2022年12月17日

ジャパニーズ スタイル Japanese Style

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監督:アベラヒデノブ
企画:アベラヒデノブ、吉村界人、武田梨奈
脚本:アベラヒデノブ、敦賀零
撮影:栗田東治郎
出演:吉村界人、武田梨奈、三浦貴大、日高七海、佐藤玲、フェルナンデス直行、田中佐季、布施勇弥、みやび、長村航希、山崎潤

大晦日。アメリカ留学中だった妻が死んだ。 絵描きの男は、新年までに「死んだ妻の“肖像画”」を完成させなくてはならないが、「生きた“瞳”」をどうしても描けない。そんな時空港で、妻に似た女・リンと運命的な出逢いを果たす。彼女もまた、新年までに“終わらせたい”ことを抱えていた。ふたりはタイの三輪タクシー(トゥクトゥク)に惹きつけられて乗り込み、“終わらせる”ための旅に出る!

年末が近づくと、今年のうちに済ませておきたかったこと、けじめをつけたいことがいくつも浮かんできます。年末年始はカレンダーが変わるだけでなく、何か特別な区切りを感じます。この作品もやり残したことを今年中に”終わらせたい”二人が、ジタバタする大晦日のお話。吉村界人さん、武田梨奈さんは初共演ですが、微妙な距離感の二人を演じてこの先どうなるの?と興味をひき続けます。中にちゃぶ台を星一徹(「巨人の星」の頑固な父)ばりにひっくり返す場面があります。昔アニメを見ていて明子姉さんを気の毒に思っていたのを思い出しました。片付け役のスタッフさんご苦労様です。
「Japanese Style【ジャパニーズスタイル】は英語で「袋とじ」という意味だそうです。トゥクトゥクでの旅の途中で、二人が互いに隠していた「袋とじ」も暴かれていくのですが、それは何?それぞれの”終わらせたい”ことはどうなるのでしょう? 
タイムリミットは年越しの カウントダウン!(白)


★企画・主演の吉村界人さん、武田梨奈さんにお話を伺いました。こちらです。

2020年/日本/カラー/93分
配給:スタジオねこ
(C)2020 映画「ジャパニーズスタイル」製作委員会
https://www.japanese-style-movie.com/
★2022年12月23日(金)よりユーロスペース、シネマ・ロサほか全国順次公開
☆入場者皆様に劇場パンフレットをプレゼント


posted by shiraishi at 18:05| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

真・事故物件パート2 全滅

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監督:佐々木勝己
脚本:佐々木勝己、久保寺晃一
撮影:島大和
音楽:中村修人
出演:窪田彩乃、小野健斗、海老野心、ヨウジヤマダ

事故物件を舞台にした恋愛リアリティショーを撮影するため、キャストとスタッフが、ある古い家に集合した。撮影は進まず、トラブル頻発、想像を絶する殺戮のバトルロワイヤルの場と化していく。


2022年2月に全国公開されたサイゾー映画プロジェクト第1弾『真・事故物件/本当に怖い住民たち』がヒットしたことから第2弾の本作は予算倍増なったそうです。「摂理と倫理をかなぐり捨て、制御不能の大暴走!スケールアップさせた異次元のスペクタクル・バイオレンス・スプラッター」
という宣伝文句を見て、うう、どうしようと悩みました。実はホラーもスプラッターも苦手で、子供のときから怪談も聞けない、見られない怖がりだからです。第1弾の試写を見逃し、第2弾は見てみようかな、と思ったらスケールアップしているとは!
公開ぎりぎりまで先送りして、やっと観て衝撃でぐったり。ストーリーがどんなのだったか飛んでいってしまいました。
制作およびファンの皆様。これは褒めていることになります。どこまでやれるかスタッフとキャストの方々がつぎ込んだ熱気が満ち満ちています。たっぷりの血と内臓もあります。バイオレンスホラー、ゴア映画が得意な方、どうぞ。(白)


2022年/日本/カラー/DCP/75分/R18+
配給:エクストリーム
(C)2022 REMOWhttps://shin-jiko.com/
https://shin-jiko.com/
★2022年12月23日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 18:00| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

戦慄のリンク(原題:網路凶鈴 The Perilous Internet Ring)

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監督:鶴田法男
原作:マ・ボヨン「她死在QQ上」
脚本:ヤン・ヤン
撮影:神田創
音楽:小畑貴裕
出演:スン・イハン(ジョウ・シャオノア)、フー・モンポー(マー・ミン)、チャン・チン(ジャン・チォン)、ワン・マンティ(スー・シャオジン)、ニー・ムーシー(タン・ジン)、チャン・ユンイン(ショウ・ナ)、ハン・チウチ(ダイ・ユンツォン)、ワン・ツーイー(シア・ウェイイー)、ジョウ・ハオトン(トン教授)、シャオ・ハン(リー隊長)

大学3年生のジョウ・シャオノアは、深夜に従姉のタン・ジンからの電話を受ける。小説家志望のタン・ジンは、あるネット小説を読んで怖くなり、シャオノアに電話したのだった。シャオノアは遅い時間なので行けず、翌日トン教授の心理学の授業で会う約束をした。時間になっても現れないタン・ジンが気になり、彼女の家に向かうが、タン・ジンはすでに死んでいた。
公安警察のリー隊長から、検視では自殺の可能性が高いと言われたシャオノアだったが、タン・ジンは自殺などしないと否定する。犯罪心理学に詳しい記者志望のマー・ミンに相談し、タン・ジンのパソコンを調べることにした。そこでタン・シンがショウ・ナという女性とチャットしていたことと、貼られていたリンクを発見する。リンク先は「残星楼」という小説で、読み始めたシャオノアは自分の名前を呼ぶ声や、人の気配を感じるようになる。

Jホラーの先駆者、Jホラーの父こと鶴田監督が、中国の映画会社に乞われてメガホンをとった作品。中国のスン・イハン(孫伊涵)と台湾のフー・モンポー(傳孟柏)、若手俳優が主演、ネット小説でつながった男女が次々と不可解な死をとげる謎を追跡します。
中国では、幽霊の存在自体認められていないそうなので、ストーリーと映像に工夫が必要だったようです。シャオノアが見る長い髪の女性は、中国にも知られている「貞子」のスタイルになったのだとか。鶴田監督が気心の知れた日本のスタッフを揃えて臨んだ撮影現場は、勝手の違うことの連続だったそうです。現場での初めての体験の数々は、双方に影響を与えて作品に反映されたのではないでしょうか。
エンターテイメントの需要が大きく、発展も著しい中国でこういう交流が多くあると風通しもよくなるはず。(白)


2020年/中国/カラー/96分
配給・宣伝:フリーマン・オフィス
(C)伊梨大盛傳奇影業有限公司
https://senritsu-link.com/
★2022年12月23日(金)より新宿シネマカリテにてロードショー

posted by shiraishi at 17:55| Comment(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

死を告げる女(原題:The Anchor)

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監督・脚本:チョン・ジヨン
撮影:カン・ミンウ
編集:チョン・ビョンジン
音楽:チャン・ヨンギュ
出演:チョン・ウヒ(セラ)、シン・ハギュン(イノ)、イ・ヘヨン(ソジョン)

生放送5分前、テレビ局の看板キャスター・セラのもとに名指しで「殺される」とおびえた声の電話がかかってくる。ミソという情報提供者は「死んだらあなたに報道してほしい」と訴え、同僚の言うように、よくあるいたずら電話として片づけられない。母ソジョンは「スクープを掴むチャンス」だとセラの背中を押す。ミソの自宅に向かうと、彼女とその娘は予告通りすでに亡くなっており、セラは遺体の第一発見者となった。その日以来、事件のことが忘れられないセラは一人取材を続け、事件現場でミソの主治医だった精神科医イノに出会う。不可解な彼に対する疑いが深くなっていくのだが…。

不穏な予告電話で幕をあけるこの作品は、キャリアウーマンのお仕事物語だけではなく、サスペンス、スリラー、家族の愛憎も加わって、思いがけない道筋をたどります。
チョン・ウヒは2004年に端役で映画デビュー。『ハン・ゴンジュ 17歳の涙』(2013)で青龍映画賞はじめ数々の受賞、主演級の女優となりました。昨年公開の『雨とあなたの物語』ではカン・ハヌルと共演、作品ごとに新しい顔を見せてくれます。そして母役のイ・ヘヨンも受賞歴多数『あなたの顔の前に』で、主役の元女優役でした。この娘と母の葛藤にもご注目。
久しぶりのシン・ハギュン、好青年の役が多かったので『エクストリーム・ジョブ』(2019)での犯罪組織のボス役に、ずいぶんイメージが変わったと驚いたのですが、演技も深まる40代後半でした。事件に関わる要の人物です。渋いなぁ。(白)


スリラーは苦手で、『死を告げる女』というタイトルからして、怖そうで嫌だなと思ったのですが、シン・ハギュンが出演しているとあっては、やっぱり気になると観てみました。イ・ヘヨンとチョン・ウヒが母と娘を演じているのも渋いと思いました。それぞれの人物の心理描写が細やかで、かつてキャリアを捨てざるをえなかった母の思い、看板キャスターをおろされることになった娘の思いが、ぐいぐいと伝わってきました。
チョン・ジヨン監督という男性の監督がいるので、てっきりその方かと思ったら、本作の監督は女性のチョン・ジヨン。監督は女性だったのだと納得の心理描写でした。チョン・ジヨン監督は、1984年6月20日生まれ。2008年の短編『春に咲く』がベルリン国際映画祭で上映されるなど 国内外から高評価を受けていて、本作が長編第一作。今後の作品が気になります。できれば、スリラーでない作品をお願いしたいところです。(咲)



2022年/韓国/カラー/ビスタ/111分
配給:クロックワークス
(C)2020 ACEMAKER MOVIEWORKS & INSIGHT FILM All Rights Reserved.
https://klockworx-asia.com/anchor/
★2022年12月23日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 17:49| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

Never Goin' Back ネバー・ゴーイン・バック(原題:Never Goin’ Back)

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監督・脚本:オーガスティン・フリッゼル
出演:マイア・ミッチェル(アンジェラ)、カミラ・モローネ(ジェシー)、カイル・ムーニー(ブランドン)、ジョエル・アレン(ダスティン)、ケンダル・スミス、マシュー・ホルコム、アティーナ・フリッツェル

テキサスでルームシェアをして暮らすアンジェラとジェシーの二人。高校を中退して、ダイナーで働いているが生活費はかつかつ。そんな中でも、アンジェラはジェシーの17歳の誕生日をリゾートビーチで祝いたい。家賃も払わねばならず、ダイナーのバイトを増やすが、強盗に入られてしまう。悪いことに警察官に夕べ楽しんだドラッグが見つかり、留置場に入れられてしまった。マネージャーに電話もできず、無理を言ったバイトにもいけない。やっと出られた二人は、汗臭い制服を洗おうと友達の洗濯機を借りることにした。ちょっと覗いたパーティで、またまた厄介なことになる・・・。

A24が送り出したオーガスティン・フリッゼル監督の初の長編作品。監督本人の青春時代を、濃いユーモアの味付けで映画化しました。映画の二人は16、17歳ですが、フリッゼル監督は、実際に15歳で両親にほぼ捨てられて、友人と苦しい生活を送ってきたそうです。映画を観ながら、ハチャメチャなこの子たちの親は?と疑問だったのですが、そういうことだったんですね。未成年なのに、手を差し伸べる大人はいなかったのでしょうか?
ダイナーのマネージャーも心配してくれますが「仏の顔も三度」、言い訳も使い果たしました。洗濯くらい手でしなさいね。ちょっとおバカだけれど(兄たちはもっとおバカ)めげない二人、友情だけは確かです。お互いにいてくれてよかった、この先も仲良くね、と思わずにいられません。演じる二人がとても可愛いです。
暗黒の青春時代をパワフルなコメディに上書きした、フリッゼル監督の新作の一般公開を期待(長編2作目はNetflixで配信されている『愛しい人から最後の手紙』)。(白)


アンジェラとジェシーの二人の日々は、おバカ度120%で、呆れるばかり。でも、それも若いからこそ。ダイナーのマネージャーは二人をクビにしながらも、「君たちが底抜けに明るいのが自分の救いだった」と告げます。「僕みたいになるな。人生を楽しめ」とも。自主規制して、思う存分青春を謳歌しなかったのでしょうね。人にどう思われようと、自分らしく生きて、楽しむのが一番! 家賃を払えないかもしれないけれど、親友の誕生日を海辺のホテルで祝いたいという気持ちがいじらしいです。 それにしても、こんな作品も、A24は放つのかと驚かされました。アメリカ南部の白人の貧困層を描いているけれど、社会派的なメッセージを込めることもなく、あっけんからんとしているところが、A24らしいのかも。(咲)

2018年/アメリカ/カラー/シネスコ/86分
配給:REGENTS
(C)2018Muffed Up LLC. All Rights Reserved.
https://nevergoinback.jp/
★2022年12月16日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 17:43| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

〈特集上映〉 ピエール・エテックス レトロスペクティブ

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ピエール・エテックスって誰?
長らく観ることの叶わなかった
フレンチコメディの傑作が一挙公開!


公式サイト:http://www.zaziefilms.com/etaix/
配給:ザジフィルムズ 協力:シネマクガフィン
★2022年12月24日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開!


ピエール・エテックス Pierre Étaix
1928年11月23日 フランス中部ロワール県ロアンヌ生まれ
2016年10月14日逝去 享年87歳
映画監督・俳優・道化師・手品師・イラストレーター・作家・音楽家

幼少の頃から、チャールズ・チャップリン、バスター・キートン、ハロルド・ロイド、ローレル&ハーディ、マックス・ランデーの喜劇映画や、ロアンヌにやってきたサーカスに夢中になる。ロム、ダリオ=バリオ、ピポなどのクラウン(道化師)に憧れ、ピアノ、アコーディオン、ヴァイオリン、トランペット、マンドリンなどの楽器を習得し、体操やダンスも習う。16歳の頃から地元のレビューなどで、 パントマイムやイリュージョン、クラウンなどの芸を磨く。また、ステンドグラス作家のテオドール・ジェラール・ハンセンに師事し絵やデザインの素養も身につける。

パリに出て艶笑雑誌「Le Rire」や「Fou-Rire」のイラストレーターとして身を立てる。
1954年、ジャック・タチと運命的に出会い、タチの『ぼくの伯父さん』のための製図家、アシスタントとして雇われる。『ぼくの伯父さんの休暇』と『ぼくの伯父さん』の小説版の執筆を請け負ったジャン=クロード・カリエールと出会い、意気投合し、生涯の友となる。
二人は自主制作で8ミリ映画を作る。プロデューサーのポール・クロードンの目に留まり、エテックス監督、カリエール脚本のコンビで、1961年から7 年の間に、タチの流れを汲む、台詞に頼らない、視覚的・音響的ギャグを駆使した、3本の短編映画『破局』『幸福な結婚記念日』『絶好調』、4本の長編映画『恋する男』『ヨーヨー』『健康でさえあれば』『大恋愛』、計7本の独自のスタイルの喜劇映画を制作した。
★今回の特集で、この長編4作品と短編3作品を一挙公開。『恋する男』を除く 6 作品が、 日本では劇場正式初公開。

その後、エテックスは、サーカスの世界で、名門メドラーノの道化師ニノとのコンビで活躍するようになる。『大恋愛』で共演した、サーカスの名門フラテリーニ一座の血を引く歌手のアニー・フラテリーニと結婚。二人でクラウンのコンビを組むだけでなく、1974年には、国立サーカス学校(後に、アカデミー・フラテリーニと改名)を開校した。
エテックスは映画俳優としても活躍。手先の器用さを買われ、ロベール・ブレッソンの『スリ』やルイ・マルの『パリの大泥棒』ではスリの役。フェデリコ・フェリーニの『道化師』では、妻や、尊敬していたシャルリー・リヴェルらとともに現役のクラウンとして実名で出演。タチやエテックスのファンだったオタール・イオセリアーニの『ここに幸あり』や『皆さま、ごきげんよう』、大島渚の『マックス、モン・アムール』、アキ・カウリスマキの『ル・アーヴルの靴みがき』などの映画にも出演している。

エテックス自身が監督した作品は、フランスの法律上の問題により、シネマテークなどを除いて長く劇場で上映されていなかったが、ジャン=リュック・ゴダール、ジャック・リヴェット、レオス・カラックス、ミシェル・ゴンドリー、デヴィッド・リンチなどの署名活動により、2010年に裁判で勝訴し、すべての権利を取り戻した。エテックス監修のもとデジタル修復を施され、世界各国で再び上映することが可能となり、この10年でエテックスの再評価は格段に進んでいる。


【上映作品】

*長編*
◆『恋する男』 原題:LE SOUPIRANT
※日本初公開時の邦題:『女はコワイです』(1963年東和配給)
監督・脚本・主演:ピエール・エテックス 
脚本:ジャン=クロード・カリエール
1962年/フランス/モノクロ/ヨーロッパ・ヴィスタ/ モノラル/ 84分
字幕:井村千瑞
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©1962 - CAPAC
ブルジョワの出自ながら、天文学の研究に没頭して引きこもりの三十男。ある日両親に結婚を命じられ、伴侶となる女性を探しに街に繰り出すが、トホホな出来事の連続。最後に自宅に下宿していたカタコトのフランス語しか話せないスウェーデン人の女性に求婚するという「結婚」をキーワードにした コメディ。
1963年 ルイ・デリュック賞 受賞


◆『ヨーヨー』 原題:YOYO
監督・脚本・主演:ピエール・エテックス 
脚本:ジャン=クロード・カリエール
1964年/フランス/モノクロ/ヨーロッパ・ヴィスタ/モノラル/ 98分
字幕:神谷直希
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©1965 - CAPAC
1965年 カンヌ国際映画祭 青少年向最優秀映画賞 受賞
1965年 ヴェネチア国際映画祭 国際カトリック映画事務局賞 受賞

大きな城に暮らす大富豪の男。1929年の世界恐慌で破産し、かつて愛したサーカスの曲馬師の女性と再会し、その間にできていたことを知らなかった息子と三人で、城を捨てどさ回りの旅に出る。それは彼がかつて味わったことのない満ち足りた日々だった。サーカス界で成功をおさめた息子はヨーヨーという人気クラウンになる。第二次世界大戦が終わり、ヨーヨーはかつて父が所有していた城を取り戻そうとする…

額縁の中から、ヨーヨーをしながら出てくる男。虎やライオンの皮が敷かれた大邸宅。数人の執事が食事の世話をしたり、本を読み聞かせたりと贅沢だけど、どこか孤独な感じもします。破産して、サーカスの一団として息子と共に暮らす彼は幸せそう。
エテックスが小さい頃から好きだったサーカスの世界をテーマにした映画。当時のエテックスは父親を亡くしたばかりで、父と息子の絆を描いた作品を作りたいという気持ちもあったそうです。前半、破産するまでは、無声映画時代を思わせる作り。音響はついていますが、セリフは文字で出てきます。後半はトーキー。時代の流れを感じさせてくれます。
圧巻は、ラストに出てくる象。取り戻したお城の披露パーティに現れるのですから、びっくり。(咲)



◆『健康でさえあれば』 原題:TANT QU’ON A LA SANTÉ
監督・脚本・主演:ピエール・エテックス 
脚本:ジャン=クロード・カリエール
1965年/フランス/パートカラー/ヨーロッパ・ヴィスタ/モノラル/67分
字幕:横井和子
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©1973 - CAPAC – Les Films de la Colombe
なかなか寝付けない男の一夜を描いた〈不眠症〉、映画館にいたはずが、幕間に流れるCMのおかしな世界へ入り込んでしまう〈シネマトグラフ〉、近代化が進む都市で人々が受ける弊害をシュールに描いた〈健康でさえあれば〉、都会の夫婦・下手くそハンター・偏屈な農夫が織りなす田園バーレスク〈もう森へなんか行かない〉の4編からなるオムニバス・コメディ。1966年にフランスで公開されたが、71年にエテックス自身によって再編集が施され、現バージョンに生まれ変わった。


◆『大恋愛』 原題:LE GRAND AMOUR
監督・脚本・主演:ピエール・エテックス 
脚本:ジャン=クロード・カリエール
1968年/フランス/カラー/ヨーロッパ・ヴィスタ/モノラル/ 87分
字幕:寺尾次郎
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©1968 - CAPAC
1969年 フランスシネマ大賞 受賞
1969年 カンヌ国際映画祭 国際カトリック映画事務局賞 受賞

工場を営む実業家の一人娘フロランスと結婚したピエール。義父から仕事を任され、夫婦仲も良好だけど、どこか満たされない退屈な日々。そんなある日、引退するベテラン秘書の後任に若く美しいアニエスが入社してきて、気もそぞろになる。隣で妻が寝ているのに、妄想がエスカレートして、若い彼女と寝ているベッドが、車のように走り出す・・・

冒頭、ロワール川沿いにあるトゥールの街が映し出され、カメラは、ひと際大きい教会の中へ。結婚式が行われようとしていて、新婦フロランスを演じているのは、のちにエテックスの妻となるアニー・フラテリーニ。新婦の顔を見ながら、今、隣にいるのはフロランスでなくてもよかったはず・・・と、過去に付き合った彼女たちのことを思い出すピエール。これはお互いさまかも。
結婚して10年が経ち、町の噂好きの老婦人たちは、女性とすれ違って挨拶しただけのピエールのことを、浮気していると言いふらし、そのことがフロランスの母親の耳にも届きます。当然、娘に告げる母。一度は実家に帰る妻も、戻ってきてくれるのですが、ピエールの若い秘書への妄想はさらに膨らみます。悪友が若い秘書を落とす術をアドバイス。まったく男って! 
いつもカフェで、まだ飲んでない飲み物を、ほかのことに気を取られている老いたギャルソンに持っていかれてしまう老紳士や、噂話をする老婦人たちなど、脇役の人たちもピリリと印象に残りました。(咲)



*短編*
◆『破局』原題:RUPTURE
監督・脚本:ピエール・エテックス、ジャン=クロード・カリエール
1961年/フランス/モノクロ/スタンダード/モノラル/12分
字幕:横井和子
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©1961 – CAPAC
恋人から手紙を受け取った男。中には破かれた自分の写真が同封されていた!こちらも負けじと別れの手紙を書こうと奮闘するが、万年筆、インク、便箋、切手、デスク… なぜか翻弄されてどうしても返事を書くことができない。ジャック・タチの縁で出会ったエテックス×カリエールによる初の短編作。セリフがなく、音を使ったギャグが冴える秀作。


◆『幸福な結婚記念日』 原題:HEUREUX ANNIVERSAIRE
監督・脚本:ピエール・エテックス、ジャン=クロード・カリエール
1961年/フランス/モノクロ/スタンダード/モノラル/13分
字幕:井村千瑞
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©1961 – CAPAC
1963年 アカデミー賞 最優秀短編実写映画賞 受賞
1963年 英国アカデミー賞 最優秀短編映画賞 受賞

テーブルに結婚記念日のディナーのセッティングをする妻。夫はプレゼントを抱えて駐車していた車に乗るが、前の車が邪魔になって出られない。クラクションを鳴らすと理髪中の客が出てきて車を動かしてくれる。今度は花束を買って車に戻ると、タクシーと間違えた老紳士が乗っている。なんとか追い出し、家路を急ぐが、パリの街は大渋滞・・・ 

13分の作品なのに、たっぷり長編を一本観たような充実感! 理髪中の男性や、タクシーになかなか乗れない老紳士など、この短編でも脇の人たちの末路がちゃんと描かれていて笑わせてくれました。やっとの思いで家にたどり着いた夫が目にしたのは・・・?
エテックス×カリエールのエッセンスがびっしり詰まった傑作です。(咲)


◆『絶好調』 原題:EN PLEINE FORM
監督・脚本・主演:ピエール・エテックス 
脚本:ジャン=クロード・カリエール
1965年/フランス/モノクロ/ヨーロッパ・ヴィスタ/モノラル/14分
字幕:横井和子
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©1971 - CAPAC
田舎でソロキャンプをする青年。しかし、警官に管理の行き届いたキャンプ場に行くように言われてしまう。そこは有刺鉄線で囲われた、まるで強制収容所(キャンプ)で…。
当初は『健康でさえあれば』(65)の一部を成していたが、71年の再編集で外された。2010年にデジタル修復された際に、ほかの作品とともに公開され、短編として生まれ変わった。




posted by sakiko at 11:56| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする