2023年01月28日

みんな生きている 二つ目の誕生日

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監督・脚本:両沢和幸
原案・企画:樋口大悟
撮影:上野彰吾
出演:樋口大悟(桧山大介)、松井若菜(桜井美智子)、岡田浩暉(桜井高志)、武藤令子(桧山芳江)、大西武志(黒田)、森下能幸(佐々木)、池田良(久保医師)

白血病経験の俳優が自ら演じる
"患者"と"ドナー"、2人を支える人々の
葛藤を描いた「いのち」の物語。

桧山大介は空手の講師をしながら、競技者としても全国大会を狙える実力者だった。ある日、稽古の最中に倒れて病院に運ばれると、白血病だと診断された。これまで健康の不安などなかった大介は信じられない。しかし病気は進行し、体力は衰えていく。医師から骨髄移植しか助かる道はないと告げられる。骨髄バンクに登録して、ドナーを待ちわびる日々が続く。
大介の白血球の型と適合するのは、新潟県糸魚川市に住む、桜井美智子という女性だけだった。彼女の元にも大介と適合したという知らせが届く。以前登録したままだった彼女は家族に打ち明けるが、夫や義母はドナーになることに反対する。

「移植を受けられる患者の割合、55.4%」と予告編に文字が出てきます。白血病の有効な治療に「骨髄移植」があります。他人から造血細胞をいただくわけで、家族間で適合すればいいのですが(兄弟姉妹でも適合率は4分の1とか)、そうでない場合は骨髄バンクに登録して連絡があるまでじっと待機しなければいけません。ドナーがいなければできない手術ですし、ドナー本人だけでなく家族の同意も必要です。移植の際のリスクを心配し、家族の同意を得られないこともあります。
発症から手術して現在までを実際に体験した樋口大悟さんが、自ら企画し演じています。一人でも多くの方々に病気を知らせると共に、顔も知らないドナーへの感謝、登録する方が増えてほしいという願いをひしひしと感じます。
私にも骨髄移植で健康を取り戻した友人がいます。身体の不思議を感じると同時に、患者の不安な気持ち、病気を理解しいくつもの関門がある中ドナーとなってくれた方に思いをはせました。(白)


2022年/日本/カラー/113分
配給:ギグリーボックス
(C)2022「みんな生きている 二つ目の誕生日」製作プロジェクト
https://www.min-iki.com/
https://twitter.com/eiga_miniki
★2023年2月4日(金)新宿K's cinemaほか全国順次公開


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彼岸のふたり

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監督・脚本・編集:北口ユースケ
脚本:前田有貴
撮影:石原ひなた
音楽:饗場公三
主題歌:イロハサクラ
出演:朝比奈めいり(西園オトセ)、並木愛枝(陽子)、寺浦麻貴(広川夢)、井之上チャル(好井雅人)、ドヰタイジ(ソウジュン)

親からの虐待を受け、児童養護施設で育った西園オトセは、施設を離れホテルの清掃係として働き始める。初めての社会生活で不安になりながらも、自立の道を模索しようとするオトセの前に、14年間音信不通だった母、陽子が突然現れる。金銭目的だと分かっていながらも、血の繋がった母との再会に喜びを隠しきれないオトセは葛藤する。そしてその葛藤はオトセを自傷行為へと駆り立てる。一方、地下アイドルの広川夢は、望まぬ子を身籠ったままステージに立つ。二組の母子の人生は交錯し、オトセはやがて過去の自分と対峙すべく母が暮らす生家へと向かう。

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室町時代の堺市に実在したと言われる伝説の遊女「地獄太夫」の人生をモチーフに、新進気鋭の北口ユースケ監督が、運命に翻弄される女性達の姿を細やかに描きました。18歳になると自立の道を歩まねばならないオトセ、施設を出るときに持った私物は箱一つに入るだけでした。勤め先のホテルは寮つきで、好待遇と言えそうですが、オトセのお金を目当てに母親が会いにきます。
詳しい背景は描かれていませんが、母親の陽子は、たぶん若いうちに望まない妊娠をし、大人になる前に母親になってしまった人なのでしょう。並木愛枝さんは『ある朝スウプは』(2005)を観て以来、北口監督がほれ込んだ女優さん。いろいろな感情がないまぜになっている陽子を演じてさすがです。
現れたり消えたりするソウジュンは、きっとオトセのイマジナリーフレンド。ドヰタイジさんがちょっとユーモラスで、出てくるとホッとします。いない父代わりだろうと思われる姿ですが、オトセが生み出したものなので、オトセを越えたことはできませんし、言えません。
映画のモチーフになっている地獄太夫(じごくだゆう)は堺で名をはせた遊女で、一休宗純と交流があったと伝えられています。遊女は苦界に生きるもの、オトセも陽子も此岸にいながら彼岸に限りなく近い崖っぷちで生きています。地下アイドルの広川夢にも父親の姿はありませんが、母親がしっかりした働き者で、娘を支えようとしていることに安心します。陽子が自覚を持ってオトセと二人助け合って、と願いたくなる作品でした。
作品中に出てくる地獄太夫を想像させる打掛や、アイドルたちの衣装は服飾を学んでいる学生たちが作ったもの。面白いコラボです。(白)


北口ユースケ監督のインタビューこちら
主演の朝比奈めいりさん、並木愛枝さんのインタビューこちら

2022年/日本・アメリカ合作/カラー/90分
配給:新日本映画社
(C)2022「彼岸のふたり」製作委員会
http://higannofutari.com/ja/
★2023年2月4日(土)池袋シネマ・ロサほか全国順次公開

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茶飲友達

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監督・脚本:外山文治
撮影:野口健司
音楽:朝岡さやか
出演:岡本玲(佐々木マナ)、磯西真喜(松子)、海沼未羽(千佳)、渡辺哲(時岡茂雄)、瀧マキ、岬ミレホ

妻に先立たれ孤独に暮らす男、時岡茂雄がある日ふと目にしたのは、新聞の三行広告に小さく書かれた「茶飲友達、募集」の文字。
その正体は、高齢者専門の売春クラブ「茶飲友達(ティー・フレンド)」だった。運営するのは、代表の佐々木マナとごく普通の若者たち。彼らは65歳以上の「ティー・ガールズ」と名付けられたコールガールたちに仕事を斡旋し、ホテルへの送迎と集金を繰り返すビジネスを行なっていた。マナはともに働くティー・ガールズや若者たちを “ファミリー”と呼び、それぞれ孤独や寂しさを抱えて生きる彼らにとって大事な存在となっていた。ある日、一本の電話が鳴る。それは高齢者施設に住む老人から「茶飲友達が欲しい」という救いを求める連絡だったー。

「茶飲友達」という言葉がこんな風に使われていたなんて。外山監督が実際にあった事件(2013年10月に起きた高齢者売春クラブ摘発)を知って、映画化したいと思われたそうです。そのときの登録者は1000人いたのだとか、そんなに需要があって仕事としてなりたっていたんだと想像すると、やっぱり人間いつまでも煩悩はなくならないんだとか、なんだかおかしいような悲しいような、なんとも言えない気持ちになります。
渡辺哲さん演じる時岡さんが、申し込んだ後いそいそと鏡に向かっておしゃれするのを見るとほほえましいし、ガールたちもいろいろ個性的でたくましく屈託なく働いているしで、悲壮感はありません。色恋ばかりでなく、仕事があること、求められることは人を輝かせるんだなと思えます。
一人で生きていくのは寂しいけれど出会いの少ない高齢者に、ほんとの茶飲友達をあっせんするなら法に触れないでしょう。大人なんだからその後は自己責任で、なんて言うと詐欺につけこまれ、家族に疎まれ、といいことはない? 運営する若者たちも事情を抱えていて、世知辛い生きづらい世の中だと溜息が出ます。
監督は1000人の登録者がその後どうしたのか気になったそうです。ガールたちもどうなったのでしょう。(白)


2022年/日本/カラー/135分
配給:イーチタイム
(C)2022茶飲友達フィルムパートナーズ

http://teafriend.jp/
★2023年2月4日(金)渋谷ユーロスペース他全国順次公開

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君に幸あれよ

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監督・脚本・編集:櫻井圭佑
撮影:寺本慎太朗
音楽:鶴田海王
出演:小橋川建(真司)、高橋雄祐(理人)、松浦祐也、中島ひろ子、諏訪太朗

債権回収など裏稼業で生計をたてる真司は、巷では狂犬と呼ばれている男。真司は過去に大切な舎弟分を亡くし、人に興味を持つことを避けて生きてきた。そこへ不思議な青年・理人が現れ、一緒に過ごすうちに、次第に穏やかな日々を取り戻していく。しかし過去の過ちが原因で理人が事件に巻き込まれたのをきっかけに、真司の心に再び激しい思いが湧き上がり…。

「撮影当時25歳の新人監督・櫻井圭佑が20代を中心とした新進気鋭のスタッフキャストと創り上げた、新世代バディムービー、ここに誕生!」キャッチをそのまんま書いてしまいました。いやー、若いなぁみんな。作品も若さが満ち満ちております。20代は、それなりの苦労はあっても熱と勢いでなんでもできそうな気のする年頃ですよね。それでいて、他人を気遣い、自分の及ばないことを祈る『君に幸あれよ』というタイトル。
眼光鋭いこわもての真司、のれんに腕押しみたいに飄々とした理人、真逆の2人がいつのまにか相棒になり、真司が理人へ向ける目がだんだん優しくなります。制作も担った小橋川建(こばしかわ たつる)さんは沖縄のサッカー少年だったらしいです。ゴールまであきらめずに走り続ける根性が今もあるのでしょう。若い人たちの夢や希望をつぶさない、応援できる社会であり自分でありますように。ああ、遠くまで来た。(白)


2022年/日本/カラー/78分
配給:ムービー・アクト・プロジェクト
(C)映画「君に幸あれよ」製作委員会
https://kimisachifilm.com/
★2023年2月4日(金)渋谷ユーロスペース他全国順次公開
posted by shiraishi at 01:12| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

生きててごめんなさい

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監督:山口健人
脚本:山口健人 山科亜於良
撮影:石塚将巳
企画:藤井道人
出演:黒羽麻璃央(園田修一)、穂志もえか(清川莉奈)、松井玲奈(相澤今日子)、安井順平(西川洋一)、冨手麻妙、八木アリサ、飯島寛騎

出版社の編集部で働く園田修一は、日々の仕事に追われ、小説家になるという夢を諦めかけていた。修一と同棲生活を送る清川莉奈は何をやっても上手くいかず、アルバイトをクビになり、家で過ごすことが多かった。ある日、修一は高校の先輩の相澤今日子が勤務する大手出版社の新人賞にエントリーすることになる。一方、莉奈はふとしたきっかけから、修一が担当する売れっ子コメンテーター西川洋一の目にとまり、修一とともに編集部で働くことに。西川や社員たちが莉奈をちやほやする光景に修一は嫉妬心を募らせ、莉奈に対する態度が冷たくなっていく。

修一が莉奈に目を止めたのは、アルバイト先でのドジっぷりでした。そこが可愛くて、保護者のようなつもりで同棲が始まったようです。修一自身の夢になかなか近づけずにいたとき、先輩のおかげで挑戦権を得た!と奮起。でも莉奈がひょんなことから注目され立場が逆転しそうで面白くありません。この修一くん器が小さい。小説が書けないのはこれまでの自分の蓄積が足りないせいです。ドジっ子の莉奈がレベルアップしたなら一緒に喜んで、自分もレベル上げなさいよと老婆心がわきます。嫉妬も心変わりもあるあるだけれど、過ぎたらだめになっちゃいますよ。一番腹立たしいのは売れっ子コメンテーターだという西川です。天誅!(誰か~)
「生きててごめんなさい」なんて悲しいことばを大事な人に言わせたくない。そばにいる人から大事にしましょう。女子と男子では感想が違いそうですが、さて、二人の行方は??(白)


2023年/日本/カラー/107分
配給:渋谷プロダクション
(C)2023 ikigome Film Partners
https://ikigome.com/
★2023年2月3日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 01:10| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

スクロール

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監督・脚本・編集:清水康彦
脚本:金沢知樹 木乃江祐希
原作:橋爪駿輝「スクロール」小学館文庫
撮影:川上智之
音楽:Saucy Dog「怪物たちよ」(A-sketch)
出演:北村匠海(僕)、中川大志(ユウスケ)、松岡茉優(菜穂)、古川琴音(私)

ユウスケのもとに、森が自殺したという報せが届く。学生時代にユウスケと友だちだった〈僕〉は、ユウスケからの久しぶりの電話で森の葬儀に行くことになった。かすかな思い出しかなかったけど。
〈僕〉は勤め先の上司に頭ごなしに否定され、当然口答えもできずSNSでうっぷん晴らしをしている。たった一人のフォロワーが「いいね」をつけてくれる。ユウスケは学生時代から毎日が楽しいことが一番大事、とほうぼうの女性に手を出しては泣かせてきた。それでもテレビ局に就職し、それなりの仕事をしている。〈僕〉とユウスケは森の死をきっかけに少しずつ変わっていく。
〈私〉は〈僕〉の書き込みを見て、〈僕〉が言いたかった一言を上司にぶつけた。あっけにとられて固まる〈僕〉。
結婚することが幸せへの道筋と信じる菜穂は、ユウスケと出会って将来を思い描く。青春の出口に立っている4人は自分の愛と生きることを見つけ出せるのか?

北村匠海、中川大志、松岡茉優、古川琴音と旬の人気俳優4人が織りなすストーリー。二人ずつが知り合って、微妙にクロスしていく関係です。〈僕〉とユウスケ、〈私〉と菜穂は両極にいるように生き方が違います。彼らの同年代の観客は、それぞれ違う4人の中に自分と似た欠片を見出すでしょう。それは冷えた心を暖かく満たしていくかもしれないし、深く刺さって抜けないかもしれないけれど。痛くなったり、病んだりして初めて気づくこともあります。なくなってなってから知る大切さも。当たり前ってないことも。
もう残り時間が少なくなると、オープニングのモノローグにはう~むと思います。過ぎて来た道だから気持ちはわかるけれどね。スクロールして見えなくするのも一手。(白)


2023年/日本/カラー/シネスコ/117分
配給:ショウゲート
(C)橋爪駿輝/講談社 (C)2023映画「スクロール」製作委員会
https://scroll-movie.com/
★2023年2月3日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 01:07| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

仕掛人・藤枝梅安

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監督:河毛俊作
原作:池波正太郎
脚本:大森寿美男
撮影:南野保彦
衣装デザイン:宮本まさ江
音楽:川井憲次
出演:豊川悦司(藤枝梅安)、片岡愛之助(彦次郎)、おもん(菅野美穂)、小野了(与助)、高畑淳子(おせき)、小林薫(津山悦堂)
第1話ゲスト:早乙女太一(石川友五郎)、柳葉敏郎(羽沢の嘉兵衛)、天海祐希(おみの)

品川台町の腕のいい鍼医者藤枝梅安は表の顔、裏にはもう一つ凄腕の”仕掛人”の顔があった。仕掛人は“蔓(つる)”と呼ばれる元締から声を掛けられ、金をもらって指定された人間を始末する。元締めは、誰の仕掛も請け負うわけではなく、生かして世のためにならない者だけを選ぶ。”起こり”と呼ばれる依頼人のことは梅安に一切耳に入れず、仕掛人は半金を先にもらい、ことが済んでから残りを手に入れる。自然死に見える梅安の仕掛は重宝だった。同じ仕掛人の彦次郎とは一緒に酒は飲むが、互いの過去については詮索しない。
次の仕掛は料理屋万七の女将おみのだった。万七の前の女将おしずは梅安の仕掛で亡くなり、おみのは後添いである。梅安は、万七に出向いて女中のおもんと深い仲になり、店の情報を手に入れる。

池波正太郎生誕100年記念企画。久々に本格時代劇を拝見。原作は1972年~1990年「小説現代」に作者の死去まで続いた連載小説です。テレビで放映されて、仕掛人、仕置き人が大ブームだった記憶があります。視聴者は不満をかこつ江戸の人々に感情移入して、世のため人のためにならない悪人を鮮やかな手口に溜飲を下げました。この作品も期待を裏切りません。
186㎝もの長身の豊川さん、こんなに大きな人が江戸時代にいたのかなと思いますが、原作も大男とあったような。この作品のゲストの天海祐希さんも170㎝を越える長身で、二人が並ぶと華やかです。菅野美穂さん演じるおもんは、相手が本気でないと知りながら役立ちたいと思うひたむきさに女心を感じます。
夜や室内のシーンではぜいぜいがろうそくの灯り、殺しの場面も当然ある暗めの作品ですが、唯一底抜けに明るいのが、梅安の身の回りの世話をする近所のおせき。朝ドラでも肝っ玉ばあちゃんを好演している高畑淳子さんが、ここでも頼りになるおばちゃん役。おしゃべり多いですが、笑わせてくれます。仲は良いけど互いに踏み込まない、彦次郎役の愛之助さんとのかけあいも良く、彦次郎の因縁の過去が明らかになる第2話が待たれます。第2話は4月7日公開。(白)


2023年/日本/カラー/シネスコ/134分
配給:イオンエンターテイメント
(C)「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社
https://baian-movie.com/
★2023年2月3日(金)ロードショー

posted by shiraishi at 01:06| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする