ピエール・エテックスって誰?
長らく観ることの叶わなかった
フレンチコメディの傑作が一挙公開!公式サイト:
http://www.zaziefilms.com/etaix/配給:ザジフィルムズ 協力:シネマクガフィン
★2022年12月24日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開!ピエール・エテックス Pierre Étaix 1928年11月23日 フランス中部ロワール県ロアンヌ生まれ
2016年10月14日逝去 享年87歳
映画監督・俳優・道化師・手品師・イラストレーター・作家・音楽家
幼少の頃から、チャールズ・チャップリン、バスター・キートン、ハロルド・ロイド、ローレル&ハーディ、マックス・ランデーの喜劇映画や、ロアンヌにやってきたサーカスに夢中になる。ロム、ダリオ=バリオ、ピポなどのクラウン(道化師)に憧れ、ピアノ、アコーディオン、ヴァイオリン、トランペット、マンドリンなどの楽器を習得し、体操やダンスも習う。16歳の頃から地元のレビューなどで、 パントマイムやイリュージョン、クラウンなどの芸を磨く。また、ステンドグラス作家のテオドール・ジェラール・ハンセンに師事し絵やデザインの素養も身につける。
パリに出て艶笑雑誌「Le Rire」や「Fou-Rire」のイラストレーターとして身を立てる。
1954年、ジャック・タチと運命的に出会い、タチの『ぼくの伯父さん』のための製図家、アシスタントとして雇われる。『ぼくの伯父さんの休暇』と『ぼくの伯父さん』の小説版の執筆を請け負ったジャン=クロード・カリエールと出会い、意気投合し、生涯の友となる。
二人は自主制作で8ミリ映画を作る。プロデューサーのポール・クロードンの目に留まり、エテックス監督、カリエール脚本のコンビで、1961年から7 年の間に、タチの流れを汲む、台詞に頼らない、視覚的・音響的ギャグを駆使した、3本の短編映画『破局』『幸福な結婚記念日』『絶好調』、4本の長編映画『恋する男』『ヨーヨー』『健康でさえあれば』『大恋愛』、計7本の独自のスタイルの喜劇映画を制作した。
★今回の特集で、この長編4作品と短編3作品を一挙公開。『恋する男』を除く 6 作品が、 日本では劇場正式初公開。
その後、エテックスは、サーカスの世界で、名門メドラーノの道化師ニノとのコンビで活躍するようになる。『大恋愛』で共演した、サーカスの名門フラテリーニ一座の血を引く歌手のアニー・フラテリーニと結婚。二人でクラウンのコンビを組むだけでなく、1974年には、国立サーカス学校(後に、アカデミー・フラテリーニと改名)を開校した。
エテックスは映画俳優としても活躍。手先の器用さを買われ、ロベール・ブレッソンの『スリ』やルイ・マルの『パリの大泥棒』ではスリの役。フェデリコ・フェリーニの『道化師』では、妻や、尊敬していたシャルリー・リヴェルらとともに現役のクラウンとして実名で出演。タチやエテックスのファンだったオタール・イオセリアーニの『ここに幸あり』や『皆さま、ごきげんよう』、大島渚の『マックス、モン・アムール』、アキ・カウリスマキの『ル・アーヴルの靴みがき』などの映画にも出演している。
エテックス自身が監督した作品は、フランスの法律上の問題により、シネマテークなどを除いて長く劇場で上映されていなかったが、ジャン=リュック・ゴダール、ジャック・リヴェット、レオス・カラックス、ミシェル・ゴンドリー、デヴィッド・リンチなどの署名活動により、2010年に裁判で勝訴し、すべての権利を取り戻した。エテックス監修のもとデジタル修復を施され、世界各国で再び上映することが可能となり、この10年でエテックスの再評価は格段に進んでいる。
【上映作品】*長編*◆『恋する男』 原題:LE SOUPIRANT
※日本初公開時の邦題:『女はコワイです』(1963年東和配給)
監督・脚本・主演:ピエール・エテックス
脚本:ジャン=クロード・カリエール
1962年/フランス/モノクロ/ヨーロッパ・ヴィスタ/ モノラル/ 84分
字幕:井村千瑞
©1962 - CAPAC
ブルジョワの出自ながら、天文学の研究に没頭して引きこもりの三十男。ある日両親に結婚を命じられ、伴侶となる女性を探しに街に繰り出すが、トホホな出来事の連続。最後に自宅に下宿していたカタコトのフランス語しか話せないスウェーデン人の女性に求婚するという「結婚」をキーワードにした コメディ。
1963年 ルイ・デリュック賞 受賞
◆『ヨーヨー』 原題:YOYO
監督・脚本・主演:ピエール・エテックス
脚本:ジャン=クロード・カリエール
1964年/フランス/モノクロ/ヨーロッパ・ヴィスタ/モノラル/ 98分
字幕:神谷直希
©1965 - CAPAC
1965年 カンヌ国際映画祭 青少年向最優秀映画賞 受賞
1965年 ヴェネチア国際映画祭 国際カトリック映画事務局賞 受賞
大きな城に暮らす大富豪の男。1929年の世界恐慌で破産し、かつて愛したサーカスの曲馬師の女性と再会し、その間にできていたことを知らなかった息子と三人で、城を捨てどさ回りの旅に出る。それは彼がかつて味わったことのない満ち足りた日々だった。サーカス界で成功をおさめた息子はヨーヨーという人気クラウンになる。第二次世界大戦が終わり、ヨーヨーはかつて父が所有していた城を取り戻そうとする…
額縁の中から、ヨーヨーをしながら出てくる男。虎やライオンの皮が敷かれた大邸宅。数人の執事が食事の世話をしたり、本を読み聞かせたりと贅沢だけど、どこか孤独な感じもします。破産して、サーカスの一団として息子と共に暮らす彼は幸せそう。
エテックスが小さい頃から好きだったサーカスの世界をテーマにした映画。当時のエテックスは父親を亡くしたばかりで、父と息子の絆を描いた作品を作りたいという気持ちもあったそうです。前半、破産するまでは、無声映画時代を思わせる作り。音響はついていますが、セリフは文字で出てきます。後半はトーキー。時代の流れを感じさせてくれます。
圧巻は、ラストに出てくる象。取り戻したお城の披露パーティに現れるのですから、びっくり。(咲)◆『健康でさえあれば』 原題:TANT QU’ON A LA SANTÉ
監督・脚本・主演:ピエール・エテックス
脚本:ジャン=クロード・カリエール
1965年/フランス/パートカラー/ヨーロッパ・ヴィスタ/モノラル/67分
字幕:横井和子
©1973 - CAPAC – Les Films de la Colombe
なかなか寝付けない男の一夜を描いた〈不眠症〉、映画館にいたはずが、幕間に流れるCMのおかしな世界へ入り込んでしまう〈シネマトグラフ〉、近代化が進む都市で人々が受ける弊害をシュールに描いた〈健康でさえあれば〉、都会の夫婦・下手くそハンター・偏屈な農夫が織りなす田園バーレスク〈もう森へなんか行かない〉の4編からなるオムニバス・コメディ。1966年にフランスで公開されたが、71年にエテックス自身によって再編集が施され、現バージョンに生まれ変わった。
◆『大恋愛』 原題:LE GRAND AMOUR
監督・脚本・主演:ピエール・エテックス
脚本:ジャン=クロード・カリエール
1968年/フランス/カラー/ヨーロッパ・ヴィスタ/モノラル/ 87分
字幕:寺尾次郎
©1968 - CAPAC
1969年 フランスシネマ大賞 受賞
1969年 カンヌ国際映画祭 国際カトリック映画事務局賞 受賞
工場を営む実業家の一人娘フロランスと結婚したピエール。義父から仕事を任され、夫婦仲も良好だけど、どこか満たされない退屈な日々。そんなある日、引退するベテラン秘書の後任に若く美しいアニエスが入社してきて、気もそぞろになる。隣で妻が寝ているのに、妄想がエスカレートして、若い彼女と寝ているベッドが、車のように走り出す・・・
冒頭、ロワール川沿いにあるトゥールの街が映し出され、カメラは、ひと際大きい教会の中へ。結婚式が行われようとしていて、新婦フロランスを演じているのは、のちにエテックスの妻となるアニー・フラテリーニ。新婦の顔を見ながら、今、隣にいるのはフロランスでなくてもよかったはず・・・と、過去に付き合った彼女たちのことを思い出すピエール。これはお互いさまかも。結婚して10年が経ち、町の噂好きの老婦人たちは、女性とすれ違って挨拶しただけのピエールのことを、浮気していると言いふらし、そのことがフロランスの母親の耳にも届きます。当然、娘に告げる母。一度は実家に帰る妻も、戻ってきてくれるのですが、ピエールの若い秘書への妄想はさらに膨らみます。悪友が若い秘書を落とす術をアドバイス。まったく男って!
いつもカフェで、まだ飲んでない飲み物を、ほかのことに気を取られている老いたギャルソンに持っていかれてしまう老紳士や、噂話をする老婦人たちなど、脇役の人たちもピリリと印象に残りました。(咲)*短編*◆『破局』原題:RUPTURE
監督・脚本:ピエール・エテックス、ジャン=クロード・カリエール
1961年/フランス/モノクロ/スタンダード/モノラル/12分
字幕:横井和子
©1961 – CAPAC
恋人から手紙を受け取った男。中には破かれた自分の写真が同封されていた!こちらも負けじと別れの手紙を書こうと奮闘するが、万年筆、インク、便箋、切手、デスク… なぜか翻弄されてどうしても返事を書くことができない。ジャック・タチの縁で出会ったエテックス×カリエールによる初の短編作。セリフがなく、音を使ったギャグが冴える秀作。
◆『幸福な結婚記念日』 原題:HEUREUX ANNIVERSAIRE
監督・脚本:ピエール・エテックス、ジャン=クロード・カリエール
1961年/フランス/モノクロ/スタンダード/モノラル/13分
字幕:井村千瑞
©1961 – CAPAC
1963年 アカデミー賞 最優秀短編実写映画賞 受賞
1963年 英国アカデミー賞 最優秀短編映画賞 受賞
テーブルに結婚記念日のディナーのセッティングをする妻。夫はプレゼントを抱えて駐車していた車に乗るが、前の車が邪魔になって出られない。クラクションを鳴らすと理髪中の客が出てきて車を動かしてくれる。今度は花束を買って車に戻ると、タクシーと間違えた老紳士が乗っている。なんとか追い出し、家路を急ぐが、パリの街は大渋滞・・・
13分の作品なのに、たっぷり長編を一本観たような充実感! 理髪中の男性や、タクシーになかなか乗れない老紳士など、この短編でも脇の人たちの末路がちゃんと描かれていて笑わせてくれました。やっとの思いで家にたどり着いた夫が目にしたのは・・・?
エテックス×カリエールのエッセンスがびっしり詰まった傑作です。(咲)
◆『絶好調』 原題:EN PLEINE FORM
監督・脚本・主演:ピエール・エテックス
脚本:ジャン=クロード・カリエール
1965年/フランス/モノクロ/ヨーロッパ・ヴィスタ/モノラル/14分
字幕:横井和子
©1971 - CAPAC
田舎でソロキャンプをする青年。しかし、警官に管理の行き届いたキャンプ場に行くように言われてしまう。そこは有刺鉄線で囲われた、まるで強制収容所(キャンプ)で…。
当初は『健康でさえあれば』(65)の一部を成していたが、71年の再編集で外された。2010年にデジタル修復された際に、ほかの作品とともに公開され、短編として生まれ変わった。
posted by sakiko at 11:56|
Comment(0)
|
フランス
|
|