2022年11月27日
ミスター・ランズベルギス 原題:Mr. Landsbergis
監督:セルゲイ・ロズニツァ
ソ連崩壊に繋がったリトアニア独立運動を指導したミスター・ランズベルギスとは?
ヴィータウタス・ランズベルギス氏。
ピアニストであり、国立音楽院の教授である彼は、1989年から1991年にかけて起きたリトアニア独立運動の中心人物。
リトアニアの主権とソ連邦からの独立を訴える政治組織サユディス(=運動の意味)を創設し、独立運動を牽引。
1990年3月11日、第一回リトアニア最高会議で議⻑に選出され、同日、ソ連に対して独立を宣言。ゴルバチョフと対峙し、非暴力で勝利する。
ロズニツァ監督は、ヴィータウタス・ランズベルギス氏にインタビューを敢行。
彼が30年前の熾烈な文化的抵抗と政治的闘争を穏やかに語る姿を映し出すと共に、1980年代後半から1991年9月の独立まで各地で撮影されてきた断片的なアーカイヴ映像を用いて、リトアニア側からの視点でソ連からの独立とその先のソ連崩壊を描いた4時間8分の大長編ドキュメンタリー。
冒頭、1990年1月、ソ連の最高会議議長ゴルバチョフがリトアニアを訪れ、民衆から「ミスター、なぜリトアニアの独立を認めないのですか?」と問われ、「私は“ミスター”じゃない」と反論します。西側の権力者ではないという次第。続いて、出てくるのが、タイトル「ミスター・ランズベルギス」。見事な幕開けです。
これまでのロズニツァ監督作品と同じく、余計なナレーションや説明はありませんが、バルト海の小国リトアニアが、いかにして非暴力で独立を成し得たかが伝わってきます。ソ連が戦車で攻め込んできても屈しません。乗り込んできたソ連検察庁の官僚が、リトアニア検察庁の新検事による人事が無効だと威嚇しても、もうソ連検察庁の管轄ではないと堂々と対峙する姿には、なるほど!と感嘆しました。
バルト海3国のソ連からの独立で思い出すのは、「人間の鎖」です。独立を願って、リトアニア、ラトビア、エストニアの3国の人たち200万人が約600キロにわたって手をつなぎ、歌を歌った出来事。1989年8月23日のことでした。歌を通じて独立を願うという国民に支えられて、非暴力の独立が実現したのだと思いました。
かつて商社に勤めていた時に、モスクワに駐在していた方から聞いた話を思い出しました。まだソ連邦だったラトビアのリガに出張し、夜の9時過ぎにレストランに入り、ロシア語で「席はありますか?」と聞いたところ、「ない」と言われ、ほかの店を探すも、どこも開いてなくて、もう一度同じ店に入り、今度は英語で尋ねたところ、「さっきはなぜロシア語で聞いた?」と言いながら、席に案内してもらえたそうです。そこまでロシアを嫌うのかと思ったのでした。
今また、ウクライナに侵攻するロシア。実害にあわれているウクライナの人々はもとより、国境を接する元ソ連邦の一員だった国の人々も不安な気持ちでいることを思うといたたまれません。平和共存できる世界が、早く実現するよう祈るばかりです。(咲)
☆公開初日を記念して、配給を担当したサニーフィルムの有田氏が11月18日にヴィリニュスのヴィータウタス・ランズベルギス氏を訪ねた際撮影した、日本向けの特別コメントと氏によるチュルリョーニスのピアノ演奏の動画を公開初日12月3日・初回上映後に特別上映!
☆サニーフィルム 有田浩介様より
日本にとっては知られざる人ですが、現地のヴィリニュスでは本物の英雄でした。
先月、ヴィリニュスの氏を尋ねてきましたが、彼は映画は自分の話ではなく、
リトアニアの人々の話であり、そのことを日本の方に知ってもらいたいと言っていました。
大勢の人が集まってソ連軍から守ろうとした最高会議ビルの前には当時のブロックやバリケードが大切に保存されています。
そういうところからも国としてソ連からの独立を誇りに思ってることが伝わってきました。
写真は当時のバリケードです。ブロックには「ヴィータウタス、ありがとう」と書かれています。
撮影:サニー・フィルム
2021年/リトアニア=オランダ製作/リトアニア語、ロシア語、英語/248分/モノクロ・カラー
日本語字幕:守屋愛
配給:サニーフィルム
公式サイト:https://www.sunny-film.com/mrlandsbergis
★2022年12月3日(土)よりシアター・イメージフォーラムにて公開
2022年11月26日
あのこと 原題:L'evenement 英題:Happening
監督:オードレイ・ディヴァン
原作:アニー・エルノー「事件」
出演:アナマリア・ヴァルトロメイ(『ヴィオレッタ』)、サンドリーヌ・ボネール(『仕立て屋の恋』)
1960年代のフランス。アンヌは大学で文学を学び、作家になるのを夢見ている。教授からも詩の解釈が素晴らしいと目をかけてもらっている。そんなある日、なかなか生理が来ないので、医者に行くと妊娠だと告げられる。学位を取るための試験を目前にして、今は産めない。医師からは中絶は違法だから加担できないといわれる。なんとかしなければと、アンヌは解決策を模索するが、ついに12週目を迎える・・・
中絶が違法な時代。医師は中絶に加担したくないどころか、「医師の大半は女性に選択肢はないと考えている。妊娠を受け入れて」と告げるのです。必ずしも快楽の結果だけでない妊娠。いえ、快楽の結果だったとしても、女性に選択肢がないというのは理不尽です。
自分でなんとか処置しようとする姿が痛々しいです。
処置できたとしても、その後、医師に診てもらって診断書に「流産」と書かれれば問題にならないけれど、「中絶」と書かれれば刑務所行きの時代でした。
中絶が違法な中で、少女が奔走する話で思い出すのは、『4ヶ月、3週と2日』や『17歳の瞳に映る世界』です。
予期せぬ妊娠で辛い思いをするのは女性だけ。男性は妊娠させないことに、もっと気を使うよう、これらの映画を心して観てほしいと願います。
なお、フランスで中絶が合法化されたのは、1975年。
1974年、ジスカール・デスタン大統領時代に保健相になったユダヤ系の女性政治家、シモーヌ・ヴェイユの奔走によって合法化したもの。カトリック信者の多いフランスで大反対を受けながらの合法化。日本では、1948年に合法化されています。
原作は、2022年ノーベル文学賞を受賞したフランスの作家アニー・エルノーの短編「事件」。
エルノー自身が体験した壮絶な違法中絶をもとに描いた小説を映画化するにあたって、ディヴァン監督は、エルノーと1日一緒に過ごし詳しく話を聞いたとのこと。80歳を超えたエルノーが、まさに中絶を行う瞬間の話を始めた時、目に涙を浮かべていて、今なお癒えていない悲しみを感じたディヴァン監督。「政治的な背景をより正確に理解した上で、女性たちが決意の瞬間に抱いた恐怖に触れることができました」と振り返っています。
本作の原作「事件」は、「嫉妬」(早川書房)に併録されています。
また、アニー・エルノーが自身の年下男性との愛と性の体験を元に綴った原作を映画化した『シンプルな情熱』も記憶に新しいです。
『あのこと』でも、性への欲望を自然なものとして描いていることに注目いただければと思います。(咲)
☆フランス映画祭2022 横浜 オープニングセレモニーに登壇しました!
オードレイ・ディヴァン 監督
アナマリア・ヴァルトロメイさん
撮影:景山咲子
第78回ヴェネチア国際映画祭金獅子賞受賞
2021年/フランス/カラー/ビスタ/5.1chデジタル/100分
字幕:丸山垂穂
配給:ギャガ
公式サイト:https://gaga.ne.jp/anokoto/
★2022年12月2日(金)Bunkamuraル・シネマ他 全国順次ロードショー.
ワイルド・ロード(原題:One Way)
監督:アンドリュー・ベアード
脚本:ベン・コンウェイ
撮影:トピア・センピ
出演:コルソン・ベイカー(フレディ)、ケヴィン・ベーコン(フレディの父)、ストーム・リード(レイチェル)、トラヴィス・フィメル(ウィル)、ドレア・ド・マッテロ(ヴィック)
ギャングの組織から金とコカインを横取りしたフレディは、引き入れた仲間と落ち合う約束だった。腹部に銃弾を受けながらも命からがら逃げ出し、長距離バスに乗り込む。冷酷無比な女ボスのヴィックは、裏切りを絶対に許さない。仲間たちと連絡を取り続けるが、次々と捕まり殺されていく。フレディは、ひとり娘のリリーのためになんとしても金を手に入れて逃げ切りたい。父親らしいことが何もできなかった自分のせめてもの償いのつもりだった。出血多量で意識が朦朧としていくフレディは、これまで疎遠だった父に連絡を取って助けを乞うのだが。
ほとんどのストーリーがフレディが逃げ込んだ長距離バスの中で進みます。携帯電話でのやり取りで相手の場面が挿入され、仲間が追っ手に捕まっていくたびに緊迫感が増していきました。フレディは銃創から流れる血を元妻(看護士)の指示で止めますが、それに使うのが前の座席の女の子からもらったナプキン。そんな使い道があるとは。この女の子レイチェルがフレディに携帯を借りて、もう一つのストーリーが動き出します。とにかく携帯電話が必需品。なければ映画が進まない時代なんですね。
ケヴィン・ベーコンは『パトリオット・デイ』(2016)以来久しぶりの日本公開作です。フレディの父親役ですが、こちらもロクデナシ臭がプンプン。この作品、女性たちの強さに注目。(白)
2022年/アメリカ/カラー/シネスコ/97分
配給:アルバトロス・フィルム
(C)2022 INSPIRED CREATIONS FILM, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
https://wild-road.jp/
★2022年12月2日(金)全国ロードショー
月の満ち欠け
監督:廣木隆一
原作:佐藤正午
脚本:橋本裕志
撮影:水口智之
出演:大泉洋(小山内堅)、有村架純(正木瑠璃)、目黒蓮〈Snow Man〉(三角哲彦)、伊藤沙莉(緑坂ゆい)、田中圭(正木竜之介)、柴咲コウ(小山内梢)、菊池日菜子(小山内瑠璃)
小山内堅は仕事も家庭も順調だった。学生の頃に出会って結ばれた最愛の妻・梢(こずえ)と一人娘の瑠璃(るり)を失うなど思ってもみなかった。事故で一度に二人を失い、深い悲しみに沈んでいるとき三角哲彦という若い男性が訪れて奇妙なことを告げる。事故の日、瑠璃が面識のない自分に会いに来ようとしていたこと、さらに瑠璃はかつて自分が愛した“瑠璃”という女性の生まれ変わりではないか、と。あまりのことに激高した小山内は三角を追い返すが、梢の親友のゆいからも連絡がある。
小山内の生きる現在、三角の語る過去は27年も前のことです。共通するのは“瑠璃も玻璃も磨けば光る”からとられた“瑠璃”という名前のみ。生まれ変わりがあるのかないのか決めつけず、ひとまずあると信じて物語を観てください。
TBSの金曜ドラマ「妻、小学生になる。」を思い出します。そちらでは亡くなった妻が他の人の体を一時期借りて現れ、どちらの家族もかき回されますが、ラストは納得して妻は消えていきます。こちらは以前の記憶を持っての生まれ変わりなので、今の生活との時間差があるうえ気持ちの持っていき場が難しいです。「それでも逢いたい」人があなたにはいますか?
有村架純さん演じる瑠璃と目黒蓮さんの哲彦の許されない恋、「もう一度逢いたい」という想いの強さ、切なさに胸がきゅーっとなります。原作は2017年に直木賞を受賞した佐藤正午氏の同名小説。原作では正木瑠璃の夫・竜之介のその後が詳しく書かれていました。佐藤氏原作の映画化作品はこれで6本目。2021年に『鳩の撃退法』が公開されています。
メガホンをとる廣木隆一監督も2003年の『ヴァイブレータ』が印象的で、ずっとコンスタントに作品を送り出されています。今月だけでも『あちらにいる鬼』『母性』と公開作が続きます。女子高生の初恋も大人の色恋も、美味しい作品にしあげてくれる廣木監督をこれからも追っかけ。(白)
2022年/日本/カラー/シネスコ/128分
配給:松竹
(C)2022「月の満ち欠け」製作委員会
https://movies.shochiku.co.jp/tsuki-michikake/
★2022年12月2日(金)ロードショー
ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ(原題:The Electrical Life of Louis Wain)
監督・脚本:ウィル・シャープ
原案・脚本:サイモン・スティーブンソン
撮影:エリック・アレクサンダー・ウィルソン
ナレーション:オリビア・コールマン
出演:ベネディクト・カンバーバッチ(ルイス・ウェイン)、クレア・フォイ(エミリー・ウェイン)、アンドレア・ライズボロー(キャロライン・ウェイン)、トビー・ジョーンズ(ウィリアム・イングラム卿)
19世紀のロンドン。上流階級の家に長男として生まれたルイス・ウェインは20歳のときに父を亡くし、母と5人の妹たちを彼一人が養うことになった。美術学校を出た後、教師の職につくが薄給で食べて行けずフリーの画家となる。妹の家庭教師だったエミリーと恋に落ち、年の差や階級の違いのため周囲に猛反対されるも結婚にこぎつけた。ようやく穏やかな暮らしを手に入れた二人だったが、エミリーに末期がんが見つかる。エミリーは迷いネコのピーターを可愛がり、ルイスは余命少ない妻のためにピーターの絵を描き続けた。ルイスの猫の絵は評判を呼び、多くの注文が舞い込む。
世の猫好きな方々は作者を知らなくても、ルイス・ウェインの絵をきっとどこかで目にしたことがあるはずです。絵はがきは800種類もあり、かの夏目漱石もそれを手に入れていたのでは?とか。今回映画を見て初めてこういう人が描いていたんだ!と大発見をした気分でした。
ベネディクト・カンバーバッチは、気弱で経済観念に乏しいのに一家を背負わねばならなかった20代から、最盛期、統合失調症を患って精神病院に入院した晩年までを演じています。必死に働き、あれほど売れながら、絵の権利や契約の知識がなく晩年は貧困にあえいだルイスが気の毒です。上流階級の女性が仕事を持つことなどなかった時代、結婚が重要視されていました。そんな時代にルイスの妹たちは一人が精神を病んだことから、ほかの姉妹に結婚話が来なかったというのもルイスの重荷であったでしょう。
彼の人生の中で一番幸せだったに違いない愛妻エミリーとの3年あまりの生活を中心に、生き生きと描かれた猫の絵もふんだんに登場します。当時猫は犬のようにはペットとして飼われず、悪い印象だったというのが意外です。あんなに可愛いのに。
画家の役では筆持つ手元だけはプロの人に代わることもあるようですが、カンバーバッチ氏自らの筆さばきです。絵やイラスト好きな方、猫好きさん必見の作品。ルイスとエミリーの暮らしの背景となる家のたたずまいや外景が、泰西名画のように美しいです。ウィル・シャープ監督は、俳優・監督として注目されている日系英国人。かつて監督作で共演したオリビア・コールマンが落ち着いた声音でナレーションを務めています。(白)
ルイス・ウェイン・コレクション展が12月21日から。こちら
犬派か猫派か?と聞かれると、犬は飼ったことはあるけれど、猫は飼ったことのない私。友人には猫好きが多くて、それこそ猫可愛がりしています。ルイス・ウェインの生きたヴィクトリア朝の英国では、猫はあくまで鼠退治要員であって、ペットとして飼うものではなかったそうです。そも、西洋では、猫は魔女や悪魔の使いという位置づけだったのです。ルイス・ウェインは、妻の可愛がった迷い猫にピーターという名前も付けたのですが、友人から「まさか猫をペットにする気か?」と言われています。
1907年10月に、ルイス・ウェインはアメリカの新聞王ハーストから、「ニューヨーク・アメリカン」紙に猫の漫画を描いてくれと依頼を受けて渡米します。「日米協定で日本人は道を自由に歩けるようになったのに、猫は自由に道を歩けない」という言葉が出てきました。ルイスは、「猫の為にニューヨークに行く!」という意気込みだったようです。1910年に母が病気との報を受けて帰国しますが、死に目に会えませんでした。3年間アメリカで暮らしましたが、財産は作れなかったとのこと。帰国後、次々に家族が不幸に見舞われ、ルイス本人も精神に異常を来たしていきます。それでも、生涯、好きなだけ猫の絵を描いて過ごしたと知り、少しほっとさせられました。(咲)
2021年/イギリス/カラー/スタンダード/111分
配給:キノフィルムズ
https://louis-wain.jp/
(C)2021 STUDIOCANAL SAS - CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION
★2022年12月1日(木)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
2022年11月24日
ビー・ジーズ 栄光の軌跡 原題:The Bee Gees: How Can You Mend a Broken Heart
11月25日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー 劇場情報
監督:フランク・マーシャル
製作:ナイジェル・シンクレア ジーン・エルファント・フェスタ マーク・モンロー フランク・マーシャル
製作総指揮:デビッド・ブラックマン ジョディ・ガーソン スティーブ・バーネット ニコラス・フェラル キャシディ・ハートマン ライアン・サファーン
脚本:マーク・モンロー
撮影:マイケル・ドワイヤー
編集:デレク・ブーンストラ ロバート・A・マルティネス
出演:バリー・ギブ、ロビン・ギブ、モーリス・ギブ、アンディ・ギブ、エリック・クラプトン、ノエル・ ギャラガー(オアシス)、ニック・ジョナス(ジョナス・ブラザーズ)、マーク・ロンソン、クリス・マー ティン(コールドプレイ)、ジャスティン・ティンバーレイク、ピーター・ブラウン、ヴィンス・メロー ニー、ミカエル・ライリー、ルル、アラン・ケンドール、イボンヌ・ギブ、ビル・オークス、デニス・ブ ライオン、ブルー・ウィーバー
「マサチューセッツ」「ジョーク」「ホリディ」「ワーズ」「メロディ・フェア」「ステイン・アライヴ」など時代とジャンルを超越して名曲を生み出し続けたビー・ジーズ 栄光の軌跡
“人生のサウンドトラック”ともいえる名曲の数々を生み出してきた「ビー・ジーズ」。時代を疾走した楽曲と、彼らの人生を描き、ビー・ジーズのすべてを詰め込んだ音楽ドキュメンタリー。
ビー・ジーズは英国出身のバリーと双子の弟ロビンとモーリスのギブ3兄弟によるグループ。オーストラリアに渡った少年時代から音楽活動を開始し、1967年に帰英し本格的な音楽活動を始め、半世紀を超えるキャリアを誇る。時代の変遷の中、数々の名曲を作り続け、全世界でのレコードセールスは2億枚以上、そのうち全英・米 No.1ヒットが 20 曲、トップ10ヒットが70曲を数える。澄んだ歌声とスリーパート ハーモニーがトレードマーク。日本でも映画『小さな恋のメロディ』(1971)や『サタデー・ナイト・フィーバー』(1977)のサウンドトラックでその存在を知ったファンも多い。
しかしビー・ジーズの歩みは、実際には逆風と戦い続ける日々でもあった。ヒット曲連発の中、創作をめぐって想像を超えるプレッシャーにさらされ、世界的な名声を得た反動として壮絶なバッシングも受けた。それでも彼らは時代と立ち向かい、多くの人々の心に残る楽曲を作り続けた。
これは時代やジャンルを超越して名曲の数々を生み出し続けたビー・ジーズの3兄弟の「栄光の軌跡」を描いた感動のドキュメンタリー。
モーリスが2003年に他界するまで半世紀以上にわたる活動を続け、多くのアーティストに影響を与えた。貴重な写真や未公開映像を通して名曲誕生の瞬間を振り返り、エリック・クラプトン、ノエル・ギャラガー、クリス・マーティンらビー・ジーズを敬愛するアーティストたちが彼らについて語る。
監督は『インディ・ジョーンズ』シリーズなど数々の名作を手がけたプロデューサーで、『生きてこそ』などの監督作で知られるフランク・マーシャル。
『サタデー・ナイト・フィーバー』(1977)の主題歌「ステイン・アライブ」で始まり、もう胸が高鳴る。この映画には思い入れがある。1982年頃だったと思うけど、当時、長野県白馬村に住んでいて、松本にある中劇シネサロンで『サタデー・ナイト・フィーバー』が上映されるというので、遠く松本まで観に行った。中劇シネサロンは座席数40席くらいで、日本一小さいと言っていた映画舘だった。この映画を観終わって、白馬村までの車中、ずっとこの「ステイン・アライブ」の曲が頭の中で繰り返し流れ、「Ah, ha, ha, ha, stayin' alive, stayin' alive. Ah, ha, ha, ha, stayin' alive.」と、繰り返し口づさみながら暗い夜道の運転をして帰ったことを思いだした。そして、その次の日からもずっと、この曲が耳について離れないので、また次の休みの日にも観に行った。確か2週間くらい上映していたと思う。白馬、松本間は約60㎞、山間部なので片道2時間くらいはかかった。でも、どうしても行っておきたかった。それまで2回も観た映画はなかった。2回も観た、初めての映画だった。中劇シネサロンではほかにも映画を観たのに、他は何を観たか忘れてしまった。まだ映画にハマる7年くらい前。今回のことで中劇シネサロンを調べてみたら、2004年に閉館していた。それこそミニシアターブームの前からあった映画館だった。
だから「ステイン・アライブ」が最初に流れてびっくりしてしまった。私はこの曲が流行っていたというのを知らなかった。ただ、この映画の主題歌として知っていたが、ビー・ジーズのアルバムの中で、当時最高のアルバムセールスを記録した『サタデー・ナイト・フィーバー』のサウンドトラックアルバムと書かれていたので、そんなにヒットしたんだと思った。
この曲で、一気に当時を思い出し、たくさんのビー・ジーズの曲が流れ、懐かしさがこみ上げた。それにしても私は曲は知っていたけど、ビー・ジーズのことをなにも知らなかった。兄弟グループだというのもこの映画で知ったし、イギリス、アメリカと活動の場を変えていったというのも知らなかった。60年代から半世紀以上の歳月、変化し続け、時代を越えて歌を作り出していたビー・ジーズの軌跡を知ることができてよかった。オアシスのノエル・ギャラガーが「兄弟の歌声は誰にも買えない楽器だ」と讃えていたが、ほんとにそう思う。彼らの歌声は永遠だ(暁)。
ビー・ジーズのドキュメンタリーと知って、あ~大好きだったビー・ジーズ!と、喜び勇んで映画を観たのですが、実は、彼らについてほとんど何も知らなかったことを突き付けられました。
ビー・ジーズと聞いて思い浮かべるのは、「マサチューセッツ」「ジョーク」「ワーズ」といった曲でした。私がラジオをよく聴いていた中学・高校時代に、聴いて心地よいと思った曲たちです。なにしろラジオ。どんな顔をした人が歌っているのか知っていたのは、ビートルズやサイモン&ガーファンクルなど、ごく一部。
映画『小さな恋のメロディ』は観てないのですが、曲を聴いてみれば、ほとんど知っている好きな曲で、この映画のための楽曲だったのかとあらためて知りました。
『サタデー・ナイト・フィーバー』に至っては、映画は観ているし、20代の頃、会社帰りに皆で行ったディスコで「ステイン・アライヴ」はよく流れていた曲なのに、この映画を観て、ビー・ジーズの曲だったの?と驚いた次第。それまでのビー・ジーズの曲風とちょっと違っていたから、結び付かなかったのかも。
このところ、1960年代、70年代に活躍したミュージシャンの映画が数多く公開されていて、今さらながら知ることが多いです。今なら、ネットですぐに何でも情報が入るところですが、あの頃は、よほど興味を持って調べないとわからない時代でした。それはそれで、手探りの楽しさもあったことを懐かしく思い出します。(咲)
公式HP https://thebeegees-movie.com/#
2020年製作/111分/G/アメリカ
日本語字幕:大渕誉哉/字幕監修:吉田美奈子
配給:STAR CHANNEL MOVIES
監督:フランク・マーシャル
製作:ナイジェル・シンクレア ジーン・エルファント・フェスタ マーク・モンロー フランク・マーシャル
製作総指揮:デビッド・ブラックマン ジョディ・ガーソン スティーブ・バーネット ニコラス・フェラル キャシディ・ハートマン ライアン・サファーン
脚本:マーク・モンロー
撮影:マイケル・ドワイヤー
編集:デレク・ブーンストラ ロバート・A・マルティネス
出演:バリー・ギブ、ロビン・ギブ、モーリス・ギブ、アンディ・ギブ、エリック・クラプトン、ノエル・ ギャラガー(オアシス)、ニック・ジョナス(ジョナス・ブラザーズ)、マーク・ロンソン、クリス・マー ティン(コールドプレイ)、ジャスティン・ティンバーレイク、ピーター・ブラウン、ヴィンス・メロー ニー、ミカエル・ライリー、ルル、アラン・ケンドール、イボンヌ・ギブ、ビル・オークス、デニス・ブ ライオン、ブルー・ウィーバー
「マサチューセッツ」「ジョーク」「ホリディ」「ワーズ」「メロディ・フェア」「ステイン・アライヴ」など時代とジャンルを超越して名曲を生み出し続けたビー・ジーズ 栄光の軌跡
“人生のサウンドトラック”ともいえる名曲の数々を生み出してきた「ビー・ジーズ」。時代を疾走した楽曲と、彼らの人生を描き、ビー・ジーズのすべてを詰め込んだ音楽ドキュメンタリー。
ビー・ジーズは英国出身のバリーと双子の弟ロビンとモーリスのギブ3兄弟によるグループ。オーストラリアに渡った少年時代から音楽活動を開始し、1967年に帰英し本格的な音楽活動を始め、半世紀を超えるキャリアを誇る。時代の変遷の中、数々の名曲を作り続け、全世界でのレコードセールスは2億枚以上、そのうち全英・米 No.1ヒットが 20 曲、トップ10ヒットが70曲を数える。澄んだ歌声とスリーパート ハーモニーがトレードマーク。日本でも映画『小さな恋のメロディ』(1971)や『サタデー・ナイト・フィーバー』(1977)のサウンドトラックでその存在を知ったファンも多い。
しかしビー・ジーズの歩みは、実際には逆風と戦い続ける日々でもあった。ヒット曲連発の中、創作をめぐって想像を超えるプレッシャーにさらされ、世界的な名声を得た反動として壮絶なバッシングも受けた。それでも彼らは時代と立ち向かい、多くの人々の心に残る楽曲を作り続けた。
これは時代やジャンルを超越して名曲の数々を生み出し続けたビー・ジーズの3兄弟の「栄光の軌跡」を描いた感動のドキュメンタリー。
モーリスが2003年に他界するまで半世紀以上にわたる活動を続け、多くのアーティストに影響を与えた。貴重な写真や未公開映像を通して名曲誕生の瞬間を振り返り、エリック・クラプトン、ノエル・ギャラガー、クリス・マーティンらビー・ジーズを敬愛するアーティストたちが彼らについて語る。
監督は『インディ・ジョーンズ』シリーズなど数々の名作を手がけたプロデューサーで、『生きてこそ』などの監督作で知られるフランク・マーシャル。
『サタデー・ナイト・フィーバー』(1977)の主題歌「ステイン・アライブ」で始まり、もう胸が高鳴る。この映画には思い入れがある。1982年頃だったと思うけど、当時、長野県白馬村に住んでいて、松本にある中劇シネサロンで『サタデー・ナイト・フィーバー』が上映されるというので、遠く松本まで観に行った。中劇シネサロンは座席数40席くらいで、日本一小さいと言っていた映画舘だった。この映画を観終わって、白馬村までの車中、ずっとこの「ステイン・アライブ」の曲が頭の中で繰り返し流れ、「Ah, ha, ha, ha, stayin' alive, stayin' alive. Ah, ha, ha, ha, stayin' alive.」と、繰り返し口づさみながら暗い夜道の運転をして帰ったことを思いだした。そして、その次の日からもずっと、この曲が耳について離れないので、また次の休みの日にも観に行った。確か2週間くらい上映していたと思う。白馬、松本間は約60㎞、山間部なので片道2時間くらいはかかった。でも、どうしても行っておきたかった。それまで2回も観た映画はなかった。2回も観た、初めての映画だった。中劇シネサロンではほかにも映画を観たのに、他は何を観たか忘れてしまった。まだ映画にハマる7年くらい前。今回のことで中劇シネサロンを調べてみたら、2004年に閉館していた。それこそミニシアターブームの前からあった映画館だった。
だから「ステイン・アライブ」が最初に流れてびっくりしてしまった。私はこの曲が流行っていたというのを知らなかった。ただ、この映画の主題歌として知っていたが、ビー・ジーズのアルバムの中で、当時最高のアルバムセールスを記録した『サタデー・ナイト・フィーバー』のサウンドトラックアルバムと書かれていたので、そんなにヒットしたんだと思った。
この曲で、一気に当時を思い出し、たくさんのビー・ジーズの曲が流れ、懐かしさがこみ上げた。それにしても私は曲は知っていたけど、ビー・ジーズのことをなにも知らなかった。兄弟グループだというのもこの映画で知ったし、イギリス、アメリカと活動の場を変えていったというのも知らなかった。60年代から半世紀以上の歳月、変化し続け、時代を越えて歌を作り出していたビー・ジーズの軌跡を知ることができてよかった。オアシスのノエル・ギャラガーが「兄弟の歌声は誰にも買えない楽器だ」と讃えていたが、ほんとにそう思う。彼らの歌声は永遠だ(暁)。
ビー・ジーズのドキュメンタリーと知って、あ~大好きだったビー・ジーズ!と、喜び勇んで映画を観たのですが、実は、彼らについてほとんど何も知らなかったことを突き付けられました。
ビー・ジーズと聞いて思い浮かべるのは、「マサチューセッツ」「ジョーク」「ワーズ」といった曲でした。私がラジオをよく聴いていた中学・高校時代に、聴いて心地よいと思った曲たちです。なにしろラジオ。どんな顔をした人が歌っているのか知っていたのは、ビートルズやサイモン&ガーファンクルなど、ごく一部。
映画『小さな恋のメロディ』は観てないのですが、曲を聴いてみれば、ほとんど知っている好きな曲で、この映画のための楽曲だったのかとあらためて知りました。
『サタデー・ナイト・フィーバー』に至っては、映画は観ているし、20代の頃、会社帰りに皆で行ったディスコで「ステイン・アライヴ」はよく流れていた曲なのに、この映画を観て、ビー・ジーズの曲だったの?と驚いた次第。それまでのビー・ジーズの曲風とちょっと違っていたから、結び付かなかったのかも。
このところ、1960年代、70年代に活躍したミュージシャンの映画が数多く公開されていて、今さらながら知ることが多いです。今なら、ネットですぐに何でも情報が入るところですが、あの頃は、よほど興味を持って調べないとわからない時代でした。それはそれで、手探りの楽しさもあったことを懐かしく思い出します。(咲)
公式HP https://thebeegees-movie.com/#
2020年製作/111分/G/アメリカ
日本語字幕:大渕誉哉/字幕監修:吉田美奈子
配給:STAR CHANNEL MOVIES
人生クライマー 山野井泰史と垂直の世界
2022年11月25日(金)より角川シネマ有楽町ほか全国公開 劇場情報
今年3月、ヒューマントラストシネマ渋谷にて開催された「TBSドキュメンタリー映画祭2022」で、クローズド作品として上映され注目を浴びた『人生クライマー 山野井泰史と垂直の世界』が、絶賛の声を受け、さらに9分の新規カットを追加した《完全版》となって、11月25日(金)より劇場公開されます。
出演:山野井泰史、山野井妙子、他
監督:武石浩明
語り:岡田准一
撮影:沓澤安明 小嶌基史 土肥治朗 編集:金野雅也
MA:深澤慎也 音楽:津崎栄作
企画・エグゼクティブプロデューサー:大久保竜
チーフプロデューサー:松原由昌 プロデューサー:津村有紀
TBS DOCS事務局:富岡裕一
協力プロデューサー:石山成人 塩沢葉子
彼は何故、生きて還り続けられたのか?
「誰も成し遂げていないクライミングを成功させて、生きて還る」世界の巨壁に単独で挑み続けてきたクライマー・山野井泰史。2021年には、登山界最高の栄誉であるピオレドール生涯功労賞を受賞した。しかし、山野井の挑戦は終わらない。伊豆半島にある未踏の岩壁に新たなルートを引き、挑戦。そして再びヒマラヤにも…。
“垂直の世界”に魅せられた男の激しい生き様とは?
貴重な未公開ソロ登攀映像とともに振り返り、山野井のパートナーである、やはり日本有数の登山家である、妻・妙子(旧姓長尾)との日々の生活と登攀訓練の日々が描かれる。
山野井泰史:1965年生まれ。中学3年の時に日本登攀クラブに入り、高校卒業後'84〜'87年にかけてヨセミテに通い、その後、高難度のフリークライミングから海外のビッグ・ウォールまで、常に先鋭的な登攀を続け、その卓越したソロクライミング技術は、国内外から世界屈指のクライマーと評価を受けている。
世界の巨壁に「単独・無酸素・未踏ルート」にこだわり、挑み続けた登山家・山野井泰史。伝説のクライマーの足跡を貴重な未公開ソロ登攀映像とともに振り返る。1996年、ヒマラヤ・マカルー西壁。山野井泰史は、かつて世界最難関の巨壁に、たった一人で挑んだ。敗退し、その後もずっと、この「マカルー西壁」を登攀することを目標に登攀を続けていた。この「マカルー西壁」は、誰も直登できてはいない。永遠の課題かもしれない。TBS取材の始まりは、この1996年、ヒマラヤ最後の課題「マカルー西壁」に単独で挑む山野井泰史の《究極の挑戦》への密着取材から始まった。
その後、山野井は、2002年チベット・ギャチュンカン登頂後に凍傷で手足の指10本を失い、リハビリののち登攀を再開する。2008年には奥多摩山中で熊に襲われ重傷を負う。それでもなお“垂直の世界”に魅せられ、挑戦し続ける登山家の姿を追う。過酷な挑戦を続ける山野井泰史の日々。山野井が生きて還り続けられたのは、事前の準備のち密さと日々の訓練ともいえる。家の中にもたくさんのボルダリングの手がかりが設置されている。極限まで自らを追い込み、自らに妥協しない姿。同じく著名な登山家である妻の妙子との二人三脚が描かれる。
ナレーションは、”語り手”としてドキュメンタリー映画に初めて参加する岡田准一。岡田自身山好きで、クライマーは憧れの存在と語る。
監督は自らもヒマラヤ登山経験のあるジャーナリスト・武石浩明。公私ともに山野井と交流しながら追い続けた26年、長期に渡る取材を通して「極限の人」の実像に迫る
山野井泰史さんの絶え間ない挑戦は、妻、妙子さんとの二人三脚あってのものというのがよくわかりました。たとえ単独登攀だとしても、その前後の家族の協力と理解がなければできないわけで、妙子さんとは最強コンビですね。毎日が登攀の為の訓練。家の中のボルダリングの訓練場所だけでなく、奥多摩に暮らしていた時は回りの奥多摩の山々が毎日の訓練の場だったでしょう。奥多摩に暮らしているものだとばかり思っていたのですが、いつのまにか伊豆に引っ越していたのですね。伊豆高原の城ケ崎海岸の岩場。叔母の家が伊豆高原にあり、何度かこの場所を訪れたことがあるけど、ロッククライマーたちの訓練場所として有名だとは知りませんでした。伊豆に引っ越したら今度は、これら伊豆の海岸沿いの岩壁が訓練の場になっているのでしょう。また富士山へ自転車で行ける距離にあるのも、大きな利点なのだなと思いました。富士山での高所訓練は、海外の高い山へ登るときの訓練場所として最大のメリットがあります。
私も中国四川省の四姑娘(スークーニャン)山(4000m級)にトレッキングに行こうと計画した時、約2か月前の1989年6月4日に富士山に高所訓練のために初めて登りました。スキーを担いでの登頂。そして山頂からスキーで滑り降りたのですが、今でも山頂の縁から滑りだした時の急斜面の恐怖感は忘れられません。でも50mも滑り降りたら斜度が緩くなり、それからの滑降は快適でした。富士山山頂に登り、山頂から6合目くらいまでのスキー滑降、素晴らしい経験ができました。そして、山から下り、夕方電車に乗った時に、天安門事件が起こっていたのを知りました。私たちが富士山に登っていた時に天安門事件は起こっていたのです。せっかく高所訓練はしたけど、行っている場合ではないと、結局、中国へは行くのはあきらめました。富士山に登ったのは、その1回だけ。やはり他の山と違って、山頂近くは酸素が薄く、呼吸がけっこう苦しかったのを覚えています。
山野井さんは、8000m級の山へ一人で登るというスタイルですが、酸素マスク無しで登っているとのこと。3776mの富士山でさえ、呼吸が苦しくなったのに、8000m級の山へ酸素マスク無しで登っているのかと驚きです。
これまでたくさんの日本人クライマーが山へ挑戦し亡くなっていますが、山野井泰史さんは、その中で生き延びて来ました。挑戦する心と安全のことを考え抑制心のバランスを持っているからこそのことだと思いました。山では引き返す勇気も必要です(暁)。
公式HP https://jinsei-climber.jp/
製作:TBSテレビ 配給:KADOKAWA 宣伝:KICCORIT
2022年/日本/109分/5.1ch/16:9
今年3月、ヒューマントラストシネマ渋谷にて開催された「TBSドキュメンタリー映画祭2022」で、クローズド作品として上映され注目を浴びた『人生クライマー 山野井泰史と垂直の世界』が、絶賛の声を受け、さらに9分の新規カットを追加した《完全版》となって、11月25日(金)より劇場公開されます。
出演:山野井泰史、山野井妙子、他
監督:武石浩明
語り:岡田准一
撮影:沓澤安明 小嶌基史 土肥治朗 編集:金野雅也
MA:深澤慎也 音楽:津崎栄作
企画・エグゼクティブプロデューサー:大久保竜
チーフプロデューサー:松原由昌 プロデューサー:津村有紀
TBS DOCS事務局:富岡裕一
協力プロデューサー:石山成人 塩沢葉子
彼は何故、生きて還り続けられたのか?
「誰も成し遂げていないクライミングを成功させて、生きて還る」世界の巨壁に単独で挑み続けてきたクライマー・山野井泰史。2021年には、登山界最高の栄誉であるピオレドール生涯功労賞を受賞した。しかし、山野井の挑戦は終わらない。伊豆半島にある未踏の岩壁に新たなルートを引き、挑戦。そして再びヒマラヤにも…。
“垂直の世界”に魅せられた男の激しい生き様とは?
貴重な未公開ソロ登攀映像とともに振り返り、山野井のパートナーである、やはり日本有数の登山家である、妻・妙子(旧姓長尾)との日々の生活と登攀訓練の日々が描かれる。
山野井泰史:1965年生まれ。中学3年の時に日本登攀クラブに入り、高校卒業後'84〜'87年にかけてヨセミテに通い、その後、高難度のフリークライミングから海外のビッグ・ウォールまで、常に先鋭的な登攀を続け、その卓越したソロクライミング技術は、国内外から世界屈指のクライマーと評価を受けている。
世界の巨壁に「単独・無酸素・未踏ルート」にこだわり、挑み続けた登山家・山野井泰史。伝説のクライマーの足跡を貴重な未公開ソロ登攀映像とともに振り返る。1996年、ヒマラヤ・マカルー西壁。山野井泰史は、かつて世界最難関の巨壁に、たった一人で挑んだ。敗退し、その後もずっと、この「マカルー西壁」を登攀することを目標に登攀を続けていた。この「マカルー西壁」は、誰も直登できてはいない。永遠の課題かもしれない。TBS取材の始まりは、この1996年、ヒマラヤ最後の課題「マカルー西壁」に単独で挑む山野井泰史の《究極の挑戦》への密着取材から始まった。
その後、山野井は、2002年チベット・ギャチュンカン登頂後に凍傷で手足の指10本を失い、リハビリののち登攀を再開する。2008年には奥多摩山中で熊に襲われ重傷を負う。それでもなお“垂直の世界”に魅せられ、挑戦し続ける登山家の姿を追う。過酷な挑戦を続ける山野井泰史の日々。山野井が生きて還り続けられたのは、事前の準備のち密さと日々の訓練ともいえる。家の中にもたくさんのボルダリングの手がかりが設置されている。極限まで自らを追い込み、自らに妥協しない姿。同じく著名な登山家である妻の妙子との二人三脚が描かれる。
ナレーションは、”語り手”としてドキュメンタリー映画に初めて参加する岡田准一。岡田自身山好きで、クライマーは憧れの存在と語る。
監督は自らもヒマラヤ登山経験のあるジャーナリスト・武石浩明。公私ともに山野井と交流しながら追い続けた26年、長期に渡る取材を通して「極限の人」の実像に迫る
山野井泰史さんの絶え間ない挑戦は、妻、妙子さんとの二人三脚あってのものというのがよくわかりました。たとえ単独登攀だとしても、その前後の家族の協力と理解がなければできないわけで、妙子さんとは最強コンビですね。毎日が登攀の為の訓練。家の中のボルダリングの訓練場所だけでなく、奥多摩に暮らしていた時は回りの奥多摩の山々が毎日の訓練の場だったでしょう。奥多摩に暮らしているものだとばかり思っていたのですが、いつのまにか伊豆に引っ越していたのですね。伊豆高原の城ケ崎海岸の岩場。叔母の家が伊豆高原にあり、何度かこの場所を訪れたことがあるけど、ロッククライマーたちの訓練場所として有名だとは知りませんでした。伊豆に引っ越したら今度は、これら伊豆の海岸沿いの岩壁が訓練の場になっているのでしょう。また富士山へ自転車で行ける距離にあるのも、大きな利点なのだなと思いました。富士山での高所訓練は、海外の高い山へ登るときの訓練場所として最大のメリットがあります。
私も中国四川省の四姑娘(スークーニャン)山(4000m級)にトレッキングに行こうと計画した時、約2か月前の1989年6月4日に富士山に高所訓練のために初めて登りました。スキーを担いでの登頂。そして山頂からスキーで滑り降りたのですが、今でも山頂の縁から滑りだした時の急斜面の恐怖感は忘れられません。でも50mも滑り降りたら斜度が緩くなり、それからの滑降は快適でした。富士山山頂に登り、山頂から6合目くらいまでのスキー滑降、素晴らしい経験ができました。そして、山から下り、夕方電車に乗った時に、天安門事件が起こっていたのを知りました。私たちが富士山に登っていた時に天安門事件は起こっていたのです。せっかく高所訓練はしたけど、行っている場合ではないと、結局、中国へは行くのはあきらめました。富士山に登ったのは、その1回だけ。やはり他の山と違って、山頂近くは酸素が薄く、呼吸がけっこう苦しかったのを覚えています。
山野井さんは、8000m級の山へ一人で登るというスタイルですが、酸素マスク無しで登っているとのこと。3776mの富士山でさえ、呼吸が苦しくなったのに、8000m級の山へ酸素マスク無しで登っているのかと驚きです。
これまでたくさんの日本人クライマーが山へ挑戦し亡くなっていますが、山野井泰史さんは、その中で生き延びて来ました。挑戦する心と安全のことを考え抑制心のバランスを持っているからこそのことだと思いました。山では引き返す勇気も必要です(暁)。
公式HP https://jinsei-climber.jp/
製作:TBSテレビ 配給:KADOKAWA 宣伝:KICCORIT
2022年/日本/109分/5.1ch/16:9
2022年11月20日
Vin Japonais(ヴァン・ジャポネ)〜the story of NIHON WINE
2022 年11月25日(金)〜12月1日(木)まで
エビスガーデンシネマにて毎日10:30上映
日本ワインを世界へ発信する
ナビゲーター
Frederic Cayuera (フレデリック・カユエラ)
Florent Dabadie(フローラン・ダバディ)
出演:日本各地のワイナリーオーナー、ワイン醸造家、葡萄育成者、ソムリエ、レストランの方など
監督、プロデューサー:NORIZO
スペシャルアドバイザー:西浦昌文
音楽制作:ryu-ya
みなさんは日本ワインを飲んだことがありますか?
日本国内のワイナリーを訪問したことがありますか?
日本ワインを主題とした初のドキュメンタリー映画
世界的なワインスクールのアカデミー・デュ・ヴァンで講師を務める在日3年のフランス人のワイン・プロフェッショナル、フレデリック・カユエラ氏がメインナビゲーターとなり、日本ワインの歴史、現状、未来を紐解いていきます。
また、スペシャルナビゲーターとしてフランス人ジャーナリストのフローラン・ダバディ氏が参加し、グローバルな視点から日本ワインの魅力を語っています。在日22年。1998年から2002年まで、サッカー・フィリップ・トルシエ監督のパーソナル・アシスタント(監督の意思を選手たちに伝えていた)として知られる方です。
プロデューサー兼監督は、この映画の製作会社でもある日本ワイン専門商社の株式会社CruX(クリュックス)の運営する日本ワインのWebメディア「日本ワイン.jp」(https://nihonwine.jp/)の編集長NORIZO(ノリゾー)氏。
株式会社CruXは、日本ワインのメディア・教育・流通事業・Web メディア「日本ワイン.jp」の運営、「日本ワイン検定 日本ワインマスター・日本ワインアドバイザー呼称資格認定試験」の運営、プロ向け日本ワイン卸売サイト「CRAFT WINE SHOP」の運営など、日本ワインの成長・発展に資する事業と、地域創生に貢献する事業を展開している会社だそうです。
日本国内のワイナリーは近年増えていて、その数は約400ヵ所に迫る勢い。また、日本ワインのクオリティはどんどん向上して、世界のワインコンテストでも数々の金賞や銀賞などを受賞するまでになりました。しかし、大躍進する日本ワインが増える一方で、日本国内での認知度はまだまだ低く、海外においては「よく知らないし、よく分からない。そもそも日本でワインを造っているの?」という状態。
「この状況をなんとかしたい、変えたい!」という想いから、この素晴らしい "日本ワイン" と "日本の魂(ソウル)" を、世界に発信するプロジェクト"Vin Japonais(ヴァン・ジャポネ)" 映画制作プロジェクトが立ち上がり、日本ワインの魅力を世界に発信することを目的として制作されました。
日本ワインの代表的な生産地である山梨、長野、北海道のワイナリーや葡萄生産者を訪ね、ワイン造りや葡萄栽培への想い、日本の自然や雨が多い風土に焦点を当て、日本独自のワイン用葡萄の開発なども語りつつ、欧米の品種を日本の風土で育てる工夫なども多く紹介され、世界に認められるワインを造る努力の数々が紹介される。
また、“日本ワインの父”とよばれる川上善兵衛ゆかりの新潟のワイナリー「岩の原葡萄園」を訪ね、1890年創業の話が語られる。地主の川上善兵衛は地元の農民が食べていける作物として葡萄栽培にたどりつき、ワイン造りを始めたという。勝海舟の薦めやサントリーの鳥井信治郎との出会いと山梨・サントリー登美の丘ワイナリーとの関係や、塩尻桔梗ケ原・五一わいん創業者林五一との出会いと、葡萄苗の話など、興味深い話が続き、日本ワインの現在までの歩みと未来を描く。
またソムリエやレストランも出てきて、ワインと食べ物との関係、和食とワインのマリアージュなども語られる。
日本でのワイン醸造の歴史が語られ、シャトー・メルシャン勝沼にある「ワイン資料館」で見たことがある、日本人で初めてフランスにワイン造りを学びに行った高野正誠と土屋龍憲の写真が出てきた。
また山梨県勝沼周辺のワイナリーをたくさん訪ね、1000年近い歴史を持つ「甲州」というこの地域の葡萄品種を大事に育て、ワインを造っているワイナリーの方たちや葡萄生産者の「甲州」への想い、こだわりについて多く語っていたのが印象的だった。
冒頭、11月4日から公開されている『シグナチャー〜日本を世界の銘醸地に〜』(シャトー・メルシャンの醸造家・安蔵光弘さんの半生を描いている)の、安蔵光弘さん本人がナビゲーターの二人と語るシーンが出て来て、英語で会話していたので、思わずニヤリとしてしまった。日本のワイン業界を牽引したメルシャン顧問の浅井昭吾(麻井宇介)さんが『シグナチャー~』の中で、安蔵さんに「語学の勉強をしろよ」と言うシーンがあったから。このドキュメンタリーは、海外に日本ワインを紹介するというコンセプトなのでそうなのだろうけど、その後も英語やフランス語でナビゲーターの二人と会話をする人が多く、勝沼でワインに関わる人たちは、結構海外でワイン造りを勉強した人がいるのかもしれない。外国語を話せる人が多いと思った。
ヨーロッパの葡萄生産地と比べて雨の多い日本の気候。これを克服する術として、水はけがいい斜面に植えたり、葡萄に袋をかけたり傘を作るとか、それぞれの生産地で工夫して葡萄を栽培している様が紹介される。また、北海道や桔梗ケ原などの寒冷地では、温暖化の影響で葡萄を育てやすくなったという。葡萄の幹を斜めに植え、雪のシーズンは幹が折れないように地面に寝かす工夫をしたり、各地のいろいろな苦労やアイデアが出てきた。葡萄のいろいろな品種を試したり、適切な栽培方法をみつけることがいいワインを造るための肝であることが繰り返し語られていたのが印象に残った。
品種のことはよくわからないけど、浅井昭吾さんが桔梗ケ原で欧州品種メルローという葡萄品種を植えるよう働きかけた時の話も出てきて、それが後の「桔梗ヶ原メルロー」につながった話にはなるほどと思った。『シグナチャー~』の中でも浅井さんが農家の人の反対意見が多い中、このメルロー種の葡萄を広げた話が出てきたけど、そういう冒険があって、新たなワインが生まれるということなのだと思った。
また「日本のワインぶどうの父」と呼ばれる川上善兵衛が、親交のあった勝海舟の勧めで、葡萄栽培とワイン醸造を決めた話はとても興味深かった。そして、葡萄の品種改良に取り組み、虫害や多湿に強い日本初のワイン用品種であるマスカット・ベーリーA を開発したという話は、これも今につながるワイン物語だ。
ワインツーリズムというのも語っていたけど、そういうのが増えたらぜひ参加したいけど、私はいつもウィナリーに行く時は個人で行くことが多いので困っている。ワイナリーはだいたいバスの便などがない郊外や山の上にあるので、車で行かざるを得ない。ワインを飲みたいのに車で行くしかない状態で、近くに泊まるところか、そこで宿泊するとか、運転する人も飲めることができるような方法がないものかと思う。最近はシーズンになると、ワイナリー巡りのバスの便を仕立てるところも出てきたけど、道の駅とか経由のバスの便とか作ってくれたらとか、ワイナリーの駐車場で酔いがさめるまで休むことができるとか、そういうのがあったら、もっといろいろな場所へ行けるのにと思っている。
ここに出てきたワイナリーでは、シャトー・メルシャン勝沼、五一わいん、ヴィラデストワイナリーなどに行ったことがある。ヴィラデストワイナリーのレストランでは、まさにこの撮影が行われたテーブルで食事をした(笑)。ここから日が暮れる時の周りの景色が素晴らしかった。南方向には八ヶ岳が見え、西方向には北アルプス方面が見える。
今回、30ヵ所以上のワイナリーが出てきたけど、いつか機会があったら行ってみたいと思ったのは、「サントリー登美の丘ワイナリー」と、ベトナムに5年いたことがある方がやっているという小諸の「ジオヒルズワイナリー(風吹く丘のワイナリー)」。ワイナリーでベトナム料理が食べられるなんて面白そう。今年5月にこのワイナリーのそばを通ったので、その時に知っていたら行ったのにと残念。たくさんのワイナリーや葡萄生育者が出てきたけど、女性の醸造家やワイナリー経営者は二人くらいだった気がする。女性の従事者は少ないのでしょうけど、もう少し登場させてほしかったです(暁)。
【本作品のホームページ】 https://vinjaponais.jp/
2022年/日本
製作会社(制作:CruX)
*五一ワイン・エコノミーの話とウルグアイのワイナリーに行った時の話が下記スタッフ日記にあります。
一升瓶に入ったワイン「五一ワイン エコノミー」を買ってみました(暁)
http://cinemajournal.seesaa.net/article/472972369.html
エビスガーデンシネマにて毎日10:30上映
日本ワインを世界へ発信する
ナビゲーター
Frederic Cayuera (フレデリック・カユエラ)
Florent Dabadie(フローラン・ダバディ)
出演:日本各地のワイナリーオーナー、ワイン醸造家、葡萄育成者、ソムリエ、レストランの方など
監督、プロデューサー:NORIZO
スペシャルアドバイザー:西浦昌文
音楽制作:ryu-ya
みなさんは日本ワインを飲んだことがありますか?
日本国内のワイナリーを訪問したことがありますか?
日本ワインを主題とした初のドキュメンタリー映画
世界的なワインスクールのアカデミー・デュ・ヴァンで講師を務める在日3年のフランス人のワイン・プロフェッショナル、フレデリック・カユエラ氏がメインナビゲーターとなり、日本ワインの歴史、現状、未来を紐解いていきます。
また、スペシャルナビゲーターとしてフランス人ジャーナリストのフローラン・ダバディ氏が参加し、グローバルな視点から日本ワインの魅力を語っています。在日22年。1998年から2002年まで、サッカー・フィリップ・トルシエ監督のパーソナル・アシスタント(監督の意思を選手たちに伝えていた)として知られる方です。
プロデューサー兼監督は、この映画の製作会社でもある日本ワイン専門商社の株式会社CruX(クリュックス)の運営する日本ワインのWebメディア「日本ワイン.jp」(https://nihonwine.jp/)の編集長NORIZO(ノリゾー)氏。
株式会社CruXは、日本ワインのメディア・教育・流通事業・Web メディア「日本ワイン.jp」の運営、「日本ワイン検定 日本ワインマスター・日本ワインアドバイザー呼称資格認定試験」の運営、プロ向け日本ワイン卸売サイト「CRAFT WINE SHOP」の運営など、日本ワインの成長・発展に資する事業と、地域創生に貢献する事業を展開している会社だそうです。
日本国内のワイナリーは近年増えていて、その数は約400ヵ所に迫る勢い。また、日本ワインのクオリティはどんどん向上して、世界のワインコンテストでも数々の金賞や銀賞などを受賞するまでになりました。しかし、大躍進する日本ワインが増える一方で、日本国内での認知度はまだまだ低く、海外においては「よく知らないし、よく分からない。そもそも日本でワインを造っているの?」という状態。
「この状況をなんとかしたい、変えたい!」という想いから、この素晴らしい "日本ワイン" と "日本の魂(ソウル)" を、世界に発信するプロジェクト"Vin Japonais(ヴァン・ジャポネ)" 映画制作プロジェクトが立ち上がり、日本ワインの魅力を世界に発信することを目的として制作されました。
日本ワインの代表的な生産地である山梨、長野、北海道のワイナリーや葡萄生産者を訪ね、ワイン造りや葡萄栽培への想い、日本の自然や雨が多い風土に焦点を当て、日本独自のワイン用葡萄の開発なども語りつつ、欧米の品種を日本の風土で育てる工夫なども多く紹介され、世界に認められるワインを造る努力の数々が紹介される。
また、“日本ワインの父”とよばれる川上善兵衛ゆかりの新潟のワイナリー「岩の原葡萄園」を訪ね、1890年創業の話が語られる。地主の川上善兵衛は地元の農民が食べていける作物として葡萄栽培にたどりつき、ワイン造りを始めたという。勝海舟の薦めやサントリーの鳥井信治郎との出会いと山梨・サントリー登美の丘ワイナリーとの関係や、塩尻桔梗ケ原・五一わいん創業者林五一との出会いと、葡萄苗の話など、興味深い話が続き、日本ワインの現在までの歩みと未来を描く。
またソムリエやレストランも出てきて、ワインと食べ物との関係、和食とワインのマリアージュなども語られる。
日本でのワイン醸造の歴史が語られ、シャトー・メルシャン勝沼にある「ワイン資料館」で見たことがある、日本人で初めてフランスにワイン造りを学びに行った高野正誠と土屋龍憲の写真が出てきた。
また山梨県勝沼周辺のワイナリーをたくさん訪ね、1000年近い歴史を持つ「甲州」というこの地域の葡萄品種を大事に育て、ワインを造っているワイナリーの方たちや葡萄生産者の「甲州」への想い、こだわりについて多く語っていたのが印象的だった。
冒頭、11月4日から公開されている『シグナチャー〜日本を世界の銘醸地に〜』(シャトー・メルシャンの醸造家・安蔵光弘さんの半生を描いている)の、安蔵光弘さん本人がナビゲーターの二人と語るシーンが出て来て、英語で会話していたので、思わずニヤリとしてしまった。日本のワイン業界を牽引したメルシャン顧問の浅井昭吾(麻井宇介)さんが『シグナチャー~』の中で、安蔵さんに「語学の勉強をしろよ」と言うシーンがあったから。このドキュメンタリーは、海外に日本ワインを紹介するというコンセプトなのでそうなのだろうけど、その後も英語やフランス語でナビゲーターの二人と会話をする人が多く、勝沼でワインに関わる人たちは、結構海外でワイン造りを勉強した人がいるのかもしれない。外国語を話せる人が多いと思った。
ヨーロッパの葡萄生産地と比べて雨の多い日本の気候。これを克服する術として、水はけがいい斜面に植えたり、葡萄に袋をかけたり傘を作るとか、それぞれの生産地で工夫して葡萄を栽培している様が紹介される。また、北海道や桔梗ケ原などの寒冷地では、温暖化の影響で葡萄を育てやすくなったという。葡萄の幹を斜めに植え、雪のシーズンは幹が折れないように地面に寝かす工夫をしたり、各地のいろいろな苦労やアイデアが出てきた。葡萄のいろいろな品種を試したり、適切な栽培方法をみつけることがいいワインを造るための肝であることが繰り返し語られていたのが印象に残った。
品種のことはよくわからないけど、浅井昭吾さんが桔梗ケ原で欧州品種メルローという葡萄品種を植えるよう働きかけた時の話も出てきて、それが後の「桔梗ヶ原メルロー」につながった話にはなるほどと思った。『シグナチャー~』の中でも浅井さんが農家の人の反対意見が多い中、このメルロー種の葡萄を広げた話が出てきたけど、そういう冒険があって、新たなワインが生まれるということなのだと思った。
また「日本のワインぶどうの父」と呼ばれる川上善兵衛が、親交のあった勝海舟の勧めで、葡萄栽培とワイン醸造を決めた話はとても興味深かった。そして、葡萄の品種改良に取り組み、虫害や多湿に強い日本初のワイン用品種であるマスカット・ベーリーA を開発したという話は、これも今につながるワイン物語だ。
ワインツーリズムというのも語っていたけど、そういうのが増えたらぜひ参加したいけど、私はいつもウィナリーに行く時は個人で行くことが多いので困っている。ワイナリーはだいたいバスの便などがない郊外や山の上にあるので、車で行かざるを得ない。ワインを飲みたいのに車で行くしかない状態で、近くに泊まるところか、そこで宿泊するとか、運転する人も飲めることができるような方法がないものかと思う。最近はシーズンになると、ワイナリー巡りのバスの便を仕立てるところも出てきたけど、道の駅とか経由のバスの便とか作ってくれたらとか、ワイナリーの駐車場で酔いがさめるまで休むことができるとか、そういうのがあったら、もっといろいろな場所へ行けるのにと思っている。
ここに出てきたワイナリーでは、シャトー・メルシャン勝沼、五一わいん、ヴィラデストワイナリーなどに行ったことがある。ヴィラデストワイナリーのレストランでは、まさにこの撮影が行われたテーブルで食事をした(笑)。ここから日が暮れる時の周りの景色が素晴らしかった。南方向には八ヶ岳が見え、西方向には北アルプス方面が見える。
今回、30ヵ所以上のワイナリーが出てきたけど、いつか機会があったら行ってみたいと思ったのは、「サントリー登美の丘ワイナリー」と、ベトナムに5年いたことがある方がやっているという小諸の「ジオヒルズワイナリー(風吹く丘のワイナリー)」。ワイナリーでベトナム料理が食べられるなんて面白そう。今年5月にこのワイナリーのそばを通ったので、その時に知っていたら行ったのにと残念。たくさんのワイナリーや葡萄生育者が出てきたけど、女性の醸造家やワイナリー経営者は二人くらいだった気がする。女性の従事者は少ないのでしょうけど、もう少し登場させてほしかったです(暁)。
【本作品のホームページ】 https://vinjaponais.jp/
2022年/日本
製作会社(制作:CruX)
*五一ワイン・エコノミーの話とウルグアイのワイナリーに行った時の話が下記スタッフ日記にあります。
一升瓶に入ったワイン「五一ワイン エコノミー」を買ってみました(暁)
http://cinemajournal.seesaa.net/article/472972369.html
シスター 夏のわかれ道 原題:我的姐姐
監督:イン・ルオシン (殷若昕)
脚本:ヨウ・シャオイン(游暁頴)
主題歌:「Sister」 ワン・ユエン(王源)
出演:チャン・ツィフォン(張子楓)、シャオ・ヤン(肖央)、ジュー・ユエンユエン(朱媛媛)、ダレン・キム(金遥源)
四川省成都。看護師として病院で働くアン・ラン(安然)は、医者になるため北京の大学院進学を目指して受験勉強に励んでいた。そんなある日、 疎遠だった両親が交通事故で急死し、6歳の弟アン・ズーハン(安子恒)が残される。アン・ランは看護師として働き始めた時に家を出たので、入れ違いで生まれた弟とは一緒に暮らしたことがなかった。弟が現れたことで、アン・ランの人生計画はかき乱される。葬式が終わり、父方の伯母アン・ロンロン(安蓉蓉) も母方の叔父ウー・ドンフォン(武東風)も、ズーハンは実の姉であるアン・ランが育てるべきだという。だが、アン・ランは「弟は養子に出す」と宣言。すぐに養子先を探し始め、父が遺した自分名義のアパートも売却する手続きを始める。養子先が見つかるまで仕方なくズーハンと同居し、面倒を見始めるが、幼いズーハンは両親の死を理解できずに我儘ばかり。恋人も彼女の苦境にピントはずれの助けを出して、イライラさせるだけ。ようやく人づてに養子先を紹介される。庭のある家で暮らす金持ちの夫婦は、ズーハンを一目で気に入ってくれる。北京に旅立つ日が近づく。弟を養子に迎えた夫婦に呼ばれる。家を売ったお金の半分を養父母に渡そうとすると、お金はいらないので、合意書にサインをしてほしいといわれる。その条件を聞いて、アン・ランはズーハンの手を引いて走り出す・・・
ものすごく年の離れた弟ですが、一人っ子政策が2015年に解除された賜物。実は、アン・ランの両親は、まだ一人っ子政策(1979年~2015年)の時代に、娘に足の障害があるので、第2子を産みたいと申請したことがあるのです。それを知ったアン・ランが、わざとスカートを穿いたことから嘘だとばれて許可が却下され、父親に怒られたという過去があったのです。 北京の大学の医学部に進学したかったのに、娘は親の面倒を見るべきと、地元の大学の看護科に志望を勝手に書き換えられたという恨みもアン・ランにはありました。
父の姉であるアン・ロンロンが、西瓜を一緒に食べながら語る場面があります。母親はいつも弟優先で、西瓜を内緒で弟だけに食べさせていたこと、大学のロシア語科に受かった時もダメと言われたこと、仕事でモスクワに滞在していた時にも弟に出来た赤ちゃんの面倒を見るために呼び戻されたと語ります。その時に買ってきたマトリョーシカにロシア語で語りかけるアン・ロンロンの姿に、女であるために夢を叶えられなかった悲哀を感じました。 伯母の時代は、まだ一人っ子政策の前ですが、それでも、息子が優先された時代でした。 一人っ子政策が解除されて、無理やり堕胎されたりの悲劇はなくなったとはいえ、男児優先の風潮は続いているのでしょうか・・・
アン・ランが自分の人生を切り開いていきたいという思いの中で、血の繋がった弟のことも考えようとする姿が素敵でした。でも、なんとか自分の道を歩いていってほしいと強く思いました。
これは余談ですが、本作の舞台になっている成都には、32年前に行ったことがあって、町の変貌ぶりに驚きました。 アン・ランが弟と地下鉄に乗る場面があって、おぉ~成都にも地下鉄が出来たのだと。 四川料理といえば、辛いと聞いていましたが、唐辛子というより山椒の辛さなのですね。 アン・ランがお母さんの作る肉饅頭は、花椒で口がしびれてしまうと語る場面がありました。確かに成都で食べた本場の麻婆豆腐は花椒の味がきつかったです。 でも、辛くないまろやかなお料理もあって、四川料理は辛いだけじゃないということも知った成都の旅でした。
成都の公園で、纏足のおばあさんたちが十数名で集っていて、よちよち歩いていたのも思い出しました。足は小さいのが美しいという勝手な解釈で、中国の女性たちが蹂躙されていた時代もあったのだと思いました。女性はいつになったら真の自由を手にできるのでしょう・・・(咲)
「自分が目標とする人生を選ぶか、姉として生きるか」その葛藤が描かれる。
疎遠だった両親が事故死しして、突然現れた6歳の弟を“育てる”ことになるのだが、映画の案内に「見知らぬ弟があらわれる」とあり、弟が生まれたことを知らなかったということなのだろうか、それほど両親と疎遠だったのかと思った。
『花椒(ホアジャオ)の味』でも、主人公は父の葬式で自分に異母姉妹がいることを知り、早々に打ち解け、父の火鍋店を助け合って続けるということが描かれていたが、こちらはそうはいかない。突然現れた「幼い弟の面倒をみなくてはならない」と、両親の姉弟など親戚からいきなり押し付けられたのだから。自分の夢を強制的に諦めさせられそうになることに、無性に腹が立ち、強引な行動に出るが、それもわかる。私でも、この状態だったらそうしただろう。
そもそも医師志望だったのに、女だからという理由で、両親に自分の進路を勝手に変えられてしまったということが許せないアンランは、自力で医者を目指していたのだから、そう簡単に諦めることはできない。それにとても共感する。
(咲)さんが書いている、伯母さんと西瓜を食べるシーンは、私もこの作品の山場である感動的なシーンだと思い、やはり女性の脚本家、監督ならではの思いが込められていると思った。
幼い弟と一緒に暮らすうち情がわいてきたとしても、やはり医者になるという目標を達成してほしいと思いながら観ていたのだけど、最後をどう解釈したらいいのか。養子に出した家から弟を連れだした時、引き取った家の人は引き止めもせずというのが腑に落ちないし、連れだしたけど、彼女はあの時点で実家も売り、病院もやめ、北京に行くという状態だったはずだけど、その状態でどうするのでしょう。その状態で北京に行くという意味なのか、あるいは四川省で弟と一緒に生きていくという意味なのか、判断に迷うところ。最後のシーンは、観た人の解釈に任せるということらしいのですが、私としては、アンランは成都に留まるのではなく、北京に行って新しい生活に挑戦するという方向であってほしいと思った。
男女平等が進んでいるようにみえる中国でも、北京や上海などの都会以外では、まだまだ男尊女卑の考え方が人々の中にあり、女性が家族や男兄弟のために我慢や犠牲を強いられているという現実があるのだなと思った作品でした(暁)。
2021年/中国語/127分/スコープ/カラー/5.1ch
日本語字幕:島根磯美
配給:松竹
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/sister/
★2022年11月25日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋ほか全国公開
はだかのゆめ
監督・脚本・編集:甫木元空(ほきもとそら)
プロデューサー:仙頭武則 飯塚香織
撮影:米倉伸
音響:菊池信之
出演:青木柚、唯野未歩子、前野健太、甫木元尊英
余命宣告を受けた母は、ふるさと四万十川のほとりの実家で暮らす選択をした。祖父が一人住んでいる家にやってきた二人。何事にものろまな息子のノロは、母に近づく死を受け入れられず一人徘徊するばかり。祖父は淡々と畑を耕し、闘病中の母はできる家事をゆっくりとこなし、散歩をし、日記を書く。
甫木元監督の体験を半ば投影した映像詩のような静かで美しい映画。四万十川の風景の中を歩き回り、寝転び、たたずむノロが本当はもうこの世にいない人にも見えてしまいます。少ないセリフは選び抜かれた歌詞のようで、甫木元監督が映像作家であり、バンド「Bialystocks」のヴォーカリストでもあると知って納得。
2016 年『14 の夜』(足立紳監督)で映画デビューした青木柚(あおきゆず)さんが、母を遠くから見守るノロ、息子を思う母を唯野未歩子さん、何事もあるがまま受け入れる祖父を監督の実の祖父である甫木元尊英さん。シンガーソングライターの前野健太さんが、あちこちに出没してあの世とこの世を結ぶ役割をはたしているようにも見えます。
命は限りあるとわかってはいても、自分の大事な人だけはどこへも行かない気がしてしまうものです。たくさんの人を見送る年頃になると、その境界はとてもあいまいでちょっと越えて行っただけ、近くで見守ってくれているかもしれないと思うようになりました。(白)
2022年/日本/カラー/アメリカンビスタ/59分
配給:boid/VOICE OF GHOST
©PONY CANYON
https://hadakanoyume.com/
★2022年11月25日(金)全国順次公開
マリー・クワント スウィンギング・ロンドンの伝説 原題:QUANT
監督:サディ・フロスト
出演:ケイト・モス、ヴィヴィアン・ウェストウッド、デイヴ・デイヴィス(ザ・キンクス)、ピート・タウンゼント(ザ・フー)、ポール・シムノン(ザ・クラッシュ)
ビートルズ、ツイッギー、ローリング・ストーンズと共に1960年代スウィンギング・ロンドンというムーヴメントを起こしたマリー・クワント。その知られざる素顔とデザインの秘密に迫るドキュメンタリー
教育者の家庭で育ったマリー・クワントは、アートスクールで貴族階級出身のアレキサンダーと運命的に出会う。1955年、自分が着たい服をクリエイトし、ロンドン初のブティック《BAZAAR》をチェルシーのキングス・ロードにオープン。開店直後からマリーがデザインした服は奪い合いになり、60年代初めには動きやすくて少女らしさを演出するミニスカートが世界中で大ブームを巻き起こした。マリーが才能を発揮できるように、夫となったアレキサンダーは渉外・後方担当として支えた。
当時の熱狂を知る関係者へのインタビューとアーカイブから、マリーの横顔と生涯を添い遂げた夫婦の知られざるエピソードが明かされる・・・
*注:個人を指す表記は「マリー・クワント」、ブランドを指す表記は「マリークヮント」
マリーは、ミニスカートに合うアンダーウェアやカラフルなタイツも考案。さらに、絵具パレットのような使いやすい化粧品は大人気になりました。
マリー夫妻にブティック開店を勧め、出資もしたのは、友人で弁護士のアーチー・マクネアでした。ライセンス事業という形で世界に広げていったのも、弁護士アーチーの存在があってこそでしょう。ポーチや香水、インテリア・・・ くっきりしたデイジーの花のマークが可愛くて、どれもすぐに「マリークヮント」とわかります。今も街でよく見かける「マリークヮント」ですが、実は、世界最大規模の店舗展開されたのが日本。しかも、日本独自の商品開発でインテリアやキッチン用品など多岐にわたる商品にデイジーの花があしらわれたのです。
映画を見終わって、マリーの「着たい」を生み出した才能はもちろんですが、アレキサンダーという素敵な伴侶を見つけたのも才能だなと思いました。
監督のサディ・フロストは、映画、演劇、テレビで30年以上のキャリアを持ち、プロデューサー、俳優、ファッション・デザイナー、作家の顔も持つ多才な女性。 (咲)
「マリークヮント」の花のマークは、5弁の花びらが日本の梅の花と同じ意匠。蕊でなく丸い花芯となっているところが違いますが、そんな親近感もあって可愛いもの好きの女性の心をつかんだのでしょう。私もいくつか持っていて、ずいぶん前にイギリスのブランドだと知らないまま、イギリス在住の友人へのお土産にお財布をプレゼントしたことがあります(恥)。日本で展開している商品はまた違ったのか、気遣ってくれたのか喜んでもらえました。
そんなことも思い出しながら拝見した本作、(咲)さんが書いているように、才能あふれるマリーがはつらつとして、女性から見ても魅力的です。後を行く女の子たちのあこがれの的であったはず。(白)
☆映画公開と同日の11月26日(土)より、Bunkamuraザ・ミュージアムにて「マリー・クワント展」も開催!
2021年/イギリス/英語/90分/ビスタサイズ/映倫区分G
協力:マリークヮント コスメチックス/後援:ブリティッシュ・カウンシル
配給:アット エンタテインメント
公式サイト:http://www.quantmoviejp.com/
★2022年11月26日(土)よりBunkamuraル・シネマほか全国順次公開
2022年11月13日
擬音 A FOLEY ARTIST 原題 擬音 A FOLEY ARTIST
2022年11月19日(土)より新宿K's cinemaほか全国順次公開 劇場情報
映画は映像と音が結びついた芸術。
台湾映画界の音響効果技師・胡定一の目を通して描いた中華圏映画の映画史
出演:胡定一(フー・ディンイー)、台湾映画製作者たち
監督:王婉柔(ワン・ワンロー)
製作:リー・ジュンリャン
製作総指揮:チェン・チュアンシン
撮影:カン・チャンリー
サウンドデザイン:ツァオ・ユエンフォン
編集:マオ・シャオイー
日本語字幕:神部明世
2017/台湾/カラー/DCP/5.1ch/100分
映画に命を吹き込む音響効果技師
フォーリーアーティストと呼ばれる音響効果技師。台湾映画界で40年に及び音を作ってきたレジェンド的存在の胡定一の仕事を追いながら、台湾だけでなく、中国、香港の映画界の舞台裏を描き、中華圏の映画史を語っている。この作品は2017年に台湾で公開され、その年の台湾金馬奨で、主役の胡定一が「年度台湾傑出映画製作者賞」を受賞。2017年の東京国際映画祭でも上映された。
雑多なモノ、それこそガラクタのようなものが溢れるスタジオで、映画の登場人物の動きやシーン、雰囲気を追いながら、想像もつかないような道具と技を駆使して、あらゆる音を作り出す職人胡定一。「音の魔術師」の仕事を追う。
本作は、台湾映画界の音響効果技師胡定一の40年に及ぶフォーリー人生を記録したドキュメンタリーであり、彼の仕事を通して見た台湾映画史である。70本を超える胡定一の担当作品の数々が映し出され、王童(ワン・トン)、侯孝賢(ホウ・シャオシェン)、楊德昌(エドワード・ヤン)など、台湾映画が広く世界に認知された1980年代のニューシネマの登場。それ以前に担当した台湾映画も映し出され貴重な記録である。音響制作の老巨匠たち、さらには台湾映画のサウンドトラックを制作する伝説的な人物たちが映画の音を取り巻く環境の変化、未来のフォーリーの存在についても語る。さらには中国の新しい音響スタジオの様子まで取材し、現在の音響効果事情にも言及。
*フォーリーアーティストとは 公式HPより
足音、ドアの開閉音、物を食べる音、食器の音、暴風、雨、物が壊れる音、刀がぶつかる音、銃撃音、怪獣の鳴き声など、スタジオで映像に合わせて生の音を付けていく職人。大画面の向こう側、観客の目に触れない陰から作品の情感を際立たせる大事な役割を担いながらも、その存在はあまり知られていない。デジタル技術で作られた効果音は豊富にあるが、ひとつひとつの動作や場面に合う音は異なるため、鋭い聴覚と思いもよらないモノを使ってリアルな効果音を生み出す想像力が必要となる。
王婉柔(ワン・ワンロー)監督は自身のデビュー作、洛夫(ルオ・フー)という詩人を記録したドキュメンタリー『無岸之河』を制作した時に、超現実的な詩の世界を現場音だけで表現するには限界があると痛感。本格的に「音」について勉強しようと思ったことが本作品制作のきっかけとなったという。映画界のあらゆる技術的側面がデジタル化される時代が近づく中、この映画でフォーリーが創作であることを表した。
昔、TVの番組で、日本の音響効果の方が出て来て、小石を竹製の行李(こうり)の中で動かし波の音を作ったり、刀でバッサリ切る音をバナナの葉?を振ることで出したりして、意外なもので音を作るのだと知り、映像で使われる音はそんな風にして作るのかと興味を持った。
胡定一さんのスタジオは音の宝箱だった。あるいはガラクタ置き場とも言える(笑)。それらを駆使して、胡さんは音を作る。この作品は、その音を長年作ってきた胡定一さんの仕事ぶりと、周りの映画に関わる方たちに取材したものだったけど、胡さんが関わってきた映画の数々を通して、台湾だけでなく、香港、中国の映画にも言及し、中華圏映画の歴史が伝わってきた。それらの映画の場面写真も多数出てきて、あの映画もこの映画も胡定一さんが音響効果を担っていたんだと知った。この10数年の台湾映画の数々を始め、古くは『村と爆弾』(1987)や『バナナパラダイス』(1989)など、そして香港映画の『インファナル・アフェア』も出てきて、この作品も音響効果は胡定一さんだったんだと知った。ここに出てきた作品の9割以上観ているかも。
映画は監督の名前で語られることが多いけど、監督以外のスタッフの仕事を追う事で、映画の違う面も見えてくる。第23回東京国際映画祭(2010)で上映された『風に吹かれて~キャメラマン李屏賓の肖像』は、侯孝賢監督や行定勲監督、是枝裕和監督の撮影監督を務めた李屏賓(リー・ピンビン)さんのドキュメンタリーだったけど、これも感動的だった。胡定一さんと共に参加した作品もある。この作品群を観て、再度、これらの古い作品を、音響効果や撮影効果などの側面も気にしながら再度観てみたいと思った(暁)。
本作が、『擬音』のタイトルで東京国際映画祭で上映されたのを観て、とても感銘を受けたことを鮮明に覚えていて、2年ほど前のことかと思ったら、2017年の第30回東京国際映画祭のことでした。5年の時を経ましたが、公開されることをほんとうに嬉しく思います。
胡定一さんは、まさに音の魔術師。懐かしい映画の場面が、いくつも映し出され、この音も胡定一さんがこんな風に作り出したものだったのかと驚かされました。映像と共に記憶に残る音・・・ 機械で様々な音が作り出されるようになったとはいえ、手作りの醸し出す音は一味違います。胡定一さんは、この映画が完成した時には、長年在籍していた中影をお辞めになってフリーになっていたとのことですが、今もお元気とのことで安心しました。胡定一さんのこと、そして、フォーリーアーティストのことを本作を通じて、多くの方に知ってほしいと願っています。(咲)
公式サイト:https://foley-artist.jp/
配給・宣伝:太秦
協力:国家文化芸術基金会
後援:台北駐日経済文化代表処台湾文化センター
特別協力:東京国際映画祭
*シネマジャーナルHP 特別記事
『擬音 A FOLEY ARTIST』
王婉柔(ワン・ワンロー)監督インタビュー
映画は映像と音が結びついた芸術。
台湾映画界の音響効果技師・胡定一の目を通して描いた中華圏映画の映画史
出演:胡定一(フー・ディンイー)、台湾映画製作者たち
監督:王婉柔(ワン・ワンロー)
製作:リー・ジュンリャン
製作総指揮:チェン・チュアンシン
撮影:カン・チャンリー
サウンドデザイン:ツァオ・ユエンフォン
編集:マオ・シャオイー
日本語字幕:神部明世
2017/台湾/カラー/DCP/5.1ch/100分
映画に命を吹き込む音響効果技師
フォーリーアーティストと呼ばれる音響効果技師。台湾映画界で40年に及び音を作ってきたレジェンド的存在の胡定一の仕事を追いながら、台湾だけでなく、中国、香港の映画界の舞台裏を描き、中華圏の映画史を語っている。この作品は2017年に台湾で公開され、その年の台湾金馬奨で、主役の胡定一が「年度台湾傑出映画製作者賞」を受賞。2017年の東京国際映画祭でも上映された。
雑多なモノ、それこそガラクタのようなものが溢れるスタジオで、映画の登場人物の動きやシーン、雰囲気を追いながら、想像もつかないような道具と技を駆使して、あらゆる音を作り出す職人胡定一。「音の魔術師」の仕事を追う。
本作は、台湾映画界の音響効果技師胡定一の40年に及ぶフォーリー人生を記録したドキュメンタリーであり、彼の仕事を通して見た台湾映画史である。70本を超える胡定一の担当作品の数々が映し出され、王童(ワン・トン)、侯孝賢(ホウ・シャオシェン)、楊德昌(エドワード・ヤン)など、台湾映画が広く世界に認知された1980年代のニューシネマの登場。それ以前に担当した台湾映画も映し出され貴重な記録である。音響制作の老巨匠たち、さらには台湾映画のサウンドトラックを制作する伝説的な人物たちが映画の音を取り巻く環境の変化、未来のフォーリーの存在についても語る。さらには中国の新しい音響スタジオの様子まで取材し、現在の音響効果事情にも言及。
*フォーリーアーティストとは 公式HPより
足音、ドアの開閉音、物を食べる音、食器の音、暴風、雨、物が壊れる音、刀がぶつかる音、銃撃音、怪獣の鳴き声など、スタジオで映像に合わせて生の音を付けていく職人。大画面の向こう側、観客の目に触れない陰から作品の情感を際立たせる大事な役割を担いながらも、その存在はあまり知られていない。デジタル技術で作られた効果音は豊富にあるが、ひとつひとつの動作や場面に合う音は異なるため、鋭い聴覚と思いもよらないモノを使ってリアルな効果音を生み出す想像力が必要となる。
王婉柔(ワン・ワンロー)監督は自身のデビュー作、洛夫(ルオ・フー)という詩人を記録したドキュメンタリー『無岸之河』を制作した時に、超現実的な詩の世界を現場音だけで表現するには限界があると痛感。本格的に「音」について勉強しようと思ったことが本作品制作のきっかけとなったという。映画界のあらゆる技術的側面がデジタル化される時代が近づく中、この映画でフォーリーが創作であることを表した。
昔、TVの番組で、日本の音響効果の方が出て来て、小石を竹製の行李(こうり)の中で動かし波の音を作ったり、刀でバッサリ切る音をバナナの葉?を振ることで出したりして、意外なもので音を作るのだと知り、映像で使われる音はそんな風にして作るのかと興味を持った。
胡定一さんのスタジオは音の宝箱だった。あるいはガラクタ置き場とも言える(笑)。それらを駆使して、胡さんは音を作る。この作品は、その音を長年作ってきた胡定一さんの仕事ぶりと、周りの映画に関わる方たちに取材したものだったけど、胡さんが関わってきた映画の数々を通して、台湾だけでなく、香港、中国の映画にも言及し、中華圏映画の歴史が伝わってきた。それらの映画の場面写真も多数出てきて、あの映画もこの映画も胡定一さんが音響効果を担っていたんだと知った。この10数年の台湾映画の数々を始め、古くは『村と爆弾』(1987)や『バナナパラダイス』(1989)など、そして香港映画の『インファナル・アフェア』も出てきて、この作品も音響効果は胡定一さんだったんだと知った。ここに出てきた作品の9割以上観ているかも。
映画は監督の名前で語られることが多いけど、監督以外のスタッフの仕事を追う事で、映画の違う面も見えてくる。第23回東京国際映画祭(2010)で上映された『風に吹かれて~キャメラマン李屏賓の肖像』は、侯孝賢監督や行定勲監督、是枝裕和監督の撮影監督を務めた李屏賓(リー・ピンビン)さんのドキュメンタリーだったけど、これも感動的だった。胡定一さんと共に参加した作品もある。この作品群を観て、再度、これらの古い作品を、音響効果や撮影効果などの側面も気にしながら再度観てみたいと思った(暁)。
本作が、『擬音』のタイトルで東京国際映画祭で上映されたのを観て、とても感銘を受けたことを鮮明に覚えていて、2年ほど前のことかと思ったら、2017年の第30回東京国際映画祭のことでした。5年の時を経ましたが、公開されることをほんとうに嬉しく思います。
胡定一さんは、まさに音の魔術師。懐かしい映画の場面が、いくつも映し出され、この音も胡定一さんがこんな風に作り出したものだったのかと驚かされました。映像と共に記憶に残る音・・・ 機械で様々な音が作り出されるようになったとはいえ、手作りの醸し出す音は一味違います。胡定一さんは、この映画が完成した時には、長年在籍していた中影をお辞めになってフリーになっていたとのことですが、今もお元気とのことで安心しました。胡定一さんのこと、そして、フォーリーアーティストのことを本作を通じて、多くの方に知ってほしいと願っています。(咲)
公式サイト:https://foley-artist.jp/
配給・宣伝:太秦
協力:国家文化芸術基金会
後援:台北駐日経済文化代表処台湾文化センター
特別協力:東京国際映画祭
*シネマジャーナルHP 特別記事
『擬音 A FOLEY ARTIST』
王婉柔(ワン・ワンロー)監督インタビュー
愛国の告白ー沈黙を破る Part2ー
監督/撮影/編集/製作:⼟井敏邦
編集協⼒:尾尻弘⼀、渡辺真帆、⼩林桐美
整⾳:藤⼝諒太
デザイン:野⽥雅也
パレスチナ人住民とユダヤ人入植者が隣接して暮らすヘブロン市で兵役に就いた元イスラエル軍兵士、ユダ・シャウールらによって2004年に創設されたグループ、「沈黙を破る」。
⼟井敏邦監督は、2005年から3年間にわたって彼らを取材。2009年に劇場公開された『沈黙を破る』で、“占領軍”の兵士としてパレスチナの人々に権力を行使した経験を持つ若いイスラエル兵たちの苦悩する姿と証言、そして占領地のすさまじい実態を描いている。
あれから、13年、占領と武力攻撃はさらに強化され、一層右傾化しているイスラエル。そんな状況の中で活動を続ける「沈黙を破る」には、政府や右派勢力からの攻撃も急速に強まっている。
本作では、それでも屈せず活動を続ける「沈黙を破る」の姿を追っている。
「沈黙を破る」の活動を続ける元将兵たちが、「裏切り者」「敵のスパイ」という非難・攻撃のなかで、どのように自分自身を支え、信念を貫いているのか・・・
「自国の加害と真摯に向き合い、それを告発し、是正しようとする」こと、自国と国民がモラルを崩壊させてしまうことへの危機感から声を上げ行動を起こす行為は「祖国への裏切り」なのか。むしろそれこそ真の“愛国”ではないのかと、監督は問いかける・・・
1985年以来、34年間一貫してパレスチナ・イスラエル現地を取材、これまでガザ地区、ヨルダン川西岸、東エルサレムなどパレスチナ人地区とイスラエルについての多数のドキュメンタリー映像や著書を発表してきた映像ジャーナリストの土井敏邦監督が、キャリアの集大成として制作したドキュメンタリー映画。
国家権力を握った者の、人や土地に対する支配欲によって、自分の意志ではなく加害者にならざるをえない立場に置かれるという非情。古今東西繰り返されてきた歴史で、それが今も世界の各地で続いています。誰しも戦争になど加担したくないはず。国家という枠組みの中で、逆らえない悲しさ。国民が平穏に暮らせることこそ考えるべきなのに、攻撃的な国家権力者を持ってしまった不幸・・・ それは、いつまた私たちにも降りかかってくるかもしれません。 そんなことを思い起こさせられました。
それにしても、ネタニヤフ元首相の復権で、ますますひどくなりそうなイスラエルのパレスチナへの仕打ち。パレスチナの人たちが気の毒なのはもちろんですが、加害者という被害者を増やしてしまうことが悲しい。(咲)
公開記念アフタートークイベント
新宿 K's Cinema 2022年11月19日(土)〜12月9日(金) 連日開催
*すべて上映後に開催
11月19日(土)初日 土井敏邦監督+アブネル・グバルヤフ氏(「沈黙を破る」代表)によるスペシャルビデオメッセージ
20日(日)ジャン・ユンカーマンさん(映画監督)+土井敏邦監督
21日(月)川上泰徳さん(中東ジャーナリスト)+土井敏邦監督
22日(火)錦田愛子さん(慶応大学准教授/中東現代政治)+土井敏邦監督
23日(水・祝)根岸季衣さん(女優)+土井敏邦監督
24日(木)伊勢真一さん(映画監督)+土井敏邦監督
25日(金)永田浩三さん(武蔵大学教授/ジャーナリスト)+土井敏邦監督
26日(土)伊勢真一さん(映画監督)+土井敏邦監督
27日(日)川上泰徳さん(中東ジャーナリスト)
28日(月)土井敏邦監督
29日(火)土井敏邦監督
30日(水)土井敏邦監督
12月1日(木)ダニー・ネフタイさん(在日イスラエル人)+土井敏邦監督
2日(金)新田義貴さん(映像ジャーナリスト)+土井敏邦監督
3日(土)金平茂紀さん(ジャーナリスト)+土井敏邦監督
4日(日)渡辺えりさん(女優・劇作家)+土井敏邦監督
5日(月)ダニー・ネフタイさん(在日イスラエル人)+土井敏邦監督
6日(火)ハディ・ハニーさん(在日パレスチナ人)+土井敏邦監督
7日(水)山本薫さん(慶応大学専任講師)+土井敏邦監督
8日(木)鈴木啓之さん(東京大学特任准教授/パレスチナ現代史)+土井敏邦監督
9日(金)最終日 土井敏邦監督
(登壇者は、こちらのサイトでご確認ください)
★1月の上映予定★
フォーラム仙台
1月13日(金)から~1月19日(木)
*1月14日(土)、15(日)は本編上映後アブネル・グバルヤフ氏(「沈黙を破る」代表)によるスペシャルビデオメッセージの上映あり
名古屋シネマテーク
1月14日(土)~1月20日(金)
*1/14(土)初日・土井敏邦監督の舞台挨拶
佐賀・シアターシエマ
1月20日(金)~1月26日(木)
*1/22(日)土井敏邦監督によるトークイベント
長野・松本CINEMAセレクト
1月29日(日)
2022年/⽇本/170分(第⼀部100分・第⼆部70分)
配給:きろくびと
公式サイト http://doi-toshikuni.net/j/aikoku
★2022年11月19日(土)より新宿K's cinemaにてロードショー 全国順次公開
戦地で生まれた奇跡のレバノンワイン 原題:WINE and WAR
監督:マーク・ジョンストン、マーク・ライアン
脚本 : マーク・ジョンストン、マーク・ライアン、マイケル・カラム
プロデューサー:マーク・ジョンストン
製作総指揮:セルジュ・ドゥ・ブストロス、フィリップ・マスード
撮影:マーク・ライアン
音楽:カリム・ドウアイディー
編集:マレク・ホスニー、マシュー・ハートマン
出演:セルジュ・ホシャール、マイケル・ブロードベント、ジャンシス・ロビンソン、エリザベス・ギルバート、ミシェル・ドゥ・ブストロス、サンドロ・サーデ、カリム・サーデ、ジェームス・パルジェ、ジョージ・サラ、ジャン=ピエール・サラ、ナジ・ブトロス、ジル・ブトロス、ロナルド・ホシャール、ガストン・ホシャール、ファウージ・イッサ、サミー・ゴスン、ラムジー・ゴスン、マイケル・カラムほか
中東の⼩国レバノン。1975 年から断続的に内戦や隣国との軍事衝突が続き、その不安定な情勢を報じられることが多いが、実は知られざる世界最古のワイン産地の⼀つ。レバノンワインの起源は5千年前とも⼀説には7千年前ともされ、現在も約50のワイナリーが点在している。
本作には、戦争中もワインを作り続けてきた不屈のワインメーカーたちが登場する。
1975年から1990年にかけての内戦をものともせず、レバノンワイ ンを世界に売り込み「レバノンワインの⽗」と呼ばれたシャトー・ミュザールの2代⽬セルジュ・ホシャール。
1978年、内戦から3年⽬に設⽴したワイナリー、シャトー・ケフラヤのオーナー、ミシェル・ドゥ・ブストロス。1982年のイスラエル侵攻では、ブドウ畑の上空でイスラエル軍とシリア軍のジェット機による空中戦を体験した。
シリアのドメーヌ・ド・バージュラスとレバノンのシャトー・マー シャスのオーナーであるサンドロ&カリム・サーデ。シリア内戦の最中もワイン造りを続け、2020年 8 ⽉ 4 ⽇のベイルート⼤爆発では⾟くも死を免れたことで世界的な ニュースとなった。
戦争ではなく平和をもたらすために内戦中にワイン造りを始めた修道院の神⽗。
⾃分で⾝を守れるようにと 11 歳 で銃の扱い⽅を教えられ、⽗の遺志とワイナリーを受け継ぐ⼥性。
内戦中、虐殺が起こった故郷の村で、村の再起のためにワイナリーを続ける夫婦・・・
極限の状況でもワインを造り続 けてきた 11 のワイナリーのワインメーカーたちが語る⼈⽣哲学や幸福に⽣きる秘訣とは?
「私がセルジュから学んだことは、ワインのことよりも⼈の⽣き⽅についてだった」と『⾷べて、祈って、恋をして』の著者エリザベス・ギルバートは語る・・・
レバノンというと、今ではすっかり戦争のイメージがつきまといますが、かつては、ベイルートが「中東のパリ」といわれたように、地中海に面した温暖で華やかさもある地でした。中東の中では、イスラーム教徒とキリスト教徒が半々という人口構成で、まさにワインの似合うところ。
地中海に沈んだ船からは、その昔、古代レバノン⼈であるフェニキア⼈がワインを輸出するときに使った入れ物である素焼きの壺「アンフォラ」がたくさん見つかっています。内陸のバールベックの遺跡には、ワインを作った形跡があるのですが、アンフォラは出土していなくて、ワインは地元で消費していたのだろうといわれています。
古い歴史を持つレバノンのワインを守るべく、内戦やイスラエル侵攻にさらされる中でも、不屈の精神でワインを作り続ける人たちの物語。さらに、内戦で壊滅状態と思っていたシリアでも、ワインを作り続けている人がいることにも胸が熱くなりました。
美味しいレバノン料理とともに、いつかレバノンでワインを味わいたいものです。(25年前に、旅費を払いながら、入院してレバノンに行き損ねた私!)(咲)
戦争が続くレバノンで。まさかワインが造られているとは思ってもみなかった。しかもイスラム教徒がほとんどだと思っていたから、お酒があるとは思ってもみなかった。でも、キリスト教徒もいて、イスラム教徒とキリスト教徒が半々くらいということを知り、それならワインもあるのだなと納得した。それどころかレバノンワインの起源は5千年前とも7千年前とも言われているということを知り、そんな昔からワインは造られてきて、爆撃が続く中でも、絶えることなく続いているということが驚きだった。
不屈の精神でワインを造り続けるレバノンのワインメーカーたちの心意気が素敵だなと思った。また、平和を求め、内戦中にワインを造り始めた修道院の神父の話を観て、ここでも宗教者がワインを造っていると思った。日本でも山梨・勝沼にある大善寺というお寺では1000年くらい昔から葡萄を育てワインを造ってきたらしい。ま、日本ではワインとは言わず、葡萄酒だったのだろうけど。今でも大善寺はワインのお寺として有名で、ワインを造っている。宿泊もできるので、5年くらい前にここに泊まり、帰りにここで作ったワインを買ってきたことがある。宗教とワインというのは、なかなか結び付かないけど、ワインが生活に密着したものとして根付いているということなのでしょう。レバノンのワインを見たことも飲んだこともないので、チャンスがあったら飲んでみたい。そして、爆撃にさらされながらもワインを造り続けてきたレバノンの方たちにエールを送りたい(暁)。
95分/アメリカ/2020年/ドキュメンタリー
配給:ユナイテッドピープル
公式サイト:https://unitedpeople.jp/winewar/
★2022年11月18日(金)アップリンク吉祥寺他にて全国順次ロードショー!
マスター 先生が来る! 原題:Master
監督:ローケーシュ・カナガラージ(『囚人ディリ』)
音楽:アニルド・ラヴィチャンダル
出演:ヴィジャイ、ヴィジャイ・セードゥパティ、マーラヴィカ・モーハナン、アルジュン・ダース/ ナーサル(特別出演)
JD(ヴィジャイ)は、タミルナードゥ州の州都チェンナイにある名門大学で心理学(人格形成学)を教える名物教授。アルコール依存症気味で大学の運営本部や教授会からは何かと批判されているが、ユニークな教授法や自由な発想で学生たちには大人気。彼が実施を強く主張した学生会長選挙で暴動が起きてしまい、責任をとって休職し、700キロ離れた地方の少年院に90日の期間限定で赴く。
その少年院は、ギャングのバワーニ(ヴィジャイ・セードゥパティ)の影の支配のもと、少年たちが薬物漬けにされて犯罪行為を無理強いされていた。明日少年院を出所というときに殺人の罪を着せられそうになった2人の兄弟が、新任教師のJDに少年院の実態を訴え助けを求めようとするが、バワーニに知られて殺されてしまう。これにショックを受けたJDは、アルコールを断ち、バワーニの支配を終わらせ少年たちを更生させようと立ち上がる・・・
本作は、“大将”という愛称で親しまれ、インド:タミル語映画界の寵児となったヴィジャイの2年ぶり、64作目となるアクション大作。
超人的なカリスマ性と身体能力を誇り、満を持して登場すると無数の敵をなぎ倒す。キレキレのダンスや歌唱を劇中に何度もこなし、ヒロインも周りの人々も夢中にさせる漢っぷりを振りまく伊達男の主人公。様式美ともいえるお約束で観客を熱狂させてきたインドの娯楽アクション映画界。その中で、『ムトゥ 踊るマハラジャ』『ロボット』等で日本でも知られるラジニカーントの次を担うスーパースターとして、いま最も頂点を極めているのが、本作の主演ヴィジャイ。いきなり顔を出さず、まず足元やシルエットが映され、散々に観客を焦らしての初登場シーン。決め台詞を口にして悠然と歩み去るシーンで多用される仰角のスローモーション。本作はそんなお約束をしっかり押さえながらも、完全無欠のヒーローに対抗しうる強烈な悪役、バワーニに、スター映画とは距離を置く演技派として“タミル民の宝”の愛称で人気を集めるヴィジャイ・セードゥパティを配した対極的なWスターキャストとなっている。
本作では、二人のヴィジャイが互角の主役。オープニング、「大将(Thalapathy)ヴィジャイ」に続いて、「タミル民の宝(Makkal Selvan)ヴィジャイ・セードゥパティ」の名前が掲げられます。オープニング・クレジットで主役と悪役がこれだけ対等に扱われるのは、タミル語映画では実は珍しいことなのだそうです。ヒーローが最終的に勝利するのは大衆映画の決まり事ですが、その枠組みの中で悪役を最大限に力強く造形することに心を砕いたと、ローケーシュ監督は語っています。
その証拠に冒頭で語られるのは、バワーニの物語。17歳の時に両親を3人組のギャングに殺された上に、少年院に送られ、そこで散々辛酸を舐めさせられます。自分を痛めつけた者たちを見返そうと、トラック運送業という表向きの商売の裏で、密造酒の流通や麻薬取り引き、政治家の資金洗浄などを行い、ギャングの元締めにのし上がったのです。純真な少年が、敵や裏切り者を容赦なく殺す冷酷な男になった背景がしっかり描かれています。
JDが着任した少年院は、少年たちが皆、悪事に手を染めさせられていて、管理人たちもグル。指導すべき教師が居つかないのです。
意気揚々と着任し、「♪人生は短い、幸せでいよう♪」「♪教育は必要、やる気が必要♪」と歌いながら踊って鼓舞するのですが、勉強などする気のない少年たち。部屋も荒れ放題です。
JDを見込んで、少年院の教師として送り込むよう仕組んだのは、大学の新任講師の女性チャールー(マーラヴィカ・モーハナン)でした。チャールーは以前、NGOのメンバーとして少年院を調査し実態を聞かされていて、JDが改善してくれることを期待していたのでした。着任初日、いつものように酒浸りで、殺人の罪を着せられそうになっている兄弟の訴えが届かなかったのです。
少年院では、18歳を過ぎても出所しないでいる者たちが、バワーニの指令で動いているのですが、少年たちはバワーニの存在を知りません。少年院を仕切っているのは、ダースという青年。演じているアルジュン・ダースは、タミル映画の俳優には珍しく細身。顔立ちはヴィジャイたちと同様に濃いのですが、眼光鋭く、声が低音なのも魅力で、注目株ではないでしょうか。
JDを見込んだ女性教師チャールー役のマーラヴィカ・モーハナンも、知的でチャーミング。男たちの激しい抗争が続く中、清涼剤になっています。(咲)
★インディアンムービーウィーク2021 パート2で上映された人気作品
2021年/インド/タミル語/179分/ PG12(暴力シーンあり)
字幕:大西美保/監修:小尾 淳/協力:安宅直子
配給:SPACEBOX
宣伝:シネブリッジ
公式サイト: https://spaceboxjapan.jp/master
★2022年11月18日(金)新宿ピカデリーほか全国公開
奇跡の人 ホセ・アリゴー 原題:Predestinado, Arigó e o Espirito do Dr. Fritz 英題:A Dangerous Practice
監督::グスタヴォ・フェルナンデス
出演::ダントン・メロ/ジュリアナ・パエス/ジェームズ・フォークナー/アントニオ・サボイア
1955年、ブラジル南東部ミナスジェライス州の小さな町コンゴーニャス。鉱員だったホセ・アリゴーは、鉱員組合を作りながらも身体を壊し、今は雑貨店を営んでいる。ある日、夢にドイツ人医師アドルフ・フリッツが現れ、「お前の使命だ」と人々を治癒するよう諭される。何かに憑かれたように、アリゴーは病に冒された人たちに対し、素手で癌を取り除いたり、ナイフで白内障や傷口の施術を施したりする。神父からは、心霊治療は許されないと脅されるが、噂を聞いて大勢の人が押しかけ、奇跡を見たいと国外からも取材にやってくる。偽医者と告発され、実刑判決も受けるが、彼を慕う人々からの抗議が殺到。その後、釈放され治療を続けるが、やがて、使命の終わりと死を察知。自らの予言通り、1971年に交通事故で命を落とす。
無学にもかかわらず、200万人もの人の癌や白内障などを心霊手術で治した実在の人物ホセ・アリゴーの物語。本名は、ホセ・ペドロ・デ・フレイタス。小さい時から、「ホセ・アリゴー(農場の少年、愚か者と言った意味合い)」のあだ名で呼ばれていたとのこと。
信じがたいですが、映画の最後には、実際にナイフを目に突き刺して治癒している様子や、手を突っ込んで悪い部分を取り出したりしている本物のホセ・アリゴーの映像が出てきました。多くの人の病を治しながら、治療費を一切受け取らなかったことも、人々から敬愛された理由なのでしょう。
その一方で、神父をはじめ、ホセ・アリゴーのことをよく思わない人々がいたのも事実。従妹である奥様との間に、7人の子に恵まれましたが、何かに取りつかれ、自分であって自分でないような人生、果たして幸せだったのでしょうか・・・ (咲)
2022年/ブラジル/カラー/108分
共同製作:パラマウント・ピクチャーズ/協力:エデン
配給:エクストリーム
公式サイト:http://kisekinohito.com/
★2022年11月18日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、UPLINK吉祥寺他全国ロードショー!
2022年11月12日
川のながれに
11月11日(金)よりフォーラム那須塩原にて先行公開、11月25日(金)より池袋シネマ・ロサ、シモキタ-エキマエ-シネマ『K2』にて全国順次公開 上映情報
©Consent / Nasushiobara City
美しい自然の那須塩原を舞台に、母を亡くし一人きりになった青年が暖かい人々に囲まれて自分の人生を見つめ直す
出演者
松本享恭 前田亜季
小柴カリン 大原梓 松本健太 安居剣一郎 林田麻里 森下ひさえ 伊藤弘子
青木崇高(友情出演) 音尾琢真(特別出演)
プロデュース:川岡 大次郎
監督・脚本・編集:杉山 嘉一
撮影:鳥居康剛 制作:森田博之 現地制作 :森岡昇夢
美術:田中佑佳 音楽:山下俊輔
ドローン撮影:中村誠 方言指導:安在ますみ
イラストレーター:加藤槙梨子
SUPガイド:西口紀章 君島雅弘 君島つぎみ
那須塩原市内を流れる「箒川(ほうきがわ)」で、SUP(スタンドアップパドル)のアウトドアガイドをしている君島賢司(松本享恭)は、父を子供の頃に亡くし、母と二人で生きてきた。そして母を病気で亡くし、一人きりになってしまった。これからの自分の行く末を模索していた賢司は、最近塩原に移住したイラストレーターの森音葉(前田亜季)と出会いガイドを頼まれる。彼女は心の赴くままに7年かけて世界中を旅し、イラストを描いてきた。彼女の姿を見て、「今まで自分はただ流されて生きていたのかも」と、自分の人生に疑問を抱き始める。
そんな賢司に、Uターンして戻った友達や、職場の同僚、父の旧友、想いを寄せる温泉旅館若女将の幼馴染や東京で働く元彼女など、さまざまな人が意見をいうので、戸惑ってしまう。さらに、幼い頃に死んだと聞かされていた父親が現れ、ますます賢治の心にさざなみが拡がる…。そんな賢司は、塩原を出たいと思わない自分の心と向き合い、自分らしい生き方を見つめなおす。
この作品は、俳優の川岡大次郎が、2016年、某テレビ番組の企画で那須塩原に期間限定で移住し、那須塩原の自然と人の暖かさに魅入られ、その魅力を発信したいと「なすしおばら映画祭」を立ち上げ、その映画祭のために、川岡大次郎がプロデューサーとなり製作された。2021年に映画祭のクロージングで上映された後、劇場公開したいとクラウドファンディングで資金を集め、全国公開されることになった。
「某テレビ番組の企画で那須塩原に期間限定で移住したプロデューサーの俳優・川岡大次郎」と書いてありましたが、私はその番組の大ファンで、いつも楽しみにしていました。この川岡大次郎さんが、移住先の那須塩原でアウトドアガイド(スタンドアップパドル)のバイトをしていた回のことも覚えています。その時の体験が、この映画に生かされています。私はこの番組を見た時にスタンドアップパドルを知りました。そして川岡大次郎さんが、その後もこの場所と関わりを続け、こんな映画まで作ってしまったということに驚きと嬉しさを感じました。那須塩原映画祭まで立ち上げていたなんてすばらしいですね。この番組は終わってしまいましたが、この番組での移住生活がきっかけで、その後も川岡さんのように移住した先の人たちと交流を続けている人が他にもいます。そういうのっていいですね(暁)。
製作 / 制作 株式会社コンセント 栃木県那須塩原市
2021年/日本/ヴィスタ/5.1ch/105分
公式サイト:kawano-nagareni.com
配給協力:SDP
©Consent / Nasushiobara City
美しい自然の那須塩原を舞台に、母を亡くし一人きりになった青年が暖かい人々に囲まれて自分の人生を見つめ直す
出演者
松本享恭 前田亜季
小柴カリン 大原梓 松本健太 安居剣一郎 林田麻里 森下ひさえ 伊藤弘子
青木崇高(友情出演) 音尾琢真(特別出演)
プロデュース:川岡 大次郎
監督・脚本・編集:杉山 嘉一
撮影:鳥居康剛 制作:森田博之 現地制作 :森岡昇夢
美術:田中佑佳 音楽:山下俊輔
ドローン撮影:中村誠 方言指導:安在ますみ
イラストレーター:加藤槙梨子
SUPガイド:西口紀章 君島雅弘 君島つぎみ
那須塩原市内を流れる「箒川(ほうきがわ)」で、SUP(スタンドアップパドル)のアウトドアガイドをしている君島賢司(松本享恭)は、父を子供の頃に亡くし、母と二人で生きてきた。そして母を病気で亡くし、一人きりになってしまった。これからの自分の行く末を模索していた賢司は、最近塩原に移住したイラストレーターの森音葉(前田亜季)と出会いガイドを頼まれる。彼女は心の赴くままに7年かけて世界中を旅し、イラストを描いてきた。彼女の姿を見て、「今まで自分はただ流されて生きていたのかも」と、自分の人生に疑問を抱き始める。
そんな賢司に、Uターンして戻った友達や、職場の同僚、父の旧友、想いを寄せる温泉旅館若女将の幼馴染や東京で働く元彼女など、さまざまな人が意見をいうので、戸惑ってしまう。さらに、幼い頃に死んだと聞かされていた父親が現れ、ますます賢治の心にさざなみが拡がる…。そんな賢司は、塩原を出たいと思わない自分の心と向き合い、自分らしい生き方を見つめなおす。
この作品は、俳優の川岡大次郎が、2016年、某テレビ番組の企画で那須塩原に期間限定で移住し、那須塩原の自然と人の暖かさに魅入られ、その魅力を発信したいと「なすしおばら映画祭」を立ち上げ、その映画祭のために、川岡大次郎がプロデューサーとなり製作された。2021年に映画祭のクロージングで上映された後、劇場公開したいとクラウドファンディングで資金を集め、全国公開されることになった。
「某テレビ番組の企画で那須塩原に期間限定で移住したプロデューサーの俳優・川岡大次郎」と書いてありましたが、私はその番組の大ファンで、いつも楽しみにしていました。この川岡大次郎さんが、移住先の那須塩原でアウトドアガイド(スタンドアップパドル)のバイトをしていた回のことも覚えています。その時の体験が、この映画に生かされています。私はこの番組を見た時にスタンドアップパドルを知りました。そして川岡大次郎さんが、その後もこの場所と関わりを続け、こんな映画まで作ってしまったということに驚きと嬉しさを感じました。那須塩原映画祭まで立ち上げていたなんてすばらしいですね。この番組は終わってしまいましたが、この番組での移住生活がきっかけで、その後も川岡さんのように移住した先の人たちと交流を続けている人が他にもいます。そういうのっていいですね(暁)。
製作 / 制作 株式会社コンセント 栃木県那須塩原市
2021年/日本/ヴィスタ/5.1ch/105分
公式サイト:kawano-nagareni.com
配給協力:SDP
ザリガニの鳴くところ(原題:Where the Crawdads Sing)
監督:オリヴィア・ニューマン
脚本:ルーシー・アリバー
原作:ディーリア・オーエンズ、友廣純 訳『ザリガニの鳴くところ』(早川書房)
製作:リース・ウィザースプーン、ローレン・ノイスタッター
出演:デイジー・エドガー=ジョーンズ、テイラー・ジョン・スミス、ハリス・ディキンソン、マイケル・ハイアット、スターリング・メイサー・Jr.、デヴィッド・ストラザーン
音楽:マイケル・ダナ
オリジナル・ソング:テイラー・スウィフト「キャロライナ」
1969年、ノースカロライナ州の湿地帯で、裕福な家庭で育ち将来を期待されていた青年の変死体が発見された。容疑をかけられたのは、‟ザリガニが鳴く”と言われる湿地帯でたったひとり育った、無垢な少女カイア。彼女は6歳の時に両親に見捨てられ、学校にも通わず、花、草木、魚、鳥など、湿地の自然から生きる術を学び、ひとりで生き抜いてきた。そんな彼女の世界に迷い込んだ、心優しきひとりの青年。彼との出会いをきっかけに、すべての歯車が狂い始める…。
原作は動物学者ディーリア・オーエンズによる同名ミステリー小説。2019年、2020年の2年連続、アメリカで最も売れた本とのこと。日本でも2021年に本屋大賞翻訳小説部門第1位に輝きました。
鳴くはずのないザリガニが鳴くってどういうこと?と思われるかもしれません。これは比喩のような表現で、ザリガニの鳴き声が聞こえるような気がするくらい茂みの奥深く、生き物たちが自然のままの姿で生きている場所という意味です。
両親に見捨てられながらもノースカロライナの湿地帯でたった一人、自然に抱かれて逞しく生きる少女がある殺人事件の容疑者として捕まってしまうのですが、その裁判の過程と並行して、彼女の生い立ちが描かれて、やがて2つの時系列が1つになった先に驚きの結末が待っています。
「読み始めたら止まらなかった」と原作に惚れ込んだ女優リース・ウィザースプーンが、自身の製作会社ハロー・サンシャインを通して映像化権を得て自らプロデューサーを担当しました。主人公のカイアを演じるのはデイジー・エドガー=ジョーンズ。イギリス人の彼女がカロライナ訛りや舞台となる湿地帯を移動するためのボートの操縦、絵を描く技術を身につけて役に挑んでいます。さらにシンガーソングライターのテイラー・スウィフトが、原作を愛するあまり、「この魅力的な物語に合うような、心に残る美しい曲を作りたかった」と自ら懇願してオリジナルソング「キャロライナ」を書き下ろして提供しました。(堀)
ミステリーではありますが、舞台となる広大な湿地の美しさが際立ちます。ロケ地としてここが見付かり、原作ファンも満足ではないでしょうか。
冒頭では揃っていた家族が減っていき、最後に一人残された少女カイアは自然によって生かされました。ひとりぼっちのカイアですが、豊かな自然に包まれて孤独ではありません。湿地に生きるたくさんの鳥や魚、植物たち。湿地は生きる術を身につけさせ、店の夫婦と唯一の友人が学校に行かないカイアを何くれとなく気遣ってくれます。
そんな生い立ちが法廷の場で少しずつ明らかになります。この極上の小説はディーリア・オーエンズによって書かれました。動物学者なので、研究書やノンフィクションは発表しても、69才にして初の小説なのだそうです。それも最後まで読者を惹き付けるミステリーとは!
原作者自身が魅せられているにちがいない湿地の美しい四季を愛でるとともに、生きることや命をそれぞれに考えられる作品でした。
カイアの好きなものや、細部まで丁寧に描かれた絵が飾られた家をじっくり見せてもらいたいなあ。(白)
2022年/125分/G/アメリカ
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
公式サイト:https://www.zarigani-movie.jp/
★2022年11月18日(金)ロードショー
ミセス・ハリス、パリへ行く(原題:Mrs Harris Goes to Paris)
監督:アンソニー・ファビアン
原作:ポール・ギャリコ
脚本:キャロル・カートライト、アンソニー・ファビアン、キース・トンプソン、オリビア・ヘトリード
撮影:フェリックス・ビーデマン
音楽:ラエル・ジョーンズ
出演:レスリー・マンヴィル、イザベル・ユペール、ランベール・ウィルソン、アルバ・バチスタ
第二次世界大戦後のロンドン。夫を亡くした家政婦ハリスは働き先でクリスチャン ディオールのドレスに出会う。あまりの美しさに完全に魅せられたハリスは、ディオールのドレスを手に入れるためにパリへ行くことを決意する。なんとか集めたお金でパリへと旅立った彼女が向かった先は、ディオールの本店。威圧的なマネージャーのコルベールから追い出されそうになるが、ハリスの夢をあきらめない姿勢は会計士のアンドレやモデルのナターシャ、シャサーニュ侯爵ら出会った人々を魅了していく。果たして彼女はクリスチャン ディオールのドレスを手に入れて、夢を叶えることができるのだろうか......。
掃除婦として堅実に生きてきたミセス・ハリスがある日、突然、ディオールのドレスの魅力に憑りつかれてしまう。「気持ちはわかるけれど、そのドレスを買って、どこに来て行くの?」と思いつつも、彼女の真っすぐな行動力に引き込まれてしまいます。何とかお金を貯めて、いざフランスへ。夜遅くに空港に着き、待合所で一晩を過ごすのですが、ホームレスたちにワインを勧められ、つい…。「ドレスのために貯めたお金を盗まれてしまうのでは」とドキドキしていると、実はとっても親切な人たちでした。疑ってしまった自分が恥ずかしくなります。
その先も一波乱も二波乱もあるのですが、彼女の前向きなパワーがそれを難なく乗り越えさせてしまいます。フランスではちょっとロマンスかしら?なんて展開もあったりして、人生っていくつになっても楽しめるものだと感じさせてくれる作品です。
主人公ミセス・ハリスを演じるのは、『ファントム・スレッド』(2017)でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされたイギリスの名女優、レスリー・マンヴィル。ミセス・ハリスにきつく当たるディオールのマネージャー役にイザベル・ユペール。2人の熟女対決はさすがの貫禄です。
そして、作品を彩るディオールのドレスの数々も見どころ。ドレスのデザインは、『クルエラ』をはじめ3度のアカデミー賞に輝いたジェニー・ビーヴァンが手がけています。クリスチャン・ディオールが手がけたデザインを緻密に再現した、メゾンでのファッションショーのシーンは必見です。(堀)
有能な家政婦さんのミセス・ハリスが明るく可愛らしくて、きっとどなたもお気に入りになるはず。とても堅実に暮らしていながら、綺麗なものに魅せられて大枚はたいてしまうその夢見るところも魅力です。原作の次の巻では、ニューヨークに行き、そのまた次は議員になり、と大活躍。それでも自分の身丈に合わないと気づくと、やめる潔さも持ち合わせています。この時代の貨幣価値はどのくらい今と違うのか、あのドレスはいったいおいくらなの?と気になりました。当時は固定相場制で1ポンドは1000円だったようです。450ポンドは450000円!!それでも現代なら既製品のワンピースくらい。贅を尽くしたオートクチュールには手が届きません。
オートクチュールも知らずに行ったミセス・ハリスですが、同じように働く人たちから伯爵まで大勢の応援を得ることができました。原作では為替や関税の問題も起きてきます。映画を観賞後は原作もお楽しみください。(白)
2022年製作/115分/G/ハンガリー・イギリス・カナダ・フランス・アメリカ・ベルギー合作
配給:パルコ
(C)2022 Universal Studios
公式サイト:https://www.universalpictures.jp/micro/mrsharris
★2022年2022年11月18日(金) TOHO シネマズ シャンテほか全国ロードショー
ザ・メニュー(原題:The Menu)
監督:マーク・マイロッド
脚本:セス・リース、ウィル・トレイシー
撮影:ピーター・デミング
音楽:コリン・ステットソン
出演:レイフ・ファインズ、アニャ・テイラー=ジョイ、ニコラス・ホルト、ホン・チャウ、ジャネット・マクティア、ジョン・レグイザモ ほか
太平洋岸の孤島をカップルで訪れたマーゴ(アニャ・テイラー=ジョイ)とタイラー(ニコラス・ホルト)。お目当ては、なかなか予約の取れない有名シェフのスローヴィク(レイフ・ファインズ)が振る舞う、極上のメニューの数々。 「ちょっと感動しちゃって」と、目にも舌にも麗しい、料理の数々に涙するタイラーに対し、マーゴが感じたふとした違和感をきっかけにレストランは徐々に不穏な雰囲気に。 一つ一つのメニューには想定外の“サプライズ”が添えられていたのだ 。果たして、レストランには、そして極上のコースメニューにはどんな秘密が隠されているのか?そしてミステリアスな超有名シェフの正体とは…?
これまでにもレストランを舞台にした映画はいくつも作られてきました。それらには大抵、人生に躓いてしまった人が登場し、その人物が料理を作ることやお店を切り盛りすることで立ち直っていくハートウォーミングな結末を迎えるが多いような気がします。
本作はそれらとは一線を画し、スローヴィクとマーゴの心理戦の様相を呈した展開は最後までサスペンスフル。極上の料理が提供されているものの、それどころではなくなってしまいます。そして、恐らく、この作品を見た多くの人がチーズバーガーを食べたくなること必至。その理由はぜひご自身でお確かめください。(堀)
わざわざ孤島に行くというところで、まずひっかかりを感じます。わたしは行きませんよ、ええ。招待されていませんけど。豪華な食事が次々と現れ、ストーリーが進んでいくと、頭が???マークでいっぱいになります。このディナーって??? 目的は何???
レイフ・ファインズといえば「名前の言えないあの人」のイメージがいまだ強くて、それはご本人にも痛し痒しでしょう。この超人気シェフの役も板についているのに、何かあるに違いない、と勘ぐってしまいます。
マーゴ役のアニャ・テイラー=ジョイの目力と、胆力に思わず「天晴れ!」。じわじわと背中を這い上がってくる疑問と恐怖に負けず、最後まで美食を楽しんでお帰りください。(白)
2022年/107分/R15+/アメリカ
配給:ディズニー
©2022 20th Century Studios. All rights reserved.
公式サイト:https://www.searchlightpictures.jp/movies/themenu
★2022年11月18日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
2022年11月08日
あなたの微笑み 英題:Your Lovely Smile
監督・プロデューサー・脚本・編集:リム・カーワイ
出演:渡辺紘文 平山ひかる 尚玄 田中泰延
映画、そして映画館が愛おしくなる1作
東京国際映画祭で受賞歴を持つ映画監督の渡辺紘文。栃木の田舎町で映画製作団体「大田原愚豚舎」を旗揚げするも、映画製作の依頼がくることもなく、無駄に日々を過ごしていた。
そんなある日、旧知のプロデューサーから、世界的映画監督”KOREEDA”の代打で沖縄での映画製作の話が舞い込む。さっそく沖縄に向かうと、「いますぐ俺を主人公にして映画を作れ」と“社長”に高級ホテルに缶詰めにされる。脚本がすぐに書けるはずもなく、短気な“社長”にクビを言い渡され、ホテルを追い出される。渡辺は首里劇場に行き、自分の映画の上映を館主に頼むが、無理だと言われる。その後、渡辺は、別府ブルーバード劇場、小倉昭和館、鳥取のジグシアター・・・と、売り込み行脚を続けるが、どこも引き受けてくれない。やっと、兵庫の豊岡劇場の館長(田中泰延)が、3作品の特集上映を組んでくれる。館長が作ってくれたチラシとチケットを手に、渡辺は豊岡の町を売り込みに歩く・・・
映画は製作が終われば完成でなく、観てもらってこそ、命が吹き込まれて出来上がるのだとつくづく思いました。監督自ら映画館に売り込みに行く様に、多くの監督たちの姿が重なりました。監督や俳優の名前だけで売れるようになるまで、どれほどの汗と涙が流れていることでしょう。
映画の最初の方で、元東京国際映画祭プログラミングディレクターの矢田部吉彦さんが本人役で出てきて、渡辺監督が「その後、どうされているのですか?」と問う場面がありました。それ、私も知りたいと思っていたことでした。今後を期待できるようなお答えでした。
各地のミニシアターの館長さんたちも豊岡劇場を除いて皆さんご本人。館長さんたちの語る言葉に、いつか訪ねてお会いしてみたいと思いました。小倉昭和館は火事で焼けてしまい、貴重な映像となっています。
尚玄さんは、今回、女性を数人侍らせた“社長”役で、いつもとちょっと違って、チャラい役を楽しんでいるご様子でした。(咲)
2019年の東京国際映画祭授賞式で渡辺紘文監督のことを知ったのですが、残念ながら作品を観る機会はありませんでした。それが、リム・カーワイ監督のこの『あなたの微笑み』に「世界の渡辺」という役で出演するということを知り、楽しみにしていました。そして、いくつものミニシアターが出てきて、映画愛に満ちた作品でもありました。私も、ここに出てきたミニシアターに行ってみたくなりました。小倉の昭和館が火事で焼けてしまったので、貴重な記録にもなりました。2カ月くらい前、この映画舘の方がTVに出てきて、この映画館が焼けてしまった話をしていましたが、再建はとても大変そうです。小倉出身で日大映画学科卒業の友人に、この映画館の話をしたら、昭和館のことは知らないと言われ、びっくり。映画大学に行くくらいだからこの映画館に行っているだろうと思ったのに、行ったことがないと言われ、そういうものかとも思いました。それにしても「世界の渡辺」が自分の映画を売り込みに、日本中のミニシアターを巡るという設定、面白くもあり、全然上映チャンスもつかめないのが悲しくもあり、でも二人はほんとに映画が好きなんだなとほっこりもしました(暁)。
★シアター・イメージフォーラム★ 劇場トークイベントスケジュール
11/12(土)11:30回上映後 登壇:渡辺紘文、平山ひかる、尚玄、田中泰延、リム・カーワイ監督
11/12(土)21:00回上映後 登壇:田中泰延、リム・カーワイ監督
11/13(日)11:30回上映後 登壇:深田晃司監督、リム・カーワイ監督
11/15(火)11:30回上映後 登壇:石川慶監督、リム・カーワイ監督
11/16(水)11:30回上映後 登壇:平山ユージ(プロ・フリークライマー)、平山ひかる
11/16(水)21:00回上映後 登壇:松浦祐也、リム・カーワイ監督
11/18(金)21:00回上映後 登壇:中原昌也、リム・カーワイ監督
※11/19(土)以降の上映スケジュール、トークイベントスケジュールは劇場HP、映画公式SNS、HPにてご確認ください。
2022年/日本/カラー/DCP/5.1ch/103分
配給:Cinema Drifters 宣伝:大福
文化庁「ARTS for the Future!」補助対象事業
公式サイト:https://anatanohohoemi.wixsite.com/official
★2022年11月12日(土)よりイメージフォーラム、12月3日(土)よりシネ・ヌーヴォ他全国順次公開
2022年11月06日
雨の詩 英題:Song of Rain
2022年11月12日(土) ~ポレポレ東中野(東京)
2022年11月26日(土) ~シネ・ヌーヴォ(大阪)
他順次公開予定
電気水道なし? 自給自足に挑む二人の男たちのスローライフを描く
監督:蔦 哲一朗 プロデューサー:増渕愛子
撮影監督:青木 穣 録音技師:佐々井宏太
制作進行:辻 秋之 助監督:久保寺晃一
撮影助手:石井綾乃/村上拓也
出演:須森隆文(ジン役)、寺岡弘貴(テラ役)
徳島県出身の蔦哲一朗監督(『祖谷物語-おくのひと-』)の最新作『雨の詩』は、徳島県美馬市の「アースシップMIMA」を舞台に撮影された。
ジンとテラは、「アースシップ」という自然エネルギーによって自給するオフグリッドハウス(公共のインフラを必要としない建物)に住み、電気水道なしの自給自足の生活に挑んでいる。雨水を濾過し、生活用水に変える循環機能をもった「アースシップ」。ガラス窓に囲まれた家は、朝になると覆いをどかし太陽の光が差し込まれる。そんな自然に配慮したサバイバルな生活をする二人の男たち。都会から移住してきたジンは、地元民のテラから山や川での狩りや採集の仕方など田舎での暮らし方を教わり、文学や詩に親しみ、自然を理解していく。川では鰻を捕り、草原では亀を捕まえ料理する。テラさんの見事な手さばき作業を真剣にみつめるジンさん。
都会の喧騒から離れた、日本の片隅で静かに生きる男たちの自給自足生活。そんな生活をする彼らの日常は、鳥の鳴き声や、森から聞こえてくる音や、川の流れる音につつまれ、大地の空気感が漂う。ジンはそれらに反応し、少しづつ田舎暮らしに慣れてゆく。雨が降れば水をため、農家の畑の手伝いをし芋?を掘ったり、農村の物々交換も体験。
デジタルが主流になった映画製作だけど、フィルム撮影を貫きつづける蔦監督。白黒フィルムで映し出されるノスタルジックな風景が映し出される。
蔦哲一朗監督は「時代は地球に配慮した社会に、表面上は少しずつ変わってきていますが、それでも多くの方はまだ資本主義が生んだ大量生産大量消費の便利さから抜け出せそうにはありません。私もその一人です。私はその罪悪感を映画で解消しようとしているに過ぎませんが、本当に自然の中に身を置いて、悪戦苦闘しながらも、あるべき生活に挑んでいる方々を見ると、勝手ながら救われた気持ちになります。
この映画はそんな皆さんに向けて作った讃歌です。私は今、東京の都会で子育てに奮闘する毎日ですが、ゆくゆくは田舎へ戻り、敬愛する詩人・山尾三省さんのように自然と対話しながら、渇いた心を潤す水みたいな映画を作れたらと思っています」と語る。
知らなかったが、便利、効率、利益を重視する生活から、自分の生活や暮らし、生きがいを尊重し、ゆったりとした時間を持つ暮らし方を「スローライフ」というらしい。そういう意味では、私はずっとそれを求めてきたと言えるかもしれない。そしてある程度は実践してきたと思う。しかし「ゆったりとした時間を持つ暮らし」だけは、なかなかできない。いつも時間に追われ、やることが溜まって、アップアップしている。そうしたくても、やりたいことがたくさんあるので、ま、それはしょうがないのかもしれない。
この映画は、それを実行する男たちを描いている。電気も水道もない中で、循環型の家の作りを利用して雨が降れば水を貯め、ガラス張りの家で、太陽と共に生活することで、電気なしの生活をしているようだ。たぶんゴーヤだと思うけど、普通、家の外に植えるのに、家の中に植えている。これはどういう意味なんだろうと思った。昆虫がいなければ実はならないわけだから、どうして家の中にゴーヤがある?と思った。あるいは窓を開けているのか。食べ物の確保も、買うのではなく、畑を作ったり、川や山、草原に狩りに行く。
食事をした後、焚火のそばで山尾三省さんの「火を焚きなさい」という詩が語られる。それがとても良かった。山尾三省さんは、ヒッピー文化に影響を受け、過度な文明化を批判し、自然と共に生きる道を選び、屋久島に移住。田畑を耕しながら詩の創作をしていた方です(暁)。
2021年/日本/ビスタサイズ/5.1ch/モノクロ/45分
製作・配給 ニコニコフィルム
文化庁「ARTS for the future!」補助対象事業
<公式HP> https://www.amenouta-movie.com/
<予告編リンク> https://youtu.be/G88e8vVIcqg
また、水上勉さんのエッセイを元に、この映画と同じようにスローライフを描いた中江裕司監督の『土を喰らう十二ヵ月』という作品が11月11日(金)より、新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほかで公開されます。
*シネマジャーナルHP 作品紹介 『土を喰らう十二ヵ月』
* シネマジャーナルHP スタッフ日記 『土を喰らう十二ヵ月』を観て(暁)
2022年11月26日(土) ~シネ・ヌーヴォ(大阪)
他順次公開予定
電気水道なし? 自給自足に挑む二人の男たちのスローライフを描く
監督:蔦 哲一朗 プロデューサー:増渕愛子
撮影監督:青木 穣 録音技師:佐々井宏太
制作進行:辻 秋之 助監督:久保寺晃一
撮影助手:石井綾乃/村上拓也
出演:須森隆文(ジン役)、寺岡弘貴(テラ役)
徳島県出身の蔦哲一朗監督(『祖谷物語-おくのひと-』)の最新作『雨の詩』は、徳島県美馬市の「アースシップMIMA」を舞台に撮影された。
ジンとテラは、「アースシップ」という自然エネルギーによって自給するオフグリッドハウス(公共のインフラを必要としない建物)に住み、電気水道なしの自給自足の生活に挑んでいる。雨水を濾過し、生活用水に変える循環機能をもった「アースシップ」。ガラス窓に囲まれた家は、朝になると覆いをどかし太陽の光が差し込まれる。そんな自然に配慮したサバイバルな生活をする二人の男たち。都会から移住してきたジンは、地元民のテラから山や川での狩りや採集の仕方など田舎での暮らし方を教わり、文学や詩に親しみ、自然を理解していく。川では鰻を捕り、草原では亀を捕まえ料理する。テラさんの見事な手さばき作業を真剣にみつめるジンさん。
都会の喧騒から離れた、日本の片隅で静かに生きる男たちの自給自足生活。そんな生活をする彼らの日常は、鳥の鳴き声や、森から聞こえてくる音や、川の流れる音につつまれ、大地の空気感が漂う。ジンはそれらに反応し、少しづつ田舎暮らしに慣れてゆく。雨が降れば水をため、農家の畑の手伝いをし芋?を掘ったり、農村の物々交換も体験。
デジタルが主流になった映画製作だけど、フィルム撮影を貫きつづける蔦監督。白黒フィルムで映し出されるノスタルジックな風景が映し出される。
蔦哲一朗監督は「時代は地球に配慮した社会に、表面上は少しずつ変わってきていますが、それでも多くの方はまだ資本主義が生んだ大量生産大量消費の便利さから抜け出せそうにはありません。私もその一人です。私はその罪悪感を映画で解消しようとしているに過ぎませんが、本当に自然の中に身を置いて、悪戦苦闘しながらも、あるべき生活に挑んでいる方々を見ると、勝手ながら救われた気持ちになります。
この映画はそんな皆さんに向けて作った讃歌です。私は今、東京の都会で子育てに奮闘する毎日ですが、ゆくゆくは田舎へ戻り、敬愛する詩人・山尾三省さんのように自然と対話しながら、渇いた心を潤す水みたいな映画を作れたらと思っています」と語る。
知らなかったが、便利、効率、利益を重視する生活から、自分の生活や暮らし、生きがいを尊重し、ゆったりとした時間を持つ暮らし方を「スローライフ」というらしい。そういう意味では、私はずっとそれを求めてきたと言えるかもしれない。そしてある程度は実践してきたと思う。しかし「ゆったりとした時間を持つ暮らし」だけは、なかなかできない。いつも時間に追われ、やることが溜まって、アップアップしている。そうしたくても、やりたいことがたくさんあるので、ま、それはしょうがないのかもしれない。
この映画は、それを実行する男たちを描いている。電気も水道もない中で、循環型の家の作りを利用して雨が降れば水を貯め、ガラス張りの家で、太陽と共に生活することで、電気なしの生活をしているようだ。たぶんゴーヤだと思うけど、普通、家の外に植えるのに、家の中に植えている。これはどういう意味なんだろうと思った。昆虫がいなければ実はならないわけだから、どうして家の中にゴーヤがある?と思った。あるいは窓を開けているのか。食べ物の確保も、買うのではなく、畑を作ったり、川や山、草原に狩りに行く。
食事をした後、焚火のそばで山尾三省さんの「火を焚きなさい」という詩が語られる。それがとても良かった。山尾三省さんは、ヒッピー文化に影響を受け、過度な文明化を批判し、自然と共に生きる道を選び、屋久島に移住。田畑を耕しながら詩の創作をしていた方です(暁)。
2021年/日本/ビスタサイズ/5.1ch/モノクロ/45分
製作・配給 ニコニコフィルム
文化庁「ARTS for the future!」補助対象事業
<公式HP> https://www.amenouta-movie.com/
<予告編リンク> https://youtu.be/G88e8vVIcqg
また、水上勉さんのエッセイを元に、この映画と同じようにスローライフを描いた中江裕司監督の『土を喰らう十二ヵ月』という作品が11月11日(金)より、新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほかで公開されます。
*シネマジャーナルHP 作品紹介 『土を喰らう十二ヵ月』
* シネマジャーナルHP スタッフ日記 『土を喰らう十二ヵ月』を観て(暁)
土を喰らう十二ヵ月
監督・脚本:中江裕司
原案:水上勉 『土を喰う日々−わが精進十二ヵ月−』(新潮文庫刊)
『土を喰ふ日々 わが精進十二ヶ月』(文化出版局刊)
料理:土井善晴
音楽:大友良英
出演:沢田研二、松たか子、西田尚美、尾美としのり、瀧川鯉八、檀ふみ、火野正平、奈良岡朋子
作家のツトム(沢田研二)は、人里離れた信州の山荘で、犬のさんしょと13年前に亡くなった妻の八重子の遺骨と共に暮らしている。9歳から13歳まで禅寺に住み、精進料理を身に着けた彼にとって、畑で育てた野菜や山で収穫する山菜などを使って作る料理は日々の楽しみのひとつだった。時折、担当編集者で恋人の真知子(松たか子)が東京から訪ねてくると一緒に料理をして食事を楽しんでいた。ところが、2人の心境に大きな変化を生じさせることが起きる。
映し出される料理は自前の畑で採れた野菜を使ったもの。どれも美味しそうで、スクリーンの向こう側に入り込み、ご相伴に預かりたくなる。高級食材を使えばいいというわけではないことがよくわかった。食べる2人が楽しそうなのも、またいい。松たか子がたけのこを食べている姿のなんと色っぽいことか。あのシーンはまるでラブシーンではないか!
しかも自然の情景が美しい。料理の話ではあるが、自然の風景も見どころの1つ。ロケ地にこだわった監督の思いがスクリーンいっぱいに伝わってくる。
本作を観る前に原作を読んだところ、里芋の皮の剥き方について書かれていた。ところが、何度読んでもどういうことなのか、私にはさっぱりわからない。映画にはその部分が描かれており、一目瞭然でわかる。映像の力を改めて感じた。(堀)
監督中江裕司、主演ジュリーこと沢田研二、料理監修土井善晴、しかもロケ地は信州。これはもう楽しみに観るしかない。この映画のロケ地は、私の第二の故郷、白馬村周辺だった! この北アルプス後立山連峰の山々が見える山麓が好きで、山やスキーに10年通ったあげく、鹿島槍ヶ岳という山の写真を撮るという大義名分で、鹿島槍高原と白馬村で1981年~86年まで、働きながら写真を撮っていた。
なので、この映画のロケ地が映し出されるたびに、これはきっとあそこだなとワクワクドキドキしながら観た。しかも野菜だけでなく、山菜や木の実、キノコなどを採って、それを料理するというシーンが十二ヵ月分も出てきて楽しませてくれた。ツトムが住んでいるという設定の山荘のあたりも40年くらい前に行ったことがある。白馬村の大糸線の駅の周辺は、長野オリンピックを堺に大きく変わったけど、ツトムが住んでいたあたりは、今もほとんど変わっていないように思う。
そして、土井善晴さんによる、定番でない料理方法と、おいしそうな料理の数々。ジュリーの料理の手つきも悦に入っている。ラジオで土井善晴さんが「沢田研二さんは自分の包丁を持ってきた」と言っていたので、けっこう料理を作ったりしているのかもと思った。
あまりにも、この映画にハマってしまったので、スタッフ日記に、この映画を観てのディープな文章を書いてしまった。良かったら見てください(暁)。
シネマジャーナルHP スタッフ日記
ディープな『土を喰らう十二ヵ月』案内(暁)
http://cinemajournal.seesaa.net/article/493262568.html
四季折々移ろう景色や、自前の畑や山の恵みの食材で作る素朴なお料理に目を惹かれましたが、何より心に残ったのは、近くで独り暮らしをしていた義母チエ(奈良岡朋子)のお葬式の場面でした。
ツトムの暮らす山荘で葬儀をあげたいという義弟夫婦(尾美としのり、西田尚美)の頼みで、ツトムは大工(火野正平)に棺桶と祭壇を頼み、写真屋(瀧川鯉八)に遺影を依頼します。お通夜の席のために、ツトムが真知子に手伝ってもらいながら胡麻豆腐を作る場面が素敵です。そして、近隣の人たちがチエに作り方を教えてもらった自家製のお味噌をそれぞれが祭壇にお供えする姿にじ~んとさせられました。こんな風に見送ってもらえる方は幸せだなと思いました。(咲)
2022年/日本/カラー/ヨーロッパビスタ/5.1ch/111分
配給:日活
©2022『土を喰らう十二ヵ月』製作委員会
公式サイト:https://tsuchiwokurau12.jp/
★2022年11月11日(金)より新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座他にて全国公開監督
ペルシャン・レッスン 戦場の教室 原題:Persian Lessons
HYPE FILM, LM MEDIA, ONE TWO FILMS, 2020 (C)
監督:ヴァディム・パールマン
出演:ナウエル・ペレーズ・ビスカヤート、ラース・アイディンガー、ヨナス・ナイ、レオニー・ベネシュ
1942年、ナチス占領下のフランス。ユダヤ人青年ジルは捕らえられ移送中のトラックの中で、手にしていたサンドイッチを、ペルシャ語の本と交換してほしいと同胞の男に頼まれる。レザという家主が出国する時に置いていった本だという。森の中で銃殺されそうになった時、ジルは本を掲げ、「自分はペルシャ人だ」と嘘をつき難を逃れる。
折しも、強制収容所のコッホ大尉が、部下にペルシャ人を見つけたら褒美をやると命じていた。コッホ大尉の前に連れていかれ、証拠を示せと言われ、たった一つ聞いていた単語を伝える。コッホ大尉は、戦争が終わったら、兄のいるテヘランでドイツ料理店を開くのが夢だという。ペルシャ語を教えてくれという大尉に、ジルは、父はペルシャ人だけど母はベルギー人、家で話していただけで読み書きはできないと伝える。ジルは、一日40の単語を教えることになる。すべて造語だ。
コッホ大尉のもとで囚人名簿の記入係をしていた女性が、字が汚いとほかの部署に飛ばされ、代わりにジルが名簿を担当することになる。造語を思いつくのに苦労していたジルは、囚人の名前から単語を作るようになる・・・
偽のペルシャ語を教えて、ホロコーストを生き延びた実話?と思ったら、ヴォルフガング・コールハーゼの短編小説に着想を得た物語。 とはいえ、あの時代、なんとかして生き抜こうと模索したユダヤ人は多々いることと思います。
ペルシャ語を学んだ私にとっては、ユダヤ人の青年がペルシャ人になりすまし、“偽”のペルシャ語レッスンを行うという物語に興味津々。 最初に、たった一つ知っている単語として出てきた「お父さん」は、「バーバー(ババ)」なのですが、字幕がバウバウになっていて、ちょっとがっかり。
1日40語ずつとはいえ、自分で作った偽の単語を記憶するのは、並み大抵のことではできません。演じたナウエル・ペレーズ・ビスカヤートは、アルゼンチン出身で、母語はスペイン語。ほかにドイツ語、イタリア語、フランス語も話せるそうで、まさにジル役にぴったり。 また、ジルのスバ抜けた記憶力は、戦後、思いもかけないことで役に立つというラストには、涙が出る思いでした。
ペルシャ語をご存じの方には、ほんの少しですが、本物のペルシャ語が重要な場面で出てきますので、お楽しみに♪
思えば、ヴァディム・パールマン監督の『砂と霧の家』(2003年)は、革命でイランからアメリカに亡命した一家の物語でした。もしかしたら、監督、イランにご興味が?? (咲)
2020年/ロシア、ドイツ、ベラルーシ/ドイツ語、イタリア語、フランス語、英語/129分/カラー/シネスコ/5.1ch/G
字幕翻訳:加藤尚子
提供:木下グループ 配給:キノフィルムズ
公式サイト:https://movie.kinocinema.jp/works/persianlessons
★2022年11月11日(金)より kino cinéma横浜みなとみらい他 全国順次公開
あちらにいる鬼
監督:廣木隆一
脚本:荒井晴彦
原作:井上荒野「あちらにいる鬼」(朝日文庫)
出演:寺島しのぶ 豊川悦司/広末涼子
「髪を洗ってやるよ」。
それは、男と女でいられる最後の夜のことだった。
1966年、講演旅行をきっかけに出会った長内みはると白木篤郎は、それぞれに妻子やパートナーがありながら男女の仲となる。もうすぐ第二子が誕生するという時にもみはるの元へ通う篤郎だが、自宅では幼い娘を可愛がり、妻・笙子の手料理を絶賛する。奔放で嘘つきな篤郎にのめり込むみはる、全てを承知しながらも心乱すことのない笙子。緊張をはらむ共犯とも連帯ともいうべき 3 人の関係性が生まれる中、みはるが突然、篤郎に告げた。「わたし、出家しようと思うの」。
2021年11月9日、満99歳で波乱の生涯を閉じた作家・僧侶の瀬戸内寂聴。人生を楽しむことに長け、歯に衣着せぬ発言に多くの女性が心酔してきた。そんな寂聴もかつては奔放な恋愛に生きていた。
本作は寂聴に出家を決意させることとなったある恋愛をモデルにした書かれた小説が原作である。しかもその原作を書いたのが寂聴の不倫相手の娘だという。“書く”ということの業を感じずにはいられない。
しかし、作品を見るとどろどろした感じはない。むしろ主人公と不倫相手の妻の2人の女性は清々しささえある。主人公・みはる、のちの寂光に寺島しのぶ、白木の妻・笙子を広末涼子が演じているからだろうか。そして、2人の間にいる白木篤郎に豊川悦司。嘘ばかりつき、クズな男だが豊川悦司が演じることで、色気の中に無邪気さが垣間見え、許せてしまうから不思議だ。3人の奇妙なトライアングルを濃密な人間ドラマとして紡いだ荒井晴彦の脚本と廣木隆一監督の演出の手腕によるところも大きいだろう。
2022年5月に公開された『瀬戸内寂聴 99年生きて思うこと』と併せてみることで、瀬戸内寂聴の嫋やかさがより理解できるのではないだろうか。(堀)
自由奔放に生き、不倫関係を断つために出家して瀬戸内晴美から瀬戸内寂聴となった頃、散々、テレビや週刊誌で取り沙汰されていて、彼女の生き様が否が応でも耳に入ってきたものです。それを不倫相手の小説家の娘さんである井上荒野が小説にしたということに驚かされます。広末涼子演じた白木の妻・笙子は、自身の母。不倫相手に凛として接する姿が潔いのですが、それが娘から見た母なのでしょう。そして、井上荒野が瀬戸内寂聴と長い間交流があったということにも、面白い縁を感じます。
寂聴さんは、映画をとても楽しみにされていたそうですが、残念ながら完成を待たずに旅立たれました。ご覧になったら、どんな感想を発したでしょう。(咲)
2022年/139分/R15+/日本
配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2022 「あちらにいる鬼」製作委員会
公式サイト:https://happinet-phantom.com/achira-oni/
★2022年11月11日(土)ロードショー
追想ジャーニー
監督:谷健二
脚本:竹田新
撮影:今井哲郎
出演:藤原大祐、高橋和也、
佐津川愛美 真凛 高石あかり 岡本莉音
赤間麻里子 根本正勝 設楽銀河 / 伊礼姫奈 外山誠二
母親とケンカした高校生の文也は、勉強もせずに居眠りしてしまう。気がつくと、なぜか舞台の上にいた。そばには見知らぬ男がいて、「今日がお前の正念場だ。ここを逃したら一生後悔することになるんだぞ」と進言してくる。やがて、同級生で幼なじみのくるみとクラスメイトのゆりえが舞台上に現れ、どちらと付き合うか決めるよう迫られる。夢と現実のはざまにいる文也に、見知らぬ男は「これが現実であり、自分は30年後のお前だ」と話す。そして、文也がいる舞台は過去の出来事を追想し、その時に選択した内容を変えられる不思議な場所だったが……。
中年といわれる年齢になってくると未来よりも過去に目が向きがち。あのときにこうしていれば今ごろ…。そんなことを思うのは誰にでも1つや2つあるだろう。でもそれは結果が出ている今だからわかること。自分に自信があればあるほど、その渦中には悪い結果になるなんて思いが及ばない。
主人公の文也はカッコいいと思っている。演じているのが藤原大祐なのだから、確かに見た目はいい。では内面はどうだろう。周りの人への配慮に欠けるようだ。自分の行動に責任を持たないところもある。30年後の自分と称する怪しげな男からそれを指摘されても素直に受け入れられない。結局、自分の人生を決めるのは自分なのだ。
他人事のように作品を見ていたら、最後の最後にやられてしまった。「若いときにああしていれば…」という発想自体に責任感の放棄がある。気がついた今、すべきことをすれば、過去の自分のやってきたことも含めて“よし”となるのだ。(堀)
2022年/日本/G/66分
配給:セブンフィルム
(C) 『追想ジャーニー』製作委員会
公式サイト:https://www.journey-movie.net/
★2022年11月11日(土)ロードショー
2022年11月05日
奈落のマイホーム 原題:싱크홀(シンクホール) 英題:SINKHOLE
監督:キム・ジフン(『ザ・タワー 超高層ビル大火災』)
出演:チャ・スンウォン(『毒戦 BELIEVER』)、キム・ソンギュン(『悪いやつら』)、イ・グァンス(『探偵なふたり:リターンズ』)、キム・ ヘジュン(『未成年』)
やっと手にしたマイホーム、陥没で奈落の底へ!
会社で課長を務めるドンウォン(キム・ソンギュン)は、11年間節約して、ようやくソウルの会社に近い場所にマンションを購入。妻と小学生の息子と共に引っ越してくる。引っ越し早々、変わり者の住人マンス(チャ・スンウォン)と何かとぶつかる。
部下を招いて引っ越し祝いのパーティーを開き、酔った部下二人を家に泊めた翌朝、大雨で巨大陥没が発生。マンションは地下500メートルに落下してしまう。建物ごと落下した住民たち。陥没した穴には、さらに大雨が降り注ぐ・・・
新しい家でくつろぐドンウォン夫婦に、息子がビー玉が自然に転がるとやって見せます。さらに、駐車場には亀裂が・・・ ドンウォンが部下に、チャンス洞のマンションを買ったと言った時に、「廃車場のあったとこ?」と言っていて、建設工事がずさんだったというより、土地に問題が? 実は、ソウルでは大小の土地陥没が結構あるそうです。
それにしても、マンションごと500メートル地下に落ちるなんて、あり得ない!
奈落の底から、はたして這い上がれるの?と、さらにあり得ない展開が繰り広げられます。
ディザスター映画かと思っていたら、コメディタッチのハートウォーミングな家族映画といった感じでした。そも、チャ・スンウォンに続き、イ・グァンスが出てきたところで、これはもしかして笑える映画?の予感がしたのでした。
イ・グァンス、顔を見ているだけで可笑しいのに、やることがまた可笑しい!
チャ・スンウォン演じるマンスは、ちょっと変な嫌な奴で笑わせてくれるのですが、シングルファーザーで、ナム・ダルム演じる息子との関係にほろっとさせられました。
そして、韓国らしさもたっぷり。夫婦でレストランで食事して、家も近くなったので運転代行呼べばいいからワインを飲もうとか、引っ越し祝いに部下がトイレットペーパーを持ってくるなど、日本の日常とはちょっと違うところが面白いです。
一方、イ・グァンス演じる部下や、インターンの女性部下はワンルームの家にしか住めないから結婚できないといった社会事情も垣間見れました。
出演者には、映画やドラマで見たことのある人たちも。
ドンウォンの奥さん役のクォン・ソヒョンは、時代劇で見たお顔と思ったら、「コッパダン~恋する仲人~」でテビ(大妃)役でした。
隣のマンションの屋上にいたおじさん(チャン・グァン)と、災害対策本部の長(キム・ホンパ)も、よく見る方たち。似ていて、一瞬、隣りの屋上にいた男性が災害本部に?と思ってしまいました。(咲)
2021 年/韓国/カラー/ビスタ/5.1chデジタル/114 分
字幕翻訳:根本理恵
配給:ギャガ
公式サイト:https://gaga.ne.jp/naraku/
★2022年11月11 日(金)TOHO シネマズ 日比谷 他 全国ロードショー
2022年11月01日
窓辺にて 英題:by the window
監督:今泉力哉
出演:稲垣吾郎、中村ゆり、玉城ティナ、若葉竜也、志田未来、倉悠貴、穂志もえか、佐々木詩音 / 斉藤陽一郎、松金よね子
小説を1冊出したきり、フリーライターをしている市川茂巳(稲垣吾郎)。編集者である妻・紗衣(中村ゆり)が、担当している売れっ子作家・荒川円(佐々木詩音)と不倫していることを知る。だが、ショックだったのは、妻が浮気しているのに、何の感情も沸かないことだった。そんなある日、文学賞の授賞式で出会った高校生作家・久保留亜(玉城ティナ)の受賞作「ラ・フランス」の内容に深く惹かれる。手に入れたものをすぐ手放す主人公に、モデルがいるなら会わせてほしいと、留亜に願いでる・・・
高校生の留亜からラブホテルに呼び出された市川。知り合いの経営するラブホテルに籠って執筆しているのですが、そんな場所に呼び出されても、吾郎ちゃんだと何も起こらない安心感があります。(いや、何かあってほしい?!) 愛している妻に浮気されても、何も感じないというキャラクターにも、納得です。鈍感というワケではなくて、吾郎ちゃんは、ふんわりとした包容力があるようだと思わせてくれるからでしょうか・・・
本作には、もう一組、不倫カップルが出てきて、そちらはちょっとギラギラした感じ。
『愛がなんだ』の今泉力哉監督が、吾郎ちゃんをイメージして描いたオリジナル脚本。
中年の域に足を踏み入れた稲垣吾郎が素敵です。(咲)
最初の1冊が売れたまま、書けずにいる小説家が主人公。妻は夫の担当編集者だが、若い売れっ子作家と不倫中。妻の秘密を知っても動じない自分にショックを受けて…という話だが、自分の心は意外に自分ではわからないものなのかもしれない。
妻は不倫をしつつも、夫を愛しているし、若い売れっ子作家もそれを十分理解している。むしろ彼は冷静で、主人公の妻の不満の根本にあるのは、夫が唯一書いた小説が元カノとのことがベースになっているからで、夫が本を書けないのは夫婦の愛が足りないからと思っているのだと分析する。ところが売れっ子作家が本気で主人公の妻を愛することで本当の理由が見えてくる。主人公は妻を心から愛していたのだ。互いに愛しているのにすれ違ってしまった夫婦の愛が切ない。(堀)
◆東京国際映画祭コンペティション部門 観客賞受賞!
舞台挨拶報告(東京国際映画祭公式サイト)
稲垣吾郎、『窓辺にて』の役柄は素の自分 今泉力哉監督に「心の中を見透かされているよう」
https://2022.tiff-jp.net/news/ja/?p=60045
2022年/143分/カラー
配給:東京テアトル
公式サイト:https://madobenite.com/
★2022年11月4日(金)全国ロードショー
パラレル・マザーズ 原題:MADRES PARALELAS
監督・脚本:ペドロ・アルモドバル(『ペイン・アンド・グローリー』『ボルベール〈帰郷〉』)
出演:ペネロペ・クルス、ミレナ・スミット、イスラエル・エレハルデ、アイタナ・サンチェス=ギヨン、ロッシ・デ・パルマ、フリエタ・セラーノ
2016年、マドリード。フォトグラファーのジャニス(ぺネロペ・クルス)は、法人類学者アルトゥロ(イスラエル・エレハルデ)のポートレート撮影を引き受けた。ジャニスの曽祖父は、スペイン内戦時にフランコ政権に連行され殺されたが、遺骨が見つかっていない。ジャニスは、「歴史記憶を回復する会」のメンバーでもあるアルトゥロに、曽祖父たち行方不明の同郷の人たちの遺骨の発掘を依頼したいという思惑があった。アルトゥロは快く引き受ける。会った時から惹かれ合った二人は、たちまち恋に落ちる。だが、アルトゥロには病弱の妻がいた。
時が経ち、ジャニスは出産を控えて病院にいた。同室の17歳のアナ(ミレナ・スミット)と同じ日に女の子を出産する。共にシングルマザーとなった二人は、連絡先を交換する。
その後、アルトゥロがセシリアと名付けた我が子に会いたいとやってくる。一目見て、自分の子と思えないと言われ、ジャニスはDNA鑑定をする。驚くべきことに、自分が生物的母親である確率は、100%ないと出る。同じ日に生まれたアナの娘と取り間違えられたに違いないと推察する・・・
病院で取り違えられ、血の繋がっていない子を育てていたという話は現実にもあるし、映画にもしばしば取り上げられてきました。本作では、ジャニスが真実を知った時の苦悩、アナと再会し、さらに悩まされる様が丁寧に描かれていました。
それよりも、私の心に響いたのは、内戦時代に行方不明になった人たちの遺骨を、孫や曾孫の世代が探し出そうとしていることでした。劇中、内戦を経験したお年寄りたちが語る言葉は本物。祖母や曽祖母の、いつまでも晴らせない思いを、なんとか叶えてあげたいという若い世代。フランコ政権時代の悲劇を忘れてはいけないという、監督も含めスペインの人たちの思いをずっしり感じた一作でした。(咲)
第78回ヴェネチア国際映画祭 最優秀女優賞受賞(ペネロペ・クルス)
☆ペドロ・アルモドバル監督初の英語劇 『ヒューマン・ボイス』 同時公開
2021年/スペイン・フランス/スペイン語/123分/カラー/5.1ch/ドルビーデジタル/アメリカンビスタ/R15+
字幕翻訳:松浦美奈
配給キノフィルムズ
公式サイト:https://pm-movie.jp/
★2022年11月3日(木・祝)ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ、新宿シネマカリテ他全国公開
ヒューマン・ボイス 原題:THE HUMAN VOICE
監督・脚本:ペドロ・アルモドバル
原作:ジャン・コクトー「人間の声」
出演:ティルダ・スウィントン アグスティン・アルモドバル ダッシュ(犬)
1人の女が元恋人のスーツケースの横で、ただ時が過ぎるのを待っている。スーツケースを取りに来るはずの恋人は、結局姿を現さない。そばには、主人に捨てられたことをまだ知らない犬がいる。3日間待ち続けた女は、その間にたった1度外出し、斧と缶入りガソリンを買ってくる。女は無力感に苛まれ、絶望を味わい、理性を失う。様々な感情を体験したところで、やっと元恋人からの電話がかかってくるが……
ジャン・コクトーの戯曲「人間の声」をアルモドバルが自由に翻案した、英語での一人芝居。
捨てられた女性と犬の、なんとも不思議な時間でした。(咲)
『パラレル・マザーズ』と同時公開になる30分の短編
2020年/スペイン/英語/30分/カラー/5.1ch/ドルビーデジタル/アメリカンビスタ
字幕翻訳:松浦美奈
配給・宣伝:キノフィルムズ 提供:木下グループ
公式サイト:https://pm-movie.jp/
★2022年11月3日(木・祝)ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ、新宿シネマカリテ他全国公開