2023年02月26日
丘の上の本屋さん 原題: II diritto alla felicità
監督・脚本:クラウディオ・ロッシ・マッシミ
出演:レモ・ジローネ、コッラード・フォルトゥーナ、ディディー・ローレンツ・チュンブ、モーニ・オヴァディア
石畳の美しい丘の上にある小さな村。山々を見晴らす広場で小さな古書店を営むリベロ。隣のカフェで働くニコラは、毎朝、店開きを手伝いコーヒーを差し入れる。そんなニコラが思いを寄せたのは、女主人に頼まれてフォトコミックを探しに来た家政婦のキアラ。
移民労働者のボジャンが、いつものようにゴミ箱から拾った本を売りに来る。その中に、古い日記帳があった。そっと開いて読み始めると、1957年に若い家政婦の女性が書いた日記だった。
ある日、店先の本を眺めている少年にリベロは声をかける。ブルキナファソから来て6年になり、イタリア語の読み書きは出来るというエシエン。本を買うお金はないと立ち去ろうとするエシエンに、「読み終わったら返しにくればいい」と1冊選ぶように促すリベロ。「ミッキーマウス」のコミッ クを選んで嬉しそうに走り去るエシエン。翌日返しにきては、また借りて帰る日々。ついにある日、リベロは「マンガは卒業。次はこれを」と児童図書「ピノッキオの 冒険」を差し出す。翌日、早速返しに来たエシエンに感想を聞き、違う見方も出来ると語り合うリベロ。「イソッ プ物語」「星の王子さま」「白鯨」と読むべき本を手渡すリベロ。さらには、医者になりたいというエシアンにアフリカで人々を助けたシュヴァイツァー博士の伝記を薦める・・・
古書店のリベロ(自由)という名の初老の店主と、本が大好きな移民の少年エシアンとの本を通じての心温まる交流を軸に、店を訪れる様々な人間模様を描いた物語。
初版本にこだわる収集家、自分の著書を探しに来る教授、SM本を友達のために探しているという女性、発禁本を借りに来る神父・・・ リベロは、「発禁本の普及は本屋の務め」と語ります。神父も「何がよくて何が悪いかを国家が決めたがる。もちろん教会もだけど」と返します。発禁本のコーナーには、「デカメロン」「君主論」「種の期限」「ボヴァリー夫人」「怒りの葡萄」などが並んでいて、本屋にやってきた男との会話の中で「アルメニア人虐殺を公然と非難して国を追い出された詩人」と、トルコのナーズム・ヒクメットの詩集もあるのがわかりました。
「何を読んでもいいの?」と問うエシアンに、「食べ物と同じで、自分で読んでみないと好きか嫌いかわからない」とリベロは答えます。「読んではいけない」と言われた本には、逆に読むべきものがあるようにも思います。
小さい頃から、両親がたくさん本を買ってくれて、さらに図書館でも借りて読むほど本が大好きだったのに、いつの頃からか本が読み進めなくなりました。それでも、かつて読んだ本から学んだことはたくさんあるはず。今の子どもたちに、スマホやタブレットばかり見ないで、本もたくさん読んでほしいと願います。(咲)
私は漫画で早くから文字を覚えたと親から聞きました。本を読んでいるとおとなしく満足していたようです。それは今も変わりません。講談社の少女雑誌「なかよし」の表紙や愛読した漫画を思い出します。
映画では、アフリカ西部(ブルキナファソはこちら)からやってきたエシエンが最初に漫画を手にとり、リベロの好意でだんだんと文字の多い本を読めるようになります。なんといい人に巡り合ったのでしょう!「白鯨」を渡したのがずいぶん早くてびっくり。「マンガは卒業」とリベロが言いますが「日本の漫画は卒業できません」と内心で反駁(笑)。
リベロの古書店は、在庫数はそんなに多くありませんが、品揃えが変化に富んでいて、背表紙が全部読めたらといいなと思ってしまいました。丘の上からの景色は美しいし、お隣がカフェという立地もいい。行きたい街がもう一つ増えました。
原題の「II diritto alla felicità」とは「幸福への権利」という意味だそうです。それは最後にリベロがエシエンに贈った本につながります。(白)
イタリア・ユニセフ共同製作作品
2021年/イタリア/イタリア語/84分/カラー/2.35 : 1/5.1ch
配給:ミモザフィルムズ
公式サイト:http://mimosafilms.com/honya/
★2023年3月3日(金)より新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
エッフェル塔〜創造者の愛〜 原題:EIFFEL
監督:マルタン・ブルブロン
原案:カロリーヌ・ボングラン
脚本:カロリーヌ・ボングラン、トマ・ビデガン、マルタン・ブルブロン、ナタリー・カルテ、マルタン・ブロスレ
出演:ロマン・デュリス、エマ・マッキー、ピエール・ドゥラドンシャン、アレクサンドル・スタイガー、アルマンド・ブーランジェ、ブルーノ・ラファエリ
花のパリのシンボル、エッフェル塔完成に秘められた壮大な愛の物語
1886年9月、フランス。 3年後に開催される「パリ万国博覧会」のシンボルとなるモニュメントのコンクールを控え、誰が何を作るかの話題で沸いていた。アメリカの自由の女神像制作に協力し、名声を得ていた建築家ギュスターヴ・エッフェル(ロマン・デュリス)は、パーティーの席で大臣から「戦争に敗れた今、自由の女神のようなシンボルが必要だ」とコンクールへの参加を要請されるが、興味がないと答える。その場にいた友人で記者のアントワーヌ・ド・レスタック(ピエール・ドゥラドン シャン)の妻・アドリエンヌ(エマ・マッキー)から、「大臣と同感です。あなたの野心作をぜひ見てみたい」と言われたエッフェルは、突然「ブルジョアも労働者も皆が楽しめる300mの鉄塔を造る」と宣言する。
関心のなかったコンクールへの参加を急に決意したのには、ワケがあった。 今は友人の妻となっているアドリエンヌとは、恋仲だったことがあるのだ。1860年、ボルドーで鉄橋建設の指揮をとるために滞在した折に知り合ったのが、地元有力者の娘であるアドリエンヌだった。労働者階級と上流階級という身分の違いを越えて、結婚も誓い合う仲になったが、結局別れざるをえなかったのだ。コンクールで勝利を得たエッフェルは、かつてのアドリエンヌへの熱い思いを胸に、鉄塔の建設に取りかかる。だが、倒壊を恐れる周辺住民からの苦情や、バチカン教皇から「ノートルダム大聖堂より高いのは侮辱」、芸術家たちからは醜悪だとの抗議文が届き、早くも建設事業は暗礁に乗り上げる・・・
色々な困難を乗り越えながら、パリの街に鉄塔が少しずつ高く伸びていく様を見守りました。今や、パリになくてはならないエッフェル塔ですが、建設当時には、反対もあったことを知りました。
私の都内別宅は、スカイツリーから500mのところにあります。建設前に「近くに放送用の鉄塔が建設されることについて、どう思いますか?」のアンケートが来たのを思い出しました。 忘れたころに、ある日、駅を降りたら、鉄塔が見える高さにまで伸びていて驚き、その日以降、徐々に高くなっていくのを見守ったのでした。
本作は、エッフェル塔の建設を背景にした壮大なラブストーリー。
実は、建築家ギュスターヴ・エッフェルの私生活については、はっきりとした記録はないとのこと。
監督たちが調査して判明したのは下記の史実。
・ボルドーのサン・ジャン橋建設に従事していた当時28歳のエッフェルが、18歳のアドリエンヌと恋に落ち、結婚が発表されたが、アドリエンヌの両親によって取り消された。
・1889年パリ万国博覧会に向けて、エッフェルのエンジニアチームが提案してきた鉄塔プロジェクトを引き受けることをかたくなに拒んだ。それにも関わらず、急に考えを変え、300メートルの鉄塔建設を請け負う。自身の資産を抵当に入れてまで。
映画の冒頭に、「史実をもとに自由に作った」と掲げられています。
ロマン・デュリスが、建築にも恋にも熱い思いをかけたであろうエッフェルを演じて、監督たち製作陣が思い描いた建築家の人生を際立たせています。
フランス映画祭2022 横浜のオープニング作品として『EIFFEL(原題)』のタイトルで上映され、マルタン・ブルブロン監督とロマン・デュリスが来日。 オープニングセレモニーのあと、横浜みなとみらいホールだけでなく、近くのパシフィコ横浜 国際交流ゾーン プラザ広場に設置されたドライブインシアターでも上映され、舞台挨拶が行われました。
フランス映画祭 祝! 30回! 3年ぶりにゲストを迎えた盛大なオープニング
(左:ロマン・デュリス 右:マルタン・ブルブロン監督 撮影:景山咲子)
「エッフェル塔や世界中の橋を作り、カリスマ的な人物だけど、監督から自由に演じていいよ、人間的な部分も出していいよと言われました」とロマン・デュリスが語ったとおり、自由にギュスターヴ・エッフェルの人物像に迫った作品をどうぞお楽しみください。(咲)
2021 年/フランス・ドイツ・ベルギー/フランス語/108 分/カラー/5.1ch/ドルビーデジタル/シネスコ/R15
字幕翻訳:橋本裕充
提供:木下グループ
配給:キノフィルムズ
公式サイト:https://eiffel-movie.jp/
★2023 年3 月 3 日(金)新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
オマージュ 原題:오마주 英題:Hommage
2023年3/10(金)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館他全国順次公開!
劇場情報
映画を愛するすべての人へ。かつて輝きながら消えていったすべての者たちへ
監督・脚本:シン・スウォン『マドンナ』
撮影:ユン・ジウン
出演
ジワン:イ・ジョンウン『パラサイト 半地下の家族』
サンウ:クォン・ヘヒョ『あなたの顔の前に』
ポラム:タン・ジュンサン『愛の不時着』
失われたフィルムをめぐって、夢と現実、現在と過去、映画と人生が交錯する
かつて何作か映画を撮ったものの、ヒット作に恵まれず、新作を撮る目処が立たない映画監督のジワン。監督としてのキャリアも母親としても中途半端で、息子からも「母さんの映画つまんない」と酷評される。夫とも生活費の折半などでいがみ合っている。
そのジワンがバイトで引き受けたのは、60年代に活動した韓国の女性監督、ホン・ジェウォンが製作した映画『女判事』(1962)。これは韓国初の女性判事が毒殺された実話を映画化したものだったが、その欠落した音声を修復するというプロジェクト。作業を進めるうちフィルムの一部が検閲でカットされていることに気づいたジワンは、ホン監督の家族や関係者のもとを訪ねながら真相を探っていく。
現在と過去、その狭間を行きつ戻りつしながら、ホン・ジェォン監督のフィルムの修復をする過程で、ホン・ジェウォン監督始め韓国映画界での女性監督の立場、編集などを担った女性映画人の人生があぶりだされ、ジワンはフィルムの修復とともに、自分自身の人生も見つめ直し、新しい一歩を踏み出していく。
映画のタイトルが示すとおり、これまで生み出されてきたすべての映画や、それに携わってきた人びとへの“オマージュ”が示される感動作。
主人公ジワンを演じるのは、『パラサイト 半地下の家族』(2019)で怪しい家政婦役を演じていた名バイプレイヤーのイ・ジョンウン。今回単独初主演でアジア太平洋映画賞最優秀演技賞を受賞。夫を演じるのは、TVドラマ「冬のソナタ」や『あなたの顔の前に』(2021)をはじめホン・サンス監督作品の常連としても知られるクォン・ヘヒョ。息子役にはドラマ『愛の不時着』(2019)のタン・ジュンサン。韓国映画、ドラマファンにお馴染みの実力派俳優が集結した。
監督は『マドンナ』(2014)、『ガラスの庭園』(2017)のシン・スウォン。悩みながらも映画を撮ることを諦めないジワンに自身を投影させ、女性たちが時を超えて手をつなぎ、連帯する物語に昇華させた。
2021年の東京国際映画祭で一番印象に残ったのがこの作品。2010年東京国際映画祭最優秀アジア映画賞に輝いた『虹』のシン・スウォン監督の新作で、映画愛に満ちた、映画へのオマージュである。さりげないセリフの中にユーモアがあったり、先輩監督の苦悩の中に韓国だけでなく世界中の女性監督が映画を続ける上での苦難を表現していたり、欠落したフィルムがみつかるシーンの意外性も素晴らしく感動的な作品だった。
欠落したフィルムには女性(判事?)がタバコを吸うシーンが写っていたけど、当時は女性がタバコを吸うシーンでさえ、検閲に引っかかっていたのだろうか。2021年の東京国際映画祭でグランプリをとった『ヴェラは海の夢を見る』では、主人公のヴェラという女性がなにかというとタバコを吸っていて、この主人公タバコ吸いすぎと気になった。
70年代のウーマンリブの人たちは、日本でもわざとタバコを吸う人たちがいた。「女がタバコを吸うなんて」ということに対する抗いのためだった。韓国でもそういうこともあって、ホン・ジェウォン監督は『女判事』で女性がタバコを吸うシーンを入れたのかもと思った。その気持ちはわかるけど、私自身は嫌煙権を主張したい方なので、女性・男性に限らず、映画の中でタバコを吸うシーンが多いのは好きじゃない。
ホームコメディかと思うような冒頭のシーンからは、こういうシリアスなテーマを扱う作品とは全然思わなかった。ミステリアスだったり、厳しい現実も描いていて、映画の作りがとてもうまいと思った。そして、優しさにあふれていた。
シン・スウォン監督は「当時の非常に保守的な環境の中、自分自身や他人からの視線と闘いながら生き残ってきた女性監督たちの姿が、自分自身の苦悩と重なる思いがあったから、いつかこれをモチーフにした映画を撮りたいと思っていた」と語っている(暁)。
東京国際映画祭で観ることができなかったので、待ちに待った公開です。今でこそ、韓国映画界でも女性の活躍が目覚ましいですが、60年代の韓国での女性映画人の置かれた厳しい状況のわかる作品です。
シン・スウォン監督は、2011年、韓国初の女性映画監督パク・ナモクと2人目のホン・ウノンについてのテレビドキュメンタリーを撮っています。『オマージュ』の中で、パク・ナモク監督が、子どもを背負って『未亡人』を撮影していたことに言及されています。
本作で取り上げられている60年代に活動した韓国で二人目の女性監督ホン・ジェウォンは、3本製作しているのですが、3本ともフィルムが紛失。『女判事』(1962)のフィルムがやっと見つかり、修復することがメインの話になっています。欠落した部分が見つかり、切られたフィルムには、女性が煙草を吸っている場面が映っていました。そのほかにどんな部分が検閲に引っかかったのでしょう。
編集技師の女性が、「女が編集室に入ると縁起が悪いと塩をまかれた」と語る場面がありました。60年代の日本も、同じような男尊女卑の状況だったのではないかと思います。
その編集技師の女性を含め3人の女性が映っている写真を頼りに、かつて明洞茶房があった乙支路(ウルチロ)ビルを訪ねる場面があります。そこで一人で囲碁をしていた男性は、かつて映画監督だった人物。その男性のところに、コーヒーと卵が運ばれてきます。てっきり、モーニングサービスのゆで卵と思ったら、その卵をコーヒーに入れて飲むのです。調べてみたら、コーヒーに生卵の黄身を落として飲む、韓国流モーニングコーヒー(韓国語で「モニンコッピ」)で、70~80年代によく飲まれたのだそうです。
本作では、主人公ジワンが自立しようと、家庭内別居すると宣言します。それを聞いた息子、「3食つくから入隊する!」というところが、いかにもの韓国事情。 ジワンは家事から解放されて、生き生きと映画の修復に臨むのですが、息子から「お父さんが夢見る女といると寂しいって。監督やめて」と言われてしまいます。 韓国では、女性の非婚率が増えているとか。さもありなんです。(咲)
公式サイトはこちら
2021年|韓国映画|韓国語|108分|5.1ch|シネスコ|字幕翻訳:江波智子
提供:ニューセレクト 配給:アルバトロス・フィルム
劇場情報
映画を愛するすべての人へ。かつて輝きながら消えていったすべての者たちへ
監督・脚本:シン・スウォン『マドンナ』
撮影:ユン・ジウン
出演
ジワン:イ・ジョンウン『パラサイト 半地下の家族』
サンウ:クォン・ヘヒョ『あなたの顔の前に』
ポラム:タン・ジュンサン『愛の不時着』
失われたフィルムをめぐって、夢と現実、現在と過去、映画と人生が交錯する
かつて何作か映画を撮ったものの、ヒット作に恵まれず、新作を撮る目処が立たない映画監督のジワン。監督としてのキャリアも母親としても中途半端で、息子からも「母さんの映画つまんない」と酷評される。夫とも生活費の折半などでいがみ合っている。
そのジワンがバイトで引き受けたのは、60年代に活動した韓国の女性監督、ホン・ジェウォンが製作した映画『女判事』(1962)。これは韓国初の女性判事が毒殺された実話を映画化したものだったが、その欠落した音声を修復するというプロジェクト。作業を進めるうちフィルムの一部が検閲でカットされていることに気づいたジワンは、ホン監督の家族や関係者のもとを訪ねながら真相を探っていく。
現在と過去、その狭間を行きつ戻りつしながら、ホン・ジェォン監督のフィルムの修復をする過程で、ホン・ジェウォン監督始め韓国映画界での女性監督の立場、編集などを担った女性映画人の人生があぶりだされ、ジワンはフィルムの修復とともに、自分自身の人生も見つめ直し、新しい一歩を踏み出していく。
映画のタイトルが示すとおり、これまで生み出されてきたすべての映画や、それに携わってきた人びとへの“オマージュ”が示される感動作。
主人公ジワンを演じるのは、『パラサイト 半地下の家族』(2019)で怪しい家政婦役を演じていた名バイプレイヤーのイ・ジョンウン。今回単独初主演でアジア太平洋映画賞最優秀演技賞を受賞。夫を演じるのは、TVドラマ「冬のソナタ」や『あなたの顔の前に』(2021)をはじめホン・サンス監督作品の常連としても知られるクォン・ヘヒョ。息子役にはドラマ『愛の不時着』(2019)のタン・ジュンサン。韓国映画、ドラマファンにお馴染みの実力派俳優が集結した。
監督は『マドンナ』(2014)、『ガラスの庭園』(2017)のシン・スウォン。悩みながらも映画を撮ることを諦めないジワンに自身を投影させ、女性たちが時を超えて手をつなぎ、連帯する物語に昇華させた。
2021年の東京国際映画祭で一番印象に残ったのがこの作品。2010年東京国際映画祭最優秀アジア映画賞に輝いた『虹』のシン・スウォン監督の新作で、映画愛に満ちた、映画へのオマージュである。さりげないセリフの中にユーモアがあったり、先輩監督の苦悩の中に韓国だけでなく世界中の女性監督が映画を続ける上での苦難を表現していたり、欠落したフィルムがみつかるシーンの意外性も素晴らしく感動的な作品だった。
欠落したフィルムには女性(判事?)がタバコを吸うシーンが写っていたけど、当時は女性がタバコを吸うシーンでさえ、検閲に引っかかっていたのだろうか。2021年の東京国際映画祭でグランプリをとった『ヴェラは海の夢を見る』では、主人公のヴェラという女性がなにかというとタバコを吸っていて、この主人公タバコ吸いすぎと気になった。
70年代のウーマンリブの人たちは、日本でもわざとタバコを吸う人たちがいた。「女がタバコを吸うなんて」ということに対する抗いのためだった。韓国でもそういうこともあって、ホン・ジェウォン監督は『女判事』で女性がタバコを吸うシーンを入れたのかもと思った。その気持ちはわかるけど、私自身は嫌煙権を主張したい方なので、女性・男性に限らず、映画の中でタバコを吸うシーンが多いのは好きじゃない。
ホームコメディかと思うような冒頭のシーンからは、こういうシリアスなテーマを扱う作品とは全然思わなかった。ミステリアスだったり、厳しい現実も描いていて、映画の作りがとてもうまいと思った。そして、優しさにあふれていた。
シン・スウォン監督は「当時の非常に保守的な環境の中、自分自身や他人からの視線と闘いながら生き残ってきた女性監督たちの姿が、自分自身の苦悩と重なる思いがあったから、いつかこれをモチーフにした映画を撮りたいと思っていた」と語っている(暁)。
東京国際映画祭で観ることができなかったので、待ちに待った公開です。今でこそ、韓国映画界でも女性の活躍が目覚ましいですが、60年代の韓国での女性映画人の置かれた厳しい状況のわかる作品です。
シン・スウォン監督は、2011年、韓国初の女性映画監督パク・ナモクと2人目のホン・ウノンについてのテレビドキュメンタリーを撮っています。『オマージュ』の中で、パク・ナモク監督が、子どもを背負って『未亡人』を撮影していたことに言及されています。
本作で取り上げられている60年代に活動した韓国で二人目の女性監督ホン・ジェウォンは、3本製作しているのですが、3本ともフィルムが紛失。『女判事』(1962)のフィルムがやっと見つかり、修復することがメインの話になっています。欠落した部分が見つかり、切られたフィルムには、女性が煙草を吸っている場面が映っていました。そのほかにどんな部分が検閲に引っかかったのでしょう。
編集技師の女性が、「女が編集室に入ると縁起が悪いと塩をまかれた」と語る場面がありました。60年代の日本も、同じような男尊女卑の状況だったのではないかと思います。
その編集技師の女性を含め3人の女性が映っている写真を頼りに、かつて明洞茶房があった乙支路(ウルチロ)ビルを訪ねる場面があります。そこで一人で囲碁をしていた男性は、かつて映画監督だった人物。その男性のところに、コーヒーと卵が運ばれてきます。てっきり、モーニングサービスのゆで卵と思ったら、その卵をコーヒーに入れて飲むのです。調べてみたら、コーヒーに生卵の黄身を落として飲む、韓国流モーニングコーヒー(韓国語で「モニンコッピ」)で、70~80年代によく飲まれたのだそうです。
本作では、主人公ジワンが自立しようと、家庭内別居すると宣言します。それを聞いた息子、「3食つくから入隊する!」というところが、いかにもの韓国事情。 ジワンは家事から解放されて、生き生きと映画の修復に臨むのですが、息子から「お父さんが夢見る女といると寂しいって。監督やめて」と言われてしまいます。 韓国では、女性の非婚率が増えているとか。さもありなんです。(咲)
公式サイトはこちら
2021年|韓国映画|韓国語|108分|5.1ch|シネスコ|字幕翻訳:江波智子
提供:ニューセレクト 配給:アルバトロス・フィルム
2023年02月25日
有り、触れた、未来
監督・脚本:山本透
原案:齋藤幸男「生かされて生きる-震災を語り継ぐ-」
撮影:川島周
音楽:櫻井美希
出演:桜庭ななみ(佐々木愛実)、碧山さえ(里見結莉)、鶴丸愛莉(野上咲良)、松浦慎一郎(吉田光一)、宮澤佑(吉田悠二)、金澤美穂(吉田若菜)、岩田華怜(宮本祥子)、谷口翔太(丸岡哲)、舞木ひと美(大島蒼衣)、高品雄基(遠藤翔)、高橋努(須藤昇)、麻生久美子(瞳)、淵上泰史(市村隆司)、入江甚儀(若い医師)、萩原聖人(柴田トレーナー)、原日出子(安田朋絵)、 、仙道敦子(佐々木有美子)、杉本哲太(本堂真治)、手塚理美(里見文子)、北村有起哉(里見健昭)
恋人を事故で失った元バンドマンの愛実。10年をすぎて歌う気持ちになれた。
30歳を過ぎても、ボクシングを続けるプロボクサー光一と、その妻若菜。
末期癌と闘う有美子は、1分1秒でも長く生き、娘の結婚式へ出席したい、。
「魂の物語」を演じる若い舞台俳優たちは、将来に不安を感じながら活動を続けている。
家族を亡くした中学生の結莉は、生き残った自分の価値を見出せない。妻と息子を失った父親も生きる希望をなくして酒におぼれていた。そんな二人を懸命に支える祖母の文子。親友の咲良(さくら)や担任の吉田先生、たくさんの人々の想いを受けて、結莉の心は少しずつ変化し始めるー。
愛する人と自分の命に向き合わざるを得なくなった人たちの物語。それぞれのストーリーがゆるくつながり、再生に向かっていく様子を見せてくれます。
2011年の東日本大震災で、死傷者が最も多かった宮城県が舞台です。大切な人たちを失い、生きる力を無くした父と娘に誰が何を言えるでしょう。文子おばあちゃんは息子と孫に暖かい食事を作り、そばで見守ります。碧山さえさんと北村有起哉さんのシーンに涙しました。
たびたび襲ってくる災害、不慮の事故etc・・・ままならない人生です。特にコロナ以後、小中高生、若い女性の自死が増加しているそうで、痛ましくてなりません。人は生きてさえいれば、何度でも立ち上がれます。ゆっくりでいいから一人で抱え込まず、支えあって暮らしていくことができるよ、というメッセージを受け取った気がします。
青空に翻るたくさんの鯉のぼり。力強く太鼓をたたく子供たち、見守る大人たちもみんな笑顔です。忘れられないシーンになりました。(白)
2023年/日本/カラー/シネスコ/123分
配給:Atemo
(C)UNCHAIN10+1
https://arifuretamirai.wixsite.com/home
★2023年3月10日(金)ロードショー
Winny
監督:松本優作
原案:渡辺淳基
脚本:松本優作、岸建太朗
撮影:岸建太朗
音楽:Teje 田井千里
出演:東出昌大(金子勇)、三浦貴大(壇俊光)、吉岡秀隆(仙波敏郎)、渡辺いっけい(北村文哉)、吹越満(秋田真志)、吉田羊(金子勇の姉)
殺人に使われた包丁をつくった職人は逮捕されるのか——。
技術者の未来と権利を守るため、
権力やメディアと戦った男たちの真実の物語。
2002年、開発者・金子勇は、簡単にファイルを共有できる革新的なソフト「Winny」を開発、試用版を「2ちゃんねる」に公開する。彗星のごとく現れた「Winny」は、本人同士が直接データのやりとりができるシステムで、瞬く間にシェアを伸ばしていく。しかし、その裏で大量の映画やゲーム、音楽などが違法アップロードされ、ダウンロードする若者も続出、次第に社会問題へ発展していく。
次々に違法コピーした者たちが逮捕されていく中、開発者の金子も著作権法違反幇助の容疑をかけられ、2004年に逮捕されてしまう。サイバー犯罪に詳しい弁護士・壇俊光は、「開発者が逮捕されたら弁護します」と話していた矢先だった。金子氏逮捕の報道を受けて、急遽弁護を引き受けることになり、弁護団を結成。金子と共に裁判で警察の逮捕の不当性を主張するも、第一審では有罪判決を下されてしまう…。しかし、運命の糸が交差し、世界をも揺るがす事件へと発展する——。
上は公式HPにあるストーリーです。続く「なぜ、一人の天才開発者が日本の国家組織に潰されてしまったのか」は誰もが抱く疑問です。ほかの国では、いち早く新しい技術を開発し、発表した人は億万長者になっているのに。
逮捕された後に、金子氏が「あと2行足すだけでいいんです!」とプログラムの脆弱を補完したいと繰り返します。なぜそれができなかったのか?この事件で儲かったのは、損したのはどこなのか?誰なのか?と疑問が次々とわいてきます。
金子氏はただただ、プログラム開発が好きで珍しいほど無欲な人。東出昌大さんが好演しています。社会が全く追いついていなくて、世界のトップになれたはずの天才をサポートできませんでした。弁護団は長く彼を支えて共に闘いましたが、金子氏は手足をもぎとられた状態が続きました。失われた日々が返す返すも残念です。
漏洩した内部文書に繋がる証言をするのが、吉岡秀隆さん演じる実直な警察官。早くに内部を正そうと声を上げると脅しやいやがらせを受けます。力を得た人こそ、易きに流れないように自制してほしいのに。責任があるから高給取りなのでしょ?不正を隠蔽してきた似たような事件が思い出されます。
ITに明るい人以外、あまり一般には知られなかった顛末を映画でなぞることができました。不本意な人生となってしまった金子氏、その越しかたを知ることで、無念を思い悼む方がいるはず。それはおおいに意味のあることと思いました。(白)
映画の最後に、無罪を勝ち取った時の金子勇さんご本人の語る姿が映し出されます。
「悪用されることを考えると誰も開発できない」「保釈中、親しい人との連絡を禁止されたのが辛かった」という言葉が胸に刺さりました。7年かかった裁判が命を縮めることになってしまったのでしょうか。42歳の若さで心筋梗塞で亡くなられた金子勇さん。 国家は貴重な人材を潰してしまいました。
「2ちゃんねる Winny」で検索してみたら、無罪確定後に金子勇さんが参加したトークの動画が出てきました。「匿名性の高いものは、国によっては発信者を知られると逮捕の危険もある人たちに必要です」という言葉がありました。そこまで考えていらしたのかと! 匿名で利用できるからと悪用する人がいるのも事実で、残念ですが・・。
本作では、弁護団の方たちの言葉も心に残りました。
「警察が逮捕した裏の意図を知ることが必要。敵が尻尾を見せるまで待つんです」
尋問では、「嘘をついた人間に、嘘をつきましたと言わせること」
サイバー犯罪に詳しい弁護士・壇俊光さんを演じた三浦貴大さんや、証人尋問に長けた秋田真志弁護士を演じた吹越満さんも、熱演でした。(咲)
2023年/日本/カラー/シネスコ/127分
配給:KDDI、ナカチカ
(C)2023映画「Winny」製作委員会
https://winny-movie.com/
★2023年3月10日(金)ロードショー
マイヤ・イソラ 旅から生まれるデザイン (原題:Maija Isola Master of Colour and Form)
監督・脚本・撮影:レーナ・キルペライネン
出演:マイヤ・イソラ、クリスティーナ・イソラ、エンマ・イソラ
フィンランド南部リーヒマキ、アロランミ。1927年、マイヤは農家の3人娘の末っ子として生まれた。13歳から家を出て一人暮らしとなり、厳しい戦時下を生き抜いた。45年、17歳年上の商業芸術家ゲオルグ・レアンデリン(ヨック)と結婚し、翌年19歳で娘クリスティーナを出産。ヨックとは共に暮らすこともなく離婚し、シングルマザーとなる。母に娘を預け、マイヤはヘルシンキの芸術大学へ進学。娘に手紙を送り続ける。
壺をデザインしたファブリックを大学のコンテストに出品すると、マリメッコの前身であるプリンテックス社を立ち上げたアルミ・ラティアの目に止まる。(マリメッコの創業は1951年)一つ所に長くとどまらず、旅するように自由に生きて多くのデザインと絵を残したマイヤ・イソラのドキュメンタリー。
マイヤ・イソラを知らなくても、マリメッコのアイコン、Unikko ウニッコ(ポピー)の赤い花は知っているでしょう。3度結婚して3度離婚した恋多き女性でもあった彼女は、38年間でマリメッコに500以上のデザインを提供しています。
強い印象を残す多彩なデザイン、アーカイブ写真と映像、家族に送った手紙や残された日記、娘のクリスティーナの証言などから、マイヤの創作や人生にせまります。
ところどころに挿入されるアニメーションと軽やかな音楽は、デザインの成り立ちも想像できる楽しさ。次々と登場する大胆なデザインのファブリックを見ていると、小さく凝り固まっていた心がほどけていくような気分になります。(白)
レーナ・キルペライネン監督(写真上)は、アーカイブ資料や家族写真、娘の証言などを丁寧に紡いで、世界中を旅しながら、自由な心で仕事を続けたマイヤ・イソラの人生を描き出しています。監督は、「マイヤ・イソラがデザインしたカーテンが子供の頃から家にあって、マイヤ・イソラのファブリックは、私の人生の一部」と語っていて、それが本作製作の動機の一つでした。私も、マリメッコの花柄が大好きで、よく表参道のお店を覗いたものです。新しい家に引っ越した時に、ちょっと値段は高かったのですが思い切ってマリメッコでカーテンを新調しました。そんな次第で、ウニッコ(ポピー)のデザインを生み出したマイヤ・イソラに興味津々。自由を求めて、よく旅に出たマイヤですが、思いもかけず北アフリカと深い繋がりがあって、イスラーム文化圏に興味のある私にとって、マイヤ・イソラは一層身近に感じる人物になりました。
二人目の画家だった夫と一緒に、スペインからモロッコへ。アラブ人やベルベル人の文化に親しんでいます。1959年に3度目の結婚をしますが、1970年に離婚。その後、年下のエジプト人で舞台俳優のアハメドと恋に落ち、恋が作品にも影響。マルセイユからアルジェリアに船で渡り、楽園のようなところと気に入り長期滞在。気象学者のモハメドと出会います。「アラブの生活はシンプル。物事を難しく考えない人には打ってつけ」と手紙にしたためています。在留許可更新のため、3か月毎にパリに戻り、その間にマリメッコの仕事もこなし、絵の道具を買い込んで帰るという暮らし。モハメドとは破局し、その後、大学講師となったアハメドと再会しアメリカへ・・・と、 マイヤ・イソラの行動範囲はさらに広がりますが、最後は、フィンランドに戻り余生をおくっています。多くのファブリックデザインや絵を描きながら、3度の結婚、そしてアルジェリアやエジプトの男性と年齢差を越えた恋をしたマイヤ・イソラの人生、素敵すぎます。(咲)
2021年/フィンランド・ドイツ合作/カラー、モノクロ/ビスタ/100分
配給:シンカ、kinologue
後援:フィンランド大使館
(C)2021 Greenlit Productions and New Docs
https://maija-isola.kinologue.com/
★2023年3月3日(金)ロードショー
エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス(原題:Everything Everywhere All at Once)
監督:脚本:ダニエル・クワン、ダニエル・シャイナート
撮影:ラーキン・サイプル
音楽:サン・ラックス
出演:ミシェル・ヨー(エヴリン・ワン)、ステファニー・スー(ジョイ・ワン/ジョブ・トゥパキ)、キー・ホイ・クァン(ウェイモンド・ワン)、ジェニー・スレイト(デビー)、ハリー・シャム・Jr.(チャド)、ジェームズ・ホン(ゴンゴン)、ジェイミー・リー・カーティス(ディアドラ・ボーベアドラ)
経営するコインランドリーの税金問題、父親の介護に反抗期の娘、優しいだけで頼りにならない夫と、盛りだくさんのトラブルを抱えたエヴリン。そんな中、夫に乗り移った“別の宇宙の夫”から、「全宇宙にカオスをもたらす強大な悪を倒せるのは君だけだ」と世界の命運を託される。まさかと驚くエヴリンだが、悪の手先に襲われマルチバースにジャンプ!
カンフーの達人の“別の宇宙のエヴリン”の力を得て、闘いに挑むのだが、なんと、巨悪の正体は娘のジョイだった…!
昨年公開の『ガンパウダー・ミルクシェイク』に続いてのミシェル姐さん出演作、今回は堂々の主演です。『スイス・アーミー・マン』の”二人のダニエル監督”の奇天烈なアイディア、「マルチバース×カンフー」→「異次元の自分とリンク」→「別の自分が持つ技能にアクセス可能」という設定。おまけにそれを発動するには「“最強の変な行動”が必要」→「バカバカしければバカバカしいほど、それがエネルギーとなり、ジャンプを速く確実に成功させる」という条件がつきます。
なにそれ?とおっしゃるでしょうが、「百聞は一見に如かず」です。これはぜひ大きな画面でご覧ください。昨年還暦を迎えたミシェル姐さん、元ミス・マレーシアの美しさも崩壊の変顔など、なんでもやってくれてます!
優しいけど頼りない旦那様役はお久しぶりのキー・ホイ・クァン、懐かしや。『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』『グーニーズ』など80年代の大人気の子役でした。宇宙から来た別のウェイモンドとして大活躍、助演男優賞を受賞しました。(白)
★第80回ゴールデングローブ賞(ミュージカル/コメディ)
主演女優賞 ミショル・ヨー
助演男優賞 キー・ホイ・クァン
★アカデミー賞 最多の10部門11ノミネート
2022年/アメリカ/カラー/シネスコ/139分
配給:ギャガ
(C)2022 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.
https://gaga.ne.jp/eeaao/
★2023年3月3日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
日の丸~寺山修司40年目の挑発~
監督:佐井大紀
撮影:中村純 張山準 岩井謙 佐井大紀
イラスト制作:臼田ルリ
語り:堀井美香 喜入友浩
出演:高木史子、シュミット村木眞寿美、金子怜史、安藤紘平、今野勉
寺山修司が構成を手がけた1967年放送のTBSドキュメンタリー「日の丸」を現代によみがえらせたドキュメンタリー映画。
街ゆく人々に「日の丸の赤は何を意味していますか?」「あなたに外国人の友達はいますか?」「もし戦争になったらその人と戦えますか?」といった本質に迫る挑発的な内容のインタビューを敢行した同番組は、放送直後から抗議が殺到し閣議でも問題視されるなど大きな反響を呼んだ。
1967年の映像と同じ手法を今回も用い、道行く人々に「同じ質問」をぶつけた映像を足しています。寺山修司さんがこういう仕事もしていたんだ!と驚きでした。「日の丸と言ったら何を思い浮かべますか?」から始まる矢継ぎ早な質問は、普段聞かれることもない、自分で考えたこともありませんでした。それを口に出すのは戸惑います。
唐突な質問に、はにかみながらもなんとか答える人は、きっと帰宅して「今日ね、こんなこと聞かれた」と話しただろうとなんだか微笑ましくなります。当時の方々はあっさりシンプルに回答している感じがします。
現代はあきらかに胡散臭がられたり、なんでそんなことを答えなきゃいけないんだとか、そういうあなたは誰?とか逆に質問されたりしています。どうやって世に出てしまうのか、怖いですものね。マスクで表情が半分しか見えないのが惜しいです。
新旧の反応の違いが面白いのと、もし自分だったらなんと答えるだろうと考えてしまう映画。
一方、55年前の生活が垣間見られる映像を懐かしく観ました。昭和42年では、最近なら”気合入りのお洒落”に見える和服姿も多く、あのころは普通にお出かけ着だったんだなぁとか、あの建物は今はないなぁとか。そんな楽しみもありました。(白)
2022年製作/87分/G/日本
配給:KADOKAWA
(C)TBSテレビ
https://hinomaru-movie.com/
★2023年2月24日(金)全国公開中
2023年02月19日
劇場版 ナオト、いまもひとりっきり
監督:中村真夕
撮影:中村真夕 辻智彦
出演:松村直登、松村代祐、半谷信一、半谷トシ子
原発事故による全町避難で無人地帯となった福島県富岡町にいまも一人で暮らすナオトは、 高度経済成⻑の裏側でカネに翻弄され続ける人生を送ってきた。原発事故後、人の人生を金で解決しようとする不条理、命を簡単に“処分”しようとする理不尽に納得できず、残った動物たちを世話しはじめた。生きること、生かし続けること。その日々の闘いが、ナオトの生きる道となっていた。
あれから 8 年。新たな命が生まれ消えていく中で、ナオトは変わらず動物たちに餌をやる日々を過ごしている。「将来の糧のため」ニワトリを飼い、蜜蜂を育て始めた。富岡は帰還できる町となったが、若い人たちは戻らない。コロナ禍で開催されたオリンピックでは「復興五輪」の PR として、誰もいない福島の風景の中を聖火リレーが走り過ぎた。
『ナオトひとりっきり Alone in Fukushima』(2015)の続編。中村監督は富岡町に通い、ナオトの日々を撮影し続けてきました。ナオトの家族はシロとサビ(ネコ)、モモとサクラ(ダチョウ)、10頭のウシ、ポニーのヤマ、イヌのイシとアキと子犬。2020年3月、帰還困難区域にある夜ノ森駅が再建されて、道も開通しましたた。けれどもコロナ禍でオリンピックは延期、多くの住人が戻らない中、建物ばかりが空しいです。元気な姿が映像に残っているお父さんも、ある日亡くなられました。
ひとり土地に残って、見捨てられた動物たちの世話を10年も続けたナオトさんは「100年たてば元の村に戻るかもしれねぇな」と苦笑いします。今生きている私たちには、確かめることもできません。
原発は古いものから閉じる方向でいたはずではなかったでしょうか?再稼働の動きがあるのはなぜ?
汚染された土は膨大な費用をかけて集められ、パックされて累々と並べられています。汚染水は海上放出され、これが海の生き物にどんな影響をあたえるのか誰も説明しません。忘れてしまうのを待たれているような気がします。
ナオトさんの10年を見つめることは自分を振り返ることでもありました。(白)
中村真夕監督 2/6 シアターイメージフォーラム
2013年夏から取材を開始した中村監督は「政府の避難要請を無視して、原発から至近距離の場所でひとり暮らすナオトさんの存在は国内メディアではタブー視され、テレビに取材企画を上げても上がOKを出さなかった。だから私は映画として彼を撮影することで世に出そうと思った」と話し、10年弱に及ぶ現地取材を通して感じた富岡町の景色を「住人がナオトさん以外いなくなると、どんどん自然(緑)が溢れてきて、まるである種のユートピアにも思えた」と語った。(トークイベント報告より)
2023年/日本/カラー/106分
製作・配給:Omphalos Pictures, Siglo
配給・宣伝協力:ALFAZBET
http://aloneinfukushima.jp/
★2023年2月25日(土)ロードショー
ただいま、つなかん
監督:風間研一
音楽:岡本優子
語り:渡辺謙
出演:菅野和享、菅野一代夫妻
宮城県気仙沼市、唐桑(からくわ)半島の鮪立(しびたち)。美しい入江を見下ろす高台に民宿「唐桑御殿 つなかん」はあります。
100年続く牡蠣の養殖業を営む菅野和享さんと一代さん夫妻は、東日本大震災当時、津波により浸水した自宅を補修し、学生ボランティアの拠点として開放、半年間で延べ500人を受け入れてきました。若者たちに「つなかん」と呼ばれたその場所が、夫妻の「皆がいつでも帰ってこられるように」との思いから、2013年の秋に民宿に生まれ変わります。
女将となった一代さんは、自慢の牡蠣やワカメを振る舞い、土地の魅力を自ら発信。そんな「つなかん」に引き寄せられるかのように、次々とこの地に移り住む元ボランティアの若者たち。彼らは海を豊かにする森を育てたり、漁師のための早朝食堂を営んだり、移住者のサポート体制を整えたりと、地域に根ざしたまちづくりに取り組み始めます。
あの3月11日で被災した後、「つなかん」は菅野さん夫婦によって運営され、二人を慕う人たちによって支えられてきました。10年以上にわたりテレビ報道の現場から関わってきた風間研一ディレクターが、本作を初監督。震災からたちあがった「つなかん」とそこに「ただいま!」と帰ってくるひとたちを映像に残しました。
初めて訪ねても「お帰り!」と迎えてくれそうな一代さんの笑顔に魅了されます。それが、不幸な事故で養殖業をたたみ、家に閉じこもってしまうことになったとは。明るく元気だった一代さんにかける言葉もみつかりません。周りはみんな同じだったでしょう。
でも、日にち薬がきいたのか一代さんはまた立ち上がってくれました。安堵すると同時に胸のうちを考えると、人生は理不尽だと思ってしまいます。流した涙と同じほど、いいことにも巡り合ってほしいです。
民宿「唐桑御殿 つなかん」はこちら。いつか泊りがけで行きたいところです。(白)
「つなかん」、音ではツナ缶と一緒ですが、鮪立(しびたち)の鮪と、菅野(かんの)さんの「かん」で「つなかん」なのですね。
養殖業を営んでいた菅野さん夫妻は、東日本大震災で船以外のすべてを失いました。浸水した自宅は、壊すつもりだったのをやめ、補修して、学生ボランティアの宿泊場所として開放。学生たちに養殖の技術を教えながら、手助けしてもらって養殖業を立て直しました。
物静かで渋い男の菅野和享さんと対照的に、奥さまの一代さんは、いつも明るく元気で笑顔が素敵です。風間研一ディレクターが震災以来、ずっと一家を追っていた中で、思いもかけない不幸が襲いました。カメラになんとか笑顔を見せる一代さんの胸中を思うといたたまれませんでした。
もう40年以上前に、唐桑ユースホステルに行ったことがあります。唐桑半島は、ぐっと入り込んでいて、気仙沼駅から船で行ったのを思い出して、検索してみたら、「気仙沼ー唐桑間で定期運行されていた唐桑汽船が2007年3月31日をもって40年の歴史に幕を閉じた」とありました。唐桑汽船は昭和42年に小鯖、鮪立、宿浦 各港の個人経営の業者が合併して設立されたもの。車が普及して、定期船を利用する人が少なくなって廃止になってしまったようです。
唐桑ユースホステルはこじんまりしていて、ユースホステル仲間の間でアットホームなところと人気でした。唐桑には一度しか行ったことがないのですが、その時に一緒に行ったのが、角館近くのまつばユースホステルの常連仲間でした。まつばにも一代さんのような元気なおばさんがいて、慕って通う人が多かったのです。もう一つの故郷という感じで「ただいま」と帰れるところがあるのは幸せなことだとしみじみ思います。(咲)
震災から5年後に全国から集まった元ボランティアとの記念撮影 ©️2023 bunkakobo
唐桑半島鮪立を舞台に、民宿「つなかん」の名物女将一代さんと震災ボランティアたちの交流を追ったドキュメンタリー。これまでTVでもだいぶ紹介されてきたらしいけど、知らなかった。東日本大震災関係の映画や番組はけっこう見てきたつもりだったけど、この「つなかん」のことは、この映画で知りました。
この菅野さん夫妻とボランティアの人たちとの関係のような、地元の人の思いに触れて、地元に移り住んだ若者たちとの関係は他にもたくさんあると思いますが、お互い影響し合い、新しい地域の関係を作っていく姿がすがすがしく思いました。
一代さんを主人公にはしていますが、震災を通じて出会った人々の人生を変えるきっかけとなった物語が凝縮された映画。震災という災難が出会いのきっかけではあるけれど、出会いのすばらしさが描かれていました。
この中にも出てきた「海の栄養は山(森)が作る」ということを初めて知ったのは、龍村仁監督の『地球交響曲 ガイアシンフォニー 第八番』(2015)でした。この中でこのことを言っていたのが牡蠣養殖漁師の畠山重篤さん。海の環境を守るには海に注ぐ川、 さらに上流の森を守ることの大切さを説き、漁師仲間とNPO法人「森は海の恋人」を結成し植樹を続けています。今、ネットで調べてみたら、畠山さんも唐桑の人だった! 一代さんたちの山での森作りは畠山さんたちが続けてきた植樹の運動に協力しているのかも。畠山さんのことは、TVのドキュメンタリーや映画でも見ていたのですが、なんで一代さんのことは知らなかったんだろう。もっと前に知っていれば「つなかん」に行っていただろうな。この映画を観たら、私も「つなかん」に行ってみたくなりました。(暁)
2023年/日本/カラー/16:9/DCP/115分/ドキュメンタリー
配給:ウッキー・プロダクション
(C)2023 bunkakobo
https://tuna-kan.com/
https://twitter.com/tuna_kan_movie
https://www.facebook.com/tuna.kan2023/
★2023年2月24日(金)より宮城・フォーラム仙台、2月25日(土)よりポレポレ東中野にて劇場公開!ほか全国順次公開
レッドシューズ
監督:雑賀俊朗
脚本:保木本真也 上杉京子
撮影:出口朝彦
音楽:岡本真夜
出演:朝比奈彩(太田真名美)、市原隼人(谷川拓巳)、佐々木希(谷川由佳)、森崎ウィン(太田仁志)、松下由樹(太田葉子)、観月ありさ(介護施設上司)
夫を亡くして娘と二人、つつましく暮らす真名美。ある日家庭裁判所に呼び出され、生活が貧窮状態にあると指摘された。娘は義母が育てるべきとの行政の判断だった。女子ボクシングにうちこみ、働きながら娘を育てるのは楽ではないが、娘と離れることは考えられなかった。
しかし、職場で理不尽な目に遭っている同僚を庇ったことで首になってしまう。友人たちの助力で新たに老人介護施設に働き口を見つけるが、そこで起こしてしまった事故のため、娘は義母と暮らすことになった。真名美はボクシングの試合に勝ち続け、ファイトマネーを得て生活を立て直したいと決意する。チャンピオンを目指しての猛トレーニングが始まった。
女子ボクシングのチャンピオンを目指すシングルマザーを、映画初主演の朝比奈彩さん。 Oggi専属モデルさんでもあり、ボクシングとキックボクシングは4年前から習っていたそうです。元々陸上で好記録(100m12秒台)を出していたスポーツウーマン、はまり役です。厳しく指導するトレーナーに市原隼人さん、妻子を残して亡くなった夫に森崎ウィンさん。
『ケイコ、目を澄ませて』が2022年の話題をさらいました。岸井ゆきのさんが数々の賞を総なめにした熱演をみせました。また条件の違う女性ボクサーが、自分の目標に到達するまでストイックにトレーニングに励む様子は胸打つものがあります。
タイトルの「レッドシューズ」は、やはりボクサーだった真名美の亡き父が残した赤いリングシューズのこと。真名美も父と同じ赤い靴でリングに上がります。
困窮するひとり親家庭には行政の援助があるはずです(何事も申請しなければ受けられません)し、義母も孫を引き取る前にできることがあったのでは、と思ってしまいます。真名美の笑顔が見られるかどうか、見守ってください。(白)
2022年/日本/カラー/シネスコ/121分
配給:S・D・P
(C)映画レッドシューズ製作委員会
〇公式サイト:http://surf-entertainment.com/redshoes.html
〇公式Twitter:https://twitter.com/RedShoes_movie
〇公式Instagram:https://www.instagram.com/redshoes.movie_official/
〇公式 Facebook:https://www.facebook.com/profile.php?id=100067627389856
★2023年2月24日(金)新宿ピカデリーほか全国公開
アラビアンナイト 三千年の願い 原題:Three Thousand Years of Longing
監督・脚本:ジョージ・ミラー
共同脚本:オーガスタ・ゴア
原作:A・S・バイアット「The Djinn in the Nightingale's Eye」
製作:ダグ・ミッチェル、ジョージ・ミラー
出演:イドリス・エルバ、ティルダ・スウィントン
物語論(ナラトロジー)の専門家、アリシア・ビニー博士は、学会での講演のためトルコのイスタンブールを訪れる。 バザールで青と白の螺旋模様の入った「ナイチンゲールの目」というガラスの小瓶を買い、ホテルの部屋で瓶を洗っていると、蓋が外れて、中から巨大な黒い魔人〈ジン〉が現れる。「解放してくれたお礼に3つの願いを叶えてあげよう」と言われる。そうすれば呪いが解けて自分も自由の身になれるというのだ。 だが物語の専門家アリシアは、その誘いに疑念を抱く。 願い事の物語はどれも危険でハッピーエンドがないことを知っていた。 魔人は彼女の考えを変えさせようと、 紀元前からの3000年に及ぶ自身の物語を語り始める。
最初は、旧約聖書にあるソロモン王とシバの女王の物語。全身全霊で女王に尽くしていた魔人は、魔術師でもあったソロモン王によって真鍮の瓶に幽閉され紅海に捨てられ、2500年もの間、漂い続けた。
16世紀中頃、真鍮の瓶は漁師に引き揚げられ、オスマン帝国のスレイマン大帝の愛妾グルタンの手に渡る。瓶の中から現れた魔人に、大帝の長男ムスタファ皇子の心をつかみたいと願い、愛し合うようになる。だが、スレイマンのお気に入りの側室ヒュッレムは自分の息子を王位に就かせたいと陰謀を企て、結果、ムスタファは大帝に殺されてしまう。グルテンも大帝の命で殺されてしまい、魔人は再び小瓶の中に幽閉される。
100年後、1620年、故アフメト1世の皇子で11歳にして皇位を継いだムラト4世の時代。亡きアフメト1世の妃キョセムはムラトの弟イブラヒムを皇位継承者として守るため、檻に入れ豊満な巨女たちをあてがう。ムラト4世が酒浸りで亡くなり、皇位についたイブラヒムのお気に入りの巨女“砂糖姫”が、グルテンが隠していた小瓶を発見。魔人は、何か願いをと懇願するが、姫の怒りを買って瓶ごとボスポラス海峡に沈められてしまう。
そして次なる魔人の運命は・・・・
「アラジンと魔法のランプ」のような物語を想像していたのですが、かなり違いました。魔人が語る身の上話に出てくるオスマン帝国の妃ヒュッレムやキョセムは、トルコのドラマ「オスマン帝国外伝」で馴染み深い女性たち。皇位の後継ぎを巡る陰謀が渦巻いていた時代でした。シバの女王から始まる壮大な歴史絵巻かと思いきや、いつしか、魔人とアリシアの大人の恋物語に。それが、イスタンブールのベラパレスホテルのアガサ・クリスティーの部屋で繰り広げられるという次第。そこで話は終わりませんので、結末をどうぞお楽しみに! (咲)
2022年/オーストラリア・アメリカ/英語・トルコ語/カラー/スコープサイズ/5.1ch/108分/PG12
字幕翻訳:松浦美奈
配給:キノフィルムズ
公式サイト:https://www.3wishes.jp/
★2023年2月23日(木・祝) TOHOシネマズ 日比谷ほか 全国ロードショー
ペーパーシティ 東京大空襲の記憶 原題:Paper City
監督:エイドリアン・フランシス
出演:清岡美知子、星野弘、築山実
東京を拠点にするオーストラリア人映画監督エイドリアン・フランシスが語り継ぐ東京大空襲
1945年3月10日午前0時過ぎ、アメリカ軍の爆撃機が東京を襲撃。木造の家屋が密集する下町を中心に東京の4分の1が焼失。日の出までに10万人以上の死者を出すという、史上最大の空襲だった。
エイドリアン・フランシス監督は、東京で暮らして数年経って初めて東京大空襲のことを知り、これほどの大惨事だったのに、痕跡がほとんどないことに驚く。広島の原爆ドームのような、東京大空襲を象徴するものは遺されていないし、公的な慰霊碑も建てられていないのだ。
生存者は生きているのだろうか。
東京大空襲を語り継ぎたくなかったのだろうか・・・
監督は、生き証人を探し出す。
浅草寺近くで生まれ育った清岡美知子さん。言問橋の下で冷たい水の中、木の棒にしがみついて助かる。数日後、姉と父の傷一つない遺体を見つける。戦後、戦争を経験していない世代の人々に空襲の恐ろしさを伝えるため活動している。
押上で生まれ育った星野弘さん。空襲の翌朝、死体で埋まった水路を目にする。憲兵隊に遺体を水の中から引きあげる作業を命じられる。元兵士には日本政府のサポートがあるのに、民間人は忘れ去られていると嘆く。
江東区森下で暮らしていた築山実さん。近くに軍の標的になるものはなかったので安全だと思い込んでいた。空襲で3人の兄弟をはじめ多くの知人を失う。亡くなった人の名前を記した巻物を作り保管してきたが、この先受け継いでもらえるのか心配している・・・
映画の冒頭、米軍機が爆弾投下に向かう映像が映されました。「東京を焼いちゃおう」と、まるでゲーム感覚。火の海になり、深夜の東京の町を彷徨った人たちの姿は、語ってくださった方たちの言葉から想像するしかありません。
私の知人に昭和3年生まれで、東京大空襲を墨田区の本所吾妻橋付近で経験した方がいました。「3月10日の東京大空襲って言われるけど、僕の感覚では3月9日の深夜」と、あの町を隅田川に向かって逃げまどった日のことをよく話してくださいました。その方も、10年程前に他界。エイドリアン・フランシス監督が、かろうじてご存命の方たちにご体験を聞き、こうして1本の映画に残してくださったことに感謝です。
私は戦後生まれですが、それでも戦争中や戦前について、子供の頃から両親をはじめ多くの方から聞く機会がありました。今の若い人たちは、日本がアメリカと戦争をし、負けた故に今の日本社会の様々な仕組みがあることを認識していない方が多いのではないでしょうか。憲法しかり、教育制度しかり。
戦争で失ったものは多くの人命をはじめたくさんあります。本作のタイトルになっている「ペーパーシティ」。木と紙で出来た伝統的な日本家屋の美しい家並みの多くが、米軍の空襲で焼かれてしまったことも忘れてはなりません。空襲を免れた京都をはじめ、日本各地に点在する伝統的街並みが郷愁をそそる観光地にもなっていますが、かつての日本は、どこの町にも瓦屋根の美しい家並みがあったことに思いがいたります。戦後、焼け跡の町を復興するときに、なぜ美しい町並みを復元しなかったところが多いのでしょう・・・
そして、今、戦争の時代を経験していない人たちが政治の中心にいて、日本がまた戦争に加担しかねない状況に進んでいるのではと危惧します。空襲で家族を失うという無念な思いを抱えて生きてきた人たちの言葉に、政治を担う人たちこそ耳を傾けてほしいものです。(咲)
東京ドキュメンタリー映画祭2022 観客賞受賞
2021年/オーストラリア/80分
配給:フェザーフィルムス
公式サイト:https://papercityfilm.com/
★2023年2月25日よりシアター・イメージフォーラムにて公開
2023年02月18日
逆転のトライアングル(原題:Triangle of Sadness)
監督・脚本:リューベン・オストルンド
撮影:フレドリック・ウェンツェル
出演:ハリス・ディキンソン(カール)、チャールビ・ディーン(ヤヤ)、ドリー・デ・レオン(アビゲイル)、ウディ・ハレルソン(船長)
モデルで人気インフルエンサーのヤヤと、男性モデルのカールは恋人同士。レストランの支払いで当然のようにカールに支払わせるヤヤに、カールは思わず文句を言ってしまった。落ち目のカールの何倍もの収入のあるヤヤもたまには、気遣ってほしいのだ。大喧嘩になっても、ヤヤが招待された豪華客船クルーズの旅にカールも同伴する。
そこで乗り合わせたのは、超のつくお金持ちばかり。アプリ開発で億万長者となった実業家、ロシアの新興財閥「オリガルヒ」、上品な老夫婦は世界中に武器を売って稼いだ武器商人だった。理不尽な乗客の要求にこたえるクルーたち、もちろん高額なチップを期待してのこと。アルコール依存症の船長が主催した豪華ディナーを楽しむ夕べに船が難破し、海賊に襲われてしまった。彼らは沈没した船から逃れ、無人島に流れ着く。
リューベン・オストルンド監督の『フレンチアルプスで起きたこと』は強烈に印象に残っています。人間があまり見せたくない内側の本音を白日のもとにさらけ出して、居心地の悪い思いをさせてくれます。自分が思っているほど善人ではないとか、小さい人間だとか認めるのは恥ずかしくて悔しいですもん。
この作品ではタイタニックのような豪華客船に乗り込んだ超セレブなお金持ちたちが、お金にあかせて贅沢三昧。そのまま豪華な船旅が続くと思いきや、大事件に遭遇します。無人島に着いてからが、監督の本領発揮。これまで頼っていたお金も地位も関係ない世界で、一番強かったのは誰あろう、船内では最下層トイレ清掃員のアビゲイルでした。彼女は非常用の水や食料を確保したうえ、海から獲物を捕り、調理しと、サバイバル能力ゼロのセレブたちのトップに君臨します。ブラックユーモア満載のこの作品、自分に置き換えてあなたは笑えるでしょうか?
無人島でなくとも、天災・人災に遭って平常の生活ができなくなったとき、どうやって生き延びたらと考えてみましょう。最初の犠牲者でいいや、と弱音を吐かず「最低限自分に何が必要か」書き出して準備しても損はありません。
清掃人のアビゲイルを演じたのはフィリピンの女優ドリー・デ・レオン。メンドーサ監督製作総指揮の『評決』(2019)で助演女優賞を受賞しているベテラン女優です。ヤヤを魅力たっぷりに演じたチャールビ・ディーンは、2022年に細菌性敗血症のために32歳で急逝しました。合掌。(白)
☆カンヌ国際映画祭パルムドール受賞
2022年/スウェーデン/カラー/シネスコ/147分
配給:ギャガ
Fredrik Wenzel (C) Plattform Produktion
https://gaga.ne.jp/triangle/
★2023年2月23日(祝・木)TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
ちひろさん
監督:今泉力哉
原作:安田弘之
(秋田書店『秋田レディース・コミックス・デラックス』刊)
脚本:澤井香織、今泉力哉
撮影:岩永洋
音楽:岸田繁
主題歌:くるり
出演:有村架純(ちひろ)、豊嶋花(瀬尾久仁子)、嶋田鉄太(佐竹マコト)、 van(バジル)、若葉竜也(谷口)、佐久間由衣(ヒトミ)、長澤樹(宇部千夏)、市川実和子(もうひとりのちひろ)、根岸季衣(永井)、平田満(尾藤)、リリー・フランキー(内海)、風吹ジュン(多恵)
ちひろは風俗嬢をやめて、海辺の町のお弁当屋さんで働いている。元・風俗嬢だったことを隠すこともなく、明るくおおらかだ。風俗嬢と知って寄ってくるお客にも、子どもにも、ホームレスのおじいちゃんにも、誰にでも分け隔てなく接している。そんなちひろの周りには、吸い寄せられるように寂しい人が集まってくる。厳しい家庭の女子高生オカジ、働く母と二人暮らしの小学生マコト、父親との確執を抱える谷口…。彼らとごはんを食べて、笑ったり怒ったり、はっきりとものを言うちひろに力をもらって、誰もが前向きになっていく。
原作のコミックを途中まで読んでいます。9巻のうちまだ3巻。人気の原作です。有村架純さんは「いちず」「一生懸命」のイメージがありますが、こういうサバサバした人も似合うんですね。原作も監督も男性ですが、男女関わらずこういう人いたらいいな、と思う造形かなと思います。今泉監督の網の目はとても細かいんじゃないでしょうか。ほかでは取りこぼすような感情をすくってセリフや視線で見せてくれます。
ちひろは聖人君子ではないし、え?と思う行動もします。実は孤独も抱えていて、愚痴もこぼします。唯一愚痴をこぼせるのがショーパブの歌姫・バジル役のvanさん、映画初出演だそうです。長身でコミックの雰囲気がぴったりの美女です。
お弁当屋さんの主は平田満さん、その奥さん役が風吹ジュンさん。若いころからいろんな作品で観ている女優さんです。最近はお母さん役でよく見ますが年齢を重ねても可愛らしいのは変わりません。穏やかで包容力のあるまなざしを向けられるとホッと安心します。ちひろが年を重ねると風吹さんになりそう。(白)
こんなにたくさん寂しさを抱えた人たちが出てくるのに、観終わって、どこかほっこりあたたかい気持ちになれました。美味しい食事が、ひと時の幸せをもたらしてくれることも感じました。タケノコご飯や、いろいろオカズが詰め込んであるお弁当も美味しそうでしたが、何より、マコトの母親のつくる焼きそばの美味しそうなこと! 目玉焼きが乗って、脇には切込みの入ったウィンナー。一見、子育てを放棄したような若いママですが、愛情たっぷり。
いろいろなエピソードが散りばめられていましたが、リリー・フランキーさん演じる内海が語る眠っている金魚の話が面白かった! (咲)
2023年/日本/カラー/シネスコ/131分
配給:アスミック・エース
(C)2023 Asmik Ace, Inc. (C)安田弘之(秋田書店)2014
https://chihiro-san.asmik-ace.co.jp/
★2023年2月23日(祝・木)Netflixで配信。一部劇場で同日公開
少女は卒業しない
監督・脚本:中川駿
原作:朝井リョウ「少女は卒業しない」集英社文庫刊
撮影:伊藤弘典
音楽:佐藤望
主題歌:みゆな「夢でも」(A.S.A.B)
出演:河合優実(山城まなみ)、小野莉奈(後藤由貴)、小宮山莉渚(神田杏子)、中井友望(作田詩織)、窪塚愛流(佐藤駿)、佐藤緋美(森崎剛士)、宇佐卓真(寺田賢介)、藤原季節(坂口優斗)
卒業式が2日後にせまった高校。これを最後に廃校になるのが決まっている。3年B組の4人の少女たちは、3年間学んだ校舎と友人たちに別れを告げなければならない。
まなみは料理部、部長。卒業生代表で答辞を読むことになっている。彼氏に伝えたいことがある。
由貴はバスケ部、部長。東京の大学へ進学する。地元で進学する彼とは離ればなれになる。
杏子は軽音部、部長。中学校から同じ森崎に片思い。
詩織はクラスに馴染めず図書室に通う。坂口先生に会うのが楽しみだった。
「あの頃、ここが世界のすべてだった」というキャッチに「ああ~そうだったかも」と、友達と部活で日が暮れていた遥か昔を思い出しました。原作は連作の短編が7つ。ほんとはあと3人分あるので、映画を観て気になった方は原作もどうぞ。
朝井リョウさんって男性だったよね、と確認してしまうほど、女子がわから書かれた原作。同じ年の男女だと、個人差はあるものの、女子のほうがやっぱり現実的でしっかりしているのは昔も今もいっしょ? 映画のセリフは、監督よりも現役高校生に近い俳優から出た言葉を、たくさん生かしているそうです(小宮山莉渚さんは現役高校生)。揺れ動く感情も、逆に頑固な思い込みも、どちらも「あるある」です。またキャストもみずみずしく雰囲気ぴったり。
初お披露目の昨年の東京国際映画祭では、映画と同じ制服姿の4人が登壇していました(アーカイブはこちら)。コロナのせいで卒業式ができなかった人も、ずっと前に済んでしまった人も、いろいろ感じながら観ることができる作品です。(白)
2023年/日本/カラー/シネスコ/120分
配給:クロックワークス
(C)朝井リョウ/集英社・2023 映画「少女は卒業しない」製作委員会
https://shoujo-sotsugyo.com/
★2023年2月23日(木・祝)シネマカリテ、渋谷シネクイント他全国公開
エンパイア・オブ・ライト (原題:Empire of Light)
監督・脚本:サム・メンデス
撮影:ロジャー・ディーキンス
音楽:トレント・レズナー アティカス・ロス
出演:オリヴィア・コールマン(ヒラリー)、マイケル・ウォード(スティーヴン)、コリン・ファース(ドナルド・エリス)、トビー・ジョーンズ(ノーマン)、トム・ブルック(ネイル)、ターニャ・ムーディ(デリア)
1980年イギリス、静かな海辺の町マーゲイトにエンパイア劇場がある。マネージャーとして働くヒラリーは、かつて人間関係で傷ついて今も癒えてはいない。黒人青年のスティーヴンは、建築を学ぶはずが叶わずにスタッフとして働くことになった。明るくて好奇心旺盛な彼はすぐに同僚たちと打ち解け、ヒラリーも少しずつ心を開いていく。
大晦日の夜、一人屋上で新年を迎える予定だったヒラリーのところに、スティーヴンが加わった。前向きなスティーヴンと親しくなるにつれ、支配人との不毛な関係を断ち切る勇気がわいてくる。
サム・メンデス監督がコロナのロックダウン中に、自分の関わった映画と映画館について考えるうちに生まれた脚本。映画愛あふれる脚本に素晴らしいスタッフ、監督の脳内であて書きしていたというオリヴィア・コールマン、新鋭のマイケル・ウォード、名優コリン・ファースやトビー・ジョーンズといったキャストが集まりました。
ヒラリーは傷つきやすく、孤独な女性ですが、そんな彼女を映画館のスタッフたちは暖かく見守っています。若いスティーヴンも屈託なく彼女を受け入れ、彼女に学びます。映写室で映画のあれこれを技師に教わるシーンは、まるでもう一つの『ニュー・シネマ・パラダイス』。壁にはたくさんの名画名優の写真がありました。
初めて恋した少女のようにヒラリーが輝いていくのは、とてもほほえましいのですが、そう簡単には進みません。
失業率が高く、人種問題の暴動も勃発した時代が背景です。古く美しい劇場でささやかな人生の悲喜こもごもが語られています。静謐な撮影、情感に満ちた音楽に彩られたひとときをお楽しみください。(白)
2022年/イギリス・アメリカ合作/カラー/シネスコ/115分
配給:ディズニー
(C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
https://www.searchlightpictures.jp/movies/empireoflight
★2023年2月23日(木・祝)ロードショー
2023年02月17日
ワース 命の値段 原題:Worth
監督:サラ・コランジェロ
脚本:マックス・ボレンスタイン
出演:マイケル・キートン、スタンリー・トゥッチ、エイミー・ライアン
9.11同時多発テロ被害者と遺族 約7000人への補償プログラムに挑んだ人々の物語
2001年9月11日、アメリカを襲った同時多発テロ。9月22日、政府は、被害者と遺族を救済するための補償基金プログラムを立ち上げる。プログラムの特別管理人の重職に就いたのは、ワシントンD.C.の弁護士ケン・ファインバーグ(マイケル・キートン)。調停のプロを自認するファインバーグは、独自の計算式に則って補償金額を算出する方針を打ち出す。だが、彼が率いるチームはさまざまな事情を抱える被害者遺族に接するうちに、いくつもの矛盾にぶち当たる。被害者遺族の対象者のうち80%の賛同を得ることを目標とするチームの作業は停滞する。一方、プログラム反対派の活動は勢いづいていく。そうした中、プログラム申請の最終期限、2003年12月22日が迫ってくる・・・
「こんな事態を招いた国にも怒っている」
冒頭に、息子を亡くした母親が語ったこの言葉が掲げられたことに、まず、この映画に好意を持ちました。「テロとの戦い」として、あからさまにイスラーム教徒を敵呼ばわりしたブッシュ大統領と対照的な言葉だったからです。
年齢も職業も様々な犠牲者の方たちの補償金をどのように算出するのか・・・
さらに、遺された人々にも様々な事情があることに、実務を担当した人たちは悩まされることになります。「私情ははさむな」が鉄則なのです。
多くの事例から、取り上げられていたのは、結婚を控えていた同性の恋人を亡くした男性への補償や、子供が3人いた消防士に、別の女性との間にも2人の子供がいて、その子たちへの補償をどうするかという例。もっともっと様々なケースがあったと思うのですが、この二つの事例に時間を割きすぎていた感が残りました。
ファインバーグ氏に対して、「ユダヤ人の弁護士などに任せられない」という言葉も浴びせられたそうですが、2年3か月という期限で、彼の率いるチームは目標だった8割以上の賛同を得たとのこと。未曾有の大惨事の犠牲者に対して、米国政府が素早い対応をしたことを知ることのできた映画でした。
一方で、ブッシュ大統領が、イラクのフセイン大統領が大量破壊兵器を隠し持っているという嘘まで発表して、対テロ戦争を繰り広げた功罪についても、わずかですが触れられていました。冒頭の「こんな事態を招いた国」について、もっと突っ込んでほしかったところです。(咲)
9.11被害者補償基金:2001年9月11日のテロ関連の航空機墜落事故、またはその直後に行われた瓦礫撤去作業の結果、身体的被害を受けた、または死亡したすべての個人(または死亡した個人の代理人)に対する補償を提供するために設立された。2001年から2003年にかけて運営され、計5560人に 公的資金から 70億ドル超を支払った。2011年と2019年に再開および延長が決定。長期の健康被害に苦しむ人々の救済を続けている。
2019年/アメリカ/英語/118分/シネスコ/カラー/5.1ch
日本語字幕:髙内朝子
提供:ギャガ、ロングライド
配給:ロングライ
公式サイト:https://longride.jp/worth/
★2023年2月23日よりTOHOシネマズシャンテほか全国にて公開
2023年02月12日
別れる決心 原題:헤어질 결심(別れる決心) 英題:Decision To Leave
監督:パク・チャヌク(『オールド・ボーイ』『渇き』『お嬢さん』)
脚本:チョン・ソギョン、パク・チャヌク
出演:パク・ヘイル、タン・ウェイ、イ・ジョンヒョン、コ・ギョンピョ
釜山の刑事ヘジュンは、イポ原子力発電所の技師である妻ジョンアンとは週末夫婦。史上最年少で警部になったヘジュンは実直な男だ。ある日、キ・ドスという男が岩山から転落死する。ヘジュンはザイルをかけ、岩山を登って現場を確かめる。ドスは出入国・外国人庁の元職員で退職後は民間面接官をしていた。年の離れた美しい中国人の妻ソン・ソレは、夫が死んだというのに冷静で、ヘジュンは不振に思って張り込みし、ソレの行動を監視する。ドスの爪からソレのDNAが見つかるが、夫が転落した時には、介護の仕事に就いていた。捜査するうちにヘジュンはソレに惹かれ、彼女もまたヘジュンに特別な感情を抱き始める。やがて、ドスが他殺ではないと決着し、ヘジュンはソレへの思いに終止符を打つため、妻のいるイポに転勤する。
月日が経ったある日、イポの市場で妻と魚を選んでいたとき、ソレが“次の旦那”と手を繋いで現れる。「これが私を疑った刑事さん」と紹介される。イポ原発事故のドラマが人気で、中国女性が押し寄せ、ソレは通訳ガイドとしてイポに引っ越して来たという。その後、投資アナリストをしているソレの夫が豪邸のプールで死んでいるのが発見される・・・
ヘジュンは、毎週末、妻のいるイポで夫としての務めを果たす律儀な男。それが、夫殺しの容疑者としてソレに接するうち、心を惹かれ、壊れていく様が静かに描かれています。ソレが「品のある刑事が私の担当でよかった」とつぶやくのですが、ヘジュンを演じたパク・ヘイル、まさに適役でした。
韓国語が不得手なソレは、スマホの翻訳アプリに中国語で激しく語ります。「あなたの心臓がほしい」と直訳されたのが、ほんとは「あなたの心がほしい」だったということも。便利なようで、誤解も招きかねないこともあって面白いです。
タン・ウェイ演じるソレは密航してきたのですが、祖父が朝鮮解放軍だったという誇り高き女性。アイスクリームの残ったスプーンを舐める姿は艶っぽく、ぞくっとする魅力があります。トニー・レオンと共演した『ラスト、コーション』(2007年/監督:アン・リー)を観て、パク・チャヌク監督はいつか起用したいと思っていたとのこと。
ヒョンビンと共演した韓国映画『レイトオータム』(2010年/監督:キム・テヨン)も印象深いです。
パク・チャヌク監督が、本作にもう一つ取り入れたいと思っていたのが、60年代後半に大ヒットした「霧」という 歌。実直な刑事が、夫を殺したのではないかと疑いながらも、ソレに惹かれていき、ソレもまた彼に惹かれていく様が、「霧」の歌と共に情感たっぷりに心に残りました。(咲)
2022年/韓国/シネマスコープ/138分
提供:ハピネットファントム・スタジオ、WOWOW
配給:ハピネットファントム・スタジオ
公式HP:https://happinet-phantom.com/wakare-movie/
★2023年2 月 17 日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
呪餐 悪魔の奴隷 原題:Pengabdi Setan 2: Communion 英題:Satan's Slaves:Communion
監督・脚本:ジョコ・アンワル
出演:タラ・バスロ、エンディ・アルフィアン、ネイサー・アヌズ、ブロント・パララエ
1955年4月17日。西ジャワ州レンバン。
車で連行される記者証を持つ男。着いた先には知人の少佐。建物の中をみてほしいという。墓から出された無数の遺体が並んでいる。誰の仕業かわからない。明日はアジアアフリカ会議が開かれる大事な日。警察は呼べない。都市伝説として世に伝えてくれと頼まれる。
1984年4月15日。ジャカルタ。
大学を中退し働くリニは、再び翌日から大学に通えることになる。一緒に暮らしている父や弟二人とは離れて暮らすことになる。
バスに乗り、町はずれの国営アパートに帰る。バスの中で見かけた新聞には「連続殺人鬼に注意」の大きな見出し。数年にわたり2000人も殺している殺人犯が捕まっていないのだ。
4月16日。大嵐到来の予報。
14階建てのアパートのエレベーターで落下事故が起こり、10人が犠牲になる。リニの父は重傷を負うが助かる。嵐が上陸し、アパートの1階が浸水してしまう。孤立してしまい、遺体の埋葬もできない。停電で暗い中、アパートの中を見回るリニたち。事務所で、毎年4月17日に撮影された写真を見つける・・・・
冒頭、建物の中に整然と並べられたたくさんの遺体に、まず度肝を抜かれました。いったい誰の仕業だったのか謎のまま、時は流れます。
本作は、1980 年代にイスラーム圏で最も恐いホラー映画として話題を集めたインドネシア映画『夜霧のジョギジョギモンスター』をリメイクし、2017 年インドネシア映画の観客動員数1位を記録(420 万人)した『悪魔の奴隷』の4 年後が舞台。母と祖母を亡くし、末弟のイアンも行方不明のままジャカルタの北部にある高層アパートに越してきたリ二とその家族の物語。『悪魔の奴隷』を観ていないのですが、本作だけでも充分理解できました。
「ラーイラーハイッラーッラー(アッラーの他に神はなし)」と唱えながら、白い布で亡くなった男性を包む光景に興味津々。暗い中、電灯を持って見回ると、クルアーンの一節を唱えながらご遺体のそばで悼む姿も。これは不気味といっては失礼になりますが、ちょっとぞくっとしてしまいます。
西ジャワ州レンバンってどこ?と地図で検索してみました。
1955年4月18日に第一回アジアアフリカ会議(通称バンドン会議)が開催されたバンドンのすぐ近くの高地でした。
冒頭で連れていかれた建物に見覚えがある・・・と思ったのですが、レンバンのボスカ天文台のようです。2018年のイスラーム映画祭3で上映された『イクロ クルアーンと星空』に出てきたものでした。バンドン工科大学のサルマン・モスクが作った映画です。
イスラーム映画祭『イクロ クルアーンと星空』突然の主演女優登壇にびっくりの巻(咲)
さて、おぞましい連続殺人事件は、どうやらラミノムというカルト教団と関係があることが明かされていきます。目に見える怖さよりも、人の心をあやつる教団の恐ろしさにぞくっとさせられました。インドネシアらしいムーディな音楽も心に沁みました。ホラー映画と怖がらずに、ぜひご覧ください。(咲)
2022年/インドネシア/インドネシア語/119分/シネスコ/5.1ch
字幕:藤本聡
配給:アルバトロス・フィルム
公式サイト:http://jusan-movie.jp/
★2023年2月17日(金)より、全国ロードショー
TOCKA タスカー
監督:鎌田 義孝
脚本:加瀬仁美、鎌田義孝
撮影:西村博光
出演:金子清文(谷川章二)、菜葉菜(本多早紀)、佐野弘樹(大久保幸人)、松浦祐也、川瀬陽太、足立正生
北海道、オホーツク海沿岸の街。ロシア人相手の中古電器店を営んでいる谷川章二は、経営に行き詰まり、妻子に去られ、生きる意欲をなくしていた。自殺では娘に保険金を残せないと、誰か自分を殺してくれないかと自殺サイトに投稿する。
本多早紀は夢破れて東京を引き上げ、ふるさとに戻ってきた。結婚するつもりだった相手とも別れて一人になったが、本当のことを母に打ち明けるつもりもない。
廃品回収会社に勤める大久保幸人は、詐欺まがいの仕事に嫌気もさしていたが、病気の母や妊娠中の妹のためにやめることもできない。収入のないときは、よその家から灯油を盗んで売ってのその日暮らしを続けている。
自殺サイトで知り合った章二と早紀が知り合い、深夜の空き地である作業中に不法投棄にやってきた幸人と鉢合わせしてしまった。
まだ生きたいと願う人の映画の後に、死にたいと思う人が主人公の作品紹介を書いています。何もかも無くしたと思ってもまだ命はあるのに。絶望すると”あるもの”に気づく余裕がなくなるんですね。世の中ままなりません。
オホーツク海沿岸は延々と道路が続き、人や車もまばらです。冬はいっそう寂しいのですが、都会に慣れた人の目には自然が豊かで雄大とも見えます。そんな風景の中で、詰んでしまった3人が出会い、保険金を残して死にたいという谷川章二の願いを果たそうとします。悲劇も過ぎれば滑稽さが見えてきて、ところどころ突っ込みたくなります。菜葉菜さん佐野弘樹さんが金子清文さんの闇を照らす光(?)になっていました。
章二の父役は昨年『REVOLUTION+1』が公開になった(3月11日より再上映)足立正生監督!どんな関わりでここに?
タイトルの「TOCKA(タスカー)」はロシア語で「憂鬱」「憂愁」「絶望」を意味し、その反意として「憧れ」「未だ見ぬものへの魂の探求」などの解釈がある、そうです。(白)
2022年/日本/カラー/119分
配給:鎌田フィルム
(C)2022 KAMADA FILM
https://tocka-movie.com/
★2023年2月18日(土)よりユーロスペースほか順次ロードショー
「生きる」大川小学校 津波裁判を闘った人たち
監督:寺田和弘
撮影:藤田和也 山口正芳
プロデューサー:松本裕子
主題歌:廣瀬奏「駆けて来てよ」
協力:大川小学校児童津波被災遺族原告団 吉岡和弘 齋藤雅弘
2011年3月11日に起こった東日本大震災で、宮城県石巻市の大川小学校は津波にのまれ、全校児童の7割に相当する74人の児童(うち4人は未だ行方不明)と10人の教職員が亡くなった。地震発生から津波が学校に到達するまで約51分、ラジオや行政防災無線で津波情報は学校側にも伝わりスクールバスも待機していた。にもかかわらず、この震災で大川小学校は唯一多数の犠牲者を出した。この惨事を引き起こした事実・理由を知りたいという親たちの切なる願いに対し、行政の対応には誠意が感じられず、その説明に嘘や隠ぺいがあると感じた親たちは真実を求め、石巻市と宮城県を被告にして国家賠償請求の裁判を提起した。彼らは、震災直後から、そして裁判が始まってからも記録を撮り続け、のべ10年にわたる映像が貴重な記録として残ることになっていく——
このニュースを聞いたときに、一番に浮かんだのは「どうして?」でした。待機などせずに、なぜ1分でも早く裏山に駆け上がらなかったの?と疑問がわきました。私でさえそうなのですから、子どもたちを亡くした親ごさんたちの想いは何倍も痛切であったはずです。
なぜ死ななければならなかったのか?あのとき何があったのか、本当のことが知りたい、と願う遺族の代理人を務めたのは吉岡和弘、齋藤雅弘の両弁護士。遺族の方々は話し合いの始まりから、映像を残していきます。子どもたちが裏山に逃げたとしたら、何分かかるのか。実際に駆け上がっては記録します。ひとつひとつ検証していく様子が目の前にあります。誰もが被災し大切な家族を失った中、訴訟を起こしたことで、「金目当てか」などあらぬ誹謗中傷も受けます。
仙台高裁で原告勝訴、その最高裁まで上告されましたが、却下。被害者に寄り添った判決は確定しました。原告団がのべ10年間の膨大な記録を残そうと、寺田和弘監督の撮影した映像も追加して、ドキュメンタリーとしてまとめられました。貴重な記録です。
親は学校を信頼し、子どもたちを送り出します。学校で子どもたちが傷ついたり、ましてや命を落とすなど思ってもみません。災害だけでなく、いじめや事故や事件など、学校でおきることのないよう学校は子どもたちを守ってください。先生方が疲弊しないよう、教育委員会や県や文科省は、子どもと先生と学校を支えてください。(白)
2022年/日本/カラー/シネスコ/124分
配給:きろくびと
(C)2022 PAO NETWORK INC.
https://ikiru-okawafilm.com/
★2023年2月18日(土)より新宿K’s cinemaほか全国順次公開
いつかの君にもわかること(原題:Nowhere Special)
監督・脚本:ウベルト・パゾリーニ
撮影:マリウス・パンドゥル
出演:ジェームズ・ノートン(ジョン)、ダニエル・ラモント(マイケル)、アイリーン・オヒギンズ(ショーナ)
33歳のジョンはシングルファーザー。窓拭き清掃員として働き、4歳の息子マイケルを育てている。ジョンには大きな気がかりがあった。不治の病のため余命はあとわずか。一人残されるマイケルを安心して託せる”新しい家族”をさがさなければならない。養子縁組の相談をして、何組もの候補を面会をするが、これと思う人に出会えない。ソーシャルワーカーのショーナは、そんなジョンとマイケルのために献身的に寄り添う。
忘れられない傑作『おみおくりの作法』(2013)のウベルト・パゾリーニ監督の最新作。『おみおくりの作法』は日本でも阿部サダヲ主演で『アイ・アム まきもと』としてリメイク、昨年9月に公開されています。パゾリーニ監督は原作&エグゼクティブプロデューサーとして名を連ねています。
今度の作品は、幼い息子マイケルと父親ジョンのストーリー。ジョンは残り少なくなる時間に追われながら新しい家族を探すものの、どの家族も”帯に短したすきに長し”で次第に焦ってきます。つい周りにあたってしまう自分も許せません。
映画初出演のダニエル・ラモント演じるこのマイケルくんが実に可愛くて、こちらまで「良い人に会えますように」と彼の幸せを願ってしまいます。父役のジェームズ・ノートンは撮影前から彼と過ごして、ほんとの親子のような信頼関係を築いたのだとか。
何組もの親候補の中から、あなたなら誰に託しますか? 私はジョンの選択と同じでした。(白)
オフでも仲良しの2人
2020年/イタリア・ルーマニア・イギリス合作/カラー/95分
配給:キノフィルムズ
(C)2020 picomedia srl digital cube srl nowhere special limited rai cinema spa red wave films uk limited avanpost srl.
https://kinofilms.jp/movies/nowhere-special/
★2023年2月17日(金)YEBISU GARDEN CINEMA他にて公開
2023年02月05日
小さき麦の花 原題:隠入塵煙 英題:Return to Dust
2023年2月10日(金)YEBISU GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開 劇場情報
土から生まれ、土とともに生きる
監督:リー・ルイジュン
製作:チャン・ミン リー・イェン
製作総指揮:シャン・ホー
出演
ウー・レンリン:馬有鉄(マー・ヨウティエ)
ハイ・チン:貴英(ツァオ・クイイン)
ヤン・クアンルイ:チャン・ヨンフーの息子ヤン・クアンルイ
チャオ・トンピン:マー・ヨウトン
2011年、中国西北部の農村。貧しい農民有鉄(ヨウティエ=ウー・レンリン)は兄の家に同居しているが、兄の息子を結婚させるための厄介払いのため、障がいのある内気なクイイン(ハイ・チン)と見合い、結婚させられた。
互いに家族の厄介者だったふたりだが、やがて、互いを慈しみ力を合わせ、作物を育て、質素な家を作り、慎ましくも協力して日々を生きるのだが、自然の猛威や変わりゆく時代の波にさらされる…。
クイインは初めて会ったその日からヨウティエの優しさに気付いていたと話す。
ヨウティエとクイイン、それに心強いロバとの毎日の生活と暮らし。力を合わせ毎日懸命に働き、ついに自分の家をもった。だが、その幸福は長くは続かなかった…。
中国で公開されると、レビューサイトで本年度中国映画ベスト1の評価をされじわじわ広がり、公開2ヶ月経ってからTikTokが火付け役になり、若い世代を中心に興行収入トップに躍り出る大ヒットを記録し、<奇跡の映画>とまで呼ばれたという。
自分たちにのしかかってくる境遇を淡々と受け入れ、貧しくも、農作業から家を作ることまで、自分でできることを黙々と続ける有鉄。障害をもちつつも、そんな夫を手伝う貴英。ふたりの慎ましい生活が淡々と描かれる作品だけど、農村の美しい風景の中、厳しい労働と、お互いを思いやる二人の姿に癒される。そんなところが、中国の人たちにも受けたのだろう。それにしても、こういう地味な映画がヒットするというのは珍しい。そういうこともあるんですね(暁)。
オフィシャルサイト
2022年製作/133分/G/中国
配給:マジックアワー、ムヴィオラ
土から生まれ、土とともに生きる
監督:リー・ルイジュン
製作:チャン・ミン リー・イェン
製作総指揮:シャン・ホー
出演
ウー・レンリン:馬有鉄(マー・ヨウティエ)
ハイ・チン:貴英(ツァオ・クイイン)
ヤン・クアンルイ:チャン・ヨンフーの息子ヤン・クアンルイ
チャオ・トンピン:マー・ヨウトン
2011年、中国西北部の農村。貧しい農民有鉄(ヨウティエ=ウー・レンリン)は兄の家に同居しているが、兄の息子を結婚させるための厄介払いのため、障がいのある内気なクイイン(ハイ・チン)と見合い、結婚させられた。
互いに家族の厄介者だったふたりだが、やがて、互いを慈しみ力を合わせ、作物を育て、質素な家を作り、慎ましくも協力して日々を生きるのだが、自然の猛威や変わりゆく時代の波にさらされる…。
クイインは初めて会ったその日からヨウティエの優しさに気付いていたと話す。
ヨウティエとクイイン、それに心強いロバとの毎日の生活と暮らし。力を合わせ毎日懸命に働き、ついに自分の家をもった。だが、その幸福は長くは続かなかった…。
中国で公開されると、レビューサイトで本年度中国映画ベスト1の評価をされじわじわ広がり、公開2ヶ月経ってからTikTokが火付け役になり、若い世代を中心に興行収入トップに躍り出る大ヒットを記録し、<奇跡の映画>とまで呼ばれたという。
自分たちにのしかかってくる境遇を淡々と受け入れ、貧しくも、農作業から家を作ることまで、自分でできることを黙々と続ける有鉄。障害をもちつつも、そんな夫を手伝う貴英。ふたりの慎ましい生活が淡々と描かれる作品だけど、農村の美しい風景の中、厳しい労働と、お互いを思いやる二人の姿に癒される。そんなところが、中国の人たちにも受けたのだろう。それにしても、こういう地味な映画がヒットするというのは珍しい。そういうこともあるんですね(暁)。
オフィシャルサイト
2022年製作/133分/G/中国
配給:マジックアワー、ムヴィオラ
崖上のスパイ 原題:懸崖之上 英題: Cliff Walkers
2023年2月10日(金)より新宿ピカデリー他全国公開 劇場情報
1930年代の満州を舞台に、張芸謀が初めて挑むスパイサスペンス
監督:チャン・イーモウ
脚本:チュアン・ヨンシェン チャン・イーモウ
撮影:チャオ・シャオティン
出演
チャン・イー:張憲臣(チャン・シエンチェン)
ユー・ホーフェイ:周乙(ジョウ・イー)
チン・ハイルー:王郁(ワン・ユー)
リウ・ハオツン:小蘭(シャオラン)
朱亜文(チュウ・ヤーウェン):楚良(チュー・リャン)
リー・ナイウェン
ニー・ダーホン
ユー・アイレイ
1934年冬の満州国のハルビン。ソ連で特殊訓練を受けた男女4人の共産党スパイ・チームが、極秘作戦“ウートラ計画”を実行するため現地に潜入。ウートラ計画とは、秘密施設から逃れた同胞を国外に脱出させ、日本軍の蛮行を世界に知らること。だが、仲間の裏切りで、そのミッションは共産党の天敵である特務警察に察知されてしまった。特務の執拗な追跡と罠により、ついにはリーダーの張憲臣(チャン・シエンチェン)が特務の手に落ちてしまう。残された王郁(ワン・ユー)、楚良(チュー・リャン)、小蘭(シャオラン)の3人と、彼らの協力者となった周乙(ジョウ・イー)は、八方塞がりの危機を突破し、命がけのミッションを完遂できるのか…。
*ウートラとは(ロシア語で"夜明け"の意味)
監督は、1987年『紅いコーリャン』でデビュー、ベルリン国際映画祭金獅子賞を受賞し、中国第5世代の才能として世界的な脚光を浴びた張芸謀(チャン・イーモウ)。『紅夢』『上海ルージュ』『初恋のきた道』その後も色彩(特に紅色)の魔術師と呼ばれる作品群を作りだし、高度な芸術性と娯楽性に富んだ作品群を世に送り出してきた。さらに、2008年夏季と2022年冬季の北京オリンピックで開会式、閉会式の総監督を務めるなど活躍をしてきた張芸謀監督が初めてスパイ・サスペンスに挑んだ。
雪のハルビンを舞台に、列車内の攻防、市街地での激烈なチェイス、銃撃戦など息づまる見せ場が満載のスタイリッシュな映像の数々。
スパイたちの信念と特務警察の威信をかけた騙し合いの果てにたどり着いた、崖っぷちの彼らの運命は…。中国のアカデミー賞と言われる2021年金鶏奨で監督賞、主演男優賞(チャン・イー)、撮影賞を受賞。
出演は『山河ノスタルジア』や、張芸謀監督前作の「ワン・セカンド 永遠の24フレーム」に主演のチャン・イー、『わたしは潘金蓮じゃない』のユー・ホーフェイ、『ドリアン ドリアン』のチン・ハイルー、『1950 鋼の第7中隊』のチュー・ヤーウェン、『ワン・セカンド 永遠の24フレーム』のリウ・ハオツン。
張芸謀監督が手掛けた「スパイ・サスペンス」映画。いかにも張芸謀監督らしいスタイリッシュな映画。雪をうまく使った映像は、張芸謀監督お得意の紅色を使ったものとは違い、白黒の対比という感じで、色彩のシンプルさと、力強さ、闇の世界を表していたように思います。
工作員(スパイ)の任務に対する信念と中国特務警察の威信をかけた戦いが描かれるわけだけど、日中戦争の時代なのに、この映画には日本人は一人も出てこない。共産党の工作員と中国の特務警察とのせめぎ合い。あくまで中国人同士の戦いが描かれる。中国特務警察というのが日本の手先なのか? その辺がよくわからなかった。それはなぜなのか。それによって得られるものはなんなのか。
『ワン・セカンド 永遠の24フレーム』の時は、まだ子供だったリウ・ハオツン。やっぱりスパイとしては幼すぎるでしょ。でも、日本軍も沖縄戦の時、子供がスパイに仕立て上げられたということがあったから、ま、ありか。
最後、これまた張芸謀らしい。スパイ・アクション映画ながら、チャンとワン・ユー夫妻の人情味ある部分が描かれる(暁)。
写真クレジット:©2021 Emperor Film and Entertainment (Beijing) Limited Emperor Film Production Company Limited China Film Co., Ltd. Shanghai Film (Group) Co.,Ltd. All Rights Reserved
2021年製作/120分/PG12/中国
配給:アルバトロス・フィルム
1930年代の満州を舞台に、張芸謀が初めて挑むスパイサスペンス
監督:チャン・イーモウ
脚本:チュアン・ヨンシェン チャン・イーモウ
撮影:チャオ・シャオティン
出演
チャン・イー:張憲臣(チャン・シエンチェン)
ユー・ホーフェイ:周乙(ジョウ・イー)
チン・ハイルー:王郁(ワン・ユー)
リウ・ハオツン:小蘭(シャオラン)
朱亜文(チュウ・ヤーウェン):楚良(チュー・リャン)
リー・ナイウェン
ニー・ダーホン
ユー・アイレイ
1934年冬の満州国のハルビン。ソ連で特殊訓練を受けた男女4人の共産党スパイ・チームが、極秘作戦“ウートラ計画”を実行するため現地に潜入。ウートラ計画とは、秘密施設から逃れた同胞を国外に脱出させ、日本軍の蛮行を世界に知らること。だが、仲間の裏切りで、そのミッションは共産党の天敵である特務警察に察知されてしまった。特務の執拗な追跡と罠により、ついにはリーダーの張憲臣(チャン・シエンチェン)が特務の手に落ちてしまう。残された王郁(ワン・ユー)、楚良(チュー・リャン)、小蘭(シャオラン)の3人と、彼らの協力者となった周乙(ジョウ・イー)は、八方塞がりの危機を突破し、命がけのミッションを完遂できるのか…。
*ウートラとは(ロシア語で"夜明け"の意味)
監督は、1987年『紅いコーリャン』でデビュー、ベルリン国際映画祭金獅子賞を受賞し、中国第5世代の才能として世界的な脚光を浴びた張芸謀(チャン・イーモウ)。『紅夢』『上海ルージュ』『初恋のきた道』その後も色彩(特に紅色)の魔術師と呼ばれる作品群を作りだし、高度な芸術性と娯楽性に富んだ作品群を世に送り出してきた。さらに、2008年夏季と2022年冬季の北京オリンピックで開会式、閉会式の総監督を務めるなど活躍をしてきた張芸謀監督が初めてスパイ・サスペンスに挑んだ。
雪のハルビンを舞台に、列車内の攻防、市街地での激烈なチェイス、銃撃戦など息づまる見せ場が満載のスタイリッシュな映像の数々。
スパイたちの信念と特務警察の威信をかけた騙し合いの果てにたどり着いた、崖っぷちの彼らの運命は…。中国のアカデミー賞と言われる2021年金鶏奨で監督賞、主演男優賞(チャン・イー)、撮影賞を受賞。
出演は『山河ノスタルジア』や、張芸謀監督前作の「ワン・セカンド 永遠の24フレーム」に主演のチャン・イー、『わたしは潘金蓮じゃない』のユー・ホーフェイ、『ドリアン ドリアン』のチン・ハイルー、『1950 鋼の第7中隊』のチュー・ヤーウェン、『ワン・セカンド 永遠の24フレーム』のリウ・ハオツン。
張芸謀監督が手掛けた「スパイ・サスペンス」映画。いかにも張芸謀監督らしいスタイリッシュな映画。雪をうまく使った映像は、張芸謀監督お得意の紅色を使ったものとは違い、白黒の対比という感じで、色彩のシンプルさと、力強さ、闇の世界を表していたように思います。
工作員(スパイ)の任務に対する信念と中国特務警察の威信をかけた戦いが描かれるわけだけど、日中戦争の時代なのに、この映画には日本人は一人も出てこない。共産党の工作員と中国の特務警察とのせめぎ合い。あくまで中国人同士の戦いが描かれる。中国特務警察というのが日本の手先なのか? その辺がよくわからなかった。それはなぜなのか。それによって得られるものはなんなのか。
『ワン・セカンド 永遠の24フレーム』の時は、まだ子供だったリウ・ハオツン。やっぱりスパイとしては幼すぎるでしょ。でも、日本軍も沖縄戦の時、子供がスパイに仕立て上げられたということがあったから、ま、ありか。
最後、これまた張芸謀らしい。スパイ・アクション映画ながら、チャンとワン・ユー夫妻の人情味ある部分が描かれる(暁)。
写真クレジット:©2021 Emperor Film and Entertainment (Beijing) Limited Emperor Film Production Company Limited China Film Co., Ltd. Shanghai Film (Group) Co.,Ltd. All Rights Reserved
2021年製作/120分/PG12/中国
配給:アルバトロス・フィルム
コンパートメントNo.6 原題:Hytti nro 6 英題:Compartment Number 6
監督・脚本:ユホ・クオスマネン(『オリ・マキの人生で最も幸せな日』)
原作:ロサ・リクソム フィンランディア文学賞受賞「Compartment No.6」
出演:セイディ・ハーラ、ユーリー・ボリソフ、ディナーラ・ドルカーロワ(『動くな、死ね、甦れ!』)、ユリア・アウグ
1990年代後半のモスクワ。フィンランドから留学中の学生ラウラ。彼女は、北の果の地にある古代のペトログリフ(岩面彫刻)を恋人と一緒に観に行く計画を立てるがドタキャンされる。一人でムルマンスク行き寝台列車6号コンパートメントに乗り込むと、向かいの寝台のすでに酔っ払ったロシア青年リョーハが話しかけてくる。ラウラがフィンランド人だと知ると、ロシア自慢された上、「この列車で売春しているのか?」と言われる。耐え切れず、サンクトペテルブルクで引き返すことも考えるが、結局、旅を続ける。粗野な同乗者リョーハとの関係は改善されるのか? そして、ラウラはペトログリフを無事観ることができるのか・・・
『オリ・マキの人生で最も幸せな日』で、ボクサーが大事な世界タイトルマッチの日に婚約指輪を買いにいってしまった話を、ほっこりと描いたユホ・クオスマネン監督の作品。
ロサ・リクソムの小説「Compartment No.6」を作家本人の承諾を得て、自由に翻案した物語。
寝台列車で同じコンパートメントで長旅をすることになった青年と、最悪な出会いだったけれど恋に発展するなどという柔な話でないことは、ラウラの回想場面で、ドタキャンした恋人が、イリーナという女性の教授だったことからも想像がつきます。それでも、ラウラが憧れる教養あるインテリとは正反対の労働者階級のリョーハと、次第に微妙に心を通わせていく過程が見て取れて、さて、その先どうなる?と思わせてくれました。
寝台列車での長旅。若い頃にはシベリア鉄道の旅に憧れたものですが、何日も列車で過ごすのは大変。しかも、同乗者が気に食わない相手だとしたら、途中で逃げ出したくても逃げられない!
かつて、ソ連時代にモスクワに駐在していた方が、寝台列車を予約すると、名前がロシア語的には女性に思われてしまって、いつも女性と同じコンパートメントになってしまうと嘆いていらしたのを思い出しました。日本では、男女別にするなどということはしないのですが、ソ連では一応男女別を配慮していたのだと思いました。
若い頃、旅をしていて対面式の席の列車では、よく同乗した知らない方とお話したのを思い出しました。新幹線や特急列車では、隣の席の方とお話することも少なくなってしまいました。
本作では、寝台列車の食堂車も出てきて、旅心を誘われます。
北極圏にある古代のペトログリフ(岩面彫刻)にも興味津々。地球には、深い歴史があることを思いました。
列車で乗り合わせた最初の頃に、フィンランド語で「愛してる」は何と言うかと聞かれたラウラは、リョーハの態度が不愉快だったので、汚い言葉を愛してるだと教えてしまいます。これがその後どう使われるかも見どころです。(咲)
アカデミー賞(R)国際長編映画賞フィンランド代表選出
ゴールデングローブ賞ノミネート
フィンランド・アカデミー賞(ユッシ賞)7冠ほか世界中の映画賞を席巻!
2021年/フィンランド=ロシア=エストニア=ドイツ/ロシア語・フィンランド語/107分/カラー/シネスコサイズ
後援:フィンランド大使館
配給:アット エンタテインメント
公式サイト:https://comp6film.com/
★2023年2月10日(金)、新宿シネマカリテほか全国順次公開
バビロン 原題:BABYLON
監督・脚本:デイミアン・チャゼル(『ラ・ラ・ランド』)
出演:ブラッド・ピット、マーゴット・ロビー、ディエゴ・カルバ、ジーン・スマート、ジョヴァン・アデポ、リー・ジュン・リー、P・J・バーン、ルーカス・ハース、オリヴィア・ハミルトン、トビー・マグワイア、マックス・ミンゲラ、ローリー・スコーヴェル、キャサリン・ウォーターストン、フリー、ジェフ・ガーリン、エリック・ロバーツ、イーサン・サプリ―、サマラ・ウィーヴィング、オリヴィア・ワイルド
1920年代のハリウッド。毎夜、豪華な邸宅でゴージャスでクレイジーなパーティが開かれ、映画界で成功したいと思う者たちが詰めかけていた。サイレント映画の大スター、ジャック(ブラッド・ピット)は、なんといっても主役だ。ある夜、スターを夢見る新人女優ネリー(マーゴット・ロビー)は、呼ばれてもいないパーティに果敢にも忍び込み大胆な行動に出る。そんなネリーと運命的に出会った映画製作を夢見る青年マニー(ディエゴ・カルバ)は、ほのかな恋心を抱く。恐れ知らずのネリーは女優としてスター街道を駆け上がり、マニーもまた、ジャックの助手として歩みだす。やがて、サイレント映画からトーキーへと時代は移り、映画界は大きな変革を求められる。
大スターだったジャックは声が顔とイメージが合わないと言われてしまう。一方、毎晩、パーティでトランペットを吹いていた黒人のシドニー・パーマー(ジョヴァン・アデポ)は、音楽が必要になったトーキー映画に出演するようになり、やがてスターに押し上げられる・・・
バビロンといえば、バビロン捕囚で有名なメソポタミアの古代都市がまず思い浮かび、さらに、ブラピが出ていて、デイミアン・チャゼル監督の作品とあって、いそいそと試写に出かけました。
冒頭、ディエゴ・カルバ演じるマニーが、荒野の坂道を大きな象を運んでいく場面で始まり度肝を抜かれます。映画人の集まるパーティにサプライズで登場させる為の象! 狂気の沙汰です。
ブラピ演じるジャックは貫禄たっぷり。そんな彼が、トーキーの時代になって、自身の黄昏を感じる時の寂し気な表情がまたいいです。そんなブラピよりも、印象に強く残ったのが、ディエゴ・カルバ。映画を作りたいという夢を実現させていく青年を素敵に演じています。大胆な行動で主演女優の座を手に入れるネリー役のマーゴット・ロビーも光っていましたが、ハリウッドのゴシップに精通したコラムニストのエリノア・セント・ジョンを演じたジーン・スマーの存在感も忘れられません。
スポットライトを当てられるようになったトランぺッターのシドニーが、ジャズバンドのほかのメンバーに比べて色が白いと、靴墨を塗るように言われる場面がありました。スターになっても味わう屈辱・・・
ハリウッドが、サイレント映画からトーキーへと移り変わった時代に、どんな物語が繰り広げられたのかを垣間見ることのできる壮大な映画です。
さて、バビロンというタイトルが意味するのは? 混沌とした状態でしょうか・・・ (咲)
☆第80回ゴールデングローブ賞 作曲賞受賞(ジャスティン・ハーウィッツ)
2022年/アメリカ/189分/スコープサイズ
字幕:松浦美奈
配給:東和ピクチャーズ
公式サイト:https://babylon-movie.jp/
★2023年2月10日(金)全国ロードショー
2023年02月04日
エゴイスト
監督:松永大司
原作:高山真
脚本:松永大司 狗飼恭子
撮影:池田直矢
音楽:世武裕子
出演:鈴木亮平(斉藤浩輔)、宮沢氷魚(中村龍太)、中村優子(斉藤しず子役)、 和田庵(中学時代の浩輔)、ドリアン・ロロブリジーダ(浩輔の友人)、 柄本明(斉藤義夫)、阿川佐和子(中村妙子)
ファッション誌の編集者をしている浩輔は14歳で母を亡くした。田舎町で自分がゲイであることを隠して育ち、上京してからは自由に生きることができた。不摂生な身体を絞ろうとパーソナルトレーナーを頼むと、やってきたのが中村龍太だった。身体の弱い母親を長く支え、仕事を掛け持ちして働く龍太を見て、彼を応援したくなる浩輔。龍太も浩輔を信頼し、2人は互いにかけがえのない相手となっていく。浩輔は亡くなった自分の母への想いを龍太の母に重ね、3人で仲睦まじい時間を過ごす。しかしドライブを約束した日、龍太の母から電話がある。
松永大司監督の最新作。高山真さんの原作を自宅で読みました。正解。電車の中で読んだりしたら涙で困っていたはずです。高山真さんはこの本を残して、2020年10月に癌で亡くなられてしまいました。この作品を観たらどんなにか喜ばれたでしょう。
鈴木亮平さん、宮沢氷魚さん二人とも素晴らしくカッコよく、氷魚さん天使のようです。田舎に戻るときの浩輔はハイブランドの服を鎧のようにまとっています。龍太に出会ってからそんな力みを捨てて、龍太の喜ぶことを選ぶようになるのがもう誠実。二人の幸せそのものの笑顔が尊い。
このいい男たち二人に慕われる阿川佐和子さん、愛情深く料理上手な母、妙子さんに自然体でなりきっています。松永監督はワンシーン、ワンカットの長回しを好んで使うので、カットがかかるまで演技が続きます。その間ずっと亮平さん氷魚さんを相手に会話を続けた阿川さん、尊敬です。松永監督が心を砕いたとおり、美しくて優しい映画です。浩輔の愛がエゴだったのか、そうでなかったのか、始まりとラストに出るタイトルへの感覚がきっと変わるはず。(白)
2023年/日本/カラー/シネスコ/120分/R15+
配給:東京テアトル
(C)2023 高山真・小学館/「エゴイスト」製作委員会
https://egoist-movie.com/
https://twitter.com/egoist_movie
★2023年2月10日(金)テアトル新宿ロードショー
原作:高山真
脚本:松永大司 狗飼恭子
撮影:池田直矢
音楽:世武裕子
出演:鈴木亮平(斉藤浩輔)、宮沢氷魚(中村龍太)、中村優子(斉藤しず子役)、 和田庵(中学時代の浩輔)、ドリアン・ロロブリジーダ(浩輔の友人)、 柄本明(斉藤義夫)、阿川佐和子(中村妙子)
ファッション誌の編集者をしている浩輔は14歳で母を亡くした。田舎町で自分がゲイであることを隠して育ち、上京してからは自由に生きることができた。不摂生な身体を絞ろうとパーソナルトレーナーを頼むと、やってきたのが中村龍太だった。身体の弱い母親を長く支え、仕事を掛け持ちして働く龍太を見て、彼を応援したくなる浩輔。龍太も浩輔を信頼し、2人は互いにかけがえのない相手となっていく。浩輔は亡くなった自分の母への想いを龍太の母に重ね、3人で仲睦まじい時間を過ごす。しかしドライブを約束した日、龍太の母から電話がある。
松永大司監督の最新作。高山真さんの原作を自宅で読みました。正解。電車の中で読んだりしたら涙で困っていたはずです。高山真さんはこの本を残して、2020年10月に癌で亡くなられてしまいました。この作品を観たらどんなにか喜ばれたでしょう。
鈴木亮平さん、宮沢氷魚さん二人とも素晴らしくカッコよく、氷魚さん天使のようです。田舎に戻るときの浩輔はハイブランドの服を鎧のようにまとっています。龍太に出会ってからそんな力みを捨てて、龍太の喜ぶことを選ぶようになるのがもう誠実。二人の幸せそのものの笑顔が尊い。
このいい男たち二人に慕われる阿川佐和子さん、愛情深く料理上手な母、妙子さんに自然体でなりきっています。松永監督はワンシーン、ワンカットの長回しを好んで使うので、カットがかかるまで演技が続きます。その間ずっと亮平さん氷魚さんを相手に会話を続けた阿川さん、尊敬です。松永監督が心を砕いたとおり、美しくて優しい映画です。浩輔の愛がエゴだったのか、そうでなかったのか、始まりとラストに出るタイトルへの感覚がきっと変わるはず。(白)
2023年/日本/カラー/シネスコ/120分/R15+
配給:東京テアトル
(C)2023 高山真・小学館/「エゴイスト」製作委員会
https://egoist-movie.com/
https://twitter.com/egoist_movie
★2023年2月10日(金)テアトル新宿ロードショー
銀平町シネマブルース
監督:城定秀夫
脚本:いまおかしんじ
撮影:渡邊雅紀
音楽:黒田卓也
出演:小出恵介(近藤猛)、吹越満(梶原啓司)、宇野正平(佐藤伸夫)、藤原さくら(足立エリカ)、日高七海(大崎美久)、中島歩(渡辺健介)、黒田卓也(白川はじめ)、木口健太(那須ヒロシ)、小野莉奈(谷内由里子)、平井亜門(高杉良太郎)、守屋文雄(監督)、関町知弘(木村章)、小鷹狩八(川本守)、さとうほなみ(二ノ宮一果)、谷田ラナ(二ノ宮ハル)、加治将樹(桑名洋平)、片岡礼子(高杉弥生)、藤田朋子(桐谷陽子)、浅田美代子(黒田新子)、渡辺裕之(谷口章雄)
ふらふらと銀平町にたどり着いた近藤猛。元映画監督だったが、今は妻子にも去られて仕事もない。借金のあてもなくなり公園で寝泊りする始末。映画好きの路上生活者・佐藤との出会いをきっかけに、銀平スカラ座の梶原支配人と知り合う。支配人は近藤の窮状を見てアルバイトに雇ってくれた、寝るところと仕事ができて近藤はようやくひといきつく。スカラ座の同僚や常連客は、運営状態の良くない映画館を心配している。彼らと日々過ごすうち、近藤はこれまで逃げ続けてきた自分と向き合い始めるようになった。
元監督の近藤は尾羽打ち枯らし、貧困ビジネスに食い物にされそうになったりします。浅田美代子さんがそこの代表、なんだかミスマッチでおかしいのは、いまだミヨちゃんのイメージが残っているからかも。
スカラ座で巡り合った面々は親身に心配してくれて、近藤は少しずつ変わります。彼らの共通項は、もちろん映画が好きなこと。映画の楽しさを知って、俳優になろうと思った、スタッフを目指した、映画館に勤めた…そちらには行かなかったけれど、大切な思い出のしみ込んだ場所だ、という方々は多いことでしょう。
ロケ場所となったのは、埼玉県川越市にある老舗の川越スカラ座。イベントも多く、現役営業中です。出演者もいっぱいです。資料にあるだけ書きました。スタッフさんごめんなさい。「監督:城定秀夫&脚本:いまおかしんじ」の作品です。期待を裏切りません。公式HPに寄せられた全国のミニシアター代表・支配人の言葉にうんうんとうなずいてしまいました。(白)
2022年/日本/カラー/99分
配給:SPOTTED PRODUCTIONS
(C)2022「銀平町シネマブルース」製作委員会
https://g-scalaza.com/
★2023年2月日(金)ロードショー
Sin Clock
監督・脚本:牧賢治
撮影:四方田俊則、田中彰哉
音楽:尾嶋優
出演:窪塚洋介(高木シンジ)、坂口涼太郎(番場ダイゴ)、葵揚(坂口キョウ)、橋本マナミ(ユカ)、田丸麻紀(サチコ)、Jin Dogg(ヤス)、長田庄平(成田)、般若(ヒットマン)、藤井誠士(チバ)、風太郎(世良)、蛍雪次朗(大谷)
中年の高木シンジの人生はどん底にあった。前の会社を理不尽にもクビになり、妻は三行半をたたきつけて子どもと出て行った。ようやく決まったタクシードライバーの仕事では客に蔑ろにされ、うっぷんをぶつけられる日々。ある日たまたま乗車した大物政治家の漏らした言葉から、数十億円の価値ある幻の名画があることを知った。「3」という数字に共通項を持つドライバー仲間、坂口と高木に話すと、坂口が強奪計画を持ち掛ける。坂口は元自衛官の賭博狂、裏社会にもつてがある。数学教師だった高木はサヴァン症候群で、見たものすべてを記憶する能力があった。ある晩実行に移す3人。一発逆転をかけた強奪計画は完璧なはずだった…。
窪塚洋介さん18年ぶりの主演作。いろいろな映画で見た記憶があるのに、18年ぶりとは?と探したら『同じ月を見ている』(2005)がその主演した前作でしょうか。そのスチール写真は学生服姿。今回はやさぐれた中年タクシードライバー。息子の窪塚愛流くんが俳優デビューしましたし、長い時間が経ちました。窪塚さんが長い指で煙草を持ったスチールが素敵です。独特の雰囲気も細い体型も変わりません。
牧賢治監督は長編第一作。完成した脚本を窪塚さんの事務所に送って出演を快諾されたそうですが、いろいろな人間を巻き込んでいくオリジナルストーリー、登場人物が個性的です。
番場役の坂口涼太郎さんは『ちはやふる』での木梨くんが強烈な印象を残しました。今回の作品では、実生活とシンクロした部分があるそうです。神戸で震災にあって失職したお父さんが”タクシードライバーの仕事で自分を育ててくれた”こと。坂口さん自身も絵画やひまわりが好きなことだとか。葵揚(あおいよう)さんは朝ドラ「舞い上がれ!」でも活躍中です。長身で大きな目が迫力。3人3様の活躍と、想像を超えた怒涛のラストをお楽しみに。(白)
2023年/日本/カラー/94分
配給:アスミック・エース
(C)2022映画「Sin Clock」製作委員会
https://sinclock.asmik-ace.co.jp/
★2023年2月10日(金)ロードショー
2023年02月03日
呪呪呪/死者をあやつるもの
監督:キム・ヨンワン
原作・脚本:ヨン・サンホ
キャスト:オム・ジウォン(イム・ジニ) 、チョン・ジソ (ソジン)、チョン・ムンソン (チョン・ソンジン)、キム・イングォン(キム・ピルソン) 、コ・ギュピル(タク・ジョンフン教授)、クォン・ヘヒョ(イ・サンイン)、オ・ユナ(ビョン・ミヨン)、イ・スル(ジェシー・ジョン)
住宅街で凄惨な殺人事件が起こった。被害者のそばにあった不可解な遺体が容疑者と思われたが、死亡して3ヶ月もたっていた。死体が殺人犯!?独立系ニュースチャンネル「都市探偵」の社長のキム・ピルソンは、この奇妙な事件をいち早く知って、ジャーナリストのイム・ジニらメンバーと独自に調査を始めた。番組あてに男から連絡が入った。自分が死体を操って殺させた、という。調査するうちに大企業がからんでいるうえ、強力な呪いがかけられていることがわかった。ジニは家族同様だった呪術師のソジンがここにいたならと思う。彼女ならこの混迷した状況を解く手がかりを見つけ出せるはず。
監督は『ファイティン!』(2018)のキム・ヨンワン、原作・脚本は、大ヒットした『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016)、『新感染半島 ファイナル・ステージ』(2020)監督のヨン・サンホ。このコンビの「謗法 ~運命を変える方法~」というタイトルのテレビドラマが前年にあったようです。Netflixで1シーズン12話が観られます。
劇場版の本作では、これまでのゾンビ映画とはかなり違ったゾンビが登場します。呪術によってよみがえったゾンビ “在此矣(ジェチャウィ)”は、猛ダッシュ、全力疾走でターゲットを追いかけます。操られるまま話もすれば、車の運転も超絶アクションも可能です。統率された俊足ゾンビに追いかけられるなんて、死ぬほどイヤです。捕まったら即死。
この事件の真相を暴いていく過程と、呪術師と呪いをかけた者との攻防を画面で見守ってください。(白)
呪呪呪(じゅじゅじゅ)という、おどろおどろしいタイトルから、観るのをやめようと思ったほどだったのですが、さすが韓国映画、しっかりした脚本で唸りました!
観てみようと思ったのは、出演陣の中にクォン・ヘヒョの名前があったからでした。
古くは、『ラスト・プレゼント』「冬のソナタ」「私の名前はキム・サムスン」、ホン・サンス作品には『3人のアンヌ』(2011年)以来、何本も出演している常連。ヨン・サンホ作品には『我は神なり』(2013)『新 感染半島 ファイナル・ステージ』(2020年)に次ぎ3本目の出演。この人が出ているのならという安心感があります。本作では、製薬会社の専務で、生放送で殺人を告白した男に、死の宣告をされるという役どころ。可笑しさをかもしだしながらもぴりりと引き締めてくれます。
また、「約束のない恋」「一度行ってきました」など、多くのドラマで活躍してきたオ・ユナが、製薬会社社長の娘で、後継者と目されている才女を演じていて光っています。
弱者を踏み台に、金儲けしようとする大手製薬会社をあばく物語。社会的問題を内蔵したゾンビ映画を、ぜひ怖がらずにご覧ください。エンドロールのあとの「その後」も、お見逃しなく!(咲)
2021年/韓国・イギリス/カラー/シネスコ/110分
配給:ハピネットファントム・スタジオ
ⓒ2021 CJ ENM, CLIMAX STUDIO ALL RIGHTS RESERVED
公式HP:https://happinet-phantom.com/jujuju/
公式Twitter:@jujuju_movie #呪呪呪
2023年2月10日(金)新宿バルト9他にて公開