2022年12月18日
餓鬼が笑う
監督・脚本・編集:平波亘(ひらなみ・わたる)
企画・原案・共同脚本:大江戸康
撮影:伊集守忠
主題歌:eastern youth「今日も続いてゆく」(裸足の音楽社)
出演:田中俊介(大貫大)、山谷花純(佳奈)、片岡礼子(香純)、柳英里紗(妙)、川瀬陽太(大の父・俊夫)、川上なな実(如意輪)、田中泯(高島野十郎)、萩原聖人(鴨志田国男)
骨董屋を目指す大貫大(おおぬきだい)は、路上で古物を売って一人暮らしている。ある日、古書店ですれ違った女性に目を奪われた。夜学の講義にこっそり潜り込み、講師に追い出された大を追ってきたのは、昼間の女性、看護師をしながら夜学に通う佳奈だった。骨董屋の先輩・国男に誘われ、”本物の競り”を知る。骨董市場では札束が飛び交い、裏では密約が交わされる。国男を罵った大が一人帰り道をたどると、赤い月がのぼり、いつしかあの世に迷い込んでいた。
「人生はあの世に堕ちてからはじまった―現代によみがえる地獄巡り。幻想奇譚へようこそ」がキャッチのこの作品。あの世に堕ちたり地獄巡りはやだなぁと思いつつ、観始めました。主演は気になる田中俊介くん。走ったり殴られたり、誘惑されたり、連日たいへんな撮影だったのではないでしょうか。
企画・ 原案の大江戸康氏は実際に古美術商であり、映画のプロデュースもされる方。多くの監督の助監督をしてきた平波監督が手渡された最初の脚本は、5億も10億もかかりそうなものだったそうです。オリジナルの骨子を残しつつ予算を考えて改稿、大と佳奈のロマンスも加わってこの形になりました。
独りぼっちだった大が、佳奈に会って生きる力を得ていくのによしよし、美術さん衣装さんが心を砕いただろう仕事も拝見。欲が絡むと餓鬼道に続きますが、少女にビー玉を渡せる大なら広い明るい道を歩けるはず。
映画界を支える俳優さんたちが、平波監督の作品を応援するように集まっています。次の作品『サーチライト 遊星散歩』も待機中。
(白)
2021年/日本/カラー/105分
配給・宣伝:ブライトホース・フィルム、コギトワークス
(C)OOEDO FILMS
https://gaki-movie.com
★2022年12月24日(土)より新宿K's cinemaほか全国順次公開
ベイウォーク
監督・撮影・編集:粂田剛 (『なれのはて』)
音楽:高岡大祐
調音:宮崎花菜
調音監修:浦田和治
『なれのはて』で描けなかったマニラの日本人二人の末路
日本から海外に飛び出した人たちの“その後”に興味を持ち、2012 年から 2019 年の間、カメラを持って 20 回ほどフィリピンを訪れ、多くの日本人を追った粂田剛監督。前作『なれのはて』で、4人の男性がマニラで困窮の中で人生の終焉を迎えようとする姿を描いた。継続的に取材させてくれたのは7人。前作で登場させることができなかった方たちに申し訳ない思いを抱えていた粂田剛監督が放つ第二弾。
「世界三大夕日の名所」の一つと言われるマニラ。そんなマニラ市民の憩いの場が、海沿いに整備された遊歩道ベイウォーク。ここは、夜になるとホームレスたちの寝場所になる。その中にひとりの日本人がいた。赤塚崇(タカシ)さん 58 歳。裏稼業で幅を利かせた生活をしていたもののフィリピンで騙されて一文無しに。日中は露店のタバコ売りの手伝い、夜はベイウォークで路上生活をしている。フィリピン人に助けられてばかりの毎日で、フィリピンの人に足を向けて寝られないという。
一方、ベイウォークにほど近い高層アパートメントに入居した関谷正美さん 62 歳。日本で年金生活を送るよりも、物価が安く、「呑む・打つ・買う」が歩いてできるマニラに移住を決めた。死ぬまでここで暮らそうと、ベランダから海を望む部屋に、お金をかけてリフォームもした。だが、フィリピン人をなかなか信用できない彼は、何をやってもうまくいかない。そのうちに、部屋に閉じこもってしまうようになる・・・
「ベッドでゆっくり寝たい」とつぶやくタカシさん。ベイオークのコンクリの上に薄いアルミシートを敷いて寝るのは、老体にはかなりこたえそうです。そんなタカシさんの隣で寝るフィリピンの島から出てきたドミニクさん。まだ40歳前位。土地を売ったお金で事業を始めるつもりだったのに、マニラに来て2日間で約200万円をカジノで失ってしまったのです。堅実に使えばいいのに、こうした一獲千金を夢見る男性はどこの国にもいるのですねぇ。島に帰る交通費を無心され、4000円を渡す粂田監督。
一方、年金生活で一応お金はある関谷さんですが、「日本にいた方がよかった気がする。フィリピンはストレスがたまる」と、マニラに来てしまったことを後悔しています。何度か旅行で来たことがあって、ここならと決めたようですが、旅で数日過ごすのと、腰を据えて暮らすのとでは違うことを、もっと熟考するべきだったでしょう。
さて、私はどこで人生の最後を過ごそうかしら・・・ 映画を観終わって、そんなことを考えてしまいました。(咲)
前作『なれのはて』を観た時、「ああ、こうして異国で生涯を送った人たちがいるのだなあ」と思ったけど、粂田剛監督は、もっとたくさんの人を取材していた。一時期、日本での年金生活はお金がかかるからアジアで晩年をというのがブームとまでいかなくても、そういう生き方もあるという風に言われたこともあったけど、やはり、日本から離れて、あるいは逃れてフィリピンで暮らしたとしても、そううまくはいかないものだなあと思った。もっとも最初の映画のタイトルが『なれのはて』となっているように、流れ流れてフィリピンにたどり着いた人たちかもしれないけど。それにしても男の人ばかり。私自身も、今住んでいるアパートが老朽化し、引っ越ししなくてはならなくなり、今、引っ越し先を探しているのだけど、70歳以上での住むところ探しはなかなか厳しい。私自身のなれのはてはどうなるだろうという思いで観ていた。他人事ではない(暁)。
2022 年/日本/DCP/カラー/90分
製作:有象無象プロダクション
配給・宣伝:ブライトホース・フィルム
公式サイト https://atbaywalk.com/
★2022年12 月24 日(土)新宿 K’s cinema ほかにて全国順次公開