2022年11月12日(土) ~ポレポレ東中野(東京)
2022年11月26日(土) ~シネ・ヌーヴォ(大阪)
他順次公開予定
電気水道なし? 自給自足に挑む二人の男たちのスローライフを描く
監督:蔦 哲一朗 プロデューサー:増渕愛子
撮影監督:青木 穣 録音技師:佐々井宏太
制作進行:辻 秋之 助監督:久保寺晃一
撮影助手:石井綾乃/村上拓也
出演:須森隆文(ジン役)、寺岡弘貴(テラ役)
徳島県出身の蔦哲一朗監督(『祖谷物語-おくのひと-』)の最新作『雨の詩』は、徳島県美馬市の「アースシップMIMA」を舞台に撮影された。
ジンとテラは、「アースシップ」という自然エネルギーによって自給するオフグリッドハウス(公共のインフラを必要としない建物)に住み、電気水道なしの自給自足の生活に挑んでいる。雨水を濾過し、生活用水に変える循環機能をもった「アースシップ」。ガラス窓に囲まれた家は、朝になると覆いをどかし太陽の光が差し込まれる。そんな自然に配慮したサバイバルな生活をする二人の男たち。都会から移住してきたジンは、地元民のテラから山や川での狩りや採集の仕方など田舎での暮らし方を教わり、文学や詩に親しみ、自然を理解していく。川では鰻を捕り、草原では亀を捕まえ料理する。テラさんの見事な手さばき作業を真剣にみつめるジンさん。
都会の喧騒から離れた、日本の片隅で静かに生きる男たちの自給自足生活。そんな生活をする彼らの日常は、鳥の鳴き声や、森から聞こえてくる音や、川の流れる音につつまれ、大地の空気感が漂う。ジンはそれらに反応し、少しづつ田舎暮らしに慣れてゆく。雨が降れば水をため、農家の畑の手伝いをし芋?を掘ったり、農村の物々交換も体験。
デジタルが主流になった映画製作だけど、フィルム撮影を貫きつづける蔦監督。白黒フィルムで映し出されるノスタルジックな風景が映し出される。
蔦哲一朗監督は「時代は地球に配慮した社会に、表面上は少しずつ変わってきていますが、それでも多くの方はまだ資本主義が生んだ大量生産大量消費の便利さから抜け出せそうにはありません。私もその一人です。私はその罪悪感を映画で解消しようとしているに過ぎませんが、本当に自然の中に身を置いて、悪戦苦闘しながらも、あるべき生活に挑んでいる方々を見ると、勝手ながら救われた気持ちになります。
この映画はそんな皆さんに向けて作った讃歌です。私は今、東京の都会で子育てに奮闘する毎日ですが、ゆくゆくは田舎へ戻り、敬愛する詩人・山尾三省さんのように自然と対話しながら、渇いた心を潤す水みたいな映画を作れたらと思っています」と語る。
知らなかったが、便利、効率、利益を重視する生活から、自分の生活や暮らし、生きがいを尊重し、ゆったりとした時間を持つ暮らし方を「スローライフ」というらしい。そういう意味では、私はずっとそれを求めてきたと言えるかもしれない。そしてある程度は実践してきたと思う。しかし「ゆったりとした時間を持つ暮らし」だけは、なかなかできない。いつも時間に追われ、やることが溜まって、アップアップしている。そうしたくても、やりたいことがたくさんあるので、ま、それはしょうがないのかもしれない。
この映画は、それを実行する男たちを描いている。電気も水道もない中で、循環型の家の作りを利用して雨が降れば水を貯め、ガラス張りの家で、太陽と共に生活することで、電気なしの生活をしているようだ。たぶんゴーヤだと思うけど、普通、家の外に植えるのに、家の中に植えている。これはどういう意味なんだろうと思った。昆虫がいなければ実はならないわけだから、どうして家の中にゴーヤがある?と思った。あるいは窓を開けているのか。食べ物の確保も、買うのではなく、畑を作ったり、川や山、草原に狩りに行く。
食事をした後、焚火のそばで山尾三省さんの「火を焚きなさい」という詩が語られる。それがとても良かった。山尾三省さんは、ヒッピー文化に影響を受け、過度な文明化を批判し、自然と共に生きる道を選び、屋久島に移住。田畑を耕しながら詩の創作をしていた方です(暁)。
2021年/日本/ビスタサイズ/5.1ch/モノクロ/45分
製作・配給 ニコニコフィルム
文化庁「ARTS for the future!」補助対象事業
<公式HP> https://www.amenouta-movie.com/
<予告編リンク> https://youtu.be/G88e8vVIcqg
また、水上勉さんのエッセイを元に、この映画と同じようにスローライフを描いた中江裕司監督の『土を喰らう十二ヵ月』という作品が11月11日(金)より、新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほかで公開されます。
*シネマジャーナルHP 作品紹介 『土を喰らう十二ヵ月』
* シネマジャーナルHP スタッフ日記 『土を喰らう十二ヵ月』を観て(暁)
2022年11月06日
土を喰らう十二ヵ月
監督・脚本:中江裕司
原案:水上勉 『土を喰う日々−わが精進十二ヵ月−』(新潮文庫刊)
『土を喰ふ日々 わが精進十二ヶ月』(文化出版局刊)
料理:土井善晴
音楽:大友良英
出演:沢田研二、松たか子、西田尚美、尾美としのり、瀧川鯉八、檀ふみ、火野正平、奈良岡朋子
作家のツトム(沢田研二)は、人里離れた信州の山荘で、犬のさんしょと13年前に亡くなった妻の八重子の遺骨と共に暮らしている。9歳から13歳まで禅寺に住み、精進料理を身に着けた彼にとって、畑で育てた野菜や山で収穫する山菜などを使って作る料理は日々の楽しみのひとつだった。時折、担当編集者で恋人の真知子(松たか子)が東京から訪ねてくると一緒に料理をして食事を楽しんでいた。ところが、2人の心境に大きな変化を生じさせることが起きる。
映し出される料理は自前の畑で採れた野菜を使ったもの。どれも美味しそうで、スクリーンの向こう側に入り込み、ご相伴に預かりたくなる。高級食材を使えばいいというわけではないことがよくわかった。食べる2人が楽しそうなのも、またいい。松たか子がたけのこを食べている姿のなんと色っぽいことか。あのシーンはまるでラブシーンではないか!
しかも自然の情景が美しい。料理の話ではあるが、自然の風景も見どころの1つ。ロケ地にこだわった監督の思いがスクリーンいっぱいに伝わってくる。
本作を観る前に原作を読んだところ、里芋の皮の剥き方について書かれていた。ところが、何度読んでもどういうことなのか、私にはさっぱりわからない。映画にはその部分が描かれており、一目瞭然でわかる。映像の力を改めて感じた。(堀)
監督中江裕司、主演ジュリーこと沢田研二、料理監修土井善晴、しかもロケ地は信州。これはもう楽しみに観るしかない。この映画のロケ地は、私の第二の故郷、白馬村周辺だった! この北アルプス後立山連峰の山々が見える山麓が好きで、山やスキーに10年通ったあげく、鹿島槍ヶ岳という山の写真を撮るという大義名分で、鹿島槍高原と白馬村で1981年~86年まで、働きながら写真を撮っていた。
なので、この映画のロケ地が映し出されるたびに、これはきっとあそこだなとワクワクドキドキしながら観た。しかも野菜だけでなく、山菜や木の実、キノコなどを採って、それを料理するというシーンが十二ヵ月分も出てきて楽しませてくれた。ツトムが住んでいるという設定の山荘のあたりも40年くらい前に行ったことがある。白馬村の大糸線の駅の周辺は、長野オリンピックを堺に大きく変わったけど、ツトムが住んでいたあたりは、今もほとんど変わっていないように思う。
そして、土井善晴さんによる、定番でない料理方法と、おいしそうな料理の数々。ジュリーの料理の手つきも悦に入っている。ラジオで土井善晴さんが「沢田研二さんは自分の包丁を持ってきた」と言っていたので、けっこう料理を作ったりしているのかもと思った。
あまりにも、この映画にハマってしまったので、スタッフ日記に、この映画を観てのディープな文章を書いてしまった。良かったら見てください(暁)。
シネマジャーナルHP スタッフ日記
ディープな『土を喰らう十二ヵ月』案内(暁)
http://cinemajournal.seesaa.net/article/493262568.html
四季折々移ろう景色や、自前の畑や山の恵みの食材で作る素朴なお料理に目を惹かれましたが、何より心に残ったのは、近くで独り暮らしをしていた義母チエ(奈良岡朋子)のお葬式の場面でした。
ツトムの暮らす山荘で葬儀をあげたいという義弟夫婦(尾美としのり、西田尚美)の頼みで、ツトムは大工(火野正平)に棺桶と祭壇を頼み、写真屋(瀧川鯉八)に遺影を依頼します。お通夜の席のために、ツトムが真知子に手伝ってもらいながら胡麻豆腐を作る場面が素敵です。そして、近隣の人たちがチエに作り方を教えてもらった自家製のお味噌をそれぞれが祭壇にお供えする姿にじ~んとさせられました。こんな風に見送ってもらえる方は幸せだなと思いました。(咲)
2022年/日本/カラー/ヨーロッパビスタ/5.1ch/111分
配給:日活
©2022『土を喰らう十二ヵ月』製作委員会
公式サイト:https://tsuchiwokurau12.jp/
★2022年11月11日(金)より新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座他にて全国公開監督
ペルシャン・レッスン 戦場の教室 原題:Persian Lessons
HYPE FILM, LM MEDIA, ONE TWO FILMS, 2020 (C)
監督:ヴァディム・パールマン
出演:ナウエル・ペレーズ・ビスカヤート、ラース・アイディンガー、ヨナス・ナイ、レオニー・ベネシュ
1942年、ナチス占領下のフランス。ユダヤ人青年ジルは捕らえられ移送中のトラックの中で、手にしていたサンドイッチを、ペルシャ語の本と交換してほしいと同胞の男に頼まれる。レザという家主が出国する時に置いていった本だという。森の中で銃殺されそうになった時、ジルは本を掲げ、「自分はペルシャ人だ」と嘘をつき難を逃れる。
折しも、強制収容所のコッホ大尉が、部下にペルシャ人を見つけたら褒美をやると命じていた。コッホ大尉の前に連れていかれ、証拠を示せと言われ、たった一つ聞いていた単語を伝える。コッホ大尉は、戦争が終わったら、兄のいるテヘランでドイツ料理店を開くのが夢だという。ペルシャ語を教えてくれという大尉に、ジルは、父はペルシャ人だけど母はベルギー人、家で話していただけで読み書きはできないと伝える。ジルは、一日40の単語を教えることになる。すべて造語だ。
コッホ大尉のもとで囚人名簿の記入係をしていた女性が、字が汚いとほかの部署に飛ばされ、代わりにジルが名簿を担当することになる。造語を思いつくのに苦労していたジルは、囚人の名前から単語を作るようになる・・・
偽のペルシャ語を教えて、ホロコーストを生き延びた実話?と思ったら、ヴォルフガング・コールハーゼの短編小説に着想を得た物語。 とはいえ、あの時代、なんとかして生き抜こうと模索したユダヤ人は多々いることと思います。
ペルシャ語を学んだ私にとっては、ユダヤ人の青年がペルシャ人になりすまし、“偽”のペルシャ語レッスンを行うという物語に興味津々。 最初に、たった一つ知っている単語として出てきた「お父さん」は、「バーバー(ババ)」なのですが、字幕がバウバウになっていて、ちょっとがっかり。
1日40語ずつとはいえ、自分で作った偽の単語を記憶するのは、並み大抵のことではできません。演じたナウエル・ペレーズ・ビスカヤートは、アルゼンチン出身で、母語はスペイン語。ほかにドイツ語、イタリア語、フランス語も話せるそうで、まさにジル役にぴったり。 また、ジルのスバ抜けた記憶力は、戦後、思いもかけないことで役に立つというラストには、涙が出る思いでした。
ペルシャ語をご存じの方には、ほんの少しですが、本物のペルシャ語が重要な場面で出てきますので、お楽しみに♪
思えば、ヴァディム・パールマン監督の『砂と霧の家』(2003年)は、革命でイランからアメリカに亡命した一家の物語でした。もしかしたら、監督、イランにご興味が?? (咲)
2020年/ロシア、ドイツ、ベラルーシ/ドイツ語、イタリア語、フランス語、英語/129分/カラー/シネスコ/5.1ch/G
字幕翻訳:加藤尚子
提供:木下グループ 配給:キノフィルムズ
公式サイト:https://movie.kinocinema.jp/works/persianlessons
★2022年11月11日(金)より kino cinéma横浜みなとみらい他 全国順次公開
あちらにいる鬼
監督:廣木隆一
脚本:荒井晴彦
原作:井上荒野「あちらにいる鬼」(朝日文庫)
出演:寺島しのぶ 豊川悦司/広末涼子
「髪を洗ってやるよ」。
それは、男と女でいられる最後の夜のことだった。
1966年、講演旅行をきっかけに出会った長内みはると白木篤郎は、それぞれに妻子やパートナーがありながら男女の仲となる。もうすぐ第二子が誕生するという時にもみはるの元へ通う篤郎だが、自宅では幼い娘を可愛がり、妻・笙子の手料理を絶賛する。奔放で嘘つきな篤郎にのめり込むみはる、全てを承知しながらも心乱すことのない笙子。緊張をはらむ共犯とも連帯ともいうべき 3 人の関係性が生まれる中、みはるが突然、篤郎に告げた。「わたし、出家しようと思うの」。
2021年11月9日、満99歳で波乱の生涯を閉じた作家・僧侶の瀬戸内寂聴。人生を楽しむことに長け、歯に衣着せぬ発言に多くの女性が心酔してきた。そんな寂聴もかつては奔放な恋愛に生きていた。
本作は寂聴に出家を決意させることとなったある恋愛をモデルにした書かれた小説が原作である。しかもその原作を書いたのが寂聴の不倫相手の娘だという。“書く”ということの業を感じずにはいられない。
しかし、作品を見るとどろどろした感じはない。むしろ主人公と不倫相手の妻の2人の女性は清々しささえある。主人公・みはる、のちの寂光に寺島しのぶ、白木の妻・笙子を広末涼子が演じているからだろうか。そして、2人の間にいる白木篤郎に豊川悦司。嘘ばかりつき、クズな男だが豊川悦司が演じることで、色気の中に無邪気さが垣間見え、許せてしまうから不思議だ。3人の奇妙なトライアングルを濃密な人間ドラマとして紡いだ荒井晴彦の脚本と廣木隆一監督の演出の手腕によるところも大きいだろう。
2022年5月に公開された『瀬戸内寂聴 99年生きて思うこと』と併せてみることで、瀬戸内寂聴の嫋やかさがより理解できるのではないだろうか。(堀)
自由奔放に生き、不倫関係を断つために出家して瀬戸内晴美から瀬戸内寂聴となった頃、散々、テレビや週刊誌で取り沙汰されていて、彼女の生き様が否が応でも耳に入ってきたものです。それを不倫相手の小説家の娘さんである井上荒野が小説にしたということに驚かされます。広末涼子演じた白木の妻・笙子は、自身の母。不倫相手に凛として接する姿が潔いのですが、それが娘から見た母なのでしょう。そして、井上荒野が瀬戸内寂聴と長い間交流があったということにも、面白い縁を感じます。
寂聴さんは、映画をとても楽しみにされていたそうですが、残念ながら完成を待たずに旅立たれました。ご覧になったら、どんな感想を発したでしょう。(咲)
2022年/139分/R15+/日本
配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2022 「あちらにいる鬼」製作委員会
公式サイト:https://happinet-phantom.com/achira-oni/
★2022年11月11日(土)ロードショー
追想ジャーニー
監督:谷健二
脚本:竹田新
撮影:今井哲郎
出演:藤原大祐、高橋和也、
佐津川愛美 真凛 高石あかり 岡本莉音
赤間麻里子 根本正勝 設楽銀河 / 伊礼姫奈 外山誠二
母親とケンカした高校生の文也は、勉強もせずに居眠りしてしまう。気がつくと、なぜか舞台の上にいた。そばには見知らぬ男がいて、「今日がお前の正念場だ。ここを逃したら一生後悔することになるんだぞ」と進言してくる。やがて、同級生で幼なじみのくるみとクラスメイトのゆりえが舞台上に現れ、どちらと付き合うか決めるよう迫られる。夢と現実のはざまにいる文也に、見知らぬ男は「これが現実であり、自分は30年後のお前だ」と話す。そして、文也がいる舞台は過去の出来事を追想し、その時に選択した内容を変えられる不思議な場所だったが……。
中年といわれる年齢になってくると未来よりも過去に目が向きがち。あのときにこうしていれば今ごろ…。そんなことを思うのは誰にでも1つや2つあるだろう。でもそれは結果が出ている今だからわかること。自分に自信があればあるほど、その渦中には悪い結果になるなんて思いが及ばない。
主人公の文也はカッコいいと思っている。演じているのが藤原大祐なのだから、確かに見た目はいい。では内面はどうだろう。周りの人への配慮に欠けるようだ。自分の行動に責任を持たないところもある。30年後の自分と称する怪しげな男からそれを指摘されても素直に受け入れられない。結局、自分の人生を決めるのは自分なのだ。
他人事のように作品を見ていたら、最後の最後にやられてしまった。「若いときにああしていれば…」という発想自体に責任感の放棄がある。気がついた今、すべきことをすれば、過去の自分のやってきたことも含めて“よし”となるのだ。(堀)
2022年/日本/G/66分
配給:セブンフィルム
(C) 『追想ジャーニー』製作委員会
公式サイト:https://www.journey-movie.net/
★2022年11月11日(土)ロードショー