2022年09月11日
手
監督:松居大悟
原作:山崎ナオコーラ「手」(『お父さん大好き』文春文庫)
脚本:舘そらみ
撮影:高木風太
音楽:森優太
出演:福永朱梨(さわ子)、金子大地(森)、津田寛治(大河内)、大渕夏子 / 金田明夫
さわ子25歳。さわ子が制服姿でなくなったころから、若い女性と見ておじさんが寄ってくる。家と外を使い分けるおじさんを観察し、写真を撮ってはコレクションするのが趣味。高3の妹と話しながらスクラップブックを作っている。付き合う相手は年上ばかり、自分の父とは上手く話せない。妹は屈託なく甘えているのに。同年代の同僚・森が転職することになり、急に距離が縮まってきた。年上の男性とは違う気遣いに、さわ子の心にも徐々に変化が訪れる。
ロマンポルノ50周年記念プロジェクト<ROMAN PORNO NOW>作品。
長女のさわ子は妹が生まれるまで一人娘、両親の愛情を一身に受けて育ったところに妹が登場。その日から「お姉ちゃん」です。さわ子の年上嗜好は、父の関心が妹に移ったことから来ていたんでしょう。
家族の中で自分だけが外にいると感じている、職場では感情を殺している彼女が楽しそうなのは、森と二人の時だけに見えます。金子大地さん、声までイケメン。ロマンポルノらしい「18+シーン」よりも、さわ子の心のありようを追っていました。福永朱梨さん次の作品が楽しみ。ラストにホロッとしました。
タイトルは「手」。冒頭で、「一番古い記憶は父の手に抱かれたこと」とさわ子の声が入ります。さわ子が男性と関わったとき、手がアップになります。ほんとや嘘の気持ちを伝える手、さわ子はたくさんの手に出逢いますが、原点は父の手です。男性が母性の象徴の乳房に癒しを求めるのとはちょっと違うような。(白)
2022年/日本/カラー/99分/18+
配給:日活
(C)2022日活
https://www.nikkatsu-romanporno.com/rpnow/
★2022年9月16日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
9月30日(金)『愛してる!』白石晃士監督
10月14日(金)『百合の雨音』金子修介監督
日本原 牛と人の大地
2022年9月17日(土)より、東京・ポレポレ東中野ほか全国順次公開 劇場情報
父が牛飼いになって、もうすぐ50年になります。
牛飼いになる前、父は医学部の学生でした。
父が医者ではなく牛飼いになったのは、自衛隊とたたかうためでした。
監督・撮影:黒部俊介
編集:秦岳志
ナレーション:内藤陽
整音:川上拓也
制作:黒部麻子
出演:内藤秀之、内藤早苗、内藤大一、内藤陽
政治の季節と青春のその後で、
いま私たちが生きている時代をユニークな視点と映画言語で映し出す。
日本原で50年間、平和を求めながら、地元民が生活する重要な土地であることを訴える内藤秀之(ヒデ)さん一家。その生き方を追ったドキュメンタリー。
岡山県北部の山間の町、奈義町(なぎちょう)。人口6000人のこの町に中国・四国地方で一番大きな軍事演習場である陸上自衛隊日本原(にほんばら)演習場がある。日露戦争後に旧陸軍が村々を強制買収して演習場に。占領軍に接収されたのち自衛隊に引き継がれ今日に至る。奈義町は自衛隊との「共存共栄」を謳ってきた。
この場所が陸上自衛隊の日本原演習場になる前から牛を飼い耕作をしてきた内藤家。1969年頃、自衛隊の危険な実弾演習に反対する農民たちの闘争が始まり、その闘争に共鳴する学生たちが応援に加わり、日本原反基地闘争の現地闘争本部ができた。岡山大学で医学を学んでいたヒデさんもこの闘いに加わり、農民運動の中心であった内藤太・勝野夫妻と出会った。その後、ヒデさんは日本原で反基地闘争を続ける決断をし、大学を辞めて内藤夫妻の婿養子となり農民となり、この地で牧場と農業を続けている。
日本原では昔から地元住民が山に入って土地を共同利用する「入会(いりあい)」が行なわれ、演習場内の耕作権などが防衛省から認められている。演習場内にはかつて二つの村があり、廃村しても農民たちは耕作地に通い、牛を放牧し、米を作り続けていた。それから100 年以上が経ち、代替地を与えられた農民は代々の耕作地を離れ、いまや演習場内で耕作しているのは内藤さん一家だけとなった。かつての村の耕作地は草木が伸び、ほとんど山に還ってしまっている。でも、内藤さん一家は50年間、日本原で平和を求め続け、日本原が地元民の営みが根付く重要な土地であることを訴えている。
ヒデさんが妻の早苗さんと自衛隊と闘いながら作り続けた『山の牛乳』も紹介される。この牛乳が地域の人たちの繋がりの拠り所でもあった。演習場内の神社で行われた春祭り。武器ではなくさつま芋で平和のメッセージを示すため、毎年演習場内の畑で仲間と育てていた。日本原から自衛隊を撤退させ、牛の放牧場にしなければという祖父太さんの言葉をずっと胸に秘めてきた長男の大一さんも、地元に帰ってきて、父親の仕事を手伝い始める。そして日本原で行われた自衛隊と米軍との共同訓練の時には、閉鎖された内藤家の畑に入るため、警護をする自衛隊員と対峙する。そんな、内藤さん一家にカメラを向け、その生き方を記録した。
監督は、日本映画学校映像ジャーナルコースを卒業後、福島第一原発事故を機に2012年に岡山へ移住した黒部俊介。東京から移住した岡山で偶然ヒデさんと出会った黒部は日本原に通い撮影を続けた。内藤秀之さんの次男・陽さんがナレーションを担当。安保法制下の米軍と自衛隊。土地利用規制法が孕む危険。改憲に向かい動きだしそうな現在、「国防」の名のもとで私たちが手放しはじめているものは何か。
「日本原の自衛隊演習場」という名は聞いたことがあるけど、どこにあるかは知らなかった。今回、この映画で岡山県の山間部にあるということを知った。「1969年頃、自衛隊の危険な実弾演習に反対する農民たちの闘争が始まり」となっているので、その頃、この名前を知ったのかも。その当時は、砂川闘争(在日米軍立川基地拡張反対闘争)、安保闘争やベトナム反戦運動、三里塚闘争(成田空港反対運動)など、日本のあちこちで市民運動が起こっていた。この日本原自衛隊演習場への闘争もその流れの中にあったのでしょう。
その農民たちの運動に共鳴し参加していたのが、主人公の内藤秀之(ヒデ)さん。当時、医学生だったが、この農民運動の中心だった内藤太・勝野夫妻の娘である早苗さんと結婚し、ここで生活を続けながら50年間、運動を続けている。そして、長男の大一さんは祖父の太さんが言ったという「日本原から自衛隊を撤退させて牛の放牧場にしないといけない」という最後の言葉を忘れず、外から戻ってきたというシーンには、ヒデさん以外にも継いでいく人がいると、ホッとした。
50年もたつうちに、いつのまにか演習場内で耕作を続けているのは内藤家だけになり、かつての村の耕作地は林だらけになり、山に還ってしまっている。ヒデさんと妻の早苗さんが自衛隊と闘いながら作り続けた「山の牛乳」の生産も終わってしまい、今は内藤さんの家の牛乳はどのような形で市場に出ているのでしょう。そして、ますます自衛隊の存在は大きくなっているように感じる。
今、自衛隊を憲法で認めさせようと、憲法を変えようとしている自民党の思惑がある中、この映画は、内藤さん一家の牛飼いと農業を通した生き様を通して、住民の生活と自衛隊ということを考えさせる映画となっている(暁)。
公式HP https://nihonbara-hidesan.com/
製作:黒べこ企画室 配給:東風
2022年/110分/日本/ドキュメンタリー
父が牛飼いになって、もうすぐ50年になります。
牛飼いになる前、父は医学部の学生でした。
父が医者ではなく牛飼いになったのは、自衛隊とたたかうためでした。
監督・撮影:黒部俊介
編集:秦岳志
ナレーション:内藤陽
整音:川上拓也
制作:黒部麻子
出演:内藤秀之、内藤早苗、内藤大一、内藤陽
政治の季節と青春のその後で、
いま私たちが生きている時代をユニークな視点と映画言語で映し出す。
日本原で50年間、平和を求めながら、地元民が生活する重要な土地であることを訴える内藤秀之(ヒデ)さん一家。その生き方を追ったドキュメンタリー。
岡山県北部の山間の町、奈義町(なぎちょう)。人口6000人のこの町に中国・四国地方で一番大きな軍事演習場である陸上自衛隊日本原(にほんばら)演習場がある。日露戦争後に旧陸軍が村々を強制買収して演習場に。占領軍に接収されたのち自衛隊に引き継がれ今日に至る。奈義町は自衛隊との「共存共栄」を謳ってきた。
この場所が陸上自衛隊の日本原演習場になる前から牛を飼い耕作をしてきた内藤家。1969年頃、自衛隊の危険な実弾演習に反対する農民たちの闘争が始まり、その闘争に共鳴する学生たちが応援に加わり、日本原反基地闘争の現地闘争本部ができた。岡山大学で医学を学んでいたヒデさんもこの闘いに加わり、農民運動の中心であった内藤太・勝野夫妻と出会った。その後、ヒデさんは日本原で反基地闘争を続ける決断をし、大学を辞めて内藤夫妻の婿養子となり農民となり、この地で牧場と農業を続けている。
日本原では昔から地元住民が山に入って土地を共同利用する「入会(いりあい)」が行なわれ、演習場内の耕作権などが防衛省から認められている。演習場内にはかつて二つの村があり、廃村しても農民たちは耕作地に通い、牛を放牧し、米を作り続けていた。それから100 年以上が経ち、代替地を与えられた農民は代々の耕作地を離れ、いまや演習場内で耕作しているのは内藤さん一家だけとなった。かつての村の耕作地は草木が伸び、ほとんど山に還ってしまっている。でも、内藤さん一家は50年間、日本原で平和を求め続け、日本原が地元民の営みが根付く重要な土地であることを訴えている。
ヒデさんが妻の早苗さんと自衛隊と闘いながら作り続けた『山の牛乳』も紹介される。この牛乳が地域の人たちの繋がりの拠り所でもあった。演習場内の神社で行われた春祭り。武器ではなくさつま芋で平和のメッセージを示すため、毎年演習場内の畑で仲間と育てていた。日本原から自衛隊を撤退させ、牛の放牧場にしなければという祖父太さんの言葉をずっと胸に秘めてきた長男の大一さんも、地元に帰ってきて、父親の仕事を手伝い始める。そして日本原で行われた自衛隊と米軍との共同訓練の時には、閉鎖された内藤家の畑に入るため、警護をする自衛隊員と対峙する。そんな、内藤さん一家にカメラを向け、その生き方を記録した。
監督は、日本映画学校映像ジャーナルコースを卒業後、福島第一原発事故を機に2012年に岡山へ移住した黒部俊介。東京から移住した岡山で偶然ヒデさんと出会った黒部は日本原に通い撮影を続けた。内藤秀之さんの次男・陽さんがナレーションを担当。安保法制下の米軍と自衛隊。土地利用規制法が孕む危険。改憲に向かい動きだしそうな現在、「国防」の名のもとで私たちが手放しはじめているものは何か。
「日本原の自衛隊演習場」という名は聞いたことがあるけど、どこにあるかは知らなかった。今回、この映画で岡山県の山間部にあるということを知った。「1969年頃、自衛隊の危険な実弾演習に反対する農民たちの闘争が始まり」となっているので、その頃、この名前を知ったのかも。その当時は、砂川闘争(在日米軍立川基地拡張反対闘争)、安保闘争やベトナム反戦運動、三里塚闘争(成田空港反対運動)など、日本のあちこちで市民運動が起こっていた。この日本原自衛隊演習場への闘争もその流れの中にあったのでしょう。
その農民たちの運動に共鳴し参加していたのが、主人公の内藤秀之(ヒデ)さん。当時、医学生だったが、この農民運動の中心だった内藤太・勝野夫妻の娘である早苗さんと結婚し、ここで生活を続けながら50年間、運動を続けている。そして、長男の大一さんは祖父の太さんが言ったという「日本原から自衛隊を撤退させて牛の放牧場にしないといけない」という最後の言葉を忘れず、外から戻ってきたというシーンには、ヒデさん以外にも継いでいく人がいると、ホッとした。
50年もたつうちに、いつのまにか演習場内で耕作を続けているのは内藤家だけになり、かつての村の耕作地は林だらけになり、山に還ってしまっている。ヒデさんと妻の早苗さんが自衛隊と闘いながら作り続けた「山の牛乳」の生産も終わってしまい、今は内藤さんの家の牛乳はどのような形で市場に出ているのでしょう。そして、ますます自衛隊の存在は大きくなっているように感じる。
今、自衛隊を憲法で認めさせようと、憲法を変えようとしている自民党の思惑がある中、この映画は、内藤さん一家の牛飼いと農業を通した生き様を通して、住民の生活と自衛隊ということを考えさせる映画となっている(暁)。
公式HP https://nihonbara-hidesan.com/
製作:黒べこ企画室 配給:東風
2022年/110分/日本/ドキュメンタリー
川っぺりムコリッタ
9月16日(金)より全国にて公開 劇場情報
友達でも家族でもない、でも孤独ではない、
新しい「つながり」の物語。
原作・監督・脚本:荻上直子
撮影監督:安藤広樹
美術:富田麻友美
衣装:村上利香
編集:普嶋信一
テーマ曲:知久寿焼
音楽:パスカルズ
フードスタイリスト:飯島奈美
原作:荻上直子「川っぺりムコリッタ」(講談社)
出演:松山ケンイチ、ムロツヨシ、満島ひかり、吉岡秀隆
江口のりこ、黒田大輔、知久寿焼、柄本 佑、田中美佐子、薬師丸ひろ子、笹野高史、緒形直人
『かもめ食堂』の荻上直子が贈る、「おいしい食」と「ささやかなシアワセ」
生と死の間にある時間を、仏教の時間の単位でムコリッタという
大ヒットした映画『かもめ食堂』。日本映画初のベルリン国際映画祭テディ審査員特別賞を受賞した『彼らが本気で編むときは、』の荻上直子監督がオリジナル脚本で製作した『川っぺりムコリッタ』は、新しい「つながり」の物語。松山ケンイチ×ムロツヨシ×満島ひかり×吉岡秀隆など、実力派豪華キャストが集結!
人と人のつながりが希薄な社会で、人はどうやって幸せを感じることができるのか。モノや境遇、場所にとらわれない形で生きることの楽しさ。食を通した荻上ワールドが展開される。「おいしい食」と「ささやかなシアワセ」をユーモアいっぱいに描く。
誰も知る人のいないところで、できるだけ人と関わらず静かに暮らしたいと山田(松山ケンイチ)は北陸の小さな街の塩辛工場で働くことに。社長から紹介された築50年の「ハイツムコリッタ」という古い安アパートで暮らし始める。無一文に近い状態でやってきた山田のささやかな楽しみは、風呂上がりの良く冷えた牛乳と、炊き立ての白いごはん。それに会社でもらってきた塩辛を乗せて食べる。
そんな暮らしを始めたばかりのある日、隣の部屋の島田(ムロツヨシ)が風呂を貸してほしいと入り込んできた日から山田の静かな日々は一変してしまう。ひっそりと生きたいと思っていた山田だったが、それ以来、島田は「一緒に食べる人がいると、ご飯はおいしいよ」と、図々しく毎日のようにご飯時に現れるようになり、静かな生活は望むべくもなくなった。さらに、夫を亡くした大家の南(満島ひかり)、息子と二人暮らしで墓石を販売する溝口(吉岡秀隆)といった、ハイツムコリッタの住人たちとも繋がりができてしまい、時にはみんなでスキヤキなんてことも。ここの住民はみんな貧しいし、それぞれ何かを抱えているようだけど優しい。そんなアパートの住人たちに囲まれて山田の頑なな心は少しづつほぐされていく―。
川っぺりのアパートには、大切な人の死に直面した人や、墓石売りなど、死と向かい合う仕事をしている人も住んでいる。いつ死んでもかまわないと思っていた主人公は、貧しかったり、落ちこぼれだったりするけど、人間らしいアパートの住民たちに囲まれ、少しづつ「ささやかなシアワセ」に気づいてゆく。友達でも家族でもない彼らの中で「孤独ではない」と実感する。
川っぺりにあるアパートムコリッタに引っ越してきた山田は、誰にも知られずひっそりと暮らそうと思っていたのに、おせっかいな隣人たちに囲まれ、いつのまにか、一緒にご飯を食べるようになってしまった。隣に住む島田は何をしている人なのかわからないけど、畑で野菜を作り、漬物を持って、毎日のようにご飯を一緒に食べようとやってきて、おまけに風呂まで入っていく迷惑な存在だったし、最初は煙たがっていた隣人たちだったが、この人たちとの交流も悪くはないと思うようになる。
自分はろくでもない人間だと思っていたけど、職場の塩辛工場も、なんとか働いて行けそうだし、そうでもないかもと、ちょっと自信が持てるようにもなった。家族ではないけど、暮らしを共有できる仲間を得、生きていけるかもと思う。それにしてもおいしそうな白米の炊けた瞬間。スキヤキ。そういえば、もう何年もスキヤキなんて食べてないな。これは一人ではなかなか食べにくい料理。鍋は一人でも大丈夫なのにスキヤキはやっぱり何人かで食べた方がおいしそう。
私は一人暮らし。昔は家族で食事するのが煩わしかったので、一人で食べるのが好き。一人で食べるのに別に孤独を感じたことはない。「ご飯は何人かで食べたほうがおいしい」という言い方を押し付けられるのは嫌だけど、友人と食事したり、たまには家族で食べるのもいいかな。川ぺりの景色と、夏の夕方の景色が、なんか懐かしかった(暁)。
公式HPはこちら
宣伝協力:シンカ 配給:KADOKAWA
2021年/120分/G/日本
友達でも家族でもない、でも孤独ではない、
新しい「つながり」の物語。
原作・監督・脚本:荻上直子
撮影監督:安藤広樹
美術:富田麻友美
衣装:村上利香
編集:普嶋信一
テーマ曲:知久寿焼
音楽:パスカルズ
フードスタイリスト:飯島奈美
原作:荻上直子「川っぺりムコリッタ」(講談社)
出演:松山ケンイチ、ムロツヨシ、満島ひかり、吉岡秀隆
江口のりこ、黒田大輔、知久寿焼、柄本 佑、田中美佐子、薬師丸ひろ子、笹野高史、緒形直人
『かもめ食堂』の荻上直子が贈る、「おいしい食」と「ささやかなシアワセ」
生と死の間にある時間を、仏教の時間の単位でムコリッタという
大ヒットした映画『かもめ食堂』。日本映画初のベルリン国際映画祭テディ審査員特別賞を受賞した『彼らが本気で編むときは、』の荻上直子監督がオリジナル脚本で製作した『川っぺりムコリッタ』は、新しい「つながり」の物語。松山ケンイチ×ムロツヨシ×満島ひかり×吉岡秀隆など、実力派豪華キャストが集結!
人と人のつながりが希薄な社会で、人はどうやって幸せを感じることができるのか。モノや境遇、場所にとらわれない形で生きることの楽しさ。食を通した荻上ワールドが展開される。「おいしい食」と「ささやかなシアワセ」をユーモアいっぱいに描く。
誰も知る人のいないところで、できるだけ人と関わらず静かに暮らしたいと山田(松山ケンイチ)は北陸の小さな街の塩辛工場で働くことに。社長から紹介された築50年の「ハイツムコリッタ」という古い安アパートで暮らし始める。無一文に近い状態でやってきた山田のささやかな楽しみは、風呂上がりの良く冷えた牛乳と、炊き立ての白いごはん。それに会社でもらってきた塩辛を乗せて食べる。
そんな暮らしを始めたばかりのある日、隣の部屋の島田(ムロツヨシ)が風呂を貸してほしいと入り込んできた日から山田の静かな日々は一変してしまう。ひっそりと生きたいと思っていた山田だったが、それ以来、島田は「一緒に食べる人がいると、ご飯はおいしいよ」と、図々しく毎日のようにご飯時に現れるようになり、静かな生活は望むべくもなくなった。さらに、夫を亡くした大家の南(満島ひかり)、息子と二人暮らしで墓石を販売する溝口(吉岡秀隆)といった、ハイツムコリッタの住人たちとも繋がりができてしまい、時にはみんなでスキヤキなんてことも。ここの住民はみんな貧しいし、それぞれ何かを抱えているようだけど優しい。そんなアパートの住人たちに囲まれて山田の頑なな心は少しづつほぐされていく―。
川っぺりのアパートには、大切な人の死に直面した人や、墓石売りなど、死と向かい合う仕事をしている人も住んでいる。いつ死んでもかまわないと思っていた主人公は、貧しかったり、落ちこぼれだったりするけど、人間らしいアパートの住民たちに囲まれ、少しづつ「ささやかなシアワセ」に気づいてゆく。友達でも家族でもない彼らの中で「孤独ではない」と実感する。
川っぺりにあるアパートムコリッタに引っ越してきた山田は、誰にも知られずひっそりと暮らそうと思っていたのに、おせっかいな隣人たちに囲まれ、いつのまにか、一緒にご飯を食べるようになってしまった。隣に住む島田は何をしている人なのかわからないけど、畑で野菜を作り、漬物を持って、毎日のようにご飯を一緒に食べようとやってきて、おまけに風呂まで入っていく迷惑な存在だったし、最初は煙たがっていた隣人たちだったが、この人たちとの交流も悪くはないと思うようになる。
自分はろくでもない人間だと思っていたけど、職場の塩辛工場も、なんとか働いて行けそうだし、そうでもないかもと、ちょっと自信が持てるようにもなった。家族ではないけど、暮らしを共有できる仲間を得、生きていけるかもと思う。それにしてもおいしそうな白米の炊けた瞬間。スキヤキ。そういえば、もう何年もスキヤキなんて食べてないな。これは一人ではなかなか食べにくい料理。鍋は一人でも大丈夫なのにスキヤキはやっぱり何人かで食べた方がおいしそう。
私は一人暮らし。昔は家族で食事するのが煩わしかったので、一人で食べるのが好き。一人で食べるのに別に孤独を感じたことはない。「ご飯は何人かで食べたほうがおいしい」という言い方を押し付けられるのは嫌だけど、友人と食事したり、たまには家族で食べるのもいいかな。川ぺりの景色と、夏の夕方の景色が、なんか懐かしかった(暁)。
公式HPはこちら
宣伝協力:シンカ 配給:KADOKAWA
2021年/120分/G/日本