2022年10月03日
夜明けまでバス停で
監督:高橋伴明
脚本:梶原阿貴
音楽:吉川清之
主題歌:Tielle 「CRY」(ワーナーミュージック・ジャパン)
出演:板谷由夏、大西礼芳、三浦貴大、松浦祐也、ルビー・モレノ、片岡礼子、土居志央梨、あめくみちこ、幕雄仁、鈴木秀人、長尾和宏、福地展成、小倉早貴、柄本佑、下元史朗、筒井真理子、根岸季衣、柄本明
居酒屋で住み込みのパートとして働く北林三知子(板谷由夏)。コロナ禍で客足が落ち、解雇されてしまう。介護センターに採用が決まるが、コロナの為、採用取り消しになり、仕事も住む場所も失ってしまう。ファミレスやネットカフェも深夜営業をやめていて、途方に暮れた三知子は、幡ヶ谷のバス停のベンチで一夜を明かす。
一方、居酒屋の店長・寺島千春(大西礼芳)は、解雇した3人の退職金90万円が本部から送られているにもかかわらず、マネージャーの大河原聡(三浦貴大)が着服したことに気が付く。
バス停で目覚めた三知子に、派手な格好のホームレスの老婆(根岸季衣)が声をかけ、弁当の配布場所に案内してくれて、バクダンと呼ばれるホームレスの男(柄本明)を紹介してくれる。バクダンはかつて学生運動や成田空港建設反対運動などをしていたことを豪語する・・・
2020年の春、突然コロナ禍に見舞われ、私たちの暮らしが一変しました。三知子のように、仕事や住む場所を失った人も数多くいることでしょう。コロナという見えない敵に、どこに怒りをぶつけていいかわからない状態が今も続いています。こんな世の中だからこぞ、少しでも余裕のある人は、弱者に手を差し伸べることが必要だと感じます。その前に、行政のきめ細かいサポートが肝心ですね。税金は有効活用してほしいです。そして、いつ、自分が職や住まいを失うかもしれないことも肝に銘じたいものです。(咲)
幡ヶ谷バス停でのホームレス女性が撲殺された事件は衝撃でした。女性が生活保護など行政の助けを求めずに、路上生活を続けていたことを知りました。笑顔の写真を撮った頃には、そんなバッドエンドを迎えるなどと想像もしなかったでしょう。
映画は事件の再現ではなく、働く意欲も能力もあるのに、コロナをきっかけにいろいろなものを失くしてしまう女性・三知子の日々を描いています。キャリアウーマンや母子家庭の母などを演じてきた板谷さんが三知子役、自分もちょっとの違いでこうなるかもという危機感を抱きました。年季の入ったベテランホームレスの柄本さん根岸さんは、いわば先輩サバイバー。この二人についていけば大丈夫!という安心感あり。
2022年の厚労省の調査では、ホームレスとみなされる人は全国で3448人(うち女性162人)。大阪、東京の順に大都市に集中しています。ネットカフェなどで寝起きしている人は路上生活者ではないので、数に含まれません。実際に遭遇することもあるのに、一人一人のそれまでの人生を想像したのは、テレビや映画のドキュメンタリーを見てからです。以前観た海外作品では、衣服や食品などの援助物資を路肩にある箱から、誰でももらっていけるようになっていました。安全だと信じられることが前提ですが。
困ったときに「助けて」と声のあげられる社会でなくてはと思います。それは自分自身のためでもあります。(白)
2022年/日本/ビスタ/5.1ch/DCP/91分
配給:渋谷プロダクション
公式サイト:https://yoakemademovie.com/
★2022年10月8日(土)より新宿K’s Cinema、池袋シネマ・ロサ他全国順次公開
千夜、一夜
監督・編集:久保田直
脚本:青木研次
撮影:山崎裕
出演:田中裕子(若松登美子)、尾野真千子(田村奈美)、安藤政信(田村洋司)、ダンカン(藤倉春男)、白石加代子(藤倉千代)、長内美奈子
離島の港町で一人暮らしている若松登美子。夫の諭(さとし)が出かけたまま帰らず30年が経った。警察に届け、尋ね人のチラシを作り、手を尽くして探し続けたが、出て行った理由も、生死すらもわからない。漁師の春男はそんな登美子をずっと想い続けているが、登美子は諭のささやかな記憶を反芻して今も待ち続けている。
登美子の元に2年前に夫が失踪した田村奈美が現れる。いなくなった理由がわかったら、気持ちを整理できて、新しい一歩を踏み出せるという。
予告編の第一声が「日本の行方不明者数、年間8万人。今もどこかで待ち続ける人がいる」。これは警察に「行方不明」と届けられたのべ人数です。同じ人もいるかもしれませんが、届けられない人の数もまた多いはずです。この数に驚きましたが、9割ほどは行方が判ったり、戻ったり何らかの解決がされているそうです。奈美と洋司のような夫婦も、現実にきっといるのでしょう。そして登美子のように、長期間なんの手がかりもないままの人も。
夫の声の入ったテープを繰り返し聞く登美子の孤独は深いですが、かといって春男が入れる場所はありません。待ち続けるのは苦しくとも、いつか帰ると信じていられるうちは、それが心の支えになるのでしょう。
ダンカンさん熱演の春男、切ない恋情があふれています。春男に向かっていつも口数少なく、抑えている登美子が珍しく大声で叫ぶシーンがあります。田中裕子さんのこれまでの演技でも珍しい場面でした。白石加代子さん演じる息子を案じる千代さんにも胸がしめつけられます。家を出た人は、待っている人にたったひとことでも連絡をとってあげて、とつい思ってしまいました。
東日本大震災の後の福島の家族を描いた『家路』(2014)の久保田直監督と主演の田中裕子さん、2度目のタッグ作品です。(白)
冒頭で、「この島では行方不明者が多い」と語られます。
北の離島。一瞬、佐渡とわかる場面があって、拉致されてしまった人が多いのかなと。
拉致被害者で20年前に帰国された曽我ひとみさんは、佐渡の方。 91歳になるお母さまは、いまだに佐渡に帰れないでいるという現実があります。映画の中では、北朝鮮の拉致について声高に語ってないのですが、登美子の夫も拉致されたのでは・・・と思ってしまいました。もっとも、海に囲まれた島だから、海に間違って消えたのかもしれません。いつか帰ってくる・・・と待ち続ける登美子を、田中裕子さんがしっとりと演じていて、素敵です。
一方、尾野真千子さん演じる奈美は、二年前に失踪した夫のいなくなった理由がわかれば、決着つけて次の人生に進めるという、登美子とは対照的な性格です。身近な人が突然失踪してしまったら・・・ どちらの生き方が楽かは、人それぞれですが、できればそんな目にはあいたくないですね。(咲)
2022年/日本/カラー/ビスタ/DCP/5.1ch/126分
配給:ビターズ・エンド
(C)2022映画『千夜、一夜』製作委員会
https://bitters.co.jp/senyaichiya/
★2022年10月7日(金)テアトル新宿、シネスイッチ銀座ほかロードショー
サポート・ザ・ガールズ(原題:Support the Girls)
監督・脚本:アンドリュー・ブジャルスキー
出演:レジーナ・ホール(リサ)、ヘイリー・ルー・リチャードソン、シャイナ・マクヘイル
スポーツバー“ダブル・ワミーズ”でマネージャーとして働くリサは、面倒見がよくて従業員や常連客にすこぶる評判がいい。金儲け第一の店のオーナーとは対立している。セクシーさが売りの若い従業員たちへのへのセクハラに対処、私的な悩み事の相談にものる。
しかし従業員のシャイナが引き起こしたトラブルがきっかけで、遂にオーナーからクビを言い渡されてしまった。従業員たちはリサの解雇に反発して、格闘技の試合がある夜にストライキを画策する…。
仕事に精魂かたむけるリサは、若い従業員たちの母や姉のような存在です。「今までで一番の上司!」と言われて嬉しそうです。20歳前後の女子従業員の制服は、胸の谷間やお腹が見えるピタピタのシャツ、下はショートパンツ。孫娘だったらやめなさいと言いたくなるスタイル。スポーツバーには、スポーツ好き熱血な男たちが集まります。仕事上でのサービスと、セクハラはさせたくないとの間で頭が痛いはず。オーナーや従業員たちとの関係や仕事のトラブルもパワフルに乗り切っていくリサと仲間たち。
リサの子どもたちは巣立って夫と二人暮らしですが、別居するようです。そのへんは詳しく描かれません。夫はリタイアして家にいるのに、仕事が忙しい妻は留守がちで隙間ができたのかもしれません。「働く女性あるある」のこの作品は、オバマ元大統領もお気に入りだったようですよ。(白)
2018年/カラー/アメリカ/93 分/
配給:グッチーズ・フリースクール
©︎2018 Support The Girls, LLC All Rights Reserved.
映画公式HP:http://gfs.schoolbus.jp/support_the_girls/
★2022年10月7日(金)よりシモキタ - エキマエ - シネマ『K2』ほかにてロードショー!
シモキタ - エキマエ - シネマ『K2』劇場情報
住所:〒155-0031
東京都世田谷区北沢 2-21-22 ( tefu ) lounge 2F
HP: https://k2-cinema.com
42-50 火光(かぎろい)
監督・脚本:深川栄洋
撮影:安田光
音楽:平野真奈
出演:宮澤美保(佳奈)、桂憲一(祐司)、柄本明(佳奈の父)、白川和子(佳奈の母)、吉田幸矢(祐司の母)、加賀まりこ(女優)
佳奈は42歳、俳優。これでも子役のころはけっこう売れていた。夫の祐司は50歳、そこそこ仕事のある脚本家。佳奈は母親の役をやる年齢だけれど、自分には子どもがいないのでいまいち演技をつかみきれない、と思っている。夫婦で相談のうえ、これまで特に考えなかった不妊治療を始めることにした。不妊治療を始めるには年齢的にやや遅く、費用も意外にかさむことがわかった。同じころ、美保の父が難病のALSを発症した。同居している祐司の母とも気持ちのすれ違いがおきて、佳奈はいっぱいいっぱいになってしまう。
深川栄洋監督が原点回帰のために作った「return to mY selFプロジェクト」自主映画第2弾です。第1弾の『光復』はsideBにあたり、本作と違ってもっとダークな作品で12月9日公開予定です。
sideAの本作は、ここ3年間のできごとを私小説のような映画にしたのだそうです。監督の妻である宮澤美保さんが自身の役を、夫役は宮澤さんの推薦という桂憲一さんが演じています。
俳優と脚本家という夫婦は身近ではありませんが、家庭内のトラブルはどこの家庭や夫婦にも起こりそうで、「あるよね~」と共感できます。友達が「あのね」と始める話を聞いているような感覚で観ていました。ペアのパジャマを着て朝ごはん食べている2人に、別に子どもいなくてもいいんじゃない?授かりものだし…とか、義理の家族は難しくて当たり前とか、実家の親が病気になると辛いよねとかいちいち内心で返事して(笑)。深川監督と親しいという加賀まりこさんが、ベテラン女優役で登場、画面をぴりりと引き締めました。(白)
2022年/日本/カラー/ビスタ/94 分
製作・配給:スタンダードフィルム
配給協力:ポレポレ東中野
(C)2022 スタンダードフィルム
https://kagiroi-movie.com/
★2022年10月7日(金)ロードショー