2022年10月31日

桜色の風が咲く 

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監督:松本准平
脚本:横幕智裕
音楽:小瀬村晶
出演:小雪、田中偉登、吉沢悠、吉田美佳子、山崎竜太郎、札内幸太、井上肇、朝倉あき / リリー・フランキー
協力:福島令子、福島智
エンディング曲:辻井伸行「ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第8番 ハ短調 作品13 《悲愴》 II. ADAGIO CANTABILE」

教師の夫、三人の息子とともに関西の町で暮らす令子。末っ子の智は幼少時に視力を失いながらも、家族の愛に包まれて天真爛漫に育つ。やがて令子の心配をよそに東京の盲学校で高校生活を謳歌。だが18歳のときに聴力も失う・・・。暗闇と無音の宇宙空間に放り出されたような孤独にある息子に立ち上がるきっかけを与えたのは、令子が彼との日常から見出した、“指点字”という新たなコミュニケーションの“手段”だった。勇気をもって困難を乗り越えていく母子の行く手には、希望に満ちた未来が広がっていく・・・。

視力と聴力を次々と失いながらも、世界ではじめて盲ろう者の大学教授となった、東京大学先端科学技術研究センターバリアフリー分野教授・福島智さんと母・令子の実話にもとづく物語。
まだ2歳になっていないであろう頃に検査で入院したとき「明日は検査がありますから、飲食は夜9時までです」と看護師に冷たく言われるシーンからもう涙が止まらない。「そんなに幼い子に検査のために飲食禁止なんて理解できないのがわからないのかしら」と思っていたら、案の定、暗い病室に泣き声が響く。その後も「なぜ、この子ばかりにこんな悲しいことが続くの」と思わずにはいられないことばかりが続き、母親が自分のせいだと自らを責める。そんな母親を小雪が熱演。「あなたのせいじゃない」とそばに行って励ましたくなってしまう。
母親が智に付きっ切りになる一方で、父親は仕事の後で家事と兄たちの世話に奮闘するものの、次第に不満が溜まっていく。それを妻にぶつけてしまう辺りはまるで母親に甘える子どものよう。そんな父親は吉沢悠の得意とする役どころかもしれない。
前半に智が、後半に母親が命について語るナレーションが入る。
「命は自分だけでは完結できないように作られているらしい。花もめしべとおしべが揃っているだけでは不十分で、虫や風が訪れて仲立ちする。命はその中に欠如を抱き、それを他者から満たしてもらうのだ」
なんていい言葉なのだろう。(堀)


福島智さんのことは、ドキュメンタリーで知って、こんな方が実在するんだと驚愕しました。後で著作を読んだら視覚と聴覚あわせて障害のある方は全国に何万人もいらっしゃるのだとか。程度の差はそれぞれ違って、どちらかの機能が少しでも残っていればそれが頼りになります。どちらも完全になくなったとき、ただ一人宇宙に放り出されたようだったというのに何とも言えない気持ちになりました。
指点字を思いついたお母さん、[しさくはきみのためにある]と手のひらに書いてくれた友人、力をくれたたくさんの人々との繋がり、そして数多の本があって良かった。あきらめず生きて来られたのは言葉があったからと福島さん。(堀)さんがあげたのは吉野弘さん[生命は]という詩の一節です。ぜひ全文をお読みください。
(白)


福島智さんのことを、本作を観るまで存じ上げてなくて、事前に何も調べずに「関西」はどこにお住まいだったのだろうと観始めたら、言葉が懐かしい私の生まれ故郷・神戸のものでした。まさしく福島智さん、神戸出身の方でした。
東京の盲学校で智とお母さんが話しているのを聞いていた同級生の山本君が、「まるでボケと突っ込みの漫才みたいですね」と声をかけます。まさに、関西なら、それが日常会話。もっともお母さまは関西の生まれではないのですが。 私の神戸の同級生でも、頭のいい人ほど、ボケと突っ込みが上手だったのを思い出します。智が、お母さんに宛てた点字の手紙の中で、「お母ちゃんは点字が下手くそなので細心の注意でお願いします」と書いているのですが、これも、神戸流に捉えれば、ユーモアのある軽い冗談。
それにしても、目が見えない上に、耳も聴こえなくなったのに、人生を諦めずに前向きに楽しんでいらして、素晴らしい方ですね。支えたお母さまにも感服です。(咲)


福島智さんの子供の頃にことがわかり、こういう経過で盲聾になっていってしまったんだと知りました。そして、お母さんの献身的な支えが大きかったんだなと思い、また、お父さんやお兄ちゃんたちの葛藤も描かれていたなとは思ったのですが、お父さんの態度に、「食器ぐらい洗え!」とか、「お父さんだって点字できるように勉強したら?」と、時々イラっとしながら観ていました(笑)。子供たちでなく、お父さんもお母さんに甘えたかったんだなというか、家事はお母さんにやってもらって当然という思いがあったということを表していたのかなとも思いました。でも、お父さんが「まだ目が見えるうちに、いろいろ学ばせなくては」というところから変わって行きましたね。最後の、お父さんの点字「先駆者になれ」というシーンで、お父さんを見直しました(笑)。
大学以降から大学教授になっていったところもぜひ観てみたいと思いました。続編を求む(暁)。


★福島智さんの故郷・神戸での舞台挨拶にお母さまの福島令子さんも登壇!
シネ・リーブル神戸11/12(土)12:00上映回 (上映後登壇)※日本語字幕付き上映
※ご登壇(予定):小雪さん、田中偉登さん、福島智さん(東京大学教授)、福島令子さん、結城崇史プロデューサー

その他の劇場での舞台挨拶情報は、こちらで!



2022年/日本/カラー/ビスタ/5.1Ch/130分
配給:ギャガ
©THRONE / KARAVAN Pictures
公式サイト:https://gaga.ne.jp/sakurairo/
★2022年11月4日(金)シネスイッチ銀座、ユーロスペース、新宿ピカデリー他全国順次ロードショー

posted by ほりきみき at 23:26| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年10月30日

シグナチャー 〜日本を世界の銘醸地に〜

2022年11月4日(金)より新宿武蔵野館ほか全国公開 劇場情報

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(C)2021 Kart Entertainment Co., Ltd.

日本ワインにかけた夢

監督・脚本・エグゼクティブプロデューサー:柿崎ゆうじ
プロデューサー:古谷謙一/前田茂司
音楽:西村真吾 ラインプロデューサー:善田真也 
キャスティングプロデューサー:山口正志
撮影:松本貴之 照明:佐藤俊介 録音:小林圭一 
美術:泉 人士 編集:神谷 朗 音響効果:西村洋一 
記録:西岡智子 スタイリスト:前田勇弥 助監督:長尾 楽
主題歌:辰巳真理恵「大地のしずく」(テイチクエンタテインメント)
出演
平山浩行:安蔵光弘役 メルシャン ワイン醸造家
竹島由夏:安蔵(水上)正子役〜光弘の妻・栽培醸造家 
榎木孝明:浅井昭吾(麻井宇介)役〜メルシャン顧問
辰巳琢郎:大村春夫役(丸藤葡萄酒専務)
徳重 聡 山崎裕太 篠山輝信 榎木薗郁也 堀井新太
渡辺 大 出合正幸 伊藤つかさ 
和泉元彌 田邉公一 黒沢かずこ(森三中) 板尾創路
大鶴義丹 長谷川初範 宮崎美子

シグナチャー:特別なワインに醸造責任者がサインを入れること

日本のワイン業界を世界と伍する位置に牽引した麻井宇介(浅井昭吾)の想いを受け継ぎ、「日本を世界の銘醸地」にするため奮闘する醸造家・安蔵光弘の半生を描いた作品。
1995年、ワイン造りを志す安蔵光弘は東京大学大学院(応用微生物学専攻)を卒業後、山梨県勝沼町にあるシャトーメルシャンに入社。入社してからは畑の草刈りや、醸造用の機械の洗浄など、ワインに触れる機会の無い仕事が続いていた。そういう仕事ばかりの日々に、早くワインを作りたいという思いが募る。そんな中、会社の顧問である浅井昭吾が、安蔵が暮らす寮に訪ねてきた。そして安蔵が現在している仕事が、天候や気温、湿度、菌の発酵条件など、後のワイン造りに役立つという話をし、それを聞いた安蔵は浅井の見識の高さと人柄に傾倒していく。そして「文章を書く練習や、英語、フランス語など語学の勉強をしろよ」と言って帰っていった。
浅井昭吾(麻井宇介)役の榎木孝明さん
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(C)2021 Kart Entertainment Co., Ltd.

浅井昭吾は麻井宇介というペンネームでワインに関するエッセイや本を出していて、日本のワイン造りを啓蒙する先頭に立っていた。柿崎ゆうじ監督の前作『ウスケボーイズ』は、この麻井宇介に影響を受けワイン造りに情熱を注ぐ若者たちを描いた作品だったが、今作はメルシャンの後輩である実在の人物安蔵光弘をモデルにして、彼と一緒にワイン造りに取り組む仲間たちを描いた。
仲間たちとワイン造りに携わる中で、妻となる正子とも出会い、理想のワイン造りのため試行錯誤し続ける。山梨のワイナリーから、本社部門での渉外、営業などの経験も積み、フランス・ボルドーへの赴任を経て、日本に戻ってからは1998年にワイナリーへ復帰。山梨県勝沼のワイナリーや長野県塩尻市の桔梗ヶ原にあるメルシャンワイナリーへ赴任。それまで積み重ねた経験をワイン造りに生かしてゆく。
そして桔梗ヶ原で植えていた欧州品種メルローを醸造家自ら収穫・選果するという大胆な提案をし、渋る葡萄農家の説得を経て実施。悪戦苦闘しながらも2樽の特別なメルローを仕込むことに成功した。安蔵が仕込んだこの特別なメルローのリリースが決定し、ラベルに自らシリアルナンバーを手書きする。このワインは【桔梗ヶ原メルロー シグナチャー1998】と命名され、国際的なワインの大会で賞を得た。
しかし、尊敬する浅井が病魔に襲われ余命宣告を受けてしまう。病院に見舞に行った安蔵は浅井から「君が日本のワインを背負って行ってくれよ」と託される。安蔵は浅井の想いを受け継ぎ「日本のワインを世界の銘醸地」にするため奮闘してゆく。
安蔵光弘役には、本作で映画初主演を務める平山浩行。妻となる安蔵正子役は、パリ国際映画祭にて最優秀女優賞を受賞した竹島由夏、麻井宇介役に榎木孝明、安蔵光弘の上司役に徳重 聡、山崎裕太、大鶴義丹。丸藤葡萄酒の専務(現:社長)大村春夫役に辰巳琢郎。そして長谷川初範、宮崎美子、黒沢かずこ、板尾創路、篠山輝信、堀井新太、ソムリエの田邉公一など豪華な顔ぶれが出演している。

安蔵光弘役の平山浩行さん
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(C)2021 Kart Entertainment Co., Ltd.

私は酒好きというわけではないけど、ウイスキー、ビール、ワイン、日本酒を時々飲む。でも日本酒が一番好き。旅に出ると、その地域の日本酒かワインを買ってくる。そんな程度だけど、ワインに関しては、高級なワインを飲んでないせいか、あまりおいしいという印象を持っていなかった。特に赤ワインは渋いだけでどうも好きになれない。だから私が買うのは白ワイン。何十年と日本のワインを買ってきたけど、10数年前から日本のワインも味がよくなってきたと感じる。そんな私だけどワイナリー巡りはけっこう好き。日本では7か所くらいは行っているかもしれない。海外もウルグアイのワイナリーに行ったことがある。一番最初に行ったのは北海道池田町の十勝のワイナリーで35年くらい前だった。大きなワイン城の中でワインを作っていた。その後は10年位前から行き始めた。
この映画の舞台である勝沼には10年くらい前から2,3回行っている。勝沼にあるぶどうの丘には、地下にワインカーブ(ワイン貯蔵庫)があり、約180種類のワインがある。タートヴァンと言う専用の金属製の皿のようなカップを1520円で買い、全てのワインを試飲できる。試飲後、もちろん購入も可能。こんなにたくさんのワインをこの値段で試飲できるところは、他にはないのでは。やはり多くのワイナリーがある勝沼だからこそ。
映画の冒頭に出てきた、ワイン発祥の寺と言われている大善寺にも泊まったことがある。このお寺ではワインを造っていて、お土産に買って帰った。また、勝沼にあるシャトー・メルシャンのビジターセンターでもワインをたくさん扱っているし、「ワイン資料館」が併設されていて、ワインの歴史を知ることができる。そんなわけで、最近は日本のワインに思い入れがあり、「日本ワインがんばって」という思いで、買うのはほとんど日本のワイン。ほんとは外国産のワインのほうが安いのが多いけど、やはり日本ワインにがんばってもらいたいので、応援の意味もこめて買っている。でもここに出てきた【桔梗ヶ原メルロー シグナチャー】は、高くてとても手がでないかな。
この作品の主人公安蔵光弘を演じた平山浩行さんは初主演とのこと。長いキャリアがあるようだけど、私が平山さんのことを知ったのは、2017年にTV朝日で放送された帯ドラマ「やすらぎの郷」(倉本 聰脚本)の続編、「やすらぎの刻〜道」(やすらぎのとき みち)で山に住む鉄平という炭焼きの役。渋くてかっこ良かった。フィルモグラフィを見ると、他にも見た作品はあるようだけど、印象に残ったのはこの鉄平役だった。それから気にはなっていたのだけど、その後の活躍はすばらしく、時々TVで出演しているのをみかけるようになり、この作品で主役を射止めたのが嬉しい。10月28日に公開された『天間荘の三姉妹』にも水族館の館長役で出演している。これからもどんどん主役級で頑張ってほしい(暁)。

公式HP http://www.signature-wine.jp 
製作協力:ビーテックインターナショナル エーチームアカデミー
制作プロダクション:楽映舎 
企画・製作・配給:カートエンターテイメント
宣伝プロデューサー:廿樂未果 配給協力:REGENTS
2021年/120分/シネスコ/5.1ch/日本

*参照記事 
塩尻桔梗ヶ原の五一ワインを訪ねた旅とウルグアイのワイナリーを訪ねたレポートが2020年のスタッフ日記にあります。
シネマジャーナル スタッフ日記
一升瓶に入ったワイン 「五一ワイン エコノミー」を買ってみました
http://cinemajournal.seesaa.net/article/472972369.html

*ワインイベント
「やまなしワイン×LUMINE AGRI MARCHE」
期間:2022年11月3日(木・祝)~11月7日(月)場所:新宿東口駅前広場
ワイン生産量日本一の山梨県から、65ワイナリー・約200銘柄のワインが大集合! 
今年解禁の新酒ワイン「山梨ヌーボー」や人気ワインが試飲可能!
映画「シグナチャー~日本を世界の銘醸地に~」の特別イベントも
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000097.000003279.html
posted by akemi at 21:58| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ソウル・オブ・ワイン 原題:L'ame du vin

2022/11/4(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク吉祥寺ほか全国順次ロードショー  劇場情報

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©2019 – SCHUCH Productions – Joparige Films – 127 Wall 

「ソウル・オブ・ワイン」は大地と空と人の出会いから

監督・脚本:マリー=アンジュ・ゴルバネフスキー
撮影:フィリップ・ブレロー
出演者 公式HP

高級ワインの代名詞ともいわれるロマネ=コンティをはじめとする世界最高峰のワインを生み出すワイン愛好家の聖地、フランス・ブルゴーニュ地方。名だたる畑を守る生産者たちの貴重な舞台裏を1年に渡り密着したドキュメンタリー。
農薬や除草剤を使わず、草むしりは手作業。畑を耕すのは馬を使い、自然のままの有機農法やビオディナミ農法でワイン造りをするブルゴーニュの生産者たち。土地の所有者ではなく、次世代へとその遺産を受け継ぐ番人と語る。そして何世紀もの間、ワイン畑を守り、その技と知恵、哲学をつないできた。ワインとテロワール(土壌や生育環境)について語り、最高級のワインが生まれる貴重なプロセスを、丁寧に、冬から春、実が大きくなり、熟れ、収穫を経て、ワインができるまでを四季を通じて映し出す。
詩的で芸術的な映像を観ながら、何世紀も繰り返され、継続されてきたワインができるまでの過程をじっくり眺めると、自然の真理やワイン造りの哲学が伝わってくる。またワイン造りに欠かせないオークの樽作り工程も丁寧に描きだされる。
葡萄生産者から樽職人、ワイン生産者、醸造専門家、ソムリエなど、フランスのワイン界を代表する一流のスペシャリストたちが、その香り高く味わい深い世界の導き手となり、フランスのワイン文化の「真髄」、丹念な仕事を映し出す。

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©2019 – SCHUCH Productions – Joparige Films – 127 Wall
 
1本200万円以上すると言われている高級ワインなんて、私には縁がないし、興味もなかったけど、この作品はそれらの高級ワインの生産地ブルゴーニュを舞台に、葡萄を栽培する人、ワインを造る人、はたまたワイン樽を作る人、そしてソムリエや醸造専門家など、ワインに関わる人たちが出てきて、ワインを語る。ワインはこういう風に作られているのだという作りになっていて、とても興味深い。ワインが好きな人もワインを飲まない人にとっても、このようにしてワインが作られていくという過程が描かれ、とても興味深いドキュメンタリーだと思う。
特に葡萄を作る生産者たちの仕事が最初から最後まで描かれていたのが、とてもうれしかった。馬で畑を耕すところや、剪定、農薬や除草剤に頼らず手による除草、葡萄を手摘みする姿、葡萄の仕分けまでしっかり描かれ、そして樽作りについても最初から最後まで描かれ、樽ってこんな風にできるんだと感心した。また、フランス、ブルゴーニュ地方の四季の葡萄畑の風景と、何世代にも渡ってワイン畑を守り続ける生産者たちの知恵と技、そして畑を継続してゆく姿を通して、ワインと人間の関わり、ワイン造りの原点を幅広く紹介している。この作品で、樽からスポイトのようなものでワインを取り出して試飲する光景を見て、私もこの経験をぜひしてみたいと思った。
最後のほうでパリに店を持つ日本人のソムリエとシェフが1945年のヴィンテージワインを試飲するシーンがでてくるが、「ドキドキするとか、感動しかない」とかいう言葉を繰り返すばかりで、せっかくのワインの味覚を表現する言葉が出てこなかったのが残念だった(暁)。


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©2019 – SCHUCH Productions – Joparige Films – 127 Wall 


公式サイト  http://mimosafilms.com/wine/
2019年/フランス/フランス語/102分/カラー/1.85:1/5.1ch 
字幕:齋藤敦子 字幕監修:情野博之
協賛:株式会社ファインズ 
後援:在日フランス大使館、アンスティチュ・フランセ日本、一般社団法人日本ソムリエ協会 
配給:ミモザフィルムズ

posted by akemi at 20:32| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

鳩のごとく 蛇のごとく 斜陽

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原作:太宰治
監督:近藤明男
脚本:白坂依志夫、増村保造、近藤明男
出演:宮本茉由、安藤政信、水野真紀、奥野壮、田中健、細川直美、白須慶子、三上寛、柏原収史、萬田久子、柄本明、尾崎右宗、菅田俊、岡部尚、中谷太郎、緒方美穂、三木秀甫、岡元あつこ、栗原沙也加、今泉朋子、白石恭子、薗田正美、光藤えり、山村友乃、野崎小三郎、ジョナゴールド、春風亭昇太
主題歌:小椋佳「ラピスラズリの涙」(作詞・作曲・歌)
撮影支援協力:青森県、山梨県、五所川原市、つがる市、弘前市、甲府市、山梨市、都留市、三鷹市

敗戦後の昭和 20 年、没落貴族となった上、父を失ったかず子とその母、都貴子は生活のために本郷西片町の実家を売って西伊豆で暮らすことになった。そんな折、戦地で行方不明となっていた弟の直治が帰還するとの知らせが入ると、母は「歳の離れた資産家に嫁いだらどうか」とかず子に話す。激怒したかず子は「鳩のごとく素直に、蛇のごとく慧かれ」というイエスの言葉とともに 6 年前の出来事を想いだす。まだ学生だった直治が師匠と仰ぐ中年作家、上原二郎との出会いである。それは一夜の恋心の目覚めであった。

元々は40数年前に白坂依志夫が脚本を書き、増村保造監督がメガホンを取ることになっていたようですが、企画が立ち行かなくなり、そのままお蔵入りしていた企画を助監督で入る予定だった近藤明男監督が受け継ぎ、映画化されました。
何といっても目を引くのが主人公のかず子を演じた宮本茉由の美しさ。「第1回ミス美しい20代コンテスト」で審査員特別賞を受賞し、本作で映画デビューにして初主演。美しさの中に芯の強さを内包しているかず子にぴったりです。近藤監督は最初、もう少し経験のある人を探していたようですが、なかなか見つからず。そのうちに安藤政信、水野真紀と周りが先に固まり、そんなとき『ローマの休日』でオードリー・ヘプバーンが起用されたように、新人女優がいいのではないかと思いついたそうです。
太宰治を思い出させる中年作家役は安藤政信。このところこういった自堕落だけれど、危険な色香を放つ役どころを一手に引き受けている気がします。今後も豊川悦司、加藤雅也の路線をしっかり受け継いでいくのではないでしょうか。
その2人が愛を交わすシーンは肌を見せずに映し出されますが、激しく求めあっているのがしっかり伝わってきます。モンタージュとして合間に視点の異なる複数のカットが組み合わされますが、このカットバックは監督の狙い。そこに全裸が入るとカットバックが乱れてしまうそう。増村監督の『曽根崎心中』(1978)の梶芽衣子と宇崎竜童のラブシーンと同じ手法で、そこにベートーヴェンのピアノソナタ第8番「悲愴」が流れるのが近藤監督らしさ。じっくりと味わってご覧になってください。(堀)


2022年/日本/日本語/カラー/アメリカンビスタ/5.1ch/109分/G
配給:彩プロ
©2022 『鳩のごとく 蛇のごとく 斜陽』製作委員会
公式サイト:https://syayo.ayapro.ne.jp/
★2022年10月28日よりTOHOシネマズ甲府、シアターセントラルBe館にて先行公開、11月4日よりTOHOシネマズ日本橋ほか全国公開
posted by ほりきみき at 11:22| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年10月25日

ノベンバー   原題:November

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(C)Homeless Bob Production,PRPL,Opus Film 2017


監督・脚本:ライナー・サルネ
原作:アンドルス・キビラーク「レヘパップ・エフク・ノベンバー(Rehepapp ehk November)」
撮影:マート・タニエル
出演:レア・レスト、ヨルゲン・リイイク、ジェッテ・ルーナ・ヘルマーニス、アルヴォ・ククマギ、ディーター・ラーザー(『ムカデ人間』)

エストニアの寒村。そこには、精霊、人狼、疫病神が徘徊している。貧しい村人たちは「使い魔クラット(★注)」に隣人から物を盗ませながら、寒い冬に備えている。
11月1日の「諸聖人の日(万霊節)」は、死者が蘇る(死者の日)。村人たちは森の中の墓に亡くなった家族を迎えに行く。一緒に家に帰り食事をし、サウナに入る。自分が遺した宝を確認する死者もいる、農夫の娘リーナも亡くなった母とのひと時を過ごす。
リーナは村の青年ハンスに思いを寄せているが、強欲な父親は豚のような農夫エンデルに、リーナとの結婚を約束してしまう。一方、ハンスは領主のドイツ人男爵の娘に恋している。それを知ったリーナが、村の老いた魔女に相談すると、「その女を殺すしかない」と、矢を渡される・・・

★注:使い魔クラット
古いエストニアの神話に登場する「クラット」は、悪魔と契約を交わした生意気な精霊。主人のために仕事をこなすクラットは、家財道具の釜や斧、時には雪や頭蓋骨などで作られる。クラットは農家の助け手として、家畜や食料を盗んだり、スケープゴード(家財道具の盗難を彼らになすりつける)として扱われたりする。十分な仕事が与えられないと気性が荒くなり「仕事をくれ!」と言って主人の顔に唾を吐く。


モノクロームで描かれる妖気漂う不思議な世界。
ハンスは、美しいリーナから思いを寄せられているのに、彼女には目もくれず、男爵の娘に恋い焦がれて、とんでもない行動にでます。リーナはリーナで、自分を美しく見せようと、老婆が男爵の家から盗んできたドレスを手に入れようとします。リーナとハンスが両想いになれば、めでたしめでたしなのに・・・
領主の男爵はドイツ人。「レンピトゥ王の頃に、ドイツ人は不当にエストニアを支配し始めた」という台詞がありました。大嫌いだったソ連から独立したこと位しか、エストニアについて知りませんでしたが、エストニア人は、古くから色々な勢力に支配されてきた歴史があることを知りました。
そして、キリスト教化されたのは、13世紀初頭のことで、それ以前は、本作で描かれているようなアニミズム的世界だったようです。
監督は、“すべてのものには霊が宿る”というアニミズムの思想をもとに、異教の民話とヨーロッパのキリスト教神話を組み合わせて、本作を仕上げています。
魔女、幽霊、得体が知れない老婆などの多くは役者経験のない村人が演じたそうですが、その存在だけで不気味さを醸し出しています。なんとも凄い映画です。 (咲)


2017年/ポーランド・オランダ・エストニア/B&W/115分/5.1ch/16:9/DCP
日本語字幕:植田歩
配給:クレプスキュールフィルム
公式サイト:http://november.crepuscule-films.com/
★2022年10月29日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
posted by sakiko at 00:50| Comment(0) | エストニア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年10月23日

カメの甲羅はあばら骨

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監督:モリ・マサ(「貝社員」シリーズ)
原作:川崎悟司「カメの甲羅はあばら骨」(SBクリエイティブ刊)
脚本:田中眞一 モリ・マサ
音響監督:長崎行男
音楽:齋藤真也、照井順政
アニメーション制作:タイプゼロ
出演:清水尋也(カメ田カメ郎)、磯村勇斗(カエル川エル隆)、江口拓也(ライオン寺ライ王)、上國料萌衣(フラミンゴ塚フラ美)、野津山幸宏(キリン沢リン太郎)、天月(サメ津サメ成)、栗田航兵(ワニ渕ワニ平)、四谷真佑(ワシ崎ワシ也)、森本晋太郎(ウマ渡ウマ龍馬)、でんでん(ウサギ林ウサ蔵)

カメ田カメ郎は、冴えない学園生活を送るごく普通の高校2年生。本音はあばら骨の中に隠して過ごしている。ある日、親友のカエル川エル隆が人助けをしたニュースが瞬く間に拡散し、生徒会長を目指す学園のスーパースター、ライオン寺ライ王たち上位グループの目に留まる。
突然彼らの仲間入りをしたカエル川、嫉妬と劣等感に苛まれるカメ田。2人の友情の行方は?そして生徒会選挙当日、“骨と骨がぶつかる”セッションが始まる―!?

原作を知らずに試写を拝見。あまりにインパクトのある絵にうわー!でした。タイトルの「カメの甲羅はあばら骨」に、え、そうだったの?という無知さかげんです。骨格は甲羅の内側にあるのだと考えていましたが、骨格の一部だったんですね。
原作は動物の身体を人間にあてはめてみた動物図鑑です。外から見たのではわからない毛皮や羽や甲羅につつまれた動物たちの身体を、人間の身体で表しているので、どこが発達しているのか人間との違いが一目でわかります。
映画は動物それぞれの特性を備えたキャラたちが高校生となった学園ドラマ。校内ヒエラルキーも描いて、現実的な苦い部分も忘れません。友情のエピソードは骨身に沁みます。(白)


2022年/日本/カラー/68分
配給:イオンエンターテイメント、アスミック・エース
(C)カメの甲羅はあばら骨製作委員会 
(C)川崎悟司/SBクリエイティブ

【公式サイト】 kame-abara.com 
【公式Twitter】 https://twitter.com/kame_abara
【公式TikTok】 https://www.tiktok.com/@abaramovie
★2022年10月28日(金)全国ロードショー
posted by shiraishi at 15:41| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ウンチク うんこが地球を救う  原題:Shit Saves the World

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(C)TRICKY HALE FILMS


監督:トロイ・ヘイル
日本語吹き替えナレーション:鈴木達央

一生付き合う「うんこ様」のことを楽しく真剣に考えるドキュメンタリー = “ウンコメンタリー”

人間はもちろん、地球上のすべての生き物は、生まれてから死ぬまで、うんこをしなければ生きていけません。それなのに、うんこは汚い物として嫌われ、避けられてきました。
本作は、全米各地を始め、オーストラリア、イギリス、インド、メキシコ、スリランカ、タンザニアなど、全世界を巡って、うんこの歴史や、うんこが現在抱えている様々な問題をあぶりだし、地球の環境を救う解決策をも模索するドキュメンタリー。

冒頭、映し出される大自然。
アフリカ像は、なんと、1日135キロものうんこをするのだそうです。
動物にとっては地球がトイレ。
一方、古代ローマに下水の女神がいたように、人はかなり昔からトイレのことを考えてきました。
ベルサイユ宮殿には、700の部屋があるのにトイレはなし。部屋の隅の目立たないところで壺にしていたのは有名な話。フランス人の香水好きは、トイレがなかったことに関係が。
宇宙船や戦地での排泄は?と、気になる話題も出てきます。
今、安全なトイレを利用できない人が45億人も!
一方で、堆肥として利用してきたことや、糞から浄水を作る試みなど、うんこを有効利用することにも目を向けています。

思えば、くやしい時などに、つい出てしまう「クソ~!」という言葉。英語でも「Shit!」と、人間の考えることは同じですね。何気なく使っていますが、大切な「うんこ様」に申し訳なくなりました。
若い頃は、お腹の中に大切に温存していた私も、今は、朝起きるとスッキリおさらばです。どんな状態かも、健康のバロメーター。もっともっと、うんこ様のことを大事に考えなければと思わせてくれた、楽しい1作です。(咲)


2022年/アメリカ/71分
配給:エクストリーム
公式サイト: https://unko-unchiku.com/
★2022年10月28日よりヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、新宿シネマカリテほか全国にて公開



posted by sakiko at 15:01| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

天間荘の三姉妹

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監督:北村龍平
原作:髙橋ツトム「天間荘の三姉妹ースカイハイー」
脚本:嶋田うれ葉
撮影:柳島克己
主題歌:玉置浩二 絢香
出演:のん(小川たまえ)、門脇麦(天間かなえ)、大島優子(天間のぞみ)、高良健吾(魚堂一馬)、山谷花純(芹崎優那)、萩原利久(早乙女海斗)、平山浩行、柳葉敏郎(魚堂源一)、中村雅俊(宝来武)、三田佳子(財前玲子)、永瀬正敏(小川清)、寺島しのぶ(天間恵子)、柴咲コウ(イズコ)

天界と地上の間にある街、三ツ瀬。老舗旅館「天間荘」は海を見下ろす山の上にある。天間のぞみが若女将、妹のかなえは水族館でイルカのトレーナー、大女将の母親恵子は別れた夫を恨んでいる。天間荘のお客はイズコがタクシーで連れてくる。今日は小川たまえという若い女性がやってきた。たまえは天涯孤独だと思っていたが、のぞみとかなえの腹違いの妹だった。交通事故に遭い、たまえの身体は病院で臨死状態に陥っている。イズコはたまえに「ここで魂の疲れを癒して、肉体に戻るか天界へ旅立つか決めなさい」と言うが、自分が死にかけていることも家族が急に現れたことにも驚いているたまえは、大女将の提案で、天間荘で働くことにした。三ツ瀬の街はなんなのか?天間荘はどんな役割を持っているのか?

三人姉妹の名前が「のぞみ、かなえ、たまえ」です。楳図かずおさんの漫画「まことちゃん」のお姉さんたちは「ねたみ、そねみ、ひがみ」だったのを思い出します。原作は未見ですが、「スカイハイ」のスピンオフが北村龍平監督のメガホンで映画化ということで期待していました。のんさんが『さかなのこ』に続いての主演。一人ぼっちだと思っていたらお姉さんがいて喜んだのに、別れも待っているという上がったり下がったりの役。難しい宿泊客(三田佳子さん!)にも無邪気に接して好かれるところ、「あまちゃん」のアキを彷彿とさせます。キャストが豪華で、あの方もこの方もいらっしゃいます。
大島優子さんの着物姿が素敵、大女将の寺島しのぶさん、のんだくれ母を脱して着物姿の登場シーンは、「〇〇屋!」と声をかけたいくらい颯爽としていました。イズコの柴崎コウさん、ミステリアスなこういう役お似合い。
天間荘の建物は見上げたことしかない小樽の”鰊御殿”でしょうか。天界と地上の間に街があって、心が決まるまで一休みできるというのはちょっといいですよね。街の人たちから伝言を預かる場面が切ないですが、あったらいいな。(白)


2022年/日本/カラー/シネスコ/150分
配給:東映
(C)2022 高橋ツトム/集英社/天間荘製作委員会
https://tenmasou.com/
★2022年10月28日(金)全国ロードショー
posted by shiraishi at 14:21| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

アフター・ヤン(原題:After Yang)

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監督・脚本・編集:コゴナダ
原作:アレクサンダー・ウインスタイン
撮影:ベンジャミン・ローブ
音楽:アスカ・マツミヤ
オリジナルテーマ:坂本龍一
出演:コリン・ファレル(ジェイク)、ジョディ・ターナー=スミス(カイラ)、ジャスティン・H・ミン(ヤン)、マレア・エマ・チャンドラウィジャヤ(ミカ)、ヘイリー・ルー・リチャードソン(エイダ)

テクノと呼ばれる人型ロボットが一般家庭にまで普及している未来。茶葉店を営むジェイクの家族は、妻のカイラ、養女ミカとテクノのヤン。中国系のミカのために、その文化を伝えられるヤンをベビーシッターとして迎えたのだ。そのヤンが突然故障して動かなくなった。幼いころから一緒に暮らし、兄とも親友とも思っているミカのために、ジェイクは修理をしてくれるところを探し回る。何軒目かで、ヤンの体内に特別なメモリーが組み込まれていることがわかった。一日に数秒ずつ保存されていたのは、ジェイクの家族との暖かな交流や、ジェイクの知らない若い女性の映像だった。

コゴナダというお名前にどこの国の方か想像もつきませんでしたが、韓国ソウル生まれで、小津監督の大ファンなのだそうです。本名ではなく、小津作品の脚本家野田高梧(のだ・こうご)さん由来とのこと。アナグラムのように作られたのでしょうか。
映画全体の空気が静かで落ち着いていて、家のしつらえや衣裳も和風テイスト。冒頭の4人家族のダンス部分はちょっと雰囲気違います。ここに後からの登場人物が家族でダンスに挑戦していますのでよく観ていてください。
コゴナダ監督は『スタートレック』ファンなんでしょうか。AIロボットのヤンがバルカン星人みたいな髪型です。ヤンの中にしまわれていた映像に登場する若い女性とヤンの関わりもわかっていきます。ミカを演じるマレア・エマ・チャンドラウィジャヤは2011年生まれのインドネシア系アメリカ人。作中で歌う場面がありますが、堂々とした歌いっぷりの歌手でもあります。#maleaemmaで検索するとたくさんの動画がヒットしました。”アメリカンアイドル”に招待されてゴールデンチケットを贈られています。
キャストの好演に加えて優しい照明や音楽の効果もあり、ひたひたと胸のすきまが満たされる感覚になりました。(白)


コゴナダ監督の長編デビュー作『コロンバス』は、米国インディアナ州のモダニズム建築の町コロンバスを舞台にした物語。病に倒れた父親との確執が、ちょっと無機質なモダニズム建築の町で静かに描かれ、近未来を思わせられる点で『アフター・ヤン』と通じるものがあると感じました。
AIロボットのヤンは、見た目は人間と同じで、感情もあると思って接してしまいますが、あくまでロボットなのですね。近い将来、それぞれの人に合わせたメモリーが埋め込まれたAIロボットが話し相手になったり、介護してくれたりする世界になるのでしょうか・・・ (咲)


2021年/アメリカ/カラー/ビスタ/96分
配給:ミモザフィルムズ
(C)2021 Future Autumn LLC. All rights reserved.
https://www.after-yang.jp/
★2022年10月21日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 13:04| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年10月22日

シャイニー・シュリンプス!世界に羽ばたけ  原題:La Revanche des Crevettes Pailletées

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(C)2022 LES IMPRODUCTIBLES - KALY PRODUCTIONS - FLAG - MIRAI PICTURES - LE GALLO FILMS

監督:セドリック・ル・ギャロ、マキシム・ゴヴァール
出演:ニコラ・コブ、ミカエル・アビブル、デイヴィット・バイオット、ロマン・ランクリー、ローランド・メノウ、ジェフリー・クエット、ロマン・ブロー、フェリックス・マルティネス、ビラル・エル・アトレビー、ブリアナ・ギガンテほか
エンディング曲:ビッケブランカ “Changes”(avex trax)

前作『シャイニー・シュリンプス!愉快で愛しい仲間たち』から2年後の物語。

クロアチアで開催されたLGBTQ+のスポーツの祭典ゲイゲームズに参加し、最高のゲームを繰り広げたゲイの水球チーム《シャイニー・シュリンプス》。病気を隠していたリーダー・ジャンを亡くしてから2年、メンバーたちは追悼の意を込めて東京で開催されるゲイゲームズを目指す。

出発当日、最年長のジョエルは、クロアチアで親しくなったリッチな彼氏ブラムとの別れを惜しむ。赤毛のグザヴィエと、くせ毛のヴァンサンは交際5か月目を仲間に隠しての参加。黒人のアレックスは亡きジャンが忘れられず薬が手放せない。コーチのマチアスは、今回、パリ郊外の水泳チームからセリームをスカウト。一人娘のヴィクトワールのゲイに違いないという言葉を信じてのことだったが、メンバーすべてがゲイだと知ったセリームはたじろぐのだった。

飛行機代を節約して乗継便に乗り込んだ一行。30分しかない乗継時間と思ったら、フライトは翌日の便だった! かくして、一行はゲイ嫌いの国で一夜を過ごすことになる・・・

雪のロシアの地に降り立った一行。ホテルに着き、テレビをつけると、トーク番組で「同性愛は病気」などと言う言葉が。 
そんな国で、その夜、町に繰り出した一行が、どんな目にあったかは、ぜひ映画をご覧ください。

本作、ロシアでは路上でのキスが法律で禁止されている為、同じスラブ文化圏のウクライナで撮影。その後、ロシア侵攻で、当時ウクライナでサポートしてくれたスタッフの人たちの中には、銃を手にしている人もいれば、国外に避難している人もいるとのこと。

パリ郊外の水泳チームのセリームは、移民(二世?)のムスリム。「自分のところでは、ゲイは地獄をみる」という言葉が漏れます。
ロシアに降り立った時に、「ゲイ嫌いの国よ」というのに対し、「チェチェンとは違う」という会話がありました。イスラーム教徒の多いチェチェンでは、国家がゲイを粛正しているのです。
『チェチェンへようこそ ーゲイの粛清ー』を観て、そこまでするのかと驚いたものです。  

かつてに比べると、LGBTQの人たちへの理解が深まったとはいえ、世界には、同性愛を悪としたり罪としたりする国がある現実を、本作でも突きつけられました。 コメディタッチで描かれた作品ですが、自分が自分らしく生きられる社会を願わずにいられませんでした。(咲)


2022年/フランス・日本/カラー/シネマスコープ/フランス語・ロシア語・日本語
字幕翻訳:高部義之
配給:フラッグ
公式サイト:https://www.flag-pictures.co.jp/shinyshrimps-movie/
★2022年10月28日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開



posted by sakiko at 21:13| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年10月16日

RRR   原題:RRR(読み方:アールアールアール)

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©2021 DVV ENTERTAINMENTS LLP.ALL RIGHTS RESERVED.

監督・脚本:S.S.ラージャマウリ
原案:V.ヴィジャエーンドラ・プラサード 
音楽:M.M.キーラヴァ―二
出演:NTR Jr.、ラーム・チャラン、アジャイ・デーヴガン、アーリアー・バット

1920年、英国領インド。南部アーディラバード地方の森に、ゴーンド族の少女マッリの歌声が響く。スコット総督が狩猟中、マッリから手に絵を施してもらってご満悦の総督夫人キャサリン。周りで見守るマッリの両親や村人たち。マッリの母親に銀貨2枚を投げつけ、総督一行はマッリを連れ去る。
一方、デリー郊外の警察署の周囲には、反英活動家逮捕に抗議する人々が押しかけていた。警官ラーマ(ラーム・チャラン)は群がる民衆の中に飛び込み、首謀者を抑え込む。昇進を期待したラーマだが、昇格式で名前は呼ばれなかった。ラーマにはどうしても昇格したい事情があった。
ゴーンド族からマッリ奪還を依頼されたビーム(NTR Jr.)は、アクタルというイスラーム教徒の男を装って、デリーで奪還の機会を狙っていた。
総督夫人から、マッリの追手を生け捕りすれば特別捜査官に昇進させると言われ、ラーマはなんとしてでも捕まえようとする・・・

英国に支配されていた時代のインドの人々の気持ちがずっしり胸にささった179分でした。
ビームとラーマは、実在の反英活動家をモデルにしているそうですが、その二人は実際には会ったことはなく、ラージャマウリ監督が想像を膨らませて作り上げた物語。

★<BANGER!!!>に掲載されている南インド映画に詳しい安宅直子さんによるラージャマウリ監督ロングインタビューに、本作製作にあたっての経緯や監督の思いが掲載されていますので、ぜひ、お読みください。

S.S.ラージャマウリ監督『RRR』超濃厚インタビュー!「NTR Jr.とラーム・チャランありきで始まった」【前編】
https://www.banger.jp/movie/85133/
『RRR』ラージャマウリ監督が“現代インド映画&テルグ語映画”をガチ語り!「巧みな物語は言語の壁を超えます」【後編】
https://www.banger.jp/movie/85137/

★ビームとラーマのモデルとなった実在の反英活動家については、
松岡環さんのアジア映画巡礼のブログをご参照ください。
https://blog.goo.ne.jp/cinemaasia/e/83637060d40c6ce0b04c19961c265b3b


妹を連れ去られ、身分を隠して取り戻す機会を狙うビームと、ワケあって警官になったラーマが出会って親しくなるのですが、お互いの本心は知らないまま、あることがあって仲違いしてしまいます。
あの『バーフバリ』シリーズを放った監督ですから、度肝を抜かれるスペクタル溢れる場面がスピーディに続きます。
ラーマの恋人の名前はシーターで、古代インドの叙事詩「ラーマーヤナ」を思い起こさせられます。シーターを演じたアーリアー・バット、可憐です。
ビームが一目惚れする白人女性ジェニーを演じたオリビア・モリスも素敵です。ジェニーは、インドの文化に関心があって、インドの人たちにも偏見なく、邸宅やパーディーに招くのです。
それにひきかえ、総督はじめ、総督夫人や、英国軍人たちは、インドの人たちを虫けらのように扱います。 
マッリを取り戻そうと追いかけた母親に銃を向けた部下に対し、総督、「銃弾はイギリスから金をかけて運んだもの。無駄に使うな」と命じ、部下は木の枝で母親を殴ります。銃弾はインド人制圧には使うなと、事あるごとに言う総督に呆れました。

映画の最後に、NTR Jr.、ラーム・チャラン、アーリアー・バットの3人が踊る後ろに、次々と実在の反英活動家の人たちの大きな肖像画が掲げられます。
カルカッタの情熱の雄牛
グジャラートのしたたかな雄牛
キットゥールの鋭敏な雄牛
ティルネルヴェリの雄牛にかなうものなし
パンジャーブの決意の雄牛
タングトゥーリの頑強な雄牛
パッラーシーの気高き雄牛
勝利をもたらす勇猛なマラーターの雄牛・・・
実に多くの人たちが、インド各地でインドの自由のために闘ったことを思い起こさせてくれます。忘れてはいけない歴史です。(咲)


オンライン試写で拝見しましたが、これはぜひぜひ大きな画面で、音と光と震動に包まれて観るのがおススメです!英国の圧政の元、理不尽にも娘をとり上げられてしまうという始まり。誰かどうにかして、と胸を詰まらせているとヒーローが登場します。髭の男性は苦手ですが、インド男性には必須なのでそんなこと言ってられません。
ビームとラーマが出逢う場面、思わず力が入ってしまいます。その後も続きますので気を確かに。日本映画でこれはできないよねぇ、とただただ見とれました。ラストまでもう苦労の連続、インド映画の過剰さが少しも違和感なく、ドラマを盛り上げます。本国の観客はどんな風にこの映画を観たのだろうと、一度インドの劇場で体感したくなります。テルグ語映画のスーパースターの競演です。インド映画ファンの方、見逃し厳禁。
インド映画に詳しい(咲)さんに絶対観て、紹介書いてと激推ししたのでした。(白)


2021年/インド/テルグ語、英語ほか/シネスコ/5.1ch
日本語字幕:藤井美佳  字幕監修:山田桂子
応援:インド大使館 
配給:ツイン 
公式サイト:https://rrr-movie.jp/
★2022年10月21日(金)全国公開



posted by sakiko at 16:24| Comment(0) | インド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

クリエイション・ストーリーズ~世界の音楽シーンを塗り替えた男~  原題:Creation Stories

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(C)2020 CREATION STORIES LTD ALL RIGHTS RESERVED

製作総指揮:ダニー・ボイル
監督:ニック・モラン
脚本:アーヴィン・ウェルシュ&ディーン・キャヴァナー
出演:ユエン・ブレムナー、スーキー・ウォーターハウス、ジェイソン・フレミング、トーマス・ターグーズ、マイケル・ソーチャ、メル・レイド、レオ・フラナガン、ジェイソン・アイザックス

クリエイション・レコーズ創設者 アラン・マッギーの波乱に満ちた人生

1960年、スコットランド、グラスゴー生まれのアラン。ロックスターを夢見て粋がってみるが、保守的な父親は理解を示さない。ロンドンに出るしかない!と、バンド仲間たちとロンドンへ。サッチャー首相の起業支援一人40ポンドを貰って、クリエイション・レコーズを設立。トラブル続きのレーベル運営だったが、アランは宣伝の才能を開花させていく。次第に人気バンドを輩出する人気レーベルとなるが、その一方、レーベル運営のプレッシャーや家庭問題によって精神的に追い詰められていく・・・

クリエイション・レコーズが排出したオアシス、プライマル・スクリーム、ティーンエイジ・ファンクラブ、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインなどのことは、まったく知らなかったのですが、グラスゴー出身の赤毛の小男アランのハチャメチャ人生をしっかり楽しみました。父親との確執、逆に、「お父さんを見返してね」と旅立ちにあたりお小遣いをくれたお母さん。家族の関係を描いた映画でもあります。電車に乗り遅れたことがもたらす運命も描かれています。くすっと笑ったり、ほろっとしたり・・・ こんな人物がそばにいたら、なんだか大変だろうなぁ~。(咲)

2021年/イギリス/110分/PG12
配給:ポニーキャニオン
公式サイト:https://creation-stories.jp/
★2022年10月21日(金)より新宿シネマカリテほかにて全国ロードショー

posted by sakiko at 02:42| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年10月14日

ぼくらのよあけ

bokuranoyoake.jpg

監督:黒川智之
原作:今井哲也 「ぼくらのよあけ」(講談社「月刊アフタヌーン」刊)
脚本:佐藤大
アニメーションキャラクター原案・コンセプトデザイン:pomodorosa
アニメーションキャラクターデザイン・総作画監督:吉田隆彦  
虹の根デザイン:みっちぇ
アニメーション制作:ゼロジー 
音楽:横山克
声の出演:杉咲花(沢渡悠真)、悠木碧(ナナコ)、藤原夏海(岸真悟)、岡本信彦(田所銀之介)、水瀬いのり(河合花香)、戸松遥(岸わこ)、朴ろ美〔"ろ"は王編に路〕(二月の黎明号)、花澤香菜(沢渡はるか)、細谷佳正(沢渡遼)、津田健次郎(河合義達)、横澤夏子(岸真悟、わこの母・岸みふゆ)

西暦2049年夏。阿佐ヶ谷団地に住んでいる小学4年生の沢渡悠真は、宇宙や星が大好き。地球に大接近するという“SHlll・アールヴィル彗星”に夢中になっていた。沢渡家の人工知能搭載型家庭用オートボット・ナナコも母にねだって買ってもらったのだったが、宇宙の話ができるわけでもなくおおいにがっかりした。以来、口うるさく言われても知らん顔をしている。
そんなとき、ナナコが突然未知の存在にハッキングされてしまった。
「二月の黎明号」と名乗る宇宙から来たその存在は「頼みがある。私が宇宙に帰るのを手伝ってもらえないだろうか?」と悠真に語りかける。
2022年に地球に降下した際、大気圏突入時のトラブルで故障、悠真たちが住む団地の1棟に擬態して休眠していたという。宇宙に帰るためにはどうしても必要なものがある。その夏、子どもたちだけの極秘ミッションが始まったーーー

雨を告げる漂流団地』を先月ご紹介したところですが、こちらも団地を舞台にしたジュブナイルストーリー。それに悠真が大好きな宇宙とロボットがからんできます。ただ、生命体ではなくAIなので、オートボットのナナコのボディを借りて言葉を発信します。初めにコンタクトできた悠真たちは、大人に知られるとどこかへ連れ去られてしまうだろう、と小学生だけでなんとかしようとします。こりゃ大変。
2022年に地球に来た目的や、どうしたら戻れるかなどはおいおい明らかになりますが、ラストまでの悠真たちの奮闘ぶりが見どころ。「二月の黎明号」が彼らに見せてくれる壮大な景色を大きな画面でお楽しみください。わー!と思わず声が出ます。
漂流はしませんが、本作は水が不可欠なんです。ケチなおばちゃんの私は「その水道代は!」と変な心配をしてしまいました。なんのことかは、ぜひ劇場でご覧くださいまし。(白)


2021年/日本/カラー/120分
配給:ギャガ/エイベックス・ピクチャーズ
(c) 今井哲也・講談社/2022「ぼくらのよあけ」製作委員会
https://bokuranoyoake.com/
Twitter:@bokura_no_yoake
★2022年10月21日(金)全国劇場公開

posted by shiraishi at 17:06| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

空のない世界から

【ポスター】空のない世界から.jpg

監督:小澤和義
脚本:梶原阿貴
音楽:吉川清之
出演:兒玉遥(藤井麻衣香)、つむぎ(さくら)、佐藤江梨子(アゲハ)、窪塚俊介(北岡さん)、上村侑(チャン君)、根岸季衣(柏原郁恵)、本宮泰風(警察官)、小沢仁志(オーナー)

身重の麻衣香は暗い中、身体をかばいながら必死でDV夫から逃げている。郊外のや灯りのついたラブホテルにたどり着き、傷だらけの彼女に驚いた従業員の北岡に中に入れてもらえた。住み込みの従業員として働き、娘のさくらと息をひそめるように暮らしてきた。さくらには外に出ないように言い聞かせてきたが、6歳になったので学校に行けると楽しみにしている。夫に見つかるのを恐れてさくらの出生を届けていないので、健康保険にも入れず、予防接種や就学通知も来ることはない。ラブホテルのオーナーから、老朽化し儲からないホテルを来月には閉めると告げられ、北岡や麻衣香、バイトのベトナム人のチャンたちは困惑する。

【メイン】空のない世界から.jpg


麻衣香は高卒後折り合いの悪い親から逃げるように家を出て結婚、その相手がDV男でした。夫に見つからないことが最重要で、世の中の色んなことを知らないまま子育てをして時間がたってしまったようです。責任者の北川も訳ありで、優しいですが力も頼りがいもありません。そこへいくと逞しいのが佐藤江梨子さん演じる立ちんぼうのアゲハ、さくらの入学や戸籍の問題の相談にのります。
もう少し描いてほしかったなと思ったのは、夫との対峙や、近所に不審者扱いされるベトナム人のチャン君への誤解の場面。ほんとは気のいいおばちゃんにちょっと口添えしてあげてほしかったです。時間が短いので、あれもこれもは盛り込めなかったんでしょうね。
日本中に1万人もいるという「無戸籍」の人に光が当たったことで、周知に繋がりますように。お役所関係のことは積極的に問い合わせたり、調べたりしないと、知らないままのことがあります。麻衣香のように知識がないばかりに、当然の恩恵も受けられずじまいではもったいないです。”空のない世界”で身を潜めている人が「助けて」と言えるように、そんな声を聞き逃さない世の中であってほしいものです。
小澤和義監督のことを知らずに観ましたが、なんと俳優さんでした。実兄の小沢仁志さん(本作ではオーナー役)も、ほかの作品でやはりこわもての役を見たことがありました。二人揃って睨まれたらビビりそうですが、実際は見た目と違った優しい方ではないかと想像しています。こういう映画を作られるんですから。(白)


2022年/日本/カラー/67分
配給:ライツキューブ
(C)2921ライツキューブ
https://soranonaisekai.com/
★2022年10月21日(金)シネリーブル池袋ほか全国順次ロードショー

posted by shiraishi at 17:05| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

もっと超越した所へ。

motto.jpg

監督:山岸聖太
原作・脚本:根本宗子
撮影:ナカムラユーキ
音楽:王舟
主題歌:aiko
出演:前田敦子(岡崎真知子)、菊池風磨(朝井怜人)、伊藤万理華(安西美和)、オカモトレイジ(万城目泰造)、黒川芽以(北川七瀬)、三浦貴大(飯島慎太郎)、趣里(櫻井鈴)、千葉雄大(星川富)

2020年、4組のカップルがいた。デザイナーの真知子はバンドマン志望の怜人と、元子役でバラエティタレントの鈴はあざとかわいい男子の富(トム)と、金髪ギャルの美和はハイテンションなフリーターの泰造と、風俗嬢の七瀬は今は落ち目だけれどもプライドの高い俳優の慎太郎と付き合っていた。それぞれ彼氏に不満を抱きながらも、それなりに幸せな日々を過ごす彼女たちだったが、男たちはそれをいいことに甘えて増長し、ついに別れの時がやって来る。

そろいもそろって”う~む”な彼氏たち。少しはいいところも可愛気もあるので、女性のほうも余裕があるならば、笑って許せます。が、甘えも過ぎれば可愛さ余って憎さに転じ、100倍にもなるのです。それは男女立場を違えても同じでしょう。4組のカップルの誰かに親近感があったならその相手も見てみて。「あるある」とギクッとするはず。キレるまで溜めてはいけません、心せよ(お互いに)。
テンポよく、キレよく進むドラマは元は根本宗子さんのユニットが上演した2015年の舞台だったとのこと。映画版でも脚本を担当、小説版は9月に徳間文庫から発刊されています。公式HPに動画がたくさんありますが、「もっ超座談会」と称したキャストの男女別トークが面白いので、ぜひそちらもご覧ください。(白)


2022年/日本/カラー/119分
配給:ハピネットファントム・スタジオ
(C)2022「もっと超越した所へ。」製作委員会
https://happinet-phantom.com/mottochouetsu/
★2022年10月14日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 17:03| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年10月09日

MONDAYS このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない

mondays.jpg

監督:竹林亮
脚本:夏生さえり・竹林亮
撮影:幸前達之
音楽:大木嵩雄
主題歌:lyrical school「WORLD'S END」(BOOTROCK Inc.)
出演:円井わん(吉川朱海)、マキタスポーツ(永久茂)、長村航希(遠藤拓人)、三河悠冴(村田賢 )、八木光太郎(森山宗太郎)、髙野春樹(平一郎)、島田桃依(神田川聖子)、池田良(崎野雄大)、しゅはまはるみ(木本貴子)

吉川朱海は小さな広告代理店に勤めている。ブラック企業といいたいくらい仕事は山積み、徹夜で仕事を消化し会社で寝起きしている社員がいるほどだ。朱海は「今に憧れの大手代理店に転職してやる!」と燃える野心を抱いているが、目下の仕事をこなすだけで精一杯。
憂鬱な月曜の朝、後輩の男子二人組から声がかかる。「僕たち、同じ1週間を繰り返しています!」「はあ??」。詳しい説明を聞くがにわかに信じることができない。遠藤・村田は「忘れないために”意識”を変える合図を覚えてください。”鳩”です」と念を押す。
バンッ!!
鳩が窓にぶつかった大きな音、朱海はハッと気づいた。遠藤・村田と目が合う。二人は何日も経験して対策を研究していた。このタイムループから抜け出すには、カギを握る部長に気づかせなくてはいけない。3人はほかの社員にも”鳩の合図”でループに気づかせていく。

タイムループものは数あれど、会社でという設定、そしてこんなに笑えるのも初。完全オリジナルの脚本がよくできていて、何度もくりかえされる試行錯誤も飽きさせません。自分のことだけでいっぱいだった吉川朱海が少しずつ変わり、部全体のチームワークも強まります。難航していたプレゼンも、相手に気づかれることなくチャレンジし続ければ、より良い結果が出せるようになっていきます。かといって、ループが終わらなくていいわけではありません。部長が気づくまでの奮闘ぶりを見るうちに、いつしかこちらもルーティンに組み込まれて、応援団と化していました。
毎週月曜日がくるのが憂鬱な方、社畜になっていないか怖い方、この映画で諦めない勇気とパワーをもらいましょう!笑い飛ばして元気満タンで新しい日を迎えましょう!そして大事なものに気づきましょう!
朱海役の円井わんさん、部長役のマキタスポーツさん、社員のみなさま適役でした。面白かった~!!(白)


2021年/日本/カラー/82分
配給:PARCO
© CHOCOLATE Inc.
公式サイト:https://mondays-cinema.com 
Twitter:https://twitter.com/mondays_cinema
★2022年10月14日(金)東京・渋谷シネクイント、名古屋・センチュリーシネマ、大阪・TOHOシネマズ梅田にて先行公開
10月28日(金)全国順次公開ロードショー



posted by shiraishi at 15:25| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

木樵

kikori.jpg

監督・撮影・編集:宮﨑政記
プロデューサー:益田祐美子
語り:近藤正臣
出演:面家一男、澤和宏、瀧根清司

岐阜県下呂市生まれの宮﨑政記監督は、木樵(きこり)の父の背中を見て育った。林業不況の中、木樵になる夢を断念して映画の道に進んだ。30年後、故郷の山に戻った監督は、今も木樵を続ける面家(おもや)一男さん瀧根(たきね)清司さんの兄弟、その家族やお弟子さんたちに出逢う。彼らは昔ながらの方法で山を守り続けていた。木を伐り出した後も、林道を作らず山が荒れないように細心の注意をはらって下へ送っている。監督は一年間彼らの日常に寄り添い、日々地道な仕事を続けている男たちを撮影した。

山仕事の映画ですぐ思い出したのは、矢口史靖監督の『WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常~』(2014)。進路を決められない18歳男子(染谷将太)が軽い気持ちで飛び込んだ山仕事、過酷さに音をあげつつも楽しみを見出す作品でした。これで、ちょっとだけ林業の一面を見せてもらいましたっけ。
こちらのドキュメンタリーにも、多くを語らず黙々と働き山を護る木樵さんたちが登場します。
自然に任せたままの山ではなく、植林などで人の手が入った山は、その後の世話が必要です。樹木は植えてから長い時間世話し続けないと売れるだけの木材になりません。この間に価格が大きく下落してしまったら、骨折り損になってしまいます。途中で手入れをやめれば病虫害も発生するでしょうし、山が雨を支えきれず土砂災害が起こってしまうこともあります。
今切り出している木は、何十年か前から先輩が面倒を見て来たもの、今世話している山の木が立派な木材になるのは何十年先。自分の目で結果が見られないかもしれない作業を丁寧に続けるというのは尊いです。過去に感謝し未来を思って働いているわけですよね。実際の暮らしは金銭収入がないと成り立ちませんが、それだけではないとても豊かな恵みをこの作品の中に見た気がしました。(白)


2022年/日本/カラー/81分
配給:平成プロジェクト
(C)2022「木樵」製作委員会
http://kikori-movie.com/
★2022年10月14日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開

posted by shiraishi at 14:47| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

スペンサー ダイアナの決意   原題:Spencer

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© 2021 KOMPLIZEN SPENCER GmbH & SPENCER PRODUCTIONS LIMITED


監督:パプロ・ラライン(『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』)
出演:クリステン・スチュワート(『トワイライト』シリーズ、『チャーリーズ・エンジェル』)、ジャック・ファーシング(「風の勇士 ポルダーク」)、ティモシー・スポール (『英国王のスピーチ』)、サリー・ホーキンス(『シェイプ・オブ・ウォーター』、ショーン・ハリス『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』)

1991 年12月24日。英国ロイヤルファミリーの人々は、いつものようにクリスマスを祝うため、エリザベス女王の私邸サンドリンガム・ハウスに集まった。ダイアナ妃は、生家の近くにもかかわらず道に迷い、エリザベス女王よりも遅れて到着する。玄関で待ち構えていたグレゴリー少佐から、さっそく王室のしきたりである体重を測ることを強要される。
夫チャールズ皇太子との仲は既に冷え切っていたが、集まった王族の人々は平静を装っていた。息詰まる思いに、ダイアナは邸を抜け出し、自分が育ったスペンサー家の邸宅に向かうが、老朽化で立ち入り禁止になっていた。仕方なく邸に戻り、息子たちの寝室に忍び込み、やっと安らぎを覚える。
そしてクリスマス、一族での記念撮影、教会での礼拝と決められた行事が続くが、チャールズ皇太子と口論となり、ついにディナーを無視して、息子たちを車に乗せ再び生家へと向かう。幸せな少女時代を過ごした地で、ダイアナは人生を変える一大決心をする・・・

チリ人であるパプロ・ラライン監督が、将来の王妃の座を捨ててでも、自分のアイデンティティを確立しようとしたダイアナを描いた作品。脚本は、イギリス人のスティーヴン・ナイトに依頼。ダイアナを演じたクリステン・スチュワートを始め、メインの俳優はイギリス人。ただ、不必要なメディアの注目を避けるため、撮影はイギリスではなく、ドイツで行っています。
ダイアナの36年という短い人生の中の、さらに3日間という限られた時間を想像力たくましく描いた映画ですが、不実な夫に悩まされる中、思い切った決断をしたダイアナの心情はしっかり伝わってきました。
原題『Spencer』に託した監督の思いも、ずっしりと感じました。(咲)


★ダイアナ元皇太子妃、非業の死から25年。
 彼女に迫る映画2作品が連続公開されます。


『プリンセス・ダイアナ』(9/30公開) 
http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/491794369.html
駆け抜けた激動の人生をアーカイブ映像で振り返ったドキュメンタリー
ぜひ、こちらを先にご覧になってから、『スペンサー ダイアナの決意』を!


2021年/イギリス・ドイツ/117分/英語/カラー/4K ヨーロピアンビスタ/5.1ch・7.1ch
日本語字幕:川嶋加奈子
配給:STAR CHANNEL MOVIES
後援:ブリティッシュ・カウンシル 読売新聞社
公式サイト:https://spencer-movie.com/
★2022年10月14日(金)、TOHO シネマズ 日比谷 ほか全国ロードショー



posted by sakiko at 01:46| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年10月05日

愛する人に伝える言葉   原題:De son vivant

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(C)Photo 2021 : Laurent CHAMPOUSSIN - LES FILMS DU KIOSQUE


監督・脚本:エマニュエル・ベルコ
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、ブノワ・マジメル、セシル・ドゥ・フランス、ガブリエル・サラ

40代の自称「無名の俳優」のバンジャマン。膵臓がんステージ4で切除不能と宣告され、一縷の望みをかけて、母クリスタルとともに、名医の誉れ高いドクター・エデを訪ねる。エデは率直に既に治せない状況だと告げる。ショックのあまり自暴自棄になるバンジャマンにエデは、「命が絶える時までの道のりが大事」と、生活の質を維持するために化学療法を提案し、「一緒に進みましょう」と励ます。
一方、母クリスタルは、病に倒れた息子を見ながら、かつて息子が若くして恋人アンナとの間に子供を作ったとき、息子の将来を思い認知させず、結果、二人が別れることになったことを思い出して悔いる。ドクター・エデにその思いを明かし、エデの勧めで、クリスタルはオーストラリアにいるアンナに連絡する・・・

誰しもに訪れる死。それでも、余命宣告を受け、親より先に逝くことを知った人の思い、さらに我が子が自分より先に逝ってしまうことを覚悟しなければいけない親の思いは計り知れません。
ドクター・エデの患者や患者の肉親に寄り添った治療や言葉に、病に罹ったら、こんなお医者さまに出会いたいと思いました。
実は、このドクター・エデを演じているガブリエル・サラは、本物のがん専門医。
『太陽のめざめ』(2015年)のニューヨークでの上映とエマニュエル・ベルコ監督のトークが終わった後、「映画とアフタートークから感じましたが、あなたは私の仕事に興味を持たれるはずだ」と監督に声をかけてきたのが、ガブリエル・サラ医師。その後、サラ医師の病院を訪れ、仕事ぶりを目の当たりにしたことが、この映画に繋がりました。しかも、彼をモデルにしたドクター・エデは、本人にしか演じられないと依頼。
映画のなかの彼の患者に対する姿勢や、言葉は、彼自身の哲学から生み出されているところが大きいとのこと。家族が患者本人の旅立ちを受け入れることも平穏に旅立てる条件。
また、患者たちのためのタンゴの公演会や音楽によるセラピー、看護師たちの精神的負担を和らげるような明るいミーティング風景も、実際に彼が病院で企画していること。一部の例外を除いて、病院のスタッフも本物の方たちに演じてもらったそうです。
セシル・ドゥ・フランスも、静かに、かつ、明るく患者を見守る看護師を体現していて素敵です。
さて、自分が余命宣告されたら覚悟はできるだろうか、旅立つ準備はちゃんとできるだろうか・・・と考えさせられました。(咲)


(白)


2021年/フランス/フランス語・英語/122分/カラー/スコープサイズ/5.1chデジタル
字幕翻訳:手束紀子
配給:ハーク/TMC/SDP
後援:在日フランス大使館、アンスティチュ・フランセ日本
公式サイト:https://hark3.com/aisuruhito/
★2022年10月7日(金) 全国ロードショー


posted by sakiko at 02:05| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ソングバード  原題:SONGBIRD

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(C)2020 INVISIBLE LARK HOLDCO, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

監督・脚本:アダム・メイソン
製作:マイケル・ベイ
出演:KJ・アパ ソフィア・カーソン ブラッドリー・ウィットフォード ピーター・ストーメア アレクサンドラ・ダダリオ ポール・ウォルター・ハウザー デミ・ムーアほか

2024年、ロサンゼルス。新型コロナウイルス COVID-19は、強力で致死率の高い恐ろしいウイルスへと変異を繰り返し、世界はゴーストタウン化し、人々は徹底的に接触を禁止されている。感染者は「Qゾーン」と呼ばれる隔離キャンプに強制収容され、決してそこから出られない。自由に動き回ることを許されるのは、ごくわずかなウイルスの免疫を持つ者のみだ。免疫があるニコは、「レスター急配」にバイク便の配達員として勤めている。こんな中、ニコはサラと恋に落ちるが、ドアやスマートフォン越しにしか愛を通わすことができない。いつかお互い触れ合うことを夢見ているが、ウィルスの脅威は増し、サラは感染を疑われ、Qゾーンに隔離されそうになる。果たして、ニコはサラを救うことができるのか・・・

2020年7月、ロックダウン下のロサンゼルス.において、最小人数で撮影を敢行した本作。まさに緊張感が漂っているのは、まだCOVID-19の収束の行方が見えない時期だったからこそ。その時点で、4年後に、さらに感染力の強いウィルスがはびこっている設定で描いています。今は、少し落ち着いたようにみえますが、もしかして現実になるかもという恐れを感じてしまいます。
前代未聞のコロナ禍を、ハリウッド流のエンタテインメントに昇華させた映画ですが、いつまたロックダウンが必要になるかもしれないと警鐘を鳴らしているように思います。
「Qゾーン」のQが持つ恐ろしい意味は、ぜひ劇場で! (咲)



2020年/アメリカ/英語・スペイン語/5.1ch/シネスコ/84分
日本語字幕:岡田壯平
提供:WOWOW
配給:ポニーキャニオン
公式サイト:https://songbird-movie.jp/
★2022年10月7日(金) TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
posted by sakiko at 01:19| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年10月03日

夜明けまでバス停で

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(C)2022「夜明けまでバス停で」製作委員会


監督:高橋伴明
脚本:梶原阿貴
音楽:吉川清之
主題歌:Tielle 「CRY」(ワーナーミュージック・ジャパン)
出演:板谷由夏、大西礼芳、三浦貴大、松浦祐也、ルビー・モレノ、片岡礼子、土居志央梨、あめくみちこ、幕雄仁、鈴木秀人、長尾和宏、福地展成、小倉早貴、柄本佑、下元史朗、筒井真理子、根岸季衣、柄本明

居酒屋で住み込みのパートとして働く北林三知子(板谷由夏)。コロナ禍で客足が落ち、解雇されてしまう。介護センターに採用が決まるが、コロナの為、採用取り消しになり、仕事も住む場所も失ってしまう。ファミレスやネットカフェも深夜営業をやめていて、途方に暮れた三知子は、幡ヶ谷のバス停のベンチで一夜を明かす。
一方、居酒屋の店長・寺島千春(大西礼芳)は、解雇した3人の退職金90万円が本部から送られているにもかかわらず、マネージャーの大河原聡(三浦貴大)が着服したことに気が付く。
バス停で目覚めた三知子に、派手な格好のホームレスの老婆(根岸季衣)が声をかけ、弁当の配布場所に案内してくれて、バクダンと呼ばれるホームレスの男(柄本明)を紹介してくれる。バクダンはかつて学生運動や成田空港建設反対運動などをしていたことを豪語する・・・

2020年の春、突然コロナ禍に見舞われ、私たちの暮らしが一変しました。三知子のように、仕事や住む場所を失った人も数多くいることでしょう。コロナという見えない敵に、どこに怒りをぶつけていいかわからない状態が今も続いています。こんな世の中だからこぞ、少しでも余裕のある人は、弱者に手を差し伸べることが必要だと感じます。その前に、行政のきめ細かいサポートが肝心ですね。税金は有効活用してほしいです。そして、いつ、自分が職や住まいを失うかもしれないことも肝に銘じたいものです。(咲)

幡ヶ谷バス停でのホームレス女性が撲殺された事件は衝撃でした。女性が生活保護など行政の助けを求めずに、路上生活を続けていたことを知りました。笑顔の写真を撮った頃には、そんなバッドエンドを迎えるなどと想像もしなかったでしょう。
映画は事件の再現ではなく、働く意欲も能力もあるのに、コロナをきっかけにいろいろなものを失くしてしまう女性・三知子の日々を描いています。キャリアウーマンや母子家庭の母などを演じてきた板谷さんが三知子役、自分もちょっとの違いでこうなるかもという危機感を抱きました。年季の入ったベテランホームレスの柄本さん根岸さんは、いわば先輩サバイバー。この二人についていけば大丈夫!という安心感あり。
2022年の厚労省の調査では、ホームレスとみなされる人は全国で3448人(うち女性162人)。大阪、東京の順に大都市に集中しています。ネットカフェなどで寝起きしている人は路上生活者ではないので、数に含まれません。実際に遭遇することもあるのに、一人一人のそれまでの人生を想像したのは、テレビや映画のドキュメンタリーを見てからです。以前観た海外作品では、衣服や食品などの援助物資を路肩にある箱から、誰でももらっていけるようになっていました。安全だと信じられることが前提ですが。
困ったときに「助けて」と声のあげられる社会でなくてはと思います。それは自分自身のためでもあります。(白)


2022年/日本/ビスタ/5.1ch/DCP/91分
配給:渋谷プロダクション
公式サイト:https://yoakemademovie.com/
★2022年10月8日(土)より新宿K’s Cinema、池袋シネマ・ロサ他全国順次公開
posted by sakiko at 18:17| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

千夜、一夜

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監督・編集:久保田直
脚本:青木研次
撮影:山崎裕
出演:田中裕子(若松登美子)、尾野真千子(田村奈美)、安藤政信(田村洋司)、ダンカン(藤倉春男)、白石加代子(藤倉千代)、長内美奈子

離島の港町で一人暮らしている若松登美子。夫の諭(さとし)が出かけたまま帰らず30年が経った。警察に届け、尋ね人のチラシを作り、手を尽くして探し続けたが、出て行った理由も、生死すらもわからない。漁師の春男はそんな登美子をずっと想い続けているが、登美子は諭のささやかな記憶を反芻して今も待ち続けている。
登美子の元に2年前に夫が失踪した田村奈美が現れる。いなくなった理由がわかったら、気持ちを整理できて、新しい一歩を踏み出せるという。

予告編の第一声が「日本の行方不明者数、年間8万人。今もどこかで待ち続ける人がいる」。これは警察に「行方不明」と届けられたのべ人数です。同じ人もいるかもしれませんが、届けられない人の数もまた多いはずです。この数に驚きましたが、9割ほどは行方が判ったり、戻ったり何らかの解決がされているそうです。奈美と洋司のような夫婦も、現実にきっといるのでしょう。そして登美子のように、長期間なんの手がかりもないままの人も。
夫の声の入ったテープを繰り返し聞く登美子の孤独は深いですが、かといって春男が入れる場所はありません。待ち続けるのは苦しくとも、いつか帰ると信じていられるうちは、それが心の支えになるのでしょう。
ダンカンさん熱演の春男、切ない恋情があふれています。春男に向かっていつも口数少なく、抑えている登美子が珍しく大声で叫ぶシーンがあります。田中裕子さんのこれまでの演技でも珍しい場面でした。白石加代子さん演じる息子を案じる千代さんにも胸がしめつけられます。家を出た人は、待っている人にたったひとことでも連絡をとってあげて、とつい思ってしまいました。
東日本大震災の後の福島の家族を描いた『家路』(2014)の久保田直監督と主演の田中裕子さん、2度目のタッグ作品です。(白)


冒頭で、「この島では行方不明者が多い」と語られます。
北の離島。一瞬、佐渡とわかる場面があって、拉致されてしまった人が多いのかなと。
拉致被害者で20年前に帰国された曽我ひとみさんは、佐渡の方。 91歳になるお母さまは、いまだに佐渡に帰れないでいるという現実があります。映画の中では、北朝鮮の拉致について声高に語ってないのですが、登美子の夫も拉致されたのでは・・・と思ってしまいました。もっとも、海に囲まれた島だから、海に間違って消えたのかもしれません。いつか帰ってくる・・・と待ち続ける登美子を、田中裕子さんがしっとりと演じていて、素敵です。
一方、尾野真千子さん演じる奈美は、二年前に失踪した夫のいなくなった理由がわかれば、決着つけて次の人生に進めるという、登美子とは対照的な性格です。身近な人が突然失踪してしまったら・・・ どちらの生き方が楽かは、人それぞれですが、できればそんな目にはあいたくないですね。(咲)


2022年/日本/カラー/ビスタ/DCP/5.1ch/126分
配給:ビターズ・エンド
(C)2022映画『千夜、一夜』製作委員会
https://bitters.co.jp/senyaichiya/
★2022年10月7日(金)テアトル新宿、シネスイッチ銀座ほかロードショー

posted by shiraishi at 17:55| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

サポート・ザ・ガールズ(原題:Support the Girls)

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監督・脚本:アンドリュー・ブジャルスキー
出演:レジーナ・ホール(リサ)、ヘイリー・ルー・リチャードソン、シャイナ・マクヘイル

スポーツバー“ダブル・ワミーズ”でマネージャーとして働くリサは、面倒見がよくて従業員や常連客にすこぶる評判がいい。金儲け第一の店のオーナーとは対立している。セクシーさが売りの若い従業員たちへのへのセクハラに対処、私的な悩み事の相談にものる。
しかし従業員のシャイナが引き起こしたトラブルがきっかけで、遂にオーナーからクビを言い渡されてしまった。従業員たちはリサの解雇に反発して、格闘技の試合がある夜にストライキを画策する…。

仕事に精魂かたむけるリサは、若い従業員たちの母や姉のような存在です。「今までで一番の上司!」と言われて嬉しそうです。20歳前後の女子従業員の制服は、胸の谷間やお腹が見えるピタピタのシャツ、下はショートパンツ。孫娘だったらやめなさいと言いたくなるスタイル。スポーツバーには、スポーツ好き熱血な男たちが集まります。仕事上でのサービスと、セクハラはさせたくないとの間で頭が痛いはず。オーナーや従業員たちとの関係や仕事のトラブルもパワフルに乗り切っていくリサと仲間たち。
リサの子どもたちは巣立って夫と二人暮らしですが、別居するようです。そのへんは詳しく描かれません。夫はリタイアして家にいるのに、仕事が忙しい妻は留守がちで隙間ができたのかもしれません。「働く女性あるある」のこの作品は、オバマ元大統領もお気に入りだったようですよ。(白)


2018年/カラー/アメリカ/93 分/
配給:グッチーズ・フリースクール
©︎2018 Support The Girls, LLC All Rights Reserved.
映画公式HP:http://gfs.schoolbus.jp/support_the_girls/
★2022年10月7日(金)よりシモキタ - エキマエ - シネマ『K2』ほかにてロードショー!

シモキタ - エキマエ - シネマ『K2』劇場情報
住所:〒155-0031 
東京都世田谷区北沢 2-21-22 ( tefu ) lounge 2F
HP: https://k2-cinema.com
posted by shiraishi at 17:52| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

42-50 火光(かぎろい)

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監督・脚本:深川栄洋
撮影:安田光
音楽:平野真奈
出演:宮澤美保(佳奈)、桂憲一(祐司)、柄本明(佳奈の父)、白川和子(佳奈の母)、吉田幸矢(祐司の母)、加賀まりこ(女優)

佳奈は42歳、俳優。これでも子役のころはけっこう売れていた。夫の祐司は50歳、そこそこ仕事のある脚本家。佳奈は母親の役をやる年齢だけれど、自分には子どもがいないのでいまいち演技をつかみきれない、と思っている。夫婦で相談のうえ、これまで特に考えなかった不妊治療を始めることにした。不妊治療を始めるには年齢的にやや遅く、費用も意外にかさむことがわかった。同じころ、美保の父が難病のALSを発症した。同居している祐司の母とも気持ちのすれ違いがおきて、佳奈はいっぱいいっぱいになってしまう。

深川栄洋監督が原点回帰のために作った「return to mY selFプロジェクト」自主映画第2弾です。第1弾の『光復』はsideBにあたり、本作と違ってもっとダークな作品で12月9日公開予定です。
sideAの本作は、ここ3年間のできごとを私小説のような映画にしたのだそうです。監督の妻である宮澤美保さんが自身の役を、夫役は宮澤さんの推薦という桂憲一さんが演じています。
俳優と脚本家という夫婦は身近ではありませんが、家庭内のトラブルはどこの家庭や夫婦にも起こりそうで、「あるよね~」と共感できます。友達が「あのね」と始める話を聞いているような感覚で観ていました。ペアのパジャマを着て朝ごはん食べている2人に、別に子どもいなくてもいいんじゃない?授かりものだし…とか、義理の家族は難しくて当たり前とか、実家の親が病気になると辛いよねとかいちいち内心で返事して(笑)。深川監督と親しいという加賀まりこさんが、ベテラン女優役で登場、画面をぴりりと引き締めました。(白)


2022年/日本/カラー/ビスタ/94 分
製作・配給:スタンダードフィルム
配給協力:ポレポレ東中野
(C)2022 スタンダードフィルム
https://kagiroi-movie.com/
★2022年10月7日(金)ロードショー

posted by shiraishi at 17:49| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年10月02日

『僕が愛したすべての君へ』『君を愛したひとりの僕へ』

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『僕が愛したすべての君へ』
監督︓松本 淳
原作︓⼄野四⽅字「僕が愛したすべての君へ」(ハヤカワ⽂庫刊)
アニメーション制作:BAKKEN RECORD
キャスト︓宮沢氷⿂(高崎暦)、橋本 愛/蒔⽥彩珠 他

高崎暦(こよみ)は7歳のとき両親が離婚して、母親の実家で祖父母と暮らしている。
ある日、クラスメイトの瀧川和音(たきがわ かずね)に声をかけられた。彼女は85番目の並行世界から移動してきたといい、その世界では自分は暦の恋人なのだと告げる。
2022年/日本/カラー/102分

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『君を愛したひとりの僕へ』
監督︓カサヰケンイチ
原作︓⼄野四⽅字「君を愛したひとりの僕へ」(ハヤカワ⽂庫刊)
アニメーション制作︓トムス・エンタテインメント
キャスト︓宮沢氷⿂(日高暦)、蒔⽥彩珠/橋本 愛 他

日高暦は両親が離婚して父と暮らしている。父の勤務先で栞という少女と出逢った。暦と栞は次第に親しくなり、栞は大人になったら暦と結婚したいと思っていたが、ある日それが叶わないと思いこむ。悲しむ栞に暦は今と違う並行世界へ二人で移動しようと提案する・・・。

『僕が愛したすべての君へ』と『君を愛したひとりの僕へ』は同じ登場人物が別の”並行世界”に住んでいます。暦の両親が離婚して、母と住む世界。もう一つは父と住む世界。ほんの少しずつ違う世界が無数に存在し、移動することができる近未来の設定です。 父と母のどちらと住むか、大きな選択をした暦のその後の人生が変わっていきます。映画を観る観客も、どちらの映画を先に観るかで、鑑賞後の印象が大きく変わるでしょう。どっちを先にしますか?

理屈がよくわからないまま見終えてしまって疑問が・・・。移動した先にいるはずの「自分」と今の自分は入れ替わるの?「ドラえもん」ののび太くんのように、自分と出逢わないようにすればいいの?あれれ?また観なくては。(白)


2022年/日本/カラー/98分
配給︓東映
©2022 「僕愛」「君愛」製作委員会
https://bokuaikimiai.jp/#modal
予告編はこちら
★2022年10月7日(金)より2作同日公開

posted by shiraishi at 19:30| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

アメリカから来た少女   原題:美國女孩 英題:American Girl

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©Splash Pictures Inc., Media Asia Film Production Ltd., JVR Music International Ltd., G.H.Y. Culture & Media (Singapore).


監督・脚本:ロアン・フォンイー(阮鳳儀) 
製作総指揮:トム・リン(『百日告別』『夕霧花園』)
撮影:ヨルゴス・バルサミス
出演:カリーナ・ラム(林嘉欣)、カイザー・チュアン(荘凱勲)、ケイトリン・ファン(方郁婷)、オードリー・リン(林品彤)

2003年の冬。アメリカから台湾に帰郷した13歳の少女と家族の物語

母と妹とロサンゼルスで暮らしていた13歳のファンイー。母が乳がんに罹り、父が一人で暮らしていた台北に戻り、家族4人で暮らすことになった。台北の名門中学校に入るが、校則で長い髪は切らなければならなかった。英語は得意だが、中国語は苦手のファンイーは、皆から陰で「アメリカン・ガール」と呼ばれ、なかなか学校に馴染めない。ある日、教師からスピーチコンテストへの参加を勧められ、母への正直な想いを綴る。ところが、コンテストの前日に妹がSARS感染の疑いで家族全員が隔離されてしまう・・・。

<ロアン・フォンイー監督のコメント>
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©Splash Pictures Inc., Media Asia Film Production Ltd., JVR Music International Ltd., G.H.Y. Culture & Media (Singapore).

 『アメリカから来た少女』は、私の少女時代である2003年の重要なエピソードに基づいた半自伝的な物語です。私が7歳の時、母は私と妹を連れてアメリカに渡りました。父は仕事のために台湾に残りました。私たちがアメリカでの生活を始めてやっと5年が過ぎた頃の2003年、母の乳がんが発覚し、私たちは台湾に戻りました。私は、母親がいなくなることをいつも恐れながら、少女時代を過ごしていました。それなのに、私は、心の底にある母を失うことへの恐怖を10代の怒りの感情で紛らわせ、母が亡くなったときに自分が受けるであろう心の傷が軽くなるようにと、母を自分の最大の敵として位置付けたのです。本作品では、台湾に戻った10代の少女の葛藤の物語として、彼女の家族のポスト・アメリカン・ドリームがどのように崩壊したか、そして彼女らがそれにどう折り合いをつけたのかにも触れています。
『アメリカから来た少女』は、人は成長することでどれほど傷つくのか、家庭というものがいかに移り変わるのか、そして、傷ついた2人の人間が人生の中でいかに互いを傷つけ合い、癒し合うのかを描いています。



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©Splash Pictures Inc., Media Asia Film Production Ltd., JVR Music International Ltd., G.H.Y. Culture & Media (Singapore).


1990年生まれのロアン・フォンイー監督の自身の経験に基づく半自伝的物語。
小学生から中学生にかけてアメリカで過ごし、母国語のはずの中国語よりも英語の方が楽なファンイー。友達とも別れなければならず、台北の家ではネットも繋がらなくて、母が病気にならなければとうらめしいのです。一方で、乳がんで母が死んでしまうかもしれないという恐怖もあります。そんな複雑な少女の思いを、ケイトリン・ファンが見事に演じています。演技経験はなかったものの、バイリンガルの少女を探すオーディションで抜擢され、金馬奨と台北映画祭で最優秀新人賞を受賞しています。
母親役のカリーナ・ラムも、病を抱え、我が子を置いて先立つであろうことへの思いを繊細に演じています。カリーナ・ラムには、『男人四十』が、2002年のアジアフォーカス・福岡映画祭で上映された折にお会いしていますが、可憐な少女という雰囲気でした。その彼女が、お母さん役! (実生活でも、お母さんですね) しっとりとした素敵な大人の女性になりました。
娘たちにアメリカで教育を受けさせるため、一人台北に残ってあくせく働く父親を演じたのは、台湾の映画やドラマで活躍する実力派のカイザー・チュアン。「僕は家族のATMか」と、一家を支える父親の悲哀をたっぷり感じさせてくれました。(咲)


SARSが猛威を振るう2003年、アメリカから台湾に帰国した13歳の少女と家族の物語。母が乳癌にかかり治療のため、台北で一人暮らしている夫の元へ帰国。しかし、幼い頃に渡米した娘のファンイーは中国語も不得意で、台北の暮らしにも馴染めず、親友のいるアメリカに戻りたいと考え不満タラタラ。馬が大好きでアメリカでの生活を謳歌していた娘にとって、母国での生活は異文化との遭遇でストレスだらけ。その怒りを母にぶつける。数年ぶりに再会した父親とも上手くいかず、久しぶりに家族が揃ったのに不満をぶつけ合い傷つけあう。妹は意外と台湾になじんでいたのにSARSにかかってしまう。この家族に次々といろいろな出来事が起こり、家族のストレスもマックスに。
台湾での学校生活は、強圧的な先生も描かれるが、母との確執に対して、弁論大会で自分の気持ちを語るように言ってくれる先生もいて、母との関係を見直してゆく。仕事にかかりきりの父も家族の理解者であろうとする姿が描かれ、この家族の行く末に少し希望が見える。辛い治療に穏やかではいられない母親を演じていたのはカリーナ・ラム。苦悩する母親役を演じていて、少女のようだったカリーナもそういう年齢になってきたかと感慨深い(暁)。


2021年・第58回金馬奨 5部門受賞!
(最優秀新人監督賞、最優秀新人俳優賞、最優秀撮影賞、観客賞、国際批評家連盟賞)
2021年・第34回東京国際映画祭「アジアの未来」部門出品作品

2021年/台湾/北京語・英語/101分/ビスタサイズ(1.85:1)/5.1ch
配給:A PEOPLE CINEMA
公式サイト:https://apeople.world/amerika_shojo/
★2022月10月8日(土)より、ユーロスペースほか全国順次公開




posted by sakiko at 18:02| Comment(0) | 台湾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

声/姿なき犯罪者 原題:보이스(ボイス)

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ⓒ 2021 CJ ENM Co., Ltd., SOOFILM ALL RIGHTS RESERVED


監督:キム・ソン&キム・ゴク(『ホワイト:呪いのメロディー』2011年)
出演:ピョン・ヨハン(『茲山魚譜 チャサンオボ』、『太陽は動かない』)、キム・ムヨル(『悪人伝』)、キム・ヒウォン(『鬼手』)、パク・ミョンフン(『ただ悪より救いたまえ』)、イ・ジュヨン(『サムジ ンカンパニー1995』)

釜山。ソジュン(ピョン・ヨハン)はワケあって刑事をやめ、建設現場で働いているが、正式に現場監督の内示も受け順調な日々だ。現場で作業員の落下事故が起こるが、なぜか携帯が通じない。その頃、ソジュンの妻は、建設現場で死亡事故が起こり、責任者の夫が逮捕され、示談金を払えば有罪にならないと言われる。夫に電話するも通じず、7000万ウォンを振り込む。建設現場の同僚たちの家族も同様に電話を受け、言われるままに金を振り込んだ。振り込め詐欺だと判明するが、会社自体が30憶ウォンの詐欺被害にあっていた。
ソジュンは、振り込め詐欺犯罪を担当する刑事イ・ギュホ(キム・ヒウォン)に早期解決を迫るが、元締めが中国にいてなかなか動けないといわれる。妻や同僚が失ったお金を取り戻すべく、ソジュンは自ら中国・瀋陽にある詐欺団のアジトに潜入する・・・

冒頭、スピード感に溢れる展開。詐欺にかかるのも、きっとこんな風にあっという間なのだと思いました。ピョン・ヨハンが、騙された悔しさから詐欺団に立ち向かう姿は、痛々しいながらカッコいいです。危ないアクションシーンもすべて自身でこなしたのだとか。
キム・ムヨル演じる振り込め詐欺本拠地の企画室総責任者クァクは、極悪非道ぶりが半端ないです。
監督のキム・ソンとキム・ゴクは双子の兄弟。実際にあった振り込め詐欺の事例を映画に落とし込んで、リアルを追求しています。
入手した個人情報に合わせた巧妙な台本を作り、電話のかけ子たちに配り、短期決戦で一斉に電話をかけ、振り込ませるという見事な手口。200人以上が制服を着て、一斉に電話をかける姿は、まるでコールセンター。始業時には訓示もあって、まさに企業そのもの。
日本でも組織的な詐欺グループの犯罪が後を絶ちませんが、韓国も同じ。「声」だけで、自分の大事な貯金を振り込んでしまうなんて信じられないと思っていても、引っかかる危険は誰しもにあるものと思います。映画の中で、キム・ヒウォン演じる刑事が、「不審な電話には出ず、お金の話が出たら切ること。何より、被害者は自分を責めがちですが、犯人が悪質なのです」という言葉を胸に刻みたいと思いました。(咲)


大がかりな詐欺に口があきっぱなし。犯罪は日々巧妙になっていて、騙しのプロに庶民は勝てません。それでも詐欺対策用に留守電にする。知らない番号の電話に出ないなど自分のできる工夫が必要ですね。
映画の中で、あれだけお金が集まっても本当に儲けているのは一握り。末端には借金に縛られて、しかたなく犯罪に加担してしまった人もいます。詐欺って人の弱点をつくんですね。誰か天誅を!
キム・ムヨルはドラマ「未成年裁判」では、情のある検事役でした。今回の凄まじい悪役っぷりにびっくり、演技の幅広げましたね。ソジュンに助けられたカンチル(イ・ジュヨン)がいいところで活躍します。彼女の髪型、「梨泰院クラス」(2020年)のイソちゃんと同じですね。流行りだったんでしょうか。(白)


2021/韓国/韓国語/109 分/シネスコ/5.1ch/カラー
提供:ツイン、Hulu
配給:ツイン
公式サイト:https://koe-voice.jp/
★2022年10月7日(金)より新宿武蔵野館他にて全国順次ロードショー

posted by sakiko at 16:58| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『七人樂隊』(原題:七人樂隊/英題:Septet:The Story of Hong Kong)

10月7日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開
劇場情報
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香港ニューウェーブを担った監督7人が、50年代から未来まで、香港の各時代の“美しい瞬間”を全編35mmフィルムで撮った7つの物語

監督:洪金寶(サモ・ハン)/許鞍華(アン・ホイ)/譚家明(パトリック・タム)/袁和平(ユエン・ウーピン)/杜琪峯(ジョニー・トー)/林嶺東(リンゴ・ラム)/徐克(ツイ・ハーク)
プロデューサー:杜琪峯/朱淑儀(エレイン・チュー)
出演:洪天明(ティミー・ハン)/呉鎭宇(フランシス・ン)/余香凝(ジェニファー・ユー)/元華(ユン・ワー)/伍詠詩(ン・ウィンシー)/任達華(サイモン・ヤム)/張達明(チョン・タッミン)/林雪(ラム・シュ)

『七人樂隊』はジョニー・トー監督プロデュースで、長らく香港映画界を牽引してきた七人の監督が集結。1950年代から未来まで、10年ごとに年代がを分け担当した短編7本から成るオムニバス映画。それぞれ個性あふれる作品で活躍してきた7人の監督たちが自身の特別なノスタルジーをこめ映像化した物語は、デジタルが主流の現代に、あえて35mmフィルムで撮影を行い、過ぎ去りし“フィルムの時代”への敬意を表している。

第73回カンヌ国際映画祭カンヌセレクション2020で上映された本作は、ジョニー・トー監督プロデュースの元、七人の監督が集い、担当する年代をくじで選び製作された。
貧しかった50年代、必死にカンフーの稽古に励んだ幼い自分と仲間の姿、自伝的エピソードを描したサモ・ハン監督の「稽古」。サモ・ハンの息子洪天明がカンフーの先生役を演じている。
教育に生涯を捧げる校長先生(呉鎭宇)と、家族のような日々を過ごした学校の先生たち。そして女性教師の淡い憧れを描いたアン・ホイ監督の「校長先生」。
移住を控えた恋人たちの別れをスタイリッシュな映像で描いたパトリック・タム監督の「別れの夜」
移住する孫と香港に残るおじいさんの、話がかみ合わないながらも温かな交流を描くユエン・ウーピン監督「回帰」。孫娘を愛する祖父役を元華が演じている。
香港特有の喫茶店“茶餐廳”を舞台に、庶民が株価に右往左往する姿を描くジョニー・トー監督の「ぼろ儲け」。お約束の林雪(林雪)が出演。
イギリスから久しぶりに帰って来た主人公が、香港の変わり様に翻弄されるリンゴ・ラム監督「道に迷う」。任達華が道に迷う。
精神科の治療風景を描き、たたみかける台詞が魅力のツイ・ハ―ク監督「深い会話」、かみ合わない論争を続ける張達明のとぼけた演技。徐克と許鞍華もカメオ出演。

2020年の東京フィルメックスで上映され観客賞を受賞した作品。
杜琪峯監督の呼びかけで集まった、香港映画ニューウエイブ全盛期に登場し活躍した同世代の7人の映画監督たちが、それぞれの持ち味を生かし、1950年代から近未来までの歴史をたどりつつ香港の人々を描いたオムニバス映画。林嶺東監督にとっては本作が遺作になった。こちらの7人の楽隊は、変わりゆく時代に寄り添う香港愛に満ちたSeptet(七重奏)を奏でた。
洪金寶の「練功」は、『七小福』を思わせるカンフー訓練風景を描く。訓練をサボったらみつかってしまい、さらに厳しくしごかれる。子供達のお茶目な姿に思わずにっこり。でもすごいカンフー技を見せてくれた。許鞍華の「校長」はノスタルジック感あふれる、彼女らしい情感にあふれた作品だった。呉鎭宇を校長先生役に持ってくるなんてユニーク。彼のこんな姿、これまで観たことがない! 袁和平の「回帰」は1997年の香港返還前後の話で、香港に残ったカンフー好き爺さんとカナダへ渡った孫娘との交流を描いていたけど、好々爺的な元華の姿が‌微笑ましかった。杜琪峯の「ぼろ儲け(遍地黄金)」は『奪命金』を彷彿とさせるような一攫千金を狙って金儲けに励む香港人が出てくる。株の売買で、間違って食堂メニューの番号を頼んだら、値上がりするという行き違いの妙が描かれた杜琪峯らしい作品。林嶺東の「道に迷う(迷路)」の最後には「香港より良い所はたくさんあるが、故郷に対する愛は香港にしかない」と出てくる。徐克の「深い会話(深度対話)」は、近未来の精神病院が舞台。医者と患者が入り乱れ、最後はどちらがどちらかわからなくなるような混乱を描いた。これも徐克ならではの作品で、香港映画にハマった人にとっては出演陣の口角泡を飛ばす会話が爆笑もの。しかし、今の香港の状況を考えると、かつての香港を取り戻せないかもしれないと思い、香港の未来を思うと絶望感もある。この『七人楽隊』が、変わりつつある香港へのレクイエムにならないことを祈りたい(暁)。


長年の香港映画ファンにとって、感慨深く、愛おしくてたまらない映画。
7人の監督が、与えられた年代を舞台に描いた物語は、それぞれがその監督らしいテイストで、出演者も違うのに、見終わって、1950年代から近未来に至る香港の市井の人々を描いた一つの絵巻物のように感じました。
香港返還を見据えて国外に移住する人と香港に残る人との別れ、空港が町中の啓徳にあった頃のビルの真上を飛んでいく飛行機、一つのカード(オクトパス)で交通機関だけでなく様々なものが決済できるようになるのを予想する人、中環(セントラル)のスターフェリー乗り場が移動した跡にできた大きな観覧車・・・ ちょっとしたことから感じる、香港の変遷に胸がいっぱいになりました。
そして、フラさま(呉鎭宇=フランシス・ン)が落ち着いた校長先生を演じ、サイモン・ヤム(任達華)が海外から里帰りし、昔馴染みの建物が見つからなくて戸惑う中年男を演じるという、彼らがぎらぎらしていた頃を思うと、時が流れたことをずっしり感じました。
これからの香港がどうなるのだろうとの思いもよぎりますが、香港が香港らしく歩んできた時代を映し出した情感たっぷりの映画に乾杯です。(咲)



公式サイトはこちら
2021年/香港/広東語/111分/ビスタ/5.1ch/
日本語字幕:鈴木真理子
配給:武蔵野エンタテインメント

メイキング動画「和やかな楽章」

アン・ホイ監督 インタビュー映像&メッセージ【You tube】
posted by akemi at 05:59| Comment(0) | 香港 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

裸のムラ

10月8日(土)より、[東京]ポレポレ東中野、[石川]シネモンドほか全国公開
劇場情報

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(C)石川テレビ放送

政治家、公務員、有権者、マスメディア。みんなそれぞれ一生懸命。
だけど、やっぱりズレている?!

監督:五百旗頭幸男(いおきべ ゆきお)
撮影:和田光弘 編集:西田豊和 音楽:岩本圭介
音楽プロデューサー:矢﨑裕行 プロデューサー:米澤利彦

『はりぼて』で富山市議会の不正を丸裸にした五百旗頭幸男監督。富山チューリップテレビを辞し、新天地の石川テレビで制作した2本のドキュメンタリー番組「裸のムラ」と「日本国男村」をもとに、<北陸の保守王国>石川県から日本の縮図を描く。その一方で、私たちが暮らす社会に根強く残る家父長制(パターナリズム)や男性中心社会の姿をユーモアを込めて描きだす。

現職最長となる7期27年目の 谷本正憲石川県知事(75)は、コロナ禍に「無症状の方は石川県にお越しいただければ」と失言。「4人以下での会食」を呼びかけたのに、自身は90人以上で会食。永すぎた権力集中が周りを見えなくし、為政者は傍若無人になっていく。そんな長期県政もついに終焉を迎えた。新知事に立候補したのは、谷本の選対本部長を務めていた衆議院議員 馳浩。馳新知事が掲げたスローガン「新時代」は、馳が衆議院に初当選した時と同じだった。ムラの男たちが熱演する栄枯盛衰の権力移譲劇。ここ一番で登場するのは、ご存知森喜朗元内閣総理大臣。
一方でキャメラは市井の生活者へも向けられる。同調圧力の強い社会で暮らすムスリム一家、車で移動しながら生活や仕事をする一家の姿から、理想や自由をめぐる葛藤と矛盾が浮かび上がってくる。

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(C)石川テレビ放送


五百旗頭幸男監督は、前作同様、今回も「議会」と市民生活をテーマにした作品を映画化。前回は富山県、今回は石川県。それにしても石川県の谷本知事は7期27年も知事を務めていたというのにびっくり。地方ではそんなに長い間知事を務めている人がいるのだということを知った。それにしても27年もと思って調べてみたら、歴代最長県知事在任日数トップはなんと谷本知事の前の石川県知事中西陽一氏の8期でした。1963年から1994年まで、なんと30年9ヵ月にわたって石川県知事を務めたようです。石川県というところは、そういうところだったのかと改めて思いました。まだ議会を見渡しても、議員や周りの人たちを見ると男の人ばかり。女性は議長の水を用意する人しか出てこなかった。ことほど左様に議会に女性はいない。これは石川県だけでなく、都内のリベラルと思われる市町村でも、女性はまだまだ少ない。「議会に女性を」という活動は市川房枝さんの時代もあったのに、なかなか増えないのは議員活動はかなり自分の生活を犠牲にしないとやれないということが大きいと思う。それでも、都道府県知事や市町村知事に女性がというのは増えてはきている。
でも、この石川県や富山県など、地方の議会の男性一色というのはなんだかなあと思いつつ、この中に入っていきたいくにはかなり勇気がいると思う。将来どのくらい女性が増えていくだろう(暁)。


本作について予備知識なく見始めたら、モスクが出てきて、おっ!と俄然興味を惹かれました。モスクの管理をしている松井誠志さんは、ボランティア活動のために行ったインドネシアで出会ったヒクマさんと結婚するためイスラームに改宗した方。就職の面接でムスリムであることを話すとどこも採用してくれなかったこと、石川県で初めてのモスクを建てることになったとき周囲から反対されたこと、公安調査庁から「内部スパイ」として情報提供を求められたことなど、日本社会における「偏見」を見せつけられました。並行して語られる石川県知事を7期務めた谷本正憲氏を取り巻く様は、権力にしがみつく男社会の極み。政治が多様性に対応できないことも感じざるをえませんでした。
一方、ヒクマさんは、金沢大学留学生支援地域アドバイザー、金沢市町会言語サポーターなどを務め、21年には「いしかわ女性のチャレンジ賞」を受賞するなど大活躍。それでも、「今の日本社会、国籍を変えても顔で判断されて外国人」と、帰化はしないと語ります。国籍など関係なく、自分の居場所で出来る限りのことをしているヒクマさん、素敵です。(咲)



公式HP
製作:石川テレビ放送 配給:東風
2022年|日本|118分|ドキュメンタリー|

参考記事 シネマジャーナル 特別記事
『はりぼて』五百旗頭幸男監督、砂沢智史監督インタビュー
posted by akemi at 04:00| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする