映画は映像と音が結びついた芸術。
台湾映画界の音響効果技師・胡定一の目を通して描いた中華圏映画の映画史
出演:胡定一(フー・ディンイー)、台湾映画製作者たち
監督:王婉柔(ワン・ワンロー)
製作:リー・ジュンリャン
製作総指揮:チェン・チュアンシン
撮影:カン・チャンリー
サウンドデザイン:ツァオ・ユエンフォン
編集:マオ・シャオイー
日本語字幕:神部明世
2017/台湾/カラー/DCP/5.1ch/100分
映画に命を吹き込む音響効果技師
フォーリーアーティストと呼ばれる音響効果技師。台湾映画界で40年に及び音を作ってきたレジェンド的存在の胡定一の仕事を追いながら、台湾だけでなく、中国、香港の映画界の舞台裏を描き、中華圏の映画史を語っている。この作品は2017年に台湾で公開され、その年の台湾金馬奨で、主役の胡定一が「年度台湾傑出映画製作者賞」を受賞。2017年の東京国際映画祭でも上映された。
雑多なモノ、それこそガラクタのようなものが溢れるスタジオで、映画の登場人物の動きやシーン、雰囲気を追いながら、想像もつかないような道具と技を駆使して、あらゆる音を作り出す職人胡定一。「音の魔術師」の仕事を追う。
本作は、台湾映画界の音響効果技師胡定一の40年に及ぶフォーリー人生を記録したドキュメンタリーであり、彼の仕事を通して見た台湾映画史である。70本を超える胡定一の担当作品の数々が映し出され、王童(ワン・トン)、侯孝賢(ホウ・シャオシェン)、楊德昌(エドワード・ヤン)など、台湾映画が広く世界に認知された1980年代のニューシネマの登場。それ以前に担当した台湾映画も映し出され貴重な記録である。音響制作の老巨匠たち、さらには台湾映画のサウンドトラックを制作する伝説的な人物たちが映画の音を取り巻く環境の変化、未来のフォーリーの存在についても語る。さらには中国の新しい音響スタジオの様子まで取材し、現在の音響効果事情にも言及。
*フォーリーアーティストとは 公式HPより
足音、ドアの開閉音、物を食べる音、食器の音、暴風、雨、物が壊れる音、刀がぶつかる音、銃撃音、怪獣の鳴き声など、スタジオで映像に合わせて生の音を付けていく職人。大画面の向こう側、観客の目に触れない陰から作品の情感を際立たせる大事な役割を担いながらも、その存在はあまり知られていない。デジタル技術で作られた効果音は豊富にあるが、ひとつひとつの動作や場面に合う音は異なるため、鋭い聴覚と思いもよらないモノを使ってリアルな効果音を生み出す想像力が必要となる。
王婉柔(ワン・ワンロー)監督は自身のデビュー作、洛夫(ルオ・フー)という詩人を記録したドキュメンタリー『無岸之河』を制作した時に、超現実的な詩の世界を現場音だけで表現するには限界があると痛感。本格的に「音」について勉強しようと思ったことが本作品制作のきっかけとなったという。映画界のあらゆる技術的側面がデジタル化される時代が近づく中、この映画でフォーリーが創作であることを表した。
昔、TVの番組で、日本の音響効果の方が出て来て、小石を竹製の行李(こうり)の中で動かし波の音を作ったり、刀でバッサリ切る音をバナナの葉?を振ることで出したりして、意外なもので音を作るのだと知り、映像で使われる音はそんな風にして作るのかと興味を持った。
胡定一さんのスタジオは音の宝箱だった。あるいはガラクタ置き場とも言える(笑)。それらを駆使して、胡さんは音を作る。この作品は、その音を長年作ってきた胡定一さんの仕事ぶりと、周りの映画に関わる方たちに取材したものだったけど、胡さんが関わってきた映画の数々を通して、台湾だけでなく、香港、中国の映画にも言及し、中華圏映画の歴史が伝わってきた。それらの映画の場面写真も多数出てきて、あの映画もこの映画も胡定一さんが音響効果を担っていたんだと知った。この10数年の台湾映画の数々を始め、古くは『村と爆弾』(1987)や『バナナパラダイス』(1989)など、そして香港映画の『インファナル・アフェア』も出てきて、この作品も音響効果は胡定一さんだったんだと知った。ここに出てきた作品の9割以上観ているかも。
映画は監督の名前で語られることが多いけど、監督以外のスタッフの仕事を追う事で、映画の違う面も見えてくる。第23回東京国際映画祭(2010)で上映された『風に吹かれて~キャメラマン李屏賓の肖像』は、侯孝賢監督や行定勲監督、是枝裕和監督の撮影監督を務めた李屏賓(リー・ピンビン)さんのドキュメンタリーだったけど、これも感動的だった。胡定一さんと共に参加した作品もある。この作品群を観て、再度、これらの古い作品を、音響効果や撮影効果などの側面も気にしながら再度観てみたいと思った(暁)。
本作が、『擬音』のタイトルで東京国際映画祭で上映されたのを観て、とても感銘を受けたことを鮮明に覚えていて、2年ほど前のことかと思ったら、2017年の第30回東京国際映画祭のことでした。5年の時を経ましたが、公開されることをほんとうに嬉しく思います。
胡定一さんは、まさに音の魔術師。懐かしい映画の場面が、いくつも映し出され、この音も胡定一さんがこんな風に作り出したものだったのかと驚かされました。映像と共に記憶に残る音・・・ 機械で様々な音が作り出されるようになったとはいえ、手作りの醸し出す音は一味違います。胡定一さんは、この映画が完成した時には、長年在籍していた中影をお辞めになってフリーになっていたとのことですが、今もお元気とのことで安心しました。胡定一さんのこと、そして、フォーリーアーティストのことを本作を通じて、多くの方に知ってほしいと願っています。(咲)
公式サイト:https://foley-artist.jp/
配給・宣伝:太秦
協力:国家文化芸術基金会
後援:台北駐日経済文化代表処台湾文化センター
特別協力:東京国際映画祭
*シネマジャーナルHP 特別記事
『擬音 A FOLEY ARTIST』

王婉柔(ワン・ワンロー)監督インタビュー