2022年09月17日

スーパー30 ~アーナンド先生の教室~   原題:SUPER30

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(C)Reliance Entertainment (C)HRX Films (C)Nadiadwala (C)Grandson Entertainment (C)Phantom Films.

監督:ヴィカース・バハル  
出演:リティク・ローシャン 『WAR ウォー!!』 ムルナール・タークル アー
ディティヤ・シュリーワースタウ パンカジ・トリパーティ

1996年、ビハール州パトナ。数学の優秀者表彰式で金メダルを受賞したアーナンド・クマール。彼にとっては金メダルよりも2位の賞品である数学の学術書の方がうらやましい。メダルを授与した州の教育大臣ラーム・シンは、「パトナの天才! 君にはいつでも援助するよ」と褒め称える。
ベナレス大学の図書館にイギリスから学術書が届くのを見計らって、列車の屋根に乗って駆け付ける。学術書を読んでいたところ、「学外者は失せろ!」と追い出される。図書館員が、「学術書に論文が載れば一生届くよ」と教えてくれる。誰も解いたことのない問題を解いて送ろうとするが、イギリスまで220ルピーかかる。足りない金額を、郵便局で皆が寄付してくれる。夢見るアーナンドに、「王になれるのは王の子だけ」という郵便局員に、「今は違う。賢い者が王になれる」と豪語する。
そして、ついに、ケンブリッジ大学の入学許可が届く。アーナンドの論文に目を留めてくれたのだ。旅費の半分は父が年金を前借りしてくれたが、足りない分を工面しようと、かつて援助すると言っていた教育大臣に会いに行く。「母国を忘れるな」とけんもほろろに断られる。父は心労で逝ってしまう。アーナンドは留学を諦め、母と弟プラナヴと3人でパーパル(豆煎餅)を作って、自転車で売り歩く。
そんなある日、ラッラン・シンという男が、自分の経営するインド工科大学に入るための予備校で教師をしないかと声をかけてくる。看板教師となったアーナンドは、バイクで予備校に通い、母のために家政婦を雇う。羽振りがよくなり調子に乗っていたアーナンドだが、突然予備校を辞め、貧しい子に無料で教える「スーパー30」を立ち上げる・・・

2003年、貧しい家庭の子に無償で食事と寮と教育を与えるプログラム「スーパー30」を立ち上げたアーナンド・クマールの実話に基づく物語。
ドラマチックに見せる為、フィクションの部分も多々あるそうです。実在のアーナンド・クマールは、最初から無償の私塾「スーパー30」を開設しています。予備校の看板教師になり、その後、辞めて無償の塾を開いたために命を狙われるという紆余曲折はフィクション。可憐で良家の娘のスープリヤという恋人の存在も、花を添えたものと思われます。 
それでも、アーナンド・クマールの「教育は天国への道」と、貧しい為に進学を諦める優秀な子どもたちに機会を与え続けてきた精神はずっしりと伝わってきました。
インドといえば、ゼロを発見した国。二桁の掛け算を暗記していることでも有名ですが、そのインドが生んだ天才数学者ラマヌジャンのことを知ったのは、映画『奇蹟がくれた数式』を通じてのことでした。論文に目を留めた教授よりケンブリッジ大学に招聘され、イギリスにわたり、天才数学魔術師と呼ばれた人物です。
そして、アーナンド・クマールの開設した学校の名前は、「ラマヌジャン数学学院」!

♪人に能力があれば、世界は変えられる。生まれが何?♪ 
という最後に流れる歌の歌詞には、まだまだインドでカーストが根強く社会を支配していることを感じさせられました。インド社会で、カーストを乗り越え、実力が評価される時代が来ることを願わずにはいられませんでした。(咲)


2019年/インド/ヒンディー語/シネスコ/154分
配給:SPACEBOX 宣伝:シネブリッジ 
公式サイト:https://spaceboxjapan.jp/super30/
★2022年9月23日(金)全国順次ロードショー



posted by sakiko at 22:40| Comment(0) | インド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

バビ・ヤール   原題 Babi Yar. Context

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©Atoms & Void


監督・脚本 セルゲイ・ロズニツァ(『ドンバス』『国葬』『粛清裁判』『アウステルリッツ』
編集 セルゲイ・ロズニツァ、ダニエリュス・コカナウスキス, トマシュ・ヴォルスキ
音響 ウラジミール・ゴロヴニツキー
イメージ・レストレーション ジョナス・ザゴルスカス プロデューサー セルゲイ・ロズニツァ、マリア・シュストヴァ
アソシエイト・プロデューサー イリヤ・フルジャノフスキー(『DAU.ナターシャ』、『DAU.後退』)、マックス・ヤコヴァ

プロダクション Atoms & Void, BABYN YAR HOLOCAUST MEMORIAL CENTER

戦後約50年間、隠蔽されていたウクライナでのユダヤ人虐殺

1941年6月、ナチス・ドイツ軍は独ソ不可侵条約を破棄してソ連に侵攻。占領下のウクライナ各地に傀儡政権を作りながら支配地域を拡大し、9月19日にはキエフを占領。9月24日、混乱するキエフで大爆発が起きた。これはソ連秘密警察が撤退前に仕掛けた爆弾を爆破させたことによるものであったが、疑いの目はユダヤ人に向けられた。翌日、当局はキエフに住む全ユダヤ人の出頭を命じた。出頭したキエフのユダヤ人はナチス・ドイツとそれを支援したウクライナ補助警察により「バビ・ヤール渓谷」で射殺された。被害者は33,771名。女性も子どもも老人もユダヤ人なら身ぐるみ剥がされ殺された。
本作は、ドイツ軍のウクライナ侵略から、この事件の発生、そしてその後の歴史的処理までを、ロシア、ドイツ、ウクライナに所蔵されていた様々なアーカイブ映像を紡いで描いたもの。

1964年にベラルーシで生まれ、ウクライナのキーウ(旧キエフ)で育ったセルゲイ・ロズニツァ監督。キエフ郊外の家から週に数回通っていたプールとの間にある森に旧ユダヤ人墓地の跡地があり、モニュメント建設計画があるのを知り、両親にそこで何があったか尋ねたものの明確な答えがかえってこなかったとのこと。
ソ連は戦後、バビ・ヤール渓谷を「ナチスによってソ連人が殺された場所」とし、ユダヤ人が標的であったことを伏せていたのです。ソ連では諸民族の団結が優先され、特定の民族の犠牲について触れづらい風潮がありました。ソ連が崩壊した1991年ごろになり、バビ・ヤールの歴史を継承する動きが盛んになり、2020年にはバビ・ヤールに博物館を建設することが発表されています。
ただ、ホロコーストやユダヤ人虐殺というと、ナチスドイツが行ったものというイメージですが、本作からは、ウクライナの普通の人たちも加担していたことが見てとれます。
ヨーロッパ各地で、ユダヤ人を匿った美談が映画で描かれている一方で、地元の人たちがナチス・ドイツに協力したことが描かれた映画もあります。
『ホロコーストの罪人』(エイリーク・スヴェンソン監督/2020年/ノルウェー)は、1942年10月26日に、ノルウェーに住むユダヤ人全員がオスロ港へと強制連行されたことを描いた映画です。事件から70年経った2012年1月、当時のノルウェー・ストルテンベルグ首相が、ホロコーストにノルウェー警察や市民らが関与していたことを認め、政府として初めて公式に謝罪の表明を行っています。
フランスでは、1995年にシラク大統領が、ナチス占領下のヴィシー政権がユダヤ人の強制連行に加担していたことを国家として認めて謝罪しています。
人間の本性で、そのときに置かれた立場で、どうすれば自分は生き延びれるかを判断してしまうのだと思います。そんな悲しい性も、ずっしり感じさせられました。(咲)


第74回カンヌ国際映画祭ルイユ・ドール審査員特別賞受賞

2021年/オランダ=ウクライナ/ウクライナ語、ロシア語、ドイツ語、ポーランド語/ドキュメンタリー/121分/4:3/カラー・モノクロ
日本語字幕:守屋愛
配給 サニーフィルム
公式サイト:https://www.sunny-film.com/babiyar
★2022年9月24日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開



posted by sakiko at 18:47| Comment(0) | ウクライナ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

渇きと偽り  原題:The Dry

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(C)2020 The Dry Film Holdings Pty Ltd and Screen Australia


監督:ロバート・コノリー
原作:「渇きと偽り」(ジェイン・ハーパー/青木創 訳)ハヤカワ文庫刊
出演:エリック・バナ(『ミュンヘン』『NY心霊捜査官』)、ジュネヴィーヴ・オーライリー、キーア・オドネル、ジョン・ポルソン

メルボルンの連邦警察官として働くアーロン・フォーク。旧友ルークが家族を惨殺した後、自殺したらしいとの報を受け、葬儀に参列するため、20年ぶりに故郷キエワラに帰る。住民のほとんどが葬儀に集まりルークの死を悼んでいたが、アーロンとの再会を喜んでくれたのは高校時代の恋人で今はシングルマザーのグレッチェンだけだった。
悲しみに暮れるルークの両親から事件の真相を明かしてほしいと懇願され、アーロンは最初に現場に駆け付けた地元の若い警官グレッグ・レイコ―と共に事件の捜査をする。協力的なのは、最近町に引っ越してきたばかりの小学校の校長スコット・ホイットラムくらいだった。実は、アーロンは17歳の夏、同級生の少女エリーが変死し、その犯人ではないかと疑われ、父と共に町を去ったのだった。当時、アーロンとグレッチェン、ルークとエリーの4人で青春を謳歌していて、今回のルークの事件は20年前のエリー変死事件と繋がっているのではないかと疑い始める・・・

冒頭、映し出される乾いた広大な大地に圧倒されます。舞台となったキエワラは、1年近く雨が降っていないというビクトリア州の架空の町。気候温暖化で、オーストラリアではこのような干ばつで苦しむ町は多数あるとのこと。
現在と過去が交錯し、徐々に明かされていく真相にぞくぞくしました。過酷な地で極限状態におかれ、人の心も乾いてしまったように感じました。
世界的大ヒットとなった原作「渇きと偽り」は、ジェイン・ハーパーのデビュー作。1980年生まれでジャーナリストとして活動する合間に作家になりたいという夢を叶えるため、こつこつと書き上げたもの。ジェイン・ハーパーは、ルークの葬儀の場面にカメオ出演しているとのことです。(咲)


2020年/オーストラリア/英語/117分/カラー/シネマスコープ/5.1ch/G
配給:イオンエンターテイメント
公式サイト:http://kawakitoitsuwari.jp/
★2022年9月23日(金)より、新宿シネマカリテほか全国公開



posted by sakiko at 14:36| Comment(0) | オーストラリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする