2022年12月30日

非常宣言(原題:EMERGENCY DECLARATION)

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監督・脚本:ハン・ジェリム
撮影:イ・モゲ、パク・ジョンチョル
出演:ソン・ガンホ(ク・イノ刑事)、イ・ビョンホン(パク・ジェヒョク)、チョン・ドヨン(キム・スッキ国土交通省大臣)、キム・ナムギル(ヒョンス副操縦士)、イム・シワン(リュ・ジンソク)

娘とハワイに向かうジェヒョクは、空港で不審な行動の若い男につきまとわれる。同じ便に搭乗したのを知っていやな予感がした。飛行機が飛び立って間もなく、トイレに入った乗客が急死した。原因がわからないまま、なすすべもなく次々と乗客が死亡し、機内はパニックに陥っていく。
一方地上では、飛行機がバイオテロの犯行予告動画がSNSにアップされ、警察は捜査を開始する。ク・イノ刑事は、その飛行機は妻が搭乗した便だと気づく。テロの報告を受けたキム・スッキ国土交通省大臣は、緊急着陸できるように国内外の空港へ交渉を始めた。

高度28,000フィート上空で見えないウィルスと墜落の恐怖におびえる乗客たち。ウイルスに感染した乗客に触れた乗務員も発病していきます。このコロナ禍中になんとまた怖い作品が登場したこと!あまりにタイムリーで驚きです。機内の詳細な描写に私は胃が痛くなりそうでした。
けれども、ソン・ガンホとイ・ビョンホン、それにチョン・ドヨンの共演です。なんとかしてくれるはず、と妙な安心感。そんな映画の見方はよくない気もするのですが、期待してしまうではありませんか。この機内と地上をかわるがわる見せるストーリーと、カメラワークがまた緊張をいやがうえにも高めてくれます。心臓とメンタルが弱いというお方はご注意ください。(白)


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「非常宣言」
飛行機が危機に直面し、
通常の飛行が困難になったとき、
パイロットが不時着を要請すること

“これ”が布告された航空機には優先権が与えられ
他のどの航空機より先に着陸でき、
いかなる命令を排除できるため、
航空運行における戒厳令の布告に値する



旅立つ人々で賑わう空港。パイロットの制服姿が素敵なキム・ナムギル。チケットカウンターで乗客の多いフライトを尋ねる挙動不審なイム・シワン君。娘を連れてハワイに行こうとするも、どこか不安げなイ・ビョンホン。そして、旅立つ妻から「作り置きのコムタンがなくなる頃には帰ってくる」と言い渡される刑事のソン・ガンホ。豪華な俳優陣に期待が高まります。さらに、チョン・ドヨンは航空機上のバイオテロの解決に臨む国土交通大臣という重要な役どころで登場。
バイオテロに襲われ、「非常宣言」を発して成田に降りようとするのですが、日本は拒否。韓国でも着陸させるなと反対運動が起こります。非常宣言を無視していいの? そんな中で、ソウルでは、ウィルスに対処する薬が超特急で開発されます。コロナにも、ぜひお願い!  さて、どうなる?と、ハラハラさせられながら、ソン・ガンホはじめ、俳優陣の確かな演技に唸った141分でした。(咲) 


2022年/韓国/カラー/シネスコ/141分
配給:クロックワークス
(C)2022 showbox and MAGNUM9 ALL RIGHTS RESERVED.
https://klockworx-asia.com/hijyosengen/
★2023年1月6日(金)ロードショー

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ドリーム・ホース(原題:Dream Horse)

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監督:ユーロス・リン
脚本:ニール・マッケイ
撮影:エリック・アレクサンダー・ウィルソン
音楽:ベンジャミン・ウッドゲイツ
出演:トニ・コレット(ジャン・ヴォークス)、ダミアン・ルイス(ハワード・ディヴィス)、オーウェン・ティール(ブライアン・ヴォークス)

ウェールズの小さな村に住んでいる主婦のジャンは、パート仕事のかたわら年取った両親の世話もしている。夫は無気力でジャンはこんな毎日に飽き飽きしていた。たまたまクラブで共同で馬主になれるという話を聞いて興味津々。競走馬を育てたいと村の人々に話を持ち掛ける。詳しいハワードを指南役に、馬主組合を結成した。血統の良い牝馬を購入、生まれた仔馬に「ドリームアライアンス(夢の同盟)」と名付けた。

生きがいを見つけたジャンは、表情も明るくなり充実した日々を過ごします。ひがな一日ソファで寝転んでいた夫も馬の世話を手伝うようになりました。自分の育てた馬がレースに出るようになったら、それはそれは楽しみで我が子のことのように嬉しいはず。ジャンと馬主組合を作った村人たちは、馬と一緒に夢も手にしました。投資したからには、配当もあってほしいですよね。ポスターのみんなの顔が物語っていますが、まあこれから先は劇場でご覧ください。山あり谷ありが常ですよ。
馬主になって競走馬を育てるというのは、よほどのお金持ちかと思っていました。この映画を観て資金を出し合い共同馬主となることもできるんだと初めて知りました。日本でも一口馬主(詳細はこちら)という制度があるそうです。(白)


決して儲けようと思わず、「胸の高鳴り(ウェールズ語でホウィル)」を求めて馬主になったジャンたち。馬主になれば、レースの日、馬主専用のバーで、お酒片手にオードブルをつまみながら観戦できるという特権があって、皆で着飾って競馬場に赴くのも楽しみです。 ウェールズ最高のレースである「ウェルシュ・ナショナル」では、ウェールズ国歌を歌って盛り上がります。
英国ではマイノリティーで、控えめで、おとなしいといわれるウェールズの人たちが、自分の馬が走るのを熱く見守る姿にじ~んとさせられました。映画の最後に、本作のモデルになった本物のジャンたちが出てきますので、お見逃しなく! (咲)


2020年/イギリス/カラー/シネスコ/113分
配給:ショウゲート
(C)2020 DREAM HORSE FILMS LIMITED AND CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION
https://cinerack.jp/dream/
★2023年1月6日(金)ロードショー

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恋のいばら

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監督:城定秀夫
脚本:澤井香織 城定秀夫
撮影:渡邊雅紀
音楽:ゲイリー芦屋
主題歌・挿入歌:chilldspot
出演:松本穂香(桃)、玉城ティナ(莉子)、渡邊圭祐(健太朗)、白川和子(おばあちゃん)

図書館に勤める桃、24歳。彼氏の健太朗に振られたばかりだ。あきらめきれない桃は健太朗のインスタを見続けて、新しい恋人ができたらしいと知る。さらに辿ってその今カノのインスタを発見した。地味な自分と違ってイマドキのクールなダンサーだった。桃はインスタを頼りに今カノの莉子を訪ねて行き、戸惑う莉子に一つの提案をする。二人はある目的のために共犯関係になった。

「恋人同士では絶対に観ないでください」とテロップが出るこの作品。奇妙な三角関係ですが、カレやカノジョのセリフや行動にいろいろ共感するからでしょうか。
健太朗はイケメンのカメラマン、女性にもてそうです。しかも認知症気味のおばあちゃんと同居していて、優しいところもちゃんとあるのです。渡邊圭祐さんが演じていますが、悪い男というよりカメラマンだから写真を撮って残したかっただけに見えます。来るもの拒まず、ただの女にだらしない男のようです。ストーリーは意外な方向に進むのでお楽しみに。観終わるとタイトルが腑に落ちます。

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これは香港のパン・ホーチョン監督の『ビヨンド・アワ・ケン』(2004)のリメイクで、その年のTIFF(本誌63号に記事)と2011年の『ドリーム・ホーム』公開に合わせたパン・ホーチョン監督特集で上映されています。ケンをダニエル・ウー(呉彦祖)が演じているのですが、全然記憶にないので見なかったのかも。2022年の公開作が6本もあった城定秀夫監督、初のリメイク作品。(白)


元カノが今カノと結託?? なんとも不思議な展開でした。
観終わってから、『ビヨンド・アワ・ケン』のリメイクと知りました。内容はほとんど覚えていないのですが、ハチャメチャでワケわからなくて、パン・ホーチョンらしいと思ったことだけは記憶に蘇りました。健太朗が自分の部屋を見て唖然とするところも、そうそうと思い出しました。
白川和子さん演じるおばあちゃんが、あちこちで物を拾い集めていて、浮浪者のように見えてしまったのですが、実はモノづくりの名人でした。とてもチャーミングで印象に残りました。(咲)



2023年/日本/カラー/シネスコ/98分
配給:パルコ
(C)2023「恋のいばら」製作委員会
https://koinoibara.com/
★2023年1月6日(金)ロードショー
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ファミリア

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(C)2022「ファミリア」製作委員会

監督:成島出
出演:役所広司、吉沢亮、サガエルカス、ワケドファジレ、中原丈雄、室井滋、アリまらい果、シマダアラン、スミダグスタボ、松重豊、MIYAVI、佐藤浩市

陶器職人の神谷誠治(役所広司)は妻を早くに亡くし、山里の窯で焼き物を作りながら一人で暮らしている。唯一の家族である息子の学(吉沢亮)は、一流企業のプラントエンジニアとしてアルジェリアに赴任している。その学が、勤務先で知り合い結婚したナディア(アリまらい果)を連れて一時帰国した。学は、今のプラントが完成したら会社を辞め、ここで一緒に焼き物をやるという。「焼き物じゃ食えん」と反対する誠治。
一方、隣町の団地に住むブラジル人青年マルコス(サガエルカス)を、半グレに追われているときに助けた縁で、誠治たち一家は団地でのブラジル人たちのパーティに招かれる。初めて親しく接した彼らは、生活は厳しくても陽気で家族思いだった。
学とナディアがアルジェリアに戻ってしばらくしたある日、プラントの現場がテロ組織に襲われたという衝撃的なニュースが届く・・・

アルジェリアのテロ組織が人質に取ったのは金目的だと聞いて、土地を担保に1千万円借りて、首相官邸に届けようとする誠。外務省に案内されますが、9.11以降、日本政府はテロ犯に金は渡さないと聞かされます。なんとか息子たちを助けたいという父親の気持ちはわかりますが、1千万では、解放してくれないでしょう。2013年1月にアルジェリアの天然ガス精製プラント建設現場がテロ組織に襲われ、日本の日揮の10人の方を含む8か国37人の方が亡くなられたことを思い出します。
本作のもう一つの柱になっているのが、在日ブラジル人はじめ日本で暮らす外国人を巡る問題。どちらかというと、こちらがメインかも。実際にブラジル人が多く暮らす団地で撮影されています。
ちょっとあれこれ詰め込み過ぎの感はありますが、役所広司さんと吉沢亮さんの父子や、刑事役の佐藤浩市さん、ヤクザのボス役で、派手なスーツがお似合いの松重豊さんなどの手堅い演技に救われた思いでした。なにより、マルコス役のサガエルカスさん、彼の恋人エリカ役のワケドファジレさんなどオーディションで選ばれた、日本で暮らすブラジル人の若い人たちが、生き辛さを感じながらも頑張る姿を伝えてくれました。(咲)



2022年/日本/121分
配給:キノフィルムズ
公式サイト:https://familiar-movie.jp/
★2023年1月6日(金)新宿ピカデリーほか全国公開



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2022年12月25日

チョコレートな人々

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(C)東海テレビ放送


監督:鈴木祐司
ナレーション:宮本信子
プロデューサー:阿武野勝彦
音楽:本多俊之
音楽プロデューサー:岡田こずえ

『人生フルーツ』『さよならテレビ』の東海テレビドキュメンタリー劇場最新作
2021年日本民間放送連盟賞テレビ部門グランプリ受賞作の映画化

福祉と経済、生きがいと生産性、さまざまな人と共に働くよろこびと、その難しさ……理想を追い求めるチョコレートブランドの山あり谷あり、きれいなだけじゃない19年を描く、東海テレビドキュメンタリー劇場第14弾。

愛知県豊橋市の街角にある「久遠チョコレート」。世界各地のカカオと、生産者の顔が見えるこだわりのフレーバー。品のよい甘さと彩り豊かなデザインで、たちまち多くのファンができ、いまではショップやラボなど全国に52の拠点を持つ。
はじまりは2003年、26歳の夏目浩次さんが3人のスタッフとはじめた小さなパン屋さん。その後、いくつもの事業を展開してきたが、トップショコラティエの野口和男さんとの出会いが大きな転機になる。
夏目浩次さんたちスタッフは、かれらが作るチョコレートのように、考え方がユニークでカラフル。心や体に障がいがある人、シングルペアレントや不登校経験者、セクシュアルマイノリティなど多様な人たちが働きやすく、しっかり稼ぐことができる職場づくりを続けてきた。そんなチョコレートな人々の物語。

「チョコレートは失敗しても温めれば、作り直すことができる」
あ、そうなのか・・・ 思えば、シンプルな板チョコを買ってきて、それを溶かして、お菓子作りに使ったことがありました。
「久遠チョコレート」のことは、本作で初めて知りましたが、デパートのイベントでも常連なのだそうです。
テリーヌといえば、オードブルの一品を思い浮かべますが、チョコレートもテリーヌという形になるのですね。(チラシにあるものです) いろいろな味付けをしたカカオに、ナッツやドライフルーツ、さらに小豆など和風のものも自由に詰め込んだバラエティに富んだ品ぞろえ。 一度、いただいてみたい。
仕事になかなか就くことのできない人たちにも門戸を開いた会社の姿勢にも感銘しました。(咲)

タイトルが気にはなっていたのですが、なかなか作品を観る時間が取れず、公開ぎりぎりになってしまいました。「久遠チョコレート」のことは、この作品で初めて知りました。それにしてもパン屋から始めて、挫折を繰り返し、チョコレートで成功というのがすごい。
夏目浩次さんが26歳の時から、障害者と共に、いろいろ試行錯誤してきた様子が出てきますが、これを20年も追って撮り続けた東海テレビの人たちの偶然と必然。まだ、海のものとも山のものともわからない時からずっと、この人たちを追い続けて来たというのは何か嗅覚とでもいえるものがあるのか。
私も1966年に障害者たちが創業した会社で、定年まで15年働いたけど、こちらの会社は、もともと自分たちが必要な「障害者・高齢者の自立生活のための福祉用具」を扱う会社で、最初はリハビリ機器から始まり、介護保険制度が始まってからは、デイサービスやグループホームなど、必要に応じて、扱うものが広がっていった会社でした。車いすで働いている人も多く、バリアフリーな社会を目指していましたし、障害者差別禁止法(障害者差別解消法として成立)を作ろうと、社長自身が先頭にたって活動していました。
この映画はチョコレートによって、多様な人たちが多様な働き方をしている姿が紹介されていましたが、障害者自身が福祉に頼るのではなく、自立した生活を営める社会の実現こそが大事と思います。
それにしても、このチョコレート食べてみたい!! 東京で買えるとこはどこにあるんだろう。調べてみたけど、関東では神奈川とか埼玉、栃木には店があるようだけど、東京にはなさそう。イベントの時に目指していくしかなさそう。あるいは名古屋(あいち国際女性映画祭)に行った時に寄れるところがあるか調べてみよう(暁)。


2022年/日本/102分
取材協力:株式会社ベルシステム24ホールディングス、株式会社ベル・ソレイユ、豊橋市、のんほいパーク、株式会社ケアビジネスパートナー、童謡歌手 ひまわり
製作・配給:東海テレビ
宣伝・配給協力:東風
公式サイト:http://www.tokaidoc.com/choco/
★2023年1月2日(月)より、東京・ポレポレ東中野、愛知・名古屋シネマテーク、大阪・第七藝術劇場ほか全国順次公開
posted by sakiko at 10:57| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

離ればなれになっても  原題:Gli anni più belli  英題:The Best Years

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(C)2020 Lotus Production s.r.l. - 3 Marys Entertainment


監督:ガブリエレ・ムッチーノ(『幸せのちから』)
音楽:二コラ・ピオヴァーニ(『ライフ・イズ・ビューティフル』)
出演:ピエルフランチェスコ・ファビーノ、ミカエラ・ラマツォッティ、キム・ロッシ・スチュアート、クラウディオ・サンタマリア

1982年ローマ。クラブで踊っていた16歳の青年ジュリオは、友人たちと外で起きている暴動を見に行く。リッカルドが警官にこん棒で殴られ負傷し、仲間たちが病院に運ぶ。一命を取りとめ、「イキノビ」のあだ名で呼ばれることになるリッカルド。
その夏、ジュリオと同級生のパウロは、リッカルドの両親に招かれて、海辺の別荘で過ごす。その年の大晦日、クラブでパウロは同級生のジェンマと恋に落ちる。お互い、父を知らない身の上。パウロに夢中になっている間に、ジェンマの母が亡くなる。ジェンマは、ナポリの伯母の家に引き取られ、パウロと会えなくなる。
1989年、パウロは教師、ジュリオは弁護士、リッカルドは映画評論家を志す芸術家と、社会への一歩を踏み出した3人の男たち。ある夜、別人のように変わってしまったジェンマと再会する・・・

冒頭、花火があがる中、中年の男性ジュリオが、16歳だった1982年を振り返るところから物語は始まります。ジュリオの隣には若い女性。家の中から中年の女性が「ジュリオ、スヴェーヴァ、中に」と声をかけます。この女性たちが誰だか明かされないうちに、一気に時は1982年に遡ります。
共産主義者のリッカルドの両親の海辺の別荘から、3人はオンボロ車を買って、バルセロナに行こうとします。1982年といえば、スペインで行われたFIFAワールドカップでイタリアが優勝した年でした。3人はサッカーを観に行こうとしたのですね。
1989年11月9日 ベルリンの壁崩壊、2001年9月11日アメリカ同時多発テロ事件と、時の流れを示す出来事と共に、年を重ねる4人。新年のカウントダウンと花火も、大事な要素として節目節目に登場します。出会いと別れ、仕事での成功や挫折、嬉しい再会・・・ 4人それぞれの人生に、どこかで自分を重ねることもありました。ジェンマは、宝石という意味。磨けば美しくなる宝石のように、人生が輝くものであればいいなと、しみじみ思いました。(咲)


2020年/イタリア/カラー/ビスタ/5.1chデジタル/135分
字幕翻訳:岡本太郎
後援:イタリア大使館、イタリア文化会館
提供:クラシコム
配給:ギャガ
公式サイト:https://gaga.ne.jp/thebestyears
★2022年12月30日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ他 全国順次公開




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2022年12月24日

近江商人、走る!

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©2022 KCI LLP

監督:三野龍一 
脚本:望月 辰 
製作:新谷ゆっちー タケモトナオヒロ
出演:上村 侑 森永悠希
真飛 聖 黒木ひかり 前野朋哉 田野優花 村田秀亮(とろサーモン)
鳥居功太郎 たむらけんじ 大橋彰(アキラ100%) 高梨瑞樹 徳江かな 落合亜美 半田周平 コウメ太夫 
矢柴俊博 堀部圭亮 渡辺裕之(特別出演) 藤岡弘、(特別出演)/筧 利夫

百姓の父が亡くなり、銀次が一人で収穫した大根を神社の境内で売っていると、薬売りの喜平から納得のいく説明をしたら全部買うと言われる。侍にぶつかり斬られそうなった銀次を喜平が助ける。身代わりでしょっぴかれていく時に、喜平は「大津の米問屋大善屋を訪ねるといい」と言い残す。大善屋を訪ねた銀次は、丁稚奉公することになる。 5年後、銀次は商才を発揮し、顧客の取引実績もそらんじるほどになっていた。また、怪我をした職人のために互助組合を作ったり、客足の落ちている茶屋を看板娘お仙を売り出すことで助けたりする。
そんな折、悪徳な大津奉行の罠によって、大善屋が千両もの借金を背負うことになってしまう。丁稚奉公の先輩である蔵之介の父・柏屋の主人平蔵も、実はこの悪だくみに係わっていた。
銀次は、なんとか大善屋を救おうと、大津と15里=60km離れた堂島の米の価格差を利用した裁定取引を思いつく。大善屋の娘である楓をはじめ、眼鏡職人の有益や大工の佐助など仲間の力を借りて奔走する・・・

商いの基本は、出来るだけ安く仕入れて、高く売ること。堂島米会所では世界初の近代的な商品先物取引が行われていたのだそうです。その堂島の米の価格を、銀次たちがどうやっていち早く知ることができたのかが、本作の見どころです。電話すらなかった時代です。
私は、かつて、近江商人ゆかりの商社に25年近く勤めていたことがあるので、どんな物語なのか興味津々でした。 
一番、心に残ったのは、薬売りの喜平が銀次に語った「金にならへんでも、世の為、人の為、働くんや。いつか必ず返ってくる」という言葉です。 損得勘定なしに動くことが大切ということですね。
思えば、私の勤めていた会社、以前は東京駅からほど近いところにあって、地方からほかの仕事で上京した取引先の方が、帰りの電車に乗る前に、特に用事はないけれどと寄ってくださって、それがその後の取引に繋がるということが多々あったそうです。駅から遠い不便なところに移転して、ちょっと寄ってくださる方もいなくなり、業績も落ちました。なにごとも人と人との繋がりが大事ですね。(咲)


目力の強い上村侑(うえむらゆう)さんは2020年の『許された子供たち』で注目、2022年は『さよなら、バンドアパート』で主人公の中学生時代を、『空のない世界から』ではベトナム人のチャンを演じて印象に残っています。こちらでは初の時代劇、役と違って数字に強くなく、算盤はじくのにも苦労したようですが、ちゃんとそれらしく見えています。
まっすぐでわき目もふらない銀次と違って、親の圧力と雇い主との間で懊悩する蔵之介は森永悠希さん。早くから子役としてテレビに出ていたそうですが、わー!と注目したのは2007年の『しゃべれども しゃべれども』の落語小学生から。以来どんな役でもきちんと存在している彼を見つけるのが楽しみでした。
近江商人の「三方よし」は髙田郁(たかだかおる)さんの時代小説にも幾度も描かれています。「買い手よし、売り手よし、世間よし」の精神を、現代の社会でも持ち続けてほしいものです。自分だけ儲ければいい人々に天誅を!>冷静に、自分。(白)


2022年/日本/カラー/114分/シネマスコープ/5.1ch
配給:ラビットハウス 
公式サイト: https://oumishounin.com/ Twitter:@OumishouninFilm
★2022年12月30日(金)新宿ピカデリー他、お正月ロードショー.

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フラッグ・デイ 父を想う日(原題:Flag Day)

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監督:ショーン・ペン
原作:ジェニファー・ボーゲル
脚本:ジェズ・バターワース、ジョン=ヘンリー・バターワース
撮影:ダニー・モダー
音楽:ジョセフ・ヴィタレッリ
出演:ディラン・ペン(ジェニファー・ヴォーゲル)、ショーン・ペン(ジョン・ヴォーゲル)、ジョシュ・ブローリン(ベック)、ホッパー・ジャック・ペン(ニック・ヴォーゲル)、

1992年、アメリカ最大級の贋札事件の犯人ジョン・ヴォーゲルが裁判を前に逃亡した。事件を聞いた娘のジェニファーは、それでも「父が大好き」とつぶやく。ジョンの妻は早くからジョンの素顔を知り、家庭は崩壊していたが、娘のジェニファーにとって父は特別だった。思い出すのは父との楽しい思い出ばかり。

ジャーナリストのジェニファー・ヴォーゲルが書いた原作を映画化。大好きだった父が「犯罪者」だったという事実を知りますが、それでも父を想う気持ちは変わらなかったというストーリー。この父と娘、息子を演じるのが、こういう役がものすごく似合うショーン・ペンと、その実の娘ディラン・ペン、息子ホッパー・ジャック・ペン。ディランは母のロビン・ライト似、ホッパーは父似です。
外では犯罪者だけれども、家では優しいパパだったというのは今も昔もありそうです。また、その逆も。フラッグ・デイに生まれて、自分が特別に祝福されていると思い込んだ父、そうとしか生きられなかった父、大人になった娘は父の罪も含めて愛し、思い出を書き留めました。人を傷つけたり、殺めたりではないことが救いです。
第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品。(白)


父が刷った偽札が精巧な印刷と聞かされ、触ってみて「pretty」とつぶやくジェニファーの表情がなんともいいです。犯罪者であっても、娘にとっては大事な父。血のつながってない母にとっては、とんでもない悪党だとしても、娘の思いは違うでしょう。
それにしても、服役中に身に着けた印刷技術で偽札を作ってしまうとは! 
フラッグ・デイに生まれて、誕生日は毎年、国中の皆からお祝いされている気持ちだった父。私の母の誕生日は1月15日。かつては成人の日で、まさに皆がお祝いしてくれている気分と嬉しそうにしていたのを思い出します。誕生日が旗日(祝日)の人たちは、きっと皆、同じ思いで誕生日を過ごしているのではないでしょうか。 映画の中で、ここぞという場面でショパンのノクターンが流れてきたのも、なんとも切なかったです。(咲)


2021年/アメリカ/カラー/112分
配給:ショウゲート
(C)2021 VOCO Products, LLC
https://flagday.jp/
★2022年12月23日(金)より公開中

posted by shiraishi at 19:14| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年12月19日

猫たちのアパートメント   原題:Cats' Apartment

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(C)2020 MOT FILMS All rights reserved.

監督:チョン・ジェウン
出演:遁村(トゥンチョン)団地に暮らす猫たち、キム・ポド、イ・インギュ

韓国ソウル、解体が決まった遁村(トゥンチョン)団地
住民に見守られていた野良猫たちの運命は?
猫たちを通してみる社会の変化と、私たちの未来


1980年、ソウル市の南東の端に政府の大規模住宅供給政策の一環で18万坪の敷地に建てられた遁村(トゥンチョン)団地。143棟の10階建て以下の低い建物がゆったりと並び、緑豊かな地になっていた。それは、住む人たちにとっては快適な住環境だったが、再開発して高層階の建物を建てれば収益性が高いことから、再開発が決まってしまう。
2017年から、少しずつ住民の引越しや取り壊し工事が進む。 団地には住民に見守られて約250匹の猫たちも暮らしていた。地下に温水パイプが通り、冬を暖かく過ごすことが出来るここは、猫たちにとっても快適な場所だったのだ。
猫たちのこれからはどうなるのか? 団地に住むイラストレーターや作家、写真家などの女性たちが中心となって活動する<遁村トゥンチョン団地猫の幸せ移住計画クラブ>(略称<トゥンチョン猫の会>)が出来る。住民のさまざまな意見を聞く会を催し、猫たちの顔を見分けるために写真を撮り、イラストを描いてパンフレットを作る。猫たちを再開発地域から安全な場所に移住させる。そんなささやかな営みから、猫という存在を通して、私たちが暮らす街や社会の矛盾や変化、未来へのヒントが見えてくる・・・

<トゥンチョン猫の会>のメンバーは、『子猫をお願い』*(2001年)のチョン・ジェウン監督に、ぜひ団地と猫を記録して欲しいと切望。チョン・ジェウン監督は、猫たちの動きとともに、団地が消えていく過程に注目。2017年5月から、2019年11月までの間に、80回にわたり撮影。監督は、「クリエーターとしての明確な関心は、場所の歴史、場所を作る人たち、場所から排除された人たちの物語にあります。猫という動物、つまりこの街で決して恵まれているとは言えない立場の存在を通して、“団地の死”を別の角度から見て欲しいと思いました」と語っています。

*『子猫をお願い4K リマスター版』
公式サイト:https://konekowoonegai4k.com/
2022年12月17日(土)よりユーロスペース他にて全国順次ロードショー

映画の最後に、2021年末に撤去が完了した遁村団地の跡地が映し出されます。ここで過ごした人たちの思い出の風景が消えてしまったことを思い、切なくなりました。同じように、開発や災害などで、自分の原風景を無くした人が世界には大勢いることにも思いを馳せました。そして、ここで暮らしていた大勢の猫ちゃんたちは、結局、どこで暮らしているのでしょう・・・ 新たな地で、地域の人たちに可愛がられて過ごしていることを祈るばかりです。(咲)

韓国最大の遁村(トゥンチョン)団地、建設当時はアジア一とも言われていた団地だそう。その団地が取り壊されることになり、住民もどんどん引っ越しし、住んでいた猫250匹が取り残された。団地に住んでいた人が中心になり、取り残された猫たちのお引越しにチャレンジ。団地から人が引っ越していき、取り壊され、さら地になるまでの工程の映像が間に入り、その合間に猫たちの姿と、猫たちをなんとかしたい人間たちの、試行錯誤が描かれる。250匹もいた猫たちはどこに引っ越ししたのだろう。ほとんど引き取ってくれた人のところなのだろうか。それと同時に、この団地に住んでいたたくさんの人たちも、どのように引っ越ししていったのだろうかということも気になる。そして、徐々に団地の姿が変わっていく様子が映され、最後に建物が全部なくなった状態を見た時には、一つの街がなくなってしまったことに儚さを感じた。あんなにたくさんあった建物がひとつもなくなってしまった!!
それにしても猫たちのたくさんの表情と行動が面白い。猫たちは自由でいいなあ(暁)。


*地域猫のことを描いた映画*
『みんな生きている飼い主のいない猫と暮らして』
シネマジャーナル創設者の一人、泉悦子監督が製作した映画です。
公式サイト:http://www.sepia.dti.ne.jp/tess/cat/
Facebook: https://www.facebook.com/minaikicats (ここに、泉悦子の『猫たちのアパートメント』についてのコメントが掲載されています。

『猫が教えてくれたこと』ジェイダ・トルン監督インタビュー


第12回DMZ国際ドキュメンタリー映画祭Distribution Support Award
第4回平昌国際平和映画祭
第24回ソウル国際女性映画祭

2022年/韓国/韓国語/88分
配給:パンドラ
公式サイト:http://www.pan-dora.co.jp/catsapartment/
★2022年12月23日(金) 渋谷・ユーロスペース、ヒューマントラストシネマ有楽町にてロードショー、全国順次公開.



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2022年12月18日

餓鬼が笑う

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監督・脚本・編集:平波亘(ひらなみ・わたる)
企画・原案・共同脚本:大江戸康
撮影:伊集守忠
主題歌:eastern youth「今日も続いてゆく」(裸足の音楽社)
出演:田中俊介(大貫大)、山谷花純(佳奈)、片岡礼子(香純)、柳英里紗(妙)、川瀬陽太(大の父・俊夫)、川上なな実(如意輪)、田中泯(高島野十郎)、萩原聖人(鴨志田国男)

骨董屋を目指す大貫大(おおぬきだい)は、路上で古物を売って一人暮らしている。ある日、古書店ですれ違った女性に目を奪われた。夜学の講義にこっそり潜り込み、講師に追い出された大を追ってきたのは、昼間の女性、看護師をしながら夜学に通う佳奈だった。骨董屋の先輩・国男に誘われ、”本物の競り”を知る。骨董市場では札束が飛び交い、裏では密約が交わされる。国男を罵った大が一人帰り道をたどると、赤い月がのぼり、いつしかあの世に迷い込んでいた。

「人生はあの世に堕ちてからはじまった―現代によみがえる地獄巡り。幻想奇譚へようこそ」がキャッチのこの作品。あの世に堕ちたり地獄巡りはやだなぁと思いつつ、観始めました。主演は気になる田中俊介くん。走ったり殴られたり、誘惑されたり、連日たいへんな撮影だったのではないでしょうか。
企画・ 原案の大江戸康氏は実際に古美術商であり、映画のプロデュースもされる方。多くの監督の助監督をしてきた平波監督が手渡された最初の脚本は、5億も10億もかかりそうなものだったそうです。オリジナルの骨子を残しつつ予算を考えて改稿、大と佳奈のロマンスも加わってこの形になりました。
独りぼっちだった大が、佳奈に会って生きる力を得ていくのによしよし、美術さん衣装さんが心を砕いただろう仕事も拝見。欲が絡むと餓鬼道に続きますが、少女にビー玉を渡せる大なら広い明るい道を歩けるはず。
映画界を支える俳優さんたちが、平波監督の作品を応援するように集まっています。次の作品『サーチライト 遊星散歩』も待機中。
(白)


2021年/日本/カラー/105分
配給・宣伝:ブライトホース・フィルム、コギトワークス
(C)OOEDO FILMS
https://gaki-movie.com
★2022年12月24日(土)より新宿K's cinemaほか全国順次公開
posted by shiraishi at 12:44| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ベイウォーク

baywalk.jpg
ⒸUzo Muzo Production

監督・撮影・編集:粂田剛 (『なれのはて』)
音楽:高岡大祐
調音:宮崎花菜
調音監修:浦田和治

『なれのはて』で描けなかったマニラの日本人二人の末路

日本から海外に飛び出した人たちの“その後”に興味を持ち、2012 年から 2019 年の間、カメラを持って 20 回ほどフィリピンを訪れ、多くの日本人を追った粂田剛監督。前作『なれのはて』で、4人の男性がマニラで困窮の中で人生の終焉を迎えようとする姿を描いた。継続的に取材させてくれたのは7人。前作で登場させることができなかった方たちに申し訳ない思いを抱えていた粂田剛監督が放つ第二弾。

「世界三大夕日の名所」の一つと言われるマニラ。そんなマニラ市民の憩いの場が、海沿いに整備された遊歩道ベイウォーク。ここは、夜になるとホームレスたちの寝場所になる。その中にひとりの日本人がいた。赤塚崇(タカシ)さん 58 歳。裏稼業で幅を利かせた生活をしていたもののフィリピンで騙されて一文無しに。日中は露店のタバコ売りの手伝い、夜はベイウォークで路上生活をしている。フィリピン人に助けられてばかりの毎日で、フィリピンの人に足を向けて寝られないという。
一方、ベイウォークにほど近い高層アパートメントに入居した関谷正美さん 62 歳。日本で年金生活を送るよりも、物価が安く、「呑む・打つ・買う」が歩いてできるマニラに移住を決めた。死ぬまでここで暮らそうと、ベランダから海を望む部屋に、お金をかけてリフォームもした。だが、フィリピン人をなかなか信用できない彼は、何をやってもうまくいかない。そのうちに、部屋に閉じこもってしまうようになる・・・

「ベッドでゆっくり寝たい」とつぶやくタカシさん。ベイオークのコンクリの上に薄いアルミシートを敷いて寝るのは、老体にはかなりこたえそうです。そんなタカシさんの隣で寝るフィリピンの島から出てきたドミニクさん。まだ40歳前位。土地を売ったお金で事業を始めるつもりだったのに、マニラに来て2日間で約200万円をカジノで失ってしまったのです。堅実に使えばいいのに、こうした一獲千金を夢見る男性はどこの国にもいるのですねぇ。島に帰る交通費を無心され、4000円を渡す粂田監督。
一方、年金生活で一応お金はある関谷さんですが、「日本にいた方がよかった気がする。フィリピンはストレスがたまる」と、マニラに来てしまったことを後悔しています。何度か旅行で来たことがあって、ここならと決めたようですが、旅で数日過ごすのと、腰を据えて暮らすのとでは違うことを、もっと熟考するべきだったでしょう。
さて、私はどこで人生の最後を過ごそうかしら・・・ 映画を観終わって、そんなことを考えてしまいました。(咲)


前作『なれのはて』を観た時、「ああ、こうして異国で生涯を送った人たちがいるのだなあ」と思ったけど、粂田剛監督は、もっとたくさんの人を取材していた。一時期、日本での年金生活はお金がかかるからアジアで晩年をというのがブームとまでいかなくても、そういう生き方もあるという風に言われたこともあったけど、やはり、日本から離れて、あるいは逃れてフィリピンで暮らしたとしても、そううまくはいかないものだなあと思った。もっとも最初の映画のタイトルが『なれのはて』となっているように、流れ流れてフィリピンにたどり着いた人たちかもしれないけど。それにしても男の人ばかり。私自身も、今住んでいるアパートが老朽化し、引っ越ししなくてはならなくなり、今、引っ越し先を探しているのだけど、70歳以上での住むところ探しはなかなか厳しい。私自身のなれのはてはどうなるだろうという思いで観ていた。他人事ではない(暁)。

2022 年/日本/DCP/カラー/90分
製作:有象無象プロダクション
配給・宣伝:ブライトホース・フィルム
公式サイト https://atbaywalk.com/
★2022年12 月24 日(土)新宿 K’s cinema ほかにて全国順次公開
posted by sakiko at 00:52| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年12月17日

ジャパニーズ スタイル Japanese Style

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監督:アベラヒデノブ
企画:アベラヒデノブ、吉村界人、武田梨奈
脚本:アベラヒデノブ、敦賀零
撮影:栗田東治郎
出演:吉村界人、武田梨奈、三浦貴大、日高七海、佐藤玲、フェルナンデス直行、田中佐季、布施勇弥、みやび、長村航希、山崎潤

大晦日。アメリカ留学中だった妻が死んだ。 絵描きの男は、新年までに「死んだ妻の“肖像画”」を完成させなくてはならないが、「生きた“瞳”」をどうしても描けない。そんな時空港で、妻に似た女・リンと運命的な出逢いを果たす。彼女もまた、新年までに“終わらせたい”ことを抱えていた。ふたりはタイの三輪タクシー(トゥクトゥク)に惹きつけられて乗り込み、“終わらせる”ための旅に出る!

年末が近づくと、今年のうちに済ませておきたかったこと、けじめをつけたいことがいくつも浮かんできます。年末年始はカレンダーが変わるだけでなく、何か特別な区切りを感じます。この作品もやり残したことを今年中に”終わらせたい”二人が、ジタバタする大晦日のお話。吉村界人さん、武田梨奈さんは初共演ですが、微妙な距離感の二人を演じてこの先どうなるの?と興味をひき続けます。中にちゃぶ台を星一徹(「巨人の星」の頑固な父)ばりにひっくり返す場面があります。昔アニメを見ていて明子姉さんを気の毒に思っていたのを思い出しました。片付け役のスタッフさんご苦労様です。
「Japanese Style【ジャパニーズスタイル】は英語で「袋とじ」という意味だそうです。トゥクトゥクでの旅の途中で、二人が互いに隠していた「袋とじ」も暴かれていくのですが、それは何?それぞれの”終わらせたい”ことはどうなるのでしょう? 
タイムリミットは年越しの カウントダウン!(白)


★企画・主演の吉村界人さん、武田梨奈さんにお話を伺いました。こちらです。

2020年/日本/カラー/93分
配給:スタジオねこ
(C)2020 映画「ジャパニーズスタイル」製作委員会
https://www.japanese-style-movie.com/
★2022年12月23日(金)よりユーロスペース、シネマ・ロサほか全国順次公開
☆入場者皆様に劇場パンフレットをプレゼント


posted by shiraishi at 18:05| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

真・事故物件パート2 全滅

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監督:佐々木勝己
脚本:佐々木勝己、久保寺晃一
撮影:島大和
音楽:中村修人
出演:窪田彩乃、小野健斗、海老野心、ヨウジヤマダ

事故物件を舞台にした恋愛リアリティショーを撮影するため、キャストとスタッフが、ある古い家に集合した。撮影は進まず、トラブル頻発、想像を絶する殺戮のバトルロワイヤルの場と化していく。


2022年2月に全国公開されたサイゾー映画プロジェクト第1弾『真・事故物件/本当に怖い住民たち』がヒットしたことから第2弾の本作は予算倍増なったそうです。「摂理と倫理をかなぐり捨て、制御不能の大暴走!スケールアップさせた異次元のスペクタクル・バイオレンス・スプラッター」
という宣伝文句を見て、うう、どうしようと悩みました。実はホラーもスプラッターも苦手で、子供のときから怪談も聞けない、見られない怖がりだからです。第1弾の試写を見逃し、第2弾は見てみようかな、と思ったらスケールアップしているとは!
公開ぎりぎりまで先送りして、やっと観て衝撃でぐったり。ストーリーがどんなのだったか飛んでいってしまいました。
制作およびファンの皆様。これは褒めていることになります。どこまでやれるかスタッフとキャストの方々がつぎ込んだ熱気が満ち満ちています。たっぷりの血と内臓もあります。バイオレンスホラー、ゴア映画が得意な方、どうぞ。(白)


2022年/日本/カラー/DCP/75分/R18+
配給:エクストリーム
(C)2022 REMOWhttps://shin-jiko.com/
https://shin-jiko.com/
★2022年12月23日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 18:00| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

戦慄のリンク(原題:網路凶鈴 The Perilous Internet Ring)

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監督:鶴田法男
原作:マ・ボヨン「她死在QQ上」
脚本:ヤン・ヤン
撮影:神田創
音楽:小畑貴裕
出演:スン・イハン(ジョウ・シャオノア)、フー・モンポー(マー・ミン)、チャン・チン(ジャン・チォン)、ワン・マンティ(スー・シャオジン)、ニー・ムーシー(タン・ジン)、チャン・ユンイン(ショウ・ナ)、ハン・チウチ(ダイ・ユンツォン)、ワン・ツーイー(シア・ウェイイー)、ジョウ・ハオトン(トン教授)、シャオ・ハン(リー隊長)

大学3年生のジョウ・シャオノアは、深夜に従姉のタン・ジンからの電話を受ける。小説家志望のタン・ジンは、あるネット小説を読んで怖くなり、シャオノアに電話したのだった。シャオノアは遅い時間なので行けず、翌日トン教授の心理学の授業で会う約束をした。時間になっても現れないタン・ジンが気になり、彼女の家に向かうが、タン・ジンはすでに死んでいた。
公安警察のリー隊長から、検視では自殺の可能性が高いと言われたシャオノアだったが、タン・ジンは自殺などしないと否定する。犯罪心理学に詳しい記者志望のマー・ミンに相談し、タン・ジンのパソコンを調べることにした。そこでタン・シンがショウ・ナという女性とチャットしていたことと、貼られていたリンクを発見する。リンク先は「残星楼」という小説で、読み始めたシャオノアは自分の名前を呼ぶ声や、人の気配を感じるようになる。

Jホラーの先駆者、Jホラーの父こと鶴田監督が、中国の映画会社に乞われてメガホンをとった作品。中国のスン・イハン(孫伊涵)と台湾のフー・モンポー(傳孟柏)、若手俳優が主演、ネット小説でつながった男女が次々と不可解な死をとげる謎を追跡します。
中国では、幽霊の存在自体認められていないそうなので、ストーリーと映像に工夫が必要だったようです。シャオノアが見る長い髪の女性は、中国にも知られている「貞子」のスタイルになったのだとか。鶴田監督が気心の知れた日本のスタッフを揃えて臨んだ撮影現場は、勝手の違うことの連続だったそうです。現場での初めての体験の数々は、双方に影響を与えて作品に反映されたのではないでしょうか。
エンターテイメントの需要が大きく、発展も著しい中国でこういう交流が多くあると風通しもよくなるはず。(白)


2020年/中国/カラー/96分
配給・宣伝:フリーマン・オフィス
(C)伊梨大盛傳奇影業有限公司
https://senritsu-link.com/
★2022年12月23日(金)より新宿シネマカリテにてロードショー

posted by shiraishi at 17:55| Comment(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

死を告げる女(原題:The Anchor)

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監督・脚本:チョン・ジヨン
撮影:カン・ミンウ
編集:チョン・ビョンジン
音楽:チャン・ヨンギュ
出演:チョン・ウヒ(セラ)、シン・ハギュン(イノ)、イ・ヘヨン(ソジョン)

生放送5分前、テレビ局の看板キャスター・セラのもとに名指しで「殺される」とおびえた声の電話がかかってくる。ミソという情報提供者は「死んだらあなたに報道してほしい」と訴え、同僚の言うように、よくあるいたずら電話として片づけられない。母ソジョンは「スクープを掴むチャンス」だとセラの背中を押す。ミソの自宅に向かうと、彼女とその娘は予告通りすでに亡くなっており、セラは遺体の第一発見者となった。その日以来、事件のことが忘れられないセラは一人取材を続け、事件現場でミソの主治医だった精神科医イノに出会う。不可解な彼に対する疑いが深くなっていくのだが…。

不穏な予告電話で幕をあけるこの作品は、キャリアウーマンのお仕事物語だけではなく、サスペンス、スリラー、家族の愛憎も加わって、思いがけない道筋をたどります。
チョン・ウヒは2004年に端役で映画デビュー。『ハン・ゴンジュ 17歳の涙』(2013)で青龍映画賞はじめ数々の受賞、主演級の女優となりました。昨年公開の『雨とあなたの物語』ではカン・ハヌルと共演、作品ごとに新しい顔を見せてくれます。そして母役のイ・ヘヨンも受賞歴多数『あなたの顔の前に』で、主役の元女優役でした。この娘と母の葛藤にもご注目。
久しぶりのシン・ハギュン、好青年の役が多かったので『エクストリーム・ジョブ』(2019)での犯罪組織のボス役に、ずいぶんイメージが変わったと驚いたのですが、演技も深まる40代後半でした。事件に関わる要の人物です。渋いなぁ。(白)


スリラーは苦手で、『死を告げる女』というタイトルからして、怖そうで嫌だなと思ったのですが、シン・ハギュンが出演しているとあっては、やっぱり気になると観てみました。イ・ヘヨンとチョン・ウヒが母と娘を演じているのも渋いと思いました。それぞれの人物の心理描写が細やかで、かつてキャリアを捨てざるをえなかった母の思い、看板キャスターをおろされることになった娘の思いが、ぐいぐいと伝わってきました。
チョン・ジヨン監督という男性の監督がいるので、てっきりその方かと思ったら、本作の監督は女性のチョン・ジヨン。監督は女性だったのだと納得の心理描写でした。チョン・ジヨン監督は、1984年6月20日生まれ。2008年の短編『春に咲く』がベルリン国際映画祭で上映されるなど 国内外から高評価を受けていて、本作が長編第一作。今後の作品が気になります。できれば、スリラーでない作品をお願いしたいところです。(咲)



2022年/韓国/カラー/ビスタ/111分
配給:クロックワークス
(C)2020 ACEMAKER MOVIEWORKS & INSIGHT FILM All Rights Reserved.
https://klockworx-asia.com/anchor/
★2022年12月23日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 17:49| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

Never Goin' Back ネバー・ゴーイン・バック(原題:Never Goin’ Back)

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監督・脚本:オーガスティン・フリッゼル
出演:マイア・ミッチェル(アンジェラ)、カミラ・モローネ(ジェシー)、カイル・ムーニー(ブランドン)、ジョエル・アレン(ダスティン)、ケンダル・スミス、マシュー・ホルコム、アティーナ・フリッツェル

テキサスでルームシェアをして暮らすアンジェラとジェシーの二人。高校を中退して、ダイナーで働いているが生活費はかつかつ。そんな中でも、アンジェラはジェシーの17歳の誕生日をリゾートビーチで祝いたい。家賃も払わねばならず、ダイナーのバイトを増やすが、強盗に入られてしまう。悪いことに警察官に夕べ楽しんだドラッグが見つかり、留置場に入れられてしまった。マネージャーに電話もできず、無理を言ったバイトにもいけない。やっと出られた二人は、汗臭い制服を洗おうと友達の洗濯機を借りることにした。ちょっと覗いたパーティで、またまた厄介なことになる・・・。

A24が送り出したオーガスティン・フリッゼル監督の初の長編作品。監督本人の青春時代を、濃いユーモアの味付けで映画化しました。映画の二人は16、17歳ですが、フリッゼル監督は、実際に15歳で両親にほぼ捨てられて、友人と苦しい生活を送ってきたそうです。映画を観ながら、ハチャメチャなこの子たちの親は?と疑問だったのですが、そういうことだったんですね。未成年なのに、手を差し伸べる大人はいなかったのでしょうか?
ダイナーのマネージャーも心配してくれますが「仏の顔も三度」、言い訳も使い果たしました。洗濯くらい手でしなさいね。ちょっとおバカだけれど(兄たちはもっとおバカ)めげない二人、友情だけは確かです。お互いにいてくれてよかった、この先も仲良くね、と思わずにいられません。演じる二人がとても可愛いです。
暗黒の青春時代をパワフルなコメディに上書きした、フリッゼル監督の新作の一般公開を期待(長編2作目はNetflixで配信されている『愛しい人から最後の手紙』)。(白)


アンジェラとジェシーの二人の日々は、おバカ度120%で、呆れるばかり。でも、それも若いからこそ。ダイナーのマネージャーは二人をクビにしながらも、「君たちが底抜けに明るいのが自分の救いだった」と告げます。「僕みたいになるな。人生を楽しめ」とも。自主規制して、思う存分青春を謳歌しなかったのでしょうね。人にどう思われようと、自分らしく生きて、楽しむのが一番! 家賃を払えないかもしれないけれど、親友の誕生日を海辺のホテルで祝いたいという気持ちがいじらしいです。 それにしても、こんな作品も、A24は放つのかと驚かされました。アメリカ南部の白人の貧困層を描いているけれど、社会派的なメッセージを込めることもなく、あっけんからんとしているところが、A24らしいのかも。(咲)

2018年/アメリカ/カラー/シネスコ/86分
配給:REGENTS
(C)2018Muffed Up LLC. All Rights Reserved.
https://nevergoinback.jp/
★2022年12月16日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 17:43| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

〈特集上映〉 ピエール・エテックス レトロスペクティブ

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ピエール・エテックスって誰?
長らく観ることの叶わなかった
フレンチコメディの傑作が一挙公開!


公式サイト:http://www.zaziefilms.com/etaix/
配給:ザジフィルムズ 協力:シネマクガフィン
★2022年12月24日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開!


ピエール・エテックス Pierre Étaix
1928年11月23日 フランス中部ロワール県ロアンヌ生まれ
2016年10月14日逝去 享年87歳
映画監督・俳優・道化師・手品師・イラストレーター・作家・音楽家

幼少の頃から、チャールズ・チャップリン、バスター・キートン、ハロルド・ロイド、ローレル&ハーディ、マックス・ランデーの喜劇映画や、ロアンヌにやってきたサーカスに夢中になる。ロム、ダリオ=バリオ、ピポなどのクラウン(道化師)に憧れ、ピアノ、アコーディオン、ヴァイオリン、トランペット、マンドリンなどの楽器を習得し、体操やダンスも習う。16歳の頃から地元のレビューなどで、 パントマイムやイリュージョン、クラウンなどの芸を磨く。また、ステンドグラス作家のテオドール・ジェラール・ハンセンに師事し絵やデザインの素養も身につける。

パリに出て艶笑雑誌「Le Rire」や「Fou-Rire」のイラストレーターとして身を立てる。
1954年、ジャック・タチと運命的に出会い、タチの『ぼくの伯父さん』のための製図家、アシスタントとして雇われる。『ぼくの伯父さんの休暇』と『ぼくの伯父さん』の小説版の執筆を請け負ったジャン=クロード・カリエールと出会い、意気投合し、生涯の友となる。
二人は自主制作で8ミリ映画を作る。プロデューサーのポール・クロードンの目に留まり、エテックス監督、カリエール脚本のコンビで、1961年から7 年の間に、タチの流れを汲む、台詞に頼らない、視覚的・音響的ギャグを駆使した、3本の短編映画『破局』『幸福な結婚記念日』『絶好調』、4本の長編映画『恋する男』『ヨーヨー』『健康でさえあれば』『大恋愛』、計7本の独自のスタイルの喜劇映画を制作した。
★今回の特集で、この長編4作品と短編3作品を一挙公開。『恋する男』を除く 6 作品が、 日本では劇場正式初公開。

その後、エテックスは、サーカスの世界で、名門メドラーノの道化師ニノとのコンビで活躍するようになる。『大恋愛』で共演した、サーカスの名門フラテリーニ一座の血を引く歌手のアニー・フラテリーニと結婚。二人でクラウンのコンビを組むだけでなく、1974年には、国立サーカス学校(後に、アカデミー・フラテリーニと改名)を開校した。
エテックスは映画俳優としても活躍。手先の器用さを買われ、ロベール・ブレッソンの『スリ』やルイ・マルの『パリの大泥棒』ではスリの役。フェデリコ・フェリーニの『道化師』では、妻や、尊敬していたシャルリー・リヴェルらとともに現役のクラウンとして実名で出演。タチやエテックスのファンだったオタール・イオセリアーニの『ここに幸あり』や『皆さま、ごきげんよう』、大島渚の『マックス、モン・アムール』、アキ・カウリスマキの『ル・アーヴルの靴みがき』などの映画にも出演している。

エテックス自身が監督した作品は、フランスの法律上の問題により、シネマテークなどを除いて長く劇場で上映されていなかったが、ジャン=リュック・ゴダール、ジャック・リヴェット、レオス・カラックス、ミシェル・ゴンドリー、デヴィッド・リンチなどの署名活動により、2010年に裁判で勝訴し、すべての権利を取り戻した。エテックス監修のもとデジタル修復を施され、世界各国で再び上映することが可能となり、この10年でエテックスの再評価は格段に進んでいる。


【上映作品】

*長編*
◆『恋する男』 原題:LE SOUPIRANT
※日本初公開時の邦題:『女はコワイです』(1963年東和配給)
監督・脚本・主演:ピエール・エテックス 
脚本:ジャン=クロード・カリエール
1962年/フランス/モノクロ/ヨーロッパ・ヴィスタ/ モノラル/ 84分
字幕:井村千瑞
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©1962 - CAPAC
ブルジョワの出自ながら、天文学の研究に没頭して引きこもりの三十男。ある日両親に結婚を命じられ、伴侶となる女性を探しに街に繰り出すが、トホホな出来事の連続。最後に自宅に下宿していたカタコトのフランス語しか話せないスウェーデン人の女性に求婚するという「結婚」をキーワードにした コメディ。
1963年 ルイ・デリュック賞 受賞


◆『ヨーヨー』 原題:YOYO
監督・脚本・主演:ピエール・エテックス 
脚本:ジャン=クロード・カリエール
1964年/フランス/モノクロ/ヨーロッパ・ヴィスタ/モノラル/ 98分
字幕:神谷直希
yoyo.jpg
©1965 - CAPAC
1965年 カンヌ国際映画祭 青少年向最優秀映画賞 受賞
1965年 ヴェネチア国際映画祭 国際カトリック映画事務局賞 受賞

大きな城に暮らす大富豪の男。1929年の世界恐慌で破産し、かつて愛したサーカスの曲馬師の女性と再会し、その間にできていたことを知らなかった息子と三人で、城を捨てどさ回りの旅に出る。それは彼がかつて味わったことのない満ち足りた日々だった。サーカス界で成功をおさめた息子はヨーヨーという人気クラウンになる。第二次世界大戦が終わり、ヨーヨーはかつて父が所有していた城を取り戻そうとする…

額縁の中から、ヨーヨーをしながら出てくる男。虎やライオンの皮が敷かれた大邸宅。数人の執事が食事の世話をしたり、本を読み聞かせたりと贅沢だけど、どこか孤独な感じもします。破産して、サーカスの一団として息子と共に暮らす彼は幸せそう。
エテックスが小さい頃から好きだったサーカスの世界をテーマにした映画。当時のエテックスは父親を亡くしたばかりで、父と息子の絆を描いた作品を作りたいという気持ちもあったそうです。前半、破産するまでは、無声映画時代を思わせる作り。音響はついていますが、セリフは文字で出てきます。後半はトーキー。時代の流れを感じさせてくれます。
圧巻は、ラストに出てくる象。取り戻したお城の披露パーティに現れるのですから、びっくり。(咲)



◆『健康でさえあれば』 原題:TANT QU’ON A LA SANTÉ
監督・脚本・主演:ピエール・エテックス 
脚本:ジャン=クロード・カリエール
1965年/フランス/パートカラー/ヨーロッパ・ヴィスタ/モノラル/67分
字幕:横井和子
kenkoo.jpg
©1973 - CAPAC – Les Films de la Colombe
なかなか寝付けない男の一夜を描いた〈不眠症〉、映画館にいたはずが、幕間に流れるCMのおかしな世界へ入り込んでしまう〈シネマトグラフ〉、近代化が進む都市で人々が受ける弊害をシュールに描いた〈健康でさえあれば〉、都会の夫婦・下手くそハンター・偏屈な農夫が織りなす田園バーレスク〈もう森へなんか行かない〉の4編からなるオムニバス・コメディ。1966年にフランスで公開されたが、71年にエテックス自身によって再編集が施され、現バージョンに生まれ変わった。


◆『大恋愛』 原題:LE GRAND AMOUR
監督・脚本・主演:ピエール・エテックス 
脚本:ジャン=クロード・カリエール
1968年/フランス/カラー/ヨーロッパ・ヴィスタ/モノラル/ 87分
字幕:寺尾次郎
dairenai.jpg
©1968 - CAPAC
1969年 フランスシネマ大賞 受賞
1969年 カンヌ国際映画祭 国際カトリック映画事務局賞 受賞

工場を営む実業家の一人娘フロランスと結婚したピエール。義父から仕事を任され、夫婦仲も良好だけど、どこか満たされない退屈な日々。そんなある日、引退するベテラン秘書の後任に若く美しいアニエスが入社してきて、気もそぞろになる。隣で妻が寝ているのに、妄想がエスカレートして、若い彼女と寝ているベッドが、車のように走り出す・・・

冒頭、ロワール川沿いにあるトゥールの街が映し出され、カメラは、ひと際大きい教会の中へ。結婚式が行われようとしていて、新婦フロランスを演じているのは、のちにエテックスの妻となるアニー・フラテリーニ。新婦の顔を見ながら、今、隣にいるのはフロランスでなくてもよかったはず・・・と、過去に付き合った彼女たちのことを思い出すピエール。これはお互いさまかも。
結婚して10年が経ち、町の噂好きの老婦人たちは、女性とすれ違って挨拶しただけのピエールのことを、浮気していると言いふらし、そのことがフロランスの母親の耳にも届きます。当然、娘に告げる母。一度は実家に帰る妻も、戻ってきてくれるのですが、ピエールの若い秘書への妄想はさらに膨らみます。悪友が若い秘書を落とす術をアドバイス。まったく男って! 
いつもカフェで、まだ飲んでない飲み物を、ほかのことに気を取られている老いたギャルソンに持っていかれてしまう老紳士や、噂話をする老婦人たちなど、脇役の人たちもピリリと印象に残りました。(咲)



*短編*
◆『破局』原題:RUPTURE
監督・脚本:ピエール・エテックス、ジャン=クロード・カリエール
1961年/フランス/モノクロ/スタンダード/モノラル/12分
字幕:横井和子
hakyoku.jpg
©1961 – CAPAC
恋人から手紙を受け取った男。中には破かれた自分の写真が同封されていた!こちらも負けじと別れの手紙を書こうと奮闘するが、万年筆、インク、便箋、切手、デスク… なぜか翻弄されてどうしても返事を書くことができない。ジャック・タチの縁で出会ったエテックス×カリエールによる初の短編作。セリフがなく、音を使ったギャグが冴える秀作。


◆『幸福な結婚記念日』 原題:HEUREUX ANNIVERSAIRE
監督・脚本:ピエール・エテックス、ジャン=クロード・カリエール
1961年/フランス/モノクロ/スタンダード/モノラル/13分
字幕:井村千瑞
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©1961 – CAPAC
1963年 アカデミー賞 最優秀短編実写映画賞 受賞
1963年 英国アカデミー賞 最優秀短編映画賞 受賞

テーブルに結婚記念日のディナーのセッティングをする妻。夫はプレゼントを抱えて駐車していた車に乗るが、前の車が邪魔になって出られない。クラクションを鳴らすと理髪中の客が出てきて車を動かしてくれる。今度は花束を買って車に戻ると、タクシーと間違えた老紳士が乗っている。なんとか追い出し、家路を急ぐが、パリの街は大渋滞・・・ 

13分の作品なのに、たっぷり長編を一本観たような充実感! 理髪中の男性や、タクシーになかなか乗れない老紳士など、この短編でも脇の人たちの末路がちゃんと描かれていて笑わせてくれました。やっとの思いで家にたどり着いた夫が目にしたのは・・・?
エテックス×カリエールのエッセンスがびっしり詰まった傑作です。(咲)


◆『絶好調』 原題:EN PLEINE FORM
監督・脚本・主演:ピエール・エテックス 
脚本:ジャン=クロード・カリエール
1965年/フランス/モノクロ/ヨーロッパ・ヴィスタ/モノラル/14分
字幕:横井和子
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©1971 - CAPAC
田舎でソロキャンプをする青年。しかし、警官に管理の行き届いたキャンプ場に行くように言われてしまう。そこは有刺鉄線で囲われた、まるで強制収容所(キャンプ)で…。
当初は『健康でさえあれば』(65)の一部を成していたが、71年の再編集で外された。2010年にデジタル修復された際に、ほかの作品とともに公開され、短編として生まれ変わった。




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2022年12月11日

チーム・ジンバブエのソムリエたち 原題:Blind Ambition

2022年12月16日(金)~よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー! その他の劇場情報 

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©2020 Third Man Films Pty Ltd


監督・製作:ワーウィック・ロス、ロバート・コー
製作総指揮:ロス・グラント、ニール・ハーベイ、エイドリアン・マッケンジー、キャメロン・オライリー、マデリーン・ロス、ポール・ウィーガンド、ジョージ・ハミルトン、イザベル・スチュアート
脚本:ワーウィック・ロス、ロバート・コー、ポール・マーフィ、マデリーン・ロス
撮影:スコット・ムンロ、マーティン・マクグラス
編集:ポール・マーフィ
音楽:ヘレナ・チャイカ
出演:ジョゼフ、ティナシェ、パードン、マールヴィン

ワインのない国からやってきた難民たちが、世界最高峰のブラインドテイスティング大会に挑む

“ワイン真空地帯”のジンバブエ共和国から南アフリカに難民として逃れ、ソムリエとなり「世界ブラインドワインテイスティング選手権」に挑戦する姿を追った。南アフリカのレストランで働くジンバブエから来た彼らは、ソムリエになった。この大会に挑戦する南アフリカチームの4人を選ぶ大会で、上位にジンバブエ出身のジョゼフ、ティナシェ、パードン、マールヴィンの4人が入り、南アフリカの選抜者は、ジンバブエチームを作った。
“チーム・ジンバブエ”を迎え撃つのは、“神の舌を持つ”23カ国の一流ソムリエたち。先進国の白人が多数を占める世界に、故郷ジンバブエの威信をかけて乗り込んだ4人は、クラウドファンディングの支援を受けてワインの聖地フランスのブルゴーニュにたどり着いたものの、限られた経費で雇ったコーチは久し振りの晴れ舞台で大暴走。“チーム・ジンバブエ”の波乱に満ちたスリリングなワインバトルの結末はいかに!?

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©2020 Third Man Films Pty Ltd

公式HPより
私たちは、彼らの旅路と原動力をもっと知りたくなりました。そして、それは難民の暮らしや、彼らが新たな社会で直面する問題、そして生まれた国から追い出された人々にとって「家(ホーム)」とは何かということに光を当てる物語を作るチャンスでもあったのです。彼らのストーリーは、文化や人種の壁を取り除き、橋渡しをするための、より深い探求に繋がるのだと強く感じました。
彼らが南アフリカで認められ成功することが出来たのは、自分自身と家族のために、より良い暮らしを実現しようという、非常に強いポジティブ思考の賜物。そして、彼らのジンバブエへの強い愛にも心動かされました。選手権出場を通して、母国ジンバブエの未知なる可能性を世界に示すことが出来たし、そしてこのスポットライトで、抑圧的な政権の下で生きてきたジンバブエの若者たちに勇気を与えたい、と彼らは強く願っていました。この映画は単なる大会への挑戦だけでなく、希望と変革の物語なのです。難民の暮らしや、新たな社会で直面する様々な問題。生まれた国から追い出された人々にとって「家(ホーム)」とは何かということに光を当てるチャンスに巡り合った。
『世界一美しいボルドーの秘密』の監督ワーウィック・ロスと製作総指揮ロバート・コーが共同監督を務め、チーム・ジンバブエのワイナリーツアーの様子や選手権の舞台裏に密着。トライベッカ映画祭とシドニー映画祭で観客賞を受賞。
トップソムリエが火花を散らす選手権会場にカメラが潜入し、大会への挑戦を描く。

ジンバブエは、ワインの生産も消費もほとんどない国。残忍なロバート・ムガベの政権から逃れるまで、ワインを味わったこともなかった4人は、ケープタウンの4大レストランのヘッドソムリエになった。
4人の明るいキャラクターは、ドキュメンタリーなのに笑いあり涙ありでエンターティメント色、大。彼らのジンバブエへの強い愛も描かれ、選手権出場を通して、母国ジンバブエの抑圧的な政権の下で生きている若者たちに勇気を与えられたらと彼らは願う。貧困、難民など、今日的な問いを投げ掛ける社会派作品でもある。
今年は11月、12月に日本、フランス、レバノン、そしてこの南アフリカとジンバブエ、フランスを舞台にしたドキュメンタリーと、5本ものワイン映画が公開されている。ワインに人生をかけている人々の姿が描かれ、伝統の継承や、新しいことへの挑戦のすばらしさを描きつつ、気候変動、戦争、貧困の問題をも観る人に問いかける。ワインを通じて世界のワイン文化を楽しみ、考えてみませんか(暁)。


ジンバブエと聞いて思い浮かんだのは、かつて南ローデシアと呼ばれていたアフリカ大陸南部の国であることと、大きなヴィクトリアの滝があることくらいでした。 『チーム・ジンバブエのソムリエたち』というタイトルを見て、え?ソムリエ?と、ぐっと興味を惹かれました。ジンバブエとソムリエがあまりにもかけ離れたものに感じたからです。
冒頭、「クムシャ」という言葉が、ショナ語で“ルーツ”や“故郷”という意味だけど、単なる場所じゃない、祖先の魂が宿んでいる心のよりどころと出てきました。ショナ語という言語があることを初めて知りました。ジンバブエ共和国の公用語の一つで、国の70%以上を占めるショナ族の言葉とのこと。
チーム・ジンバブエの4人のソムリエは、それぞれが大変な思いをして南アフリカに逃れてきた難民。ジョゼフは密入国業者にお金を払ったものの貨物列車に詰め込まれ蒸し焼き状態に。死を覚悟しましたが運よく南アフリカに。1995年以降、300万人以上のジンバブエの人たちが難民として出国しているそうです。国境で警官に撃たれたり、ワニに食われて命を落とす危険もあるのに! そういえばムガベ大統領という独裁者がいたという程度の記憶でしたので、本作を通じて、ジンバブエの独立後の状況の一端を知ることができました。
ワインを知らなかった4人が、南アフリカでソムリエとなり、旅費をクラウドファンディングで集めて、ワインテイスティング選手権に挑む姿に、夢を持てば叶うと勇気づけられました。そして何より、4人の故国ジンバブエへの愛と誇りに感銘を受けました。(咲)


『チーム・ジンバブエのソムリエたち』公式HP
日本語字幕:横井和子
2021年製作/ビスタ/5.1ch/96分
オーストラリア/英語・ショナ語・仏語
後援:ジンバブエ共和国大使館、一般社団法人日本ソムリエ協会
提供:ニューセレクト 配給:アルバトロス・フィルム

*参照 シネマジャーナルHP スタッフ日記
「11月、12月にワイン映画が5本も公開!」
http://cinemajournal.seesaa.net/article/494033795.html

今年、5本ものワイン映画を観て、ワインに興味を持ち、さっそく12月初めに3、4か所のワイナリーやワイン関係施設を訪ねてみました。そのレポートをまたスタッフ日記にも書きたいと思います。



posted by akemi at 21:05| Comment(0) | オーストラリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

戦場記者

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(C)TBSテレビ

監督:須賀川拓
撮影:寺島尚彦 宮田雄斗 渡辺琢也 市川正峻 
協力ディレクター:小松原茂幸
編集:牧之瀬勇人 泉妻康周 
MA:深澤慎也 
選曲・サウンドデザイン:御園雅也
企画・エグゼクティブプロデューサー:大久保竜  
チーフプロデューサー:松原由昌  
プロデューサー:津村有紀
TBS DOCS事務局:富岡裕一  
協力プロデューサー:石山成人 塩沢葉子

TBSテレビ特派員としてロンドンに着任して以来、パレスチナ、アフガニスタン、ウクライナ等々、世界各地の戦地に飛び、徹底的な取材をし続ける“戦場記者”須賀川拓。
本作は、情報が氾濫する中で埋もれてしまいがちな戦地の真実を伝え続けたい須賀川の思いを集約した一作。

TBSロンドン。テーブルの一角が中東支局。局員は支局長である須賀川一人。
最初に取材に行ったのがガザ。その後も通い続け、取材はガザが一番多い。
紛争が長く続いていて、ニュースは消費されて忘れられてしまう。
半分意地でやっていると語る。
ガザの人たちは、メディアに答えることで忘れられないようにと必死で語ってくれる。
それにちゃんと応えて報道しなければと胸に刻む。

ガザ。瓦礫の山で遊ぶ子供たち。
ハマスをこの辺りで見たことがないと語る住民
空爆で妻と4人の子を亡くした男性。
子供たちは勉強していただけなのにと教科書を見せる。

イスラエルのドローン。監視するだけでなく攻撃にも使われている。
イスラエル軍、国際広報部のアムノン・シュフラー。
「テロリスト対策で高い道徳観念とプロフェッショナル意識のもと、巻き添え被害を最小限に抑えることを目標にしています」と語るが、実際には、テロリストに逃げられないよう警告なしに攻撃することも多い。
イスラエル軍と目撃者の証言が一致しない

市民は平和共存しているのに、裏でやりあう奴らがいると語る男性。

*****
戦争が続くウクライナ、クラスター爆弾が降り注ぐ街で嘆く住民。
ロシア兵がチョルノービリ原発の制限地区と行き来していて、本来汚染地区でないところが汚染されている可能性があると嘆く原発職員。

*****
アフガニスタン。
タリバン制圧から1年後の2022年8月、再びカーブルへ。
「自由に働ける場所がなくなった」と語る女性たち。
一方、タリバンの幹部に取材すると、「多くの女性が働いている」と語る。

川で暮らす麻薬中毒者たちを、タリバン政権は見て見ぬふり。
「20年前に薬物を禁止したのに、この20年、諸外国の支配下で薬物依存者が増えた」とうそぶく。


アフガニスタンでは、「女性の権利が抑圧されているからと国際社会が制裁するのが果たして正しいことかを考えないといけない」と語る須賀川さん。
「こういう実態が見られたと言われるのは嬉しいけれど、現実、そこの人たちを自分は助けることができていない」というジレンマも。
「戦場にいたい、というより、そこにいる人たちの顔を見たい」という須賀川さんの取材スタンスに、戦地で暮らす人たちに寄り添って真実を伝えてくださっていることを感じます。

須賀川さん、どこかでお見かけした・・・と思い出したのが、TBS News(CS)で放映されたテヘラン報告でした。怖いイランのイメージを払拭する、市場や聖者廟に集う人々を生き生きと映し出した素敵な番組でした。今も、YouTubeで見ることができます。

魅惑の大都市~イラン・テヘランから生配信
https://www.youtube.com/watch?v=Kpjx5m1bY98&t=1590s

検索すれば、アフガニスタン、パレスチナなど、たくさんのレポートがあります。
一部をご紹介します。

笑顔のタリバン兵士、物乞いの子ども…“現金不足”のアフガニスタン・カブールのいま
https://www.youtube.com/watch?v=XdxdOw2Hg44

イスラエル・テルアビブから生配信
https://www.youtube.com/watch?v=qS3JnyqTeSo

どれも、その地で暮らす人々の思いを映し出したものです。
限られたニュースの枠では伝えきれない、現地の生の姿を発信し続ける須賀川さんから目が離せません。(咲)


TVでのニュースや報道番組はだいたいNHKでしか見てなくて、民放での報道番組をほとんど見てこなかった。民放で見るとしたら、日曜日の真夜中に日本テレビ系列でやっているドキュメンタリー番組だった。なのでTBS系列の報道番組はほとんど見てこなかったと言っていいかもしれない。そしてこの10年くらいはネットでのニュースを中心に情報を得ていた。さらに、この半年くらいはTVも壊れてしまって、TVをほとんど見ていない。
そんな私だけど、世界情勢の報道、特に戦場からの報道は、1970年代のベトナム戦争での報道から始まって、とても興味を持っている。
だから、このTBSテレビ特派員としてパレスチナ、アフガニスタン、ウクライナ等、世界各地の戦場の取材をしている“戦場記者”須賀川拓さんという人にフォーカスしたこのドキュメンタリーはとても興味深かった。これまで、報道記者というと、新聞社やフリーの記者やスチール写真を撮っている人のことをリスペクトして来たが、須賀川さんのように映像の分野での報道に命を懸けて報道をしている人にも、これからは関心を持っていきたい(暁)。


2022年/日本/102分/5.1ch/16:9
製作:TBSテレビ  
配給:KADOKAWA  宣伝:KICCORIT
公式サイト:https://senjokisha.jp/
★2022年12月16日(金)より全国公開
posted by sakiko at 18:50| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『理大囲城』 原題:理大圍城 英題:Inside the Red Brick Wall

2022年12月17日~ポレポレ東中野ほか全国ロードショー 他の上映劇場 

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©Hong Kong Documentary Filmmakers

映画への検閲、規制が厳しくなり、言論と表現の自由が一段と狭まっている香港での上映禁止作品『少年たちの時代革命』(12/10)『理大囲城』(12/17)が続けて日本公開!!

監督:香港ドキュメンタリー映画工作者

2019年6月からはじまった香港民主化デモだが、香港国家安全維持法施行により封じ込められてしまった。映画への検閲、規制も厳しくなり、香港の言論と表現の自由が一段と狭まり、香港で上映禁止となったが海外映画祭で上映され、大きな話題となっている。
2021年カンヌ国際映画祭、東京フィルメックス2021にてサプライズ上映された『時代革命』(監督:キウィ・チョウ)、山形国際ドキュメンタリー映画祭2021で最高賞となるロバート&フランシス・フラハティ賞を受賞した『理大囲城』(監督:香港ドキュメンタリー映画工作者)、2022年ロッテルダム国際映画祭にて『Blue Island 憂鬱之島』(監督:チャン・ジーウン監督)が上映されるなど、現在の香港を描いた映画が国際的に注目を集めた。
そうした中、フィクション映画では、『少年たちの時代革命』が台湾アカデミー賞を席捲したのを皮切りに、台湾で劇場公開され、同年6月に日本でも2日限定の上映会が催されたのをきっかけに、12月10日からポレポレ東中野で日本公開されている。そして、ポレポレ東中野で連続して12月17日からは、この『理大囲城』が公開される。

2019年の香港民主化デモの中でもスキャンダラスな事件と言われる香港理工大学包囲事件を記録

アジア屈指の名門校・香港理工大学が警察に封鎖され、要塞と化した緊迫の13日間。至近距離のカメラが捉えた、衝撃の籠城戦の記録! 圧倒的な武力を持つ警察に包囲された構内には、中高生を含むデモ参加者と学生が取り残され、逃亡犯条例改正反対デモで最多となる1377名の逮捕者をだした。
警察は兵糧攻めを決行、支援者が救援物資を運ぶことも、記者や救護班が入ることもできなかった。その中で、匿名の監督「香港ドキュメンタリー映画工作者」たちは、デモ参加者として大学構内でカメラをまわし続けた。

武器を持ち戦い続けるか、命がけで脱出するか…
戦場と化した大学構内で究極の選択を迫られていく学生たち!
キャンパスに留まっても圧倒的な武力を持つ警察に潰される恐怖、脱出しても逮捕されるかもしれない恐怖は、デモ参加者の心をかき乱す。四面楚歌のキャンパスの中の人間模様を映し出す。圧倒的な武力で封じ込めようとする警察を前になすすべもないデモ隊の姿は、今、香港が置かれている状況を映し出す。

監督は全員匿名、出演者の顔はモザイク処理し、閉じ込められ追い詰められた学生たちの姿を映し出し、表情は見えなくても、心情は伝わってくる。警棒でたたかれ、催涙弾や水を浴び、粗暴な警官隊に力ずくでねじ伏せられる若者たちの憔悴や不安。どういう方法で突破するか、救援隊を待つのか。退路を絶たれた学生たちが日ごとに憔悴してゆく姿を克明に捉えている。衝撃の籠城戦の記録!

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©Hong Kong Documentary Filmmakers


2017年に山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映された『乱世備忘 ― 僕らの雨傘運動』(2016年、陳梓桓チャン・ジーウン監督)から数年しかたっていないし、2015年製作の『十年』から10年たたずに香港の自治が踏みにじられてしまった。香港はどうなっていくのだろう。監督たちは「これからも撮影を継続しアクションを起こし続ける」と語っているが、その言葉は心強いけど、香港ではデモや、民主化を求める行動自体が制限され、その機会自体がなくなってしまうのではないかと心配。この作品は山形国際ドキュメンタリー映画祭2021でロバート&フランシス・フラハティ賞(大賞)を受賞したが、映画祭の東琢磨審査員長は「最も大事なことは、世界が彼らのことから目を離さずにいることだ」と述べている。山形の受賞記事はこちら
このドキュメンタリーを観て、1969年の「東大安田講堂攻防戦」を思いだした。1960年代後半、日本ではベトナム反戦・反安保闘争、学園民主化などを求め、大学紛争(大学闘争)が起こった。その中で1969年、東大全共闘や新左翼の学生たちが安田講堂にたてこもった。その時、大学から依頼を受けた警視庁が1969年(昭和44年)1月18日~1月19日に封鎖解除を行った。私は当時高校2年で、飯田橋にある病院に入院していて、窓から東大方向を見ると、報道関係?のヘリコプターが飛び交い、学生たちと警官たちの攻防の喚声や怒号が聞こえ、かなりの緊張感でその状況を見ながら、TVのニュースから流れる報道とのニュアンスの違いを感じていた。この学生たちが、安田講堂を何日くらい占拠していたかは忘れてしまったが、相当長い間占拠していた記憶はある。一番多い時期、東京都内だけで55の大学でバリケード封鎖が行われていたという。その頂点として、この「東大安田講堂攻防戦」があったと思う。今、思えばきっと、この安田講堂にたてこもった学生たちも、この理工大の学生たちのような葛藤もあっただろう。当時はそのようなことは考えたこともなかったけど、このドキュメンタリーを観て、そのことに思いを馳せた。
私は劉徳華(アンディ・ラウ)の紅磡(ホンハム)のコロシアム(香港体育館)でのコンサートに行ったことがあり、その時、理工大横の歩道橋を通って行ったので、理工大を見たことがある。その大学で起こったことなので観ていてとても心が重かった。私が通っていた歩道橋が何度も映し出され、香港コロシアムも映像の中に出てきた。現在、理工大はどのような状況になっているのかとても気になる(暁)。


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画面左寄りの上の方に見える白いライトの部分が歩道橋
©Hong Kong Documentary Filmmakers


山形国際ドキュメンタリー映画祭2021の折にオンラインで観て、圧倒された作品。最高賞であるロバート&フランシス・フラハティ賞受賞も納得でした。警察に封鎖され、中高校生も含む若い人たちが、決死の思いで飛び降りたり、下水道を通ったりして、なんとか逃げようとするのですが、そんな彼らさえ、警察が捕まえようとすることに胸が痛みました。 
封鎖された理工大にサミュエル・ホイやイーソン・チャンの歌が流れてきたのですが、警察が流したらしく、え?どういうつもり?と思いました。
理工大といえば、(暁)さんと同じく、アンディ・ラウやレスリー・チャンのコンサートが紅館(香港コロシアム)で開かれたときには、必ず目にしていたところ。とはいえ、大学の構内は外からは見えませんでした。2013年のアジアフォーカス福岡国際映画祭で上映され、福岡観客賞を受賞した香港映画『狂舞派』は理工大のキャンパスで撮影した作品で、中はこんな風になっているのかと知ることができたのでした。ヒップホップダンスが大好きなのに足を怪我して踊れなくなった豆腐屋の娘ファーを、理工大の太極拳部の男子が励ますという物語(だったと思います)。 『狂舞派』で観た理工大は、勉学に励みキャンパスライフを楽しむ若者たちが大勢集う場でした。それが本来の大学の姿のはず。大勢の警官に取り囲まれた大学はあまりに悲しい姿でした。 それでも、あの頃には、「声」をあげることができた香港の人たち・・・。今は押し黙っているしかないのは、さらに悲しい。(咲)



『理大囲城』公式サイト
配給:Cinema Drifters・大福
宣伝:大福
2021/香港/カラー/DCP/ステレオ/88分

『理大囲城』
アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭最優秀編集賞
香港映画評論学会最優秀映画賞
台湾国際ドキュメンタリー映画祭オープニング作品
山形国際ドキュメンタリー映画祭大賞

*『少年たちの時代革命』の作品紹介はこちら  
http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/494357506.html

*参照 シネマジャーナル これまでの香港民主化運動関係の記事
●『時代革命』 キウィ・チョウ監督インタビュー 2022年7月22日
http://cineja-film-report.seesaa.net/article/490683730.html

●香港返還25年  大雨だった1997年7月1日を思う 
http://cinemajournal.seesaa.net/article/489403875.html
 
特別記事
●『乱世備忘 ― 僕らの雨傘運動』
陳梓桓(チャン・ジーウン)監督インタビュー
山形国際ドキュメンタリー映画祭2017にて   2017年10月11日
http://www.cinemajournal.net/special/2017/yellowing/index.html

●『乱世備忘 僕らの雨傘運動』
陳梓桓(チャン・ジーウン)監督インタビュー(日本公開時)2018年07月22日
http://cineja-film-report.seesaa.net/article/460641864.html

●『革命まで』2015年 香港 
郭達俊(クォック・タッチュン)監督&江瓊珠(コン・キンチュー)監督インタビュー(山形国際ドキュメンタリー映画祭2015にて)
http://www.cinemajournal.net/special/2016/kakumeimade/index.html
posted by akemi at 18:04| Comment(0) | 香港 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

トゥモロー・モーニング   原題:Tomorrow Morning

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(C)Tomorrow Morning UK Ltd. and Visualize Films Ltd.

監督:ニック・ウィンストン
脚本・音楽:ローレンス・マーク・ワイス
出演:サマンサ・バークス、ラミン・カリムルー、ジョーン・コリンズ、ハリエット・ソープ

夕暮れ時のロンドン。淡いピンク色の空に映えるタワーブリッジを背景に、10年前の結婚した時の、熱い気持ちを思い出す二人。明日の朝には、離婚調停を控えている。
小説家を夢見ていたビルは、小説は諦めたが、広告業界でコピーライターとして敏腕を奮い、画家を目指していたキャサリンも現代アートの新星として注目を浴びている。結婚式前夜に妊娠が判明し、二人の喜びのもとに生まれてきた息子のザックも10歳になった。順風満帆だったはずの二人なのに、どこでボタンを掛け違えたのだろうか。結婚前夜に佇んでいたテムズ川沿いの同じ場所で、10年前を振り返る二人・・・

もとは、英国の音楽家ローレンス・マーク・ワイスが脚本・音楽を手掛け2006年にロンドンで生まれたミュージカル。舞台はひとつのセットで、二組の男女が、「結婚前夜」と「離婚前夜」の心情を吐露するものだった。オリジナルの初演も演出したニック・ウィンストン監督が、映画化。息子ザックや、まわりの人物も登場させ、舞台とは違うものに仕立てている。

明日からは違う人生を歩み始める二人。いろいろなことが夕暮れの美しい風景の中で脳裏に蘇ってきます。このまま別れてしまうの?と、見ているこちらも切なくなりました。
ビルを演じたラミン・カリムルーが、イラン人で、おぉ~これは!と。革命直前の1978年にテヘランで生まれ、その後、家族でイタリアに移住。3歳の時にはカナダへ。クルーズ船のパフォーマーとして活動ののち、英国を拠点にミュージカル俳優として活動を始め、2002年「レ・ミゼラブル」のフイイ役でウエストエンド・デビュー。ウエストエンド史上最年少の28歳で「オペラ座の怪人」の主役ファントムに抜擢されています。
キャサリン役のサマンサ・バークスも、2010年ミュージカル「レ・ミゼラブル」のエポニーヌ役でウエストエンド・デビューし、ウエストエンド版「アナと雪の女王」でエルサ役など、有名ミュージカルのヒロインを多数演じています。世界最高峰のミュージカル・スター二人の夢の映画初競演です。
ちなみに、お父さん役のオミード・ジャリリもイラン出身でアメリカなどで活躍するコメディアン。ちゃんと血筋、合わせてました。お父さんの出番は少なくて残念でしたが!(咲)


2022年/イギリス/英語/105分
日本語字幕:石田泰子
後援:ブリティッシュ・カウンシル
配給:セテラ・インターナショナル
公式サイト:http://www.cetera.co.jp/tomorrowmorning/
★2022年12月16日(金)よりYEBISU GARDEN CINEMA、シネスイッチ銀座ほか全国公開



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2022年12月10日

浦安魚市場のこと

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監督・撮影・録音・編集・製作:歌川達人
音楽:POSA(すぎやまたくや&紫藤佑弥)
出演:浦安魚市場のみなさま

魚屋の活きのよい掛け声。貝を剥き続ける年老いた女性。年末のお客たちとお店の賑わい。古くから漁師町だった浦安には魚市場があった。工場汚染水の影響で漁業権を放棄し埋立地となった浦安にとって、魚市場が漁村だった町のシンボルでもある。そんな魚市場には、昼は町の魚屋、夜はロックバンド「漁港」のボーカルとして活動する森田釣竿がいた。時代の流れと共に変わっていく魚の流通と消費の形。脈々とつながってきた暮らしを謳歌する浦安の人々。しかし、その瞬間は、緩やかに、そして突然訪れる.......。

カンボジアのドキュメンタリーを発表してきた歌川達人監督が、浦安魚市場の近くに移り住んで、市場の内外を撮影し続けました。初の長編作品です。
「鮮魚 泉銀」三代目店主、森田釣竿さんはユニークな人で「魚食え、コノヤロー!」と叫ぶロッカーでもあります。「鮮魚 池八」池田廣子さんもきっぷと愛嬌の人、どのお店の人たちもお客さんとのやりとりを楽しみ、仕事を愛してやまないのが伝わってきます。
カメラは閉鎖までの日々を活写し、ついにやってきた最後の日を迎える店主と名残を惜しむお客さんたちを、やさしく見つめます。まだ開いているうちに一度は行って買い物したかったなぁと思いつつ、自分の近所に残っている魚屋さん八百屋さんに通おうとしみじみ思いました。(白)


2022年/日本/カラー/DCP/98分/
配給:Song River Production
urayasu-ichiba.com
★2022年12月17日(土)渋谷シアター・イメージフォーラムほかにて全国順次公開

posted by shiraishi at 19:45| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

そばかす

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監督:玉田真也
企画・原作・脚本:アサダアツシ
主題歌:三浦透子「風になれ」
作詞・作曲:塩塚モエカ(⽺⽂学)
音楽・録音・音響効果:松野泉
出演:三浦透子(蘇畑佳純)、前田敦子(世永真帆)、伊藤万理華(篠原睦美)、伊島空(木暮翔)、前原滉(八代剛志)、前原瑞樹、浅野千鶴、北村拓海(天藤光)、田島令子(祖母 宮子)、坂井真紀(母 菜摘)、三宅弘城(父 純一)

蘇畑佳純(そばたかすみ)30歳。海辺の地方都市でコールセンターに勤め、家族と暮らしている。妹の睦美は結婚して出産を控えているが、母は佳純が恋人もなく、結婚もしそうにないのが気にかかる。けれども佳純は昔から恋愛感情がわかず、性的対象として人を見ることもない。思い余った母は、佳純に内緒でお見合いをセッティングする。佳純は怒って帰ろうとするが、相手の男性・木暮翔も恋愛に興味がないと打ち明ける。思いがけず話が合って、何度も会ううちに小暮は佳純に恋愛感情を抱くようになる。小暮に迫られた佳純は拒否したため、そこで関係は終わってしまった。
そんなとき、中学の同級生だった世永真帆(よながまほ)に再会する。AV女優として活躍してきた真帆は地元に帰ってきていたのだった。屈託なく明るい真帆と過ごした佳純は、一緒に住んだら楽しいだろうと想像する。

第 94 回アカデミー賞で国際⻑編映画賞を受賞した映画『ドライブ・マイ・カー』(21/濱⼝⻯介監督)ヒロインを演じた三浦透子さん、第 45 回⽇本アカデミー賞新⼈俳優賞などを受賞しました。こちらの映画では、周りの「普通」と違う自分を「これが私だから」と認める佳純を演じています。三浦さんはいつも「演じている」感じがしないんですけどね。
苦情を受け付けるコールセンターから保育所に転職した佳純は、子供たちのおませ具合に驚いてしまいます。情報過多ないまどきのお子様だから?いや、自分を振り返っても子供は大人の想像より先を行っていたかも。あなどるなかれ。この子たちの前で佳純がやってみたことの本当の反応が知りたいです。
映画の中には「多様性」という言葉を使う人も登場しますが、言葉だけで、それを受け入れてるとは思えません。佳純のありのままを受け入れる人もちゃんといます。佳純と真逆のような性格の真帆は、中学のときと同じように今度も真帆の背中を押してくれました。三浦透子さん、前田敦子さん説得力ある好演。
誰かに恋愛感情を持てないと駄目でしょうか?そんなことはないし、人っていくつかに分けられるものでもありません。「みんなちがって、みんないい」という金子みすゞさんの詩を思い出しました。メ~テレ開局60周年記念作品。(白)


2022年/日本/カラー/104分
配給:ラビットハウス
(C)2022「そばかす」製作委員会
https://notheroinemovies.com/sobakasu/
★2022年12月16日(金)新宿武蔵野館ほか全国公開

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終末の探偵

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監督:井川広太郎
脚本:中野太 木田紀生
撮影監督:今井哲郎
アクション監督:園村健介
出演:北村有起哉(連城新次郎)、松角洋平(阿見恭一)、武イリヤ(ガルシア・ミチコ)、青木柚(佐藤翔)、高石あかり(石岡凛)、水石亜飛夢(小倉幹彦)古山憲太郎/ チェン・ショウコウ、川瀬陽太(笠原組長)、高川裕也( 辻原正義)、麿 赤兒(町内会長 安井茂雄)

連城新次郎は新宿に流れ着いた開店休業中の私立探偵。酒癖が悪く、ギャンブルと喧嘩に明け暮れている草臥れた中年男だ。顔なじみのヤクザの幹部・阿見から放火事件の調査を押し付けられる。阿見の笠原組と敵対する中国系マフィアのバレットが絡んでいるらしい。
同じころ日本生まれのフィリピン人のミチコから、急に姿を消したクルド人の友人を探してほしいと頼まれる。いつしか新次郎は、笠原組とバレットの抗争に巻き込まれていく。

北村有起哉さん演じる新次郎は、ヘビースモーカーでタバコが手放せません。今に肺と肝臓をやられそうです。ほどほどに。事務所もなく、喫茶店を根城にしているので町内に顔見知り多数。多国籍の人の集まる街で、両親が強制送還されて一人残されたミチコの生い立ちや、日本で暮らすことで出会う壁も語られます。「入管に行かなくてはならないのに、いなくなるなんて」というミチコの言葉に、これまで色々見てきた入管と不法滞在に関わる映画が浮かんできました。
情にもろく、金にならない人助けをしてしまう新次郎は、金属バットや鉄パイプで殴られたり、さんざん。アウトローですが、悪人ではありません。今もどこかにいてほしいキャラです。
新次郎と懇意の町内会長が高校生にかけた「人を簡単に線引きしちゃいけない」という言葉が沁みます。そうそう、新次郎の口癖は「もういいよ」でした。体を張った痛そうな攻防は園村健介アクション監督が手がけています。(白)


2022年製作/80分/G/日本
配給:マグネタイズ
(C)2022「終末の探偵」製作委員会
http://syumatsu-tantei.com/
★2022年12月16日(金)全国公開
posted by shiraishi at 15:35| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ケイコ 目を澄ませて

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監督:三宅唱
原案:小笠原恵子「負けないで!」(創出版)
脚本:三宅唱 酒井雅秋
撮影:月永雄太
出演:岸井ゆきの(小河ケイコ)、三浦友和(会長)、 三浦誠己 (林誠)、 松浦慎一郎(松本進太郎)、 佐藤緋美(小河聖司)、 中島ひろ子(小河喜代実)、仙道敦子(会長の妻)

嘘がつけず愛想笑いが苦手なケイコは、生まれつきの聴覚障害で、両耳とも聞こえない。再開発が進む下町の一角にある小さなボクシングジムで日々鍛錬を重ねる彼女は、ハンデを抱えながらプロボクサーとしてリングに立ち続ける。母からは「いつまで続けるつもりなの?」と心配され、言葉にできない想いが心の中に溜まっていく。「一度、お休みしたいです」と書き留めた会長宛ての手紙を出せずにいたある日、ジムが閉鎖されることを知り、ケイコの心が動き出す――。

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聴覚障害の小笠原恵子さんが、プロボクサーとしてリングに立った自伝をもとに映画化された作品です。セコンドやレフリーの声が聞こえなくても大丈夫かな、と考えてしまいますが、ケイコは耳を補う「いい目」を持っていました。
岸井ゆきのさんが愛くるしい笑顔を封印、ボクシングに打ち込むケイコを全身全霊で演じています。ボクシングのトレーニングを始めたのはクラインクインの3か月前から。実際にボクシングトレーナーでもある松浦慎一郎さんは、数々のボクシング映画に出演、撮影前の指導にもあたっています。映画の中でのミット打ちのシーンでは、二人のスピードがどんどん上がっていくのに目が丸くなります。それが自然の流れの中でできたもので、それまでのトレーニングの成果が表れたものだった、そうです。ゆきのさんすごい!
手話も学びながらの日々はケイコとゆきのさんを一体化させ、新しいゆきのさんが育ったようです。
三宅唱監督が16ミリフィルムに焼き付けた、ケイコのまっすぐな生き方、周りの人々の想いに触れてください。(白)


2022年/日本/カラー/ビスタ/99分
配給:ハピネットファントム・スタジオ
(C)2022 映画「ケイコ 目を澄ませて」製作委員会/COMME DES CINEMAS
https://happinet-phantom.com/keiko-movie/
Twitter:@movie_keiko
★2022年12月16日(金)テアトル新宿ほか全国公開

★☆3ヵ月の特訓の賜物!岸井ゆきのの左ストレートが冴える!
本編シーンから抜き焼きした16mmの“生コマフィルム”を数量限定で入場者にプレゼント!

配布期間:12月16日(金)~
配布劇場:テアトル新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町、ユーロスペース、池袋シネマ・ロサ、立川シネマシティ
     センチュリーシネマ、シネ・リーブル梅田
※数量限定、無くなり次第終了

posted by shiraishi at 14:44| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年12月03日

北風だったり、太陽だったり

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監督・脚本・編集:森岡龍
撮影:古谷幸一
音楽:UCARY VALENTINE
出演: 橋本一郎(葉山旅人)、足立理(奥貫陽太)、川添野愛(あぐり)、飯田芳(金井風太)

人気絶頂の最中、暴力事件を起こし、解散したお笑いコンビ「北風と太陽」。
かつて二人のマネージャーだった葉山は、自身の入籍を機に、ボケ担当で服役中の金井に、結婚報告をしようとする。事件以来、疎遠だった金井の元相方である奥貫をなんとか連れ出し、刑務所へと面会に向かうのだったが・・・。

刑務所に向かう道で、大小さまざまなアクシデントに遭遇する二人。雪まで降ってきますが、これは本物でいいアクセントでした。久しぶりに再会した風太は、規則正しい生活で元気、葉山と奥貫のような現実の生活の苦労がないからでしょう。ピン芸人はできないという奥貫は、眼鏡をなくしコンタクトレンズを踏まれ、からまれて殴られ、とまさに踏んだり蹴ったりです。それでもネタが口をついて出るとは、芸人魂は消えていないようです。そんな奥貫を元マネージャーの葉山は気遣います。
森岡監督、2016年『エミアビのはじまりとはじまり』に前野朋哉さんと人気の漫才コンビ役で出演しています。このときの漫才は、渡辺謙作監督と3人で作り上げたオリジナル。今回その経験が脚本や演出に生きているのかもしれません。可笑しさ、もの悲しさがないまぜになっています。監督・脚本のほか実はこの作品に出演もしています。「日本の明日は…」と連呼しているところを葉山と奥貫が乗った車が通りすぎます。お見逃しなく。(白)


『地の塩 山室軍平』(2017)
東條政利監督&主演:森岡龍さんインタビューはこちら

2022年/日本/カラー/35分
配給:map
(C)マイターン・エンターテイメント
https://kitakazedattari.com/
★2022年12月10日(土)渋谷ユーロスペース他にて上映!
posted by shiraishi at 13:29| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

夜、鳥たちが啼く

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監督:城定秀夫
脚本:高田亮
原作:佐藤泰志
撮影:渡邊雅紀
音楽:田井モトヨシ
出演:山田裕貴(慎一)、松本まりか(裕子)、森優理斗(アキラ)、中村ゆりか(文子)、カトウシンスケ(邦博)、藤田朋子、宇野祥平、吉田浩太

慎一は、若くして小説家デビューし脚光を浴びたもののその後は鳴かず飛ばず、鬱屈した日々を送っていた。同棲中だった恋人にそのうっぷんをぶつけ、ついに去られてしまう。一人になった慎一は、先輩の元妻の裕子が離婚したため住まいを探していると知り、部屋を提供する。新しい家を見つけるまで、と好意に甘えることにした裕子は、まだ幼い息子のアキラを連れて引っ越してきた。二人は互いの生活を気遣い、深入りしないように距離をとるが、父に去られたアキラは慎一に懐き、屈託なく出入りする。

幾度も文学賞の候補になりながら、受賞できず失意のまま亡くなった作家・佐藤泰志の短編小説が原作。『海炭市叙景』から始まり、『そこのみにて光輝く』『オーバー・フェンス』『きみの鳥はうたえる』『草の響き』と次々と映画化されてきました。
本作では小説にしがみつく慎一や、子供がいながら孤独に耐え切れない裕子、と思うようにならない二人が痛々しいです。演じる二人も華やかさを封印し、揺れ動く感情を繊細に表現しています。無精ひげの山田裕貴さんも、夜な夜な出歩く松本まりかさんもまた良き。
不遇な作家であった佐藤氏の小説には、辛い境遇の人たちが一筋の光を探しつつ生きていく様が描かれています。その光を一番欲していたのは作家自身であったはず。こうして何作もが映画化されて、原作と作家に光が当たることに遅まきながらホッとします。(白)


2022年/日本/カラー/ビスタ/115分
配給:クロックワークス
(C)2022 クロックワークス
https://yorutori-movie.com/
★2022年12月9日(金)新宿ピカデリーほか全国公開
posted by shiraishi at 13:26| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

MEN 同じ顔の男たち(原題:MEN)

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監督・脚本:アレックス・ガーランド
撮影:ロブ・ハーディ
音楽:ベン・サリスベリー ジェフ・バロウ
出演:ジェシー・バックリー(ハーパー)、ロリー・キニア(ジェフリー)、パーパ・エッシードゥ(ジェームズ)、ゲイル・ランキン(ライリー)

ハーパーはかつては愛し合った夫が、キレやすく暴力的になったことに恐怖を抱いて別れ話を切り出す。変わるからと懇願するのに耳を貸さず、「別れるなら死ぬ」というのも、ただの脅しと思っていた。ところが死にゆく夫を見てしまい、罪の意識に苛まれる。心の傷をいやすために田舎のカントリーハウスに滞在することにした。
オーナーのジェフリーはハーパーを歓迎し、豊かな自然の中の豪華なハウスにハーパーも重荷を下ろす感覚になる。休みを満喫しようと街や森を散策するが、誰かに後をつけられている気がしてならない。忘れたい夫の死もフラッシュバックし、不穏な空気は次第にハーパーを包み込んでくる。

『ミッドサマー』『ヘレディタリー/継承』を送り出した制作会社A24の新作。アレックス・ガーランド監督は『エクス・マキナ』で第88回アカデミー賞®で脚本賞にノミネート、視覚効果賞を受賞しています。こちらは同じくスリラーではあるものの、CGを駆使した未来都市と真逆のイギリスの緑豊かな田舎が舞台です。
ポスターのリンゴの木は、ハーパーが最初にカントリーハウスに足を踏み入れたときに、手を伸ばしてもぎ取って齧ったもの。アダムとイブの禁断の木の実や、白雪姫の毒リンゴが浮かびます。想像通り何かが始まるんですね、これが。
慣れない家に一人というのは安らげない気がして、一人旅が好きな私でも御免こうむりたいです。ハーパーにはなんでも打ち明けられるライリーという親友がいるので、彼女が一緒だったら心強いのに。
会う人会う人が、オーナーのジェフリーと同じ顔というのも奇妙というより、怖い。ハーパーを追い詰めていったのは妄想なのか、夫の恨みつらみが招いたものなのか、はたまた事実なのか。
正視できないものも登場しますが、撮影は美しく、ここぞというときに流れる音楽がまた多様。(白)


自宅で夫が死ぬ瞬間を見てしまったハーパーは車で4時間かかる田舎のカントリーハウスに逃れるのですが、(白)さんも書いている通り、こんな広いところにたった一人では、かえって怖くて落ち着けません。逃避したつもりが、周りには変な男ばかり現れるし、夫のことがいろいろ蘇ってきます。イングランドの田舎の美しい風景と裏腹に、凄いものをみてしまったという物語でした。

イギリスには行ったことがないのですが、いつかコッツウォルズのマナーハウスに泊まってみたいと思っていました。本作の撮影地は、Gloucestershire(イングランド南西部にある行政区域)とエンドロールにありました。映画の中で、警察に場所を知らせるのに「cotson」村と、ハーパーが叫んでいるのですが、架空の名前。Withingtonというところで2021年4月から5月にかけて,撮影されたらしいです。
かつての荘園の邸宅がマナーハウスだと思っていたのですが、今回、「カントリーハウス」と言っているので、どう違うの?と検索してみました。
貴族が自分たちの領地である「荘園」の中に作らせていた城が、マナーハウス。その後、15世紀頃から貴族がロンドンに別邸(タウンハウス)を建て、荘園の本邸(マナーハウス)がカントリーハウスと呼ばれるようになったそうです。そして、貴族より持っている土地が少ない「ジェントリー」や「スクワイアー」階級の邸宅が、マナーハウスと称されるようになったのだとか。
また、ハーパーの自宅はロンドンのテムズ川に面しているのですが、見えているのはロンドン橋だと思ったら、「タワーブリッジ」(テムズ川に架かる跳開橋)でした。よく名前を間違えられると書いてありました。
怖い場面もありますが、英国の美しい風景を楽しみたい方はぜひご覧ください。(咲)




2022年/イギリス/カラー/シネスコ/100分
配給:ハピネットファントム・スタジオ
(C)2022 MEN FILM RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
https://happinet-phantom.com/men/
★2022年12月9日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開

posted by shiraishi at 13:03| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ジョン・レノン 音楽で世界を変えた男の真実(原題:Looking for Lennon)

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監督・編集:ロジャー・アプルトン
出演:Gary Mavers (ナレーション/声の出演)
Rod Davis (ザ・クオリーメン)
Bill Smith (ザ・クオリーメン)
Colin Hanton (ザ・クオリーメン)
Len Garry (ザ・クオリーメン)
Chas Newby (ザ・ビートルズ)
David Bedford (ザ・ビートルズ歴史研究家)
Paul Farley (詩人、作家)

世界中で愛されているバンド、ザ・ビートルズが世に出て60年。数多くのドキュメンタリーが作られてきました。この作品はリーダーのジョン・レノンにフォーカス、生まれてからの波乱万丈の日々を関係者や友人のコメント、懐かしい映像や写真をおりこんで紹介しています。
ジョンの生い立ちから始まり、少年から青年へと成長するとき、彼の音楽性が何によって生まれ、育てられたのか?影響をうけたミュージシャンは誰だったのか、いつどうやってメンバーと出会ったのか、順を追って紹介します。案内人はザ・ビートルズの歴史研究家デビッド・ベッドフォードと、詩人・作家のポール・ファーリー教授 。
1956年リヴァプール、ジョンが高校生のときに結成した「ザ・クオリーメン」はビートルズの前身、当時のメンバーがそれぞれの思い出を語っています。家族や友人から聞いたことのないエピソードも飛び出して、へ~とか、ほ~とか思わず声が出てしまいました。それはいくらジョンでもヤダと思ったり、なるほどねと納得したり。
鑑賞後は、曲を聴きたくなること必至です。今や検索すればいくつものライブ映像もヒットします。いい時代ですね。
英国ナショナル・フィルム・アワードでは最優秀ドキュメンタリー映画賞にノミネートされました。(白)


2018年/イギリス/カラー/93分
配給:NEGA
(C)SEIS Productions Limited
https://lookingforlennon.jp/
★2022年12月8日(木)ロードショー
posted by shiraishi at 13:00| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

少年たちの時代革命 原題:少年 英題:May You Stay Forever Young

2022年12月10日ポレポレ東中野ほか全国ロードショー 劇場情報 

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©Animal Farm Production


香港の香港民主化運動の中でもがく若者たちを描いた青春映画
日本でも上映された『理大囲城』『時代革命』と共に、台湾金馬奨を席捲した衝撃作が日本公開


監督:任俠(レックス・レン)、林森(ラム・サム)
撮影:ming 田中十一 陳家信 
編集:L2 任侠  
音楽:Aki
出演:余子穎(ユー・ジーウィン)、孫君陶(スン・クワントー)、曾睿彤(マヤ・ツァン)

2019年6月9日から始まった香港の民主化デモから3年、2020年7月に「香港国家安全維持法」が施行されてから2年が経とうとしている。中国当局の締め付けが厳しくなり自由が失われつつある香港では、映画への検閲、規制も厳しくなり、香港の言論と表現の自由が一段と狭まっています。そうした状況で、香港では上映禁止となった映画が、海外映画祭で上映され、多くの注目されています。
2021年カンヌ国際映画祭、東京フィルメックス2021にてサプライズ上映された『時代革命』(監督:周冠威)、山形国際ドキュメンタリー映画祭2021で最高賞となるロバート&フランシス・フラハティ賞を受賞した『理大囲城』(監督:香港ドキュメンタリー映画工作者)は、日本でも大きな話題になりました。
台湾金馬奨では、これらの作品と共に、香港の無名の新人監督・任俠と林森製作の本作『少年たちの時代革命』が最優秀新人監督部門、最優秀編集賞部門にノミネートされました。香港民主化デモを描いたドキュメンタリー映画が注目される中、フィクション映画でも香港映画の新たな才能が出現していることは、香港映画界にとって希望となっています。

2019年香港民主化デモを描く劇映画!

2019年、民主化デモで示した民意が香港政府に受け止められないことに、無力感や絶望感を募らせ、抗議の自殺をする若者が相次いだ背景を元に作られた。
民主化運動のデモに参加した少女YYは警察に逮捕され、保釈されたが親友も香港を去ることになり、孤独に苦しみ自殺しようと街を彷徨する。それを知ったデモ参加者の仲間たちがSNSを頼りに彼女を探し出そうと、デモの最中、街中を走りまわり探すがみつけ出せないまま時間が過ぎてゆく。
夜になり、屋上から香港の街を見下ろしている彼女をみつけ、自殺をとどまるよう説得。デモ現場でのゲリラ撮影や、実際のデモ映像を織り交ぜた緊迫感ある映像を織り交ぜ、緊迫感あるストーリーが展開する。
少女YYの絶望する心、仲間を失いたくないデモ参加者たちが民主化運動の中でもがく悲痛な思いが伝わってくる。自由が失われ、絶望と希望の間で彼らは香港を歩き続けた。

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©Animal Farm Production


最近では民主化運動のドキュメンタリーだけでなく、その中で生き、もがき苦しむ人々にフォーカスしたドラマも作られるようになった香港。この映画の主人公の少女の夢も希望も奪われ、この中で生きていたくないという絶望感は私もわかる。私も1970年頃の学生運動の中で「こんなに頑張って運動しても何も変わらない。それどころか状況は悪くなっている」という絶望感を感じていた。その思いが繰り返されていると感じた。いわば行き止まりの絶望感でもある。そこを乗り越えて、やれるところから変えていってほしいと、昔、同じ絶望感を感じた私は思う。
今年は同じように民主化運動の中に生きる人々を描いた陳梓桓(チャン・ジーウン)監督の『Blue Island 憂鬱之島』も公開されたし、香港民主化運動に関連したドキュメンタリーやドラマが何本も公開され、香港への関心は高まっているけど、これで終わらず、これからも香港の行く方向を見守っていきたい(暁)。


公式HP
2021/香港/カラー/DCP/ステレオ/86分
配給:Cinema Drifters、大福

*参照 シネマジャーナル これまでの香港民主化運動関係の記事
●『時代革命』 キウィ・チョウ監督インタビュー
http://cineja-film-report.seesaa.net/article/490683730.html

●香港返還25年  大雨だった1997年7月1日を思う 
http://cinemajournal.seesaa.net/article/489403875.html
 
特別記事
●『乱世備忘 ― 僕らの雨傘運動』
陳梓桓(チャン・ジーウン)監督インタビュー
山形国際ドキュメンタリー映画祭2017にて   2017年10月11日
http://www.cinemajournal.net/special/2017/yellowing/index.html

●『乱世備忘 僕らの雨傘運動』
陳梓桓(チャン・ジーウン)監督インタビュー(日本公開時)2018年07月22日
http://cineja-film-report.seesaa.net/article/460641864.html

●『革命まで』2015年 香港 
郭達俊(クォック・タッチュン)監督&江瓊珠(コン・キンチュー)監督インタビュー(山形国際ドキュメンタリー映画祭2015にて)
http://www.cinemajournal.net/special/2016/kakumeimade/index.html
posted by akemi at 06:46| Comment(0) | 香港 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

百年の夢 原題:Obrazy stareho sveta

2022年12月3日(土) シアター・イメージフォーラムにて公開 上映情報 

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16年の長きに渡り国外輸出禁止となっていた幻の衝撃作が
30年の時を経て再びスクリーンに


スロヴァキアの山岳地帯に暮らす老人たちが醸し出す生き様、
それぞれの人生模様が描き出される


脚本・監督:ドゥシャン・ハナーク
撮影監督: アロイス・ハヌーセク 
音楽:G・F・ヘンデル ヴァーツラフ・ハーレク ヨゼフ・マコヴェツ
撮影協力: ヤン・シュヴァンマイエル 
スティル写真:マルティン・マルティンチェク/ウラジミール・ヴァヴレク

『百年の夢』は1972年に完成していながら、当局により16年間もの間、輸出を禁止され、禁止解除後の1988年、フランスのニヨン国際映画祭グランプリを始め、ドイツのライプツィヒ国際映画祭ではドン・キホーテ賞と批評家賞を授与されるなど、世界各地の国際映画祭で上映され高く評価された。日本では1989年、第一回山形国際ドキュメンタリー映画祭で『老人の世界』の題名で上映された後、1992年に『百年の夢』の邦題で劇場公開。今回は新たにデジタル・リマスター版による公開になる。

老人たちの人生の年輪が刻まれた顔、顔、顔。
東ヨーロッパ、カルパチア山脈の東側、スロヴァキアの山岳地帯ファトラ山地で厳しい自然や孤独と闘いながら暮らす70歳以上老人たちの日常とその人生哲学が描きだされる。
農作業や羊飼いをして暮らす老人たちの日常生活と語りを丹念に描いた本作は、生と死についての黙想とでもいうような、哲学的世界をつくりあげている。
からくり人形作りに熱中する男性。事故で立って歩けず25年間、膝と手を使い、はいずりながら暮らしてきた男性。めんどりに聖書を読み聞かせる男性。結核を患い、納屋で50年暮らす農婦の姿は、彼女自身の葬儀の写真に連なる。内なる自由をいきいきと生きる彼らにとっての愛や家族、夢、労働や人生の意義とは…。
「人生にとって大切なことは?」という問いに、なんて答えたらいいかとか、さあねわからんと答えたり、知らない、忘れたと答える人がいる一方で、健康や平穏と答える人も。

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マルティン・マルティンチェクによる老いと死を飾ることなく捉えたスティル写真の数々と動画とのコラボレーションで、このドキュ麺たち―は成り立っている。
スティル写真を提供したマルティン・マルティンチェク(1913年~2004年)は、誤った告発のために公の生活から姿を消し、弁護士から写真家へと転身した後、写真に情熱を傾け続けたスロヴァキアの伝説の写真家である。映画には彼による40枚の写真が使用され、老人たちの“ありのまま”の姿を映し出す。(公式HPより)

古い映像やスチール写真の中に描かれる老人たちの姿。50年以上前に撮影されているのだけど、なんとも味わい深い。日本にも、かつてこういう生活が山村にあったなと思いながら観た。最近、50年くらい前の映像をよく観るような気がする。音楽ドキュメンタリーもそうだし、こういう山村映画でも観るし、そんな前の映像が残っていて、今の時代に観ることができ、その時代を振り返ることができるなんて、あの時代には考えもしなかったでしょうね。それにしてもあのお爺さん,お婆さんたちの表情がいい。苦労したであろう人生を物語っていた(暁)。

公式㏋
1972年製作/スロヴァキア/モノクロ/67分
配給:パンドラ
後援:スロヴァキア共和国大使館
日本初公開:1992年5月23日
posted by akemi at 06:36| Comment(0) | スロバキア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする