2023年01月29日
バンバン! 原題:BANGBANG!
監督:シッダールト・アーナンド(『WAR ウォー!!』)
出演:リティク・ローシャン(『スーパー30 アーナンド先生の教室』)、カトリーナ・カイフ(『チェイス!』)、ダニー・デンゾンパ、パワン・マルホートラ
ロンドン。国際手配されていたテロリストのオマル・ザファル(ダニー・デンゾンパ)が拘束される。犯罪人引渡条約が締結されない限り、インドに移送されることはないと強気のオマル。そんな折、ロンドン塔に展示されているインド至宝のダイヤモンド“コーヒヌール”が何者かに盗まれる。オマルがいつかインド人の手で取り戻したいと狙っていたダイヤだ。監視カメラには、世界的に知られる大泥棒のラージヴィール(リティク・ローシャン)が映っていた。
インド北部の町シムラー。銀行で受付係をしているハルリーン(カトリーナ・カイフ)は、勤続30年の女性が独身で退職する姿をみて、自分の将来が不安になり、婚活サイトのブラインドデートに申し込む。指定のレストランにやってきた相手のヴィッキー(リティク・ローシャン)は長身のイケメン。話もはずんで、一緒に歌いながらダンスもして、ハルリーンはすっかり彼の虜になる。だが、その後ひと騒動があって、実は自分はヴィッキーではなく、ロンドンでコーヒヌールを盗んだことから追われているラージヴィールだと明かされる。ハルリーンに忠告を残し、彼女を睡眠薬で眠らせて去ってしまう。
翌日、銀行にいたハルリーンは、ゾラワール捜査官(パワン・マルホートラ)と名乗る男に連行され車に乗せられる。ラージヴィールの忠告を思い出し、なんとか車から脱出すると、そこにラージヴィールが現れる。コーヒヌールを携え、二人の逃避行が始まる・・・
ロンドンからインドに舞台を移した物語は、その後、チェコのプラハ、ギリシャのサントリーニ島とミコノス島、タイのプーケットとシミラン諸島、そしてアラブ首長国連邦のアブダビへと駆け巡ります。アクションにロマンス、ボリウッド映画お約束の歌と踊りも満載ですが、実は、トム・クルーズ&キャメロン・ディアスのコンビで大ヒットした『ナイト&デイ』の正式インド版リメイク。私は『ナイト&デイ』を観ていないので、リメイクと気にせず楽しみました。逆にこれから『ナイト&デイ』を観て、もとの映画がどんなものだったのかを確認したいと思います。
本作で一番印象に残ったのが、ハルリーンのお祖母ちゃん。ハルリーンは、10歳までカナダで育ったのですが、両親が交通事故で亡くなり、インドの祖父母に引き取られ、祖父が亡くなってからは祖母と二人暮らし。お祖母ちゃんは、昔、すごくモテたと語り、お祖父ちゃんが大好きでした。ハルリーンが恋した様子を見て、「胸の宝石箱からコーヒヌールが盗まれたね」と言います。
公式サイトで「コヒヌール」と表記されているダイヤモンドは、コーヒヌールの方が発音に近いと思いますが、「光(ヌール)の山(コー)」の意を持つ世界最大といわれるダイヤモンド。所有の変遷については諸説ありますが、150年程前に、インドを支配した大英帝国のヴィクトリア女王のものになり、現在はロンドン塔で展示されています。
冒頭、ロンドンの場面で、「コーヒヌールを返せ!」のデモが警察の監視カメラに映るのがちらっと出てきます。このところ、植民地時代に宗主国に持っていかれた文化遺産の返還を求める動きが多いことに思いが至ります。
チャーミングなハルリーンを演じているカトリーナ・カイフは、父親がカシミールにルーツを持ち、母親がイングランド人というハーフ。『タイガー 伝説のスパイ』(原題:Ek Tha Tiger 2012年 監督・脚本:カビール・カーン)では、サルマーン・カーン演じるインドのスパイが恋する女性ゾヤですが、実はパキスタンのスパイという役どころ。
『命ある限り』(原題:Jab Tak Hai Jaan 2012年 監督:ヤシュ・チョプラ)では、シャー・ルク・カーンとの悲恋の恋を演じています。
『チェイス!』では、サーカス団員として、アーミル・カーンの相手役。
リティク・ローシャンは、本作ではイケメンぶりを全開していますが、『スーパー30 アーナンド先生の教室』では、実直なアーナンド先生を体現。こんなイケメンだったの~?と、見直してしまいました。
本作では、世界各地の景色はもちろん美しいのですが、何より、山肌に家が立ち並ぶシムラーの風情が素敵です。インド北部ヒマラヤの山麓にあるシムラーは、イギリス統治時代、1865年にインド帝国の夏の首都に定められた町。冬の場面では、雪に覆われ一面の銀世界です。
ラージヴィールが、「いつか、家に帰りたい」と言っているのですが、デヘラドゥ-ンの彼の実家の表札には、「Ghar」と書いてあります。ヒンディー語やウルドゥー語で、gharは家の意味。表札にそう書く??
その家を訪ねたハルリーンは、お母さまから「長男は軍に召された」と聞かされます。実は、映画の冒頭、ロンドンでの場面で、オマル・ザファルをインドに護送しようと訪ねてきたヴィレン(ジミー・シェールギル)が母親からの電話に応じている場面があって、「マザコンのヴィレン」と呼ばれながら、オマルの手下に殺されたのです。出番の少なかった彼にもちゃんと意味があったこととして、ネタバレお許しを!
2014年に製作された本作は、今になってやっと一般公開されるのですが、もしかしたら、シャー・ルク・カーン復活作といわれるシッダールト・アーナンド監督の『Pathaan』を日本で公開する前哨戦?と、密かに思っています。(咲)
★『Pathaan』については、こちらをどうぞ!
シャー・ルク・カーン復活作『Pathaan』 インドで大ヒット公開中! (咲)
2014年/インド/ヒンディー語/シネスコ/156分
配給:SPACEBOX
宣伝:シネブリッジ
公式サイト:https://spaceboxjapan.jp/bangbang
★2023年2月10日(金)より新宿ピカデリーほか全国順次ロードショー
FALL/フォール 原題:Fall
監督・脚本:スコット・マン
出演:グレイス・フルトン、ヴァージニア・ガードナー、ジェフリー・ディーン・モーガン、メイソン・グッディング
ベッキーは結婚して間もない夫のダンと親友のハンターと3人で絶壁でのフリークライミングをしているとき、ダンを落下事故で亡くしてしまう。それから1年。悲しみから酒浸りになって自暴自棄のベッキーのところに、久しぶりにハンターがやってくる。ベッキーを立ち直らせようと、新たなクライミングを企画したという。今は使われていない地上600mのテレビ塔に登り、その上から夫の遺灰を撒くことで新たな一歩が踏み出せるというのだ。立入禁止の柵のところで車を降り、徒歩でテレビ塔に向かう。足場が不安定な梯子を登り、なんとか頂上に到達するが、錆びついた梯子が崩れ落ちてしまう。手元にあったドローンでなんとか助けを求めようとするが・・・・
最初の絶壁を登る場面からして、肌の露出した軽装で呆れたのですが、テレビ塔に登るときには、youtubeで発信する為に、ハンターは胸が豊満に見えるブラをしています。お馬鹿キャラ丸出しで、あ、そうっか~ そういう映画なのねと思えば、有り得ない諸々の設定も納得。それでも、ハラハラドキドキ。さて、二人は助かるのか・・・と、つい最後まで見守ってしまいました。気が付いてくれて助けてくれるかと思った男性たちの思いもかけない行動や、驚くべき事実も判明して、それなりに楽しませてくれる映画でしたが、あんな格好で山登りやテレビ塔を登ろうとするのは、やっぱりあり得ない! (咲)
2022年/アメリカ/英語/スコープサイズ/5.1ch/106分
字幕翻訳:北村広子
配給:クロックワークス
公式サイト:https://klockworx-v.com/fall/
★2023年2月3日(金)より新宿バルト9ほか全国ロードショー
2023年01月28日
みんな生きている 二つ目の誕生日
監督・脚本:両沢和幸
原案・企画:樋口大悟
撮影:上野彰吾
出演:樋口大悟(桧山大介)、松井若菜(桜井美智子)、岡田浩暉(桜井高志)、武藤令子(桧山芳江)、大西武志(黒田)、森下能幸(佐々木)、池田良(久保医師)
白血病経験の俳優が自ら演じる
"患者"と"ドナー"、2人を支える人々の
葛藤を描いた「いのち」の物語。
"患者"と"ドナー"、2人を支える人々の
葛藤を描いた「いのち」の物語。
桧山大介は空手の講師をしながら、競技者としても全国大会を狙える実力者だった。ある日、稽古の最中に倒れて病院に運ばれると、白血病だと診断された。これまで健康の不安などなかった大介は信じられない。しかし病気は進行し、体力は衰えていく。医師から骨髄移植しか助かる道はないと告げられる。骨髄バンクに登録して、ドナーを待ちわびる日々が続く。
大介の白血球の型と適合するのは、新潟県糸魚川市に住む、桜井美智子という女性だけだった。彼女の元にも大介と適合したという知らせが届く。以前登録したままだった彼女は家族に打ち明けるが、夫や義母はドナーになることに反対する。
「移植を受けられる患者の割合、55.4%」と予告編に文字が出てきます。白血病の有効な治療に「骨髄移植」があります。他人から造血細胞をいただくわけで、家族間で適合すればいいのですが(兄弟姉妹でも適合率は4分の1とか)、そうでない場合は骨髄バンクに登録して連絡があるまでじっと待機しなければいけません。ドナーがいなければできない手術ですし、ドナー本人だけでなく家族の同意も必要です。移植の際のリスクを心配し、家族の同意を得られないこともあります。
発症から手術して現在までを実際に体験した樋口大悟さんが、自ら企画し演じています。一人でも多くの方々に病気を知らせると共に、顔も知らないドナーへの感謝、登録する方が増えてほしいという願いをひしひしと感じます。
私にも骨髄移植で健康を取り戻した友人がいます。身体の不思議を感じると同時に、患者の不安な気持ち、病気を理解しいくつもの関門がある中ドナーとなってくれた方に思いをはせました。(白)
2022年/日本/カラー/113分
配給:ギグリーボックス
(C)2022「みんな生きている 二つ目の誕生日」製作プロジェクト
https://www.min-iki.com/
https://twitter.com/eiga_miniki
★2023年2月4日(金)新宿K's cinemaほか全国順次公開
彼岸のふたり
監督・脚本・編集:北口ユースケ
脚本:前田有貴
撮影:石原ひなた
音楽:饗場公三
主題歌:イロハサクラ
出演:朝比奈めいり(西園オトセ)、並木愛枝(陽子)、寺浦麻貴(広川夢)、井之上チャル(好井雅人)、ドヰタイジ(ソウジュン)
親からの虐待を受け、児童養護施設で育った西園オトセは、施設を離れホテルの清掃係として働き始める。初めての社会生活で不安になりながらも、自立の道を模索しようとするオトセの前に、14年間音信不通だった母、陽子が突然現れる。金銭目的だと分かっていながらも、血の繋がった母との再会に喜びを隠しきれないオトセは葛藤する。そしてその葛藤はオトセを自傷行為へと駆り立てる。一方、地下アイドルの広川夢は、望まぬ子を身籠ったままステージに立つ。二組の母子の人生は交錯し、オトセはやがて過去の自分と対峙すべく母が暮らす生家へと向かう。
室町時代の堺市に実在したと言われる伝説の遊女「地獄太夫」の人生をモチーフに、新進気鋭の北口ユースケ監督が、運命に翻弄される女性達の姿を細やかに描きました。18歳になると自立の道を歩まねばならないオトセ、施設を出るときに持った私物は箱一つに入るだけでした。勤め先のホテルは寮つきで、好待遇と言えそうですが、オトセのお金を目当てに母親が会いにきます。
詳しい背景は描かれていませんが、母親の陽子は、たぶん若いうちに望まない妊娠をし、大人になる前に母親になってしまった人なのでしょう。並木愛枝さんは『ある朝スウプは』(2005)を観て以来、北口監督がほれ込んだ女優さん。いろいろな感情がないまぜになっている陽子を演じてさすがです。
現れたり消えたりするソウジュンは、きっとオトセのイマジナリーフレンド。ドヰタイジさんがちょっとユーモラスで、出てくるとホッとします。いない父代わりだろうと思われる姿ですが、オトセが生み出したものなので、オトセを越えたことはできませんし、言えません。
映画のモチーフになっている地獄太夫(じごくだゆう)は堺で名をはせた遊女で、一休宗純と交流があったと伝えられています。遊女は苦界に生きるもの、オトセも陽子も此岸にいながら彼岸に限りなく近い崖っぷちで生きています。地下アイドルの広川夢にも父親の姿はありませんが、母親がしっかりした働き者で、娘を支えようとしていることに安心します。陽子が自覚を持ってオトセと二人助け合って、と願いたくなる作品でした。
作品中に出てくる地獄太夫を想像させる打掛や、アイドルたちの衣装は服飾を学んでいる学生たちが作ったもの。面白いコラボです。(白)
☆北口ユースケ監督のインタビューはこちら
☆主演の朝比奈めいりさん、並木愛枝さんのインタビューはこちら
2022年/日本・アメリカ合作/カラー/90分
配給:新日本映画社
(C)2022「彼岸のふたり」製作委員会
http://higannofutari.com/ja/
★2023年2月4日(土)池袋シネマ・ロサほか全国順次公開
茶飲友達
監督・脚本:外山文治
撮影:野口健司
音楽:朝岡さやか
出演:岡本玲(佐々木マナ)、磯西真喜(松子)、海沼未羽(千佳)、渡辺哲(時岡茂雄)、瀧マキ、岬ミレホ
妻に先立たれ孤独に暮らす男、時岡茂雄がある日ふと目にしたのは、新聞の三行広告に小さく書かれた「茶飲友達、募集」の文字。
その正体は、高齢者専門の売春クラブ「茶飲友達(ティー・フレンド)」だった。運営するのは、代表の佐々木マナとごく普通の若者たち。彼らは65歳以上の「ティー・ガールズ」と名付けられたコールガールたちに仕事を斡旋し、ホテルへの送迎と集金を繰り返すビジネスを行なっていた。マナはともに働くティー・ガールズや若者たちを “ファミリー”と呼び、それぞれ孤独や寂しさを抱えて生きる彼らにとって大事な存在となっていた。ある日、一本の電話が鳴る。それは高齢者施設に住む老人から「茶飲友達が欲しい」という救いを求める連絡だったー。
「茶飲友達」という言葉がこんな風に使われていたなんて。外山監督が実際にあった事件(2013年10月に起きた高齢者売春クラブ摘発)を知って、映画化したいと思われたそうです。そのときの登録者は1000人いたのだとか、そんなに需要があって仕事としてなりたっていたんだと想像すると、やっぱり人間いつまでも煩悩はなくならないんだとか、なんだかおかしいような悲しいような、なんとも言えない気持ちになります。
渡辺哲さん演じる時岡さんが、申し込んだ後いそいそと鏡に向かっておしゃれするのを見るとほほえましいし、ガールたちもいろいろ個性的でたくましく屈託なく働いているしで、悲壮感はありません。色恋ばかりでなく、仕事があること、求められることは人を輝かせるんだなと思えます。
一人で生きていくのは寂しいけれど出会いの少ない高齢者に、ほんとの茶飲友達をあっせんするなら法に触れないでしょう。大人なんだからその後は自己責任で、なんて言うと詐欺につけこまれ、家族に疎まれ、といいことはない? 運営する若者たちも事情を抱えていて、世知辛い生きづらい世の中だと溜息が出ます。
監督は1000人の登録者がその後どうしたのか気になったそうです。ガールたちもどうなったのでしょう。(白)
2022年/日本/カラー/135分
配給:イーチタイム
(C)2022茶飲友達フィルムパートナーズ
http://teafriend.jp/
★2023年2月4日(金)渋谷ユーロスペース他全国順次公開
君に幸あれよ
監督・脚本・編集:櫻井圭佑
撮影:寺本慎太朗
音楽:鶴田海王
出演:小橋川建(真司)、高橋雄祐(理人)、松浦祐也、中島ひろ子、諏訪太朗
債権回収など裏稼業で生計をたてる真司は、巷では狂犬と呼ばれている男。真司は過去に大切な舎弟分を亡くし、人に興味を持つことを避けて生きてきた。そこへ不思議な青年・理人が現れ、一緒に過ごすうちに、次第に穏やかな日々を取り戻していく。しかし過去の過ちが原因で理人が事件に巻き込まれたのをきっかけに、真司の心に再び激しい思いが湧き上がり…。
「撮影当時25歳の新人監督・櫻井圭佑が20代を中心とした新進気鋭のスタッフキャストと創り上げた、新世代バディムービー、ここに誕生!」キャッチをそのまんま書いてしまいました。いやー、若いなぁみんな。作品も若さが満ち満ちております。20代は、それなりの苦労はあっても熱と勢いでなんでもできそうな気のする年頃ですよね。それでいて、他人を気遣い、自分の及ばないことを祈る『君に幸あれよ』というタイトル。
眼光鋭いこわもての真司、のれんに腕押しみたいに飄々とした理人、真逆の2人がいつのまにか相棒になり、真司が理人へ向ける目がだんだん優しくなります。制作も担った小橋川建(こばしかわ たつる)さんは沖縄のサッカー少年だったらしいです。ゴールまであきらめずに走り続ける根性が今もあるのでしょう。若い人たちの夢や希望をつぶさない、応援できる社会であり自分でありますように。ああ、遠くまで来た。(白)
2022年/日本/カラー/78分
配給:ムービー・アクト・プロジェクト
(C)映画「君に幸あれよ」製作委員会
https://kimisachifilm.com/
★2023年2月4日(金)渋谷ユーロスペース他全国順次公開
生きててごめんなさい
監督:山口健人
脚本:山口健人 山科亜於良
撮影:石塚将巳
企画:藤井道人
出演:黒羽麻璃央(園田修一)、穂志もえか(清川莉奈)、松井玲奈(相澤今日子)、安井順平(西川洋一)、冨手麻妙、八木アリサ、飯島寛騎
出版社の編集部で働く園田修一は、日々の仕事に追われ、小説家になるという夢を諦めかけていた。修一と同棲生活を送る清川莉奈は何をやっても上手くいかず、アルバイトをクビになり、家で過ごすことが多かった。ある日、修一は高校の先輩の相澤今日子が勤務する大手出版社の新人賞にエントリーすることになる。一方、莉奈はふとしたきっかけから、修一が担当する売れっ子コメンテーター西川洋一の目にとまり、修一とともに編集部で働くことに。西川や社員たちが莉奈をちやほやする光景に修一は嫉妬心を募らせ、莉奈に対する態度が冷たくなっていく。
修一が莉奈に目を止めたのは、アルバイト先でのドジっぷりでした。そこが可愛くて、保護者のようなつもりで同棲が始まったようです。修一自身の夢になかなか近づけずにいたとき、先輩のおかげで挑戦権を得た!と奮起。でも莉奈がひょんなことから注目され立場が逆転しそうで面白くありません。この修一くん器が小さい。小説が書けないのはこれまでの自分の蓄積が足りないせいです。ドジっ子の莉奈がレベルアップしたなら一緒に喜んで、自分もレベル上げなさいよと老婆心がわきます。嫉妬も心変わりもあるあるだけれど、過ぎたらだめになっちゃいますよ。一番腹立たしいのは売れっ子コメンテーターだという西川です。天誅!(誰か~)
「生きててごめんなさい」なんて悲しいことばを大事な人に言わせたくない。そばにいる人から大事にしましょう。女子と男子では感想が違いそうですが、さて、二人の行方は??(白)
2023年/日本/カラー/107分
配給:渋谷プロダクション
(C)2023 ikigome Film Partners
https://ikigome.com/
★2023年2月3日(金)ロードショー
スクロール
監督・脚本・編集:清水康彦
脚本:金沢知樹 木乃江祐希
原作:橋爪駿輝「スクロール」小学館文庫
撮影:川上智之
音楽:Saucy Dog「怪物たちよ」(A-sketch)
出演:北村匠海(僕)、中川大志(ユウスケ)、松岡茉優(菜穂)、古川琴音(私)
ユウスケのもとに、森が自殺したという報せが届く。学生時代にユウスケと友だちだった〈僕〉は、ユウスケからの久しぶりの電話で森の葬儀に行くことになった。かすかな思い出しかなかったけど。
〈僕〉は勤め先の上司に頭ごなしに否定され、当然口答えもできずSNSでうっぷん晴らしをしている。たった一人のフォロワーが「いいね」をつけてくれる。ユウスケは学生時代から毎日が楽しいことが一番大事、とほうぼうの女性に手を出しては泣かせてきた。それでもテレビ局に就職し、それなりの仕事をしている。〈僕〉とユウスケは森の死をきっかけに少しずつ変わっていく。
〈私〉は〈僕〉の書き込みを見て、〈僕〉が言いたかった一言を上司にぶつけた。あっけにとられて固まる〈僕〉。
結婚することが幸せへの道筋と信じる菜穂は、ユウスケと出会って将来を思い描く。青春の出口に立っている4人は自分の愛と生きることを見つけ出せるのか?
北村匠海、中川大志、松岡茉優、古川琴音と旬の人気俳優4人が織りなすストーリー。二人ずつが知り合って、微妙にクロスしていく関係です。〈僕〉とユウスケ、〈私〉と菜穂は両極にいるように生き方が違います。彼らの同年代の観客は、それぞれ違う4人の中に自分と似た欠片を見出すでしょう。それは冷えた心を暖かく満たしていくかもしれないし、深く刺さって抜けないかもしれないけれど。痛くなったり、病んだりして初めて気づくこともあります。なくなってなってから知る大切さも。当たり前ってないことも。
もう残り時間が少なくなると、オープニングのモノローグにはう~むと思います。過ぎて来た道だから気持ちはわかるけれどね。スクロールして見えなくするのも一手。(白)
2023年/日本/カラー/シネスコ/117分
配給:ショウゲート
(C)橋爪駿輝/講談社 (C)2023映画「スクロール」製作委員会
https://scroll-movie.com/
★2023年2月3日(金)ロードショー
仕掛人・藤枝梅安
監督:河毛俊作
原作:池波正太郎
脚本:大森寿美男
撮影:南野保彦
衣装デザイン:宮本まさ江
音楽:川井憲次
出演:豊川悦司(藤枝梅安)、片岡愛之助(彦次郎)、おもん(菅野美穂)、小野了(与助)、高畑淳子(おせき)、小林薫(津山悦堂)
第1話ゲスト:早乙女太一(石川友五郎)、柳葉敏郎(羽沢の嘉兵衛)、天海祐希(おみの)
品川台町の腕のいい鍼医者藤枝梅安は表の顔、裏にはもう一つ凄腕の”仕掛人”の顔があった。仕掛人は“蔓(つる)”と呼ばれる元締から声を掛けられ、金をもらって指定された人間を始末する。元締めは、誰の仕掛も請け負うわけではなく、生かして世のためにならない者だけを選ぶ。”起こり”と呼ばれる依頼人のことは梅安に一切耳に入れず、仕掛人は半金を先にもらい、ことが済んでから残りを手に入れる。自然死に見える梅安の仕掛は重宝だった。同じ仕掛人の彦次郎とは一緒に酒は飲むが、互いの過去については詮索しない。
次の仕掛は料理屋万七の女将おみのだった。万七の前の女将おしずは梅安の仕掛で亡くなり、おみのは後添いである。梅安は、万七に出向いて女中のおもんと深い仲になり、店の情報を手に入れる。
池波正太郎生誕100年記念企画。久々に本格時代劇を拝見。原作は1972年~1990年「小説現代」に作者の死去まで続いた連載小説です。テレビで放映されて、仕掛人、仕置き人が大ブームだった記憶があります。視聴者は不満をかこつ江戸の人々に感情移入して、世のため人のためにならない悪人を消し去る鮮やかな手口に溜飲を下げました。この作品も期待を裏切りません。
186㎝もの長身の豊川さん、こんなに大きな人が江戸時代にいたのかなと思いますが、原作も大男とあったような。この作品のゲストの天海祐希さんも170㎝を越えるので、二人が並ぶと華やかです。菅野美穂さん演じるおもんは、相手が本気でないと知りながら「役立ちたい」と思うひたむきさに女心を感じます。
夜や室内のシーンではぜいぜいがろうそくの灯り、殺しの場面も当然ある暗めの作品ですが、唯一底抜けに明るいのが、梅安の身の回りの世話をする近所のおせき。朝ドラでも肝っ玉ばあちゃんを好演している高畑淳子さんが、ここでも頼りになるおばちゃん役。おしゃべり多いですが、笑わせてくれます。仲は良いけど互いに踏み込まない、彦次郎役の愛之助さんとのかけあいも良く、彦次郎の因縁の過去が明らかになる第2話が待たれます。第2話は4月7日公開。(白)
2023年/日本/カラー/シネスコ/134分
配給:イオンエンターテイメント
(C)「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社
https://baian-movie.com/
★2023年2月3日(金)ロードショー
2023年01月22日
すべてうまくいきますように 原題: Tout s'est bien passé
監督・脚本:フランソワ・オゾン(『ぼくを葬る』『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』)
出演:ソフィー・マルソー アンドレ・デュソリエ ジェラルディーヌ・ペラス シャーロット・ランプリング ハンナ・シグラ
小説家のエマニュエルは、85歳の父アンドレが脳卒中で倒れたという報せを受け病院に駆けつける。集中治療室からは脱することができたが、身体の自由がきかず、「こんな姿はもう自分じゃない、終わらせてほしい」という。エマニュエルは妹のパスカルに相談し、父の願いを受け入れるしかないと、スイスの尊厳死協会に相談する。段取りや日程も決めるが、間近になって、父は孫ラファエルの演奏会を観てからにしたいと、実行日を延期することになる。生きる気持ちを取り戻したのではと、エマニュエルたちは期待するが、父は皆に自分で終わらせることを楽しそうに告げる・・・・
父は元実業家で、母は彫刻家。裕福な暮らしをしていて、父は美術館の運営にも関わっているらしく、人生を謳歌してきたようです。
葬儀の時には、ユダヤのカディッシュ(祈り)だけ唱えてくれればいいという言葉から、ユダヤだとわかりました。
妹パスカルは、クラシック音楽祭に携わっているのですが、ほんとうは第二次世界大戦における楽器の破壊を研究したかったと語るのを聞いて、尊厳死協会の女性が、ご家族にホロコーストの犠牲者がいらっしゃるのかと聞く場面がありました。父の従妹は強制収容所からの生還者。そして、父は少しドイツ語が話せます。ナチスが台頭した時代、どんなことがあったのでしょう・・・
ジェラールという男性が、父が一人になる時を狙って父に会いにいくのですが、エマニュエルやパスカルはジェラールを要注意人物として認識しています。でも、父は「もう来るなとは言えなかった」と言います。いったいどういう係わりがあった人物なのか謎が残りました。
スイスでは安楽死が認められていますが、それでも尊厳死協会の女性は、私たちは見守るだけ、自分で薬を飲む必要があると言います。
本作を観て、真っ先に思い出したのが『母の身終い』(2012年/フランス 監督:ステファヌ・ブリゼ)なのですが、その映画でも同様でした。
それにしても、スイスでの尊厳死はお金があるから出来ること、貧しい人は死を待つしかないという言葉にドキッとしました。
エマニュエルが時折、少女時代の父とのことを思い出す場面が出てきます。娘としては、父の思いはわかるけれど、やっぱり自死という形で見送るのはつらい・・・ ソフィー・マルソーがそんな娘の思いを体現していて素敵です。(咲)
カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品作品
2021/フランス・ベルギー/フランス語・ドイツ語・英語/113分/カラー/アメリカンビスタ/5.1ch
字幕翻訳:松浦美奈
提供:木下グループ
配給:キノフィルムズ
公式サイト:https://ewf-movie.jp/
★2月3日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、Bunkamura ル・シネマほかで全国公開
イニシェリン島の精霊(原題:The Banshees of Inisherin)
監督・脚本:マーティン・マクドナー
撮影:ベン・デイビス
音楽:カーター・バーウェル
出演:コリン・ファレル(パードリック)、ブレンダン・グリーソン(コルム)、ケリー・コンドン(シボーン)、バリー・コーガン(ドミニク)
1923年、アイルランドの孤島、イニシェリン島。島民全員が顔見知りのこの平和な小さい島で、気のいい男パードリックは長年友情を育んできたはずだった友人コルムに突然の絶縁を告げられる。急な出来事に動揺を隠せないパードリックだったが、理由はわからない。賢明な妹シボーンや風変わりな隣人ドミニクの力も借りて事態を好転させようとするが、ついにコルムから「これ以上自分に関わると自分の指を切り落とす」と恐ろしい宣言をされる。美しい海と空に囲まれた穏やかなこの島に、死を知らせると言い伝えられる“精霊”が降り立つ。その先には誰もが想像しえなかった衝撃的な結末が待っていた…。
マクドナー監督とメインキャストのコリン・ファレル、ブレンダン・グリーソンはベルギーを舞台に展開した『ヒットマンズ・レクイエム』(08)以来、14年ぶりの再タッグ。今回マクドナー監督はコメディを作ったらしいのですが、そうわかりやすくありませんでした。イギリスのコメディってダークすぎて今までも笑えなかったのですが、今回も。
一方的に絶縁を告げたコルムが、納得できずに声をかけてくるパードリックに「自分の指を切る」というところで、「???」。男女ならば振られた男か女が「別れるなら死ぬ」と脅かしたり、大切な相手のために自分が引く、となったりかなぁと思いますが、違いました。みんなの関心を集め、引くに引けない2人の行く先は、ここまでやるかというところまで。兄のパードリックを心配する聡明な妹と、横暴な警官と息子ドミニクのドラマもはさみます。
このアイルランドの島からは、遠くない本土での紛争の爆発音が聞こえ、煙も見えています。島の風景の中、透き通った声の民謡らしい歌が流れ、人の営みの悲しさと滑稽さが浮かび上がる余韻の残る作品でした。(白)
☆第80回ゴールデングローブ賞受賞
ミュージカル/コメディ部門 作品賞、主演男優賞(コリン・ファレル)、脚本賞(マーティン・マクドナー)と最多3部門受賞
☆第76回英国アカデミー賞ノミネート
作品賞、英国作品賞、監督賞 マーティン・マクドナー、主演男優賞 コリン・ファレル、助演男優賞 ブレンダン・グリーソン、助演男優賞 バリー・コーガン、助演女優賞 ケリー・コンドン、脚本賞 マーティン・マクドナー、作曲賞 カーター・バーウェル、編集賞 ミッケル・E.G.ニールセンの<主要9部門10ノミネート>
2022年/イギリス・アメリカ・アイルランド合作/カラー/シネスコ/109分
配給:ディズニー
(C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
https://www.searchlightpictures.jp/movies/bansheesofinisherin
★2023年1月27日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
レジェンド&バタフライ
監督:大友啓史
脚本:古沢良太
撮影:芦澤明子
音楽:佐藤直紀
出演:木村拓哉、綾瀬はるか、宮沢氷魚、市川染五郎、音尾琢真、斎藤 工、北大路欣也、伊藤英明、中谷美紀
政略結婚で結ばれた、格好ばかりの織田信長と密かに信長暗殺を目論む・濃姫は、全く気が合わない水と油の関係。ある日濃姫の祖国で内乱が起こり父が命を落とす。自身の存在意義を失い自害しようとする彼女に、再び生きる意味と場所を与えたのは、他でもない信長だった。そんな信長もまた、大軍に攻められ窮地に立たされた時、濃姫にだけは弱音を吐く。自暴自棄になる彼を濃姫は鼓舞し、二人は桶狭間の激戦を奇跡的に勝ち抜く。これをきっかけに芽生えた絆は更に強くなり、いつしか天下統一が二人の夢となる。しかし、戦さに次ぐ戦さの中で、信長は非情な"魔王"へと変貌してゆく。本当の信長を知る濃姫は、引き止めようと心を砕くが、運命は容赦無く<本能寺>へと向かっていく。
東映創立70周年記念作品。総製作費 20億円の壮大なスケールで、誰もが知る日本史上の“レジェンド”織田信長と、その正室・濃姫(別名“帰蝶”)の謎に包まれた30年を描いています。「るろうに剣心」シリーズの大友啓史監督、脚本は「コンフィデンスマンJP」シリーズの古沢良太。すでに史実として知られているエピソードが元ではありますが、織田信長を木村拓哉、濃姫を綾瀬はるかが演じるのをはじめ、誰もが知るスターたちが配されてこの戦国絵巻を彩っています。
権謀術数がうずまく世ですが、二人にフォーカスしてみると、なんとも純粋で不器用な男女のラブストーリーでありました。互いに引かない二人のにらみ合いのシーンなど、近すぎて見えないだろうというほど近い近い!
少しずつ心が通じていくようす、ラストの一言に撃ち抜かれること必至です。(白)
2023年/日本/カラー/シネスコ/168分
配給:東映
©2023「THE LEGEND & BUTTERFLY」製作委員会
公式 HP:http://legend-butterfly.com/
公式 Twitter:@lb_toei70th
★2023年1月27日(金)ロードショー
シネマ組踊 孝行の巻
監督:宮平貴子(『アンを探して』)
プロデューサー:大野順美、横澤匡広
「組踊」は、琉球王国時代の1719年に躍奉行・玉城朝薫が創始した、琉球独自の歌舞劇。
琉球の伝説を元に琉球舞踊や琉球古典音楽を基礎とし、日本や中国の芸能に影響を受けながら発展した。沖縄が本土復帰した1972年5月15日には国の重要無形文化財に指定され、2010年にはユネスコ無形文化遺産リストに登録された。
「シネマ組踊」は、約300年間受け継がれてきた「組踊」の歴史や特徴をわかりやすく伝えると共に、玉城朝薫の代表的な五作品(朝薫五番)の中から、「孝行の巻」の上演を取り上げ、役者の繊細な表情、緊迫感溢れる演奏者の音楽、流麗なセリフ回しなど、組踊の魅力を余すところなく伝えるプロジェクト。
*孝行の巻 物語*
屋良ムルチという池に住む大蛇が田畑を荒らしていた。占いで14~15歳の子を供えれば鎮まると出て、国王は「生贄になる家族には生活を保障する」とお触れを出す。父が亡くなり母を支えながら貧しく暮らす姉弟。お触れをみて姉は弟を説得し、自ら生贄になると王府へ申し出る。 生贄の儀式の日、大蛇が出現し娘を飲み込もうとする瞬間…
舞台「孝行の巻」の始まる前に、美しい琉球の着物姿の女性(宮城さつきさん)が、組踊についてわかりやすくその歴史や特徴を説明してくださいます。
組踊はもともと、中国皇帝の使者である冊封使を歓待するためにつくられたので、初めての人にも理解しやすく工夫されたものとのこと。琉球古語で語られますが、本作では、現代口語の字幕が付けられています。やさしい響きの琉球の言葉や、静かな足運び、翻って、大蛇の躍動的な振る舞いを楽しみました。琉球独特の楽器による音楽「歌三線」も心地いいです。楽器を奏でる人たちの服装も独特です。まったりと組踊を味わいました。(咲)
◆1/28(土)上映後 初日舞台挨拶:
宮平貴子監督、大野順美プロデューサー、澤井毎里子(出演者:地謡 笛)
◆1/29(日)上映後 尚玄(俳優)ゲストトーク
2022年/日本/77分/カラー/HD
配給:ククルビジョン、ミカタ・エンタテインメント
公式サイト:https://kukuruvision.com/cinema_kumiodori_koko/
★2023年1月28日(土)から渋谷ユーロスペースにて一週間限定公開
ミスタームーンライト~1966 ザ・ビートルズ武道館公演 みんなで見た夢~
監督:東 考育
撮影:吉田誠
語り:満島ひかり
出演:井口理、浦沢直樹、奥田民生、加山雄三、きたやまおさむ、黒柳徹子、康芳夫、財津和夫、ジュリア・ベアード、髙嶋弘之、高橋克彦、野地秩嘉、尾藤イサオ、フリーダ・ケリー、星加ルミ子、堀威夫、松本隆、ミッキー・カーチス、峯田和伸、湯川れい子ほか
わずか 8 年足らずの活動で世界中を熱狂させ、デビューから 60 年以上経った今もなお語り継がれる伝説のロックバンド“ザ・ビートルズ”。
彼らはどのようにして日本で空前の大人気バンドになったのか。どのような軌跡で伝説の日本武道館公演が実現されたのか。
そして、今もザ・ビートルズが広い世代に愛される理由とは何なのか。武道館公演の舞台裏で活躍した知られざる立役者や熱狂の渦を目撃した証言者達は、何を思い何に突き動かされたのか。
世界のエンターテイメント、音楽シーンに大きな影響を与えた“ザ・ビートルズ”、多くの番組や映画が作られてきましたが、これは日本武道館公演の舞台裏に注目した映像です。この公演がどうやって実現されていったのか、一大イベントの裏で着々と勧められた準備などなど、当時の映像と当日の熱狂の中にいた人たちの証言で蘇ります。
上京するなど思いもよらず、テレビでの映像を見るほかありませんでしたが、友人と大感激していました。公演後の芸能ニュースや雑誌で4人がホテルに缶詰めになっていたと知って気の毒に思ったものです。
ビートルズの前と後ではくっきりと違いが出るほど大きな存在であったと、一ファンとしても思います。ジョンは40歳、ジョージは58歳で亡くなりましたが、ポールとリンゴが80歳を超えても元気なのが嬉しいです。ポスターの4人の絵は映像にも登場する浦沢直樹さんの描かれたもの、まだ20代と若かった彼ら、似ていますよね。(白)
〇警視庁が撮影した”ビートルズ来日動画”が開示請求をうけて2022年10月に公開されました。警備記録のために撮影されたものですが、いまやとても貴重です(動画サイトに残っています。探してね)。
2022年/日本/カラー/シネスコ/102分
配給:KDDI/WOWOW
(C)「ミスタームーンライト」製作委員会
https://mr-moonlight.jp/
★2023年1月27日(金)ロードショー
2023年01月21日
金の国 水の国
監督:渡邉こと乃
原作:岩本ナオ「金の国 水の国」(小学館フラワーコミックスαスペシャル刊)
脚本:坪田 文
アニメーションプロデューサー:服部優太
キャラクターデザイン:高橋瑞香
美術監督:清水友幸
音楽:Evan Call
アニメーション制作:マッドハウス
出演:賀来賢人(ナランバヤル)、浜辺美波(サーラ)、戸田恵子(レオポルディーネ)、神谷浩史(サラディーン)、沢城みゆき(ライララ)、木村昴(ジャウハラ)
隣り合った二つの国、<金の国アルハミド>と<水の国バイカリ>は、ささいなことでいがみ合い、戦争になったことから国交を断絶して100年にもなる。両国王の思惑から、金の国のずっと下位の王女サーラと水の国の貧しい建築士ナランバヤルは、政略結婚の当事者となってしまった。初めて会った二人はお互いに好感を持ちながら、両国の平和のため夫婦を演じようということになった。
商工業が発展し、足りないものは水だけという豊かな金の国。ナランバヤルはサーラの姉の第一王女レオポルディーネと左大臣サラディーンの招待を受けた。金の国の水不足を知ったナランバヤルは、自分の技術で何かできないかと考える。何事も争わず、おっとりした性格のサーラは、誠実なナランバヤルに惹かれていくが、ナランバヤルを敵とみなす者が暗躍する。
「このマンガがすごい!」で、2017年「金の国 水の国」、2018年「マロニエ王国の七人の騎士」と連続して1位(オンナ編)を獲得し、別作品で史上初めて二連覇を達成した唯一の作家・岩本ナオさんの大人気コミックが原作です。「金の国 水の国」を数巻だけ読みましたが、先がとても気になります。本作で結末まで観られてホッとしました。ナランバヤルとサーラの2人が優しくて控えめで”好感度大”です。声をあてた賀来賢人さん、浜辺美波さんも雰囲気があっています。アニメーション制作は『グッバイ、ドン・グリーズ!』『若おかみは小学生』のマッドハウス。
隣国は敵、悪いことばかり吹き込まれてきた両国民は、平和に共存できるでしょうか?と、昨今の情勢と似たところがあります。なんとなくモデルの国はどこだろうと想像してしまいます。現実世界でも物語のように、知恵の働く人が自分の得でなく平和のために尽力してくれるといいんですけどね。
岩本さんの別のコミックもどこかほんわかして、やさしくて心地よい作風です。(白)
原作本は知らなかったのですが、予告編を見て、トルコのモスク風の建物が気になって試写に行きました。「金の国」は中東をイメージして描いていて、トルコ風のモスクの正面がペルシア風だったりして、どこと特定できないのが逆にいいです。「水の国」は、モンゴルやチベットをイメージして描かれています。建物、服装、人の名前、使われている音楽など、それぞれのイメージです。 両国で交わした契約書が一瞬映っただけなので、定かではないのですが、アラビア文字とモンゴルやチベットの文字を組み合わせたような文字に見えました。面白い!
水だけが足りない金の国のために、水の国の豊富な水を国境を越えて供給するための水道橋をナランバヤルは提案します。 イスラエルが分離壁を作る時に、パレスチナ側で水が汲めないようにしていることを思い出してしまいました。 今の世界は、とかく壁を作って、隣国との分断を図る権力者が多くて悲しくなります。そういう権力者にこそ本作を観ていただいて、心を変えてほしいものです。(咲)
2023年/日本/カラー/シネスコ/117分
配給:ワーナー・ブラザース映画
©岩本ナオ/小学館 ©2023「金の国 水の国」製作委員会
https://wwws.warnerbros.co.jp/kinnokuni-mizunokuni-movie/
【映画公式サイト/映画公式Twitter】kinnokuni-mizunokuni-movie.jp
【映画公式Twitter】@kinmizu_movie #金の国水の国 #最高純度のやさしさ
https://www.youtube.com/watch?v=96U9MSdxjOk
★2023年1月27日(金)全国ロードショー
ピンク・クラウド(原題:A Nuvem Rosa 英題:The Pink Cloud)
監督・脚本:イウリ・ジェルバーゼ
撮影:ブルーノ・ポリドーロ
出演:ヘナタ・ジ・レリス(ジョヴァナ)、エドゥアルド・メンドンサ(ヤーゴ)
一夜限りの出会いを楽しんでいたジョヴァナとヤーゴ、二人寛いでいると警報が響き渡った。屋内に入って施錠せよという。空はピンク色の雲で覆われ始めていた。ニュースによるとこの雲は世界中で突如発生し、強い毒性があり10秒で絶命するという。ジョヴァナは妹と親友、ヤーゴは老いた父親が気にかかるが、外出は禁止されて部屋から出ることができない。オンラインで無事を確かめ合い、いつか雲は消えるだろうと楽観視するが、期待は裏切られ続ける。二人は役割分担して日々暮らすことになった。そして二人の間に男の子が誕生し、リノと名付けられた。リノは窓からピンクの雲漂う無人の外を眺め、部屋の中だけで成長していく。
コロナのパンデミック以前に完成した作品ですが、まるで状況を予見してなぞるようなストーリーに、製作した側もとても驚いたようです。
すぐにインフラや食料はどうなるの?などと心配になりますが、映画ではネットが盛んでオンラインで注文したものが、窓に取り付けられた太いパイプを通って届けられます。ジョヴァナの出産もオンラインの指導のもと、ヤーゴが取りあげます。
もっと大騒ぎになるだろうとか、外に出られずに生活必需品はどう作られるのかとか、細かく突っ込むときりのない設定です。ではありますが、監督が描きたかったのは死と隣り合わせの非日常が日常となったとき、人間はその中で何を考え、何を求めていくのかということ。
現状を受け入れて前向きに生きようというヤーゴに、ジョヴァナは共感できません。二人の食い違いの中、日々リノは成長します。オンラインでつながっていた人たちにも変化があります。コロナを経験している身には絵空事とは思えず、今も慣れるばかりでなく、解決策はないのかと探したくなります。(白)
イウリ・ジェルバーゼは、これまでに6本の短編の脚本、監督を手がけてきて、本作が長編デビュー作。
突っ込みどころはいろいろありますが、「ロックダウンの状況を論理的に見せることを目指した脚本ではありません」と監督は語っています。 それでも、世界中がコロナ禍を経験した今、他人事ではなく、自分たちの問題として、この映画を捉えることができるでしょう。
閉じ込められた中で、ジョヴァナは最初望んでなかった子供をヤーゴとの間に設けますが、それでも普通の家庭生活をおくりたくないと抵抗します。
ほぼ見知らぬ男性と二人きりの世界に閉じ込められたとき、さて、どう行動する? 女性監督ならではの感情が感じられる場面が多々ありました。(咲)
2020年/ブラジル/シネスコ/103分/ポルトガル語
字幕翻訳:橋本裕充
配給:サンリスフィルム
(C)2019 Luminary Productions, LLC.
https://senlisfilms.jp/pinkcloud/
https://twitter.com/thepinkcloud_jp
★2023年1月27日(金)ロードショー
2023年01月19日
シャドウプレイ【完全版】 原題:風中有朶雨做的雲 & 夢の裏側
2023年1月20日(金)よりK's cinema、池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺他 全国順次公開 劇場案内
監督:婁燁(ロウ・イエ)
脚本:梅峰(メイ・フォン)、邱玉洁(チウ・ユージエ)、馬英力(マー・インリー)
撮影:ジェイク・ポロック
録音:富康(フー・カン)
オリジナル音楽:ヨハン・ヨハンソン、ヨナス・コルストロプ
編集:朱琳(チュウ・リン)
美術:鍾誠(ジョン・チョン)
衣装:邁琳琳(マイ・リンリン)
ヘアメイク:折妍(ジョー・イエン)
ライン・プロデューサー:徐楽(シュー・ラー)
プロデューサー:耐安(ナイ・アン)、婁燁(ロウ・イエ)、易佳(イー・ジア)
エグゼクティブ・プロデューサー:張家魯(チャン・ジアルー)、婁燁(ロウ・イエ)
日本語字幕:樋口裕子
出演
井柏然(ジン・ボーラン):楊家棟(ヤン・ジャートン)役
宋佳(ソン・ジア):林慧(リン・ホイ)役
秦昊(チン・ハオ):姜紫成(ジャン・ツーチョン)役
馬思純(マー・スーチュン):唐小諾(ヌオ)役
張頌文(チャン・ソンウェン):唐奕傑(タン・イージエ)役
陳妍希(ミシェル・チェン):連阿雲(リエン・アユン)役
陳冠希(エディソン・チャン):林辰峰/老A(アレックス)役
『シャドウプレイ【完全版】』は、中国“第6世代”ロウ・イエ監督の10作目の監督作品。第6世代の映画作家たちは芸術性の高さと個人主義的な視点が特徴。伝統文化や慣習を重んじてきた第5世代以前とは作風も違う。ロウ・イエ監督は、一貫して愛と孤独に揺れる現代中国人を映画の中に描き続けてきた。
第20回東京フィルメックス(2019)で上映された北京市映画関係部署の審査済みバージョンより5分長い、検閲によりカットを余儀なくされた部分を復活させた129分の『シャドウプレイ【完全版】』というタイトルで公開される。

第20回東京フィルメックスでの婁燁監督(撮影:宮崎暁美)
中国の30年、そして香港、台湾を舞台に加えて描くネオノワール・サスペンス
広州市の都市再開発で取り残された一画の洗(シエン)村というビジネス街に囲まれた“都会の村”で、2010年に実際に起きた暴動をヒントに、80年代の改革開放、90年代の社会主義市場経済推進、2000年代のバブルの時代、人々の欲望渦巻く現代までの30年間という時代に翻弄される7人の登場人物を、中国、香港、台湾を舞台に描く。
ストーリー
2006年、広州市内の河川敷で死体が発見される。
7年後の2013年4月14日。広州市開発区域の“都会の村で、立ち退きの賠償に不満を抱く住民たちによる騒乱が起きる。市当局の責任者であるタンが現場を訪れ住民たちの説得に奔走。しかし、タンはビルの5階から転落し死亡。この開発事業を一手に握っていたのは、ジャン・ツーチョン率いる紫金(ツージン)不動産。この殺人事件を担当する若手刑事のヤン・ジャートンは、タンとジャン、そしてタンの妻・リン・ホイと、タンとリンの娘ヌオの関係を洗い出す。
タンとジャンとリンの3人は24年前の1989年に出会っていた。当時リンはジャンと付き合っていたが、ジャンが既婚者だと知りタンと結婚した。官僚の父親を持つタンは出世の道を約束されていた。
台湾に渡ったジャンはリエン・アユンと知り合い、企業家として成功。2000年にアユンと共に広州に戻り、紫金不動産を創業。紫金不動産は成功しアユンは最高財務責任者の座に就いた。だが2006年にアユンは失踪。そして役人であるタンとのコネでジャンは開発事業を獲得し、タンは開発区の担当主任に昇格した。
2006年当時刑事だったヤンの父親はアユンの失踪事件を調べている最中に交通事故にあい、現在は介護施設に入居している。父は河川敷で発見された死体のDNA鑑定を求めたにもかかわらず、放置され資料も消えてしまったことを知ったヤンは、アユン失踪とタン殺害の両事件にジャンが関わっているのではないかと疑う。
その過程で思わぬ罠を仕掛けられ、免職に追い込まれたヤンは香港に渡り、かつて父と一緒にアユン失踪事件を調べていた探偵のアレックスを訪ね、調査に協力してくれるよう頼む。アレックスからDNA鑑定結果が発見されてジャンのアユン殺害容疑が濃厚になったと知らせを受け、広州に戻った。誤解が解け警察に復帰したヤンは、アユンとタンの殺人事件を解決。と思いきや、そうではなかった。真実をもとめさらに捜査する。
撮影当初のタイトルは『地獄恋人』だったが、完成段階で『一場遊戯、一場夢』(一夜のゲーム、一夜の夢)に。これは劇中とエンドロールで流れる香港出身で台湾活躍する歌手王傑(ワン・チエ)のヒット曲のタイトル。改革開放の初期に流行した。その英題が「The Shadow Play」。しかし、この中国語タイトルが検閲で使用不可になり、同じく改革開放初期の台湾の流行歌である『風中有朵雨做的雲』(雨は雲となり風に漂う)を最終タイトルに。
一場遊戯、一場夢 王傑(ワン・チエ)
https://www.youtube.com/watch?v=B2S1EngkjQk
風中有朵雨做的雲 孟庭葦(モン・ティンウェイ)
https://www.youtube.com/watch?v=huHJE5ZXQ5Y
2016年にクランクインし2017年春に完成した本作は、北京市の映画関係部署の審査に入ったが、その後約2年、繰り返し修正を迫られ、中国本土での公開日まであとわずか7日というところまで作業は続いたという。2019年4月4日に中国本土で公開されると、3日間で約6.5億円の興行収入を記録し大ヒット。また、中国公開前の、2018年11月に開催された第55回台湾金馬奨で、監督賞、撮影賞、音響賞、アクション設計賞の4部門でノミネートを果たし、2019年2月の第69回ベルリン国際映画祭パノラマ部門で上映された。
『シャドウプレイ【完全版】』公式HP
英題:The Shadow Play
2019 年/中国/129 分/北京語・広東語・台湾語/DCP/1.85:1/
配給・宣伝:アップリンク
『夢の裏側』 原題:夢的背後
Behind the Dream: A Documentary on the Shadow Play
監督:馬英力(マー・インリー)
『シャドウプレイ』製作の舞台裏を準備から公開に至るまで追った『夢の裏側』も同時に上映される。メイク、衣装、撮影の状況、カラーリングのことなど、多岐に渡って撮っている。そして、本作が完成してから2年もの期間を経なくては公開できなかった検閲の過程もドキュメントされている。自分の思いを語るロウ・イエ監督。様々な壁を乗り越えて、2019年4月公開にいたるまでの苦労と工夫が描かれる。監督は、ロウ・イエ監督の妻であり本作共同脚本家でもある馬英力(マー・インリー)。

第20回東京フィルメックスでの馬英力監督(撮影:宮崎暁美)
2018年製作/94分/G/中国
広州で起きた汚職事件をヒントに、都市開発をめぐる殺人事件の真相を追うという複雑な構造。ドキュメンタリータッチで描かれ、粗くて暗い映像ゆえに、時に目を凝らさないと何が写っているのかわからないこともあった。
婁燁監督は、これまでも中国のその時代の姿と、人間の欲望や絶望など感情を混沌とした人間関係に反映した映像で描いてきたと思うが、この作品はさらに複雑な人間関係gあ描かれ、時代を行ったり来たり、中国、香港、台湾も行ったり来たりで、これは1回では複雑すぎて理解ができずだった。基本的な人間関係がわからないと、事件の進展、内容の理解も難しかしい。なので2019年の東京フィルメックスで観たのにすっかり話を忘れていて、最初から見直し。2度目でやっと人間関係が把握できた。
1989年から続く、中国の時代の変遷とともに、台湾、香港との関係も描いている。現在では、もっと変わっているから、次作ではまたそれを取り入れてくるのかもしれない。改革開放の30年の間の中国の変化の中に物語を組み込み、中国と中国人の姿をあぶりだす。
映画題名を『一場遊戯、一場夢』(一夜のゲーム、一夜の夢)にしたかったけど検閲を通らず、この王傑(ワン・チエ)の有名な曲の英題「シャドウプレイ」を英題にしたと婁燁監督は語っていてびっくり。じつは私は王傑のファンで彼のCDを10枚以上持っている。この曲が途中に流れ、最後のタイトルロールにも王傑自身の哀愁のある歌声が聴け嬉しかった。この曲はよく聴いていたけどサビの部分の意味を知らなかった。この作品の字幕で知り、そうだったのかとびっくり(笑)。「喔 為什麼道別離 又說什麼在一起」(別れようといいながら、なぜ一緒にいるの)(暁)。
監督:婁燁(ロウ・イエ)
脚本:梅峰(メイ・フォン)、邱玉洁(チウ・ユージエ)、馬英力(マー・インリー)
撮影:ジェイク・ポロック
録音:富康(フー・カン)
オリジナル音楽:ヨハン・ヨハンソン、ヨナス・コルストロプ
編集:朱琳(チュウ・リン)
美術:鍾誠(ジョン・チョン)
衣装:邁琳琳(マイ・リンリン)
ヘアメイク:折妍(ジョー・イエン)
ライン・プロデューサー:徐楽(シュー・ラー)
プロデューサー:耐安(ナイ・アン)、婁燁(ロウ・イエ)、易佳(イー・ジア)
エグゼクティブ・プロデューサー:張家魯(チャン・ジアルー)、婁燁(ロウ・イエ)
日本語字幕:樋口裕子
出演
井柏然(ジン・ボーラン):楊家棟(ヤン・ジャートン)役
宋佳(ソン・ジア):林慧(リン・ホイ)役
秦昊(チン・ハオ):姜紫成(ジャン・ツーチョン)役
馬思純(マー・スーチュン):唐小諾(ヌオ)役
張頌文(チャン・ソンウェン):唐奕傑(タン・イージエ)役
陳妍希(ミシェル・チェン):連阿雲(リエン・アユン)役
陳冠希(エディソン・チャン):林辰峰/老A(アレックス)役
『シャドウプレイ【完全版】』は、中国“第6世代”ロウ・イエ監督の10作目の監督作品。第6世代の映画作家たちは芸術性の高さと個人主義的な視点が特徴。伝統文化や慣習を重んじてきた第5世代以前とは作風も違う。ロウ・イエ監督は、一貫して愛と孤独に揺れる現代中国人を映画の中に描き続けてきた。
第20回東京フィルメックス(2019)で上映された北京市映画関係部署の審査済みバージョンより5分長い、検閲によりカットを余儀なくされた部分を復活させた129分の『シャドウプレイ【完全版】』というタイトルで公開される。

第20回東京フィルメックスでの婁燁監督(撮影:宮崎暁美)
中国の30年、そして香港、台湾を舞台に加えて描くネオノワール・サスペンス
広州市の都市再開発で取り残された一画の洗(シエン)村というビジネス街に囲まれた“都会の村”で、2010年に実際に起きた暴動をヒントに、80年代の改革開放、90年代の社会主義市場経済推進、2000年代のバブルの時代、人々の欲望渦巻く現代までの30年間という時代に翻弄される7人の登場人物を、中国、香港、台湾を舞台に描く。
ストーリー
2006年、広州市内の河川敷で死体が発見される。
7年後の2013年4月14日。広州市開発区域の“都会の村で、立ち退きの賠償に不満を抱く住民たちによる騒乱が起きる。市当局の責任者であるタンが現場を訪れ住民たちの説得に奔走。しかし、タンはビルの5階から転落し死亡。この開発事業を一手に握っていたのは、ジャン・ツーチョン率いる紫金(ツージン)不動産。この殺人事件を担当する若手刑事のヤン・ジャートンは、タンとジャン、そしてタンの妻・リン・ホイと、タンとリンの娘ヌオの関係を洗い出す。
タンとジャンとリンの3人は24年前の1989年に出会っていた。当時リンはジャンと付き合っていたが、ジャンが既婚者だと知りタンと結婚した。官僚の父親を持つタンは出世の道を約束されていた。
台湾に渡ったジャンはリエン・アユンと知り合い、企業家として成功。2000年にアユンと共に広州に戻り、紫金不動産を創業。紫金不動産は成功しアユンは最高財務責任者の座に就いた。だが2006年にアユンは失踪。そして役人であるタンとのコネでジャンは開発事業を獲得し、タンは開発区の担当主任に昇格した。
2006年当時刑事だったヤンの父親はアユンの失踪事件を調べている最中に交通事故にあい、現在は介護施設に入居している。父は河川敷で発見された死体のDNA鑑定を求めたにもかかわらず、放置され資料も消えてしまったことを知ったヤンは、アユン失踪とタン殺害の両事件にジャンが関わっているのではないかと疑う。
その過程で思わぬ罠を仕掛けられ、免職に追い込まれたヤンは香港に渡り、かつて父と一緒にアユン失踪事件を調べていた探偵のアレックスを訪ね、調査に協力してくれるよう頼む。アレックスからDNA鑑定結果が発見されてジャンのアユン殺害容疑が濃厚になったと知らせを受け、広州に戻った。誤解が解け警察に復帰したヤンは、アユンとタンの殺人事件を解決。と思いきや、そうではなかった。真実をもとめさらに捜査する。
撮影当初のタイトルは『地獄恋人』だったが、完成段階で『一場遊戯、一場夢』(一夜のゲーム、一夜の夢)に。これは劇中とエンドロールで流れる香港出身で台湾活躍する歌手王傑(ワン・チエ)のヒット曲のタイトル。改革開放の初期に流行した。その英題が「The Shadow Play」。しかし、この中国語タイトルが検閲で使用不可になり、同じく改革開放初期の台湾の流行歌である『風中有朵雨做的雲』(雨は雲となり風に漂う)を最終タイトルに。
一場遊戯、一場夢 王傑(ワン・チエ)
https://www.youtube.com/watch?v=B2S1EngkjQk
風中有朵雨做的雲 孟庭葦(モン・ティンウェイ)
https://www.youtube.com/watch?v=huHJE5ZXQ5Y
2016年にクランクインし2017年春に完成した本作は、北京市の映画関係部署の審査に入ったが、その後約2年、繰り返し修正を迫られ、中国本土での公開日まであとわずか7日というところまで作業は続いたという。2019年4月4日に中国本土で公開されると、3日間で約6.5億円の興行収入を記録し大ヒット。また、中国公開前の、2018年11月に開催された第55回台湾金馬奨で、監督賞、撮影賞、音響賞、アクション設計賞の4部門でノミネートを果たし、2019年2月の第69回ベルリン国際映画祭パノラマ部門で上映された。
『シャドウプレイ【完全版】』公式HP
英題:The Shadow Play
2019 年/中国/129 分/北京語・広東語・台湾語/DCP/1.85:1/
配給・宣伝:アップリンク
『夢の裏側』 原題:夢的背後
Behind the Dream: A Documentary on the Shadow Play
監督:馬英力(マー・インリー)
『シャドウプレイ』製作の舞台裏を準備から公開に至るまで追った『夢の裏側』も同時に上映される。メイク、衣装、撮影の状況、カラーリングのことなど、多岐に渡って撮っている。そして、本作が完成してから2年もの期間を経なくては公開できなかった検閲の過程もドキュメントされている。自分の思いを語るロウ・イエ監督。様々な壁を乗り越えて、2019年4月公開にいたるまでの苦労と工夫が描かれる。監督は、ロウ・イエ監督の妻であり本作共同脚本家でもある馬英力(マー・インリー)。

第20回東京フィルメックスでの馬英力監督(撮影:宮崎暁美)
2018年製作/94分/G/中国
広州で起きた汚職事件をヒントに、都市開発をめぐる殺人事件の真相を追うという複雑な構造。ドキュメンタリータッチで描かれ、粗くて暗い映像ゆえに、時に目を凝らさないと何が写っているのかわからないこともあった。
婁燁監督は、これまでも中国のその時代の姿と、人間の欲望や絶望など感情を混沌とした人間関係に反映した映像で描いてきたと思うが、この作品はさらに複雑な人間関係gあ描かれ、時代を行ったり来たり、中国、香港、台湾も行ったり来たりで、これは1回では複雑すぎて理解ができずだった。基本的な人間関係がわからないと、事件の進展、内容の理解も難しかしい。なので2019年の東京フィルメックスで観たのにすっかり話を忘れていて、最初から見直し。2度目でやっと人間関係が把握できた。
1989年から続く、中国の時代の変遷とともに、台湾、香港との関係も描いている。現在では、もっと変わっているから、次作ではまたそれを取り入れてくるのかもしれない。改革開放の30年の間の中国の変化の中に物語を組み込み、中国と中国人の姿をあぶりだす。
映画題名を『一場遊戯、一場夢』(一夜のゲーム、一夜の夢)にしたかったけど検閲を通らず、この王傑(ワン・チエ)の有名な曲の英題「シャドウプレイ」を英題にしたと婁燁監督は語っていてびっくり。じつは私は王傑のファンで彼のCDを10枚以上持っている。この曲が途中に流れ、最後のタイトルロールにも王傑自身の哀愁のある歌声が聴け嬉しかった。この曲はよく聴いていたけどサビの部分の意味を知らなかった。この作品の字幕で知り、そうだったのかとびっくり(笑)。「喔 為什麼道別離 又說什麼在一起」(別れようといいながら、なぜ一緒にいるの)(暁)。
2023年01月15日
新生ロシア1991 原題The Event
監督 セルゲイ・ロズニツァ
1991年 8 ⽉19 ⽇。ペレストロイカに反対する共産党保守派がゴルバチョフ⼤統領を軟禁し軍事クーデターを宣⾔した。テレビはニュース速報の代わりにチャイコフスキーの「⽩⿃の湖」を全⼟に流した。モスクワで起きた緊急事態にレニングラードは困惑した市⺠で溢れかえった。夜の街では男がギターを掻き鳴らしウラジーミル・ヴィソツキーの「新時代の歌」を歌い、ラジオからはヴィクトル・ツォイの「変化」が流れた。⾃由を叫んだ祖国のロックが鳴り響くレニングラードは解放区の様相を呈し、8万⼈が集まった宮殿広場でついに⼈々は共産党⽀配との決別を決意する・・・
本作はレニングラード・ドキュメンタリー映画スタジオの 8 名のカメラマンが混乱する市中に紛れ撮影したモノクロ映像をセルゲイ・ロズニツァが⼿にし、3⽇間で終わった「ソ連 8⽉クーデター」に揺れながらもロシアの⾃由のため⽴ち上がったレニングラードを再構成したもの。
カメラはエリツィンを⽀持し市⺠にロシアの⺠主主義を訴えるアナトリー・サプチャーク・レニングラード市⻑も追いかけている。サプチャークの側近を務めていた若かりし頃のウラジーミル・プーチンの姿も映している。プーチンは 旧体制を解体したこの出来事の9年後にロシア連邦の⼤統領となり絶対的な権⼒を⼿にして現在に至っている。
このクーデターをきっかけに、ペレストロイカでソ連邦の緩やかな改⾰を考えていたゴルバチョフは失脚し、連邦最⼤の共和国であるロシアのトップだった急進改⾰派のエリツィンが実権を握り、結果的に同年12⽉にソ連邦の崩壊へ繋がりました。
当時の映像は、レニングラードの人たちが、モスクワでクーデターが起こったとの報に、純粋に社会の変革と自由を求めている姿を伝えてくれます。
共産党が良しとしなかったロシア正教会の司祭がスピーチする姿も出てきました。
ソ連崩壊後のロシアで、人々はどんな自由を得ることができたのでしょうか・・・
領土を拡大しようとする指導者のもとで、どんな思いをしていることでしょう・・・
歴史に「もし」はありませんが、違う人物が実権を握っていたなら・・・と、つい考えさせられました。
☆本作で描かれた8月クーデターの日々を含む数年間を、リトアニア側から見たのが、同じくロズニツァ監督の『ミスター・ランズベルギス』です。非暴力でソ連からリトアニアを独立させたランズベルギス。こんな方に国を率いてほしい!(咲)
第72回ヴェネチア国際映画祭正式出品
2015年/70分/ベルギー=オランダ/ロシア語/4:3
⽇本語字幕 守屋愛
配給 サニーフィルム
公式サイト:https://www.sunny-film.com/theevent
★2023年1⽉21⽇(⼟)よりシアター・イメージフォーラム他全国順次公開
ヒトラーのための虐殺会議 原題:Die Wannseekonferenz 英題:THE CONFERENCE
監督:マッティ・ゲショネック
出演:フィリップ・ホフマイヤー、ヨハネス・アルマイヤー、マキシミリアン・ブリュックナー
1942年1月20日正午、ベルリン。雪が残る冷えた日。
ヴァン湖(ヴァンゼー)の畔にある大邸宅にナチス親衛隊と各事務次官が、国家保安部代表のラインハルト・ハイドリヒに招かれ、ユダヤ人問題の最終的解決について会議が開かれた。「最終的解決」とは、ヨーロッパにいるすべてのユダヤ人を計画的に駆除する、つまり抹殺することを意味するコード名。ヴァンゼー会議の出席者の中で異を唱えた者は一人もおらず、これにより、現代国家が1つの民族の抹殺に乗り出すという前代未聞の政策が行われた。議事録には、移送、強制収容、強制労働、計画的殺害など様々な方策が詳述されており、単にユダヤ人を排除するだけではなく、移送と同時に強制労働者として利用する目的もあった。会議から1年以内にホロコーストは加速し、ユダヤ人の多くは絶滅収容所に到着すると同時に強制労働者に選別されることなく殺害されていった・・・
※2022年はヴァンゼー会議から80年
会議に出席した高官15名と秘書1名
ラインハルト・ハイドリヒ(国家保安本部長官/ベーメン・メーレン保護領総督代理/親衛隊大将)
オットー・ホフマン(親衛隊人種・植民本部/親衛隊中将)
ハインリヒ・ミュラー(国家保安本部ゲシュタポ局長/親衛隊中将)
ゲルハルト・クロップファー(党官房局長/親衛隊准将)
フリードリヒ・ヴィルヘルム・クリツィンガー(首相官房局長)
ヴィルヘルム・シュトゥッカート(内務省次官)
マルティン・ルター(外務省次官補)
エーリヒ・ノイマン(四か年計画庁次官)
ローラント・フライスラー(法務省次官)
ルドルフ・ランゲ(ラトヴィア全権区保安警察・保安部司令官/ オストラント全権区保安警察・保安司令部代理/親衛隊少佐)
カール・エバーハルト・シェーンガルト(ポーランド総督府保安警察・保安部司令官/親衛隊准将)
ヨーゼフ・ビューラー(ポーランド総督府次官)
ゲオルク・ライプブラント(東部占領地域省局長)
アルフレート・マイヤー(東部占領地域省次官・北ヴェストファーレン大管区指導者)
アドルフ・アイヒマン(国家保安本部ゲシュタポ局ユダヤ人課課長/親衛隊中佐)
インゲボルグ・ワーレマン(秘書)
本作は、アドルフ・アイヒマンによって記録された会議の一部のみが残されていた議事録に基づき、80年後の2022年にドイツで製作されたもの。
すでに欧州では1933年以来、ユダヤ人迫害が行われていて、「ラトビアからユダヤ人が一掃された」との報告に、皆が、グーの手(拳)で机を叩きます。ユダヤ人をマダガスカルに送る案は、制海権がイギリスにあって無理という発言も。移送先はもうない、さて、どうするというのがヴァンゼー会議でした。
「低劣な人種をすべて排除することが長期的目標」
「読み書きは小学生程度、計算は100までで充分」と、ドイツ民族以外を蔑視する言葉も。
「アーリア化が済んだ」は、没収したという意味。
「ローマ人は、ユダヤ人が面倒で離散させた。我々が尻ぬぐい。病原体を根絶しないと」
「欧州全域にいるユダヤ人は、1100万人。銃殺するには、1100万発の銃弾はもったいない」
「警告の臭気がついていない殺虫剤をつかえば一気に片付けられる」
こんな会話が交わされ、最終的に、東方のアウシュヴィッツ村に欧州全域のユダヤ人を移送して、定住させるのでなく、抹殺することが決定されたのです。
この会議には、アドルフ・ヒトラーは出席していません。いかに、当時のナチスドイツが、アーリア民族を代表するドイツ人こそ優秀で、他者は排除すべきという考えで統一されていたことがわかります。
記録した秘書の女性も同じ考えだったのでしょうか・・・ こんなことを記録することに苦悩はなかったのでしょうか・・・ (咲)
観終わって「これは人間が人間を片付けよう、抹殺しよう」という会議なのだとぞわぞわと寒くなってきました。顔色ひとつ変えず、胸も痛めることもなく話すこの人たちに、ユダヤ人はゴミやがらくたと同様なのでした。家に帰れば良き父親や夫であったでしょうに。これは記録に基づき、80年後に再現した映画です。
救われるのはドイツで作られた作品ということです。加害国でありながらきちんと事実を掘り起こして、伝えていくことから逃げていません。風化し忘れられていくことを止めるには、そうはしない、という人の意思が大事。それが繰り返さないことにつながると信じます。(白)
2022年/ドイツ/112分/ビスタ/5.1ch/G
字幕翻訳:吉川美奈子
配給:クロックワークス
公式サイト:https://klockworx-v.com/conference/
★2023年1月20日(金)より 新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、 YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開
母の聖戦 原題:La Civil
監督:テオドラ・アナ・ミハイ
製作:ハンス・エヴァラエル
共同製作:ダルデンヌ兄弟、クリスティアン・ムンジウ、ミシェル・フランコ
出演:アルセリア・ラミレス、アルバロ・ゲレロ、アジェレン・ムソ、ホルヘ・A・ヒメネス
メキシコ北部の町。十代の美しい娘ラウラ(デニッセ・アスピルクエタ)は念入りに化粧をして、母シエロ(アルセリア・ラミレス)にも口紅をさして、ボーイフレンドに会いに出かけていく。それが、シエロが娘の姿を見た最後になってしまう。若い男(ダニエル・ガルシア)から呼び出され、「娘に会いたかったら明日までに15万ペソと旦那の車をよこせ。警察や軍に通報するな」と言い渡される。
シエロは、今は若い愛人と暮らしている夫グスタボ(アルバロ・ゲレロ)のところに行き、事態を話す。翌日、夫と一緒に男に会いに行き、用意できた2万5千ペソと車を渡すが、それでは足りないと追加5万ペソを要求される。居合わせた夫の友人で地元の有力者ドン・キケ(エリヒオ・メレンデス)が夫の店の商品と引き換えに金を出してくれるが、ラウラを返してくれない。
警察に相談しても埒があかず、シエロは自力で娘を取り戻そうと犯罪組織を探り始める。この町に着任して間もない軍のラマルケ中尉(ホルヘ・A・ヒメネス)から、シエロが収集した犯罪組織の情報と引き換えにラウラの捜索を助けるといわれる。協力して、誘拐犯に迫っていくが、はたして、ラウロは無事なのか・・・
ルーマニア生まれでベルギーを拠点に活動する女性監督テオドラ・ミハイの劇映画デビュー作。チャウシェスク政権下のルーマニアに生まれた彼女は、8歳の頃にベルギーに移住。その後、米国カリフォルニアで中高生時代を送り、ニューヨークの大学で映画を学んだ後、ベルギーに戻り、映像業界に入る。メキシコの麻薬戦争下での子供たちを題材とするドキュメンタリーを企画していた中で、『母の聖戦』の主人公シエロのモデルとなった実在の女性ミリアム・ロドリゲスに出会い、フィクションで本作の製作を決めたという。
ベルギーの名匠ダルデンヌ兄弟、『4ヶ月、3週と2日』でカンヌ映画祭パルムドールに輝いたクリスティアン・ムンジウ、『或る終焉』で知られるメキシコの俊英ミシェル・フランコがプロデューサーとして参加。
撮影監督は、ラドゥ・ジューデ監督の問題作『アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ 監督〈自己検閲〉版』などに携わってきたルーマニア人のマリウス・パンドゥル。

第34回東京国際映画祭で『市民』のタイトルで上映され、審査員特別賞受賞した折のテオドラ・ミハイ監督 (撮影:宮崎暁美)
メキシコでは、犯罪組織による誘拐ビジネスが横行していて、2020年には826件の誘拐事件が報告されているとのこと。これは届出件数で、実際には年間約6万件もの誘拐事件が頻発していると推定されています。
身代金を払っても、娘を返してもらえない母の無念の思いをずっしり感じた映画でした。
夫が、「なぜ娘を一人で出かけさせた」と怒鳴る場面がありました。ボーイフレンドに迎えに来させるべきだったということなのでしょう。けれども、こんなに誘拐が頻発している国では、二人一緒に誘拐されることもありえるでしょう。
メキシコだけでなく、安心して出歩けないところは世界各地に多々あることと思います。
なぜタイトルが『La Civil(市民)』なのか?
司法に守られ、安心して暮らせるのが市民でしょうか・・・
監督のタイトルに込めた思いを伺ってみたいところです。(咲)
メキシコでは、日本では考えられない誘拐ビジネスが横行し、金持ちだけでなく庶民もその中に巻き込まれている。母親のシエロは娘の行方を探し回り闘った。闘った相手は誘拐犯だけじゃない。格差と腐敗が日常化した社会。警察は市民の味方ではなく、信用できるのは誰なのか。疑心暗鬼の中で娘の行方を追う。シエロが最後に見たものは何だったのか。彼女の願いは届いたのか。
誘拐犯に車や家を壊され、シエロは現場に駆け付けた軍関係者と組み、誘拐犯を追い、娘を取り戻そうと奔走する。しかし、乗り越えられない大きな現実にぶつかる。知り合いさえ信用できない。それでも彼女は挑んでゆく。
この作品は男中心のマチズモ的社会への批判も込められ、女性の力を示した作品でもある。娘の父親であるシエロの元夫は、家族を捨て愛人と暮らしている。娘の身代金を出してはくれるが頼りにならず、シエロは一人で娘をさがす。母の愛情、勇気を緊張感たっぷりの映像の中に取り入れ、展開がどうなるか一喜一憂しながら観ていた(暁)。
TIFF公式インタビュー「多様な解釈が成立しますが、最終的に子供を誘拐された親の気持ちに寄り添いたかった。」テオドラ・アナ・ミハイ監督:コンペティション部門『市民』
https://2021.tiff-jp.net/news/ja/?p=58459
2021年/ベルギー・ルーマニア・メキシコ合作/135分/カラー/スペイン語/5.1chデジタル/ビスタサイズ
字幕翻訳:渡部美貴
配給:ハーク 配給協力:FLICKK
公式サイト:https:// www.hark3.com/haha
★2023年1月20日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMAほかにて全国ロードショー
ノースマン 導かれし復讐者(原題:The Northman)
監督:ロバート・エガース
脚本:ショーン、 ロバート・エガース
撮影:ジュリアン・ブラシュケ
音楽:ロビン・キャロラン、セバスチャン・ゲインズボロー
出演:アレクサンダー・スカルスガルド(アムレート)、ニコール・キッドマン(グートルン王妃)、クレス・バング(フィヨルニル)、アニャ・テイラー=ジョイ(白樺の森のオルガ)、イーサン・ホーク(オーヴァンディル王)、ビョーク(スラブ族の預言者)、ウィレム・デフォー(道化ヘイミル)
9世紀のスカンジナヴィア地域のある島国。幼い王子アムレートは、尊敬する父オーヴァンディル王と10歳の儀式を執り行っていた。しかし、直後に王弟のフィヨルニルが父を殺害し、母のグートルン王妃を連れ去ってしまった。アムレートは、復讐の念を胸に一人船で島を脱出する。数年後、成長したアムレートは東ヨーロッパで略奪を繰り返すヴァイキングの一員となっていた。
ある日スラブ族の預言者と出会い、「父の仇を討ち、母を救い出す」という自分の使命を思い出す。
制作・主演のアレクサンダー・スカルスガルドが幼いころから親しんでいたヴァイキング伝説に、スカンジナヴィア神話、アイスランドの英雄物語の要素を加えて紡ぎ出された、オリジナルストーリーです。『ライトハウス』のロバート・エガース監督、脚本に『LAMB/ラム』のショーンがあたり、この壮大な復讐劇が生まれました。背景、美術や衣装がその時代をリアルに感じさせ、ダークファンタジーの中に引き込まれます。ひときわ美しいグールトン王妃、アムレートが出会うオルガが一筋の光になります。
アニャ・テイラー=ジョイはロバート・エガース監督の『ウイッチ』(2015)に主演、最近では『ザ・メニュー』でヒロインを演じて、印象深く刻まれました。歌姫ビョークの扮装は「これは誰?!」というくらい元を留めていないので、見逃さないで。(白)
2022年/アメリカ/カラー/ビスタ/137分/英語、古ノルド語
配給:パルコ、ユニバーサル映画
(C)2022 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
https://northman-movie.jp/
★2023年1月20日(金)よりTOHOシネマズシャンテ、渋谷シネクイントほか全国順次公開
BAD CITY
監督・編集:園村健介
脚本:OZAWA
撮影:伊集守忠
主題歌:クレイジーケンバンド「こわもて」
出演:小沢仁志(虎田誠)、坂ノ上茜(野原恵)、勝 矢(熊本聡)、三元雅芸(西崎亮太)、壇蜜(小泉香)、加藤雅也(平山健司)、かたせ梨乃(マダム)、リリー・フランキー(五条亘)、山口祥行(金数義)、本宮泰風(パク)、波岡一喜(村田)、TAK∴(ハン)、小沢和義(和刑事)、中野英雄(中野刑事)
「犯罪都市」開港市に縄張りをもつ桜田組の組長の死体が発見された。手を下したのは韓国マフィア、その幹部・金数義が密談していたのは、巨大財閥である五条財閥の会長・五条亘だった。かねてより五条をマークしていた検察庁検事長の平山健司は、公安0課の小泉香に命じ、秘密裏に特捜班を結成した。メンバーは選りすぐりの3人、野原、熊本、西崎。そのリーダーとなったのは、拘置所に勾留中の元強行犯警部・虎田誠である。
1983年、端役としてテレビ出演、翌年名前のある役で本格俳優デビュー以来小沢仁志さん「還暦記念映画」。脚本・制作では"OZAWA”名です。王道ストーリーではありますが、見せ所を熟知したオリジナル。登場する俳優たちがまた小沢さんの意気に感じて応じただろう方々ばかり、演技もさることながら、アクション監督として知られた園村監督、三元雅芸さん、TAK∴さんという強力な布陣。CG、スタントなしの本物のアクションは「やったね!」と拍手したくなります。
小沢さんはこの映画のために徹底したトレーニングで強靭な肉体を作り上げ、なんと100人以上にのぼる敵を相手のガチなアクションに挑みました。韓国マフィア幹部役の山口祥行さんとの死闘は、手に汗握ります。還暦の俳優でここまでできる人が何人いることでしょう。さすが寅年!(トム・クルーズも同い年)。「俳優人生最後の無茶」だそうですが、世のおじさまたちをシャン!とさせたはずです。身体をいたわりつつ、これからもご活躍をと願っています。(白)
2022年/日本/カラー/シネスコ/117分
配給:渋谷プロダクション
(C)2022「BAD CITY」製作委員会
https://www.badcity2022.com/
★2023年1月20日(金)ロードショー
2023年01月14日
野獣の血 原題:뜨거운 피 英題:Hot Blooded
監督:チョン・ミョングァン
原作:キム・オンス
出演:チョン・ウ(「模範家族」『偽りの隣人 ある諜報員の告白』)、キム・ガプス(『箪笥』)、チェ・ムソン(『悪魔を見た』)、チ・スンヒョン(『偽りの隣人 ある諜報員の告白』)、イ・ホンネ(「悪霊狩猟団:カウンターズ」)
1993年春、釜山。町はずれの小さな入り江クアム。養護施設で育ったヒス(チョン・ウ)は、クアムを牛耳るソン(キム・ガプス)に拾われ、その手足として仕事をしてきた。小さな海水浴場に観光ホテル、屋台に風俗店があるだけの町だが、利権を狙ったヨンド派が、ヒスの施設時代からの親友チョルジン(チ・スンヒョン)を使い、ヒスを懐柔しようとする。しかし、ヤクザ稼業に嫌気がさしていたヒスの望みは、施設時代からの恋人インスク(ユン・ジヘ)と一緒に、巨済島でペンションを営みながら暮らすこと。ヒスはソンの元を訪れ組織を抜けたいと告げるが・・・
ベストセラー作家チョン・ミョングァンの監督デビュー作。原作は、著書「設計者」「キャビネット」翻訳版が日本でも出版されている作家キム・オンスの傑作ノワール小説。
釜山郊外のクアムは、日本統治時代、海水浴場として賑わっていたところだとか。
今はひっそりした町なのですが、ヨンド派がここを手にしたいと狙ったのにはワケがありました。足を洗いたいと育ての親でもあるソンに申し出たとき、ソンからいずれすべて譲るつもりだと言われるのですが、40歳になったヒスにとっては、好きな人とのんびり暮らすことの方が大事だったのです。それなのにヤクザどうしの抗争に巻き込まれてしまいます。そのやるせない思いを、チョン・ウがみごとに体現しています。血で血を争う場面が多いのですが、チョン・ウさんの穏やかな顔に救われました。
ドラマ「最高だ、イ・スンシン」(2013年)で、刑務所を出てパン屋で働く青年を好演しているのをちょうど観ていた時に、東京国際映画祭で出演作『レッド・ファミリー』が上映され来日。記者会見の取材に行って、そばを通った時に、思わず「イ・スンシン!」と声をかけたら、にっこり笑ってくださいました。

第26回東京国際映画祭(2013年)での『レッド・ファミリー』上映後
左から女優パク・ソヨン、男優チョン・ウ、女優キム・ユミ、キム・ギドク(脚本・製作)、イ・ジュヒョン監督。この時共演したキム・ユミと2016年にご結婚。
http://www.cinemajournal.net/special/2013/tiff26pics/index.html
すっかり主演をはれる役者になったチョン・ウ。主演作の NETFLIX ドラマ「模範家族」も世界配信中。ますますのご活躍を期待したいです。(咲)
2022 年/韓国映画/韓国語/120 分/シネスコ/5.1ch
字幕:安河内真純
配給:アルバトロス・フィルム
提供:ニューセレクト
公式サイト:https://yajunochi.com/
★2023年1月20日(金)より、全国ロードショー
パーフェクト・ドライバー 成功確率100%の女 原題:특송(特送) 英題:Special Delivery
監督・脚本:パク・デミン
出演:パク・ソダム、ソン・セビョク、キム・ウィソン、チョン・ヒョンジュン、ヨン・ウジン、ヨム・ヘラン、ハン・ヒョンミン
釜山。天才的なドライビング・テクニックを持つウナ(パク・ソダム)が勤めるペッカン産業は、表向きは廃車処理業だが、裏ではどんな荷物も配達する“特送”の仕事を請け負っている。ある日、ペク社長(キム・ウィソン)からウナが指令されたのは、海外逃亡を図る元プロ野球選手で賭博ブローカーのキム・ドゥシク(ヨン・ウジン)とその息子ソウォン(チョン・ヒョンジュン)を港まで運ぶこと。ところが、違法賭博の元締めであり警官のチョ・ギョンピル(ソン・セビョク)が現れ、ドゥシクは息子をウナに預けたまま逃亡してしまう。ウナは幼いソウォンと300億ウォンが入った貸金庫の鍵を抱えて追われる羽目に。貸金庫の鍵を狙う悪徳警官ヤクザ、冷酷非情サイコパスな殺し屋、さらには「脱北」の過去を持つウナを秘密裏に調査する国家情報院までをも巻き込み、カーチェイスが繰り広げられる・・・
『パラサイト 半地下の家族』で半地下に住み、金持ちの家で美術の家庭教師をするクールな娘を演じたパク・ソダムが、本作で一躍主役を演じています。今回の女運び屋も、実にクール。国際的に知名度のあがったパク・ソダムにふさわしい役柄です。そして、ウナが預かる特送の荷物である少年・ソウォンを演じているのは、『パラサイト 半地下の家族』で金持ちの家の息子を演じたチョン・ヒョンジュン。家庭教師と教え子を演じた二人の共演です。
ペッカン産業には、アシフというアフリカ出身らしい腕利き修理工も働いていて、ペク社長は危ない仕事を引き受けるだけでなく、脱北者や移民を雇うという太っ腹な人物のよう。
なお、アシフを演じているハン・ヒョンミンは、父がナイジェリア人、母が韓国人。ソウル生まれで、トップモデルとして活躍し、本作で映画デビュー。
ユ・スンホが友情出演しているのも、お見逃しなく!
釜山港大橋はじめ、車が駆け巡る釜山の街の風情をたっぷり楽しめる一作です。(咲)
パク・ソダムを観るたび、BTS(防弾少年団)のユンギに似ている~と思ってしまいます。
『プリースト 悪魔を葬る者』(2015)では悪魔に取りつかれた女子高生役で、新人賞を受賞していました。血まみれになるわ、丸坊主になるわで大変でしたが、今回のウナ役は長い髪をなびかせてのアクション。ウナの決断の速さ、身体のキレの良さ、クールな役もぴったりでした。これからアクションのオファーも来そうです。街中でのカーアクションはひところの香港映画を思い出します。路地に入ったり、すれすれの方向転換など真似してはいけませんが、車好きな方もおおいに楽しめるはずです。(白)
2022年/韓国/111分/カラー/ビスタ/5.1ch
字幕:小西朋子
配給:カルチュア・パブリッシャーズ
公式サイト:https://perfectdriver-movie.com/
★2023年1月20日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
若者は山里をめざす
2023年1月14日(土)より、新宿K's cinemaにて公開
豊かな暮らしは山里にあった
監督・撮影・編集:原村政樹
プロデューサー:鈴木敏夫
映像技術:大目象一 李恩求
整音:丸山晃
音楽:鈴木光男
語り:小林綾子
出演:西沙耶香、高野晃一、市村太樹、足立桜、東秩父村のみなさん、鬼太鼓座
自然を慈しみ、助け合いながら生きる、
東秩父村に暮らす若者たちの3年を追ったドキュメンタリー
都心から60km、バスと電車で80分、標高600メートルの山々が連なる山間に東秩父村がある。「埼玉県の消滅可能性都市No.1」に指定されたこの村に移り住む若者たちが増え始めた。
村出身の西沙耶香さんはコンビニもないこの村から出たいと高校卒業後上京したが、故郷を消滅させたくないと思い、仕事をやめ村に戻ってきた。東京出身の高野晃一さんは元銀行員だったが、地域起こし協力隊に応募して採用された。村にあるノゴンボウに着目、開発を進め、村の特産品として広げた。さらに、地域にの方たちと溶け込み移住を決意した。和紙職人を目指す、隣の寄居町出身の市村太樹さんや足立桜さんや鬼太鼓座の若者たちも、村に住む戦前・戦後を生きた先輩たちと交流しながら生きる知恵を身につけていく。
若者たちは、村のお年寄りたちと力を合わせ、山里の伝統的な暮らしを未来に残し、村の魅力を伝えようと活動している。
長い年月をかけて育んできた山里の伝統的な仕事や暮らしは急速に姿を消し、今は昔とは比べものにならないほど便利で、沢山の物に溢れた「豊かな暮らし」を手に入れましたが、押し寄せる急激な変化の中、経済効率重視で人間らしさを奪われ、息苦しさを感じている人もいます。
効率重視の都会生活に疑問を抱く若者たちは、山里の穏やかな暮らしに未来への希望を発見し、伝承していこうとしています。
自然を慈しみ、人と人の結びつきが強く、お互いにが助け合いながら生きる山里の暮らしを、山里に生きることを選んだ若者たちを通して伝えたいとこの作品を作ったのは、『無音の叫び声』をはじめ『武蔵野 ~ 江戸の循環農業が息づく』『お百姓さんになりたい』など農業をテーマに撮り続けてきた原村政樹(監督・撮影・編集)。自然を慈しみ助け合いながら生きる山里の暮らしの素晴らしさを描き出す。
ナレーションは、NHK連続テレビ小説「おしん」の小林綾子が担当。
2022年製作/115分/日本
配給:ムービー・アクト・プロジェクト
豊かな暮らしは山里にあった
監督・撮影・編集:原村政樹
プロデューサー:鈴木敏夫
映像技術:大目象一 李恩求
整音:丸山晃
音楽:鈴木光男
語り:小林綾子
出演:西沙耶香、高野晃一、市村太樹、足立桜、東秩父村のみなさん、鬼太鼓座
自然を慈しみ、助け合いながら生きる、
東秩父村に暮らす若者たちの3年を追ったドキュメンタリー
都心から60km、バスと電車で80分、標高600メートルの山々が連なる山間に東秩父村がある。「埼玉県の消滅可能性都市No.1」に指定されたこの村に移り住む若者たちが増え始めた。
村出身の西沙耶香さんはコンビニもないこの村から出たいと高校卒業後上京したが、故郷を消滅させたくないと思い、仕事をやめ村に戻ってきた。東京出身の高野晃一さんは元銀行員だったが、地域起こし協力隊に応募して採用された。村にあるノゴンボウに着目、開発を進め、村の特産品として広げた。さらに、地域にの方たちと溶け込み移住を決意した。和紙職人を目指す、隣の寄居町出身の市村太樹さんや足立桜さんや鬼太鼓座の若者たちも、村に住む戦前・戦後を生きた先輩たちと交流しながら生きる知恵を身につけていく。
若者たちは、村のお年寄りたちと力を合わせ、山里の伝統的な暮らしを未来に残し、村の魅力を伝えようと活動している。
長い年月をかけて育んできた山里の伝統的な仕事や暮らしは急速に姿を消し、今は昔とは比べものにならないほど便利で、沢山の物に溢れた「豊かな暮らし」を手に入れましたが、押し寄せる急激な変化の中、経済効率重視で人間らしさを奪われ、息苦しさを感じている人もいます。
効率重視の都会生活に疑問を抱く若者たちは、山里の穏やかな暮らしに未来への希望を発見し、伝承していこうとしています。
自然を慈しみ、人と人の結びつきが強く、お互いにが助け合いながら生きる山里の暮らしを、山里に生きることを選んだ若者たちを通して伝えたいとこの作品を作ったのは、『無音の叫び声』をはじめ『武蔵野 ~ 江戸の循環農業が息づく』『お百姓さんになりたい』など農業をテーマに撮り続けてきた原村政樹(監督・撮影・編集)。自然を慈しみ助け合いながら生きる山里の暮らしの素晴らしさを描き出す。
ナレーションは、NHK連続テレビ小説「おしん」の小林綾子が担当。
2022年製作/115分/日本
配給:ムービー・アクト・プロジェクト
2023年01月13日
モリコーネ 映画が恋した音楽家(原題:Ennio)
監督・脚本:ジュゼッペ・トルナトーレ
出演:エンニオ・モリコーネ、クエンティン・タランティーノ、クリント・イーストウッド、ウォン・カーウァイ、オリバー・ストーン、ハンス・ジマー、ジョン・ウィリアムズ、ダリオ・アルジェント、テレンス・マリック、ブルース・スプリングスティーン、ベルナルド・ベルトルッチ、ジェイムズ・ヘットフィールド、クインシー・ジョーンズ など
2020年7月、映画音楽の巨匠として知られるエンニオ・モリコーネが91歳で亡くなった。『ニュー・シネマ・パラダイス』以来親交のあるジュゼッペ・トルナトーレ監督が5年の間密着取材、子供のころから晩年までの音楽とともにあった人生を振り返った。ドキュメンタリーには、モリコーネが手掛けた50本以上の映画作品が紹介され、70人以上の映画関係の著名な人々のインタビューがある。
映画好きなら知らない人はいないだろうエンニオ・モリコーネ氏、彼が手掛けた作品の印象的な導入部、サビの部分を耳にすると名シーンが目に浮かびます。次々と紹介される作品を観て、これもあれもそうだった、とあらためて驚きました。たとえ名前を知らなくても、音楽を聴けば「ああ、知っている」「聞いたことがあった」と思い出すはず。モリコーネ氏への想いを語る映画人たちも錚々たる方々、縁があったことを心から喜び、彼の業績や人柄を偲んでいます。
そんな偉大なマエストロが、映画音楽よりもクラッシック音楽を作りたいのだと葛藤した時期もあったと打ち明けています。映画音楽が評価され始めても満足せず、常に新しい挑戦をし続けていたことも、後に続く若い人たちに知ってほしいところです。(白)
● 本編登場作品の⼀部
『荒野の⽤⼼棒』(64)『⾰命前夜』(64)『⼣陽のガンマン』(65)『続・⼣陽のガンマン 地獄の決⽃』(66)『ウエスタン』(68)『死刑台のメロディ』(71)『1900年』(76)『天国の⽇々』(78)『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』(84)『ミッション』(86)『アンタッチャブル』(87)『ニュー・シネマ・パラダイス』(89)『Uターン』(97)『海の上のピアニスト』(98)『ヘイトフル・エイト』(15) など
2021年/イタリア/カラー/シネスコ/157分
配給:ギャガ
(C)2021 Piano b produzioni, gaga, potemkino, terras
https://gaga.ne.jp/ennio/
★2023年1月13日(金)全国順次ロードショー
2023年01月08日
エンドロールのつづき 原題:Chhello Show 英題:Last Film Show
監督・脚本・プロデューサー:パン・ナリン
出演:バヴィン・ラバリ(サマイ)、バヴェーシュ・シュリマリ(ファザル)、リチャー・ミーナー(母親)、ディペン・ラヴァル(父親)
2010年、インド・グジャラート州の田舎町。9歳の少年サマイは、学校に通いながら、父が駅で営むチャイ店を手伝っている。ある日、いつも映画は低劣という父が、カーリー女神様の映画は特別と、母や妹も伴って街の映画館・ギャラクシー座に連れていってくれる。映写室からの光が映し出す映画にサマイは夢中になり、「映画を作りたい」というが、「お前はバラモン階級の生まれ。映画は穢れ」と父にダメだと言われる。
翌日も学校を抜け出してギャラクシー座で映画を観るが、終電に乗り遅れてしまう。父にこっぴどく叱られるが、こりずにまた映画館に忍び込む。チケットを買ってないのを咎められ、つまみ出されてしまう。泣きべそをかきながら母の作ったお弁当を広げて食べていると、チャパティが薄くて美味しそうだと声をかけられる。映写技師のファザルだった。お弁当と引き換えに、映写室から無料で映画を観ていいと提案される。それから毎日、サマイは学校を抜け出してギャラクシー座の映写室に通うが、ついに父にばれてしまう。
その後、町はずれの廃屋に、映画フィルムの入った箱が保管されているのを知ったサマイは、友人たちとフィルムを少しずつ切って、手作りの映写機でお母さんの白いサリーにフィルムを投影して、皆に見せる。
そんなある日、ファザルから「緊急事態。すぐに来てくれ」と電話が入る。ギャラクシー座にたどり着くと、映写機が運び出されている。デジタルの時代が到来し、最後のフィルム上映が終わったのだ。映画フィルムの入ったたくさんの箱もトラックに積み込まれる。走り去るトラックを、サマイたちはラージコートの町まで必死に追いかける・・・
監督が敬愛する映画人たちへのオマージュが散りばめられた映画愛に溢れる作品。
サマイは映写技師のファザルから多くのことを教えられます。「映画は物語がすべて。嘘が上手くないと。政治家が語るのは票を集めるため、店主は商品を売るため、映画はどう語るかが見せどころ。語り手こそ未来がある」。拾ったマッチ箱の絵で、物語を作って友人たちに聞かせていたサマイには、お手の物。
学校の先生からは、「何かやりたいなら、必要なことが二つ。英語を学ぶこと、そして町を出ること」と励まされます。カースト制度が根付いているインドですが、「今のインドには、二つの層しかない。英語の出来る層と出来ない層」とも。最高位のバラモンであっても、英語が出来なければどうしようもないという次第。
サマイのお父さんは、かつては500頭の牛を飼っていたのに、兄弟に騙し取られた人のいい人物。でも、英語が出来なくて、列車が今後この駅には止まらないという通達も読めなかったのです。そんなお父さんも、ついにサマイの熱意にほだされて見守る姿が微笑ましいです。
本作は、パン・ナリン監督の半自伝的物語。監督の育ったグジャラート州のカティアワル地域で、母親役以外はすべてグジャラート出身者を起用して撮影。中でも、オーディションした3000人もの少年の中から選ばれたサマイ役のバヴィン・ラバリは絶品。
日本で初めて一般公開されるグジャラート語の映画で、やわらかいグジャラート語の響きが心地いいです。お母さんの作る野菜を使った様々な料理も、とても美味しそうです。グジャラートのお料理を食べてみたくなりました。(咲)
ジュゼッペ・トルナトーレ監督『ニュー・シネマ・パラダイス』をすぐに思い出しました。映画に魅せられ、のめりこみ、そして生業とするトト少年も同じように目を輝かせていました。3月公開予定の『フェイブルマンズ』を楽しみにしているところですが、そちらはスティーブン・スピルバーグ監督が自ら作った自伝的映画。そこでも目をキラキラさせた男の子が登場するはずです。
サマイの豊かな想像力とそれをかなえていく行動力、それがあったから引き寄せてつながった縁。父親は映画を禁じますが、母親は逆らわずに息子に自分のできる応援をします。あの美味しいお弁当がなければ、映写室に入ることはできませんでした。あれこれがみな一つのために繋がっていって、監督が誕生し、この映画が出来上がったことを考えると、何一つ不要なことはなくどれも必要だったと思えます。今、うまくいかないことを嘆いている人も、できることを精一杯していれば(待ってるだけではなく!)夢に近づいていくのだと後押ししてくれる作品です。(白)
☆パン・ナリン監督トークショー書き起こし記事はこちら
☆本年度アカデミー賞®国際長編映画賞インド代表
2021年/インド・フランス/グジャラート語/112分/スコープ/カラー/5.1ch
日本語字幕:福永詩乃
応援:インド大使館
配給:松竹
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/endroll/
★2023年1月20日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネリーブル池袋 他全国公開
コペンハーゲンに山を 原題:Making a Mountain
監督:ライケ・セリン・フォクダル、キャスパー・アストラップ・シュローダー
出演:ビャルケ・インゲルス、ウラ・レトガー他
コペンヒル。世界初!スキーが楽しめるゴミ処理発電所の誕生を追ったドキュメンタリー。
2011年、デンマークの首都コペンハーゲンにある老朽化したゴミ処理施設建て替えのコンペ結果発表会が行われた。コンペを満場一致で勝ち抜いたのは、デンマークのスター建築家ビャルケ・インゲルス率いるBIG建築事務所。彼らのアイデアは飛び抜けて奇抜で、巨大なゴミ焼却発電所の屋根にスキー場を併設し、コペンハーゲンに新たなランドマークを作るというもの。しかし、カメラは完成までの過程で、苦難の連続を追うことになる。ゴミ焼却発電所とスキー場はどう建造物として共存出来るのか?次々と疑問や課題が山積みになっていくが、難題を乗り越え2019年10月、コペンハーゲンに新しい“山”が誕生。完成に9年。かかった費用は約5億ユーロ。デンマークの景色を楽しめるこの山「コペンヒル」の標高は85m、全長450mでゲレンデ幅は60m。4つのリフトでスキーが楽しめる。ゴミで再生可能エネルギーを作る最新鋭のゴミ焼却発電所で、年間3万世帯分の電力と7万2000世帯分の暖房用温水を供給する。屋上にはレストランやハイキング・ランニングコース、壁には世界一高い85mのクライミングウォールが設置されている夢のような施設だ。誰もが行きたがらないゴミ処理施設が、誰もが行きたがる夢の施設になったのだ。
ごみ処理施設というと、高い煙突を思い浮かべますが、高くしてもCO2をまき散らすことには変わりないとのこと。ごみ処理施設を覆うようにして、山を作って、その上を娯楽施設にしてしまうというアイディアに、これぞ発想の転換!と唸りました。
建築コンペの審査員たちが満場一致で決めたのも納得です。その建築コンペの発表自体、MCを務める女性CEOが楽しそうに歌って始まるという型破りなものでした。
コペンハーゲンの町というより、デンマーク自体、フラットで山のない国。「皆、同じ高さだと見通しが悪い、映画館などでも傾斜があるのは見やすくする為」と、ごみ処理施設を利用して小高い山を作った理由の一つを語る建築家のビャルケ・インゲルス。
山のなかった町で、ちょっとしたハイキングやスキーもできて、家族ぐるみで楽しめる観光名所にしてしまったのがすごいです。コペンヒルに昇るエレベーターはガラス張りになっていて、ゴミ処理施設の中が見えます。子どもたちは、ゴミがリサイクルされて燃料になる仕組みを目にすることができて社会勉強にもなります。
奇想天外で清掃がしにくそうな建物を設計する建築家もいますが、コペンヒルのような奇抜なアイディアを出せる建築家は歓迎です。(咲)
2020年/デンマーク/51分
制作会社:グッドカンパニーピクチャーズ
配給:ユナイテッドピープル
公式サイト:https://unitedpeople.jp/copenhill/
★2023年1月14日(土)シアター・イメージフォーラム他全国順次ロードショー
SHE SAID シー・セッド その名を暴け(原題:She Said)
監督:マリア・シュラーダー
原作:「その名を暴け―#MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い―」ジョディ・カンター、ミーガン・トゥーイー/著(新潮文庫刊)
脚本:レベッカ・レンキェビチ
撮影:ナターシャ・ブライエ
音楽:ニコラス・ブリテル
出演:キャリー・マリガン(ミーガン・トゥーイー)、ゾーイ・カザン(ジョディ・カンター)、パトリシア・クラークソン(レベッカ・コーベット)、アンドレ・ブラウアー(ディーン・バケット)、ジェニファー・イーリー(ローラ・マッデン)、サマンサ・モートン(セルダ・パーキンス)、アシュレイ・ジャッド(本人)
ニューヨーク・タイムズ紙の記者ミーガン・トゥーイーとジョディ・カンターは、大物映画プロデューサーのワインスタインが数十年にわたって続けてきた性的暴行について取材を始めるが、ワインスタインがこれまで何度も記事をもみ消してきたことを知る。被害女性の多くは示談に応じており、証言すれば訴えられるという恐怖や当時のトラウマによって声を上げられずにいた。問題の本質が業界の隠蔽体質にあると気づいた記者たちは、取材対象から拒否され、ワインスタイン側からの度重なる妨害を受けながらも、真実を追い求めて奔走する。
2017年10月、ニューヨーク・タイムズ紙がハリウッドの重鎮、数々の名作を手掛けた映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインのセクハラ・性的暴行事件の告発記事を掲載しました。これは映画業界のみならず国を超えて性犯罪被害者が声をあげることを促し、#MeToo運動を爆発させました。この記事は翌年、調査報道ピューリッツアー賞を受賞しています。
映画は女性記者二人の妻や母親としての日常生活、その中で丹念な取材を続ける様を映し出します。被害女性たちが、二度と触れてほしくないと思っていることも理解し、孤立させまいと何度も説得を試みます。不利な記事を出されたくない側もいやがらせや脅しを繰り返します。彼女たちが屈しなかったのは、記者としての使命感や誇りやパートナーの応援、上司たちの毅然とした後ろ盾があったればこそ。責任を部下に押し付けて尻尾切りする人ばかりではないことに、ほっとします。
タイトル「その名を暴け」は、ちょっと違う気がしました。暴きたいのは「真実」で、そのために多くの「彼女たちが語った」んです。粘り強い報道記者、証言に一歩踏み出した勇気ある女性たち、おかげで奔流のように噴出した#MeToo運動、あきらめない人たち。この熱い流れを見られて良かった~。(白)
証言した人も報道した人たちも、女性たちの勇気と覚悟の物語
「MeToo」運動のきっかけともなったと言われている「ハーヴェイ・ワインステイン事件」。20年以上に渡りハリウッドに君臨した映画プロデューサー・ハーベイ・ワインスタインの性暴力に関する取材を進める記者たちの前に、被害者を縛る秘密保持契約の存在や、敏腕弁護士が登場し、障害が立ちはだかるが、ニューヨーク・タイムズ編集部のバックアップもあって記事をだすことができた。報道記事には現れない、入念な調査、証言してくれる人への粘り強い行動も描かれ、それにほだされた人たちが証言にいたるまでの過程をドキドキしながら観た。そして、セクハラ被害を受けた女性たちが勇気を持って名乗り出て、自分たちだけでないという事実が広がっていったことに溜飲が下がる思いと、あまりの多さに複雑な思いにもなった。そして、記者たちが対するのはハーベイ・ワインスタインだけではなく、大きな権力を持つ社会そのもの。問題の本質は性加害者が守られず、加害者に有利なシステムや法律。
登場人物が多くて、ハリウッド映画事情に詳しくない私としては、記者たちの以外の俳優さんたちの名前がわからずだったけど、あちこちに話が飛ぶので、前もって人名を把握していったほうが理解しやすいかも。
日本でもこの数年で、勇敢にセクハラを告発した方たちがいて、大きく報道された方としては、報道記者の伊藤詩織さん、最近では自衛隊内での性被害を告発した五ノ井さんがいました。二人は実名、顔出しで被害を訴えましたが、日本の映画界でも、去年は実名を出して告発した方がいました。
中島みゆきさんも、20数年前に出した本の中で、音楽業界でのセクハラについて書いています。新人の頃、ツアー仲間のミュージシャンから、「夜、ホテルの部屋の鍵を開けておけ」と言われたそうです。彼女は鍵をしっかり閉めたけど眠れなかったと書いていました。彼女ほどの歌手でなければ、そういうことも書けなかったと思うけど、音楽業界でもそういうことが日常茶飯事だった(今もかも)ようです。
世界も日本も、少しづつ変わってきている部分もありますが、まだまだ氷山の一角だと思います。
この作品は女性だけでなく、男性こそ観てほしい作品です(暁)。
2022年/アメリカ/カラー/ビスタ/129分
配給:東宝東和
(C)Universal Studios. All Rights Reserved.
https://shesaid-sononawoabake.jp/
https://twitter.com/SheSaid_JP
https://www.facebook.com/SheSaid.JP/
★2023年1月13日(金)ロードショー
世界は僕らに気づかない/Angry Son
監督・脚本:飯塚花笑
撮影:角洋介
音楽:佐藤那美
出演:堀家一希(渡辺純悟)、ガウ(渡辺レイナ)、篠原雅史(金子優助)、村山朋果(佐々木里奈)、森下信浩、宮前隆行、田村菜穂、藤田あまね、鈴木咲莉
群馬県太田市でフィリピン人の母と暮らす高校生の純悟。父については何も聞かされておらず、毎月振込まれる養育費だけが父とのつながりだった。純悟には同性の恋人・優助がいるが、彼からパートナーシップを結ぶことを望まれても、自身の生い立ちが引け目となり決断できずにいる。そんなある日、母が自宅に恋人を連れて帰り、再婚したいと話す。見知らぬ男と一緒に暮らすことを望まない純悟は、実の父を探すことにするが……。
『フタリノセカイ』の飯塚監督の長編最新作品です。主人公の純悟はフィリピン人の母、日本人の会ったこともない父とのハーフ、同性愛者であるという2重のマイノリティに悶々としています。母親のレイナ役のガウさんが、息子への愛情をがんがんぶつけて大喧嘩するシーンの迫力ったら!フィリピンパブで働くお姐さんたちの明るさと強さにも感嘆しました。家族の絆が強いフィリピンの方たちは、コロナでパブの仕事がなくなっても他の一時仕事を見つけて送金をし続けたようです。
純悟には優助という恋人がいて、その家族は二人を暖かく見守っています。それだけでも幸せだと思うのですが、足りないものばかり数えてしまう「Angry Son」の純悟は気づきません。父探しをするうちに純悟が出会う人、体験することが彼を成長させるのでは、と孫のように期待して観ていました。外国人労働者が多く、子供のころから学校でいろいろな境遇の子供たちと会った飯塚監督ならではの作品。(白)
☆2022年の大阪アジアン映画祭「来るべき才能賞」受賞
2022年/日本/カラー/シネマスコープ/112分
配給:Atemo
(C)「世界は僕らに気づかない」製作委員会
https://sekaboku.lespros.co.jp/
https://twitter.com/sekaboku_movie
★2023年1月13日(金)シネマカリテ、Bunkamuraル・シネマ 他全国公開
そして僕は途方に暮れる
監督・脚本:三浦大輔
原作:シアターコクーン「そして僕は途方に暮れる」(作・演出 三浦大輔)
撮影:春木康輔 長瀬拓
音楽:内橋和久
エンディング曲:大澤誉志幸「そして僕は途方に暮れる」
出演:藤ヶ谷太輔(菅原裕一)、前田敦子(里美)、中尾明慶(伸二)、毎熊克哉(田村)、野村周平(加藤)、香里奈(裕一の姉・香)、原田美枝子(母・智子)、豊川悦司(父・浩二)
逃げて、逃げて、逃げまくる――、人生を賭けた逃避劇。
共感と反感の120分!《現実逃避型》エンタテインメント!
自堕落な日々を過ごすフリーターの菅原裕一は、長年同棲している恋人・里美と、些細なことで言い合いになり、話し合うことから逃げ、家を飛び出してしまう。その夜から、親友・伸二、バイト先の先輩・田村や大学の後輩・加藤、姉・香のもとを渡り歩くが、ばつが悪くなるとその場から逃げ出し、ついには、母・智子が1人で暮らす苫小牧の実家へ戻る。
だが、母ともなぜか気まずくなり、雪降る街へ。行き場を無くし、途方に暮れる裕一は最果ての地で、思いがけずかつて家族から逃げていった父・浩二と10年ぶりに再会する。「俺の家に来るか?」、父の誘いを受けた裕一は、ついにスマホの電源を切ってすべての人間関係を断つのだが――。
「逃走中」という番組でもなく、いじめで居場所が見つからない(そのときこそ逃げよう)わけでもないのに、なぜこんなに逃げてばかりいるんだ?君は!と言いたくなりす。それでもなぜか周りの人にひどく嫌われるわけでもなく、心配されています。巡り巡って再会した父親が逃げた人で、それを演じる豊川悦司さんのたたずまいに、なんだか納得。きっと父親に似たんです。
元は2018年の舞台劇で三浦大輔監督演出のもと、藤ヶ谷太輔さんが主演していたそうです。
三浦大輔監督・脚本の以前の作品『愛の渦』(2014)『何者』(2016)『娼年』(2018)を観てきました。三浦監督のコメントに「舞台と映画との大きな違いは、俳優が撮影時に実景を目の当たりにできること」とあります。映画のほうが制作に手間暇かかるけれど、自由度が増すのではと思いますがどうなんでしょう。ふるさとの北海道のあちこちが登場するので、懐かしさ半分で拝見しました。雪の北海道でのロケで、母や父と再会した裕一の心情があの背景、あの部屋だからこそリアルにせまってきた気がします。(白)
2022年/日本/カラー/シネスコ/122分
配給:ハピネットファントム・スタジオ
c2022 映画『そして僕は途方に暮れる』製作委員会
公式サイト:https://happinet-phantom.com/soshiboku/
Twitter:@soshiboku_movie #そし僕 #そして僕は途方に暮れる
★2023年1月13日(金)TOHO シネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
ひみつのなっちゃん。
監督・脚本:田中和次朗
撮影:石塚将巳
音楽:鈴木俊介 田井千里 石塚徹
主題歌:「ないしょダンス」渋谷すばる
出演:滝藤賢一(バージン/坂下 純)、渡部秀(モリリン/石野 守)、前野朋哉(ズブ子/沼田治彦)、カンニング竹山、松原智恵子(なっちゃんの母親、並木恵子)
ある夏の夜、新宿2丁目で食事処を営むなっちゃんが急死した。そこで働くモリリンは、ドラァグクイーン仲間のバージン、ズブ子を呼び集めた。なっちゃんが故郷の家族にはカミングアウトしていなかったことから、3人は大慌て。こっそりなっちゃんのアパートに忍び込み、ゲイだったこと、ドラァグクイーンだったことの証拠隠滅を図らなくては!ところが、上京したなっちゃんの母・恵子と鉢合わせしてしまう。恵子から葬儀に参列するよう誘われて、なっちゃんの故郷・岐阜県郡上市を訪ねることになった。
なっちゃんは「秘密」なので、しばらく明かされません。
なっちゃん友人役の滝藤賢一さん、渡部秀さん、前野朋哉さん3人のドラァグクイーンがなんとも可愛くて、女子力高し。特に滝藤賢一さんのしぐさが色っぽいうえ、メイク後の美しさにびっくりです。かつてを思い出し、自分の部屋で歌い踊るシーンは貴重です。
3人に限らず、クイーンや女装子役の俳優さんたちは、違う自分が出てしまうのか見つかるのか、みんな演技が楽しそうなんですよね(『地獄の花園』もしかりwww)。3人がドラァグクイーンの実態を隠して「普通のおじさん、お兄さん」に扮し(笑)、郡上八幡を目指す珍道中と葬儀終了まで無事隠し通せるのか、楽しみにご覧ください。なっちゃん母役の松原智恵子さんが、いくつになられても清純スターの香りもいまだ残していて、愛らしいです。(白)
2023年/日本/97分/G
配給:ラビットハウス、丸壱動画
(C)2023「ひみつのなっちゃん。」製作委員会
https://himitsuno-nacchan.com/
https://mobile.twitter.com/himitsunacchan
★2023年1月13日(金)新宿ピカデリーほか全国順次公開
2023年01月04日
カンフースタントマン 龍虎武師 原題:龍虎武師 英題:Kung Fu Stuntmen
監督:ウェイ・ジェンツー(魏君子)
出演:サモ・ハン(洪金寶)、ユエン・ウーピン(袁和平)、ドニー・イェン(甄子丹)、ユン・ワー(元華)、チン・カーロッ(錢嘉樂)、ブルース・リャン(梁小龍)、マース(火星)、ツイ・ハーク(徐克)、アンドリュー・ラウ(劉偉強)、エリック・ツァン(曾志偉)、トン・ワイ(董瑋)、ウー・スーユエン(吳思遠)
*アーカイブ出演:ブルース・リー(李小龍)、ジャッキー・チェン(成龍)、ジェット・リー(李連杰)、ラウ・カーリョン(劉家良)、ラム・チェンイン(林正英)
香港アクション映画の発展に身を捧げてきたスタントマンたちの激闘の歴史に迫ったドキュメンタリー
ブルース・リー、ジャッキー・チェン、ジェット・リー、ドニー・イェン・・・ 世界に名を轟かせる香港のアクションスターたち。香港映画のアクションが、ハリウッドをはじめとする世界中の映画界に大きな影響を与えたのは、彼らスターたちの実力だけでなく、映画の中で、彼らの攻撃を受けて派手に吹っ飛び、時には彼らの華麗かつ危険なアクションの代役を務めたスタントマンたちの存在があったからこそ。
著名な映画評論家でもあるウェイ・ジュンツー監督は、3年の撮影期間をかけて、100人近くの香港アクション関係者を徹底取材。膨大なアーカイブ映像も盛り込み、香港アクション映画の歴史を網羅したドキュメンタリーが出来上がった。
カンフー映画のルーツは、京劇にある。
1930年代、中国の京劇役者の多くが、日本の本土侵略から逃れるために香港に移住した。貧しい家庭の子供たちに京劇を教えるようになり、1960年代には香港に4校の京劇学校ができた。ジョン・ローン、サモ・ハン、ジャッキー・チェン、ユン・ピョウらが学んでいたが、京劇人気は下火になり、活躍の場を映画のスタントに移す。当時、東洋一の巨大スタジオを持つショウ・ブラザーズの製作していた映画のカンフー・シーンは、京劇の流れを汲む舞踏のような戦い方が主流。武術と演技の基礎を叩きこまれた彼らは、多様なアクションを演じる事ができた。
1971年、ゴールデン・ハーベストが製作したブルース・リー主演作『ドラゴン危機一発』が驚異的なヒット。これまでにない実践的なファイトシーンは、カンフー映画に変革をもたらすが、1973年にブルース・リーが亡くなり、カンフー映画の人気は低迷。多くのスタントマンが職を失ってしまう。
それを打破したのは映画監督兼俳優のラウ・カーリョンとサモ・ハン。彼らの活躍で、カンフー映画は活気を取り戻しはじめる。この勢いに乗りプロデューサー兼監督のウー・スーユエンは、武術指導だったユエン・ウーピンを監督に、ブレイク前のジャッキー・チェンを主演に『スネーキーモンキー 蛇拳』(78)と『ドランク・モンキー 酔拳』(78)を製作。この2作の大ヒットにより、アクション・コメディがトレンドとなる。
香港映画界に再びカンフー映画ブームが到来。サモ・ハン、ジャッキー・チェン、ユエン・ウーピン、ラウ・カーリョンたちは自分のスタントチームを作り、次々とアクション映画を製作し、競い合う。スタントマンたちは「決して“ノー”と言わない」常軌を逸した精神で、香港アクション映画の最盛期を支えていった・・・
『男たちの挽歌』で、レスリー・チャンにはまり、1990年代の日本での香港映画絶頂期には、レスリー出演作だけでなく、どんなジャンルの香港映画も観まくっていた私。思えば、その前に、ジャッキー・チェンの『酔拳』や、サモ・ハン・キンポーの『燃えよデブゴン』を観ていたからこそ、レスリーに出会えたのでした。ハリウッドのアクション映画には、興味が持てないのに、なぜか香港のアクション映画にはワクワク。ありえないような場面は、スタントの人たちの死をも恐れない覚悟の賜物だったのですね。
サモ・ハンが体形のために、あまりスタント役をもらえず収入が少なかった時代があったとのこと。だからこそ、監督・主演で活路を得たのですね。エリック・ツァンは、名俳優として認識していましたが、元々はサッカー選手からスタントマンになったと知りました。
それほど多くのカンフー映画は観ていないのですが、どこか懐かしさを感じた92分でした。(咲)
小学生だった息子と一緒にジャッキーやユン・ピョウの映画を劇場で、Mr.BOOやブルース・リーの作品はテレビで観ていました。あのアクションの陰に、有名無名のスタントマンたちの汗と涙と血が流れていました!今では考えられない命がけの危険な現場です。
アクション映画のレジェンドたちの当時の思い出話は、郷愁に満ちていますが、やりがいや誇りがあったとしてもあんまりな職場です。保険も補償もない中挑んでいたシーンを、深く考えずに観ていて「ごめんなさい」、楽しませてもらって「ありがとう」という気分でした。
ひところの隆盛はすっかりなくなったカンフー映画ですが、アクションシーンが不要になったわけではありません。CGの技術が発達したおかげで危険なシーンは回避できても、元の動きは人間のものです。これまでの積み重ねがあってこその「今」だということがよくわかるドキュメンタリーです。懐かしい作品の名シーンやその秘話、背景の香港の街並みが観られるのも嬉しいです。願わくはスタントマンたちが安全であること、苦労や努力に見合う報酬が得られますように。香港電影迷必見!(白)
香港映画好きだけどカンフー映画はあまり観ていない。香港映画を初めて観たのは、1990年日本公開の『風の輝く朝に』(1984)。その後香港映画にはまったけど、主に観ていたのは香港ニューウェーヴ系が多かった。アクション系の香港映画を初めてみたのは『ポリス・ストーリー3』(1992)。それまでジャッキー・チェンの映画も観たことがなかった。しかし、ジャッキーやサモハン、ユンピョウの名前は知っていた。観ていなくても知っていたくらいだから、けっこう巷や、映画雑誌に名前が載っていたのを見ていたのでしょう。『ポリス・ストーリー3』でびっくりしたのは、ミシェール・キング(ミシェール・ヨー)がバイクで列車に飛び移るシーン。これに驚き、この女優さんすごい!と思ったのがきっかけで、香港のアクション映画にも興味を持つようになった。
その後、カンフー映画も観るようになったけど、1990年以前のものはあまり観ていない。そんな私が観てもこの映画はすごい!! 映画のアクションシーンに命をかけたスタントマンたちの、心意気、姿、そのシーンの数々を観ることができる。CG全盛になった今日でも、元の形は彼らの演じたものから来ていると思う。そしてこのアクションシーンの華麗さは、京劇の動きからきていたというのを改めて思った。『七人楽隊』での京劇学校での訓練シーンを思いだし、こういう訓練の結果がスタントマンたちの原点にあるのだろうと思った(暁)。
2021年/香港・中国/広東語・北京語/92分/ビスタ/5.1ch
日本語字幕:城誠子
字幕監修:谷垣健治
特別協力:ジャパン・アクション・ギルド
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム
公式サイト:https://kungfu-stuntman.com/
★2023年1月6日(金)より新宿武蔵野館ほか全国公開.