2022年10月25日
ノベンバー 原題:November
監督・脚本:ライナー・サルネ
原作:アンドルス・キビラーク「レヘパップ・エフク・ノベンバー(Rehepapp ehk November)」
撮影:マート・タニエル
出演:レア・レスト、ヨルゲン・リイイク、ジェッテ・ルーナ・ヘルマーニス、アルヴォ・ククマギ、ディーター・ラーザー(『ムカデ人間』)
エストニアの寒村。そこには、精霊、人狼、疫病神が徘徊している。貧しい村人たちは「使い魔クラット(★注)」に隣人から物を盗ませながら、寒い冬に備えている。
11月1日の「諸聖人の日(万霊節)」は、死者が蘇る(死者の日)。村人たちは森の中の墓に亡くなった家族を迎えに行く。一緒に家に帰り食事をし、サウナに入る。自分が遺した宝を確認する死者もいる、農夫の娘リーナも亡くなった母とのひと時を過ごす。
リーナは村の青年ハンスに思いを寄せているが、強欲な父親は豚のような農夫エンデルに、リーナとの結婚を約束してしまう。一方、ハンスは領主のドイツ人男爵の娘に恋している。それを知ったリーナが、村の老いた魔女に相談すると、「その女を殺すしかない」と、矢を渡される・・・
★注:使い魔クラット
古いエストニアの神話に登場する「クラット」は、悪魔と契約を交わした生意気な精霊。主人のために仕事をこなすクラットは、家財道具の釜や斧、時には雪や頭蓋骨などで作られる。クラットは農家の助け手として、家畜や食料を盗んだり、スケープゴード(家財道具の盗難を彼らになすりつける)として扱われたりする。十分な仕事が与えられないと気性が荒くなり「仕事をくれ!」と言って主人の顔に唾を吐く。
モノクロームで描かれる妖気漂う不思議な世界。
ハンスは、美しいリーナから思いを寄せられているのに、彼女には目もくれず、男爵の娘に恋い焦がれて、とんでもない行動にでます。リーナはリーナで、自分を美しく見せようと、老婆が男爵の家から盗んできたドレスを手に入れようとします。リーナとハンスが両想いになれば、めでたしめでたしなのに・・・
領主の男爵はドイツ人。「レンピトゥ王の頃に、ドイツ人は不当にエストニアを支配し始めた」という台詞がありました。大嫌いだったソ連から独立したこと位しか、エストニアについて知りませんでしたが、エストニア人は、古くから色々な勢力に支配されてきた歴史があることを知りました。
そして、キリスト教化されたのは、13世紀初頭のことで、それ以前は、本作で描かれているようなアニミズム的世界だったようです。
監督は、“すべてのものには霊が宿る”というアニミズムの思想をもとに、異教の民話とヨーロッパのキリスト教神話を組み合わせて、本作を仕上げています。
魔女、幽霊、得体が知れない老婆などの多くは役者経験のない村人が演じたそうですが、その存在だけで不気味さを醸し出しています。なんとも凄い映画です。 (咲)
2017年/ポーランド・オランダ・エストニア/B&W/115分/5.1ch/16:9/DCP
日本語字幕:植田歩
配給:クレプスキュールフィルム
公式サイト:http://november.crepuscule-films.com/
★2022年10月29日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開