2023年02月25日

有り、触れた、未来

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監督・脚本:山本透
原案:齋藤幸男「生かされて生きる-震災を語り継ぐ-」
撮影:川島周
音楽:櫻井美希
出演:桜庭ななみ(佐々木愛実)、碧山さえ(里見結莉)、鶴丸愛莉(野上咲良)、松浦慎一郎(吉田光一)、宮澤佑(吉田悠二)、金澤美穂(吉田若菜)、岩田華怜(宮本祥子)、谷口翔太(丸岡哲)、舞木ひと美(大島蒼衣)、高品雄基(遠藤翔)、高橋努(須藤昇)、麻生久美子(瞳)、淵上泰史(市村隆司)、入江甚儀(若い医師)、萩原聖人(柴田トレーナー)、原日出子(安田朋絵)、 、仙道敦子(佐々木有美子)、杉本哲太(本堂真治)、手塚理美(里見文子)、北村有起哉(里見健昭)

恋人を事故で失った元バンドマンの愛実。10年をすぎて歌う気持ちになれた。
30歳を過ぎても、ボクシングを続けるプロボクサー光一と、その妻若菜。
末期癌と闘う有美子は、1分1秒でも長く生き、娘の結婚式へ出席したい、。
「魂の物語」を演じる若い舞台俳優たちは、将来に不安を感じながら活動を続けている。
家族を亡くした中学生の結莉は、生き残った自分の価値を見出せない。妻と息子を失った父親も生きる希望をなくして酒におぼれていた。そんな二人を懸命に支える祖母の文子。親友の咲良(さくら)や担任の吉田先生、たくさんの人々の想いを受けて、結莉の心は少しずつ変化し始めるー。

愛する人と自分の命に向き合わざるを得なくなった人たちの物語。それぞれのストーリーがゆるくつながり、再生に向かっていく様子を見せてくれます。
2011年の東日本大震災で、死傷者が最も多かった宮城県が舞台です。大切な人たちを失い、生きる力を無くした父と娘に誰が何を言えるでしょう。文子おばあちゃんは息子と孫に暖かい食事を作り、そばで見守ります。碧山さえさんと北村有起哉さんのシーンに涙しました。
たびたび襲ってくる災害、不慮の事故etc・・・ままならない人生です。特にコロナ以後、小中高生、若い女性の自死が増加しているそうで、痛ましくてなりません。人は生きてさえいれば、何度でも立ち上がれます。ゆっくりでいいから一人で抱え込まず、支えあって暮らしていくことができるよ、というメッセージを受け取った気がします。
青空に翻るたくさんの鯉のぼり。力強く太鼓をたたく子供たち、見守る大人たちもみんな笑顔です。忘れられないシーンになりました。(白)


2023年/日本/カラー/シネスコ/123分
配給:Atemo
(C)UNCHAIN10+1
https://arifuretamirai.wixsite.com/home
★2023年3月10日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 15:07| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

Winny

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監督:松本優作
原案:渡辺淳基
脚本:松本優作、岸建太朗
撮影:岸建太朗
音楽:Teje 田井千里
出演:東出昌大(金子勇)、三浦貴大(壇俊光)、吉岡秀隆(仙波敏郎)、渡辺いっけい(北村文哉)、吹越満(秋田真志)、吉田羊(金子勇の姉)

殺人に使われた包丁をつくった職人は逮捕されるのか——。
技術者の未来と権利を守るため、
権力やメディアと戦った男たちの真実の物語。

2002年、開発者・金子勇は、簡単にファイルを共有できる革新的なソフト「Winny」を開発、試用版を「2ちゃんねる」に公開する。彗星のごとく現れた「Winny」は、本人同士が直接データのやりとりができるシステムで、瞬く間にシェアを伸ばしていく。しかし、その裏で大量の映画やゲーム、音楽などが違法アップロードされ、ダウンロードする若者も続出、次第に社会問題へ発展していく。
次々に違法コピーした者たちが逮捕されていく中、開発者の金子も著作権法違反幇助の容疑をかけられ、2004年に逮捕されてしまう。サイバー犯罪に詳しい弁護士・壇俊光は、「開発者が逮捕されたら弁護します」と話していた矢先だった。金子氏逮捕の報道を受けて、急遽弁護を引き受けることになり、弁護団を結成。金子と共に裁判で警察の逮捕の不当性を主張するも、第一審では有罪判決を下されてしまう…。しかし、運命の糸が交差し、世界をも揺るがす事件へと発展する——。

上は公式HPにあるストーリーです。続く「なぜ、一人の天才開発者が日本の国家組織に潰されてしまったのか」は誰もが抱く疑問です。ほかの国では、いち早く新しい技術を開発し、発表した人は億万長者になっているのに。
逮捕された後に、金子氏が「あと2行足すだけでいいんです!」とプログラムの脆弱を補完したいと繰り返します。なぜそれができなかったのか?この事件で儲かったのは、損したのはどこなのか?誰なのか?と疑問が次々とわいてきます。
金子氏はただただ、プログラム開発が好きで珍しいほど無欲な人。東出昌大さんが好演しています。社会が全く追いついていなくて、世界のトップになれたはずの天才をサポートできませんでした。弁護団は長く彼を支えて共に闘いましたが、金子氏は手足をもぎとられた状態が続きました。失われた日々が返す返すも残念です。
漏洩した内部文書に繋がる証言をするのが、吉岡秀隆さん演じる実直な警察官。早くに内部を正そうと声を上げると脅しやいやがらせを受けます。力を得た人こそ、易きに流れないように自制してほしいのに。責任があるから高給取りなのでしょ?不正を隠蔽してきた似たような事件が思い出されます。
ITに明るい人以外、あまり一般には知られなかった顛末を映画でなぞることができました。不本意な人生となってしまった金子氏、その越しかたを知ることで、無念を思い悼む方がいるはず。それはおおいに意味のあることと思いました。(白)


映画の最後に、無罪を勝ち取った時の金子勇さんご本人の語る姿が映し出されます。
「悪用されることを考えると誰も開発できない」「保釈中、親しい人との連絡を禁止されたのが辛かった」という言葉が胸に刺さりました。7年かかった裁判が命を縮めることになってしまったのでしょうか。42歳の若さで心筋梗塞で亡くなられた金子勇さん。 国家は貴重な人材を潰してしまいました。
「2ちゃんねる Winny」で検索してみたら、無罪確定後に金子勇さんが参加したトークの動画が出てきました。「匿名性の高いものは、国によっては発信者を知られると逮捕の危険もある人たちに必要です」という言葉がありました。そこまで考えていらしたのかと! 匿名で利用できるからと悪用する人がいるのも事実で、残念ですが・・。
本作では、弁護団の方たちの言葉も心に残りました。
「警察が逮捕した裏の意図を知ることが必要。敵が尻尾を見せるまで待つんです」
尋問では、「嘘をついた人間に、嘘をつきましたと言わせること」
サイバー犯罪に詳しい弁護士・壇俊光さんを演じた三浦貴大さんや、証人尋問に長けた秋田真志弁護士を演じた吹越満さんも、熱演でした。(咲)


2023年/日本/カラー/シネスコ/127分
配給:KDDI、ナカチカ
(C)2023映画「Winny」製作委員会
https://winny-movie.com/
★2023年3月10日(金)ロードショー


posted by shiraishi at 14:53| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

マイヤ・イソラ 旅から生まれるデザイン (原題:Maija Isola Master of Colour and Form)

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監督・脚本・撮影:レーナ・キルペライネン
出演:マイヤ・イソラ、クリスティーナ・イソラ、エンマ・イソラ

フィンランド南部リーヒマキ、アロランミ。1927年、マイヤは農家の3人娘の末っ子として生まれた。13歳から家を出て一人暮らしとなり、厳しい戦時下を生き抜いた。45年、17歳年上の商業芸術家ゲオルグ・レアンデリン(ヨック)と結婚し、翌年19歳で娘クリスティーナを出産。ヨックとは共に暮らすこともなく離婚し、シングルマザーとなる。母に娘を預け、マイヤはヘルシンキの芸術大学へ進学。娘に手紙を送り続ける。
壺をデザインしたファブリックを大学のコンテストに出品すると、マリメッコの前身であるプリンテックス社を立ち上げたアルミ・ラティアの目に止まる。(マリメッコの創業は1951年)一つ所に長くとどまらず、旅するように自由に生きて多くのデザインと絵を残したマイヤ・イソラのドキュメンタリー。

マイヤ・イソラを知らなくても、マリメッコのアイコン、Unikko ウニッコ(ポピー)の赤い花は知っているでしょう。3度結婚して3度離婚した恋多き女性でもあった彼女は、38年間でマリメッコに500以上のデザインを提供しています。
強い印象を残す多彩なデザイン、アーカイブ写真と映像、家族に送った手紙や残された日記、娘のクリスティーナの証言などから、マイヤの創作や人生にせまります。
ところどころに挿入されるアニメーションと軽やかな音楽は、デザインの成り立ちも想像できる楽しさ。次々と登場する大胆なデザインのファブリックを見ていると、小さく凝り固まっていた心がほどけていくような気分になります。(白)


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レーナ・キルペライネン監督(写真上)は、アーカイブ資料や家族写真、娘の証言などを丁寧に紡いで、世界中を旅しながら、自由な心で仕事を続けたマイヤ・イソラの人生を描き出しています。監督は、「マイヤ・イソラがデザインしたカーテンが子供の頃から家にあって、マイヤ・イソラのファブリックは、私の人生の一部」と語っていて、それが本作製作の動機の一つでした。私も、マリメッコの花柄が大好きで、よく表参道のお店を覗いたものです。新しい家に引っ越した時に、ちょっと値段は高かったのですが思い切ってマリメッコでカーテンを新調しました。そんな次第で、ウニッコ(ポピー)のデザインを生み出したマイヤ・イソラに興味津々。自由を求めて、よく旅に出たマイヤですが、思いもかけず北アフリカと深い繋がりがあって、イスラーム文化圏に興味のある私にとって、マイヤ・イソラは一層身近に感じる人物になりました。
二人目の画家だった夫と一緒に、スペインからモロッコへ。アラブ人やベルベル人の文化に親しんでいます。1959年に3度目の結婚をしますが、1970年に離婚。その後、年下のエジプト人で舞台俳優のアハメドと恋に落ち、恋が作品にも影響。マルセイユからアルジェリアに船で渡り、楽園のようなところと気に入り長期滞在。気象学者のモハメドと出会います。「アラブの生活はシンプル。物事を難しく考えない人には打ってつけ」と手紙にしたためています。在留許可更新のため、3か月毎にパリに戻り、その間にマリメッコの仕事もこなし、絵の道具を買い込んで帰るという暮らし。モハメドとは破局し、その後、大学講師となったアハメドと再会しアメリカへ・・・と、 マイヤ・イソラの行動範囲はさらに広がりますが、最後は、フィンランドに戻り余生をおくっています。多くのファブリックデザインや絵を描きながら、3度の結婚、そしてアルジェリアやエジプトの男性と年齢差を越えた恋をしたマイヤ・イソラの人生、素敵すぎます。(咲)


2021年/フィンランド・ドイツ合作/カラー、モノクロ/ビスタ/100分
配給:シンカ、kinologue
後援:フィンランド大使館
(C)2021 Greenlit Productions and New Docs
https://maija-isola.kinologue.com/
★2023年3月3日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 14:51| Comment(0) | フィンランド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス(原題:Everything Everywhere All at Once)

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監督:脚本:ダニエル・クワン、ダニエル・シャイナート
撮影:ラーキン・サイプル
音楽:サン・ラックス
出演:ミシェル・ヨー(エヴリン・ワン)、ステファニー・スー(ジョイ・ワン/ジョブ・トゥパキ)、キー・ホイ・クァン(ウェイモンド・ワン)、ジェニー・スレイト(デビー)、ハリー・シャム・Jr.(チャド)、ジェームズ・ホン(ゴンゴン)、ジェイミー・リー・カーティス(ディアドラ・ボーベアドラ)

経営するコインランドリーの税金問題、父親の介護に反抗期の娘、優しいだけで頼りにならない夫と、盛りだくさんのトラブルを抱えたエヴリン。そんな中、夫に乗り移った“別の宇宙の夫”から、「全宇宙にカオスをもたらす強大な悪を倒せるのは君だけだ」と世界の命運を託される。まさかと驚くエヴリンだが、悪の手先に襲われマルチバースにジャンプ!
カンフーの達人の“別の宇宙のエヴリン”の力を得て、闘いに挑むのだが、なんと、巨悪の正体は娘のジョイだった…!

昨年公開の『ガンパウダー・ミルクシェイク』に続いてのミシェル姐さん出演作、今回は堂々の主演です。『スイス・アーミー・マン』の”二人のダニエル監督”の奇天烈なアイディア、「マルチバース×カンフー」→「異次元の自分とリンク」→「別の自分が持つ技能にアクセス可能」という設定。おまけにそれを発動するには「“最強の変な行動”が必要」→「バカバカしければバカバカしいほど、それがエネルギーとなり、ジャンプを速く確実に成功させる」という条件がつきます。
なにそれ?とおっしゃるでしょうが、「百聞は一見に如かず」です。これはぜひ大きな画面でご覧ください。昨年還暦を迎えたミシェル姐さん、元ミス・マレーシアの美しさも崩壊の変顔など、なんでもやってくれてます!
優しいけど頼りない旦那様役はお久しぶりのキー・ホイ・クァン、懐かしや。『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』『グーニーズ』など80年代の大人気の子役でした。宇宙から来た別のウェイモンドとして大活躍、助演男優賞を受賞しました。(白)


★第80回ゴールデングローブ賞(ミュージカル/コメディ)
 主演女優賞 ミショル・ヨー
 助演男優賞 キー・ホイ・クァン
★アカデミー賞 最多の10部門11ノミネート

2022年/アメリカ/カラー/シネスコ/139分
配給:ギャガ
(C)2022 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.
https://gaga.ne.jp/eeaao/
★2023年3月3日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
posted by shiraishi at 14:50| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

日の丸~寺山修司40年目の挑発~

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監督:佐井大紀
撮影:中村純 張山準 岩井謙 佐井大紀
イラスト制作:臼田ルリ
語り:堀井美香 喜入友浩
出演:高木史子、シュミット村木眞寿美、金子怜史、安藤紘平、今野勉

寺山修司が構成を手がけた1967年放送のTBSドキュメンタリー「日の丸」を現代によみがえらせたドキュメンタリー映画。
街ゆく人々に「日の丸の赤は何を意味していますか?」「あなたに外国人の友達はいますか?」「もし戦争になったらその人と戦えますか?」といった本質に迫る挑発的な内容のインタビューを敢行した同番組は、放送直後から抗議が殺到し閣議でも問題視されるなど大きな反響を呼んだ。

1967年の映像と同じ手法を今回も用い、道行く人々に「同じ質問」をぶつけた映像を足しています。寺山修司さんがこういう仕事もしていたんだ!と驚きでした。「日の丸と言ったら何を思い浮かべますか?」から始まる矢継ぎ早な質問は、普段聞かれることもない、自分で考えたこともありませんでした。それを口に出すのは戸惑います。
唐突な質問に、はにかみながらもなんとか答える人は、きっと帰宅して「今日ね、こんなこと聞かれた」と話しただろうとなんだか微笑ましくなります。当時の方々はあっさりシンプルに回答している感じがします。
現代はあきらかに胡散臭がられたり、なんでそんなことを答えなきゃいけないんだとか、そういうあなたは誰?とか逆に質問されたりしています。どうやって世に出てしまうのか、怖いですものね。マスクで表情が半分しか見えないのが惜しいです。
新旧の反応の違いが面白いのと、もし自分だったらなんと答えるだろうと考えてしまう映画。
一方、55年前の生活が垣間見られる映像を懐かしく観ました。昭和42年では、最近なら”気合入りのお洒落”に見える和服姿も多く、あのころは普通にお出かけ着だったんだなぁとか、あの建物は今はないなぁとか。そんな楽しみもありました。(白)


2022年製作/87分/G/日本
配給:KADOKAWA
(C)TBSテレビ
https://hinomaru-movie.com/
★2023年2月24日(金)全国公開中

posted by shiraishi at 14:48| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする