2022年11月13日

擬音 A FOLEY ARTIST 原題 擬音 A FOLEY ARTIST

2022年11月19日(土)より新宿K's cinemaほか全国順次公開 劇場情報

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©︎Wan-Jo Wang

映画は映像と音が結びついた芸術。
台湾映画界の音響効果技師・胡定一の目を通して描いた中華圏映画の映画史

出演:胡定一(フー・ディンイー)、台湾映画製作者たち
監督:王婉柔(ワン・ワンロー)
製作:リー・ジュンリャン
製作総指揮:チェン・チュアンシン
撮影:カン・チャンリー
サウンドデザイン:ツァオ・ユエンフォン
編集:マオ・シャオイー
日本語字幕:神部明世
2017/台湾/カラー/DCP/5.1ch/100分

映画に命を吹き込む音響効果技師

フォーリーアーティストと呼ばれる音響効果技師。台湾映画界で40年に及び音を作ってきたレジェンド的存在の胡定一の仕事を追いながら、台湾だけでなく、中国、香港の映画界の舞台裏を描き、中華圏の映画史を語っている。この作品は2017年に台湾で公開され、その年の台湾金馬奨で、主役の胡定一が「年度台湾傑出映画製作者賞」を受賞。2017年の東京国際映画祭でも上映された。

雑多なモノ、それこそガラクタのようなものが溢れるスタジオで、映画の登場人物の動きやシーン、雰囲気を追いながら、想像もつかないような道具と技を駆使して、あらゆる音を作り出す職人胡定一。「音の魔術師」の仕事を追う。
本作は、台湾映画界の音響効果技師胡定一の40年に及ぶフォーリー人生を記録したドキュメンタリーであり、彼の仕事を通して見た台湾映画史である。70本を超える胡定一の担当作品の数々が映し出され、王童(ワン・トン)、侯孝賢(ホウ・シャオシェン)、楊德昌(エドワード・ヤン)など、台湾映画が広く世界に認知された1980年代のニューシネマの登場。それ以前に担当した台湾映画も映し出され貴重な記録である。音響制作の老巨匠たち、さらには台湾映画のサウンドトラックを制作する伝説的な人物たちが映画の音を取り巻く環境の変化、未来のフォーリーの存在についても語る。さらには中国の新しい音響スタジオの様子まで取材し、現在の音響効果事情にも言及。

*フォーリーアーティストとは 公式HPより
足音、ドアの開閉音、物を食べる音、食器の音、暴風、雨、物が壊れる音、刀がぶつかる音、銃撃音、怪獣の鳴き声など、スタジオで映像に合わせて生の音を付けていく職人。大画面の向こう側、観客の目に触れない陰から作品の情感を際立たせる大事な役割を担いながらも、その存在はあまり知られていない。デジタル技術で作られた効果音は豊富にあるが、ひとつひとつの動作や場面に合う音は異なるため、鋭い聴覚と思いもよらないモノを使ってリアルな効果音を生み出す想像力が必要となる。

王婉柔(ワン・ワンロー)監督は自身のデビュー作、洛夫(ルオ・フー)という詩人を記録したドキュメンタリー『無岸之河』を制作した時に、超現実的な詩の世界を現場音だけで表現するには限界があると痛感。本格的に「音」について勉強しようと思ったことが本作品制作のきっかけとなったという。映画界のあらゆる技術的側面がデジタル化される時代が近づく中、この映画でフォーリーが創作であることを表した。

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©︎Wan-Jo Wang


昔、TVの番組で、日本の音響効果の方が出て来て、小石を竹製の行李(こうり)の中で動かし波の音を作ったり、刀でバッサリ切る音をバナナの葉?を振ることで出したりして、意外なもので音を作るのだと知り、映像で使われる音はそんな風にして作るのかと興味を持った。
胡定一さんのスタジオは音の宝箱だった。あるいはガラクタ置き場とも言える(笑)。それらを駆使して、胡さんは音を作る。この作品は、その音を長年作ってきた胡定一さんの仕事ぶりと、周りの映画に関わる方たちに取材したものだったけど、胡さんが関わってきた映画の数々を通して、台湾だけでなく、香港、中国の映画にも言及し、中華圏映画の歴史が伝わってきた。それらの映画の場面写真も多数出てきて、あの映画もこの映画も胡定一さんが音響効果を担っていたんだと知った。この10数年の台湾映画の数々を始め、古くは『村と爆弾』(1987)や『バナナパラダイス』(1989)など、そして香港映画の『インファナル・アフェア』も出てきて、この作品も音響効果は胡定一さんだったんだと知った。ここに出てきた作品の9割以上観ているかも。
映画は監督の名前で語られることが多いけど、監督以外のスタッフの仕事を追う事で、映画の違う面も見えてくる。第23回東京国際映画祭(2010)で上映された『風に吹かれて~キャメラマン李屏賓の肖像』は、侯孝賢監督や行定勲監督、是枝裕和監督の撮影監督を務めた李屏賓(リー・ピンビン)さんのドキュメンタリーだったけど、これも感動的だった。胡定一さんと共に参加した作品もある。この作品群を観て、再度、これらの古い作品を、音響効果や撮影効果などの側面も気にしながら再度観てみたいと思った(暁)。


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©︎Wan-Jo Wang


本作が、『擬音』のタイトルで東京国際映画祭で上映されたのを観て、とても感銘を受けたことを鮮明に覚えていて、2年ほど前のことかと思ったら、2017年の第30回東京国際映画祭のことでした。5年の時を経ましたが、公開されることをほんとうに嬉しく思います。
胡定一さんは、まさに音の魔術師。懐かしい映画の場面が、いくつも映し出され、この音も胡定一さんがこんな風に作り出したものだったのかと驚かされました。映像と共に記憶に残る音・・・ 機械で様々な音が作り出されるようになったとはいえ、手作りの醸し出す音は一味違います。胡定一さんは、この映画が完成した時には、長年在籍していた中影をお辞めになってフリーになっていたとのことですが、今もお元気とのことで安心しました。胡定一さんのこと、そして、フォーリーアーティストのことを本作を通じて、多くの方に知ってほしいと願っています。(咲)


公式サイト:https://foley-artist.jp/
配給・宣伝:太秦
協力:国家文化芸術基金会
後援:台北駐日経済文化代表処台湾文化センター
特別協力:東京国際映画祭

*シネマジャーナルHP 特別記事 
『擬音 A FOLEY ARTIST』
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 王婉柔(ワン・ワンロー)監督インタビュー


posted by akemi at 20:39| Comment(0) | 台湾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

愛国の告白ー沈黙を破る Part2ー

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監督/撮影/編集/製作:⼟井敏邦
編集協⼒:尾尻弘⼀、渡辺真帆、⼩林桐美
整⾳:藤⼝諒太
デザイン:野⽥雅也

パレスチナ人住民とユダヤ人入植者が隣接して暮らすヘブロン市で兵役に就いた元イスラエル軍兵士、ユダ・シャウールらによって2004年に創設されたグループ、「沈黙を破る」。
⼟井敏邦監督は、2005年から3年間にわたって彼らを取材。2009年に劇場公開された『沈黙を破る』で、“占領軍”の兵士としてパレスチナの人々に権力を行使した経験を持つ若いイスラエル兵たちの苦悩する姿と証言、そして占領地のすさまじい実態を描いている。
あれから、13年、占領と武力攻撃はさらに強化され、一層右傾化しているイスラエル。そんな状況の中で活動を続ける「沈黙を破る」には、政府や右派勢力からの攻撃も急速に強まっている。
本作では、それでも屈せず活動を続ける「沈黙を破る」の姿を追っている。
「沈黙を破る」の活動を続ける元将兵たちが、「裏切り者」「敵のスパイ」という非難・攻撃のなかで、どのように自分自身を支え、信念を貫いているのか・・・ 
「自国の加害と真摯に向き合い、それを告発し、是正しようとする」こと、自国と国民がモラルを崩壊させてしまうことへの危機感から声を上げ行動を起こす行為は「祖国への裏切り」なのか。むしろそれこそ真の“愛国”ではないのかと、監督は問いかける・・・

1985年以来、34年間一貫してパレスチナ・イスラエル現地を取材、これまでガザ地区、ヨルダン川西岸、東エルサレムなどパレスチナ人地区とイスラエルについての多数のドキュメンタリー映像や著書を発表してきた映像ジャーナリストの土井敏邦監督が、キャリアの集大成として制作したドキュメンタリー映画。

国家権力を握った者の、人や土地に対する支配欲によって、自分の意志ではなく加害者にならざるをえない立場に置かれるという非情。古今東西繰り返されてきた歴史で、それが今も世界の各地で続いています。誰しも戦争になど加担したくないはず。国家という枠組みの中で、逆らえない悲しさ。国民が平穏に暮らせることこそ考えるべきなのに、攻撃的な国家権力者を持ってしまった不幸・・・ それは、いつまた私たちにも降りかかってくるかもしれません。 そんなことを思い起こさせられました。
それにしても、ネタニヤフ元首相の復権で、ますますひどくなりそうなイスラエルのパレスチナへの仕打ち。パレスチナの人たちが気の毒なのはもちろんですが、加害者という被害者を増やしてしまうことが悲しい。(咲)



公開記念アフタートークイベント
新宿 K's Cinema 2022年11月19日(土)〜12月9日(金) 連日開催
*すべて上映後に開催
11月19日(土)初日 土井敏邦監督+アブネル・グバルヤフ氏(「沈黙を破る」代表)によるスペシャルビデオメッセージ
20日(日)ジャン・ユンカーマンさん(映画監督)+土井敏邦監督
21日(月)川上泰徳さん(中東ジャーナリスト)+土井敏邦監督
22日(火)錦田愛子さん(慶応大学准教授/中東現代政治)+土井敏邦監督
23日(水・祝)根岸季衣さん(女優)+土井敏邦監督
24日(木)伊勢真一さん(映画監督)+土井敏邦監督
25日(金)永田浩三さん(武蔵大学教授/ジャーナリスト)+土井敏邦監督
26日(土)伊勢真一さん(映画監督)+土井敏邦監督
27日(日)川上泰徳さん(中東ジャーナリスト)
28日(月)土井敏邦監督
29日(火)土井敏邦監督
30日(水)土井敏邦監督

12月1日(木)ダニー・ネフタイさん(在日イスラエル人)+土井敏邦監督
2日(金)新田義貴さん(映像ジャーナリスト)+土井敏邦監督
3日(土)金平茂紀さん(ジャーナリスト)+土井敏邦監督
4日(日)渡辺えりさん(女優・劇作家)+土井敏邦監督
5日(月)ダニー・ネフタイさん(在日イスラエル人)+土井敏邦監督
6日(火)ハディ・ハニーさん(在日パレスチナ人)+土井敏邦監督
7日(水)山本薫さん(慶応大学専任講師)+土井敏邦監督
8日(木)鈴木啓之さん(東京大学特任准教授/パレスチナ現代史)+土井敏邦監督
9日(金)最終日 土井敏邦監督
(登壇者は、こちらのサイトでご確認ください)


★1月の上映予定★
フォーラム仙台
 1月13日(金)から~1月19日(木)
*1月14日(土)、15(日)は本編上映後アブネル・グバルヤフ氏(「沈黙を破る」代表)によるスペシャルビデオメッセージの上映あり

名古屋シネマテーク
 1月14日(土)~1月20日(金)
*1/14(土)初日・土井敏邦監督の舞台挨拶

佐賀・シアターシエマ
 1月20日(金)~1月26日(木)
*1/22(日)土井敏邦監督によるトークイベント

長野・松本CINEMAセレクト
  1月29日(日)


2022年/⽇本/170分(第⼀部100分・第⼆部70分)
配給:きろくびと
公式サイト http://doi-toshikuni.net/j/aikoku
★2022年11月19日(土)より新宿K's cinemaにてロードショー 全国順次公開


posted by sakiko at 17:35| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

戦地で生まれた奇跡のレバノンワイン   原題:WINE and WAR

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監督:マーク・ジョンストン、マーク・ライアン
脚本 : マーク・ジョンストン、マーク・ライアン、マイケル・カラム
プロデューサー:マーク・ジョンストン
製作総指揮:セルジュ・ドゥ・ブストロス、フィリップ・マスード
撮影:マーク・ライアン
音楽:カリム・ドウアイディー
編集:マレク・ホスニー、マシュー・ハートマン
出演:セルジュ・ホシャール、マイケル・ブロードベント、ジャンシス・ロビンソン、エリザベス・ギルバート、ミシェル・ドゥ・ブストロス、サンドロ・サーデ、カリム・サーデ、ジェームス・パルジェ、ジョージ・サラ、ジャン=ピエール・サラ、ナジ・ブトロス、ジル・ブトロス、ロナルド・ホシャール、ガストン・ホシャール、ファウージ・イッサ、サミー・ゴスン、ラムジー・ゴスン、マイケル・カラムほか

中東の⼩国レバノン。1975 年から断続的に内戦や隣国との軍事衝突が続き、その不安定な情勢を報じられることが多いが、実は知られざる世界最古のワイン産地の⼀つ。レバノンワインの起源は5千年前とも⼀説には7千年前ともされ、現在も約50のワイナリーが点在している。
本作には、戦争中もワインを作り続けてきた不屈のワインメーカーたちが登場する。

1975年から1990年にかけての内戦をものともせず、レバノンワイ ンを世界に売り込み「レバノンワインの⽗」と呼ばれたシャトー・ミュザールの2代⽬セルジュ・ホシャール。
1978年、内戦から3年⽬に設⽴したワイナリー、シャトー・ケフラヤのオーナー、ミシェル・ドゥ・ブストロス。1982年のイスラエル侵攻では、ブドウ畑の上空でイスラエル軍とシリア軍のジェット機による空中戦を体験した。
シリアのドメーヌ・ド・バージュラスとレバノンのシャトー・マー シャスのオーナーであるサンドロ&カリム・サーデ。シリア内戦の最中もワイン造りを続け、2020年 8 ⽉ 4 ⽇のベイルート⼤爆発では⾟くも死を免れたことで世界的な ニュースとなった。
戦争ではなく平和をもたらすために内戦中にワイン造りを始めた修道院の神⽗。
⾃分で⾝を守れるようにと 11 歳 で銃の扱い⽅を教えられ、⽗の遺志とワイナリーを受け継ぐ⼥性。
内戦中、虐殺が起こった故郷の村で、村の再起のためにワイナリーを続ける夫婦・・・
極限の状況でもワインを造り続 けてきた 11 のワイナリーのワインメーカーたちが語る⼈⽣哲学や幸福に⽣きる秘訣とは?
「私がセルジュから学んだことは、ワインのことよりも⼈の⽣き⽅についてだった」と『⾷べて、祈って、恋をして』の著者エリザベス・ギルバートは語る・・・

レバノンというと、今ではすっかり戦争のイメージがつきまといますが、かつては、ベイルートが「中東のパリ」といわれたように、地中海に面した温暖で華やかさもある地でした。中東の中では、イスラーム教徒とキリスト教徒が半々という人口構成で、まさにワインの似合うところ。
地中海に沈んだ船からは、その昔、古代レバノン⼈であるフェニキア⼈がワインを輸出するときに使った入れ物である素焼きの壺「アンフォラ」がたくさん見つかっています。内陸のバールベックの遺跡には、ワインを作った形跡があるのですが、アンフォラは出土していなくて、ワインは地元で消費していたのだろうといわれています。

古い歴史を持つレバノンのワインを守るべく、内戦やイスラエル侵攻にさらされる中でも、不屈の精神でワインを作り続ける人たちの物語。さらに、内戦で壊滅状態と思っていたシリアでも、ワインを作り続けている人がいることにも胸が熱くなりました。
美味しいレバノン料理とともに、いつかレバノンでワインを味わいたいものです。(25年前に、旅費を払いながら、入院してレバノンに行き損ねた私!)(咲)


戦争が続くレバノンで。まさかワインが造られているとは思ってもみなかった。しかもイスラム教徒がほとんどだと思っていたから、お酒があるとは思ってもみなかった。でも、キリスト教徒もいて、イスラム教徒とキリスト教徒が半々くらいということを知り、それならワインもあるのだなと納得した。それどころかレバノンワインの起源は5千年前とも7千年前とも言われているということを知り、そんな昔からワインは造られてきて、爆撃が続く中でも、絶えることなく続いているということが驚きだった。
不屈の精神でワインを造り続けるレバノンのワインメーカーたちの心意気が素敵だなと思った。また、平和を求め、内戦中にワインを造り始めた修道院の神父の話を観て、ここでも宗教者がワインを造っていると思った。日本でも山梨・勝沼にある大善寺というお寺では1000年くらい昔から葡萄を育てワインを造ってきたらしい。ま、日本ではワインとは言わず、葡萄酒だったのだろうけど。今でも大善寺はワインのお寺として有名で、ワインを造っている。宿泊もできるので、5年くらい前にここに泊まり、帰りにここで作ったワインを買ってきたことがある。宗教とワインというのは、なかなか結び付かないけど、ワインが生活に密着したものとして根付いているということなのでしょう。レバノンのワインを見たことも飲んだこともないので、チャンスがあったら飲んでみたい。そして、爆撃にさらされながらもワインを造り続けてきたレバノンの方たちにエールを送りたい(暁)。


95分/アメリカ/2020年/ドキュメンタリー
配給:ユナイテッドピープル
公式サイト:https://unitedpeople.jp/winewar/
★2022年11月18日(金)アップリンク吉祥寺他にて全国順次ロードショー!




posted by sakiko at 16:11| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

マスター 先生が来る!  原題:Master

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©️B4U Motion Pictures, ©️Seven Screen Studio, ©️X.B. Film Creators

監督:ローケーシュ・カナガラージ(『囚人ディリ』)
音楽:アニルド・ラヴィチャンダル
出演:ヴィジャイ、ヴィジャイ・セードゥパティ、マーラヴィカ・モーハナン、アルジュン・ダース/ ナーサル(特別出演)

JD(ヴィジャイ)は、タミルナードゥ州の州都チェンナイにある名門大学で心理学(人格形成学)を教える名物教授。アルコール依存症気味で大学の運営本部や教授会からは何かと批判されているが、ユニークな教授法や自由な発想で学生たちには大人気。彼が実施を強く主張した学生会長選挙で暴動が起きてしまい、責任をとって休職し、700キロ離れた地方の少年院に90日の期間限定で赴く。
その少年院は、ギャングのバワーニ(ヴィジャイ・セードゥパティ)の影の支配のもと、少年たちが薬物漬けにされて犯罪行為を無理強いされていた。明日少年院を出所というときに殺人の罪を着せられそうになった2人の兄弟が、新任教師のJDに少年院の実態を訴え助けを求めようとするが、バワーニに知られて殺されてしまう。これにショックを受けたJDは、アルコールを断ち、バワーニの支配を終わらせ少年たちを更生させようと立ち上がる・・・

本作は、“大将”という愛称で親しまれ、インド:タミル語映画界の寵児となったヴィジャイの2年ぶり、64作目となるアクション大作。
超人的なカリスマ性と身体能力を誇り、満を持して登場すると無数の敵をなぎ倒す。キレキレのダンスや歌唱を劇中に何度もこなし、ヒロインも周りの人々も夢中にさせる漢っぷりを振りまく伊達男の主人公。様式美ともいえるお約束で観客を熱狂させてきたインドの娯楽アクション映画界。その中で、『ムトゥ 踊るマハラジャ』『ロボット』等で日本でも知られるラジニカーントの次を担うスーパースターとして、いま最も頂点を極めているのが、本作の主演ヴィジャイ。いきなり顔を出さず、まず足元やシルエットが映され、散々に観客を焦らしての初登場シーン。決め台詞を口にして悠然と歩み去るシーンで多用される仰角のスローモーション。本作はそんなお約束をしっかり押さえながらも、完全無欠のヒーローに対抗しうる強烈な悪役、バワーニに、スター映画とは距離を置く演技派として“タミル民の宝”の愛称で人気を集めるヴィジャイ・セードゥパティを配した対極的なWスターキャストとなっている。


本作では、二人のヴィジャイが互角の主役。オープニング、「大将(Thalapathy)ヴィジャイ」に続いて、「タミル民の宝(Makkal Selvan)ヴィジャイ・セードゥパティ」の名前が掲げられます。オープニング・クレジットで主役と悪役がこれだけ対等に扱われるのは、タミル語映画では実は珍しいことなのだそうです。ヒーローが最終的に勝利するのは大衆映画の決まり事ですが、その枠組みの中で悪役を最大限に力強く造形することに心を砕いたと、ローケーシュ監督は語っています。
その証拠に冒頭で語られるのは、バワーニの物語。17歳の時に両親を3人組のギャングに殺された上に、少年院に送られ、そこで散々辛酸を舐めさせられます。自分を痛めつけた者たちを見返そうと、トラック運送業という表向きの商売の裏で、密造酒の流通や麻薬取り引き、政治家の資金洗浄などを行い、ギャングの元締めにのし上がったのです。純真な少年が、敵や裏切り者を容赦なく殺す冷酷な男になった背景がしっかり描かれています。

JDが着任した少年院は、少年たちが皆、悪事に手を染めさせられていて、管理人たちもグル。指導すべき教師が居つかないのです。
意気揚々と着任し、「♪人生は短い、幸せでいよう♪」「♪教育は必要、やる気が必要♪」と歌いながら踊って鼓舞するのですが、勉強などする気のない少年たち。部屋も荒れ放題です。
JDを見込んで、少年院の教師として送り込むよう仕組んだのは、大学の新任講師の女性チャールー(マーラヴィカ・モーハナン)でした。チャールーは以前、NGOのメンバーとして少年院を調査し実態を聞かされていて、JDが改善してくれることを期待していたのでした。着任初日、いつものように酒浸りで、殺人の罪を着せられそうになっている兄弟の訴えが届かなかったのです。

少年院では、18歳を過ぎても出所しないでいる者たちが、バワーニの指令で動いているのですが、少年たちはバワーニの存在を知りません。少年院を仕切っているのは、ダースという青年。演じているアルジュン・ダースは、タミル映画の俳優には珍しく細身。顔立ちはヴィジャイたちと同様に濃いのですが、眼光鋭く、声が低音なのも魅力で、注目株ではないでしょうか。
JDを見込んだ女性教師チャールー役のマーラヴィカ・モーハナンも、知的でチャーミング。男たちの激しい抗争が続く中、清涼剤になっています。(咲)


★インディアンムービーウィーク2021 パート2で上映された人気作品

2021年/インド/タミル語/179分/ PG12(暴力シーンあり)
字幕:大西美保/監修:小尾 淳/協力:安宅直子
配給:SPACEBOX
宣伝:シネブリッジ
公式サイト: https://spaceboxjapan.jp/master
★2022年11月18日(金)新宿ピカデリーほか全国公開



posted by sakiko at 14:42| Comment(0) | インド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

奇跡の人 ホセ・アリゴー  原題:Predestinado, Arigó e o Espirito do Dr. Fritz 英題:A Dangerous Practice

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©2019 WMIX DISTRIBUIDORA LTDA. TODOS OS DIREITOS RESERVADOS.

監督::グスタヴォ・フェルナンデス
出演::ダントン・メロ/ジュリアナ・パエス/ジェームズ・フォークナー/アントニオ・サボイア

1955年、ブラジル南東部ミナスジェライス州の小さな町コンゴーニャス。鉱員だったホセ・アリゴーは、鉱員組合を作りながらも身体を壊し、今は雑貨店を営んでいる。ある日、夢にドイツ人医師アドルフ・フリッツが現れ、「お前の使命だ」と人々を治癒するよう諭される。何かに憑かれたように、アリゴーは病に冒された人たちに対し、素手で癌を取り除いたり、ナイフで白内障や傷口の施術を施したりする。神父からは、心霊治療は許されないと脅されるが、噂を聞いて大勢の人が押しかけ、奇跡を見たいと国外からも取材にやってくる。偽医者と告発され、実刑判決も受けるが、彼を慕う人々からの抗議が殺到。その後、釈放され治療を続けるが、やがて、使命の終わりと死を察知。自らの予言通り、1971年に交通事故で命を落とす。

無学にもかかわらず、200万人もの人の癌や白内障などを心霊手術で治した実在の人物ホセ・アリゴーの物語。本名は、ホセ・ペドロ・デ・フレイタス。小さい時から、「ホセ・アリゴー(農場の少年、愚か者と言った意味合い)」のあだ名で呼ばれていたとのこと。
信じがたいですが、映画の最後には、実際にナイフを目に突き刺して治癒している様子や、手を突っ込んで悪い部分を取り出したりしている本物のホセ・アリゴーの映像が出てきました。多くの人の病を治しながら、治療費を一切受け取らなかったことも、人々から敬愛された理由なのでしょう。
その一方で、神父をはじめ、ホセ・アリゴーのことをよく思わない人々がいたのも事実。従妹である奥様との間に、7人の子に恵まれましたが、何かに取りつかれ、自分であって自分でないような人生、果たして幸せだったのでしょうか・・・ (咲)

2022年/ブラジル/カラー/108分
共同製作:パラマウント・ピクチャーズ/協力:エデン
配給:エクストリーム
公式サイト:http://kisekinohito.com/
★2022年11月18日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、UPLINK吉祥寺他全国ロードショー!
posted by sakiko at 02:20| Comment(0) | ブラジル | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする