2022年09月26日
こころの通訳者たち
監督:山田礼於
プロデューサー:平塚千穂子
撮影:金沢裕司、長田勇
テーマ音楽:佐藤奈々子(歌)、長田進(演奏)
出演:難波創太、石井健介、近藤 尚子、彩木香里、白井崇陽、瀬戸口裕子、加藤真紀子、水野里香、高田美香、河合依子、廣川麻子、越 美絵
東京・田端の「CINEMA Chupki TABATA(シネマ・チュプキ・タバタ)」は20席の小さなユニバーサル・シアターです。誰もが一緒に映画を楽しめるようにと、クラウドファンディングで集まった資金で2016年9月にオープンしました。車椅子スペースはもちろん、防音の小さな個室もあって赤ちゃんや子供連れの人、周りに人のいるのが苦手な人もOKです。この映画館で上映される作品は全て「音声ガイド」と「字幕」がついています。チュプキ代表の平塚千穂子さんに、山田礼於監督が演劇の手話通訳者の映像を映画化する企画を相談しました。
演劇に「演劇手話通訳者」3人がつきました。聞こえない人がよりいっそうその世界を楽しめます。
1日の公演のために通訳者たちは討論と練習を重ねます。この映像を見えない人たちに伝えたい。そのためには?手話をどうやったら伝えられるのか?平塚さんは見えない人、聞こえない人、どちらでもない人たちと何度も話し合い、お互いの「わからない」をすり合わせ、一番いい方法を探ります。試行錯誤して作品が出来上がるまでが『こころの通訳者』というドキュメンタリーとして完成しました。
この試写がチュプキで行われ、初めて「音声ガイド」をお借りしました。見えない方がわかるように、副音声で説明があります。聞き取りやすく、見えていても見逃しそうなところをもちゃんと補われていて、私にもとても助けになりました。聞こえない方が震動を感じられる抱っこスピーカーもあります。このドキュメンタリーのプロデューサーとなった平塚さんは、映画化のために強力なメンバーを集めました。平塚さんと手話通訳者、中途失明された難波創太さん、石井健介さん。幼いときに失明し、バイオリニスト・作曲家となった白井崇陽さんたちが率直な意見を出し合うようすも、記録されています。
どんな人にも楽しんでみてもらえることを一番にこころがけたという、山田礼於監督インタビューはこちらです。(白)
2021年/日本/カラー/90分
配給:Chupki
© Chupki
cocorono-movie.com
シネマ・チュプキ・タバタHP https://chupki.jpn.org/
★2022年10月1日(土)シネマ・チュプキ・タバタ先行ロードショー
10月22日(土)より新宿K's cinemaほか全国順次ロードショー
ボーダレスアイランド
監督:岸本司
脚本:岸本司 木田紀生
撮影:羅偉恩
音楽:辺土名直子/真栄里英樹
出演:リー・ジャーイン(ロロ)、朝井大智(アーロン)、中村映里子(ナツ)、加藤雅也
ロロは台北で葉はと二人暮らし。父は日本人だがロロが生まれた時に、母と自分を捨てて日本に帰ったと聞いている。母は詳しいことを語らず、ロロは父の顔も知らない。鬼月初日にロロはたまたま開いた古い本に挟まれた海の写真を見つけた。その裏面には、日本人の父の名前が書かれていた。父は本当に自分たちを捨てたのだろうか?ロロは母の反対を押し切り、友人のアーロンを誘って父の故郷の沖縄を訪ねることにした。手がかりは1枚の写真と父の名前だけ。写真の「みらく島」は、旧盆の間外の人間は入ることを禁じられていた。ロロとアーロンは父を探している!と頼み込んで、みらく島へと向かう船に乗り込んだ。
台湾では旧暦7月を「鬼月」と呼ぶそうです。旧暦7月1日にはあの世の扉(鬼門)が開いて、亡くなった先祖の霊が帰ってきます。台湾では1ヶ月間ですが、日本のお盆は旧暦7月13日から16日の4日間。お供え物をしてお盆の入りに迎え火・お盆が終わると送り火をたきます。宗派によっては盆提灯を飾って目印にします。沖縄ではウンケーと呼ばれている初日にあの世の扉が開き、亡くなった人たちが帰ってきます。ロロとアーロンは、奇しくもあの世とこの世の境がなくなる日にみらく島で不思議な人々に遭うことになりました。
ロロ役のリー・ジャーインは可愛らしく、台湾にルーツを持つ朝井大智さんが日本語勉強中という友人・アーロン役でシーンに明るさを加えています。
今年は縁あって2度沖縄に行ってきました。島では人との関わりや見えないものへの想いが強い気がします。台湾でも信仰厚い人が多いのか、あちこちの寺院には善男善女がたくさん祈りを捧げていました。その台湾と日本の合作映画が亡くなった人が戻ってくるという、この作品になったのは興味深いです。
幸せな人生を送った人ばかりでなく、恨みや心残りを抱えた人の霊も登場します。ことに沖縄は戦争で多くの人が亡くなったところなので、帰るすべのない霊たちもたくさんいます。避けることなく登場しますが、鎮魂のつもりで見守ってあげてください。(白)
2021年/日本・台湾/カラー/シネスコ/101分
配給:ムービー・アクト・プロジェクト
(C)2021「ボーダレス アイランド」製作委員会
https://www.borderless-island.com/
★2022年10月1日(土)新宿K's cinemaほか全国順次ロードショー
銀河英雄伝説 Die Neue These 策謀 第一章
監督:多田俊介
原作:田中芳樹(東京創元社刊)
シリーズ構成:高木登
助監督:森山悠二郎
キャラクターデザイン:菊地洋子 寺岡巌 津島桂
総作画監督:後藤隆幸 菊地洋子
撮影監督:荒井栄児 小澤沙樹子
編集:黒澤雅之
制作:Production I.G
監修:らいとすたっふ
音楽:橋本しん(Sin)井上泰久
主題歌:SennaRin
出演:ラインハルト・フォン・ローエングラム:宮野真守
ヤン・ウェンリー:鈴村健一
ユリアン・ミンツ:梶裕貴
パウル・フォン・オーベルシュタイン:諏訪部順一
ウォルフガング・ミッターマイヤー:小野大輔
オスカー・フォン・ロイエンタール:中村悠一
アレックス・キャゼルヌ:川島得愛
フレデリカ・グリーンヒル:遠藤綾
ワルター・フォン・シェーンコップ:三木眞一郎
アンネローゼ・フォン・グリューネワルト:坂本真綾
ヒルデガルド・フォン・マリーンドルフ:花澤香菜
オリビエ・ポプラン:鈴木達央
ダスティ・アッテンボロー:石川界人
アドリアン・ルビンスキー:手塚秀彰
ドミニク・サン・ピエール:園崎未恵
ルパート・ケッセルリンク:野島健児
ナレーション:下山吉光
これまで
数千年後の未来、宇宙空間に進出した人類は、銀河帝国と、自由惑星同盟という“専制政治”と“民主主義”という2つの異なる政治体制を持つ二国に分かれた。この二国家の抗争は実に150年に及び、際限なく広がる銀河を舞台に、絶えることなく戦闘を繰り返されてきた。長らく戦争を続ける両国家。銀河帝国は門閥貴族社会による腐敗が、自由惑星同盟では民主主義の弊害とも言える衆愚政治が両国家を蝕んでいた。そして、宇宙暦8世紀末、ふたりの天才の登場によって歴史は動く。「常勝の天才」ラインハルト・フォン・ローエングラムと、「不敗の魔術師」と呼ばれるヤン・ウェンリーである。ふたりは帝国軍と同盟軍を率い、何度となく激突する。
ダイジェスト(8分44秒)はこちらほか
フォースシーズン「策謀」第1章~第3章
最高権力者ラインハルトの善政による改革が国民からも支持されている銀河帝国と、不敗の魔術師ヤンらの活躍も空しく、政府の腐敗による国力低下が著しい自由惑星同盟。両国間の勢力バランスに大きな変化が生じる中、第三の勢力フェザーンの自治領主ルビンスキーは、自由惑星同盟を見限り、大きな陰謀をめぐらせていた。ラインハルトは、幼い銀河帝国皇帝の誘拐と自由惑星同盟への亡命というその企みを知りながらも、自身の野望のため利用しようと考える。ヤンも同盟に最大の危機が迫りつつあることは予感していたが……。そんな中、正式な軍人になったユリアンをフェザーンの駐在武官に任命する命令が届く。
田中芳樹さんの原作は今も本棚に並んでいます。1982年に刊行されてから本編・外伝合わせて大ベストセラーのSF小説です。数千年後の未来も今と変わらず、人は争うのか。いやもう地球に人類は残っていないんじゃないの?と思ったりもしました。人間ひとりの身体を宇宙と見立てれば、害のあるものは駆逐され排除され、人は健康を保とうとするのですから。人間ほど地球に害成すものはいません。
アニメも早くからテレビ版・劇場版と発表され親しまれてきました。『銀河英雄伝説 Die Neue These』は2018年から第1~第4シリーズと続いています。銀河帝国と自由惑星同盟の攻防は目にも鮮やかなビジュアルとオールキャストの声優さんで展開します。大きな歴史の流れの中での国の興亡、人々の邂逅や別れ、それぞれの喜怒哀楽を浮かび上がらせます。今の世界の政情とついひき比べて観てしまいました。そして並行世界というものがあるならば、対照的な2人の天才、ラインハルトとヤンが友人である世界もあってほしいと妄想。(白)
第2章 10月28日(金)~
第3章 11月25日(金)~
2021年/日本/カラー/シネスコ/102分
配給:松竹メディア事業部
(C)田中芳樹/銀河英雄伝説 Die Neue These 製作委員会
https://gineiden-anime.com/
★2022年10月1日(金)ロードショー
ミューズは溺れない
監督・脚本・編集:淺雄望
撮影:大沢佳子(J.S.C)
出演:上原実矩(木崎朔子)、若杉凩(西原光)、森田想(大谷栄美)、川瀬陽太(木崎拓朗)、広澤草(木崎聡美)
高校の美術部員の朔子、港のスケッチをしているときにあやまって海に落ちてしまった。それを見た西原は溺れる朔子の絵を描いて、コンクールで受賞し、絵は学校に飾られる。忘れたい黒歴史が残った朔子は憤懣やる方ない。新聞記者に取材された西原が、次の作品も朔子をモデルに描くと答えていて、自分の許可もとらずにと腹を立てる。西原の絵は確かにうまく、自分はとても及ばないと絵を諦めて造形に挑戦する。
私も高校生のとき、美術部でした。いろいろ題材にしたけれど動くものは描いたことがありません。なんで溺れてるところを描くのか「ハテナマーク」が飛びかってしまいました。誰も描かない絵だからこそ目にとまり、その力量を気づかれ、受賞したのでしょう。あの時の朔子が、西原の眼に強烈に焼き付いたんだとしか思えません。描かれた朔子は嬉しくないでしょうけれど、西原の本意がだんだんわかってきます。まさに青春映画でした。みんないい笑顔になっています。
美術部の先生、上から描き足すのはやめて。アドバイスは口だけでお願い。絵はその人のものです。(白)
●第15回田辺・弁慶映画祭4冠(グランプリ、観客賞、フィルミネーション賞、俳優賞・若杉凩)
●第22回TAMA NEW WAVE コンペティション2冠(グランプリ&ベスト女優賞・上原実矩)
2021年/日本/カラー/82分
配給:ムービー・アクト・プロジェクト
(C)カブフィルム
https://mikata-ent.com/movie/1205/
★2022年9月30日(金)より1週間限定公開。テアトル新宿、10月14日(金)、15日(土)シネリーブル梅田にて公開