2022年09月03日

靴ひものロンド  原題:Lacci  英題:The Ties

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(C)Photo Glanini Fiorito/Design Benjamin Seznec/TROIKA

監督・脚本・編集:ダニエーレ・ルケッティ(『ワン・モア・ライフ!』『ローマ法王になる日まで』
原作:ドメニコ・スタルノーネ「靴ひも」(関口英子訳、新潮クレスト・ブックス)
脚本:ドメニコ・スタルノーネ、フランチェスコ・ピッコロ
出演:アルバ・ロルヴァケル、ルイジ・ロ・カーショ、ラウラ・モランテ、シルヴィオ・オルランド

1980年初頭のナポリ。
アルドと妻ヴァンダは、娘アンナと息子サンドロと共に、集まりで皆が連なって踊るジェンカを楽しんで帰宅する。娘の髪を洗いながら、「嘘はよくない」と言い聞かせたアルド。妻に「別の女性と関係を持った。隠し事をしたくなかった」と打ち明ける。アルドはローマでラジオの朗読番組のホストを務めていて、相手は同僚の女性リディア。ナポリから通っていたが、妻に出ていってと言われ、ローマでリディアと暮らし始める。めくるめく楽しい日々だったが、あることがきっかけになって、アルドはまたヴァンダや子どもたちとナポリでやり直すことになる。
それから30年。40代になった子どもたちは独立し、アルドとヴァンダは二人で暮らしている。海辺で1週間過ごすため、飼い猫ラベスの世話を子どもたちに託して出かける。帰宅すると、家中が荒らされてモノが散乱し、猫のラベスが見当たらない・・・


冒頭に出てくるジェンカというフィンランド発祥の踊り。フィンランドで1960年代に作られた「レトカイェンッカ(Letkajenkka)」(列になって踊ろう)という歌が、日本では、「レット・キス」「レッツ・キス」として流行りました。前の人の肩に手を乗せて、皆が連なって踊るジェンカは、人と人との触れ合いや協力の大切さを感じさせてくれます。

そして、本作のタイトルになっている「靴ひも」。週末に久しぶりに会った子どもたちと行ったカフェで、娘アンナが弟の靴ひもの結び方がほかの人と違って、父親と同じだと指摘します。アルドが子どもたちに靴ひもを結んで見せるのですが、確かに普通じゃないです。サンドロは教えられた訳じゃないけれど、見よう見真似で父親と同じ結び方をしていたのですね。それは、靴ひもの結び方だけじゃなくて、生き方そのものにも言えて、子どもたちは親を見て育つのだと感じさせられました。浮気や別居と、いさかいの絶えない両親を見て育った二人がどんな大人になったのか・・・ 反面教師という場合もあるので、一概には言えませんが、何かしらの影響があるのは確かです。
老いたアルドが語る言葉にうん蓄がありました。
「人生で学んだのは、決して腹を立てないこと」
「夫婦を続けるには、あまり話さないこと。言葉を飲み込むのが肝心」
すぐに激情する妻と暮らす処世術ですが、これは私たちにも応用できそうです。

ダニエーレ・ルケッティ監督には、『ローマ法王になる日まで』が2017年に公開された折に、インタビューしましたが、「人生、何度でもやりなおすことができる!」という言葉が心に残っています。
『ワン・モア・ライフ!』も、まさに人生やり直しのチャンスを描いたものでした。
『靴ひものロンド』では、家中を荒らされたアルドとヴァンダは、その後、どんな人生を歩むのでしょう。アルドは、13歳の時に書いたものも大事に保存していて、家には本や紙が山積みです。それは私も同じで、何か(地震や火事??)を機に、思い切って捨て去って、新たな人生を歩めればいいなぁ~と思う次第です。(咲)


第77回ヴェネチア国際映画祭 オープニング作品

2020年/イタリア/イタリア語/100分/カラー/シネマスコープ
字幕:関口英子
配給:樂舎
後援:イタリア大使館、特別協力:イタリア文化会館
公式サイト:https://kutsuhimonorondo.jp/
★2022年9月9日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー



posted by sakiko at 21:09| Comment(0) | イタリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

私を判ってくれない

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監督・脚本・編集:近藤有希 水落拓平
プロデューサー:小楠雄士
撮影:小倉和彦
出演:平岡亜紀(高畑城子)、花島希美(市村由記乃)、鈴木卓爾(由記乃の父)、今井隆文、西元麻子

東京から故郷の島、鹿児島県長島町へ突然帰郷した城子。彼女は3年前に長島町を舞台にした映画で主演デビューをするはずが、制作が頓挫し姿をくらましていた過去があった。島には映画制作にお金を出して「制作費詐欺事件」として城子を恨んでいる人もいて、みんなの注目を集めることになった。
一方、生まれてこの方30年以上島を出たことがない由記乃は、両親と妹と今も実家で暮らしている。周囲からは結婚をせかされるが、今の生活が心地よい。父の仕事の関係で、自称女優、実は無色の城子が突然同居することになり静かだった日々がかき乱される。言いたい放題、遠慮もない城子は仕事もなかなか見つからず、由記乃と同じ掃除の仕事をすることになった。城子は懲りずに再び「映画を撮る!」と宣言。静かな島にいくつもの小さな事件が巻き起こる。

鹿児島県長島町を舞台に、初めて制作された映画『夕陽のあと』(2019)。「長島町にふたたび映画を」という町民の想いから、2作目が生まれました。監督・脚本の近藤有希、水落拓平は『夕陽のあと』で助監督を務めています。何の前情報もなく試写を観て、同じ場面が繰り返されたときにあれれ?と思いました。ものごとは一方からだけでなく、ほかの視点からも見ると違ってくる、というのを2人の監督がやってみたんですね。
島の人たちには、城子は奔放でわがままにしか見えません。けれども城子なりの理由や意思があって、譲れないことは譲れないのです。由記乃は城子と真逆に、主張するより人に合わせるタイプですが、それもただ流されているわけではありません。お節介な人や自分の意見を聞こうとしない相手に、向き合う強さも秘めていました。誰もが知り合いの地域では、すぐに噂は拡がりますが深刻にせずさらりと描いています。長島は鹿児島県ですが、北の天草寄りにある大きな島です。『夕陽のあと』の越川道夫監督のお話を思い出しながら観ました。(白)


2022年/日本/カラー/ビスタ/100分
配給:フルモテルモ
(C)私を判ってくれない
https://nobody-getsme.com/
★2022年9月3日(土)より 鹿児島 ガーデンズシネマにて先行公開
9月9日(金)より 池袋シネマ・ロサほかにて全国順次公開

posted by shiraishi at 17:57| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

夏へのトンネル、さよならの出口

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監督・脚本・絵コンテ・演出:田口智久
原作:八目迷
キャラクターデザイン・総作画監督:矢吹智美
撮影監督:星名工
音楽:富貴晴美
主題歌・挿入歌:「フィナーレ。」「プレロマンス」/eill
声の出演:鈴鹿央士(塔野カオル)、飯豊まりえ(花城あんず)、畠中 祐(加賀翔平)、小宮有紗(川崎小春)、照井春佳(浜本先生)、小山力也(カオルの父)、小林星蘭(塔野カレン)

とある田舎町で父親と二人暮らしの塔野カオル、高2男子。町には、そこに入ったら願いが叶うという都市伝説の「ウラシマトンネル」があった。心に傷を抱えているカオルはまるで呼ばれるようにその場所を見つけた。カオルにはどうしても取り戻したいものがあった。
カオルが傘を貸した花城あんずは、カオルのクラスに転入してきたが、初日からクラスメートと諍いを起こして浮いてしまう。あんずにも手に入れたいものがあり、カオルと協力してウラシマトンネルを調べることになった。2人は共同戦線を張る中で心を近づけていく。

SFを主軸にした「ボーイ・ミーツ・ガール」物語。デビュー以来ドラマに映画にと、活躍ぶりが頼もしい鈴鹿央士さん、飯豊まりえさんが声をあてて雰囲気をよく伝えていました。カオルがあんずと出逢うのは、海に面した無人駅。海をはるかに見渡せるホームのベンチで、2人が話すシーンは後からも出てきます。ほかの映画でもよくこの設定がありますね。
作品中重要なアイテムの携帯電話はガラケーで、画面の日付は2005年、少し前が舞台です。2人はこの携帯を駆使してウラシマトンネルと外とのずれを知ります。「ウラシマ」とついているのだから、トンネルがどういうものか推測してね。このあたりはクールで頭脳明晰なあんずが主導、カオルはとにかく走ります。カオルが取り戻したいもの、あんずの欲しかったものは何?それは手に入ったのでしょうか?あなたなら何を取り戻したいですか?
◎原作は八目迷(はちもくめい)さん、イラストはくっかさん。第13回小学館ライトノベル大賞「ガガガ賞+審査員特別賞」受賞。(白)


2022年/日本/カラー/83分
配給:ポニーキャニオン
(C)2022 八目迷・小学館/映画「夏へのトンネル、さよならの出口」製作委員会
公式サイト:https://natsuton.com/
公式 Twitter(twitter マーク):@natsuton_anime
★2022年9月9日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 17:14| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

消えない虹

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監督・脚本:島田伊智郎
撮影:西村博光
主題歌:「あの場所で」ハルカトミユキ
出演:内田周作(月野木薫)、猪爪尚紀(香川晃)、矢崎希菜(岡田茜)、吉本実憂、野村麻純、星川祐樹 (岡田隆二)

新聞記者の月野木薫は近々結婚する予定だ。友人の岡田はシングルファーザーで、薫は彼が留守のとき子どもたちの世話をしていた。結婚準備をしながら死んだ妹を思い出し、自分だけが幸せになっていいのかと後ろめたい気持ちがわいてくる。
ある日中学校で女生徒が転落死し、加害者は岡田の娘の茜とわかった。
香川晃は被害者の少女に兄のように慕われていた。彼は中学生のとき薫の妹を殺害してしまい、13歳だったので刑事罰を受けることのなかった加害少年だった。薫と晃は再会し、あれから停まってしまった時間が動き出す。

薫が動転する岡田に言う。「14 歳かどうかが重要なんです。刑法では 14 歳未満の少年少女には刑事責任能力がないとされているので刑罰の対象にならないんです……」14歳で思い出すのは、1997年の神戸連続児童殺傷事件です。世間を震え上がらせた犯人は、14歳の中学生。この事件をきっかけとして、2000年にそれまでの少年法が改正され、刑事処分可能な年齢を16歳以上から14歳以上に引き下げられたのでした。
これが監督第1作の島田監督は、その後も起きた少年少女の事件について、少年法により罪を償い、償われる機会を失った人々はどう生きれば良いのか?いつになったら人は許されるのか?どうすれば許すことが出来るのか?と考えたそうです。薫と晃がずいぶんと近場にいて、事件を機に再会し、互いに当時と逆の立場になります。愛する人を亡くせば、それが理不尽であればあるほど、悲しみと怒りは心の奥底に沈んで消えることがありません。本作は加害者、被害者どちらについても描いて、タネを一つ蒔かれた感じがしています。(白)


2022年/日本/106分/PG12
配給:アークエンタテインメント
配給協力:クロスメディア フューレック
https://kienainiji.com/
https://twitter.com/kienainijimovie
★2022年9月3日(土)K's cinema他全国順次ロードショー
posted by shiraishi at 16:21| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする