2022年09月09日
3つの鍵 原題:Tre piani
監督・脚本:ナンニ・モレッティ
原作:エシュコル・ネヴォ(「三階 あの日テルアビブのアパートで起きたこと」五月書房新社刊)
出演:マルゲリータ・ブイ、リッカルド・スカマルチョ、アルバ・ロルバケル、アドリアーノ・ジャンニーニ、エレナ・リエッティ、アレッサンドロ・スペルドゥーティ、アンナ・ボナイウート、パオロ・グラツィオージ、ステファノ・ディオニジ、トマーゾ・ラーニョ、ナンニ・モレッティ、デニーズ・タントゥッキ
ローマの閑静な高級住宅街。同じアパートで暮らす3家族の物語。
ある夜、アパート1階に車が衝突し女性が亡くなる。運転していたのは3階に住む裁判官のヴィットリオとドーラ夫婦の息子アンドレアだった。
同じ夜2階のモニカは陣痛が始まり、夫が長期出張中で、一人で病院に向かう。
1階のルーチョとサラの夫婦は、仕事場が事故で壊され、幼い娘を朝まで向かいの老夫婦に預ける。後日、ルーチョはジムに行くために、また、娘を向かいの老紳士レナードに預ける。レナードと娘が一時期行方不明になったと知り、ルーチョはレナードが娘に悪戯をしたのではと疑い始める。隣人夫婦の孫娘で大学生のシャルロットに探りを入れるが、そのことが思わぬ事態を引き起こす。
5年後、出所した3階の息子は家には戻らず、ドーラは夫に自分か息子かの選択を迫られる。2階の夫は変わらず出張続きで、義兄が起こした詐欺事件が世間を騒がせる。夫は頑なに兄を遠ざけるがモニカはその理由を知らない。ルーチョは疑念のせいで妻との間に溝ができ家を離れたが、いまだに疑惑を抱えたままだ。
10年後、住人たちは自らの選択の結果に苦しめながら現実と向き合っている・・・
同じ建物に暮らす3つの家族は、お互い顔は知っていても、干渉しないことをわきまえて暮らしていました。それが、3階の息子アンドレアが自動車事故を起こしたことをきっかけに、それぞれの暮らしが露わになっていきます。アンドレアの両親は裁判官で、もちろん、事故の後始末に奔走するのですが、アンドレアとしては裁判官なのだから、もっと自分に有利になるようにしてほしいと思っているのです。甘い!
事務所を壊されたことをきっかけに、娘を向かいの老いたレナードに預けたルーチョは、レナードが娘に悪戯をしたと疑います。そのことで接することになった孫娘の大学生シャルロットに逆に誘惑されてしまいます。ルーチョは妻と別居するまでになってしまうのですが、決してシャルロットを悪者にしません。彼女の一言が、ルーチョの人生を狂わせたともいえるのに・・・。群像劇である本作の登場人物の中で、リッカルド・スカマルチョが演じたルーチョのことが一番気になりました。
ナンニ・モレッティ監督は、事故を起こした息子と対峙する裁判官の父親役で出演しています。苦悩する様子が絶品です。
この映画の原作は、イスラエルの作家エシュコル・ネヴォの小説。テルアビブの同じ建物に暮らす3つの家族の物語がそれぞれ独立して書かれているのですが、映画では、それぞれの家族が絡み合う形で描かれています。舞台もテルアビブからローマに移されていますが、夫婦や親と子、隣人との関係、人生における選択など普遍的なことが描かれた物語。彼らのその後の人生はどうなるのだろう・・・と、さらに想像が膨らみました。(咲)
第74回カンヌ国際映画祭正式上映作品
2021年/イタリア・フランス/119分/ビスタサイズ
字幕:関口英子
配給:チャイルド・フィルム
後援:イタリア大使館 特別協力:イタリア文化会館
公式サイト:https://child-film.com/3keys/
★2022年9月16日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺他全国順次公開
LOVE LIFE
監督・脚本・編集:深田晃司
撮影:山本英夫
美術:渡辺大智
主題歌:矢野顕子「LOVE LIFE」(ソニーミュージックレーベルズ)
出演:木村文乃(大沢妙子)、永山絢斗(大沢二郎)、田口トモロヲ(大沢誠)、神野三鈴(大沢明恵)、山崎紘菜(山崎理佐)、砂田アトム(パク・シンジ)、嶋田鉄太(敬太)
妙子と再婚した夫・二郎、前夫との子どもの敬太は、二郎の両親に反対されながらもなんとか新しい家族となった。今3人が暮らす集合住宅の広場をはさんだ向かいの棟には⼆郎の両親が住んでいる。ベランダ越しに義母と手を振り合ったりもする。結婚して1年が経とうとするある日、二郎の両親を招いて食事会を開いた。家族がいることの幸せを感じていた最中、悲しい事故が起きてしまう。
悲嘆にくれる妙⼦の前に現れたのは、前夫で敬太の父親でもあるパクだった。失踪した後転々とし、今はホームレスとなっていた。二郎は役所の仕事の関わりもあり、妙子にろう者であるパクの手続きの世話をするよう勧める。
矢野顕子の名曲「LOVE LIFE」から生まれた作品。映画のテーマの多くが「LOVE」であり「LIFE」であるといえそうです。深田晃司監督は20年も前に読んだ漫画原作をいつか映像にしたいと切望し、メ~テレドラマ「本気のしるし」を送り出しました。好評を受けて『本気のしるし 劇場版』もできました。これも「LOVE」によって「LIFE」を変えることを余儀なくされる男女のストーリー。矢野顕子さんの「LOVE LIFE」も20数年前に聞いて心に刻んでいたそうです。一つの曲から新しい物語が生まれ、それを観た人が曲を聞いてみる。幾重にも波紋が広がるように、映画も人も繋がっていくんですね。
木村文乃さんはこれまでいろいろな役柄を演じましたが、手話を駆使するのは初めてじゃないでしょうか。どれほど練習されたのか、木村さん演じる妙⼦の手話は表情も豊かです。パク・シンジ役の砂田アトムさんはこの映画で初めて知ったろう者の俳優さんです。このお2人も現在の夫役の永山絢斗さんも、あてがきではないのに、役柄ととてもしっくりしていました。妙子ばかりでなく、劇中の人々も観客の私たちも、どんな「愛」と、どんな「人生」を選択するのか問われる作品です。(白)
第79回 ベネチア国際映画祭コンペティション部門正式出品
第47回トロント国際映画祭正式出品
2022年/日本/カラー/シネスコ/123分
配給:エレファントハウス
(C)2022映画「LOVE LIFE」製作委員会&COMME DES CINEMAS
https://lovelife-movie.com/
★2022年9月9日(金)ロードショー