2023年02月12日
別れる決心 原題:헤어질 결심(別れる決心) 英題:Decision To Leave
監督:パク・チャヌク(『オールド・ボーイ』『渇き』『お嬢さん』)
脚本:チョン・ソギョン、パク・チャヌク
出演:パク・ヘイル、タン・ウェイ、イ・ジョンヒョン、コ・ギョンピョ
釜山の刑事ヘジュンは、イポ原子力発電所の技師である妻ジョンアンとは週末夫婦。史上最年少で警部になったヘジュンは実直な男だ。ある日、キ・ドスという男が岩山から転落死する。ヘジュンはザイルをかけ、岩山を登って現場を確かめる。ドスは出入国・外国人庁の元職員で退職後は民間面接官をしていた。年の離れた美しい中国人の妻ソン・ソレは、夫が死んだというのに冷静で、ヘジュンは不振に思って張り込みし、ソレの行動を監視する。ドスの爪からソレのDNAが見つかるが、夫が転落した時には、介護の仕事に就いていた。捜査するうちにヘジュンはソレに惹かれ、彼女もまたヘジュンに特別な感情を抱き始める。やがて、ドスが他殺ではないと決着し、ヘジュンはソレへの思いに終止符を打つため、妻のいるイポに転勤する。
月日が経ったある日、イポの市場で妻と魚を選んでいたとき、ソレが“次の旦那”と手を繋いで現れる。「これが私を疑った刑事さん」と紹介される。イポ原発事故のドラマが人気で、中国女性が押し寄せ、ソレは通訳ガイドとしてイポに引っ越して来たという。その後、投資アナリストをしているソレの夫が豪邸のプールで死んでいるのが発見される・・・
ヘジュンは、毎週末、妻のいるイポで夫としての務めを果たす律儀な男。それが、夫殺しの容疑者としてソレに接するうち、心を惹かれ、壊れていく様が静かに描かれています。ソレが「品のある刑事が私の担当でよかった」とつぶやくのですが、ヘジュンを演じたパク・ヘイル、まさに適役でした。
韓国語が不得手なソレは、スマホの翻訳アプリに中国語で激しく語ります。「あなたの心臓がほしい」と直訳されたのが、ほんとは「あなたの心がほしい」だったということも。便利なようで、誤解も招きかねないこともあって面白いです。
タン・ウェイ演じるソレは密航してきたのですが、祖父が朝鮮解放軍だったという誇り高き女性。アイスクリームの残ったスプーンを舐める姿は艶っぽく、ぞくっとする魅力があります。トニー・レオンと共演した『ラスト、コーション』(2007年/監督:アン・リー)を観て、パク・チャヌク監督はいつか起用したいと思っていたとのこと。
ヒョンビンと共演した韓国映画『レイトオータム』(2010年/監督:キム・テヨン)も印象深いです。
パク・チャヌク監督が、本作にもう一つ取り入れたいと思っていたのが、60年代後半に大ヒットした「霧」という 歌。実直な刑事が、夫を殺したのではないかと疑いながらも、ソレに惹かれていき、ソレもまた彼に惹かれていく様が、「霧」の歌と共に情感たっぷりに心に残りました。(咲)
2022年/韓国/シネマスコープ/138分
提供:ハピネットファントム・スタジオ、WOWOW
配給:ハピネットファントム・スタジオ
公式HP:https://happinet-phantom.com/wakare-movie/
★2023年2 月 17 日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
呪餐 悪魔の奴隷 原題:Pengabdi Setan 2: Communion 英題:Satan's Slaves:Communion
監督・脚本:ジョコ・アンワル
出演:タラ・バスロ、エンディ・アルフィアン、ネイサー・アヌズ、ブロント・パララエ
1955年4月17日。西ジャワ州レンバン。
車で連行される記者証を持つ男。着いた先には知人の少佐。建物の中をみてほしいという。墓から出された無数の遺体が並んでいる。誰の仕業かわからない。明日はアジアアフリカ会議が開かれる大事な日。警察は呼べない。都市伝説として世に伝えてくれと頼まれる。
1984年4月15日。ジャカルタ。
大学を中退し働くリニは、再び翌日から大学に通えることになる。一緒に暮らしている父や弟二人とは離れて暮らすことになる。
バスに乗り、町はずれの国営アパートに帰る。バスの中で見かけた新聞には「連続殺人鬼に注意」の大きな見出し。数年にわたり2000人も殺している殺人犯が捕まっていないのだ。
4月16日。大嵐到来の予報。
14階建てのアパートのエレベーターで落下事故が起こり、10人が犠牲になる。リニの父は重傷を負うが助かる。嵐が上陸し、アパートの1階が浸水してしまう。孤立してしまい、遺体の埋葬もできない。停電で暗い中、アパートの中を見回るリニたち。事務所で、毎年4月17日に撮影された写真を見つける・・・・
冒頭、建物の中に整然と並べられたたくさんの遺体に、まず度肝を抜かれました。いったい誰の仕業だったのか謎のまま、時は流れます。
本作は、1980 年代にイスラーム圏で最も恐いホラー映画として話題を集めたインドネシア映画『夜霧のジョギジョギモンスター』をリメイクし、2017 年インドネシア映画の観客動員数1位を記録(420 万人)した『悪魔の奴隷』の4 年後が舞台。母と祖母を亡くし、末弟のイアンも行方不明のままジャカルタの北部にある高層アパートに越してきたリ二とその家族の物語。『悪魔の奴隷』を観ていないのですが、本作だけでも充分理解できました。
「ラーイラーハイッラーッラー(アッラーの他に神はなし)」と唱えながら、白い布で亡くなった男性を包む光景に興味津々。暗い中、電灯を持って見回ると、クルアーンの一節を唱えながらご遺体のそばで悼む姿も。これは不気味といっては失礼になりますが、ちょっとぞくっとしてしまいます。
西ジャワ州レンバンってどこ?と地図で検索してみました。
1955年4月18日に第一回アジアアフリカ会議(通称バンドン会議)が開催されたバンドンのすぐ近くの高地でした。
冒頭で連れていかれた建物に見覚えがある・・・と思ったのですが、レンバンのボスカ天文台のようです。2018年のイスラーム映画祭3で上映された『イクロ クルアーンと星空』に出てきたものでした。バンドン工科大学のサルマン・モスクが作った映画です。
イスラーム映画祭『イクロ クルアーンと星空』突然の主演女優登壇にびっくりの巻(咲)
さて、おぞましい連続殺人事件は、どうやらラミノムというカルト教団と関係があることが明かされていきます。目に見える怖さよりも、人の心をあやつる教団の恐ろしさにぞくっとさせられました。インドネシアらしいムーディな音楽も心に沁みました。ホラー映画と怖がらずに、ぜひご覧ください。(咲)
2022年/インドネシア/インドネシア語/119分/シネスコ/5.1ch
字幕:藤本聡
配給:アルバトロス・フィルム
公式サイト:http://jusan-movie.jp/
★2023年2月17日(金)より、全国ロードショー
TOCKA タスカー
監督:鎌田 義孝
脚本:加瀬仁美、鎌田義孝
撮影:西村博光
出演:金子清文(谷川章二)、菜葉菜(本多早紀)、佐野弘樹(大久保幸人)、松浦祐也、川瀬陽太、足立正生
北海道、オホーツク海沿岸の街。ロシア人相手の中古電器店を営んでいる谷川章二は、経営に行き詰まり、妻子に去られ、生きる意欲をなくしていた。自殺では娘に保険金を残せないと、誰か自分を殺してくれないかと自殺サイトに投稿する。
本多早紀は夢破れて東京を引き上げ、ふるさとに戻ってきた。結婚するつもりだった相手とも別れて一人になったが、本当のことを母に打ち明けるつもりもない。
廃品回収会社に勤める大久保幸人は、詐欺まがいの仕事に嫌気もさしていたが、病気の母や妊娠中の妹のためにやめることもできない。収入のないときは、よその家から灯油を盗んで売ってのその日暮らしを続けている。
自殺サイトで知り合った章二と早紀が知り合い、深夜の空き地である作業中に不法投棄にやってきた幸人と鉢合わせしてしまった。
まだ生きたいと願う人の映画の後に、死にたいと思う人が主人公の作品紹介を書いています。何もかも無くしたと思ってもまだ命はあるのに。絶望すると”あるもの”に気づく余裕がなくなるんですね。世の中ままなりません。
オホーツク海沿岸は延々と道路が続き、人や車もまばらです。冬はいっそう寂しいのですが、都会に慣れた人の目には自然が豊かで雄大とも見えます。そんな風景の中で、詰んでしまった3人が出会い、保険金を残して死にたいという谷川章二の願いを果たそうとします。悲劇も過ぎれば滑稽さが見えてきて、ところどころ突っ込みたくなります。菜葉菜さん佐野弘樹さんが金子清文さんの闇を照らす光(?)になっていました。
章二の父役は昨年『REVOLUTION+1』が公開になった(3月11日より再上映)足立正生監督!どんな関わりでここに?
タイトルの「TOCKA(タスカー)」はロシア語で「憂鬱」「憂愁」「絶望」を意味し、その反意として「憧れ」「未だ見ぬものへの魂の探求」などの解釈がある、そうです。(白)
2022年/日本/カラー/119分
配給:鎌田フィルム
(C)2022 KAMADA FILM
https://tocka-movie.com/
★2023年2月18日(土)よりユーロスペースほか順次ロードショー
「生きる」大川小学校 津波裁判を闘った人たち
監督:寺田和弘
撮影:藤田和也 山口正芳
プロデューサー:松本裕子
主題歌:廣瀬奏「駆けて来てよ」
協力:大川小学校児童津波被災遺族原告団 吉岡和弘 齋藤雅弘
2011年3月11日に起こった東日本大震災で、宮城県石巻市の大川小学校は津波にのまれ、全校児童の7割に相当する74人の児童(うち4人は未だ行方不明)と10人の教職員が亡くなった。地震発生から津波が学校に到達するまで約51分、ラジオや行政防災無線で津波情報は学校側にも伝わりスクールバスも待機していた。にもかかわらず、この震災で大川小学校は唯一多数の犠牲者を出した。この惨事を引き起こした事実・理由を知りたいという親たちの切なる願いに対し、行政の対応には誠意が感じられず、その説明に嘘や隠ぺいがあると感じた親たちは真実を求め、石巻市と宮城県を被告にして国家賠償請求の裁判を提起した。彼らは、震災直後から、そして裁判が始まってからも記録を撮り続け、のべ10年にわたる映像が貴重な記録として残ることになっていく——
このニュースを聞いたときに、一番に浮かんだのは「どうして?」でした。待機などせずに、なぜ1分でも早く裏山に駆け上がらなかったの?と疑問がわきました。私でさえそうなのですから、子どもたちを亡くした親ごさんたちの想いは何倍も痛切であったはずです。
なぜ死ななければならなかったのか?あのとき何があったのか、本当のことが知りたい、と願う遺族の代理人を務めたのは吉岡和弘、齋藤雅弘の両弁護士。遺族の方々は話し合いの始まりから、映像を残していきます。子どもたちが裏山に逃げたとしたら、何分かかるのか。実際に駆け上がっては記録します。ひとつひとつ検証していく様子が目の前にあります。誰もが被災し大切な家族を失った中、訴訟を起こしたことで、「金目当てか」などあらぬ誹謗中傷も受けます。
仙台高裁で原告勝訴、その最高裁まで上告されましたが、却下。被害者に寄り添った判決は確定しました。原告団がのべ10年間の膨大な記録を残そうと、寺田和弘監督の撮影した映像も追加して、ドキュメンタリーとしてまとめられました。貴重な記録です。
親は学校を信頼し、子どもたちを送り出します。学校で子どもたちが傷ついたり、ましてや命を落とすなど思ってもみません。災害だけでなく、いじめや事故や事件など、学校でおきることのないよう学校は子どもたちを守ってください。先生方が疲弊しないよう、教育委員会や県や文科省は、子どもと先生と学校を支えてください。(白)
2022年/日本/カラー/シネスコ/124分
配給:きろくびと
(C)2022 PAO NETWORK INC.
https://ikiru-okawafilm.com/
★2023年2月18日(土)より新宿K’s cinemaほか全国順次公開
いつかの君にもわかること(原題:Nowhere Special)
監督・脚本:ウベルト・パゾリーニ
撮影:マリウス・パンドゥル
出演:ジェームズ・ノートン(ジョン)、ダニエル・ラモント(マイケル)、アイリーン・オヒギンズ(ショーナ)
33歳のジョンはシングルファーザー。窓拭き清掃員として働き、4歳の息子マイケルを育てている。ジョンには大きな気がかりがあった。不治の病のため余命はあとわずか。一人残されるマイケルを安心して託せる”新しい家族”をさがさなければならない。養子縁組の相談をして、何組もの候補を面会をするが、これと思う人に出会えない。ソーシャルワーカーのショーナは、そんなジョンとマイケルのために献身的に寄り添う。
忘れられない傑作『おみおくりの作法』(2013)のウベルト・パゾリーニ監督の最新作。『おみおくりの作法』は日本でも阿部サダヲ主演で『アイ・アム まきもと』としてリメイク、昨年9月に公開されています。パゾリーニ監督は原作&エグゼクティブプロデューサーとして名を連ねています。
今度の作品は、幼い息子マイケルと父親ジョンのストーリー。ジョンは残り少なくなる時間に追われながら新しい家族を探すものの、どの家族も”帯に短したすきに長し”で次第に焦ってきます。つい周りにあたってしまう自分も許せません。
映画初出演のダニエル・ラモント演じるこのマイケルくんが実に可愛くて、こちらまで「良い人に会えますように」と彼の幸せを願ってしまいます。父役のジェームズ・ノートンは撮影前から彼と過ごして、ほんとの親子のような信頼関係を築いたのだとか。
何組もの親候補の中から、あなたなら誰に託しますか? 私はジョンの選択と同じでした。(白)
オフでも仲良しの2人
2020年/イタリア・ルーマニア・イギリス合作/カラー/95分
配給:キノフィルムズ
(C)2020 picomedia srl digital cube srl nowhere special limited rai cinema spa red wave films uk limited avanpost srl.
https://kinofilms.jp/movies/nowhere-special/
★2023年2月17日(金)YEBISU GARDEN CINEMA他にて公開