2023年02月18日

逆転のトライアングル(原題:Triangle of Sadness)

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監督・脚本:リューベン・オストルンド
撮影:フレドリック・ウェンツェル
出演:ハリス・ディキンソン(カール)、チャールビ・ディーン(ヤヤ)、ドリー・デ・レオン(アビゲイル)、ウディ・ハレルソン(船長)

モデルで人気インフルエンサーのヤヤと、男性モデルのカールは恋人同士。レストランの支払いで当然のようにカールに支払わせるヤヤに、カールは思わず文句を言ってしまった。落ち目のカールの何倍もの収入のあるヤヤもたまには、気遣ってほしいのだ。大喧嘩になっても、ヤヤが招待された豪華客船クルーズの旅にカールも同伴する。
そこで乗り合わせたのは、超のつくお金持ちばかり。アプリ開発で億万長者となった実業家、ロシアの新興財閥「オリガルヒ」、上品な老夫婦は世界中に武器を売って稼いだ武器商人だった。理不尽な乗客の要求にこたえるクルーたち、もちろん高額なチップを期待してのこと。アルコール依存症の船長が主催した豪華ディナーを楽しむ夕べに船が難破し、海賊に襲われてしまった。彼らは沈没した船から逃れ、無人島に流れ着く。

リューベン・オストルンド監督の『フレンチアルプスで起きたこと』は強烈に印象に残っています。人間があまり見せたくない内側の本音を白日のもとにさらけ出して、居心地の悪い思いをさせてくれます。自分が思っているほど善人ではないとか、小さい人間だとか認めるのは恥ずかしくて悔しいですもん。
この作品ではタイタニックのような豪華客船に乗り込んだ超セレブなお金持ちたちが、お金にあかせて贅沢三昧。そのまま豪華な船旅が続くと思いきや、大事件に遭遇します。無人島に着いてからが、監督の本領発揮。これまで頼っていたお金も地位も関係ない世界で、一番強かったのは誰あろう、船内では最下層トイレ清掃員のアビゲイルでした。彼女は非常用の水や食料を確保したうえ、海から獲物を捕り、調理しと、サバイバル能力ゼロのセレブたちのトップに君臨します。ブラックユーモア満載のこの作品、自分に置き換えてあなたは笑えるでしょうか?
無人島でなくとも、天災・人災に遭って平常の生活ができなくなったとき、どうやって生き延びたらと考えてみましょう。最初の犠牲者でいいや、と弱音を吐かず「最低限自分に何が必要か」書き出して準備しても損はありません。
清掃人のアビゲイルを演じたのはフィリピンの女優ドリー・デ・レオン。メンドーサ監督製作総指揮の『評決』(2019)で助演女優賞を受賞しているベテラン女優です。ヤヤを魅力たっぷりに演じたチャールビ・ディーンは、2022年に細菌性敗血症のために32歳で急逝しました。合掌。(白)


☆カンヌ国際映画祭パルムドール受賞

2022年/スウェーデン/カラー/シネスコ/147分
配給:ギャガ
Fredrik Wenzel (C) Plattform Produktion
https://gaga.ne.jp/triangle/
★2023年2月23日(祝・木)TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
posted by shiraishi at 13:29| Comment(0) | スウェーデン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ちひろさん

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監督:今泉力哉
原作:安田弘之
(秋田書店『秋田レディース・コミックス・デラックス』刊)
脚本:澤井香織、今泉力哉
撮影:岩永洋
音楽:岸田繁
主題歌:くるり
出演:有村架純(ちひろ)、豊嶋花(瀬尾久仁子)、嶋田鉄太(佐竹マコト)、 van(バジル)、若葉竜也(谷口)、佐久間由衣(ヒトミ)、長澤樹(宇部千夏)、市川実和子(もうひとりのちひろ)、根岸季衣(永井)、平田満(尾藤)、リリー・フランキー(内海)、風吹ジュン(多恵)

ちひろは風俗嬢をやめて、海辺の町のお弁当屋さんで働いている。元・風俗嬢だったことを隠すこともなく、明るくおおらかだ。風俗嬢と知って寄ってくるお客にも、子どもにも、ホームレスのおじいちゃんにも、誰にでも分け隔てなく接している。そんなちひろの周りには、吸い寄せられるように寂しい人が集まってくる。厳しい家庭の女子高生オカジ、働く母と二人暮らしの小学生マコト、父親との確執を抱える谷口…。彼らとごはんを食べて、笑ったり怒ったり、はっきりとものを言うちひろに力をもらって、誰もが前向きになっていく。

原作のコミックを途中まで読んでいます。9巻のうちまだ3巻。人気の原作です。有村架純さんは「いちず」「一生懸命」のイメージがありますが、こういうサバサバした人も似合うんですね。原作も監督も男性ですが、男女関わらずこういう人いたらいいな、と思う造形かなと思います。今泉監督の網の目はとても細かいんじゃないでしょうか。ほかでは取りこぼすような感情をすくってセリフや視線で見せてくれます。
ちひろは聖人君子ではないし、え?と思う行動もします。実は孤独も抱えていて、愚痴もこぼします。唯一愚痴をこぼせるのがショーパブの歌姫・バジル役のvanさん、映画初出演だそうです。長身でコミックの雰囲気がぴったりの美女です。
お弁当屋さんの主は平田満さん、その奥さん役が風吹ジュンさん。若いころからいろんな作品で観ている女優さんです。最近はお母さん役でよく見ますが年齢を重ねても可愛らしいのは変わりません。穏やかで包容力のあるまなざしを向けられるとホッと安心します。ちひろが年を重ねると風吹さんになりそう。(白)


こんなにたくさん寂しさを抱えた人たちが出てくるのに、観終わって、どこかほっこりあたたかい気持ちになれました。美味しい食事が、ひと時の幸せをもたらしてくれることも感じました。タケノコご飯や、いろいろオカズが詰め込んであるお弁当も美味しそうでしたが、何より、マコトの母親のつくる焼きそばの美味しそうなこと! 目玉焼きが乗って、脇には切込みの入ったウィンナー。一見、子育てを放棄したような若いママですが、愛情たっぷり。
いろいろなエピソードが散りばめられていましたが、リリー・フランキーさん演じる内海が語る眠っている金魚の話が面白かった! (咲)


2023年/日本/カラー/シネスコ/131分
配給:アスミック・エース
(C)2023 Asmik Ace, Inc. (C)安田弘之(秋田書店)2014
https://chihiro-san.asmik-ace.co.jp/
★2023年2月23日(祝・木)Netflixで配信。一部劇場で同日公開
posted by shiraishi at 13:00| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

少女は卒業しない

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監督・脚本:中川駿
原作:朝井リョウ「少女は卒業しない」集英社文庫刊
撮影:伊藤弘典
音楽:佐藤望
主題歌:みゆな「夢でも」(A.S.A.B)
出演:河合優実(山城まなみ)、小野莉奈(後藤由貴)、小宮山莉渚(神田杏子)、中井友望(作田詩織)、窪塚愛流(佐藤駿)、佐藤緋美(森崎剛士)、宇佐卓真(寺田賢介)、藤原季節(坂口優斗)

卒業式が2日後にせまった高校。これを最後に廃校になるのが決まっている。3年B組の4人の少女たちは、3年間学んだ校舎と友人たちに別れを告げなければならない。
まなみは料理部、部長。卒業生代表で答辞を読むことになっている。彼氏に伝えたいことがある。
由貴はバスケ部、部長。東京の大学へ進学する。地元で進学する彼とは離ればなれになる。
杏子は軽音部、部長。中学校から同じ森崎に片思い。
詩織はクラスに馴染めず図書室に通う。坂口先生に会うのが楽しみだった。

「あの頃、ここが世界のすべてだった」というキャッチに「ああ~そうだったかも」と、友達と部活で日が暮れていた遥か昔を思い出しました。原作は連作の短編が7つ。ほんとはあと3人分あるので、映画を観て気になった方は原作もどうぞ。
朝井リョウさんって男性だったよね、と確認してしまうほど、女子がわから書かれた原作。同じ年の男女だと、個人差はあるものの、女子のほうがやっぱり現実的でしっかりしているのは昔も今もいっしょ? 映画のセリフは、監督よりも現役高校生に近い俳優から出た言葉を、たくさん生かしているそうです(小宮山莉渚さんは現役高校生)。揺れ動く感情も、逆に頑固な思い込みも、どちらも「あるある」です。またキャストもみずみずしく雰囲気ぴったり。
初お披露目の昨年の東京国際映画祭では、映画と同じ制服姿の4人が登壇していました(アーカイブはこちら)。コロナのせいで卒業式ができなかった人も、ずっと前に済んでしまった人も、いろいろ感じながら観ることができる作品です。(白)


2023年/日本/カラー/シネスコ/120分
配給:クロックワークス
(C)朝井リョウ/集英社・2023 映画「少女は卒業しない」製作委員会
https://shoujo-sotsugyo.com/
★2023年2月23日(木・祝)シネマカリテ、渋谷シネクイント他全国公開
posted by shiraishi at 12:59| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

エンパイア・オブ・ライト (原題:Empire of Light)

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監督・脚本:サム・メンデス
撮影:ロジャー・ディーキンス
音楽:トレント・レズナー アティカス・ロス
出演:オリヴィア・コールマン(ヒラリー)、マイケル・ウォード(スティーヴン)、コリン・ファース(ドナルド・エリス)、トビー・ジョーンズ(ノーマン)、トム・ブルック(ネイル)、ターニャ・ムーディ(デリア)

1980年イギリス、静かな海辺の町マーゲイトにエンパイア劇場がある。マネージャーとして働くヒラリーは、かつて人間関係で傷ついて今も癒えてはいない。黒人青年のスティーヴンは、建築を学ぶはずが叶わずにスタッフとして働くことになった。明るくて好奇心旺盛な彼はすぐに同僚たちと打ち解け、ヒラリーも少しずつ心を開いていく。
大晦日の夜、一人屋上で新年を迎える予定だったヒラリーのところに、スティーヴンが加わった。前向きなスティーヴンと親しくなるにつれ、支配人との不毛な関係を断ち切る勇気がわいてくる。

サム・メンデス監督がコロナのロックダウン中に、自分の関わった映画と映画館について考えるうちに生まれた脚本。映画愛あふれる脚本に素晴らしいスタッフ、監督の脳内であて書きしていたというオリヴィア・コールマン、新鋭のマイケル・ウォード、名優コリン・ファースやトビー・ジョーンズといったキャストが集まりました。
ヒラリーは傷つきやすく、孤独な女性ですが、そんな彼女を映画館のスタッフたちは暖かく見守っています。若いスティーヴンも屈託なく彼女を受け入れ、彼女に学びます。映写室で映画のあれこれを技師に教わるシーンは、まるでもう一つの『ニュー・シネマ・パラダイス』。壁にはたくさんの名画名優の写真がありました。
初めて恋した少女のようにヒラリーが輝いていくのは、とてもほほえましいのですが、そう簡単には進みません。
失業率が高く、人種問題の暴動も勃発した時代が背景です。古く美しい劇場でささやかな人生の悲喜こもごもが語られています。静謐な撮影、情感に満ちた音楽に彩られたひとときをお楽しみください。(白)


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2022年/イギリス・アメリカ合作/カラー/シネスコ/115分
配給:ディズニー
(C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
https://www.searchlightpictures.jp/movies/empireoflight
★2023年2月23日(木・祝)ロードショー
posted by shiraishi at 12:57| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする