしました。
原作とは、結末を変えたとのこと。ほんのり希望を感じるラストですが、物価高の続く今、光熱費に苦しむ人も多いことに、渇いた社会を感じざるをえません。そんなことを考えさせられた作品でした。
水道局員の制服姿の生田斗真さんは、ちょっと野暮ったいのですが、背広姿の彼は、やはり素敵でした。余分なことですが、格好によって、印象ってこんなに変わるものなのだと! (咲)


2023年/日本/カラー/ヨーロピアンビスタ/100分
配給:KADOKAWA
公式サイト:https://movies.kadokawa.co.jp/kassui/
★2023年6月2日(金)全国ロードショー




posted by sakiko at 15:45| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

苦い涙  原題:Peter von Kant

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(C)2022 FOZ - France 2 CINEMA - PLAYTIME PRODUCTION (C)Carole BETHUEL_Foz

監督・脚本:フランソワ・オゾン
*ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーの名作『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』を自由に翻案
出演:ドゥニ・メノーシェ(『悪なき殺人』『ジュリアン』)、イザベル・アジャーニ、ハリル・ガルビア、ステファン・クレポン、ハンナ・シグラ、アマンテ・オーディアール

1972年、西ドイツのケルン。著名な映画監督ピーター・フォン・カントはオフィスを兼ねた瀟洒なアパルトマンで、同居する若い助手のカールをこき使いながら暮らしている。恋人フランツに捨てられ落ち込んでいたところへ、大女優で親友のシドニーが、俳優志望の美しい青年アミールを連れてやってくる。一目でアミールに心を奪われたピーターは、カメラテストを経て、俳優として育てようと同居させる。9ヵ月後、ピーターの公私にわたる努力によって、アミールは映画界の新星として注目を集めるようになるが・・・

オゾン監督が敬愛するドイツの監督ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーが、1970年代西ドイツのアパルトマンを舞台にして描いた室内劇『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』を自由に翻案。女性同士の恋愛関係を男性同士に置き換え、ファッション・デザイナーだった主人公を映画監督に変え、さらにオゾン監督の美意識に基づいたアレンジを施したとのこと。元の作品を観ていないので、比較できないのですが、言葉はドイツ語とフランス語が混じり、愛に生きる人たちの姿からはフランスの香りが漂います。
偏執ともいえるピーターのアミールへの愛。破綻した前のフランツとの関係も、ピーターの偏愛がもたらしたものかと想像してしまいます。大柄なドゥニ・メノーシェ演じるピーターは強烈です。愛に生きる男を体現しています。美青年アミールを演じたハリル・ガルビアは、父親がチュニジア出身のダンサー。ピーターの愛を受け入れる振りをしながら、したたかに俳優の座を手にする様を魅力的に演じています。イザベル・アジャーニの美貌にも目を奪われましたが、本作でなんといっても印象に残ったのは、ステファン・クレポンが演じた助手のカール。ピーターからどんな命令をされても文句も言わずにこなし、アミールに言い寄るピーターのことも静かに見つめています。カールの複雑な思いが伝わる絶妙な演技でした。(咲)


2022年/フランス/フランス語・ドイツ語/スコープサイズ/5.1ch/85分
日本語字幕:手束紀子.
配給:セテラ・インターナショナル
公式サイト:http://www.cetera.co.jp/nigainamida/
★2023年6月2日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開




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2023年05月27日

Rodeo ロデオ

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監督・脚本:ローラ・キヴォロン
撮影:ラファエル・ヴェンデンブスッシュ
音楽:ケルマン・デユラン
出演:ジュリー・ルドリュー(ジュリア)、アントニア・ブレジ(オフェリー)、ヤニス・ラフキ(カイス)、コーディ・シュローダー(キリアン)、ルイ・ソットン(ベン)、ジュニア・コレイア(マネル)、ダブ・ンサマン(アブラ)

物語の主人公は、バイクにまたがるためにこの世に生を受けたジュリア。短気で独立心の強い彼女は、ある夏の日、技を操りながら公道を全速力で疾走する、”クロスビトゥーム”のバイカーたちに出会う。ある事件をきっかけに、彼らが組織する秘密結社の一員となった彼女は、男性的な集団のなかで、自身の存在を証明しようと努力する。しかし、彼らの要求は次第にエスカレートし、彼女は疑問を持ち始める。

バイクが好きで、疾走するために生まれてきたようなジュリア。だまし取ったバイクで機嫌よくかっ飛ばしていたら、”クロスビトゥーム”という暴走族に遭遇します。すっかり魅せられて仲間入りしますが、周りは男ばかり。ジュリアは女性としてではなく、技術と度胸のよさで居場所を作っていきます。いつも不機嫌そうなジュリアですが、バイクで走っているときだけは笑顔を見せます(ちょっと白川和子さん似)。
人気だというヤマハのオフロードバイクYZ450F は、新車なら100万円以上。重量も100㎏以上です。倒れたバイクを起こすこともできなそうな、細身のジュリアにまんまと乗り逃げされてしまったお金持ちが悔しそうでした。あ、これは監督が脚本に何年もかけたフィクションです。オーディションで発掘した俳優たちの演技が自然で、ドキュメンタリーにも見えてしまうくらい。
あれこれと指示を出すボスのドミノは、離れても家族に君臨し妻オフェリーと子どもを外にも出しません。バイク以外のエピソードは、ジュリアとオフェリーとのやりとりが唯一。オフェリーが夫の支配下に戻ってしまってジュリアが見せる表情をなんと解釈しよう。鮮烈なヒロインでした。(白)


2016年に製作した短編『ボルチモアから遠く離れて』で、ライダーたちの社会を描いた後、彼らのコミュニティの一員となったローラ・キヴォロン監督。バーヤという女性ライダーとの出会いが本作のきっかけとなったこと、その後、ジュリー・ルドリューとの出会いが主役ジュリアを生んだことなどが、公式サイトの監督インタビューに詳しく書かれています。
ローラ・キヴォロン監督は、ノンバイナリー(自分の性認識に男性か女性かという枠組みを当てはめない考え方)を公言。男性中心主義のコミュニテイの中で、自分の居場所を見出していくヒロインの姿を鮮やかに描き出しています。
夫ドミノが収監中のオフェリーを演じたアントニア・ブレジが、本作の共同脚本を務めているのですが、敢えて、オフェリーが夫に従い、実家のコルシカに帰るのも控えるというキャラクターにしたのが気になります。いまだに、そのような妻が多いことへの警鐘でしょうか。(咲)


ローラ・キヴォロン監督の長編デビュー作。
2022年の第75回カンヌ国際映画祭ある視点部門で「クー・ド・クール・デュ・ジュリー(審査員の心を射抜いた)賞」を受賞。

2022年/フランス/カラー/シネスコ/105分
配給:リアリーライクフィルムズ、MAP
(C) CG CINEMA/ ReallyLikeFilms
https://www.reallylikefilms.com/rodeo
★2023年6月2日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷、アップリンク吉祥寺ロードショー
posted by shiraishi at 02:48| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ウーマン・トーキング 私たちの選択

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監督・脚本:サラ・ポーリー
原作:ミリアム・トウズ「Women Talking」
撮影:リュック・モンテペリエ
美術:ピーター・コスコ
音楽:ヒドゥル・グドナドッティル
出演:ルーニー・マーラ(オーナ)、クレア・フォイ(サロメ)、ジェシー・バックリー(マリチェ)、ベン・ウィショー(オーガスト)、フランシス・マクドーマンド(スカーフェイス)

自給自足で生活するキリスト教一派の村で、少女たちがたびたび襲われていた。目覚めたときは記憶がなく、身体に残る痣や出血で何かあったことがわかるだけだ。村の男たちには「悪魔の仕業」「作り話」だと言われ、レイプを否定されてきた。
2010年、それが実際にあったことで犯罪だということが明らかになった。襲った男たちが逮捕され、保釈されるまで2日間不在になる。残った女性たちは、まず今後の選択について投票をした。「赦す」は少数、「残って闘う」と「ここから去る」が同数だった。時間が限られるため、それぞれの意見を代表する者が納屋に集まり、自分や娘の未来をかけた話し合いをする。

2005年から2009年にかけて南米ボリビアで実際にあった事件をもとに、ミリアム・トウズが書いた小説が原作。2018年に出版されてベストセラーとなりました。オプション権を得ていたフランシス・マクドーマンドがブラッド・ピットの制作会社プランBと共同制作を決め、映画化を望んでいたサラ・ポーリー監督が加わりました。
主演はルーニー・マーラ。クレア・フォイ、ジェシー・バックリーらが共演して静かな戦いを繰り広げます。学校に行くのは男性だけだったので、女性たちは文字が書けません。教師のオーガストが記録係になります。映画に登場する男優はほぼこのベン・ウィショーだけ。事件に関わった男たちは顔を出しません。
外部との関わりを断って、自給自足で暮らす村人たち。男性は教育を受け、村の外へ出る自由もありますが、女性の役割は家事労働と出産・子育てのみ。おまけに性欲のはけ口になっていたとは、女性の尊厳も権利もここにはありませんでした。遅まきながら目覚めた女性たちは、これまで出せなかった怒りや本音をぶつけあいます。
一時代前のようなロケーション、ランプの光に照らされた質素な家や調度、地味な色合いの衣装が美しいです。納屋での話し合いのシーンが多いですが、緊張感の続くドラマとして、少しも退屈しません。(白)


2022年/アメリカ/カラー/シネスコ/105分
配給:パルコ
(C)2022 Orion Releasing LLC. All rights reserved.
https://womentalking-movie.jp/
★2023年6月2日(金)TOHOシネマズシャンテ、渋谷ホワイトシネクイントほか全国公開

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2023年05月26日

光をみつける ヴァイオリニスト穴澤雄介からのメッセージ

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監督・編集:永田陽介
撮影:佐藤力、霜山和彦
構成 : 桂いちほ
録音:間宮博実
アートディレクション:小林 隆
出演:穴澤雄介、舞の海秀平、野田正純(ピアノ)、木曽保人(陶芸家)、松井雅司(合唱指揮)

子供の頃に3度の心臓手術を受けたことで、次第に視覚を失い全盲となった穴澤雄介。たくさんのコンプレックスを乗り越えて、選んだ人生はヴァイオリニスト。演奏だけでなく作曲、編曲も手がけながらライブ活動を行っている。指で触る点字の楽譜。全てのメロディを覚えなければ弾けないハンデ。明るく前向きな人柄を生かして、講演やYouTubeなどでも活躍する”全盲のヴァイオリニスト穴澤”が綴る音楽と人生の感動ドキュメンタリー!

ナレーションの舞の海さんが語る言葉一つ一つに共感しました。
「穴澤さん、あなたはどうしてそんなに明るく強く生きられるのですか?」
「(彼の言葉は)あなたの背中をそっと押すことになるだろう」
人間の持っている五感「視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚」のうち、視覚の情報量は8割にもなるそうです。穴澤さんはだんだんに視覚をなくして、自分にできることを探して音楽家を目指しました。人生はウサギとカメの競争、それに加わった自分はとても追いつけない芋虫と例えます。独自の路線を歩むと決め、記憶力と想像力を発揮して生きてきました。「命に関わるから」という言葉にはっと胸を突かれます。
「自分は決して強い人間ではない」と穴澤さん。けれども、しなやかに明るく逆境を越えてきた穴澤さんはやっぱり強い、強くなられたんだと思います。「心と手がつながった」と評される自作曲の演奏もたっぷり挟み込まれています。お楽しみください。(白)


2022年/日本/カラー/ビスタ/DCP/80分
配給:アウトサイド、フジヤマコム
(C)2022 FUJIYAMACOM
https://anazawa-cinema.com/
★2023年5月30日(火)〜6月11日(日)東京都写真美術館ホール
6月15日(木)〜30日(金)シネマ・チュプキ・タバタ(21・28日は休映)
ほか全国順次公開

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2023年05月21日

ハンガリーの女性監督 メーサーロシュ・マールタ監督特集上映 

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メーサーロシュ・マールタ監督特集上映
女性たちのささやかな革命


1975年製作の『アダプション/ある母と娘の記録』が、第25回ベルリン国際映画祭においてハンガリーの監督としても女性監督としても史上初の金熊賞に輝いたメーサーロシュ・マールタ監督。
女性の直面する問題を描き、その後もカンヌをはじめ数々の国際映画祭で受賞を果たしています。日本では上映の機会に恵まれなかった彼女の珠玉の作品群の中から、5本が日本初公開されます。

『ドント・クライ プリティ・ガールズ!』 1970年
『アダプション/ある母と娘の記録』 1975年
『ナイン・マンス』 1976年
『マリとユリ』 1977年
『ふたりの女、ひとつの宿命』 1980年

後援 駐日ハンガリー大使館/リスト・ハンガリー文化センター 配給:東映ビデオ
(C)National Film Institute Hungary Film Archive
公式サイト:https://meszarosmarta-feature.com/
★2023年5月26日(金) 新宿シネマカリテほか全国にて順次公開


メーサーロシュ・マールタ Mészáros Márta(1931年9月19日~  )
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1931年、ハンガリーの首都ブダペシュト生まれ。1936年、コミュニストで彫刻家の父と母と共にキルギスへ逃れる。父はスターリンの粛清の犠牲となり、その後、母は出産で命を落とした。ソヴィエトの孤児院に引き取られ、戦後ハンガリーへ帰郷。1957年にモスクワの映画大学で学び、ハンガリーに戻って活動を開始。1968年から長編映画を撮り始める。残酷な社会のなかで日々決断を迫られる女性たちの姿を描きながら、ファシズムの凄惨な記憶や、東欧革命の前兆であるハンガリー事件の軌跡など、そのまなざしは暴力と化す社会の相貌をも見逃さない。
最新作は2017年の『Aurora Borealis: Northern Light』。


『ドント・クライ プリティ・ガールズ!』 原題:Szép lányok ne sírjatok 英題:Don’t Cry, Pretty Girls! 
1970年/モノクロ/85分
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工場で働くユリは、町の不良と婚約しているが、あるミュージシャンと恋に落ちてしまう。ギグを開く彼と共に小旅行に出るが、婚約者とその不良仲間たちが執拗に追いかけてくる・・・
ビートの効いた音楽と共にユリの揺れ動く心が綴られる。閉塞的で家父長的な社会からの逃避行。

自転車で通勤してくる労働者階級の若者たちの姿が生き生きと描かれた作品。ユリが、工場勤めの現実から逃避するように、ミュージシャンに惹かれていく様が初々しい。
当時は社会主義国だったハンガリーで、息詰まるような閉塞的な社会を吹き飛ばさんばかりに西側の音楽やライフスタイルに憧れる人たちの姿が描かれていて、痛々しい思いもしました。(咲)



『アダプション/ある母と娘の記録』原題:Örökbefogadás 英題:Adoption 
1975年/モノクロ/87分
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木工工場で働く43歳の未亡人カタ。同僚の既婚者と5年にわたる不倫関係。子どもが欲しいと願うが相手は責任持てないとつれない。ある日、工場見学に来た近くの寄宿学校の17歳のアンナから、彼と会うために部屋を貸してほしいと頼まれる。それを契機に、アンナと母娘のような、年の離れた友達のような奇妙な友情関係を育んでいく・・・

健康診断でまだ子どもが産めると確認したカタが相手に迫って拒否された時に、ちょうど知り合ったアンナをまるで娘のように思って関わっていくようになります。アンナは親から見捨てられた境遇。カタを演じたべレク・カティが、静かな眼差しでアンナを思う気持ちを表現しています。カタにとって安らぎを与えてくれる存在があれば、面倒な男などいらないのだと思わせてくれました。
とはいえ、子どもを欲しいと思ったことのない私には、わからない感情。世の中には夫はいらないけど、子どもは欲しいという人もいるので、カタはそんな思いなのかも。(咲)



『ナイン・マンス』原題:Kilenc hónap 英題:Nine Months 
1976年/カラー/90分 
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ユリは鋳物工場で働くことになるが、面接を担当したヤーノシュから食事に誘われ、いきなり結婚を申し込まれる。ユリには妻子ある大学教授との間に息子がいて、実家の母に預けている。息子や教授とは時々会う良好な関係。それを知っても、家を用意するからと結婚を迫るヤーノシュ・・・

ユリは働きながら農学を学んでいて、さらなる飛躍を考えているのに、ヤーノシュは結婚したら働くことも勉強も不要だと言い放つのです。息子がいることは隠しておいてほしいと言われるのですが、ユリは結婚直前にヤーノシュの家族にぶちまけます。結果、破談になるのですが、妊娠が判明。ヤーノシュは中絶しろというのですが、9か月後・・・という物語。
ユリは農学を修得し、教授の紹介した職に就きます。女性の自立を描いた痛快な作品。旧態依然な男との対比が強烈でした。(咲)



『マリとユリ』 原題:Ők ketten 英題:The Two of Them
1977年/カラー/92分  
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マリの夫は偏狭な男で、ユリの夫はアルコールに依存している。マリとユリは、世代は離れているが、いずれも夫と辛い生活を送っていることを知り親しくなり、慰めあうようになる。やがて、お互いの葛藤を知った二人は連帯し、現状打破する決断をする・・・

家父長制が残る1970年代を舞台にした物語ですが、今も男性優位の風潮はあまり変わっていないような気がします。かつてに比べれば、一緒に暮らす価値のない男とは、さっさと決別でしょうか。 男性に依存しない人生への応援歌ともいえる物語。(咲)


『ふたりの女、ひとつの宿命』原題:Örökség 英題:The Heiresses 
1980年/カラー/109分 
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1936年、ユダヤ人のイレーンは、裕福な家の一人娘スィルヴィアとカフェで出会う。スィルヴィアは父から結婚を機に大邸宅を買ってもらい、生まれてくる子に莫大な財産の相続も約束されているが、不妊に悩んでいた。イレーンに夫アーコシュとの間で子供を作ってほしいと頼む。やがてイレーンは妊娠する。アーコシュは知人たちにイレーンを妻、スィルヴィアを義姉と紹介する。
国家社会主義に批判的なアーコシュは、祖母マリアがユダヤ人だと噂される。出生証明を見せて皆に謝罪してもらう。イレーンを伴った宴席で、ユダヤ憎しの話題になる。アーコシュに自分はユダヤだと打ち明けるイレーン。「知っていた」と動揺しない。
やがて息子が生まれ、スィルヴィアに引き渡す。「我が子」との別れに涙するイレーン。
1944年。各地でユダヤ人が連行される。アーコシュは妻から身分証を奪い取ってイレーンに渡す・・・

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イレーンを演じたイザベル・ユペールが初々しくて可憐。裕福な娘スィルヴィアを演じたモノリ・リリは、『ナイン・マンス』では労働者で未婚の母。どちらもちゃんとそれらしく見えて素晴らしいです。
ユダヤ女性から生まれた子は、ユダヤ。アーコシュは、愛するイレーンだけでなく、ユダヤ人である息子も助けようとした次第。それにしても、本来の妻であるスィルヴィアへの仕打ちに唖然! (咲)



posted by sakiko at 16:36| Comment(0) | ハンガリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

aftersun/アフターサン  原題:aftersun

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© Turkish Riviera Run Club Limited, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute & Tango 2022

監督・脚本:シャーロット・ウェルズ(初長編監督作品)
製作総指揮:エヴァ・イエーツ、リジー・フランク、キーラン・ハニガン、ティム・ヘディントン、リア・ブーマン
出演:ポール・メスカル(ドラマ「ノーマル・ピープル」『ロスト・ドーター』)、フランキー・コリオ、セリア・ロールソン・ホール

11 歳の夏休み、ソフィは、いつもは離れて暮らす父カラムとトルコのひなびたリゾート地にやってきた。滞在中に31歳の誕生日を迎える若い父。兄に間違えられそうだ。工事中のリゾートホテルに着くと、ツインの部屋を予約していたのに、部屋にはダブルベッドが一つ。簡易ベッドを入れてもらう。母親との暮らしや、学校のことを娘に尋ねるも、どこかぎこちないカラム。旅のために購入した家庭用ビデオカメラを娘に向けるカラム。逆にソフィもビデオを父に向け「11歳の時、将来何になりたいと思ってた?」と尋ねる。そんな娘に「なりたい人間になって」というカラム・・・

監督/脚本:シャーロット・ウェルズ
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1987年、スコットランド出身、ニューヨークを拠点とするフィルムメーカー。ロンドン大学キングスカレッジの古典学部で学んだ後、オックスフォード大学でMA(文学修士号)を取得。その後、金融関係の仕事をしながら、ロンドンで映画スタッフのエージェンシーを友人と共に経営する。その後、ニューヨーク大学ティッシュ芸術学部でMFA(美術修士号) / MBA(経営学修士)を共に取得する大学院プログラムに入学。在学中は、BAFTAニューヨークおよびロサンゼルスのメディア研究奨学金プログラムの支援を受け、3本の短編映画の脚本・監督を手がける。短編初監督作『Tuesday』(16)は、2016年、エンカウンターズ短編映画祭でプレミア上映され、スコットランドBAFTAのニュータレント賞にノミネートを果たす。2作目『Laps』(17)は、2017年のサンダンス映画祭で編集部門のショートフィルム特別審査員賞を受賞し、サウス・バイ・サウスウエスト映画祭の短編ナラティブ部門の審査員特別賞を受賞。修了制作『Blue Christmas』(17)は、同年9月にTIFFでプレミア上映される。2018年、「フィルムメーカー・マガジン」の“インディペンデント映画の新しい顔25人”に選ばれ、2020年のサンダンス・インスティテュートのスクリーンライター及びディレクター・ラボのフェローとなった。『aftersun/アフターサン』(22)は長編初監督作品である。(公式サイトより)


若い父親とのバカンスを、20年後、その時の父の年齢になって振り返る物語・・・ その後、父とは恐らく会っていない31歳のソフィにいろいろな思いがよぎったことと切なくなりました。
一日バスツアーでギリシャ遺跡や温泉に絨毯屋さんなどエーゲ海沿いのトルコらしい場所で二人は過ごします。これは、実は監督自身が10歳の時に若い父と2週間過ごした時のトルコの思い出。ロケ地はオルデニズ。真向かいにロードス島のある所。
トルコのリゾート地が舞台と知って、トルコが好きな私は大いに期待したのですが、トルコらしいところは、一日のバスツアーの日だけで少ししか出てきませんでした。
ホテルでお茶している場面で、ウェイターにトルコ語で「ありがとう」とカラムが言っていたので、それなりにトルコに行く準備はしてきた設定でしたが。
思えば、地中海沿いのリゾート地を訪れるヨーロッパの人たちにとって、トルコは物価が安いから人気で、目的はあくまでリゾートなのだと思い至りました。到着早々、ガイドの女性が「トレモリノス」と、スペインのアンダルシアのリゾート地の名前を呪文のように出したのは、「ここをトレモリノスと思って~」と解釈していいのかなと。
場所はどこであっても、かげがいのない思い出は人生の宝物。大事な人とたくさんの経験を重ねたいものだと思わせてくれました。(咲)



2022年/イギリス・アメリカ/カラー/ビスタ/5.1ch/101分/G
後援:ブリティッシュ・カウンシル
配給:ハピネットファントム・スタジオ
公式サイト:https://happinet-phantom.com/aftersun/
★2023年5月26日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿ピカデリーほか全国公開




posted by sakiko at 12:07| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

クリード 過去の逆襲   原題:Creed III

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(C)2023 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.
CREED is a trademark of Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.

監督:マイケル・B・ジョーダン
製作・原案:ライアン・クーグラー
出演:マイケル・B・ジョーダン、テッサ・トンプソン、ジョナサン・メジャーズ、ウッド・ハリス、フロリアン・ムンテアヌ、ミラ・ケント、フィリシア・ラシャド 他

ロッキー・バルボアと亡き父アポロ・クリードの魂を受け継いだ世界チャンピオン、アドニス・クリード(マイケル・B・ジョーダン)。彼の前に出所した幼馴染ダミアン・アンダーソン(ジョナサン・メジャース)が、18年ぶりに現れる。ある事件で刑務所に入り、すべてを失ったダミアンは、再びボクサーとしてクリードに決死の闘いを挑む・・

クリード・・・ かつてロッキー(シルベスター・スタローン)が死闘を繰り広げた親友アポロの息子アドニス・クリード。師であるロッキーの指導を受けボクシング界の頂点を目指した『クリード チャンプを継ぐ男』(2015年〉、父と息子の2世代にわたる因縁の対決を描いた『クリード 炎の宿敵』(2019年)に続く第3弾が本作『クリード 過去の逆襲』。
残念ながら前の2作は観ていないのですが、映画が始まり、Sylvester Stalloneと、大きく掲げられた時点で、ロッキーの流れを汲む物語なのだと期待が高まりました。
1977年に『ロッキー』が公開された時、どんな映画かも知らないで誘われるままに観て、ボクシングには興味がないどころか、血を見るような格闘技は嫌いな私が、ワクワクして観てしまったのでした。その後も、自分から積極的にボクシング映画を観ることはないものの、試写で拝見させていただいたボクシング映画の数々は、どれも生き様や、家族や友人との関係を描いた人間ドラマの秀作が多くて、感動させられたものです。
『クリード 過去の逆襲』も、まさにそんな映画でした。
特に、視聴覚障害を持つ娘アマーラが、父の姿に一喜一憂する姿が和ませてくれたのですが、演じた10歳のミラ・デイビス・ケントは、本作の為に見いだされた新人女優。実際に聾者なのですが、表情豊かで魅せられました。(咲)


2023年/アメリカ/116分/スコープサイズ/2D/IMAX 2D/ドルビーシネマ 2D/5/1ch リニア PCM+ドルビーサラウンド7.1(一部劇場にて)
字幕:アンゼたかし
配給:ワーナー・ブラザース映画
公式サイト:https://wwws.warnerbros.co.jp/creed/
★2023年5月26日(金)全国ロードショー

posted by sakiko at 11:33| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

THE KILLER/暗殺者  原題:더 킬러: 죽어도 되는 아이(ザ・キラー:死んでもいい子)英題:The Killer: A Girl Who Deserves to Die

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© 2022 ASCENDIO Co., Ltd. all rights reserved

監督:チェ・ジェフン
脚本:ナム・ジウン
編集:キム・マングン
音楽:チョン・ヒョンス
出演:チャン・ヒョク、ブルース・カーン、イ・ソヨン、イ・スンジュン、チェ・ギソプ

財テクで成功を収め、優雅な生活を送るウィガン (チャン・ヒョク)。妻から、友人と旅に行く間、友人の高校生の娘ユンジ(イ・ソヨン)の面倒を見てほしいと頼まれる。友人は家のリフォームにかかる3週間、娘を預けて済州島で過ごすという次第。ユンジを迎えに行くと、友人宅に泊まりに行くというので、お金を渡して別れる。解放されてやれやれと家でくつろぐウィガンだったが、夜中に「お腹が痛い」とユジンから呼び出される。勝手放題のユジンに振り回されるが、その後ユジンは人身売買の組織に拉致されてしまう・・・

ウィガンは今は引退しているけれど、かつて1秒の躊躇もなく迅速に敵を殺した伝説のキラー。預かった女子高生が拉致され、最強の暗殺者だった本能が目覚めるという次第。
スタイリッシュなアクション場面が展開しますが、あんなにあっという間に人を殺してしまうなんて! 窓ガラスを打ち破ったり、高いところからするりと下りたりと、チャン・ヒョク本人がこなしてます。
ソン・ヒョンジュが、射撃場の経営者役で出ていて、ばらばらに届いた機関銃の部品を、動画を見ながら組み立てる姿が可笑しいです。
また、チャ・テヒョンは、死体の始末をする特殊清掃人役。子どもに胸を張れるよう孤独死などを専門にしてきたのに、殺人の後始末をさせられるなんてと嘆きます。
現実離れしたアクションシーンにあっけにとられますが、それが映画の醍醐味!? (咲)


2022年/韓国/韓国語/シネスコ/5.1ch/95分/PG12
字幕翻訳:福留友子
配給:クロックワークス
公式サイト:https://klockworx-v.com/killer/
★2023年5月26日(金)シネマート新宿ほか全国ロードショー

posted by sakiko at 04:14| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年05月20日

ぼくたちの哲学教室(原題:Young Plato)

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監督:ナーサ・ニ・キアナン、デクラン・マッグラ
撮影:ナーサ・ニ・キアナン
音楽:デヴィッド・ポルトロック
出演:ケヴィン・マカリーヴィー、ジャン・マリー・リール

北アイルランド、ベルファストにはプロテスタント地区とカトリック地区を隔てる分離壁(通称:平和の壁)がある。その周辺では時折衝突が起こる。北アイルランドの宗派闘争の傷跡が街にも人の心にも残り、犯罪や自殺率の高い地域だ。地域の発展も遅れている。そのアードイン地区のホーリークロス男子小学校には、4歳から11歳までの子どもたちが通う。女子の通う小学校は別で、2001年にホーリークロス女子小学校の子どもたちが地元のロイヤリストに通学路で脅迫される事件が起き、世界中のニュースになった。
男子小学校のケヴィン校長は、激動の時代に自分の拳で生き延びてきた。今は副校長やほかの教師たちと共に地域の向上に全力を注いでいる。「やられたらやりかえせ」と父親に言われた生徒には「親も間違うこともある、自分の頭で考えてみよう」という。

エルヴィス・プレスリーの大ファンのケヴィン校長は、車にも校長室にもエルヴィスのフィギュアや写真を飾っています。とてもお茶目でキュートな校長先生です。かつての自分を反省し、自分の頭で考えるために「哲学」を主要科目にあげ、自ら担当しました。生徒たちが“感情をコントロールし、抵抗する力”を身につけられるのに役立つと信じ、根気強く話し合いをくりかえします。日々おきてしまう生徒たちの諍いの場では、どんな意見も大切とすくいあげ、どの子も自分の意見を言える場を作ります。「相手の意見を尊重して違いを知り、考える。互いに考えることで、自分が変わることもある」子どもも哲学者なのでした。
公立学校だからか、男女別なのが惜しいです。男女一緒に学べば、互いの違いも知り、話し合いがもっと深まるでしょうに。(白)


「哲学」というと、難しそうな気がします。
「同じものを観ても、人によって受け止め方が違う」
「人の意見に耳を傾けよう」
「絶対正しい意見はない」
ケヴィン校長がおっしゃることを聞けば、な~んだ、哲学って難しくないんだとホッとします。
物事を柔軟に考えて、人と衝突しない処世術を身に着けるために学ぶのが哲学でしょうか・・・  こんな先生に子どもたちが出会ってほしい! (咲)


2021年/アイルランド・イギリス・ベルギー・フランス合作/カラー/シネスコ/102分
配給:doodler
(C)Soilsiu Films, Aisling Productions, Clin d'oeil films, Zadig Pro
https://youngplato.jp/
★2023年5月27日(土)ユーロスペースほか全国順次ロードショー

posted by shiraishi at 08:20| Comment(0) | アイルランド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

波紋

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監督・脚本:荻上直子
撮影:山本英夫
音楽:井出博子
出演:筒井真理子(須藤依子)、光石研(須藤修)、磯村勇斗(須藤拓哉)、安藤玉恵(渡辺美佐江)、江口のり子(小笠原ひとみ)、平岩紙(伊藤節子)、ムロツヨシ、柄本明(門倉太郎)、木野花(水木)、キムラ緑子(橋本昌子)

須藤依子は夫が失踪した後も、パートをしながら義父を介護し、施設で看取りをした。心の支えになったのは、「緑命水」の力を信じる新興宗教。勉強会や奉仕活動に積極的に参加して、庭を整え心穏やかに暮らしていた。そんなときに夫が十数年ぶりに帰ってきた。しかも癌を患い、自宅で最後を過ごしたいという。拒否することもできず、ますます宗教に頼る依子の前に、九州で暮らしていた息子が恋人を伴って帰ってくる。初めて紹介される彼女は、すでに身重だった。

全編を通じて水のイメージが重なります。原発事故の後、飛ぶように売れるペットボトル、ホースから流れ続ける水、家の中には教団から買った「緑命水」の瓶や箱が大量に並び、ドラマが進むときにはタイトルの波紋の映像が広がります。最後に依子を濡らす雨…。
荻上直子監督のこれまでの作品とは違ったテイストの作品。かなりブラックで皮肉がきいて、そのうえユーモアも忘れていません。男性に居心地の悪いセリフもあり、そのシーンでは男性たちがそそくさといなくなってしまい、思わず吹き出しました。
筒井真理子さんはどの作品でも、毎回驚かせてくれますがここでも様々な表情を見せて、夫役の光石研さんのコメントは「女性は怖い」。ほかの女優さんたちも演技巧者ばかり揃って、磯村勇斗さんならずとも、男性はたじたじとなることでしょう。スーパーでキズモノを選んできてレジで「半額にしろ」と言う老人に柄本明さん、逞しく生きる清掃員の友人役、木野花さんも強く印象に残ります。どちらもちょっと先の自分かもしれません。
舞台挨拶で木野花さん、キムラ緑子さん、荻上監督が自分だったら「10数年も失踪した夫を家には入れない」ときっぱり言っていたのが可笑しかったです。筒井真理子さんは「理由が聞きたい」でした。笑わせながら、絶望の淵にあるとき、自分ならどうするか問いかける作品。(白)


*本誌の作品紹介記事で何を勘違いしたのか、夫が失踪して「半年」と書いていました。すみません。正しくはここにも書いたとおり「失踪して十数年」でした。失踪届後7年経ったら死亡届が出せるようです。

2022年/日本/カラー/シネスコ/120分
配給:ショウゲート
(C)2022 映画「波紋」フィルムパートナーズ
https://hamon-movie.com/
★2023年5月26日(金)より順次ロードショー
posted by shiraishi at 08:09| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ワイルド・スピード/ファイヤーブースト(原題:Fast X)

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監督:ルイ・ルテリエ
脚本:ジャスティン・リン、ダン・マゾー
撮影:スティーヴン・F・ウィンドン
音楽:ブライアン・タイラー
出演:ヴィン・ディーゼル(ドミニク・トレット)、ミシェル・ロドリゲス(レティ)、タイリース・ギブソン(ローマン)、クリス・“リュダクリス”・ブリッジス(テズ)、ジェイソン・モモア(ダンテ)、ナタリー・エマニュエル(ラムジー)、ジョーダナ・ブリュースター(ミア・トレット)、ジョン・シナ(ジェイコブ・トレット)、ジェイソン・ステイサム(デッカード・ショウ)、サン・カン(ハン)、ヘレン・ミレン(クイニー・ショウ)、シャーリーズ・セロン(サイファー)、ブリー・ラーソン(テス)

ドミニクはレティと息子ブライアンの3人で静かに暮らしていたが、彼らの前に未だかつてないほどの破壊的な敵が現れる。ダンテは昔ドミニクたちがブラジルで倒した麻薬王レイエスの息子。唯一の家族だった父と自分の未来を奪われた代償を払わせるため、復讐の炎を12年間燃やし続けていたのだった。ダンテの陰謀により散り散りに仲を引き裂かれる“ファミリー”たち。そしてドミニクが愛する全ての者を奪おうとするダンテが最後に向けた矛先は・・・果たしてファミリーの運命は⁈

シリーズ1作目の公開から22年も爆走を続け、ド派手なアクションでメガヒットシリーズへと成長した『ワイルド・スピード』最新作がついに完成。10作目となる本作では『トランスポーター』シリーズの実力派ルイ・ルテリエが初メガホンを取り、ドミニクをはじめとしたお馴染みの顔ぶれが再集結!
ぎりぎりに試写を拝見してきたばかりです。冒頭からアクションにつぐアクション。車も人も、まあこれでもかというほどつぎ込まれていて、一番のドル箱シリーズなのがよくわかります。主役級のスターが揃い、こんなにアクション満載ではクライマックスがどうなるのか、と観てる側なのに、はあはあします。これだけ資金を投入してもちゃんと回収できる算段があるのでしょう。同じ鑑賞料金なら、「できるだけ映画らしいお楽しみてんこ盛りのが観たい!」と思うのは自然ですよね。しゃくだけど観客の欲求をよくわかっている作品。(白)


2023年/アメリカ/カラー/シネスコ/141分
配給:東宝東和
(C)UNIVERSAL STUDIOS
https://wildspeed-official.jp/
★2023年5月19日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 07:58| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年05月14日

私のプリンス・エドワード(原題:金都/英題:My Prince Edward)

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監督・脚本:ノリス・ウォン
出演:ステフィー・タン(フォン)、ジュー・パクホン(エドワード)、バウ・ヘイジェン、ジン・カイジエ、イーマン・ラム、カーキ・サム

香港のプリンス・エドワード地区の金都商場(ゴールデンプラザ)では、結婚衣装をはじめ結婚に関するものが格安で揃えられる。このモール内のウェディングショップで働くフォンは、写真館のオーナーのエドワードと同棲中。結婚を口にするエドワードだったが、フォンには彼に話していない秘密があった。10年も前に中国大陸の男性と偽装結婚をしていて、その後の離婚手続きが済んでいないことがわかったのだった。フォンは、周りに祝福されてエドワードのプロポーズを受けざるを得ず、離婚の手続きと結婚の準備を同時に進める羽目になってしまった。

「新世代香港映画特集2023」の1本。『縁路はるばる』と共にアラサー女性の結婚にまつわるお話。アメリカでグリーン・カードを手に入れるための苦労やドタバタを描いたアメリカ映画は観たことがありますが、香港映画では初めて見た気がします。それにしても友人と一緒にお金のために偽装結婚して、10年も?相手の居場所が不明だったということもあるけれど、これまで困ることはなかったのかしらん。
あっさり「夫」に再会してから、いつチェックの厳しいエドワードにばれるか観ていてヒヤヒヤしました。フォンを「ベイビー」と呼ぶ彼は、愛情深そうに見えますが、自分の囲いの中から女性が出るのを嫌うタイプです。甘えたい女性にはいいかもしれませんが、過ぎれば「うざい」。母親も息子にべったりで、結婚したらもっと不自由になりそうなフォン。さて、どうします?
2人の結婚観のちがいだけでなく、ビザや移民に憧れる大陸の男性の心情も見せています。『縁路はるばる』主人公のカーキ・サムが写真館の従業員としてこちらにも出演していました。
ノリス・ウォン監督の初長編作品。2020年の香港電影金像奨で新鋭監督賞、音楽賞を受賞しました。(白)



プリンス・エドワードって、どこ?と思ったら、漢字で書けば「太子」。尖沙咀から、彌敦道(ネーザンロード)をまっすぐ行ったどん詰まりが太子で、ちょっと手前の左手のビルのショーウィンドウにウェディングドレスが並んでいたのを思い出しました。そこが、この映画の舞台の金都商場。
プリンス・エドワードの地名は、アメリカ女性ウォリス・シンプソンと結婚するために王位を放棄したエドワード8世にちなんだもの。そこを舞台に繰り広げられる本作、人は、愛のためなら何を諦めることができるか? 逆に、愛していても、これは譲れない・・・ そんなことを考えさせられる物語です。
フォンは、偽装結婚した大陸の夫との離婚手続きをするために、福建省の省都・福州に赴くのですが、ここでの言葉は広東語でも普通話でもない福建語。いろいろな言葉が飛び交います。大陸の夫は、香港のIDが欲しくてフォンと結婚したので、IDが取れれば即、離婚すると応じてくれますが、なかなかスムーズにはいきません。そんな折、大陸の夫の彼女が妊娠したことがわかり、未婚のまま産んだ子は無戸籍になってしまいます。こちらも、さて、どうする?です。
「結婚せずに済む女性は、デキる女とレズビアンだけだと思う?」というフォンの言葉も気になりました。ノリス・ウォン監督は、「結婚は幸せをもたらすか?」を、女性ならではの視線で本作を描いています。もちろん、答えはそれぞれ! 正解はありません。(咲)



2019年/香港/カラー/シネスコ/93分/5.1ch/映倫G
配給:活弁シネマ倶楽部
c2019 MY PRINCE EDWARD PRODUCTION LIMITED. All Rights Reserved.
https://enro.myprince.lespros.co.jp/#modal
★2023年5月19日(金)新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
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縁路はるばる(原題:緣路山旮旯 英題:Far Far Away)

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監督・脚本:アモス・ウィー
出演:出演:カーキ・サム(ハウ)、クリスタル・チョン(ファファ)、シシリア・ソー(エイリー)、レイチェル・リョン(ミーナ)、ハンナ・チャン(リサ)、ジェニファー・ユー(メラニー)

アプリの開発をしているハウは、同僚だった彼女と1ヶ月で別れてしまったが、その原因がわからずにいる。見た目は平凡で、自分から誘えない内気な性格のため、友人たちに世話を焼かれている始末。次々と5人の女性に出会ったが、なぜかみんな町中から離れた辺鄙なところに住んでいた。気のいいハウは、彼女たちを遠い家まで送っていく。

林立する高層ビルのイメージが強い香港ですが、交通機関を乗り継いだ先には驚くほどの自然の風景が広がっています。香港国際空港や香港ディズニーランドがあるのは、ランタオ島。ほかに大小260余りの島があります。
この映画の中に登場する女性たちは、家賃の高い都会から離れて郊外へ移ったり、親と同居だったりと理由はさまざま。ほんとうに端っこばかりに住んでいて、行ったことのない地名ばかりでした。あ、映画の舞台になったところも出てきましたので、香港映画を観続けてきた人は耳に止まるはず。ハウが開発したアプリがいちいち到着時間や、近辺の情報などを告げてくれるのがおかしいです。
ハウや彼女たちはアラサーで、仕事や結婚や人生を考える年頃。ハウが学生時代から憧れていたマドンナもいて、眼鏡で気の弱そうなところが「のび太君」に似ているハウが思いを告げられるのか、先が気になりますよ~。タイトルは「えんろ」と読み、もちろん「遠路はるばる」のもじりで、ハウと彼女たちの縁を結ぶ道筋でもあるわけです。ハウを演じたカーキ・サムは10代でドキュメンタリーを監督し、話題となった人だとか。俳優もすれば脚本も書き、プロデューサーもと多才です。(白)


2022年3月の第17回大阪アジアン映画祭の特集企画《Special Focus on Hong Kong 2022》で、『僻地へと向かう』のタイトルで海外初上映され、その後、東京外国語大学TUFS Cinemaで『縁路はるばる』のタイトルで、2023年1月9日に上映されました。2か月以上前の10月19日頃に告知され、250人の定員に申し込みが殺到し、一旦、募集フォームがクローズに。その後、500席フルに入れることにして再募集。なんとか申し込みできて、観ることができました。上映後には、東京外国語大学 倉田明子准教授の司会進行で、小栗宏太さん(東京外国語大学博士後期課程)が「香港ローカル映画の現在」のテーマで解説。香港では、2022年8月に公開され、本格的な映画俳優が出ていないにもかかわらず、異例の大ヒット。香港のローカルの要素が満載で、デートカルチャーを扱っていること、社会の変動を比喩的に描いていることなどが香港の人たちの心を掴んだのだろうとのこと。
アプリで目的地を入れて検索するときに、「鉄道を除外」するのは、デモの時、鉄道会社が警察に協力した節があることが背景にあるのではと。暗いニュースが多い香港で、あえて明るく描きながらも現実離れしないことにも気を使った内容。検閲が厳しく、制約のある中で、香港のローカル文化へのオマージュを込めて作られ、挿入歌の歌詞も物語とリンクしていることに言及されました。
この後、台北にいるアモス・ウィー監督とリモートで繋ぎ、リム・カーワイ氏との対談が行われました。原題『緣路山旮旯』は、広東語にこだわったタイトルで、日本にない漢字を使っていますが、台湾の人には読めるとのこと。最後に出てくる長州島は、監督自身が住んでいて、都会に行くのが大変だと実感している場所。
会場から、女性たちのキャラクターについて質問があり、すべてモデルになる知り合いがいて、その人たちのキャラを混ぜて作り上げているそうです。最初、7人の女性たちを考えていたけれど、7か所の僻地は多すぎると5か所にしたとのこと。

熱気溢れた会場で観た本作、モテそうにないハウが次々に美女と交際。送っていく先が、どの彼女の住む場所も僻地で、香港の郊外も大好きな私には、懐かしい場所もたくさん出てきて嬉しい1作でした。
最初の会社の同僚エイリーの家は、沙頭角という中国との国境近くの「辺境禁区」なので、さすがに行ったことはありませんが、そのすぐ近くの粉嶺(ファンリン)や、二人目の29歳のファファの住む夕日で有名な下白泥のすぐそばの流浮山(ラウファンサン)には、初めて香港に行った1979年に、当時勤めていた会社の香港支社の支社長に車で連れていってもらいました。国境の向こうに見える深圳には、まだ何もなかった時代です。
3番目のミーナの住むランタオ島の大澳は、水路沿いに家のあるひなびた町。ランタオ島に空港が出来て、今は船に乗らなくても行けるようになりましたが、それでも大澳は辺鄙な場所。ウォン・カーウァイ監督の『いますぐ抱きしめたい』(1988年)に出てきて、これは行ってみたい!と、まだ空港が出来る前に船とバスを乗り継いで行ったことがあります。その後、オダギリー・ジョー主演の『宵闇真珠』(2017年、監督:ジェニー・シュン クリストファー・ドイル)は全編大澳で撮影されています。
ハウが茶果嶺の祖父母のところで過ごした高校時代、皆のマドンナだったリサが住む梅子林(ライチラム)は、競馬場のある沙田からそれほど遠くないのに、山を越えていかなくてはならないところ。
そして、5人目のメラニーが住むのは、長州島からさらに船で行かなくてはならない橙碧邨(チャンビッチュン)というところ。1980年代に西洋人の金持ちがたくさん住んでいて、香港島の中環(セントラル)から直通フェリーがあったのに、それがなくなって、皆引っ越してしまってさびれた場所。地名は忘れていましたが、そういう場所があったのを聞いたことがありました。饅頭祭で有名な長州島には、一度だけ行ったことがありますが、小さな島でのどかなところでした。
かつて、香港の人たちと宴会をした時に、昼間、元朗近くの屏山に行ってきたと言ったら、「そんな遠く行ったことがない」と皆に言われたのを思い出しました。私にしてみれば、香港の中心部からバスや軽便鉄道で1時間もあれば行けるので、遠いと思えないのですが、やはり僻地のイメージなのですね。
この映画に出てきた場所も、どこも2時間以内で行けるところ。香港は、交通機関もいろいろあって面白いし、客家の囲い家の名残や、自然豊かな場所もあって、ほんとにワンダーランド。久しぶりに香港に行きたくなりました。(咲)




2021年/香港/カラー/シネスコ/96分/5.1ch/映倫G
配給:活弁シネマ倶楽部
c 2021 DOT 2 DOT CREATION LIMITED. All Rights Reserved.
https://enro.myprince.lespros.co.jp/#modal
★2023年5月19日(金)新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
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宇宙人のあいつ

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監督・脚本:飯塚健
撮影:相馬大輔
音楽:海田庄吾
主題歌:氣志團
出演:中村倫也(日出男)、日村勇紀(夢二)、伊藤沙莉(想乃)、柄本時生(詩文)、()、

真田家の家族になりますまして23年。土星時間では1 年の期限付きで地球人の生態を調査に来た宇宙人は、真田家の四兄妹の「次男・ 日出男」として暮らしている。兄弟の親代わりで女性とは無縁の長男・ 夢二、DV の彼氏から離れられない長女・想乃、昔いじめた同級生に仕返しされている三男・詩文。喧嘩も するが、いつも助け合う仲の良い兄弟たち。日出男は夢二に聞いてみた。
「兄ちゃん、家族って何?」
「自分よりも、大切なものがあるってこと」
ミッションをクリアして地球を離れなければならない日が近づいてきた。残された時間は、あと3日間。

家族のアルバムも記憶も操作・改ざんしてちゃっかり兄弟の一人になった 宇宙人。飯塚監督のオリジナル脚本は、ゆるくて温かく、わははと笑っていたら、涙が浮かんでくるよ うなドラマでした。宇宙との交信や、帰還するための宇宙船も「これ?」と思わず声が出てしまうシ ロモノです。しかしながら、なんだかいい気分になって映画館を出られます。ちょうどいい湯加減のお風呂に 入ったようでした。
どっちを向いても息苦しいこのごろです。たまには、こういう映画を楽しんで、日ごろ力が入って 凝ってしまっている肩やら、愚痴りたくなる心やら、のんびりさせてはいかがでしょうか。(白)


2023年/日本/カラー/117分
配給:ハピネットファントム・スタジオ
(C)映画「宇宙人のあいつ」製作委員会
https://happinet-phantom.com/uchujin/#modal

★2023年5月19日(金)より全国順次ロードショー
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2023年05月13日

ソフト/クワイエット  原題:soft&quiet

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© 2022 BLUMHOUSE PRODUCTIONS, LLC. All Rights Reserved.


監督・脚本:ベス・デ・アラウージョ(長編デビュー) 
出演:ステファニー・エステス、オリヴィア・ルッカルディ、エレノア・ピエンタ、メリッサ・パウロ、シシー・リー、ジョン・ビーバース

郊外の町で幼稚園の教師をしている金髪ですらりとしたエミリー。午後、仕事を終え、手作りのパイを持って森の中の教会に行く。白人至上主義の女性たちに声をかけ、「アーリア人団結をめざす娘たち」というグループの発会式を行うためだった。6人が集まり、和気あいあいと話がはずむ。
「コロンビアの女性が私をさしぬいて昇進した。白人への逆差別」というマージョリー。
「ユダヤ系の銀行に融資を断られた」と食料品店の店主キム。
「父が秘密結社KKK(クー・クラックス・クラン)の支部長だった」というジェシカ。
「白人が築いてきた繁栄を多民族が恩恵を受けている」「マスコミをユダヤから取り戻さないと」等々・・・ すっかり意気投合するが、彼女たちの会話を耳にした神父から「面倒は御免だ。出て行ってくれ」と言われる。「二次会は我が家で」とエミリーが誘い、途中でワインを取りにキムの店に寄る。そこへ閉店中と知らないアジア系の姉妹アンとリリーがやってくる。エミリーは、彼女たちと訳アリの仲。激しい口論になる。腹の虫が治まらないエミリーたちは、悪戯半分で姉妹の家の留守を狙って荒らしに行く。そこへ姉妹が帰ってきてしまう。それは、おぞましい結末を招いてしまう・・・

冒頭、幼稚園で息子を迎えに来た母親に「迷惑な清掃員のせいで息子さんが転びそうになった」と伝えるエミリー。清掃員の女性は、特に何かしたわけではないのに、肌の色が違うだけで、そんな風に言われてしまうのです。登場する白人女性たちの言葉の端々から、あまり教養があるとは思えません。押し入ったアジア系の姉妹の家は、家電なども整っていて、それを盗んで帰ろうとすることから、貧困層の白人なのも伺えます。ここまで極端に白人たちを描いた意図が気になりました。
ベス・デ・アラウージョ監督は、母親は中国系アメリカ人で、父親はブラジル出身。自身が経験してきたことも反映されているようです。
☆公式サイトにある監督メッセージをぜひお読みください。
https://soft-quiet.com/#director
思えば、私たちは、「他者」を見た目や、意見が違うだけで偏見を持ってしまうことがあると思います。そういったことへの戒めとも思える映画ですが、それにしても強烈! (咲)


2022年/アメリカ/英語/92分/16:9/5.1ch/G
日本語字幕:永井歌子
提供:ニューセレクト 配給:アルバトロス・フィルム
公式サイト:https://soft-quiet.com/
★2023年5月19日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開


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デスパレート・ラン(原題:The Desperate Hour)

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監督:フィリップ・ノイス
脚本:クリス・スパーリング
撮影:ジョン・ブローリー
音楽:フィル・アイズラー
出演:ナオミ・ワッツ(エイミー・カー)、コルトン・ゴボ(ノア)、シエラ・マルトビー(エイミー)

夫が交通事故で急死して以来、子ども2人と残されたエイミーは、寂しさを隠して母として一家を支えて働いている。長男のノアは高校生だが、不登校が続いている。長女のエミリーはまだ小学生だ。学校へ送り出した後、いつものランニングコースへと走り出す。走っている間に立て続けに電話が入る。エミリーから忘れ物をしたと連絡、急ぐうちに何本もの電話の情報から、ノアの高校で立てこもり事件が起きたとわかる。家にいるはずのノアが電話に出ず、不安なエイミーは電話を握りしめて走り続ける。公道から離れた森の中、頼りはスマホだけ。

監督はオーストラリアの『裸足の1500マイル』(2002)で知られるフィリップ・ノイス。脚本は、ライアン・レイノルズが生き埋めにされ脱出を試みる男を演じた『リミット』(2010)のクリス・スパーリング。スマホやパソコンを頼りに、愛する家族を探して救い出す、という設定の映画が何本も作られています。そのうち組み込まれたAIの協力で、事件を解決するドラマも生れそうです。
主演のナオミ・ワッツは全編ほぼ走り通し。観ているこちらまで、ハラハラドキドキしてしまいます。『ザ・リング』(02)、ショーン・ペン共演の『21グラム』(03)、『キング・コング』(05)あたりから日本にも存在が浸透してきたナオミ・ワッツも早や50代半ば、ティーンエイジャーの男の子2人の母でもあります。劇中、子どもの安否を確認できるまで、必死に電話をかけ続ける母親の心情に深く共感したことでしょう。人気ドラマ「デスパレートな妻たち」のタイトルで耳になじんだデスパレート=desperate は「絶望的な」とか「必死な」の意味です。(白)


2021年/アメリカ/カラー/84分
配給:イオンエンターテイメント
(C)2021 LAKEWOOD FILM LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
https://desperate-run.jp/
★2023年5月12日(金)ロードショー

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2023年05月07日

同じ下着を着るふたりの女  原題:같은 속옷을 입는 두 여자(同じ下着を着るふたりの女) 英題:The Apartment with Two Women

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監督・脚本:キム・セイン
出演:イム・ジホ、ヤン・マルボク、チョン・ボラム、ヤン・フンジュ

もうすぐ30歳になるイジョンは、母スギョンと団地で暮らしている。若くしてシングルマザーとなったスギョンは、娘に対していつも高圧的な態度だ。温和なイジョンは、そんな母に対して口では反発しないが、長年の恨みが募っていた。母に恋人ができて、部屋に入り浸り、再婚の話が進んでいるのも気に食わない。
そんなある日、買い物に行ったスーパーの駐車場でいつものように喧嘩になり、車から飛び出したイジョンを母スギョンが轢いてしまう。警察に「車が突然発信した」とスギョンは説明するが、イジョンは故意だったと、母を訴え、裁判を起こす。そんなイジョンにとって、最近入社してきた同僚のスヒの優しい気遣いが心の支えだった・・・

キム・セイン監督の長編デビュー作。韓国映画アカデミー卒業制作作品。昨年の釜山国際映画祭でワールドプレミア上映され、ニューカレンツ賞、観客賞など5冠に輝いています。
2022年、東京フィルメックスのコンペティション部門に出品された折に拝見。
母スギョンが、これでもかと暴力的な言葉を娘に浴びせ、演じた女優さん、凄い!と、ただただ感心しました。

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上映後、キム・セイン監督、イジョンの友人役チョン・ボラムさん、撮影監督のムン・ミョンファンさんが登壇。
「相手を完全に憎むことも愛することもできない関係を追求したいと考え、仲がいいわけでない母と娘を描くことにしました」と監督。
パワフルに物語を牽引する母親は一歩間違うと嫌な人。役者自身の魅力で嫌われそうなところを相殺してくれそうなヤン・マルボクさんを起用。一方、口数少ない娘イジョンには、目で多くを語れるイム・ジホさんを抜擢。
友人役チョン・ボラムさんは、「監督から『適切な優しさ』を持つ人物と言われ、イジョンの葛藤に共感しながらも、自分の人生を守るために距離を置く選択をした」と語りました。
このような登場人物の感情を手持ちカメラで捉えたと撮影監督。  

Q&Aの様子は、こちらでどうぞ!
韓国では、母スギョンのように感情を激しく表に出す女性が多いような気がします。逆に、胸に秘めて、不満を鬱積させるイジョンは、どちらかというと日本女性に多いタイプでしょうか・・・。
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1992年生まれのキム・セイン監督の今後の作品が楽しみです。(咲)



2021年/韓国/139分/韓国語/カラー/1.85:1/5.1ch/DCP
字幕翻訳:根本理恵 
配給:foggy
公式サイト:https://movie.foggycinema.com/onajishitagi/
★2023年5月13日(土)よりシアター・イメージフォーラムほかにて全国順次公開




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2023年05月05日

フリークスアウト(原題:Freaks Out)

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監督:ガブリエーレ・マイネッティ
脚本:二コラ・グアッリャノーネ、ガブリエーレ・マイネッティ
撮影:ミケーレ・ダッタナージオ
音楽:ミケーレ・ブラガ、ガブリエーレ・マイネッティ
出演:クラウディオ・サンタマリア

第二次世界大戦下のイタリア。ユダヤ人の団長イスラエルが率いるたった5人の小さなサーカス団「メッツァ・ピオッタ(100リラ硬貨の半分、の意)」の仲間たち、光と電気を操る少女マティルデ、アルビノの虫使いチェンチオ、多毛症の怪力男フルヴィオ、磁石人間の道化師マリオらは、その特殊な能力のせいで普通に暮らすことができず、まるで家族のように肩を寄せ合って暮らしてきた。
イタリアにもナチス・ドイツの影響が強まり、イスラエル団長はみんなをアメリカへ脱出させようとしたが突然姿を消してしまう。マティルデは団長を探し出そうと奔走し、フルヴィオら3人は仕事を求めてベルリン・サーカス団の門を叩く。ナチス・ドイツの思惑が絡んでいるとも知らず・・・

皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』(2015)で長編デビューしたガブリエーレ・マイネッティ監督。今回は『ファンタスティック・フォー』(2015)を思い出させる超能力・異能者が活躍する物語です。予算があったら、先にこちらを作りたかったのではと想像してしまいました。
特殊な能力を持って生まれたがゆえに排除され、蔑まれてきた者たちの家庭であったサーカス団は、戦火に追われて解散。バラバラになった彼らは受け入れてくれるところを探しますが、兵器として使おうと画策するナチスに狙われます。
先にあげた『ファンタスティック・フォー』でもなんでも戦争に役立てようとするのね、とため息が出ました。が、そうは簡単に問屋は卸しません(この言い回し古いかしら)。4人が自分の能力をフルに使って難局を脱する様に注目。ベルリン・サーカス団のフランツ団長が優秀な兄に劣等感を持つあまり、狂気に走ってしまったのも一面痛ましいです。だからって許したりしませんが。(白)


2021年/イタリア・ベルギー/カラー/シネスコ/141分
配給:クロックワークス
(C)2020 Goon Films S.r.l. - Lucky Red S.r.l. - Gapbusters S.A.
https://klockworx-v.com/freaksout/
★2023年5月12日(金)ロードショー

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劇場版 推しが武道館いってくれたら死ぬ

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監督:大谷健太郎
原作:平尾アウリ「推しが武道館いってくれたら死ぬ」
脚本:本山久美子
撮影:佐藤康祐
音楽:日向萌
主題歌:@onefive(ワンファイブ)
出演:松村沙友理(えりぴよ)、中村里帆(五十嵐れお)、MOMO(松山空音)、KANO(伯方眞妃)、SOYO(水守ゆめ莉)、GUMI(寺本優佳)、和田美羽(横田文)、伊礼姫奈(市井舞菜)、豊田裕大(基)、ジャンボたかお(くまさ)

岡山に住むえりぴよは、3年前まではただの地味なフリーターだった。ところが3年前の七夕まつりで地元・岡山のローカル地下アイドルの「ChamJam」に出会い、はじっこの”市井舞菜”に人生初のときめきを感じてしまった。舞菜を「推し」と決めて以来、収入は全て「推し活」に注ぎ込み、洋服など一枚も買わない。高校時代の赤いジャージーを引っ張り出し、そればかりを着ている。推し活仲間もできて、えりぴよがますますのめりこんでいる一方、舞菜はグループの中で自分の人気が伸びないことに悩んでいた。

控えめなアイドル舞菜に鼻血が出るほど入れあげる"えりぴよ"(これ以外名前がでてきません)、ライブに、握手会に、CDやグッズのお買い上げとできることは全部やっています。そこまではできなくとも共感する人は多いのではないでしょうか?えりぴよの他のファンたちの形態もいろいろで、性別年齢関係なく、横にもつながっています。好きな人を応援しているみんなは、生き生き楽しそうで、実生活と離れたところの「推し活」が充電になっているようです。恋愛とも似たところがありますが、所有欲がなければ傷ついたり、修羅場ったりはありません。
シネジャのスタッフは「推し」という言葉もないころから、似たようなことをやっていました(笑)。昔は「追っかけ」と言いました。追っかけ体質だから、長く好きなことが続けられるのかも。本誌を読むとよくわかります(と、なにげに宣伝)。
「推し活」は一人だけの「単推し」だけでなくグループ全体を応援する「箱推し」もあります。その中でも「●●寄り」と言ったりするようです。こういうのって、アイドルグループばかりでなく、宝塚や劇団、大衆演劇も一緒ですね。
「ChamJam」のメンバーには中村里帆、@onefive(ワンファイブ)のMOMO・KANO・SOYO・GUMI、和田美羽、伊礼姫奈。笑いと涙と青春が詰まった「推し活」エンターテインメント。「推し」がいると人生はより楽しくなります。(白)



2023年/日本/カラー/シネスコ/101分
配給:ポニーキャニオン
(C)平尾アウリ・徳間書店/「劇場版 推しが武道館いってくれたら死ぬ」製作委員会
https://oshibudo-movie.com/
★2023年5月12日(金)ロードショー
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2023年05月04日

TAR /ター(原題:Tar)

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監督・脚本:トッド・フィールド『イン・ザ・ベッドルーム』『リトル・チルドレン』 
撮影:フロリアン・ホーフマイスター
音楽:ヒドゥル・グドナドッティル 『ジョーカー』(アカデミー賞作曲賞受賞)
編集:モニカ・ヴィッリ 
出演:ケイト・ブランシェット『ブルー・ジャスミン』、
   ノエミ・メルラン『燃ゆる女の肖像』、
   ニーナ・ホス『東ベルリンから来た女』、
   ジュリアン・グローヴァ―『インディー・ジョーンズ/最後の聖戦』、
   マーク・ストロング『キングスマン』 

ベルリンフィル初の女性マエストロとなったリディア・ター(ケイト・ブランシェット)。輝かしい地位を獲得し、コンサートマスターで恋人のシャロン(ニーナ・ホス)、迎えた養女との3人の生活も充実している。天賦の才能とそれを支える努力、カリスマ性も備わったターは、まさに頂点を極めていた。しかし、かつて指導した若き指揮者の訃報が入ったのを機に、前途に不穏な影が差してくる。

トッド・フィールド監督がケイト・ブランシェットを念頭に書きあげた脚本です。本当にそういう人がいたのかと思うほど、見事に演じたケイト・ブランシェット。力強い指揮、ピアノ演奏もプロの指導のもとに特訓、全て自分でやりきったとのこと。颯爽としてカッコいいターが存在しています。
『ロード・オブ・ザ・リング』(2001)のガラドリエル様のイメージが重なりますが、指輪の誘惑に打ち勝ったエルフの女王とは違い、現代に生きるターは上り詰めた高みから落ちないように必死です。新作を生み出すこと、演奏するマーラーの交響曲第5番の仕上げに悩んでいます。ターの周りに配された女優たちも、それぞれ火花が散りそうな競演ぶりでした。ラストは想像の域を超えているとの評判です。私もえっと驚きましたが、それもありかと思い直したところ。劇場でお確かめください。(白)


2022年/アメリカ/カラー/シネスコ/5.1chデジタル/158分/字幕翻訳:石田泰子 
配給:ギャガ
(c)2022 FOCUS FEATURES LLC. 
https://gaga.ne.jp/TAR
★2023年5月12日(金)、TOHOシネマズ日比谷ほかにて全国公開!

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アルマゲドン・タイム ある日々の肖像(原題:Armageddon Time)

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監督・脚本:ジェームズ・グレイ
撮影:ダリウス・コンジ
出演:アン・ハサウェイ(母 エスター)、ジェレミー・ストロング(父 アーヴィング)、バンクス・レペタ(ポール)、ジェイリン・ウェッブ(ジョニー)、アンソニー・ホプキンス(祖父 アーロン)、ライアン・セル(兄 テッド)

レーガン政権が誕生した80年代のニューヨーク。ポールは公⽴学校に通う 12 歳。白人の中流家庭に生まれて何不自由なく育ってきた。母エスターはそこのPTA 会⻑を務めるほど教育熱⼼、⽗アーヴィングはまじめな働き者、兄のテッドは成績優秀で私立の学校へ通っている。母方の祖⽗アーロンは、ポールの良き理解者だった。
規律を重んじる学校生活はポールには息苦しく、クラスの問題児のジョニーとだけは打ち解けられた。ジョニーは黒人というだけで何かと差別をされ、自分とひき比べていろいろなことに気づいていくポール。2人の友情は、ポールが新しい学校に転校したことで変化していきます。

ジェームス・グレイ監督の子ども時代の体験を元に出来上がったストーリー。黒人に生まれたことで、これまで様々な体験をしてきたジョニーは、諦めることも知っていて大人びたところがあります。それに比べてポールは苦労がない分無邪気で、いたずらも些細なことと思っています。そのために騒動になってしまうのですが。
ジョニーとのことを祖父だけに打ち明けたポールは、「それは正しいことか」と問われます。世界は一つなのに、生まれ育ったところで差ができてしまう理不尽さ、人生の苦さにも気づいてしまいました。アーロンのようにどんな問いも受け止め、考えるすべを教えてくれる先達がいることは、なんと安心なことでしょう。これからの人生の羅針盤を得たようなものです。私もお爺ちゃんが大好きな子どもだったのを思い出しました。
第75回 カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品(2022年)。ジェームズ・グレイ監督作品はほかに『エヴァの告白』(13)『アド・アストラ』(19)(白)


2022年/アメリカ/カラー/シネスコ/115分
配給:パルコ ユニバーサル映画
(C)2022 Focus Features, LLC.
https://www.universalpictures.jp/micro/armageddon-time
★2023年5月12日(金)ロードショー

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銀河鉄道の父

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監督:成島出
原作:門井慶喜
脚本:坂口理子
撮影:相馬大輔
音楽:海田庄吾
主題歌:いきものがかり「STAR}
出演:役所広司(宮沢政次郎)、菅田将暉(宮沢賢治)、森七菜(宮沢トシ)、豊田裕大(宮沢清六)、坂井真紀(宮沢イチ)、田中泯(宮沢喜助)、池谷のぶえ、水澤紳吾、益岡徹

跡取りの賢治が生まれて大喜びの宮沢家。家業の質屋を継がせようと大事に育てた息子は、質屋を弱い者いじめだと嫌い、農業や人造宝石や宗教にのめりこむ。愛するが故にすっかり甘やかしてしまった両親は、思いつきをすぐに実行する息子に振り回されてばかり。
妹のトシが賢治の一番の理解者だった。聡明なトシは女学校の教師になり、夢見がちな賢治に物語を書くように勧める。結核に倒れた最愛の妹のため、賢治は次々と物語を生み出しトシを喜ばせたのだが。

若干37歳で亡くなってしまった宮沢賢治。帽子とコート姿で物思いにふけりながら歩く姿が浮かびます。門井慶喜氏同名の原作は、これまでのイメージとは大きく違う賢治を生き生きと描いて、第158回直木賞を受賞しています。主人公は賢治よりも、彼を愛し支え続けた家族のほうです。賢治がなぜあんなにも美しい物語を書きあげられたのか、その秘密がここにありました。今でいうなら、承認欲求を満たされて育ったのでしょう。溢れるほど愛情を注ぐ両親を役所広司さんと、坂井真紀さん。菅田将暉さんの少しはみ出した賢治を励まし続けるトシを森七菜さん。「あめゆじゅとてちてけんじゃ」の詩句を思い出しながら2人の別れに涙しました。不治の病と言われた結核で娘や息子に先立たれた両親の悲しみはいかばかりか。
何不自由なく育ちながら、家族の期待とは別の道に行ってしまうボンボンに、朝ドラの主人公(モデル) 牧野富太郎さんが重なります。牧野さんと違って、多くの称賛が届いたのは亡くなってから。日本中の子どもたちの教科書に載り、たくさんの人に今も愛され続けていることを天上から見ているでしょうか。(白)



宮沢賢治というと「雨ニモマケズ」がまず思い浮かびますが、異国情緒漂う物語もあって、東北の花巻で、どんな生い立ちだったのかと気になっていました。本作は、そんな宮沢賢治を育んだ家族、特に、父の物語。
王様のブランチのLiLiCoさんのインタビューの中で、お父さんを演じた役所広司さんが、資料の少ないお父さんをどう演じたかを尋ねられた時の答えに、なるほど!と唸りました。
【原作に、「お父さんは厳格そうにしているけど、本当は隙だらけだから心配だ」という一文があって、子どもたちに厳しい顔をしているけど、子どもたちは逆に心配してくれているんだなと。そこが政次郎さんの愛嬌だと思って、ここを誇張できればいいと思いましたね】
破天荒な息子に戸惑いながらも、あたたかく見守ったであろうお父さんを思い浮かべることができました。(咲)



2023年/日本/カラー/シネスコ/128分
配給:キノフィルムズ
(C)2022「銀河鉄道の父」製作委員会
https://ginga-movie.com/
★2023年5月5日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 12:37| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする